(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20240523BHJP
C08F 283/04 20060101ALI20240523BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C08F2/44 Z
C08F283/04
C08F2/50
(21)【出願番号】P 2020131508
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】神谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 孝俊
(72)【発明者】
【氏名】西野 晃太
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-100441(JP,A)
【文献】特開2005-266075(JP,A)
【文献】特開2010-016244(JP,A)
【文献】特開平08-291252(JP,A)
【文献】特開2019-011383(JP,A)
【文献】特開2019-012793(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094734(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60、251/00-299/08
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 69/00-69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸と、
感光剤と、
イミドアクリレート化合物と、
アミン化合物
(前記感光剤を除く)とを含有し、
前記アミン化合物の含有量が、
前記イミドアクリレート化合物100質量部に対して4.5質量部以下である、ポリイミド前駆体組成物。
【請求項2】
前記アミン化合物の含有割合が0.01質量%以上である、請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
前記アミン化合物の含有割合が0.33質量%以下である、請求項1または2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
前記アミン化合物が三級アミン化合物である、請求項1から3のいずれか一つに記載のポリイミド前駆体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
配線回路基板の製造においては、絶縁層形成用の材料として、例えばポリイミドが用いられる。例えば、支持基材としての金属基材を備える配線回路基板では、ベース絶縁層としてのポリイミド層が金属基材上に形成され、その後、当該ポリイミド層上に配線パターンが形成される。ポリイミド層は、フォトリソグラフィ法により、例えば次のようにして形成される。
【0003】
まず、ポリイミド前駆体としてのポリアミド酸と感光剤とを含有するワニス(ポリイミド前駆体組成物)が、基材上に塗布されて、塗膜が形成される。次に、塗膜が乾燥されて絶縁膜が形成される。次に、絶縁膜が、フォトマスクを介して紫外線照射される(露光工程)。フォトマスクは、例えば、ポリイミド層のパターン形状に対応した形状の開口部を有する。次に、絶縁膜が加熱される(露光後加熱工程)。本工程では、絶縁膜の露光部分において、ポリアミド酸のイミド化が進行してポリイミドが形成される。次に、絶縁膜を現像する(現像工程)。具体的には、絶縁膜の未露光部分を現像液によって溶解して除去する。次に、基材上に残る絶縁膜が、加熱によって硬化される(加熱硬化工程)。
【0004】
例えば以上のようにして、所定のパターン形状を有するポリイミド層(ポリイミド膜パターン)が基材上に形成される。このようなポリイミド層の形成に関する技術については、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
配線回路基板の基材には、用途に応じた薄さが求められる。基材が薄いほど、ポリイミド膜パターンの剛性が、配線回路基板の剛性に与える影響は、大きい。そのため、配線回路基板の剛性の制御の観点からは、ポリイミド膜パターンは、寸法精度良く形成されることが求められる。配線回路基板における基材が薄いほど、その要求は高い。
【0007】
本発明は、ポリイミド膜パターンを寸法精度良く形成するのに適したポリイミド前駆体組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明[1]は、ポリアミド酸と、感光剤と、イミドアクリレート化合物と、アミン化合物とを含有し、アミン化合物の含有量が、イミドアクリレート化合物100質量部に対して4.5質量部以下である、ポリイミド前駆体組成物を含む。
【0009】
本発明[2]は、前記アミン化合物の含有割合が0.01質量%以上である、上記[1]に記載のポリイミド前駆体組成物を含む。
【0010】
本発明[3]は、前記アミン化合物の含有割合が0.33質量%以下である、上記[1]または[2]に記載のポリイミド前駆体組成物を含む。
【0011】
