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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-22
(45)【発行日】2024-05-30
(54)【発明の名称】非磁性構造部材用Ni基合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20240523BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C22C19/05 Z
C22C30/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024016235
(22)【出願日】2024-02-06
【審査請求日】2024-02-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】武井 隆幸
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-193163(JP,A)
【文献】特開2007-009279(JP,A)
【文献】特開2006-274443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
C22C 30/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.001~0.015%、
Si:0.01~0.10%、
Mn:0.10~1.5%、
P :0.020%以下、
S :0.0001~0.0015%、
Cr:14.0~23.0%、
Mo:12.0~17.5%、
Cu:0.03~3.5%、
Al:0.005~0.200%、
Ti:0.001~0.035%、
Fe:2.5~7.2%、
Co:0.05~1.20%、
W :1.80~3.80%、
N :0.001~0.022%、
V及びNbのいずれか1種、又は2種を
V :0.01~0.12%、
Nb:0.01~0.12%の範囲、かつ、
(Nb+V)≦0.12%、
Mg:0.0266%以下、
B :0.0059%以下、
Sn:0.052%以下、
Ca:0.0029%以下、
O :0.0040%以下、
残部Ni及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、かつ、前記成分組成は、以下の式(1)~(4)
[C%]≦0.23×([Nb%]+[V%])+0.008 (1)
[C%]≦-0.092×([Nb%]+[V%])+0.022 (2)
[N%]≦0.85×[Ti%]+0.013 (3)
[N%]≦-0.73×[Ti%]+0.041 (4)
を満たすことを特徴とする非磁性構造部材用Ni基合金。
【請求項2】
前記成分組成において、
Ca:0.0001~0.0025%、
であることを特徴とする請求項1記載の非磁性構造部材用Ni基合金。
【請求項3】
前記成分組成において、
Mg:0.0005~0.0250%、
であることを特徴とする請求項2記載の非磁性構造部材用Ni基合金。
【請求項4】
前記成分組成において、
Mg:0.0005~0.0250%、
であることを特徴とする請求項1記載の非磁性構造部材用Ni基合金。
【請求項5】
前記成分組成において、
B :0.0050%以下 、
Sn:0.050%以下、
O :0.0035%以下
であることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の非磁性構造部材用Ni基合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性の構造部材用Ni基合金に関し、特に、腐食性環境における使用に好適な非磁性構造部材用Ni基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の正確な動作を確保すべく、これらを設置するための設備部材等には非磁性の構造部材が用いられている。また、海洋上や沿岸部、化学プラントなどの腐食性環境下では、耐食性を兼ね備えることも要求され、Ni系合金からなる非磁性構造部材が使用される。かかる耐食性合金としては、CrやMoを多く含むハステロイ(登録商標)22やハステロイ(登録商標)276といったNi系合金が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、Crを添加することで耐食性を高めつつ、時効処理して析出物を析出させ高い硬さを得られる非磁性Ni基合金が開示されている。典型的には、重量%で、C:0.1%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Cr:30~45%、およびAl:1.5~5.0%をNi中に含む成分組成を有し、冷間又は温間で塑性加工処理した後に時効処理して、1.05以下の透磁率とともに高い耐食性と硬さとを兼ね備えた合金を得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-274443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気・電子機器の高性能化が進む中で、上記したような腐食性環境下で用いられる構造部材用のNi基合金では、耐食性を犠牲とすることなく、一層の非磁性化が求められる。