(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/326 20160101AFI20240524BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20240524BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20240524BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240524BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240524BHJP
G01P 3/487 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
F16J15/326
F16C33/78 Z
F16C41/00
F16J15/447
F16C33/80
G01P3/487 F
(21)【出願番号】P 2020092898
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019198296
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張 順平
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-048290(JP,A)
【文献】特開2013-079901(JP,A)
【文献】特開2006-046493(JP,A)
【文献】特開2001-215132(JP,A)
【文献】特開2009-138781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0031391(US,A1)
【文献】仏国特許出願公開第03001509(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/326
F16C 33/78
F16C 41/00
F16J 15/447
F16C 33/80
G01P 3/487
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材に対して相対的に軸回転する回転側部材に嵌合されるスリンガ部材と、前記固定側部材に嵌合されるシール部材
及びカバー部材とを備え、前記固定側部材と前記回転側部材との間を密封する密封装置であって、
前記スリンガ部材は、前記回転側部材に嵌合されるスリンガ円筒部と、前記スリンガ円筒部の一端部から径方向に延びるスリンガ鍔部と、前記スリンガ鍔部に固着されN極S極が着磁された環状の磁気エンコーダとを備え、
前記シール部材は、前記固定側部材
の内周面に嵌合される芯体と、前記芯体に固着されたシールリップ部とを備え
、
前記カバー部材は、前記固定側部材の外周面に嵌合されるカバー嵌合円筒部と、カバー嵌合円筒部の一端部から前記固定側部材の端面に沿って径方向に延びるカバー鍔部とを備え、
前記磁気エンコーダの外側面は、
前記外側面に対向し且つ前記外側面との間に隙間をもって設けられる前記カバー部材によって覆われており、
前記カバー部材の前記回転側部材側の一端部は、前記磁気エンコーダの前記回転側部材側の一端部との間に、流体の流れ方向が90°以上変わるラビリンスが形成されるよう折り曲げ形成された折曲部を備え
、
前記磁気エンコーダの前記回転側部材側の前記一端部もしくは前記折曲部と、前記回転側部材の前記スリンガ円筒部の嵌合面との間には、前記ラビリンスと同程度の間隔を有した空所が形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記磁気エンコーダの前記一端部
側には、凹所が形成されており、前記折曲部の端部は、前記凹所内に非接触の状態で配置されることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記折曲部の端部は、前記磁気エンコーダの前記一端部と前記回転側部材の前記スリンガ円筒部の前記嵌合面との間に形成される前記空所内に非接触の状態で配置されることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記凹所の前記回転側部材側の前記一端部側の径方向の厚みは、前記凹所の溝の径方向寸法よりも厚く形成されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側部材と、固定側部材に対して回転する回転側部材との間を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪の回転検出のため、磁気エンコーダを備えた密封装置が知られているが、このような密封装置は、泥水、塵埃等の異物が飛散する過酷な環境に晒されるため、磁気エンコーダが傷ついたり、破損するおそれがある。
