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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】口腔用貼付シート
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20240523BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240523BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240523BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240523BHJP
   A61K 31/045 20060101ALN20240523BHJP
   A61K 31/353 20060101ALN20240523BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/02
A61K8/73
A61Q11/00
A61P1/02
A61K9/70
A61K47/26
A61K47/36
A61K31/045
A61K31/353
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021114580
(22)【出願日】2021-07-09
(65)【公開番号】P2023010444
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】筒井 生
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-182669(JP,A)
【文献】特開2009-096803(JP,A)
【文献】特開2014-172886(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108384(WO,A1)
【文献】特開2013-129641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99、
9/00- 9/72、
31/00-31/327、
47/00-47/69
A61Q 1/00-90/00
A61P 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)(C)、及び(D)
(A)口腔内刺激性有効成分
(B)キシリトール、及びエリスリトールから選ばれる1種又は2種の糖アルコール 3質量%以上35質量%以下
(C)水溶性高分子
(D)水
を含有する口腔用貼付シートであって、
成分(C)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((C)/(D))が4.5以上6.5以下であり、かつ
口腔用貼付シートを口腔内へ貼付したときに、1分経過ごとの口腔用貼付シートの溶解量が、口腔用貼付シートの単位面積あたりに0.4mg/cm2以上5.5mg/cm2以下である口腔用貼付シート。
【請求項2】
水(D)の含有量が、3質量%以上20質量%以下である請求項1に記載の口腔用貼付シート。
【請求項3】
成分(C)の含有量と成分(B)の含有量との質量比((C)/(B))が、0.45以上22以下である請求項1又は2に記載の口腔用貼付シート。
【請求項4】
成分(C)の含有量が、17質量%以上65質量%以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の口腔用貼付シート。
【請求項5】
成分(B)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((B)/(D))が、0.1以上10以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の口腔用貼付シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用貼付シートに関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙や歯肉、口蓋や舌等の口腔を構成する器官は、分泌される唾液によって潤いを与えられながら、食物を咀嚼し飲み込む機能、味わう機能や言葉を発する機能等を発揮する、全身の健康にも関わる重要な器官である。そのため、これらの器官が異常をきたすと、種々の疾患や食事等の機能的な障害を引き起こしかねない上、審美面も損なわれるおそれもあり、機能の維持や改善、回復のためのケアが欠かせない。
【0003】
