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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240524BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240524BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240524BHJP
   F16J 15/3244 20160101ALI20240524BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16J15/3232 201
F16J15/3244
F16J15/18 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019193989
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021067330
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小山 健人
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163557(WO,A1)
【文献】特開2019-184034(JP,A)
【文献】特開2017-180599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78-33/80
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16J 15/3232
F16J 15/3244
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側部材と、前記外側部材に対して同軸回転する内側部材と、前記外側部材と前記内側部材との間を密封するシール部材とを備えた軸受装置において、
前記シール部材は、前記外側部材に嵌合される芯金と、前記芯金に固着され前記内側部材側の摺接対象に摺接する弾性体からなる複数のシールリップ部とを有し、
前記摺接対象には、周方向及び径方向の少なくともいずれか一方に沿って筋目が形成された筋加工領域が設けられ、
前記筋目は、前記内側部材の回転方向に応じて隣接して配される前記シールリップ部間の流体を逃さないように形成されるとともに、前記摺接対象の最も内径側に配されている前記シールリップ部の摺接部位または近接部位から前記摺接対象の最も外径側に配されている前記シールリップ部の摺接部位まで形成され、且つ、前記内側部材の回転方向の上流側よりも前記回転方向の先側である下流側が外径側に位置する螺旋状に形成されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
外側部材と、前記外側部材に対して同軸回転する内側部材と、前記外側部材と前記内側部材との間を密封するシール部材とを備えた軸受装置において、
前記シール部材は、前記外側部材に嵌合される芯金と、前記芯金に固着され前記内側部材側の摺接対象に摺接する弾性体からなる複数のシールリップ部とを有し、
前記摺接対象には、少なくとも径方向に筋目が形成された筋加工領域が設けられ、
前記筋目は、前記内側部材の回転方向に応じて隣接して配される前記シールリップ部間の流体を逃さないように形成されるとともに、前記摺接対象の最も内径側に配されている前記シールリップ部の摺接部位または近接部位から前記摺接対象の最も外径側に配されている前記シールリップ部の摺接部位まで少なくとも形成され、且つ前記周方向に間隔を空けて複数形成されており、
それぞれの前記筋目は前記摺接対象の内径側から外径側へ延び、且つ外径側が回転方向の先側である下流側に傾斜して形成されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記内側部材は、円筒形状の本体部と、前記本体部から外径方向に湾曲して立ち上がる立上基部と、前記立上基部を経て外径方向に延出して形成されるフランジ部とを備え、
前記摺接対象が、前記本体部、前記立上基部及び前記フランジ部の少なくともいずれか一方か、または前記本体部に嵌合されたデフレクターであることを特徴とする軸受装置。
【請求項4】
請求項において、
前記内側部材における前記外径シールリップの前記摺接部位のさらに外径側には、第2の筋目が形成された第2の筋加工領域が設けられ、
前記第2の筋目は、前記筋目とは流体が逆方向に向かうように形成されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか1項において、
前記複数のシールリップ部は、軸方向外向きに延びる1本以上のサイドリップと、径方向内向きに延びるグリースリップとで構成されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項6】
左右一対に設けられる車輪のそれぞれに、左右対称に設けられる請求項1~請求項のいずれか1項に記載の車両用の一対の軸受装置であって、
