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  • 特許-真空接触器用の改善された電気接点合金 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】真空接触器用の改善された電気接点合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20240523BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240523BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20240523BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20240523BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20240523BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20240523BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20240523BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20240523BHJP
   C22C 1/10 20230101ALI20240523BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20240523BHJP
   C22C 29/06 20060101ALI20240523BHJP
   C22C 29/08 20060101ALI20240523BHJP
   C22C 29/10 20060101ALI20240523BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20240523BHJP
   C22C 32/00 20060101ALI20240523BHJP
   H01H 33/662 20060101ALI20240523BHJP
   H01H 33/664 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C22C9/00
B22F1/00 L
B22F1/00 Q
B22F1/00 R
B22F3/10 101
B22F3/14 D
B22F3/14 101B
B22F3/15 M
B22F7/00 A
C22C1/04 A
C22C1/04 E
C22C1/04 P
C22C1/051 H
C22C1/10 J
C22C27/06
C22C29/06 Z
C22C29/08
C22C29/10
C22C30/02
C22C32/00 B
C22C32/00 Y
H01H33/662 F
H01H33/664 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019528648
(86)(22)【出願日】2017-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 US2017065083
(87)【国際公開番号】W WO2018111680
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】15/377,258
(32)【優先日】2016-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518042280
【氏名又は名称】イートン インテリジェント パワー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Eaton Intelligent Power Limited
【住所又は居所原語表記】30 Pembroke Road, Dublin 4 D04 Y0C2, Ireland
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルイス・グラント・キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】ガネッシュ・クマル・バラスブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・アレックス・ローゼンクランス
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-18835号公報
【文献】特開2006-32036号公報
【文献】中国特許出願公開第103060604号明細書
【文献】中国特許出願公開第105220004号明細書
