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特許7493202被膜を備える摺動部品及び被膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】被膜を備える摺動部品及び被膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20240524BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20240524BHJP
   F16C 17/00 20060101ALI20240524BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
F16C33/12 A
F16C33/14 Z
F16C17/00 Z
C23C26/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020145828
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040897
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-04-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月13日 日本機械学会第27回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2019)論文集において発表 令和1年11月21日-22日 フェニックス・プラザ(福井市)で開催された日本機械学会第27回機械材料・材料加工技術講演会において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 晃信
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 初彦
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-239866(JP,A)
【文献】特開平07-145816(JP,A)
【文献】特開2002-038235(JP,A)
【文献】特開2019-203196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26,33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜を備える摺動部品であって、
前記被膜は、前記摺動部品の摺動面に設けられる被膜本体を備え、
前記被膜本体は、
前記摺動部品の摺動面に立設して形成されており、お互いに隙間を設けて配置される複数の凸部と、
前記凸部の間の隙間に充填されて形成される充填部と、
を有し、
前記凸部及び前記充填部の一方が硬質材で形成されており、他方が、前記硬質材より硬さが小さい軟質材で形成されている、被膜を備える摺動部品において、
前記凸部は、前記軟質材で形成されており、前記充填部は、前記硬質材で形成されている、被膜を備え、
前記凸部は、前記凸部の表面側に設けられる第一層と、前記第一層と前記摺動部品との間に設けられる第二層と、を有し、前記第一層は、前記第二層よりも硬さが小さい、被膜を備える摺動部品。
【請求項2】
請求項1に記載の被膜を備える摺動部品であって、
前記被膜本体は、前記凸部と前記充填部とが格子状に形成されており、前記摺動部品の摺動方向に対して、前記凸部と前記充填部とが交互に位置している、被膜を備える摺動部品。
【請求項3】
請求項に記載の被膜を備える摺動部品であって、
前記凸部の軟質材はZnであり、前記充填部の硬質材はCu-Sn合金である、被膜を備える摺動部品。
【請求項4】
請求項に記載の被膜を備える摺動部品であって、
前記凸部は、前記第一層がSnで形成されると共に、前記第二層がZnで形成されており、
前記充填部の硬質材は、Cu-Sn合金である、被膜を備える摺動部品。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1つに記載の被膜を備える摺動部品であって、
前記被膜は、前記被膜本体の表面に設けられる表面層を有している、被膜を備える摺動部品。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1つに記載の被膜を備える摺動部品であって、
前記摺動部品は、軸受である、被膜を備える摺動部品。
【請求項7】
被膜の形成方法であって、
摺動部品の摺動面にお互いに隙間を設けて立設させて、第一材料で複数の凸状体を形成する凸状体形成工程と、
前記凸状体の間の隙間に第二材料を充填して充填体を形成する充填体形成工程と、
前記凸状体及び前記充填体を形成した摺動部品を熱処理して、前記凸状体及び前記充填体の一方を硬質材で形成し、他方を前記硬質材より硬さが小さい軟質材で形成する熱処理工程と、
