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特許7493227積雪状態予測プログラム及び情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】積雪状態予測プログラム及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/10 20060101AFI20240524BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
G01W1/10 P
G01W1/00 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020144667
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039565
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180758
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 利之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 明宏
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-102006(JP,A)
【文献】特開平11-118947(JP,A)
【文献】田中雅人 ほか,広域路面滑り-雪氷状態予測モデルを用いた路面滑り摩擦に及ぼす交通量の影響評価,土木学会論文集E1(舗装工学),2018年01月22日,Vol.73,No.3(舗装工学論文集第22巻),https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejpe/73/3/73_I_53/_pdf/-char/ja,[2024年2月21日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W1/00-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
予測位置の積雪層の積雪厚が予め定めた値より厚くなった場合は当該積雪層を複数の層に分割し、当該複数の層のいずれかが予め定めた値より薄くなった場合は接する層と統合して、前記予測位置の気温に基づいて積雪層下の地盤温度を予測するとともに、当該予測した地盤温度と気象情報に基づき熱収支及び水・氷・空気収支の連成解析を行い、前記複数の層のそれぞれについて前記予測位置の積雪層の状態を予測する予測手段として機能させるための積雪状態予測プログラム。
【請求項2】
前記予測手段は、前記積雪層に対して新たな積雪が生じた場合、前記予め定めた値に関わらず、当該新たな積雪を単一又は複数の層とする請求項1に記載の積雪状態予測プログラム。
【請求項3】
前記コンピュータを、
前記予測位置と異なる位置の気象情報を用いた前記予測手段の予測値である積雪層の状態と、前記予測位置で測定された積雪層の状態とを比較して前記予測位置と異なる位置の気象情報から前記予測位置の気象情報を推定する気象情報推定手段としてさらに機能させる請求項1又は2に記載の積雪状態予測プログラム。
【請求項4】
予測位置の積雪層の積雪厚が予め定めた値より厚くなった場合は当該積雪層を複数の層に分割し、当該複数の層のいずれかが予め定めた値より薄くなった場合は接する層と統合して、前記予測位置の気温に基づいて積雪層下の地盤温度を予測するとともに、当該予測した地盤温度と気象情報に基づき熱収支及び水・氷・空気収支の連成解析を行い、前記複数の層のそれぞれについて前記予測位置の積雪層の状態を予測する予測手段を有する情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積雪状態予測プログラム及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、路面の雪氷層を熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルによりモデル化して各モデルの同時連成解析による定量評価を行うことで路面のすべり摩擦係数を予測する積雪状態予測プログラムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された積雪状態予測プログラムは、気象条件及び交通条件に関する予測データを取得し、雪氷層についての熱収支モデルに基づいて熱収支を計算するとともに、雪氷層についての氷・水・空気収支モデルに基づいて氷・水・空気収支を計算し、これらにより積雪路面、圧雪路面、凍結路面、シャーベット路面のいずれであるか及び雪氷層の厚さ等の雪氷状態予測データを算出して、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を予測する。なお、積雪路面、圧雪路面、凍結路面、シャーベット路面のいずれであるかは氷・水・空気の体積割合により決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008‐102006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した特許文献1の積雪状態予測プログラムは、気象条件及び交通条件に関する予測データを取得して、雪氷状態予測データを算出して、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を予測するものの、雪氷層中の状態が厚み方向で均一の場合を対象としており、この場合想定する雪氷層の最大厚は5cm程度となる。つまり、積雪がさらに厚くなり内部の状態が均一でなくなった場合は、積雪層中の状態を予測できない、という問題がある。
