(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】未発症の『危険相』から関節リウマチ、AAV、又はシェーグレン症候群への遷移のバイオマーカーとしてのFab結合型糖鎖
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240524BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240524BHJP
【FI】
G01N33/53 N ZNA
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2022142927
(22)【出願日】2022-09-08
(62)【分割の表示】P 2019528084の分割
【原出願日】2017-11-24
【審査請求日】2022-09-08
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509329730
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス ライデン ハー.オー.デー.エン. ルムク
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】ハウジンハ、トーマス ヴィレム ヨハンネス
(72)【発明者】
【氏名】トゥース、レイナルドゥス エヴェラルドゥス マリア
(72)【発明者】
【氏名】トロウ、レーンデルト アドリアヌス
(72)【発明者】
【氏名】シェラー、ハンス ウルリッヒ
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/194350(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0311999(US,A1)
【文献】Yoann Rombouts,Extensive glycosylation of ACPA-IgG variable domains modulates binding to citrullinated antigens in rheumatoid arthritis,Annals of the rheumatic diseases,2015年01月13日,Vol.75 No.3,Page.578-585
【文献】Jing Wu,Analysis of Glycan Variation on Glycoproteins from Serum by the Reverse Lectin-Based ELISA Assay,J. Proteome Res.,2014年,Vol.13,Page.2197-2204
【文献】Fabian Kasermann,Analysis and Functional Consequences of Increased Fab-Sialylation of Intravenous Immunoglobulin (IVIG) after Lectin Fractionation,PLoS ONE,2012年06月04日,Vol.7 No.6,Page.e37243
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリング時に関節リウマチを有していない個体の血清サンプルにおけるシトルリン化タンパク質抗原抗体(ACPA)-IgGのFabグリコシル化の割合に基づき前記個体での関節リウマチ
を発症する危険性を評価することを支援するために
前記個体の
前記サンプルを分析する方法であって、
前記方法は、前
記サンプル内
のACP
A-IgGのFabグリコシル化の割合を決定することを備
える、方法。
【請求項2】
前記ACPA-IgGのFabグリコシル化の割合が高いか否かを
決定することを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
N結合型糖鎖は、H5N4S2、H5N5F1S1、H5N4F1S2、H5N5S2、H5N5F1S2、及びH6N5F1S2から選択される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前
記サンプルは、自己抗体についての早期抗体サンプルの検査が陽性であった個体
のサンプルである、請求項1から
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記早期抗体サンプルの自己抗体の10%以下がそのFab部分上にN結合型糖鎖を含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体は、Fab及びFc断片を生産するために、切断される、請求項1から
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前
記サンプルがACPAを含むか否かを
決定する工程を備え、
当該工程が、シトルリン化タンパク質抗原
を含むペプチド又はタンパク質に前
記サンプルを接触させることを含む、請求項1から
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、レクチンを含む糖鎖結合分子に前
記サンプルを接触させること、及び、前記ACPAへの前記糖鎖結合分子の結合を
決定すること、を含む、請求項1から
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記糖鎖結合分子は、シアル酸残基結合レクチ
ン又は前記レクチンのシアル酸結合部分を含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記シアル酸残基結合レクチンは、SIGLECファミリーの一員である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記
シアル酸残基結合レクチンは
、セイヨウニワトコ凝集素(SNA)
、イヌエンジュ凝集素(MAA)、又はCD22である、請求項
9に記載の方法。
【請求項12】
サンプリング時に関節リウマチを有していない個体の血清サンプルにおけるシトルリン化タンパク質抗原抗体(ACPA)-IgGのFabグリコシル化の割合に基づき前記個体での関節リウマチ
を発症する危険性を評価するために
前記個体の
前記サンプルを分析する
方法に使用するための組成物であって、
前記組成物は、シトルリン化タンパク質抗原を含むペプチド又はタンパク質を含み、
前記方法は、前
記サンプル内
のACP
A-IgGのFabグリコシル化の割合
を決定
することを
備える、組成物。
【請求項13】
前記方法において、前記個体は、前記ACPA-IgGのFabグリコシル化の割合が高いときに、関節リウマチを発症する危険性が高いと分類される、請求項
12に記載の組成物。
【請求項14】
前記方法において、前記個体は、前記ACPA-IgGのFabグリコシル化の割合が基準より高いときに、関節リウマチを発症する危険性が高いと分類される、請求項
13に記載の組成物。
【請求項15】
前記方法において、前記個体は、前
記サンプル内のACPA
の10%より多
くが当該抗体のFab部分にN結合型グリコシル化を含むときに、関節リウマチを発症する危険性が高いと分類される、請求項
12から
14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
レクチンを含む糖鎖結合分子をさらに含む、請求項
12から
15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記方法において、前記ACPAへの前記糖鎖結合分子の結合が決定される、請求項
16に記載の組成物。
【請求項18】
前記糖鎖結合分子は、シアル酸残基結合レクチ
ン又は前記レクチンのシアル酸結合部分を含む、請求項
17に記載の組成物。
【請求項19】
前記シアル酸残基結合レクチンは、SIGLECファミリーの一員である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記
シアル酸残基結合レクチンは
、セイヨウニワトコ凝集素(SNA)
、イヌエンジュ凝集素(MAA)、又はCD22である、請求項
18に記載の組成物。
【請求項21】
サンプリング時に関節リウマチを有していない個体の血清サンプルにおけるシトルリン化タンパク質抗原抗体(ACPA)-IgGのFabグリコシル化の割合に基づき前記個体での関節リウマチを発症する危険性を評価するために前記個体の前記サンプルを分析する方法に使用するためのパーツのキットであって、
前記キットは、翻訳後修飾を含むペプチド又はタンパク質であっ
て自己抗体に結合し得るペプチド又はタンパク質と、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とを含み、
前記
自己抗体は
、シトルリン化タンパク質
抗原抗体(ACPA)
-IgGであり、前記自己抗体に結合し得る前記ペプチド又は前記タンパク質は、シトルリン化タンパク質抗原を含む、キット。
【請求項22】
前記ペプチド、前記タンパク質、又は、N結合型糖鎖に結合し得る前記分子は、固体表面に結合している、請求項
21に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患、特に、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)、シェーグレン症候群、及び関節炎の分野に関連し、特に、関節リウマチの分野に関連する。また、本発明は、個体が前述の自己免疫疾患を発症するかを監視する方法又は自己免疫疾患、好ましくは、関節炎(関節リウマチ)を治療する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
IgGは、Fc部分に存在するAsn297に位置する保存グリコシル化部位を含有する糖タンパク質である。構造的観点から、これらのFc糖鎖は、内部スキャフォールドとして機能し、IgG分子のFc尾部の立体配座の維持に重要である。Fcグリコシル化は、Fcy受容体(FcyR)との相互作用を調節することができ、また、特定糖型が、補体経路(C1q及びMBL媒介経路)を活性化でき、及び/又は、FcyR結合を調節できることから、他のエフェクター機能に関与している可能性がある。例えば、コアフコース残基はFcyRIIIaへのIgG結合に影響し得、コアフコースの欠如は抗体依存性細胞毒性の増強の原因となる。同様に、Fc糖鎖でのシアル酸及びガラクトース残基の低含量は、FcyRの活性化よりもIgGの結合を選好することから、重要な炎症誘発特性をIgGに付与する。
【0003】
Fc結合N糖鎖に加えて、ヒト血清中のIgG分子の約15~25%がFab部分に存在するN結合型糖鎖を含有する。また、Fab糖鎖は、細胞機能を調節でき、おそらくは、糖鎖を介したレクチンへの異常Fabグリコシル化B細胞受容体架橋の提供を通じて、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、及びバーキットリンパ腫B細胞などのリンパ腫の出現に関係している。
【0004】
最近、関節リウマチ(RA)の患者で、シトルリン化タンパク質抗原(ACPA)、ホモシトルリン化タンパク質抗原(抗CarP)、及びアセチル化リシンタンパク質抗原(AAPA)などの翻訳後修飾に結合し得る抗体(AMPA)が発見されている。こうした抗体は病因に関与している。RAで増加する別の翻訳後修飾として、マロンジアルデヒド-アセトアルデヒド付加物(MAA付加物)形成が挙げられる。この修飾は、ACPAに関連する抗体応答をまねく(Thiele等、2015:Arthritis Rheumatol Vol 67(3):645-655:doi 10.1002/art.38969)。RAなどの自己免疫疾患の発症に関与するさまざまな翻訳後修飾がTrouw等(2017、Nature reviews Rheumatology、doi:10.1058/nrrheum.2017.15)でレビューされている。最近、本発明の発明者等は、RA患者から単離したACPAが広範にFabグリコシル化されているという興味深い観察結果を得た。ACPAはRAに高度に特異的であり、それらの存在は疾患重症度に関連し且つ危険性のある対象でのRAの発症を予測する(Scott 2010;Willemze,A.等、「New biomarkers in Rheumatoid Arthritis」、Neth J Med 70.9(2012):392-9)。IgG分子上のFab糖鎖が正常免疫応答で特定の機能を調節できるか否かは未知だが、これらの存在がインビボでの抗体の半減期に加えてエピトープ認識に影響し得ることを支持する証拠が得られている(Goletz 2012、Co 1993、Leibiger 1999)。
【0005】
N結合型グリコシル化を経るために、タンパク質はN結合型グリコシル化コンセンサス配列(典型的には、N-X-S/T、但し、X≠P、ここで、N=アスパラギン、S=セリン、T=トレオニン、P=プロリン、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸、式中のS/Tは当該位置がS又はTであることを意味し、ときに、C(システイン)がS/Tの位置にあることもある)を有する必要がある。重要なことだが、発明者等は、以前、ACPA-IgGでのN結合型グリコシル化コンセンサス部位が、生殖細胞系にコードされておらず、体細胞超変異中に導入されることを示した(Rombouts 2015)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明において、発明者等は、関節リウマチ、シェーグレン症候群、及びAAVに関連する自己抗体(関節リウマチでの、ACPA、抗CarP、抗MAA付加物抗体、及びAAPA抗体などのAMPA抗体)のFabドメイン内のN結合型糖鎖の構造を同定した。また、発明者等は、関節炎の臨床的兆候をまだ示していないACPA陽性個体(即ち、『危険性のある個体』)のACPA-IgG分子が、RA罹患患者でのACPA-IgGと比べ、Fabグリコシル化の程度が低いという観察結果を得た。そこで、ACPAのFab糖鎖の出現、及び/又は、ACPAのFabグリコシル化の程度は、前臨床相から臨床的に明白な関節炎の発症への遷移の目印となる。そこで、適切なバイオアッセイによるACPAのFab糖鎖の検出は、この遷移を同定し、疾患の発症を予防又は遅延するための治療戦略をガイドするために、用いることができる。以上は、シェーグレン症候群及びAAVに関連する自己抗体についても当てはまる。シェーグレン症候群及びAAVの臨床的兆候をまだ示していない自己抗体陽性個体(即ち、当該疾患を発症する『危険性のある個体』)の自己抗体は、シェーグレン症候群及び/又はAAV罹患患者での自己抗体と比べ、Fabグリコシル化の程度が低い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態では、サンプリング時に、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又は抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)を有しない個体が前述の疾患を発症する危険性があるか否かを判定する方法であって、前記方法は、前記個体の抗体含有サンプルが前記疾患に関連する自己抗体を含むか否かを判定すること、及び、前記抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含むか否かを判定することを備え、前記方法は、前述の判定に基づき前記個体が前記疾患を発症する危険性を判定することをさらに備える、方法が提供される。
【0008】
また、個体の抗体含有サンプルを分析する方法であって、前記方法は、前記サンプルが、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVに関連する自己抗体であって、当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含む自己抗体を含むか否かを判定することを備え、前記方法は、前記サンプルが、サンプリング時に、関節リウマチの症状、シェーグレン症候群の症状、又はAAVの症状を有しない個体のサンプルであることを特徴とする、方法も提供される。
【0009】
さらに、個体での、関節リウマチの症状、シェーグレン症候群の症状、又はAAVの症状の発症を予防又は遅延する方法であって、
前記方法は、
前記個体のサンプルが、前述の疾患に関連する自己抗体を含有するか否かを判定すること、及び、
前記抗体が、N結合型グリコシル化Fab部分を有するか否かを判定すること、
を備え、
前記サンプルは、前記個体の抗体含有サンプルであり、前記個体は、サンプリング時に、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVを有さず、及び、
前記方法は、
前記個体が前記疾患を示し始める前に又は示し始めた時に、前記疾患用の薬剤で前記個体を治療すること、
を備える、方法も提供される。
【0010】
また、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVを発症する危険性のある個体を監視する方法であって、前記方法は、個体の定期的抗体含有サンプルにおいて前述の疾患に関連する自己抗体の存在及び/又は発現を監視することを備え、前記方法は、前記疾患に関連する検出自己抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型糖鎖を含むか否かを判定することをさらに含むことを特徴とする、方法も提供される。
【0011】
また、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAV薬剤であって、前述の疾患の1つ以上の発症の危険性のある個体の治療方法に使用するためのものであり、前記個体は、当該個体の抗体含有サンプルにおける、Fab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含んでいる前記疾患に関連する自己抗体の検出により、危険性を判定される、薬剤も提供される。ある実施形態では、前記個体は、前記薬剤投与時に前記疾患を有しない。
【0012】
また、抗体サンプルが、抗修飾タンパク質抗体(AMPA)を、好ましくは、シトルリン、ホモシトルリン、及び/又はアセチル化リシンに結合するAMPAを含むか否かを判定する方法であって、
修飾タンパク質エピトープを、好ましくは、シトルリン、ホモシトルリン、又はアセチル化リシンを含む修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質に前記サンプルの抗体を接触させること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子に前記サンプルの抗体を接触させること、及び、
Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗体が前記ペプチド又はタンパク質内の前記修飾タンパク質エピトープに、好ましくは、シトルリン、ホモシトルリン、又はアセチル化リシンを含む前記修飾タンパク質エピトープに結合したか否かを判定すること、
を含む、方法も提供される。
【0013】
さらに、サンプル中での、AMPAの、好ましくは、ACPA抗体、抗CarP抗体、及び/又はAAPA抗体の検出に有用なパーツのキットであって、前記キットは、翻訳後修飾エピトープを、好ましくは、シトルリン化エピトープ、ホモシトルリン化エピトープ、及び/又はアセチル化リシンエピトープを有するペプチド又はタンパク質と、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とを含む、キットも提供される。
【0014】
