(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】地中空洞の補強構造及び補強方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
E02D3/12
(21)【出願番号】P 2020070718
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】596027357
【氏名又は名称】徳倉建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 達也
(72)【発明者】
【氏名】和泉 彰彦
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-013910(JP,A)
【文献】特開2002-348849(JP,A)
【文献】特開2014-190135(JP,A)
【文献】特開2002-061166(JP,A)
【文献】特開2004-346692(JP,A)
【文献】特開2012-012878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中空洞(5)が、不透水性の袋体(11)に
、土粒子に水を加えた含水比80~300質量%かつ密度1.2~1.5g/cm
3
の調整泥水と固化材とを含む流動化処理土(14)が充填し硬化してなる土入り袋体(15)の1つ又は複数で、満たされていることを特徴とする地中空洞の補強構造。
【請求項2】
地中空洞(5)上の地盤表層部(3)に地中空洞(5)へ縦方向に通じる通孔(6)を形成する通孔形成工程と、
ホース(12)の下に接続した不透水性の袋体(11)を折り畳んだ状態で通孔(6)を通して地中空洞(5)に配置する袋体配置工程と、
前記袋体(11)にホース(12)から送った
、土粒子に水を加えた含水比80~300質量%かつ密度1.2~1.5g/cm
3
の調整泥水と固化材とを含む流動化処理土(14)を充填する土充填工程と、
前記流動化処理土(14)を硬化させる土硬化工程とを含み、
地中空洞の
全体を、前記袋体(11)に流動化処理土(14)が充填し硬化してなる土入り袋体(15)
の1つ又は複数で満たして、補強することを特徴とする地中空洞の補強方法。
【請求項3】
袋体配置工程よりも前に、カメラ(9)と計測器(10)を通孔(6)を通して地中空洞(5)に配置して、カメラ(9)により地中空洞(5)の状況を調査し、計測器(10)により地中空洞(5)の大きさを計測する調査計測工程を含む請求項
2記載の地中空洞の補強方法。
【請求項4】
地中空洞(5)の大きさとして、通孔(6)真下の地中空洞高さを計測する請求項
3記載の地中空洞の補強方法。
【請求項5】
地中空洞(5)の大きさとして、通孔(6)真下の地中空洞高さと横方向の地中空洞長さとを計測する請求項
3記載の地中空洞の補強方法。
【請求項6】
袋体(11)が膨らんだ時の中心部の高さは、前記地中空洞高さの1倍~1.3倍である請求項
4又は5記載の地中空洞の補強方法。
【請求項7】
袋体配置工程と土充填工程との間に、ホース(12)から送ったエアで袋体(11)を膨らませる袋体膨張工程を含む請求項
2~6のいずれか一項に記載の地中空洞の補強方法。
【請求項8】
地盤表層部(3)に、通孔(6)とは別の、地中空洞(5)へ縦方向に通じる充填確認孔(7)を形成する請求項
2~7のいずれか一項に記載の地中空洞の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中空洞の補強構造及び補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾又は河川の保全構造物(護岸、岸壁、堤防)の老朽化に伴う地中空洞化が各地で発生している。この地中空洞を充填するため、従来は砕石等で埋戻しており、一部、流動化処理土が採用されている。
【0003】