これと同時に、耐食性や磁性といった特性を、溶接加工といった構造部材としての各種機械加工を与えても維持できる安定性も求められる。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高い耐食性とともに低い透磁率とを有し、かつこれら特性を構造部材としての機械加工に対しても安定して有する非磁性構造部材用のNi基合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による非磁性構造部材用Ni基合金は、質量%で、C:0.001~0.015%、Si:0.01~0.10%、Mn:0.10~1.5%、P:0.020%以下、S:0.0001~0.0015%、Cr:14.0~23.0%、Mo:12.0~17.5%、Cu:0.03~3.5%、Al:0.005~0.200%、Ti:0.001~0.035%、Fe:2.5~7.2%、Co:0.05~1.20%、W:1.80~3.80%、N:0.001~0.022%、V及びNbのいずれか1種、又は2種をV:0.01~0.12%、Nb:0.01~0.12%の範囲、かつ、(Nb+V)≦0.12%、Mg:0.0266%以下、B :0.0059%以下、Sn:0.052%以下、Ca:0.0029%以下、O : 0.0040%以下、残部Ni及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、かつ、前記成分組成は、以下の式(1)~(4)
[C%]≦0.23×([Nb%]+[V%])+0.008 (1)
[C%]≦-0.092×([Nb%]+[V%])+0.022 (2)
[N%]≦0.85×[Ti%]+0.013 (3)
[N%]≦-0.73×[Ti%]+0.041 (4)
を満たすことを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、非磁性構造部材用のNi基合金として、高い耐食性とともに低い透磁率とを有し、かつこれら特性を構造部材としての機械加工に対しても安定して有するのである。
【0009】
上記した発明において、前記成分組成において、Ca:0.0001~0.0025%であることを特徴としてもよい。また、前記成分組成において、Mg:0.0005~0.0250%であることを特徴としてもよい。また、前記成分組成において、B :0.0050%以下 、Sn:0.050%以下、O :0.0035%以下であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、より加工性に優れた非磁性構造部材用のNi基合金とし得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】予備試験に用いた合金の成分の範囲を示す表である。
図2】鏡面研磨試験による研磨性及び耐食性について、[Nb%]+[V%]と[C%]で整理した結果を示す散布図である。
図3】鏡面研磨試験による研磨性について、[Ti%]及び[N%]で整理した結果を示す散布図である。
図4】鏡面研磨試験における研磨のセット数と、Cu、Co、Wの含有量との関係を示すグラフである。
図5】製造試験に用いた実施例の成分組成の一覧表である。
図6】製造試験に用いた比較例の成分組成の一覧表である。
図7】実施例及び比較例の製造試験の結果を示す一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
Ni基合金の耐食性を高める添加元素としては、CrやMoなどが考慮される。一方、Moはキュリー点を下げて室温での磁性をより小さくできるため、非磁性構造部材用の低透磁率Ni基合金を得る上で有効である。そこで、これら元素量と透磁率の関係について調査したところ、Crを12~20質量%、Moを12~20質量%含有させたNi基合金において、概ね1.003未満の低い透磁率を得られることを見いだした。なお、かかる合金の金属組織は、いずれも面心立方格子(FCC)からなる単相組織であった。本発明は、かかる合金をベースとして検討を行ったものである。高い耐食性とともに低い透磁率とを有し、かつこれら特性を溶接加工を含む構造部材としての各種機械加工に対しても安定して有していることの評価、例えば、溶接加工による溶接部の摩耗強度や、機械強度を評価した。
【0012】
[予備試験]
大型鋼塊を用いた製造試験に先立って、小型試片を用いた予備試験を行った。
【0013】
図1には予備試験に用いた合金の成分組成の範囲をまとめた。ベースとした合金は、質量%で、Cr:18%、Mo:14.5%、Fe:4.5%を含有するNi基合金であり、同図に示す範囲内で成分組成を変えて予備試験の試料とした。なお、図1では、「0」は意図的な添加をしていないことを意味するのであって、不可避的な微量の含有を許容する。
【0014】
<試料調製>
まず、高周波誘導炉を用いて図1に示した範囲内にある各組成の合金を溶解し、10kgの合金塊を得た。合金塊を熱間鍛造、焼鈍、冷間圧延して、厚さ3.2mmの冷延板とした。冷延板は、1150℃×1分間の固溶化熱処理後、水冷され、酸洗された。
【0015】
溶接加工に対する安定性の評価については溶接試験片を用いた。かかる溶接試験片は小分けした冷延板の端面を主面に対して垂直となるよう、上仕上げ加工(▽▽▽)をし突き合わせ溶接して作製した。なお、溶接は、フィラーを用いないTIG溶接により施工し、Ar+3%Hをシールガスとして2.15L/minで吹きつけながら、溶接電流を16A、溶接速度を70mm/minとして行った。