さらに、サンプル中での、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVに関連する自己抗体、AMPAなど、の検出に有用なパーツのキットであって、前記キットは、前記自己抗体に結合し得るペプチド又はタンパク質、翻訳後修飾を含むペプチド又はタンパク質など、と、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とを含む、キットも提供される。
【0015】
また、一実施形態では、個体の抗体含有サンプルを分析する方法であって、前記方法は、前記サンプルが、Fab部分の1箇所以上にN結合型糖鎖を含むAMPA(好ましくは、ACPA抗体、抗CarP抗体、及び/又はAAPA抗体)を含むか否かを判定すること、を備え、前記方法は、前記サンプルが、サンプリング時に関節リウマチの兆候又は症状を有しない個体のサンプルであることを特徴とする、方法も提供される。
【0016】
また、サンプリング時に関節リウマチを有しない個体が関節リウマチを発症する危険性があるか否かを判定する方法であって、前記個体の抗体含有サンプルが、抗修飾タンパク質抗体(AMPA)を、好ましくは、ACPA抗体、抗CarP抗体、及び/又はAAPA抗体を含むか否かを判定すること、及び、前記抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型糖鎖を含むか否かを判定することを備え、前記方法は、前述の判定に基づき前記個体が前記関節リウマチを発症する危険性を判定することをさらに備える、方法も提供される。
【0017】
サンプリング時に関節リウマチを有しない個体は、好ましくは、AMPAの、好ましくは、ACPA、抗CarP、及び/又はAAPAの陽性個体であり、好ましくは、臨床的に及び/又はX線写真で検出可能な関節炎の兆候なく関節痛を有する個体であり、又は、無症候性の個体であり、ここで、ACPA、抗CarP、及び/又はAAPAの血清学は、偶発的発見として又はスクリーニング検査の一部として検出される。個体は、好ましくは、慢性関節炎症状を有しない。
【0018】
さらに、関節リウマチ症状又はその発症について個体を治療する方法であって、前記方法は、
サンプルが、N結合型グリコシル化Fab部分を有するAMPAを、好ましくは、ACPA抗体、抗CarP抗体、及び/又はAAPA抗体を含有するか否かを判定すること(但し、前記サンプルは、前記個体の抗体含有サンプルであり、前記個体は、サンプリング時に関節リウマチを有さず)、及び、
前記個体が関節リウマチ症状を示し始める前又は示し始めた時に、好ましくは、関節リウマチ薬剤又は他の標的型介入で、前記個体を治療すること、
を備える、方法も提供される。
前記治療は、慢性関節炎の発症及び/又は関節リウマチ症状の発症を、予防する又は少なくとも遅らせる。また、前記治療は、慢性関節炎及び/又は関節リウマチ症状の重症度を減少させてもよい。
【0019】
また、関節リウマチ症状又はその発症について個体を治療する方法であって、前記方法は、
サンプルが、AMPAを、好ましくは、AAPA抗体、ACPA抗体、及び/又は抗CarP抗体を含有するか否かを判定すること、及び、
前記抗体が、N結合型グリコシル化Fab部分を有するか否かを判定すること、
を備え、
前記サンプルは、前記個体の抗体含有サンプルであり、前記個体は、サンプリング時に、関節リウマチを有さず、及び、
前記方法は、
前記個体が関節リウマチ症状を示し始める前又は示し始めた時に、関節リウマチ薬剤で前記個体を治療すること、
を備える、方法も提供される。
【0020】
また、関節炎を発症する危険性のある個体を監視する方法であって、前記方法は、前記個体の定期的抗体含有サンプルにおいて、AMPAの、好ましくは、ACPA抗体、抗CarP抗体、及び/又はAAPA抗体の存在及び/又は発現を監視することを備え、前記方法は、検出された、AMPAが、好ましくは、ACPA抗体、抗CarP抗体、及び/又はAAPA抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型糖鎖を含むか否かを判定することをさらに含むことを特徴とする、方法も提供される。
【0021】
さらに、個体の治療方法に使用するための薬剤、好ましくは、関節炎薬剤、であって、当該方法は、前記個体の抗体含有サンプルにおけるFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含んでいるAMPAの、好ましくは、AAPA抗体、ACPA抗体、及び/又は抗CarP抗体の存在を検出すること、及び、前記抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含んでいるAMPAが検出された場合に前記個体を治療すること、を備える、薬剤も提供される。
【0022】
さらに、個体が、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVに関連する自己抗体を含むか否かを判定する方法であって、前記方法は、
前記自己抗体に結合し得るペプチド又はタンパク質に前記個体のサンプルを含むB細胞を接触させることと、
前記ペプチド又はタンパク質に結合したB細胞を未結合B細胞から分離すること、
結合B細胞のB細胞受容体又は抗体の、重鎖可変領域若しくはその一部及び/又は軽鎖可変領域若しくはその一部をコードする核酸をシーケンシングすること、及び、
前記核酸配列がN結合型グリコシル化コンセンサスアミノ酸配列をコードしているか否かを判定すること、
を含む、方法も提供される。
【0023】
さらに、個体が、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗修飾タンパク質抗体(AMPA)を含むか否かを判定する方法であって、前記方法は、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質に前記個体のサンプルを含むB細胞を接触させることと、
前記ペプチド又はタンパク質に結合したB細胞を未結合B細胞から分離すること、
結合B細胞のB細胞受容体又は抗体の、重鎖可変領域若しくはその一部及び/又は軽鎖可変領域若しくはその一部をコードする核酸をシーケンシングすること、及び、
決定された核酸配列がN結合型グリコシル化コンセンサスアミノ酸配列をコードしているか否かを判定すること、
を含む、方法も提供される。
【0024】
可変領域の一部は、どの部分でもよく、限定されるわけではないが、FR1、FR2、FR3、又はFR4などのフレームワーク領域でもよい。また、可変領域の一部は、CDR1、CDR2、又はCDR3などの相補性決定領域(CDR)でもよい。重鎖の可変領域の一部は、好ましくは、当該可変領域のCDRであり、好ましくは、CDR1であり、好ましくは、CDR1及びCDR2であり、好ましくは、すべてのCDRである。軽鎖の可変領域の一部は、好ましくは、当該可変領域のCDRであり、好ましくは、CDR1であり、好ましくは、CDR1及びCDR2であり、好ましくは、すべてのCDRである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】全IgG(上)及びACPA IgG(下)でみられる糖鎖の典型的なプロファイルを示す。IgG及びACPAは同じ患者から単離された。糖鎖は遊離後にHPLCにより分析された。ACPAのF(ab)断片は、高度にシアル化された二分岐型N結合型糖鎖を含有する(紫の菱形=シアル酸)。
【
図2A】ACPA+RA患者及び彼らの健常ACPA+第一度近親者(健常近親者)由来の血清サンプルをACPA上のF(ab)糖鎖の存在について分析した。ACPA上のF(ab)糖鎖の頻度は、RA患者由来ACPAに比べて健常提供者由来ACPAで顕著に低かった。
【
図2B】RA診断前のACPA-IgGのFabグリコシル化の百分率の予測値を示す。RA患者のACPA陽性健常第一度近親者26名を経時的に追跡した。各丸は、関節リウマチの疾患発症まで追跡された(RA:黒丸)又はRA発症なく同程度の期間にわたり追跡された(HC、健常対照群:白丸)1個体のACPAのFabグリコシル化のメジアンを表す。これら26名の追跡個体のうち、46%が時間経過に伴いRAを発症した。一般的なIgGのFabグリコシル化の百分率は15~25%である。IgG-Fabグリコシル化が55%を超えると『異常』と考えられる。研究期間終了時にRAを発症していた健常個体は、RAを発症しなかった個体に比べて、RA診断前のFabグリコシル化の百分率が高かった。
【
図3A】アプローチA(方法2)を示す。SNA、Fab糖鎖構造上でみつかったα-2,6-結合シアル酸に特異的に結合するレクチンが、RA患者の血清から精製されたACPAに結合する。本図に示す方法では、まず、ACPA陽性及びACPA陰性RA患者(上)の血清からCCP2コートビーズでACPAを捕捉した。次に、ACPA陽性溶出物を抗ヒトIgGでコート済みのELISAプレートに添加した。次の工程で、ビオチン化SNAを結合ACPA-IgGに添加し、ACPAのFabグリコシル化の水準を分析した(下)。各ウェルに存在するACPA量の対照として、全IgG ELISAを行った(データ示さず)。
【
図3B】グリコシル化ACPA-Fab/全ACPA-IgGの割合(方法については、
図3A参照)は、ACPA陽性患者由来のACPA上のFab結合糖鎖の数が多いことを示すが、一方、ACPA陰性患者由来のCCPコート溶出物は、SNA結合を示さなかった。
【
図3C】
図3A(下)に示す発明者等のELISAでのSNAがFabグリコシル化抗体に特異的に結合することを証明するために、市販のIVIg(Sanquin製)を用いた。IVIgをSNAコートビーズとともにインキュベートし、フォロースルー(FT1)又は溶出物1(E1:PBS及びラクトースにより溶出)又は溶出物2(E2:ラクトース酢酸溶液により溶出、Fabグリコシル化抗体を含有すると考えられる)を抗ヒトIgGでコート済みのELISAプレート上に添加した。IgG上のFabグリコシル化の水準を、異なる画分へのSNA結合により求めた(
図3A下に示すELISA法)。実際に、Fabグリコシル化抗体を含有する画分へのSNA結合が最も高値であった。画分を用いた追加のHPLC分析は発明者等の発見を裏付けるものであった。
【
図4A1】アプローチB(方法3)を示す。まず、シアル化抗体を捕捉し、次に、ACPA富化の検出を行う。ACPA-IgGのFabグリコシル化を評価するための方法では、プロテインGを用い、続いて、SNAアガロースビーズを用いる。
【
図4A2】ACPA陽性RA患者の血清サンプルのセットでのFabグリコシル化ACPAの富化を示す。
【
図4B】ACPA及び抗CarP抗体をSNAにより捕捉した。IgGをACPA抗体陽性RA患者及び抗CarP抗体陽性RA患者の血清からプロテインGビーズにより単離した。SNAアガロースビーズにより、SNA結合IgG抗体を単離し、SNA結合(溶出液)及び非SNA結合(フロースルー)画分(
図4A1)を得た。SNA+画分(
図4A1の溶出液)又はSNA陰性画分(
図4A1のフロースルー)を、CCP2でコート済みのELISAプレート(左:ACPA検出用)又はカルバミル化FCSでコート済みのELISAプレート(右:抗CarP抗体検出用)のいずれかに添加し、IgG結合を分析した。実際に、SNA+画分はACPA抗体及び抗CarP抗体を含有しており、このことは、Fabグリコシル化が、一般的なIgGに比べて、ACPA抗体及び抗CarP抗体で上昇していることを示唆する。
【
図5】正常抗体に対する(即ち、(ホモ)シトルリン化タンパク質(この場合は、抗破傷風毒素)に対するのではない)ACPA抗体及び抗カルバミル化タンパク質抗体のサイズシフトを示す。
【
図9】ACPA-IgG及びIgGの精製及び分析の模式図を示す。1)ACPAを、CCP2(環状シトルリン化ペプチド)(CCP Cit)又はアルギニン対照(CCP-Arg)上でのアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、その後、プロテインG(Prot G)及びプロテインA(Prot A)捕捉により、(ACPA枯渇)非シトルリン特異的IgG
1,2,4とともにACPA IgG
1,2,4を得た。2)(ACPA)-IgG F(ab’)2断片を、Idesで精製抗体を消化することで生成した。得られたFc部分を抗Fc抗体を用いて精製し、一方、F(ab’)2断片を抗CH1ドメイン抗体を用いて単離した。3)抗体及び断片のN糖鎖を、2-アミノ安息香酸(2AA)で標識し、UHPLC及びMALDI-TOF-MSで分析した。ただし、糖ペプチドはLC-MSで分析した。
【
図10A】
図10は、RA患者から単離したACPA-IgG及びIgG由来の重鎖(HC)及び軽鎖(LC)のグリコシル化を示す。本図は、還元条件下でのACPA-IgG及びIgGのSDS-PAGEを示す。1つのHC及び1つのLCを示すNCS-IgGと比べて、ACPA-IgGはN結合型グリコシル化により複数のHC(HC1からHC3)及びLCバンド(LCからLC2)を示した。
【
図10B】
図10は、RA患者から単離したACPA-IgG及びIgG由来の重鎖(HC)及び軽鎖(LC)のグリコシル化を示す。本図は、異なる電気泳動バンドから抽出したN糖鎖のUHPLCクロマトグラムを示す。
【
図11A】
図11は、ACPA-IgGが、Fabグリコシル化と比べると、Fcでは異なったやり方でグリコシル化されていることを示す。本図は、代表的提供者から精製したACPA-IgGのFc断片のMALDI-TOFスペクトルを示す。
【
図11B】
図11は、ACPA-IgGが、Fabグリコシル化と比べると、Fcでは異なったやり方でグリコシル化されていることを示す。本図は、代表的提供者から精製したACPA-IgGのF(ab’)2断片のMALDI-TOFスペクトルを示す。
【
図12A】
図12は、Fab結合グリコシル化パターンがRA患者から単離したACPA-IgGと非シトルリン特異的IgGとの間で異なることを示す。本図は、代表的RA患者のACPA-IgG及びIgGのF(ab’)2糖鎖のUHPLCクロマトグラムを示す。
【
図12B】
図12は、Fab結合グリコシル化パターンがRA患者から単離したACPA-IgGと非シトルリン特異的IgGとの間で異なることを示す。本図は、ガラクトシル化、シアル化、フコシル化の相対量で示したACPA-IgG及びIgGのFabグリコシル化の糖鎖由来特性の違いを示す。
【
図13A】
図13は、ACPA-IgGが非シトルリン特異的IgGに比べて高度にFabグリコシル化されていることを示す。本図は、ACPA-IgG及びIgGのMALDI-TOF-MSスペクトルを示す。
【
図13B】
図13は、ACPA-IgGが非シトルリン特異的IgGに比べて高度にFabグリコシル化されていることを示す。本図は、UHPLC及びLC-MSデータに由来するACPA-IgG及びIgGのFabグリコシル化水準の比較を示す。
【
図13C】
図13は、ACPA-IgGが非シトルリン特異的IgGに比べて高度にFabグリコシル化されていることを示す。本図は、滑液(n=3)及び血漿(n=6)由来のACPA-IgG又は非シトルリン特異的IgGのFabグリコシル化の比較を示す。
【
図14】露出したN結合型グリコシル化コンセンサス部位(強調及び下線で示す)を含むVH又はVL領域のアミノ酸配列を示す。
【
図15】さまざまな抗原及び抗体調製物を用いたElisaの結果を示す。
【
図16】ヒトアルブミンはシトルリン化及びカルバミル化などの翻訳後修飾の影響を受けやすい。本図は、ヒトアルブミンタンパク質(UniprotデータベースのアクセッションコードQ56G89)の配列を示す。
【
図17】ヒトα-1-抗トリプシンはカルバミル化などの翻訳後修飾の影響を受けやすい。本図は、ヒトα-1-抗トリプシン(NCBIデータベースのアクセッションコードAAB59375.1)の配列を示す。
【
図18A】
図18は、自己抗体FabのNグリコシル化の結果として生じるサイズシフトを示す。この自己抗体は、PR3-ANCA抗体であり、これらは、AAVと相関している。本図は、ある患者の全IgG及びPR3-ANCA抗体のHPLCサイズ分画画分を示している。これらの抗体は血管炎(AAV)に関連する体(ANCA)に関与している。
【
図18B】
図18は、自己抗体FabのNグリコシル化の結果として生じるサイズシフトを示す。この自己抗体は、PR3-ANCA抗体であり、これらは、AAVと相関している。本図は、別の患者の全IgG及びPR3-ANCA抗体のHPLCサイズ分画画分を示している。これらの抗体は血管炎(AAV)に関連する体(ANCA)に関与している。
【
図19A】
図19は、健常個体から得たBCR配列での部位と比較したACPAのBCR配列でのNグリコシル化部位の局在を示す。本図は、IgG重鎖を示す。
【
図19B】
図19は、健常個体から得たBCR配列での部位と比較したACPAのBCR配列でのNグリコシル化部位の局在を示す。本図は、Igκ軽鎖を示す。
【
図19C】
図19は、健常個体から得たBCR配列での部位と比較したACPAのBCR配列でのNグリコシル化部位の局在を示す。本図は、Igλ軽鎖を示す。
【
図20】SNAの代わりにCD22を用いてACPAのFab糖鎖を検出したことを示す。RA患者から単離したACPA-IgG及びIgGのF(ab’)2断片をゲルに当量ずつ載せた(左)。次に、ACPA-IgG及びIgGのF(ab’)2断片を載せた場所でSDS-PAGEを行い、その後、膜上にブロットした。この膜をCD22-Fcとともにインキュベートした後、標識抗ヒトFcで染色した(右)。ACPA-IgGについてのみ反応性がみられ、この反応性はシアリダーゼでシアル酸を除去すると失われた。
【
図21A】
図21は、ACPA-Fabグリコシル化とRA発症との相関関係を示す。時間がたちRAを発症したACPA+北アメリカ原住集団第一度近親者(FDR)(FDR RA)及びこれまでのところRAを発症しなかったACPA+FDR(FDR HC)でのACPA-IgGのFabグリコシル化を分析した。本図は、FDR HCがACPA-IgGのFabグリコシル化の正常水準を維持する一方で、FDR RA個体がより高度なACPA-IgGのFabグリコシル化を有することを示す。
【
図21B】
図21は、ACPA-Fabグリコシル化とRA発症との相関関係を示す。時間がたちRAを発症したACPA+北アメリカ原住集団第一度近親者(FDR)(FDR RA)及びこれまでのところRAを発症しなかったACPA+FDR(FDR HC)でのACPA-IgGのFabグリコシル化を分析した。本図は、疾患発症以前にACPA-IgGのFabグリコシル化がすでに高いことを示す。
【
図21C】
図21は、ACPA-Fabグリコシル化とRA発症との相関関係を示す。時間がたちRAを発症したACPA+北アメリカ原住集団第一度近親者(FDR)(FDR RA)及びこれまでのところRAを発症しなかったACPA+FDR(FDR HC)でのACPA-IgGのFabグリコシル化を分析した。本図は、FDR HCのACPA-IgGのFabグリコシル化が時間を経ても低いままであることを示す。
【
図22】精製ACPA-IgGのハイエンドUHPL及び質量分析を示す。
【
図23】IVIGを
図4に詳述した構成を用いて分画し、その後、全IgG分子(上のグラフ)及びIgGのFab断片(下のグラフ)のUPLC分析を行った。データから、SNA精製が高度シアル化Fab断片を含有するIgG分子を富化し(それぞれのグラフの一番上の線)、一方、これらの断片がSNAフロースルー画分では欠如している(それぞれのグラフの一番下の線)ことが示される。IVIGが約15%のFabグリコシル化IgG分子を含有する(それぞれのグラフの真ん中の線)ことに注意されたい。
【
図24A】
図24は、UHPLC、LC-MS、及びMALDI-TOF-MS-MSを用いたACPA-IgG上の三分岐糖鎖の同定を示す。本図は、ACPA-IgGの遊離糖鎖及び2AA標識糖鎖のUHPLCクロマトグラムを示す。ここで、糖鎖ピークは既報のGP24糖鎖ピークの後に溶出した。GPxを集め、LC-MSを行い、このピーク画分に存在する質量を調べた。このピークがN5H6F1S2の質量を有する糖鎖に対応すること明らかとなった。
【
図24B】