を備える、被膜の形成方法。
【請求項8】
請求項に記載の被膜の形成方法であって、
前記充填体形成工程は、前記凸状体の間の隙間に前記第二材料を充填すると共に、前記凸状体の表面に前記第二材料を被覆して前記充填体を形成する、被膜の形成方法。
【請求項9】
請求項またはに記載の被膜の形成方法であって、
前記摺動部品は、Cu合金で形成されており、
前記第一材料は、Znであり、
前記第二材料は、Snであり、
前記熱処理工程は、熱処理温度が180℃以上350℃以下である、被膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被膜を備える摺動部品及び被膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジン部品や航空機用エンジン部品等の機械部品には、軸受等の摺動部品が用いられている。このような摺動部品は、摩擦特性を高めるために、相手材との摺動面に低摩擦材料等を被覆することが行われている。特許文献1には、摺動部表面にめっき膜を成膜し、その最表面に分散したダイヤモンド微粒子を共析させることにより、摺動抵抗の低い摺動面を形成することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-172030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軸受等の摺動部品の摩擦特性を向上させるために、摺動部品の摺動面の全面に硬質膜を被覆し、更に硬質膜の全面に低摩耗性薄膜を被覆することが行われている。しかし、相手材との摺動により低摩耗性薄膜が摩耗した場合には、摺動抵抗が上昇する可能性がある。
【0005】
そこで本開示の目的は、摩擦特性の良い、被膜を備える摺動部品及び被膜の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る被膜を備える摺動部品において、前記被膜は、前記摺動部品の摺動面に設けられる被膜本体を備え、前記被膜本体は、前記摺動部品の摺動面に立設して形成されており、お互いに隙間を設けて配置される複数の凸部と、前記凸部の間の隙間に充填されて形成される充填部と、を有し、前記凸部及び前記充填部の一方が硬質材で形成されており、他方が、前記硬質材より硬さが小さい軟質材で形成されており、前記凸部は、前記軟質材で形成されており、前記充填部は、前記硬質材で形成されている、被膜を備え、前記凸部は、前記凸部の表面側に設けられる第一層と、前記第一層と前記摺動部品との間に設けられる第二層と、を有し、前記第一層は、前記第二層よりも硬さが小さい、被膜を備える。
【0007】
本開示に係る被膜を備える摺動部品において、前記被膜本体は、前記凸部と前記充填部とが格子状に形成されており、前記摺動部品の摺動方向に対して、前記凸部と前記充填部とが交互に位置していてもよい。
【0012】
本開示に係る被膜を備える摺動部品において、前記凸部の軟質材はZnであり、前記充填部の硬質材はCu-Sn合金であってもよい。
【0013】
本開示に係る被膜を備える摺動部品において、前記凸部は、前記第一層がSnで形成されると共に、前記第二層がZnで形成されており、前記充填部の硬質材は、Cu-Sn合金であってもよい。
【0014】
本開示に係る被膜を備える摺動部品において、前記被膜は、前記被膜本体の表面に設けられる表面層を有していてもよい。
【0015】
本開示に係る被膜を備える摺動部品において、前記摺動部品は、軸受であってもよい。
【0016】
本開示に係る被膜の形成方法は、摺動部品の摺動面にお互いに隙間を設けて立設させて、第一材料で複数の凸状体を形成する凸状体形成工程と、前記凸状体の間の隙間に第二材料を充填して充填体を形成する充填体形成工程と、前記凸状体及び前記充填体を形成した摺動部品を熱処理して、前記凸状体及び前記充填体の一方を硬質材で形成し、他方を前記硬質材より硬さが小さい軟質材で形成する熱処理工程と、を備える。
【0017】
本開示に係る被膜の形成方法において、前記充填体形成工程は、前記凸状体の間の隙間に前記第二材料を充填すると共に、前記凸状体の表面に前記第二材料を被覆して前記充填体を形成してもよい。
【0018】
本開示に係る被膜の形成方法において、前記摺動部品は、Cu合金で形成されており、前記第一材料は、Znであり、前記第二材料は、Snであり、前記熱処理工程は、熱処理温度が180℃以上350℃以下であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
上記構成によれば、被膜を備える摺動部品の摩擦特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の実施形態において、被膜を備える摺動部品の構成を示す図である。
図2】本開示の実施形態において、凸部のみが複数の層で形成されている被膜の構成を示す図である。
図3】本開示の実施形態において、被膜本体の表面に表面層を有する被膜の構成を示す図である。
