(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】測定システムおよび測定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20240523BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240523BHJP
G01J 1/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
G01M11/00 T
H01L21/66 B
G01J1/00 C
(21)【出願番号】P 2020131884
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000153018
【氏名又は名称】株式会社日本マイクロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】奥田 通孝
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】成田 寿男
(72)【発明者】
【氏名】原子 翔
(72)【発明者】
【氏名】福士 樹希也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友和
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 敏永
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-017106(JP,A)
【文献】特開平09-068477(JP,A)
【文献】特開2020-047889(JP,A)
【文献】特開2014-134497(JP,A)
【文献】特開2015-001434(JP,A)
【文献】特開昭58-067088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0181316(US,A1)
【文献】米国特許第06248604(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/08
H01L 21/66
G01J 1/00 - G01J 1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光半導体素子から出力される出射光を
コア部および前記コア部の外周に配置されたクラッド部により構成された光プローブの入射端面で受光する測定方法であって、
前記光半導体素子と前記入射端面との間隔を所定の作動距離に設定し、
前記出射光の光軸と交差する平面に沿って前記光半導体素子と前記光プローブの相対的な位置を変化させて、複数の位置で前記出射光の入射強度をそれぞれ測定し、
前記相対的な位置の変化と前記入射強度との関係を示す入射強度パターンを取得
し、
前記入射強度のピーク値の変動が所定の範囲内に収まる平坦部が前記入射強度パターンに含まれるように前記作動距離を設定する
ことを特徴とする測定方法。
【請求項2】
前記平坦部に含まれる複数の前記入射強度の平均値を算出することを特徴とする請求項
1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記出射光の光軸の近傍の位置における前記入射強度について前記平均値を算出することを特徴とする請求項
2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記入射強度パターンから、前記出射光の放射角を算出することを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
前記入射強度パターンから、前記入射端面における前記出射光の入射範囲と、前記光プローブの
前記コア部のみ伝搬する前記出射光の有効入射範囲とを算出することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記入射端面が曲面の前記光プローブを用いて前記入射強度を測定することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
前記相対的な位置を変化させる移動方向の辺の長さがa、前記移動方向と交差する方向の長さがbである発光部を有する前記光半導体素子について、
前記光プローブの
前記コア部のみ伝搬する前記出射光の有効入射範囲をSe、前記作動距離をWD、前記入射強度パターンにおいて前記入射強度が0より大きい移動距離をDmとして、
前記出射光の放射角γを、
γ=2×tan
-1[{Dm-(a+2Se)}/2WD]
の式を用いて算出することを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項8】
前記入射強度パターンにおける前記入射強度のピーク値の平均強度をPaとして、
前記出射光の入射エネルギー密度Ed、前記入射端面での前記出射光の入射範囲の面積Swを、
Ed=Pa/(π×Se)
2
Sw=(a+2WD×tan(γ/2))×(b+2WD×tan(γ/2))
の式を用いて算出することを特徴とする請求項
7に記載の測定方法。
【請求項9】
受光器により直接測定した前記出射光の入射強度真値を用いて前記入射強度を補正することを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項10】
光半導体素子から出力される出射光を測定する測定システムであって、
前記出射光を
曲面である入射端面で受光する光プローブと、
前記光プローブを保持する光プローブヘッドと、
前記光プローブヘッドおよび前記光半導体素子の少なくともいずれかを移動させる駆動装置と
を備え、
前記駆動装置は、前記出射光の光軸と交差する平面に沿って前記光半導体素子と前記光プローブの相対的な位置を変化させ、
複数の位置で前記出射光の入射強度をそれぞれ測定し、前記相対的な位置の変化と前記入射強度との関係を示す入射強度パターンを取得する
ことを特徴とする測定システム。
【請求項11】
前記光半導体素子に電気信号を送信する電気プローブを更に備え、
前記電気プローブにより前記光半導体素子を通電しながら、前記相対的な位置を変化させる
ことを特徴とする請求項
10に記載の測定システム。
【請求項12】
前記光プローブが、コア部および前記コア部の外周に配置されたクラッド部により構成され、
前記光プローブは、
作動距離WD、前記入射端面の曲率半径R、前記出射光の放射角γ、前記クラッド部に透過せずに前記コア部を伝搬する前記出射光の前記入射端面における有効入射半径Se、前記入射端面における前記出射光の入射範囲半径Sr、前記出射光が入射した位置における前記コア部の屈折率nr、前記入射端面が平面である場合の開口数NA0、前記コア部の前記出射光の屈折角β、前記出射光が入射した位置における中心半角ωが、
Se=R×sin(ω)
Sr=WD×tan(γ/2)
ω=±sin