図24は、UHPLC、LC-MS、及びMALDI-TOF-MS-MSを用いたACPA-IgG上の三分岐糖鎖の同定を示す。本図は、MALDI-TOF-MS-MSによる構造の立体配座を示す。質量2812.792がN5H6F1S2の糖鎖質量に対応しており、断片化により、2つの2.6結合シアル酸を有する三分岐糖鎖が確認された。
【発明を実施するための形態】
【0026】
個体はヒト個体であることが好ましい。
【0027】
自己免疫疾患は、正常身体部位への異常免疫応答から生じる状態である。自己免疫疾患は、心臓、脳、神経、筋肉、皮膚、目、関節、肺、腎臓、腺、消化管、及び血管をはじめとする身体のほとんどすべての部位に影響し得る。少なくとも80種類の自己免疫疾患が存在する。ほとんど全ての身体部位が関与し得る。共通症状として、微熱及び倦怠感が挙げられる。しばしば、症状は現れてはすぐ消える。
【0028】
全身性エリテマトーデスなどの一部の自己免疫疾患は家族内発症し、いくつかは感染症又は他の環境要因により誘発されることもある。自己免疫性であると一般的に考えられている一部の一般病としては、セリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、及び全身性エリテマトーデスが挙げられる。
【0029】
治療は状態の種類及び重症度に依存する。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)及び免疫抑制剤がしばしば用いられる。また、免疫グロブリン療法がときおり用いられることもある。治療は、通常症状を改善するものの、典型的には疾患を治せない。
【0030】
一実施形態では、サンプリング時に特定自己免疫疾患を有しない個体が当該特定自己免疫疾患を発症する危険性があるか否かを判定する方法であって、前記方法は、前記個体の抗体含有サンプルが前記特定自己免疫疾患に関連する自己抗体を含むか否かを判定すること、及び、前記抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含むか否かを判定することを備え、前記方法は、前述の判定に基づき前記個体が前記特定自己免疫疾患を発症する危険性を判定することをさらに備える、方法が提供される。
【0031】
個体が特定自己免疫疾患を発症する危険性は、特定自己免疫疾患に関連する自己抗体が検出され且つこの抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含む場合に、高い。Fab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含む自己抗体の割合が高くなるほど、この危険性も高くなる。
【0032】
一実施形態では、個体の抗体含有サンプルを分析する方法であって、前記方法は、前記サンプルが、特定自己免疫疾患に関連する自己抗体であって、当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含む自己抗体を含むか否かを判定することを備え、前記方法は、前記サンプルが、サンプリング時に前記特定自己免疫疾患の症状を有しない個体のサンプルであることを特徴とする、方法が提供される。
【0033】
また、特定自己免疫疾患症状又はその発症について個体を治療する方法であって、前記方法は、
サンプルが、前記特定自己免疫疾患に関連する自己抗体を含有するか否かを判定すること、及び、
前記抗体が、N結合型グリコシル化Fab部分を有するか否かを判定すること、
を備え、
前記サンプルは、前記個体の抗体含有サンプルであり、前記個体は、サンプリング時に、前記自己免疫疾患を有さず、及び、
前記方法は、
前記個体が前記特定自己免疫疾患症状を示し始める前又は示し始めた時に、前記自己免疫疾患治療用薬剤で前記個体を治療すること、
を備える、方法も提供される。
【0034】
さらに、特定自己免疫疾患を発症する危険性のある個体を監視する方法であって、前記方法は、前記個体の定期的抗体含有サンプルにおいて前記特定自己免疫疾患に関連する自己抗体の存在及び/又は発現を監視することを備え、前記方法は、前記自己抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型糖鎖を含むか否かを判定することをさらに含むことを特徴とする、方法も提供される。
【0035】
また、個体の治療方法に使用するための薬剤であって、当該方法は、前記個体の抗体含有サンプルにおけるFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含んでいる特定自己免疫疾患に関連する自己抗体の存在を判定すること、及び、前記抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含んでいる前記特定自己免疫疾患に関連する前記自己抗体が検出された場合に前記個体を治療すること、を備える、薬剤も提供される。
【0036】
一実施形態では、自己免疫疾患は、シェーグレン症候群、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)、及び関節炎の1つ以上である。関節炎は、関節リウマチであることが好ましい。シェーグレン症候群は、数々の他の医学的状態と関連しており、この状態の多くは、自己免疫性又はリウマチ性障害、例えば、セリアック病、SLE(ループス)、自己免疫性甲状腺炎、多発性硬化症、及び脊椎関節症などである。また、シェーグレン症候群は、非ホジキンリンパ腫とも関連している。本発明の文脈では、シェーグレン症候群を参照する場合、一次性シェーグレン症候群のみを指す。シェーグレン症候群への特異性を有する典型的な自己抗体は、SS-A及びSS-Bである。一次性シェーグレン症候群を参照するとき、さまざまな自己免疫疾患に関連する二次性シェーグレン症候群は除く。
【0037】
自己抗体は、個体自身のタンパク質の1つ以上に対する(自己抗原に対する)抗体である。自己抗体は、異なる自己抗原の数々に対するものであり得る。自己抗体は、表示した特異性を有する自己抗体が自己免疫疾患を有する個体で検出される頻度が正常/健常集団での頻度よりも有意に高い場合、自己免疫疾患に関連するといえる。シェーグレン症候群では、自己抗体は、典型的には、SS-A又はSS-Bの抗体(抗Ro/Laとも呼ぶ)である。抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)は、好中球の異常浸潤、血管周囲組織でのスカベンジされていない白血球崩壊の集積、及び血管壁のフィブリノイド壊死を特徴とする自己免疫疾患のグループである。AAVを有する患者は高頻度で半月形糸球体腎炎により引き起こされた急速進行性腎不全を呈する。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)及びプロテイナーゼ3(PR3)が2種の主要ANCA抗原であることが示されている。AAVでの自己抗体は、典型的には、これらのタンパク質の一方又は両方に対するものである。リソソーム関連膜タンパク質2(LAMP-2)自己抗体は、追加ANCA亜型を表す。RAでは、自己抗体は、典型的には、AMPA又はリウマチ因子である。
【0038】
シェーグレン症候群は、身体の水分産生腺が影響を受ける長期自己免疫疾患である。これは、主に、口渇及びドライアイの発症をまねく。他の症状としては、乾燥肌、慢性咳、膣乾燥、腕及び脚の痺れ、疲労、筋肉及び関節の痛み、甲状腺機能障害を挙げることができる。罹患者はリンパ腫の危険性が増加する(5%)。シェーグレン症候群の診断は、臨床症状、分泌腺機能検査の測定結果、水分産生腺の生検、及び特定抗体を探すための血液検査を組み合わせて行われる。生検では典型的には腺内にリンパ球がある。
【0039】
血管炎は、炎症により血管を破壊する障害のグループである。動脈及び静脈の両方が影響を受ける。ときとしてリンパ管炎も血管炎の一種と考えられる。血管炎は、主に、白血球遊走及びその結果として生じる損傷により引き起こされる。ANCA関連血管炎は、好中性顆粒球由来の抗原に対する自己抗体に関連する血管炎亜型である。こうした抗好中球細胞質抗体はANCAとも呼ばれる。
【0040】
関節炎は、自己免疫疾患のより一般的な形態である。100を超える形態の関節炎が存在する。最も一般的な形態は、骨関節炎(変形性関節症)である。骨関節炎は、さまざまな原因を有するが、容易に同定できない原因もある。後者は、しばしば、集合的に、年齢関連骨関節炎と呼ばれる。他の関節炎形態としては、例えば、関節リウマチ、乾癬性関節炎、及び関連自己免疫疾患が挙げられる。
【0041】
関節炎を有する個体の主訴は関節の痛みである。痛みは、しばしば持続性であり、影響を受けた関節に局在することもある。関節炎による痛みは、しばしば、関節に誘導された損傷の結果又は関節内又は周辺で生じた炎症の結果である。他の訴えとしては、強張りに抗い無理やり動かすことで引き起こされた筋肉緊張の結果として生じる痛み、痛む関節、及び疲労が挙げられる。関節リウマチは、治療せずに放置すると、消耗し進行する疾患である。RAの疾患症状及び治療は、Scott等(2010、 The lancet 376、1094-1108頁)に詳述されている。当該刊行物の内容を参照により本明細書で援用する。本発明は、特に、RA症状及びRA薬剤の記載について、この刊行物を参照する。このレビューは広範ではあるが、記載の症状及び薬剤は限定事項として読むべきではない。ここで、非限定的な症状の一覧の要約を以下に示す。関節リウマチは関節に影響する。関節の関節炎は、滑膜の炎症を伴う。関節は、腫れ、弱まり、熱くなり、また、その動きが強張りにより制限される。最も一般的に関連するのは手、足の小関節だが、より大きな関節(肩、膝、及び頚椎など)も関連し得る。RAは、典型的には、炎症の兆候とともに、影響を受けた関節の腫れ、熱、痛み、強張りとともに、特に、早朝起床時又は以降の長引く不活動期に、現れる。早朝の強張りの増大は、しばしば、この疾患の顕著な特徴であり、典型的には、1時間を超えて持続する。病態の進行に伴い、炎症活性は、腱牽引、関節表面の浸食と破壊に繋がる。これにより、移動範囲を損ない、変形に繋がる。リウマチ結節は、ときとして皮膚にあるが、最も一般的な非関節的特徴である。これらは相当数の少数派の患者で生じる。これは病理学者に『壊死性肉芽腫』として知られる炎症応答の種類である。
【0042】
抗シトルリン化タンパク質抗体(ACPA)は自己抗体(個体自身のタンパク質への抗体)である。この抗体はシトルリン化されているペプチド及び/又はタンパク質に対するものである。これらは関節リウマチを有する患者の大部分に存在する。臨床的には、環状シトルリン化ペプチド(CCP)が、患者血清又は血漿でこれらの抗体を検出するために高頻度で用いられる。
【0043】
シトルリン化又は脱イミノ化は、タンパク質にあるアミノ酸アルギニンからアミノ酸シトルリンへの変換である。ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)と呼ばれる酵素が、一級ケチミン基(=NH)をケトン基(=O)で置換する。シトルリン化は正常個体での機能を実行する。しかし、免疫系が、シトルリン化タンパク質を攻撃することもでき、これは関節リウマチで特異的に起きる。
【0044】
シトルリンは、遺伝暗号においてDNAによりコードされる20種の標準的なアミノ酸の一つではない。むしろ、シトルリンは、翻訳後修飾の結果である。シトルリン化は、尿素サイクルの一部としての又は一酸化窒素合成酵素ファミリーの酵素の副産物としての遊離アミノ酸シトルリンの形成とは明確に異なる。
【0045】
アルギニンは、中性pHでは正に帯電しているが、シトルリンは、帯電していない。アルギニンからシトルリンへの反応では、アルギニン側鎖の末端窒素原子の一つが酸素に置換される。電荷の変化はタンパク質の疎水性を増加させ、タンパク質のフォールディングの変化に繋がる。そのため、シトルリン化はタンパク質の構造と機能を変化させ得る。フィブリン及びフィブリノーゲンは、リウマチ関節内でのアルギニン脱イミノ化の好適部位であるかもしれない。
【0046】
ACPA-IgGの存在の検査は、RA診断用IgMリウマチ因子と同程度に、感度が良い。こうしたACPAは臨床疾患発症前に検出可能である。ACPA検査はRAの診断スキームに現在のところルーチンとして含まれている。しかし、こうした抗体は、疾患発症前に数年にわたり存在し得ることを考慮すれば、それら自身から確定的とはいえない。
【0047】
ホモシトルリンは、シトルリンよりもメチレン基1つ分長く、構造は類似している。この代謝物はリシン残基から生成される。炎症中のカルバミル化の大部分は酵素MPOが好中球から放出されたときに生じると考えられている。ホモシトルリン化ペプチド及びタンパク質への自己抗体(抗CarP)はRAに関連している。また、抗CarP抗体は、症状が発症するかなり前の発症前個体でも検出され得る(Shi等、 Ann Rheum Dis.、2014、4月;73(4):780-3)。
【0048】
タンパク質の翻訳後修飾のうち個体によりそれらへの自己抗体が産生され得るものの例として、シトルリン化及びカルバミル化が挙げられる。個体が自己抗体を産生し得る別の翻訳後修飾として、リシンアセチル化も挙げられる(Juarez等、2015、Annals of the rheumatic diseases:annrheumdis-2014)。アセチル化は、タンパク質の、例えば、ヒストン、p53、及びチューブリンなどの翻訳後修飾として生じる。これらのタンパク質のなかで、クロマチンタンパク質及び代謝酵素が大いに代表となる。アセチル化はときとして共翻訳修飾とも呼ばれる。これは本発明では翻訳後修飾と呼ばれる。タンパク質はリシン残基上でアセチル化され得る。リシンアセチル化は少なくともある種のタンパク質では制御機能を有していると考えられる。リシンアセチル化はリシンの側鎖の末端を修飾する。リシンの側鎖は-NH2で終わるが、アセチル化リシンはNH=O-CH3で終わる。
【0049】
他種の翻訳後修飾として、これらに限定されるわけではないが、リン酸化、メチル化、ユビキチン化、グリコシル化、及び/又はSUMO化が挙げられる。本発明では、自己抗体により検出される翻訳後修飾は典型的にはグリコシル化ではない。好ましい翻訳後修飾として、シトルリン化、ホモシトルリン化、及びリシンアセチル化が挙げられる。翻訳後修飾を有するペプチド又はタンパク質は、修飾ペプチド若しくはタンパク質、又は、修飾エピトープを含むペプチド若しくはタンパク質とも呼ばれる。翻訳後修飾を含むエピトープに特異的に結合する抗体は抗修飾タンパク質抗体(AMPA)と呼ばれる。AMPAは、ペプチド又はタンパク質が翻訳後修飾を含む場合のみ、ペプチド又はタンパク質に結合する。こうした修飾エピトープは、修飾タンパク質エピトープとも呼ばれる。AMPAはペプチド又はタンパク質内の翻訳後修飾エピトープに結合することができる抗体である。AMPAは典型的にはグリコシル化エピトープに結合する抗体ではない。AMPAは、シトルリン、ホモシトルリン、及び/又はアセチル化リシンを含むエピトープに結合する抗体であることが好ましい。近年、RAでの自己免疫が、シトルリン化タンパク質を標的とし、タンパク質ホモシトルリン化(カルバミル化としても知られる)及びアセチル化などの他のタンパク質修飾にも及ぶことが明らかとなった(Shi等、Proc. Natl Acad Sci 2011:108:17372-17377;Juarez等、2016 Ann. Rheum. Dis 75:1099-1107)。別の態様では、AMPAはタンパク質上のMAA付加物に結合する抗体である。AMPAが結合し得る好ましいエピトープとしては、シトルリン、ホモシトルリン、アセチル化リシン残基、及び/又はマロンジアルデヒド-アセトアルデヒド付加物を含むエピトープが挙げられる。AMPAが結合し得る好ましいエピトープとしては、シトルリン、ホモシトルリン、及び/又はアセチル化リシン残基を含むエピトープが挙げられる。ペプチド又はタンパク質内の翻訳後修飾エピトープは、生成後に修飾される正常ペプチド又はタンパク質であってもよい。また、翻訳後修飾エピトープは、所望の側鎖を含む人工アミノ酸を用いてペプチド(又は望むならタンパク質)の人工合成中にペプチド又はタンパク質内に直接に導入されてもよい。
【0050】
本発明では、Fab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を有するAMPAの検出が、関節リウマチの発症とよく相関していることがわかった。AMPAは、ペプチド又はタンパク質内のシトルリン化又はホモシトルリン化及び/又はアセチル化リシンエピトープに結合し得る抗体であることが好ましい。この抗体は、ACPA抗体、抗CarP抗体、及び/又はAAPA抗体であることが好ましい。AAPA抗体、ACPA抗体、及び/又は抗CarP抗体の存在が疾患の発症の危険性の兆候であることが知られている。しかし、こうした抗体、特に、AAPA抗体、ACPA抗体、及び抗CarP抗体は、一般的に、RA発症前数年にわたり存在し得る。一方、こうした抗体のFab部分の1箇所以上のN結合型グリコシル化は、疾患の発症及び症状の発症をより正確に予測する。Fab部分の1箇所以上のN結合型グリコシル化を含むAMPAが血清中にみられる時期は、症状の出現及び疾患の発症を示す。同じ現象が、シェーグレン症候群又はAAVを発症する危険性のある個体でも見つかった。シェーグレン症候群、AAV、又はRAの症状を、例えば、RAの場合、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)などで、早期治療することが患者にとって有益であることが示されていることから、症状の出現の切迫度を知ることは有利である。また、発症前治療が長期的には個体にとって有益である可能性がある。RA症状は少なくとも遅延可能であり、及び/または、当該症状の重症度は、治療を受けていない又はRA症状発症後に治療を受けた患者の重症度と比べて、緩和され得る。また、ペプチド又はタンパク質内の翻訳後修飾エピトープに結合し得るFabグリコシル化抗体(AAPA抗体、ACPA抗体、及び/又は抗CarP抗体など)の出現前の病前治療が、RAの発症を予防するかもしれないという可能性もある。
【0051】
N結合型グリコシル化は、タンパク質のいくつかのアミノ酸モチーフで生じ得る翻訳後修飾である。血中で最初に見られるACPA抗体及び抗CarP抗体は、典型的には、当該抗体のFab部分に糖鎖を有しておらず、適切なコンセンサス配列を欠いている。N糖鎖は、一次構造での特定のコンセンサス配列(Asn-X-Ser、Asn-X-Thr、又は、稀だが、Asn-X-Cys、Xはプロリンではない可能性がある)内に位置するはずのアスパラギンに結合する。Asnは抗体の表面上に位置している必要があり、また、AsnはN結合型グリコシル化が開始するために小胞体の内腔側内にある必要がある。これらの条件を満たすモチーフはしばしば体細胞超変異による抗体成熟の際にのみ現れる。
【0052】
