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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20240523BHJP
   A41G 3/00 20060101ALI20240523BHJP
   D01F 6/90 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
D01F6/60 311A
A41G3/00 A
D01F6/90 311A
D01F6/90 311B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021534575
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2020021666
(87)【国際公開番号】W WO2021014765
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019133996
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】村岡 喬梓
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179340(WO,A1)
【文献】特開2015-066234(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0078893(KR,A)
【文献】特開2003-221733(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0045626(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/60
D01F 6/90
A41G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物が延伸された繊維で構成されている人工毛髪用繊維であって、
前記樹脂組成物を、φ40mm二軸押出機を用い、バレル設定温度280℃で溶融混練し、温度295度、穴径0.5mm/本のダイスから鉛直方向に溶融紡出させることにより未延伸糸を得たとき、前記未延伸糸の100℃における初期引張応力をF0と、2.5倍延伸時引張応力をF1とすると、前記樹脂組成物を紡糸して得られる未延伸糸のF1/F0が1.2以上であ
前記樹脂組成物は、第1樹脂を含有するベース樹脂を含み、
前記第1樹脂は、ポリアミドである、人工毛髪用繊維。
【請求項2】
請求項1に記載の人工毛髪用繊維であって、
記第1樹脂を紡糸して得られる未延伸糸のF1/F0が1.3以上である、人工毛髪用繊維。
【請求項3】
請求項2に記載の人工毛髪用繊維であって、
前記ベース樹脂中の前記第1樹脂の含有量が50質量%以上である、人工毛髪用繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる繊維(以下、単に「人工毛髪用繊維」という。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリアミドと臭素系難燃剤を含有する樹脂組成物を繊維化した人工毛髪用繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-246844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、人工毛髪用繊維は、溶融紡糸によって形成した未延伸の糸を延伸することによって作製しているが、延伸の際に糸が均一に延伸されずに、延伸後の糸にコブ状の節が形成される場合がある。人工毛髪用繊維に節が存在していると、触感が悪くなる等の問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、節の形成が抑制された人工毛髪用繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、樹脂組成物が延伸された繊維で構成されている人工毛髪用繊維であって、未延伸糸の100℃における初期引張応力をF0と、2.5倍延伸時引張応力をF1とすると、前記樹脂組成物を紡糸して得られる未延伸糸のF1/F0が1.2以上である、人工毛髪用繊維が提供される。
【0007】
本発明者が鋭意検討を行ったところ、F1/F0が1.2以上である未延伸糸を延伸して人工毛髪用繊維を製造することによって、節の発生が抑制された人工毛髪用繊維が得られることを見出し、本発明の完成に到った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の人工毛髪用繊維は、樹脂組成物が延伸された繊維で構成されていて、未延伸糸の初期引張応力をF0とし、2.5倍延伸時引張応力をF1とすると、
前記樹脂組成物を紡糸して得られる未延伸糸のF1/F0(以下、「樹脂組成物のF1/F0」)が1.2以上である。
【0009】
<樹脂組成物>
樹脂組成物を紡糸して得られる未延伸糸の引張応力は、温度:100℃、チャック間距離:100mm、引張速度:0.5m/分の条件で測定することができる。初期引張応力F0は、測定開始直後(詳細には、未延伸糸が1%伸びたとき)の引張応力であり、2.5倍延伸時引張応力F1は、未延伸糸が2.5倍に延伸されたときの引張応力である。
【0010】