しかし、砕石等で埋め戻した場合、締固めが難しいため再地中空洞化が懸念される。また、砕石等で埋め戻すには、地中空洞により脆弱化した地盤の上に大型の重機や車両を設置して行う必要があるため、安全面において問題がある。
【0004】
一方、流動化処理土による充填は、流出の可能性があるため地中空洞化の原因を特定した上で使用する必要がある。
【0005】
特許文献1には、廃坑、採掘跡、トンネル等の地下空間に、低流動性流動化処理土で一定距離を隔てて堤体を築造し、堤体間に高流動性流動化処理土を注入することを繰り返す、地下空間の埋戻方法が記載されている。
しかし、この方法では、堤体が小山状に広がって形成されるため、堤体が地下空間の天面に到達しにくく、堤体上部に生じた間隙に高い粘着力を有するコーキング材を注入して閉鎖する必要がある。
【0006】
特許文献2には、坑道、鉱山地下採掘場などの地下空間の閉塞すべき箇所に、該箇所を閉塞可能な大きさに復元可能な袋体を折り畳み状態で配置し、袋体にエアを供給して膨張させ、袋体に2液混合タイプの発泡ウレタン等の発泡性充填材を供給し、エアと置換するように充填することにより、袋体が前記箇所の周囲に押し付けられたバルクヘッド(隔壁)を形成し、少なくとも2箇所のバルクヘッドで閉塞される領域に対してセメント等の中詰充填材を充填して地下空間を閉鎖する方法が記載されている。
しかし、この方法では、特に護岸、岸壁、道路等の動荷重が作用する重要構造物の直下で使用する場合に、袋体と発泡ウレタンとによるバルクヘッドの強度不足が懸念される。また、発泡ウレタンの発熱による袋体への影響も懸念される。さらに、同構造を更新する際に、発泡ウレタンは土としてリサイクルができない。
【0007】
特許文献3には、地下用水路、廃坑、防空壕、自然洞窟等の水のある地中空洞に、所定間隔で土砂、ソイルセメント及び急結剤からなる第一充填材を充填して隔壁を形成し、隔壁間に土砂及びソイルセメントからなる第二充填材を充填して地中空洞を充填する方法が記載されている。また、第一充填材を、可撓性素材から成る筒袋状体に収納した状態で充填することも記載されている。筒袋状体は、型枠代わりとして第一充填材の流動性を抑制するものであり、筒状(有底でも無底でも良い)の袋であり、樹脂材若しくは鋼材をメッシュ状に形成したものや、ゴム素材を風船状に形成したものなどを用いることができる、とされている。
しかし、この方法では、第一充填材の粘度が高いため、筒袋状体に第一充填材を収納するときに、筒袋状体がきれいに広がらないことが懸念される。また、第一充填材の発熱による袋体への影響も懸念される。さらに、同構造を更新する際に、掘削や除去が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-125900号公報
【文献】特開2014-190135号公報
【文献】特開2008-13910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、袋体が流動化処理土によって傷みにくいため、流動化処理土が袋体から漏れず、流動化処理土が袋体をよく押し広げて、地中空洞を確実に補強することができ、さらに、補強構造を更新する際には容易に掘削や除去ができ、土としてリサイクルが可能である、地中空洞の補強構造及び補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]地中空洞の補強構造
[1-1]地中空洞の少なくとも一部に、不透水性の袋体に流動化処理土が充填し硬化してなる土入り袋体が、配置されていることを特徴とする地中空洞の補強構造。
[1-2]地中空洞の発生原因となった土砂流出部に、不透水性の袋体に流動化処理土が充填し硬化してなる土入り袋体が配置されており、地中空洞の残部に、充填材が充填されていることを特徴とする地中空洞の補強構造。
[1-3]地中空洞が、不透水性の袋体に、土粒子に水を加えた含水比80~300質量%かつ密度1.2~1.5g/cm
3