本発明は、個体が、Fab部分にN結合型グリコシル化を含む抗体を含むか否かを判定する方法であって、前記方法は、前記個体のB細胞を含むサンプル内で抗体VH及び/若しくはVL又はその一部をコードする核酸分子を増幅すること、及び、増幅核酸分子がN結合型グリコシル化コンセンサス部位であるアミノ酸配列をコードしているか否かを判定すること、を備える、方法を提供する。抗体のFab部分の三次元構造はよく知られている。また、抗体のFab部分のアミノ酸のどの部分が露出し翻訳後N結合型修飾にアクセス可能であるか(分子の外側に露出しているか)も知られている。上述の方法の好ましい実施形態では、増幅核酸分子がN結合型グリコシル化についてアクセス可能なコンセンサス部位をコードする配列を含んでいるか否かが判定される。好ましい実施形態では、B細胞は、ペプチド又はタンパク質内の翻訳後修飾エピトープに結合し得るB細胞受容体(BCR)を含むB細胞である。こうしたBCRの存在は、個体がAMPAを含むことを示す。こうしたB細胞は、B細胞の修飾タンパク質結合能に基づいてB細胞集団から精製できる。例えば、表面に修飾タンパク質エピトープを有するビーズにより行える。発明者等は、N結合型グリコシル化についてのアクセス可能なコンセンサス部位がVH又はVL領域にわたって無作為に分布しているわけではないことを発見した。こうしたコンセンサス部位は、重鎖及び軽鎖の両方で、FR1、FR2、FR3、又はFR4などのフレームワーク領域にクラスター化され得る。また、この部分は、CDR1、CDR2、又はCDR3などの相補性決定領域(CDR)であり得る。ある実施形態では、コンセンサス部位はCDR領域周辺にクラスター化され、ほとんどの場合、VH又はVLのCDR1領域又はCDR3領域内又は周辺にクラスター化され、典型的には、CDR1領域内又は周辺にクラスター化される。このため、少なくともVH CDR1の配列が、好適にはVH CDR1及びVL CDR1の配列が、決定されることが好ましく、さらに、少なくとも、VH CDR3の配列が、好適には、VH CDR3及びVL CDR3の配列が決定されることが好ましく、少なくとも、VH配列が、好適には、VH及びVL配列の両方が、決定されることが好ましい。一実施形態では、本発明は、個体がFab部分にN結合型グリコシル化を含むAMPAを含むか否かを判定する方法であって、前記方法は、前記個体由来のAMPAを含むB細胞受容体を有するB細胞を収集すること、前記AMPAのVH及び/若しくはVL又はその一部をコードする核酸分子を増幅すること、及び、増幅核酸分子がN結合型グリコシル化コンセンサス配列であるアミノ酸配列をコードするか否かを判定すること、を備える、方法を提供する。前記VH及び/又はVLタンパク質は、好ましくは、CDRコード配列であり、好ましくは、CDR1及び/又はCDR3コード配列である。抗シトルリン化タンパク質抗体IgG発現B細胞のB細胞受容体のシーケンシングの例としては、Vergoesen等 (2017)(Ann Rheum Dis.、Doi:10.1136/annrheumdis-2017-212052)を参照されたい。
【0053】
Fab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を有する、AMPA、好ましくは、AAPA抗体、ACPA抗体、又は抗CarP抗体の検出は、典型的には、個体がサンプル収集後直ぐに関節リウマチを発症することの前兆である。『免疫学的変換(immunological conversion)』の検出、即ち、抗体のFab部分にN結合型糖鎖を含むAMPAの出現の検出は、好ましくは、可能な限り早期に、好ましくは、有効な(そして理想的には予防的な)治療を開始できるのに十分な長さで、行われる。抗体のFab部分にN結合型糖鎖を有するAMPAの検出は、典型的には、個体からのサンプル収集からの限られた時間枠内で個体が関節リウマチを発症することの前兆である。
【0054】
一態様では、本発明は、AMPAのFab部分でのN結合型グリコシル化を確かめる新規の方法を提供する。この方法は、翻訳後修飾を含むエピトープを含むタンパク質又はペプチドにサンプルの抗体を接触させること、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子に前記サンプルの抗体を接触させること、及び、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗体が前記タンパク質/ペプチドに翻訳後修飾を有する前記エピトープに結合しているか否かを判定すること、を備える。
【0055】
翻訳後修飾を含むエピトープ(以下では、『修飾タンパク質エピトープ』という用語で呼ぶ)は、シトルリン化エピトープ、ホモシトルリン化エピトープ、及び/又はアセチル化リシンエピトープであることが好ましい。これらのエピトープへの抗体は、それぞれ、ACPA、抗CarP、及びAAPAと呼ばれる。ある実施形態では、翻訳後修飾は、MAA又はAA付加物である。マロンジアルデヒド(MDA)及びその分解産物であるアセトアルデヒド(AA)は、反応性の高いアルデヒドであり、両者がタンパク質を修飾してマロンジアルデヒド-アセトアルデヒド付加物(MAA付加物)という名のMDA-AAタンパク質付加物を生産することが示されている。MAA付加物は免疫原性が高い。
【0056】
本来、修飾はペプチド又はタンパク質の合成後又は合成中にペプチド又はタンパク質に導入され得る。後者の場合、修飾はリボソームにより既に合成されたタンパク質の一部に導入される。実験室では、新生アミノ酸鎖に修飾版のアミノ酸を取り込むことでも修飾を導入できる。実験室では、ペプチド又はタンパク質が修飾を含む人工アミノ酸の存在下で合成され、その結果、当該修飾が新生ペプチド又はタンパク質鎖に取り込まれることが好ましい。
【0057】
サンプルは、典型的には、血液サンプルであり、好ましくは、血清又は血漿サンプルである。こうしたサンプルは、典型的には、抗体含有サンプルである。他の抗体含有サンプルとしては、例えば、滑液及び唾液が挙げられる。シークエンシングのためには、サンプルが抗体を産生する細胞を含有することが好ましい。こうした実施形態では、サンプルがB細胞を含むサンプルであることが好ましい。B細胞受容体陽性B細胞は、B細胞の細胞表面上のB細胞受容体の一部として存在する又は分泌される抗体を含有する。B細胞受容体又はBCRは、B細胞の外表面上に位置する膜貫通受容体タンパク質である。受容体の結合モイエティは、膜結合抗体から構成され、当該抗体は、全ての抗体と同様に、独自であり無作為に決定された抗原結合部位を有する。BCR陽性細胞を有する抗体含有サンプルは、例えば、発現BCR又は発現抗体の可変領域をシークエンシングするために、例えば、可変領域がN結合型グリコシル化のためのコンセンサス配列を含むか否かを判定するために、用いることができる。B細胞含有サンプルは、例えば、滑液である。IgG抗体は体液の全てでみられる。これらは、ACPA抗体、ACPA抗体、及び抗CarP抗体の判定に最も一般的に用いられるアイソタイプであり、Fab部分のグリコシル化を判定するための適切な供給源を形成する。サンプルを本明細書で記載の検出方法で直に用いることもできるし、サンプルから抗体を精製した後に当該抗体を当該方法で用いることもできる。サンプルは、サンプリング時にRAを有しない個体のサンプルであることが好ましい。好ましくは、個体は、サンプリング時に、RA分類症状を、特に、関節炎を発現していない。
【0058】
サンプルがACPA又は抗CarP抗体を含むか否かを判定するために、さまざまな方法が利用可能である。多数の方法は、シトルリン化又はホモシトルリン化エピトープを含むタンパク質又はペプチドを用いる。ペプチドは、典型的には、6~50アミノ酸の間のペプチドである。好ましくは、当該ペプチドは、12から30アミノ酸の間のペプチドであり、より好ましくは、18から22アミノ酸の間のペプチドであり、最も好ましくは、約21アミノ酸のペプチドである。前述の範囲は、境界の数値を含む、即ち、12から30アミノ酸の範囲は12アミノ酸のペプチド及び30アミノ酸のペプチドを含む。ペプチドは、同程度の直鎖ペプチドの感受性及び/又は特異性に依存して、環状ペプチドであってもよいし、そうでなくてもよい。環状ペプチドは、環状性を生成するように任意の分子組成物内で生成することができる。タンパク質は、典型的には、30以上のアミノ酸を含む。典型的には、50以上のアミノ酸である。本発明の方法で用いることができるタンパク質の例として、図面に示すものが、即ち、フィブリノーゲンα(
図6)、フィブリノーゲンβ(
図7)、又はフィブリノーゲンγ(
図8)、ヒトアルブミン(
図16)、及びヒトα-1-抗トリプシン(
図17)が挙げられる。特に好ましいペプチドとして、CCP1及びCCP2、好ましくは、CCP2が挙げられる。本発明のキットは、CCP1及び/又はCCP2ペプチドを含むことが好ましい。
【0059】
好ましい実施形態では、本発明の方法で用いるためのペプチド又はタンパク質は、RAを有する患者で、シトルリン化、ホモシトルリン化、及び/又はアセチル化などの翻訳後修飾を受けることが知られているヒトタンパク質(の一部)である。好ましい実施形態では、ペプチドは、ヒトフィブリノーゲン由来のペプチドである。ペプチドは、フィブリノーゲンα(
図6)、フィブリノーゲンβ(
図7)、又はフィブリノーゲンγ(
図8)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在する、好ましくは、12から30アミノ酸の間の、より好ましくは、18から22アミノ酸の間の、最も好ましくは、約21アミノ酸の連続アミノ酸を含む。別の好ましい実施形態では、ペプチドは、ヒトアルブミン(
図16)又はヒトα-1-抗トリプシン(
図17)由来のペプチドである。ペプチド又はタンパク質は、翻訳後修飾を有するエピトープを含む。エピトープは、未修飾タンパク質に存在する少なくとも1つのリシン(抗CarP又はAAPA)又はアルギニン(ACPA)が、いまや、シトルリン、アセチル化リシン、又はホモシトルリンとなっているエピトープであることが好ましい。アセチル化リシン、シトルリン、又はホモシトルリンは、ペプチドの適切なアセチル化又は(ホモ)シトルリン化により導入できる。より適切には、ペプチドは、正しい位置にアセチル化リシン、シトルリン、又はホモシトルリンを有して合成される。
【0060】
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る、ペプチド、タンパク質、又は分子は、典型的には、表面に結合される。表面は、典型的には、固体表面である。固体表面は、典型的にはプレートに存在するような、平面でもよい。また、固体表面は、ビーズなどの三次元構造であってもよい。また、固体表面は、ゲルマトリックスであるかもしれない。抗体が結合し得る固体表面は、特定材料と非特定材料との容易な分離を促進する。ペプチド及び/又はタンパク質を、カルバミル化形態、シトルリン化形態、又は天然形態で、表面に結合させるために、任意の方法を用いることができる。非限定的例として、直接コーティング又はビオチン-ストレプトアビジンコーティングが挙げられる。ペプチド又はタンパク質を表面に結合させる他の方法が当業者に利用可能である。
【0061】
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得るさまざまな分子が利用可能である。糖鎖に結合し得る天然タンパク質の例は、Functional Glycomics homepagep(http:/ /www.functionalglycomics.org/ glycomics/molecule/jsp/gbpMolecule-home.jsp)で見つけられる。SIGLEC(シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン)は、シアル酸に結合する細胞表面タンパク質のファミリーである。これらは、主に免疫細胞の表面にみられ、I型レクチンのサブセットである。14種類の異なる哺乳類SIGLECが存在し、多数の異なる機能を提供する。このファミリーは、以前は、SIGLEC1、SIGLEC2、………、SIGLEC14と番号付けされていた。現在は、多くのSIGLECが改名されている。CD22又はcluster of differentiation-22は、SIGLEC2とも呼ばれる。これは、成熟B細胞の表面にみられ、より少ない程度で、いくらかの未熟B細胞でもみられる。一般的に言えば、CD22は、免疫系の過剰活性化と自己免疫疾患の発症とを防ぐ調節分子である。本発明において興味深いことに、CD22はそのN末端に位置する免疫グロブリン(Ig)ドメインでシアル酸に特異的に結合する糖結合膜貫通タンパク質である。
図20は、少なくともシアル酸結合ドメインが物理的にFc尾部に結合するというCD22-Fc分子の特異的N糖鎖修飾Fab結合特性を示す。SIGLECのシアル酸結合部は、典型的には、対応するSIGLECの細胞外部を含有する。例えば、Fcハイブリッドは容易に作成できる。好ましいSIGLECはCD22である。抗体が、N結合型糖鎖に結合し得る分子の別の供給源である。レクチンが好ましい分子である。多数のレクチンは容易に生産でき、多くが実際に市販されている。抗体又はレクチンは、好ましくは、シアル酸結合抗体又はシアル酸結合レクチンであり、好ましくは、シアル酸結合レクチンである。単糖のシアル酸ファミリーのさまざまメンバー、構造多様性、及び基礎となる糖鎖への結合が、Varki A、Cummings RD、Esko JD等編(2009)『Essentials of Glycobiology』(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク))の第14章に記載されている。また、この章には、さまざまなシアル酸結合レクチン及びそれらの特性性についても記載されている。本発明では、セイヨウニワトコ凝集素(Sambucus nigra agglutinin;SNA)及びイヌエンジュ凝集素(Maackia amurensis agglutinin;MAA)が、Fc部分のN結合型糖鎖をFab部分のN結合型糖鎖から区別するために特に適していることがわかった。そのため、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得るシアル酸結合レクチンは、好ましくは、SNA又はMAAを含み、好ましくは、SNAを含む(Stadlmann等、2010、Journal of Clinical Immunology、30(S1):15-9)。明確性のために説明するが、イヌエンジュ凝集素(Maackia amurensis agglutinin)はMAAと省略するが、MAA付加物はタンパク質上のマロンジアルデヒド-アセトアルデヒド付加物(malondialdehyde-acetaldehyde adduct)を意味する。
【0062】
好ましい実施形態では、アセチル化リシンエピトープ又はシトルリン化若しくはホモシトルリン化エピトープなどの翻訳後修飾を有するエピトープを含むペプチド又はタンパク質にサンプルの抗体を接触させる工程は、表面に結合されたペプチド又はタンパク質で行われる。ペプチド/タンパク質結合画分は、未結合材料を除去するために洗浄されることが好ましい。その後、もしあるなら、抗体(好ましくは、AAPA抗体、ACPA抗体、及び/又は抗CarP抗体)を含有するペプチド/タンパク質結合画分が、収集され、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子に接触させられる。次に、サンプルが、Fab部分上にN結合型糖鎖を有するACPA抗体及び/又は抗CarP抗体を含有していたか否かを判定することもできる。これは、さまざまな方法で行える。好ましくは、これは、ヒト抗体(好ましくは、ヒトIgG)に結合する分子に分子含有サンプルを結合させることにより行われる。未結合分子は、次に、洗浄され、もしあるなら結合分子が標識で検出できる。好ましくは、分子は標識を含む。標識が検出されたら、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗体がペプチド内のシトルリン化エピトープ(ACPA)又はホモシトルリン化エピトープ(抗CarP)に結合されており、サンプルがFab部分上にN結合型糖鎖を有するACPA及び/又は抗CarPを含有していたと判定される。
【0063】
別の好ましい実施形態では、抗体含有サンプルが、AMPAを、好ましくは、ペプチド内のアセチル化リシンエピトープ、シトルリン化又はホモシトルリン化エピトープに結合し得る抗体を含むか否かを判定する方法は、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子に前記サンプルの抗体を接触させること、及び、結合抗体を収集すること、及び、
もしあるなら、収集抗体を、翻訳後修飾エピトープを含むペプチド、好ましくは、アセチル化リシンエピトープ、シトルリン化又はホモシトルリン化エピトープを含むペプチドに接触させること、を備える。
好ましい実施形態では、サンプルの抗体は、まず、サンプル中の他の材料から分離され、そして、ヒト抗体に結合する分子にサンプルを結合させることで収集される。こうして、N結合型糖鎖を含み得る他の分子は本方法には持ち込まれない。次に、サンプルが、Fab部分上にN結合型糖鎖を有するAMPAを、好ましくは、AAPA抗体、ACPA抗体、及び/又は抗CarP抗体を含有していたか否かを判定できる。これは、さまざまな方法で行える。好ましくは、これは、AMPAに特異的な、好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarPに特異的なELISAを含む方法により行われる。サンプルの抗体は、アセチル化リシン、シトルリン化又はホモシトルリン化エピトープを含むペプチド/タンパク質と接触させられることが好ましい。ペプチド/タンパク質は表面に結合されることが好ましい。結合抗体は、次に、ヒト抗体(好ましくは、IgG)に結合し得る分子により検出される。分子は標識を含むことが好ましい。
【0064】
好ましい実施形態では、サンプルの抗体は、まず、サンプル中の他の材料から分離され、そして、ヒト抗体に結合する分子にサンプルを結合させることで収集される。こうして、N結合型糖鎖を含み得る他の分子は本方法には持ち込まれない。
【0065】
本発明は、さらに、個体の抗体サンプルが、Fab部分上にN結合型糖鎖を有するAMPAを、好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarP抗体を含むか否かを判定する方法であって、前記方法は、Fab部分上のN結合型糖鎖が、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子、好ましくは、シアル酸結合分子、好ましくは、SNA又はMAAを用いて検出されることを特徴とする、方法を含む。
【0066】
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖を検出する工程は、有利には、本明細書に示すように、シアル酸に特異的に結合する分子に抗体又はそのFab部分を接触させることにより行うことができる。これは、抗体含有サンプルのハイスループットな検査を促進する。また、精製抗体調製物から得た糖鎖調製物で質量分析を行うこともできる。本明細書のさまざまな図面に示すように、こうした調製物の質量分析によれば、抗体から得た糖鎖の構造を開示するスペクトルが得られる。シアル酸含有糖鎖は、こうしたスペクトルで容易に識別することができる。自己抗体又はその抗原結合断片は、例えば、ビーズ上にコートされた特異的抗原に結合するに任せ、その後、1回以上洗浄して未結合抗体を除去することにより、調製物内の他の抗体から精製できる。N結合型糖鎖は、実施例で示した酵素切断により、こうしたビーズ又は溶出抗体(断片)から収集できる。収集糖鎖は、次に、質量分析により同定できる。質量分析は、かつては時間が掛かる試みであったが、いまや迅速に最適化及び簡素化が進んでおり、ハイスループット用途向けの媒体に適したものとなっている。適切な質量分析システムの例としては、ウォーターズ(Waters)から販売のシステム、例えば、Glycoworks RapiFluor-MS N-Glycan kitの商品名のものが挙げられる。
【0067】
ヒト抗体に結合し得る分子は、抗体、例えば、ヤギ抗ヒトIgG抗体であってもよい。他の分子としては、プロテインA及びプロテインGが挙げられる。プロテインAは、細菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の細胞壁で最初に見つかった42kDaの表面タンパク質である。プロテインGは、C群及びG群のレンサ球菌内で発現する免疫グロブリン結合タンパク質であり、プロテインAとよく似ているが結合特性が異なる。
【0068】