-1(B
2/(A
2+B
2))
1/2
β=sin
-1(NA0/nr))
ただし、
A=nr×cos(β)-cos(γ/2)
B=nr×sin(β)-sin(γ/2)
の関係を満たすことを特徴とする請求項
10又は11に記載の測定システム。
【請求項13】
前記出射光を直接受光し、前記出射光を電気信号に光電変換する光電変換素子を更に備えることを特徴とする請求項
10乃至
12のいずれか1項に記載の測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子の特性測定に使用される測定システムおよび測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェハに形成した状態で光半導体素子の特性を測定するために、光半導体素子が出力する出射光を伝搬する光プローブを有する測定システムを用いて、光半導体素子とテスタなどの測定装置を接続する。光半導体素子の正確な特性を取得するためには、精度の高い測定が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光半導体素子の特性を高い精度で測定するには、測定システムによって正確な測定値を安定して取得することが必要である。本発明は、光半導体素子の正確な測定値を安定して短時間で測定できる測定システムおよび測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、光半導体素子からの出射光の光軸と交差する平面に沿って光半導体素子と光プローブの相対的な位置を変化させる測定方法が提供される。複数の位置で出射光の入射強度をそれぞれ測定し、相対的な位置の変化と入射強度との関係を示す入射強度パターンを取得する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光半導体素子の測定精度を向上させることが可能な測定システムおよび測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る測定システムに使用する光プローブの構成を示す模式図である。
【
図2】光半導体素子からの出射光の入射範囲と有効入射範囲の位置を示す模式図である。
【
図3A】光プローブの入射端面の曲率半径と作動距離の関係を示すグラフである。
【
図3B】光プローブの入射端面の曲率半径と有効作動距離の関係を示すグラフである。
【
図4】入射強度パターンの取得方法を説明するための模式図およびグラフである。
【
図5】入射端面が平面の光プローブについて移動距離と入射強度の関係を示すグラフである。
【
図6】入射端面が曲面の光プローブについて移動距離と入射強度の関係を示すグラフである。
【
図8】VCSELの入射強度パターンの取得方法を説明するための模式図およびグラフである。
【
図9】本発明の実施形態に係る測定システムの構成を示す模式図である。
【
図10】本発明の実施形態に測定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図11】本発明の実施形態の変形例に係る測定システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
本発明の実施形態に係る測定システムは、光半導体素子から出力される出射光を入射端面で受光する光プローブと、光プローブを保持する光プローブヘッドと、光プローブヘッドおよび光半導体素子の少なくともいずれか移動させる駆動装置を備える。駆動装置は、出射光の光軸と交差する平面に沿って光半導体素子と光プローブの相対的な位置を変化させる。実施形態に係る測定システムでは、複数の位置で出射光の入射強度をそれぞれ測定し、相対的な位置の変化と入射強度との関係を示す入射強度パターンを取得する。
【0010】
まず、本発明の実施形態に係る測定システムに使用する光プローブ10について、
図1を参照して説明する。光プローブ10は、光半導体素子20から出力される出射光Lを受光する。光プローブ10は、コア部11およびコア部11の外周に配置されたクラッド部12により構成される屈折率分布型の光導波路を有する。コア部11の屈折率は、クラッド部12の屈折率よりも大きい。
図1は、出射光Lが入射する入射端面100を含む光プローブ10の一方の端部を示す。入射端面100は、一定の曲率半径Rの凸球面である。
【0011】
図1では、光プローブ10のコア部11の中心軸C10および出射光Lの光軸C20と平行な方向をZ軸方向としている。また、Z軸方向に垂直な平面をXY平面として、
図1の紙面の左右方向をX軸方向、紙面に垂直な方向をY軸方向としている。
【0012】
図1において、コア半径Crはコア部11の半径である。また、プローブ半径Drはクラッド部12を含めた光プローブ10の半径である。光プローブ10には、光ファイバや、光ファイバとレンズを組み合わせた構成などを採用可能である。例えば、グレーデッドインデックス型(GI型)光ファイバを利用して光プローブ10を製造できる。
【0013】
光半導体素子20は、例えば垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)などである。光半導体素子20の出射光Lを出力する光信号端子(図示略)と光プローブ10の入射端面100は光学的に接続し、光半導体素子20から出力した出射光Lが光プローブ10の入射端面100に入射する。
【0014】
光プローブ10と光半導体素子20は、Z軸方向に沿って作動距離WDrだけ離間して配置されている。作動距離WDrは、光半導体素子20から出力した出射光Lを光プローブ10が受光できる範囲に設定する。出射光Lの入射範囲は、例えば、出射光Lがピーク値の1/e2以上の強度で進行する方向の範囲としてもよい。
【0015】
図1に示すように、光半導体素子20は、放射角γの出射光Lを出力する。光プローブ10の入射端面100における出射光Lの入射範囲の半径(以下、「入射範囲半径Sr」という。)は、以下の式(1)で表される:
Sr=WDr×tan(γ/2) ・・・(1)
図1で、出射光Lの入射端面100での入射範囲を、直径が2Srの範囲として示している。
【0016】
出射光Lがコア部11とクラッド部12の境界(以下において「コア境界」とも称する。)を透過せずにコア部11を伝搬する場合の、入射端面100における入射領域の範囲を、「有効入射範囲」と称する。有効入射範囲の外縁の中心軸C10からの距離を「有効入射半径Se」とする。
図1で、光プローブ10の有効入射範囲を、直径が2Seの範囲として示している。
図1では、入射範囲半径Srと有効入射半径Seが重なっている場合を例示的に示している。
【0017】
入射端面100が平坦の場合、Se=Cd/2である。一方、入射端面100が曲率半径Rの曲面の場合、有効入射範囲は、入射端面100の曲率半径Rに依存する。また、出射光Lの入射範囲半径Srは作動距離WDrに依存する。
【0018】
