(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】食品用殺菌剤
(51)【国際特許分類】
A23L 3/358 20060101AFI20240524BHJP
A23L 3/349 20060101ALI20240524BHJP
A23L 3/3508 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A23L3/358
A23L3/349
A23L3/3508
(21)【出願番号】P 2020071071
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】599069817
【氏名又は名称】株式会社かわかみ
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【氏名又は名称】塩田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100213425
【氏名又は名称】福島 正憲
(72)【発明者】
【氏名】川上 大雄
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-024780(JP,A)
【文献】特開昭58-101655(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150850(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/358
A23L 3/349
A23L 3/3508
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成カルシウム、プロピレングリコール、および乳酸ナトリウムが配合されてなる水溶液または水分散体であって、
前記プロピレングリコールの配合割合が0.5重量%~3.6重量%であり、
エタノールを含まないことを特徴とする食品用殺菌剤。
【請求項2】
焼成カルシウムが牡蠣殻、ホタテ貝殻、ホッキ貝殻、卵殻又は珊瑚殻の焼成物のうちから選ばれた1種又は2種以上の混合物である、請求項1に記載の食品用殺菌剤。
【請求項3】
水酸化カルシウム、プロピレングリコール、および乳酸ナトリウムが配合されてなる水溶液または水分散体であって、
前記プロピレングリコールの配合割合が0.5~3.6重量%であり、
エタノールを含まないことを特徴とする食品用殺菌剤。
【請求項4】
前記焼成カルシウムまたは水酸化カルシウムの配合割合が0.01~15重量%、
前記プロピレングリコールの配合割合が0.5~3.6重量%、
及び前記乳酸ナトリウムの配合割合が0.02~20重量%である、請求項1~3のいずれか1つに記載の食品用殺菌剤。
【請求項5】
焼成カルシウムと水酸化カルシウムの平均粒径がともに0.1~10μmである、請求項1~4のいずれか1つに記載の食品用殺菌剤。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つに記載の食品用殺菌剤で殺菌処理して得られる、保存性の改善された食品
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の殺菌洗浄に使用される食品用殺菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品や調理器具の殺菌には、次亜塩素酸ナトリウムや電解水が使用されているが、作業時の臭い、食品への臭いの残留、分解物の発ガン性(トリハロメタンの生成)、有機物の存在下での効果の低下等の問題があった。
【0003】
近年、貝殻焼成カルシウム及びその水和物である水酸化カルシウムの抗菌性を利用し、貝殻焼成カルシウムに有機酸塩を配合した食品の制菌剤(特許文献1)、焼成カルシウムに多価アルコール脂肪酸エステル及びエタノールを配合した食品用除菌剤(特許文献2)等が開示された。
【0004】
さらにその後、本発明の発明者らにより、焼成カルシウム又は水酸化カルシウムにエタノールおよび乳酸ナトリウムを配合することにより、上記の制菌剤や除菌剤よりも高い殺菌力を有する食品用殺菌剤(特許文献3)が開示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-290044特号公報
【文献】特開2002-272434号公報