そこで、磁気エンコーダを保護するためのカバー部材を備えた密封装置が、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-267680号公報
【文献】特開2006-46493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような密封装置は、カバー部材によって磁気エンコーダを保護しながら、高いシール性能を発揮でき、トルクの軽減を図れるものが求められる。よって、特許文献1に開示されているようにカバー部材にリップ部を設けた例(特許文献1・
図4)では、相手側部材に摺接してシールするリップ部の枚数が増えてしまい、トルク上昇の懸念がある。特許文献2に開示されている例(特許文献2・
図3)は、内輪側に加工を要する構成であるため、内輪側の加工が難しい場合には採用できない。また特許文献2に開示されている例は、内輪の軸方向端面に、直接、溝を加工する構成であるため、新たな加工(工程)が生じるとともに、加工による内輪の剛性低下にも配慮する必要がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、泥水等の浸入を防ぎ、磁気エンコーダの保護を図ることができる密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る密封装置は、固定側部材に対して相対的に軸回転する回転側部材に嵌合されるスリンガ部材と、前記固定側部材に嵌合されるシール部材及びカバー部材とを備え、前記固定側部材と前記回転側部材との間を密封する密封装置であって、前記スリンガ部材は、前記回転側部材に嵌合されるスリンガ円筒部と、前記スリンガ円筒部の一端部から径方向に延びるスリンガ鍔部と、前記スリンガ鍔部に固着されN極S極が着磁された環状の磁気エンコーダとを備え、前記シール部材は、前記固定側部材の内周面に嵌合される芯体と、前記芯体に固着されたシールリップ部とを備え、前記カバー部材は、前記固定側部材の外周面に嵌合されるカバー嵌合円筒部と、カバー嵌合円筒部の一端部から前記固定側部材の端面に沿って径方向に延びるカバー鍔部とを備え、前記磁気エンコーダの外側面は、前記外側面に対向し且つ前記外側面との間に隙間をもって設けられる前記カバー部材によって覆われており、前記カバー部材の前記回転側部材側の一端部は、前記磁気エンコーダの前記回転側部材側の一端部との間に、流体の流れ方向が90°以上変わるラビリンスが形成されるよう折り曲げ形成された折曲部を備え、前記磁気エンコーダの前記回転側部材側の前記一端部もしくは前記折曲部と、前記回転側部材の前記スリンガ円筒部の嵌合面との間には、前記ラビリンスと同程度の間隔を有した空所が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る密封装置は、上述の構成としたことで、泥水等の浸入を防ぎ、磁気エンコーダの保護を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る密封装置が適用される軸受装置の一例を示す概略的縦断面図である。
【
図2】
図1のX部の拡大図であって、本発明の第1実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る密封装置の変形例を模式的に示す概略断面図である。
【
図4】(a)は本発明の第2実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略断面図であり、(b)はその変形例を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る密封装置は、固定側部材2に対して相対的に軸回転する回転側部材5に嵌合されるスリンガ部材9と、固定側部材2に嵌合されるシール部材10とを備え、固定側部材2と回転側部材5との間を密封する密封装置8である。
スリンガ部材9は、回転側部材5に嵌合されるスリンガ円筒部90と、スリンガ円筒部90の一端部90aから径方向に延びるスリンガ鍔部91と、スリンガ鍔部91に固着されN極S極が着磁された環状の磁気エンコーダ93とを備える。シール部材10は、固定側部材2に嵌合される芯体11と、芯体11に固着されたシールリップ部12とを備える。
