(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】抗白金化学保護剤を含む高張医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/04 20060101AFI20240523BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240523BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240523BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20240523BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
A61K33/04
A61K47/36
A61K9/08
A61P27/16
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020564795
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 US2019017334
(87)【国際公開番号】W WO2019157370
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-02-04
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520299511
【氏名又は名称】デシベル セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DECIBEL THERAPEUTICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】フー、チー-イン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】シー、フシン
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-532824(JP,A)
【文献】特表2014-513054(JP,A)
【文献】特表2009-509982(JP,A)
【文献】稲垣洋三,外4名,"内耳DDSに最適な薬物徐放効果を有するヒアルロン酸の検討",Audiology Japan,2013年,Vol.56, No.5,p.473-474
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,500~7,000mOsm/Lの計算オスモル濃度を有する高張医薬組成物であって、
0.5M~2Mのチオ硫酸ナトリウム及び
ヒアルロナン、並びに任意で
張性剤を含み、
前記計算オスモル濃度は、前記チオ硫酸ナトリウムと、存在する場合には前記
張性剤とに基づいて計算される、高張医薬組成物。
【請求項2】
前記組成物の計算オスモル濃度が、5,000mOsm/L以下である、請求項1に記載の高張医薬組成物。
【請求項3】
前記組成物の計算オスモル濃度が、少なくとも2,000mOsm/Lである、請求項1または2に記載の高張医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物の計算オスモル濃度が、少なくとも3,000mOsm/Lである、請求項1または2に記載の高張医薬組成物。
【請求項5】
前記高張医薬組成物が、1M~2Mのチオ硫酸ナトリウムを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
【請求項6】
薬学的に許容される液体溶媒をさらに含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
【請求項7】
前記液体溶媒が、水である、請求項
6に記載の高張医薬組成物。
【請求項8】
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して少なくと
も0.8%(w/v)の前記
ヒアルロナンを含む、請求項
7に記載の高張医薬組成物。
【請求項9】
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して少なくと
も1%(w/v)の前記
ヒアルロナンを含む、請求項
7に記載の高張医薬組成物。
【請求項10】
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対し
て2%(w/v)以下の前記
ヒアルロナンを含む、請求項
8または
9に記載の高張医薬組成物。
【請求項11】
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対し
て1%(w/v)の前記
ヒアルロナンを含む、請求項
10に記載の高張医薬組成物。
【請求項12】
前記高張医薬組成物が、薬学的に許容される液体溶媒と0.8M~2.0Mのチオ硫酸ナトリウムとを含む、請求項1に記載の高張医薬組成物。
【請求項13】
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して少なくと
も0.8%(w/v)の前記
ヒアルロナンを含む、請求項
12に記載の高張医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物の計算オスモル濃度が、少なくとも2,500mOsm/Lである、請求項
12に記載の高張医薬組成物。
【請求項15】
前記高張医薬組成物が、液体溶媒をさらに含み、
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して少なくと
も0.8%(w/v)の前記
ヒアルロナンを含む、請求項1に記載の高張医薬組成物。
【請求項16】
前記高張医薬組成物が、0.8M~2.0Mのチオ硫酸ナトリウムを含む、請求項
15に記載の高張医薬組成物。
【請求項17】
前記高張医薬組成物が、液体溶媒をさらに含み、
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して0.8%~2%(w/v)の前記
ヒアルロナンを含む、請求項5に記載の高張医薬組成物。
【請求項18】
前記組成物の計算オスモル濃度が、3,000~5,000mOsm/Lであり、
前記組成物が1Mのチオ硫酸ナトリウムを含み、
前記組成物が、前記液体溶媒に対して1%(w/v)の前記
ヒアルロナンを含む、請求項
17に記載の高張医薬組成物。
【請求項19】
前記チオ硫酸ナトリウムの濃度が
、2.0M以下である、請求項1~4、6~
11、および
15のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
【請求項20】
前記チオ硫酸ナトリウムの濃度が
、1.0M以下である、請求項1~4および6~
17のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
【請求項21】
前記医薬組成物のpHが、6.5~8.5である、請求項1~
20のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
【請求項22】
対象における白金誘発の耳毒性の予防または緩和における使用のための
高張医薬組成物であり、前記対象の正円窓に投与される、請求項1~
21のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
【請求項23】
有効量の前記高張医薬組成物が鼓室内または経鼓膜
に投与
される、請求項
22に記載の使用のための高張医薬組成物。
【請求項24】
前記高張医薬組成物が、白金系抗腫瘍剤と組合せた使用のためのものであり、前記白金系抗腫瘍剤の投与前4時間以内に投与される、請求項
22または23に記載の使用のための高張医薬組成物。
【請求項25】
少なくとも50μL
且つ1mL以下の前記医薬組成物が前記対象の正円窓に投与さ
れる、請求項
22~
24のいずれか1項に記載の
使用のための高張医薬組成物。
【請求項26】
単位剤形の請求項1~
21のいずれか1項に記載の高張医薬組成物の調製方法であって、
(i)前記チオ硫酸ナトリウム及び前記
ヒアルロナン、並びに任意の
張性剤を提供すること、及び
(ii)前記チオ硫酸ナトリウム、及び前記
ヒアルロナン、並びに前記任意の
張性剤を液体溶媒と混合して、前記高張医薬組成物を生成することを含む、前記方法。
【請求項27】
前記高張医薬組成物が、ヒトの正円窓への投与のために製剤化されているとともに200μL~1mLの体積を有する、請求項1~
21のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗白金化学保護剤を含む医薬組成物、その使用方法、及びその調製方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
白金系抗腫瘍剤(例えば、シスプラチン)は、がん及び腫瘍の治療に広く使用される化学療法剤である。これらの薬剤は毒性であり、ヒト及び動物モデルの両方において難聴を誘発することが知られている。従って、白金系抗腫瘍剤による化学療法を受けている患者は、難聴を罹患し得る。白金系抗腫瘍剤を含む化学療法レジメンに伴う難聴を予防または緩和する耳毒性保護性の組成物及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的に、本発明は、白金誘発の耳毒性を予防または緩和するための医薬組成物(例えば、高張医薬組成物)及びその使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様では、本発明は、抗白金化学保護剤及びゲル化剤を含む医薬組成物(例えば、高張医薬組成物)を提供する。
いくつかの実施形態では、組成物の計算オスモル濃度は、少なくとも400mOsm/L(例えば、少なくとも500mOsm/L、少なくとも600mOsm/L、少なくとも700mOsm/L、少なくとも800mOsm/L、少なくとも900mOsm/L、少なくとも1,000mOsm/L、少なくとも1,500mOsm/L、少なくとも2,000mOsm/L、少なくとも2,500mOsm/L、または少なくとも3,000mOsm/L)である。ある特定の実施形態では、組成物の計算オスモル濃度は、5,000mOsm/L以下(例えば、4,500mOsm/L以下、4,000mOsm/L以下、3,000mOsm/L以下、2,000mOsm/L以下、1,800mOsm/L以下、1,500mOsm/L以下、1,200mOsm/L以下、または1,000mOsm/L以下)である。いくつかの実施形態では、組成物の計算オスモル濃度は、1,500~4,500mOsm/Lである。他の実施形態では、組成物の計算オスモル濃度は、3,000~4,500mOsm/Lである。特定の実施形態では、組成物の測定オスモル濃度は、少なくとも0.3Osm/kg(例えば、少なくとも0.5Osm/kg、少なくとも0.6Osm/kg、少なくとも0.7Osm/kg、少なくとも0.8Osm/kg、少なくとも0.9Osm/kg、少なくとも1.0Osm/kg、少なくとも1.2Osm/kg、少なくとも1.4Osm/kg、または少なくとも1.8Osm/kg)である。さらなる実施形態では、組成物の測定オスモル濃度は、2.5Osm/kg以下(例えば、2.1Osm/kg以下)である。さらに別の実施形態では、組成物の測定オスモル濃度は、0.3~2.5Osm/kg(例えば、0.5~2.5Osm/kg、0.6~2.5Osm/kg、0.7~2.5Osm/kg、0.8~2.5Osm/kg、0.9~2.5Osm/kg、1.0~2.5Osm/kg、1.2~2.5Osm/kg、1.4~2.5Osm/kg、1.8~2.5Osm/kg、0.5~2.1Osm/kg、0.6~2.1Osm/kg、0.7~2.1Osm/kg、0.8~2.1Osm/kg、0.9~2.1Osm/kg、1.0~2.1Osm/kg、1.2~2.1Osm/kg、1.4~2.1Osm/kg、または1.8~2.1Osm/kg)である。
【0005】
特定の実施形態では、抗白金化学保護剤は、アルカリチオ硫酸塩もしくはチオ硫酸アンモニウム塩またはその溶媒和物、アルカリ性ジエチルジチオカルバミン酸、アミフォスチン、メチオニン、N-アセチルシステイン、システイン、2-アミノエタンチオール、グルタチオン(GSH)またはそのC1-C6アルキルエステル、リシン、ヒスチジン、アルギニン、エチレンジアミン四酢酸、ジメルカプロール、ジメルカプトコハク酸、ジメルカプトプロパンスルホン酸塩、ペニシラミン、α-リポ酸、またはフルスルチアミン、またはその塩である。さらなる実施形態では、抗白金化学保護剤は、アルカリチオ硫酸塩もしくはチオ硫酸アンモニウム塩またはその溶媒和物(例えば、チオ硫酸ナトリウムまたはその溶媒和物)である。