の調整泥水と固化材とを含む流動化処理土が充填し硬化してなる土入り袋体の1つ又は複数で、満たされていることを特徴とする地中空洞の補強構造。
[1-4]地中空洞が、不透水性の袋体に流動化処理土が充填し硬化してなる土入り袋体の横方向に相互間をおいた複数と、該相互間に充填された充填材とで満たされていることを特徴とする地中空洞の補強構造。
【0011】
[2]地中空洞の補強方法
地中空洞上の地盤表層部に地中空洞へ縦方向に通じる通孔を形成する通孔形成工程と、
ホースの下に接続した不透水性の袋体を折り畳んだ状態で通孔を通して地中空洞に配置する袋体配置工程と、
前記袋体にホースから送った流動化処理土を充填する土充填工程と、
前記流動化処理土を硬化させる土硬化工程とを含み、
地中空洞の少なくとも一部を、前記袋体に流動化処理土が充填し硬化してなる土入り袋体で、補強することを特徴とする地中空洞の補強方法。
【0012】
ここで、土充填工程を、前記袋体にホースから送った、土粒子に水を加えた含水比80~300質量%かつ密度1.2~1.5g/cm
3
の調整泥水と固化材とを含む流動化処理土を充填する工程とし、地中空洞の全体を、土入り袋体の1つ又は複数で満たして、補強する態様を例示できる。
【0013】
また、地中空洞の複数箇所を、土入り袋体の横方向に相互間をおいた複数で補強し、該相互間を該相互間に充填された充填材で補強する態様を例示できる。
【0014】
袋体配置工程よりも前に、カメラと計測器を通孔を通して地中空洞に配置して、カメラにより地中空洞の状況を調査し、計測器により地中空洞の大きさを計測する調査計測工程を含むことが好ましい。
【0015】
地中空洞の大きさとして、通孔真下の地中空洞高さを計測する態様を例示できる。
【0016】
地中空洞の大きさとして、通孔真下の地中空洞高さと横方向の地中空洞長さとを計測する態様を例示できる。
【0017】
袋体が膨らんだ時の中心部の高さは、前記地中空洞高さの1倍~1.3倍であることが好ましい。1倍未満であると、袋体が地中空洞の天面に当接しにくくなり、1.3倍を越えると、折り畳んだ袋体をきれいに膨らましにくくなる。
【0018】
袋体配置工程と土充填工程との間に、ホースから送ったエアで袋体を膨らませる袋体膨張工程を含ませることができる。エアで袋体を膨らませると、袋体は、重さがほとんど増加しないため地中空洞の底面を横方向にずれ動きやすく、地中空洞のほぼ全域にいきわたるように膨らみやすい。
【0019】
但し、地中空洞に溜水がある場合には、袋体膨張工程で袋体が溜水に浮いて地中空洞の底部にうまく広がらないことから、袋体膨張工程を省いて土充填工程を行い、水よりも重い流動化処理土で袋体を地中空洞の底部から広げていくことが好ましい。
【0020】
地盤表層部に、通孔とは別の、地中空洞へ縦方向に通じる充填確認孔を形成することが好ましい。
【0021】
[作用]
袋体の充填物には、次の性能が求められる。
・水よりも重いが、その充填物の重量により袋体にかかる負担を少なくできること
・袋体を押し広げて、最終的には地中空洞全体に広がる流動性があること
・硬化熱が小さく、袋体に与える影響が小さいこと
・管理者が要求する強度があり、なおかつ容易に掘削ができ、除去が可能であること
【0022】
そして、流動化処理土は、上記性能を満たし且つ次の理由(1)~(4)から、袋体の充填物としてベストである。
(1)流動化処理土は、地盤相当の単位重量であること
(参考)充填物候補材料の単位重量: 発泡ウレタン・エアモルタル・エアミルク<水(10kN/m3)<流動化処理土(13~18kN/m3)<モルタル・コンクリート(23kN/m3)
充填物が袋体に投入されると、袋体を押し広げて底部から広がってゆく。その後、側面に圧力を掛けながら袋体上部に充填されていく。側面に圧力が掛かると、ホースに下向きの張力が加わり、袋体が裂けて損傷する可能性がある。袋体は薄い素材でできており、コンパクトに折り畳むことから強い素材での補強が難しい。その観点より、袋体に充填する充填物は、コンクリートやモルタルなどの重い材料よりも軽い方がよい。