【0016】
<評価>
溶接試験片は、後述する乾式研磨試験、湿式研磨試験及び鏡面研磨試験で溶接部の研磨性を評価され、塩水噴霧サイクル試験で溶接部及び母材部の耐食性を評価された。
【0017】
・乾式研磨試験
本実施例による合金の用途の1つとなる溶接管は製造ライン上でビードを除去するため、これを想定した研磨試験を行って、製造ライン上での加工性として研磨性を評価した。ここでは平面研削盤(コスモ機械株式会社製:SG-300S)を用いた乾式砥石研磨にて溶接試験片の表ビードを除去した。詳細には、#46アルミナ砥粒の砥石を2900rpmで回転させ、1パスあたりの切り込み量を0.005mmに設定し、1パスあたり10secの研磨時間を目安として手動でテーブル送りを行った。目視でビード部と周囲の母材部との凹凸差がなくなったときに研磨の完了とし、完了までのパス数で研磨性を評価した。評価は、研磨完了までのパス数が3パス以下の場合に優良、4~6パスの場合に良、7~9パスの場合に可、10パス以上の場合に不良とした。
【0018】
・湿式研磨試験
ビード除去後の溶接試験片について、湿式での全面研磨による試験を行った。研磨に用いた装置は、湿式の自動研磨機(三共理化学株式会社製:MB-1-NYK01)である。テープ状の研磨紙をロールによって一定圧力で溶接試験片に接触させた上で一定速度で移動させて研磨する方式である。1パスの研磨を終了すると、自動的に研磨紙を送って次のパスで研磨紙の未使用部分を使用するようになっている。研磨紙の砥粒の粒度を#400、研磨圧力を0.2MPa、溶接試験片の送り速度を85mm/secとして、適時水を補給しながら研磨した。研磨方向は乾式研磨試験の研磨方向と直交する方向とした、そして、溶接部及び母材部の両者において、目視及び顕微鏡観察により、乾式研磨試験の研磨跡が消えたときを研磨の完了とし、完了までのパス数によって研磨性を評価した。評価は、研磨完了までのパス数が2パス以下の場合に優良、3~5パスの場合に良、6~9パスの場合に可、10パス以上の場合に不良とした。
【0019】
・鏡面研磨試験
湿式研磨試験に続いて、鏡面研磨試験を行った。研磨に用いた装置はBUEHLER社製のAuto-Met250である。硬質バフ布に粒径9μmのダイヤモンドペーストを少量塗布し、水性進展液を与えて回転研磨を行った。研磨板の回転数を180rpm、試料ホルダーの回転数を40rpmとし、3分間研磨を行った。続いて粒径3μmのダイヤモンドペーストに変更し、同じ条件で2分間研磨を行った。さらに、バフ布を軟質バフ布に変えて、金属酸化物研磨材入りの研磨液を用い、研磨板の回転数を180rpm、試料ホルダーの回転数を40rpmとし、2分間研磨を行った。そのまま、水道水を研磨板上に流して研磨液を洗い流しつつ30秒間運転した。ここで、研磨疵の残存する場合は、粒径3μmのダイヤモンドペーストと軟質バフ布で仕上研磨を行った。かかる仕上研磨を1セットとし研磨疵の残存しない鏡面を得たときに研磨の完了とし、完了までのセット数(パス数)によって研磨性を評価した。鏡面を得られたか否かについては、全面を目視で観察するとともに、溶接部周辺を倍率400倍の顕微鏡によって観察し研磨跡やピンホールの残存の無いことを確認して判断した。評価は、研磨完了までの仕上研磨のセット数が2セット以下の場合に優良、3~5セットの場合に良、6~8セットの場合に可、9セット以上の場合に不良とした。
【0020】
・塩水噴霧サイクル試験
本実施例による合金の腐食性環境での使用を考慮して、比較的厳しい条件での塩水噴霧サイクル試験を行った。上記した酸洗後の冷延板を同様に突き合わせ溶接して溶接試験片を得て、#240の砥粒粒度の研磨紙で湿式研磨の後、溶接部を幅方向の中央に位置させるように切り出した。切り出し寸法は、厚さ3.2mm×幅40mm×長さ80mmである。そして、長さ25mmの位置にて90°折り曲げて試験材とした。塩水噴霧試験では、試験材は曲げ位置を下側にして20°の傾斜を有して保持した上で、70℃の雰囲気において5%濃度の塩水を1時間噴霧し、23時間乾燥保持するサイクルを50サイクル続けた。その後、試験材の腐食の有無、発生した孔食の最大深さで耐食性を評価した。評価は、腐食発生なしの場合に優良、孔食の最大深さが10μm以下の場合に良、10~25μmの場合に可、25μm超又は腐食痕多数の場合に不可とした。
【0021】
<試験結果>
まず、塩水噴霧試験の結果について説明する。個別の評価については省略するが、母材部の耐食性はいずれも良好であった。一般に、耐孔食指数(PRE=[Cr%]+3.3[Mo%]+16[N%])に従って腐食度が低下するとされるが、ここではCr及びMoの添加によって高い耐食性を得られたと考えられる。一方、溶接部の耐食性については、C含有量の多い試験片で母材部よりもかなり劣る傾向がありつつも、NbやVの添加によって比較的良好となっていた。ミクロ組織の観察の結果、溶接部にはMoやCrを主体とする炭化物による析出物が認められ、この析出物が耐食性の低下の原因であると考えられた。つまり、構造部材の機械加工としての溶接加工に対しても高い耐食性を安定して有するようにするには、これらの析出物の抑制を行うことが有効となり得る。
【0022】
次に、乾式研磨試験、湿式研磨試験、鏡面研磨試験の結果について説明する。研磨性としては、Cの含有量の多いもの、Nb、Vの含有量の多いものにおいて小さな疵が残存し、研磨完了までのパス数、セット数を多くする傾向があった。かかる疵について調査したところ、NbやVの炭化物が確認され、これらの元素を一定以上含有させると、研磨性が低下することが判った。