図4】本開示の実施形態において、被膜の形成方法を示すフローチャートである。
図5】本開示の実施形態において、凸状体形成工程を説明するための図である。
図6】本開示の実施形態において、充填体形成工程を説明するための図である。
図7】本開示の実施形態において、凸状体の間の隙間に第二材料を充填すると共に、凸状体の表面に第二材料を被覆して充填体を形成した構成を示す図である。
図8】本開示の実施形態において、凸部がZnで形成され、充填部がSnで形成された被膜の構成を示す図である。
図9】本開示の実施形態において、凸部がZnで形成され、充填部がCu-Sn合金で形成された被膜の構成を示す図である。
図10】本開示の実施形態において、凸部の第一層がSnで形成され、第二層がZnで形成され、充填部がCu-Sn合金で形成された被膜の構成を示す図である。
図11】本開示の実施形態において、凸部がZnで形成され、充填部がCu-Sn合金で形成され、表面層がCu-Sn合金で形成された被膜の構成を示す図である。
図12】本開示の実施形態において、実施例1から5の試験片の構成を示す図である。
図13】本開示の実施形態において、比較例1の試験片の構成を示す図である。
図14】本開示の実施形態において、摩擦摩耗特性評価結果を示すグラフである。
図15】本開示の実施形態において、摩擦摩耗特性評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本開示の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、被膜を備える摺動部品10の構成を示す図であり、図1(a)は、被膜を備える摺動部品10の断面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A方向の断面図である。被膜を備える摺動部品10は、摺動部品12と、摺動部品12の摺動面12aに設けられる被膜14と、を備えている。
【0022】
摺動部品12は、例えば、自動車用のエンジン部品や航空機用エンジン部品等の機械部品に用いられる摺動部品である。より具体的には、摺動部品12は、例えば、航空機用エンジンの燃料ポンプ部品の軸受、自動車用過給機の軸受、滑り軸受の摺動部等とすることができる。摺動部品12は、レシプロエンジンのクランクメタル、ピストンピン、ピストンスカート等とすることも可能である。摺動部品12の構成材料は、特に限定されないが、Cu(銅)合金等の金属材料で形成することが可能である。摺動部品12がCu合金で形成されている場合には、摺動部品12は、青銅や黄銅等のCu合金で形成することができる。
【0023】
被膜14は、摺動部品12の摺動面12aに設けられる被膜本体16を備えている。被膜本体16は、複数の凸部18と、充填部20とを有している。被膜本体16は、複数の凸部18と充填部20とが一体的に形成されている。
【0024】
複数の凸部18は、摺動部品12の摺動面12aに立設して形成されており、お互いに隙間を設けて配置されている。凸部18は、摺動部品12の摺動面12aから被膜本体16の表面まで形成されている。凸部18は、摺動部品12の摺動面12aに対して略垂直に設けることができる。凸部18の形状は、特に限定されないが、角柱状(三角柱状、四角柱状等)、円柱状等の柱状とすることができる。凸部18の幅は、例えば、500μmとするとよい。凸部18の高さは、例えば、5μm未満(好ましくは0.1~1μm)とするとよい。凸部18と凸部18との間の隙間は、例えば、50μmから100μmとすることができる。
【0025】
充填部20は、複数の凸部18の隙間に充填されて形成されている。充填部20は、摺動部品12の摺動面12aから被膜本体16の表面まで形成されている。充填部20は、複数の凸部18の間に隙間なく充填されているとよい。充填部20の高さは、凸部18の高さと同じにすることができる。
【0026】
被膜本体16は、凸部18と充填部20とが格子状に形成されており、摺動部品12の摺動方向に対して、凸部18と充填部20とが交互に位置している構成することができる。被膜本体16が格子状である場合には、凸部18はセグメントを構成し、充填部20は格子を構成することができる。被膜本体16を格子状に構成することにより、摺動部品12の摺動方向に対して、凸部18と充填部20とが交互に位置するようにすることができるので、後述するように被膜14の摩擦特性を良好にして耐摩耗性をより向上させることが可能となる。被膜本体16は、凸部18と充填部20とを正格子状や千鳥格子状等に配列させて格子状に構成することが可能である。
【0027】
凸部18及び充填部20の一方は、硬質材で形成されており、他方は、硬質材よりも硬さが小さい軟質材で形成されている。このように凸部18及び充填部20は、異なる硬さで形成されており、一方が他方よりも硬さが大きく、他方が一方よりも硬さが小さくなるように形成されている。凸部18が硬質材で形成されている場合には、充填部20は軟質材で形成される。凸部18が軟質材で形成されている場合には、充填部20は硬質材で形成される。