また、地中空洞に溜水がある場合、袋体を底部から広げていくために水よりも重い材料を充填する必要がある。
よって、コンクリートやモルタルよりも軽く、水よりも重く、地盤相当の単位重量である流動化処理土はベストである。
【0023】
(2)流動化処理土は締固めを必要としないで、流動性、充填性が高いこと
袋体の中に充填物を充填し、地中空洞全体に押し広げていく必要がある。コンクリートやモルタルは、バイブレーター等を使用して充填する必要があるが、バイブレーターを掛けられるスペースがない。流動化処理土は、流動性に富んだ材料で締固めを必要としないし、(袋体不使用での)地中空洞の充填の実績も多数ある。
よって、地中空洞全体に袋体を押し広げるための充填物として、流動化処理土はベストである。
【0024】
(3)流動化処理土の硬化熱が低いこと
(参考)充填物候補材料の硬化熱: 流動化処理土(外気温+5℃程度)<エアミルク・エアモルタル・モルタル・コンクリート(熱断熱状態で40℃~80℃程度)<発泡ウレタン(80度以上に上がる場合がある)
薄い素材でできている袋体の多くは耐熱性が低い。充填物の硬化熱が低い方が、袋体に与える影響も小さい。
よって、流動化処理土は、硬化熱の観点からもベストである。
【0025】
(4)流動化処理土は強度コントロールが可能で、リサイクルもできる。
充填物は、施工後には要求する強度を発現して地中空洞を補強でき、当該補強構造を更新する際に容易に掘削や除去ができる必要がある。
コンクリートやモルタルは高強度であるが、除去することが困難である。エアモルタルやエアミルク、発泡ウレタンは、物理的に除去は可能であるが、建設副産物もしくは廃棄処分になる。
よって、強度コントロールが可能で、なおかつ土としてリサイクルが可能である流動化処理土はベストである。
【発明の効果】
【0026】
流動化処理土は、重量が適度なため袋体を損傷させにくく、流動性が高いため袋体への充填性に優れ、硬化熱が低いため袋体に与える影響が小さく、強度コントロールが可能で、リサイクルもできる。よって、本発明によれば、袋体が流動化処理土によって傷みにくいため、流動化処理土が袋体から漏れず、流動化処理土が袋体をよく押し広げて、地中空洞を確実に補強することができ、さらに、補強構造を更新する際には容易に掘削や除去ができ、土としてリサイクルが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は実施例1の地中空洞の補強方法を示し、(a)は通孔形成工程と調査計測工程の一部を示す断面図、(b)は調査計測工程の他部を示す断面図である。
【
図2】
図2は同じく通孔及び充填確認孔と地中空洞の大きさ・形状を示す平面図である。
【
図3】
図3は同じく(a)は袋体配置工程で選択した袋体の斜視図、(b)は該袋体を折り畳んでパイプに挿入するときの正面図、(c)は同挿入後の正面図である。
【
図4】
図4は同じく(a)は袋体配置工程で袋体を通孔に挿入するときの断面図、(b)は袋体を地中空洞に配置したときの断面図である。
【
図5】
図5は同じく(a)は袋体膨張工程で袋体を膨らませ始めたときの断面図、(b)は膨らんだときの断面図である。
【
図6】
図6は同じく(a)は土充填工程で袋体に流動化処理土を注入し始めたときの断面図、(b)は充填したときの断面図である。
【
図7】
図7は同じく(a)は通孔及び充填確認孔を塞ぎ、流動化処理土を硬化させて完成した地中空洞の補強構造の断面図である。
【
図8】
図8は実施例2の地中空洞の補強構造及び補強方法を示す断面図である。
【
図9】
図9は同じく完成した地中空洞の補強構造の断面図である。
【
図10】
図10は実施例3の地中空洞の補強構造及び補強方法を示し、(a)は袋体に流動化処理土を注入し始めたときの断面図、(b)は注入が進んだときの断面図である。
【
図11】