【0023】
図2には、鏡面研磨試験による研磨性及び耐食性に関し、質量%で、Nb及びVの合計の含有量[Nb%]+[V%]とCの含有量[C%]で整理した結果を示す。同図において「◇」は耐食性を不良としたもの、「△」は鏡面研磨試験による研磨性を不良としたもの、「●」はいずれの試験においても可以上の評価を得たものである。そして、耐食性不良と耐食性可との間、研磨性不良と研磨性可との間にそれぞれ境界線(点線)を引いた。すると、これらの境界線はそれぞれ、[C%]=0.23×([Nb%]+[V%])+0.008、[C%]=-0.092×([Nb%]+[V%])+0.022となった。つまり、同図において、この2つの境界線よりもCの少ない下側の範囲では良好な耐食性及び研磨性を安定して有し得て好ましい。すなわち、以下の2つの式(1)及び(2)を満たす場合、良好な耐食性及び研磨性を安定して有するのである。
[C%]≦0.23×([Nb%]+[V%])+0.008 … 式(1)
[C%]≦-0.092×([Nb%]+[V%])+0.022 … 式(2)
【0024】
なお、乾式研磨試験及び湿式研磨試験による研磨性にこれら元素成分による顕著な違いは見いだせなかった。また、Siはビード形状への影響があり、適量、添加することでビード形状を良好にできることも確認された。
【0025】
また、図3には、鏡面研磨試験による研磨性に関し、質量%で、Tiの含有量[Ti%]及びNの含有量[N%]で整理した結果を示す。鏡面研磨試験後の試験片には、上記したNbの炭化物以外にTiの窒化物も観察されたためTi及びNの含有量でも整理した。同図において「□」はピンホールを形成して研磨性が不良のもの、「〇」はTi化合物を生成して研磨性が不良のもの、「●」はいずれの試験においても可以上の評価を得たものである。そして、ピンホールによって、及び、Ti化合物によって研磨性不良と研磨性可との間にそれぞれ境界線(点線)を引いた。すると、これらの境界線はそれぞれ、[N%]=0.85×[Ti%]+0.013、[N%]=-0.73×[Ti%]+0.041となった。つまり、同図において、この2つの境界線よりもNの少ない下側の範囲では研磨性を良好に保つようにし得て好ましい。すなわち、以下の2つの式(3)及び(4)を満たす場合、良好な耐食性及び研磨性を安定して有するのである。
[N%]≦0.85×[Ti%]+0.013 … 式(3)
[N%]≦-0.73×[Ti%]+0.041 … 式(4)
【0026】
つまり、CやNの含有量を適正量に制御することで、Mo及びCrの炭化物の析出を抑制し、溶接加工によっても高い耐食性を安定して得られるとともに、Nb及びVの炭化物やTiの窒化物の生成を抑制して研磨性の低下を抑制し得る。他方、Nb、V、Tiを適量含有させることで、残存するC及びNを固着させて溶接部の耐食性と研磨性を確保し、さらに溶接部の組織を微細化して強度確保にも寄与するのである。
【0027】
また、図4に示すように、Cu、Co、Wの添加は研磨性を向上させ得ることも判った。乾式研磨試験及び湿式研磨試験での効果は大きくなかったものの、鏡面研磨試験での研磨性評価において顕著な効果が確認された。小さな疵やムラの残存しやすい溶接部においてもCu、Co、Wの添加によってこれらは改善され、少ないセット数で研磨が完了した。これらの元素は、耐食性や透磁率を悪化させず、Wについては耐食性をも向上させる。なお、耐食性の向上のためにMoの添加も検討されたが、Moの添加は研磨性を悪化させる傾向が認められ、代わりにWを添加し研磨性を改善しつつ高い耐食性を安定して得ることができた。
【0028】
[製造試験]
上記した予備試験を踏まえて、さらに圧延板を製造する製造試験を行った。
【0029】
<試料調整>
まず、図5(実施例1~21)及び図6(比較例1~17)に示した成分組成の合金を60トンの電気炉で溶解した。原料として、Ni合金屑、鉄屑、ステンレス鋼屑、フェロクロムなどを用いた。溶解した合金は、AOD工程にて酸素及びアルゴンを吹精し脱炭精錬され、生石灰、蛍石を投入してCaO-SiO-Al-MgO-F系スラグを生成させ、Al、Siの投入によって脱硫、脱酸された。これを連続鋳造によって造塊し、スラブとした。化学成分の分析には蛍光X線分析を用いたが、Nについては不活性ガス-インパルス加熱溶融法によって分析し、C及びSについては酸素気流中燃焼-赤外線吸収法によって分析した。なお、これらの図中の「-」は意図的な添加を行っていないことを意味している。
【0030】
さらにスラブを熱間圧延して、厚さ6.5mmの熱延コイルとした。かかる熱延コイルを固溶化熱処理してから冷間圧延し、焼鈍、酸洗工程を経て厚さ3.2mmの冷延コイルとした。なお、焼鈍は1150℃で1分間の保持の後、水冷した。冷延コイルから冷延板を切り出し、上記した予備試験と同様に突き合わせ溶接し、溶接試験片とした。
【0031】
<評価>
溶接試験片は、乾式研磨試験及び鏡面研磨試験で溶接部の研磨性を評価され、塩水噴霧サイクル試験で溶接部の耐食性を評価された。また、透磁率測定及び硬さ測定を行って、溶接加工及び研磨による機械加工に対しても高い耐食性と低い透磁率とを安定して有しているかを評価した。
・研磨性の試験及び評価