【文献】国際公開第2010/150850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年の食中毒や疫病拡大防止の観点から、食事前や調理前の手指の殺菌洗浄が重要視されるようになっているが、食品そのものに使用する殺菌剤と、手指の殺菌洗浄に使用する殺菌剤とが別々であると、選択の間違いが生じるおそれがある。さらに、殺菌剤を用途別に使い分けることに対する作業の煩雑さから、いずれか一方の殺菌剤のみを使用して十分な食中毒防止・疫病拡大防止の効果を図ることができないといった問題が生じる。このため、食品そのものに使用する食品用殺菌剤、喫食前や調理前に手指の殺菌洗浄するために使用する食品用殺菌剤、さらに、調理器具等を殺菌洗浄するために使用する食品用殺菌剤について、同一の食品用殺菌剤を違和感なく誰でも使用できることが望ましい。
【0007】
しかし、特許文献3に開示される食品用殺菌剤には、その成分中にエタノールが配合されてなるため、これを手指に付けて殺菌洗浄を行おうとすると、エタノールへの過敏症を有する使用者には手荒れを生じさせてしまうという問題があった。また、宗教上の理由から成分にエタノールが含まれる食品用殺菌剤は使用することができない場合が生じるという問題もあった。
【0008】
一方、エタノールは、先行文献3に係る食品用殺菌剤に含まれる焼成カルシウム又は水酸化カルシウムを溶解させる良好な有機性溶媒であったため、単にエタノールを除外すれば均一に水酸化カルシウムが溶解または分散した食品用殺菌剤とはならず、有効な殺菌効果も得られない。
【0009】
また、エタノールを用いることで、手指の殺菌洗浄を行う際に食品用殺菌剤を手につけた際の食品用殺菌剤の手触りはべたつきのない良好なものであったが、エタノールを使わずに手触り感のよい水酸化カルシウム及び乳酸ナトリウムが配合された食品用殺菌剤はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために発明した本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 焼成カルシウム、多価アルコール(糖アルコールを除く)、および乳酸ナトリウムが配合されてなる水溶液または水分散体であってエタノールを含まないことを特徴とする食品用殺菌剤。
〔2〕 焼成カルシウムが牡蠣殻、ホタテ貝殻、ホッキ貝殻、卵殻又は珊瑚殻の焼成物のうちから選ばれた1種又は2種以上の混合物である、〔1〕に記載の食品用殺菌剤。
〔3〕 焼成カルシウムに代えて水酸化カルシウムが配合されてなる、〔1〕に記載の食品用殺菌剤。
〔4〕 焼成カルシウムまたは水酸化カルシウムの配合割合が0.01~15重量%、多価アルコールの配合割合が0.5~10重量%、乳酸ナトリウムの配合割合が0.02~20重量%である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の食品用殺菌剤。
〔5〕 焼成カルシウムと水酸化カルシウムの平均粒径がともに0.1~10μmである、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の食品用殺菌剤。
〔6〕 前記多価アルコールが、プロピレングリコール、グリセリン、及び1,3ブチレングリコールのから選ばれる1つまたは2以上であることを特徴とする〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の食品用殺菌剤。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の食品用殺菌剤で殺菌処理して得られる、保存性の改善された食品。
【0011】
ここで、本発明が、食品そのものの殺菌を行うことができるとともに、エタノールへの過敏症を有する者も含めて違和感なく食前の手指、または調理前の手指の殺菌洗浄を同一の食品用殺菌剤で行うことができる優れた食品用殺菌剤であるために、前記多価アルコールは、糖アルコールを除く多価アルコールであることを、発明者が鋭意研究を行った結果により見出された。
【0012】
また、前記食品用殺菌剤は、当該食品用殺菌剤を構成する組成物が、上部に吐出部を備え、前記吐出部の下方に取り付けるなどして設けられてなる容体を備えたボトルに充填されてなる食品用殺菌剤吐出器として使用されることが好ましい。当該食品用殺菌剤吐出器は、食品用殺菌剤の運搬が容易であり、また、前記容体に充填された組成物を前記吐出部から随時吐出させて食品、手指、または調理器具などの洗浄対象物に塗布することで殺菌洗浄を行うことができる。
【0013】