前記筋目は、それぞれの内側部材の回転方向に応じて形成されることを特徴とする軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側部材と、該外側部材に対して同軸回転する内側部材と、前記外側部材と前記内側部材との間を密封するシール部材とを備えた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対的に同軸回転する外側部材と内側部材との間を、前記外側部材に嵌合される芯金と、芯金に固着され前記内側部材に摺接する弾性材製の複数のシールリップとを有したシール部材で密封されるものが知られている。しかしながら、外側部材と内側部材とで構成される軸受は、旋盤目の出来栄えによっては、内側部材の回転に伴い、複数のシールリップ間の空気が外気側に吐き出され、リップ間が負圧となり、シールリップの吸着現象が起こり、シールリップの接触幅が増大することで高トルクになることや、シールリップの摩耗が促進されることシール部材が短寿命になることが問題となる。特に、左右一対に設けられる車輪のそれぞれに、左右対称に設けられる車両用の一対の軸受については、旋盤目の加工方向が同一であるため、一方の軸受は回転によるリップの吸着現象が生じないが、他方の軸受は反対に回転するため、リップの挙動が安定せず、リップの吸着現象が生じやすい傾向があった。
【0003】
下記特許文献1には、シールリップの摺動面を所定の粗さとし、密封性を維持しつつ摺動抵抗を抑制することを課題とした軸受が開示されている。また下記特許文献2には、内径リップ、ダストリップが摺接する内輪の内輪外径面に螺旋状の送り目を形成し吸引力を任意に設定し密封性能を向上させることを課題とした軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-155882号公報
【文献】特開2008-256135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように相対的に同軸回転する外側部材と内側部材との間を密封するシール部材において、シールリップの接触幅の増大を抑制し、低トルク化と密封性能の向上の更なる改善が望まれる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、低トルク化と密封性能の向上を図ることができる軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る軸受装置は、外側部材と、前記外側部材に対して同軸回転する内側部材と、前記外側部材と前記内側部材との間を密封するシール部材とを備えた軸受装置において、前記シール部材は、前記外側部材に嵌合される芯金と、前記芯金に固着され前記内側部材側の摺接対象に摺接する弾性体からなる複数のシールリップ部とを有し、前記摺接対象には、周方向及び径方向の少なくともいずれか一方に沿って筋目が形成された筋加工領域が設けられ、前記筋目は、前記内側部材の回転方向に応じて隣接して配される前記シールリップ部間の流体を逃さないように形成されるとともに、前記摺接対象の最も内径側に配されている前記シールリップ部の摺接部位または近接部位から前記摺接対象の最も外径側に配されている前記シールリップ部の摺接部位まで形成され、且つ、前記内側部材の回転方向の上流側よりも前記回転方向の先側である下流側が外径側に位置する螺旋状に形成されていることを特徴とする。また本発明に係る軸受装置は、外側部材と、前記外側部材に対して同軸回転する内側部材と、前記外側部材と前記内側部材との間を密封するシール部材とを備えた軸受装置において、前記シール部材は、前記外側部材に嵌合される芯金と、前記芯金に固着され前記内側部材側の摺接対象に摺接する弾性体からなる複数のシールリップ部とを有し、前記摺接対象には、少なくとも径方向に筋目が形成された筋加工領域が設けられ、前記筋目は、前記内側部材の回転方向に応じて隣接して配される前記シールリップ部間の流体を逃さないように形成されるとともに、前記摺接対象の最も内径側に配されている前記シールリップ部の摺接部位または近接部位から前記摺接対象の最も外径側に配されている前記シールリップ部の摺接部位まで少なくとも形成され、且つ前記周方向に間隔を空けて複数形成されており、それぞれの前記筋目は前記摺接対象の内径側から外径側へ延び、且つ外径側が回転方向の先側である下流側に傾斜して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る軸受装置は、上述の構成としたことで、低トルク化と密封性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る軸受装置の第1実施形態を示す概略的縦断面図である。
図2図1のX部の部分拡大断面図であって、同実施形態を説明するために模式的に示す概略断面図である。
図3】(a)及び(b)は、同実施形態における筋目の形成例を説明するための図である。
図4】(a)及び(b)は、同実施形態における筋目の形成例の別例を説明するための図である。
