(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】耐紫外線抗菌防カビコーティング剤及び抗菌防カビ処理方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240524BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240524BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20240524BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240524BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240524BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240524BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240524BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D5/14
C09D7/63
C09D7/61
B05D7/00 K
B05D5/00 Z
B05D7/24 303C
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302P
B05D7/24 302L
B05D7/24 303E
(21)【出願番号】P 2021202989
(22)【出願日】2021-12-15
【審査請求日】2023-10-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505394862
【氏名又は名称】株式会社ファインテック
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】市川 幸充
(72)【発明者】
【氏名】横山 泰啓
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-192599(JP,A)
【文献】特開2015-74739(JP,A)
【文献】特開2020-26457(JP,A)
【文献】特許第5296899(JP,B1)
【文献】特開2016-108349(JP,A)
【文献】特開平11-246795(JP,A)
【文献】特許第5373988(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塗膜形成樹脂:100質量部に対して、
(B)亜鉛粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末から選ばれる少なくとも1種の金属粉末:90~400質量部、
(C)抗菌防カビ剤:3~20質量部、
含む
水系の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤
であって、
前記塗膜形成樹脂が、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種であり
前記耐紫外線抗菌防カビコーティング剤の総質量に対して、(B)亜鉛粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を、30質量%以上、60質量%以下含むことを特徴とする
耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
【請求項2】
前記(C)抗菌防カビ剤が、
2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール(TBZ)と、
2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(OIT)と、
N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(Bu-BIT)及びジンクピリチオン(ZPT)から選ばれる少なくとも1つと、
を含む、請求項
1に記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
【請求項3】
前記(C)抗菌防カビ剤が、さらに、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)を含む、請求項
2に記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
【請求項4】
前記(A)塗膜形成樹脂:100質量部に対して、さらに(D)難燃剤:2~20質量部を含む、請求項1~3のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
【請求項5】
紫外線吸収剤を含まない、請求項1~
4のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
【請求項6】
紫外線照射装置を備える空調機に用いられる、請求項1~
5のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤を塗布することで得られる塗膜。
【請求項8】
紫外線照射装置を備える空調機を構成する吸込口、吹出口、通風路壁、ファン、風向板、ダンパー、ドレンパン、ドレンポンプ、ドレン配管の各要素のうち、少なくとも1つに、請求項1~
6のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤を塗布する工程を含む耐紫外線抗菌防カビ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷暖房用の空気調和機やエアーコンディショナー、エアハンドリングユニット等の空気調和機能を有する装置(本発明では、これらを総称して「空調機」と称する)に好適に用いられる耐紫外線抗菌防カビコーティング剤、それを用いる抗菌防カビ処理方法に関する。
詳細には、例えば、熱交換器やドレンパン等のカビや細菌が増殖し易い部位に紫外線を照射するための紫外線照射装置を備える空調機において、ドレンパン、ドレンポンプ等の樹脂製部材に対して紫外線による劣化を防止する機能があり、かつ、紫外線が照射されない箇所に対しては抗菌防カビ機能があるコーティング剤、及びそれを用いる抗菌防カビ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空調機では、冷房運転時や除湿運転時に、熱交換器の表面で空気中の水分が凝結しドレン水として滴下するため、熱交換器の下部に、ドレン水を受けるための板金製、樹脂製あるいは板金と樹脂を組合せたドレンパンが装備されている。樹脂製のドレンパンは、成型が容易で断熱効果に優れ、かつ軽量で安価であることから、天井埋設型空調機等では、発泡スチロール等の発泡樹脂材料を成型したものが多用されている。また、貯留されたドレン水が浸透し漏れることを防止するため、発泡スチロールをABS樹脂等で覆ったものも使用されている。