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00- 9/10
C22C 27/06
C22C 29/00-32/00
C22F 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40重量%乃至90重量%の範囲の量の銅粒子と、
60重量%乃至10重量%の範囲の量のクロム粒子と、を含む電気接点(20、22)用焼結合金であって、
銅対クロムの重量比が、55:45であり、
炭化物の粒子が、前記合金に対して重量%を超えて73重量%までの量で存在し、
焼結活性化元素が、前記合金に対して0.5重量%未満の量で存在する、
合金。
【請求項2】
前記炭化物が炭化タングステンである、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
前記炭化物が炭化モリブデンである、請求項1に記載の合金。
【請求項4】
前記炭化物が炭化バナジウムである、請求項1に記載の合金。
【請求項5】
前記炭化物が炭化ニオブである、請求項1に記載の合金。
【請求項6】
前記焼結活性化元素が、コバルト、ニッケル、ニッケル-鉄、及び鉄アルミナイドの少なくとも1種から選択される、請求項1に記載の合金。
【請求項7】
前記炭化物が炭化クロムである、請求項1に記載の合金。
【請求項8】
前記炭化物が炭化チタンである、請求項1に記載の合金。
【請求項9】
前記炭化物が炭化ハフニウムである、請求項1に記載の合金。
【請求項10】
真空遮断器(10)で使用するための電気接点(20、22)であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の電気接点用焼結合金を備える、電気接点。
【請求項11】
真空遮断器(10)で使用するための、40重量%乃至90重量%の範囲の量の銅粒子と、60重量%乃至10重量%の範囲の量のクロム粒子とを含む電気接点(20、22)用焼結合金を製造する方法であって、
炭化物粒子を所望のサイズに粉砕することと、
前記粉砕された炭化物粒子よりもサイズが大きい銅及びクロム粒子を提供することと、
前記粉砕された炭化物粒子を、55:45の銅対クロムの重量比で存在する前記銅及びクロム粒子と混合することと、
前記混合物を押圧して圧縮成形体にすることと、
前記圧縮成形体が、真空遮断器接点として使用するのに好適な特性を達成するように、固体焼結、液相焼結、放電プラズマ焼結、真空熱間プレス、及び熱間静水圧プレスからなる群から選択される焼結プロセスに適切な温度に前記圧縮成形体を加熱することと、を含み、そして
該方法がさらに、前記合金に対して0.5重量%未満の量で存在する焼結活性元素を前記混合物に添加すること、及び該炭化物粒子が前記合金に対して0重量%を超えて73重量%の量で存在すること、
を含む、方法。
【請求項12】
電気接点(20、22)を形成する方法であって、
請求項11に記載の方法により製造された焼結合金から緻密なブランクを製造すること、及び
前記緻密なブランクを機械成形することによって、所望の構成の電気接点(20、22)を形成することを含
法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される概念は、概して合金に関し、より具体的には、真空接触器用の接点で使用するための合金に関する。
【背景技術】
【0002】
真空回路遮断器(例えば、限定するものではないが、真空回路ブレーカ、真空開閉器、負荷開閉器)は、電流過負荷、短絡、及び低レベルの電圧状態などの電気故障状態、並びに負荷遮断及び他の切替デューティからの電気システムの保護を提供する。典型的には、真空回路遮断器は、通常又は異常な状態に応じて、多数の真空遮断器内の電気接点を開放して、電気システム内の導体を通って流れる電流を遮断する、ばね駆動式又は他の好適な動作機構を含む。真空接触器は、主に三相電気モータを切り替えるために開発された、一種の真空遮断器である。いくつかの実施形態では、真空遮断器は、中電圧交流(AC)電流を、また数千アンペア(A)以上の高電圧AC電流をも、遮断するために使用される。一実施形態では、多相回路の各相に1つの真空遮断器が提供され、いくつかの相のための真空遮断器は、共通の動作機構によって同時に、又は別個の動作機構によって別個に又は独立して、作動される。
【0003】
真空遮断器は、一般に、真空チャンバを画定する、絶縁及び密閉されたハウジング内に配設された分離可能な電気接点を含む。典型的には、接点のうちの一方は、ハウジングと、真空遮断器に関連する電力回路と電気的に相互接続された外部導電体との両方に対して固定される。他方の接点は、ステムと、ハウジングの密閉された真空チャンバ内のステムの一端に位置付けられた接点とを含み得る可動式接点アセンブリの一部である。
【0004】
電流が真空遮断器を通って流れているときに分離可能な接点が開放されると、接点表面間に金属蒸気アークが発生し、このアークは、典型的には、電流がゼロ交差するときに電流が遮断されるまで継続する。