本発明[4]は、前記アミン化合物が三級アミン化合物である、上記[1]から[3]のいずれか一つに記載のポリイミド前駆体組成物を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、上記のように、ポリアミド酸、感光剤、およびイミドアクリレート化合物に加えてアミン化合物を含有し、且つ、アミン化合物の含有量が、イミドアクリレート化合物100質量部に対して4.5質量部以下である。そのため、本発明のポリイミド前駆体組成物は、フォトリソグラフ法によってポリイミド膜パターンを寸法精度良く形成するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のポリイミド前駆体組成物を用いたポリイミド膜パターンの形成方法の一例を表す。
図1Aは塗工工程を表し、
図1Bは塗工後乾燥工程を表し、
図1Cは露光工程を表し、
図1Dは現像工程を表し、
図1Eは加熱硬化工程を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態としてのポリイミド前駆体組成物は、ポリアミド酸と、感光剤と、イミドアクリレート化合物と、アミン化合物と、有機溶剤とを含有する。ポリイミド前駆体組成物は、フォトリソグラフィ法によってポリイミド膜パターンを形成可能な組成物である。
【0015】
ポリアミド酸は、ポリイミド前駆体であり、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物である。ポリアミド酸は、繰り返し単位内で隣接するアミド基とカルボキシル基とが反応(イミド化反応)してイミド基含有閉環構造を形成することによって、ポリイミド樹脂を形成する。イミド化反応は、例えば加熱によって生ずる。
【0016】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、および、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物が挙げられる。
【0017】
ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミンが挙げられる。芳香族ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ジアミノベンゼン、2,5-ジアミノトルエン、および、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニルが挙げられる。
【0018】
ポリアミド酸は、好ましくは、下記の一般式(1)で表される第1構造単位と、下記の一般式(2)で表される第2構造単位とを含む。一般式(1)において、R1は、炭素数1~3のアルキル基であり、mは、0または4以下の正の整数であり、nは、4以下の正の整数である。
【0019】
【0020】
【0021】
第1構造単位と第2構造単位とを含むポリアミド酸は、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、少なくとも二種類のジアミンとを、有機溶媒中で反応させることにより得られる。
【0022】
少なくとも二種類のジアミンは、第1構造単位用のジアミン(第1ジアミン)と、第2構造単位用のジアミン(第2ジアミン)とを含む。
【0023】
第1ジアミンとしては、芳香族ジアミンが挙げられる。当該芳香族ジアミンが有する芳香族環としては、例えば、ベンゼン、ビフェニル、トリフェニル、ターフェニル、トルエン、キシレン、およびトリジンが挙げられる。第1ジアミンとしては、好ましくは、p-フェニレンジアミンが用いられる。すなわち、一般式(1)おいて、mは、好ましくは0であり、nは、好ましくは1である。
【0024】
第2ジアミンとしては、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニルが用いられる。
【0025】
第1ジアミン(a1)と第2ジアミン(a2)のモル比率(a1/a2)は、ポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド膜の熱膨張率を抑制する観点からは、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上である。ポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド膜の吸湿膨張率を抑制する観点からは、同モル比率(a1/a2)は、好ましくは10以下、より好ましくは7.5以下、さらに好ましくは5以下である。
【0026】
ポリイミド前駆体組成物におけるポリアミド酸の含有量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上である。ポリイミド前駆体組成物におけるポリアミド酸の含有量は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下である。ポリアミド酸含有量に関するこれら構成は、ポリイミド前駆体組成物の良好な粘度を確保するのに適する。
【0027】