F1/F0は、延伸に伴う引張応力の増大を示す指標である。F1/F0が大きいほど、延伸に伴って引張応力が増大する程度(ひずみ硬化の程度)が大きくなることを意味する。F1/F0が大きいと、延伸の程度が低い部位ほど延伸されやすくなる。延伸の程度が低い部位が節になるので、F1/F0が大きい未延伸糸を用いることによって節の発生が抑制される。具体的には、F1/F0が1.2以上である場合に節の発生が抑制され、F1/F0が1.3以上の場合に、節の発生が特に抑制される。F1/F0は、1.4以上がさらに好ましい。F1/F0の上限は、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.6以下であることがさらに好ましい。この場合に製造時の溶融紡糸の速度を上げやすく、生産性に優れる。
【0011】
<ベース樹脂>
本実施形態の人工毛髪用繊維を構成する樹脂組成物は、ベース樹脂を含み、難燃剤等の添加剤を任意的に含む。ベース樹脂は、樹脂組成物中に50質量%以上含まれることが好ましく、80質量%以上がより好ましい。この場合、樹脂組成物の溶融成形が容易となる。
【0012】
ベース樹脂を紡糸して得られる未延伸糸のF1/F0(以下、「ベース樹脂のF1/F0」)は1.3以上が好ましく、1.4以上がさらに好ましい。この場合に、樹脂組成物のF1/F0が大きくなりやすい。ベース樹脂のF1/F0は2.0以下が好ましい。
【0013】
本実施形態の樹脂組成物のベース樹脂の組成は、特に限定されず、ポリアミド、ポリエステル、塩化ビニル等のうちの少なくとも1種で構成されることが好ましい。ベース樹脂は、ポリアミドを50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましい。この場合、耐熱性及び触感に優れた人工毛髪用繊維が得られやすい。
【0014】
ポリアミドは、脂肪族ポリアミドを含むことが好ましく、脂肪族ポリアミドと、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミドとを含んでもよい。ポリアミドが脂肪族ポリアミドを50質量%以上含むことが好ましく、ベース樹脂が脂肪族ポリアミドを50質量%以上含むことがさらに好ましい。この場合、人工毛髪用繊維の触感が特に優れる。
【0015】
脂肪族ポリアミドは、芳香環を有さないポリアミドであり、脂肪族ポリアミドとして、ラクタムの開環重合によって形成されるn-ナイロンや、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の共縮重合反応で合成されるn,m-ナイロンが挙げられる。脂肪族ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6及びポリアミド66が挙げられる。耐熱性の観点からはポリアミド66が好ましい。
【0016】
半芳香族ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びそれらをベースに変性用モノマーを共重合させた変性ポリアミド6T、変性ポリアミド9T、変性ポリアミド10Tが挙げられる。中でも、溶融成形のし易さの点からはポリアミド10Tが好ましい。
【0017】
ポリエステルは、例えばPETである。
【0018】
ベース樹脂は、第1樹脂を含むことが好ましく、第1樹脂を紡糸して得られる未延伸糸のF1/F0(以下、「第1樹脂のF1/F0」)が1.3以上であることが好ましい。この場合に、樹脂組成物のF1/F0が大きくなりやすいからである。ベース樹脂中の第1樹脂の含有量は、例えば30質量%以上であり、50質量%以上が好ましく、65質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。この場合に、樹脂組成物のF1/F0がさらに大きくなりやすいからである。
【0019】
第1樹脂は、300℃、せん断速度2400(1/s)時の溶融粘度が100(Pa・s)以上であることが好ましい。この場合、第1樹脂のF1/F0の値が高くなりやすいからである。上記条件での第1樹脂の溶融粘度は、110(Pa・s)以上が好ましい。この場合、第1樹脂のF1/F0の値が高くなりやすいからである。
【0020】
第1樹脂は、ポリアミドであることが好ましく、脂肪族ポリアミドであることがさらに好ましく、ポリアミド6又はポリアミド66であることがさらに好ましく、ポリアミド66であることがさらに好ましい。この場合に、第1樹脂のF1/F0の値が特に高くなりやすいからである。
【0021】
(難燃剤)
本発明の人工毛髪用繊維は、難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤は、臭素系難燃剤が好ましい。難燃剤の添加量は、ベース樹脂100質量部に対して3~30質量部が好ましく、より好ましくは5~25質量部であり、より好ましくは10~25質量部である。このような場合に、人工毛髪用繊維の外観、スタイリング性、及び難燃性が特に良好になるからである。
【0022】
臭素系難燃剤としては、例えば臭素化フェノール縮合物、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリカーボネート樹脂および臭素含有トリアジン系化合物が挙げられる。
【0023】
(その他の添加剤)
本実施形態で用いられる樹脂組成物には、必要に応じて添加剤、例えば、難燃助剤、微粒子、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、染料、可塑剤、潤滑剤等を含有させることができる。
【0024】
<製造工程>
以下に、人工毛髪用繊維の製造工程の一例を説明する。
本発明の一実施形態の人工毛髪用繊維の製造方法は、溶融紡糸工程と、延伸工程と、アニール工程を備える。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0025】
(溶融紡糸工程)