【0003】
ドレンパンの機能は、熱交換器から滴下するドレン水を受け、これを外部に排出することにある。そのため、湿潤雰囲気下で使用されることが多く、カビや細菌等が繁殖し易い環境下にあり、菌等の塊であるスライムが形成されやすい。スライムの発生は、室内へのカビや細菌の混入、異臭の発生、あるいは、ドレン通路やドレン配管等の閉塞による水漏れの要因となる。そのため、ドレンパンへのカビや細菌の増殖を防ぐ方法として、抗菌防カビ剤を含有する抗菌性コーティング剤を塗布する方法(例えば、特許文献1)や、紫外線を照射する方法(例えば、特許文献2)が提案されている。
【0004】
抗菌防カビ剤を含有するコーティング剤を塗布する方法は、ドレンパンやドレン配管にカビが付着したり、カビが増殖したりするのを防止する効果がある。しかしながら、抗菌防カビ剤が示す抗菌スペクトルは薬剤毎に限定されており、また使用を繰り返すことにより薬剤耐性の細菌やカビが発生するため、薬剤の選定が難しく、万能の抗菌抗カビ剤がないのが現状である。そして、紫外線照射装置を備える空調機に使用した場合には、紫外線によって抗菌性塗膜が劣化する問題が発生する。
【0005】
一方、紫外線を照射する方法では、経時による効果の低下はなく、またドレンパン表面に汚れが付着した場合でも、紫外線はドレンパンの外から照射するので菌やカビに直接作用し、安定した防カビ効果が得られる。
しかしながら、紫外線による防カビ作用は、紫外線を照射している時間のみ発現するので、紫外線の照射を停止すると菌やカビが増殖する虞があり、また紫外線が照射されない箇所に対しての防カビ機能は期待できない。
さらに、樹脂製のドレンパンの場合には、紫外線により樹脂が劣化して硬く脆くなり、亀裂等が生じて、ドレンパンに水漏れが生じる等の問題が発生する。
【0006】
樹脂製のドレンパンの紫外線による劣化を防ぐ手段として、例えば、特許文献2には、光触媒を塗布した基板をドレンパン内に設置し、紫外線を基板に照射することにより、ドレンパンに紫外線が直接照射されないようにすることで、ドレンパンの劣化防止とドレン水の除菌を両立させる方法が開示されている。しかしながら、この方法では、紫外線の照射を停止した場合や、紫外線が照射されない箇所や部材に対しては、防カビ効果を付与することができない。
【0007】
また、特許文献3には、空調機のドレンパンやファン、キャビ内壁等の樹脂製部材に紫外線反射材や紫外線吸収剤を塗布することで、紫外線による劣化を防止することが記載され、紫外線反射材として酸化チタンや酸化亜鉛、紫外線吸収剤としてオキシベンゾンやシラソーマが例示されている。
しかしながら、ドレンパン等の樹脂部材の紫外線による劣化防止について開示するのみで、紫外線の照射を停止した場合や、紫外線が照射されない箇所への防カビ方法に関する記載や示唆はない。
そして、特許文献3の方法において、酸化チタンや酸化亜鉛等の紫外線反射材を用いた場合には、該紫外線反射材が光触媒作用も有しているため共存する有機物を分解し、紫外線照射下では、有機系の防カビ剤が長期に渡る効果を発揮できないおそれがある。また、オキシベンゾンやシラソーマ等の紫外線吸収剤は有機化合物であり、紫外線によりこれらの化合物自体が徐々に分解されるため、長期に渡る紫外線防御効果自体を期待できない。
【0008】
そのため、紫外線照射装置を備える空調機において、樹脂製のドレンパン等の空調機部材に簡単に塗布することが可能で、紫外線による樹脂部材の劣化を防ぐとともに、紫外線の照射が停止されている場合や紫外線が照射されない箇所に対しても防カビ機能を有するコーティング剤が求められている。
【0009】
一方、スライサーやコンベア、包装機等を備える食品製造設備においては、スライサー刃やコンべア同士を繋げる「渡り」と呼ばれる部分、エアーを用いて風袋を開口して製品を包装するタイプの包装機のエアー吐出部等が細菌やカビで汚染され易いので、当該部分に紫外線照射装置を設置し紫外線を照射することで細菌やカビの繁殖を防ぐことが可能になる。ところが、スライサー刃やコンベアの渡り部、包装機のエアー吐出部の周辺には、パッキンやチューブ、制御板カバー等の樹脂製部品が設置されており、これらの樹脂製部品が紫外線により劣化する虞がある。そのため、紫外線による劣化を防止するとともに、紫外線の照射が停止されている場合にも細菌やカビの繁殖を防ぐことができ、かつ食品製造設備に対して使用可能な安全性に優れた耐紫外線抗菌防カビコーティング剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-108349号公報
【文献】特開2020-134028号公報
【文献】特開2012-189249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、紫外線照射装置を備える空調機において、熱交換器やドレンパン等のカビや細菌が増殖し易い空調機の部材に紫外線を照射してカビや細菌の増殖を防止する場合に、樹脂製のドレンパンが紫外線により劣化するのを防止するとともに、紫外線の照射を停止した場合や紫外線が照射されない箇所に対しても、カビや細菌の増殖を抑えることができる耐紫外線抗菌防カビコーティング剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、耐紫外線抗菌防カビ処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ね、アクリルシリコーン樹脂等の塗膜形成樹脂、亜鉛粉末等の金属粉末、抗菌防カビ剤を必須成分として含むコーティング剤により形成した塗膜は、紫外線照射装置を備える空調機での3年間に相当する照射量の紫外線照射試験で劣化が認められないこと、そして当該紫外線の照射試験後でも抗菌防カビ性を維持できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明の主旨は以下の通りである。
【0014】
(1)(A)塗膜形成樹脂:100質量部に対して、
(B)亜鉛粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末から選ばれる少なくとも1種の金属粉末:90~400質量部、
(C)抗菌防カビ剤:3~20質量部、
含む水系の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤であって、
前記塗膜形成樹脂が、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種であり
前記抗菌防カビコーティング剤の総質量に対して、(B)亜鉛粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を、30質量%以上、60質量%以下含むことを特徴とする耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
(2)前記(C)抗菌防カビ剤が、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール(TBZ)と、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(OIT)と、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(Bu-BIT)及びジンクピリチオン(ZPT)から選ばれる少なくとも1つと、を含む、前記(1)に記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
(3)前記(C)抗菌防カビ剤が、さらに、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)を含む、前記(2)に記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
(4)前記(A)塗膜形成樹脂:100質量部に対して、さらに(D)難燃剤:2~20質量部を含む、前記(1)~(3)のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
(5)紫外線吸収剤を含まない、前記(1)~(4)のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
(6)紫外線照射装置を備える空調機に用いられる、前記(1)~(4)のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤。
(7)前記(1)~(6)のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤を塗布することで得られる塗膜。
(8)紫外線照射装置を備える空調機を構成する吸込口、吹出口、通風路壁、ファン、風向板、ダンパー、ドレンパン、ドレンポンプ、ドレン配管の各要素のうち、少なくとも1つに、前記(1)~(6)のいずれかに記載の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤を塗布する工程を含む耐紫外線抗菌防カビ処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤で形成した塗膜は、紫外線照射装置を備える空調機での3年間使用に相当する紫外線の照射でも劣化しない耐紫外線性を備えており、しかも、紫外線照射試験後も抗菌防カビ性を有していた。
本発明のコーティング剤は、抗菌防カビ機能も備えているため、紫外線の照射を停止した場合や紫外線が照射されない箇所に対しても、カビや細菌の増殖を防ぐ機能がある。特に樹脂製ドレンパンやドレン配管のように、ドレン水が溜まることで湿潤雰囲気に曝される部材にカビや細菌が繁殖するのを防止できる。
したがって、本発明の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤を塗布することにより、空調機の部材(特に樹脂製部材)が紫外線により劣化するのを防止できるだけでなく、紫外線が当たらない周辺部に塗布することで抗菌防カビ性を付与できる。そのため、紫外線で劣化した樹脂製部材の修理や交換頻度を大幅に減らせるので、空調機のメンテナンスの効率化が図れる。
【0016】
また、本発明の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤を、食品製造設備のスライサーやコンベアあるいは包装機のパッキンやチューブ、制御板カバー等の樹脂製部材に塗布することで、紫外線により劣化するのを防止できる。さらに、紫外線照射を停止した場合にも抗菌防カビ機能を発揮することができるので、紫外線で劣化した樹脂製部材の修理や交換頻度を大幅に減らせることによって食品製造設備のメンテナンスの効率化が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤(以下、「コーティング剤」と言う。)は、(A)塗膜形成樹脂、(B)亜鉛粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末から選ばれる少なくとも1種の金属粉末、(C)抗菌防カビ剤を必須成分として含む。
これにより、塗膜の紫外線による劣化を防止する機能があり、かつ、紫外線が照射されない箇所や紫外線の照射が停止されたケースに対して抗菌防カビ機能があるコーティング剤を提供できる。
【0018】
なお、本発明において「防カビ」とは、カビの発生・育成・増殖を抑制することをいい、特に製品表面のカビの増殖を抑制することをいう。また、「抗菌」とは、微生物の発生・生育・増殖を抑制することをいい、特に製品表面の細菌の増殖を抑制することをいう。
以上の「防カビ」及び「抗菌」の定義については、文献「抗菌・防カビ技術」(株式会社東レリサーチセンター調査研究部門、2004年、p22)を参考とした。
【0019】
[(A)塗膜形成樹脂]
本発明のコーティング剤において、(A)塗膜形成樹脂は、コーティング剤に造膜性を付与する成分であり、金属粉末及び抗菌防カビ剤を塗膜中に担持する機能も有している。
塗膜形成樹脂としては、耐水性、耐薬品性、耐汚染生、耐候性等に優れている点より、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種が用いられる。それらのなかでも、アクリルシリコーン樹脂が好ましく用いられる。
【0020】
空調機は、通常、夏場は冷房に冬場は暖房に用いるので、空調機を構成する各部材は、運転時と停止時で大きな温度変化を受けることになる。そのため、コーティング剤の塗膜には温度変化への追従性が求められる。その点、アクリルシリコーン樹脂は塗膜の破断伸度が大きく伸縮性に優れていることから好ましく、また、その塗膜は優れたリコート性、耐水性、耐薬品性、耐油性、耐汚染性、耐候性を発揮する点でも好ましい。
なかでも、乳化タイプのアクリルシリコーン樹脂エマルジョンは、コーティング剤の調製が容易で、各部材への密着性も優れているので好ましく用いられる。アクリルシリコーン樹脂エマルジョンの製造法は特に限定されない。例えば、重合性の二重結合を含有するシリコーン化合物と(メタ)アクリル酸エステルを乳化共重合する方法等で製造したもの等を挙げることができる。
