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  • 特許-防音カバー 図1
  • 特許-防音カバー 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】防音カバー
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20240523BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20240523BHJP
   B32B 7/02 20190101ALI20240523BHJP
【FI】
G10K11/16 150
B32B5/26
B32B7/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020073585
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021170086
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】宇野 久志
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-89891(JP,U)
【文献】特開昭51-103620(JP,A)
【文献】特開2000-71902(JP,A)
【文献】特開平6-272790(JP,A)
【文献】特開昭63-230129(JP,A)
【文献】特開平4-53516(JP,A)
【文献】特開2009-235979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-10/30
F02B 61/00-79/00
G10K 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インテグラルヒンジからなるヒンジ部で連結され、該ヒンジ部で閉じられたときに騒音源の外面全体を覆うように成形された2つのカバー部を有し、
前記2つのカバー部が、表層としての第1の繊維層と、遮音層と、前記騒音源に対向する吸音層としての第2の繊維層と含む積層構造を有する、防音カバー。
【請求項2】
前記遮音層と前記第2の繊維層の少なくとも一方は、厚さと単位面積当たりの質量の少なくとも一方が異なる複数の領域から構成されている、請求項に記載の防音カバー。
【請求項3】
前記騒音源にアクセスするための開口部を有する、請求項1または2に記載の防音カバー。
【請求項4】
前記開口部がスリットからなる、請求項に記載の防音カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音カバーに関し、具体的には、自動車の騒音源に取り付けられる防音カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンなどから発生する騒音を低減するために、そのような騒音源に取り付けられる様々な防音カバーが提案されている。中でも、硬質な樹脂成形体からなる遮音層と、発泡ウレタンなどの発泡成形体からなり、騒音源に対向して遮音層に接合された吸音層とを有する防音カバーが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。このような防音カバーでは、遮音層により騒音源からの騒音が遮断され、吸音層により騒音源からの騒音が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-28934号公報
【文献】特開2009-108789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、従来のガソリン車と比べて静粛性が非常に高いハイブリッド車や電気自動車の普及が進んでおり、それに伴い、騒音源が発生する騒音も可能な限り遮断することが求められている。このような要求に対しては、騒音源の外面全体を覆うように防音カバーを設置することで、防音効果をより高めることが考えられる。しかしながら、上述した防音カバーでは、騒音源の3次元的な外形に対応するために複数のカバーが必要になる。そのため、樹脂成形体の質量が増加し、カバー全体の質量が増加するだけでなく、取り付けの手間もかかり、製造コストが増加してしまう。また、構造上、騒音源の外面全体を発泡成形体で隙間なく覆うことが困難なため、期待されるほどの防音効果を得ることはできない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、軽量かつ安価で、高い防音性能を有する防音カバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明の防音カバーは、インテグラルヒンジからなるヒンジ部で連結され、ヒンジ部で閉じられたときに騒音源の外面全体を覆うように成形された2つのカバー部を有し、2つのカバー部が、表層としての第1の繊維層と、遮音層と、騒音源に対向する吸音層としての第2の繊維層と含む積層構造を有している。