図11は実施例4の地中空洞の補強構造及び補強方法を示し、(a)は袋体に流動化処理土を注入し始めたときの断面図、(b)は完成した地中空洞の補強構造の断面図である。
【
図12】
図12は実施例5の地中空洞の補強方法の袋体配置工程を示す断面図である。
【
図13】
図13は同じく完成した地中空洞の補強構造の、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.地中空洞
地中空洞としては、特に限定されないが、港湾又は河川の保全構造物(護岸、岸壁、堤防)の老朽化に伴ってその近辺に生じた地下空洞や、道路面下の地下空洞、廃坑、鉱物採掘跡、地下ピット、休止埋設管等を例示できる。
地中空洞上に地盤表層部がある場合、その地盤表層部としては、特に限定されないが、コンクリート盤、アスファルト舗装層、土層等を例示できる。
【0029】
2.不透水性の袋体
不透水性の袋体の材料としては、特に限定されないが、樹脂、繊維強化樹脂、布等を例示できる。布としては、表面コーティングや糸間含浸等により不透水性にしたものを例示できる。通孔を通せる細さに折り畳むことができるような柔軟な材料が好ましい。また、なるべく強い材料が好ましいことは言うまでもない。袋体の厚さは、強度を確保しつつ、通孔を通せる細さに折り畳むことができるような厚さを適宜選択する。
【0030】
袋体の使用数は、地中空洞の大きさや形状に応じて、例えば次のように、適宜決めることができる。
(ア)地中空洞長さの平均が4m未満の場合には一つの袋体を用い、同平均が4m以上の場合には複数の袋体を用いる。
(イ)地中空洞長さの最長部と最短部との比が2未満(すなわち平面地中空洞形状が円に近い)の場合には一つの袋体を用い、同比が2以上の場合には複数の袋体を用いる。
【0031】
3.流動化処理土
流動化処理土は、泥水(土粒子に水を加えた調整泥水)と固化材とを含むものであり、その配合は特に限定されない。
土粒子の粒度構成は、特に限定されないが、粘土及びシルトが10~100質量%であるものが好ましい。
泥水の含水比は、特に限定されないが、80~300質量%が好ましい。
泥水の密度は、特に限定されないが、1.2~1.5g/cm3 が好ましい。
固化材として、特に限定されないが、セメント、セメント系固化材、石灰系固化材、鉄鋼スラグとアルカリ刺激剤、等を例示できる。
【0032】
4.通孔
通孔の数は、1つでも複数でもよく、地中空洞の大きさ、形状等に応じて決めることができる。
通孔は、袋体を通すための孔と、カメラ及び計測器を通すための孔とを、兼ねたものでもよいし、それぞれ専用のものでもよい。
通孔の形成方法としては、特に限定されないが、ボーリング、コア削孔等を例示できる。
通孔の直径は、特に限定されないが、100~200mmが好ましい。地中空洞の直上に大きな孔は安全上開けられないこと、施工機械選定やコストの点からも大きい孔は難しいことによる。
【0033】
5.調査計測
カメラはデジタルカメラが好ましく、撮影した画像データを地上に送り、動画でモニタリング及び記録したり、静止画として記録したりできる。
計測器としては、特に限定されないが、レーザー距離計、レーザースキャナー等を例示できる。地中空洞高さの計測器計は、メジャーでもよい。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
本発明を具体化した実施例1の地中空洞5の補強方法について、
図1~
図7を参照して説明する。
本実施例で補強対象とした地中空洞5は、護岸構造物に生じたものである。
地中空洞化前の護岸構造物は、海に面した縦壁状のコンクリート壁1と、コンクリート壁1にせき止められている土砂2と、土砂2の上に敷設された地盤表層部3としてのコンクリート盤とからなるものである。土砂2中には陸から海に向けてヒューム管4が埋設され、ヒューム管4の先端部はコンクリート壁1を貫通して海に開口している。
そして、地中空洞化後の護岸構造物は、コンクリート壁1付近の土砂2が流出して、