感光剤は、フォトリソグラフィ法の露光工程で光照射を受けた部分(露光部分)に含まれるポリアミド酸のイミド化を促進させる成分である(ポリアミド酸のイミド化が促進された部分は、露光工程より後の現像工程で使用される現像液に対する溶解性が低下する)。感光剤としては、好ましくはピリジン系感光剤が挙げられる。ピリジン系感光剤としては、例えば、下記の一般式(3)で表される化合物(1,4-ジヒドロピリジン誘導体)が挙げられる。一般式(3)において、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ、水素原子、または、炭素数1~4のアルキル基であり、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。また、一般式(3)において、Arは、オルソ位にニトロ基を有するアリル基である。
【0028】
【0029】
一般式(3)において、R2は、好ましくは、水素原子またはメチル基である。R3は、好ましくは、水素原子またはメチル基である。R4は、好ましくは、メチル基またはエチル基である。R5は、好ましくは、メチル基またはエチル基である。R6は、好ましくは、メチル基またはエチル基である。Arは、好ましくは、2-ニトロフェニル基である。
【0030】
ピリジン系感光剤の具体的な例としては、1-エチル-3,5-ジメトキシカルボニル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン、1-メチル-3,5-ジメトキシカルボニル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン、1-プロピル-3,5-ジメトキシカルボニル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン、および、1-プロピル-3,5-ジエトキシカルボニル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジンが挙げられる。ピリジン系感光剤としては、好ましくは、下記の式(4)で表わされる1-エチル-3,5-ジメトキシカルボニル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジンが用いられる。
【0031】
【0032】
ピリジン系感光剤(1,4-ジヒドロピリジン誘導体)は、例えば、置換ベンズアルデヒドと、その2倍モル量のアルキルプロピオレート(プロパギル酸アルキルエステル)と、所定の第1級アミンとを、氷酢酸中で還流下に反応させることにより、得られる(Khim.Geterotsikl.Soed.,pp.1067-1071,1982)。
【0033】
ポリイミド前駆体組成物におけるピリジン系感光剤の含有量は、ポリアミド酸100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。このような構成は、ポリイミド前駆体組成物において、現像液に対する露光部分の上述の溶解性低下効果を確保する観点から好ましい。ピリジン系感光剤の配合量は、ポリアミド酸100質量部に対して、好ましくは70質量部以下、より好ましくは55質量部以下である。このような構成は、ポリイミド前駆体組成物の保存時における固形分の析出を抑制する観点から好ましい。また、当該構成は、フォトリソグラフィ法の現像工程後の加熱硬化工程において、形成されるポリイミド膜パターンの厚さの減少を抑制する観点から好ましい。
【0034】
イミドアクリレート化合物は、フォトリソグラフィ法の現像工程において、現像液に対する除去対象部分(露光工程での未露光部分)の溶解を促進させる成分である。イミドアクリレート化合物としては、例えば、下記の一般式(5)で表される化合物が挙げられる。一般式(5)において、R7は、水素原子またはメチル基であり、R8は、炭素数2以上の2価の炭化水素基である。
【0035】
【0036】
イミドアクリレート化合物としては、好ましくは、下記の式(6)で表されるN-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドが用いられる。すなわち、一般式(5)において、R7は、好ましくは水素原子であり、R8は、好ましくはエチレン基である。
【0037】
【0038】
イミドアクリレート化合物としては、N-アクリロイルオキシエチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタルイミド、および、N-アクリロイルオキシエチル-3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミドも挙げられる。
【0039】
イミドアクリレート化合物の配合量は、ポリアミド酸100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上である。このような構成は、フォトリソグラフィ法における現像工程での上述の溶解促進効果を確保する観点から好ましい。イミドアクリレート化合物の配合量は、ポリアミド酸100質量部に対して、好ましくは110質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは90質量部以下である。このような構成は、フォトリソグラフィ法の現像工程後の加熱硬化工程において、形成されるポリイミド膜パターンの厚さの減少を抑制する観点から好ましい。
【0040】
