(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】リン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料及びその製造方法、電極材料、電極、並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240523BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240523BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/136
(21)【出願番号】P 2023536552
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 CN2022098044
(87)【国際公開番号】W WO2023024651
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】202111002582.3
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110981854.2
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517232741
【氏名又は名称】ベイジン イースプリング マテリアル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】リアン,ツェ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ヤーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イェンビン
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-149356(JP,A)
【文献】特開2017-069028(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102024951(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103367746(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111900344(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111268664(CN,A)
【文献】国際公開第2013/038517(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材料の構成式が
Li
iMn
1-x-y-zFe
xM
yM′
z(PO
4)
1-nN
n/Cであり、
前記正極材料は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、前記正極材料の一次粒子
はその平均粒度が10~500nmであり、
その表面に均一な炭素被覆を有し、前記二次球状粒子
はその平均粒度が1~50μmであり、
その表面に炭素被覆を有し、
前記正極材料は斜方晶系の結晶構造を有することを特徴とするリン酸マンガン鉄リチウム正極材料。
(式中、0.1<x≦0.6、0.01≦y≦0.04、0≦z≦0.04、
1.02<i≦
1.05、0≦n≦0.04であり、かつ、zとnは同時に0とはならず、
MはMg、Co、Ni、Cu、Zn、及びTiから選択される少なくとも1種であり、M′はMg、Ca、Sr、Ti、V、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Y、Mo、Nb、B、Al、W、La、及びSmから選択される少なくとも1種であり、
NはF及び/又はClから選択される。)
【請求項2】
前記正極材料の全重量に対して、前記正極材料中の炭素元素の含有量が0.5~10wt%である請求項1に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料。
【請求項3】
前記正極材料の全重量に対して、前記正極材料中の炭素元素の含有量が1~3wt%である請求項1に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料。
【請求項4】
前記正極材料の全重量に対して、前記正極材料中の炭素元素の含有量が1.8~3wt%である請求項1に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料。
【請求項5】
前記正極材料の構成式において、0.19≦x≦0.39、0.01≦y≦0.04、0.01≦z≦0.04
、0.01≦n≦0.04であり、及び/又は
MはMg、Cu及びTiから選択される少なくとも1種であり、及び/又は、M′は、Ti、Nb、及びBから選択される少なくとも1種であり、及び/又は、NはFである請求項1~4のいずれか1項に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料。
【請求項6】
前記正極材料の構成式において、0.19≦x≦0.39、0.01≦y≦0.04、0.01≦z≦0.02、1.02≦i≦1.05、0.01≦n≦0.02である請求項5に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料。
【請求項7】
前記二次球状粒子の平均粒度が7~15μmであり、及び/又は、前記正極材料の一次粒子の平均粒度が60~100nmであり、及び/又は
タップ密度が1.5~2.5g/cm
3であり、0.1Cレートでの比容量が145~160mAh/gであり、80サイクル後の容量維持率が85~97%である請求項1~4のいずれか1項に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料。
【請求項8】
タップ密度が2.09~2.31g/cm
3であり、0.1Cレートでの比容量が152.1~157.2mAh/gであり、80サイクル後の容量維持率が92.6~95.9%である請求項7に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料。
【請求項9】
構成式が(NH
4)Mn
1-x-yFe
xM
yPO
4・H
2O/C(式中、0.1<x≦0.6、0.01≦y≦0.04であり、MはMg、Co、Ni、Cu、Zn、及びTiから選択される少なくとも1種である。)であるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を提供するステップ(1)と、
溶媒の存在下で、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リチウム源、第2炭素源、M′源及び/又はN源を均一に混合して、第2スラリーを得るステップ(2)と、
第2スラリー中の溶媒を除去して、乾燥材料を得た後、不活性雰囲気の保護下で、乾燥材料を焼成し、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得るステップ(3)と、を含み、
前記前駆体は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、前記前駆体の一次粒子の平均粒度が10~500nmであり、前記二次球状粒子の平均粒度が1~50μmであり、
前記前駆体は斜方晶系の結晶構造を有することを特徴とする請求項1に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料の製造方法。
【請求項10】
ステップ(2)では、前記リチウム源は、酸化リチウム、水素化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、及びクエン酸リチウムから選択される少なくとも1種であり、及び/又は
前記第2炭素源は、グルコース、スクロース、フルクトース、セルロース、スターチ、クエン酸、ポリプロピレン酸、ポリエチレングリコール、及びドーパミンから選択される少なくとも1種であり、及び/又は
前記M′源は、M′を含有する酸素含有化合物及び/又は塩化物から選択され、及び/又は
前記N源は、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化リチウム、塩化アンモニウム、及び塩化リチウムから選択される少なくとも1種である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(2)では、前記リチウム源は、炭酸リチウム、水素化リチウム、及び塩化リチウムから選択される少なくとも1種であり、及び/又は
前記第2炭素源は、グルコース、スクロース、スターチ、及びセルロースから選択される少なくとも1種であり、及び/又は
前記M′源は、二酸化チタン、五酸化ニオブ、及びホウ酸から選択される少なくとも1種であり、及び/又は
前記N源は、フッ化リチウムである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
リン酸マンガン鉄リチウム前駆体と、リチウム源と、M′源及び/又はN源と、第2炭素源とのモル比が、1:0.52~1.05:0.005~0.01:0.5~1である請求
項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(3)では、前記焼成条件は、焼成温度500~1000℃、焼成時間4~20h、及び/又は、前記不活性雰囲気が窒素雰囲気及び/又はアルゴン雰囲気であることを含む請求項9に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(3)では、前記焼成条件は、焼成温度600~800℃、焼成時間6~12hであることを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記前駆体の全重量に対して、前記前駆体中の炭素元素の含有量が0.05~5wt%であり、
