(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】電池用電解液及びリチウム電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20240524BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240524BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020102684
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 正坤
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】武 志俊
(72)【発明者】
【氏名】岳 喜岩
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-101621(JP,A)
【文献】特表2018-504759(JP,A)
【文献】特開2007-048545(JP,A)
【文献】国際公開第2010/053162(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0325880(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101673852(CN,A)
【文献】特開2002-093462(JP,A)
【文献】特開2004-014352(JP,A)
【文献】特開2020-198276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/39
H01M 6/00-6/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と電解質とを含む電池用電解液であって、
前記溶媒は、
2-フルオロピリジンを含
み、かつ、2-フルオロピリジン以外の溶媒の含有割合が2-フルオロピリジンの全質量に対して10質量%以下である、電池用電解液。
【請求項2】
前記電解質の濃度が0.5~10Mである、請求項1に記載の電池用電解液。
【請求項3】
前記溶媒は、2-フルオロピリジンのみからなる、請求項1又は2に記載の電池用電解液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電池用電解液を含有する、リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電解液及びリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属は比容量が非常に大きいため、充電式リチウム金属電池(いわゆるLMB)は魅力的なエネルギー貯蔵デバイスの1つとして認識されている。例えば、充電式リチウム金属電池の代表例であるリチウムイオン電池の分野では、電池性能をより向上させるべく、種々の電解液が研究されている。
【0003】
一般的に、前記電解液において、有機カーボネート化合物(溶媒)がリチウムイオン電池の電解質の骨格組成としてよく使用される。また、これに替わる化合物として、エーテル化合物も知られており、斯かるエーテル化合物を含む電解質は、有機カーボネート化合物を含む電解質に比べてリチウム金属に対して優れた安定性を示すことから有望視されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Y.He,Y.Zhang,P.Yuら、Journal of Energy Chemistry,2020,45,1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機カーボネート化合物はリチウム金属に対して本質的な不安定性を有していることから、放電容量が高くなりにくく、応用には至りにくいという問題があった。また、エーテル化合物は、酸化に対する耐性が低いため、高電圧(例えば、4.0V以上)の正極材料を備えるリチウム金属電池等に対しては、その使用が制限されやすいものであった。このような事情から、安定性に優れ、電池に優れた放電容量を与えることができる電池用材料の開発が強く要望されている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、安定性に優れ、電池に優れた放電容量を与えることができる電池用電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、分子内に1個以上のピリジン骨格及び1個以上のハロゲン原子を有する化合物を溶媒として用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
溶媒と電解質とを含む電池用電解液であって、
前記溶媒は、分子内に1個以上のピリジン骨格及び1個以上のハロゲン原子を有する化合物を含む、電池用電解液。
項2
前記化合物は、下記一般式(1)
【0009】
【0010】
(ここで、式(1)中、R11、R12、R13、R14及びR15は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロゲン原子以外の1価の基を示し、R11、R12、R13、R14及びR15の少なくとも一つはハロゲン原子である)
で表されるピリジン化合物、
下記一般式(2)
【0011】
【0012】
(ここで、式(2)中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロゲン原子以外の1価の基を示し、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28の少なくとも一つはハロゲン原子である)
で表されるビピリジン化合物、及び、
下記一般式(3)
【0013】
【0014】