【0007】
このような防音カバーによれば、繊維層を用いることで、防音カバー全体の質量増加を抑制することができる。また、一体的に連結された複数のカバー部で騒音源の外面全体を覆うため、防音性能を向上させることができるだけでなく、取り付け作業性の向上によりコストダウンを図ることもできる。
【発明の効果】
【0008】
以上、本発明によれば、軽量かつ安価で、高い防音性能を有する防音カバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る防音カバーの斜視図である。
図2図1(a)のA-A線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本明細書では、本発明の防音カバーについて、ハイブリッド車や電気自動車に搭載される車両駆動用モータに適用される場合を例に挙げて説明するが、本発明の防音カバーの用途はこれに限定されるものではない。本発明の防音カバーが適用される騒音源としては、例えば、カーエアコンのコンプレッサーなどが挙げられる。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る防音カバーの斜視図であり、図1(a)および図1(b)は、防音カバーが開いた状態をそれぞれ反対側から見た斜視図であり、図1(c)は、防音カバーが閉じた状態を示す斜視図である。図2は、図1(a)のA-A線に沿った断面図である。なお、図1(c)に示す前後、左右、および上下は、便宜的なものであり、本実施形態の防音カバーの使用時の姿勢を限定するものではない。
【0012】
防音カバー10は、車両駆動用モータから発生する騒音を低減するために当該モータに取り付けられるものであり、2つのカバー部11,12から構成されている。2つのカバー部11,12は、インテグラルヒンジからなるヒンジ部13で開閉可能に連結され、閉じられたときにモータの外面全体を覆うように成形されている。
【0013】
カバー部11,12は、ヒンジ部13を含む全体が、複数の繊維層を含む積層構造を有している。具体的には、カバー部11,12は、不織布からなる表層(第1の繊維層)1と、遮音層2と、フェルトからなり、車両駆動用モータに対向する吸音層(第2の繊維層)3とが積層されて構成されたものである。
【0014】
表層1の材料としては、不織布に形成することができるものであれば特に限定されず、例えば、ポリアミド系繊維(ナイロンなど)、アクリル繊維、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)など)、ポリオレフィン系繊維などの一般的な合成繊維を用いることができる。また、不織布の形態も特に制限されず、例えば、ニードルパンチ、スパンレース、スパンボンドなどが挙げられる。また、内部への水の浸入を抑制するという観点から、撥水性を有する材料であってもよい。
【0015】
遮音層2の材料としては、遮音性を有するものであれば特に限定されるものではない。また、遮音層2は、表層1のバッキング(裏打ち)層として形成されてもよく、その場合、遮音層2の材料としては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレンやポリプロピレンなど)や塩化ビニル樹脂などの樹脂に無機フィラー(炭酸カルシウムや硫酸バリウムなど)を充填した組成物からなるマスバックを用いることができる。このときの遮音層2の形成方法としては、液状の樹脂組成物を塗布する方法を用いることができるが、これに限定されず、フィルム状のものを接着剤で貼り付けてもよい。
【0016】
吸音層3の材料としては、フェルトに形成することができ、かつ吸音性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリアミド系繊維(ナイロンなど)、アクリル繊維、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)など)、ポリオレフィン系繊維などの一般的な合成繊維を用いることができる。なお、吸音性に加え、耐熱性を有していてもよく、そのような吸音層3の一例としては、PET繊維(例えば、20~30重量%)と低融点PET繊維(例えば、30~40重量%)と難燃性PET繊維(例えば、30~50重量%)との混合物が挙げられ、これらの好ましい重量比は、30:30:40である。また、耐熱性を有する吸音層3の材料としては、ガラス繊維などの無機繊維や、上述した合成繊維と無機繊維との混合物などを用いることもできる。
【0017】