予備試験と同様に、溶接試験片を乾式研磨、湿式研磨、鏡面研磨を順に行って、乾式研磨後及び鏡面研磨後のそれぞれについて予備試験と同じ基準で研磨性を評価した。なお、湿式研磨においては、目視で乾式研磨の跡が消えた後に1パスを追加して研磨の完了とし、次工程に進め、湿式研磨の研磨性については評価していない。
【0032】
・塩水噴霧サイクル試験
予備試験と同様に塩水噴霧サイクル試験を実施し、耐食性を評価した。評価基準についても予備試験と同様である。
【0033】
・透磁率測定
母材部、溶接部の両者で透磁率を測定した。透磁率は、上記した湿式研磨後の溶接試験片から、幅10mm×長さ10mmの試験片を切り出して行った。溶接部の試験片については、ビードを含むように切り出した。測定は、試料振動型磁力計(理研電子株式会社製:BVH-55)を用い、室温にて、外部磁界を2500Oeとして磁化測定し、磁化曲線の傾きを真空の透磁率で除すことで透磁率μを算出した。ここでBは磁束密度、Hは磁界である。評価は、母材部、溶接部のいずれにおいても透磁率が1.003未満の場合に良、一方でも透磁率が1.003以上となった場合に不良とした。
【0034】
・硬さ測定
構造部材としての用途から機械的強度を高くすることが好ましく、より強度の低くなりやすい溶接部について硬さを測定し、機械的強度を評価した。評価は、母材部の硬さを基準とし、溶接部の硬さを+15HV以上とする場合に優良、+14~-5HVとする場合に良、-6~-15HVとする場合に可、-16HV以下とする場合に不可とした。
【0035】
・成分組成について
上記した成分組成についての式(1)~式(4)について、右辺の定数項を除いて左辺に移行させた以下の式(1’)~式(4’)において、左辺の値を評価した。つまり、左辺の値が右辺の定数項以下の値であれば、各条件を満たすと評価される。
[C%]-0.23×([Nb%]+[V%])≦0.008 … 式(1’)
[C%]+0.092×([Nb%]+[V%])≦0.022 … 式(2’)
[N%]-0.85×[Ti%]≦0.013 … 式(3’)
[N%]+0.73×[Ti%]≦0.041 … 式(4’)
【0036】
<試験結果>
図7には、各試験の結果としての評価、及び、上記した式(1’)~式(4’)それぞれの左辺の値を示した。なお、評価について、優良は「◎」、良は「〇」、可は「△」、不良は「×」で示した。
【0037】
実施例1~実施例21については、式(1’)の左辺の値を0.008以下、式(2’)の左辺の値を0.022以下、式(3’)の左辺の値を0.013以下、式(4’)の左辺の値を0.041以下となって、成分組成は4つの式を満たした。また。乾式研磨試験及び鏡面研磨試験における研磨性、耐食性、透磁率、硬さについて全て評価を可以上とした。
【0038】
一方、比較例1では、Cの含有量が比較的多く、Nb+Vも比較的少ないために、式(1’)の左辺の値が0.008を超えた。その結果、耐食性及び硬さについて不可の評価となった。硬さについては、溶接部の組織が粗大化したため低くなったものと考えられる。
【0039】
比較例2では、Cの含有量が比較的多く、式(2’)の左辺の値が0.022を超えた。その結果、鏡面研磨完了までのパス数が多く、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。溶接部にNbC、VCが多量に生成したものと考えられる。
【0040】
比較例3では、Tiの含有量が比較的少ない上に、Nの含有量が比較的多く、式(3’)の左辺の値が0.013を超えた。その結果、溶接部にピンホールを形成して鏡面研磨試験による研磨性において、不可の評価となった。
【0041】
比較例4では、Ti及びNの含有量が比較的多く、式(4’)の左辺の値が0.041を超えた。その結果、鏡面研磨時に疵が多く、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。
【0042】
比較例5では、Cuの含有量が少なく、また、Co及びWの含有量も比較的少なかった。その結果、鏡面研磨においてパス数が多くなり、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。
【0043】
比較例6では、Coの含有量が少なく、また、Cu及びWの含有量も比較的少なかった。その結果、鏡面研磨においてパス数が多くなり、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。
【0044】
比較例7では、Wの含有量が少なく、また、Cu及びCoの含有量も比較的少なかった。その結果、鏡面研磨においてパス数が多くなり、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。
【0045】
比較例8では、Cの含有量が多く、Nbの含有量が比較的少なかった。その結果、耐食性において不可の評価となった。Cr炭化物が多量に形成されることで腐食に対して鋭敏化したものと考えられる。
【0046】
比較例9では、Siの含有量が多かった。その結果、溶接部に割れを生じ、乾式研磨においてこの割れを除去できずに乾式研磨の研磨性において不可の評価となった。なお、割れを除去できなかったため、湿式研磨、鏡面研磨を行わず、塩水噴霧サイクル試験も行わなかった。
【0047】
比較例10では、Crの含有量が多かった。その結果、耐食性において不可の評価となった。溶接部に金属間化合物を形成したものと考えられる。
【0048】