本発明は、さらに、サンプル中での、好ましくは、シトルリン、ホモシトルリン、及び/又はアセチル化リシンに結合する、AMAPの、好ましくは、AAPA抗体、ACPA抗体、及び/又は抗CarP抗体の検出に有用なパーツのキットを含む。キットは、翻訳後修飾を有するエピトープを含むペプチド、好ましくは、アセチル化リシンエピトープ、シトルリン化又はホモシトルリン化エピトープを含むペプチドと、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とを含むことが好ましい。N結合型糖鎖に結合し得るペプチド又は分子は、表面に結合されることが好ましい。キットは、さらに、ヒト抗体に結合し得る分子を含むことが好ましい。抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子は、好ましくは、シアル酸結合レクチンであり、好ましくは、SNA又はMAAであり、好ましくは、SNAである。分子は標識を含むことが好ましい。
【0069】
抗体サンプルは、個体のサンプルであることが好ましい。好ましくは、RA、シェーグレン症候群、又はAAVを有しない個体のものである。好ましい実施形態では、サンプルは、Fab部分上にN結合型糖鎖を含まない前述の疾患に関連する自己抗体(AMPA、好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarP抗体など)の存在についての早期サンプルの検査が陽性であった個体に由来するサンプルである。AMPAなどの自己抗体は、自己抗体の10%以下が当該抗体のFab部分上にN結合型糖鎖を含む場合に、前記抗体のFab部分上にN結合型糖鎖を有しない(又は当該糖鎖について陰性である)とみなされる。そこで、一態様では、早期サンプル内の自己抗体(好ましくは、AMPA)の10%以下がFab部分上にN結合型糖鎖を含む。本発明は、さらに、関節炎、シェーグレン症候群、又はAAVを発症する危険性のある個体を監視する方法であって、前記方法は、前記個体の定期的抗体含有サンプルにおいて前述の疾患に関連する自己抗体(AMPA、好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarP抗体など)の存在及び/又は発現を監視することを備え、前記方法は、検出抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型糖鎖を含むか否かを判定することをさらに含むことを特徴とする、方法を含む。本発明の方法は、特に、未病の『危険相』から疾患相(RAなど)に転換について、個体の集団をスクリーニングすることに適している。このために、本発明の方法で検査されるサンプルは、RAについて予め検査されていた個体に由来するサンプルであることが好ましい。抗体は、AAPA抗体、ACPA抗体、及び/又は抗CarP抗体であることが好ましい。
【0070】
抗体のFab部分上にN結合型糖鎖を有するAMPA(好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarP抗体)の検出の際に、個体は、関節炎(好ましくは、関節リウマチ)を、好ましくは、関節炎薬剤(好ましくは、関節リウマチ薬剤)で、治療されてもよい。本明細書で上述したように、早期治療は患者に有益である。また、発症前治療がRAを発症する危険性のある個体に有益である。治療は、広範であり、典型的には、完全に副作用なし又はその可能性なしというわけにはいかない。発症前治療を、できるだけ早く、即ち、RAの症状が予測され、少なくとも症状が切迫しているときに、開始することが好ましい。
【0071】
人はいつでも疾患を引き付ける可能性がある。ある人は、本明細書に記載の方法を用いてその人が正常集団よりも増大した危険性を有する場合に危険性があるといえる。例えば、RAを有しないがAMPAを有する人は、RAを発症する増大した危険性を有する。こうした個体が、本明細書に記載の方法で検査され、Fab部分上にN結合型糖鎖を有するAMPAを有することがわかった場合、その人は、AMPA陽性RA陰性個体集団全体と比べて、RAを発症する増大した危険性を有する。ある人は、当該個体の抗体含有サンプル内で10%より多くのAMPA抗体がFab部分上にN結合型糖鎖を有する場合に、好ましくは、当該個体の抗体含有サンプル内で、20%より多く、好ましくは、30%より多く、好ましくは、50%より多く、好ましくは55%より多くのAMPA抗体がFab部分上にN結合型糖鎖を有する場合に、Fab部分上にN結合型糖鎖を有するAMPAを有する。以上はシェーグレン症候群又はAAVを発症する危険性のある個体についても適用される。例えば、シェーグレン症候群又はAAVを有しないがこれらの疾患に関連する自己抗体を有する人は、シェーグレン症候群又はAAVを発症する増大した危険性を有する。こうした個体が、本明細書に記載の方法で検査され、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する前記自己抗体を有することがわかった場合、その人は、前記自己抗体陽性シェーグレン症候群又はAAV陰性個体集団全体と比べて、シェーグレン症候群又はAAVを発症する増大した危険性を有する。ある人は、当該個体の抗体含有サンプル内で10%より多くの自己抗体がFab部分上にN結合型糖鎖を有する場合に、好ましくは、当該個体の抗体含有サンプル内で、20%より多く、好ましくは、30%より多く、好ましくは、50%より多く、好ましくは55%より多くの自己抗体がFab部分上にN結合型糖鎖を有する場合に、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する自己抗体を有する。
【0072】
そこで、本発明は、さらに、個体の治療方法に使用するための関節炎薬剤であって、当該方法は、前記個体の抗体含有サンプルに、Fab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含んでいるAMPA、好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarP抗体が、存在するかしないかを判定すること、及び、Fab部分にN結合型グリコシル化を含む前記抗体、好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarP抗体が検出された場合に前記個体を治療すること、を備える、薬剤を提供する。
【0073】
また、関節リウマチ症状又はその発症について個体を治療する方法であって、前記方法は、
サンプルが、Fab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含むAMPAを、好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarP抗体を含有するか否かを判定すること(但し、前記サンプルは、前記個体の抗体含有サンプルであり、前記個体は、サンプリング時に関節リウマチを有さず)、及び、
前記個体が関節リウマチ症状を示し始める前又は示し始めた時に、関節リウマチ薬剤で、前記個体を治療すること、
を備える、方法も提供される。
【0074】
RAは、多くの異なる薬剤が利用可能な疾患である。好ましい薬剤は、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)である。DMARDは、疾患進行を遅くするために関節リウマチで用いられることで定義され、他の点では関連のない薬のカテゴリーである。この用語は、しばしば、合成DMARD(sDMARD、従来又は標的)又は生物学的DMARDに分類され、非ステロイド性抗炎症薬(炎症を治療するが原因は治療しない剤を指す)及びステロイド(免疫応答を鈍らせるが疾患の進行を遅くするには十分ではない)とは対照的に用いられる。一実施形態では、本発明で呼ぶところの関節リウマチ薬剤は、非ステロイド性抗炎症薬又はステロイドである。好ましい実施形態では、関節リウマチ薬剤は、sDMARDである。メトトレキサートは好ましいsDMARDである。他の好ましいDMARDとしては、アバタセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、アザチオプリン、クロロキン及びヒドロキシクロロキン、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、レフルノミド、メトトレキサート、リツキシマブ及びスルファサラジンが挙げられる。加えて、トファシチニブなどの小分子阻害剤は、いくつかの国で利用可能な新規クラスのキナーゼ阻害剤を表す。好ましい実施形態では、DMARDは、腫瘍壊死因子α(TNF-α)に結合し得るモノクローナル抗体である。関節リウマチ薬剤は、2種以上の薬剤の組み合わせでもよく、この組み合わせの1種以上はDMARDである。
【0075】
検査個体は、当該個体が関節リウマチ症状を示し始める前又は示し始めた時に関節リウマチ薬剤を提供されることが好ましい。
【0076】
AAV又は一次シェーグレン症候群の治療のための薬剤は、ヒドロキシクロロキン、メトトレキサート、アザチオプリン、レフルノミド、グルココルチコイド、リツキシマブ、シクロホスファミド、又はミコフェノレートの1種以上であることが好ましい。
【0077】
抗原結合(Fab)部分は、抗原に結合する抗体上の領域、いわゆる、可変ドメインを含む。これは、抗体内の可変ドメインと関連する定常ドメインをさらに含むことが好ましい(まとめて、しばしば、Fab断片と呼ばれる)。Fab部分は、抗体の、重鎖の一部及び軽鎖の一部から構成される。Fc及びFab断片は研究室内で生成できる。パパイン酵素を用いて、免疫グロブリンモノマーを切断して2つのFab断片とFc断片とを得ることができる。ペプシン酵素はヒンジ領域の下を切断するので、F(ab’)2断片及びpFc’断片が形成される。最近、F(ab’)2を生成するための別の酵素が市販されている。IdeS酵素(化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来の免疫グロブリン分解酵素、商品名FabRICATOR)は中性pHで配列特異的にIgGを切断する。
【0078】
方法の多くは、完全な抗体の代わりに、方法の一部又は全てで、Fab部分又はFab断片を用いて、行われる。そのため、こうした方法も、本発明で提供される。これは典型的には当業者にとって明らかである。
【0079】
抗体は、それらがサンプル中の他の抗体から分離された場合に、精製される。精製抗体は、典型的には、1種以上の特性に基づいて、他の抗体から分離される。結果として、精製抗体は、分離に用いた1種以上の特性を共有する。精製抗体は、1種の抗体のみを含まねばならないわけではない。AMPA抗体の場合、全ての精製抗体が、(例えば)CCP2に結合するものの異なる可変ドメインを有することが可能であることが好ましい。同様に、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合する分子への結合に基づき精製された抗体は、こうして精製された全ての抗体が当該分子に結合する限り、異なるFab部分結合糖鎖を有し得る。ある方法は、少なくとも1つの画分が精製前のサンプル内での百分率よりも高い画分中の全抗体に対する精製抗体の百分率を有するような複数の画分にサンプルの抗体を分離する場合に、抗体を精製する方法である。換言すれば、精製抗体は、実質的に純粋である必要はない。ただし、典型的には、精製サンプルが、サンプル中の全抗体に対して精製種を、少なくとも70%、より好ましくは、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%含むことが好ましい。
【0080】
個体が所与の期間内でRAを発症する危険性の判定は、個体が、Fab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を有するAMPA(好ましくは、AAPA、ACPA、及び/又は抗CarP抗体)を有することを判定することにより行われる。こうした抗体の同定は、示した期間内に患者がRAを発症する増加した危険性を示す。こうした抗体が検出される水準は、RA症状を発症するまでの実際の時間に関するものさしである。高水準は疾患の発症が予期されることを示す。水準はサンプル中の抗体の全量に対して求められることが好ましい。好ましくは、水準はサンプル中の全AAPA、ACPA、及び/又は抗CarPに対して求められる。
【0081】
また、本発明は、Fab部分上にN結合型糖鎖を含む抗体の測定のための抗体を精製する方法であって、
抗体サンプルを準備すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質を含む固体表面に前記サンプルを接触させること、
未結合抗体を除去し、結合抗体を前記固体表面から溶出させること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子を含む固体表面とともに溶出抗体をインキュベートすること、
未結合分子を除去すること、及び、
結合抗体が前記サンプルにおける抗体のFab部分上のN結合型糖鎖の存在を示す、抗体が前記固体表面に結合したか否かを判定すること、
を備える、方法を提供する。
必ずしも完全な抗体を精製する必要はない。サンプル中の抗体は、例えば、Fab部分及びFc断片に断片化されてもよく、次に、これらのFab部分断片が精製される。
【0082】
また、本発明は、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗体の測定のための抗体を精製する方法であって、
抗体サンプルを準備すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質を含む固体表面に前記サンプルを接触させること、
未結合抗体を除去すること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とともに固体表面をインキュベートすること、
未結合分子を除去すること、及び、
結合分子が前記サンプルにおける抗体のFab部分上のN結合型糖鎖の存在を示す、分子が前記固体表面に結合したか否かを判定すること、
を備える、方法を提供する。
【0083】
さらに、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗体の測定のための抗体を精製する方法であって、
抗体サンプルを準備すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質を含む固体表面に前記サンプルを接触させること、
未結合抗体を除去すること、
前記抗体から糖鎖を分離する酵素とともに結合抗体をインキュベートすること、
糖鎖を収集すること、及び、
収集糖鎖がFab部分特異的糖鎖を含むか否かを判定すること、
を備え、
前記サンプルは、RA、シェーグレン症候群、又はAAVを発症する危険性のある個体の抗体サンプルであることを特徴とする、方法が提供される。
【0084】
また、Fab部分上にN結合型グリコシル化を有する抗体を精製する方法であって、
抗体サンプルを準備すること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子を含む固体表面とともに前記サンプルをインキュベートすること、
前記固体表面を洗浄し、結合抗体を収集すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質とともに収集抗体をインキュベートすること、
未結合抗体を除去すること、及び、
前記ペプチド又はタンパク質が結合抗体を有していたか否かを判定すること、
を備える、方法が提供される。
【0085】
いくつかの実施形態では、サンプルは精製抗体を含む。この場合、抗体は、典型的には、抗体に結合する結合剤によりサンプルの他のタンパク質から分離される。適切な剤としては、プロテインA又はプロテインGが挙げられる。
【0086】
また、抗体サンプルを準備すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質を含む固体表面に前記サンプルを接触させること、
未結合抗体を除去すること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とともに前記固体表面をインキュベートすること、
未結合分子を除去すること、及び、
分子が前記固体表面に結合したか否かを判定すること、
を備える、方法が提供される。
【0087】
サンプルは、RA、シェーグレン症候群、又はAAVを発症する危険性のある個体の抗体サンプルであることが好ましい。好ましくは、サンプルは、早期抗体サンプルが自己抗体の検査で陽性であった個体の抗体サンプルである。好ましくは、前記早期抗体サンプルの前記自己抗体の10%以下がそのFab部分上にN結合型糖鎖を含む。前記自己抗体はAMAPであることが好ましい。いくつかの実施形態では、抗体は、Fab及びFc断片を生産するために、切断される。
【0088】
抗体は、さまざまな手段で固体表面から溶出できる。典型的には、これは、周囲の流体のpH及び/又は塩濃度を変化させることで達成される。抗体は、一般的に、固相又は固体表面上の吸収剤に、吸収され、結合される。溶出は、『溶出液』と呼ばれる液体を吸収剤/抗体コンプレックスを通過させることにより吸収剤から検体を除去する処理である。溶剤分子が『溶出』又はカラムを通り下に移動するにつれて、溶剤分子は、吸収剤/検体コンプレックスの横を通り過ぎる、又は、検体の場所にある吸収剤に結合することで当該検体を置き換えることができる。溶剤分子が検体を置き換えた後、検体は分析用カラムから運び出され得る。
【0089】
未結合抗体は、典型的には、固相をバッファーで洗浄することにより除去される。適切なバッファーは、抗体を固体表面上に載せるために用いられたバッファーである。リン酸緩衝生理食塩水は適切なバッファーである。
【0090】
個体の定期的抗体含有サンプルは、個体の生活の異なる時点で取られたサンプルである。時点の間の間隔は変わり得る。それぞれのサンプルの間の時間は、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月、1年、又はさらに長くてもよい。サンプルの間の期間は、自己抗体がFab部分上のN結合型糖鎖について陰性である場合は、もっと長くてもよい。一連の定期的サンプルのサンプル間期間は、代わり得、とても短くても(数日)、2年を超えてとても長くてもよく、一個体の定期的サンプルのものでそうなってもよい。
【0091】
サンプリング時とは、個体のサンプルが収集される日である。サンプルの採取は、請求項の一部でもよいが、典型的には、請求項の一部ではない。本方法で提供される請求項で呼ぶところのサンプルは、典型的には、権限保持者により収集され、次に、本明細書に記載の方法に提供するために手渡される。
【0092】
記載を明確にするため、同一の又は別の実施形態の一部として同じ記載特徴が本明細書で記載されるが、ただし、本発明の権利範囲は記載の特徴の全て又はいくつかの組み合わせを有する実施形態を含んでもよいことを理解されたい。
【0093】
本発明は、さらに、抗体がN結合型糖鎖を含むか否かを判定する方法であって、前記方法は、抗体含有サンプルからAMPAを精製すること、及び、前記AMPAが、表1のH5N4S2、H5N5F1S1、H5N4F1S2、H5N5S2、H5N5F1S2、及び/又はH6N5F1S2の糖鎖を含むか否かを検出すること、を含む、方法を提供する。好ましい実施形態では、前記方法は、さらに、前記糖鎖が検出された場合に、前記糖鎖が前記抗体のFab部分上に存在するか否かを判定することを含む。
【0094】
【表1】
ACPA-IgG及びIgGでみられる糖鎖の命名法。G2S2、G2FS1B、G2FS2、G2S2B、G2FS2Bは、これらの糖鎖構造がACPA-IgG及びIgGのFab断片により高度に発現され且つFc断片上で低度に発現され又は発現していないため、Fab糖鎖と考えられる。
【0095】
(実施例)
(実施例1)
(材料と方法)
〔患者サンプル〕
ACPAグリコシル化を全IgGグリコシル化と比較する実験のため、9名のACPA陽性RA患者から血漿(n=6)及び滑液(n=3)サンプルをLUMC(ライデン大学メディカルセンター)のリウマチ科の外来診察室で収集した。全てのRA患者は関節リウマチ分類基準(1987年、米国リウマチ学会)を満たした。
【0096】