口腔を構成する器官の一つである歯牙は、その表面に付着・堆積した歯石や汚れを放置すると、不要な着色や歯肉の退色、或いは歯周病や歯肉炎等の原因ともなることが知られている。こうした歯牙の適切なケアを実現するには、常に唾液に満たされた部位であることも加味する必要があり、所望の効果を発揮する有効成分を含む種々の貼付シートが開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、水に溶解したときのpHが互いに異なる値を示す層(A)と層(B)とを有し、後者の層にフィチン酸等を含有する歯牙用貼付シートが開示されており、これを歯牙に貼付することによって、歯牙表面におけるpH環境に経時的変化を与えながらフィチン酸等を効率的に作用させ、歯への美白効果を発揮させている。また、特許文献2には、歯及び/又は歯肉に直接貼り付ける側の最下接着層と最上保護層を含み、互いの層に歯及び/又は歯肉に対する接着性と唾液に対する溶解速度に差異をもたせた歯周病用フィルム状外用剤が開示されており、かかる外用剤全体として、睡眠開始から睡眠中の少なくとも3時間は唾液に対して完溶しない溶解速度とすることにより、口腔内に長く滞留させて、睡眠時に薬効成分の効果を充分に発揮させようと試みている。
一方、特許文献3には、水溶性高分子、鎮静作用や痩身作用等を有する香料、多価アルコール及び/又は界面活性剤を含有する口蓋貼付用アロマフィルムが開示されており、貼付後にもたらされる香り立ちを高めている。また、特許文献4には、特定粘度のヒドロキシプロピルセルロースとポリビニルアルコール、糖アルコール及び/又は多価アルコール、特定量の非イオン界面活性剤を含有し、かつ特定の配合割合を示すフィルム状口腔用組成物が開示されており、さらに特許文献5には、香料とカラギナン及びプルランとを特定の質量比で含有する口腔内貼付剤が開示されており、いずれも清涼感や香気の安定的な付与を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/069595号
【文献】特開2016-84287号公報
【文献】特開2007-99695号公報
【文献】特開2014-172886号公報
【文献】特開2006-182669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした口腔内の所望の部位に貼付するシートは、配合された有効成分によっては、貼付部位のみならず、近傍に存在する粘膜や歯肉、舌等に対して、過度な感覚刺激や味覚刺激を与え、不快感を誘発するおそれがある。
しかしながら、上記特許文献に記載のいずれの技術においても、こうした要因を解消すべきことには着目しておらず、未だ改善の余地がある。
【0007】
すなわち、本発明は、過度な刺激をもたらし得る有効成分を含有しつつも、不快感の誘発を有効に抑制する口腔用貼付シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、種々検討したところ、口腔内刺激を誘発する性質を有する有効成分とともに、特定量の糖アルコール及び水溶性高分子を含有し、かつ口腔用貼付シートの溶出量を制御することにより、有効成分由来の刺激を有効に抑制することのできる口腔用貼付シートが得られることを見出した。
【0009】
したがって、本発明は、次の成分(A)、(B)、及び(C):
(A)口腔内刺激性有効成分
(B)糖アルコール 3質量%以上35質量%以下
(C)水溶性高分子
を含有する口腔用貼付シートであって、
口腔用貼付シートを口腔内へ貼付したときに、1分経過ごとの口腔用貼付シートの溶解量が、口腔用貼付シートの単位面積あたりに0.4mg/cm2以上5.5mg/cm2以下である口腔用貼付シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の口腔用貼付シートによれば、過度な刺激をもたらし得る口腔内刺激性有効成分を含有しつつも、口腔内への貼付後におけるシートの溶解性を適度に制御するため、かかる有効成分による所望の作用を充分に享受しながら、貼付部位等において過度な感覚刺激や味覚刺激がもたらされるのを有効に抑制して、快適な使用感を実感することができる。
また、本発明の口腔用貼付シートは、適度な柔軟性及び貼付部位への追随性を有するとともに、使用時における取り扱い性にも優れ、不要な破損や破断を有効に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
ここで、本発明の口腔用貼付シートが貼付対象とする部位は、口腔内を構成する器官であり、具体的には、歯牙、歯肉を含む歯牙の周辺に位置する器官、口蓋、舌、及び口底等である。
また、「口腔内刺激性」とは、口腔内の感覚器を刺激して、感覚や味覚としての知覚をもたらす性質を意味する。さらに「感覚刺激」とは、ピリピリとした感触又はヒリヒリとした感触として知覚される刺激を意味し、味覚刺激とは、苦味や辛味等として知覚される刺激を意味する。
【0012】
本発明の口腔用貼付シートは、成分(A)として、口腔内刺激性有効成分を含有する。有効成分とは、一般に口腔への適用可能な有効成分又は薬用成分として用いられているものであり、成分(A)は、そのなかでも適用態様によっては、感覚刺激や味覚刺激を引き起こして、口腔内においてピリピリとした感触をもたらしたり、過度な苦味や辛味、塩味等の不快な味として知覚されたりする成分である。
【0013】
かかる成分(A)としては、例えば、清涼成分(a1)、抗ウイルス成分(a2)、及び殺菌成分(a3)から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