【0028】
凸部18及び充填部20において、硬質材で形成されている一方は、主に、摺動時に荷重を支持する機能を有しており、軟質材で形成されている他方は、主に、すべりを高める機能を有している。なお、凸部18及び充填部20の硬さについては、ビッカース硬さ、ブリネル硬さ、ロックウェル硬さ等の硬さで対比可能である。凸部18及び充填部20の硬さは、例えば、摺動部品12の使用環境での硬さとすることができる。
【0029】
凸部18及び充填部20は、異なる硬さで形成されているので、凸部18及び充填部20の剛性(ヤング率)も異なっている。被膜本体16の表面に硬さと剛性といった機械的性質の異なる薄膜層が複合的に存在することにより、摺動時に低摩耗を継続的に維持することができる。例えば、凸部18が硬質材で形成されており、充填部20が軟質材で形成されている場合には、摺動時に充填部20の軟質材が凸部18の表面に供給されるので、摩擦係数を低減することができる。この理由は、硬質材の上に、軟質材のようなせん断抵抗の低い材料が薄膜状に存在すると低摩耗を発現するからである。そして、摺動時に被膜本体16の表面が徐々に摩耗した場合でも、被膜本体16の表面に硬質材と軟質材とが複合的に継続して存在することにより、摺動時に低摩耗を継続的に維持することができる。更に、剛性が低い層が接触荷重負荷に伴い変形し凹部を形成することで、弾性流体潤滑機構を発現し、油剤の供給源として機能することで、低摩擦を維持する。
【0030】
更に、被膜本体16の表面に硬質材と軟質材とが複合的に存在することにより、相手材との凝着部の面積増加を抑制し、さらに油剤を巻き込んだ状態とすることで、摩擦特性が良好になり、耐摩耗性を向上することができる。被膜本体16が格子状に構成されている場合には、摺動部品12の摺動方向に対して、凸部18の面と、充填部20の面とが交互に位置するようにすることができるので、相手材との凝着部の引き延ばしをせん断し易くなり、摩擦特性が更に良好になることで耐摩耗性をより向上させることができる。また、油剤の巻き込みは、エンジン油等の潤滑油を用いた潤滑下では、軟質材の弾性変形に起因した形状変化による弾性流体潤滑効果が発現することで、摩擦特性が良好になり、耐摩耗性が向上する。
【0031】
凸部18及び充填部20を形成するための硬質材や軟質材は、特に限定されないが、Cu、Zn、Sn、Ag(銀)等の金属材料や、SnS(硫化錫)等の金属硫化物を用いることができる。凸部18が硬質材で形成されており、充填部20が軟質材で形成される場合には、例えば、凸部18をZnで形成し、充填部20をSnで形成することができる。凸部18が軟質材で形成されており、充填部20が硬質材で形成される場合には、例えば、凸部18をZnで形成し、充填部20をCu-Sn合金で形成してもよいし、凸部18をSnで形成し、充填部20をCu-Sn合金で形成してもよい。なお、これらはあくまでも例示であり、凸部18及び充填部20を形成するための硬質材や軟質材の組み合わせは、これらの組み合わせに限定されない。
【0032】
被膜本体16は、凸部18及び充填部20の少なくとも一方が複数の層で形成されていてもよい。より詳細には、凸部18のみが複数の層で形成されていてもよいし、充填部20のみが複数の層で形成されていてもよい。また、凸部18及び充填部20の両方が、複数の層で形成されていてもよい。
【0033】
例として、凸部18のみが複数の層で形成されている被膜14について説明する。図2は、凸部18のみが複数の層で形成されている被膜14の構成を示す図である。図2では、凸部18は、2層で構成されている。凸部18は、凸部18の表面側に設けられる第一層18aと、第一層18aと摺動部品12との間に設けられる第二層18bと、を有している。凸部18における第一層18aを第二層18bより軟質にすることにより、凸部18の表面をより低摩擦にすることができる。また、第二層18bが第一層18aと摺動部品12との間の相互拡散反応を抑制する材料で形成されている場合には、第二層18bは、拡散バリア層として機能することができる。
【0034】
例えば、凸部18の第一層18aがSn、第二層18bがZn、充填部20がCu-Sn合金で形成されている被膜14の場合には、凸部18における第一層18aが第二層18bより軟質であるので、凸部18の表面をより低摩擦にすることができる。また、摺動部品12がCu合金で形成されている場合には、ZnはSnとCuとの相互拡散を抑制するので、第二層18bは、第一層18aのSnと摺動部品12のCuとの拡散を抑制する拡散バリア層としての機能も有している。
【0035】