有効入射領域に入射した出射光Lは、コア境界を超えずに、光プローブ10のコア部11の内部を伝搬する。一方、出射光Lの入射範囲の全体が有効入射領域の内側に入らない場合、出射光Lの少なくとも一部が、コア境界からクラッド部12に進行する。つまり、出射光Lの伝搬損失が発生する。
【0019】
入射範囲半径Srが有効入射半径Seに重なる有効作動距離WDmにおける放射角2αと、入射端面100の開口数NAは、α=sin-1(NA)の関係である。作動距離WDrが有効作動距離WDmよりも長い場合、放射角2αと放射角γはγ<2αの関係である。
【0020】
有効作動距離WDmのときに、光軸C20とのなす角(以下、「入射角」という。)がαの出射光Lについて、入射端面100で以下の関係式が成立する:
Se=R×sin(ω)
sin(α+ω)=nr×sin(β+ω)
A=nr×cos(β)-cos(α)
B=nr×sin(β)-sin(α)
A×sin(ω)+B×cos(ω)=0
(A2+B2)×sin2(ω)=B2
sin2(ω)=B2/(A2+B2)
ω=±sin-1(B2/(A2+B2))1/2
上記の関係式で、ωは、出射光Lの入射端面100の外縁での中心半角である。βはコア部11内での出射光Lの屈折角であり、コア部11を伝搬した出射光Lはコア境界にπ/2-βの角度で入射する。nrは、出射光Lが入射した位置におけるコア部11の屈折率である。
【0021】
中心軸C10から±Seの範囲である有効入射領域に入射する出射光Lについて、屈折角βは以下の式(2)で定義される:
β=sin-1(sin(α0)/nr) ・・・(2)
式(2)で、α0は、光プローブ10に使用する光ファイバの端面が平面である場合の開口数をNA0として、α0=sin-1(NA0)で表される。屈折率nrと中心軸C10でのコア部11の屈折率ncとは、以下の式(3)の関係である:
nr=nc×(1-(C1/2×r)2/2) ・・・(3)
式(3)で、C1/2はコア部11の屈折率分布定数であり、rは中心軸C10から出射光Lが入射する位置までの半径方向の距離である。
【0022】
入射角αが大きいほど、屈折角βも大きい。屈折角βが一定の臨界角を超えると、出射光Lの少なくとも一部はコア部11を反射伝搬せずにクラッド部12に漏れ進行する。その場合、出射光Lの大部分はクラッド外周部で放射減衰する。曲率半径Rの入射端面100の開口数NAは、屈折角βが臨界角のときの入射角αと、NA=sin(α)の関係である。
【0023】
次に、光プローブ10を用いた出射光Lの測定方法について説明する。
【0024】
XY平面において光プローブ10に対して光半導体素子20が相対的に移動すると、相対的な位置の変化(以下において、「移動距離」とも称する。)に依存する入射強度のパターンが得られる。つまり、XY平面に沿って光半導体素子20と光プローブ10の相対的な位置を変化させて、出射光Lの入射強度Pを異なる位置で複数回測定する。これにより、相対的な位置の変化と入射強度Pとの関係を示す入射強度パターンを取得できる。
【0025】
例えば、光プローブ10に対して光半導体素子20を移動させる。しかし、光半導体素子20に対して光プローブ10を移動させる場合も、同様の入射強度パターンを取得できる。
【0026】
光半導体素子20をX軸方向またはY軸方向に移動させた場合に、出射光Lの少なくとも一部が光プローブ10に入射する入射範囲Dxyは、
図2に示す2×(Se+Sr)である。更に、入射範囲Dxyが2×(Se-Sr)では、出射光Lのすべてが光プローブ10に入射する。出射光Lのすべてが光プローブ10に入射する場合に、出射光Lの入射強度パターンについてピーク値が安定した強度特性が得られる。一方、入射範囲Dxyが2×(Se-Sr)を超える領域では、光プローブ10に入射した後に出射光Lが減衰する。
【0027】
図3Aおよび
図3Bは、入射端面100の曲率半径Rと有効作動距離WDmの関係、および曲率半径Rと作動距離WDrの関係を示すグラフである。
図3Aは、コア半径Cr=44.5μm、NA0=0.29の光ファイバを光プローブ10に使用した場合と、コア半径Cr=31.25μm、NA0=0.275の光ファイバを光プローブ10に使用した場合の、曲率半径Rと作動距離WDの関係を示す。
【0028】
図3Bは、コア径Cd=200、600、1000μmの大口径光ファイバを光プローブ10にそれぞれ用いた場合の、曲率半径Rと有効作動距離WDmの関係を示すグラフである。光ファイバの開口数NA0は0.25である。
【0029】
有効作動距離WDmは、以下の式(4)で示される:
WDm=Se/tan(α) ・・・(4)
光半導体素子20の出射光Lの放射角γが、α≧γ/2の関係を満たす場合に、入射範囲半径Srと有効入射半径Seの関係は、Se≧Srである。この場合の作動距離WDrは、R≦Cdの条件では、以下の式(5)で示される:
WDr=Se/tan(γ/2) ・・・(5)
一方、R>Cdの条件では、作動距離WDrは、以下の式(6)で示される:
WDr=Sr/tan(γ/2) ・・・(6)
したがって、作動距離WDについてWDr>WDmの関係である。
【0030】
作動距離WDを有効作動距離WDmよりも長く、作動距離WDr近傍に設定することで、作動距離WDが有効作動距離WDmの場合よりも、光半導体素子20の出射光Lの入射端面100における入射範囲が広がる。このため、出射光Lの入射強度パターンの変動の影響、光プローブ10での反射戻り光による影響、光プローブ10の入射端面100の形状の歪の影響などの、入射強度パターンの変動の影響が緩和される。その結果、以下に説明するように、出射光Lの入射強度が安定し、かつ入射強度パターンのピーク値が平坦化する。
【0031】
図4に、光プローブ10と光半導体素子20の相対位置をX軸方向に変化させた場合の、出射光Lの入射強度パターンの変化を示す。
【0032】
図4の上段の図は、光プローブ10の入射端面100の周辺近傍の模式図である。
図4の中段の図は、出射光Lの入射範囲(2Sr)、有効入射範囲(2Se)および光プローブ10のコア部11の直径(2Cr)の位置を示す、Z軸方向からみた平面図である。
図4の下段の図は、入射強度パターンを示すグラフである。
【0033】
図4に示した入射強度パターンは、X軸方向に沿って光半導体素子20が移動した場合の、X軸方向の移動距離Dxと入射強度Pの関係を示す。
図4に示したように、光半導体素子20の移動距離Dxに対する光プローブ10の入射強度パターンの形状は、入射強度Pのピーク値が平坦な部分を有する台形形状である。入射強度パターンにおける入射強度Pがピーク値である移動距離Dx(以下、「第1移動距離Dxp」という。)は、式(7)で示される:
Dxp=2×(Se-Sr) ・・・(7)
また、入射強度パターンにおける入射強度Pが0より大きい移動距離Dx(以下、「第2移動距離Dx0」という。)は、式(8)で示される:
Dx0=2×(Se+Sr) ・・・(8)
したがって、第1移動距離Dxpおよび第2移動距離Dx0を測定すれば、以下の式(9)および式(10)を用いて有効入射半径Seと入射範囲半径Srを算出できる:
