(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】インバータ装置、モータ駆動装置、並びに冷凍機器
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240523BHJP
【FI】
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2021016369
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】李 東昇
(72)【発明者】
【氏名】高木 純一
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 佳邦
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195640(JP,A)
【文献】特開平07-075346(JP,A)
【文献】特開2015-195649(JP,A)
【文献】米国特許第10033366(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子により直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記インバータ回路を制御するPWM信号を作成するPWM制御器を備えるインバータ装置において、
前記PWM制御器は、
第1の変調波を作成する変調波演算器と、
前記第1の変調波による前記PWM信号におけるパルス幅が所定値よりも小さなパルス、もしくは前記所定値よりも小さなパルス間隔を消去するための第2の変調波を作成する処理器と、
前記第2の変調波とキャリア波とを比較することにより前記PWM信号を作成する比較器と、
を備え、
前記処理器は、
前記変調波演算器が一時点で出力する前記第1の変調波が前記キャリア波の山または谷に近いと判定すると、前記キャリア波の前記山または前記谷に一致する前記第2の変調波を作成し、
前記変調波演算器が次の時点で前記第1の変調波を出力する時、前記一時点で出力された前記第1の変調波および前記次の時点で出力された前記第1の変調波による前記PWM信号の前記パルス幅もしくは前記パルス間隔の大きさが前記所定値よりも小さくなると判定すると、前記キャリア波の前記山または前記谷に一致する前記第2の変調波を作成することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記処理器は、
前記所定値と、前記キャリア波の前記山または前記谷のレベルと、に基づいて設定される閾値に基づいて、前記変調波演算器が前記一時点で出力する前記第1の変調波が、前記キャリア波の前記山または前記谷に近いかを判定することを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記処理器は、
前記変調波演算器が
前記次の時点で前記第1の変調波を出力する時、前記一時点で出力された前記第1の変調波および前記次の時点で出力された前記第1の変調波による前記
PWM信号の前記パルス幅もしくは前記パルス間隔の大きさが前記所定値よりも小さくはないと判定すると、前記一時点で出力された前記第1の変調波および前記次の時点で出力された前記第1の変調波による前記
PWM信号の前記パルス幅もしくは前記パルス間隔の大きさが確保されるような前記第2の変調波を作成することを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインバータ装置において、
前記処理器は、
前記一時点で出力された前記第1の変調波および前記次の時点で出力された前記第1の変調波による前記
PWM信号の前記パルス幅もしくは前記パルス間隔の大きさが確保されるような前記第2の変調波を、前記次の時点で出力された前記第1の変調波と、前記キャリア波の前記山もしくは前記谷と前記一時点で出力された前記第1の変調波とのレベル差とに基づいて作成することを特徴とするインバータ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記一時点および前記次の時点は、それぞれ、前記キャリア波の一周期における前半周期および後半周期であることを特徴とするインバータ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記キャリア波は三角波であることを特徴とするインバータ装置。
【請求項7】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記所定値は、前記
PWM信号の前記パルス幅もしくは前記パルス間隔の大きさの許容最小値であることを特徴とするインバータ装置。
【請求項8】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記所定値は、前記キャリア波の1周期の5~15%であることを特徴とするインバータ装置。
【請求項9】
交流モータに電力を供給して前記交流モータを駆動するモータ駆動装置において、
前記交流モータが接続されるインバータ装置を備え、
前記インバータ装置が請求項1に記載のインバータ装置であることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項10】
圧縮機と、前記圧縮機を駆動する交流モータと、前記交流モータに電力を供給して前記交流モータを駆動するモータ駆動装置と、を備える冷凍機器において、
前記モータ駆動装置が、請求項9に記載のモータ駆動装置であることを特徴とする冷凍機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を交流電力に変換するインバータ装置、インバータ装置を備えるモータ駆動装置、並びにモータ駆動装置を備える冷凍機器に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機モータやファンモータなどの交流モータを可変速駆動するために、インバータ回路が用いられている。インバータ回路を構成する半導体スイッチング素子は、制御器からのPWM(パルス幅変調)信号に従って、オン(導通)およびオフ(非導通)の動作を行うため、スイッチング損失が生じる。
【0003】