比較例11では、Moの含有量が多かった。その結果、耐食性において不可の評価となった。溶接部に金属間化合物を形成したものと考えられる。
【0049】
比較例12では、Cuの含有量が多かった。その結果、溶接部に割れを生じて乾式研磨においてパス数が多くなり、乾式研磨の研磨性において不可の評価となった。
【0050】
比較例13では、Alの含有量が少なかった。その結果、溶接部における酸化の程度が大きく、乾式研磨の研磨性において可の評価であり、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。
【0051】
比較例14では、Tiの含有量が多かった。その結果、溶接部に割れを生じ、乾式研磨の研磨性において不可の評価となった。
【0052】
比較例15では、Wの含有量が多かった。その結果、耐食性において不可の評価となった。溶接部に金属間化合物を形成したものと考えられる。
【0053】
比較例16では、Nの含有量が多く、式(3’)の左辺の値が0.013を超えた。その結果、乾式研磨の研磨性において可の評価となった。TiNを多量に形成したものと考えられる。また、多量のNのために溶接部に多数のピンホールを生じ、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。
【0054】
比較例17では、Feの含有量が多かった。その結果、透磁率が1.003を超えて不可の評価となった。Feによって相安定性を低下させたものと考えられる。
【0055】
比較例18では、Mgの含有量が多かった。その結果、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。介在物を多量に形成したものと考えられる。
【0056】
比較例19では、Bの含有量が多かった。その結果、溶接時の凝固割れが大きく、乾式研摩の研磨性において不可の評価となった。
【0057】
比較例20では、Bの含有量が多く、Nbの含有量も比較的多かった。その結果、溶接時の凝固割れが著しく、乾式研摩の研磨性において不可の評価となった。なお、割れを除去できなかったため、湿式研磨、鏡面研磨を行わず、塩水噴霧サイクル試験も行わなかった。
【0058】
比較例21では、Snの含有量が多かった。その結果、溶接時の凝固割れが大きく、乾式研摩の研磨性において不可の評価となった。
【0059】
比較例22では、Caの含有量が多かった。その結果、ビード形状が悪く、乾式研摩の研磨性を可としたものの、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。介在物を多量に形成したものと考えられる。
【0060】
比較例23では、Oの含有量が多かった。その結果、鏡面研磨の研磨性において不可の評価となった。介在物を多量に形成したものと考えられる。
【0061】
以上のように、上記した実施例1~実施例21によれば、乾式研磨及び鏡面研磨における研磨性や硬さを含む加工性、溶接及び研磨による加工に対しても高い耐食性と低い透磁率とを安定して有する非磁性構造部材用のNi基合金を得ることができた。
【0062】
ところで、上記した実施例を含むNi基合金とほぼ同等の性質を与え得る合金の組成範囲は以下のように定められる。
【0063】
Cは、FCC相を安定化させるとともに透磁率の安定化にも有効な元素である。さらに、NbやVと結合し溶接部の微細な結晶粒度を維持するように制御できて強度維持に寄与する重要な元素である。但し、過度の含有はCrやMoの炭化物、炭窒化物を形成して耐食性の劣化の原因となる。これらを考慮して、Cは、質量%で、0.001~0.015%の範囲内、好ましくは0.002~0.012%の範囲内、より好ましくは0.003~0.008%の範囲内である。
【0064】
Siは、脱酸剤として作用し、さらには溶接時の溶け込みを確保し、溶接加工時のビードの凹凸を平滑にするのに有効な元素である。但し、過剰な含有は金属間化合物の析出を助長し、溶接部の割れ感受性を高くする。更に、酸化皮膜を形成させるため、溶接時のテンパーカラーの発生、つまり酸化皮膜の生成を助長してしまい研磨性に悪影響を及ぼす。これらを考慮して、Siは、質量%で、0.01~0.10%の範囲内、好ましくは0.02~0.09%の範囲内、より好ましくは0.03~0.08%の範囲内である。
【0065】
Mnは、脱酸剤として働くとともに、FCC相を安定化させて透磁率を安定して低く保つ元素である。但し、過剰に含有させるとMnSを形成し、孔食の起点となって耐食性を劣化させる。これらを考慮して、Mnは、質量%で、0.10~1.5%の範囲内、好ましくは0.15~1.25%の範囲内、より好ましくは0.20~1.00%の範囲内である。
【0066】
Pは、熱間加工性、溶接部の耐凝固割れ性、耐食性を劣化させるため、できるだけ低減することが望ましい。そのため、Pは、質量%で、0.020%以下の範囲内、好ましくは0.018%以下の範囲内、より好ましくは0.015%以下の範囲内である。
【0067】
Sは、熱間加工性を悪くし、溶接部の割れを助長する元素であり低減することが望ましい。しかしながら、溶接部の溶け込みを良化させ、溶接加工時のビードの凹凸を小さくする効果を有する。これらを考慮して、Sは、質量%で0.0001~0.0015%の範囲内、好ましくは0.0002~0.0013%の範囲内、より好ましくは0.0003~0.0010%の範囲内である。
【0068】