【0006】
さらに別の実施形態では、ゲル化剤は、ヒアルロナン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、アルギン酸またはその塩、ポリエチレングリコール、セルロース、セルロースエーテル(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシプロピルセルロース)、カルボマー(例えば、Carbopol(登録商標))、寒天、ゼラチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン(例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、またはタラガム)、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、デンプン、トラガカント、カラギーナン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、パラフィン、ワセリン、ケイ酸塩、フィブロイン、またはその組み合わせである。さらに別の実施形態では、ゲル化剤は、ヒアルロナンである。他の実施形態では、ゲル化剤は、ヒアルロナンとメチルセルロースの組み合わせである。さらに他の実施形態では、ゲル化剤は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー407、またはポロキサマー407とポロキサマー188の組み合わせ))である。さらに他の実施形態では、ゲル化剤は、フィブロインである。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、液体溶媒に対して少なくとも約0.5%(w/v)(例えば、少なくとも0.8%(w/v)、少なくとも1%(w/v)、または少なくとも2%(w/v))のゲル化剤を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、液体溶媒に対して約20%(w/v)以下(例えば、15%(w/v)以下)のゲル化剤を含む。さらなる実施形態では、医薬組成物は、液体溶媒に対して約2%(w/v)以下のゲル化剤を含む。さらに別の実施形態では、医薬組成物は、液体溶媒に対して約0.8%(w/v)のゲル化剤を含む。さらに別の実施形態では、医薬組成物は、液体溶媒に対して約1%(w/v)のゲル化剤を含む。
【0007】
特定の実施形態では、ゲル化剤は、架橋している(例えば、イオン架橋しているまたは共有架橋している)。他の実施形態では、ゲル化剤は、架橋していない。特定の実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される液体溶媒(例えば、水)をさらに含む。
【0008】
さらに他の実施形態では、抗白金化学保護剤の濃度は、少なくとも約0.05M(例えば、少なくとも約0.1M、少なくとも約0.2M、少なくとも約0.3M、少なくとも約0.4M、少なくとも約0.5M、または少なくとも約1M)である。さらに他の実施形態では、抗白金化学保護剤の濃度は、約2.5M以下(例えば、2.0M以下、1.5M以下、1.0M以下、0.5M以下、約0.3M以下、または約0.2M以下)である。ある特定の好ましい実施形態では、抗白金化学保護剤の濃度は、約0.5M~約1.5Mである。より好ましい実施形態では、抗白金化学保護剤の濃度は、約1.0M~約1.5Mである。
【0009】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、5.0~8.5のpHを有する。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、6.0~8.5のpHを有する。特定の実施形態では、医薬組成物は、6.5~8.5のpHを有する。
【0010】
さらなる実施形態では、医薬組成物は、医薬剤形である。
別の態様では、本発明は、有効量の本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)を対象の正円窓に投与することによって、対象における白金誘発の耳毒性を予防または緩和する方法を提供する。ある特定の実施形態では、白金誘発の耳毒性は、白金系抗腫瘍剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、またはサトラプラチン)を受けている対象内である。
【0011】
いくつかの実施形態では、医薬組成物を鼓室内的または経鼓膜的に投与する。特定の実施形態では、医薬組成物を白金系抗腫瘍剤の投与前または投与後(例えば、約24、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1時間以内)に投与する。ある特定の実施形態では、医薬組成物を白金系抗腫瘍剤の投与と同時に投与する。さらなる実施形態では、医薬組成物を白金系抗腫瘍剤とは異なる経路で投与する(例えば、白金系抗腫瘍剤を非経口的(例えば、腫瘍内、筋肉内、または静脈内)に投与する)。さらに別の実施形態では、少なくとも50μL(好ましくは、少なくとも100μL、より好ましくは、少なくとも200μL)の医薬組成物を対象の正円窓に投与する。さらに別の実施形態では、1mL以下の医薬組成物を対象の正円窓に投与する。他の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、(i)抗白金化学保護剤及びゲル化剤を提供すること、及び(ii)抗白金化学保護剤及びゲル化剤を液体溶媒と混合して、高張医薬組成物を生成することによって、本発明の高張医薬組成物を調製する方法を提供する。
【0013】
いくつかの実施形態では、抗白金化学保護剤及びゲル化剤を混合物として提供する。ある特定の実施形態では、抗白金化学保護剤及びゲル化剤を別々に提供し、ステップ(ii)は、液体溶媒を最初にゲル化剤と混合して、中間混合物を提供した後、中間混合物を抗白金化学保護剤と混合することを含む。特定の実施形態では、抗白金化学保護剤及びゲル化剤を別々に提供し、ステップ(ii)は、液体溶媒を最初に抗白金化学保護剤と混合して、中間混合物を提供した後、中間混合物をゲル化剤と混合することを含む。さらなる実施形態では、抗白金化学保護剤及びゲル化剤を別々に提供し、ステップ(ii)は、液体溶媒の一部分を抗白金化学保護剤と混合して、第1の混合物を提供すること、液体溶媒の別の部分をゲル化剤と混合して、第2の混合物を提供すること、及び第1及び第2の混合物を組み合わせることを含む。
【0014】
定義
「約」という用語は、本明細書で使用する場合、「約」という用語に続く値の±10%の範囲にある値を表す。
【0015】
「アルカリ塩」という用語は、本明細書で使用する場合、化合物のナトリウム塩またはカリウム塩を表す。アルカリ塩は、一塩基性、または、酸性部分(例えば、-COOH、-SO3H、または-P(O)(OH)n部分)の数が許す場合、二塩基性または三塩基性であり得る。
【0016】
「アンモニウム塩」という用語は、本明細書で使用する場合、化合物のNH4
+塩を表す。アンモニウム塩は、一塩基性、または、酸性部分(例えば、-COOH、-SO3H、または-P(O)(OH)n部分)の数が許す場合、二塩基性または三塩基性であり得る。
【0017】
「抗白金化学保護剤」という用語は、本明細書で使用する場合、白金系抗腫瘍剤を非活性化する化合物を指す。理論に束縛されることを望むものではないが、抗白金化学保護剤は、白金系抗腫瘍剤の白金中心に配位することで、対象に存在するペプチド及び/またはヌクレオチドとの反応に利用可能な活性白金中心の量を低下させ得る。抗白金化学保護剤の非限定例としては、アルカリチオ硫酸塩またはチオ硫酸アンモニウム塩(例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、またはチオ硫酸アンモニウム)またはその溶媒和物(例えば、チオ硫酸ナトリウム五水和物)、アルカリ性ジエチルジチオカルバミン酸、アミフォスチン、メチオニン、N-アセチルシステイン、システイン、2-アミノエタンチオール、グルタチオン(GSH)またはそのC1-C6アルキルエステル(例えば、グルタチオンエチルエステル:γ-Glu-Cys-Gly-OEt)またはその塩、リシンまたはその塩、ヒスチジンまたはその塩、アルギニンまたはその塩、エチレンジアミン四酢酸またはその塩(例えば、アルカリ塩)、ジメルカプロール、ジメルカプトコハク酸またはその塩(例えば、アルカリ塩)、ジメルカプトプロパンスルホン酸塩(例えば、アルカリ塩またはアンモニウム塩)、ペニシラミン、α-リポ酸またはその塩(例えば、アルカリ塩またはアンモニウム塩)、またはフルスルチアミンまたはその塩が挙げられる。抗白金化学保護剤の塩は、薬学的に許容される塩である。
【0018】
「ゲル化剤」という用語は、本明細書で使用する場合、溶媒(例えば、水性溶媒)と混合した際にゲルを生成することが当該技術分野で公知である薬学的に許容される賦形剤を指す。ゲル化剤の非限定例としては、ヒアルロナン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、アルギン酸またはその塩、ポリエチレングリコール、セルロース、セルロースエーテル、カルボマー(例えば、Carbopol(登録商標))、寒天、ゼラチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン(例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、またはタラガム)、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、デンプン、トラガカント、カラギーナン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、パラフィン、ワセリン、ケイ酸塩、フィブロイン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0019】
「高張」という用語は、医薬組成物を参照して本明細書で使用する場合、300mOsm/L~7,000mOsm/L(例えば、300mOsm/L~2,500mOsm/L)の計算オスモル濃度を有する医薬組成物を表し、0mOsm/Lの計算オスモル濃度を有する1Lの溶媒中に白金不活性化剤及び任意のイオン性非高分子賦形剤の溶解によって生成される300mmol~7,000mmol(例えば、300mOsm/L~2,500mmol)のイオン及び/または中性分子に対応する。本開示の目的のため、計算オスモル濃度は、高分子賦形剤(例えば、ゲル化剤)から生成されるイオン及び/または中性分子を含まない。本開示の目的のため、高分子賦形剤(例えば、ゲル化剤)は、本明細書に開示される組成物の計算オスモル濃度に寄与しないと見なされる。
【0020】
「鼓室内」という用語は、投与経路を参照して本明細書で使用する場合、鼓膜を一時的に除去または持ち上げた状態での外耳道を通じて、または、耳嚢を介して生成された管を通じて、対象の中耳に注射または注入による正円窓への送達を意味する。
【0021】
「医薬組成物」という用語は、本明細書で使用する場合、薬学的に許容される賦形剤で製剤化され、哺乳動物の疾患を治療するための治療レジメンの一部として政府監督官庁の承認を得て製造及び販売されている、組成物を表す。
【0022】
「医薬剤形」という用語は、本明細書で使用する場合、さらなる修正をすることなくそのまま(例えば、液体溶媒による希釈、液体溶媒中の懸濁、または液体溶媒中の溶解をすることなく)、対象に投与することを意図した医薬組成物を表す。
【0023】
「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、本明細書で使用する場合、患者内において無毒性かつ実質的に非炎症性であるという特性を有している、本明細書に記載される抗白金化学保護剤及びゲル化剤以外の任意の成分(例えば、活性化合物を懸濁または溶解させることが可能なビヒクル)を意味する。賦形剤としては、例えば、酸化防止剤、崩壊剤、染料(着色剤)、皮膚軟化剤、乳化剤、増量剤(希釈剤)、矯味矯臭薬、香料、防腐剤、印刷インク、吸着剤、懸濁剤または分散剤、甘味料、液体溶媒、及び緩衝剤が挙げられ得る。