このスイッチング損失を低減する従来技術として、特許文献1に記載される技術が知られている。本従来技術では、前回演算された制御周期におけるIGBTの状態と今回演算された次の制御周期におけるIGBTの状態との関係が不連続の関係となる場合に、これらの状態に基づいて、次の制御周期においてIGBTを導通または遮断する制御が追加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、出力パルスの予測波形のパルス幅が最小パルス幅未満になると判定されると、出力パルスの最小パルス幅を確保したり、出力パルスを削除したりするように、追加の制御が補正される。このように、上記従来技術では、パルス幅を最小パルス幅以上に制限できるが、PWM制御が複雑になるという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、PWM制御を複雑にすることなくパルス幅を最小パルス幅以上に制限できるインバータ装置、モータ駆動装置、並びに冷凍機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によるインバータ装置は、スイッチング素子により直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、インバータ回路を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、インバータ回路を制御するPWM信号を作成するPWM制御器を備えるものであって、PWM制御器は、第1の変調波を作成する変調波演算器と、第1の変調波によるPWM信号におけるパルス幅が所定値よりも小さなパルス、もしくは所定値よりも小さなパルス間隔を消去するための第2の変調波を作成する処理器と、第2の変調波とキャリア波とを比較することによりPWM信号を作成する比較器と、を備え、処理器は、変調波演算器が一時点で出力する第1の変調波がキャリア波の山または谷に近いと判定すると、キャリア波の山または谷に一致する第2の変調波を作成し、変調波演算器が次の時点で第1の変調波を出力する時、一時点で出力された第1の変調波および次の時点で出力された第1の変調波によるPWMパルスのパルス幅もしくはパルス間隔の大きさが所定値よりも小さくなると判定すると、キャリア波の山または谷に一致する第2の変調波を作成する。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明によるモータ駆動装置は、交流モータに電力を供給して交流モータを駆動するものであって、交流モータが接続されるインバータ装置を備え、インバータ装置が上記本発明によるインバータ装置である。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による冷凍機器は、圧縮機と、圧縮機を駆動する交流モータと、交流モータに電力を供給して交流モータを駆動するモータ駆動装置と、を備えるものであって、モータ駆動装置が、上記本発明によるモータ駆動装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、PWM制御を複雑にすることなく、パルス幅を所定値以上に制限できる。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1であるモータ駆動装置の全体構成を示す回路図である。
【
図2】実施例1のモータ駆動装置が備える制御装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】実施例1における制御装置が備えるPWM制御器の内部構成示す機能ブロック図である。
【
図4】実施例1における変調波(1相分)、キャリア波、PWM信号の一例を示す波形図である。
【
図5】2周期分の変調波と、キャリア波およびPWM信号の波形図である。
【
図6】キャリア波の谷から山に向かう半周期において狭幅パルス消去処理器が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図7】キャリア波の山から谷に向かう半周期において狭幅パルス消去処理器が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図8】狭幅パルス消去処理器がキャリア波の山の近くで発生する狭いパルス間隔を消去する場合における変調波、キャリア波およびPWMパルスの一例を示す波形図である。
【
図9】狭幅パルス消去処理器がキャリア波の谷の近くで発生する幅の狭いパルスを消去する場合における変調波、キャリア波およびPWMパルスの一例を示す波形図である。
【
図10】実施例2であるインバータ装置の全体構成を示す回路図である。
【
図11】実施例2のインバータ装置が備える制御装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【
図12】実施例3である冷凍機器の主要部を示す構成図である。
【
図13】モータ駆動装置が出力する3相交流電流の一例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、下記の実施例1~3により、図面を用いながら説明する。
【0014】
各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【0015】
本発明の実施形態においては、インバータ回路を構成するスイッチング素子を制御するPWMパルス信号列において、幅が基準を下回る信号区間(例えばオンパルス区間やオフパルス区間)を消去する。これにより、パルス幅を最小パルス幅に制限できるとともに、スイッチング損失を低減できる。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1であるモータ駆動装置の全体構成を示す回路図である。
【0017】
モータ駆動装置100は、整流回路2、平滑コンデンサ3、インバータ回路4、電流検出回路6、直流電圧検出回路7および制御装置8を備えている。また、モータ駆動装置100には、交流電源1と交流モータ5が接続される。
【0018】
整流回路2は、交流電源1に接続され、交流電源1からの交流電圧を直流電圧に変換する。平滑コンデンサ3は、整流回路2の直流出力端子に接続され、整流回路2の出力である直流電圧を平滑する。インバータ回路4は、制御装置8から入力されるPWM信号に従って、半導体スイッチング素子9をオン・オフ動作させ、平滑コンデンサ3の出力である直流電圧を交流電圧に変換して出力し、交流モータ5の回転数を制御する。なお、