Crは、厳しい腐食環境での耐食性、例えば耐孔食性、耐すきま腐食性を確保するために必須である。但し、過剰な含有は金属間化合物やCr炭化物の析出を助長し、耐食性や溶接部の研磨性を悪化させる。これらを考慮して、Crは、質量%で、14.0~23.0%の範囲内、好ましくは、14.5~22.5%の範囲内、より好ましくは15.0~22.0%の範囲内である。
【0069】
Moは、Crと同様に耐食性、特に耐孔食性、耐すきま腐食性を向上させるとともに透磁率の安定化にも寄与する元素である。但し、過剰に含有させると、炭化物や金属間化合物を析出させて、耐食性を劣化させるとともに溶接部の研磨性を悪化させる。これらを考慮して、Moは、質量%で、12.0~17.5%の範囲内、好ましくは、12.5~17.0%の範囲内、より好ましくは13.0~16.5%の範囲内である。
【0070】
CuはFCC相を安定化させて透磁率を安定して低く保つ元素である。さらに、Co、Wと共存することで溶接部の研磨性を良化させ、特に鏡面に仕上げる場合、その作業性を向上させる元素でもある。但し、過剰な含有は、溶接時の割れ発生を助長するだけでなくコストを増加させ、強度の低下も招く。これらを考慮して、Cuは、質量%で、0.03~3.5%の範囲内、好ましくは0.04~3.0%の範囲内、より好ましくは0.05~2.5%の範囲内である。
【0071】
Alは、脱酸剤として働き、またCaO‐SiO-Al‐MgO系スラグの共存下で、脱酸により脱硫を促し、精錬におけるS量を制御するために重要な元素である。但し、過剰な含有は、溶接時に酸化スケールを形成させ易くし、あるいはAlN、Alを形成して研磨性を悪化させる。これらを考慮して、Alは、質量%で、0.005~0.200%の範囲内、好ましくは0.010~0.180%の範囲内、より好ましくは0.020~0.150%の範囲内である。
【0072】
Tiは、脱酸剤として働くだけでなく、窒素と結合して溶接部の組織を微細化することで強度を確保するのに寄与する。但し、過剰な含有は、溶接時の割れ発生を助長し、析出するTiNにより研磨性を悪化させ、また溶接時のテンパーカラーの発生を招くことでも研磨性を悪化させる。このため厳密に含有量を制御することが必要な重要元素である。これらを考慮して、よって、Tiは、質量%で、0.001~0.035%の範囲内、好ましくは0.002~0.030%の範囲内、より好ましくは0.003~0.025%の範囲内である。
【0073】
Coは、FCC相を安定化させて透磁率を低く安定化させるとともに、溶接部の硬さの確保に寄与する。さらに、W、Cuと共存することで溶接部の研磨性を良化させ、特に鏡面に仕上げる場合、その作業性を向上さるために必要な元素である。但し、過剰な含有は製造コストの増大を招く。これらを考慮して、Coは、質量%で、0.05~1.20%の範囲内、好ましくは0.10~1.00%の範囲内、より好ましくは0.15~0.90%の範囲内である。
【0074】
Wは、Mo、Crと同様に耐食性、特に耐孔食性、耐すきま腐食性を向上させるとともに、透磁率の安定化にも寄与する元素である。さらに、Co、Cuと共存することで溶接部の研磨性を良化させ、特に鏡面に仕上げる場合、その作業性を向上させる重要な元素である。但し、過剰な含有は、炭化物や金属間化合物を析出させて、耐食性を劣化させるとともに、却って溶接部の研磨性を悪化させる。これらを考慮して、Wは、質量%で、1.80~3.80%の範囲内、好ましくは、2.20~3.60%の範囲内、より好ましくは2.50~3.40%の範囲内である。
【0075】
Feは、熱間加工性を改善する元素である。但し、過剰な含有は、溶接割れを助長し、FCC相の不安定化を招いて透磁率を大きくする傾向がある。これらを考慮して、Feは、質量%で、2.5~7.2%の範囲内、好ましくは3.0~7.0%の範囲内、より好ましくは3.5~6.9%の範囲内である。
【0076】
Nは、FCC相を安定化させるとともに、Cr、Moと同様に耐孔食性および耐すきま腐食性を大きく向上させる元素である。さらにTiと窒化物を形成することで、Cと同様に、溶接部の微細な結晶粒度を維持するように制御できて強度維持に寄与する。但し、過剰な含有は、窒化物の多量な析出を招くとともに、ピンホールを形成し易くさせて、研磨性を著しく悪化させる。これらを考慮して、Nは、質量%で、0.001~0.022%の範囲内、好ましくは0.002~0.015%の範囲内、より好ましくは0.004~0.014%の範囲内である。
【0077】
V及びNbは、母材の強度向上に寄与し、さらに溶接部ではCrやMoの炭化物、炭窒化物の形成を抑制することで耐食性の向上や強度確保に寄与する重要な元素である。また溶接部の組織を微細化することで研磨性を向上させる。但し、いずれか一方であっても過剰に含有すると、溶接時の割れ発生を招くとともにし、金属間化合物の析出を助長して耐食性の低下を招く。これらを考慮して、Vは、質量%で、0.01~0.12%の範囲内、好ましくは0.02~0.11%の範囲内、より好ましくは、0.03~0.10%の範囲内である。また、Nbは、質量%で、0.01~0.12%の範囲内、好ましくは0.02~0.11%の範囲内、より好ましくは0.03~0.10%の範囲内である。なお、これらNb及びVは、単独で含有させても、2種類の複合で含有させてもその効果を得られるため、いずれか1種類以上を選択的に含有させればよい。但し、Nb及びVの含有量の合計値は、質量%で、0.12%以下とする。
【0078】
[C%]-0.23×([Nb%]+[V%])≦0.008 … 式(1’)