図5】同実施形態に係る軸受装置の変形例を示す図であって、図1のX部の拡大図に相当する概略断面図である。
図6】本発明に係る軸受装置の第2実施形態を説明するために模式的に示す概略断面図である。
図7】(a)及び(b)は、同実施形態における筋目の形成例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図には、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本発明に係る軸受装置1は、外側部材2と、外側部材2に対して同軸回転する内側部材5と、外側部材2と内側部材5との間を密封するシール部材8とを備えている。シール部材8は、外側部材2に嵌合される芯金9と、芯金9に固着され内側部材5側に摺接し弾性体からなる複数のシールリップ部10とを有する。複数のシールリップ部10が摺接する内側部材5側には、内側部材5側の周方向及び径方向の少なくともいずれか一方に沿って、内側部材5の回転方向に応じて隣接して配されるシールリップ部10,10間の流体を逃さないように形成された筋目20が設けられた筋加工領域100を有している。以下、詳述する。
【0011】
<第1実施形態>
まずは第1実施形態について、図1図5を参照しながら説明する。
本実施形態では、左右一対に設けられる車輪のそれぞれに、左右対称に設けられる車両用の一対の軸受装置1に適用した例を示し、図1は一対の軸受装置の片側(右側)のみを示している。
図1に示す軸受装置1は、自動車の車輪(不図示)を同軸回転可能に支持し、この軸受装置1は、大略的に、上述の外側部材に相当する外輪2と、上述の内側部材に相当する内輪5と、外輪2と内輪5との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで回転部材として構成され、内輪部材4はハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる。ハブ輪3にはドライブシャフト(不図示)が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフトは等速ジョイント(不図示)を介して駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフトはナット(不図示)によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフトからの脱落が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能な回転部材とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、環状の被シール空間となる軸受空間Sが形成される。軸受空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3の駆動輪3a、内輪部材4の軌道輪4aに転動可能に設けられている。ハブ輪3は、円筒形状の本体部30と、本体部30から外径方向に立ち上がる立上基部31と、立上基部31を経て外径方向に延出して形成される鍔状のフランジ部32とを備えるとともに、フランジ部32を介してさらに径方向外方に延出するよう形成されたハブフランジ33とを有している。ハブフランジ33には、ボルト34によって車輪が取付固定される。以下において、軸L方向に沿って車輪に向く側(図1において右側)を車輪側、車体に向く側(図1において左側)を車体側と言う。車輪側となる外輪2とハブ輪3との間(図1・X部)には、シール部材8が装着され、車体側となる外輪2と内輪部材4との間にはシール部材7が装着され、これらシール部材7,8によって、軸受空間Sが密封される。
【0012】
図2は、図1のX部を拡大した部分拡大断面図であり、車輪側に装着されるシール部材8を示している。シール部材8は、芯金9とシールリップ部10とを備えている。芯金9は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、片側の断面が略L字形状の円筒形とされる。芯金9は、外輪2の内周面2bに嵌合される嵌合円筒部90と、嵌合円筒部90の車輪側の一端部90aから径方向内向きに延出して形成された円板部91とを有している。シールリップ部10は、ゴム等の弾性材からなり、芯金9に対して加硫接着されることで芯金9に一体成型されている。シールリップ部10は、シールリップ基部13からハブ輪3に摺接するように複数設けられ、図例のシールリップ部10は、サイドリップ11と、グリースリップ12とで構成されている。サイドリップ11は、シールリップ基部13から軸方向外向きに延び、その先端部11aはフランジ部32のフランジ面32aに摺接している。グリースリップ12は、シールリップ基部13から径方向内向きに延び、その先端部12aは本体部30の外周面30aに摺接し軸受空間S側に向いて配されている。シール部材8は、サイドリップ11によって外部空間からの泥水等の浸入を抑制するとともに、グリースリップ12によって軸受空間Sに封入されたグリースの漏出を防ぐことができる。シールリップ基部13は、芯金9の嵌合円筒部90の一端部90aから円板部91の車輪側の面及び円板部91の端部91aを覆うように配されている。シールリップ基部13には外輪2の内周面2bに弾接する環状突部13aが形成されており、内周面2bと嵌合円筒部90との間に泥水等が浸入しないように密封し発錆を抑制している。