アクリルシリコーン樹脂エマルジョンとしては、市販品を用いることができ、例えば、サイマックUS-380、US-450、US-480(東亜合成株式会社製)、IE-7170、SE1980CLEAR、BY22-826EX、POLON-MF-40(東レ・ダウコーニング株式会社製)、タフロンネオ(出光興産株式会社製)、モビニール(ジャパンコーティングレジン株式会社製)、コータックス(東レ株式会社製)、ダイトゾール5000SJ(大東化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0021】
フッ素樹脂及びポリウレタン樹脂も乳化タイプが好ましい。
フッ素樹脂エマルジョンとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂エマルジョンが好ましく用いられる。PTFE樹脂エマルジョンを構成するPTFE樹脂は、テトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体のみならず、TFEと少量のパーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレンあるいはエチレン等との共重合体が用いられる。PTFE樹脂エマルジョンとして市販品を用いることができ、例えば、31-JR(三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社社製)、ポリフロンPTFE Dシリーズ(ダイキン工業株式会社製)、フルオンPTFE AD911E(AGC株式会社製)等が挙げられる。
【0022】
ポリウレタン樹脂エマルジョンを構成するポリウレタン樹脂は、公知の方法、例えば、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物及び必要により鎖伸長剤を反応させることにより製造することができる。ポリイソシアネート化合物及びポリオール化合物は特に限定されず、ポリイソシアネート化合物としては脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートが挙げられ、ポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が用いられる。ポリウレタン樹脂エマルジョンとして市販品を用いることができ、例えば、ETERNACOLL UWシリーズ(宇部興産株式会社製)、ユーコートUWS-145(三洋化成株式会社製)、スーパーフレックス700(第一工業製薬株式会社製)、AQウレタン(大日本塗料株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
本発明のコーティング剤における(A)塗膜形成樹脂の量は、塗膜形成性に影響することから、コーティング剤の総質量に対し、10~30質量%(以下、「%」と略記する)含むことが好ましく、15~25%含むことがより好ましい。10%以上含むことで、抗菌防カビ剤の担持機能に優れる塗膜形成が可能となり、また、30%以下含むことで、紫外線防御に必要な量の金属粉末を含むコーティング剤を調製することができる。
【0024】
[(B)金属粉末]
本発明のコーティング剤において、(B)金属粉末は、コーティング剤に紫外線防御機能を付与する。金属粉末としては、亜鉛粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を用いる。
本発明では、金属粒子として、安全性が高くかつ安価で入手容易である点より、亜鉛、アルミニウム、ステンレスの粉末を選択し、紫外線照射による塗膜の変化を試験した。その結果、後述の実施例に示すように、これらの金属粒子が、紫外線防御性を示し、塗膜の紫外線による劣化を防御する機能を有することが判明した。紫外線照射後の塗膜の抗菌防カビ機能の評価では、アルミニウム粉末を配合したコーティング剤では、紫外線照射後の抗菌防カビ機能が減少したのに対し、亜鉛粉末を配合したコーティング剤では、紫外線照射後も抗菌防カビ機能を有していた。
【0025】
本発明では、上記の金属粉末の中でも、耐紫外線性に優れている点より、亜鉛粉末及びステンレス粉末が好ましい。比較的安価で、アクリルシリコーン樹脂との親和性が高く塗膜から脱落し難い点より、亜鉛粉末がより好ましい。亜鉛粉末をステンレス粉末またはアルミニウム粉末と併用することもできる。
【0026】
本発明において、亜鉛粉末が優れた紫外線防御作用を発揮する理由は明らかでないが、以下のように推察する。塗膜の紫外線による劣化を防ぐ方法として、コーティング剤に微粒子を配合し、塗膜中の微粒子により紫外線を反射させる方法は知られている。その微粒子としては、紫外線により分解したり変質したりしない無機化合物が好ましいが、酸化チタンや酸化亜鉛等の酸化物の場合は光触媒作用が有り塗膜を形成する樹脂を分解する虞がある。その点、金属粉末は塗膜形成樹脂を分解する虞がない。
【0027】
金属粉末は、平均粒子径が1~50μmの範囲のものが好ましい。平均粒子径が1μm以上であれば、コーティング剤の調製時にダマ化を生じ塗膜中に均一に分散しない等の不都合がなく、表面平滑性に優れる塗膜を形成しやすくなる。また、平均粒子径が50μm以下であれば、金属粉末の表面積が小さくなることで該粉末が被覆する面積が減少してしまい紫外線が塗膜を透過する現象が、生じにくくなる。金属粉末の平均粒子径は、より好ましくは2~30μmであり、さらに好ましくは5~20μmである。平均粒子径は、レーザー回折法等によって測定される。
【0028】
コーティング剤における(B)金属粉末の量は、(A)塗膜形成樹脂100質量部(以下、「部」と省略する)に対して、90~400部である。金属粉末の含有量が90部未満では、コーティング剤が形成する塗膜に紫外線防御機能を付与することが困難となる。一方、金属粉末の含有量が400部を超えると、塗膜中に金属粉末を保持することが困難になり金属粉末が塗膜から脱落する等の不都合が生じる。前記の金属粉末の含有量は、90~300部が好ましく、さらに好ましくは90~250部、特に好ましくは100~200部である。
【0029】
また、本発明のコーティング剤における(B)金属粉末の量は、コーティング剤の総質量に対し、25~60%が好ましく、さらに好ましくは30~50%、特に好ましくは30~40%である。25%以上含むことで、紫外線防御機能が発揮され、60%以下含むことで、塗膜からの脱落を防止できる。
【0030】
[(C)抗菌防カビ剤]