Se=(Dxp+Dx0)/4 ・・・(9)
Sr=(Dx0-Dxp)/4 ・・・(10)
なお、入射強度Pとして、入射強度パターンの±(Se-Sr)の範囲での入射強度Pの平均値を使用することが好ましい。入射強度Pの平均値を使用することにより、測定値の微小な強度変動をキャンセルし、入射強度Pを安定した測定値として使用できる。以下において、入射強度パターンの所定の範囲における入射強度Pの平均値を「平均強度Pa」と称する。
【0034】
また、測定時の作動距離WDを用いて、放射角γは式(11)を用いて算出される。
【0035】
γ=2×tan-1(Sr/WD) ・・・(11)
実際に測定される入射強度パターンの形状は、台形形状に対し、ずれたパターン形状になる。しかし、実測値を元に近似直線を設定することで、第1移動距離Dxpおよび第2移動距離Dx0を設定することができる。
【0036】
光プローブ10を介さずに、例えば光パワーメータなどの受光器を用いて光半導体素子20の出射光Lを直接測定した入射強度を入射強度真値P0とすると、光プローブ10を介して測定した入射強度Pと入射強度真値P0の関係は、P0=K×Pで表される。ここで、Kは補正係数である。入射強度Pは、光プローブ10を介した測定のため、その端面反射による損失、コア内導波時の放射伝搬損失などの各種損失が含まれる。このため、補正係数Kを用いることにより、光プローブ10を用いた測定によって得られた入射強度Pを入射強度真値P0に補正できる。
【0037】
補正係数Kは、入射端面100での出射光Lの端面反射、光プローブ10における伝搬時の出射光Lの放射損失や伝搬損失、光回路構成などにより設定される各損失の総計から、光プローブ10に設定される固有の係数である。したがって、光プローブ10を使用して出射光Lを測定する場合は、事前に補正係数Kを設定しておいてもよい。補正係数Kの設定は、例えば以下のように行う。まず、光半導体素子20の電流-出力特性S1を光パワーメータで正確に測定する。次に、光パワーメータでの測定と同じ測定条件で、光半導体素子20の電流-出力特性S2を、光プローブ10を使用する光回路系を用いて測定する。同じ印加電流条件における電流-出力特性S1の入射強度P1と電流-出力特性S2の入射強度P2から、光プローブ10の補正係数Kは、K=P1 /P2として求まる。
【0038】
図5は、コア径Cd=89μm、開口数NA0=0.29であり入射端面が平面の光ファイバを光プローブ10に使用した場合の、光プローブ10と光半導体素子20のX軸方向若しくはY軸方向の移動距離Dと入射強度Pの関係を示す。光半導体素子20として放射角γ=21.5°のVCSELを使用した。作動距離WDが20、50、100、150、200μmのそれぞれの場合について、X軸方向又はY軸方向に光半導体素子20を移動して入射強度Pを測定した。
【0039】
作動距離WD<50μmでは、入射強度Pが900μW程度のピーク値が平坦な部分を有するが、入射強度Pのピーク値で、反射戻り光による影響で微小変動がみられる。作動距離WD=150μmでは、入射強度Pに平坦部が少なくなるが、入射強度の微小変動は見られない。これは、VCSELによる照射径(=2×Sr)と入射径(=2×Se)がほぼ等しくなったことによる。この場合、入射径はコア径に等しく、2×Se=Cdである。作動距離WDが150μm以上では、作動距離WDが長くなるにつれて入射強度Pのピーク値は減少する。
【0040】
図5において、作動距離WD=20~100μmの範囲において、入射強度Pのピーク値は平坦である。しかし、作動距離WD=20~50μmの範囲では、VCSELと光プローブ10の入射端面100との距離が短いため、出射光Lの入射端面100からの反射戻り光による共振により、入射強度Pの微小な変動がみられる。作動距離WD=100μmでは、入射強度Pのピーク値の範囲はほぼ平坦である。作動距離WDが長いほど、反射戻り光やVCSELの強度分布による入射強度Pへの影響が緩和され、入射強度Pのピーク値の微小な変動は見られなくなる。
【0041】
作動距離WD=150μmの場合、Se-Sr=10μm、Se+Sr=65μmから、Sr=27.5μmである。これより、VCSELの放射角γは、γ=2tan-1(27.5/150)=20.8°である。
【0042】
図6は、コア径Cd=89μm、開口数NA0=0.29の光ファイバを使用した、入射端面100の曲率半径R=70μmの光プローブ10の入射強度パターンの測定例である。
図6では、作動距離WDを50μm~200μmの範囲で変化させた場合の入射強度パターンを示した。
【0043】
図6に示すように、入射端面100が曲面の光プローブ10では、入射強度Pのピーク値での微小変動が少ない。作動距離WDが長くなるほど入射強度Pがピーク値を示す移動距離Dは短い。しかし、入射端面100のレンズ効果により出射光Lが絞られるため、作動距離WDに依存する入射強度Pのピーク値の変動はほとんどない。つまり、
図5と比較して、作動距離WDが大きい場合にも、入射端面100が曲面の光プローブ10では、光軸近傍の入射強度Pの値が減衰せず、ピーク値の平坦な領域が広い。
【0044】
作動距離WD=20~100μmの場合、入射強度パターンがVCSELの強度分布(ニアフィールドパターン)の影響を受けて、光軸の位置近傍を中心とする入射強度Pのピーク値の範囲が僅かに窪む。しかし、作動距離WD≧150μmの場合、放射光の球面波広がりによる平均化により、入射強度Pのピーク値の範囲はほぼ平坦である。また、入射端面100が曲面であるため、コア半径Crと有効入射半径Seは、Cr≧Seの関係である。作動距離WD=150μmの場合、Se-Sr=18μm、Se+Sr=38μm、Sr=28μmのとき、放射角γは、γ=2×tan-1(28/150)=21.2 °である。
【0045】
以上のように、光プローブ10の入射強度パターンから、設定した作動距離WDでの放射角γを容易に測定することができる。
【0046】
図7Aおよび
図7Bに、光半導体素子20が多数の発光部21で発光する大出力のVCSELである例を示す。
図7Aおよび
図7Bに示した光半導体素子20は、例えば、照明用やセンサー用の大出力のVCSELである。
図7Bに示すように、光半導体素子20はウェハ200に形成されている。
【0047】
光半導体素子20は、大口径の発光部21を複数有する。発光部21のそれぞれは、多数の発光体22を有する。
図7Aに示すように、発光部21は、隣接する辺の長さがそれぞれaとbの矩形状であり、面積は「a×b」である。つまり、光プローブ10と光半導体素子20の相対的な位置を変化させる移動方向(X軸方向)の辺の長さがaであり、移動方向と交差する方向(Y軸方向)の長さがbである。光半導体素子20のサイズは数mm程度であり、構成された多数の発光体22により、数Wの発光出力が得られる。光半導体素子20は、電気信号が入力する電気信号パッド23をそれぞれ表面に備える。なお、光半導体素子20のグランドは裏面である。