成分(a1)の清涼成分としては、具体的には、l-メントールやd-メントール等のメントール、d-カンフル、dl-カンフル、d-ボルネオール、dl-ボルネオール、並びにゲラニオール等を含む、粘膜表面の温度受容器(TRPM8等の冷感受容体)を刺激して、適用者に清涼感を伝えることのできる物質から選ばれる1種又は2種以上の成分が挙げられる。
成分(a2)の抗ウイルス成分としては、具体的には、カテキン、紅茶ポリフェノール(テアフラビン)、エラグ酸、ケルセチン誘導体、ゴッシペチン、カフェイン酸フェネチル、カスアリクチン、ブテイン、アジドチミジン、ザナミビル、及びオセルタミビル等から選ばれる1種又は2種以上の成分が挙げられる。
成分(a3)の殺菌成分としては、具体的には、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、イソプロピルメチルフェノール、及びトリクロサン等のカチオン性殺菌剤から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0014】
成分(A)の含有量は、選択した成分によっても変動し得るが、所望の作用を充分にもたらす観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上である。成分(A)の含有量は、所望の作用を享受しつつ、過度な感覚刺激や味覚刺激を有効に抑制する観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、よりさらに好ましくは1質量%以下である。
【0015】
具体的には、成分(a1)の含有量は、良好な清涼感をもたらしつつ、口腔内にもたらされ得るピリピリとした刺激感を有効に抑制する観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、よりさらに好ましくは0.1質量%以上であり、よりさらに好ましくは0.2質量%以上であり、よりさらに好ましくは0.3質量%以上であり、よりさらに好ましくは0.4質量%以上であり、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.8質量%以下である。
成分(a2)の含有量は、ウイルスを有効に不活性化しつつ、口腔内にもたらされ得る苦味を有効に抑制する観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは0.4質量%以上であり、より好ましくは0.8質量%以上であり、さらに好ましくは1.2質量%以上であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは7.5質量%以下であり、よりさらに好ましくは6質量%以下であり、よりさらに好ましくは5質量%以下である。
成分(a3)の含有量は、優れた殺菌効果を発揮しつつ、口腔内にもたらされ得る苦味やピリピリとした刺激感を有効に抑制する観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.08質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.05質量%以下である。
【0016】
本発明の口腔用貼付シートは、成分(B)として、糖アルコールを3質量%以上35質量%以下含有する。これにより、後述する成分(C)との相乗効果により、口腔内への貼付後におけるシートの溶解性を適度に制御して、口腔内への成分(A)の拡散制御が可能となり、貼付部位等における過度な感覚刺激や味覚刺激の発現を有効に抑制しながら、所望の作用を充分にもたらすことを可能とする。また、貼付部位への良好な追随性とともに適度な柔軟性を付与し、不要な破損や破断を防止して良好な取り扱い性を確保することができる。
【0017】
成分(B)としては、具体的には、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、還元パラチノース、及びマンニトールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、シートの溶解性の制御に寄与する観点から、キシリトール、ソルビトール、及びエリスリトールから選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、キシリトール、及びエリスリトールから選ばれる1種又は2種がより好ましく、キシリトールがより好ましい。
【0018】
成分(B)の含有量は、口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御して、口腔内刺激の誘発を有効に抑制する観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、3質量%以上であって、好ましくは4質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは6質量%以上であり、よりさらに好ましくは10質量%以上である。また、成分(B)の含有量は、貼付部位への良好な追随性を確保しつつ、破損や破断を防止する適度な柔軟性を付与する観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、35質量%以下であって、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。そして、成分(B)の含有量は、本発明の口腔用貼付シート全量中に、3質量%以上35質量%以下であって、好ましくは4~30質量%であり、より好ましくは5~25質量%であり、さらに好ましくは6~20質量%であり、よりさらに好ましくは10~20質量%である。