なお、食品用殺菌剤による殺菌処理は、食品表面に食品用殺菌剤を塗布する、または、食品を食品用殺菌剤に浸漬させることによって行うことができる。前記殺菌処理によって保存性が改善された食品に本発明に係る食品用殺菌剤が付いていても食品に臭いを付加するなどの影響は与えない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水酸化カルシウム及び乳酸ナトリウムが配合された食品用殺菌剤であって、エタノールを用いることなく水酸化カルシウムを良好に溶解することによりエタノールを使用した場合と同等の殺菌力を備えるとともに、食品用殺菌剤を手につけた際の手触り感のよい食品用殺菌剤を実現することができる。
【0015】
これにより、エタノールを用いることなく、エタノールに触れることが困難な者も含めた広く一般的な人々を対象として水酸化カルシウム及び乳酸ナトリウムが配合された食品用殺菌剤による食品そのものの殺菌を行うことができるとともに、食前の手指、または調理前の手指の殺菌洗浄を同一の食品用殺菌剤で行うことができる。すなわち、本発明に係る食品用殺菌剤によれば、エタノールとの接触ができない者であっても手荒れなどを生じさせることもない。
【0016】
そのため、本発明によれば、広く一般的な人々を対象として食中毒防止及び疫病拡大防止のいずれに対しても効果を発揮することができる。さらに、調理器具、または調理設備等の食品製造設備など、食品に接触するもの全ての殺菌洗浄にも同一の食品用殺菌剤を使用することができることも、食中毒防止及び疫病拡大防止のいずれの効果も向上に資する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の食品用殺菌剤は、上述したとおり、焼成カルシウムまたは水酸化カルシウム、多価アルコールおよび乳酸ナトリウムが有効成分として配合されており、食品用途に使用される。食品用途とは、食品そのものを殺菌する用途の他、喫食前の手指、調理前の手指、調理器具、または調理設備等の食品製造設備など、食品に接触するものの殺菌洗浄にも使用できることを意味する。
【0018】
本発明で用いられる焼成カルシウムは、本発明に係る食品用殺菌剤の殺菌力の主体となる成分であり、牡蠣殻、ホタテ貝殻、ホッキ貝殻、卵殻あるいは珊瑚殻など焼成前の成分が炭酸カルシウムである動物性由来のカルシウムを600℃以上、好ましくは900~1200℃の温度で15~60分程度焼成もしくは通電加熱して得られ、主成分を酸化カルシウムとするものである。得られた焼成カルシウムの飽和水溶液のpHが11~13の範囲にあることが好ましい。焼成カルシウムの平均粒径は通常0.1~10μmである。上述した焼成カルシウムは食品添加物規格に適合したものが通常用いられる。食品用殺菌剤中の焼成カルシウムの配合割合はとくに限定されないが、殺菌力および経済性の点で、好ましくは0.01~15重量%であり、さらに好ましくは0.1~5重量%である。
【0019】
本発明の食品用殺菌剤は、上述した焼成カルシウムを必須成分として含有する水溶液または水分散体からなり、焼成カルシウムの主成分である酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムを生成する。したがって、本発明では焼成カルシウムに代えて、水酸化カルシウムを配合することもできる。本発明で用いられる水酸化カルシウムの平均粒径は通常0.1~10μmである。上述した水酸化カルシウムは食品添加物規格に適合したものが通常用いられる。食品用殺菌剤中の水酸化カルシウムの配合割合はとくに限定されないが、殺菌力および経済性の点で、好ましくは0.01~15重量%であり、さらに好ましくは0.1~5重量%である。また、焼成カルシウムは吸湿性が高いので、取り扱い易さを向上させるため、焼成カルシウムと水酸化カルシウムとを併用することもできる。
【0020】
食品用殺菌剤中のプロピレングリコールの配合割合はとくに限定されないが、0.5~10重量%の範囲で配合されることが好ましい。食品用殺菌剤中において、水酸化カルシウムの沈殿を生じさせることなく溶解させることができる、または均一な分散状態を保つことができるからである。
【0021】
本発明に用いられる乳酸ナトリウムは、食品添加物規格に適合した50重量%あるいは60重量%の水溶液が通常用いられる。食品用殺菌剤中の乳酸ナトリウムの配合割合はとくに限定されないが、殺菌力および経済性の点で、好ましくは0.02~20重量%であり、さらに好ましくは0.1~15重量%であり、特に好ましくは1~15重量%である。
【0022】
本発明の食品用殺菌剤には上述した有効成分の他、必要に応じて例えば、香料、染料などを添加してもよい。上記構成からなる本発明の食品用殺菌剤は、次の実施例にも示すとおり、大腸菌、黄色ブドウ球菌、および芽胞菌という多種の食中毒菌に対して効果が認められた。これにより、広く食中毒菌一般に対しても高い殺菌力を発揮するものである。さらに、ウイルス不活化効果も発揮できるものであり、ウイルス不活化剤として食中毒防止及び疫病拡大防止のいずれの効果も発揮できるものである。