本発明のコーティング剤において、(C)抗菌防カビ剤は、塗膜に抗菌防カビ性を付与する機能がある。抗菌防カビ剤としては、公知の無機系及び有機系の抗菌防カビ剤の中から選択される、少なくとも2種以上を併用することが好ましく、3種以上を併用することがより好ましい。
【0031】
抗菌防カビ剤の中でも、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール(TBZ)と、少なくとも1種のイソチアゾリン系化合物と、を含むことが好ましい。いずれも有機系抗菌剤で、チオール基を作用点とする薬剤である。
【0032】
TBZはカビに対し非常に高い活性と広いスペクトルを示し、水及び有機溶媒に難溶であり、沸点が高く(約300℃)温風下に曝された場合でも揮発する恐れがなく、塗膜中での担持性に優れている点より好ましい。
【0033】
イソチアゾリン系化合物は、細菌・カビに高い活性が有り広いスペクトルを示し、且つポリエチレンやポリスチレン等の樹脂製部材に対して、腐食等の悪影響を与えるリスクがほとんど無い点で好ましい。殺菌性と防食性を有しているため、アルミフィン等のアルミ部材を腐食する虞もない。イソチアゾリン系化合物は、1種または2種以上を併用することができるが、2種以上を併用することで種々の細菌やカビに対して高い活性を示すようになる。
【0034】
そのため、TBZとイソチアゾリン系化合物とを併用することにより、種々のカビ及び細菌に対して、優れた抗菌・防カビ効果を発揮することが可能になる。
【0035】
イソチアゾリン系化合物としては、下記の式(1)又は式(2)で表わされる化合物が挙げられる。式中、R11は水素原子または炭素数1~10のアルキル基を示し、R12~R17はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示す。
【0036】
【0037】
R11における炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。R12~R17における炭素数1~6のアルキ基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0038】
イソチアゾリン系化合物の好ましい具体例としては、例えば、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[OIT]、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン[MIT]、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オン[MTI]、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン[BIT]、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン[Bu-BIT]等が挙げられる。
これらのイソチアゾリン系化合物は、抗微生物性があり高温下に曝されても揮発する恐れがなく扱い易い利点がある。イソチアゾリン系化合物の中でも、TBZと併用する化合物としては、広域的な抗菌スペクトルの補完および相乗的組み合わせ効果の点より、OITが好適である。
【0039】
TBZとOITの含有比率は、質量比で、1:1~3の範囲が好ましく、1:1~2の範囲がより好ましく、1:1.1~1.5の範囲が特に好ましい。OITの比率を1以上とすることで、塗膜に効果的に防カビ機能を付与することができる。一方、OITの比率を多くすることで塗膜の防カビ効果は増大する傾向にあるが、OITの比率が3を超えても最早効果は増大しないので、3以下であればOITを無駄に使用することがない。
【0040】
抗菌防カビ剤は、上記のTBZ及びOITの他に、さらに、OIT以外のイソチアゾリン系化合物及び/またはジンクピリチオン(ZPT)を併用することがより好ましい。OIT以外のイソチアゾリン系化合物としては、広域的な抗菌スペクトルの補完および相乗的組み合わせ効果の点より、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン[Bu-BIT]が好ましい。また、ZPTは、広域的な抗菌スペクトルの補完および相乗的組み合わせ効果の点で好ましい。
【0041】
TBZ及びOITとともに用いる、Bu-BIT及び/またはZPTの抗菌剤の含有量は、TBZとの含有比率として、質量比で1:0.5~2の範囲とすることが好ましく、1:1~1.5の範囲とすることがより好ましい。
【0042】
また、BIT、OIT、OIT以外のイソチアゾリン系化合物及び/またはジンクピリチオン(ZPT)に、さらにMITを併用することにより、コーティング剤がバイオフィルムを形成するのを抑制する効果を付与することができる。MITは緑膿菌に対しても効果がある。MITは、通常、塗膜形成樹脂100質量部に対して、0.25~1.0質量部を添加するのが良い。
【0043】
上記の抗菌防カビ剤の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば、Pd等の金属化合物やアルコール系化合物、フェノール系化合物、4級アンモニウム塩、安息香酸類、クロルヘキシジン、ソルビン酸類、硫黄系化合物、有機酸エステル、有機ヨウ素系化合物、等の抗菌剤を併用しても良い。これらの抗菌剤の中でも、高温の室内で揮発する虞のない化合物が好ましい。
【0044】
本発明のコーティング剤における(C)抗菌防カビ剤の含有量は、塗膜形成樹脂100部に対して、3~20部である。抗菌防カビ剤の含有量が3部未満では、コーティング剤が形成する塗膜に十分な防カビ性を付与することが困難となる。一方、抗菌防カビ剤の含有量が20部を超えると、塗膜から抗菌防カビ剤がブリードアウトして脱落する虞がある。抗菌防カビ剤の含有量は、5~15部が好ましく、さらに好ましくは7~15部、特に好ましくは8~13部である。
【0045】
抗菌防カビ剤として、TBZ、OIT、Bu-BIT及び/またはZPTを含む本発明のコーティング剤は、紫外線照射装置を備える空調機、食品製造設備、住宅設備等の耐紫外線抗菌防カビコーティング剤として好適に用いられる。
【0046】
また、食品製造設備においては、(C)抗菌防カビ剤として、TBZ、OIT、Bu-BIT及び/またはZPTの他に、食品添加物として認可されている抗菌剤、例えば、ポリリジン、プロタミンヒストン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。なかでも、ポリリジンとプロタミンヒストンの併用が好ましい。食品添加物として認可されている抗菌剤は、通常、塗膜形成樹脂100質量部に対して、0.05~0.2質量部を添加するのが良い。
【0047】
[(D)難燃剤]