【0019】
本発明の口腔用貼付シートは、成分(C)として、水溶性高分子を含有する。これにより、上記成分(B)とともに、口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御して、口腔内へ成分(A)を緩やかに放出させ、貼付部位等における過度な感覚刺激や味覚刺激の発現を有効に抑制しつつ、所望の作用を充分にもたらすことを可能とする。また、貼付部位への良好な追随性とともに、良好な取り扱い性をもたらす適度な柔軟性を付与することができる。
なお、水溶性高分子とは、25℃における水に対する溶解度が0.1質量%以上の水溶性高分子を意味する。
【0020】
かかる成分(C)としては、具体的には、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、及び寒天から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
なかでも、口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御して、口腔内へ成分(A)を穏やかに放出し、貼付部位等における過度な感覚刺激や味覚刺激の発現を有効に抑制しながら、所望の作用を充分にもたらす観点から、さらには唾液等の水分への良好な溶解性を発現する観点から、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、及び寒天から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、プルラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びゼラチンから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0021】
成分(C)の含有量は、口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御する観点、及び貼付部位への良好な追随性や取り扱い性をもたらす適度な柔軟性を付与する観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは17質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは45質量%以上であり、好ましくは65質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、さらに好ましくは55質量%以下である。
【0022】
成分(C)の含有量と成分(B)の含有量との質量比((C)/(B))は、口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御する観点、及び貼付部位への良好な追随性や取り扱い性をもたらす適度な柔軟性を付与する観点から、好ましくは0.45以上であり、より好ましくは1.2以上であり、さらに好ましくは2.25以上であり、好ましくは22以下であり、より好ましくは12以下であり、さらに好ましくは10以下である。
【0023】
本発明の口腔用貼付シートは、水(D)を含有するのが望ましい。これにより、貼付部位への良好な追随性や取り扱い性の付与に寄与することができ、貼付後の唾液等の水分の介在によって、口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御することができる。
成分(D)の含有量は、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは6質量%以上であり、さらに好ましくは9質量%以上であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。
なお、口腔用貼付シート全量中における水の含有量とは、口腔用貼付シート全量100質量%中に含まれる全水分量であり、カールフィッシャー法を利用した水分計を用いた測定方法に基づき、得られる値を意味する。
【0024】
成分(B)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((B)/(D))は、貼付部位等における過度な感覚刺激や味覚刺激の発現を抑制する観点、及び口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御する観点から、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.3以上であり、さらに好ましくは0.5以上であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは2.9以下であり、さらに好ましくは2.5以下である。