前記前駆体の構成式において、0.19≦x≦0.39、0.01≦y≦0.04であり、及び/又は、MはMg、Cu及びTiから選択される少なくとも1種である請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記二次球状粒子の平均粒度が5~12μmであり、及び/又は、前記前駆体の一次粒子の平均粒度が40~100nmである請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記リン酸マンガン鉄リチウム前駆体の製造方法は、
マンガン源、鉄源及び任意のM源を含有する第1混合液を提供し、リン源及びアンモニア源を含有する第2混合液を提供し、錯化剤及び第1炭素源を含有する第3混合液を提供するステップ(a)と、
第1混合液及び第2混合液を第3混合液に加えて共沈反応を行い、第1スラリーを得るステップ(b)と、
第1スラリーに対して固液分離及び洗浄を行い、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体を得るステップ(c)と、を含む請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
活物質と、導電剤と、バインダと、を含有する電極材料であって、前記活物質は、請求項1~4のいずれか1項に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料であることを特徴とする電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年08月30日に提出された中国特許出願202111002582.3の優先権を主張しており、当該出願の内容は引用により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本願は、2021年08月25日に提出された中国特許出願202110981854.2の優先権を主張しており、当該出願の内容は引用により本明細書に組み込まれている。
【0003】
本発明はリチウムイオン電池の技術分野に関し、具体的には、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料及びその製造方法、電極材料、電極、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0004】
近年、携帯型電子機器、電気自動車や大規模エネルギー貯蔵の市場が拡大しており、リチウムイオン電池の需要が伸び続けている。リチウムイオン電池の重要な構成要素である正極材料は、高いエネルギー密度に注目しながら、安全性とコストの両方が求められている。コバルト酸リチウムは最初に商業化応用を実現した正極材料で、容量が150mAh/gに達するが、コバルト資源は乏しく、価格が高く、毒性があるため、その広範な応用と長期的な発展が深刻に制限されている。コストを下げ、エネルギー密度を高めるため、ニッケル・コバルト・マンガンの三元材料は急速に発展し、パワー電池の分野で重要な地位を占めているが、依然としてコストが高いという問題が存在し、その安全性能が劣っている。オリビン型正極材料は高い安全性能とコストの優位性を持ち、リン酸鉄リチウムも大規模で応用されており、その電圧プラットフォームが低いため、高いエネルギー密度の需要を満たすことが難しい。リン酸鉄マンガンリチウムは高い電圧プラットフォームとエネルギー密度を持ち、低コストで環境に優しく、安全性能が高いというリン酸鉄リチウムの特徴を両立しており、広く注目されている。
【0005】
しかし、オリビン型結晶構造はリチウムイオンの移動を制限するため、リン酸鉄マンガンリチウムは電子伝導度やイオン伝導度が低く、容量発現やレート性能に影響を与える。リン酸鉄マンガンリチウムの導電性を高めるために、粒子サイズを減らすことや炭素被覆の手段を用いてリン酸鉄マンガンリチウムを改質するのが一般的である。これにより、リン酸鉄マンガンリチウムのタップ密度が低下し、比表面積が増加し、材料の体積エネルギー密度と加工性に影響を与えることになる。
【0006】
CN106328942Aは、リチウム源、マンガン源、鉄源、リン源溶液と造孔剤であるポリマー溶液とを混合して紡糸溶液を得て、これを静電紡糸してリン酸鉄マンガンリチウム前駆体を得て、これを焼結してリン酸鉄マンガンリチウム正極材料を得るリン酸鉄マンガンリチウム正極材料の製造方法を開示している。この方法により得られるリン酸鉄マンガンリチウム正極材料は、アスペクト比及び空隙率が高く、電池のレート性能が向上する。しかし、このプロセスは静電紡糸技術を用いて前駆体を製造するため、プロセスが複雑でコストが高く、生産の安全性に対してより高い要求があり、大規模な工業的応用に不利である。
【0007】
CN105514422Aは、水溶性の二価マンガン源、二価鉄源、二価金属M塩及び沈殿剤を混合して反応させ、乾燥して予備粉体を得て、次いで、予備粉体を水に分散させ、可溶性分解性第一鉄塩を添加して熱処理し、前記シュウ酸塩前駆体を得て、この前駆体と水溶性リチウム源、リン源、有機炭素源とを混合し、乾燥、焼成することにより、金属溶出が少なく、サイクル特性に優れたリン酸鉄マンガンリチウムを得る前駆体及びリン酸鉄マンガンリチウムの製造方法を開示している。しかし、このプロセスはシュウ酸鉄マンガンを前駆体として使用しており、焼結時のガス発生量が高く、高い成形密度を得るのに不利である。
【0008】
CN105226273Aは、それぞれゾルゲル法を用いてリン酸鉄リチウムゾル及びリン酸マンガンリチウムゾルを製造し、次いで、リン酸鉄リチウムゾルとリン酸マンガンリチウムゾルとを不活性雰囲気で焼成して、リン酸マンガン鉄リチウムを得るリン酸マンガン鉄リチウム及びその製造方法を開示している。この方法により、任意のフェロマンガン比のリン酸マンガン鉄リチウムを容易に製造することができ、容易に製造することができる。しかし、このプロセスはリン酸鉄リチウムとリン酸マンガンリチウムを共焼結して得られるため、両物質を均一に分布させることが困難であり、鉄マンガンの個別の濃縮が起こりやすく、相分離が生じ、電気的性能の発揮に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料の元素分布が不均一で、タップ密度が低く、比容量が低いという従来技術に存在する問題を解決するために、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料、及びその製造方法、電極材料、電極、並びに、リチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成させるために、本発明の第1態様は、構成式が(NH4)Mn1-x-yFexMyPO4・H2O/C(式中、0.1<x≦0.6、0≦y≦0.04であり、MはMg、Co、Ni、Cu、Zn、及びTiから選択される少なくとも1種である。)であるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を提供する。
【0011】
本発明の第2態様は、
マンガン源、鉄源及び任意のM源を含有する第1混合液を提供し、リン源及びアンモニア源を含有する第2混合液を提供し、錯化剤及び第1炭素源を含有する第3混合液を提供するステップ(a)と、
第1混合液及び第2混合液を第3混合液に加えて共沈反応を行い、第1スラリーを得るステップ(b)と、
第1スラリーに対して固液分離及び洗浄を行い、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体を得るステップ(c)と、を含むリン酸マンガン鉄リチウム前駆体の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第3態様は、構成式がLiiMn1-x-y-zFexMyM′z(PO4)1-nNn/C(式中、0.1<x≦0.6、0≦y≦0.04、0≦z≦0.04、0.9<i≦1.2、0≦n≦0.04であり、かつ、zとnは同時に0ではなく、
MはMg、Co、Ni、Cu、Zn、及びTiから選択される少なくとも1種であり、M′は、Mg、Ca、Sr、Ti、V、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Y、Mo、Nb、B、Al、W、La、及びSmから選択される少なくとも1種であり、Nは、F及び/又はClから選択される。)であるリン酸マンガン鉄リチウム正極材料を提供する。
【0013】
本発明の第4態様は、
構成式が(NH4)Mn1-x-yFexMyPO4・H2O/C(式中、0.1<x≦0.6、0≦y≦0.04であり、MはMg、Co、Ni、Cu、Zn、及びTiから選択される少なくとも1種である。)であるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を提供するステップ(1)と、
溶媒の存在下で、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リチウム源、第2炭素源、M′源及び/又はN源を均一に混合して、第2スラリーを得るステップ(2)と、
第2スラリー中の溶媒を除去して、乾燥材料を得た後、不活性雰囲気の保護下で、乾燥材料を焼成し、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得るステップ(3)と、を含むリン酸マンガン鉄リチウム正極材料の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の第5態様は、活物質と、導電剤と、バインダとを含有し、前記活物質は第3態様に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料又は第4態様に記載の方法で製造されるリン酸マンガン鉄リチウム正極材料である電極材料を提供する。
【0015】
本発明の第6態様は、集電体と、集電体上に塗布及び/又は充填される電極材料と、を含み、前記電極材料は第5態様に記載の電極材料である電極を提供する。
【0016】