磁気エンコーダ93の外側面93aは、固定側部材2に嵌合され外側面93aに対向し且つ外側面93aとの間に隙間dをもって設けられるカバー部材13によって覆われている。カバー部材13の回転側部材5側の一端部130aは、磁気エンコーダ93の回転側部材5側の一端部93bとの間に、流体の流れ方向が90°以上変わるラビリンスが形成されるよう折り曲げ形成された折曲部130を備えている。
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
【0010】
<第1実施形態>
第1実施形態について、
図1、
図2を参照しながら説明する。
図1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受装置(機械装置)1を示す。この軸受装置1は、大略的に、固定側部材としての外輪2と、回転側部材としての内輪5を備えている。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで構成され、内輪5は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能とされる。外輪2は、自動車の車体(不図示)に固定される。また、ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合される。外輪2及び内輪5は、相対的に同軸回転し、外輪2と内輪5との間に環状の軸受空間Sが形成される。軸受空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で設けられ、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3の軌道輪3a、そして内輪部材4の軌道輪4aを転動自在とされる。ハブ輪3は、円筒状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向外側に連続して拡径するよう形成されたフランジ(ハブフランジ)32を有し、フランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。本明細書において、軸L方向に沿って車輪に向く側(
図1において左側を向く側)を車輪側、車体に向く側(同右側を向く側)を車体側と言う。
【0011】
図2の第1実施形態に係る密封装置8は、外輪2と内輪5を構成する内輪部材4との間の端部(
図1・X部)に装着される環状の密封装置である。この密封装置8によって、軸受空間Sが密封され、軸受空間S内への泥水等の浸入や軸受空間S内に充填される潤滑剤(グリース等)の外部への漏出が防止される。
密封装置8は、スリンガ部材9とシール部材10とで構成され、スリンガ部材9には、磁気エンコーダ93が固着されている。
【0012】
図2に示すようにスリンガ部材9は断面略U字状とされ、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成される。スリンガ部材9は、内輪部材4の外周面4bに嵌合されるスリンガ円筒部90と、スリンガ円筒部90の一端部90aから、外径方向に延びるスリンガ鍔部91と、スリンガ鍔部91の外径側の端部91aからスリンガ円筒部90と略平行に軸受空間S側に延びるスリンガ外径円筒部92とを有する。
なお、
図2ではスリンガ部材9にスリンガ外径円筒部92を有した例を示しているが、これに限定されず、
図3に示すような断面略L字のスリンガ部材9にも適用可能である。
【0013】
シール部材10は、芯体11とシールリップ部12とを備えている。
図2に示すように芯体11は、断面略L字状とされ、SPCC等の鋼板をプレス加工して形成される。シール部材10は。外輪2の内周面2bに嵌合する芯体円筒部110と、芯体円筒部110の軸受空間S側の端部110aから内径側に延びて形成された芯体円板部111とを有している。
【0014】
シールリップ部12は、弾性部材からなり、芯体11に固着一体に形成されている。シールリップ部12は、シールリップ基部120と、シールリップ基部120から延出して形成されたシールリップ部121,122,123とを備える。シールリップ基部120は、芯体11の芯体円板部111の軸受空間S側にその一部が回り込んで配されるとともに、芯体11の車体側の面11a全体を覆うように配される。芯体11の軸受空間S側には、突出する突部124が設けられている。この突部124は密封装置8を軸受装置1に装着する前、重ねて運搬する際に一方に重ねられた別の密封装置8に弾接し、磁気エンコーダ93が芯体11に磁力で引き寄せられることを防ぐように機能する。またシールリップ基部120は、芯体円筒部110の車体側の端部110bにも回り込み、外輪2の内周面2bに弾接する部位には、芯体円板部111と内周面2bとの間に泥水などが浸入しないように環状突起125が設けられている。