図1においては、半導体スイッチング素子9が、還流ダイオードが並列接続されるIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。半導体スイッチング素子として、パワーMOSFETなどの他の電力用半導体スイッチング素子を用いてもよい。
【0019】
なお、交流電源1に代え、蓄電池などの直流電源から給電する場合は、整流回路2と平滑コンデンサ3を省略し、直流電源の出力をインバータ回路4に入力する。
【0020】
電流検出回路6は、平滑コンデンサ3とインバータ回路4との間に設けられるシャント抵抗60により、インバータ回路4の直流母線電流を検出する。直流電圧検出回路7は、平滑コンデンサ3の両端の直流電圧を検出する。
【0021】
制御装置8は、電流検出回路6および直流電圧検出回路7からの検出信号に基づいて、インバータ回路4の各半導体スイッチング素子9をスイッチング(オン・オフ)制御するためのPWM(パルス幅変調)信号を作成する。制御装置8としては、マイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置が用いられる。また、制御装置8はサンプリングホールド回路およびA/D(Analog/Digital)変換部を備えており、入力される各電圧・電流の検出信号がデジタル信号に変換される。
【0022】
図2は、実施例1のモータ駆動装置100が備える制御装置8の内部構成を示す機能ブロック図である。
【0023】
図2に示すように、制御装置8は、速度制御器10と、d軸電流指令発生器11と、電圧制御器12と、2軸/3相変換器13と、速度・位相推定器14と、3相/2軸変換器15と、電流再現演算器16と、PWM制御器17と、を備える。このような内部構成により、制御装置8は、交流モータ5に印加する電圧指令信号を演算し、インバータ回路4を制御するPWM制御信号を作成する。なお、本実施例において、2軸とは、回転座標系におけるd軸およびq軸である。すなわち、本実施例では、いわゆるベクトル制御が適用されている。
【0024】
電流再現演算器16は、電流検出回路6が出力する母線電流検出信号と、2軸/3相変換器13が出力する3相電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*を用いて、インバータ回路4の出力電流Iu,Iv,Iwを再現する。なお、母線電流検出信号から3相電流を再現する代わりに、電流センサなどの電流検出手段を用いてインバータ回路4の出力である交流電流を検出してもよい。この場合は、電流検出手段が検出した3相電流が3相/2軸変換器15に入力される。
【0025】
なお、
図2に示す速度制御器10、電圧制御器12、速度・位相推定器14には、一般的な公知技術(例えば、比例制御器、微分制御器、積分制御器、もしくはこれら制御器の組み合わせ)が適用される。
【0026】
PWM制御器17は、2軸/3相変換器13からの3相電圧指令値(V
u
*,V
v
*,V
w
*)と、直流電圧検出回路7(
図1)からの直流電圧検出信号E
dcと、所定周波数のキャリア波とに基づいてPWM制御信号を作成する。制御装置8は、このPWM制御信号によって、インバータ回路4の各半導体スイッチング素子9がスイッチング動作する。これにより、インバータ回路4の出力電圧が制御される。
【0027】
PWM制御器17におけるPWM制御の方式としては、例えば、いわゆる三角波比較方式を適用することができる。三角波比較方式では、マイクロコンピュータの内蔵機能を用いて、三角波または鋸歯状波のキャリア波信号を作成し、各レジスタの出力と比較して、出力信号のレベルを制御する。
【0028】
なお、本実施例1では、三角波のキャリア波信号を用いた三角波比較方式が適用される。
【0029】
図3は、本実施例1における制御装置8が備えるPWM制御器17の内部構成示す機能ブロック図である。
【0030】
PWM制御器17は、タイマ機能を用いて、キャリア波発生器25で、三角波のキャリア波信号を発生させるとともに、山(三角波の上に凸部分の頂点)および谷(三角波の下に凸部分の頂点)のタイミングを示す山・谷信号を作成する。この山・谷信号が発生するタイミングから、PWM制御器17は、演算処理を実行する。
【0031】
PWM制御器17は、2軸/3相変換器24からの3相電圧指令値(Vu
*,Vv
*,Vw
*)を、変調波演算器20で、直流電圧検出信号を用いて正規化し、変調波信号に変換する。
【0032】
PWM制御器17は、変調波演算器20で演算された変調波信号に対し、狭幅パルス消去処理器21で、PWM信号においてパルスのオン・オフ区間の幅が所定基準未満となるパルスを消去するための処理を実行する。
【0033】
狭幅パルス消去処理器21の出力は、バッファレジスタ22に入力され、山・谷信号に従って、キャリア波の山または谷の時点で、比較用レジスタ23へ転送される。比較器24は、比較用レジスタ23の出力(変調波信号)と、キャリア波発生器25で発生されたキャリア波信号とを比較することにより、PWM信号を作成する。
【0034】
図4は、本実施例1における変調波(1相分)、キャリア波、PWM信号の一例を示す波形図である。PWM制御器17におけるPWM信号の作成の仕方を説明する。なお、
図4中に、電圧指令のレジスタ更新のタイミングを示す。
【0035】
狭幅パルス消去処理器21からの変調波31は、所定のタイミングt1でバッファレジスタ22に入力され、さらにキャリア波33の山・谷時点t2で比較用レジスタ23に転送される。比較用レジスタ23の出力が変調波32となる。比較器24は、比較用レジスタ23からの出力である変調波32とキャリア波33とを比較して、PWM信号34を作成する。
【0036】
PWM信号34は、キャリア波33が、比較用レジスタ23に転送された変調波32のレベルを下から上へ横切るタイミングで、HIGH状態からLOW状態へ遷移する。また、PWM信号34は、キャリア波が変調波32のレベルを上から下へ横切るタイミングで、LOW状態からHIGH状態へ遷移する。
【0037】
以下、狭幅パルス消去処理器21が実行する処理について詳細に説明する。
【0038】
まず、PWM制御信号に発生するパルス幅の狭いパルスについて説明する。
【0039】
図5は、2周期分の変調波32と、キャリア波33およびPWM信号34の波形図である。なお、
図5では、正規化された波形が示されている。
【0040】