【0024】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書で使用する場合、過度の毒性、刺激、アレルギー性応答などを有さず、及び、合理的なベネフィット/リスク比に相応する、健全な医学的判断の範囲内においてヒト及び動物の組織に接触させて使用するのに適している塩を表す。薬学的に許容される塩は、当該技術分野において周知である。例えば、薬学的に許容される塩は、Berge et al.,J.Pharmaceutical Sciences 66:1-19,1977及びPharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,(Eds.P.H.Stahl and C.G.Wermuth),Wiley-VCH、2008に記載されている。塩は、本明細書に記載される化合物の最終的な単離及び精製の間にインサイチュで調製することができるか、または、遊離塩基性基を適切な有機酸と反応させることによって別々に調製することができる。代表的な酸付加塩としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプトン酸塩、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などが挙げられる。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウムカチオン、リチウムカチオン、カリウムカチオン、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオンなど、並びに、無毒性アンモニウムカチオン、第4級アンモニウムカチオン、及びアミンカチオン(これらは、限定するものではないが、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなどを包含する)などが挙げられる。
【0025】
「薬学的に許容される溶媒和物」という用語は、本明細書で使用する場合、適切な溶媒の分子がその結晶格子の中に組み込まれている、本明細書に記載される化合物を意味する。適切な溶媒は、投与された投与量において生理学的に許容され得る。例えば、溶媒和物は、有機溶媒、水またはそれらの混合物を含む溶液からの結晶化、再結晶化、または沈澱によって調製することができる。適切な溶媒の例は、エタノール、水(例えば、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物及び五水和物)、N-メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMEU)、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2-(1H)-ピリミジノン(DMPU)、アセトニトリル(ACN)、プロピレングリコール、酢酸エチル、ベンジルアルコール、2-ピロリドン、安息香酸ベンジルなどである。溶媒和物が水である場合、溶媒和物は、「水和物」と称される。
【0026】
「白金系抗腫瘍剤」という用語は、本明細書で使用する場合、Pt(II)またはPt(IV)の配位化合物を表す。白金系抗腫瘍剤は、白金系として当該技術分野で公知である。典型的には、白金系抗腫瘍剤は、窒素スペクテーター配位子(複数可)によって占有される白金中心に少なくとも2つの配位部位を含む。窒素スペクテーター配位子は、単座または二座配位子であり、ドナー原子は、配位子内でsp3-またはsp2-混成窒素原子である。窒素スペクテーター配位子の非限定例は、アンモニア、1,2-シクロヘキサンジアミン、ピコリン、フェナンスリン、または1,6-ヘキサンジアミンである。白金系抗腫瘍剤の非限定例としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、及びサトラプラチンが挙げられる。
【0027】
「対象」という用語は、本明細書で使用する場合、動物(例えば、哺乳動物、例えば、ヒト)を指す。本明細書に記載される方法に従って治療される対象は、(例えば、良性腫瘍、悪性腫瘍、またはがんの治療のための)白金系抗腫瘍剤を含む治療レジメンで治療されるものであり得る。患者は、当該技術分野で公知の任意の方法または技術によって良性腫瘍、悪性腫瘍、またはがんと診断されていてもよい。当業者であれば、本発明に従って治療される対象が、標準試験を施されていてもよいし、または、白金系抗腫瘍剤を含む治療レジメンを受けていることによる高リスクであると、試験することなく特定されていてもよいことが理解されるであろう。
【0028】
「実質的に中性」という用語は、本明細書で使用する場合、20℃で測定した際に、5.5~約8.5のpHレベルを指す。
「張性剤」という用語は、本明細書で使用する場合、医薬組成物のオスモル濃度の制御に使用される薬学的に許容される賦形剤の一種を指す。張性剤の非限定例としては、実質的に中性の緩衝剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液、または人工外リンパ)、デキストロース、マンニトール、グリセリン、塩化カリウム、及び塩化ナトリウム(例えば、高張、等張、または低張生理食塩水として)が挙げられる。人工外リンパは、NaCl(120~130mM)、KCl(3.5mM)、CaCl2(1.3~1.5mM)、MgCl2(1.2mM)、グルコース(5.0~11mM)、及び緩衝剤(例えば、NaHCO3(25mM)及びNaH2PO4(0.75mM)、またはHEPES(20mM)及びNaOH(約7.5のpHに調整された))を含有する水溶液である。
【0029】
「経鼓膜」という用語は、投与経路を参照して本明細書で使用する場合、鼓膜全体への注射または注入による正円窓への送達を意味する。経鼓膜注射は、鼓膜を通じて、または、鼓膜に埋め込まれた管を通じて(例えば、中耳腔換気用チューブまたはグロメットを通じて)直接行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A】0.1Mチオ硫酸ナトリウム及び20%(w/v)ポロキサマー407を含むゲルを投与したモルモットにおける血漿、外リンパ、及び脳脊髄液の経時的なチオ硫酸濃度の変化を示すチャートである。
【
図1B】0.5Mチオ硫酸ナトリウム及び1%(w/v)ヒアルロナンを含むゲルを投与したモルモットにおける血漿、外リンパ、及び脳脊髄液の経時的なチオ硫酸濃度の変化を示すチャートである。
【
図2A】0.1Mチオ硫酸ナトリウム及び2%(w/v)ヒアルロナンを含むゲルを投与したモルモットにおける血漿、外リンパ、及び脳脊髄液の経時的なチオ硫酸濃度の変化を示すチャートである。
【
図2B】0.5Mチオ硫酸ナトリウム及び2%(w/v)ヒアルロナンを含むゲルを投与したモルモットにおける血漿、外リンパ、及び脳脊髄液の経時的なチオ硫酸濃度の変化を示すチャートである。
【
図3A】聴性脳幹反応試験中に5つのコホートのモルモット(n=27頭の動物)にわたって測定された、4、24、及び32kHzでの閾値音圧レベルを示すチャートである。聴性脳幹反応試験の7日前に、全モルモットにシスプラチンのボーラスを腹腔内に注入した。ベースライン閾値は、シスプラチン未使用のモルモット(n=100個の耳)における聴性脳幹反応試験履歴記録から得られた。ベースライン閾値を陰影領域曲線として示す。
【
図3B】難聴を有するとされたモルモット(n=18頭の動物)の聴性脳幹反応試験中に測定された、4、24、及び32kHzでの閾値音圧レベルを示すチャートである。聴性脳幹反応試験の7日前に、全モルモットにシスプラチンのボーラスを腹腔内に注入した。ベースライン閾値は、シスプラチン未使用のモルモット(n=100個の耳)における聴性脳幹反応試験の履歴記録から得られた。ベースライン閾値を陰影領域曲線として示す。
【
図4A】難聴を有するとされたモルモット(n=18頭の動物)の聴性脳幹反応試験中に測定された、4、24、及び32kHzでの閾値音圧レベルを示すチャートである。聴性脳幹反応試験の7日前に、全モルモットにシスプラチンのボーラスを腹腔内に注入した。ベースライン閾値は、シスプラチン未使用のモルモット(n=100個の耳)における聴性脳幹反応試験の履歴記録から得られた。ベースライン閾値を陰影領域曲線として示す。
【
図4B】シスプラチンチャレンジ後にビヒクルまたはチオ硫酸ナトリウムをそれぞれの片耳に投与したモルモットの聴性脳幹反応(ABR)試験中に測定した、4、24、及び32kHzでの平均閾値音圧レベルを示すチャートである。ベースライン閾値は、シスプラチン未使用のモルモット(n=100個の耳)における聴性脳幹反応試験の履歴記録から得られた。ベースライン閾値を陰影領域曲線として示す。
【
図5】モルモットの片耳にビヒクルまたはチオ硫酸ナトリウムを投与した後のシスプラチンチャレンジ試験を示す図である。
【
図6】シスプラチンチャレンジ後にビヒクルまたはチオ硫酸ナトリウム(0.1M、0.5M、または1Mチオ硫酸ナトリウムゲル)をそれぞれの片耳に投与したモルモットの聴性脳幹反応(ABR)試験中に測定した、4、24、及び32kHzでの平均閾値音圧レベルを示すチャートである。ベースライン閾値は、シスプラチン未使用のモルモット(n=100個の耳)における聴性脳幹反応試験の履歴記録から得られた。ベースライン閾値を陰影領域曲線として示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
一般的に、本発明は、抗白金化学保護剤を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、白金系抗腫瘍剤を受けている対象(例えば、腫瘍またはがんを有する対象)における白金誘発の耳毒性の治療に使用され得る。白金系抗腫瘍剤の非限定例としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、及びサトラプラチンが挙げられる。
【0032】
本発明の医薬組成物は、同じ白金系抗腫瘍剤レジメンを受けているが抗白金化学保護剤を受けていない基準対象と比べて、8kHz以上(例えば、8kHz~20kHzの間)の周波数で対象における音圧レベル閾値上昇において少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%)の低下で測定されるような、白金系抗腫瘍剤を受けている対象における難聴を予防または軽減し得る。
【0033】
本発明の医薬組成物は、高張である。理論に束縛されることを望むものではないが、より高い張度の本発明の医薬組成物は、より低い張度(例えば、低張または等張)の組成物と比べて、対象の正円窓において抗白金化学保護剤のバイオアベイラビリティを改善すると考えられる。バイオアベイラビリティは、典型的には、抗白金化学保護剤を動物(例えば、哺乳動物)に投与した後に、それのAUCinfとして測定される。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)の計算オスモル濃度は、例えば、少なくとも400mOsm/L(例えば、少なくとも500mOsm/L、少なくとも600mOsm/L、少なくとも700mOsm/L、少なくとも800mOsm/L、少なくとも900mOsm/L、少なくとも1,000mOsm/L、少なくとも1,500mOsm/L、少なくとも2,000mOsm/L、少なくとも2,500mOsm/L、または少なくとも3,000mOsm/L)、及び/または5,000mOsm/L以下(例えば、4,000mOsm/L以下、3,000mOsm/L以下、2,000mOsm/L以下、1,900mOsm/L以下、1,800mOsm/L以下、1,700mOsm/L以下、1,600mOsm/L以下、または1,500mOsm/L以下)であり得る。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)の計算オスモル濃度は、例えば、1,500~4,500mOsm/Lであり得る。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)の計算オスモル濃度は、例えば、3,000~4,500mOsm/Lであり得る。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)の測定オスモル濃度は、例えば、少なくとも0.3Osm/kg(例えば、少なくとも0.5Osm/kg、少なくとも0.6Osm/kg、少なくとも0.7Osm/kg、少なくとも0.8Osm/kg、少なくとも0.9Osm/kg、少なくとも1.0Osm/kg、少なくとも1.2Osm/kg、少なくとも1.4Osm/kg、または少なくとも1.8Osm/kg)であり得る。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)の測定オスモル濃度は、例えば、2.5Osm/kg以下(例えば、2.1Osm/kg以下)であり得る。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)の測定オスモル濃度は、例えば、0.3~2.5Osm/kg(例えば、0.5~2.5Osm/kg、0.6~2.5Osm/kg、0.7~2.5Osm/kg、0.8~2.5Osm/kg、0.9~2.5Osm/kg、1.0~2.5Osm/kg、1.2~2.5Osm/kg、1.4~2.5Osm/kg、1.8~2.5Osm/kg、0.5~2.1Osm/kg、0.6~2.1Osm/kg、0.7~2.1Osm/kg、0.8~2.1Osm/kg、0.9~2.1Osm/kg、1.0~2.1Osm/kg、1.2~2.1Osm/kg、1.4~2.1Osm/kg、または1.8~2.1Osm/kg)であり得る。「計算オスモル濃度」とは、1Lの脱イオン水または蒸留水中の1つ以上の化合物の溶解によって生成されたイオン及び/または中性分子のmmoleの数を指し、計算オスモル濃度は、高分子賦形剤(例えば、ゲル化剤)から生成されるイオン及び/または中性分子を含まない。「測定オスモル濃度」とは、浸透圧計(典型的には、膜浸透圧計)を用いて測定される、組成物のオスモル濃度を指す。