【0006】
本発明の目的は、積雪層の厚さに関わらず積雪層の状態を予測する積雪状態予測プログラム及び情報処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の積雪状態予測プログラム及び情報処理装置を提供する。
【0008】
[1]予測位置の積雪層の積雪厚が予め定めた値より厚くなった場合は当該積雪層を複数の層に分割し、当該複数の層のいずれかが予め定めた値より薄くなった場合は接する層と統合して、前記予測位置の気温に基づいて積雪層下の地盤温度を予測するとともに、当該予測した地盤温度と気象情報に基づき熱収支及び水・氷・空気収支の連成解析を行い、前記複数の層のそれぞれについて前記予測位置の積雪層の状態を予測する予測手段として機能させるための積雪状態予測プログラム。
[2]前記予測手段は、前記積雪層に対して新たな積雪が生じた場合、前記予め定めた値に関わらず、当該新たな積雪を単一又は複数の層とする前記[1]に記載の積雪状態予測プログラム。
[3]前記予測位置と異なる位置の気象情報を用いた前記予測手段の予測値である積雪層の状態と、前記予測位置で測定された積雪層の状態とを比較して前記予測位置と異なる位置の気象情報から前記予測位置の気象情報を推定する気象情報推定手段としてさらに機能させる前記[1]又は[2]に記載の積雪状態予測プログラム。
[4]予測位置の積雪層の積雪厚が予め定めた値より厚くなった場合は当該積雪層を複数の層に分割し、当該複数の層のいずれかが予め定めた値より薄くなった場合は接する層と統合して、前記予測位置の気温に基づいて積雪層下の地盤温度を予測するとともに、当該予測した地盤温度と気象情報に基づき熱収支及び水・氷・空気収支の連成解析を行い、前記複数の層のそれぞれについて前記予測位置の積雪層の状態を予測する予測手段を有する情報処理装置。
【発明の効果】
【0009】
請求項1又は4に係る発明によれば、積雪層の厚さに関わらず積雪層の状態を予測することができる。
請求項2に係る発明によれば、積雪層に対して新たな積雪が生じた場合、当該新たな積雪を単一又は複数の層とすることができる。
請求項3に係る発明によれば、予測位置と異なる位置の気象情報を用いた予測手段の予測値である積雪層の状態と、予測位置で測定された積雪層の状態とを比較して予測位置と異なる位置の気象情報から予測位置の気象情報を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る積雪状態予測システムの構成の一例を示す概略図である。
図2図2は、実施の形態に係る情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
図3図3は、積雪層の状態を解析するためのモデル概念を示す図である。
図4図4(a)及び(b)は、それぞれ積雪層の分割動作例及び統合動作例を説明するための概略図である。
図5図5は、積雪層の分割動作の他の例を説明するための概略図である。
図6図6は、積雪状態予測プログラムの動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
(積雪状態予測システムの構成)
図1は、実施の形態に係る積雪状態予測システムの構成の一例を示す概略図である。
【0012】
この積雪状態予測システムは、情報を処理して予測位置5の積雪状態を予測する情報処理装置1と、主に気温、湿度、日照時間、降雨量、降雪量、風速、風向等の気象情報を測定する気象観測所2と、情報の入出力を行う端末3とをネットワーク4によって互いに通信可能に接続することで構成される。なお、ここで「積雪状態」とは、積雪深、積雪荷重(積雪相当水量)、密度、含水率、地面到達水量、地中浸透量、積雪地盤温度分布のうち少なくとも1つを含むものとする。一例として、予測位置5は山地A2に位置し、気象観測所2は平野部A1に位置するものとし、予測位置5が気象観測所2から位置が離れている場合を想定しているが、予測位置5と気象観測所2が近接していてもよい。
【0013】
情報処理装置1は、サーバ型の情報処理装置であり、外部から入力される要求に応じて動作するものであって、本体内に情報を処理するための機能を有するCPU(Central Processing Unit)やフラッシュメモリ等の電子部品を備える。
【0014】
端末3は、PC(Personal Computer)、タブレット端末、スマートフォン等の端末型の情報処理装置であり、操作部に対する入力内容に応じて動作するものであって、本体内に情報を処理するための機能を有するCPUやフラッシュメモリ、情報を表示するディスプレイ等の電子部品を備える。なお、情報処理装置1の機能と端末3の機能を一方に集約してもよいし、異なる単位で分割してもよい。
【0015】
ネットワーク4は、高速通信が可能な通信ネットワークであり、例えば、イントラネットやLAN(Local Area Network)等の有線又は無線の通信網である。