本発明のコーティング剤では、空調機に適用する場合、特にダクトへの適用に対して防火認定が求められるため、さらに(D)難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤の含有量は、特に限定されないが、(A)塗膜形成樹脂100部に対して、2~20部含むことが好ましく、より好ましくは3~15部、さらに好ましくは4~10部である。難燃剤の含有量が2部以上であれば、コーティング剤が形成する塗膜に難燃性を付与することができる。また、難燃剤の含有量が20部以下であれば、塗膜中に難燃剤を保持することが困難になり、難燃剤がブリードアウトする等の不都合が生じるのを回避できる。
【0048】
難燃剤としては、リン系難燃剤等を用いることができる。具体的には、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリイソプロピルフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の非ハロゲンタイプ、トリスクロロエチルホスフェート、トリスクロロプロピルホスフェート、トリスジブロモプロピルホスフェート等のハロゲンタイプを挙げることができる。
【0049】
[(E)保湿剤]
本発明のコーティング剤には、さらに(E)保湿剤を併用することが好ましい。保湿剤は、本発明のコーティング剤が形成する塗膜に保水性を付与するために用いられる。塗膜に保水性を付与することで、塗膜に担持された抗菌防カビ剤を乾燥状態から保護し、防カビ機能を効果的に発現させることができる。
【0050】
保湿剤の含有量は、特に限定されないが、(A)塗膜形成樹脂100部に対して、0.5~10部含むことが好ましく、より好ましくは1~8部、さらに好ましくは1~5部である。保湿剤の含有量が0.5部以上であれば、塗膜の抗菌防カビ機能を効果的に発現させることができる。また、保湿剤の含有量が10部以下であれば、塗膜中に保持することが容易で、ブリードアウトする等の不都合が生じることがない。
【0051】
保湿剤としては、塗膜形成樹脂との相溶性が良好で、コーティング剤の調製が容易で、かつ抗菌防カビ剤の作用を阻害し難い点より、非イオン性ポリマーあるいはカチオン性ポリマーが好ましい。
【0052】
非イオン性ポリマーとしては、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム等のガム類、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルプロピルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンポリプロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0053】
カチオン性ポリマーとしては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)/ブチルアクリレートコポリマー(LIPIDURE、日油社製)、ビニルイミダゾリウムクロライド/ビニルピロリドンコポリマー(ルビカット、BASF社製)、ポリビニルピロリドン/アルキルアミノアクリレートコポリマー(ルビフレックス、BASF社製)、ヒドロキシエチルセルロース/ジメチルジアリルアンモニウムクロライドグラフトポリマー(セルカット、ナショナル・スターチ社製)、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド/アクリルアミドコポリマー(マーコート、ナルコ社製)等が挙げられる。
【0054】
これらの水溶性ポリマーから選ばれる1種または2種以上を用いることができるが、なかでも、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とブチルアクリレートとのコポリマー、ビニルイミダゾリウムクロライド/ビニルピロリドンコポリマー、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド/アクリルアミドコポリマー等が好ましい。
【0055】
[(F)増粘剤]
本発明のコーティング剤は、良好な塗工性を確保するとともに、塗工時のタレを防止するため、少なくとも1種の水溶性増粘剤を含むことができる。増粘剤としては、塗膜形成樹脂との相溶性が良好で、かつ少量で増粘効果が得られることから、アルカリ可溶性またはアルカリ膨潤性のアクリル酸ポリマー(例えば、カルボキシル系ポリマー)が好ましく、アミン等のアルカリ成分を含有した状態で用いることができる。水溶性増粘剤の含有量は、コーティング剤の総質量に対して、0.05~3%であることが好ましく、0.1~1.5%であることがより好ましい。
【0056】
本発明のコーティング剤は、上記の各有効成分をバランス量の水に配合することにより、組成物とすることができる。水は、脱イオン水、純水、水道水であって良い。
例えば、保湿剤を予め水に溶解した溶液に、抗菌防カビ剤及びその他の成分を添加して溶解または分散させた後、塗膜形成樹脂エマルジョンに撹拌しながら添加し、続いて撹拌しながら亜鉛粉末を添加して分散させることで調製することができる。あるいは、保湿剤を予め水に溶解するとともに、別途抗菌防カビ剤及びその他の成分を予め水に溶解あるいは分散させておき、当該溶解液あるいは分散液と保湿剤水溶液を、それぞれ塗膜形成樹脂エマルジョンに撹拌しながら添加した後、亜鉛粉末を撹拌しながら添加して分散させることで調製することができる。
【0057】
本発明のコーティング剤には、上記の成分の他に、充填剤、可塑剤、顔料、着色剤、消泡剤、防腐剤、帯電防止剤、界面活性剤等の任意成分を、1種または2種以上添加することができる。例えば、本発明のコーティング剤を調製する際に発生する泡を抑えるために消泡剤を用いることができる。また、塗膜が硬くひび割れ等を生じる場合には可塑剤を用いて塗膜の硬さを調製することができる。紫外線吸収剤や光安定剤は、通常用いる量の範囲で添加することができるが、経済性及び耐紫外線性の向上効果が低い点より添加しないことが好ましい。
【0058】
本発明の耐紫外線抗菌防カビ処理方法は、紫外線照射装置を備える空調機であって、該空調機を構成する吸込口、吹出口、通風路壁、ファン、風向板、ダンパー、ドレンパン、ドレンポンプ、ドレン配管の各要素のうち、少なくとも1つの要素に、本発明のコーティング剤を塗布する工程を含む。特にカビが発生し易い部材である、ドレンパン、ドレン配管に対して好適に用いられる。
【0059】
本発明の耐紫外線抗菌防カビ処理方法は、上記空調機以外でも、空調機と同様のカビ対策を必要とする、例えば、全熱交換機、ダクト、分岐チャンバー、加湿機にも好適に用いられる。
【0060】