アミン化合物は、現像工程での現像液による現像性を制御するための成分である。当該アミン化合物は、イミド基の窒素原子およびアミド基の窒素原子以外の、アミン窒素原子を含む化合物である。
【0041】
アミン化合物としては、一級アミン化合物、二級アミン化合物、および三級アミン化合物が挙げられる。一級アミン化合物としては、例えば、エタノールアミン、3-アミノ安息香酸、4-アミノ安息香酸、1-アミノアントラセン、および1-アミノアントラキノンが挙げられる。二級アミン化合物としては、例えば、ジエタノールアミン、N-メチルアニリン、ジフェニルアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、1-(メチルアミノ)アントラキノン、および9-(メチルアミノエチル)アントラセンが挙げられる。三級アミン化合物としては、例えば、脂肪族三級アミン化合物および含窒素複素環化合物が挙げられる。脂肪族三級アミン化合物としては、例えば、トリオクチルアミンおよびトリドデシルアミンが挙げられる。含窒素複素環化合物としては、例えば、イミダゾール類およびピリジン類が挙げられる。イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、および1-ベンジル-2-メチルイミダゾールが挙げられる。ピリジン類としては、例えば、ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン、プロピルピリジン、および4-ジメチルアミノピリジンが挙げられる。これらアミン化合物は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。アミン化合物としては、好ましくは三級アミン化合物が用いられ、より好ましくは脂肪族三級アミン化合物が用いられる。
【0042】
アミン化合物の沸点は、配線回路基板の製造過程における現像工程より前の加熱プロセスでアミン化合物の揮発を抑制する観点から、当該加熱プロセスでの加熱温度よりも高いのが好ましい。具体的には、アミン化合物の沸点は、好ましくは160℃以上、より好ましくは175℃以上、さらに好ましくは180℃以上である(沸点は、1気圧下での値である)。
【0043】
ポリイミド前駆体組成物におけるアミン化合物の含有量は、イミドアクリレート化合物100質量部に対して、4.5質量部以下であり、好ましくは4.2質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3.5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。アミン化合物の同含有量は、イミドアクリレート化合物100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上、特に好ましくは0.4質量部以上である。アミン化合物の含有量に関するこれら構成は、ポリイミド前駆体組成物から寸法精度良くポリイミド膜パターンを形成するのに適する。
【0044】
ポリイミド前駆体組成物におけるアミン化合物の含有割合は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上であり、また、好ましくは0.33質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.25質量%以下である。アミン化合物の含有割合に関する当該構成は、ポリイミド前駆体組成物から寸法精度良くポリイミド膜パターンを形成する観点から好ましい。
【0045】
ポリイミド前駆体組成物におけるアミン化合物の含有量は、ポリアミド酸100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.25質量部以上であり、また、好ましくは3.3質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。アミン化合物の含有量に関する当該構成は、ポリイミド前駆体組成物から寸法精度良くポリイミド膜パターンを形成するのに適する。
【0046】
ポリイミド前駆体組成物の有機溶剤としては、例えば非プロトン性極性溶媒が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、およびヘキサメチルホスホルアミドが挙げられる。ポリイミド前駆体組成物における有機溶剤の含有量は、ポリアミド酸100質量部に対して、例えば150質量部以上であり、また、例えば2000質量部以下である。
【0047】
ポリイミド前駆体組成物は、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、ポリイミド前駆体組成物の感光性を高める光増感剤が挙げられる。
【0048】
光増感剤としては、例えば、3,3'-カルボニルビス(7-N,N-ジメトキシ)クマリン、3-ベンゾイルクマリン、3-ベンゾイル-7-N,N-メトキシクマリン、およびベンザルアセトフェノンが挙げられる。光増感剤の配合量は、ポリアミド酸100質量部に対して、例えば0.05質量部以上であり、また、例えば20質量部以下である。
【0049】