(ここで、式(3)中、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37、R38、R39、R40及びR41は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロゲン原子以外の1価の基を示し、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37、R38、R39、R40及びR41の少なくとも一つはハロゲン原子である)
で表されるトリピリジン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の電池用電解液。
項3
前記ハロゲン原子がフッ素である、項1又は2に記載の電池用電解液。
項4
項1~3のいずれか1項に記載の電池用電解液を含有する、リチウム電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電池用電解液は、安定性に優れ、また、各種電池の電解質に適用することで、斯かる電池に優れた放電容量を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】試験例1(イオン伝導度試験)の測定結果を示すグラフである。
【
図2】試験例2(電気化学的ウインドウ)の測定結果を示すグラフである。
【
図3】試験例3(LiFePO
4カソードを使用した電池性能)の評価結果を示すグラフである。
【
図4】試験例4(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2カソードを使用した電池性能)の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0018】
1.電池用電解液
本発明の電池用電解液は、溶媒と電解質とを含み、特に、前記溶媒は、分子内に1個以上のピリジン骨格及び1個以上のハロゲン原子を有する化合物を含むことに特徴を有する。斯かる電池用電解液は、安定性に優れるものであり、具体的には、イオン伝導率が高い上に、長期保管後もイオン伝導率の低下が起こりにくい。また、本発明の電池用電解液を各種電池(特にリチウム電池)に対する電解質材料として適用することで、斯かる電池に優れた放電容量を与えることができる。
【0019】
(溶媒)
本発明の電池用電解液において、溶媒は、分子内に1個以上のピリジン骨格及び1個以上のハロゲン原子を有する化合物を含む。本明細書において、「分子内に1個以上のピリジン骨格及び1個以上のハロゲン原子を有する化合物」を、以下では単に「化合物A」と表記する。
【0020】
化合物Aのハロゲン原子の種類は特に限定されない。ハロゲン原子は、フッ素(フルオロ基)、塩素(クロロ基)、臭素(ブロモ基)を挙げることができ、中でもハロゲン原子は、フッ素であることが好ましい。
【0021】
化合物Aにおいて、ピリジン骨格とは、ピリジン環由来の構造である。化合物Aにおいて、ピリジン骨格の数は1個以上である限りは特に限定されない。化合物Aを製造しやすく、電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、化合物Aのピリジン骨格の数は、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましく、1個又は2個であることがさらに好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0022】
化合物Aにおいて、ハロゲン原子の数は1個以上である限りは特に限定されない。化合物Aを製造しやすく、電池(特にリチウム電池)に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、ハロゲン原子の数は、1~3個であることが好ましく、1個又は2個であることがより好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0023】
従って、化合物Aは、1個のピリジン骨格と1個のハロゲン原子を有する化合物であることが好ましく、中でも、1個のピリジン骨格と1個のフッ素原子(フルオロ基)を有する化合物であることが特に好ましい。
【0024】
化合物Aにおいて、ハロゲン原子は、ピリジン骨格に直接結合することができ、その結合位置は特に限定されない。
【0025】
前記化合物Aは、分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上のハロゲン原子とを有する化合物である限り、その種類は特に限定されない。例えば、化合物Aは下記一般式(1)で表されるピリジン化合物、下記一般式(2)で表されるビピリジン化合物、及び、下記一般式(3)で表されるトリピリジン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とすることができる。
【0026】
【0027】
ここで、式(1)中、R11、R12、R13、R14及びR15は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロゲン原子以外の1価の基を示す。式(1)中、R11、R12、R13、R14及びR15の少なくとも一つはハロゲン原子である。
【0028】
【0029】
ここで、式(2)中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロゲン原子以外の1価の基を示す。式(2)中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28の少なくとも一つはハロゲン原子である。
【0030】
【0031】
ここで、式(3)中、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37、R38、R39、R40及びR41は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロゲン原子以外の1価の基を示し、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37、R38、R39、R40及びR41の少なくとも一つはハロゲン原子である。
【0032】