紫外線照射装置としては、特に制限されず、空調機に配備することが可能で、紫外線を含む光を照射しうる公知の装置であって良いが、天井設置型空調機の場合は、比較的消費電力が少ないため省エネ効果が得られる点より、UVC-LEDが好ましく用いられる。エアハンドリングユニットや床置パッケージ型の空調機の場合は、大型の紫外線照射装置が必要となるので水銀UVC装置が好ましく用いられる。
【0061】
照射する紫外線は、殺菌力が比較的高い265nmの波長の紫外線が好ましい。紫外線のピーク波長が220~300nmの範囲内の値であっても良いが、紫外線のピーク波長が250~285nmの範囲内であることがより好ましい。
空調機の場合、紫外線照射装置は、カビが発生し易い部材であるドレンパン、ドレン水貯留部等に紫外線が照射されるように配備される(特開2020-134028号公報、特開2017-133700号公報、特開2007-309558号公報、特開2001-324195号公報等参照)。
【0062】
コーティング剤を塗布する場合は、カビや細菌の増殖を極力抑えるために、塗布前に塗布対象面を拭き取り洗浄することが望ましい。拭き取り洗浄は、塗布対象面のカビや細菌を除去可能な方法で行えばよく、特に限定はされない。例えば、70%以上のアルコール(エタノール、イソプロパノール)を含ませたウエス、紙等を用いて塗布対象面を拭き取る方法等が挙げられる。
【0063】
次いで、拭き取り洗浄後の塗布対象面に、本発明のコーティング剤を塗布、乾燥して、塗膜を形成する。塗布は、ロールコート法、スプレーコート法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法、ハケ塗り法、コテ塗り法等、公知の方法により行うことができる。これらの中でも、膜厚の制御を容易に行える観点から、ロールコート法及びスプレーコート法が好ましい。
【0064】
本発明のコーティング剤は、通常、製品を希釈しないで塗布する。ただし、塗装時に、製品を溶媒で希釈しても良い。溶媒としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、グリコールエーテル類、又はこれら2種以上の混合溶媒等の水性溶媒が挙げられ、安全性及び塗工性の点から、水/エタノール混合溶媒、水/プロパノール混合溶媒が好ましい。
【0065】
塗布量は特に制限はないが、塗布量が少ないと所望の箇所に均一に塗布できなくなることで、塗膜に充分な耐紫外線抗菌防カビ性を付与できなくなる。一方、塗布量が多すぎると経済性を損ねる、あるいは、空調機の熱交換器に作用することで悪影響を及ぼすことが懸念される。そのため、通常、乾燥後の膜厚は60~1,000μm程度にするのが良い。
本発明のコーティング剤を空調機のドレンパン等に塗布する際の塗布量は、特に限定されないが、塗膜が十分な紫外線防御機能を発揮するためには、300~700g/m2程度にするのが好ましく、400~600g/m2程度にするのがより好ましい。
【0066】
塗布後の乾燥は、自然乾燥又は加熱(好ましくは70℃以下)或いは送風による強制乾燥にて行うことができ、乾燥時間は0.5時間~24時間程度で良い。
【0067】
空調機は、既設の空調機及び新品の空調機のいずれであっても良く、業務用、家庭用の他、自動車用等の公知の空調機に適用することができる。
【0068】
本発明のコーティング剤は、紫外線防御機能と防カビ機能を併せ持つので、紫外線照射装置を備えた空調機のドレンパンに塗布することにより、紫外線照射によるドレンパンの劣化を防止できるので、ドレン水やドレンパン表面への菌やカビの繁殖を紫外線照射により長期間に渡って効果的に防止することができる。
そして、紫外線の照射を停止しても菌やカビの増殖を防止できるので、紫外線の照射回数や照射時間を短縮できることで、ドレンパンへの紫外線による影響をより少なくすることができる。また、空調機のドレンパン以外の部材に塗布することで防カビ機能を付与できるとともに、漏れた紫外線による樹脂製部材の劣化を防止できるので、空調機内に紫外線の遮蔽手段を設けたりする必要がない。
【0069】
また、本発明のコーティング剤は、紫外線照射装置を備える食品製造設備または住宅設備等に適用することができ、前記の設備部材の種類及び材質は特に限定されるものではなく、例えば、ゴム、プラスチック、金属製の部材が挙げられる。
【0070】
例えば、スライサー刃、コンベア同士を繋げる「渡り」と呼ばれる部位あるいは風袋をエアーで開口して製品を封入するタイプの包装機のエアー吐出口に紫外線を照射して菌やカビの増殖を防止する機能を備える食品製造設備部材に対して、紫外線が照射される部位及び周辺に適用することができる。
具体的には、スライサー刃、コンベアの「渡り」部あるいは包装機のエアー吐出口の周辺に設置されたパッキンやチューブ、制御板カバー等の樹脂製部材に、本発明のコーティング剤を塗布する。これにより、紫外線が照射される部材及びその周辺部材の紫外線による劣化を防止するとともに、紫外線照射を停止した状態でもこれらの部材に菌やカビが増殖するのを防ぐことができる。食品製造設備への耐紫外線抗菌防カビ処理方法は、空調機への耐紫外線抗菌防カビ処理方法で述べたのと同様の方法で行うことができる。
【0071】
また、例えば、浴槽裏側、トイレの水タンク内あるいはトイレシャワーノズル等の生活用品、流し台下部収納庫、レンジフード等の厨房製品に、紫外線を照射して菌やカビの増殖を防止する機能を備える住宅設備部材に対して、紫外線が照射される部位及び周辺に適用することができる。
具体的には、浴槽裏側、浴槽下部の床部、流し台下部の収納庫の壁部材、トイレの水タンクの内部、シャワーノズル周辺の樹脂部材に、本発明のコーティング剤を塗布する。これにより、紫外線が照射される部材及びその周辺部材の紫外線による劣化を防止するとともに、紫外線照射を停止した状態でもこれらの部材に菌やカビが増殖するのを防ぐことができる。住宅設備への耐紫外線抗菌防カビ処理方法は、空調機への耐紫外線抗菌防カビ処理方法で述べたのと同様の方法で行うことができる。
【0072】
本発明のコーティング剤は、空調機や食品製造設備以外でも、紫外線照射装置を用いて菌やカビの増殖防止を図ることで同様の環境に曝される対象面に適用することができる。かかる対象面としては、例えば、各種熱交換器、病院等の医療機関や介護施設等の床、壁、天井、食品等の保存庫等が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
(紫外線防御性試験)
ポリスチレン板を100mm×100mmに裁断し、70%エタノールを含浸したウエスで表面を拭取って除菌した。次いで、以下の実施例及び比較例に示すコーティング剤を塗布し、一昼夜自然乾燥により塗膜を形成して、試験板とした。塗布量は、特に言及しない限り、500g/m2とした。