【0034】
抗白金化学保護剤は、例えば、本発明の医薬組成物のオスモル濃度に寄与する唯一の化合物であり得る。あるいは、所望の濃度の抗白金化学保護剤によって得られるものより高いオスモル濃度が、例えば、張性剤の使用を介して達成され得る。張性剤は、高張、等張、または低張賦形剤(例えば、低張液体溶媒)で存在し得る。張性剤の非限定例としては、実質的に中性の緩衝剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液、または人工外リンパ)、デキストロース、マンニトール、グリセリン、塩化カリウム、及び塩化ナトリウム(例えば、高張、等張、または低張生理食塩水として)が挙げられる。
【0035】
抗白金化学保護剤
本発明の医薬組成物は、抗白金化学保護剤を含む。理論に束縛されることを望むものではないが、抗白金化学保護剤は、白金系抗腫瘍剤に存在する白金中心に競合的に結合し、それを実質的に錯化飽和することによって、白金系抗腫瘍剤の毒性を低下または排除すると考えられる。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)中の抗白金化学保護剤の濃度は、例えば、少なくとも約0.05M(例えば、少なくとも約0.1M、少なくとも約0.2M、少なくとも約0.3M、少なくとも約0.4M、少なくとも約0.5M、または少なくとも約1M)であり得る。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)中の抗白金化学保護剤の濃度は、例えば、約2.5M以下(例えば、2.0M以下、1.5M以下、1.0M以下、0.5M以下、約0.3M以下、または約0.2M以下)であり得る。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)中の抗白金化学保護剤の濃度の非限定例は、例えば、約0.05M~約1.5M、約0.05M~約0.5M、約0.05M~約0.2M、約0.05M~約0.1M、約0.1M~約1.5M、約0.1M~約0.5M、約0.1M~約0.2M、約0.2M~約1.5M、約0.2M~約0.5M、約0.5M~約1.5M、0.05M~約1.0M、約0.05M~約0.5M、約0.05M~約0.2M、約0.05M~約0.1M、約0.1M~約1.0M、約0.1M~約0.5M、約0.1M~約0.2M、約0.2M~約1.0M、約0.2M~約0.5M、または約0.5M~約1.0M、または約1.0M~約1.5Mであり得る。好ましくは、本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)中の抗白金化学保護剤の濃度は、約1.0M~約1.5Mである。
【0036】
抗白金化学保護剤は、当該技術分野で公知である。抗白金化学保護剤の非限定例としては、アルカリチオ硫酸塩またはチオ硫酸アンモニウム塩(例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、またはチオ硫酸アンモニウム)またはその溶媒和物(例えば、チオ硫酸ナトリウム五水和物)、アルカリ性ジエチルジチオカルバミン酸、アミフォスチン、メチオニン、N-アセチルシステイン、システイン、2-アミノエタンチオール、グルタチオン(GSH)またはそのC1-C6アルキルエステル(例えば、グルタチオンエチルエステル:γ-Glu-Cys-Gly-OEt)またはその塩、リシンまたはその塩、ヒスチジンまたはその塩、アルギニンまたはその塩、エチレンジアミン四酢酸またはその塩(例えば、アルカリ塩)、ジメルカプロール、ジメルカプトコハク酸またはその塩(例えば、アルカリ塩)、ジメルカプトプロパンスルホン酸塩(例えば、アルカリ塩またはアンモニウム塩)、ペニシラミン、α-リポ酸またはその塩(例えば、アルカリ塩またはアンモニウム塩)、またはフルスルチアミンまたはその塩が挙げられる。好ましくは、抗白金化学保護剤は、アルカリチオ硫酸塩またはチオ硫酸アンモニウム塩である。より好ましくは、抗白金化学保護剤は、チオ硫酸ナトリウムである。
【0037】
ゲル化剤
本発明の医薬組成物は、ゲル化剤を含む。ゲル化剤を使用して、医薬組成物の粘度を増加させることによって、標的部位での医薬組成物の保持を改善させる。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、溶媒に対して、例えば、約0.1%~約25%(w/v)(例えば、約0.1%~約20%(w/v)、約0.1%~約10%(w/v)、約0.1%~約2%(w/v)、約0.5%~約25%(w/v)、約0.5%~約20%(w/v)、約0.5%~約10%(w/v)、約0.5%~約2%(w/v)、約1%~約20%(w/v)、約1%~約10%(w/v)、約1%~約2%(w/v)、約5%~約20%(w/v)、約5%~約10%(w/v)、または約7%~約10%(w/v))のゲル化剤を含み得る。好ましくは、本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、溶媒に対して、例えば、約0.5%~約25%(w/v)(例えば、約0.5%~約20%(w/v)、約0.5%~約10%(w/v)、約0.5%~約2%(w/v)、約1%~約20%(w/v)、約1%~約10%(w/v)、約1%~約2%(w/v)、約5%~約20%(w/v)、約5%~約10%(w/v)、または約7%~約10%(w/v))のゲル化剤を含み得る。
【0038】
本発明の医薬組成物で使用され得るゲル化剤は、当該技術分野で公知である。ゲル化剤の非限定例としては、ヒアルロナン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、アルギン酸またはその塩、ポリエチレングリコール、セルロース、セルロースエーテル、カルボマー(例えば、Carbopol(登録商標))、寒天、ゼラチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン(例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、またはタラガム)、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、デンプン、トラガカント、カラギーナン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、パラフィン、ワセリン、ケイ酸塩、フィブロイン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。本明細書に記載されるゲル化剤は、当該技術分野で公知である。好ましくは、ゲル化剤は、ヒアルロナンである。
【0039】
本発明の医薬組成物は、溶媒に対して、例えば、約0.5%~約2%(w/v)(例えば、約1%~約2%(w/v))のヒアルロナンを含み得る。本発明の医薬組成物は、溶媒に対して、例えば、約5%~約10%(w/v)(例えば、約6%~約8%(w/v))のメチルセルロースを含み得る。本発明の医薬組成物は、例えば、ゲル化剤としてヒアルロナン及びメチルセルロース(例えば、溶媒に対して約0.5%~約2%(w/v)のヒアルロナン及び約5%~約10%(w/v)のメチルセルロース)を含み得る。本発明の医薬組成物は、例えば、ゲル化剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)を含み得る。本発明の医薬組成物は、溶媒に対して、例えば、約1%~約20%(w/v)(例えば、約1%~約15%(w/v)、約1%~約10%(w/v)、約5%~約20%(w/v)、約5%~約15%(w/v)、約5%~約10%(w/v)、約10%~約20%(w/v)、または約10%~約15%(w/v))のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)を含み得る。ポロキサマーは、ポロキサマー407、ポロキサマー188、またはその組み合わせであり得る。本発明の医薬組成物は、溶媒に対して、例えば、ゲル化剤として約0.5%(w/v)~約20%(w/v)のフィブロインを含み得る。
【0040】
ヒアルロナンは、ヒアルロン酸またはその塩(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)である。ヒアルロナンは、当該技術分野で公知であり、典型的には、種々の細菌(例えば、Streptococcus zooepidemicus、Streptococcus equi、またはStreptococcus pyrogenes)または他の供給源、例えば、ウシ硝子体液または雄鶏のとさかから単離される。ヒアルロナンの重量平均分子量(MW)は、典型的には、約50kDa~約10MDaである。好ましくは、ヒアルロナン(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)のMWは、約500kDa~6MDa(例えば、約500kDa~約750kDa、約600kDa~約1.1MDa、約750kDa~約1MDa、約1MDa~約1.25MDa、約1.25MDa~約1.5MDa、約1.5MDa~約1.75MDa、約1.75MDa~約2MDa、約2MDa~約2.2MDa、約2MDa~約2.4MDa)である。より好ましくは、ヒアルロナン(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)のMWは、約620kDa~約1.2MDaまたは約1.2MDa~約1.9MDaである。ヒアルロナンの他の好ましい分子量範囲は、例えば、約600kDa~約1.2MDaを含む。
【0041】
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、当該技術分野で公知である。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーの非限定例は、ポロキサマーであり、そこでは単一のポリオキシプロピレンブロックが2つのポリオキシエチレンブロックに隣接している。ポロキサマーは、種々の商品名、例えば、Synperonic(登録商標)、Pluronic(登録商標)、Kolliphor(登録商標)、及びLutrol(登録商標)で市販されている。本発明の医薬組成物は、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)を含み得、これは、例えば、約1,100g/mol~約17,400g/mol(例えば、約2,090g/mol~約2,360g/mol、約7,680g/mol~約9,510g/mol、6,830g/mol~約8,830g/mol、約9,840g/mol~約14,600g/mol、または約12,700g/mol~約17,400g/mol)の数平均分子量(Mn)を有するポリオキシプロピレンブロックを含む。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)は、約1,100g/mol~約4,000g/molの数平均分子量(Mn)及び約30%~約85%(w/w)の計算ポリオキシエチレン含有量を有するポリオキシプロピレンブロックを含み得る。好ましくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)は、例えば、約1,800g/mol~約4,000g/molの計算分子量を有するポリオキシプロピレンブロックを含み得る。好ましくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)の計算ポリオキシエチレン含有量は、例えば、約70%~約80%(w/w)であり得る。好ましくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)は、例えば、約7,680g/mol~約14,600g/molの数平均分子量を有し得る。ポロキサマーの非限定例は、ポロキサマー407及びポロキサマー188である。