本発明の第7態様は、活物質と、導電剤と、バインダと、溶媒とを含有するスラリーを集電体上に塗布及び/又は充填し、乾燥し、圧延を行うか又は圧延を行わないステップを含み、前記活物質は第3態様に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料又は第4態様に記載の方法で製造されるリン酸マンガン鉄リチウム正極材料である電極の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の第8態様は、電極群と電解液を含み、前記電極群と電解液が電池ケース内に密閉され、前記電極群は正極と、負極と、セパレータと、を含み、セパレータは正極と負極との間に位置するリチウムイオン電池であって、前記正極は第6態様に記載の電極又は第7態様に記載の方法で製造される電極であるリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0018】
上記の技術案によれば、本発明は下記優位性を有する。
(1)本発明によるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体は、一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、XRDスペクトルから、前駆体は正交構造を有する結晶構造であることが示され、前駆体では元素分布が均一であり、ドーピング元素が金属位点に入って安定構造を有するナノ粒子が形成され、しかも、ナノ粒子の表面に炭素が被覆されて、緻密な球状凝集体が形成され、本発明による前駆体を用いて製造されるリン酸マンガン鉄リチウム正極材料はタップ密度が高い。
(2)本発明によるリン酸マンガン鉄リチウム正極材料では、一次粒子から明らかに、安定的な炭素被覆が行われており、炭素被覆が均一であり、緻密な二次球状形態が形成される。本発明による正極材料をリチウムイオン電池に用いると、リチウムイオン電池の電気化学的特性が向上し、比容量が高くなり、サイクル特性に優れる。
(3)本発明によるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体及び正極材料の製造方法では、二次ドーピングと二次炭素被覆により、前駆体及び正極材料中の元素分布の均一性を改善し、材料構造の安定性を向上させ、高いタップ密度及び電気化学的特性を実現し、また、プロセスが簡単で、産業的生産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】製造例1で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z1の走査型電子顕微鏡像である。
【
図2】実施例1で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料C1の走査型電子顕微鏡像である。
【
図3】比較例4で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料D4の走査型電子顕微鏡像である。
【
図4】製造例1で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z1及び実施例1で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料C1のXRDスペクトルである。
【
図5】実施例1で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料C1及び比較例1で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料D1の0.1Cレートにおける充放電曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で開示される範囲の端点及び任意の値は、正確な範囲又は値に限定されないものではなく、これらの範囲又は値に近い値を含むと理解されるべきである。数値範囲の場合、各範囲の端点値の間、各範囲の端点値と個々のポイント値の間、及び個々のポイント値の間は、互いに組み合わされて1つ又は複数の新しい数値範囲を得ることができ、これらの数値範囲は、本明細書で具体的に開示されるものとみなされるべきである。
【0021】
本発明の第1態様は、構成式が(NH4)Mn1-x-yFexMyPO4・H2O/C(式中、0.1<x≦0.6、0≦y≦0.04であり、MはMg、Co、Ni、Cu、Zn、及びTiから選択される少なくとも1種である。)であるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を提供する。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、前記リン酸マンガン鉄リチウム前駆体において、炭素元素の含有量が少ないとしても、本発明の目的が実現され得る。好ましくは、前記前駆体の全重量に対して、前記前駆体中の炭素元素の含有量が0.05~5wt%、好ましくは0.5~2wt%、より好ましくは1~1.4wt%である。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記前駆体の構成式において、0.19≦x≦0.39、0.01≦y≦0.04である。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、MはMg、Cu及びTiから選択される少なくとも1種である。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記前駆体は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、好ましくは、前記二次球状粒子の平均粒度が1~50μm、好ましくは5~12μmであり、前記二次球状粒子は球状又は略球状をしている。好ましくは、前記前駆体の一次粒子の平均粒度が10~500nm、好ましくは40~100nmである。一次粒子の表面に炭素が被覆されることにより、一次粒子が凝集してなる二次球状粒子の緻密性を向上させるだけではなく、グラファイトカーボン炭素による導電性ネットワークを形成することができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記前駆体についてCuKa放射で得られたXRD回折パターンにおいて、最も強い回折ピークが2θ=9.5°~10.5°の範囲内に現れ、2θ=31.4°の付近には強度がわずかに弱い回折ピークが現れ、斜方晶系の結晶構造が示される。前記前駆体の結晶構造はXRDキャラクタリゼーションによって決定され得る。
【0027】
本発明の第2態様は、
マンガン源、鉄源及び任意のM源を含有する第1混合液を提供し、リン源及びアンモニア源を含有する第2混合液を提供し、錯化剤及び第1炭素源を含有する第3混合液を提供するステップ(a)と、
第1混合液及び第2混合液を第3混合液に加えて共沈反応を行い、第1スラリーを得るステップ(b)と、
第1スラリーに対して固液分離及び洗浄を行い、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体を得るステップ(c)と、を含むリン酸マンガン鉄リチウム前駆体の製造方法を提供する。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(a)では、前記マンガン源は、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、及び塩化マンガンから選択される少なくとも1種である。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(a)では、前記鉄源は、硫酸鉄、硫酸第一鉄、硝酸鉄、酢酸鉄、及び塩化鉄から選択される少なくとも1種である。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(a)では、前記M源は、M含有硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、及び塩化物から選択される少なくとも1種である。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(a)では、前記リン源は、リン酸、リン酸一水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、及びリン酸三アンモニウムから選択される少なくとも1種、好ましくはリン酸、リン酸一水素アンモニウム、及びリン酸二水素アンモニウムから選択される少なくとも1種である。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(a)では、前記アンモニア源は、アンモニア水、リン酸一水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三アンモニウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、及び尿素から選択される少なくとも1種、好ましくはアンモニア水、リン酸一水素アンモニウム、及びリン酸二水素アンモニウムから選択される少なくとも1種である。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(a)では、前記錯化剤は、クエン酸及び/又はクエン酸三アンモニウムから選択される。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(a)では、前記第1炭素源は、グラフェン、カーボンナノチューブ、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン、及びトルエンジイソシアネート(TDI)から選択される少なくとも1種、好ましくはグラフェン、カーボンナノチューブ、フェノール樹脂、ポリエチレン、及びポリフッ化ビニリデンから選択される少なくとも1種である。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、マンガン源、鉄源及びM源の使用量は、金属元素換算で、マンガン源と鉄源とM源とのモル比が60~80:20~40:1であることを満たす。上記のモル比範囲内のマンガン源、鉄源及びM源を利用することは構造が安定的なリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を得るのに有利であり、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料の構造安定性の向上に有利であり、正極材料に高いエネルギー密度を持たせる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、リン源及びアンモニア源の使用量は、リン酸塩イオン換算のリン源とアンモニウム塩イオン換算のアンモニア源とのモル比が1:1~3であることを満たす。上記のモル比範囲内のリン源及びアンモニア源を利用することは、マンガン元素、鉄元素及び任意のM元素が均一に錯化して安定的なリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を生成するのに有利である。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記第1混合液中の総金属イオンの濃度が0.5~3mol/Lである。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記第2混合液中のリン酸塩イオンの濃度が0.5~3mol/L、アンモニウム塩イオンの濃度が0.05~15mol/Lである。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記第3混合液中の錯化剤の濃度が0.03~10mol/Lである。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(b)では、第1混合液及び第2混合液は合流方式で第3混合液に加えられ、