図5に示すように、変調波32がキャリア波33の山あるいは谷に近づくと、PWM信号34のオンおよびオフの区間、すなわちパルス幅およびパルス間隔が狭くなる(図中、点線の四角内のパルス)。このようなオンおよびオフの区間の狭いPWM信号に対応する出力電圧の変化分は小さいため、PWM信号におけるこのような狭いパルス区間を消去することにより、出力電圧の変動を抑えながら半導体スイッチング素子9のスイッチング動作の回数を低減することができる。これにより、半導体スイッチング素子9のスイッチング損失を低減することができる。
【0041】
以下、狭幅パルス消去処理器21(
図3)の動作について説明する。
【0042】
図6は、キャリア波の谷から山に向かう半周期において狭幅パルス消去処理器21が実行する処理を示すフローチャートである。
【0043】
また、
図7は、キャリア波の山から谷に向かう半周期において狭幅パルス消去処理器21が実行する処理を示すフローチャートである。
【0044】
狭幅パルス消去処理器21は、
図6に示す処理と
図7に示す処理を交互に実行する。
【0045】
まず、
図6および
図7に示す処理について、概略的に説明する。
【0046】
変調波がキャリア波の山(頂)や谷(底)に近いと、幅もしくは間隔の狭いPWMパルスが作成される。そこで、本実施例では次のような処理により、幅もしくは間隔の狭いPWMパルスが消去される。
【0047】
図6では、キャリア波の谷から山に向かう半周期においてキャリア波と比較されるMa(up)が、山に近いかを判定し、山に近ければ、PWMパルスの幅(間隔)の内、Ma(up)による分をゼロとするように、Ma’(up)(=Tp)を作成する。また、前回(
図7)、Ma(dw)が谷に近いと判定された場合、Ma(dw)とMa(up)によるPWMパルスの幅(間隔)が所定の許容最小値より小さくなるか(<Tmin?)が判定され、PWMパルスの幅(間隔)をゼロとするように(<Tmin)、もしくはPWMパルスの幅(間隔)を確保するように(≧Tmin)、Ma’(up)(=Tv(:<Tmin),=Ma(up)-Shift)。
【0048】
図7では、キャリア波の山から谷に向かう半周期においてキャリア波と比較されるMa(dw)が谷に近いかを判定し、谷に近ければ、PWMパルスの幅(間隔)の内、Ma(dw)による分をゼロとするように、Ma’(dw)(=Tv)が作成される。また、前回(
図6)、Ma(up)が山に近いと判定された場合、Ma(up)とMa(dw)によるPWMパルスの幅(間隔)が所定の許容最小値より小さくなるか(<Tmin?)が判定され、PWMパルスの幅(間隔)をゼロとするように(<Tmin)、もしくはPWMパルスの幅(間隔)を確保するように(≧Tmin)、Ma’(dw)(=Tp(:<Tmin),=Ma(dw)-Shift)が作成される。
【0049】
図6および
図7の処理において、狭幅パルス消去処理器21は、一つのパルス間隔もしくは一つのパルスが作成されるキャリア波の一周期において変調波演算器20が出力する変調波Maの内、前半周期における変調波がキャリア波の山もしくは谷に近いと判定すると、キャリア波の山もしくは谷のレベルに一致する変調波Ma’を作成する。すなわち、狭幅パルス消去処理器21は、前半周期においてパルス間隔もしくはパルス幅が狭くなりえると判定すると、パルス間隔もしくはパルス幅を確定させる後半周期における変調波の出力を待たずに、いわば後半周期におけるパルス消去処理の前処理として、前半周期におけるパルス間隔もしくはパルス幅を消去するような変調波Ma’を作成する。
【0050】
さらに、狭幅パルス消去処理器21は、キャリア波の後半周期において、変調波演算器20が前後半周期に出力した変調波によるPWMパルスのパルス間隔もしくはパルス幅が所定の許容最小値よりも小さくなると判定すると、後半周期におけるパルス間隔もしくはパルス幅を消去するような変調波Ma’を作成する。これにより、前述した前半周期における前処理(パルス間隔もしくはパルス幅の消去)と相まって、PWMパルスにおける狭いパルス間隔もしくは幅の狭いパルスが消去される。
【0051】
また、狭幅パルス消去処理器21は、キャリア波の後半周期において、変調波演算器20が前後半周期に出力した変調波によるPWMパルスのパルス間隔もしくはパルス幅が所定の許容最小値よりも小さくはないと判定すると、後半周期におけるパルス間隔もしくはパルス幅を、前半周期において狭めた分だけ広げて、変調波演算器20が出力する変調波Maによるパルス間隔もしくはパルス幅が確保されるような変調波Ma’を作成する。
【0052】
【0053】
狭幅パルス消去処理器21は、処理を開始すると(ステップS100)、変調波演算器20(
図3)が出力する変調波Maを取得する(ステップS101)。
【0054】
次に、狭幅パルス消去処理器21は、前回の処理(後述する
図7の処理)において設定されたシフト量(
図7のステップS204,S205,S207,S208におけるShift)が零(0)であるかを判定する。狭幅パルス消去処理器21は、Shiftが零であると判定すると(ステップS102のYES)、次にステップS106を実行し、Shiftが零ではないと判定すると(ステップS102のNO)、次にステップS103を実行する。
【0055】
ここで、
図7のステップS207では、変調波Ma’(dw)を谷Tvに一致させてMa(dw)によるパルス幅(間隔)を零にするため、次のMa’(up)によりPWMパルス幅を調整(確保または消去)するため、Shift=Tv-Ma(dw)≠0と設定される。このShiftに基づいて、ステップS102でShiftが零ではないと判定されると、
図6のステップS103以降の処理が実行され、Shiftに基づいて、PWMパルス幅を調整(確保または消去)するためのMa’(up)が作成される。
【0056】
また、
図7のステップS208では、Ma’(dw)=Ma(dw)であり、次のMa’(up)によりPWMパルス幅(間隔)を調整(確保または消去)しない。さらに、
図7のステップS204およびS205では、PWMパルス幅を調整(確保または消去)するためのMa’(dz)が作成されるので、次のMa’(up)によりPWMパルス幅(間隔)を調整(確保または消去)しない。したがって、
図7のステップS208,S204,S205では、Shift=0と設定される。このShiftに基づいて、ステップS102でShiftが零であると判定されると、
図6のステップS106以降の処理が実行される。
【0057】
ステップS106において、狭幅パルス消去処理器21は、Maが閾値Th1より大きいかを判定する。Th1は式(1)により設定される。
【0058】
Th1=Tp-Tmin … (1)