【0005】
真空遮断器は、500~40,000Vの電圧において、最大4000A以上の開閉電流、及び最大80,000A以上の最大遮断電流で動作するように定格される用途に使用されることが多く、10,000~1,000,000を上回る機械的及び/又は電気的サイクルの長い動作寿命を有することが期待される。真空接触器で使用される真空遮断器は、480~15,000Vの電圧、150~1400Aの開閉電流、及び1500~14000Aの最大遮断電流で動作するように定格される。P.G.Slade,THE VACUUM INTERRUPTER,THEORY DESIGN AND APPLICATION,(pub.CRC Press)(2008)Sec.5.4の348~357ページ参照。真空接触器デューティ用の真空遮断器もまた、低チョップ電流、低溶着破断力、及び低接点消耗率などの追加の電気的特性を呈し、多くの場合、最大1,000,000動作サイクル又はこれを超える長い電気的開閉寿命を提供することが期待される。
【0006】
銀-タングステンカーバイド(AgWC)などの既存の真空接触器接点合金は、より低い電流で十分に動作するが、高価である。銅-タングステンカーバイド(CuWC)は、より低コストの代替物であるが、より高いチョップ電流を有し、一般的に使用されない。銅-タングステンカーバイド及び銀-タングステンカーバイドはいずれも、1000Vで800~1400A、7200Vで400~800A、及び接触器の真空遮断器が回路ブレーカのデューティも果たす特殊用途などのより高定格での遮断を行うために、高価な外部コイル又は高価なアーク制御磁気接点設計のいずれかを必要とする。銅-クロム-ビスマス(CuCrBi)は、より良好な遮断、低チョップ、及び低溶着でこれらの定格用に使用されているが、電気寿命が短い。押出された銅-クロム(CuCr)は、これらのより高い定格でうまく適用されているが(例えば、欧州特許公開第EP 1130608号参照)、銀-タングステンカーバイド又は銅-クロム-ビスマスと比較して、より高いチョップ及びより多くの溶着を有する。
【発明の概要】
【0007】
400A以上の真空接触器定格において、特により高い電圧において、改善された遮断性を有し、いくつかの従来の合金で経験される短い電気的使用寿命に悩まされない接点合金が提供される。
【0008】
電気接点で使用するための改善された接点合金の様々な実施形態が、本明細書に記載されている。改善された接点合金は、限定するものではないが、真空遮断器などの接点アセンブリの要求に対して有用である。
【0009】
開示される概念の一態様として、真空遮断器で使用するための電気接点合金が提供される。様々な実施形態において、開示される概念による合金は、銅粒子及びクロム粒子を含む。銅対クロムの互いに対する比は、重量で2:3~20:1の範囲であり得る。電気接点合金はまた、炭化物の粒子を含む。炭化物は、合金に対して0~73重量%の範囲の量で存在し得る。
【0010】
開示される概念の様々な実施形態では、炭化物は遷移金属炭化物、より具体的には、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化バナジウム、炭化クロム、炭化ニオブ、及び炭化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、及び炭化ハフニウムからなる金属炭化物の群から選択され得る。開示される概念の様々な実施形態では、炭化物は炭化ケイ素であってもよい。
【0011】
開示される概念の合金は、任意の好適な粉末金属技術によって製造され得る。様々な実施形態では、真空遮断器で使用するための電気接点を製造する方法が提供される。この方法は、炭化物粒子を所望のサイズに粉砕することと、銅及びクロム粒子を提供することと、炭化物粒子を、2:3~20:1の銅対クロムの比で存在する銅及びクロム粒子と混合することと、混合物を押圧して圧縮成形体にすることと、固体焼結、液相焼結、放電プラズマ焼結、真空熱間プレス、及び熱間静水圧プレスのうちの1つによって圧縮成形体を焼結することと、を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示の特徴及び利点は、添付の図面を参照することによってよりよく理解することができる。
図1図2のような真空接触器で使用するための真空遮断器の一態様の断面図である。
図2】概略図、真空接触器及びその真空遮断器である。
図3】いくつかの試験材料について、溶着破断力のデータ範囲及び平均を示す溶着力の区間プロット図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明確に示さない限り、複数のものへの言及が含まれる。
【0014】