好ましくは、前記共沈反応は撹拌しながら行われ、前記共沈反応条件は、撹拌速度500~1000rpm、pH2~8、温度25~90℃、時間1~2hを含む。共沈反応のpHは第2混合液の添加速度を調整することにより2~8(pHの誤差は±0.5)に制御され得る。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態では、前記固液分離方式については特に限定はなく、当業者に公知の従来技術、例えば吸引ろ過又は加圧ろ過を用いて固液分離し、固体材料を得ることができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、前記洗浄方式についても特に限定はなく、当該分野における一般的な洗浄方式であれば、本発明に適用でき、好ましくは、ステップ(c)では、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで、固液分離により得られた固体材料を純水で洗浄し、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体を得る。
【0043】
本発明の第3態様は、構成式がLiiMn1-x-y-zFexMyM′z(PO4)1-nNn/C(式中、0.1<x≦0.6、0≦y≦0.04、0≦z≦0.04、0.9<i≦1.2、0≦n≦0.04であり、かつ、zとnは同時に0とはならず、
MはMg、Co、Ni、Cu、Zn、及びTiから選択される少なくとも1種であり、M′はMg、Ca、Sr、Ti、V、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Y、Mo、Nb、B、Al、W、La、及びSmから選択される少なくとも1種であり、NはF及び/又はClから選択される。)リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を提供する。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態では、前記リン酸マンガン鉄リチウム正極材料において、炭素元素の含有量が少ないとしても、本発明の目的を達成させることができる。好ましくは、前記正極材料の全重量に対して、前記正極材料中の炭素元素の含有量が0.5~10wt%、好ましくは1~3wt%、より好ましくは1.8~3wt%である。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記正極材料の構成式において、0.19≦x≦0.39、0.01≦y≦0.04、0.01≦z≦0.04、1≦i≦1.1、0.01≦n≦0.04であり、
より好ましくは、前記正極材料の構成式において、0.19≦x≦0.39、0.01≦y≦0.04、0.01≦z≦0.02、1.02≦i≦1.05、0.01≦n≦0.02である。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、MはMg、Cu及びTiから選択される少なくとも1種である。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、M′は、Ti、Nb及びBから選択される少なくとも1種である。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、NはFである。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、M及び/又はM′は前記正極材料の表面において勾配して分布している。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記正極材料のXRDスペクトルにおいて、2θ=35°~36°の範囲内に最も強い回折ピークが現れ、17.8°、25.5°、29.6°及び36.4°の2θの付近にそれぞれ明らかな回折ピークが現れ、斜方晶系の結晶構造が示される。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記正極材料は、一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、好ましくは、前記二次球状粒子の平均粒度は1~50μm、好ましくは7~15μmであり、好ましくは、前記二次球状粒子は球状又は略球状をしている。好ましくは、前記正極材料の一次粒子の平均粒度は10~500nm、好ましくは60~100nmである。該正極材料において、一次粒子の表面に炭素が均一に被覆され、凝集してなる二次球状粒子は構造が緻密で、また、安定的なドーピング構造を有し、二次球状粒子の表面具に備える陰イオンドーピング及び/又は勾配して分布している金属イオンドーピングと、均一な炭素被覆との組み合わせにより、前記リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を用いたリチウムイオン電池の場合、リチウムイオン電池の電気化学的特性が向上し、比容量が高く、サイクル特性に優れている。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記正極材料のタップ密度は1.5~2.5g/cm3であり、0.1Cレートでの比容量は145~160mAh/gであり、サイクル80周後の容量維持率は85~97%であり、
より好ましくは、前記正極材料のタップ密度は2.09~2.31g/cm3であり、0.1Cレートでの比容量は152.1~157.2mAh/gであり、80サイクル後の容量維持率は92.6~95.9%である。
【0053】
本発明の第4態様は、
構成式が(NH4)Mn1-x-yFexMyPO4・H2O/C(式中、0.1<x≦0.6、0≦y≦0.04であり、MはMg、Co、Ni、Cu、Zn、及びTiから選択される少なくとも1種である。)であるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を提供するステップ(1)と、
溶媒の存在下で、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リチウム源、第2炭素源、M′源及び/又はN源を均一に混合して、第2スラリーを得るステップ(2)と、
第2スラリー中の溶媒を除去して、乾燥材料を得た後、不活性雰囲気の保護下で、乾燥材料を焼成し、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得るステップ(3)と、を含むリン酸マンガン鉄リチウム正極材料の製造方法を提供する。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(1)では、構成式が(NH4)Mn1-x-yFexMyPO4・H2O/Cであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体は上記を参照して使用することができるので、ここでは詳しく説明しない。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(2)では、前記リチウム源は、酸化リチウム、水素化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、及びクエン酸リチウムから選択される少なくとも1種、好ましくは炭酸リチウム、水素化リチウム、及び塩化リチウムから選択される少なくとも1種である。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(2)では、前記第2炭素源は、グルコース、スクロース、フルクトース、セルロース、スターチ、クエン酸、ポリプロピレン酸、ポリエチレングリコール、及びドーパミンから選択される少なくとも1種、好ましくはグルコース、スクロース、スターチ、及びセルロースから選択される少なくとも1種である。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(2)では、前記M′源は、M′を含有する酸素含有化合物及び/又は塩化物から選択され、前記M′を含有する酸素含有化合物は、好ましくはM′を含有する硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、酸化物、及び酸のうちの少なくとも1種であり、より好ましくは、前記M′源は二酸化チタン、五酸化ニオブ、及びホウ酸のうちの少なくとも1種である。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、ステップ(2)では、前記N源は、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化リチウム、塩化アンモニウム、及び塩化リチウムから選択される少なくとも1種、好ましくはフッ化リチウムである。