【0025】
成分(C)の含有量と成分(D)の含有量との質量比((C)/(D))は、貼付部位への良好な追随性や取り扱い性の付与の観点、及び口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御する観点から、好ましくは0.85以上であり、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは4.5以上であり、好ましくは22以下であり、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは6.5以下である。
【0026】
本発明の口腔用貼付シートは、含有する各成分の分散性・拡散性を高めつつ、口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御する観点から、さらにノニオン界面活性剤を含有するのが好ましい。かかるノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンフィトステロール及びフィトスタノール、ポリオキシエチレンラノリン及びラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン及び脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及び脂肪酸エタノールアミド等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
なかでも、含有する各成分の分散性・拡散性をさらに高めつつ、口腔内への成分(A)の溶解性をより適度に制御する観点から、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択される1種又は2種が好ましく、ポリオキシエチレン硬化ひまし油及びポリグリセリン脂肪酸エステルのいずれか1種を含有するのがより好ましく、ポリオキシエチレン硬化ひまし油を含有するのがさらに好ましい。
【0027】
かかるノニオン界面活性剤の含有量は、口腔内への成分(A)の溶解性を適度に制御する観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは0.5~10質量%であり、より好ましくは1~5質量%であり、さらに好ましくは2~3質量%である。
【0028】
本発明の口腔用貼付シートは、シートの湿潤性を高めつつ、含有する各成分の分散性・拡散性を高める観点から、さらに多価アルコールを含有するのが好ましい。かかる多価アルコールとしては、分子量200以下の低分子量多価アルコールが好ましく、具体的には、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン及びその重合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のグリコール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジアルキレングリコール等が挙げられる。なかでも、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、及びジプロピレングリコールのいずれか1種を含有するのがより好ましく、グリセリン、及びプロピレングリコールを含有するのがさらに好ましい。
【0029】
かかる多価アルコールの含有量は、シートの湿潤性を高めつつ、含有する各成分の分散性・拡散性を高める観点から、本発明の口腔用貼付シート全量中に、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40~0.1質量%であり、さらに好ましくは30~3質量%であり、よりさらに好ましくは20~5質量%である。
【0030】
本発明の口腔用貼付シートは、上記成分のほか、本発明の効果を損なわない限りにおいて、例えば、上記成分(A)以外の有効成分;上記ノニオン界面活性剤以外の界面活性剤;pH調整剤;色素;保存料等を含有することができる。
【0031】
本発明の口腔用貼付シートの層構成は、口腔内へ貼付する面を有していればよく、単層であってもよいが、口腔内へ貼付する面を含み、かつ上記成分を含有する貼付層を備え、さらに口腔内へ貼付する面とは反対側の面を含む保護層を備える複数層からなるシートであってもよい。これにより、本発明の口腔用貼付シートの取り扱い性を一層高めることができる。
なお、本発明の口腔用貼付シートが単層であっても複数層からなるシートであっても、上記各成分の量は、口腔用貼付シート全量中における量を意味する。
【0032】
かかる保護層は、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート、ヒプロメロースフタル酸エステル、セラック、ポリビニルアセテート、ポリメチルメタクリレート、メタクリロイルエチルベタイン/メタクリレート共重合体、メタクリル酸共重合体、アミノアルキルメタクリレート共重合体、及び寒天から選ばれる1種又は2種以上の水不溶性高分子を含有するのが、保護層としての観点からは好ましい。なかでも、本発明の口腔用貼付シートの良好な柔軟性を確保しつつ、貼付部位等における過度な感覚刺激や味覚刺激の発現を抑制する観点から、保護層は、エチルセルロース、セラックから選ばれる1種又は2種以上の水不溶性高分子を含有することが好ましい。