【実施例】
【0023】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0024】
〔エタノール代替による水酸化カルシウムの溶解性および手触り感の検証〕
表1に示す配合処方で、水酸化カルシウムの溶媒として、いくつかの多価アルコールを用いた場合の水酸化カルシウムの溶解性および殺菌剤の手触り感の検証を行った。また検証は、多価アルコールと同量のエタノールを加えた殺菌剤を対照として調製し、これを基準とした。多価アルコールは、プロピレングリコール(実施例1)、グリセリン(実施例2)、および1,3ブチレングリコール(実施例3)、ならびに糖アルコールであるソルビトール(比較例1)、マンニトール(比較例2)、およびマルチトール(比較例3)を用いた。
【0025】
【0026】
溶解性の評価は、以下の基準に従って行った。
◎:添加した水酸化カルシウムが完全に溶解もしくは沈殿を生じないコロイド状に均一に分散した状態の場合
○:水酸化カルシウムの沈殿物が目視できる程度に僅かに生じた場合
×:水酸化カルシウムが溶解しなかった場合
【0027】
手触り感の評価は、対照の手触り(べたつき感なし)を基準として、以下の基準に従って行った。なお、べたつき感とは、食品用殺菌剤を両手の間に挟み込んだあと、両手を引き離そうとするときに粘性のある抵抗感を感じることをいう。粘性のある抵抗感とは、例えばハンドクリームのように手指の表面に粘度の高い薄膜が形成され、触覚を通じて存在を認識できる前記薄膜が両手を引き離す際に手のひら同士を粘着している感覚を感じることをいう。
◎:べたつき感がない
○:僅かにべたつきがあるが、食品用殺菌剤を手につけてから3分以内にベたつき感が感じられなくなる
×:べたつきがあり、食品用殺菌剤を手につけてから3分を経過してもべたつき感が減少しない
溶解性および手触り感の評価結果を表2に示す。
【0028】
【0029】
表2の結果から、多価アルコールを用いた場合であっても水酸化カルシウムの溶解性は良好であったものの、糖アルコールに属する成分を配合した場合には水酸化カルシウム及び乳酸ナトリウムを含有する食品用殺菌剤を手につけた際のべたつき感がいつまでも残り、喫食前、または調理前の手指の殺菌洗浄には不向きであった。実際には、糖アルコールを用いた被検試料にあっては、これを手につけたあと、30分を経過してもべたつき感はなくならなかった。一方、糖アルコールではない多価アルコールであれば水酸化カルシウム及び乳酸ナトリウムを含有する殺菌剤を手につけた際のべたつき感がないか、僅かにある程度であり、手指の殺菌洗浄を行う際にハンドクリームを塗るようなべたつき感はなく、違和感のない手触り感を備える食品用殺菌剤を実現することができた。
【0030】
糖アルコールを含む多価アルコールそのものも、従来は粘性があり、手に取るとべたつき感を有するものであるため、本発明を創作するにあたり、多価アルコールのいずれを用いたとしても、不快な手触り感としてべたつき感はいつまでも残るものと予想された。しかし、水酸化カルシウム及び乳酸ナトリウムを溶解させて食品用殺菌剤を構成することによって、予想に反して違和感を感じないほどの良好な手触り感を備える食品用殺菌剤が実現された。一方で、多価アルコールであっても糖アルコールではべたつき感が解消されないという効果の差異が生じることも見出した。このような効果の差異を生じる原因の究明は今後の課題ではあるが、結果として本発明の創作に至ったことは、発明者の常識にとらわれない研究成果によるものである。
【0031】
さらに、食品用殺菌剤中に配合されるプロピレングリコールの量に対する、殺菌剤を手につけた際の手触り感の変化について検討を行った。被検試料は、表3に示す配合処方で、プロピレングリコールの配合量を8段階に分けたものとした。それぞれの被検試料を実施例4~実施例11として、前記手触り感の評価基準に従って評価した。評価結果を表4に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
