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特許7492891電力変換装置及びインバータの出力電流の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】電力変換装置及びインバータの出力電流の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240523BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02M7/48 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020164080
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056195
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】六車 圭孝
(72)【発明者】
【氏名】國分 友輝
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-074685(JP,A)
【文献】特開2017-153189(JP,A)
【文献】特開2019-161768(JP,A)
【文献】特開2016-063575(JP,A)
【文献】特開2000-152520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流の入力を交流に変換して出力するインバータと、
前記インバータにPWMパルス信号を送信してPWM制御するPWM制御部と、
前記インバータの出力電流を測定する電流測定部とを備え、
前記PWM制御部は、自立運転に切り替わった場合において、前記電流測定部で測定された前記インバータの出力電流が所定の第1閾値を超えたとき、前記PWMパルス信号のオンパルスの密度を前記出力電流が前記第1閾値を超える前よりも小さくする所定の休止期間を設け、前記休止期間を逓減させるように前記出力電流が前記第1閾値を超えてから当該第1閾値よりも小さい所定の第2閾値に低下するまでの期間に基づく前記休止期間を設定する、電力変換装置。
【請求項2】
前記休止期間を設ける動作と、前記PWMパルス信号のオンパルスの密度を前記休止期間前の通常オンパルス密度に戻す動作とを繰り返し実行する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記PWM制御部は、前記休止期間において、前記PWMパルス信号の欠波によりオンパルスの密度を前記休止期間前の通常オンパルス密度よりも小さくする、請求項に記載の電力変換装置。
【請求項4】
インバータの出力電圧が所定値以上になった後で自立運転に切り替えられた場合における当該インバータの出力電流の制御方法であって、
前記インバータの出力電流が所定の第1閾値に到達するまでは前記インバータを制御するためのPWM信号のオンパルスの密度を所定の第1密度に設定し、
前記出力電流が前記第1閾値を超えた場合に、前記インバータの電力供給先である負荷の入力コンデンサに充電される電圧が徐々に増加するように、前記PWM信号のオンパルスの密度を前記第1密度よりも小さい第2密度以下にする所定長さの休止期間を設け 前記休止期間は、前記出力電流が前記第1閾値を超えてから、当該第1閾値よりも小さい所定の第2閾値に低下するまでの期間に基づいて設定される、インバータの出力電流の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自立運転が可能に構成された電力変換装置及び電力変換装置に備えられたインバータの出力電流の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
災害時における長期停電に備えて蓄電池を含めた太陽光発電設備の自立運転機能の活用が期待されている。従来の自立運転では、特定負荷への電力供給が一般的であり、パワーコンディショナは、例えば、専用コンセントを介して単相2線式の100V/1500W程度の自立出力を負荷に供給していた。しかしながら、昨今蓄電池の活用が広がり、パワーコンディショナの自立出力を家庭内の全負荷に供給する需要がある。また、停電発生時に、商用電源からパワーコンディショナの自立出力に自動的に切り替える自動切替器を用いるシステムが一般的になってきている。