ポリイミド前駆体組成物は、ポリアミド酸と、感光剤と、イミドアクリレート化合物と、アミン化合物と、必要に応じて添加される他の成分とを、有機溶剤中で混合することにより、調製できる。具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒中で反応させることによって得られるポリアミド酸含有溶液に、感光剤と、イミドアクリレート化合物と、アミン化合物と、必要に応じて他の成分とを配合することにより、調製できる。
【0050】
ポリイミド前駆体組成物は、例えば以下のようにして、ポリイミド膜パターンの形成に使用できる。
【0051】
まず、
図1Aに示すように、ポリイミド前駆体組成物が、基材S上に塗布されて、塗膜10Aが形成される(塗工工程)。基材Sとしては、例えば、アルミニウム板、ステンレス板、銅板、およびシリコンウエハが挙げられる。
【0052】
まず、
図1Bに示すように、塗膜10Aが加熱によって乾燥されて、基材S上に絶縁膜10Bが形成される(塗工後乾燥工程)。乾燥温度は、例えば160℃以上であり、また、例えば200℃以下である。乾燥時間は、例えば1分以上であり、また、例えば15分以下である。絶縁膜10Bの厚さは、例えば1μm以上であり、また、例えば50μm以下である。
【0053】
次に、
図1Cに示すように、絶縁膜10Bが、フォトマスクMを介して紫外線照射される(露光工程)。フォトマスクMは、形成目的のポリイミド膜のパターン形状に対応した形状の開口部Maを有する。照射紫外線の波長は、例えば300nm以上であり、また、例えば450nm以下である。紫外線の累積照射量は、例えば100mJ/cm
2以上であり、また、例えば1000mJ/cm
2以下である。本工程では、絶縁膜10Bにおいて、露光部分11と未露光部分12とが生ずる。本工程の後、絶縁膜10Bを加熱してもよい。
【0054】
次に、
図1Dに示すように、絶縁膜10Bを現像する(現像工程)。具体的には、絶縁膜10Bの未露光部分12が、現像液によって溶解されて除去される。現像液としては、例えば、アルカリ水溶液が用いられる。アルカリ水溶液としては、例えば、無機アルカリ水溶液および有機アルカリ水溶液が挙げられる。無機アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液および水酸化カリウム水溶液が挙げられる。有機アルカリ水溶液としては、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドの水溶液が挙げられる。現像方法としては、例えば、浸漬法、スプレー法、およびパドル法が挙げられる。
【0055】
次に、
図1Eに示すように、基材S上に残る絶縁膜10Bが加熱によって硬化され、ポリイミド膜パターン10Cが形成される(加熱硬化工程)。加熱温度は、例えば300℃以上であり、また、例えば450℃以下である。加熱時間は、例えば1時間以上であり、また、例えば10時間以下である。
【0056】
例えば以上のようにして、所定のパターン形状を有するポリイミド層(ポリイミド膜パターン10C)が基材S上に形成される。このようなポリイミド膜パターンの形成方法は、例えば、配線回路基板の製造過程で用いることができる。配線回路基板としては、例えば、ハードディスクドライブに組み付けられる回路付きサスペンション基板が挙げられる。
【0057】
本実施形態のポリイミド前駆体組成物は、上述のように、ポリアミド酸、感光剤、およびイミドアクリレート化合物に加えてアミン化合物を含有し、且つ、アミン化合物の含有量が、イミドアクリレート化合物100質量部に対して、4.5質量部以下であり、好ましくは4.2質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3.5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。このようなポリイミド前駆体組成物は、フォトリソグラフ法によってポリイミド膜パターンを寸法精度良く形成するのに適する。具体的には、以下の実施例および比較例をもって示すとおりである。
【実施例】
【0058】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。本発明は、実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0059】
〔実施例1〕
まず、ポリアミド酸を合成した。具体的には、1000mLの四つ口フラスコ内で、94.15g(320mmol)の3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、27.68g(256mmol)のp-フェニレンジアミン(PPD)と、20.50g(64mmol)の2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(TFMB)と、874gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを含む溶液を、室温(25℃)で50時間、撹拌した(ポリアミド酸の合成)。これにより、ポリアミド酸を含有するNMP溶液を得た。合成されたポリアミド酸は、上述の第1構造単位および第2構造単位を含む。このポリアミド酸において、第1構造単位を表す上記一般式(1)中のmは0であり、且つ、一般式(1)中のnは1である。また、このポリアミド酸における第2構造単位の割合は、20モル%である。