図1に示すように、地中空洞5が生じている。
【0035】
(1)通孔形成工程
通孔形成工程の前に、地盤表層部3の下に潜む地中空洞5を非破壊検査で検知した(非破壊検査工程)。詳しくは、レーダ-式地中空洞探査装置(図示略)を用いて、地盤表層部3の上方から電磁波を照射し、その反射波により、地中空洞5を検知した。
そして、
図1及び
図2に示すように、地盤表層部3における地中空洞5の中心部付近の上方に、地上から地中空洞5に通じる通孔6を形成した。
さらに、地盤表層部3における地中空洞5の端付近の上方に、地上から地中空洞5に通じる充填確認孔7を形成した。なお、充填確認孔7は、地中空洞5の中心部から最も遠い端付近上、すなわち
図2で上方の端付近上に形成することが好ましいが、他の断面図に示す都合上、
図2で右方の端付近上に形成したことにする。
【0036】
(2)調査計測工程
ロッド8の下端部にデジタル式のカメラ9と計測器10としてのレーザー距離計とを取り付けてなる装置を、通孔6を通して地中空洞5に配置した。
図1(a)に示すように、通孔6の下端に位置したときの計測器10により、通孔6真下の地中空洞高さを計測したところ、0.63mであった。
図1(b)に示すように、地中空洞5の底より下(0.1m)・中(0.3m)・上(0.5m)の各高さに位置したときの計測器10をロッド8と共に回転させながら、横方向の地中空洞長さを計測して平均した。その結果、
図2に示すように、海-陸方向は1.36m(=0.51m+0.85m)、その直交方向は2.18m(=1.10m+1.08m)であった。
これらの結果より、地中空洞5の形状はいびつな略楕円形であることが分かり、地中空洞5の体積は約1.4m
3と算出された。
【0037】
図1(b)に示すように、地中空洞5の底より0.3mの高さに位置したときのカメラ9をロッド8と共に回転させながら、護岸構造物の老朽化状況を観察調査した。その結果、
図2に示すように、地中空洞5の中心部にヒューム管4が位置することが確認でき、さらに、
図1(b)に丸で囲んで示す箇所に明かり部が認められた。この明かり部は、ヒューム管4の破損部(あるいは緩くなったつなぎ目)であり、地中空洞の発生原因となった土砂流出部Rであると考えられる。すなわち、地中空洞化のメカニズムは、元々詰まっていた土砂2の一部が、土砂流出部Rからヒューム管4に通じ、潮の満ち引き等により出入りする海水により吸い出された、というものであると考えられる。
【0038】
(3)袋体配置工程
図3(a)に示すように、不透水性かつ耐引っ掻き性の樹脂製の袋体11であって、膨らんだ時の大きさが地中空洞5の大きさに対応する袋体11を選択した。袋体11がいっぱいに膨らんだ時の中心部の高さは、通孔6真下の地中空洞高さよりやや高い0.8mとし、袋体11の形状は直径にして2mの八角形とした。袋体は、柔軟な樹脂よりなるホース12の下に接続され、ホースに接続した箇所以外は閉鎖されている。
図3(b)(c)に示すように、袋体11を、細く折り畳んでパイプ13(例えば塩ビパイプ)に挿入した。袋体11の折り畳みは、パイプ13に収まり、かつ、地中空洞内で広がりやすいように行った。
【0039】
図4(a)に示すように、袋体11をパイプ13と共に通孔6に挿入してから、
図4(b)に示すように、袋体11をパイプ13から突出させて地中空洞5に配置した。
そして、前記調査計測装置を、充填確認孔7を通して地中空洞5に配置し、カメラ9によりこのとき袋体11の状態を確認したところ、やや緩みが見られたが、ほぼ折り畳まれた状態であった。
【0040】
(4)袋体膨張工程
図5(a)に示すように、エアコンプレッサー(図示略)を使用し、ホース12から送ったエアで袋体11を膨らませ始めた。カメラ9により、このとき袋体11の状態を確認したところ、袋体11はどの方向にも膨らみ始めた。