【0003】
特許文献1には、分散型電源の自立運転制御装置として、負荷電流の立ち上がりを推定し、自立出力電圧の立ち上り時間を制御することで突入電流を防止する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5938068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、多くの家電機器では、入力された交流電源電圧を電解コンデンサやフィルムコンデンサ(以下、入力コンデンサと称する)を用いて直流電圧に変換する、いわゆるコンデンサインプット型の構成が採用されている。また、自動切替器では、駆動電圧を確保する必要があるので、停電が発生して商用電圧が供給されなくなった場合に、パワーコンディショナの自立出力電圧が出力されてから、接続切り替えをする仕様になっている。
【0006】
このように、パワーコンディショナの自立出力の準備が整った状態、すなわち、インバータから十分な出力が可能な状態になってから、自立出力に接続が切り替えられると、接続の切り替え直後に入力コンデンサに大きな突入電流が流れるおそれがある。ここで、突入電流は、Ip=V/Rで求められる。Rは、商用電源から入力コンデンサまでのライン抵抗であり、その値が1[Ω]以下と非常に小さいので突入電流が大きくなる傾向がある。なお、このような現象は、商用電源からパワーコンディショナの自立出力への接続切り替えが自動か手動かにかかわらず発生し得る。特に、家庭内の全負荷にインバータからの自立出力を供給するシステムにおいては、接続する機器が多くなり、突入電流が大きくなる傾向がある。
【0007】
また、自動切替器を採用した場合には、前述のように、パワーコンディショナの自立出力電圧が立ち上がってから負荷に接続されるため、パワーコンディショナの出力電圧を緩やかに立ち上げる、いわゆるソフトスタートを用いた起動ができないという問題がある。
【0008】
一般的なパワーコンディショナでは、所定の許容電流を超えると起動を停止させる仕組みがあり、突入電流が大きくなることで、パワーコンディショナの起動と停止が繰り返されるという問題が発生する恐れがある。
【0009】
上記問題に鑑み、本発明は、自立出力の安定的な供給が可能な電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様に係る電力変換装置は、直流の入力を交流に変換して出力するインバータと、前記インバータにPWMパルス信号を送信してPWM制御するPWM制御部と、前記インバータの出力電流を測定する電流測定部とを備え、前記PWM制御部は、自立運転に切り替わった場合において、前記電流測定部で測定された前記インバータの出力電流が所定の第1閾値を超えたとき、前記PWMパルス信号のオンパルスの密度を前記出力電流が前記第1閾値を超える前よりも小さくする所定の休止期間を設けるようにした。
【0011】
本態様によると、インバータの出力電流が所定の第1閾値を超えたときに、PWMパルス信号のオンパルスの密度を第1閾値を超える前よりも小さくするので、インバータ回路からの出力電流が抑制されるために過電流に対する保護をより確実にすることができる。すなわち、自立出力の安定的な供給が可能となる。
【0012】
上記第1態様において、前記休止期間は、前記出力電流が所定の第1閾値を超えてから、当該第1閾値よりも小さい所定の第2閾値に低下するまでの期間に基づいて設定される、としてもよい。
【0013】
このように、休止期間の終了を電流実測値に基づいて設定することで、より精度の高い電流調整が可能になる。
【0014】
上記第1態様において前記PWM制御部は、前記インバータの出力電流が前記第1閾値を超えてから所定の期間、前記PWMパルス信号を欠波させる、としてもよい。PWMパルス信号を欠波させる方法は、特に限定されず、例えば、第1閾値に達してから任意の期間PWMパルス信号を停止させてもよいし、所定の期間におけるパルス数を減らすようにしてもよい。
【0015】