ACPA陽性RA患者及びそのACPA陽性健常近親者由来のACPAのACPA-Fab糖鎖を比較する実験のため、カナダの複数のリウマチ診療所で53名のACPA陽性RA患者及びその未罹患ACPA陽性第一度近親者から血清サンプルを収集した。RA有病率はこれらのコミュニティにおいて一般的な白人集団よりも相当に高く、ACPAは患者の健常近親者で増大した頻度で存在した[1,2]。RA患者は関節リウマチ分類基準(1987年、米国リウマチ学会)を満たした。
【0097】
〔抗体精製〕
ライデンで収集したサンプルのACPA-IgG及びIgGを、既述のように[3]、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(A¨KTA、GEヘルスケア製)で精製した。簡単に説明すると、サンプルを、ビオチン化CCP2-シトルリン-HiTrap-ストレプトアビジンカラムが後に直列に接続されているビオチン化CCP2-アルギニン-HiTrap-ストレプトアビジンカラム(GEヘルスケア製)に載せた。フロースルー(FT)画分及びACPA溶出画分を、さらに、HiTrapプロテインG上に載せ、その後、HiTrapプロテインAカラム上に載せた(両方ともGEヘルスケア製)。ACPA枯渇IgG(対照IgG)及びACPA-IgGの精製画分をサイズ排除クロマトグラフィーにより濃縮脱塩した。
【0098】
ACPA-IgGはマイクロビーズシステムを用いてカナダ人サンプルから精製した。簡単に説明すると、25μlの血漿又は血清を、ビオチン化CC(cit)Pペプチドに結合されたニュートラアビジンビーズに載せた。このサンプルを2時間インキュベートし、ACPAをギ酸で溶出させてから、中和してpHを7.5とした。ACPA溶出画分をさらにProt Gビーズに載せACPA-IgGを最終的に得た。
【0099】
〔構造分析〕
ACPAを一般的なIgGと比較するための構造分析を、単離ACPA-IgG及びIgGのF(ab)2又はFc断片で行った。F(ab)2又はFc断片は、IdeS(FabRICATOR、ジェノビス(Genovis)製)での抗体消化により生成し、IgG-Fc/CH1 CaptureSelect affinity beads(サーモフィッシャー製)により精製した。(ACPA)-IgGのF(ab)2又はFc断片由来のN糖鎖をPNGase Fを用いて溶液中に遊離させた。糖鎖を、2アミノ安息香酸(2-AA)で標識し、親水性相互作用クロマトグラフィー固相抽出(HILIC-SPE)により精製し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)及び超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)により解析した。
【0100】
ACPA陽性RA患者及びその健常近親者由来のACPAのACPA-Fab糖鎖を比較するための実験のため、構造分析を単離ACPA-IgGで行った。ACPA-IgGのN糖鎖をPNGaseを用いて溶液中に遊離させた。加えて、糖鎖を、2アミノ安息香酸(2-AA)で標識し、親水性相互作用クロマトグラフィー固相抽出(HILIC-SPE)により精製し、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)により解析した。
【0101】
〔データ及び統計分析〕
UHPLCデータをChromeleon 7で分析した。このソフトはクロマトグラムの曲線下面積を計算する。糖鎖ピーク及びグリコシル化由来特性を既述の通り[4]明らかにした。ガラクトシル化、シアル化、及びフコシル化の百分率、並びに、IgGのバイセクティングN-アセチルグルコサミン残基の頻度を、計算した。加えて、(GP19からGP24までの合計)÷(GP1からGP14までの合計)×100%という式を用いて、Fabグリコシル化百分率を計算した。統計分析はGraphPad Prism 6を用いて行った。ノンパラメトリック・ペアード・ウィルコクソン検定をp<0.05の有意水準で適用した。
【0102】
《結果》
最近、発明者等は、RA患者から得たACPA-IgGが、非自己反応性IgGに比べて、10~20kDa高い分子量を示すことを発見した。この特徴は、また、ACPA-IgGをリコール抗原に対する抗体又は他の疾患特異的自己抗体から際立たせた。構造分析は、ACPAの(超)可変ドメイン(F(ab)ドメイン)でのN結合型糖鎖の百分率がこの観察結果の原因であることを示した。N結合型糖鎖が位置する正確な部位の解明は、タンパク質のN結合型グリコシル化に必要なN結合型コンセンサス配列が、生殖細胞系にコードされておらず、体細胞超変異の際に導入されることを明らかにした[5]。ACPA上に存在するN結合型Fab糖鎖の構造分析は、Fab結合型糖鎖の組成が、Fc結合型糖とは異なり、より重要なことに、これらが高度にシアル化されていることを示した(
図1)。さらに、定量に基づき、発明者等が評価したところ、血清中に存在するACPA分子の90%超がF(ab)糖鎖を持っており、この百分率は滑液中のACPAではずっと高い。
【0103】
目覚ましいことに、発明者等の予備データは、高グリコシル化ACPAの頻度が健常ACPA陽性近親者由来のACPAでは顕著に低いことを示す(
図2)。これは、健常個体に存在するACPAはグリコシル化に必要なACPA可変領域にN結合型グリコシル化部位をまだ導入していないことを示すため、興味深い。
【0104】
上述の方法論はハイスループットアッセイに転用できるものの、ACPAのF(ab)高グリコシル化を検出するための現在のアッセイは、時間が掛かり、ハイエンドな質量分析機と専門技能を必要とする。そのため、日常的なルーチンで用いることのできるより便利な方法が好ましい。レクチンSNA(セイヨウニワトコ凝集素)への抗体の結合がF(ab)グリコシル化により主に仲介されており、2つのシアル残基がSNAへの結合のために必要なことが示されている。SNAは還元条件(これによりCH2ドメイン間の接触面が開く)下でのみFc部分に結合する[6-8]。大多数のACPAのF(ab)糖鎖は2つのシアル酸残基を含有するので、RA患者由来の血清抗体のSNA結合はACPAについて富化される可能性が高い。そのため、ACPAのF(ab)糖鎖を検出するためのSNA結合型アプローチは、ハイエンドな質量分析機を必要とせずにこれらの糖鎖の存在を可視化するための有望な戦略といえる。そのため、発明者等は、SNA検出に基づくハイスループット法を確立するために2つのアプローチに乗り出した。これらのアプローチは、ACPAのF(ab)糖鎖の検出をハイスループットなやり方でできるような標準化プロトコルの開発を目的とする。
【0105】
第1アプローチ(
図3)では、まず、CCPコートマイクロビーズを用いてACPAを捕捉する(上)。これらのビーズからのACPAの溶出の後、標識SNAを用いてF(ab)糖鎖の存在を可視化する(下)。発明者等の予備データは、F(ab)糖鎖が、抗原と直接に相互作用するのではなく、従って、SNAにアクセス可能であるかもしれないことを示しているので、ビーズからのACPAの溶出は必要というわけではなく、SNAをACPAのF(ab)糖鎖に直に結合させることもできると想到される。そのため、この可能性についても試験する。
【0106】
第2アプローチ(
図4A1)では、反対の戦略を取り、まず、SNA上にF(ab)グリコシル化IgG(ACPA)を固定し、その後、CCP-ELISAを用いてACPAを検出する。発明者等の予備データは、このアプローチが、実行可能であり、ハイスループットなやり方で用いることができることを示す(
図4A2)。現時点では、このアプローチは、シアル酸分子を持ち且つ血清中に存在する他の分子によるSNAの『過剰充填(overloading)』を防ぐためのプロテインAによるIgGの事前単離(pre-isolation)を含む。
【0107】
(実施例2)
(材料と方法)
〔患者サンプル〕
9名のACPA陽性RA患者から血漿(n=6)及び滑液(n=3)サンプルをライデン大学メディカルセンターのリウマチ科の外来診察室で収集した。全てのRA患者は、関節リウマチ分類基準(1987年、米国リウマチ学会)を満たし、書面によるインフォームドコンセントを受けた[9]。治療は、疾患修正性抗リウマチ薬、生物学的薬剤、及び糖質コルチコイドを含んでいた。
【0108】
〔用いた化学物質、溶剤、及び酵素〕
TFA、SDS、リン酸水素二ナトリウム・二水和物、HCL、グリシン、β-メルカプトエタノール、酢酸、及びNaClは、メルク(独国、ダルムシュタット)から購入した。50%水酸化ナトリウム及びノニデットP-40代替品、ヒアルロニダーゼ(ウシ精巣由来、タイプIV)、EDTA、2-アミノ安息香酸、ボラン-2-ピコリンコンプレックス、水酸化アンモニウム、DMSO、及びギ酸は、シグマ・アルドリッチ(米国、セントルイス)から得た。Trisはロシュ(米国、インディアナ)から購入し、Laemmli緩衝液をバイオ・ラッド(米国、カルフォルニア)から得た。Peptide:N-glycosidase F(PNGase F)をロシュ・ダイアグノスティックス(独国、マンハイム)から、2,5-ジヒドロキシ安息香酸をブルカー・ダルトニクス(独国、ブレーメン)から、及びHPLC SupraGradient ACNをバイオソルブ(蘭国、ファルケンスワールト)から購入した。全体を通して、MQ(ミリQ脱イオン水、R>18.2MΩcm-1、Millipore Q-Gard 2 system、ミリポア、蘭国、アムステルダム)を用いた。CaptureSelect anti-IgG Fc affinity matrix及びanti-CH1 affinity matrixをライフ・テクノロジーズ(蘭国、ライデン)から購入した。空のスピンカラム(閉じたスクリューキャップ、挿入されたプラグ、大型10umフィルター付属)はMoBiTec(独国、ゲッティンゲン)から提供された。PBSをビー・ブラウン(独国、メルズンゲン)から、IdeS酵素(商品名:FabRICATOR)をジェノビス(典国、ルンド)から得た。CCP2アルギニン(対照)及びCCP2シトルリンペプチドは、J.W.Drijfhout博士(蘭国、ライデン大学メディカルセンター(LUMC)、IHB科)の好意により提供された。
【0109】
〔ACPA-IgG及びACPA枯渇IgGの精製〕
ACPA-IgG及びIgGを、既述のように[5]、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(A¨KTA、GEヘルスケア製)で精製した。サンプルを、ビオチン化CCP2-シトルリン-HiTrap-ストレプトアビジンカラムが後に直列に接続されているビオチン化CCP2-アルギニン-HiTrap126-ストレプトアビジンカラム(GEヘルスケア製)に載せた。フロースルー(FT)及びACPA溶出画分を、さらに、HiTrapプロテインG上に載せ、その後、HiTrapプロテインAカラム上に載せた(両方ともGEヘルスケア製)。その後、アイソタイプ1、2、及び4の精製IgG及びACPA-IgGを、サイズ排除クロマトグラフィー(ZebaSpin Desalting Column、7K MWCO、Pierce Thermo Scientific)により製造者の説明に従い濃縮脱塩した。
【0110】
〔Fc及びF(ab’)2断片の生成及び精製〕
組換ストレプトコッカスIdes酵素を用いてACPA-IgG及びACPA枯渇IgGを特異的に切断しFc部分及びF(ab’)2部分を得た。既述のように[5]簡略化のために供給元のプロトコルを調整した。簡単に説明すると、各サンプルについて、(ACPA)-IgG抗体30μgを、遠心エバポレーター下で乾燥させ、IdeS 30Uを含む消化バッファー(50mM リン酸ナトリウム、150mM NaCl、5mM EDTA)200μLを添加し、オーバーナイトにわたり37℃でインキュベートすることで、消化した。その後、10μMフィルタースピンカラム上に載せたanti-IgG Fc affinity matrix(ビーズスラリー)でのアフィニティークロマトグラフィーによりF(ab’)2からFc部分を分離した。Fc断片を、100mMギ酸でビーズから溶出させ、2M Trisで中和した。F(ab’)2ドメインを捕捉するために、Fc精製から生じたFT画分を、anti-IgG Fc affinity matrixと同様のプロトコルを用いて、anti-IgG-CH1 affinity matrixで精製した。溶出画分を、2M Trisで中和し、サイズ排除クロマトグラフィー(Zeba Spin Desalting Column、7kDa MWCO、Pierce Thermo Scientific)により脱塩した。精製後、精製Fc及びF(ab’)2サンプル6μgを、SDS-PAGEにより純度分析し、bicinchoninic acid Protein Assay Reagent(Pierce Thermo Scientific)により定量した。糖鎖分析のため、サンプルを真空遠心により乾燥させた。
【0111】
〔構造分析〕
RA患者由来の単離ACPA-IgG及びIgGの、F(ab)2若しくはFc断片又は全分子のいずれかについて、構造分析を行った。加えて、(ACPA)-IgGのドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行った。(ACPA)-IgGの、N糖鎖型の、全分子、F(ab)2断片、及びFc断片をPNGase Fを用いて溶液中に遊離させ、一方、重鎖及び軽鎖(HC/LC)糖鎖をPNGaseによるゲル内消化後に得た。糖鎖の標識を、サンプル(25μL溶液)と、2-アミノ安息香酸(2-AA、48mg/mL)の15%氷酢酸含有DMSO溶液12.5μLと、2-ピコリンボラン(107mg/mL)のDMSO溶液12.5μLとを混合することにより、行った。この混合液を、65℃で2時間インキュベートし、室温まで冷やし、精製前に85%ACNに希釈した。2-AA標識糖鎖を、いくらかの修正を加えた上で既述の通り[10]、コットンチップを用いてHILIC SPEにより精製した。簡単に説明すると、各サンプルについて、コットン500μgを、200μLピペットチップ内に詰め、MQ 150μLを3回、その後、85%ACN 0.1%TFA 150μLを1回、及び、85%ACN 150μLを2回ピペッティングすることにより、コンディショニングした。サンプル(85%ACN溶液)を、25回ピペッティングすることで、反応混合液内にロードした。チップを、85%ACN 0.1%TFA 150μLを1回、及び、85%ACN 150μLを2回の組み合わせ3回で、3回洗浄した。最終的に、2-AA標識糖鎖を、MQ 30μLでコットンから溶出させ、MALDI-TOF-MS及びUHPLCで同定した。MALDI-TOF-MS分析では、コットンHILIC SPEにより精製した糖鎖サンプル2μLを、Bruker AnchorChip plate(800μm anchor、ブルカー・ダルトニクス、独国、ブレーメン)上、スポット内で、2,5-ジヒドロキシ安息香酸マトリックス(20mg/mL、50%ACN、50%水の溶液)1μLと混合し、周囲温度で乾燥するに任せた。測定は、UltrafleXtreme MALDI-TOF-MS(ブルカー・ダルトニクス)のlinear negative modeでFlexControl 3.4 software(ブルカー・ダルトニクス)を用いて行った。peptide calibration standard(ブルカー・ダルトニクス)を用いて外部較正を行った。各スペクトルについて、m/z1000から4000の質量窓を用い、最低5000回のレーザーショットを重ねた。UHPLC分析では、精製2-AA標識N糖鎖溶液5μLを、1.7μm 2.1x100 mm Acquity UHPLC BEH Glycan column(ウォーターズ)と蛍光検出器とを取り付けたDionex Ultimate 3000(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィク)でのHILIC-UHPLCにより分離・分析した。分離は、0.6mL/分の流速、60℃で行った。勾配形成のために2種の溶液(溶液A:ACN、溶液B:100mMギ酸アンモニウムpH4.4(ギ酸を水酸化アンモニウムでpH4.4まで緩衝化することで調整))を用いた。カラムを、0.5分間、85%の溶液Aで平衡化した。その後、サンプルを、75%Aに載せ、10分間、85%Aで洗浄することにより、過剰な蛍光試薬をカラムから溶出させた。分離勾配は、75%Aから始め、30分かけて、63%まで直線的に減少させた。その後、カラム内に、4分間、40%Aを、0.4mL/分の流速で流し、その後、再平衡化のために、10分間、85%Aを流した。蛍光検出では、330nmを励起に用い、420nmで発光を記録した。結果として得られたクロマトグラムを、Chromeleon version 7.1.2.1713(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィク)を用いて分析した。最終的に、糖ペプチド水準での(ACPA)-IgGのFc結合型グリコシル化を分析するために、抗体を、トリプシンで消化し、既述の通り[11]、LC-MSで分析した。
【0112】
〔データ及び統計分析〕
UHPLCデータをChromeleon 7で分析した。このソフトはクロマトグラムの曲線下面積を計算する。糖鎖ピーク及びグリコシル化由来特性を既述の通り[4]明らかにした。ガラクトシル化(非ガラクトシル化 G0、モノガラクトシル化 G1、ジガラクトシル化 G2)、シアル化(非シアル化 N、モノシアル化S1、ジシアル化S2)、フコシル化(F)の百分率、並びに、IgGのバイセクティングN-アセチルグルコサミン(GlcNAc、B)残基の頻度を、以下のように、計算した。G0=GP1+GP2+GP4+GP5+GP6、G1=GP7+GP8+GP9+GP10+GP11+GP16、G2=GP12+GP13+GP14+GP15+GP17+GP18+GP19+GP21+GP22+GP23+GP24、N=GP1+GP2+GP4+GP5+GP6+GP7+GP8+GP9+GP10+GP11+GP12+GP13+GP14+GP15、S1=GP16+GP19、S2=GP21+GP24、F=GP1+GP4+GP6+GP8+GP9+GP10+GP11+GP14+GP15+GP16+GP18+GP19+GP23+GP24、及びB=GP6+GP10+GP11+GP13+GP15+GP19+GP22+GP24。LC-MS糖鎖特性分析は既述の通り[11]である。LC-MSデータの処理については、観察した検体チャージ状態毎の最初の3つのアイソトープの合計強度を、以前記した通り[12]、理論質量周辺の±0.06Da及び手動抽出平均保持時間周辺の±20秒の窓内で抽出した。MALDI-TOF-MSによる糖鎖同定は、既述の通り[13]、明らかにした。統計分析はGraphPad Prism 6を用いて行った。ノンパラメトリック・ペアード・ウィルコクソン検定をp<0.05の有意水準で適用した。
【0113】
《結果》
〔IgG及びACPA-IgGにより発現されたN糖鎖の定量〕
発明者等は、RA患者により生産されたACPA-IgGが、他のIgG(自己)抗体に比べて、可変領域内で広範にNグリコシル化されていることを示した[5]。ここで、発明者等は、ACPA-IgG及びその断片のグリコシル化の包括的な定量化及び定性化を行い、非シトルリン特異的IgG(即ち、ACPAが枯渇したもの、以降では、対照IgGと呼ぶ)のものと比較した。この目的のため、(ACPA)-IgGをアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、その糖鎖を、
図9に示したスキームに従い、UHPLC、MALDI-TOF-MS、及び/又はLC-MSにより、分析した。精製後、(ACPA)-IgGの純度を還元条件下でSDS-PAGEにより評価した(