Tpはキャリア波の山のレベルであり、Tminは許容されるPWMパルス幅(間隔)の最小値を得るためのキャリア波の山と変調波のレベル差である。
図6の処理では、このレベル差は、Tp-Ma(up)とTp-Ma(dw)の和に対応する。
【0059】
したがって、狭幅パルス消去処理器21は、ステップS106において、S101で取得したMa(up)が、山(Tp)に近いかを判定する。すなわち、狭幅パルス消去処理器21は、次の半周期でM’(dw)によるPWMパルス幅(間隔)の調整をするかを判定する。狭幅パルス消去処理器21は、Ma(up)が山(Tp)に近いと判定すると(ステップS106のYES)、次にステップS107を実行し、Ma(up)が山(Tp)に近くない判定すると(ステップS106のNO)、次にステップS108を実行する。
【0060】
ステップS107において、狭幅パルス消去処理器21は、Tpとレベルが等しいMa’(up)(=Tp)を作成する。これにより、PWMパルス幅(間隔)が、PWMパルス幅(間隔)の内、Ma(up)による分だけ狭められる。また、狭幅パルス消去処理器21は、シフト量(Shift)をTpとMa(up)のレベル差(Tp-Ma(up))に設定する。このレベル差は、PWMパルス幅(間隔)の内、Ma(up)による分に対応する。
【0061】
ステップS108において、狭幅パルス消去処理器21は、Mp(up)とレベルが等しいMa’(up)(=Ma(up))を作成する。すなわち、変調波は変更されない。これにより、PWMパルス幅(間隔)の内、Ma(up)による分は変更されずに維持される。また、次の半周期でM’(dw)によるPWMパルス幅(間隔)調整は不要となるため、狭幅パルス消去処理器21は、シフト量(Shift)を零に設定する。
【0062】
ステップS103において、狭幅パルス消去処理器21は、Ma(up)と前回の処理(
図7)により設定されたShiftとの差(Ma(up)-Shift)が閾値Th0より小さいかを判定する。Th1は式(2)により設定される。
【0063】
Th0=Tv+Tmin … (2)
Tvはキャリア波の谷のレベルであり、Tminは、式(1)と同様に、許容されるPWMパルス幅(間隔)の最小値を得るためのキャリア波1周期におけるMa(up)およびMa(dw)のレベル差である。
【0064】
ステップS103において、Shift=Tv-Ma(dw)であるから、判定式「Ma(up)-Shift<Th0」は、式(2)により、「(Ma(dw)-Tv)+(Ma(up)-Tv)<Tmin」に変形できる。したがって、狭幅パルス消去処理器21は、ステップS103において、Ma(dw)とMa(up)によるPWMパルスの幅(間隔)が許容最小値(Tmin)より小さいかを判定している。狭幅パルス消去処理器21は、Ma(up)-Shift<Th0であると判定すると(step103のYES)、すなわちPWMパルスの幅(間隔)<Tminであると判定すると、次にステップS104を実行する。また、狭幅パルス消去処理器21は、Ma(up)-Shift≧Th0であると判定すると(step103のNO)、すなわちPWMパルスの幅(間隔)≧Tminであると判定すると、次にステップS105を実行する。
【0065】
ステップS104において、狭幅パルス消去処理器21は、谷のレベルに等しいMa’(up)(=Tv)を作成する。これにより、前回の処理によりMa’(dw)は谷のレベル(Tv)に設定されているから、TvとMa’(dw)とのレベル差と、TvとMa’(up)とのレベル差は、ともに零となる。したがって、Ma’(dw)とMa’(up)によるPWMパルスの幅(間隔)は零となる。すなわち、Ma(dw)とMa(up)による狭い幅のPWMパルスや、パルス間の狭い間隔が消去される。また、次の半周期でM’(dw)によるPWMパルス幅(間隔)調整は不要となるため、狭幅パルス消去処理器21は、シフト量(Shift)を零に設定する。
【0066】
ステップS105において、狭幅パルス消去処理器21は、Ma(up)と前回の処理によるShiftとの差に等しいMa’(up)(=Ma(up)-Shift)を作成する。前回の処理によるShift=Tv-Ma(dw)であるから、ステップS105における設定式「Ma’(up)=Ma(up)-Shift」は、「Tv-Ma’(up)=(Tv-Ma(dw))+(Tv-Ma(up))」と変形される。したがって、Ma’(up)によるPWMパルス幅(間隔)は、Ma(dw)とMa(up)によるPWMパルスの幅(間隔)に等しい。すなわち、Ma’(up)によるPWMパルス幅(間隔)は、前回の処理(Ma’(dw)=Tv)で狭められたパルス幅の分だけ広げられる。したがって、Ma(dw)とMa(up)によるPWMパルスの幅(間隔)が確保される。また、次の半周期でM’(dw)によるPWMパルス幅(間隔)調整は不要となるため、狭幅パルス消去処理器21は、シフト量(Shift)を零に設定する。
【0067】
【0068】
図7におけるステップS201,S202,S203,S204,S205,S206,S207,S208は、それぞれ、
図6におけるステップS101,S102,S103,S104,S105,S106,S107,S108に対応する。
【0069】
上述した
図6の処理の具体的な説明において、Ma(up),Ma(dw),Ma’(up),Ma’(dw),Th0,Th1,Tp,Tvを、それぞれ、Ma(dw),Ma(up),Ma’(dw),Ma’(up),Th1,Th0,Tv,Tpに置き換えるとともに、変調波と閾値との大小関係を逆にすれ、
図7の処理の具体的な説明となる。
【0070】
次に、狭幅パルス消去処理器21によって作成される変調波の例について説明する。
【0071】
図8は、狭幅パルス消去処理器21がキャリア波の山の近くで発生する狭いパルス間隔を消去する場合における変調波、キャリア波およびPWMパルスの一例を示す波形図である。
【0072】
なお、
図8中、上側の波形図が狭幅パルス消去処理器21による処理前の波形を示し、下側の波形図が狭幅パルス消去処理器21による処理後の波形を示す。
【0073】
図8中に示す、Ma_upi,Ma_dwi,Ma_upi’,Ma_dwi’(i=1,2,3)は、それぞれ、上述したMa(up),Ma(dw),Ma’(up),Ma’(dw)に相当する。また、0<Th1<Tp,Tv<Th0<0である。ここで、0レベルは、TpとTvの中央のレベル((Tp+Tv)/2)である(
図5(正規化されている場合)参照)。