本発明の第2態様は、インバータの出力電圧が所定値以上になった後で自立運転に切り替えられた場合におけるインバータの出力電流を制御する制御方法に関し、当該制御方法は、前記インバータの出力電流が所定の第1閾値に到達するまでは前記インバータを制御するためのPWM信号のオンパルスの密度を所定の第1密度に設定し、前記出力電流が前記第1閾値を超えた場合に、前記インバータの電力供給先である負荷の入力コンデンサに充電される電圧が徐々に増加するように、前記PWM信号のオンパルスの密度を前記第1密度よりも小さい第2密度以下にする所定長さの休止期間を設ける。
【0016】
前述のとおり、例えば、自動切替器を用いるシステムのように、インバータの出力が所定以上になってから自立運転への切り替えが行われるような場合、接続の切り替え直後に負荷の入力コンデンサに大きな突入電流が流れる恐れがある。そこで、本態様では、負荷の入力コンデンサに充電される電圧が徐々に増加するように、PWM信号のオンパルスの密度を小さくする所定長さの休止期間を設けるようにしている。このような休止期間を設けることで、負荷の入力コンデンサに流れる突入電流を抑えることができ、自立出力の安定的な供給が可能となる。
【0017】
上記第2態様において、前記休止期間は、前記出力電流が所定の第1閾値を超えてから、当該第1閾値よりも小さい所定の第2閾値に低下するまでの期間に基づいて設定される、としてもよい。
【0018】
このように、休止期間の終了を実測値に基づいて設定することで、より精度の高い電流調整が可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電力変換装置では、インバータの出力電流が所定の第1閾値を超えた場合に所定の休止期間を設けるようにしたので、インバータ回路の過電流に対する保護をより確実にすることができ、自立出力の安定的な供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】系統連系システムの構成を示すブロック図である。
図2】電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図3】CPUの動作を示すフローチャートである。
図4】電力変換装置の出力の変化、負荷電流の変化を模式的に示す波形図である。
図5図4の部分拡大図である。
図6】比較例に係る図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用範囲あるいはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
図1は、電力系統70から電力が供給されている状態(以下、通常時ともいう)における系統連系システム1の構成例を示す。この系統連系システム1は、パワーコンディショナ10と、連系ブレーカー30と、切替回路40と、切替制御部50とを備える。
【0023】
パワーコンディショナ10は、DC/DCコンバータ11と、電力変換装置20と、連系スイッチ12とを備える。また、パワーコンディショナ10には、電力系統70と連系させるための単相3線用の系統端子13と、自立運転の際に負荷90に電源を供給するための単相3線用の自立端子14とが設けられている。
【0024】
DC/DCコンバータ11は、分散型電源60の出力電圧を所定の電圧に変換し、変換された直流電力を直流電圧線DL1,DL2に出力する。分散型電源60は、太陽光発電手段、風力発電手段、燃料電池、コージェネレーションシステム等の発電手段や、蓄電池等の蓄電手段で構成される。
【0025】
電力変換装置20は、図2に示すように、平滑コンデンサCと、直流電圧測定部21と、中点制御回路22と、インバータ回路23と、フィルタ回路25と、交流電流測定部26と、交流電圧測定部27と、入力部28と、PWM制御部としてのCPU(Central Processing Unit)29とを備える。
【0026】
平滑コンデンサCは、直流電圧線DL1,DL2間に接続される。DC/DCコンバータ11の出力は、平滑コンデンサCで平滑化され、中点制御回路22に入力される。
【0027】
中点制御回路22は、電力変換装置20の中性線NLの電圧(いわゆる中間電圧)を安定化させて、中性線NLに直流成分が生じないように制御する。図2の例では、直流電圧線DL1,DL2間に、直列接続された2つのコンデンサC1,C2と、直列接続された2つのトランジスタQ7,Q8とが並列に接続され、コンデンサC1,C2間の配線と、トランジスタQ7,Q8間の配線との間にリアクトルR1が設けられている。そして、コンデンサC1,C2間の配線には中性線NLが接続される。直流電圧測定部21は、それぞれのコンデンサC1,C2の電圧を測定する電圧センサM1,M2を備える。