被膜14は、被膜本体16の表面に設けられる表面層を有していてもよい。図3は、被膜本体16の表面に表面層22を有する被膜14の構成を示す図である。表面層22は、低摩擦材料で形成するとよい。これにより、摺動初期において、被膜14の表面が低摩擦化されて摩擦特性が良好になり、耐摩耗性を向上させることができる。表面層22は、凸部18または充填部20と同じ材料で形成されていてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。なお、図3では、表面層22が充填部20と同じ材料で形成されている場合を示している。表面層22を凸部18または充填部20と同じ材料で形成することにより、表面層22と被膜本体16との密着性を向上させることができる。例えば、凸部18がZnで形成され、充填部20がSnで形成されている場合には、表面層22をSnで形成することができる。また、凸部18がZnで形成され、充填部20がCu-Sn合金で形成されている場合には、表面層22をCu-Sn合金で形成することができる。
【0036】
表面層22は、凸部18が軟質材で形成されている場合には凸部18と同じ軟質材で形成し、充填部20が軟質材で形成されている場合には充填部20と同じ軟質材で形成するとよい。例えば、凸部18が硬質材で形成され、充填部20が軟質材で形成されており、表面層22が充填部20と同じ軟質材で形成されている場合には、凸部18の表面に軟質材が設けられているので、凸部18の表面がより低摩擦化され、摩擦特性が良好になり、被膜14の耐摩耗性を向上させることができる。表面層22の厚みは、例えば、0.1μmから1μmとすることができる。なお、勿論、被膜14は、表面層22を設けずに、被膜本体16のみで構成されていてもよい。
【0037】
次に、被膜14の形成方法について説明する。図4は、被膜14の形成方法を示すフローチャートである。被膜14の形成方法は、凸状体形成工程(S10)と、充填体形成工程(S12)と、熱処理工程(S14)と、を備えている。
【0038】
凸状体形成工程(S10)は、摺動部品12の摺動面12aにお互いに隙間を設けて複数の凸状体を第一材料で形成する工程である。図5は、凸状体形成工程(S10)を説明するための図である。複数の凸状体30は、摺動部品12の摺動面12aにお互いに隙間を設けて第一材料で形成される。凸状体30をお互いに隙間を設けて形成するためには、網目状のマスキングを用いるとよい。このようなマスキングには、例えば、幅200μmのマスク材を500μm間隔で格子状に配置したものを用いることができる。また、摺動部品12の摺動面12aは、凸状体30を形成する前に、表面の凹凸を均すために研磨等の処理を行ってもよい。
【0039】
複数の凸状体30は、例えば、摺動部品12の摺動面12aに網目状のマスキングをした後に、第一材料を成膜することにより形成することが可能である。第一材料は、特に限定されないが、Cu、Zn、Sn、Ag(銀)等の金属材料や、SnS(硫化錫)等の金属硫化物を用いることができる。第一材料の成膜方法には、ショットブラスト、ショットピーニング、めっき、物理蒸着法(真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等)、化学蒸着法等の一般的な成膜方法を用いることが可能である。例えば、第一材料をショットブラストやショットピーニングで成膜する場合には、平均粒径が75μmから150μmの第一材料粒子を用いるとよい。なお、第一材料が摺動部品12の構成材料と同じ材料である場合には、摺動部品12の摺動面12aを機械加工やエッチィング等して凸状体30を形成してもよい。このようにして凸状体30は、例えば、正格子状や千鳥格子状等に形成される。
【0040】
充填体形成工程(S12)は、凸状体30の間の隙間に第二材料を充填して充填体を形成する工程である。図6は、充填体形成工程(S12)を説明するための図である。充填体32は、複数の凸状体30の間の隙間に第二材料を充填して形成する。例えば、充填体32は、凸状体30が設けられた摺動面12aに、第二材料を成膜することにより形成することが可能である。第二材料には、第一材料と異なる材料が用いられる。第二材料は、特に限定されないが、Cu、Zn、Sn、Ag(銀)等の金属材料や、SnS(硫化錫)等の金属硫化物を用いることができる。第二材料の成膜方法は、第一材料の成膜方法と同様に、ショットブラストやショットピーニング等で行うことが可能である。第二材料をショットブラストやショットピーニングで成膜する場合には、平均粒径が50μmから100μmの第二材料粒子を用いるとよい。また、第二材料の成膜後に凸状体30の表面を露出させるために、凸状体30の表面を予めマスキングして成膜してもよいし、成膜後に研磨等してもよい。
【0041】
熱処理工程(S14)は、凸状体30及び充填体32を形成した摺動部品12を熱処理して、凸状体30及び充填体32の一方を硬質材で形成し、他方を硬質材より硬さが小さい軟質材で形成する工程である。凸状体30及び充填体32を熱処理して、凸状体30及び充填体32の一方を硬質材で形成し、他方を硬質材より硬さが小さい軟質材で形成する。熱処理することにより、凸状体30と充填体32との密着性を高めることができる。
【0042】