【0015】
シールリップ部121はアキシャル方向に配されたサイドリップであり、3つのシールリップ部121,122,123のうち、最も外径側に設けられ、スリンガ鍔部91のストレート部位に摺接するように配されている。シールリップ部122は、3つのシールリップ部121,122,123のうち、中間位置に形成され、スリンガ円筒部90に摺接するように配されている。これらシールリップ部121,122の先端部は外部空間側を向くように形成されている。シールリップ部123は、3つのシールリップ部121,122,123のうち、最も内径側に設けられるラジアルリップであり、シールリップ基部120から内径側に延出してスリンガ円筒部90に摺接するように形成されている。シールリップ部123は、その先端部が軸受空間S側を向くように形成されている。以上のように構成されたシールリップ部121,122により、外部空間から浸入してきた泥水等が軸受空間Sに浸入することを抑制する。また、シールリップ部123により、軸受空間Sのグリース等の潤滑剤が密封装置8内に浸入することを抑制する。
図2における2点鎖線で示すシールリップ部121,122,123は、弾性変形前の原形状を示している。
【0016】
磁気エンコーダ93は、磁性粉を混練させたゴム材を金属環からなる環状磁石であり、スリンガ部材9とともにインサート成型してなるものとしてもよい。磁気エンコーダ93は、スリンガ部材9の外面9aに固着されている。具体的には、磁気エンコーダ93は、スリンガ部材9のスリンガ鍔部91を覆い周方向にそって多数のN極及びS極が交互に着磁された磁性部930と、スリンガ外径円筒部92及びスリンガ外径円筒部92の軸受空間S側の端部92aまで覆うように設けられた覆い部931とを備えている。磁性部930の外側面93aは、車体に設置される磁気センサ20に対峙するように設けれ、内輪5が軸回転すると外側面93aの磁気変化が磁気センサ20によって検出され、これにより、車輪の回転速度等の回転検出機構が構成される。磁気エンコーダ93の外側面93aは、外側面93aとの間に隙間dをもって設けられるカバー部材13によって覆われており、このカバー部材13によって、泥水、塵埃等の異物が飛散する過酷な環境に晒される磁気エンコーダ93が傷ついたり、破損することを防止している。
【0017】
磁気エンコーダ93の磁性部930の一端部93b(内輪部材4側の端部)には、凹所14が形成されている。
図2のA部拡大図では、説明のため、カバー部材13を図示せず、凹所14のみを示している。この例では、環状の溝状に凹所14が連続して形成されており、磁気エンコーダ93は、一端部93b側の厚みが他の部位より厚く突出した突出部93cを有している。
【0018】
カバー部材13は、非磁性の金属材からなり、例えば非磁性のステンレス鋼、具体的にはオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS304等)からなるものとしてもよい。カバー部材13は、外輪2の外周面2dの車体側端部に形成された段差部2daに嵌合され、磁気エンコーダ93の外側面93aに対向し且つ上述のとおり、外側面93aとの間に隙間dをもって覆うように配される。
図2に示すようにカバー部材13は、断面略L字状とされ、外輪2の外周面2dの段差部2daに嵌合されるカバー嵌合円筒部132と、カバー嵌合円筒部132の一端部132aから外輪2の端面2eに沿って径方向に延びるカバー鍔部131とを備えている。段差部2daは、
図2に示すようにカバー嵌合円筒部132が嵌合された際には、外周面2dとカバー嵌合円筒部132の外周面132aとが、ほぼ面一になるようにカバー嵌合円筒部132の厚みに応じて形成されている。カバー鍔部131は、磁気エンコーダ93の外側面93aに隙間dをもって対向して配置され、この隙間dは端面2eに沿って配されることで規定できる。そしてカバー部材13のカバー鍔部131の内輪部材4側の一端部130aは、磁気エンコーダ93の一端部93bとの間に、流体の流れ方向が90°以上変わるラビリンス(白抜矢印参照)が形成されるよう折り曲げ形成された折曲部130を有している。ここに示す折曲部130は、略90°に折り曲げ変形されている。
【0019】