【0074】
以下、適宜、
図6(S101~S108)および
図7(S201~S208)を参照しながら説明する。
【0075】
本例において、Ma_up1に対する処理時には、前の処理によるShiftは零であり(S102)、Ma_up1はTh1より小さいので(S106のNO)、Ma_up1’=Ma_up1となる(S108)。このため、PWMパルスの立下り(HIGH→LOW)の時点は、処理の前後で変わらない。なお、Shiftは0に設定される(S108)。
【0076】
Ma_dw1に対する処理時には、前の処理によるShiftは零であり(S202)、Ma_dw1はTh0より大きいので(S206のNO)、Ma_dw1’=Ma_dw1となる(S208)。このため、PWMパルスの立上り(LOW→HIGH)の時点は、処理の前後で変わらない。なお、Shiftは0に設定される(S208)。
【0077】
したがって、Ma_up1’,Ma_dw1’によるPWMパルスの間隔は、大きさおよび位相の両方について、Ma_up1,Ma_dw1によるPWMパルスの間隔が維持される。
【0078】
Ma_up2に対する処理時には、前の処理によるShiftは零であり(S102)、Ma_up1はTh1より大きいので(S106のYES)、Ma_up2’=Tpとなる(S107)。このため、PWMパルスの立下り(HIGH→LOW)の時点は、キャリア波の山の時点まで移動する。この場合、山と変調波のレベル差S2(=Tp-Ma_up2)に応じて、パルス間隔が狭められる。なお、ShiftはTp-Ma_up2(=S2)に設定される(S108)。
【0079】
Ma_dw2に対する処理時には、前の処理によるShift(=S2)は零ではなく(S202)、Ma_dw2-S2はTh1より小さいので(S203のNO)、Ma_dw2’=Ma_dw2-S2となる(S205)。このため、PWMパルスの立上り(LOW→HIGH)の時点は、レベル差S2に応じて時間が進む方向(
図8中右方向)に移動する。なお、Shiftは0に設定される(S205)。
【0080】
したがって、Ma_up2’,Ma_dw2’によるPWMパルスの間隔は、位相はずれるが、大きさについては、Ma_up1,Ma_dw1によるPWMパルスの間隔の大きさAが確保される。これにより、出力電流の大きさの変動が抑制される。
【0081】
Ma_up3に対する処理時には、前の処理によるShiftは零であり(S102)、Ma_up3はTh1より大きいので(S106のYES)、Ma_up3’=Tpとなる(S107)。このため、PWMパルスの立下り(HIGH→LOW)の時点は、キャリア波の山の時点まで移動する。この場合、山と変調波のレベル差S3(=Tp-Ma_up3)に応じて、パルス間隔が狭められる。なお、ShiftはTp-Ma_up3(=S3)に設定される(S108)。
【0082】
Ma_dw3に対する処理時には、前の処理によるShift(=S3)は零ではなく(S202)、Ma_dw3-S3はTh1より大きいので(S203のYES)、Ma_dw3’=Tpとなる(S204)。このため、PWMパルスの立上り(LOW→HIGH)の時点は、キャリア波の山の時点まで移動する。この場合、山と変調波のレベル差(=Tp-Ma_dw3)に応じて、パルス間隔が狭められる。なお、Shiftは0に設定される(S205)。
【0083】
したがって、Ma_up3’,Ma_dw3’によるPWMパルスの間隔は零となる。すなわち、位相はずれるが、大きさについては、Ma_up3,Ma_dw3によるPWMパルスの間隔(B)が消去される。これにより、インバータ回路4(
図1)のスイッチング損失が低減される。
【0084】
図9は、狭幅パルス消去処理器21がキャリア波の谷の近くで発生する幅の狭いパルスを消去する場合における変調波、キャリア波およびPWMパルスの一例を示す波形図である。
【0085】
なお、
図9中、上側の波形図が狭幅パルス消去処理器21による処理前の波形を示し、下側の波形図が狭幅パルス消去処理器21による処理後の波形を示す。
【0086】
図9中に示す、Ma_upi,Ma_dwi,Ma_upi’,Ma_dwi’(i=1,2,3)は、それぞれ、上述したMa(up),Ma(dw),Ma’(up),Ma’(dw)に相当する。また、0<Th1<Tp,Tv<Th0<0である。ここで、0レベルは、
図8と同様に、TpとTvの中央のレベルである。
【0087】
以下、適宜、
図6(S101~S108)および
図7(S201~S208)を参照しながら説明する。
【0088】
本例において、Ma_dw1に対する処理時には、前の処理によるShiftは零であり(S202)、Ma_dw1はTh0より大きいので(S206のNO)、Ma_dw1’=Ma_dwとなる(S208)。このため、PWMパルスの立上がり(LOW→HIGH)の時点は、処理の前後で変わらない。なお、Shiftは0に設定される(S208)。
【0089】
Ma_up1に対する処理時には、前の処理によるShiftは零であり(S102)、Ma_up1はTh1より小さいので(S106のNO)、Ma_up1’=Ma_up1となる(S108)。このため、PWMパルスの立下り(HIGH→LOW)の時点は、処理の前後で変わらない。なお、Shiftは0に設定される(S108)。
【0090】
したがって、Ma_dw1’,Ma_up1’によるPWMパルスは、大きさおよび位相の両方について、Ma_up1,Ma_dw1によるPWMパルスが維持される。
【0091】
Ma_dw2に対する処理時には、前の処理によるShiftは零であり(S202)、Ma_dw2はTh0より小さいので(S206のYES)、Ma_dw2’=Tvとなる(S207)。このため、PWMパルスの立上り(LOW→HIGH)の時点は、キャリア波の谷の時点まで移動する。この場合谷と変調波のレベル差S2(=Tv-Ma_dw2)に応じて、パルス幅が狭められる。なお、ShiftはTv-Ma_dw2(=S2)に設定される(S208)。
【0092】
Ma_up2に対する処理時には、前の処理によるShift(=S2)は零ではなく(S102)、Ma_up2-S2はTh0より大きいので(S103のNO)、Ma_up2’=Ma_up2-S2となる(S105)。このため、PWMパルスの立下り(HIGH→LOW)の時点は、レベル差S2に応じてパルス幅が広がる方向(
図9中右方向)に移動する。なお、Shiftは0に設定される(S105)。
【0093】