熱処理条件(熱処理温度、熱処理時間等)を変えることにより、被膜14の構成を変えることが可能となる。例えば、第一材料、第二材料及び摺動部品12の構成材料が相互拡散反応を生じない熱処理条件の場合には、凸状体30が熱処理されて第一材料の凸部18が形成され、充填体32が熱処理されて第二材料の充填部20が形成される。凸部18を充填部20より硬質にする場合には、第一材料には、第二材料よりも硬さが大きい硬質材を用いればよい。充填部20を凸部18より硬質にする場合には、第二材料には、第一材料よりも硬さが大きい硬質材を用いればよい。
【0043】
また、第一材料と摺動部品12の構成材料との相互拡散反応や、第二材料と摺動部品12の構成材料との相互拡散反応が生じる熱処理条件の場合には、凸部18や充填部20をこれらの相互拡散反応で生成する化合物で形成することができる。例えば、第一材料、第二材料及び摺動部品12の構成材料が金属材料である場合において、凸部18を充填部20より硬質にする場合には、熱処理により凸状体30の第一材料と、摺動部品12の構成材料とを相互拡散反応させることにより合金化させて凸部18を形成し、凸部18を充填部20より硬質にすればよい。充填部20を凸部18より硬質にする場合には、充填体32の第二材料と、摺動部品12の構成材料とを相互拡散反応させることにより合金化させて充填部20を形成し、充填部20を凸部18より硬質にすればよい。
【0044】
また、充填体形成工程(S12)において、凸状体30の間の隙間に第二材料を充填すると共に、凸状体30の表面に第二材料を被覆して充填体32を形成してもよい。図7は、凸状体30の間の隙間に第二材料を充填すると共に、凸状体30の表面に第二材料を被覆して充填体32を形成した構成を示す図である。
【0045】
第一材料、第二材料及び摺動部品12の構成材料が相互拡散反応を生じない熱処理条件で熱処理する場合には、凸部18が第一材料で形成され、充填部20が第二材料で形成される。そして、被膜本体16の表面に、第二材料からなる表面層22が形成される。
【0046】
第二材料と摺動部品12の構成材料との相互拡散反応が生じるが、凸状体30の表面の第二材料まで摺動部品12の構成材料が拡散しないような相互拡散反応の進行が比較的遅い熱処理条件で熱処理する場合には、凸部18は、凸部18の表面側が第二材料からなる第一層18aで形成され、第一層18aと摺動部品12との間が第一材料からなる第二層18bで形成される。そして、充填部20が、第二材料と摺動部品12の構成材料とが相互拡散反応した化合物で形成される。このような場合には、凸部18を複数の層で形成することができる。
【0047】
熱処理条件として、第二材料と摺動部品12の構成材料との相互拡散反応が生じるが、凸状体30の表面の第二材料まで摺動部品12の構成材料が拡散するような相互拡散反応の進行が比較的速い熱処理条件で熱処理する場合には、凸部18が第一材料で形成され、充填部20が第二材料と摺動部品12の構成材料とが相互拡散反応した化合物で形成される。そして、被膜本体16の表面に、第二材料と摺動部品12の構成材料とが相互拡散反応した化合物からなる表面層22が形成される。
【0048】
次に、上記の被膜14の形成方法における具体例として、第一材料がZn、第二材料がSn、摺動部品12の構成材料がCu合金である場合について説明する。この場合には、熱処理条件である熱処理温度を180℃以上350℃以下の範囲で変えることにより、異なる被膜14が形成される。例えば、摺動部品12が軸受である場合には、軸受の用途等に応じて熱処理条件を変更することで異なる被膜14を形成可能なので生産性等が向上する。なお、以下の具体例において、硬さの大小関係は、Sn<Zn<Cu-Sn合金の関係にある。
【0049】
図8は、凸部18がZnで形成され、充填部20がSnで形成された被膜14の構成を示す図である。Zn、Sn及びCuが殆ど相互拡散反応しない熱処理条件で熱処理する場合には、凸状体30が熱処理されてZnの凸部18が形成され、充填体32が熱処理されてSnの充填部20が形成される。このような熱処理条件は、例えば、熱処理温度が180℃、熱処理時間が3時間である。更に、充填体32が凸状体30の表面を覆うように形成されている場合には、被膜本体16の表面にSnの表面層22が形成される。
【0050】
図9は、凸部18がZnで形成され、充填部20がCu-Sn合金で形成された被膜14の構成を示す図である。ZnとCuとが殆ど相互拡散反応せず、SnとCuとが相互拡散反応する熱処理条件で熱処理する場合には、凸状体30が熱処理されてZnの凸部18が形成され、充填体32が熱処理されてSnとCuとが相互拡散反応してCu-Sn合金の充填部20が形成される。このような熱処理条件は、例えば、熱処理温度が200℃から350℃、熱処理時間が3時間である。
【0051】