【0048】
ウェハ200に形成された複数の大出力、大口径のVCSELについても、光プローブ10や複数の光プローブ10を配列した光プローブアレイを用いて、入射強度Pや放射角γを測定できる。
図8を参照して、
図7Aおよび
図7Bに示した大出力のVCSELの入射強度パターンを、光プローブ10を用いて測定する方法を説明する。入射強度パターンは、例えば、所定の作動距離WDにおいて、光プローブ10とVCSELの相対的な位置をX軸方向に変化させることにより得られる。
【0049】
光プローブ10は、コア径Cd、有効入射半径Seの光ファイバを使用する。出射光Lを光プローブ10の入射端面100に入射させることにより、入射強度Pを測定する。
【0050】
一定の作動距離WDにおいて、光プローブ10をX軸方向に移動させる。このとき、入射強度Pが0より大きい領域の両端の位置における光プローブ10の中心軸C10の間隔は、
図8に示すように、a+2Se+2WD×tan(γ/2)である。また、コア部11の間隔は、a+2WD×tan(γ/2)である。
【0051】
ここで、出射光Lの入射強度について、光プローブ10をX軸方向に移動させることにより測定された複数個所の入射強度Pの平均値を平均強度Paとする。平均強度Paを用いて、入射エネルギー密度Edは、以下の式(12)で算出する:
Ed=Pa/(π×Se)2 ・・・(12)
入射端面100での入射範囲の面積Swは、以下の式(13)を用いて得られる:
Sw=(a+2WD×tan(γ/2))×(b+2WD×tan(γ/2)) ・・・(13)
光半導体素子20の入射強度真値P0は、式(14)で表される:
P0=K×Ed×Sw ・・・(14)
式(14)でKは補正係数である。例えば、光パワーメータにより直接測定した入射強度真値P0と光プローブ10を用いて測定した入射強度P1により、補正係数Kは式(15)のように設定される:
K=P0 /P1 (K>1) ・・・(15)
測定に使用するすべての光プローブ10の補正係数Kは、光半導体素子20の測定の前に設定してもよい。光プローブ10に使用する光ファイバは、測定対象の光半導体素子20のサイズに合わせて、例えばコア径Cd=100μm~1000μm程度の光ファイバから選択してもよい。また、光プローブ10のコア部11は、屈折率分布型とステップインデックス型のいずれでもよい。
【0052】
図8に示した入射強度パターンにおいて入射強度Pが0より大きい移動距離Dxの実測値を移動距離Dmとして、放射角γについて式(16)が得られる:
Dm=a+2Se+2WD×tan(γ/2) ・・・(16)
式(16)で、長さaは既知であるため、有効入射半径Seの値がわかると、設定した作動距離WDについて、放射角γは式(17)を用いて算出される:
γ=2×tan
-1[{Dm-(a+2Se)}/2WD] ・・・(17)
上記のように、光プローブ10又は光半導体素子20をX軸方向やY軸方向に移動させて入射強度パターンを取得することにより、入射強度Pを安定的に測定できる。すなわち、入射強度パターンの入射強度Pのピーク値の安定領域での値、又はその平均値を取得することにより、光半導体素子20の出射光Lの入射強度真値P0に近い入射強度Pを安定的に測定することができる。
【0053】
図9に、光プローブ10を用いた測定システム1の例を示す。
図9に示した測定システム1は、光プローブ10をアレイ状に配置した光プローブアレイを保持する光プローブヘッド41と、複数本の電気プローブ30を配列して構成した電気プローブアレイを保持する電気プローブヘッド43を備える。電気プローブ30として、例えば、カンチレバータイプ、垂直ニードルタイプ、垂直スプリングタイプなどが使用される。光プローブ10と電気プローブ30のそれぞれは、X軸方向に沿ってピッチPrで等間隔に配置されている。X軸方向と同様にY軸方向に沿っても、光プローブ10および電気プローブ30を等間隔に配置してもよい。
【0054】
測定システム1は、ウェハ200に形成された複数の光半導体素子20の特性測定に使用する。ウェハ200の主面には、光半導体素子20がX軸方向に沿ってピッチPdで等間隔に配置されている。ピッチPdはピッチPrと同等である。光半導体素子20の発光部の位置と、その発光部に対応する光プローブ10の中心軸の位置との位置ずれは、測定値の誤差軽減のために例えば5μm以下であることが好ましい。
【0055】
光半導体素子20を形成したウェハ200は、ステージ50上の所定の基準位置に合わせて搭載する。ウェハ200は、吸着装置(図示略)によりステージ50に固定してもよい。ステージ50でのウェハ200の固定には、例えば真空吸着などの手段を用いてもよいし、他の手段を用いてもよい。
【0056】
例えば、一つの光半導体素子20について光プローブ10と電気プローブ30が対で配置される。このように、一つの光半導体素子20について、光プローブ10と電気プローブ30を含む一つのプローブユニットを構成する。プローブユニットは、ウェハ200に形成された光半導体素子20の配置に対応して配置する。なお、
図9では、一つの測定ユニットを構成する光プローブ10と電気プローブ30の本数が1本ずつである場合を例示的に示した。しかし、測定ユニットに含まれる光プローブ10と電気プローブ30の本数は、光半導体素子20の構成や測定内容に応じて任意に設定する。例えば、通電用の電気プローブ30とグランド用の電気プローブ30をペアにして電気プローブアレイを構成してもよい。すなわち、1本の光プローブ10に対応させて、通電用の電気プローブ30とグランド用の電気プローブ30の2本の電気プローブ30を配置してもよい。
【0057】
光プローブヘッド41は、光プローブ駆動装置42の制御によって移動する。例えば、光プローブ駆動装置42の制御により、光プローブ10の入射端面100と光半導体素子20との作動距離WDの微調整が可能である。また、電気プローブヘッド43は、電気プローブ駆動装置44の制御によって移動する。例えば、電気プローブ駆動装置44の制御により、電気プローブ30の先端と光半導体素子20とのZ軸方向に沿った距離の微調整が可能である。
【0058】
光プローブヘッド41および電気プローブヘッド43と光半導体素子20とのX軸方向およびY軸方向の位置合わせは、ステージ駆動装置51によってステージ50を移動させて行ってもよい。更に、ステージ駆動装置51によってZ軸方向を中心としてステージ50を回転させることにより、Z軸方向を中心とする回転方向(以下、「Z軸回転方向」という。)について、光半導体素子20に対して光プローブ10と電気プローブ30の位置を調整してもよい。
【0059】
なお、ステージ50の位置を固定し、光プローブヘッド41および電気プローブヘッド43をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各方向に移動させてもよい。すなわち、光プローブ駆動装置42および電気プローブ駆動装置44によって、光プローブ10および電気プローブ30の光半導体素子20に対する相対的な位置を調整してもよい。