本明細書で使用される方向句、例えば、限定するものではないが、頂部、底部、左、右、下部、上部、前部、後部、及びそれらの変形は、図面に示される要素の向きに関するものであり、別途明示的に記載されない限り、特許請求の範囲を限定しない。
【0015】
特許請求の範囲を含む本出願では、別途記載のない限り、量、値、又は特性を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、数字は、「約」という用語が数字と共に明示的に出現しない場合であっても、単語「約」が先行するものとして読み取ることができる。したがって、逆の指示がない限り、以下の説明に記載される任意の数値パラメータは、本開示による組成物及び方法において得ようとする所望の特性に応じて変化し得る。少なくとも、特許請求の範囲への均等論の適用を制限する試みとしてではなく、本明細書に記載される各数値パラメータは、報告された有効桁数を考慮して、通常の丸めの技術を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0016】
本明細書に列挙される任意の数値範囲は、その中に包含される全てのサブ範囲を含むことを意図する。例えば、「1~10」の範囲は、記載された最小値1と、記載された最大値10との(これらを含む)間の、すなわち、1以上の最小値及び10以下の最大値を有する全ての部分範囲を含むことを意図している。
【0017】
図1に示された三相真空接触器100で有用な遮断器の例として、例示的な真空遮断器10が図2に示されている。示された実施形態では、真空遮断器は、端部部材40及び42(例えば、限定するものではないが、シールカップ)と共に真空エンベロープ44を形成する、セラミック管などの絶縁管14を含む。固定接点20が、端部部材40を通って延在する固定電極30上に取り付けられている。可動接点22は、可動電極32によって担持され、他方の端部部材42を通って延在する。固定接点20及び可動接点22は、分離可能な接点を形成し、この分離可能な接点は、閉鎖されると、固定電極30と可動電極32との間の電気回路を完成させ、可動電極32が軸方向に移動することによって開放されると、真空遮断器10を通って流れる電流を遮断する。可動電極32は、真空エンベロープ44の外側で可動電極32に接続された動作機構(図示せず)によって軸方向に移動されて、分離可能な接点20/22を開放及び閉鎖する。
【0018】
接点20/22は、本明細書に開示された概念の改善された合金で製造される。改善された接点合金は、銅-クロム-X炭化物(CuCrXC)であり、ここで、Xは、好ましくは金属又は半金属元素、より好ましくは遷移金属、最も好ましくは元素周期表の第4、5、及び6族から選択される金属である。金属炭化物を形成するための例示的な金属としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、及びタンタル(Ta)が挙げられる。
【0019】
炭化物は、炭素が、金属又は半金属元素などの電気陽性元素と結合している部類の化合物のうちのいずれかである。炭化物は、それらの特性に基づいて、3つに大分類される。最も電気陽性の金属は、イオン性又は塩様炭化物を形成し、元素周期表の中央にある第4、5、及び6族遷移金属は、いわゆる侵入型炭化物を形成する傾向があり、炭素のものに類似した電気陰性度の非金属は、共有結合性又は分子性炭化物を形成する。侵入型炭化物は遷移金属と結合し、極度な硬度及び脆性、並びに高融点(典型的には約3,000~4,000℃[5,400~7,200°F])によって特徴付けられる。それらは、高い熱及び電気伝導性など、金属自体に関連する特性の多くを保持する。侵入型炭化物を形成する遷移金属としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、及びタンタル(Ta)が挙げられる。炭化ケイ素もまた使用することができる。
【0020】
開示された概念の例示的な接点合金としては、CuCrWC、又はCuCrMoC、又はCuCrVC、又はCuCrCrC、又はCuCrNbC、又はCuCrTaCが挙げられる。
【0021】
開示された概念の合金は、銅-クロムの良好な電流遮断、及び少なくとも例示的な一実施形態では、炭化タングステンの低溶着破断力を活用する。開示された概念の合金は、合金の微細構造、及び合金で製造された接点20/22の密度を制御するように調整され得る。
【0022】
様々な実施形態において、銅粒子は、40重量%~90重量%の範囲の量で存在する。様々な実施形態において、クロム粒子は、60重量%~10重量%の範囲の量で存在する。様々な実施形態において、金属炭化物粒子は、0重量%~73重量%の範囲の量で存在する。互いに対し、銅粒子対クロム粒子の比は2:3~20:1の範囲にあり、真空接触器用途で使用するための好ましいCu:Cr比は55:45である。表1は、炭化物が添加されていない対照、及び金属炭化物が炭化タングステン(WC)である、開示された概念の合金の実施形態を形成するのに使用された、特定された粒子の混合物の3つのサンプルの重量及び体積百分率組成を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