本実施形態によれば、カバー部材13の一端部130aに折り曲げ形成された折曲部130を備えているので、磁気エンコーダ93の内輪部材4側の一端部93bとの間にラビリンスを形成することができる。よって、磁気エンコーダ93を保護するとともに、密封装置8内に泥水などが浸入する入口部位(白抜矢印の先端参照)にラビリンスが構成されるので、効果的に泥水などの浸入を抑制できる。例えば入口部位から泥水などが流入しても、凹所14の底部14bと折曲部130の端部130bとの間には1mmに満たない僅かな隙間が形成されるにすぎず、ここを通過しても軸方向、径方向に蛇行してラビリンスが連なっているので、浸入し難い構造といえる。またこの実施形態によれば、突出部93cが形成されているので、スリンガ円筒部90と内輪部材4の外周面4bとの嵌合部位に泥水などが浸入するのも阻止でき、密封装置8として長寿命化を図ることができる。
【0020】
またカバー部材13が金属材で磁気エンコーダ93の一端部93bが弾性材からなるので、金属材同士でラビリンスを構成する場合に比べて公差を気にせずに近接させて配置させることを前提に設計できるため、各部材の製造が容易である。具体的には例えば、金属材同士からなる場合は、ラビリンスを構成する際、
図2のように近接させすぎると公差で金属材同士が接触する可能性があるが、金属材同士が擦れ合うと摩耗・変形が生じ、内輪5の回転に影響がでる可能性がある。そこで金属材同士でラビリンスを構成する場合は、両者が接触しないように公差を考慮した設計が必要になるとともにラビリンスの隙間は十分確保する必要がある(例えば1mm以上は隙間を確保したい)。一方、本実施形態のように一方が金属材、他方が弾性材の場合、公差などで両者が接触したとしても、金属材と弾性材とが接触して摩耗が生じる程度であり、シール性などに影響を与える懸念がない。よって、本実施形態によれば、カバー部材13が金属材で磁気エンコーダ93の一端部93bが弾性材からなるので、金属材同士でラビリンスを構成する場合に比べて公差を気にせずに近接させて配置させることを前提に設計でき、僅かな隙間のラビリンスを構成できるので、入口部位(白抜矢印の先端参照)から泥水等が浸入することをより一層抑えることができる。
【0021】
さらに本実施形態によれば、磁気エンコーダ93の一端部93bに凹所14を形成し、その凹所14内に折曲部130の端部130bが非接触の状態で配置されるので(
図2参照)、簡易な構成で流体の流れ方向が90°以上変わる蛇行したラビリンスを形成することができ、シール性を向上できる。またラビリンスは空間(隙間)であり、相手側部材に摺接するリップを増やす構成でないので、トルクの低減が図れる。さらにラビリンスを形成するための凹所14を例えば内輪部材4などの回転側部材に加工する必要がない。
また本実施形態のようにスリンガ外径円筒部92を有したものとすれば、上述のラビリンスを通過して泥水などが浸入したとしても、スリンガ外径円筒部92によって、さらになるラビリンス空間が形成されるので、より一層効果的にシール性の向上を図ることができる。そして本実施形態によれば、外周面2dとカバー嵌合円筒部132の外周面132aとが、ほぼ面一になるので、外輪2の外径側に配置されるナックル(不図示)を配備しやすい。
【0022】
<第1実施形態の変形例>
次に第1実施形態の変形例について、
図3を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
【0023】
図3の第1実施形態の変形例である密封装置8’は、第1実施形態の密封装置8とは、スリンガ部材9の構成、カバー部材13の構成、磁気エンコーダ93の構成が異なる。具体的には、スリンガ部材9は、
図3に示すように断面略L字状をなし、内輪部材4の外周面4bに嵌合されるスリンガ円筒部90と、スリンガ円筒部90の一端部90aから、外径方向に延びるスリンガ鍔部91とを有する。磁気エンコーダ93は、スリンガ鍔部91に固着される磁性部930を有し、一端部93bに段差形状の凹所14が形成されている。
図3のB部拡大図では、説明のため、カバー部材13を図示せず、凹所14のみを示している。この例では、凹所14の形状が、密封装置8とは異なるが、この段差形状の凹所14と内輪部材4の外周面4bとで凹状部を構成し、カバー部材13の折曲部130この凹所14に配されることで、密封装置8と同様に磁気エンコーダ93の内輪部材4側の一端部93bとの間にラビリンスを形成することができる。
【0024】
またこの変形例は磁気エンコーダ93に対向して配備される磁気センサ20が、カバー部材13に設けられている点で上述の実施形態と異なる。