図10A)。期待の通り、対照IgGは重鎖及び軽鎖(HC及びLC)に対応する2つの電気泳動バンドにより特徴づけられ、一方、ACPA-IgGは既述の通り(13)より分子量が高い複数のHC及びLCバンドを示した。IgGのHC及びACPA-IgGのHC1の両方からの遊離N糖鎖は、UHPLCでは典型的なFc結合型糖鎖プロファイルを示し(21、25)、一方、IgGのLC及びACPA-IgGのLC1ではN糖鎖は検出されなかった(
図10B)。対照的に、ACPA-IgGのLC2から遊離したN糖鎖は、異なるプロファイルを示し、高度にシアル化された二分岐糖形態の存在を示した(
図10B)。同様に、ACPA-IgGのHC2及びHC3由来のグリコシル化プロファイルは、Fcドメインに通常は存在しない追加の糖鎖の存在とともに、Fc糖鎖の混合物の存在を示した(
図10B)。
【0114】
〔IgGの(自己)抗体のFc結合型及びFab結合型糖鎖は典型的な抗体糖鎖パターンを示す〕
ACPA-IgGの追加HCバンド、即ち、HC2及びHC3で検出された糖鎖パターンが本当にIgG可変領域のグリコシル化を反映しているかを確かめるために[14]。発明者等は、(ACPA)-IgG及びその断片のNグリコシル化(合計/Fc/Fab)又は糖ペプチドのNグリコシル化(Fcのみ)を調べた(
図9)。まず、発明者等は、(同じ提供者からの)ACPA-IgG及び対照IgGのFc及びF(ab’)2断片から遊離されたN糖鎖の構造を分析・比較した。(ACPA)-IgGのFc断片由来のNグリコシル化プロファイルは、さまざまな数の分岐ガラクトース(0から2)及びシアル酸(0から1)残基を有する、二分岐の、しばしばコアの、フコシル化コンプレックス型種から構成された典型的なFc結合型N糖鎖構造を示した(
図11A)。また、Fc結合型糖鎖の一部は、バイセクティングGlcNAcを含有していた。比較的高い割合の無ガラクトシル化糖鎖(G0)が既述の通り[11]観察されたことに注意されたい。(ACPA)-IgGのF(ab’)2断片から遊離したN糖鎖は、バイセクティングGlcNAc及び/又はコアフコースを持っているかもしれない高度にガラクトシル化及びシアル化された二分岐の糖形態から構成されていた(
図11B)。まとめると、これらの結果は、IgG(自己)抗体のFc及びFab断片に結合した糖鎖種が、ACPA-IgGのFabドメインに結合した糖鎖内の高度シアル化糖鎖種の目立つ存在とは異なることを示す。
【0115】
〔ACPA-IgGのFab結合型グリコシル化パターンは『従来』のIgGでのパターンとは異なる〕
発明者等は、患者から単離したACPA-IgGのFc結合型N糖鎖が、他のIgG分子のものよりも、ガラクトシル化及びシアル化の水準がより顕著な減少を呈し、一方、コアフコシル化の程度の増加を呈することを示している[11、15]。一致して、本研究で精製したACPA IgGのFc糖鎖が、対照IgGのものと比較して、より低水準のシアル化(SがACPA-IgGでは12%[IQR9-16%]に対し対照IgGでは16%[IQR13-17.5%])と、より高頻度のコアフコシル化(FがACPA-IgGでは99.3%[IQR98.7-99.7%]に対しIgGでは91.8%[IQR90.3-99.7%])とを示す。加えて、一方、発明者等のデータは、ACPA-IgGのFab結合型N糖鎖と対照IgGのFab結合型N糖鎖との間の重要な違いを明らかにした(
図12)。特に、ACPA-IgGのFabのN糖鎖は、ジガラクトシル化種(G2がIgGでは73%[IQR69.5-80%]に対しACPA-IgGでは84%[IQR74-87%])及びジシアル化された259種(S2がIgGでは27%[IQR19-30%]に対しACPA-IgGでは44%[IQR34-48.5%])の頻度が高いことを示し、ガラクトースに対するシアル酸の割合の増加(SA/GalがACPA-IgG及びIgGについて36%[IQR33-37%]対30%[IQR27-31.5%])も例証となる。加えて、発明者等は、9サンプル中の7サンプルでコアフコース及びバイセクティングGlcNAc残基の水準が高くなっていることを発見した。全体として、ACPA-IgG及び対照IgGのFabドメイン由来の糖鎖構造の間で、Fc部分由来の糖鎖の間でよりも強い糖鎖の差異が観察された。
【0116】
〔ACPA-IgGはFabグリコシル化のより高度の水準を示す〕
発明者等は、ACPA-IgG及びACPA枯渇IgG上に存在するFabグリコシル化の量を定量した。Fabグリコシル化の水準を評価するために、糖鎖を、ACPA-IgG及びACPA枯渇IgGから遊離させ、MALDI-TOF-MSにより特徴づけし、その相対量をUHPLCにより測定した。全IgGの糖鎖プロファイルはFc結合型N糖鎖により支配され(G0F、G1F、及びG2F)、一方、ACPA-IgGの全糖鎖プロファイルはFab結合型N糖鎖が大量であることを示した(G2FBS1、G2FS2、及びG2FBS2)(
図13A)。重要な点として、Fc断片又はF(ab’)2断片のいずれかについて特異的なこれらの糖形態の数々の同定、及び、全抗体分子から遊離させたこれらの糖形態の定量により、ACPA-IgG又はACPA枯渇IgGのいずれかでのFab糖鎖の全体頻度を判定することが可能となった(
図13B)。全てのACPA-IgGサンプル(n=9)は、対照IgGに比べて、Fabグリコシル化の頻度が増加することを示した。ACPA枯渇IgGのメジアンFabグリコシル化水準は、提供者間で大きな違いをもって、17%[IQR12%-26%]と評価された。対照的に、ACPA-IgGのメジアンFabグリコシル化は93%[IQR77-123%]に達した。まとめると、これらのデータは、ACPA-IgGのメジアンFabグリコシル化が対照IgGのものよりも5倍分高いことを示す。
【0117】
〔血漿及び血清由来の(ACPA)-IgGは異なるFabグリコシル化プロファイルを示す〕
発明者等は、滑液由来のACPA-IgGが、血清由来のACPA-IgGよりも炎症誘発性のFcグリコシル化プロファイルを示すことを示した[16]。この観察結果を考慮して、発明者等は、ACPA-IgG及び対照IgGのFab結合型糖鎖構造及び/又はFabグリコシル化水準でも差異が生じると仮説を立てた。血漿のACPA-IgG(n=6)のFab結合型糖鎖に比べて、滑液由来のACPA-IgG(n=3)Fab糖鎖は、ガラクトシル化、シアル化、及びバイセクティングGlcNAcの水準が低くなる傾向を示した。同様の傾向が、血漿IgGと比較した滑液対照IgGの糖鎖プロファイルでも観察された。発明者等は、次に、血漿(ACPA)-IgGのFabグリコシル化の水準及び滑液の対応する値を定量した。
図13Cに示すように、滑液ACPA-IgGで血漿ACPA-IgGと比べてFabグリコシル化の水準が有意に高いことがわかった(138%対80%)。こうした差異が対照IgGでは観察されなかった(20%対20%)ことに注意されたい。まとめると、これらの観察結果は、定量的な意味で、滑液由来のACPA-IgGで血液由来のACPA-IgGと比べてFabグリコシル化の水準がずっと顕著であることを示す。
【0118】
(実施例3)
(材料と方法)
〔ACPAへのIgGの又は抗CarP IgGのFab部分のN結合型グリコシル化の決定〕
ビオチン化CCP2又はアルギニン対照ペプチドを、異なる蛍光色に標識したストレプトアビジン四量体にコンジュゲートする。蛍光活性化セルソーティング(FACS)により、四量体陽性B細胞をソートする。2種類の異なる方法でB細胞受容体(BCR)配列を決定する。ACPA特異的B細胞を単離する一般的な方法は、Kerkman等,6月2日,2015;Ann. Rheum. Dis 0:1-7;doi:10.1136/annrheumdis-2014-207182に記載されている。
【0119】
第1の方法では、四量体陽性単一B細胞を、L細胞を発現するCD40Lの層上にあるサイトカインカクテルを有するIMDM培地内で10-12日間にわたりインビトロで培養する。これらの培養物の上清をELISAによるCCP2反応性で抗体について分析する。また、CCP2陽性上清を対照ペプチドに対する反応性の欠如についてスクリーニングする。結果、CCP2反応のうち、対照ペプチド陰性培養物mRNAをTRIzolで単離する。cDNAを合成し、免疫グロブリン配列のアンカリングリバーストランスクリプション及びネステッドPCR増幅(Anchoring Reverse Transcription of Immunoglobulin Sequences and Amplification by Nested PCR;ARTISAN PCR)を行い、最終的に、サンガー配列を有するBCR配列を決定する。
【0120】
第2の方法では、10から30個の四量体陽性B細胞を、mRNAを得るためのリシスバッファー内で直にソートし、その後、SMARTSeqのプロトコルに従いcDNA合成及び前増幅を行う。第1のプロトコルと同様に、免疫グロブリン産物をARTISAN PCRにより得た。第1の方法とは対照的に、次世代シーケンシング用PACBIOプラットフォーム上で産物をシーケンシングした。
【0121】
《結果》
単一細胞ソートの方法でシーケンシングした、82%(23/28)のIgG、0%(0/3)のIgM、及び0%(0/1)のIgAのACPA抗体が、Fab部分にNグリコシル化部位を有していた。多細胞ソート及び次世代シーケンシングの方法では、94%(17/18)のIgG、40%(2/5)のIgM、及び100%(9/9)のIgAのACPA抗体が、Fab部分にNグリコシル化部位を有していた。比較すると、健常提供者から得た全B細胞のBCRレパートリーの配列分析は、約9%の抗体のみがNグリコシル化部位を含有することを示す。このデータから、ACPA配列がFab領域にNグリコシル化部位を有する百分率は健常個体由来の他の配列での百分率よりも有意に高い。
【0122】
この配列データは、全IgG又は抗破傷風IgGと比べてACPA-IgGの高グリコシル化により分子量が増加するという早期に取得したデータに裏付けられている[5]。
【0123】
(実施例4)
〔ACPAはアセチル化ペプチド(リシン及びオルニチン)を認識・結合できる〕
(材料と方法)
モノクローナル及びポリクローナルのACPA抗体が異なるPTMを有する変異ビメンチンペプチドに結合できるか否かを決定した。Rispens博士(Sanquin)に提供されたモノクローナルACPA E4 IgG1[17]を、PTM改変ビメンチンペプチドへの反応性について分析した。RA患者由来のポリクローナルACPAは、ゲルろ過カラムにより予め精製したものであり、ACPA2.93及び2.77が精製された。
【0124】
PTM改変ビメンチンペプチドへの反応性の検出には、オルゲンテック・ダイアグノスティカ(Orgentec Diagnostica)のELISAキットを用いた。このキットは、PTM改変ビメンチンペプチド(HC52-ホモシトルリン、P62-アルギニン、P18-シトルリン、HC55-アセチル化リシン、HC56-リシン、アセチル化オルニチン、及びオルニチン)を含有するコート済みマイクロプレートからなる。バッファーは、オルゲンテック・ダイアグノスティカのELISAキットで提供され、サンプル希釈バッファー、コンジュゲート抗ヒトIgG-HRP+参照二次IgGコンジュゲート、TMB基質、及び停止溶液からなる。精製ACPA及びモノクローナルACPAを、オルゲンテック・ダイアグノスティカのサンプル希釈バッファーで所望の濃度(精製ACPA及びモノクローナルACPA E4 mAbについて30μg/ml)になるまで希釈し、ELISAプレート上でインキュベートした。ACPA結合を、コンジュゲート抗ヒトIgG-HRP及びTMBにより検出した。光学濃度は450nmで測定した(基準は600~690nm)。
【0125】
《結果》
モノクローナルACPA E4は、シトルリン、アセチル化リシン、及びアセチル化オルニチンの翻訳後修飾を有する変異ビメンチンペプチドに対して反応性である。RA患者由来のポリクローナルACPA2.93は、シトルリン及びアセチル化オルニチンの翻訳後修飾を有する変異ビメンチンペプチドに対して反応性である。ポリクローナルACPA2.93は、より程度は低いものの、アセチル化リシン及びホモシトルリンにも反応性である。また、RA患者由来のポリクローナルACPA2.77は、アセチル化オルニチン、アセチル化リシン、シトルリン、及び、より程度は低いものの、ホモシトルリンの翻訳後修飾を有する変異ビメンチンペプチドに対して反応性である(
図15)。
【0126】
(結論)
モノクローナルACPA E4及びRA患者から得たポリクローナルACPA(2.93及び2.77)は、シトルリン、アセチル化リシン、及びアセチル化オルニチンの翻訳後修飾を有する変異ビメンチンペプチドに対して反応性である。これらの異なるアミノ酸への結合は、ACPAが異なるPTMに対して交差反応性であることを示す。
【0127】
(引用文献)
1.Peschken,C.A.及びJ.M.Esdaile,Rheumatic diseases in North America’s indigenous peoples.Semin Arthritis Rheum,1999.28(6):p.368-91。
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【0128】
(実施例5)
(材料と方法)
〔患者及び健常個体〕
末梢血サンプルをRA罹患ACPA陽性患者から得た。患者は、ライデン大学メディカルセンター(LUMC)のリウマチ科の外来診療室で募集され、書面によるインフォームドコンセントを受けた。健常提供者サンプルを、同種幹細胞移植のために収集された材料の残りから取得し、既述の通り[1]、シーケンシングした。
【0129】
〔抗原特異的B細胞の単離と培養〕
ACPA発現B細胞を、既述の通り[2]、末梢血単核細胞(PBMC)から単離した。破傷風毒素(TT)特異的B細胞を、AnaTagTM Labeling Kit(サーモフィッシャー製)で調整した直接標識TT(スタテン・セラム・インスティチュート製)を用いて、単離した。細胞を、既述の通り[3]、10個の細胞のプール内で、又は、単一細胞として、ソートした。1つの患者サンプルを、以下の方法の両方で処理した。培養上清でのACPA-IgGの存在をELISAにより評価した[2]。
【0130】
〔mRNA単離及びcDNA処理〕
プールとしてソートされた細胞を、Triton X-100(シグマ製)を用いて直に溶解させ、その後、mRNA単離を行った。単一細胞培養物由来のmRNAを、TRIzol(サーモフィッシャー製)を用いて単離した。いずれの単離手法の場合も、その後、既述の通り[4]、cDNAを合成した。
【0131】
〔ARTISAN PCRとシーケンシング〕
修正[1]を加えた免疫グロブリン配列のアンカリングリバーストランスクリプション及びネステッドPCR増幅(Anchoring Reverse Transcription of Immunoglobulin Sequences and Amplification by Nested PCR;ARTISAN PCR)を用いてIg転写物を増幅した。プールした細胞のPCR産物は、PacBio RSII system(パシフィック・バイオサイエンス、米国、カリフォルニア、メンローパーク)でシーケンシングした。単一細胞培養物から得たPCR産物は、サンガーシークエンシング[5]でシーケンシングした。配列データを、Geneious R9.1.5[6]及びIMGT (High)V-QUEST tools[7]で分析した。
【0132】
《結果》
〔ACPA BCR配列でのNグリコシル化部位の局在〕
シトルリン特異的B細胞のBCR配列は、Nグリコシル化部位の頻度が目覚ましいことを示す。それらがSHM割合から独立していることは、可変領域のN糖鎖が発生及び/又は成熟の際にACPA発現B細胞に選択的な利益を与えることを示唆する。この可能性への洞察をより深めるために、発明者等は、部位の分布を調べ、そのパターンを健常提供者B細胞受容体(BCR)レパートリーで同定されたNグリコシル化部位と比較した。ACPA-IgG配列について、発明者等は、部位がCDR1領域で優勢であり、ACPA-IgGのCDR3領域では比較的に欠如しているという観察結果を得た。これらの結果は、ACPA-IgGのNグリコシル化部位分布が、CDR3領域を避け、CDR1領域での糖鎖のいくらかの選好を示すことを示唆する[8]。より具体的には、IgG重鎖、κ軽鎖、及びλ軽鎖のV遺伝子を詳細に評価することで、BCR配列の特定の位置上での部位の富化、及び、他の位置上での部位の欠如をみることができる。IgGの重鎖及びκ軽鎖のV遺伝子を考慮すると、位置29及び77上での部位の富化及びCDR3領域のいくつかの位置での部位のより低い量という同様のパターンがみられる。λ軽鎖では、位置37、51、56での部位の欠如があるようにみえるが、これらの位置は健常個体から得たBCR配列では高度に存在する(
図19)。
【0133】
(引用文献)(実施例5)
1 Koning,M.T.等,ARTISAN PCR:rapid identification of full-length immunoglobulin rearrangements without primer binding bias.Br J Haematol,doi:10.1111/bjh.14180(2016)。
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【0134】
(実施例6)
〔ACPA-Fab糖鎖の検出方法〕
〔方法1〕
発明者等は、精製ACPA-IgGのハイエンドUHPLC及び質量分析を用いた(
図22)。
【0135】
ACPA-IgGを、既述の通り[1]、CCP2マイクロビーズアッセイにより単離した。簡単に説明すると、ニュートラアビジンビーズをCCP2-ビオチン化ペプチドとともに850rmpで振盪しながら室温(RT)で1時間インキュベートすることにより、CCP2-ビオチン化ペプチドをニュートラアビジンビーズに結合させた。インキュベーション後、ビーズをPBSで洗浄し、未結合ペプチドを除去した。その後、ビーズスラリー(25%ビーズ/ml)25μlをorochemフィルタープレート上に載せた。その後、血清/血漿25~75μlを載せ、PBSを200μl/ウェルの最終体積で加え、600rpmで振盪しながら室温で2時間インキュベートした。プレートを500gで1分回転させることでフォロースルーを収集した後、プレートを500gで1分回転させることでビーズを再びPBSにより3回洗浄した。ACPAを、2×100μl 100mMギ酸(FA)で溶出させ、2M TrisでpH7まで中和した。ACPA溶出物をさらに前述と同様の技術を用いて精製した。ただし、CCP2ビーズの代わりに50%スラリーprot Gビーズ20μlを用いた。ACPA溶出物を、900rpmでRTで1時間インキュベートし、100μl 100mMギ酸で再び溶出させた。いまやACPA-IgGを含有しないこの溶出物をSpeedvacを用いて乾燥させた。糖鎖を、乾燥させたACPA-IgGを10μl 2%SDS及び5μl PBSで再可溶化させることにより遊離させ、60℃、30分で変性させた。その後、10μl PNGaseF溶液(1:1 1%NP-40/5×PBS(0.5U PNGaseF含有))を加え、オーバーナイトにわたり37℃でインキュベートした。翌日、12.5μl 2-PBバッファー及び 12.5μl 2AA標識を加え、60℃、2時間インキュベートし、遊離糖鎖を標識した[2、3]。2-AA標識糖鎖を、いくらかの修正を加えた上で既述の通り[4]、コットンチップを用いてHILIC SPEにより精製した。簡単に説明すると、各サンプルについて、コットン500μgを、200μLピペットチップ内に詰め、MQ 150μLを3回、その後、85%ACN 0.1%TFA 150μLを1回、及び、85%ACN 150μLを2回ピペッティングすることにより、調整した。サンプル(85%ACN溶液)を、25回ピペッティングすることで、反応混合液内に載せた。チップを、85%ACN 0.1%TFA 150μLを1回、及び、85%ACN 150μLを2回の組み合わせ3回で、3回洗浄した。最終的に、2-AA標識糖鎖を、MQ 30μLでコットンから溶出させ、MALDI-TOF-MS及びUHPLCで同定した。