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リチウム源、M′源及び/又はN源と第2炭素源とのモル比は1:0.52~1.05:0.005~0.01:0.5~1である。上記のモル比範囲内のリン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リチウム源、M′源及び/又はN源と第2炭素源を使用することは、正極材料の電子伝導率及びイオン伝導率を向上させ、電気特性を高めることに有利である。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態では、前記混合・均質化方法については特に限定はなく、例えば機械的撹拌方式によって混合・均質化し、均一な第2スラリーを形成することができる。撹拌温度及び撹拌速度については特に限定はなく、均一な第2スラリーを形成できればよい。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態では、前記溶媒の種類については特に限定はなく、均一な第2スラリーを形成できればよく、例えば前記溶媒は水、エタノールなどであってもよいが、好ましくは水である。前記溶媒の使用量についても特に限定はなく、同様に均一な第2スラリーを形成できればよい。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップ(3)では、前記第2スラリー中の溶媒は直接蒸発することにより除去することができ、蒸発温度及びプロセスは当業者に公知の従来技術を採用することができ、例えば、前記第2スラリー中の溶媒は静的乾燥又は噴霧乾燥により除去することができる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、前記焼成は不活性雰囲気の保護下で行われ、前記不活性雰囲気は窒素雰囲気及び/又はアルゴン雰囲気であってもよく、
前記焼成条件は、焼成温度500~1000℃、好ましくは600~800℃、焼成時間4~20h、好ましくは6~12hを含む。
【0064】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、前記リン酸マンガン鉄リチウム正極材料の製造方法は、
マンガン源、鉄源及びM源を含有する第1混合液を提供し、リン源及びアンモニア源を含有する第2混合液を提供し、錯化剤及び第1炭素源を含有する第3混合液を提供するステップ(S1)と、
第1混合液及び第2混合液を第3混合液に加えて共沈反応を行い、第1スラリーを得るステップ(S2)と、
第1スラリーに対して固液分離及び洗浄を行い、リン酸マンガン鉄リチウム前駆体を得るステップ(S3)と、
溶媒の存在下で、得られたリン酸マンガン鉄リチウム前駆体、リチウム源、第2炭素源、M′源及び/又はN源を混合して均質化し、第2スラリーを得るステップ(S4)と、
第2スラリー中の溶媒を除去して、乾燥材料を得た後、不活性雰囲気の保護下で、乾燥材料を焼成し、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得るステップ(S5)と、を含む。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態では、前記リン酸マンガン鉄リチウム正極材料の製造方法において、まず、前駆体をドーピングすることによりドーピング元素が金属部位に効果的に入り、安定的な構造が形成され、前駆体を通じて炭素源被覆を導入することにより、一次粒子の表面に分布している炭素被覆が均一になり、安定的な導電性ネットワークが形成され、一次粒子が緊密に粘着されて凝集し、緻密な二次球状粒子が形成される。次に、被覆炭素を二次ドーピングすることによって配合材料を焼結することで、異なる元素の勾配ドーピングや異なる炭素源による被覆が実現される。該製造方法はプロセスが簡単で、優れたドーピング効果や被覆効果が得られ、製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料はタップ密度及び電気化学的特性が高い。
【0066】
本発明の第5態様は、活物質と、導電剤と、バインダと、を含有し、前記活物質は第3態様に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料又は第4態様に記載の方法で製造されるリン酸マンガン鉄リチウム正極材料である電極材料を提供する。
【0067】
本発明の第6態様は、集電体と、集電体上に塗布及び/又は充填される電極材料と、を含み、前記電極材料は第5態様に記載の電極材料である電極を提供する。
【0068】
本発明の第7態様は、活物質と、導電剤と、バインダと、溶媒とを含有するスラリーを集電体上に塗布及び/又は充填して、乾燥し、圧延を行うか又は圧延を行わないステップを含む電極の製造方法であって、前記活物質は第3態様に記載のリン酸マンガン鉄リチウム正極材料又は第4態様に記載の方法で製造されるリン酸マンガン鉄リチウム正極材料である電極の製造方法を提供する。
【0069】
本発明の第8態様は、電極群と電解液を含み、前記電極群と電解液が電池ケース内に密閉され、前記電極群は正極と、負極と、セパレータと、を含み、セパレータは正極と負極との間に位置するリチウムイオン電池であって、前記正極は第6態様に記載の電極又は第7態様に記載の方法で製造される電極である電池を提供する。
【0070】
本発明は従来技術における電極材料に含まれる活物質の改良だけに関するため、リチウムイオン電池の他の構成及び構造を特に限定しない。
【0071】
例えば、リチウムイオン電池の正極にとっては、本発明の前記正極材料の導電剤の含有量及び種類は当業者に公知のものであり、前記導電剤は、導電性カーボンブラック(Super-P)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン、及びカーボンナノチューブから選択される1種又は複数であってもよく、本発明は、カーボンナノチューブを導電剤とするのが好ましい。
【0072】
本発明の前記正極材料のバインダとしては、本分野に公知のすべてのリチウムイオン電池に利用可能なバインダを使用することができる。フッ素樹脂及び/又はポリオレフィン化合物、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びスチレンブタジエンゴムから選択される1種又は複数種であってもよいが、本発明では、ポリフッ化ビニリデンをバインダとするのが好ましい。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料と、導電剤と、バインダとの質量比が、80~96:10~2:10~2、好ましくは90:5:5である。
【0074】
本発明の前記集電体は、当業者に公知の各種の集電体、例えばアルミ箔、銅箔、ニッケルメッキスチールバンドなどである。本発明では、アルミ箔は集電体として使用される。
【0075】
本発明の前記溶媒は、本分野に公知の全てのリチウムイオン電池電極の製造に利用可能な溶媒、例えばエタノール及び/又はN-メチルピロリドン(NMP)であってもよく、好ましくはN-メチルピロリドンである。溶媒の使用量は所望の塗布スラリーを形成できればよい。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態では、金属リチウムシートはリチウムイオン電池の負極とし得る。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態では、リチウムイオン電池の電解液は本分野によく使用される電解液であってもよく、電解液の濃度は一般には0.2~8mol/Lであり、本発明では、1mol/LのLiPF6、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジエチル(DEC)を等量で混合した液は電解液として使用される。
【0078】
本発明の前記セパレータは電気絶縁性と液体保持性を有し、正極と負極との間に設けられ、正極、負極及び電解液とともに電池ケースに密閉させる。前記セパレータは本分野に共通の各種のセパレータ、例えば当業者が公知の各メーカに生産してもらう、さまざまな生産グレードのポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンフェルト、変性ポリプロピレンフェルト、極細グラスファイバーフェルト、ビニロンフェルト、ナイロンフェルトと湿潤性ポリオレフィン微多孔膜とを溶接又は粘着してなる複合膜であってもよく、本発明はポリエチレン多孔質膜をセパレータとして使用する。
【0079】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。
【0080】
XRDにより、材料の組成、材料内部の原子や分子の構造や形態などの情報を得る。使用されるXRD回折器は型番XRD-6000のX線粉末回折器(日本島津)であり、XRDの試験条件はCuターゲット、Kα線(波長λ=0.154nm)、管電圧40kV、管電流200mA、走査速度10°(2θ)/minである。
【0081】
走査型電子顕微鏡(SEM)により材料の表面形態を特徴付ける。使用される走査型電子顕微鏡は型番S-4800(メーカーは日本日立)のものであり、走査型電子顕微鏡の試験条件は、加速電圧1kV、増幅率10Kである。材料中の一次粒子及び二次球状粒子の平均粒径を走査型電子顕微鏡画像測定により求める。
【0082】
炭素(C)元素の分析はElementar Micro Cube元素分析装置で行った。具体的な操作方法と条件は以下の通りである。サンプルを錫カップの中で1~2mg計量し、自動サンプルトレイーに入れ、ボールバルブを通して燃焼管に入れて燃焼し、燃焼温度を1000℃(サンプル投入時の大気干渉を除去するため、ヘリウムガスパージを採用した)とし、さらに還元銅で燃焼後のガスを還元し、二酸化炭素を形成し、その後TCD検出器で二酸化炭素を検出した。
【0083】
前駆体と正極材料のそれぞれの構造式において、各元素及び含有量は誘導結合プラズマ分光器(ICP)によって得られ、器具は株式会社パーキン・エルマー・インスツルメンツから購入し、型番はPE-7000DVである。
【0084】
製造例1~7はリン酸マンガン鉄リチウム前駆体及びその製造方法を説明する。
【0085】
製造例1