【0028】
インバータ回路23は、直流電圧線DL1,DL2を介して入力された直流を交流に変換して交流電圧線AL1,AL2に出力する。図2には、インバータ回路23として、Hブリッジ型のインバータを例示している。なお、図示しないが、インバータ回路23として、双方向型のインバータを用いてもよい。図2のインバータ回路23は、従来から周知の構成であり、ここではその構成及び動作についての詳細説明を省略する。図2において、Q1~Q4は、Hブリッジ回路を構成するスイッチング素子であり、CPU29からのPWM信号を受けてスイッチング動作を行う。インバータ回路23の出力は、フィルタ回路25を介して系統端子13及び自立端子14へと出力される。
【0029】
フィルタ回路25は、交流電圧線AL1に設けられたリアクトルR2と、交流電圧線AL2に接続されたリアクトルR3と、交流電圧線AL1,AL2間に直列接続されたコンデンサC3,C4とを備える。コンデンサC3,C4点の配線は、中性線NLに接続される。
【0030】
交流電流測定部26は、交流電圧線AL1に流れる電流を測定するための電流センサM3、交流電圧線AL2に流れる電流を測定するための電流センサM4、及び中性線NLに流れる電流を測定するための電流センサM5を備える。交流電圧測定部27は、交流電圧線AL1と中性線NLとの間の電圧を測定するための電圧センサM7と、中性線NLと交流電圧線AL2との間の電圧を測定するための電圧センサM8とを備える。
【0031】
CPU29は、分散型電源60で発電された電力を逆潮流をさせる系統連系運転時には、連系スイッチ12をオン制御して導通させ、スイッチング素子Q1~Q4にPWM信号を送信してPWM制御する。
【0032】
また、CPU29は、停電が発生した場合などにおいて行われる自立運転時には、連系スイッチ12をオフ制御して遮断させ、自立端子14から出力される交流出力が一定になるようにデューティ比が調整されたPWM信号をスイッチング素子Q1~Q4に送信することで、インバータ回路23をPWM制御する。自立運転時におけるCPU29の制御については、後ほど具体的に説明する。
【0033】
図1に戻り、連系ブレーカー30は、系統端子13と引込口80との間に設けられる手動のブレーカである。連系ブレーカー30は、パワーコンディショナ10を系統連系させる場合には、導通状態に設定され、系統端子13と引込口80との間を導通させる。一方で、パワーコンディショナ10を系統連系させない場合には、非導通状態に設定される。
【0034】
切替回路40は、発電ユニット側スイッチ41と系統側スイッチ42とを備え、負荷90の接続先をパワーコンディショナ10にするか、電力系統70にするかを切り替える。切替回路40と負荷90との間には、分電盤91が設けられている。発電ユニット側スイッチ41は、分電盤91とパワーコンディショナ10の自立端子14との間に設けられている。系統側スイッチ42は、分電盤91と引込口80との間に設けられている。ここで、一般的にコンデンサインプット負荷が採用されており、以下の説明では、負荷90に入力コンデンサ95が接続されているものとして説明する。入力コンデンサ95は、例えば、容量値が1000[μF]程度のフィルムコンデンサである。
【0035】
また、図1では、自立端子14から負荷90までの配線抵抗について94の符号を付して模式的に図示している。配線抵抗94の抵抗値Rは、例えば1[Ω]以下に設定される。
【0036】
切替制御部50は、発電ユニット側スイッチ41及び系統側スイッチ42のオンオフを制御する。切替制御部50は、通常時には、発電ユニット側スイッチ41をオフし、系統側スイッチ42をオンすることで、電力系統70から負荷90に電力が供給されるようにする。一方で、電力系統70の停電時のような自立運転時には、発電ユニット側スイッチ41をオンして、系統側スイッチ42をオフすることで、パワーコンディショナ10から負荷90に自立電力が供給されるようにする。
【0037】
-系統連系システムの動作-