【0033】
本発明の口腔用貼付シートは、上記貼付層及び保護層のほか、さらに貼付層と保護層の層間において中間層を備えてもよい。中間層が含有する所望の成分としては、上記成分(A)と同様のものが挙げられ、貼付層が含有する成分(A)とは異なる有効成分を含有することもできる。
かかる中間層は、貼付層と同様の水溶性高分子を用いて形成されていてもよい。
【0034】
本発明の口腔用貼付シートは、口腔用貼付シートを口腔内へ貼付したときに、1分経過ごとの口腔用貼付シートの溶解量が、口腔用貼付シートの単位面積あたりに0.4mg/cm2以上5.5mg/cm2以下である。本発明の口腔用貼付シートの溶解量がこのような範囲内の値を示すことにより、本発明の口腔用貼付シートであれば、口腔内へ成分(A)を緩やかに放出して、貼付部位等における過度な感覚刺激や味覚刺激の発現を有効に抑制しつつ、所望の作用を充分にもたらすことができる。
【0035】
本発明の口腔用貼付シートを口腔内へ貼付したときの、1分経過ごとの口腔用貼付シートの溶解量は、口腔用貼付シートの単位面積あたりに0.4mg/cm2以上であって、好ましくは0.45mg/cm2以上であり、より好ましくは0.5mg/cm2以上であり、よりさらに好ましくは0.55mg/cm2以上であり、よりさらに好ましくは0.6mg/cm2以上であり、よりさらに好ましくは0.65mg/cm2以上であり、5.5mg/cm2以下であって、好ましくは4mg/cm2以下であり、より好ましくは3mg/cm2以下であり、さらに好ましくは2mg/cm2以下である。
なお、かかる口腔用貼付シートの溶解量は、2cm角のシートをアクリル板に貼付した後、水中(25℃)に浸漬した際にシート溶解部が完全に溶解するまでの時間(以下、「完全溶解時間」とも称する。)を計測し、口腔用貼付シートの重量(mg)から、1分間当たりに単位面積(cm2)から溶出する口腔用貼付シートの溶出量(mg)を算出することにより求められる値である。
【0036】
本発明の口腔用貼付シートの厚みは、口腔内への貼付後における成分(A)の溶出量を適度に制御して、貼付部位等における過度な感覚刺激や味覚刺激の発現を有効に抑制する観点から、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは40μm以上であり、さらに好ましくは50μm以上であり、よりさらに好ましくは60μm以上であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下であり、よりさらに好ましくは70μm以下である。
なお、口腔用貼付シートの厚みとは、マイクロメータを用いてシートの任意の3か所で測定された厚みの平均値(μm)を意味する。
【0037】
本発明の口腔用貼付シートの20MPa引張応力でのひずみは、貼付部位等における良好な追随性及び柔軟性を確保しつつ、操作時の破損や破断を防止する観点から、好ましくは2%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは4%以上であり、好ましくは12%以下であり、より好ましくは11%以下である。
なお、口腔用貼付シートの20MPa引張応力でのひずみとは、レオメーターを用いて測定対象のシートをひずみの測定のための治具にセットし、せん断応力を1~2×107Paまで変化させたときのひずみを測定し、せん断応力20MPaでのひずみを初期長さからの変化量(%)に換算して求めた値である。
【0038】
本発明の口腔用貼付シートは、かかるシートが有する口腔内へ貼付する面側に、さらに剥離シートを積層してもよい。かかる剥離シートを積層することにより、本発明の口腔用貼付シートの使用時には剥離シートを剥がし、口腔内へ貼付する面を露出させればよく、衛生面や操作性を高めることができる。
かかる剥離シートは、良好に剥離することができる観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、及びこれらの混合物から選ばれる1種又は2種以上により形成されてなるのが好ましく、ポリエチレンテレフタレートにより形成されてなるのがより好ましい。
【0039】
本発明の口腔用貼付シートの形状は、貼付対象とする歯牙、歯肉を含む歯牙の周辺に位置する器官(歯牙周辺部)、口蓋、舌、及び口底等から選ばれる部位の形状に応じて、使用時における操作性を考慮し、適宜決定すればよい。
【実施例
【0040】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
なお、シートの各物性については、以下の方法により測定した。
【0041】
《口腔用貼付シートの全水分量(D)》
自動水分測定装置(AQV-300シリーズ、平沼社製)を用い、口腔用貼付シートの全水分量を測定した。
【0042】
《口腔用貼付シートの20MPa引張応力でのひずみ》
