(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4745 20060101AFI20240523BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240523BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240523BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240523BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240523BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61K9/48
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/26
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021575230
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 KR2020007628
(87)【国際公開番号】W WO2020256349
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0073344
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517149645
【氏名又は名称】テファ ファーマ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DAE HWA PHARMA. CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】495, Hanu-ro, Hoengseong-eup Hoengseong-gun Gangwon-do 25228, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジュンヒ
(72)【発明者】
【氏名】イ,インヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ミンヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヘジン
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/124789(WO,A1)
【文献】特表2017-537976(JP,A)
【文献】特表2005-538090(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018634(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;
ポリオキシルグリセリド5~80重量%;
ポリエチレングリコール5~80重量%;
アシルグリセロール5~80重量%;および
ソルビタン脂肪酸エステル5~25重量%
を含む経口投与用の医薬組成物。
【請求項2】
イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;
ポリオキシルグリセリド30~70重量%;
ポリエチレングリコール15~40重量%;
アシルグリセロール5~20重量%;および
ソルビタン脂肪酸エステル5~20重量%
を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ポリオキシルグリセリドが、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、ラウロイルポリオキシルグリセリド、リノレオイルポリオキシルグリセリド、オレオイルポリオキシルグリセリド、およびステアロイルポリオキシルグリセリドからなる群から選択される1つ以上である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ポリオキシルグリセリドが、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリドである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコールが、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、およびポリエチレングリコール900からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記アシルグリセロールが、ベヘン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、およびそれらの複合体からなる群から選択される1つ以上である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記アシルグリセロールが、30~65重量%のモノオレオイルグリセロール、15~50重量%のジオレオイルグリセロール、および2~20重量%のトリオレオイルグリセロールを含有するオレオイルグリセロール複合体である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ソルビタン脂肪酸エステルが、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジイソステアレート、ソルビタンセスキステアレート、ソルビタンセスキイソステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリイソステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、およびソルビタンモノパルミテートからなる群から選択される1つ以上である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ソルビタン脂肪酸エステルが、ソルビタンモノオレエートである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;
カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド5~80重量%;
ポリエチレングリコール5~80重量%;
オレオイルグリセロール複合体5~80重量%;および
ソルビタンモノオレエート5~25重量%
を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;
カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド30~70重量%;
ポリエチレングリコール15~40重量%;
オレオイルグリセロール複合体5~20重量%;および
ソルビタンモノオレエート5~20重量%
を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
イリノテカン遊離塩基1.45重量%;
カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド58.08重量%;
ポリエチレングリコール300 21.69重量%;
オレオイルグリセロール複合体9.68重量%;および
ソルビタンモノオレエート9.10重量%
を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
イリノテカン遊離塩基1.43重量%;
カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド34.36重量%;
ポリエチレングリコール400 38.48重量%;
オレオイルグリセロール複合体16.18重量%;および
ソルビタンモノオレエート9.55重量%
を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の経口投与用の医薬組成物をカプセルに充填することによって得られる、カプセル剤の形態の経口投与用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物に関する。より具体的には、本発明は、有効成分としてのイリノテカン遊離塩基と、ポリオキシルグリセリド、ポリエチレングリコール、アシルグリセロール、およびソルビタン脂肪酸エステルとを特定の量で含む経口投与用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イリノテカンは、カンプトテシンから合成することができ、主に転移性結腸癌または直腸癌に適用される抗がん化学療法剤である。イリノテカンの化学名は、(S)-4,11-ジエチル-3,4,12,14-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-3,14-ジオキソ-1H-ピラノ[3’,4’:6,7]-インドリジノ[1,2-b]キノリン-9-イル[1,4’ビピペリジン]-1’-カルボキシレートであり、以下の式1で示される化学構造を有する。
【化1】
【0003】
イリノテカンは、トポイソメラーゼI阻害剤であり、DNAの複製、遺伝子組換えおよび転写に関与するトポイソメラーゼの作用を阻害する。イリノテカンは、転移性直腸癌や結腸癌などのがんの治療に使用されている。イリノテカンは、様々な実験腫瘍モデルに対して優れた抗腫瘍活性を示し、特に、肺癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、子宮頚部癌、頭頚部癌、脳腫瘍、卵巣癌などについて研究されている(WO2001/30351)。イリノテカンは、肝臓においてカルボキシルエステラーゼによって活性代謝物であるSN-38に代謝されるプロドラッグである。SN-38は、イリノテカンの100~1000倍の効力を持っている。イリノテカンおよびその活性代謝物であるSN-38は、トポイソメラーゼI-DNA複合体に結合することによって、DNAの巻き戻しを阻止する。SN-38の化学名は、7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシンであり、以下の式2で示される化学構造を有する。
【化2】
【0004】
現在、イリノテカンは、毎週または3週に1回、30~90分かけて静脈内注入される水溶液としての投与しか行われていない。静脈内投与用のイリノテカン塩酸塩三水和物(CPT-11)の水溶液は、現在、CAMPTOSAR(登録商標)の商品名で販売されている。しかしながら、市販のイリノテカン製剤の投与経路は静脈内注射であり、長期間の通院が必要となるという欠点がある。錠剤製剤などの固形経口剤形は、静脈内化学療法を受けるために長期間にわたって診療所または病院に繰り返し通わなければならない患者に対して大幅な利便性を提供することができる。経口剤形の開発により、複数回の治療サイクルを受ける必要のある患者が通院サイクルに煩わせられることを防ぐことができ、これによって患者の生活の質が大幅に改善される。さらに、薬理学的観点および経済的観点からは、患者が自宅で投与できれば、医療費を大幅に削減できる。このような背景から、投薬の利便性を高め、静脈内投与によるコストを削減するために、患者が自宅で自己投与できる経口製剤の開発が試みられたが、経口製剤の開発の成功はまだ報告されていない。
【0005】