表4によれば、プロピレングリコールは0.5重量%~1.5重量%の範囲で僅かに水酸化カルシウムの沈殿物を生じる程度でよい溶解性を示した。また、プロピレングリコールを1.8重量%以上配合すると、水酸化カルシウムの沈殿は生じることなく良好な溶解性を示した。さらに、プロピレングリコールの配合量が0.5重量%~3.6重量%であれば対照と同じくべたつき感のない良好な手触り感を備え、9.9重量%まで配合しても僅かにべたつき感が感じられる程度で、手につけてから3分以内にはベたつき感が感じられなくなるほどのよい手触り感を示した。特に、プロピレングリコールの配合量が1.8重量%~3.6重量%である場合には、溶解性および手触り感のいずれも評価は◎であり、対照と同程度に良好な品質の水酸化カルシウム及び乳酸ナトリウムが配合された食品用殺菌剤を実現することができた。
【0035】
〔殺菌剤の殺菌効果の検討〕
表3に示す配合処方で調製した実施例4~実施例11について、大腸菌(Esherichiacoli NIHJ)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus 209P)、および芽胞菌(以下、これらの菌を合わせて「供試菌」という場合がある)に対する殺菌効果を検討した。
【0036】
(殺菌効果の判定試験)
上記組成物の殺菌効果は、消毒剤の殺菌効果判定法として知られているKelsey-Sykes法(Thepharmaceuticaljournal、1974年11月30日発行、第528~530頁)の藤本変法(「防菌防黴」、技報堂出版、第683~684頁)により判定した。操作手順の概略は以下のステップ(1)~(3)のとおりである。
【0037】
(1)20℃に設定した反応容器に上記表3で調製した実施例4~実施例11に係る混合液ないし水分散体3mlをそれぞれ分注し、104~105cfu/mlに濃度調整した供試菌1mlを注加し(この時点を供試菌の最初の注加開始時とする)、その8分後、反応液を採取し、後培養培地(Bacto(TM)TrypticSoyBroth)を入れた5本の試験管に0.02ml(1滴)ずつ注加接種する。
(2)2分後(ステップ(1)の注加開始時から10分経過後)、反応液に上記供試菌1mlを注入し、8分後(ステップ(1)の注加開始時から18分経過後)、反応液を採取し、後培養培地(Bacto(TM)TrypticSoyBroth)を入れた5本の試験管に0.02ml(1滴)ずつ注加接種する。
(3)2分後(ステップ(1)の注加開始時から20分経過後)、反応液に上記供試菌1mlを注入し、8分後(ステップ(1)の注加開始時から28分経過後)、反応液を採取し、後培養培地(Bacto(TM)TrypticSoyBroth)を入れた5本の試験管に0.02ml(1滴)ずつ注加接種する。
【0038】
(評価)
ステップ(1)~(3)で得られた各5本の試験管を37℃で24時間培養し、各ステップにおいて5本中3本以上の試験管で供試菌の増殖が認められない場合、殺菌効果ありと判断した。
評価は、以下の基準に従って行った。また、評価結果として、2種以上の菌に対して○若しくは◎の評価が得られたものは特に高い殺菌力ありと評価した。結果を表5に示す。また本検証において、プロピレングリコール100%液(比較例4)、プロピレングリコールの1.8重量%水溶液(比較例5)、及び、実施例11のプロピレングリコールの配合量と同量のエタノールをプロピレングリコールに代えて加えた殺菌剤を対照として調製し、実施例4~実施例11とともに合わせて評価した。なお、比較例5は、精製水及びプロピレングリコールのみで調製された水溶液である。
×:殺菌効果なし
△:ステップ(1)では殺菌効果あるがステップ(2)では殺菌効果なし
○:ステップ(2)までは殺菌効果あるがステップ(3)では殺菌効果なし
◎:ステップ(3)まで殺菌効果ある
【0039】
【0040】
表5の結果から、大腸菌に対しては、実施例4~実施例11におけるいずれのプロピレングリコール濃度であっても殺菌効果が十分に認められた(評価:◎)。また、黄色ブドウ球菌及び芽胞菌に対しても少なくともステップ(1)以上の殺菌効果(評価:△以上)が認められた。さらに、プロピレングリコールの配合量が1.5重量%以上であれば2種以上の菌に対してステップ(2)以上の殺菌力(評価:○以上)が認められ、実用性の高い食品用殺菌剤を得ることができた。
【0041】
これに対して、プロピレングリコールの原液(比較例4)の殺菌性を評価した結果、わずかな殺菌性は認められたものの、供試菌全体に対する殺菌力は本発明に係る食品用殺菌剤よりも低かった。また、プロピレングリコール濃度を実施例7(実施例1と同一の被検試料)と同濃度とした水溶液(比較例5)においては、いずれの供試菌に対しても殺菌力が発揮されなかった。
【0042】