【0042】
セルロース及びセルロースエーテルは、当該技術分野で公知である。セルロース及びセルロースエーテルは、種々の商品名、例えば、Avicel(登録商標)、MethocelTM、Natrosol(登録商標)、及びTylose(登録商標)で市販されている。セルロースエーテルの非限定例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。セルロースエーテル(例えば、メチルセルロース)は、例えば、約5kDa~約300kDaの数平均分子量(Mn)を有し得る。メチル置換セルロース(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはメチルヒドロキシエチルセルロース)は、例えば、19%~35%(例えば、19%~30%)のメチル含有量を有し得る。
【0043】
フィブロインは、多くの昆虫によって生成される絹に存在するタンパク質である。フィブロインは、当該技術分野で公知であり、様々な販売業者、例えば、Jiangsu SOHO International Group、Simatech,Suzhou,China、Xi’an Lyphar Biotech,Ltd.、Xi’an Rongsheng Biotechnology、Mulberry Farms、Treenway Silks、Sharda Group、Maniar Enterprises、及びWild Fibresから市販されている。絹フィブロインの分子量は、典型的には、約10kDa~約500kDaである。フィブロインは、WO2017/139684に記載されており、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
架橋ゲル化剤
本発明の医薬組成物は、非架橋または架橋ゲル化剤を含み得る。ゲル化剤は、当該技術分野で公知の架橋剤を用いて架橋され得る。好ましくは、架橋ゲル化剤は、共有架橋されている。架橋ゲル化剤を含む医薬組成物(例えば、医薬剤形)を使用して、抗白金化学保護剤の放出特性を制御し得る。例えば、架橋ゲル化剤を含有する医薬組成物(例えば、医薬剤形)からの抗白金化学保護剤の放出は、基準組成物中のゲル化剤の架橋の欠如だけが医薬組成物とは異なる基準組成物に比べて、放出を延長し得る。抗白金化学保護剤の放出の延長は、医薬組成物と基準組成物のTmax値を比較することで評価し得る。
【0045】
ある特定のゲル化剤、例えば、カルボン酸部分を有するもの(例えば、ヒアルロナン、アルギン酸、及びカルボキシメチルセルロース)は、イオン架橋剤(例えば、多価金属イオン、例えば、Mg2+、Ca2+、またはAl3+)を用いて、イオン架橋することができる。ゲル化剤のイオン架橋技術は、当該技術分野で公知である(例えば、米国特許第6,497,902号及び同第7,790,699号を参照されたい。その開示は、参照により本明細書に組み込まれる)。典型的には、ゲル化剤は、多価金属イオン、例えば、Mg2+、Ca2+、またはAl3+)をイオン架橋剤として用いて、水溶液中でイオン架橋することができる。理論に束縛されることを望むものではないが、金属イオンは、ゲル化剤の異なる分子に(例えば、ゲル化剤の異なる分子上に存在するペンダントカルボン酸に)配位するため、ゲル化剤のこれらの異なる分子間に連結を形成すると考えられる。
【0046】
反応性官能基、例えば、-OH、-COOH、または-NH2を有するある特定のゲル化剤は、共有架橋し得る。ゲル化剤の共有架橋技術は、当該技術分野で公知である(例えば、Khunmanee et al.,J.Tissue Eng.,8:2041731417726464、2017を参照されたい。その開示は、参照により本明細書に組み込まれる)。共有架橋剤の非限定例としては、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ジビニルスルホン、グルタルアルデヒド、臭化シアン、オクテニルコハク酸無水物、酸塩化物、ジイソシアネート、無水メタクリル酸、ホウ酸、及び過ヨウ素酸ナトリウム/アジピン酸ジヒドラジドが挙げられる。
【0047】
他の賦形剤
本発明の医薬組成物は、ゲル化剤以外の医薬賦形剤を含み得る。例えば、本発明の医薬組成物は、例えば、液体溶媒、張性剤、緩衝剤、及び/または着色剤を含み得る。ある特定の賦形剤は、多面的な役割を果たし得る。例えば、担体としてのその機能に加えて液体溶媒は、張性剤及び/または緩衝剤として使用され得る。かかる溶媒は、当該技術分野で公知であり、例えば、生理食塩水(例えば、高張生理食塩水、低張生理食塩水、等張生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水)及び人工外リンパである。
【0048】
液体溶媒は、ビヒクルとして本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)で使用され得る。液体溶媒は、当該技術分野で公知である。液体溶媒の非限定例としては、水、生理食塩水(例えば、高張生理食塩水、低張生理食塩水、等張生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水)、人工外リンパ、及びトリス緩衝液が挙げられる。人工外リンパは、NaCl(120~130mM)、KCl(3.5mM)、CaCl2(1.3~1.5mM)、MgCl2(1.2mM)、グルコース(5.0~11mM)、及び緩衝剤(例えば、NaHCO3(25mM)及びNaH2PO4(0.75mM)、またはHEPES(20mM)及びNaOH(約7.5のpHに調整された))を含有する水溶液である。
【0049】
張性剤は、本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)中に含まれて、抗白金化学保護剤によって得られるものと比べてオスモル濃度を増加させ得る。張性剤は、当該技術分野で公知である。張性剤の非限定例としては、実質的に中性の緩衝剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液、または人工外リンパ)、デキストロース、マンニトール、グリセリン、塩化カリウム、及び塩化ナトリウム(例えば、高張、等張、または低張生理食塩水として)が挙げられる。張性剤の非限定例としては、実質的に中性の緩衝剤(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液、または人工外リンパ)、デキストロース、マンニトール、グリセリン、塩化カリウム、及び塩化ナトリウム(例えば、高張、等張、または低張生理食塩水として)が挙げられる。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、高張医薬剤形(例えば、少なくとも400mOsm/L(例えば、少なくとも500mOsm/L、少なくとも600mOsm/L、または少なくとも700mOsm/L)、及び/または2,500mOsm/L以下(例えば、2,000mOsm/L、1,900mOsm/L以下、1,800mOsm/L以下、1,700mOsm/L以下、1,600mOsm/L以下、または1,500mOsm/L以下)の計算オスモル濃度を有する医薬剤形)を対象に投与するために、十分な量の張性剤を含む。例えば、本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)中の張性剤の標的濃度は、例えば、(i)抗白金化学保護剤及び他の非高分子賦形剤の計算オスモル濃度寄与を総標的計算オスモル濃度から差し引いて、張性剤からの標的計算オスモル濃度寄与を得ること、及び(ii)張性剤からの標的計算オスモル濃度寄与を、液体溶媒中に張性剤が溶解した際に生成されたイオン及び/または分子の数で除することによって、張性剤の濃度を決定することで決定することができる。従って、適切な量の張性剤を本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)中に含めることができる。
【0050】
緩衝剤を使用して、本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)のpHを実質的に中性のpHレベルに調整してもよい。緩衝剤は、当該技術分野で公知である。緩衝剤の非限定例として、例えば、リン酸緩衝液及びグッドの緩衝液(例えば、トリス、MES、MOPS、TES、HEPES、HEPPS、トリシン、及びビシン)が挙げられる。pH制御に加えて、緩衝剤を使用して、本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)のオスモル濃度を制御してもよい。
【0051】
使用方法
本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、白金系抗腫瘍剤に対して耳毒性保護特性を呈し得、白金誘発の耳毒性の予防または緩和を、それを必要とする対象において行う方法に使用され得る。方法は、対象の正円窓への本発明の医薬組成物の投与を含む。対象は、白金系抗腫瘍剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、またはサトラプラチン)による治療を受けていてもよい。
【0052】
本発明の医薬組成物は、例えば、対象への白金系抗腫瘍剤の投与の前後に対象に投与してもよい。あるいは、本発明の医薬組成物は、例えば、白金系抗腫瘍剤の投与と同時に投与してもよい。本発明の医薬組成物は、例えば、白金系抗腫瘍剤の投与の1時間以内(例えば、15分、30分、または1時間前後以内)に投与してもよい。あるいは、本発明の医薬組成物は、例えば、白金系抗腫瘍剤の24時間以内(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または24時間前後以内)に投与してもよい。本発明の医薬組成物は、白金系抗腫瘍剤の投与との調整をせずに投与してもよい。代わりに、対象が白金系抗腫瘍剤を含む化学療法を受けている期間中、本発明の医薬組成物は、1日1回または2回、1日置き、週2回、または週1回投与してもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、少なくとも50μL(好ましくは、少なくとも100μL、より好ましくは、少なくとも200μL)の医薬組成物を対象の正円窓に投与する。特定の実施形態では、1mL以下(例えば、0.8mL以下または0.5mL以下)の医薬組成物を対象の正円窓に投与する。ある特定の実施形態では、100μL~1mL(例えば、200μL~1mL、100μL~0.8mL、200μL~0.8mL、100μL~0.5mL、200μL~0.5mL、0.5mL~1.0mL、0.5mL~0.8mL、または0.8mL~1.0mL)の医薬組成物を対象の正円窓に投与する。
【0054】
典型的には、本発明の医薬組成物は、白金系抗腫瘍剤とは異なる経路で投与してもよい。本発明の方法は、局所投与経路を利用してもよく、例えば、本発明の医薬組成物は、鼓室内的または経鼓膜的に投与してもよい。経鼓膜投与は、鼓膜を通じて鼓膜腔への有効量の本発明の医薬組成物の注射または注入を含むことによって、抗白金化学保護剤を正円窓に提供してもよい。
【0055】
調製方法
本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)は、抗白金化学保護剤、ゲル化剤、及び液体溶媒から調製してもよい。本発明の医薬組成物(例えば、医薬剤形)の調製方法は、(i)抗白金化学保護剤及びゲル化剤を提供すること、及び(ii)抗白金化学保護剤及びゲル化剤を液体溶媒と混合して、医薬組成物を生成することを含む。
【0056】
抗白金化学保護剤及びゲル化剤は、例えば、混合物または別々の成分として提供してもよい。抗白金化学保護剤及びゲル化剤を別々に提供する場合、ステップ(ii)は、例えば、
(a)液体溶媒を最初にゲル化剤と混合して、中間混合物を提供した後、中間混合物を抗白金化学保護剤と混合すること、
(b)液体溶媒を最初に抗白金化学保護剤と混合して、中間混合物を提供した後、中間混合物をゲル化剤と混合すること、または
(c)液体溶媒の一部分を抗白金化学保護剤と混合して、第1の混合物を提供すること、液体溶媒の別の部分をゲル化剤と混合して、第2の混合物を提供すること、及び第1及び第2の混合物を組み合わせることを含み得る。