カバー部11,12の成形方法に特に制限はなく、例えば、表層1と遮音層2と吸音層3の積層体を予め加熱した後、金型で冷却しながら成形するホットスタンプ成形を用いることができる。遮音層2が表層1に予め裏打ちされている場合、表層1と遮音層2との接着は不要であるが、それ以外では、表層1と遮音層2との間に接着剤を塗布し、カバー部11,12の成形時に両者を接着することができる。なお、遮音層2と吸音層3も接着層によって接着することができるが、遮音層2としてオレフィン系樹脂と無機フィラーからなるマスバックが用いられる場合、このマスバック自体が接着剤として機能するため、カバー部11,12の成形時に両者の間に接着層を挿入する必要はない。
【0018】
このように、本実施形態の防音カバー10では、車輪駆動用モータの外面全体を覆うように成形されたカバー部11,12が、複数の繊維層1,3から構成されているため、防音カバー10全体の質量増加を抑制しながら、防音性能を向上させることができる。また、複数の繊維層1,3は、カバー部11,12を連結するヒンジ部13にも設けられているため、ヒンジ部13によって防音性能が損なわれることがない。また、防音カバー10を取り付けるためには、一体的に連結されたカバー部11,12を閉じて固定するだけでよいため、取り付けに手間がかかることがなく、製造コストが増加することもない。さらに、樹脂で裏打ちされた不織布の構成は、既存のカーペット製品に一般的に採用される構成である。そのため、遮音層2で裏打ちされた表層1として、既存のカーペット製品をそのまま流用することもでき、この点でも、コストダウンを図ることができる。
【0019】
なお、カバー部11,12を固定する方法に特に制限はなく、例えば、面ファスナーを用いて固定する方法や、カバー部11,12の一方にスリットを設け、他方に基端よりも先端が幅広な舌片を設け、スリットに舌片を挿入して係合させる方法を用いることができる。スリットと舌片を用いる方法は、面ファスナーの場合に比べて、カバー部11,12の製造工程において面ファスナーを取り付ける工数を減らすことができる点で好ましい。
【0020】
防音カバー10を構成する各層1~3の厚さに特に制限はなく、例えば、遮音層2や吸音層3の厚さは、防音対象となる騒音の周波数域に応じて適宜設定することができる。ただし、防音カバー10全体の質量増加の抑制と防音性能の向上とを両立するという観点からは、遮音層2や吸音層3の厚さを一様にして遮音性能や吸音性能を一様にするのではなく、場所(領域)ごとに遮音層2や吸音層3の厚さを変化させて遮音性能や吸音性能を変化させることが好ましい。すなわち、防音がより必要な領域では遮音層2や吸音層3を厚くして遮音性能や吸音性能を高めつつ、他の領域では遮音層2や吸音層3を薄くして軽量化を図ることで、防音カバー10全体の質量増加の抑制しながら、所望の防音性能を得ることができる。なお、場所ごとに厚さを変えることは、遮音層2と吸音層3のどちらか一方で行ってもよく、その両方で行ってもよい。また、場所ごとに厚さを変える代わりに、あるいはそれに加えて、単位面積当たりの質量(繊維層である吸音層3では目付量)を変えてもよい。
【0021】
また、本実施形態の防音カバー1は2つのカバー部11,12から構成されているが、カバー部の数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。また、本実施形態のカバー部11,12は、表層1、遮音層2、および吸音層3の3層からなっているが、例えば、表層が吸音性を有する材料から形成されていれば、吸音層は省略されていてもよい。
【0022】
ところで、モータやコンプレッサーのような騒音源に対しては、電源コードなどのケーブル類やダクトなどの配管類を外部に引き出したり、騒音源を車両本体に固定するための接続部材を設置したりする必要がある。そのため、このような騒音源の外面全体を覆うように取り付けられる防音カバーには、騒音源にアクセスするための開口部が必要になる。しかしながら、樹脂成形体と発泡成形体からなる従来の防音カバーでは、引き出し部材や接続部材に対して大きめの開口部を樹脂成形体に形成しなければならず、このことは、音漏れによる防音性能の低下につながってしまう。また、騒音源の外面全体を覆うために、樹脂成形体にインテグラルヒンジからなるヒンジ部を形成した場合、ヒンジ部を避けて開口部を形成する必要があり、設計の自由度が低下してしまう。
【0023】
これに対し、本実施形態の防音カバー10では、防音対象である車両駆動用モータにアクセスするために、カバー部11,12にスリットからなる開口部14が形成されている。これにより、引き出し部材を開口部14に挿入したり、接続部材を開口部14に設置したりしても、繊維の復元力によって開口部14が閉じて引き出し部材や接続部材に密着するため、音漏れが抑制され、防音性能の低下が抑制される。なお、このような防音カバー10は、開口部14を通じて車両駆動用モータからの部材の引き出しや車両本体との接続を行う必要があるため、車両駆動用モータが車両本体に取り付けられる前に当該モータに取り付けられる必要がある点に留意されたい。
【0024】