次に、図3図5を参照しつつ、系統連系システム1の動作について説明する。ここでは、電力系統70から電力が供給されている通常の動作(以下、通常動作ともいう)から停電が発生して電力系統70からの電力供給が停止し、自立運転に切り替わる際の動作について説明する。ここで、パワーコンディショナ10は、通常動作中に系統連系されていないものとする。すなわち、連系スイッチ12は、オフ制御されている。なお、切替制御部50は、パワーコンディショナ10の外部にあるものとしているが、パワーコンディショナ10や切替回路40に設けられてもよい。また、切替制御部50の機能をCPU29に取り込み、CPU29が切替回路40を制御するようにしてもよい。
【0038】
まず、通常動作中のステップS1において、切替制御部50は、発電ユニット側スイッチ41をオフし、系統側スイッチ42をオンする。これにより、電力系統70から負荷90に電力が供給される。
【0039】
次に、停電が発生した後のステップS2において、電力系統70からの電力供給の停止が検知されると、切替制御部50は、系統側スイッチ42をオフする。例えば、切替制御部50は、引込口80などに設けられた電流センサ(図示省略)での測定結果に基づいて停電が発生したか否かを判定する。CPU29においても、電力系統70の停電状態はモニタされており、停電が検知されると、自立運転のためにパワーコンディショナ10が起動される。
【0040】
ステップS3において、パワーコンディショナ10から自立運転用の電力が出力可能になると、切替回路40及び切替制御部50に、パワーコンディショナ10からの電圧が供給され、切替制御部50は、発電ユニット側スイッチ41をオンさせる。これにより、自立端子14と負荷90との間が導通され、負荷90には定格電圧(例えば、100Vや200V)が供給される。図4では、時刻tp0において、発電ユニット側スイッチ41がオンされ、その前後におけるパワーコンディショナ10の出力電圧、時刻tp0以降の負荷のコンデンサインプット電圧、及び、負荷電流の変化の様子を示している。負荷電流は、例えば、電流センサM3~M5で用いて測定される。
【0041】
前述のとおり、発電ユニット側スイッチ41は、パワーコンディショナ10から自立運転用の電圧が出力可能になってからオンされるので、負荷電流として大きな突入電流が流れ、それにともない負荷90の入力電圧(コンデンサインプット電圧)も大きく上昇する。
【0042】
より具体的には、入力コンデンサ95に流れる突入電流をImとすると、Imは、以下の式1であらわされる。
【0043】
Im=(Vo-Vc)/R (1)
【0044】
ここで、Voは、インバータ回路23の出力電圧、すなわち、中性線NLと交流電圧線AL1との間及び中性線NLとAL2との間の電圧である。また、Vcは、入力コンデンサ95に印可される電圧であり、Rは、配線抵抗94の抵抗値である。
【0045】
例えば、配線抵抗94が1[Ω]で、インバータ回路23の出力電圧Voが100[V]である場合に、発電ユニット側スイッチ41がオンされると、スイッチオンの直後は、Vcが0[V]であるため、突入電流として100[A]程度の大きなラッシュ電流が流れる。図4の例では、発電ユニット側スイッチ41がオンされて時刻tp0で自立運転が開始されると、時刻tp0から時刻tp1の間において、負荷電流ILが急峻に上昇して上記のラッシュ電流が流れる様子を示す。
【0046】
次のステップS4において、CPU29では、負荷電流ILが所定の第1閾値It1を超えるかどうかが判定される。第1閾値It1は、特に限定されないが、例えば、パワーコンディショナ10や負荷90の定格電流よりも低くなるように任意に設定される。
【0047】
ステップS4でNO判定となる場合、すなわち、負荷電流ILが所定の第1閾値It1以下の場合、CPU29は、PWMパルス信号として、自立端子14から出力される交流出力が一定になるようにデューティ比を調整した信号の出力を継続する。このときのPWMパルス信号のオンパルスの密度を「通常オンパルス密度」と称する。
【0048】
ここで、「オンパルスの密度(オンパルス密度)」との用語は、所定の単位期間においてオンパルスが分布する割合やオンパルスの粗密の度合いを示す指標として用いる。「オンパルスの密度」は、例えば、負荷電流ILが上記の第1閾値It1を超えてから所定の期間などにおいて、PWMパルス信号のパルス数を増減させることで調整される。すなわち、所定期間のパルス数を増加させれば、オンパルス密度は大きくなる。一方で、例えば、上記の所定期間において、欠波などにより所定期間のパルス数を減少させれば、オンパルス密度は小さくなる。ここで、欠波とは、PWMパルス信号を停止させてパルス数を減少させることと、PWMパルス信号のオンパルスを間引くことでパルス数を減少させることを含む用語として用いる。なお、オンパルス密度の調整は、パルス数の増減に限定されない。例えば、PWMパルス信号のパルス間隔を変化させたり、PWMパルス信号のデューティ比を変えるなど、オンパルス幅を調整する方法が例示される。