【0013】
シール部材8のシールリップ部10が摺接するハブ輪3は、内輪5の回転方向に応じて隣接して配されるシールリップ部10間の流体を逃さないように形成された筋目20が設けられた筋加工領域100を有している。筋目20は、シールリップ部10間に形成され、うっすらみえる程度に微細に削り加工されていればよい。
図2に示す例では、ハブ輪3の外周面30a及び径方向に延びるフランジ面32aに細溝状の筋目20が設けられている。本実施形態では、筋加工領域100は、外周面30aにおけるグリースリップ12の摺接部位から径方向に湾曲して立ち上がる立上基部31を経てサイドリップ11の摺接部位までの領域をいう。筋目20は外周面30a及びフランジ面32a自体に直接加工されており、図2において図面上筋目20が現れるのは3か所であるが、実際には、図3(a)や図3(b)に示すように4重の螺旋状に形成されている。そして螺旋状の筋目20の始点、終点、そして筋目20,20同士の間隔によって、流体の流れをコントロールしている。図例の場合は、筋目20,20同士の間隔は均一に形成されているが、図2の白抜き矢印方向Dからハブ輪3を見た場合にハブ輪3の内径側から外径側に向かうにつれて筋目20,20同士の間隔が拡がるように見えている。図中、32bはフランジ面32aの縁部を示している。
【0014】
以上の構成によれば、グリースリップ12とサイドリップ11との間の流体(空気、グリース等)を逃さないように形成された筋目20が設けられた筋加工領域100を有しているので、グリースリップ12とサイドリップ11との間が負圧になることを防ぎ、グリースリップ12及びサイドリップ11の先端部12a,11aが外周面30a及びフランジ面32aに吸着してしまうことを抑制することができる。すなわち、以上の構成によれば、筋加工領域100に形成される筋目20によって、流体の流れや上述の吸着度合いをコントロールすることができる。特にスリンガを有したパックシールタイプのシール部材と比べて、サイドリップ11及びグリースリップ12が直接フランジ面32a、外周面30aに摺接する場合、旋盤目による影響を受け、吸着しやすくなる。しかし上述の構成によれば、筋目20が形成されているので、軸受装置1が回転を開始する前に存在する空気が回転により抜けにくくなり、空気をとどめることができる。よって、グリースリップ12及びサイドリップ11が吸着しにくくなり、これらの先端部2a,11aの接触幅の増大を抑制することができる。そしてこれにより、低トルク化を図ることができる。またこのようにグリースリップ12,サイドリップ11の過度な吸着を抑えることにより、グリースリップ12及びサイドリップ11の摩耗を抑え、シール部材8としての長寿命化と密封性能の向上も図ることができる。
また、グリースリップ12は、軸受空間S内部から正圧を受けやすく、摺接面となる外周面30aに吸着されやすいので、グリースリップ12の摺接位置を筋加工領域100とすることで、グリースリップ12の先端部12aが摺接面に吸着することを抑制できる。
さらに図2に示す例では、グリースリップ12及びサイドリップ11のそれぞれ先端部12a,11aの摺接部位に筋目20が形成されているが、これに限定されない。例えばグリースリップ12側については、図6に示すように若干手前位置となるグリースリップ12の摺接部位のサイドリップ11側の近傍部位、すなわちグリースリップ12が摺接していない部位に筋目20が形成されるものとしてもよい。この場合も、軸受空間Sとグリースリップ12と隣接するサイドリップ11との間の圧力の釣り合いが取れるように、筋目20によってリップ間の空間から軸受空間Sに空気がある程度吐き出されると同時に流入するので、グリースリップ12の先端部12aが摺接面に吸着することを抑制できる。
【0015】
図3(a)、図3(b)には、筋目20の一例を示している。図3(a)及び図3(b)は、図2の白抜き矢印方向Dからハブ輪3の外周面30a及びフランジ面32aに形成される筋目20を模式的に示す図である。これらの図中、矢印A1及び矢印B1はハブ輪3(内輪5)の回転方向を示し、矢印A2,B2は筋目20の形成方向を示している。
図3(a)に示す筋目20は、ハブ輪3(内輪5)の回転方向A1に沿って、内径側から外径側へ(矢印A2参照)螺旋状に形成されている。
一方、図3(b)に示す筋目20は、ハブ輪3(内輪5)の回転方向B1に沿って、内径側から外径側へ(矢印B2参照)螺旋状に形成されている。
よって、本実施形態における軸受装置1は、左右一対に設けられる車輪のそれぞれに、左右対称に設けられるので、ハブ輪3(内輪5)の回転方向に応じて図3(a)に示す筋目20が加工された軸受装置1の左右反対側には、図3(b)に示す筋目20が加工された軸受装置1が設けられる。また図3(a)及び(b)に示すように螺旋状の筋目20の場合は、加工が容易というメリットがある。