【0057】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図する。実施例は、本発明を如何様にも限定することを意図しない。
【実施例】
【0058】
実施例1.製剤
ポロキサマー407ゲル1(0.1M STS、20%(w/v)ポロキサマー407)
チオ硫酸ナトリウム五水和物(106.07mg)を、無菌バイアル中で無菌蒸留水(4.274mL)中に溶解し、透明な溶液を生成した。ポロキサマー407(855mg、精製、非イオン性、Sigma-Aldrich)を溶液に加え、得られた混合物を4℃で15~20分間攪拌した。エバンスブルー(4.27mg)をバイアルに加え、4℃(氷/水浴)で10分間攪拌した。
【0059】
ポロキサマー407ゲル2(0.5M STS、16%(w/v)ポロキサマー407)
ポロキサマー407ゲル2は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.5M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得て、ポロキサマー407の量を調節して、16%(w/v)濃度のポロキサマー407を得たことを除いて、ポロキサマー407ゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0060】
0.6M~0.8M STS、16%(w/v)ポロキサマー407によるポロキサマー407ゲルの調製により、ゲル形成しない沈殿が観察された。
ヒアルロナンゲル1(0.5M STS、1%(w/v)ヒアルロナン)
チオ硫酸ナトリウム五水和物(619.75mg)を、無菌バイアル中で無菌蒸留水(5mL)中に溶解し、透明な溶液を生成した。ヒアルロナン(50.30mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を溶液に加え、得られた混合物を4℃で8~10分間攪拌した。得られた溶液を0.22μmのMillex-GV無菌フィルターを介して濾過した。
【0061】
ヒアルロナンゲル2(0.1M STS、2%(w/v)ヒアルロナン)
チオ硫酸ナトリウム五水和物(124.87mg)を無菌蒸留水(3.031mL)中に溶解した。メチルセルロース(351.01mg、Methocel(登録商標)A15 Premium LV、Dow Chemical Company)を無菌蒸留水(2.0mL)中に溶解し、得られた溶液をチオ硫酸ナトリウム溶液と混合した。ヒアルロナン(100.10mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を得られた混合物に加え、4℃で10~15分間混合した。
【0062】
ヒアルロナンゲル3(0.5M STS、2%(w/v)ヒアルロナン)
チオ硫酸ナトリウム五水和物(620.35mg)を無菌蒸留水中に溶解した(3mL)。メチルセルロース(350.23mg、Methocel(登録商標)A15 Premium LV、Dow Chemical Company)を無菌蒸留水(2.0mL)中に溶解し、得られた溶液をチオ硫酸ナトリウム溶液と混合した。ヒアルロナン(100.65mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を得られた混合物に加え、4℃で10~15分間混合した。
【0063】
ヒアルロナンゲル4(0.1M STS、1%(w/v)ヒアルロナン、マンニトール)
ヒアルロナン(50.09mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を水(5mL)に加えた。チオ硫酸ナトリウム五水和物(124.9mgs)を加えた。水酸化ナトリウム(1N、およそ0.5μL)を加えることで、得られた混合物のpHをpH7.12に調節した。適切な量のマンニトールをバイアルに加えて、オスモル濃度を1.046Osm/kgに調整した。粘性溶液を0.22μmのMillex-GVフィルターを介して濾過した。
【0064】
ヒアルロナンゲル5(0.1M STS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル5は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.1M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0065】
ヒアルロナンゲル6(0.2M STS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル6は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.2M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0066】
ヒアルロナンゲル7(0.3M STS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル7は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.3M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0067】
ヒアルロナンゲル8(0.4M STS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル8は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.4M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0068】
ヒアルロナンゲル9(0.5M STS、1%(w/v)ヒアルロナン、トリス(5x))
ヒアルロナン(79.99mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)をトリス緩衝液(8mL、AMRESCO-0497-500G)に加えた。HCl(5N)を加えることで、得られた混合物のpHをpH7.13に調節した。チオ硫酸ナトリウム五水和物(992.60mg)を上記の溶液に加えた。粘性溶液を0.22μmのMillex-GVフィルターを介して濾過した。
【0069】
ヒアルロナンゲル10(0.5M STS、1%(w/v)ヒアルロナン、リン酸緩衝生理食塩水(5x))
ヒアルロナン(70.38mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)をPBS緩衝液(7mL、5×)に加えた。チオ硫酸ナトリウム五水和物(868.46mg)を加えた。NaOH(1N)を加えることで、得られた混合物のpHをpH6.99に調節した。粘性溶液を0.22 μM Millex-GVフィルターを介して濾過した。
【0070】
ヒアルロナンゲル11(0.8M STS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル11は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、0.8M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0071】
ヒアルロナンゲル12(1M STS、0.8%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル12は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、1M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得て、かつ、ヒアルロナンの量を調節して、0.8%(w/v)濃度のヒアルロナンを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0072】
ヒアルロナンゲル13(0.5M STS、0.82%(w/v)ヒアルロナン(HYALGAN))
ヒアルロナンゲル13は、チオ硫酸ナトリウム五水和物をヒアルロナン(HYALGAN、Fidia Pharma USA、Florham Park,NJ)と混合して、0.82%(w/v)濃度のヒアルロナンによる最終調製をすることで調製した。
【0073】
ヒアルロナンゲル14(0.5M STS、1%(w/v)ヒアルロナン(SINGCLEAN))
ヒアルロナンゲル14は、ヒアルロナン(SINGCLEAN、Hangzhouh Singclean Medical Products Co.,Ltd.、Hangzhou,China)をこのゲルの調製で使用したことを除いて、ヒアルロナンゲル13について記載した手順に従って調製した。
【0074】
ヒアルロナンゲル15(0.5M STS、1%(w/v)ヒアルロナン(EUFLEXXA))
ヒアルロナンゲル15は、ヒアルロナン(EUFLEXXA、Ferring Pharmaceuticals Inc.、Parsippany,NJ)をこのゲルの調製で使用したことを除いて、ヒアルロナンゲル13について記載した手順に従って調製した。
【0075】
ヒアルロナンゲル16(0.5M STS、1%(w/v)ヒアルロナン(HEALON))
ヒアルロナンゲル16は、ヒアルロナン(HEALON、Johnson & Johnson、New Brunswick,NJ)をこのゲルの調製で使用したことを除いて、ヒアルロナンゲル13について記載した手順に従って調製した。
【0076】
ヒアルロナンゲル17(1M STS、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナンゲル17は、チオ硫酸ナトリウム五水和物の量を調節して、1M濃度のチオ硫酸ナトリウムを得たことを除いて、ヒアルロナンゲル1について記載した手順に従って調製した。
【0077】
ヒアルロナンゲル18(10%(w/v)N-アセチル-L-システイン、1%(w/v)ヒアルロナン)
ヒアルロナン(39.38mg、Pharma Grade 80、Kikkoman Biochemifa company、0.6~1.2mDa)を水(4mL)に加えた。N-アセチル-L-システイン(399.14mg)を加えた。NaOH(10N、240μL)を加えることで、得られた混合物のpHをpH7.21に調節した。粘性溶液を0.22μM Millex-GVフィルターを介して濾過した。浸透圧は、1.107Osm/kgとして測定した。
【0078】
他のヒアルロナンゲルを、本明細書に記載される手順を用いて調製してもよい。例えば、1M及び1.5Mヒアルロナンゲルを、例えば、ヒアルロナンゲル1及びヒアルロナンゲル12に記載のものと同じ手順に従って調製してもよい。加えて、ゲルのpHレベルを、ブレンステッド酸(例えば、塩酸)及び塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて、pH6.5~8.5に調製してもよい。
【0079】
実施例2.薬物動態
モルモット、試験1
体重250~350gのアルビノモルモット(Hartley)を試験に使用した。投与のため、動物の肩を上にして、手術用の耳を上にした状態にして、経耳後法を用いて耳嚢を最初に露出した。直径2~3mmの穴を耳嚢にドリルで開けて、正円窓小窩を直接視覚化した。その後、0.5Mチオ硫酸ナトリウム/2%(w/v)ヒアルロナン(STS組成物)の水性組成物10μLを、10μLハミルトンシリンジ及び26ゲージ針を用いて、正円窓膜上に塗布した。塗布した後、モルモットをこの位置に30分間留めて、化合物を蝸牛に拡散させた。耳嚢の開口を筋移植で密封し、切開を縫合で閉じた。
【0080】
試料採取手順は、要約すると以下の通りである。全ての試料採取手順は、最終段階である。動物をCO
2で安楽死させた。血液の0.5mL試料を心臓穿刺で収集した。4℃で10分間、5,000rpmの遠心分離によって血漿を分離し、別の管に収集した。50μLの脳脊髄液を、大槽を介して収集した。外リンパをエクスビボで収集し、蝸牛水管を介して脳脊髄液が流入する汚染を回避した。側頭骨を迅速に単離し、耳嚢を除去して、蝸牛を露出した。目に見える残り全ての投与組成物を、手術用顕微鏡下の吸収点で注意深く除去してから、外リンパの試料採取を行った。小さな穴を頂点に開けた後、ガラスピペットを引いて、5~7μLの外リンパを試料採取した。全サンプルをドライアイスで直ちに凍結し、分析するまで-80℃で保存した。試料中のチオ硫酸の濃度は、Togawa et al. Chem.Pharm.Bull.,40:3000-3004,1992(その開示は、参照により本明細書に組み込まれる)に開示された方法を用いて測定した。この試験の結果を