(a)硫酸マンガン、硫酸鉄、硫酸マグネシウム(すべて金属元素換算で)を70:29:1のモル比で純水に溶解し、総金属イオン濃度が2mol/Lの第1混合液2Lを得た。リン酸とアンモニア水を1:3のモル比で混合し、純水を加え、リン酸塩イオン濃度が1mol/Lの第2混合液4Lを得た。PVDF及びクエン酸三アンモニウムを純水1Lに加え、錯化剤の濃度が0.05mol/Lの第3混合液を得て、第3混合液を反応基質液とした。
(b)第3混合液を反応釜に投入して、温度を60℃に制御し、800rpmの撹拌速度で、第1混合液と第2混合液を併せて反応釜に滴下し、第2混合液の添加速度を調整することにより、反応系のpHを6.0±0.5に制御した。投入完了後、さらに1h撹拌し、第1スラリーを得た。
(c)第1スラリーを吸引ろ過して、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで純水で洗浄し、構成式が(NH
4)Mn
0.7Fe
0.29Mg
0.01PO
4・H
2O/Cであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z1を得た。前駆体Z1の全重量に対して、Z1中の炭素含有量が1.2wt%であった。
図1はZ1の走査型電子顕微鏡像であり、図から、前駆体Z1は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着していることが観察されており、一次粒子の平均粒度は80nm、二次球状粒子の平均粒度は8μmであった。
前駆体Z1のXRDスペクトルを
図4に示し、図から、2θ=10.0°及び31.5°に明らかな特性ピークが現れることが認められ、このことから、Z1は斜方晶系の結晶構造を有することが証明された。
【0086】
製造例2
(a)硫酸マンガン、硫酸鉄、硫酸マグネシウム(すべて金属元素換算で)を60:39:1のモル比で純水に溶解し、総金属イオン濃度が2mol/Lの第1混合液2Lを得た。リン酸とアンモニア水を1:3のモル比で混合し、純水を加え、リン酸塩イオン濃度が1mol/Lの第2混合液4Lを得た。グラフェン及びクエン酸三アンモニウムを純水1Lに加え、錯化剤の濃度が0.05mol/Lの第3混合液を得て、第3混合液を反応基質液とした。
(b)第3混合液を反応釜に投入して、温度を60℃に制御し、600rpmの撹拌速度で、第1混合液と第2混合液を併せて反応釜に滴下し、第2混合液の添加速度を調整することにより、反応系のpHを6.0±0.5に制御した。投入完了後、さらに1h撹拌し、第1スラリーを得た。
(c)第1スラリーを吸引ろ過して、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで純水で洗浄し、構成式が(NH4)Mn0.6Fe0.39Mg0.01PO4・H2O/Cであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z2を得た、前駆体Z2の全重量に対して、Z2中の炭素含有量が1.2wt%であった。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、前駆体Z2は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は50nm、二次球状粒子の平均粒度は10μmであった。
XRD検出の結果、前駆体Z2は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0087】
製造例3
(a)塩化マンガン、塩化鉄、硫酸銅(すべて金属元素換算で)を70:29:1のモル比で純水に溶解し、総金属イオン濃度が2mol/Lの第1混合液2Lを得た。リン酸一水素アンモニウムをリン源とアンモニア源として純水に加え、濃度が2mol/Lの第2混合液2Lを得た。カーボンナノチューブ及びクエン酸を純水1Lに加え、錯化剤の濃度が0.05mol/Lの第3混合液を得て、第3混合液を反応基質液とした。
(b)第3混合液を反応釜に投入して、温度を80℃に制御し、800rpmの撹拌速度で、第1混合液と第2混合液を併せて反応釜に滴下し、第2混合液の添加速度を調整することにより、反応系のpHを5.2±0.5に制御した。投入完了後、さらに1h撹拌し、第1スラリーを得た。
(c)第1スラリーを吸引ろ過して、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで純水で洗浄し、構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.29Cu0.01PO4・H2O/Cであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z3を得た。前駆体Z3の全重量に対して、Z3中の炭素含有量が1.0wt%であった。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、前駆体Z3は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は100nm、二次球状粒子の平均粒度は12μmであった。
XRD検出の結果、前駆体Z3は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0088】
製造例4
(a)酢酸マンガン、酢酸鉄、酢酸チタン(すべて金属元素換算で)を80:19:1のモル比で純水に溶解し、総金属イオン濃度が2mol/Lの第1混合液2Lを得た。リン酸二水素アンモニウムをリン源とアンモニア源として純水に加え、濃度が2mol/Lの第2混合液2Lを得た。フェノール樹脂及びクエン酸を純水1Lに加え、錯化剤の濃度が0.06mol/Lの第3混合液を得た。第3混合液を反応基質液とした。
(b)第3混合液を反応釜に投入して、温度を90℃に制御し、1000rpmの撹拌速度で、第1混合液と第2混合液を併せて反応釜に滴下し、第2混合液の添加速度を調整することにより、反応系のpHを5.2±0.5に制御した。投入完了後、さらに1h撹拌し、第1スラリーを得た。
(c)第1スラリーを吸引ろ過して、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで純水で洗浄し、構成式が(NH4)Mn0.8Fe0.19Ti0.01PO4・H2O/Cであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z4を得た。前駆体Z4の全重量に対して、Z4中の炭素含有量が1.1wt%であった。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、前駆体Z4は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は80nm、二次球状粒子の平均粒度は10μmであった。
XRD検出の結果、前駆体Z4は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0089】
製造例5
(a)硝酸マンガン、硝酸鉄、硝酸銅(すべて金属元素換算で)を70:29:1のモル比で純水に溶解し、総金属イオン濃度が1.5mol/Lの第1混合液2Lを得た。リン酸一水素アンモニウムをリン源とアンモニア源として純水に加え、濃度が1.5mol/Lの第2混合液2Lを得た。ポリエチレン及びクエン酸三アンモニウムを純水1Lに加え、錯化剤の濃度が0.03mol/Lの第3混合液を得た。第3混合液を反応基質液とした。
(b)第3混合液を反応釜に投入して、温度を40℃に制御し、900rpmの撹拌速度で、第1混合液と第2混合液を併せて反応釜に滴下し、第2混合液の添加速度を調整することにより、反応系のpHを4.5±0.5に制御した。投入完了後、さらに1h撹拌し、第1スラリーを得た。
(c)第1スラリーを吸引ろ過して、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで純水で洗浄し、構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.29Cu0.01PO4・H2O/Cであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z5を得た。前駆体Z5の全重量に対して、Z5中の炭素含有量が1.4wt%であった。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、前駆体Z5は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は50nm、二次球状粒子の平均粒度は6μmであった。
XRD検出の結果、前駆体Z5は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0090】
製造例6
(a)硫酸マンガン、硫酸鉄、硫酸マグネシウム(すべて金属元素換算で)を70:29:1のモル比で純水に溶解し、総金属イオン濃度が2mol/Lの第1混合液2Lを得た。リン酸とアンモニア水を1:3のモル比で混合し、純水を加え、リン酸塩イオン濃度が1mol/Lの第2混合液4Lを得た。PVDF及びクエン酸を純水1Lに加え、錯化剤の濃度が0.3mol/Lの第3混合液を得て、第3混合液を反応基質液とした。
(b)第3混合液を反応釜に投入して、温度を60℃に制御し、800rpmの撹拌速度で、第1混合液と第2混合液を併せて反応釜に滴下し、第2混合液の添加速度を調整することにより、反応系のpHを6.0±0.5に制御した。投入完了後、さらに1h撹拌し、第1スラリーを得た。
(c)第1スラリーを吸引ろ過して、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで、純水で洗浄し、構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.29Mg0.01PO4・H2O/Cであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z6を得た。前駆体Z6の全重量に対して、Z6中の炭素含有量が1.4wt%であった。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、前駆体Z6は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は40nm、二次球状粒子の平均粒度は5μmであった。