【0049】
一方で、ステップS4でYES判定となる場合、すなわち、負荷電流ILが所定の第1閾値It1を超えた場合、フローがステップS5に進み、CPU29は、PWMパルス信号のオンパルスの密度を通常オンパルス密度(負荷電流ILが第1閾値It1を超える前の状態)よりも小さくする。オンパルスの密度を小さくする方法は、前述のとおりである。図5では、負荷電流ILが所定の第1閾値It1を超えた場合に、所定期間のPWMパルス信号の出力を停止させることでオンパルスの密度を小さくする例を示している。
【0050】
具体的に、図5は、図4の部分拡大図であり、時刻tp1,tp3,tp5あたりの時刻について、負荷電流IL及びPWMパルス信号の波形を拡大表示している。図5の例では、負荷電流ILが所定の第1閾値It1を超えた時刻t11において、CPU29が、PWMパルス信号を停止させている。PWMパルス信号が停止されると、パワーコンディショナ10の出力が停止するので、時刻t11から少し時間が経過した時刻tp1において負荷電流ILの上昇が止まり、その後、負荷電流ILは下降する。なお、第1閾値It1は、任意に設定することができるが、例えば、パワーコンディショナ10の許容電流や定格電流に基づいて設定される。
【0051】
次のステップS6において、CPU29では、負荷電流ILが所定の第2閾値It2より小さいかどうかが判定される。第2閾値It2は、負荷90の入力コンデンサ95に充電される電圧がすべて放電されてしまわないように設定される。負荷電流ILが所定の第2閾値It2より小さくなると(ステップS6でYES)、フローは次のステップS7に進む。ステップS7において、CPU29は、PWMパルス信号の出力を再開し、これにより、負荷90の入力コンデンサ95への充電が再開される。図5の例では、時刻t12において負荷電流ILが第2閾値It2を下回る。そこで、CPU29は、時刻t12からPWMパルス信号の出力を再開している。時刻t12から少し時間が経過すると、負荷電流ILは再び上昇に転じる。これにより、入力コンデンサ95にある程度電圧が残った状態で充電が再開される(図4の時刻t13参照)。そうすると、式1におけるVcの値は、0[V]の場合よりも大きな値でのスタートとなり、次の時刻tp2に向けて流れる突入電流Imは小さくなる。図5において、T1は、1回目にPWMパルス信号を停止させてからPWMパルス信号を再開させるまでの期間を示している。T1は、「休止期間」の一例である。
【0052】
ステップS7において、PWMパルス信号の出力が再開されると、フローは、ステップS4に戻り、CPU29において、負荷電流ILが所定の第1閾値It1を超えるかどうかが判定される。
【0053】
そして、負荷電流ILが再び、所定の第1閾値It1を超えると(ステップS4でYES)、CPU29が、PWMパルス信号を停止させる(ステップS5)。そして、負荷電流ILが第2閾値It2を下回ると(ステップS6でYES)、CPU29は、PWMパルス信号を再開する(ステップS7)。2周目のフローでは、1周目のステップS4~S7のフローで残っていた電圧の分も加算される。したがって、入力コンデンサ95の電圧は、1周目のフロー終了時点よりも大きくなる(図4の時刻t23参照)。
【0054】
以後、ステップS4からステップS7の処理が繰り返され、図4の時刻t33、時刻t43に示すように、負荷の入力電圧の反転位置が右肩上がりに徐々に積みあがって上昇していく。そして、しばらくするとパワーコンディショナ10の出力電圧に応じた、所定の負荷電圧に落ち着く(図4の時刻tpf参照)。
【0055】