【0060】
次に、ポリアミド酸を含有する上記NMP溶液と、感光剤と、イミドアクリレート化合物と、アミン化合物とを混合し、感光性のポリイミド前駆体組成物を調製した。感光剤は、上記の式(4)で表される1-エチル-3,5-ジメトキシカルボニル-4-(2-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジンである。イミドアクリレート化合物は、上記の式(6)で表されるN-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド(東亞合成社製のAronix M140)である。アミン化合物は、トリドデシルアミン(TDA,沸点220℃[0.03mmHg])である。ポリイミド前駆体組成物の調製においては、ポリアミド酸100質量部に対して、感光剤の配合量を14質量部とし、イミドアクリレート化合物の配合量を52質量部とし、アミン化合物の配合量を0.47質量部とした。調製されたポリイミド前駆体組成物において、アミン化合物の含有割合は0.06質量%であり、イミドアクリレート化合物100質量部に対するアミン化合物の含有量Rは0.8質量部である。
【0061】
〔実施例2~5および比較例2〕
アミン化合物の含有量以外は実施例1のポリイミド前駆体組成物と同様にして、実施例2~8および比較例2の各ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0062】
実施例2のポリイミド前駆体組成物では、アミン化合物の含有割合は0.12質量%であり、イミドアクリレート化合物100質量部に対するアミン化合物の含有量Rは1.7質量部である。実施例3のポリイミド前駆体組成物では、アミン化合物の含有割合は0.2質量%であり、含有量Rは2.8質量部である。実施例4のポリイミド前駆体組成物では、アミン化合物の含有割合は0.3質量%であり、含有量Rは4.1質量部である。実施例5のポリイミド前駆体組成物では、アミン化合物の含有割合は0.02質量%であり、含有量Rは0.3質量部である。比較例2のポリイミド前駆体組成物では、アミン化合物の含有割合は0.35質量%であり、含有量Rは4.8質量部である。
【0063】
〔実施例6~8〕
以下のこと以外は、実施例1のポリイミド前駆体組成物と同様にして、実施例6~8の各ポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0064】
実施例6のポリイミド前駆体組成物では、アミン化合物としてトリオクチルアミン(TOA,沸点365℃[760mmHg])を用い、当該アミン化合物の含有割合は0.03質量%であり、含有量Rは0.4質量部である。実施例7のポリイミド前駆体組成物では、アミン化合物としてTOAを用い、アミン化合物の含有割合は0.06質量%であり、含有量Rは0.8質量部である。実施例8のポリイミド前駆体組成物では、アミン化合物としてTOAを用い、アミン化合物の含有量は0.1質量%であり、含有量Rは1.4質量部である。
【0065】
〔比較例1〕
アミン化合物を用いないこと以外は実施例1のポリイミド前駆体組成物と同様にして、比較例1のポリイミド前駆体組成物を調製した。
【0066】
〔寸法精度の評価〕
実施例1~8および比較例1,2の各ポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド膜パターンについて、次のようにして寸法精度を調べた。
【0067】
まず、基材(ステンレス鋼製)上に、ポリイミド前駆体組成物を塗布して塗膜を形成した(塗工工程)。塗布には、スピンコーターを使用した。次に、乾燥機内において、165℃で2分間、塗膜を乾燥した(塗工後乾燥工程)。次に、紫外線照射機により、塗膜に対してフォトマスクを介して紫外線を照射した(露光工程)。フォトマスクは、複数の開口部を有する。各開口部は、線幅100μmの直線状の開口形状を有する。紫外線の累積照射量は200mJ/cm2とした。次に、ホットプレート上で、基材上の膜を、185℃で2分間、加熱した(露光後加熱工程)。これにより、膜の露光部分が硬化した。次に、スプレー法により、基材上の膜に現像液を作用させて、膜の未露光部分を除去した(現像工程)。現像液としては、テトラメチルアンモニウムハイドロオキシドの水・エタノール溶液(水とエタノールの体積比は1:1)を使用した。これにより、基材上にポリイミド膜パターン(複数の線状のポリイミド膜)が形成された。
【0068】
次に、ポリイミド膜パターンの任意の10箇所における線幅を測定した。次に、測定された線幅から、仕上がり幅W’として平均線幅を算出した。次に、設計幅Wに対する、仕上がり幅W'と設計幅Wとの差(=W'― W)の割合(%)を、求めた。そして、ポリイミド膜パターンの寸法精度について、前記割合が-5%以上7.5%未満である場合を“優”と評価し、前記割合が-7.5%以上-5%未満または7.5%以上15%未満である場合を“良”と評価し、前記割合が-7.5%未満または15%以上である場合を“不可”と評価した。その結果を表1に示す。
【0069】
【符号の説明】
【0070】
S 基材
10A 塗膜
10B 絶縁膜
10C ポリイミド膜パターン
11 露光部分
12 未露光部分