【0016】
図3(a)及び図3(b)に示すように筋目20がそれぞれのハブ輪3の回転方向に応じて形成されるようにすれば、一対に左右対称に設けられる軸受装置1に形成された筋目20はそれぞれの回転方向に応じた流体流れが生じるように形成されることになり、上記効果を発揮して、車両用軸受装置として、低トルク化、低燃費化に貢献できる。またハブ輪3の回転方向に応じて形成された筋目20によって、効果的にグリースリップ12及びサイドリップ11の間に空気をとどめる領域を形成することができるので、より一層グリースリップ12及びサイドリップ11の吸着を抑制することができる。
【0017】
筋目20は、図3に示す例に限定されず、図4のようにしてもよい。
図4(a)及び図4(b)は、図2の白抜き矢印方向Dからハブ輪3の外周面30a及びフランジ面32aに形成される筋目20の別例を模式的に示す図である。これらの図中、矢印C1及び矢印D1はハブ輪3(内輪5)の回転方向を示している。
図4(a)に示す筋目20は、ハブ輪3(内輪5)の回転方向C1に湾曲したように傾斜し、外径側の筋目20の先が回転方向C1に沿うように(矢印C2参照)逆行しないように形成されている。
一方、図4(b)に示す筋目20も、ハブ輪3(内輪5)の回転方向D1に湾曲したように傾斜し、外径側の筋目20の先が回転方向D1に沿うように(矢印D2参照)逆行しないように形成されている。
この例においても、図4(a)、図4(b)に示すとおり、一対に左右対称に設けられる軸受装置1に形成された筋目20はそれぞれの回転方向に応じた流体流れが生じるように形成されることになり、上記効果を発揮して、車両用軸受装置として、低トルク化、低燃費化に貢献できる。またこの例においても、筋目20によって、グリースリップ12及びサイドリップ11の間に空気をとどめる領域を形成できるので、より一層グリースリップ12及びサイドリップ11間が負圧になることによるグリースリップ12及びサイドリップ11の吸着を抑制することができる。
【0018】
次に図5は、第1実施形態における図2の変形例として、筋加工領域を本体部30に嵌合されたデフレクター15に設けた例である。この例では、筋目20をデフレクター15のフランジ面32a側の筋加工領域100にのみ形成した点でも図2とは異なる。なお、図2に示す例と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
【0019】
デフレクター15は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成される環状部材で、嵌合部150と、傾斜部151と、起立部152とを備える。嵌合部150は、円筒状をなし本体部30の外周面30aに嵌合され、傾斜部151は嵌合部150の一端部から斜めに傾斜して形成されている。起立部152は、傾斜部151から外径方向に起立しフランジ面32aに沿って配される。シール部材8の構成は、図2の例と同様であり、サイドリップ11とグリースリップ12のそれぞれがデフレクター15に摺接する点で図2の例と異なる。具体的には、サイドリップ11は、デフレクター15の起立部152の表面152aに摺接し、グリースリップ12はデフレクター15の嵌合部150の表面150aに摺接する。デフレクター15の起立部152及び傾斜部151の表面152a,151aには、螺旋状の筋目20が形成されている。
【0020】
以上のように、筋加工領域100は図2に示すように周方向及び径方向の双方に設けてもよいが、図5に示すようにいずれか一方であってもよい。よって図5では、デフレクター15の起立部152及び傾斜部151に筋加工領域100を設けた例を示しているが、嵌合部150の表面150aに筋加工領域100を設けてもよい。また筋目20は、ハブ輪3の表面に直接設けてもよいし、デフレクター15に設けてもよい。デフレクター15に筋目20を形成する場合は、ハブ輪3自体に筋目20を形成するより加工がしやすいメリットがある。
【0021】
以上の構成によっても、グリースリップ12とサイドリップ11との間に筋目20が形成されているので、筋目20によって流体(空気、グリース等)を逃さないようにとどめることができる。その他の効果は図2の例と同様である。
【0022】
<第2実施形態>
続いて第2実施形態に係る軸受装置1について、図6図7を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
第2実施形態は、第1実施形態と、シール部材8の構成が異なる。また第2の筋加工領域200を備えている点でも異なる。よって図6では、筋目を区別するため、第1の筋目を20a、第2の筋目を20bとしているが、筋目自体の形成要領は第1実施形態と同様でよい。
【0023】