溶融紡糸工程では、樹脂組成物を溶融紡糸することによって未延伸糸を製造する。具体的には、まず、上述した樹脂組成物を溶融混練する。溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。溶融混練としては、たとえば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。人工毛髪用繊維は、ポリアミドの種類により適正な温度条件のもと、通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0026】
本実施形態における人工毛髪用繊維の単繊度は、20~100デシテックスが好ましく、より好ましくは35~80デシテックスである。この単繊度にするためには、溶融紡糸工程直後の繊維(未延伸糸)の繊度を300デシテックス以下にしておくことが好ましい。未延伸糸の繊度が小さければ、細繊度の人工毛髪用繊維を得る為に延伸倍率を小さくすることができ、延伸処理後の人工毛髪用繊維に光沢が発生しにくくなることで、半艶~七部艶状態を維持することが容易になる傾向があるためである。
【0027】
(延伸工程)
延伸工程では、得られた未延伸糸を延伸倍率1.5~5.0倍で延伸して延伸糸を製造する。このような延伸によって、100デシテックス以下の細繊度の延伸糸を得ることができ、かつ繊維の引張強度を向上させることができる。延伸倍率は、2.0~4.0倍が好ましい。延伸倍率は、適度に大きい方が繊維の強度発現が適度に起こる傾向にあり、適度に小さい方が延伸処理時に糸切れを発生し難くなる傾向にあるためである。
【0028】
延伸処理の際の温度は、90~120℃が好ましい。延伸処理温度があまりに低いと繊維の強度が低くなると共に糸切れを発生し易くなる傾向にあり、あまりに高いと得られる繊維の触感がプラスチック的な滑り触感になる傾向にあるためである。
【0029】
(アニール工程)
アニール工程では、延伸糸に対して好ましくは150~200℃の熱処理温度で熱処理を行う。この熱処理によって、延伸糸の熱収縮率を低下させることができる。熱処理は、延伸処理の後に連続して行っても、一旦巻き取った後に時間を開けて行うこともできる。熱処理温度は、好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。
【実施例
【0030】
<実施例・比較例の人工毛髪用繊維の製造>
吸湿率が1000ppm未満になる様に乾燥したポリアミド、PET及び臭素系難燃剤を表1にある配合比になる様にブレンドを行った。表1中のポリアミド、PET及び臭素系難燃剤に関する配合量についての数値は、質量部を表す。ブレンドした材料は、φ40mm二軸押出機を用い、バレル設定温度280℃で溶融混練し、その後ギアポンプにより一定吐出量になるように調整し、温度295度、穴径0.5mm/本のダイスから鉛直方向に溶融紡出させ、ノズル直下2mの位置に設置した引取機に未延伸糸を一定速度で巻き取った。得られた未延伸糸について、後述する評価方法及び基準に従って、初期引張応力F0と、2.5倍延伸時引張応力F1の比F1/F0を測定した。その結果を表1に示す。
【0031】
得られた未延伸糸を100℃で延伸し、その後、180℃でアニールを行い、所定維度の人工毛髪用繊維を得た。延伸倍率は2.3倍、アニール時の弛緩率は6~7%にて行った。アニール時の弛緩率とは、(アニール時の巻取りローラの回転速度)/(アニール時の送り出しローラの回転速度)で算出される値である。
【0032】
得られた人工毛髪用繊維について、後述する評価方法及び基準に従って、延伸性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0033】
また、表1に示す三種のPA66について、溶融粘度を測定した。その結果を表2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1~表2にある素材は、以下のものを採用した。以下のリスト中の溶融粘度は、300℃、せん断速度2400(1/s)で測定した値である。
PA66(A):自社調製品、F1/F0=1.55、溶融粘度163(Pa・s)
PA66(B):自社調製品、F1/F0=1.54、溶融粘度145(Pa・s)
PA66(C):自社調製品、F1/F0=1.07、溶融粘度75(Pa・s)
PA6:自社製、F1/F0=1.46、溶融粘度130(Pa・s)
PA10T:ダイセルエボニック株式会社製、VESTAMID HO Plus M3000、F1/F0=1.16、溶融粘度68(Pa・s)
PET:三井化学株式会社製、J125S、F1/F0=1.14、溶融粘度67(Pa・s)
臭素系難燃剤:阪本薬品工業株式会社製、臭素化エポキシ樹脂 SRT-20000
【0037】
<各種測定・評価>
以下に示す方法で、各種特性・物性の測定及び評価を行った。
【0038】
(引張応力)
実施例・比較例の引張応力は、ストログラフT(株式会社東洋精機製作所製)を用い、温度:100℃、チャック間距離:100mm、引張速度:0.5m/分、繊維直径125μmの条件で測定した。初期引張応力F0は、測定開始直後(詳細には、未延伸糸が1%伸びたとき)の引張応力であり、2.5倍延伸時引張応力F1は、未延伸糸が2.5倍に延伸されたときの引張応力である。
【0039】
(溶融粘度)
実施例・比較例の溶融粘度は、Capilograph 1D(株式会社東洋精機製作所製)を用い、温度:300℃で、表2のせん断速度でJIS K 7199に準じて測定した。
【0040】
(延伸性評価)
延伸倍率2.5倍又は4倍で作製した人工毛髪用繊維について、目視評価で1本・10m当たりの節の数を数えた。
【0041】
<考察>
F1/F0が1.2以上である全ての実施例では、延伸性が良好であり、全ての比較例では、延伸性が良好でなかった。また、F1/F0が1.3以上である実施例1~4では、延伸性が特に良好であった。