式(1)~(3)において、ハロゲン原子は特に限定されない。電解液の安定性が向上し、電池に優れた放電容量をもたらしやすいという点で、ハロゲン原子はフッ素、塩素又は臭素であることが好ましく、中でもフッ素であることが特に好ましい。
【0033】
式(1)~(3)において、ハロゲン原子以外の1価の基としては特に限定されず、本発明の効果が阻害されない限りは種々の基を選択することができる。例えば、1価の基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、エステル基、アリール基、アミノ基、アミド基、硫酸基、リン酸基等を挙げることができる。1価の基がアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、エステル基であれば、炭素数は1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3である。1価の基がアリール基であれば、炭素数は6~20、好ましくは6~10である。1価の基の具体例としては、メチル基、エチル基等を挙げることができる。
【0034】
式(1)において、R11、R12、R13、R14及びR15は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子であることが好ましい。中でも、R11、R12、R13、R14及びR15の少なくとも一つがハロゲン原子(好ましくはフッ素)であって、残りは水素原子であることが特に好ましい。この場合、電解液は、安定性が特に向上し、電池に特に優れた放電容量をもたらしやすい。例えば、式(1)において、R12及びR14のいずれか一方をハロゲン原子(好ましくはフッ素)とすることができる。式(1)で表されるピリジン化合物としては、2-フルオロピリジン、3-フルオロピリジン等が例示される。
【0035】
式(2)において、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子であることが好ましい。中でも、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28の少なくとも一つがハロゲン原子(好ましくはフッ素)であって、残りは水素原子であることが特に好ましい。この場合、電解液は、安定性が特に向上し、電池に特に優れた放電容量をもたらしやすい。例えば、式(2)において、R22及びR24のいずれか一方をハロゲン原子(好ましくはフッ素)とすることができる。
【0036】
式(3)において、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37、R38、R39、R40及びR41は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子であることが好ましい。中でも、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37、R38、R39、R40及びR41の少なくとも一つがハロゲン原子(好ましくはフッ素)であって、残りは水素原子であることが特に好ましい。この場合、電解液は、安定性が特に向上し、電池に特に優れた放電容量をもたらしやすい。例えば、式(3)において、R32及びR34のいずれか一方をハロゲン原子(好ましくはフッ素)とすることができる。
【0037】
化合物Aの製造方法は特に制限されず、例えば、ピリジン化合物を原料とする公知のハロゲン化反応によって、化合物Aを得ることができる。また、化合物Aは、市販品からも入手することができる。
【0038】
本発明の電池用電解液において、溶媒に含まれる化合物Aは1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることもできる。また、溶媒は、本発明の効果が阻害されない限り、化合物A以外に他の溶媒を含むこともでき、他の溶媒としては、電池用電解液に使用される公知の溶媒を広く挙げることができ、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,3-ジオキソラン、1,2-ジメトキシエタン等を挙げることができる。他の溶媒の含有割合は、化合物Aの全質量に対して50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下とすることができる。溶媒は1種又は2種以上の化合物Aのみで構成されていてもよい。
【0039】
(電解質)
本発明の電池用電解液は、電解質を含む。電解質の種類は特に限定されず、例えば、電池用電解液として用いられている公知の電解質を広く適用することができる。電解質としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)を挙げることができる。
【0040】
リチウム塩としては、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO4、LiBF4、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(シュウ酸塩)ホウ酸塩(LiDFOB)等が例示される。
【0041】
ナトリウム塩としては、NaClO4、NaBF4、ナトリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩(NaOTf)等が例示される。
【0042】
ナトリウム塩としては、KPF6、カリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(KTFSI)等が例示される。
【0043】
電解質は、リチウム塩であることが好ましい。この場合、高いイオン伝導率を有すると共に安定性が特に高く、また、電池に特に優れた放電容量をもたらしやすい。
【0044】
その他、電解質には、本発明の効果が阻害されない程度であれば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等のポリマーベースの電解質を含むこともできる。
【0045】
(電池用電解液)