【0060】
上記のように、
図9に示した測定システム1によれば、光プローブ10および電気プローブ30と光半導体素子20の位置合わせが可能である。なお、光プローブヘッド41の位置と電気プローブヘッド43の位置を独立して制御できるように、測定システム1を構成してもよい。他に、光プローブヘッド41および電気プローブヘッド43の位置を固定し、ステージ50をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向、Z軸回転方向に動かして、光プローブ10および電気プローブ30と光半導体素子20の相対的な位置を制御する方法も可能である。このように、光プローブ10および電気プローブ30と光半導体素子20の位置合わせに、様々な調整方法を使用することができる。
【0061】
測定システム1を電気信号と光信号が伝搬し、光半導体素子20の測定が行われる。例えば、図示を省略したテスタから出力された電気信号が、電気プローブヘッド43に配置された接続端子(図示略)を介して、電気プローブ30に送信される。これにより、光半導体素子20を通電する。光半導体素子20がVCSELである場合は、電気プローブ30によってVCSELの上面に配置された電気信号パッドに電気信号を印加することにより、通電したVCSELが出射光Lを出力する。出射光Lは、光プローブ10が受光する。
【0062】
光半導体素子20の通電の仕方は任意に設定できる。例えば、光半導体素子20を1個おきに順番に通電してもよいし、複数の光半導体素子20を同時に通電してもよい。また、隣接する光半導体素子20のクロストークを避けるために、例えば1個乃至数個分の間隔を空けて、順番又は同時に光半導体素子20を通電してもよい。
【0063】
光プローブ10は、光電変換モジュール45および電気接続端子46を有する光電変換部47に接続する。光半導体素子20が出力した出射光Lは、光プローブ10と光学的に接続する光電変換モジュール45に伝搬する。光電変換モジュール45は、出射光Lを電気信号に変換し、変換した電気信号を電気接続端子46に出力する。電気接続端子46は図示を省略するテスタと電気的に接続しており、出射光Lから光電変換された電気信号が電気接続端子46からテスタに送信され、計測した電流値を光出力値に変換する。
【0064】
光電変換モジュール45には、出射光Lをフォトディテクタなどにより、その光信号を出力に応じほぼ直線的に電気信号に変換するタイプや、回折格子型デバイスにより出射光Lを分光し、その回折角方向により、出射光Lの波長変動特性を検出するタイプが使用できる。測定用途により、光電変換モジュール45のタイプを使い分けることができる。また、光電変換モジュール45の手前から出射光Lを分岐して、複数の種類の測定を同時に行うこともできる。光電変換部47を用いて光プローブ10の出力を光プローブヘッド41の近傍で光電変換することにより、測定システム1の簡素化、測定時間の高速化、測定値の繰り返し再現性の向上が実現できる。このように、光プローブ10および光プローブ10を保持する光プローブヘッド41を備えるプローブカードを用いて、光半導体素子20の効率的な測定が可能である。
【0065】
光半導体素子20の測定時には、光プローブ10の入射端面100と光半導体素子20の作動距離WDを、上記の作動距離WDr近傍もしくは作動距離WDr以上とする。これにより、光プローブアレイを構成する光プローブ10のそれぞれについて、出射光Lの入射強度Pのピーク値が安定し、移動距離に対してピーク値が平坦化する。
【0066】
測定システム1は、作動距離WDを一定に保って、X軸方向、Y軸方向、若しくはX軸方向とY軸方向の両方向に光プローブ10を移動して、光電変換部47を介して出射光Lの入射強度パターンを取得する。測定システム1が取得するデータは、光半導体素子20それぞれのX軸方向の入射強度パターン、Y軸方向の入射強度パターン、若しくはX軸方向とY軸方向の両方向の入射強度パターンである。入射強度パターンの取得のために、例えばX軸方向又はY軸方向に沿って光プローブ10を-50~+50μmの範囲で移動させ、5μmピッチで入射強度Pを取得し、複数個所の入射強度Pをデータ化する。測定ピッチの間隔は、測定する光半導体素子20のサイズ、出射光Lの放射角γ、測定時間などに応じて設定してもよい。
【0067】
このように、測定システム1により、
図4や
図8に示したような光半導体素子20の入射強度パターンを、ウェハ200に形成した光半導体素子20のそれぞれについて取得する。そして、入射強度パターンにより、光半導体素子20ごとに入射強度Pと放射角γを算出する。入射強度パターンのピーク値が安定して平坦な領域における平均強度Paを用いることにより、正確な入射強度Pと放射角γを算出できる。
【0068】
すなわち、測定システム1は、入射強度パターンを取得することにより、光軸C20の位置の1箇所の測定での入射強度Pではなく、ピーク値の入射強度Pの平均値として平均強度Paを取得する。平均強度Paは、光軸C20の近傍位置での複数個所、例えば3箇所での入射強度Pの平均値とする。平均強度Paを使用することにより、測定時での光半導体素子20の入射強度の変動、光プローブ10の入射端面100の形状の歪などに起因する入射強度パターンの微小変動が抑制できる。このため、入射強度Pの安定した測定が可能である。
【0069】
以下に、10のフローチャートを参照して、測定システム1を用いた測定方法の例を説明する。光プローブアレイや電気プローブアレイを有する測定システム1によれば、複数の光半導体素子20を同時又は短時間で測定することができる。
【0070】
ステップS10において、複数の光半導体素子20を形成したウェハ200を、測定システム1のステージ50上の所定の位置に搭載、密着固定する。
【0071】
ステップS20において、電気プローブ30のそれぞれを、光半導体素子20の電気信号パッド上に接触させる。このとき、光プローブ10の中心軸C10の位置を、光半導体素子20の発光部の位置と平面視でほぼ一致させる。
【0072】
次に、ステップS30において、光半導体素子20と入射端面100とのZ軸方向に沿った間隔を、所定の作動距離に設定する。具体的には、入射強度パターンにおいて出射光Lの入射強度Pのピーク値の変動が所定の範囲内に収まる平坦部が含まれるように、作動距離を設定する。例えば、光プローブ10と光半導体素子20の間隔が作動距離WDr近傍となるように、光プローブ10のZ軸方向の位置を調整する。
【0073】
その後、ステップS40において、電気プローブ30に所定の電流を流して光半導体素子20に通電し、光半導体素子20を発光させる。このとき、発光している光半導体素子20間の迷光、クロストークによる影響を避けるため、1個おきに光半導体素子20を通電し発光するよう、通電する光半導体素子20の間隔をあけてもよい。また、電気プローブ30に所定の電流を通電した際、その入射強度が最大になるよう、光半導体素子20と光プローブ10の中心軸C10の位置を再調整してもよい。