試験板を暗室に載置し、10cmの距離から紫外線ランプ(スタンレー電気株式会社製、深紫外LED)により波長265nmの深紫外線を、照射強度10mW/cm2で照射し、所定時間経過後の試験板の表面状態を観察し、以下の評価基準で紫外線防御性を評価した。
空調機に設置する紫外線ランプでの一般的な照射強度(実用殺菌線照度と称する。)は、0.12mW/cm2なので、当該試験の照射強度は、およそ83倍の加速試験条件となる。
【0075】
<紫外線防御性評価基準>
○:照射時間315時間(実用殺菌線照度で3年に相当、照射量:11,353J/cm2)で変化なし(紫外線防御性ありと判定)。
△:照射時間315時間以内で変色が求められる。
×:照射時間105時間(実用殺菌線照度で1年に相当、照射量:3,784J/cm2)以内で変色が認められる。
××:照射時間36時間(実用殺菌線照度で4ケ月に相当、照射量:1,296J/cm2)以内で変色が認められる。
【0076】
(紫外線照射後のカビ抵抗性試験)
上記の紫外線防御性試験を終了した試験板を25mm×25mmに裁断したものを、「カビ抵抗性試験検体1」とした。前記試験検体1を、水道水中に1週間浸漬したものを「カビ抵抗性試験検体2」とした。水道水に浸漬したのは、空調機への適用を想定して、現場でドレンパンに塗布した場合、冷却水によって薬剤が流出することを想定したものである。
【0077】
アスペルギルス・ニガー群、ペニシリウム属、クラドスポリウム属の3種混合菌を供試菌とし、JIS Z2911に準拠してカビ抵抗性試験を実施した。すなわち、供試菌を塗抹した培地の中央部に、試験検体1及び試験検体2を、コーティング剤を塗布した面が培地側になるように載置し、26℃の恒温槽で2週間培養した後、以下の防カビ性評価基準で防カビ性を判定した。
供試菌を塗抹した培地は、供試菌を、滅菌精製水を用いて105cfu/mlになるように調製して菌液とした後、PDA培地に菌液を100μl塗抹することで作製した。
なお、紫外線防御性試験を開始する前の各試験板(別途作製)についても、カビ抵抗性試験を実施し、カビ抵抗性を評価した。
【0078】
<カビ抵抗性評価基準>
○:試験検体が接触した部分に菌糸の発育が認められない(カビ抵抗性あり)。
△:試験検体が接触した部分に菌糸の発育が認められるが、菌糸の発育部分の面積は、接触部分の全面積の1/3を超えない。
×:試験検体の接触した部分に菌糸の発育が認められ、菌糸の発育部分の面積が、接触部分の全面積の1/3を超える。
【0079】
(実施例1)
アクリルシリコーン樹脂エマルジョン(固形分:46%、ジャパンコーテイングレジン株式会社製)40質量部、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)/ブチルアクリレートコポリマー(LIPIDURE、日油株式会社製)0.4質量部を精製水7.5質量部に溶解した溶液に、抗菌防カビ剤として、TBZ:0.55質量部、OIT:0.7質量部、Bu-BIT:0.55質量部、シリコーン系消泡剤:0.3質量部を添加し、撹拌して分散液(以下、「バインダー液」)を調製した。次いで、亜鉛粉末(平均粒径;10μm、試薬)50質量部を添加し撹拌してコーティング剤を調製した。
得られたコーティング剤をポリスチレン板に塗布して試験板を作製し、紫外線防御性試験及び紫外線照射後のカビ抵抗性試験を実施した。結果を表1示す。
【0080】
(実施例2)
実施例1において、亜鉛粉末の替わりにアルミニウム粉末を添加した以外は、実施例1と同様の方法で調製したコーティング剤に、ジヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤(ユビナール3049、BASF社製)0.1質量部、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)(チヌビン765、BASF社製)0.1質量部を添加し撹拌してコーティング剤を得た。
得られたコーティング剤をポリスチレン板に塗布して試験板を作製し、紫外線防御性試験及び紫外線照射後のカビ抵抗性試験を実施した。結果を表1示す。
【0081】
(実施例3)
実施例1において、亜鉛粉末の替わりにステンレス粉末を添加した以外は、実施例1と同様の方法でコーティング剤を調製した。
得られたコーティング剤をポリスチレン板に塗布して試験板を作製し、紫外線防御性試験及び紫外線照射後のカビ抵抗性試験を実施した。結果を表1示す。
【0082】
(比較例1)
コーティング剤を塗布する前のポリスチレン板を試験板として、紫外線防御性試験及び紫外線照射後のカビ抵抗性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0083】
(比較例2)
実施例1で調製したバインダー液を、ポリスチレン板に120g/m2の塗布量となるように塗布して試験板を作製し、紫外線防御性試験及び紫外線照射後のカビ抵抗性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
(実施例4及び比較例3)
実施例1で得られたバインダー液を用いて、コーティング剤全量中の亜鉛粉末の量が表2に示す値になるように亜鉛粉末(平均粒径;10μm、試薬)を添加してコーティング剤を調製した。
得られたコーティング剤をポリスチレン板に塗布して試験板を作製し、紫外線防御性試験及び紫外線照射後のカビ抵抗性試験を実施した。結果を表2に示す。なお、カビ抵抗性試験は「カビ抵抗性試験検体1」についてのみ実施した。
表2に示す実施例4-1は、本発明の参照例である。
【0086】
【0087】
表1より、亜鉛、ステンレス及びアルミニウムの粉末を含むコーティング剤は、紫外線防御機能を有していた。また、3年相当の紫外線照射後においても発育阻止帯を形成した(すなわち、防カビ性に優れていた)のは、亜鉛粉末とステンレス粉末を含むコーティング剤のみであった。
【0088】
また、表2より、コーティング剤中の亜鉛含有量が、アクリルシリコーン樹脂100質量部に対して90質量部以上あれば、紫外線防御機能を発揮し、紫外線照射後も良好な抗菌防カビ性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のコーティング剤は、耐紫外線性と抗菌防カビ性を兼備しているので、紫外線照射装置を備えた空調機のドレンパン等の部材に対して好適に用いることができるのみならず、紫外線照射装置を備えていない空調機に対しても、抗菌防カビ性のコーティング剤として好適に用いることができる。
【0090】
また、本発明のコーティング剤は、紫外線照射装置を備えた食品製造設備や住宅設備に対しても用いることができる。
【0091】
さらに、紫外線による劣化を防止したい、建築構造物や装置等に対しても幅広く用いることができる。