XRD検出の結果、前駆体Z6は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0091】
製造例7
(a)硫酸マンガン、硫酸鉄(すべて金属元素換算で)を70:30のモル比で純水に溶解し、総金属イオン濃度が2mol/Lの第1混合液2Lを得た。リン酸とアンモニア水を1:3のモル比で混合し、純水を加え、リン酸塩イオン濃度が1mol/Lの第2混合液4Lを得た。PVDF及びクエン酸三アンモニウムを純水1Lに加え、錯化剤の濃度が0.05mol/Lの第3混合液を得て、第3混合液を反応基質液とした。
(b)第3混合液を反応釜に投入して、温度を60℃に制御し、800rpmの撹拌速度で、第1混合液と第2混合液を併せて反応釜に滴下し、第2混合液の添加速度を調整することにより、反応系のpHを6.0±0.5に制御した。投入完了後、さらに1h撹拌し、第1スラリーを得た。
(c)第1スラリーを吸引ろ過して、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで純水で洗浄し、構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.3PO4・H2O/Cであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体Z7を得た。前駆体Z7の全重量に対して、Z7中の炭素含有量が1.2wt%であった。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、前駆体Z7は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は80nm、二次球状粒子の平均粒度は8μmであった。
XRD検出の結果、前駆体Z7は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0092】
比較製造例1
ステップ(a)では、第3混合液はPVDFを含まない以外、製造例1の方法に従ってリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を製造し、構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.29Mg0.01PO4・H2Oであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体DZ1を得た。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、DZ1は非規則的なフレーク状であり、球状凝集体が形成されていなかった。
【0093】
比較製造例2
ステップ(a)では、第1混合液は硫酸マグネシウムを含まず、第3混合液はPVDFを含まない以外、製造例1の方法に従ってリン酸マンガン鉄リチウム前駆体を製造し、構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.3PO4・H2Oであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体DZ2を得た。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、DZ2は非規則的な凝集塊状であり、緻密な球状凝集体が形成されていなかった。
比較製造例3
(a)硫酸マンガン、硫酸鉄(すべて金属元素換算で)を70:30のモル比で純水に溶解し、総金属イオン濃度が2mol/Lの第1混合液2Lを得た。リン酸二水素アンモニウムを純水に加え、リン酸塩イオン濃度が2mol/Lの第2混合液2Lを得た。
(b)1L純水を反応基質液として反応釜に投入し、温度を60℃に制御し、400rpmの撹拌速度で、第1混合液と第2混合液を併せて反応釜に滴下し、第2混合液の添加速度を調整することにより、反応系のpHを6.0±0.5に制御した。投入完了後、さらに1h撹拌し、第1スラリーを得た。
(c)第1スラリーを吸引ろ過して、濾液の導電率≦200μs/cmとなるまで純水で洗浄し、構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.3PO4・H2Oであるリン酸マンガン鉄リチウム前駆体DZ3を得た。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、DZ3は非規則的な凝集塊状であり、緻密な球状凝集体が形成されていなかった。
【実施例】
【0094】
実施例1~7はリン酸マンガン鉄リチウム正極材料及びその製造方法を説明する。
【0095】
実施例1
(1)構成式が(NH
4)Mn
0.7Fe
0.29Mg
0.01PO
4・H
2O/Cである前駆体Z1、炭酸リチウム、二酸化チタン及びグルコースを1:0.52:0.01:0.7のモル比で純水と混合し、機械的撹拌により均一に混合し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを加熱炉トレーにて蒸発乾固し、85℃の真空オーブンに入れて4h乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、650℃で10h焼成し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、C1とし、C1の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡を用いて正極材料C1の形態を観察し、
図2に示すように、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料C1は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は80nm、二次球状粒子の平均粒度は9μmであることが認められた。
正極材料C1のXRDスペクトルを
図4に示し、図から、2θ=35.4°に最も強い回折ピークが現れ、17.8°、25.5°、29.6°及び36.4°の2θにそれぞれ明らかな回折ピークが現れることが認められ、このことから、C1は斜方晶系の結晶構造を有することが示唆された。
【0096】
実施例2
(1)構成式が(NH4)Mn0.6Fe0.39Mg0.01PO4・H2O/Cである前駆体Z2、水素化リチウム、二酸化チタン及びスクロースを1:1.03:0.01:0.7のモル比で純水と混合し、機械的撹拌により均一に混合し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを加熱炉トレーにて蒸発乾固し、85℃の真空オーブンに入れて4h乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、680℃で10h焼成し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、C2とし、C2の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料C2は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は60nm、二次球状粒子の平均粒度は11μmであった。
XRD検出の結果、正極材料C2は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0097】
実施例3
(1)構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.29Cu0.01PO4・H2O/Cである前駆体Z3、塩化リチウム、五酸化ニオブ及びスターチを1:1.05:0.005:0.5のモル比で純水と混合し、機械的撹拌により均一に混合し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを加熱炉トレーにて蒸発乾固し、85℃の真空オーブンに入れて4h乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、700℃で12h焼成し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、C3とし、C3の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料C3は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は100nm、二次球状粒子の平均粒度は15μmであった。
XRD検出の結果、正極材料C3は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0098】
実施例4
(1)構成式が(NH4)Mn0.8Fe0.19Ti0.01PO4・H2O/Cである前駆体Z4、水素化リチウム、二酸化チタン及びスクロースを1:1.03:0.01:0.8のモル比で純水と混合し、機械的撹拌により均一に混合し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを加熱炉トレーにて蒸発乾固し、85℃の真空オーブンに入れて4h乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、600℃で12h焼成し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、C4とし、C4の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料C4は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は80nm、二次球状粒子の平均粒度は10μmであった。
XRD検出の結果、正極材料C4は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0099】
実施例5