【0074】
そして、ステップS50において、Z軸方向に沿った作動距離を一定に保ちながら、XY平面に沿って、光半導体素子20と光プローブ10の相対的な位置を変化させる。このとき、異なる位置で出射光Lの入射強度をそれぞれ測定する。例えば、X軸方向に沿って数十μm程度の範囲で光プローブアレイを移動させながら、その範囲の複数の位置で入射強度Pを測定し、入射強度パターンを取得する。Y軸方向についてもX軸方向と同様に光プローブアレイを移動させ、複数の位置での入射強度Pを測定し、入射強度パターンを取得してもよい。その後、電気プローブ30による光半導体素子20の通電を停止する。
【0075】
次に、ステップS60において、入射強度パターンから平均強度Paを算出する。このとき、入射強度パターンにおける出射光Lのピーク値が平坦である範囲に含まれる入射強度Pについて平均値を算出する。例えば、光軸C20の近傍の複数の位置で取得した入射強度Pの平均値を平均強度Paとして算出し、この平均強度Paを出射光Lの入射強度とする。また、入射強度パターンの形状を用いて、光プローブ10や光半導体素子20のパラメータを算出する。例えば、電流に対する光半導体素子20の出力特性、スロープ効率、スレッシュホールド電流値などである。また、光プローブ10の有効入射範囲や出射光Lの入射範囲を算出する。すなわち、入射強度パターンの形状から、近似的に台形形状とみなせるため、入射強度パターンの形状の4か所の位置から式(9)および式(10)を用いて有効入射半径Seや入射範囲半径Srを算出する。更に、式(11)を用いるなどして放射角γを算出する。
【0076】
その後、ステップS70において、すべての光半導体素子20について測定したか否かを判定する。測定していない光半導体素子20があれば、ステップS20に戻る。そして、通電してない残りの光半導体素子20について発光させ、上記と同様に入射強度パターンを取得する。すべての光半導体素子20を測定していれば、処理を終了する。
【0077】
以上の測定により、ウェハ200に形成したすべての光半導体素子20について、入射強度パターンを取得できる。入射端面100が曲面である光プローブ10を用いることにより、出射光Lについて入射強度Pのピーク値が安定して平坦な入射強度パターンを取得できる。
【0078】
なお、補正係数Kを用いて、測定システム1により取得された入射強度Pを補正してもよい。これにより、光パワーメータなどの受光器による測定と同様な、信頼性の高い測定真値が得られる。
【0079】
測定システム1によれば、光半導体素子20の出射光Lの出射強度特性、放射角γを算出できる。また、入射強度パターンの形状から、光プローブ10の中心軸C10と光半導体素子20の光軸C20とのずれが大きい場合などに、光プローブ10と光半導体素子20の位置補正も可能である。そして、位置補正した光プローブ10と光半導体素子20の正確な位置関係で、光半導体素子20を測定できる。例えば、光半導体素子20の電流強度(IP)特性を取得する。また、光プローブ10と光半導体素子20の位置関係を補正した後、ステージ50の温度を制御することにより、ウェハ200に搭載した光半導体素子20の各種温度特性データを取得できる。
【0080】
なお、光半導体素子20の通電の仕方は、様々な方法から任意で選択してよい。例えば、光半導体素子20を1ずつ順番に通電してもよいし、複数の光半導体素子20を一括でまとめて通電してもよい。
【0081】
また、X軸方向とY軸方向の両方向に光プローブ10を移動させて入射強度パターンを取得してもよいし、X軸方向又はY軸方向のいずれか一方向のみに光プローブ10を移動させて入射強度パターンを取得してもよい。
【0082】
上記のように、測定システム1は、光半導体素子20を通電しながら、光プローブ10と光半導体素子20の相対的な位置を変化させて、入射強度Pを測定する。このため、光プローブヘッド41の位置と電気プローブヘッド43の位置を独立して制御できるように、測定システム1を構成してもよい。
【0083】
ところで、入射強度パターンを使用しない測定の場合には、光半導体素子20と光プローブ10との間の数μmの位置偏差により、又は、光半導体素子20の入射強度パターンの変動特性、光プローブ10の入射端面100の歪や変形により、測定精度が低下する。つまり、測定位置が適正であったとしても入射強度Pについて0.1~0.3dB程度の変動が生じ、この変動が光半導体素子20の測定精度に直接影響を及ぼす。また、そうした変動の少ない光プローブ10を製作するためには、光プローブ10入射端の研磨プロセス、球状加工プロセス、放電プロセスなどによる光ファイバの微細な端部の精密加工と検査が必要である。それにより、光ファイバの精密加工を検査するための形状歪測定、トレランス測定による確認が必要であり、その測定評価に手間がかかる。また、光半導体素子20のニアフィールドに強度分布がある場合、光軸から数μmずれると入射強度Pに減衰変動が生じる。したがって、光半導体素子20の入射強度Pの真値を求める際に、事前に光プローブ10の損失特性について把握する必要がある。
【0084】
これに対し、測定システム1では、ウェハ200上の光半導体素子20の測定時の出力変動要因を削減し、出射光Lの出力を安定化させられ、測定再現性が向上する。また、光プローブ10の入射端面100の製作を容易にして、測定システム1による測定値の安定性、精度が向上できる。
【0085】
入射端面100が曲面の光プローブ10は、例えば以下のように製作する。まず、光プローブ10の入射端面100を、所定の曲率半径Rに設定した曲面に加工する。曲率半径Rは、例えば数十μm~数mm程度である。次いで、入射端面100を局部的に1000~1500℃程度に加熱することにより、入射端面100を溶融し、凸型メニスカスにより滑らかな曲面に加工する。局部加熱方法として、高周波放電による加熱、CO2レーザーの照射による加熱などがある。その他、端面の局部精密研削、研磨などによる機械加工による方法でも同様に加工可能である。
【0086】
測定システム1による測定では、光半導体素子20と光プローブ10の入射端面100の間の作動距離WDを最適化することにより、入射強度パターンを安定化し、位置ずれによる入射強度の変動を低減する。また、光半導体素子20の入射強度の測定時に光プローブ10をXY平面において僅か±数十μm程度移動させながら、入射強度Pを測定する。そのようにして取得した入射強度パターンにおいて、入射強度Pのピーク値の平均をとることにより、測定値が安定する。その結果、入射強度Pの測定精度を向上、安定化させた。つまり、入射強度Pのピーク値の平均を算出することにより、光プローブ10と光半導体素子20の位置ずれに起因する入射強度Pの変動を低減し、測定値の安定性、再現性により信頼性が向上する。
【0087】