本発明の電池用電解液は、前記溶媒に前記電解質が溶解又は分散している。電池用電解液において、溶媒中の電解質の濃度は特に限定されず、例えば、公知の電池用電解液の電解質濃度と同様の範囲とすることができる。本発明の電池用電解液が高いイオン伝導率を有すると共に安定性が高くなりやすく、電池に特に優れた放電容量をもたらしやすいという点において、本発明の電池用電解液における電解質の濃度は、0.5~10Mとすることが好ましく、0.7~4Mとすることがより好ましく、0.8~2Mとすることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の電池用電解液は、前記溶媒及び電解質以外に、本発明の効果が阻害されない程度であれば、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば、公知の電解質添加剤、具体的には、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等を挙げることができる。本発明の電池用電解液前記溶媒及び電解質以外に、電解質添加剤を含む場合、電気化学的性能を向上させる効果が期待でき、特に、前述の化合物A以外の溶媒をさらに電解質添加剤と組み合わせることで、その効果がさらに高まる。
【0047】
本発明の電池用電解液は、高いイオン伝導率を有し、長期保存したとしてもイオン伝導率の低下が起こりにくい。また、本発明の電池用電解液は、リチウムイオン移動性が高速であり、高電圧安定性にも優れるものとなり、従来の有機カーボネート化合物やエーテル化合物を含む電解液に比べて優れた性能を有する。しかも、本発明の電池用電解液は簡便な方法で製造することもできる。
【0048】
従って、本発明の電池用電解液は、各種電池に適用することができ、電池に優れた放電容量を与えることができ、サイクル安定性にも優れるものとなる。本発明の電池用電解液は、リチウム金属電池、特には、充電式リチウム金属電池(いわゆるLMB)に好適に使用することができる。
【0049】
2.電池
本発明の電池用電解液が適用され得る電池に構成は特に限定されず、電池用電解液を備える限り、その他の構成は公知の電池の構成と同様とすることができる。斯かる電池は、1次電池であってもよいし、2次電池であってもよい。電池の大きさ及び形状は、電池が適用される用途等に応じて適宜決定することができる。
【0050】
電池の構成例としては、電池用電解液の他、カソード、アノード及びセパレータを備えることができる。
【0051】
カソードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。カソードの活物質としては、公知の活物質を広く適用することができ、例えば、LiFePO4、LiCoO2、LiNixMnyCozO2(0.3≦x≦0.95、0.025≦y≦0.4、0.025≦y≦0.4)、LiNi1-y-zCoyAlzO2(0.05≦y≦0.15、0<z≦0.05)、LiMn2O4、LiMPO4(M=Co、Ni)、Li2FePO4F、V2O5、LiXV3O8(1.5≦x≦5.5)、Li1-XVOPO4(0.5≦x≦0.92)、Li4Ti5O12、LiFeMO4(M=Mn、Si)、S、Se、SeS2、Na3V2(PO4)3、Na2MnP2O7、NaFePO4、Na3MnZr(PO4)3等を挙げることができる。
【0052】
アノードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。アノードの活物質としては、Li、Na、K、Mg、Al、Zn等の金属;グラファイトおよび他の炭素材料;Si(C)ベース、Si(O)ベース又はSnベースの合金あるいは金属酸化物;Li4Ti5O12;等を挙げることができる。
【0053】
セパレータとしては、従来、電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等の材質からなり、多孔質膜、不織布、織布等の形態の材料を用いることができる。
【0054】
電池を組み立てる方法も特に制限はなく、公知の電池の組み立て方法と同様の方法を採用できる。
【0055】
上記電池は、本発明の電池用電解液を含有することから、優れた放電容量を有し、また、サイクル安定性にも優れ、特にリチウム電池に適用することで、それらの諸性能がさらに向上しやすい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
電解質としてリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI塩、Wako-Chem製)1.0mmolを、溶媒である1mLの2-フルオロピリジン(2-FP、98%、シグマアルドリッチ製))に溶解することで、電解質濃度が1.0Mである電解液(LiTFSI-FP)を調製した。電解液の調製は、Arを充填したグローブボックス内(H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下)で実施した。
【0058】
(試験例1;イオン伝導度試験)
実施例1で得られた電解液30μLで湿らせたポリプロピレン製セパレータ(厚み0.025mm、直径16mm)を2つのステンレス鋼ブロッキング電極で挟んで試験セルを形成した。斯かる試験セルを用い、10℃にて105~0.1Hzの周波数範囲において、5mVのAC振幅下で電気化学インピーダンスを測定した。試験セルは、Arを充填したグローブボックス内(H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下)で構築した。
【0059】
(試験例2;電気化学的ウインドウ)
実施例1で得られた電解液30μLで湿らせたポリプロピレン製セパレータ(厚み0.025mm、直径16mm)を用いて、CR2025タイプのコイン電池を組み立てた。作用電極としてステンレス鋼プレートを、参照電極と対極としてLi金属(厚み0.1mm)を使用し、作用電極及び対極でセパレータを挟んだ。このコイン電池を、米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いて、電気化学的ウインドウを評価した。具体的には、30℃にて、スキャンレート0.1mVs-1で、2.0~6.0Vの電位範囲の線形スイープボルタンメトリーで電気化学的ウインドウを評価した。コイン電池は、Arを充填したグローブボックス内(H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下)で構築した。