(1)構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.29Cu0.01PO4・H2O/Cである前駆体Z5、炭酸リチウム、ホウ酸及びセルロースを1:1.03:0.01:1のモル比で純水と混合し、機械的撹拌により均一に混合し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを加熱炉トレーにて蒸発乾固し、85℃の真空オーブンに入れて4h乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、700℃で8h焼成し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、C5とし、C5の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料C5は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は70nm、二次球状粒子の平均粒度は8μmであった。
XRD検出の結果、正極材料C5は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0100】
実施例6
(1)構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.29Mg0.01PO4・H2O/Cである前駆体Z6、炭酸リチウム、フッ化リチウム及びグルコースを1:0.52:0.01:0.7のモル比で純水と混合し、機械的撹拌により均一に混合し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを加熱炉トレーにて蒸発乾固し、85℃の真空オーブンに入れて4h乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、650℃で10h焼成し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、C6とし、C6の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料C6は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は60nm、二次球状粒子の平均粒度は7μmであった。
XRD検出の結果、正極材料C6は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0101】
実施例7
構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.3PO4・H2O/Cである前駆体Z7を用いた以外、実施例1の方法に従ってリン酸マンガン鉄リチウム正極材料を製造し、得た正極材料をC7とし、C7の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料C7は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は90nm、二次球状粒子の平均粒度は10μmであった。
XRD検出の結果、正極材料C7は斜方晶系の結晶構造を有することが分かった。
【0102】
比較例1
(1)構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.3PO4・H2O/Cである前駆体Z7、炭酸リチウム及びグルコースを1:0.52:0.7のモル比で純水と混合し、機械的撹拌により均一に混合し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを加熱炉トレーにて蒸発乾固し、85℃の真空オーブンに入れて4h乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、650℃で10h焼成し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、D1とし、D1の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料D1は一次粒子で形成される二次球状粒子構造を有し、一次粒子が緻密に粘着しており、一次粒子の平均粒度は90nm、二次球状粒子の平均粒度は10μmであった。
【0103】
比較例2
前駆体DZ1(構成式(NH4)Mn0.7Fe0.29Mg0.01PO4・H2O)を用いた以外、実施例1の方法に従ってリン酸マンガン鉄リチウム正極材料を製造し、得た正極材料をD2とし、D2の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料D2は非規則的な凝集塊状であり、緻密な球状凝集体が形成されていなかった。
【0104】
比較例3
前駆体DZ2(構成式(NH4)Mn0.7Fe0.3PO4・H2O)を用いた以外、実施例1の方法に従ってリン酸マンガン鉄リチウム正極材料を製造し、得た正極材料をD3とし、D3の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、正極材料D3は非規則的な凝集塊状であり、緻密な球状凝集体が形成されていなかった。
【0105】
比較例4
(1)構成式が(NH
4)Mn
0.7Fe
0.3PO
4・H
2Oである前駆体DZ3、炭酸リチウム及びグルコースを1:0.51:1のモル比で純水と混合し、機械的撹拌により均一に混合し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを加熱炉トレーにて蒸発乾固し、85℃の真空オーブンに入れて4h乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、650℃で10h焼成し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、D4とし、D4の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡を用いて正極材料D4の形態を観察し、
図3に示すように、D4は非規則的な凝集塊状であり、緻密な凝集体が形成されていなかった。
【0106】
比較例5
(1)構成式が(NH4)Mn0.7Fe0.3PO4・H2Oである前駆体DZ3、水素化リチウム、炭酸マグネシウム及びスクロースを1:1.03:0.01:0.7のモル比で純水と混合し、遊星ボールミルで粉砕し、第2スラリーを得た。
(2)第2スラリーを噴霧乾燥し、乾燥材料を得た。乾燥材料を窒素雰囲気下、630℃で10h焼成し、ジェットミルで粉砕し、篩にかけて、リン酸マンガン鉄リチウム正極材料を得て、D5とし、D5の構成式は表1に示される。
走査型電子顕微鏡で観察した結果、D5は非規則的な凝集塊状であり、緻密な凝集体が形成されていなかった。
【0107】
試験例
本試験例は電極材料、電極、リチウムイオン電池及びその製造方法を説明する。
(1)正極板の製造:実施例1~7で得たリン酸マンガン鉄リチウム正極材料C1~C7、導電剤としてカーボンナノチューブ、バインダとしてPVDFのNMP溶液をそれぞれ質量比90:5:5で混合した。具体的には、乾燥後の正極材料と導電剤を乳鉢にて15分間粉砕し、均一に粉砕した後、所定の割合でPVDF溶液(5質量%)を加え、磁気撹拌器で6時間撹拌し、得たペーストを集電体としてのアルミホイル上に均一に塗布し、次に、60℃の真空オーブンにおいて20時間乾燥し、次に、100MPaの圧力で直径12mm、厚さ120μmの正極板にプレス成形し、正極板を120℃の真空オーブンに入れて12h乾燥した。
(2)電池の組み立て:直径17mm、厚さ1mmの金属リチウムシートを負極として、表面に酸化アルミニウムセラミック層が塗布されている厚さ25μmのポリエチレン多孔質膜をセパレータとし、電解液として1mol/LのLiPF6、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジエチル(DEC)を等量で混合した液を用い、正極板、セパレータ、負極板及び電解液を、水含有量と酸素含有量のいずれも5ppm未満のArガスグローブボックス内で組み立てて、2025型ボタン電池とし、リチウムイオン電池A1~A7をそれぞれ製造した。
(3)電気化学的特性の試験:武漢蘭博電子有限公司製の藍電LAND CT2001A充放電装置を用いて電池について充放電試験を行い、充放電の電圧範囲を2.5~4.4Vとし、0.1C及び1Cのレートで、組み立てられたリチウムイオン電池A1~A7のそれぞれについて比容量を試験し、1Cレートで、サイクル特性を試験し、試験結果を表1に示す。
【0108】
比較試験例
(1)正極板の製造:正極活物質として比較例1~5で得たリン酸マンガン鉄リチウム正極材料D1~D5をそれぞれ用いた以外、試験例の方法に従って正極板を製造した。
(2)電池の組み立て:試験例の方法に従って行われた。
(3)電気化学的特性の試験:試験例の方法に従って行い、試験結果を表1に示す。
実施例1で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料C1及び比較例1で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料D1の0.1Cレートでの充放電曲線を
図5に示し、図から明らかに、正極材料C1を用いて組み立てられたボタン型電池は、2.5~4.4V、0.1Cレートでは、放電比容量が156.8mAh/gであり、1Cレートでの放電比容量が149.7mAh/gに達し、80サイクル後の容量維持率が95.8%であった。比較例1の正極材料D1と比べて、実施例1の正極材料C1は、0.1C、1Cレートでの放電比容量及び80サイクル後の容量維持率のいずれも有意に向上した。
【0109】
【0110】
表1の結果から分かるように、本発明によるリン酸マンガン鉄リチウム正極材料は、タップ密度が高く、リチウムイオン電池に用いると、リチウムイオン電池の比容量を有意に向上させ、リチウムイオン電池のサイクル特性を改善することができる。
【0111】
以上は、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されない。本発明の技術的構想の範囲を逸脱することなく、本発明の技術案について、各技術的特徴を任意の適切な方式で組み合わせることを含む、さまざまな簡単な変形を行うことができ、これらの簡単な変形及び組み合わせも本発明の開示内容とみなすべきであり、すべて本発明の保護範囲に属する。