図1A、1B、2A、及び2B、及び表1に示す。
【0081】
カニクイザル
カニクイザルにトルフェジン(4mg/kg)を皮下投与した。30分後、プロポフォール(5.5mg/kg)の静脈内ボーラスを介して動物に麻酔をかけた。その後、2~3%のイソフルラン吸入を使用して、動物を麻酔状態に維持した。次いで、動物を固定し、逆トレンデレンブルグ体位で横置きにして、正円窓へのアクセスを確保した。手術プロセス中、動物を暖かい毛布の上に保った。
【0082】
動物が麻酔状態に到達すると、右耳に鼓室内注射を行った。1.1mLの塩酸エピネフリン-生理食塩水(10mL生理食塩水中で0.1mg)及び0.5mLのリドカイン塩酸塩(20mg/mL)を、局所麻酔薬として、各耳の外耳道後壁の皮膚にそれぞれ皮下注射した。その後、耳介後部の皮膚に切開を行い、側頭骨の一部をドリルで開けて、中耳を露出した。50μLのSTS組成物を、25G針を用いて正円窓膜に注射した。投与後、頭部を上にした状態で動物を直線上にして、投与溶液を鼓膜腔に30分間なじませた。その後、対側の耳に対しても同じ手順を繰り返した。
【0083】
血漿及びCSFは、第1の耳(右側)に投与した約2時間後に収集した。右耳蝸牛外リンパの試料採取は、右耳投与の約3時間後に実施した。11mg/kgのプロポフォールをIV投与して動物を安楽死させた後、大腿動脈を介して失血させた。その後、動物を横臥に置いた。耳介後部の皮膚切開を行い、外耳道を抽出して、中耳を露出した。その後、側頭骨の一部をドリルで開けて、蝸牛の基底回転を露出した。中耳の残りの用量(見える場合)を、綿棒で掃除した。組織接着剤を蝸牛底に一滴広げて、投与組成物からの汚染を最小限にした。
【0084】
0.5~1mmの先端の丸いバリまたはかぎ針編みを用いて、蝸牛の基底回転に穴を開けた。その後、蝸牛鼓室階に挿入された毛細管を用いて、外リンパ(約10μL)を収集した。左耳の投与の約2時間後に、左耳の蝸牛外リンパのサンプリングについても同じ手順を繰り返した。この試験の結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
上記の表では、ITは、鼓室内投与、TTは、経鼓膜投与である。
*試験した動物由来の血漿サンプルで測定したチオ硫酸の濃度
モルモット、試験2
おおよそ5~7週齢の体重200~300gの雄のモルモットを対象として使用した(1つの群につきN=5)。任意の手順の前に、腹腔内経路を介して手術前に10分間、ゾラゼパム塩酸塩(Zoletil50;20mg/kg)を用いて、動物に麻酔をかけた。必要な場合、術中の追加用量を、本来の用量の10分の1で腹腔内投与した。
【0087】
鼓室内注射:
1.顕微鏡倍率下で、鋭利なハサミを使用して、耳介頭筋のしわのおおよそ6~8mm尾方にある、0.5~1.5cmの耳介後部皮膚の切開を作成した。深く切り込まないように注意を払って、基礎となる血管構造を温存した。
【0088】
2.皮下脂肪層、筋肉及び組織を介した慎重な鈍的切開を鉗子で行った。鼓室胞骨膜の光沢のあるドームが見えてくるまで、乳様突起筋体を優しく収縮させた。鼓室胞の尾側で、深頸筋に挿入すると、胸筋乳頭が見えてきた。鼓室胞ドームの背側及び吻側に見える顔面神経は、手術中に保存した。
【0089】
3.小さな穴(0.5mm直径)を開ける前に自己保持開創器を置いて、耳嚢の後部にドリルで開けた。宝石職人の先端ピンセットを用いて、背側と尾側の方向において耳嚢骨の蓋を外した。骨を高倍率下で少しずつ除去した。耳嚢蓋の真下にあるアブミ骨動脈からの出血は手順を損ない得るので、この動脈を穿刺しないように注意を払った。良好な視覚化及び正円窓小窩へのアクセスを可能にしながら、中耳への過度の水分流入を防ぐために、除去する骨量を最小限に留めた。
【0090】
4.25~26G鈍針を有する無菌ガラスハミルトンシリンジを用いて、10μLまたは90μLのゲル製剤を正円窓小窩に送達した。
5.送達剤を正円窓小窩内に最大で30分間静止させた。小さな穴を筋組織及び組織接着剤で覆った。
【0091】
6. 切開を縫合(4~0非吸収性モノフィラメントまたは5~0非吸収性ナイロン)及び組織接着剤または創傷クリップで閉じた。全ての手順は、薬剤仕様に応じておおよそ3~5分かかった。
【0092】
7. 手順中、及び回復するまで、動物を、温度調節した(38℃)ヒーティングパッド上に置き、その後意識を取り戻したら、動物を施設に戻した。
あるいは、動物にゲル製剤を経鼓膜的に投与した。
【0093】
試料の収集:
血液の収集:
1. 安楽死ボックスにおいて予備膨張することなく、モルモットをボックス中に置いて、100%二酸化炭素を導入して、動物の意識を失わせて、動物の苦しみを減らした。息が止まってから最低1分間、二酸化炭素流を維持した。死亡を確認後、モルモットを安楽死ボックスから除去した。
【0094】
2. 安楽死直後に血液を収集した。
3. 作業者が動物の背中の位置を固定した後、胸骨の尾根の前に4~6または少し前方に針を挿入した。
【0095】
4. 針を引き戻し、血液を戻した。
5. 容量:血液収集ごとに、約1mLの血液を収集した。
脳脊髄液の収集:
安楽死後に脳脊髄液を収集した。0.5×20の静脈内注入針を90°から大後頭孔にゆっくりと下げた。針が皮膚下の4.5~5mmの距離に到達すると、50~200μlの透明な組織液を抜いた。
【0096】
外リンパ収集:
安楽死後、動物の余分な皮膚及び筋組織を剥がして、完全な耳嚢を得て、耳嚢壁を小鉗子で切って、蝸牛を露出した。耳嚢の基底回転を小さな綿ボールを使用してきれいにした。蝸牛底円及び正円窓をバイオ接着剤で被覆した。乾燥後、蝸牛頂円に、特有の微小穴を手で空けた。その後、蝸牛頂円に挿入したマイクロキャピラリーを使用して、2μL容量の外リンパを収集した。外リンパサンプルを、18μLのウシ血清アルブミン(BSA、1M)を含有するバイアルに入れ、分析まで-80℃で保管した。
【0097】
モルモット、試験2の結果を表2及び3に提供する。
【0098】
【0099】
この表では、TTは、経鼓膜投与である。
*この試験は、先行試験の繰り返しであった。
【0100】
【0101】
上記の表では、ITは、鼓室内投与、TTは、経鼓膜投与である。
実施例3.薬力学
シスプラチンを0.9%(w/v)生理食塩水で希釈し、5mg/mLの最終濃度にした。体重250~350gのアルビノモルモット(Hartley)を試験で使用した。最低3日間の新環境順応の後、28頭の動物を試験に登録した。無菌状態下で、シスプラチンをボーラス注射で腹腔内に投与した。5つのコホートを種々の試験開始日で互い違いの配置にした。
【0102】
シスプラチン投与の7日後、TDT RZ6マルチI/Oプロセッサーを用いて、動物の聴性脳幹反応(ABR)について記録した。履歴ABRデータを使用して、ベースラインを定義した。チレタミン塩酸塩及びゾラゼパム塩酸塩(Zoletil)で動物に麻酔をかけた。音響刺激を、イヤホンを介して供給した。尾腹部位置の外耳道、頭頂、及び下腿の地面の近くに針電極を置いた。刺激レベルは、5dB刻みで10~90dBであり、トーンピップ周波数は、4kHz、24kHz、及び32kHzであった。天井音圧レベルは、90dBであった。ABR閾値は、最低音圧レベルとして重合波形の目視検査によって観察し、この波形は、ノイズフロアを上回った。
【0103】
シスプラチン試験前に、動物の両方の耳(ナイーブn=100)について、50頭の動物からのABRデータを記録した。ナイーブ動物における32kHzの閾値は、39.8dBであった。通常の聴力の範囲は、平均±2SDとして定義し、27.9~51.6dBであった。シスプラチンは、高周波数で難聴を主に誘発する。シスプラチン後の難聴の明確なパターンは、32kHzでの60dB以上の閾値として定義する。
【0104】
この試験では、28頭の動物のうちの1頭が、測定の7日前に死亡した。残りの27頭の動物では、18頭の動物が、32kHzでの60dB超の閾値で難聴であった(
図3A)。32kHzでの難聴の範囲は、65dB~90dBの閾値であった(
図3B)。90dBは、測定天井である。波形がないかまたは波形が90dBでのみ見られる場合、閾値は、90dBとして両方とも定義した。32kHzでの平均閾値は、82dBであり、これは、39.8dBのナイーブ閾値からの平均42.2dBシフトに対応する(
図4A)。
【0105】
局所鼓室内投与及び蝸牛試料採取
局所鼓室内投与及び蝸牛試料採取は、実施例2に記載されるように実施した。
局所送達した抗白金化学保護剤は、白金系抗腫瘍剤から聴覚保護をもたらす
局所送達した抗白金化学保護剤の白金系抗腫瘍剤からの聴覚保護に対する効果の評価を、以下のように実施した。
【0106】
0.5Mチオ硫酸ナトリウム/2%(w/v)ヒアルロナン(STS組成物)の水性組成物またはビヒクルを、上記のように、モルモットの左耳(LE)の正円窓上に鼓室内的に投与し、右耳(RE)は、非処置のままであった(
図5)。STS組成物またはビヒクル投与の60分後、10mg/kgのシスプラチンを動物の腹腔内に注射した。4kHz、24kHz、及び32kHzでのABRは、シスプラチン投与の7日後に両方の耳で測定した。
【0107】
シスプラチンチャレンジ後の難聴の異質性のため、非処置の右耳を使用して、難聴の動物を選択した。32kHzで60dB超の右耳の閾値を有する動物は、21頭であった。これらの21頭の動物のうち、中耳炎を有する3頭は除外し、18頭の動物を最終分析に残した。10頭の動物にビヒクルを投与し、8頭の動物にSTS組成物を投与した(
図4B)。STS組成物群及びビヒクル群の両方の非処置の右耳では、ABR閾値に差異はなく、4kHzで73dB、24kHzで71dB、及び32kHzで80dBの平均閾値であった。ビヒクル処置した左耳は、非処置の右耳と比較して有意差はなく、4kHzで74dB、24kHzで70dB、及び32kHzで74dBの閾値を示した。
【0108】
STS組成物処置の耳は、ビヒクル処置の耳及び非処置の右耳と比較して、32kHz及び24KHzの両方で有意に低い閾値を有した(***P<0.001、2元配置分散分析)。4kHzで、平均閾値は、STS組成物処置の耳で61dBであり、非処置の対側右耳で75dBであり、保護は統計的に有意でなかった(P=0.089)。STS組成物処置の耳の平均閾値は、対側非処置の右耳の69dB及び80dBとは対照的に、24kHz及び32kHzで、それぞれ40dB及び48dBであった。通常の聴覚閾値は、ナイーブ動物において、24kHz及び32kHzで、それぞれ35dB及び40dBであった。ナイーブ耳に対して、シスプラチン後の非処置の耳は、24kHz及び32kHzで、平均でそれぞれ、34dB及び40dBの閾値上昇を有したが、STS組成物処置の耳は、5dB及び8dBのみのシフトであった。そのため、チオ硫酸ナトリウムは、24kHz及び32kHzの両方で、平均で80%の保護をもたらした。
【0109】
本明細書で上記と同様に設計された試験では、4、24、及び32kHzでの音圧レベルは、片耳ごとにビヒクルまたはチオ硫酸ナトリウム(0.1M、0.5M、または1Mチオ硫酸ナトリウムゲル)を投与して、その後にシスプラチンチャレンジ(シスプラチン10MPK、静脈内注射)を受けたモルモットについて、ABR試験中に測定した。異なる用量のヒアルロナンゲルを、シスプラチン投与の1時間前に、10μLのIT注射として左耳に投与した。動物の対側耳(右耳)は非処置であった。ヒアルロナンゲル5(0.1M)、ヒアルロナンゲル1(0.5M)、及びヒアルロナンゲル17(1M)を試験した。非処置の耳は、ナイーブ動物(灰色の陰影領域)と比較して有意な閾値シフトを示した。ヒアルロナンゲル1(0.5M)及びヒアルロナンゲル17(1M)で処置した群は、試験した全周波数で、非処置の対側の対照耳と比較して聴覚保護を示した。保護は、ビヒクル処置の耳で見られなかった。結果を
図6にまとめる。
【0110】
他の実施形態
本明細書に記載される本発明の種々の改変および変形が、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明は、具体的な実施形態との関係において説明されているが、請求される本発明は、そのような具体的な実施形態に過度に限定されるべきでないことが理解されるべきである。実際に、当業者に明らかである本発明の実施形態の種々の改変は、本発明の範囲内であることが意図される。
【0111】
他の実施形態は、特許請求の範囲に見出される。
(付記)
さらに、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
[項目1]
抗白金化学保護剤及びゲル化剤を含む、高張医薬組成物。
[項目2]