レオメーター(MCR502、AntonPaar社製)を用いて測定対象のシートをひずみの測定のための治具にセットし、せん断応力を1~2×107Paまで変化させたときのひずみを測定し、せん断応力20MPaでのひずみを、初期長さからの変化量(%)に換算して求めた。
【0043】
《口腔内へ貼付したときにおける1分経過ごとのシートの溶解量(mg/cm2)の測定》
各シートから2cm角の試験片シートを切り出し、アクリル板に貼付した後、水中に浸漬した際にシート溶解部が完全に溶解するまでの時間(完全溶解時間)を計測した。次いで、シートの重量(mg)から、1分間当たりに単位面積(cm2)から溶出するシートの溶出量(mg)を算出することにより求めた。
かかる測定には3シート以上の試験片シートを用い、計測した各完全溶解時間が30秒以内の誤差範囲に収まる任意の3試験片シートを抽出して、その平均値を完全溶解時間として求めた。
【0044】
なお、シートが完全に溶解したかどうかは、水中より取り出したアクリル板のシート貼付部位に触れた際に、シート溶解残成分による粘つきを感じずに、アクリル板表面と同程度の摩擦を感じることができるか否かにより判断した。また、アクリル板を水から取り出した後に乾燥させ、シート貼付部位と貼付部位外のアクリル板表面の摩擦力が同程度であることを比較することによっても、シートが完全に溶解したかどうかを確認することができる。
さらに、シートが完全に溶解するまでの時間を測定する方法として、2cm角の試験片シートをアクリル板に貼付した後、水中に浸漬した際、経時でのシートから水中へ溶出した成分(A)の溶出量を測定し、溶出量が停滞する(プラトーに達する)までの時間をシートの溶解時間とすることもできる。
成分(A)の溶出量を測定するには、各成分に応じて適切な分析法を用いればよい。成分(A)がカテキン、及びl-メントールである場合における各分析方法の例を下記に示す。
【0045】
[カテキンの分析法]
カテキンの分析法としては、例えば、高速液体クロマトグラフ-質量分析法が挙げられる。試料溶液をフィルター(0.45μm)で濾過し、高速液体クロマトグラフに供す。
<高速液体クロマトグラフ操作条件>
機種:SCL-10AVP、(株)島津製作所
検出器:UV検出器波長280nm
カラム:オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム、L-カラムTM ODS、4.6mmφ×250mm、財団法人 化学物質評価研究機構
カラム温度:35℃
移動相A:酢酸を0.1mol/L含有する蒸留水溶液(A液)
移動相B:酢酸を0.1mol/L含有するアセトニトリル溶液(B液)
流速:1mL/分
試料注入量:10μL
なお、グラジエント条件は以下の通りである。
濃度勾配条件(体積%)
時間 A液濃度 B液濃度
0分 97% 3%
5分 97% 3%
37分 80% 20%
43分 80% 20%
43.5分 0% 100%
48.5分 0% 100%
49分 97% 3%
60分 97% 3%
【0046】
[l-メントールの分析法]
l-メントールの分析法としては、例えば、ガスクロマトグラフ-質量分析法が挙げられる。具体的には、例えば、試料2.0gに対して水150mL及びヘプタン8mLを加え、精油定量用蒸留装置にて蒸留を行い、ヘプタン層を分取して測定サンプルとし、機器条件を次のように設定して測定することができる。
<ガスクロマトグラフ操作条件>
機種:6890N/5975B interXL(Agilent Technologies社)
カラム:DB-WAX(Agilent Technologies社)
温度:試料注入口 220℃、カラム80℃(1分保持)→5℃/分昇温→150℃→15℃/分昇温→200℃
注入方法:スプリット 30:1
注入量:1μL
ガス流量:ヘリウム 1mL/分
イオン源温度:230℃
イオン化法:EI
設定質量数:m/z 136 ナフタレン-d8(内標準物質)
【0047】
[実施例1~6、比較例1~4]
表1に示す処方にしたがい、固形分を勘案しつつ水の量を適宜調整しながら、各成分を混合して原液を調製し、得られた原液を剥離シート上に塗工し、乾燥させて各口腔用貼付シートを作製した。
得られた口腔用貼付シートを用い、下記方法にしたがって各評価を行った。
なお、得られた口腔用貼付シートは、厚みが65±5μm、20MPa引張応力でのひずみが8±5%であった。
結果を表1に示す。
【0048】
《口腔内刺激の有無、及びシートの取り扱い性の評価》
得られた口腔用貼付シートを全量が0.2gとなるように約4×5cmの大きさに切り出し、これを舌の上に貼付して完全溶解させたときの、口腔内刺激(清涼感や苦味)の有無、及びシートの取り扱い性について、以下に示す各評価基準にしたがって評価した。
【0049】
・口腔内刺激の有無
1:かなり強い刺激がある
2:強い刺激がある
3:問題がない程度にわずかな刺激がある
4:ほとんど刺激がない
5:全く刺激がない
【0050】
・シートの取り扱い性
A:適度な柔軟性であり、優れた取り扱い性である
B:ほとんど問題のない取り扱い性である
C:柔らかすぎ、又は硬すぎて取り扱いにくい
【0051】
【表1】