【0060】
(試験例3;LiFePO4カソードを使用した電池性能)
実施例1で得られた電解液30μLで湿らせたポリプロピレン製セパレータ(厚み0.025mm、直径16mm)を用いて、CR2025タイプのコイン電池を組み立てた。具体的には、カソードとしてLiFePO4(宝泉社製、厚み0.05mm、1.5mAhcm-2)が形成されたアルミニウム箔(厚み0.05mm)を、アノードとして金属リチウム(宝泉社製、厚み0.1mm、1.5mAhcm-2)が形成された銅箔(厚み0.01mm)を使用し、これらの電極で前記セパレータを挟むことでコイン電池を形成した。このコイン電池を、LANDバッテリー試験システムを使用して電気化学的性能(電池性能)を測定した。ここで、測定温度は30℃、カットオフ電圧は2.5~4.0Vとした。コイン電池は、Arを充填したグローブボックス内(H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下)で構築した。
【0061】
(試験例4;LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2カソードを使用した電池性能)
実施例1で得られた電解液30μLで湿らせたポリプロピレン製セパレータ(厚み0.025mm、直径16mm)を用いて、CR2025タイプのコイン電池を組み立てた。具体的には、カソードとしてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(宝泉社製、厚み0.05mm、1.5mAhcm-2)が形成されたアルミニウム箔(厚み0.05mm)を、アノードとして金属リチウム(宝泉社製、厚み0.1mm、1.5mAhcm-2)が形成された銅箔(厚み0.01mm)を使用し、これらの電極で前記セパレータを挟むことでコイン電池を形成した。このコイン電池を、LANDバッテリー試験システムを使用して電気化学的性能(電池性能)を測定した。ここで、測定温度は30℃、カットオフ電圧は2.7~4.3Vとした。コイン電池は、Arを充填したグローブボックス内(H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下)で構築した。
【0062】
(評価結果)
図1は、試験例1(イオン伝導度試験)の測定結果を示すグラフである。このグラフ中の挿入されている写真に示すように、LiTFSI塩は2-FPに溶解していた。また、
図1の結果から、電解液(LiTFSI-FP)のイオン伝導率は10℃で最大7.54×10
-4Scm
-1に達することがわかり、また、1回目の測定後、7日経過してもイオン伝導率の変化は小さく、優れた長期安定性を示すこともわかった。これらの結果は、LiTFSI塩(電解質)と2-FP(溶媒)との間に優れた溶媒和効果が発現していることを支持しているといえる。
【0063】
図2は、試験例2(電気化学的ウインドウ)の測定結果を示すグラフである。なお、
図2において、グラフ中の挿入図は一部拡大図である。
図2から、酸化開始しきい値が4.3V以上であることがわかり、従来(市販品)の電解液よりもはるかに高いものであった。例えば、前述の非特許文献1等に代表される、1MのLiTFSI/DOL/DME電解液(DOLは1,3-ジオキソラン、DMEは1,2-ジメトキシエタンを意味する)では、酸化開始しきい値は約3.5Vである。
【0064】
従って、実施例1で得られた電解液は、電圧安定性を備えたものであるといえ、高エネルギー密度バッテリーの実現に有望な電池材料であるといえる。
【0065】
図3は、試験例3(LiFePO
4カソードを使用した電池性能)の評価結果を示すグラフである。
図3(a)は、サイクル数と容量(Y1軸)、及び、サイクル数とクーロン効率(Y2軸)との関係を示すグラフ、
図3(b)は、容量と電圧との関係を示すグラフである。
【0066】
図3(a)から、LiFePO
4カソードを使用した電池は、98.72%という優れた初期効率(サイクル1回目)を有していることがわかった。また、30μLという少量の電解液の使用でさえ、電流密度が0.45mAcm
-2であり、1.72mAh(30℃)という高い放電容量を示した。さらに、電圧プロファイル(
図3(b))には明確な電位プラトーも認められ、サイクルプロセス中において電解液が良好な可逆特性を有することもわかった。
【0067】
従って、従来の電解液と比較すると、実施例で得られた電解液は、電解液と金属Liとの間の副反応を防止しやすく、堅牢な電極-電解液界面を形成することでLiデンドライトの形成が抑制され、優れた充放電特性が実現されていると推測される。
【0068】
図4は、試験例4(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2カソードを使用した電池性能)の評価結果を示すグラフである。
図4(a)は、サイクル数と容量(Y1軸)、及び、サイクル数とクーロン効率(Y2軸)との関係を示すグラフ、
図4(b)は、容量と電圧との関係を示すグラフである。
【0069】
図4から、最大4.3Vという高電圧であっても高い放電容量と優れたサイクル安定性を示すことがわかり、
図3の場合と同様、優れた充放電特性が実現されていると推測される。電解液に含まれる2-FPは、優先的な還元または酸化に基づいて界面の安定化に寄与するものと思われる。これによってカソード材料での格子酸素曝露が防止されやすく結果として、リチウム金属電池の高電圧安定性を向上させたと推察される。
【0070】
以上より、実施例で得られた電池用電解液は、高いイオン伝導率を有し、長期保存したとしてもイオン伝導率の低下が起こりにくいことが実証された。また、斯かる電解液は、リチウムイオン移動性が高速であり、高電圧安定性にも優れ、電池に優れた放電容量を与えることができることがわかった。