また、測定システム1を用いた測定では、大口径サイズの光半導体素子20に対して、所定の作動距離で光プローブ10をX軸方向やY軸方向に移動させながら入射強度パターンを取得する。そして、入射強度パターンから、光プローブ10に入射する出射光Lの入射エネルギー密度を算出する。併せて、入射強度パターンを用いて光半導体素子20の放射角γを測定算出する。
【0088】
更に、測定システム1は、ウェハ状態で光半導体素子20の入射強度を測定するために、電気プローブ30と光電変換部47を搭載する。これにより、測定システム1は、光プローブ10が測定する光半導体素子20の出力値を測定できる。
【0089】
以上に説明したように、実施形態に係る測定システム1によれば、光プローブ10の製作が容易であり、かつ、任意のサイズの光半導体素子20を安定して測定できる。また、測定システム1は、光プローブ10を用いたm×nの多芯の光プローブアレイ(m、n≧2)、および、光プローブ10と同数若しくは倍数の電気プローブ30を有する電気プローブアレイを用いた、多チャネル光/電気プローブカード測定系である。測定システム1によれば、複数の光半導体素子20の安定した入射強度Pと放射角γの測定を併せて行うことができる。これにより、ウェハ200上の複数の光半導体素子20の測定の簡素化と時間短縮化を実現する。また、光プローブ10の補正係数Kを取得して、入射強度真値P0と光プローブ10の測定による入射強度Pを比較でき、測定システム1を用いた測定結果を用いて、光半導体素子20の要求仕様に対する良否判定がウェハ状態において可能である。このため、測定システム1は光半導体素子20の歩留まり改善に寄与する。これらにより、光プローブ10の製作プロセスの簡素化が可能で、および測定値の精度の再現性、信頼性の向上した測定系が実現できる。
【0090】
(変形例)
図11に示した変形例に係る測定システム1aは、
図9に示した測定システム1に追加して、光プローブ10から一定の距離だけ離れた位置に光電変換素子60を配置した構成である。測定システム1aでは、光電変換素子60は、光電変換素子60に最近接の光プローブ10から、距離mPdだけ離間して配置されている。距離mPdは、例えば、隣接する光半導体素子20からの出射光Lによる迷光やクロストークによる影響を回避できる距離に設定する。
【0091】
光電変換素子60には、シリコンフォトディテクタなどの、変換特性にリニアリティがあり、変換特性が安定な光電変換素子を使用する。また、光電変換素子60には、条件に合ったサイズの光電変換素子を使用する。例えば、光半導体素子20の出射光Lを直接受光できるサイズの光電変換素子を使用する。例えば、光電変換素子60のサイズは、入射光のスポットサイズにより0.5~数mm角程度である。また、光電変換素子60は、測定の効率化のため、光電変換素子をアレイ状に構成配置したものでもよい。
【0092】
光電変換素子60は、光プローブ10からある程度離した位置に、増幅回路61と共に配置する。増幅回路61は、光電変換素子60の出力する電気信号を増幅、安定化させる。光電変換素子60を有する測定システム1aにより、光プローブ10により光半導体素子20を測定する前に、光半導体素子20からの出射光Lを所定の電流値で測定する。光半導体素子20の通電は、例えばカンチレバー型の電気プローブ31により電流を印加して行う。先ず光電変換素子60により、ウェハ200上のn個の光半導体素子20に所定の電流値を印加し、その出射光Lの入射強度真値P0を、ステージ50を移動させ測定、記録する。このため、光電変換素子60により測定した出射光Lの入射強度を入射強度真値P0として扱えるよう、光電変換素子60は予め校正しておいてもよい。
【0093】
測定システム1aによる測定では、ウェハ200に配置したn個の光半導体素子20について、光電変換素子60によって所定の電流値で入射強度真値P0を測定する。その後、入射強度真値P0を測定した光半導体素子20について、光プローブ10をX軸方向やY軸方向に移動させながら、光電変換素子60による測定と同じ電流値で光半導体素子20を通電し、出射光Lの入射強度Pを測定する。光電変換素子60を用いて取得した入射強度真値P0と光プローブ10を用いて取得した入射強度P1を比較することにより、n本の光プローブ10のそれぞれについて補正係数Kを取得できる。補正係数Kは、K=P0 /P1により求まる。また、光プローブ10それぞれの光軸上の2か所以上の電流値測定により、光半導体素子20のIL特性、スロープ効率、スレッシュホールド電流値などを測定することができる。
【0094】
上記のように、測定システム1aによれば、測定システム1aを製造する前に個々の光プローブ10について補正係数Kを取得する工程を省略して、測定システム1aを製造した後に補正係数Kを取得できる。このため、測定システム1aを製造時の光プローブ10の検査の手間を省くことができる。
【0095】
また、測定システム1aによれば、光プローブ10を一定の時間使用した後などに、定期的に光プローブ10の補正係数Kを再測定することにより、測定システム1aを校正できる。その結果、測定システム1aによる正確な測定を維持でき、測定値の信頼性を向上することができる。
【0096】
(その他の実施形態)
上記のように本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0097】
例えば、上記では、光プローブアレイと電気プローブアレイを個々に移動可能に構成し、光プローブ10と光半導体素子20の相対位置の変化に関し、光半導体素子20の位置を固定し、光プローブ10を移動させる場合について説明した。しかし、光プローブ10の位置を固定し、電気プローブ30と光半導体素子20を移動させてもよい。このように、光プローブ10と光半導体素子20の相対位置を変化させる方法は任意に選択でき、いずれの方法も本発明の実施形態に含まれる。
【0098】
また、上記では光プローブ10が光ファイバ構造である場合を説明したが、光プローブ10は光ファイバ構造に限らない。例えば、光プローブ10を光導波路構造にした場合は、断面構造が矩形であってもよいし、アレイ構造、光プローブ10の先端にレンズを装着した構造であってもよい。
【0099】
また、光プローブ10と電気プローブ30が一体構成であってもよい。その場合、電気プローブ30を柔軟性のあるカンチレバー構造としてもよい。そして、電気プローブ30の柔軟性により、光半導体素子20の電気信号パッドと電気プローブ30との接続を保持した状態でステージ50を移動させ、光プローブ10と光半導体素子20の相対的な位置を変化させ測定してもよい。
【0100】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態などを含むことはもちろんである。
【符号の説明】
【0101】
1…測定システム
10…光プローブ
11…コア部
12…クラッド部
20…光半導体素子
21…発光部
22…発光体
30…電気プローブ
41…光プローブヘッド
42…光プローブ駆動装置
43…電気プローブヘッド
44…電気プローブ駆動装置
50…ステージ
51…ステージ駆動装置
60…光電変換素子
100…入射端面
200…ウェハ