【0136】
方法1に記載のプロトコルは、時間が掛かり、ハイエンドな質量分析機と専門技能を必要とする。そのため、日常的なルーチンで用いることのできるより便利な方法が好ましい。方法2及び3は好ましいものの、最適化実験が必要となる。レクチンSNA(セイヨウニワトコ凝集素)は、抗体(主に、Fabドメイン内に2つのシアル酸残基を持つもの)に結合する[5、6]。SNAは還元条件(これによりCH2ドメイン間の接触面が開く)下でのみ抗体Fc尾部に結合する[7、8]。ACPAのF(ab)糖鎖はジシアル化糖鎖を高い程度で含有する。ジシアル化糖鎖は(ACPA)IgGのFc尾部からは事実上欠如している。そのため、ACPAのF(ab)糖鎖を検出するためのRA患者由来の血清抗体へのSNA結合は、グリコシル化抗体の存在を可視化するための有望な戦略といえる。方法2及び方法3はSNA検出に基づくハイスループット法を確立するための2つのアプローチを開示する。
【0137】
〔方法2〕
方法2(
図3)では、ACPAを上述の通りCCP2コートマイクロビーズ(上)を用いて捕捉する。ACPA IgG分子上のF(ab)糖鎖の存在を計算するために、2種の異なるELISAを用いる。SNAベースレクチンによりシアル化ACPAを可視化するための第1のELISAを
図3(下)に示す。第2のELISAでは、ACPA IgGの量を計算するために、ベシル(Bethyl)製のキットHuman IgG ELISA Kit、E88-104)を用いる。両方のELISAで、まず、プレートを10μg/ml過ヨウ素酸処理ヤギ抗ヒトIgG捕捉抗体でコートする。200mM過ヨウ素酸を、4℃、30分間、インキュベートし、RT、1時間、ヤギ抗ヒト抗体上に存在するシアル酸を破壊した。プレートを、PBS0.05%tweenバッファーで3回洗浄し、その後、RT、1時間、1%BSA-PBS(やはり20mM過ヨウ素酸でオーバーナイトにわたり4℃で処理済み)でブロックした。プレートを洗浄したあと、溶出させたACPA溶出物(
図3、上)を、両方のプレートに加え、RT、1時間、インキュベートした。インキュベーション及び洗浄の後、一方のプレートを、2μg/mlのビオチン化SNAとともに、RTで、1時間、インキュベートし、他方のプレートを、ヤギ抗ヒトIgG HRPとともに、RTで、1時間、インキュベートした。インキュベーション後、再び、プレートを洗浄した。その後、ABTSをヤギ抗ヒトIgG HRPともに予めインキュベートしたプレートに加え、吸光度を415nmで測定した。SNAとともに予めインキュベートしたプレートに、Strep-HRPを加え、RTで、1時間、インキュベートした。インキュベート後、吸光度を同様のアプローチで測定した。結果の分析について、両方のプレートは標準曲線を含んでいた。
【0138】
SNA結合/μg ACPA-IgGを、プレート1上でのACPA-IgGへのSNA結合をプレート2上に捕捉されたACPA-IgG(μg)で割ることで、計算した。SNA結合/μg ACPA-IgGが高いほど、ACPAのFabグリコシル化の量は高くなる。結果はACPA陽性サンプルでSNA対IgGが高いことを明白に示し、ACPA由来のFabでの高度なグリコシル化量が可視化された。
【0139】
〔方法3〕
方法3では、反対の戦略を用いる。まず、血清又は血漿由来の全IgGを前に記載したマイクロビーズアッセイと同様のアプローチにより単離した。その後、SNAアガロースビーズによりSNA上にIgGを固定する。最後に、SNA溶出画分及びフロースルー画分でCCP ELISAを用いてACPA-IgGを検出する(
図4)。ACPA-IgG上に存在するジシアル化Fab糖鎖の量が高いために、CCP反応性の富化がSNA溶出画分では期待される。このアプローチは、ACPA-IgGについて実行可能であり、
図4.2に示すように、ハイスループットなやり方で用いることができる。重要な点として、IVIGサンプルのUHPLC分析からSNA溶出画分でIVIGに含有されるFabグリコシル化IgG分子を富化できたことが示されたことから(
図23)、SNAアガロースビーズが実際にこの構成でFabグリコシル化IgGを捕捉することを発明者等は確かめた。また、
図4に示すデータは、このアプローチの実現可能性を示し、ACPAの存在又はACPAの高度グリコシル化Fabドメインを可視化する。プロテインGによるIgGの事前単離が、シアル酸分子を持ち且つ血清中に存在する他の分子によるSNAの『過剰充填』を防ぐために、重要であることに注意されたい。ただし、SNA上の血清充填量を調整することで、この方法を反対に用いることもできる。
【0140】
方法2及び3の両方が、F(ab)糖鎖を検出するための、堅牢性、特異性、及び信頼性を示す。まとめると、これらの実験は、発明者等がACPAのF(ab)糖鎖を迅速で信頼できるやり方で同定するアッセイシステムを確立したことを示す。
【0141】
(引用文献)(実施例6)
1 Habets,K.L.等,Anti-citrullinated protein antibodies contribute to platelet activation in rheumatoid arthritis.Arthritis research & therapy 17,209,doi:10.1186/s13075-015-0665-7(2015)。
2 Hafkenscheid,L.等,Structural Analysis of Variable Domain Glycosylation of Anti-Citrullinated Protein Antibodies in Rheumatoid Arthritis Reveals the Presence of Highly Sialylated Glycans.Molecular & cellular proteomics :MCP 16,278-287,doi:10.1074/mcp.M116.062919(2017)。
3 Rombouts,Y.等,Extensive glycosylation of ACPA-IgG variable domains modulates binding to citrullinated antigens in rheumatoid arthritis.Annals of the rheumatic diseases 75,578-585,doi:10.1136/annrheumdis-2014-206598(2015)。
4 Selman,M.H.等,Fc specific IgG glycosylation profiling by robust nano-reverse phase HPLC-MS using a sheath-flow ESI sprayer interface.Journal of proteomics 75,1318-1329,doi:10.1016/j.jprot.2011.11.003(2012)。
5 Kasermann,F.等,Analysis and functional consequences of increased Fab-sialylation of intravenous immunoglobulin(IVIG) after lectin fractionation.PLoS One 7,e37243,doi:10.1371/journal.pone.0037243(2012)。
6 Guhr,T.等,Enrichment of sialylated IgG by lectin fractionation does not enhance the efficacy of immunoglobulin G in a murine model of immune thrombocytopenia.PLoS One 6,e21246,doi:10.1371/journal.pone.0021246(2011)。
7 Stadlmann,J.等,A close look at human IgG sialylation and subclass distribution after lectin fractionation.Proteomics 9,4143-4153,doi:10.1002/pmic.200800931(2009)。
8 Dalziel,M.,McFarlane,I.& Axford,J.S.Lectin analysis of human immunoglobulin G N-glycan sialylation.Glycoconj J 16,801-807(1999)。
【0142】
[付記]
[付記1]
サンプリング時に、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又は抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)を有しない個体が前述の疾患を発症する危険性があるか否かを判定する方法であって、前記方法は、前記個体の抗体含有サンプルが前記疾患に関連する自己抗体を含むか否かを判定すること、及び、前記抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含むか否かを判定することを備え、前記方法は、前述の判定に基づき前記個体が前記疾患を発症する危険性を判定することをさらに備える、方法。
【0143】
[付記2]
個体の抗体含有サンプルを分析する方法であって、前記方法は、前記サンプルが、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVに関連する自己抗体であって、当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含む自己抗体を含むか否かを判定することを備え、前記方法は、前記サンプルが、サンプリング時に、関節リウマチの症状、シェーグレン症候群の症状、又はAAVの症状を有しない個体のサンプルであることを特徴とする、方法。
【0144】
[付記3]
個体での、関節リウマチの症状、シェーグレン症候群の症状、又はAAVの症状の発症を予防又は遅延する方法であって、
前記方法は、
前記個体のサンプルが、前述の疾患に関連する自己抗体を含有するか否かを判定すること、及び、
前記抗体が、N結合型グリコシル化Fab部分を有するか否かを判定すること、
を備え、
前記サンプルは、前記個体の抗体含有サンプルであり、前記個体は、サンプリング時に、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVを有さず、及び、
前記方法は、
前記個体が前記疾患を示し始める前又は示し始めた時に、前記疾患用の薬剤で前記個体を治療すること、
を備える、方法。
【0145】
[付記4]
関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVを発症する危険性のある個体を監視する方法であって、前記方法は、個体の定期的抗体含有サンプルにおいて前述の疾患に関連する自己抗体の存在及び/又は発現を監視することを備え、前記方法は、前記疾患に関連する検出自己抗体が当該抗体のFab部分の1箇所以上にN結合型糖鎖を含むか否かを判定することをさらに含むことを特徴とする、方法。
【0146】
[付記5]
関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAV薬剤であって、前述の疾患の1つ以上の発症の危険性のある個体の治療方法に使用するためのものであり、前記個体は、当該個体の抗体含有サンプルにおける、Fab部分の1箇所以上にN結合型グリコシル化を含んでいる前記疾患に関連する自己抗体の検出により、危険性を判定される、薬剤。
【0147】
[付記6]
前記個体は、当該個体が関節炎症状を示し始める前又は示し初めた時に治療される、付記5に記載の薬剤。
【0148】
[付記7]
Fab部分上にN結合型糖鎖を含む抗体の測定のための抗体を精製する方法であって、
抗体サンプルを準備すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質を含む固体表面に前記サンプルを接触させること、
未結合抗体を除去し、結合抗体を前記固体表面から溶出させること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子を含む固体表面とともに溶出抗体をインキュベートすること、
未結合分子を除去すること、及び、
結合抗体が前記サンプルにおける抗体のFab部分上のN結合型糖鎖の存在を示す、抗体が前記固体表面に結合したか否かを判定すること、
を備える、方法。
【0149】
[付記8]
Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗体の測定のための抗体を精製する方法であって、
抗体サンプルを準備すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質を含む固体表面に前記サンプルを接触させること、
未結合抗体を除去すること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とともに固体表面をインキュベートすること、
未結合分子を除去すること、及び、
結合分子が前記サンプルにおける抗体のFab部分上のN結合型糖鎖の存在を示す、分子が前記固体表面に結合したか否かを判定すること、
を備える、方法。
【0150】
[付記9]
Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗体の測定のための抗体を精製する方法であって、
抗体サンプルを準備すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質を含む固体表面に前記サンプルを接触させること、
未結合抗体を除去すること、
前記抗体から糖鎖を分離する酵素とともに結合抗体をインキュベートすること、
糖鎖を収集すること、及び、
収集糖鎖がFab部分特異的糖鎖を含むか否かを判定すること、
を備え、
前記サンプルは、RA、シェーグレン症候群、又はAAVを発症する危険性のある個体の抗体サンプルであることを特徴とする、方法。
【0151】
[付記10]
Fab部分上にN結合型グリコシル化を有する抗体を精製する方法であって、
抗体サンプルを準備すること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子を含む固体表面とともに前記サンプルをインキュベートすること、
前記固体表面を洗浄し、結合抗体を収集すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質とともに収集抗体をインキュベートすること、
未結合抗体を除去すること、及び、
前記ペプチド又はタンパク質が結合抗体を有していたか否かを判定すること、
を備える、方法。
【0152】
[付記11]
前記サンプルは精製抗体を含む、付記10に記載の方法。
【0153】
[付記12]
抗体サンプルを準備すること、
修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質を含む固体表面に前記サンプルを接触させること、
未結合抗体を除去すること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とともに前記固体表面をインキュベートすること、
未結合分子を除去すること、及び、
分子が前記固体表面に結合したか否かを判定すること、
を備える、方法。
【0154】
[付記13]
前記サンプルは、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVを発症する危険性のある個体の抗体サンプルである、付記1から12のいずれか1つに記載の方法。
【0155】
[付記14]
前記サンプルは、早期抗体サンプルが自己抗体の検査で陽性であった個体の抗体サンプルである、付記1から13のいずれか1つに記載の方法。
【0156】
[付記15]
前記早期抗体サンプルの前記自己抗体の10%以下がそのFab部分上にN結合型糖鎖を含む、付記14に記載の方法。
【0157】
[付記16]
前記自己抗体は、抗修飾タンパク質抗体(AMPA)である、付記14又は15に記載の方法。
【0158】
[付記17]
前記抗体は、Fab及びFc断片を生産するために、切断される、付記1から16のいずれか1つに記載の方法。
【0159】
[付記18]
抗体サンプルが、抗修飾タンパク質抗体(AMPA)を、好ましくは、シトルリン、ホモシトルリン、及び/又はアセチル化リシンに結合するAMPAを含むか否かを判定する方法であって、
修飾タンパク質エピトープを、好ましくは、シトルリン、ホモシトルリン、又はアセチル化リシンを含む修飾タンパク質エピトープを含むペプチド又はタンパク質に前記サンプルの抗体を接触させること、
抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子に前記サンプルの抗体を接触させること、及び、
Fab部分上にN結合型糖鎖を有する抗体が前記ペプチド又はタンパク質内の前記修飾タンパク質エピトープに、好ましくは、シトルリン、ホモシトルリン、又はアセチル化リシンを含む前記修飾タンパク質エピトープに結合したか否かを判定すること、
を含む、方法。
【0160】
[付記19]
前記サンプルは、サンプリング時に関節リウマチを有しない個体のサンプルである、付記18に記載の方法。
【0161】
[付記20]
AMPAが、好ましくは、シトルリン化タンパク質抗原抗体(ACPA)、リシンアセチル化タンパク質抗原抗体(AAPA)、及び/又は抗CarP抗体が、前記個体の類似早期サンプルで検出されたことを特徴とする、付記18又は19に記載の方法。
【0162】
[付記21]
前記早期サンプル内の前記AMPAは、前記抗体のFab部分上のN結合型グリコシル化の存在の検査で陰性であった、付記20に記載の方法。
【0163】
[付記22]
前記個体は、関節炎、好ましくは、関節リウマチを発症する危険性がある、付記18から21のいずれか1つに記載の方法。
【0164】
[付記23]
糖鎖結合分子が、レクチン、好ましくは、シアル酸残基結合レクチン、好ましくは、SIGLECファミリーの一員、好ましくは、CD22又は前記レクチンのシアル酸結合部分である、付記18から22のいずれか1つに記載の方法。
【0165】
[付記24]
前記レクチンは、2箇所のシアル酸残基、好ましくは、セイヨウニワトコ凝集素(SNA)に同時に結合し得る、付記23に記載の方法。
【0166】
[付記25]
サンプル中での、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVに関連する自己抗体、AMPAなど、の検出に有用なパーツのキットであって、前記キットは、前記自己抗体に結合し得るペプチド又はタンパク質、翻訳後修飾を含むペプチド又はタンパク質など、と、抗体のFab部分上のN結合型糖鎖に結合し得る分子とを含む、キット。
【0167】
[付記26]
前記ペプチド、前記タンパク質、又は、N結合型糖鎖に結合し得る前記分子は、固体表面に結合している、付記25に記載のパーツのキット。
【0168】
[付記27]
個体が、Fab部分上にN結合型糖鎖を有する、関節リウマチ、シェーグレン症候群、又はAAVに関連する自己抗体を含むか否かを判定する方法であって、前記方法は、
前記自己抗体に結合し得るペプチド又はタンパク質に前記個体のサンプルを含むB細胞を接触させることと、
前記ペプチド又はタンパク質に結合したB細胞を未結合B細胞から分離すること、
少なくとも、結合B細胞のB細胞受容体の、重鎖可変領域のCDR1及び/又は軽鎖可変領域のCDR1をコードする核酸をシーケンシングすること、及び、
前記核酸配列がN結合型グリコシル化コンセンサスアミノ酸配列をコードしているか否かを判定すること、
を含む、方法。
【0169】
[付記28]
少なくとも重鎖可変領域の複数のCDR及び/又は軽鎖可変領域の複数のCDRをシーケンシングすることを含む、付記27に記載の方法。
【配列表】