イリノテカンの有効性は、用量依存的かつ投薬スケジュール依存的であることが示されている。低用量でのイリノテカンの長期投与は、高用量での短期投与よりも効果的であり、毒性が少ないことが知られている。イリノテカンの長期投与方法としては、経口投与が効果的だと考えられる。総イリノテカンに対する総SN-38の代謝比は、静脈内投与よりも経口投与の方が高くなる。しかし、イリノテカンの経口投与では、生物学的利用能が低くなる(9%)ことが報告されている。また、イリノテカンは難溶性の薬剤であるため、経口製剤に製剤化することが難しい(EP2328557)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来のイリノテカン製剤に関する問題を解決することができる経口製剤を開発した。本発明者らは、特に、有効成分としてのイリノテカン遊離塩基と、ポリオキシルグリセリド、ポリエチレングリコール、アシルグリセロール、およびソルビタン脂肪酸エステルとを特定の量で含む経口投与用の医薬組成物が、優れた生体内吸収率を示すことを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、難溶性のイリノテカン遊離塩基に関する問題を解決することができ、かつ投薬の利便性および生体内吸収率を改善することができる経口投与用の医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;ポリオキシルグリセリド5~80重量%;ポリエチレングリコール5~80重量%;アシルグリセロール5~80重量%;およびソルビタン脂肪酸エステル5~25重量%を含む経口投与用の医薬組成物が提供される。
【0009】
前記ポリオキシルグリセリドは、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、ラウロイルポリオキシルグリセリド、リノレオイルポリオキシルグリセリド、オレオイルポリオキシルグリセリド、およびステアロイルポリオキシルグリセリドからなる群から選択される1つ以上であってもよく、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリドであることが好ましい。
【0010】
前記ポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、およびポリエチレングリコール900からなる群から選択してもよい。
【0011】
前記アシルグリセロールは、ベヘン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、およびそれらの複合体からなる群から選択される1つ以上であってもよい。前記アシルグリセロールは、30~65重量%のモノオレオイルグリセロール、15~50重量%のジオレオイルグリセロール、および2~20重量%のトリオレオイルグリセロールを含有するオレオイルグリセロール複合体であることが好ましい。
【0012】
前記ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジイソステアレート、ソルビタンセスキステアレート、ソルビタンセスキイソステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリイソステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、およびソルビタンモノパルミテートからなる群から選択される1つ以上であってもよく、ソルビタンモノオレエートであることが好ましい。
【0013】
一実施形態において、前記経口投与用の医薬組成物をカプセルに充填することにより得られる、カプセル剤の形態の経口投与用医薬組成物が提供される。
【発明の効果】
【0014】
有効成分としてのイリノテカン遊離塩基と、ポリオキシルグリセリド、ポリエチレングリコール、アシルグリセロール、およびソルビタン脂肪酸エステルとを特定の量で含む本発明の経口投与用医薬組成物は、難溶性のイリノテカン遊離塩基に関する問題を解決するだけでなく、その生物学的利用能を効果的に向上させることができる。特に、本発明の経口投与用医薬組成物は、これまで注射剤としてしか利用できなかったイリノテカンを経口投与可能にすることによって、患者の投薬の利便性を改善し、注射にかかるコストを削減できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で調製した、イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物の外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「イリノテカン遊離塩基」という用語は、塩の形態ではない化合物、すなわち、遊離塩基の形態の化合物を意味する。
【0017】
本発明は、イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;ポリオキシルグリセリド5~80重量%;ポリエチレングリコール5~80重量%;アシルグリセロール5~80重量%;およびソルビタン脂肪酸エステル5~25重量%を含む経口投与用の医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明の医薬組成物において有効成分として使用されるイリノテカン遊離塩基は、治療有効量で使用してもよい。例えば、医薬組成物の単位製剤1mlあたりのイリノテカン遊離塩基の含有量は、1~30mgの範囲、典型的には約15mgであってもよい。
【0019】
本発明の医薬組成物は、有効成分としてのイリノテカン遊離塩基と、ポリオキシルグリセリド、ポリエチレングリコール、アシルグリセロール、およびソルビタン脂肪酸エステルとを特定の量で含む。本発明の一実施形態において、イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;ポリオキシルグリセリド30~70重量%;ポリエチレングリコール15~40重量%;アシルグリセロール5~20重量%;およびソルビタン脂肪酸エステル5~20重量%を含む経口投与用の医薬組成物が提供される。
【0020】
本発明の医薬組成物において、可溶化剤として使用されるポリオキシルグリセリドは、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド、ラウロイルポリオキシルグリセリド、リノレオイルポリオキシルグリセリド、オレオイルポリオキシルグリセリド、およびステアロイルポリオキシルグリセリドからなる群から選択される1つ以上であってもよく、カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド(例えば、LabrasolTM)であることが好ましい。