図3に示すようにカバー部材13のカバー鍔部131には、磁気センサ20を嵌合させる貫通孔13aが形成されている。そして磁気センサ20は別途設けられた制御装置200と接続されており、回転速度などの回転検出を行うことができる。
【0025】
以上より、この変形例においても、磁気エンコーダ93を保護するとともに、密封装置8’内に泥水などが浸入する入口部位(白抜矢印の先端参照)にラビリンスが構成されるので、効果的に泥水などの浸入を抑制できる。例えばこの入口部位から泥水などが流入しても、凹所14の底部14bと折曲部130の端部130bとの間は上述と同様に僅かな隙間であるので、通過し難く、通過できたとしてその後、軸方向、径方向に蛇行してラビリンスが連なっているので、やはり浸入し難い構造といえる。
またこの変形例では、磁気センサ20がカバー部材13に固定された状態で且つ、磁気センサ20と磁気エンコーダ93の外側面93aとが近接する状態で配備できるので、回転検出の精度の向上を図ることができる。
【0026】
その他、カバー部材13が金属材で磁気エンコーダ93の一端部93bが弾性材からなることによる効果(金属材同士の場合と比べて公差を気にせず、ラビリンスの隙間を僅かに設定できる)は上述の
図2の実施形態と同様である。また、磁気エンコーダ93の一端部93bに凹所14を形成し、その凹所14内に折曲部130の端部130bが非接触の状態で配置されるので(
図3参照)、簡易な構成で流体の流れ方向が90°以上変わる蛇行したラビリンスを形成することができるという効果も上述の
図2の実施形態と同様である。
なお、この変形例のようにスリンガ外径円筒部92を有していなくても、カバー部材13と凹所14によって流体の流れ方向が90°以上変わる蛇行したラビリンスを形成できるので、十分なシール性の向上を図ることができる。またこの変形例のようにカバー部材13のカバー嵌合円筒部132が嵌合される外周面2dには段差部2daがなくてもよい。
【0027】
<第2実施形態>
次に第2実施形態について、
図4(a)及び
図4(b)を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
まず
図4(a)に示す第2実施形態の密封装置8Aは、凹所14でなく空所15が形成されている点で異なり、密封装置8Aは、磁気センサ20がカバー部材13の外側面13bに固着されている点で異なるが、この他の構成は第1実施形態と共通するので、外輪2側の図示を省略しているが、密封装置8Aが外輪2と内輪5を構成する内輪部材4との間の端部(
図1・X部)に装着される環状の密封装置である点は同様である。
【0028】
第2実施形態に係る密封装置8Aは、
図4(a)に示すように磁気エンコーダ93自体に凹所14が形成されている例ではなく、スリンガ鍔部91のほぼ全面にわたって磁気エンコーダ93が配されているが、磁気エンコーダ93の角部の面取り93dの傾斜に合わせて、カバー部材13の折曲部130が折り曲げられている。よって、折曲部130の折り曲げ角度は40°~60°程度であり、折曲部130と面取り93dとは略平行に傾斜している。
【0029】
本実施形態によっても、カバー部材13の一端部130aに折り曲げ形成された折曲部130を備えているので、磁気エンコーダ93の内輪部材4側の一端部93bとの間にラビリンスを形成することができる。よって、磁気エンコーダ93を保護するとともに、密封装置8内に泥水などが浸入する入口部位(白抜矢印の先端参照)にラビリンスが構成されるので、効果的に泥水などの浸入を抑制できる。例えば入口部位から泥水などが流入しても、流体の流れ方向90°以上変えなければ、ラビリンス内に流体が浸入できない構造となっている。
【0030】
また本実施形態では、磁気センサ20がカバー部材13の外側面13bに固着されている。そして磁気センサ20は別途設けられた制御装置200と接続されており、回転速度などの回転検出を行うことができる。
このように本実施形態においても、磁気センサ20がカバー部材13に固定された状態で且つ、磁気センサ20と磁気エンコーダ93の外側面93aとが近接する状態で配備できるので、回転検出の精度の向上を図ることができる。
【0031】
また本実施形態によれば、磁気エンコーダ93に第1実施形態のように凹所を形成しなくてよいので、磁気エンコーダ93の外側面93aを大きく確保でき、検出精度の向上を図ることができる。また磁気エンコーダ93に凹所を形成する必要がないので、製造が容易といえる。さらにカバー部材13の折曲部130の折り曲げ角度も加工度合が低く、さらに