前記組成物の計算オスモル濃度が、少なくとも400mOsm/Lである、項目1に記載の高張医薬組成物。
[項目3]
前記組成物の計算オスモル濃度が、少なくとも500mOsm/Lである、項目2に記載の高張医薬組成物。
[項目4]
前記組成物の計算オスモル濃度が、5,000mOsm/L以下である、項目3に記載の高張医薬組成物。
[項目5]
前記組成物の計算オスモル濃度が、4,000mOsm/L以下である、項目4に記載の高張医薬組成物。
[項目6]
前記組成物の計算オスモル濃度が、3,000mOsm/L以下である、項目5に記載の高張医薬組成物。
[項目7]
前記組成物の計算オスモル濃度が、2,000mOsm/L以下である、項目6に記載の高張医薬組成物。
[項目8]
前記組成物の計算オスモル濃度が、1,000mOsm/L以下である、項目7に記載の高張医薬組成物。
[項目9]
前記抗白金化学保護剤が、アルカリチオ硫酸塩もしくはチオ硫酸アンモニウム塩またはその溶媒和物、アルカリ性ジエチルジチオカルバミン酸、アミフォスチン、メチオニン、N-アセチルシステイン、システイン、2-アミノエタンチオール、グルタチオン(GSH)またはそのC
1
-C
6
アルキルエステル、リシン、ヒスチジン、アルギニン、エチレンジアミン四酢酸、ジメルカプロール、ジメルカプトコハク酸、ジメルカプトプロパンスルホン酸塩、ペニシラミン、α-リポ酸、またはフルスルチアミン、またはその塩である、項目1~6のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目10]
前記抗白金化学保護剤が、アルカリチオ硫酸塩、チオ硫酸アンモニウム塩、またはその溶媒和物である、項目7に記載の高張医薬組成物。
[項目11]
前記アルカリチオ硫酸塩が、チオ硫酸ナトリウムまたはその溶媒和物である、項目8に記載の高張医薬組成物。
[項目12]
前記抗白金化学保護剤が、N-アセチルシステインまたはその塩である、項目7に記載の高張医薬組成物。
[項目13]
前記ゲル化剤が、ヒアルロナン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、アルギン酸またはその塩、ポリエチレングリコール、セルロース、セルロースエーテル、カルボマー、寒天、ゼラチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、デンプン、トラガカント、カラギーナン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、パラフィン、ワセリン、ケイ酸塩、フィブロイン、またはその組み合わせである、項目1~12のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目14]
前記ゲル化剤が、ヒアルロナンである、項目13に記載の高張医薬組成物。
[項目15]
前記ゲル化剤が、ヒアルロナンとメチルセルロースの組み合わせである、項目13に記載の高張医薬組成物。
[項目16]
前記セルロースエーテルが、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシプロピルセルロースである、項目13に記載の高張医薬組成物。
[項目17]
前記ゲル化剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーである、項目13に記載の高張医薬組成物。
[項目18]
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーが、ポロキサマー407である、項目17に記載の高張医薬組成物。
[項目19]
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーが、ポロキサマー407とポロキサマー188の組み合わせである、項目17に記載の高張医薬組成物。
[項目20]
前記ゲル化剤が、フィブロインである、項目13に記載の高張医薬組成物。
[項目21]
前記ゲル化剤が架橋している、項目13~20のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目22]
前記ゲル化剤がイオン架橋している、項目21に記載の高張医薬組成物。
[項目23]
前記ゲル化剤が共有架橋している、項目21に記載の高張医薬組成物。
[項目24]
前記ゲル化剤が架橋していない、項目13~20のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目25]
薬学的に許容される液体溶媒をさらに含む、項目1~24のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目26]
前記液体溶媒が、水である、項目25に記載の高張医薬組成物。
[項目27]
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して少なくとも約0.5%(w/v)の前記ゲル化剤を含む、項目25または26に記載の高張医薬組成物。
[項目28]
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して少なくとも約1%(w/v)の前記ゲル化剤を含む、項目27に記載の高張医薬組成物。
[項目29]
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して約2%(w/v)以下の前記ゲル化剤を含む、項目25~28のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目30]
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して約1%(w/v)の前記ゲル化剤を含む、項目29に記載の高張医薬組成物。
[項目31]
前記高張医薬組成物が、前記液体溶媒に対して約20%(w/v)以下の前記ゲル化剤を含む、項目25~28のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目32]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、少なくとも約0.05Mである、項目1~31のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目33]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、少なくとも約0.1Mである、項目32に記載の高張医薬組成物。
[項目34]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、少なくとも約0.2Mである、項目33に記載の高張医薬組成物。
[項目35]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、少なくとも約0.3Mである、項目34に記載の高張医薬組成物。
[項目36]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、少なくとも約0.4Mである、項目35に記載の高張医薬組成物。
[項目37]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、少なくとも約0.5Mである、項目36に記載の高張医薬組成物。
[項目38]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、少なくとも約1.0Mである、項目37に記載の高張医薬組成物。
[項目39]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、約2.5M以下である、項目1~38のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目40]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、約2.0M以下である、項目39に記載の高張医薬組成物。
[項目41]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、約1.5M以下である、項目40に記載の高張医薬組成物。
[項目42]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、約1.0M以下である、項目1~37のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目43]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、約0.5M以下である、項目1~36のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目44]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、約0.3M以下である、項目1~34のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目45]
前記抗白金化学保護剤の濃度が、約0.2M以下である、項目1~33のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目46]
前記医薬組成物のpHが、6.5~8.5である、項目1~45のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目47]
前記高張医薬組成物が、医薬剤形である、項目1~46のいずれか1項に記載の高張医薬組成物。
[項目48]
対象における白金誘発の耳毒性の予防または緩和方法であって、有効量の項目47に記載の高張医薬組成物を前記対象の正円窓に投与することを含む、前記方法。
[項目49]
有効量の前記高張医薬組成物を鼓室内または経鼓膜で投与する、項目48に記載の方法。
[項目50]
前記対象に白金系抗腫瘍剤を投与し、かつ、前記高張医薬組成物を前記白金系抗腫瘍剤の投与前または投与後に投与する、項目48または49に記載の方法。
[項目51]
前記白金系抗腫瘍剤の約24時間以内に前記高張医薬組成物を投与する、項目50に記載の方法。
[項目52]
前記白金系抗腫瘍剤の約6時間以内に前記高張医薬組成物を投与する、項目51に記載の方法。
[項目53]
前記白金系抗腫瘍剤の約1時間以内に前記高張医薬組成物を投与する、項目51に記載の方法。
[項目54]
白金系抗腫瘍剤の投与と同時に前記高張医薬組成物を投与する、項目48または49に記載の方法。
[項目55]
前記白金系抗腫瘍剤とは異なる経路で前記高張医薬組成物を投与する、項目48~54のいずれか1項に記載の方法。
[項目56]
少なくとも50μLの前記医薬組成物を前記対象の正円窓に投与する、項目48~55のいずれか1項に記載の方法。
[項目57]
少なくとも100μLの前記医薬組成物を前記対象の正円窓に投与する、項目48~55のいずれか1項に記載の方法。
[項目58]
少なくとも200μLの前記医薬組成物を前記対象の正円窓に投与する、項目48~55のいずれか1項に記載の方法。
[項目59]
1mL以下の前記医薬組成物を前記対象の正円窓に投与する、項目48~58のいずれか1項に記載の方法。
[項目60]
前記対象が、ヒトである、項目47~59のいずれか1項に記載の方法。
[項目61]
項目47に記載の高張医薬組成物の調製方法であって、(i)前記抗白金化学保護剤及び前記ゲル化剤を提供すること、及び(ii)前記抗白金化学保護剤及び前記ゲル化剤を前記液体溶媒と混合して、前記高張医薬組成物を生成することを含む、前記方法。
[項目62]
前記抗白金化学保護剤及び前記ゲル化剤を混合物として提供する、項目61に記載の方法。
[項目63]
前記抗白金化学保護剤及び前記ゲル化剤を別々に提供し、及びステップ(ii)が、前記液体溶媒を最初に前記ゲル化剤と混合して、中間混合物を提供した後、前記中間混合物を前記抗白金化学保護剤と混合することを含む、項目61に記載の方法。
[項目64]
前記抗白金化学保護剤及び前記ゲル化剤を別々に提供し、及びステップ(ii)が、前記液体溶媒を最初に前記抗白金化学保護剤と混合して、中間混合物を提供した後、前記中間混合物を前記ゲル化剤と混合することを含む、項目61に記載の方法。
[項目65]
前記抗白金化学保護剤及び前記ゲル化剤を別々に提供し、及びステップ(ii)が、前記液体溶媒の一部分を前記抗白金化学保護剤と混合して、第1の混合物を提供すること、前記液体溶媒の別の部分を前記ゲル化剤と混合して、第2の混合物を提供すること、及び前記第1及び第2の混合物を組み合わせることを含む、項目61に記載の方法。