【0021】
安定剤として使用されるポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、およびポリエチレングリコール900からなる群から選択してもよい。
【0022】
乳化剤として使用されるアシルグリセロールは、特に明記しない限り、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロール、またはそれらの複合体を包含する。例えば、前記アシルグリセロールは、ベヘン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、およびそれらの複合体からなる群から選択される1つ以上であってもよい。好ましくは、前記アシルグリセロールは、30~65重量%のモノオレオイルグリセロール、15~50重量%のジオレオイルグリセロール、および2~20重量%のトリオレオイルグリセロールを含有するオレオイルグリセロール複合体であってもよい。一実施形態において、前記オレオイルグリセロール複合体は、32~52重量%のモノオレオイルグリセロール、30~50重量%のジオレオイルグリセロール、および5~20重量%のトリオレオイルグリセロールを含有するオレオイルグリセロール複合体[例えば、PeceolTM(Gattefosse社)]であってもよい。別の一実施形態において、前記オレオイルグリセロール複合体は、55~65重量%のモノオレオイルグリセロール、15~35重量%のジオレオイルグリセロール、および2~10重量%のトリオレオイルグリセロールを含有するオレオイルグリセロール複合体[例えば、CAPMULTM(Abitec社)]であってもよい。
【0023】
非イオン性界面活性剤であるソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジイソステアレート、ソルビタンセスキステアレート、ソルビタンセスキイソステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリイソステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、およびソルビタンモノパルミテートからなる群から選択される1つ以上であってもよく、ソルビタンモノオレエート(例えば、SpanTM80)であることが好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態において、イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド5~80重量%;ポリエチレングリコール5~80重量%;オレオイルグリセロール複合体5~80重量%;およびソルビタンモノオレエート5~25重量%を含む経口投与用の医薬組成物が提供される。
【0025】
本発明の別の一実施形態において、イリノテカン遊離塩基0.1~10重量%;カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド30~70重量%;ポリエチレングリコール15~40重量%;オレオイルグリセロール複合体5~20重量%;およびソルビタンモノオレエート5~20重量%を含む経口投与用の医薬組成物が提供される。
【0026】
本発明の特に好ましい一実施形態において、イリノテカン遊離塩基1.45重量%;カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド58.08重量%;ポリエチレングリコール300 21.69重量%;オレオイルグリセロール複合体9.68重量%;およびソルビタンモノオレエート9.10重量%を含む経口投与用の医薬組成物が提供される。
【0027】
本発明の別の特に好ましい一実施形態において、イリノテカン遊離塩基1.43重量%;カプリロカプロイルポリオキシルグリセリド34.36重量%;ポリエチレングリコール400 38.48重量%;オレオイルグリセロール複合体16.18重量%;およびソルビタンモノオレエート9.55重量%を含む経口投与用の医薬組成物が提供される。
【0028】
前述した本発明の医薬組成物は、透明な油性溶液の形態、すなわち、脂質溶液の形態で得られ(例えば、
図1を参照されたい)、患者に直接適用することができる。したがって、本発明の医薬組成物は、脂質溶液の形態の経口投与用医薬組成物として製剤化してもよい。
【0029】
さらに、本発明の医薬組成物は、透明な油性溶液の形態(すなわち、脂質溶液の形態)で得られることから、沈殿物を形成することのないカプセル剤の形態に製剤化することができる。したがって、本発明は、脂質溶液の形態の経口投与用医薬組成物をカプセルに充填することによって得られる、カプセル剤の形態の経口投与用医薬組成物を含む。前記カプセルは、薬剤学の分野で通常使用されるカプセルであってもよく、ゼラチンカプセル、プルランカプセル、HPMCカプセルなどの、ソフトカプセルおよびハードカプセルであることが好ましい。
【0030】
本発明による経口投与用の医薬組成物は、肺癌、胃癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、子宮頚部癌、頭頚部癌、脳腫瘍、卵巣癌、結腸癌、直腸癌などのがんの治療に使用することができる。
【0031】
以下、実施例および試験例を参照することにより本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例および試験例は、本発明を一例として説明するためのものであり、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【実施例】
【0032】
実施例1:イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物の調製
イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物を、表1に示した成分および量に従って調製した。表1に示した量は、各成分の重量%を表す。イリノテカン遊離塩基を塩化メチレンに完全に溶解させた。ポリオキシルグリセリド(Labrasol
TM)、ポリエチレングリコール300、およびオレオイルグリセロール複合体(Peceol
TM)を添加した。得られた溶液を40℃、減圧下で濃縮して塩化メチレンを除去した後、ソルビタン脂肪酸エステル(Span
TM80)を加えた。得られた溶液を40℃で撹拌して、透明な油性溶液を調製した。その外観を
図1に示す。
【表1】
【0033】
実施例2:イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物の調製
イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物を、表2に示した成分および量に従って調製した。表2に示した量は、各成分の重量%を表す。イリノテカン遊離塩基を塩化メチレンに完全に溶解させた。ポリオキシルグリセリド(Labrasol
TM)、ポリエチレングリコール400、およびオレオイルグリセロール複合体(Peceol
TM)を添加した。得られた溶液を40℃、減圧下で濃縮して塩化メチレンを除去した後、ソルビタン脂肪酸エステル(Span
TM80)を加えた。得られた溶液を40℃で撹拌して、透明な油性溶液を調製した。
【表2】
【0034】
実施例3:イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物の調製
イリノテカン遊離塩基を含む経口投与用の医薬組成物を、表3に示した成分および量に従って調製した。イリノテカン遊離塩基を塩化メチレンに完全に溶解させた。Labrasol
TM、ポリエチレングリコール300、およびオレオイルグリセロール複合体(Peceol
TM)を添加した。得られた溶液を40℃、減圧下で濃縮して塩化メチレンを除去した後、ソルビタン脂肪酸エステル(Span
TM80)を加えた。得られた溶液を40℃で撹拌して、透明な油性溶液を調製した。得られた透明な油性溶液をHPMCカプセルに充填して、カプセル剤の形態の医薬組成物を調製した。その外観を
図2に示す。
【表3】
【0035】
試験例1:イリノテカンの量の測定
実施例1および実施例2で調製した製剤中のイリノテカンの量を測定した。一定量のイリノテカン標準物質を取り、アセトニトリルとメタノールと酢酸の混合溶液(100:100:1(v/v/v))に溶解して標準溶液を調製した。試験溶液は、一定量の各医薬組成物を、アセトニトリルとメタノールと酢酸の混合溶液(100:100:1(v/v/v))に溶解することによって調製した。調製した標準溶液と試験溶液を、以下の条件のHPLCで分析した。イリノテカンの量は下記式で計算した。
<HPLC条件>
HPLC:Shimadzu LC-20AD
検出器:紫外線検出器
波長:255nm
カラム:4.6mm×250mm、5μm、C18
カラム温度:40℃
注入量:15μl
<イリノテカンの量の計算式>
イリノテカンの量(%)=AT/AS×CS/CT×P
AT:試験溶液のイリノテカンのピーク面積
AS:標準溶液のイリノテカンのピーク面積
CS:標準溶液のイリノテカンの濃度(mg/ml)
CT:試験溶液のイリノテカンの濃度(mg/ml)
P:イリノテカン標準物質の純度
【0036】
その結果、実施例1で調製した製剤中のイリノテカンの量は100.4%であり、実施例2で調製した製剤中のイリノテカンの量は100.2%であることが確認された。
【0037】
試験例2:生体内吸収率の評価
実施例1および実施例2で調製した製剤を、胃ゾンデを使用して225mg/kgの用量でICRマウス(6週齢、雌性)に経口投与した。投与から0分、30分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後および8時間後に、マウスから眼窩採血により血液サンプルを採取し、6000×g、4℃で20分間遠心分離した。各上清を採取して、血漿サンプルを得た。得られた血漿サンプル(100μL)に、アセトニトリルと1mMのリン酸(9:1(v/v))の混合液(300μL)を添加した。得られた各サンプルをボルテックスミキサーで撹拌し、14,000×g、4℃で20分間遠心分離した。各上清(200μL)を採取し、0.1Mのリン酸カリウム(pH4.2)600μLを添加した。血液サンプル中のイリノテカンとSN-38の濃度を、HPLC-FLD検出器を使用して分析した。
【0038】
実施例1および実施例2で調製した製剤のICRマウスにおける生体内吸収パターンを、以下の条件のHPLCにより評価した。
<HPLC条件>
HPLC:Agilent 1260
検出器:蛍光検出器
波長:228nm(励起)~543nm(発光)、20分間(SN-38)
カラム:4.6mm×250mm、5μm、C18
カラム温度:30℃
注入量:30μl
【0039】
イリノテカンとその活性代謝物(SN-38)の薬物動態パラメーターを以下の表4に示した。
【表4】
【0040】
表4に示したように、本発明に従って得られた医薬組成物は、Tmax1時間で急速に吸収され、高い生物学的利用能を示すことが分かる。
【0041】
比較例
イリノテカン遊離塩基を含む製剤を、表5に示した成分および量に従って調製した。表5に示した量は、各成分の重量%を表す。イリノテカン遊離塩基を塩化メチレンに完全に溶解させた。ポリオキシルグリセリド(Labrasol
TM)、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、オレオイルグリセロール複合体(Peceol
TM)、およびソルビタン脂肪酸エステル(Span
TM80)のいずれか1種類を添加した。得られた溶液を40℃、減圧下で濃縮して塩化メチレンを除去して、比較例1~5の製剤を調製した。比較例1~5の製剤はいずれも沈殿物を有する不透明な溶液の形態であった。
図3は、比較例1の製剤の外観を示す。
【表5】