以上の結果から、本発明に係る食品用殺菌剤は、水酸化カルシウム及び乳酸ナトリウムの組み合わせによって殺菌効果が発揮されるものである。さらに、多価アルコールであるプロピレングリコールが水酸化カルシウムを食品用殺菌剤中において十分に溶解または均一に分散された水溶液または水分散体を形成することで、高い殺菌効果を発揮する食品用殺菌剤を実現することができる。これは、プロピレングリコールに限らず、他の多価アルコールにおいてもいえる優れた効果である。なお、上述の手触り感の検討結果から、食品そのものの殺菌を行うことができるとともに、エタノールへの過敏症を有する者も含めて違和感なく食前の手指、または調理前の手指の殺菌洗浄を同一の食品用殺菌剤で行うことができる優れた食品用殺菌剤であるために、前記多価アルコールは、糖アルコールを除く多価アルコールであることを、発明者が鋭意研究を行った結果により見出された。
【0043】
〔ネコカリシウイルスに対する不活化効果の検証〕
A.試験概要
水酸化カルシウム、プロピレングリコール、乳酸ナトリウム、および乳酸を配合し、残部を水として下記処方の水分散体(本発明品)を検体とし、(財)日本食品分析センターにて、ネコカリシウイルスに対する本発明品の不活化効果について検証試験を実施した。すなわち、ノロウイルス自体は安定した培養がなされていないため、本試験では、形態的特徴やゲノムの構造からノロウイルスの近縁であるネコカリシウイルスを代替ウイルスとして用いた。試験の詳細は以下のとおりである。
【0044】
B.試験方法
1)検体:水分散体(本発明品)
水酸化カルシウム 0.26重量%
乳酸ナトリウム 10.0 重量%
プロピレングリコール 1.8 重量%
乳酸 0.01重量%
水 残部
2)試験ウイルス
FelinecalicivirusF-9ATCCVR-782(ネコカリシウイルス)
3)使用細胞
CRFK細胞(大日本製薬社)
4)使用培地
細胞増殖培地
(1)イーグルMEM培地「ニッスイ」(1)(日水製薬社)に牛胎仔血清を10%加えたもの。
(2)細胞維持培地
イーグルMEM培地「ニッスイ」(1)(日水製薬社)に牛胎仔血清を2%加えたもの。
5)ウイルス浮遊液の調製
(1)細胞の培養
細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養した。
(2)ウイルスの接種
単層培養後にフラスコ内から細胞増殖培地を除き、試験ウイルスを接種した。次に、細胞維持培地を加えて37℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度:5%)内で1~5日間培養した。
(3)ウイルス浮遊液の調製
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を遠心分離(3,000r/min,10分間)し、得られた上澄み液をウイルス浮遊液とした。
6)試験操作
精製水を用いて検体の2%懸濁液を調製し、試験液とした。試験液1mlにウイルス浮遊液0.1mlを添加、混合した後、80~90r/minで振とうしながら室温保存し、6及び24時間後に試験液を、細胞維持培地を用いて100倍に希釈した。
なお、精製水を対照の試験液として同様に試験した。ただし、開始時についても測定を行った。
7)ウイルス感染価の測定
細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除き細胞維持培地を0.1mlずつ加えた。次に、試験液の希釈液0.1mlを4穴ずつに接種し、37℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度:5%)内で4~7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed-Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出して試験液1ml当たりのウイルス感染価に換算した。表6に結果を示す。なお、表6の評価結果は、財団法人 日本食品分析センターにおいて行った分析結果である(報告書番号:14040961002-01号)。
【0045】
【0046】
表6から、対照である精製水中では減少することがなかったネコカリシウイルスを、本発明品によれば1分以内に完全に不活化することができた。なお、本実施例における乳酸はネコカリシウイルスを不活化する効果を有しない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は食品そのものの殺菌用途の他、喫食前の手指、調理前の手指、調理器具、または調理設備等の食品製造設備の殺菌洗浄にも適用できる食品用殺菌剤として広く利用可能である。また、食中毒菌だけでなく、ウイルス不活化剤としても利用することができる優れた特性を備える。