なお、図5では、左右中央において、図4の時刻tp3あたりの負荷電流IL及びPWMパルス信号の様子を示している。T3は、3回目にPWMパルス信号を停止させてからPWMパルス信号を再開させるまでの「休止期間」を示している。前述のとおり、T3のときには、T1のときよりもVcが大きくなっているので、式(1)のImが小さくなり、その結果、T3の期間は、期間T1よりも短い期間になる。図5右側は、図4の時刻tp6あたりの負荷電流IL及びPWMパルス信号の様子を示している。時刻tp6では、負荷電流ILは、第1閾値It1に到達する前に下降するので、CPU29は、PWMパルス信号を停止させない。
【0056】
以上のように、第1閾値It1及び第2閾値It2を任意の値に設定することで、負荷90の入力コンデンサ95の両端電圧Vcが徐々に積み上がり、過電流を抑制しながら安定した出力電圧を出力することが可能となる。
【0057】
-比較例-
図6を用いて、本実施形態における「所定の休止期間」を設けない場合における系統連系システム1の動作について説明する。図6の例では、負荷電流ILが所定の第1閾値It1を超えた場合に、CPU29がPWM信号を停止させてインバータ回路23を停止させる停止期間を設け、しばらくたってから復旧させるようにしている。
【0058】
具体的に、図6の例では、図4の場合と同様に、時刻tp0でパワーコンディショナ10の自立運転が開始されている。そして、時刻t51に負荷電流ILが第1閾値It1を超えている。そこで、CPU29は、インバータ回路23を停止させ、所定の停止期間を経た時刻t52にインバータ回路23を駆動させて、パワーコンディショナ10の出力を再開させている。しかしながら、図6のような制御方法を用いると、負荷電流ILが第1閾値It1を超えて、インバータ回路23を停止させるということを繰り返すことになる。すなわち、本比較例では、負荷の入力コンデンサの両端電圧が充電されないためにいつまで経っても自立運転が開始されないという問題があるが、実施形態の制御を行うことで、そのような問題が発生しない。
【0059】
以上のように、本実施形態の電力変換装置20は、DC/DCコンバータ11から出力された直流を交流に変換して出力するインバータ回路23と、インバータ回路23にPWMパルス信号を送信してPWM制御するPWM制御部としてのCPU29と、インバータ回路23の出力電流を測定する交流電流測定部26とを備える。そして、CPU29は、通常動作状態から自立運転に切り替わった場合において、交流電流測定部26で測定されたインバータ回路23の出力電流としての負荷電流ILが所定の第1閾値It1を超えたときに、PWMパルス信号のオンパルスの密度を負荷電流ILが第1閾値It1を超える前よりも小さくする所定の休止期間を設けるようにしている。
【0060】
これにより、過電流を抑制しながら負荷90の入力コンデンサ95に充電させる電圧を徐々に増加させることができるので、負荷90に流れる突入電流を低減させながらコンデンサインプット負荷に対して安定した出力電圧供給することが可能となる。すなわち、インバータ回路23の過電流を保護しつつ安定した出力電圧を出力することが可能となる。
【0061】
なお、上記実施形態において、インバータ回路23の「所定の休止期間」は、負荷電流ILが所定の第1閾値を超えてから、所定の第2閾値を下回るまでの期間であるものとしたが、これに限定されない。例えば、所定の休止期間をあらかじめ設定するようにしてもよい。例えば、負荷電流ILが所定の第1閾値It1を超えると、PWMパルス信号を所定の固定期間にわたって停止させるようにしてもよい。PWMパルス信号を停止させる固定期間は、全期間にわたって共通であってもよいし、第1閾値It1を超えた回数に応じて期間を変える(例えば、短くする)ようにしてもよい。また、負荷電流ILのラッシュ電流のピーク電流をモニタするようにし、そのピーク電流に応じたPWMパルス信号の停止期間を設定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によると、自立運転が可能に構成されたパワーコンディショナにおいて、自立運転の開始後にコンデンサインプット負荷のコンデンサに充電される電圧を徐々に増加させることで突入電流を抑えることができ、極めて有用である。
【符号の説明】
【0063】
20 電力変換装置
23 インバータ回路(インバータ)
26 交流電流測定部(電流測定部)
29 CPU(PWM制御部)
90 負荷
95 入力コンデンサ
It1 第1閾値
It2 第2閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6