図5(b)に示すように、さらにエアで袋体11を膨らませていくと、袋体11は、地中空洞5のどこかの側面に当接した後、(充填物がないため)横方向にずれ動きやすいので、地中空洞5のほぼ全域にいきわたるように膨らんだ。そして、袋体11をいっぱいに膨らませてから、エアの流入を解除したところ、袋体11は自然なエア抜けによってややしぼみ、結局、
図5(b)に示すような中間的な膨らみ状態となった。
【0041】
(5)土充填工程
次の表1に材料土である泥水の分析結果を示し、表2に該泥水に固化材を配合した配合土である流動化処理土の配合及び特性を示す。流動化処理土の配合は、流動性と充填性に富んだ充填用の配合とした。固化材としては高炉セメントB種を使用した。
【0042】
【0043】
【0044】
図6(a)に示すように、モルタルポンプ(図示略)を使用し、ホース12から送った流動化処理土14を前記のとおり中間的に膨らんだ袋体11に注入し始めた。ホース12には圧力計(図示略)を設置し、充填中の圧力の監視を行った。カメラ9により、このとき袋体11と流動化処理土14の状態を確認した。流動化処理土14は、エアと置換するように注入され、袋体11内にきれいに広がった。
図6(b)に示すように、袋体11に流動化処理土14を充填すると、袋体11はいっぱいに膨らみ、地中空洞5の側面のほぼ全周に当接するとともに、地中空洞5の底面及び天面に当接した。この充填直前に、カメラ9を抜いた。
充填確認孔7より、天面に当接した袋体11を視認したことにより、流動化処理土14が充填されたことを確認し、充填を終了した。なお、このように充填確認孔7で最終的な充填確認はできるが、膨張中及び充填中の状態・変化が視認でき、異常等があれば直ちに把握できる点で、膨張中及び充填中のカメラ確認が有効であることが分かった。
充填後、30分間静止し、流動化処理土14と袋体11の沈下等の挙動がないことを確認した。
【0045】
(6)土硬化工程
図7に示すように、通孔6及び充填確認孔7を無収縮モルタル16で閉塞してから、流動化処理土14を硬化させた。こうして、地中空洞5に、袋体11に流動化処理土14が充填し硬化してなる土入り袋体15の1つが満たされてなる、地中空洞5の補強構造が完成した。
【0046】
以上の方法により完成した地中空洞5の補強構造によれば、次の作用効果が得られる。
(ア)流動化処理土14は、重量が適度なため袋体11を損傷させにくく、流動性が高いため袋体11への充填性に優れ、硬化熱が低いため袋体11に与える影響が小さく、強度コントロールが可能で、リサイクルもできる。よって、袋体11が流動化処理土14によって傷みにくいため、流動化処理土14が袋体11から漏れず、流動化処理土14が袋体11をよく押し広げる。もって、土入り袋体15により地中空洞5を確実に補強することができ、さらに、補強構造を更新する際には容易に掘削や除去ができ、土としてリサイクルが可能である。
【0047】
(イ)地盤表層部3には、通孔6等を形成すれば済み、大規模な工事は不要である。
(ウ)通孔6を通したカメラ9で地中空洞5の状況を調査することにより、地中空洞化メカニズムの理解や、本補強方法適用の有効性の判断に役立つ情報を得ることができる。
(エ)通孔6を通した計測器10で地中空洞5の大きさを計測することにより、同大きさに対応する1つ又は複数の袋体11を選択することができ、袋体11が過大な場合の膨らみにくさや、袋体11が過小な場合の補強不足を回避することができる。
(オ)袋体配置工程と土充填工程との間に、エアで袋体11を膨らませる袋体膨張工程があるため、前述のとおり、袋体11は地中空洞5のほぼ全域にいきわたるようにきれいに膨らみやすい。
【0048】
実施例1において、調査計測工程を省くこともできる。前述した非破壊検査工程などで地中空洞5の大きさを検知できる場合もあるからである。
【0049】
[実施例2]
実施例2の地中空洞の補強方法及び補強構造は、
図8及び
図9に示すように、
・調査計測工程で、計測した地中空洞5の大きさが、実施例1よりも大きかった(例えば地中空洞長さの平均が4~10m)ことにより、