図10は、凸部18の第一層18aがSnで形成され、第二層18bがZnで形成され、充填部20がCu-Sn合金で形成された被膜14の構成を示す図である。充填体32が凸状体30の表面を覆うように形成されている場合において、SnとCuとが相互拡散反応の進行が比較的遅い熱処理条件で熱処理する場合には、摺動部品12に含まれるCuが凸状体30の表面に位置する充填体32まで周りこんで拡散しない。このため、凸部18として、凸部18の表面側にSnの第一層18aが形成され、第一層18aと摺動部品12との間にZnの第二層18bが形成される。そして、充填体32が熱処理されてSnとCuとが相互拡散反応してCu-Sn合金の充填部20が形成される。このような熱処理条件は、例えば、熱処理温度が225℃から240℃、熱処理時間が3時間である。なお、Sn―Zn系の相互溶解度は非常に小さいので、凸部18において第一層18aと摺動部品12との間にZnの第二層18bを中間層として介在させることで、第一層18aのSnと摺動部品12のCuとの化合物の形成が抑制される。
【0052】
図11は、凸部18がZnで形成され、充填部20がCu-Sn合金で形成され、表面層22がCu-Sn合金で形成された被膜14の構成を示す図である。充填体32が凸状体30の表面を覆うように形成されている場合において、SnとCu合金とが相互拡散反応の進行が比較的速い熱処理条件で熱処理する場合には、摺動部品12に含まれるCuが凸状体30の上面の充填体32まで周りこんで拡散する。このため、凸状体30が熱処理されてZnの凸部18が形成され、充填体32が熱処理されてSnとCuとが反応してCu-Sn合金の充填部20が形成される。そして、被膜本体16の表面にCu-Sn合金の表面層22が形成される。このような熱処理条件は、例えば、熱処理温度が300℃から350℃、熱処理時間が3時間である。
【0053】
上記構成の被膜を備える摺動部品によれば、被膜は、摺動部品の摺動面に設けられる被膜本体を備え、被膜本体は、摺動部品の摺動面に立設して形成されており、お互いに隙間を設けて配置される複数の凸部と、凸部の間の隙間に充填されて形成される充填部と、を有し、凸部及び充填部の一方が硬質材で形成されており、他方が、硬質材より硬さが小さい軟質材で形成されている。これにより、被膜本体の表面に硬質材と軟質材とが複合的に存在するので、摺動時に低摩耗を継続的に維持して摩擦特性を向上させることができる。
【0054】
上記構成の被膜を備える摺動部品によれば、摺動面の全面に硬質膜を被覆し、更に硬質膜の全面に低摩耗性薄膜を被覆したものと比べて、摺動を続けた場合の摺動抵抗の上昇を抑制できる。また、上記構成の被膜を備える摺動部品によれば、摺動抵抗の上昇を抑制できたことにより、摩擦特性が良好になり、耐摩耗性を向上できる。
【0055】
上記構成の被膜の形成方法によれば、摺動部品の摺動面にお互いに隙間を設けて立設させて、第一材料で複数の凸状体を形成する凸状体形成工程と、凸状体の間の隙間に第二材料を充填して充填体を形成する充填体形成工程と、凸状体及び充填体を形成した摺動部品を熱処理して、凸状体及び充填体の一方を硬質材で形成し、他方を硬質材より硬さが小さい軟質材で形成する熱処理工程と、を備えている。これにより、摺動耗性を向上させた被膜を形成可能となる。
【実施例
【0056】
被膜の摩耗特性について評価した。
【0057】
(試験片)
まず、実施例1から5の試験片について説明する。試験片の形状は、リング状とした。試験片の寸法は、外径44mm、内径20mm、厚み7mmとした。図12は、実施例1から5の試験片の構成を示す図であり、図12(a)は、実施例1の試験片の構成を示す図であり、図12(b)は、実施例2から3の試験片の構成を示す図であり、図12(c)は、実施例4から5の試験片の構成を示す図である。実施例1から5の試験片は、基材は同じであり、被膜の構成が相違している。基材は、青銅からなるCu合金で形成した。
【0058】
実施例1の試験片の被膜は、図12(a)に示すように、凸部をZnで形成し、充填部をSnで形成した。そして、凸部及び充填部(被膜本体)の表面に表面層をSnで形成した。
【0059】
実施例2、3の試験片の被膜は、図12(b)に示すように、充填部をCu-Sn合金で形成した。凸部は、凸部の表面側の第一層をSnで形成し、第一層と基材との間の第二層をZnで形成した。実施例2、3の試験片の被膜では、凸部及び充填部(被膜本体)の表面に表面層を形成していない。
【0060】
実施例4、5の試験片の被膜は、図12(c)に示すように、凸部をZnで形成し、充填部をCu-Sn合金で形成した。そして、凸部及び充填部(被膜本体)の表面に表面層をCu-Sn合金で形成した。
【0061】
次に、実施例1から5の試験片の作製方法について説明する。各試験片の作製方法については、熱処理温度が相違しており、その他の構成については同じとした。
【0062】
基材は、被膜を形成する一端面を鏡面仕上げした。基材表面に網目状のマスキングをした。マスキングは、基材表面に、幅200μmのマスク材を500μm間隔で格子状に配置した。マスキングした基材表面に、Zn粒子をショットブラストして成膜した。Zn粒子の平均粒径は、100μmとした。マスキングを取り外し、基材表面に凸状体を格子状に形成した。凸状体の厚みは、約1μmから5μmとした。