式(1’)は、実験により求めたC量とNb及びV量の関係式である。同式を満たすように成分組成におけるそれぞれの含有量を制御することで、炭化物の析出を抑制できて溶接部の耐食性を確保できる。つまり、式(1’)の左辺の値は0.008以下である。また、式(1’)の左辺の値は、好ましくは0.007以下、より好ましくは0.005以下である。
【0079】
[C%]+0.092×([Nb%]+[V%])≦0.022 … 式(2’)
式(2’)は、実験により求めたC量とNb及びV量の関係式である。同式を満たすように成分組成におけるそれぞれの含有量を制御することで、NbやV、あるいはこれらの複合炭化物による研磨性の悪化を抑制し溶接部の研磨性を確保できる。つまり、式(2’)の左辺の値は0.022以下である。また、式(2’)の左辺の値は、好ましくは0.020以下であり、より好ましくは0.018以下である。
【0080】
[N%]-0.85×[Ti%]≦0.013 … 式(3’)
式(3’)は、実験により求めたNとTi量の関係式である。同式を満たすように成分組成におけるそれぞれの含有量を制御することで、ピンホールの発生を抑制して溶接部の研磨性を確保できる。つまり、式(3’)の左辺の値は0.013以下である。また、式(3’)の左辺の値は、好ましくは0.012以下、より好ましくは0.010以下である。
【0081】
[N%]+0.73×[Ti%]≦0.041 … 式(4’)
式(4’)は、実験により求めたNとTi量の関係式である。同式を満たすように成分組成におけるそれぞれの含有量を制御することで、TiNに起因する研磨性の悪化を抑制して溶接部の研磨性を確保できる。つまり、式(4’)の左辺の値は0.041以下である。また、式(4’)の左辺の値は、好ましくは0.039以下、より好ましくは0.037以下である。
【0082】
Mgは、適量の添加により熱間加工性を向上させる元素であり、必要に応じて任意に添加してもよい。但し、過剰な含有は、介在物を増加させて研磨性を悪化させ、さらに、熱間加工性を著しく劣化させてしまう。これらを考慮して、Mgは、質量%で、0.0266%以下の範囲内、好ましくは0.0005~0.0250%の範囲内、より好ましくは0.0010~0.0150%の範囲内、さらに好ましくは0.0015~0.0130%の範囲内となるように任意に添加できる。
【0083】
Bは、熱間加工性を改善させる元素であり、必要に応じて任意に添加してもよい。但し、過剰な含有は、凝固割れや溶接時の割れの発生を助長する。特にNbの含有量が多い場合に顕著となる。これらを考慮して、Bは、質量%で、0.0059%以下の範囲内、好ましくは0.0050%以下の範囲内、より好ましくは0.0030%以下の範囲内、さらに好ましくは0.0025%以下の範囲内となるように任意に添加できる。0.0001%~0.025%の範囲内とすることもさらに好ましい。
【0084】
Snは、腐食速度を低下させる効果があり、必要に応じて任意に添加してもよい。但し、過剰な含有は溶接割れを助長する。加えて、Cuと化合物を形成しCuによる透磁率を安定させたり溶接部の研磨性を良化させたりする効果を減じてしまう。これらを考慮して、Snは、質量%で、0.052%以下の範囲内、好ましくは0.050%以下の範囲内、より好ましくは0.030%以下の範囲内、さらに好ましくは0.010%以下の範囲内となるように任意に添加できる。0.001%~0.010%の範囲内とすることもさらに好ましい。
【0085】
Caは、熱間加工性に有害なSと結合してCaSを形成することで、熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて任意に添加してもよい。但し、過剰な含有は溶接ビード表面の性状を悪くするとともに、酸化物を形成して研磨性を悪化させる。これらを考慮して、Caは、質量%で、0.0029%以下の範囲内、好ましくは0.0001~0.0025%の範囲内、より好ましくは0.0002~0.0020%の範囲内、さらに好ましくは0.0003~0.015%の範囲内となるように任意に添加できる。
【0086】
Oは、不可避に混入する不純物元素である。Si、Al、Mgなどと酸化物を形成して介在物となり、研磨性に悪影響をおよぼす。そのため、安定的な性能を得るべく、含有量をできる限り低く管理することが望ましい。Oは、質量%で、0.0040%以下、好ましくは0.0035%以下、より好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.0018%以下に低減することが推奨される。
【0087】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。

【要約】
【課題】 高い耐食性及とともに低い透磁率とを有し、かつこれら特性を構造部材としての機械加工に対しても安定して有する非磁性構造部材用のNi基合金の提供。
【解決手段】 所定の成分組成を有するNi基合金であり、かつ、成分組成は、以下の式(1)~(4)を満たす。
[C%]≦0.23×([Nb%]+[V%])+0.008 (1)
[C%]≦‐0.092×([Nb%]+[V%])+0.022 (2)
[N%]≦0.85×[Ti%]+0.013 (3)
[N%]≦‐0.73×[Ti%]+0.041 (4)
【選択図】 なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7