・袋体配置工程で、複数の袋体の膨らんだ時の全大きさが地中空洞5の大きさに対応する複数の袋体11を選択し、各袋体11を折り畳んだ状態で、調査計測に用いた通孔6とは別の位置に形成した通孔6を通して地中空洞5に配置させたこと(後者の通孔6は、計測した地中空洞5の大きさと袋体11の数により袋体配置計画を行い、該袋体配置計画に基づいて決定した地盤表層部の位置に形成した。)
において実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0050】
本実施例によれば、
図9に示すように、地中空洞5に土入り袋体15の複数が満たされてなる地中空洞5の補強構造が完成し、実施例1と同様の作用効果(ア)~(オ)が得られる。
【0051】
[実施例3]
実施例3の地中空洞の補強方法及び補強構造は、
図10に示すように、
・調査計測工程で、地中空洞5に溜水18があることが確認できたことにより、
・袋体配置工程の後、袋体膨張工程を省いて土充填工程を行ったこと、すなわち、袋体11に流動化処理土14を充填するとともに袋体11を膨らませたこと
において実施例と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0052】
本実施例によれば、水よりも重い流動化処理土14によって、袋体11を地中空洞5の底部から広げていくことができる。
そして、本実施例によっても、最終的には実施例1の
図6(b)と同様の地中空洞5の補強構造が完成し、実施例1と同様の作用効果(ア)~(エ)が得られる。
【0053】
[実施例4]
実施例4の地中空洞の補強方法及び補強構造は、
図11に示すように、
・袋体配置工程で、地中空洞5の発生原因となった土砂流出部Rに、(膨らんだ時の中心部の高さが地中空洞高さより低い例えば0.3mで、直径が横方向の地中空洞長さよりも短い例えば0.7mの)袋体11を、当てるように置いたこと、また、袋体膨張工程を省いて袋体11に流動化処理土14を充填したこと、
・その後、地中空洞5の残部に、通孔6から充填材17としての流動化処理土を充填したこと、
・その後、土硬化工程を行ったこと
において実施例と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0054】
本実施例によれば、
図11(b)に示すように、土砂流出部Rに土入り袋体15が配置され、地中空洞5の残部に充填材17が充填されてなる地中空洞5の補強構造が完成し、実施例1と同様の作用効果(ア)~(ウ)が得られる。
【0055】
[実施例5]
実施例5の地中空洞の補強方法及び補強構造は、
図12及び
図13に示すように、
・調査計測工程で、計測した地中空洞5の大きさが、実施例1よりも海-陸方向に大きく(例えば5~10m)、その直交方向は実施例1と同程度であったことにより、
・袋体配置工程で、2つの袋体11を折り畳んだ状態で、調査計測に用いた通孔6とは別の海付近と陸付近の二位置に形成した通孔6を通して地中空洞5に配置させたこと、
・土充填工程の後、形成された2つの土入り袋体(15)の相互間に、通孔6から充填材17としての流動化処理土を充填したこと、
・その後、土硬化工程を行ったこと
において実施例と相違し、その他は実施例1と共通である。
【0056】
本実施例によれば、
図13に示すように、地中空洞5が、土入り袋体15の横方向に相互間をおいた複数と、該相互間に充填された充填材17とで満たされてなる地中空洞5の補強構造が完成し、実施例1と同様の作用効果(ア)~(ウ)が得られる。
【0057】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 コンクリート壁
2 土砂
3 地盤表層部
4 ヒューム管
5 地中空洞
6 通孔
7 充填確認孔
8 ロッド
9 カメラ
10 計測器
11 袋体
12 ホース
13 パイプ
14 流動化処理土
15 土入り袋体
16 無収縮モルタル
17 充填材
18 溜水
R 土砂流出部