【0063】
次に、凸状体を形成した基材に、Sn粒子をショットブラストして成膜した。Sn粒子の平均粒径は、70μmとした。これにより、凸状体の隙間をSn粒子で充填させながら、凸状体の表面をSn粒子で覆うようにして充填体を形成した。充填体の厚みは、約1μmから5μmとした。
【0064】
凸状体及び充填体を形成した基材を熱処理した。熱処理温度は、実施例1が180℃、実施例2が225℃、実施例3が240℃、実施例4が300℃、実施例5が350℃とした。熱処理時間は、いずれも3時間とした。熱処理雰囲気は、大気雰囲気とした。
【0065】
実施例1では、凸状体が熱処理されてZnの凸部が形成された。また、凸状体の間に充填された充填体が熱処理されてSnの充填部が形成された。そして、表面側の充填体が熱処理されてSnの表面層が形成された。
【0066】
実施例2,3では、凸状体と、凸状体の表面に位置する充填体とが熱処理されて2層からなる凸部が形成された。より詳細には、凸部は、凸部の表面側にSnの第一層が形成され、第一層と基材との間にZnの第二層が形成された。また、凸状体の間に充填された充填体と、基材に含まれるCuとが相互拡散反応することにより、Cu-Sn合金からなる充填部が形成された。
【0067】
実施例4,5では、凸状体が熱処理されてZnの凸部が形成された。また、凸状体の間に充填された充填体及び表面側の充填体と、基材に含まれるCuとが相互拡散反応することにより、Cu-Sn合金からなる充填部及び表面層が形成された。
【0068】
次に、比較例1の試験片について説明する。図13は、比較例1の試験片の構成を示す図である。比較例1の試験片は、基材と、基材表面の全面に被覆されるZn層と、Zn層の表面の全面に被覆されるSn層とから構成されている。基材は、実施例1から5の試験片と同様の基材を用いた。
【0069】
次に、比較例1の試験片の作製方法について説明する。基材は、被膜を形成する一端面を鏡面仕上げした。基材表面に、Zn粒子をショットブラストして成膜した。Zn粒子の平均粒径は、100μmとした。Zn層の厚みは、約1μmから5μmとした。次に、Zn層を形成した基材の表面に、Sn粒子をショットブラストして成膜した。Sn粒子の平均粒径は、70μmとした。これにより、Zn層を覆うようにしてSn層を形成した。Sn層の厚みは、約1μmから5μmとした。Zn層及びSn層を形成した基材を熱処理した。熱処理温度は、180℃とした。熱処理時間は、3時間とした。熱処理雰囲気は、大気雰囲気とした。
【0070】
(摩擦摩耗特性)
各試験片について、摩擦摩耗特性を評価した。摩擦摩耗特性は、3個の球体を相手材とした3ボールオンディスク型装置で摩擦係数を測定して評価した。球体には、各試験片との接触面が直径2.5mmの平面となるように研磨された直径6.35mmのクロム軸受鋼SUJ2の球体を用いた。試験条件は、負荷荷重300N、試験速度0.5m/s、試験距離1000mとした。潤滑油には、自動車用エンジン油を用いた。
【0071】
図14は、摩擦摩耗特性評価結果を示すグラフである。図14では、縦軸に摩擦係数を取り、横軸にすべり距離を取り、実施例1から5の摩擦係数を示している。実施例1から5の試験片は、いずれも小さい摩擦係数を有しており、摩擦特性が良好であり、耐摩耗特性に優れていることがわかった。実施例1から5の摩擦係数は、約0.1以下であった。実施例2,3の摩擦係数は、実施例1、4、5の摩擦係数より小さくなった。この結果から、実施例2、3の試験片は、実施例1、4、5の試験片よりも摩擦特性が良好であり、耐摩耗特性に優れていることが明らかとなった。
【0072】
次に、実施例3及び比較例1の試験片について摩擦摩耗特性を評価して比較を行った。摩擦摩耗特性は、上記と同様に3ボールオンディスク型装置で摩擦係数を測定して評価した。試験条件は、負荷荷重300N、試験速度0.5m/s、試験距離1000mとした。潤滑油には、自動車用エンジン油を用いた。図15は、摩擦摩耗特性評価結果を示すグラフである。図15では、縦軸に摩擦係数を取り、横軸にすべり距離を取り、実施例3、比較例1の摩擦係数を示している。実施例3は、比較例1より摩擦係数が小さくなった。比較例1では、摩擦係数が約0.1以上であり、すべり距離が400m以上では摩擦係数が急激に上昇した。これに対して実施例3では、摩擦係数が0.1より小さくなり、すべり距離が400m以上でも摩擦係数は略一定であった。この結果から、実施例3の試験片は、比較例1の試験片よりも摩擦特性が良好であり、耐摩耗特性に優れていることがわかった。
【符号の説明】
【0073】
10 被膜を備える摺動部品
12 摺動部品
14 被膜
16 被膜本体
18 凸部
20 充填部
22 表面層
30 凸状体
32 充填体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15