図3に示す例のように磁気センサ20を嵌合させるための貫通孔も形成不要であるので、これら点においても製造が容易といえる。
【0032】
その他、カバー部材13が金属材で磁気エンコーダ93の一端部93bが弾性材からなることによる効果は、第1実施形態と同様である。また、磁気エンコーダ93の一端部93bに凹所14を形成し、その凹所14内に折曲部130の端部130bが非接触の状態で配置されるので(
図4(a)参照)、簡易な構成で流体の流れ方向が90°以上変わる蛇行したラビリンスを形成することができるという効果も第1実施形態と同様である。
【0033】
<第2実施形態の変形例>
次に第2実施形態の変形例について、
図4(b)を参照して説明する。なお、第1、第2実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
図4(b)に示す密封装置8A’は、これまで示した中で最もシンプルな構成でありながら、磁気エンコーダ93の内輪部材4側の一端部93bとの間にラビリンスを形成することができる例である。磁気センサ20の構成が
図2の例と同様である。
【0034】
密封装置8A’の磁気エンコーダ93は、スリンガ部材9のスリンガ鍔部91に固着され、スリンガ円筒部90の一端部90aにかからないように空所15が形成されている。カバー部材13のカバー鍔部131の内輪部材4側の一端部130aは、磁気エンコーダ93の一端部93bとの間に、流体の流れ方向が90°以上変わるラビリンス(白抜矢印参照)が形成されるよう折り曲げ形成された折曲部130を有している。ここに示す折曲部130は、略90°に折り曲げ変形されている。
【0035】
以上より、この変形例においても、磁気エンコーダ93を保護するとともに、密封装置8A’内に泥水などが浸入する入口部位(白抜矢印の先端参照)にラビリンスが構成されるので、効果的に泥水などの浸入を抑制できる。例えばこの入口部位から泥水などが流入しても、スリンガ部材9の一端部90aと折曲部130の端部130bとの間には上述と同様に僅かな隙間であるので、通過し難く、通過できたとしてその後、軸方向、径方向に蛇行してラビリンスが連なっているので、やはり浸入し難い構造といえる。
【0036】
その他、カバー部材13が金属材で磁気エンコーダ93の一端部93bが弾性材からなることによる効果は、第1実施形態と同様である。また、磁気エンコーダ93の一端部93bに凹所14を形成し、その凹所14内に折曲部130の端部130bが非接触の状態で配置されるので(
図4(b)参照)、簡易な構成で流体の流れ方向が90°以上変わる蛇行したラビリンスを形成することができるという効果も上述の第1実施形態と同様である。
【0037】
なお、上述した各実施形態に係る密封装置8~8A’は、図例の形状・構成に限定されるものではない。例えばシールリップ部121,122,123は、スリンガ部材9に摺接する構成となっているが、カバー部材13を備えている上、折曲部130によるラビリンス構造を有しているので、複数設けられたシールリップ部のいずれかが、スリンガ部材9に摺接せず、近接する構成であってもよい。また環状突起125が設けられた例を示しているが、同様の理由により、なくてもよい。さらに折曲部130の折り曲げ角度も図例限定されず、磁気エンコーダ93の内輪部材4側の一端部93bとの間に、流体の流れ方向が90°以上変わるラビリンスが形成されるよう折り曲げ形成されてよい。そして磁気センサ20の構成は図例に限定されず、相互に適用可能である。またカバー部材13のカバー嵌合円筒部132の嵌合は、フラットな外輪2の外周面2dへの嵌合状態でも、外輪2の外周面2dに設けた段差部2daへの嵌合形態でも、いずれの形態としてもよい。さらにカバー部材13の折曲部130と、凹所14(もしくは空所15)と、内輪部材4の外周面4bとで構成されるラビリンスの間隔の大小関係は図例に限定されないが、図例のようにカバー部材13と磁気エンコーダ93とで構成されるラビリンスの方が、金属材同士であるカバー部材13と内輪部材4の外周面4bとで構成されるラビリンスよりも隙間を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 軸受装置
2 外輪(固定側部材)
4 内輪部材
5 内輪
8,8’,8A,8A’ 密封装置
9 スリンガ部材
90 スリンガ円筒部
91 スリンガ鍔部
92 スリンガ外径円筒部
10 シール部材
11 芯体
12 シールリップ部
121,122,123 シールリップ部
13 カバー部材
130 折曲部
14 凹所
15 空所