したがって、Ma_dw2’,Ma_up2’によるPWMパルスは、位相はずれるが、幅については、Ma_dw2,Ma_up2によるPWMパルスの幅Aが確保される。これにより、出力電流の大きさの変動が抑制される。
【0094】
Ma_dw3に対する処理時には、前の処理によるShiftは零であり(S202)、Ma_dw3はTh0より小さいので(S206のYES)、Ma_dw3’=Tvとなる(S207)。このため、PWMパルスの立上り(LOW→HIGH)の時点は、キャリア波の谷の時点まで移動する。この場合、谷と変調波のレベル差S3(=Tv-Ma_dw3)に応じて、パルス幅が狭められる。なお、ShiftはTv-Ma_dw3(=S3)に設定される(S108)。
【0095】
Ma_up3に対する処理時には、前の処理によるShift(=S3)は零ではなく(S102)、Ma_up3-S3はTh0より小さいので(S103のYES)、Ma_up3’=Tvとなる(S104)。このため、PWMパルスの立下り(HIGH→LOW)の時点は、キャリア波の山の時点まで移動する。この場合、谷と変調波のレベル差(=Tv-Ma_up3)に応じて、パルス幅が狭められる。なお、Shiftは0に設定される(S104)。
【0096】
したがって、Ma_dw3’,Ma_up3’によるPWMパルスの幅は零となる。すなわち、Ma_dw3,Ma_up3による幅の狭いPWMパルスが消去される。これにより、インバータ回路4(
図1)のスイッチング損失が低減される。
【0097】
上述のように、本実施例1によれば、狭幅パルス消去処理器21によって、変調波演算器20が出力する変調波Ma1がキャリア波の山または谷に近いと判定された場合に、キャリア波の山または谷に一致する変調波Ma1’が作成され、次に変調波演算器20が変調波Ma2を出力する時、Ma1およびMa2によるPWMパルスのパルス幅もしくはパルス間隔の大きさが所定の許容最小値よりも小さくなると判定されると、キャリア波の山または谷に一致する変調波Ma2’が作成される。これにより、PWMパルスを作成するための処理を複雑化することなく、PWMパルスにおける狭いパルス間隔もしくは幅の狭いパルスを消去できる。また、パルス幅もしくはパルス間隔を確定させるMa2が出力される前の時点で、許容最小値との比較を行うことなく、Ma1’が作成されるので、処理が複雑化せず、高速な処理ができる。
【0098】
さらに、本実施例1によれば、Ma1およびMa2によるPWMパルスのパルス幅もしくはパルス間隔の大きさが所定の許容最小値よりも小さくないと判定されると、Ma1およびMa2によるPWMパルスのパルス幅もしくはパルス間隔の大きさが確保されるようなMa’2が作成される。これにより、インバータ装置の出力電圧誤差を抑制して、出力電流の変動を抑制できる。
【0099】
なお、パルス信号区間の幅に対する所定基準(Tmin)は、例えば、所定パルス幅として、5~30μsecの範囲の値に対応する。ただし、消去することが望ましいパルスの幅は、キャリア波の周期などに依存するため、キャリア波の周期に対する所定割合の値で指定されてもよい。例えば、キャリア周期に対する所定割合として、5~15%の範囲の値が指定され得る。キャリア周期が例えば100~200μsである場合、5~15%の範囲の割合に対応して、5~30μsecの所定幅が得られる。また、モータの巻線抵抗値やインダクタンス値が大きい場合、狭いパルスの消去がモータ電流リップルへ及ぼす影響が少ないため、所定基準(Tmin)を大きめにしてもよい。
【0100】
上述のように、実施例1によれば、PWM制御を複雑化することなく、PWMパルスの幅(オン区間)および間隔(オフ区間)を所定値である許容最小値以上に制限できる。さらに、インバータ回路4のスイッチング損失が低減されるので、インバータ装置や、モータ駆動装置の電力損失を低減することができる。
【実施例2】
【0101】
次に、
図10および
図11を参照しながら、本発明の実施例2であるインバータ装置について説明する。本実施例2は、太陽光発電設備や蓄電池向けの系統連系インバータ装置に好適である。
【0102】
以下、主に、実施例1とは異なる点について説明する。
【0103】
図10は、本発明の実施例2であるインバータ装置の全体構成を示す回路図である。
【0104】
インバータ装置200は、交流側で交流電源1に接続され、直流側で直流負荷50に接続されている。なお、以下の説明および
図10においては、直流電力を消費する装置および直流電力を供給する装置(太陽光発電装置や蓄電池など)を含めて、「直流負荷」と称する。
【0105】
図10に示すように、インバータ装置200は、交流電源1に直列に接続されたノイズフィルタ42と、リアクトル43と、直流負荷50に接続されるインバータ回路4とを、備えている。さらに、インバータ装置200は、インバータ回路4の直流側の正極/負極間に接続されるコンデンサ45と、交流電源1の交流電圧を検出する交流電圧検出回路46と、正極/負極間の直流電圧を検出する直流電圧検出回路47と、インバータ回路4のPWM制御を実行する制御装置48と、交流電源1の交流電流を検出する電流検出回路49とを、備えている。
【0106】
以下、インバータ回路4の動作モードについて説明する。
【0107】
インバータ回路4の動作モードには、整流モード(交流/直流変換モード)と、回生モード(直流/交流変換モード)とがある。整流モードは、交流電源1から交流電力を受電して直流負荷50に直流電力を供給する動作モードである。回生モードは、直流負荷50からの直流電力を逆変換して交流電源1(交流負荷)へ交流電力を出力する動作モードである。整流モードおよび回生モードは、制御装置48からの制御信号によって切り替えられる。
【0108】
図10に示す交流電源1は、3相交流電源である。インバータ回路4は、3相交流電源に対応して、6個の半導体スイッチング素子9からなる3相ブリッジ回路によって構成される。
【0109】
コンデンサ45は、インバータ回路4の直流側の直流電圧のリップル電圧およびサージ電圧を抑制する。
【0110】
制御装置48は、交流電圧検出回路46、直流電圧検出回路47および電流検出回路49からの検出信号に基づいて、インバータ回路4の各半導体スイッチング素子9をスイッチング(オン・オフ)制御するためのPWM信号を作成する。制御装置48としては、マイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置が用いられる。また、制御装置48はサンプリングホールド回路およびA/D(Analog/Digital)変換部を備えており、入力される各電圧・電流の検出信号がデジタル信号に変換される。