図示した構成では、複数の放射状スリットからなる開口部14が形成されているが、スリットの形状はこれに限定されず、例えば、H字状のスリットからなっていてもよい。また、スリットの位置も図示した構成に限定されず、例えば、ヒンジ部13を横切る位置に形成されていてもよい。このように、開口部14をスリットから構成することは、設計の自由度を大幅に向上させることができる点でも有利である。なお、スリットからなる開口部14の場合、スリットの形状や繊維の復元力の程度によっては、引き出し部材の挿入や接続部材の設置に手間がかかるなどの不具合が生じる可能性もある。そのため、騒音源にアクセスするための開口部としては、所定の形状にくり抜いた孔からなる開口部であってもよい。
【0025】
ここで、スリットからなる開口部による効果を確認するために行った評価試験について説明する。
【0026】
(試験1)
試験1では、図1に示す防音カバーと同様の形状を有し、開口部が形成されていない防音カバーを用意し、その内部に、騒音源を模擬した12面体スピーカーを設置した。そして、その12面体スピーカーから、騒音を模擬したホワイトノイズ(81.3dB)を発生させ、そのときの周囲の音圧レベルを測定した。音圧レベルの測定は、防音カバーの前後左右上下(図1(c)参照)に1箇所ずつ、合計6箇所に設置したマイクロフォンにより行い、それらの平均値を測定値とした。
【0027】
防音カバーの表層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維からなるニードルパンチ不織布を用い、遮音層として、オレフィン系樹脂と無機フィラーからなるマスバックを用い、吸音層として、PET繊維製の成形フェルトを用いた。防音カバーの製造にはスタンプ成形を用いた。具体的には、ニードルパンチ不織布の裏側にマスバックを塗布してバッキング層を形成した後、成形フェルトと共に加熱し、それらを積層して金型内に配置して型締めを行った。そして、成形品を取り出した後、外周の余分な部分をトリミングして防音カバーを得た。
【0028】
(試験2)
試験2では、まず、試験1で用いた防音カバーにスリットからなる開口部を形成した。具体的には、防音カバーの前後の各面に、上下方向に2個、放射状スリットからなる開口部を形成し、左右の各面に、上下方向に2個、H字状スリットからなる開口部を形成した。すなわち、防音カバーの前後左右の各面に2個ずつ、合計8個の開口部を形成した。なお、H字状スリットからなる開口部は、ヒンジ部やヒンジ部に対向するカバー部の周縁部を横切るように形成した。そして、その開口部に、引き出し部材や接続部材を模擬した樹脂製の円柱を挿入して固定した。具体的には、放射状スリットからなる開口部に対しては、樹脂製の円柱を軸方向に挿入して固定し、H字状スリットからなる開口部に対しては、樹脂製の円柱を軸方向と垂直(横向き)に挿入して固定した。このような防音カバーを用いて、試験1と同様の条件で音圧レベルの測定を行った。
【0029】
(試験3)
試験3では、まず、試験2で用いた防音カバーのスリット部分を切り抜き、孔からなる開口部を形成した。具体的には、防音カバーの前後の各面に形成された放射状スリットの部分を正方形に切り抜き、正方形の孔からなる開口部を形成し、左右の各面に形成されたH字状スリットを長方形に切り抜き、長方形の孔からなる開口部を形成した。そして、試験2と同様に、正方形の孔からなる開口部に対しては、樹脂製の円柱を軸方向に挿入して固定し、長方形の孔からなる開口部に対しては、樹脂製の円柱を軸方向と垂直(横向き)に挿入して固定した。このような防音カバーを用いて、試験1と同様の条件で音圧レベルの測定を行った。
【0030】
表1に、試験1~3における音圧レベル(測定値)およびその減衰量を示す。なお、音圧レベルの減衰量は、騒音を模したホワイトノイズ(81.3dB)と防音カバーの周囲で測定される音圧レベルとの差を表す指標であり、ここでは、試験1における音圧レベルの減衰量を100としたときの相対値で示されている。
【表1】
【0031】
試験2では、試験3と比べて、音圧レベルの減衰量が大きく、防音性能がより良好であることが確認された。これは、開口部をスリットで形成したことにより、開口部と樹脂製の円柱との隙間が塞がれ、その結果、音漏れが抑制され、防音性能の損失が最小限になったためであると考えられる。
【0032】
本発明の防音カバーは、従来のガソリン車を含む自動車の騒音源に対して好適に用いられるが、騒音源の外面全体を覆うように防音カバーを取り付ける構成は、従来のガソリン車と比べて静粛性が非常に高く、騒音源が発生する騒音も可能な限り遮断することが求められるハイブリッド車や電気自動車の騒音源に対して特に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0033】
1 表層
2 遮音層
3 吸音層
10 防音カバー
11,12 カバー部
13 ヒンジ部
14 開口部
図1
図2