銅及びクロムへの炭化物粒子の添加は、合金の脆性を増加させ、それにより、接点を通って高電流が流れるときに発生する熱により隣接する接点間に形成され得る溶着部を破壊するために必要な力が低減されると考えられる。脆性の増加は、隣接する接点を分離するのに要する力が低減されるように合金の強度を変化させるので、接点は、分離不能な縫い目よりはむしろ、ジッパーによって一緒に保持される布地の隣接する側面のように、分離可能に係合される。
【0025】
同様に脆性である銅-クロム-ビスマス(CuCrBi)などの従来の合金とは異なり、開示された概念の合金の実施形態は、アーク放電中に大量の金属を放出してセラミックハウジングを覆い、絶縁するように設計された構造体を導体に変換し、それにより真空遮断器の全体的な電気的寿命を低下させてしまうことはない。
【0026】
銅-クロム比、金属炭化物粒子のサイズ、金属炭化物の相対量、及び銅クロムマトリックス内の炭化物粒子の分布及び配置を調整することによって、開示された概念の合金は、特定の接触器定格又は所望の用途のために最適化され得る。
【0027】
より高い導電率が望まれる用途では、銅の量を増加させることができる。完成した接点の強度がより強く又はより弱くなければならない用途では、炭化物の量を減少させるか、又は増増加させる。溶着強度を低減することが望ましい場合、本明細書に開示された範囲内で、クロム又は炭化物のいずれか又は両方の量を増加させてもよい。チョップ電流を低減することが望ましい場合、本明細書に開示された範囲内で炭化物の量を増加させることができる。
【0028】
接点合金は、限定するものではないが、固体焼結、液相焼結、放電プラズマ焼結、真空熱間プレス、及び熱間静水圧プレスなどの任意の好適な既知の粉末金属プロセスによって製造することができる。粉末冶金プレス及び焼結プロセスは、一般に、粉末ブレンド、ダイ圧密、及び焼結の3つの基本的な工程からなる。圧密は一般に室温で実施され、焼結の高温プロセスは、高真空又は大気圧で、慎重に制御された雰囲気組成下で実施される。特別な特性又は向上した精度を得るために、コイニング又は熱処理などの任意選択の二次処理が続く場合がある。
【0029】
例えば、表1に記載の合金は、液相プレス及び焼結プロセスを使用して製造された。表1に列挙された組成物の元素粉末をリボンブレンダ内で混合し、ダイキャビティ内に重力供給し、水圧粉末圧密プレス上で44~48トン/平方インチの圧力で圧密した。このようにして形成された圧縮成形体を酸化アルミニウム粉末下でカップ内に詰め、次いで真空焼結炉内に装填した。真空焼結炉により、それらを8E-5トール以下の真空レベルで1185℃の温度まで加熱し、部品を500℃まで真空冷却し、次いで分圧窒素を用いて部品を室温まで強制冷却した。取り出し後、焼結部品を最終的な接点形状に乾式機械加工した後、真空遮断器内にろう付けした。
【0030】
例示的な固体粉末冶金プロセスでは、予混合金属粉末を、典型的には重力供給によって、ダイキャビティ内に供給し、ほとんどの場合、構成要素の最終的な正味形状に圧密し、次いでダイから押し出す。部品を圧密するために必要な力は、典型的には15~50トン/平方インチである。次に、部品を、粒子の焼結及び結合に必要な温度に到達するまで1E-4トール以下の真空レベル下で部品を向ける真空焼結炉内に装填する。本明細書に開示された概念の合金の場合には、この温度は、この例示的なケースでは1050℃など、粒子を構成する元素の最も低い融点付近であるが、それを超えない。その後、結合した粒子を500℃の温度まで真空下で冷却し、次いで、部品が室温に達するまで、分圧で循環される窒素ガスを使用して強制冷却させた後、炉から取り出す。
【0031】
例示的な液相焼結粉末冶金プロセスでは、予混合金属粉末を、典型的には重力供給によって、ダイキャビティ内に供給し、圧密し、次いでダイから押し出す。部品を圧密するために必要な力は、典型的には15~50トン/平方インチである。次に、部品を、粒子の焼結及び結合に必要な温度に到達するまで1E-4トール以下の真空レベル下で部品を向ける真空焼結炉内に装填する。本明細書に開示された概念の合金を液相焼結する場合には、この温度は、少なくとも1074℃より高いなど、粒子を構成する元素の最も低い融点よりも高い。その後、結合した粒子を500℃の温度まで真空下で冷却し、次いで、部品が室温に達するまで、分圧で循環される窒素ガスを使用して強制冷却させた後、炉から取り出す。
【0032】