【0111】
図11は、実施例2のインバータ装置200が備える制御装置48の内部構成を示す機能ブロック図である。
【0112】
制御装置48は、演算処理装置が所定のプログラムを実行することで、インバータ回路4に対するPWM信号を作成する。
【0113】
図11に示すように、制御装置48は、電源位相演算器51と、電圧制御器52と、3相/2軸変換器15と、2軸/3相変換器13と、PWM制御器17とを備えている。
【0114】
電源位相演算器51は、交流電圧検出回路46が検出した交流電圧検出信号が入力され、電源電圧位相(θs)を演算して、演算された電源電圧位相(θs)を3相/2軸変換器15および2軸/3相変換器13の各々へ出力する。
【0115】
電圧制御器52は、d軸電流指令値Id
*およびq軸電流指令値Iq
*と、3相/2軸変換器15で作成されるd軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqとの誤差を無くすように、比例積分(PI)制御などを用いて、d軸電圧指令値Vd
*およびq軸電圧指令値Vq
*を作成する。
【0116】
PWM制御器53は、2軸/3相変換器13からの3相電圧指令値(Vu
*,Vv
*,Vw
*)と、直流電圧検出信号と、所定周波数のキャリア波とに基づいてPWM信号を作成する。このPWM信号により、インバータ回路4の各半導体スイッチング素子9がスイッチング動作する。これにより、インバータ回路4の出力電圧が制御される。
【0117】
PWM制御器53におけるPWM制御の方式は実施例1と同様である。また、PWM制御器53の内部構成は、実施例1(
図3)と同様である。したがって、狭幅パルス消去処理器21(
図3)を用いて、PWM信号中の狭いオフパルスおよびオンパルスが消去される。
インバータ回路において、インバータの変調率(インバータ出力電圧指令と直流電圧との比)が高い領域(>0.8)では、インバータの各相の出力電圧において、狭いパルス(例えばキャリア周期が100~200μsecとして約30μs未満)が頻発する。このような狭いパルスを消去すれば、インバータ回路のスイッチング損失を低減できる。
【0118】
上述のように、実施例2によれば、PWM制御を複雑化することなく、PWMパルスの幅(オン区間)および間隔(オフ区間)を所定値である許容最小値以上に制限できる。さらに、インバータ回路4のスイッチング損失が低減されるので、インバータ装置の電力損失を低減することができる。また、狭幅パルス消去処理をしながらも、出力電圧誤差を抑制して、出力電流の変動を抑制することができる。
【実施例3】
【0119】
次に、
図12および
図13を参照しながら、本発明の実施例3である冷凍機器について説明する。
【0120】
冷凍機器とは、エアーコンディショナーや、冷蔵庫、冷凍庫など、冷媒および冷凍サイクルを利用した機器の総称である。冷凍機器の例としては、ルームエアコンやガスエンジンヒートポンプエアコンなど空気調和機、冷凍機やチリングユニットなどの熱源機器、ショーケースや冷凍冷蔵庫、ユニットクーラー、製氷機など業務用冷凍機、カーエアコンなどの輸送用冷凍機器、ヒートポンプ給湯機などがある。
【0121】
以下、主に、実施例1および実施例2とは異なる点について説明する。
【0122】
図12は、本発明の実施例3である冷凍機器300の主要部を示す構成図である。
【0123】
冷凍機器300は、空気の温度を調和する装置であり、第一の放熱フィン300Aと、第二の放熱フィン300Bと、第一の放熱フィン300Aと、第二の放熱フィン300Bとを互いに接続する冷媒配管306を備えている。
【0124】
第二の放熱フィン300Bは、冷媒と空気の熱交換を行う熱交換器302と、室外熱交換器302に空気を送風するファン304と、冷媒を圧縮して循環させる圧縮機305とを備える。
【0125】
圧縮機305は、内部に交流モータを備えた圧縮機用モータ308を有する。モータ駆動装置307により圧縮機用モータ308を駆動することで、圧縮機305が駆動される。モータ駆動装置307は、交流電源の交流電圧を直流電圧に変換して、直流電圧をモータ駆動用インバータに供給し、圧縮機用モータ308を駆動する。
【0126】
モータ駆動装置307として、前述した実施例1のモータ駆動装置100(
図1)が適用される。これにより、冷凍機器の消費電力が低減できるので、冷凍機器の効率を向上できる。
【0127】
図13は、モータ駆動装置307が出力する3相交流電流の一例を示す波形図である。
なお、この波形図は、本発明者の検討によるものである。なお、図中では、最小パルス幅を設定するためのTmin(
図6,7参照)を、便宜上、Tminに対応する最小パルス幅の値で示す。
【0128】
図13に示すように、最小パルス幅が35μsecになると、図中、破線で囲んだ領域Rでは、電流波形に若干ひずみが生じている。圧縮機のように、定格負荷条件付近の運転時間が長い装置においては、この程度の歪は許容できるので、スイッチング回数を20~30%程度低減できる。したがって、圧縮機などにおいては、電力損失の低減効果が大きくなる。
【0129】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【符号の説明】
【0130】
1…交流電源
2…整流回路
3…平滑コンデンサ
4…インバータ回路
5…交流モータ
6…電流検出回路
7…直流電圧検出回路
8…制御装置
9…半導体スイッチング素子
10…速度制御器
11…d軸電流指令発生器
12…電圧制御器
13…2軸/3相変換器
14…速度・位相推定器
15…3相/2軸変換器
16…電流再現演算器
17…PWM制御器
200…インバータ装置
42…ノイズフィルタ
43…リアクトル
45…コンデンサ
46…交流電圧検出回路
47…直流電圧検出回路
48…制御装置
49…電流検出回路
50…直流負荷
51…電源位相演算器
52…電圧制御器
53…PWM制御器
20…変調波演算器
21…狭幅パルス消去処理器
22…バッファレジスタ
23…比較用レジスタ
24…比較器
25…キャリア波発生器
31…変調波
32…変調波
33…キャリア波
34…PWM信号
300…冷凍機器
300A…第一の放熱フィン
300B…第二の放熱フィン
302…熱交換器
304…ファン
305…圧縮機
306…冷媒配管
307…モータ駆動装置
308…圧縮機用モータ