まずシール部材8は、芯金9とシールリップ部10とを備えている点は第1実施形態と同様であるが、芯金9の形状が異なる。第2実施形態の芯金9は、嵌合円筒部90の一端部90aから外径方向に延出した延出部93を有し、延出部93は外輪2の端面2dに沿うように配される。また第2実施形態の芯金9は、嵌合円筒部90の軸受空間S側の他端部90bから円板部91が径方向内向きに延出して形成されている点でも異なる。延出部93の端部93aは、外輪2の外周面2cよりもさらに外径側に突出する位置まで延出されており、この端部93aはシールリップ基部13を形成する弾性材と同じ弾性材で形成された被覆部14で覆われている。被覆部14は、端部93aを回り込むように覆っており、外輪2の外周面2cとシール部材8との間に泥水等が浸入しないように突起部14aを備えている。延出部93は被覆部14によって覆われていることで、フランジ面32aとの間の隙間が狭まっており、泥水等が浸入しくい構造となっている。
【0024】
第2実施形態のシールリップ部10は、上述のように被覆部14を有している他、サイドリップ11が2枚である点でも第1実施形態と異なる。そして、第2実施形態では、筋加工領域100を複数のシールリップ部10のうち、最も外径側に設けられたサイドリップ11の摺接部位から最も内径側に設けられたグリースリップ12の摺接部位の手前位置、すなわち、グリースリップ12の摺接部位のサイドリップ11側の近傍部位までとされている。
以上によれば、最も外径側に設けられ外部空間に近い外径側サイドリップ11は、第1の筋目20aの加工がされている部位に摺接させることで、内部(外径側サイドリップ11~グリースリップ12の間)の圧力の変動を抑え、外径側及び内径側サイドリップ11,11のフランジ面32aへの吸着を防止することができる。一方グリースリップ12は、軸受空間S内部から正圧を受けやすく、摺接面となる外周面30aに吸着されやすいので、グリースリップ12の摺接部位の手前位置(グリースリップ12の摺接部位のサイドリップ11側の近傍部位)を筋加工領域100とすることで、軸受空間Sとグリースリップ12と隣接するサイドリップ11との間の圧力の釣り合いが取れるように、筋目20によってリップ間の空間から軸受空間Sに空気がある程度吐き出されると同時に流入するので、グリースリップ12の先端部12aが摺接面に吸着することを抑制できる。さらに上述のように筋加工領域100を設けることで、外径シールリップ、内径シールリップの過剰な吸着を抑制するとともに、従来から問題になっていた旋盤目の影響を受けることなく、外径側及び内径側サイドリップ11,11とグリースリップ12との間に保持しておきたいグリース(流体)が筋加工領域100内で保持され、グリースの漏出を抑制することができる。
【0025】
また第2実施形態では、外径側サイドリップ11が摺接する部位のさらに外径側に、第2の筋目20bが形成された第2の筋加工領域200が設けられている点でも、第1実施形態と異なる。この第2の筋目20bは、図7(a)及び図7(b)に示すように第1の筋目20a(矢印E1,F1)とは流体が逆方向(矢印E2,F2)に向かうように形成されており、ここでは、図3図4に示した外周面30a、フランジ面32a及び縁部32bの図示は省略する。
図6において図面上、第1の筋目20aが現れるのは5か所であるが、実際には、図7(a)及び図7(b)に示すように6重の螺旋状に形成されている。また図6において図面上、第2の筋目20bが現れるのは2か所であるが、実際には、図7(a)及び図7(b)に示すように3重螺旋状に形成されている。螺旋状の第1の筋目20a,第2の筋目20bの始点、終点、そして筋目同士の間隔によって、流体の流れをコントロールしている。図例の場合は、第1の筋目20a同士,第2の筋目20b同士の間隔は均一に形成されているが、図6の白抜き矢印方向Dからハブ輪3を見た場合にハブ輪3の内径側から外径側に向かうにつれて筋目同士の間隔が拡がるように見えている
この構成によれば、第2の筋加工領域200として、上述の筋加工領域100とは逆方向に向かう第2の筋目20bが形成されているので、浸入しようとする泥水等の吐き出し効果を発揮する。よって、このように筋加工領域100だけでなく、第2の筋加工領域200を設けることで、第2の筋目20bと第1の筋目20aによって、泥水等の浸入防止と吐き出しの両立を図ることができる。
また図7の例においても、図3の例と同様に逆方向流体の流れを形成する逆流れの筋加工領域100,200を他方側の軸受装置1に設けることで、上記同様の効果を得ることができる。
【0026】
なお、この第2の筋加工領域200の構成を第1実施形態に適用してもよいことは言うまでもない。またグリースリップ12の先端部12aが摺接する部位に第1の筋目20aが形成されていてもよい。
そして上記各実施形態で説明した芯金9の形状・構成も図例のものに限定されず、シールリップ部10の構成も図例に限定されない。また筋目20の構成、形状も図例に限定されず、シールリップ部10間の流体(空気、グリース等)を逃さないように形成されていればよい。
【符号の説明】
【0027】
1 軸受装置
2 外側部材(外輪)
3 ハブ輪
5 内側部材(内輪)
10 シールリップ部
11 サイドリップ
12 グリースリップ
20 筋目
20a 第1の筋目
20b 第2の筋目
100 筋加工領域
200 第2の筋加工領域
30 本体部
32 フランジ部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7