例示的な放電プラズマ焼結プロセスでは、本明細書に開示された概念の合金の混合金属粉末を、ダイ内に装填する。次いで、直流(DC)を、制御された分圧雰囲気下で、黒鉛ダイ及びダイ内の粉末圧縮成形体を通して直接パルス化する。ジュール加熱は、粉末圧縮成形体の緻密化で主要な役割を果たすことが分かっており、その結果、従来の焼結技術と比較して、より低い焼結温度で理論密度に近い密度が達成される。外部加熱要素によって熱が提供される従来のホットプレスとは対照的に、熱は内部で発生する。これにより、非常に高い加熱又は冷却速度(最大1000K/分)が容易になり、そのため、焼結プロセスは一般的に非常に早い(数分以内)。このプロセスの一般的な速度により、標準的な緻密化法に付随し得る粗大化を回避しながら、ナノサイズ又はナノ構造を有する粉末を緻密化する可能性が確実になる。
【0033】
例示的な真空ホットプレスプロセスは、本明細書に開示された概念の合金の混合金属粉末をダイに装填することと、高真空及び高温下で、装填されたダイに一軸力を加えることができる、真空ホットプレスにダイを装填することとを含む。ダイは、生産速度を増加させるために、マルチキャビティダイとすることができる。次いで、装填されたダイを1E-4トール以下の真空レベルで1868°F(1020℃)まで加熱し、2.8トン/平方インチの圧力をダイに加える。この状態を10分間保持する。その後、ダイ及び粉末圧縮成形体を真空下で500℃まで冷却し、次いで、部品が室温に達して取り出されるまで、分圧で循環される窒素ガスを使用して強制冷却する。
【0034】
例示的な熱間静水圧プレスプロセスでは、約100MPa(1000バール、15,000psi)の外部ガス圧を10~100分間加えることと、典型的には900°F(480℃)~2250°F(1230℃)の範囲の熱を加えるが、開示された概念の合金の処理では1652°F(900℃)~1965°F(1074℃)の範囲の温度に加熱することとによって、粒子を同時に圧縮及び焼結する。操作中の化学反応を防止するために、アルゴンガス又は別の不活性ガスを炉に充填する。
【0035】
選択された成形プロセスから形成される合金ブランク又は接点の密度の制御を高めるために、焼結活性化元素を処理前の混合物に添加してもよい。活性化元素は、銅、クロム、及び金属炭化物の主成分と比較して、比較的少量で添加する必要がある。所望の密度レベルを得るために、0.5重量%未満、及び様々な実施形態では0.1重量%未満、の活性化元素を添加する必要があると考えられる。正確な量は、最終製品の所望の密度に応じて当業者によって容易に決定され得るため、変化するであろう。例示的な活性化元素としては、鉄-ニッケル、鉄アルミナイド、ニッケル、鉄、及びコバルトが挙げられ、多くの場合、炭化物成分の0.1~60重量%の量で添加される。焼結活性化元素は、それがないときに存在するよりも低い温度でより高い密度に焼結することを可能にする炭化物と共に一時的又は持続的な液相を形成することによって、密度を増加させる。当業者は、他の活性化元素又は合金が混合物中に使用され得ることを理解するであろう。
【0036】
接点は、本明細書に記載されたように製造された合金から、機械加工可能なブランク、又は正味形状又は正味形状に近い部品から、プレス加工、粉末押出、金属射出、又は類似のプロセスによって形成することができる。
【0037】
真空遮断器で使用するための接点などの接点を製造する方法は、一般に、炭化物粒子を所望のサイズに粉砕することと、粉砕された炭化物粒子よりもサイズが大きい銅及びクロム粒子を提供することと、粉砕された炭化物粒子を銅及びクロム粒子と混合することと、混合物を押圧して圧縮成形体にすることと、圧縮成形体が、真空遮断器接点として使用するのに好適な密度、強度、伝導性及び他の特性を達成するように、固体焼結、液相焼結、放電プラズマ焼結、真空熱間プレス、及び熱間静水圧プレスからなる群から選択される焼結プロセスに適切な温度に圧縮成形体を加熱することと、を含む。
【0038】
上記の方法では、銅及びクロム粒子は、2:3~9:1の銅対クロムの比、好ましくは11:9の比で存在する。
【0039】
銅が、最も低い融点を有する混合物の元素である、合金の一実施形態では、加熱工程は、1074℃よりも高い温度で、好ましくは1074℃最大1200℃の間よりも高い温度まで、より好ましくは1190℃の温度まで実施する。
【0040】
最終部品の密度を増加させるために、焼結活性化元素を混合物に添加して、加熱時の圧縮成形体の密度を高めることができる。好適な焼結活性化元素としては、コバルト、ニッケル、ニッケル-鉄、鉄アルミナイド、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
真空遮断器で使用するための接点を形成するための例示的なプロセスは、以下のように進行する。炭化タングステン粉末を、アルミニウムが24.4重量%の鉄アルミナイドを含む、2.3重量%の鉄アルミナイド粉末と混合する。混合物をロッドミルで粉砕して、炭化物を脱凝集させ、活性化剤を分散させる。ロッドミルで粉砕された9.3重量%の炭化物/活性化剤混合物を、銅対クロムの重量比が55:45である銅及びクロム粉末と、均質になるまで混合する。そうすると、結果得られた粉末混合物中の各成分の組成は、銅が49.8重量%、クロムが40.7重量%、炭化タングステンが9.3重量%、及び鉄アルミナイドが0.2重量%である。この混合粉末をダイキャビティ内に充填し、次いで、圧縮成形体を形成するための圧密プレスを用いて、48トン/平方インチの圧力を加えることによって、混合粉末を圧縮して圧縮成形体にする。圧縮成形体を酸化アルミニウム粉末の下に詰め、次いで真空焼結炉内に装填する。圧縮成形体を8E-5トール以下の真空レベルで、1190℃の温度で5時間真空焼結し、部品を500℃まで真空冷却し、分圧窒素下で部品を室温まで強制冷却する。炉から取り出して、焼結されたブランクを乾式機械加工して接点の最終形状にする。機械加工された接点を真空遮断器内にろう付けする。
【0042】
開示された概念による合金の改善された特性を実証するために、試験を実施した。開示された概念の合金の実施形態を、電気接点で従来使用されるAgWC、CuWC、及びCuCr合金と比較した。
【0043】
表1に記載の合金は、液相プレス及び焼結プロセスを使用して製造した。表1に列挙された組成物の元素粉末をリボンブレンダ内で混合し、ダイキャビティ内に重力供給し、水圧粉末圧密プレス上で44~48トン/平方インチの圧力で圧密した。このようにして形成された圧縮成形体を酸化アルミニウム粉末下でカップ内に詰め、次いで真空焼結炉に装填した。真空焼結炉により、それらを8E-5トール以下の真空レベルで1185℃の温度まで加熱し、部品を500℃まで真空冷却し、次いで分圧窒素を用いて部品を室温まで強制冷却した。取り出し後、焼結部品を最終的な接点形状、φ0.92インチの直径及び0.1インチの厚みを有する単純なディスク形状に乾式機械加工した。
【0044】
このようにして製造された接点を、図2に概略的に示される、2インチのエンベロープ直径を有する、製品タイプWL-36327の真空遮断器内にろう付けした。この製品は、典型的には、60Hzで1.5kVrmsの最大線間電圧、400Armsの定格連続電流、4kArmsの最大短絡遮断電流、15.6kApeakのピーク耐電流、及び52ポンドの作用力を有する、IEC 60470及び62271-1並びにUL 347に準拠した真空接触器用途向けに定格されている。組み立てられた真空遮断器を、炭化タングステン58.5重量%、銀40重量%、及びコバルト1.5重量%の組成を有する、銀-タングステンカーバイド接点を使用して製造された、同一の「対照」真空遮断器と共に、溶着強度及び短絡遮断について試験した。
【0045】
Eaton CorporationのHorseheads,NY製造施設のHigh Power Laboratoryで、真空遮断器を、遮断性能及び溶着破断強度について評価した。比較遮断試験は、1.5kVrms、4kArmsの定格で遮断する、50回の単相試験で構成され、この試験を、接点合金当たり少なくとも2つの真空遮断器に適用した。溶着破断強度試験は、大気圧でのベローズ力を含む14.9ポンドの接点力を有する試験用真空遮断器に、15.6kAピークのAC電流の60Hzの1完全サイクルを印加することによる溶着部の創出で構成された。次いで、形成された溶着部を、力変換器を備えた引張装置に取り出して、接点を開放するのに要する力を記録した。図3は、試験した各材料のデータ点を示す。平均溶着破断強度及び遮断電流の結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2の結果から分かるように、CuCr45合金への炭化物の添加により、遮断性能を低下させることなく、溶着破断力が著しく低減され、真空接触器のデューティを意図した真空遮断器で使用するための改善された電気接点が提供される。
【0048】
本発明は、様々な例示及び実例の実施形態を参照して説明されている。本明細書に記載される実施形態は、開示される発明の様々な実施形態の様々な詳細の例示的な特徴を提供するものとして理解され、したがって、特に明記しない限り、開示される実施形態の1つ以上の特徴、要素、構成要素、構成成分、成分、構造、モジュール、及び/又は態様は、開示される発明の範囲から逸脱することなく、開示される実施形態の1つ以上の他の特徴、要素、構成要素、構成成分、成分、構造、モジュール、及び/又は態様と、可能な範囲で、組み合わせ、分離、交換、及び/又は再構成され得ることが理解されるべきである。したがって、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態のいずれかの様々な置換、修正、又は組み合わせがなされ得ることを認識するであろう。加えて、当業者であれば、本明細書を検討する際に、本明細書に記載されている発明の様々な実施形態に対する多数の等価物を認識するか、又は通常の実験の範囲内で確認できるであろう。したがって、本発明は、様々な実施形態の説明によって限定されるものではなく、むしろ特許請求の範囲によって限定される。
図1
図2
図3