【0016】
情報処理装置1は、一例として、端末3に対する利用者の操作に応じて、気象観測所2又は測定により気温、風速、湿度等の気象情報及び/又はこれらの気象予報値を含む気象情報を受信し、当該受信した情報と、利用者によって入力された計算条件、初期条件等の設定値情報とに基づいて予測位置5の積雪状態を予測する。また、情報処理装置1は、気象観測所2と予測位置5が離れている場合、気象観測所2から得られる情報から予測位置5の気象情報を推定し、推定した気象情報を用いて予測位置5の積雪状態を推定する。また、情報処理装置1は、さらに積雪状態のうち積雪下の地盤に対する地面到達水量、積雪地盤温度分布と、地盤の地形・地質データ、地下水位実測データ、地盤透水係数等とに基づいて地盤の地下水位変動を解析し、地すべり地の安定性を推定する。以降、各構成について詳細に説明する。
【0017】
(情報処理装置の構成)
図2は、実施の形態に係る情報処理装置1の構成例を示すブロック図である。
【0018】
情報処理装置1は、CPU等から構成され、各部を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部10と、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成され情報を記憶する記憶部11と、ネットワーク4を介して外部と通信する通信部12とを備える。
【0019】
制御部10は、後述する積雪状態予測プログラム110を実行することで、気象情報取得手段100、設定手段101、測定値取得手段102、積雪状態予測手段103、気象情報推定手段104及び予測値出力手段105等として機能する。
【0020】
気象情報取得手段100は、通信部12を介して気象観測所2から気象情報を取得し、気象情報111として記憶部11に格納する。気象情報111は、気温、相対湿度、風速、日射量、大気放射量、降水量の実測値及び予報値を含むものとするが、大気放射量については気温、相対湿度、蒸気圧、雲量より推定してもよい。
【0021】
設定手段101は、計算条件及び積雪状態を予測するための初期条件を設定し、設定値情報112として記憶部11に格納する。設定値情報112の内容は「(2)設定動作」にて詳細に説明する。
【0022】
測定値取得手段102は、通信部12を介して外部から実測された測定値を取得し、測定値情報113として記憶部11に格納する。測定値情報113は、例えば、予測位置5における積雪深さ、地盤温度であり、位置情報に対応付けて記録される。
【0023】
積雪状態予測手段103は、気象情報111、設定値情報112、測定値情報113に基づいて積雪状態及びその時間推移を予測し、予測値情報115を生成する。積雪状態は、例えば、積雪深、積雪荷重(積雪相当水量)、密度、含水率、地面到達水量、地中浸透量、積雪地盤温度分布のうち少なくとも1つを含むものである。
【0024】
気象情報推定手段104は、予測位置5と異なる位置である気象観測所2において取得された気象情報111を用いて積雪状態予測手段103が予測した結果である積雪の状態と、予測位置5で測定された積雪の状態とを比較して、気象観測所2において取得された気象情報から予測位置5の気象情報を推定し、推定気象情報114として記憶部11に格納する。
【0025】
予測値出力手段105は、積雪状態予測手段103が予測した予測値情報115を端末3又は他の装置に対して出力する。
【0026】
記憶部11は、制御部10を上述した各手段100‐105として動作させる積雪状態予測プログラム110、気象情報111、設定値情報112、測定値情報113、推定気象情報114及び予測値情報115等を記憶する。
【0027】
(情報処理装置の動作)
次に、本実施の形態の作用を、(1)気象情報入力動作、(2)設定動作、(3)基本予測動作、(4)分割統合動作及び(5)出力値応用動作に分けて説明する。
【0028】
図3は、積雪層の状態を解析するためのモデル概念を示す図である。また、図6は、積雪状態予測プログラムの動作例を示すフローチャートである。
【0029】
まず、積雪層の状態予測の前提としてのモデルを説明する。図3に示すモデルは、熱、水質量、氷質量、空気体積収支に基づくものであり、積雪層を物質として氷、水及び間隙空気の混合物と捉え、熱収支と物質収支を連成させて同時に解析するものである。
【0030】
つまり、熱収支として積雪層に作用する熱源として日射熱、放射熱、降雨降雪熱、地面からの伝導熱(地面熱)、風に伴う顕熱、蒸発・凝縮や昇華など気体と液体あるいは固体の相変化に伴う潜熱、融解・凝固潜熱による熱の移動を考慮し、積雪層中における水分移動に伴う顕熱(浸透)及び熱伝導を考慮する。
【0031】
また、物質移動収支として、積雪時における降雨・降雪、積雪に含まれる空気(降雪空気)による水、氷及び空気の増加、昇華、蒸発・凝結による水及び、氷の増加又は減少、融解によって積雪外へ開放される空気(開放空気)、融解水と置き換わり積雪外へ移動する空気(置換空気)による空気の減少、積雪の粘性圧縮に伴い積雪外へ移動する空気(粘性圧縮空気)による空気の減少、融解・凝固による水及び氷の増加又は減少、浸透、地面到達による水の減少を考慮する。
【0032】
(1)気象情報入力動作
まず、気象情報取得手段100は、気象情報111を作成し記憶部11に格納する(S1)。予測位置5における現地気象データが存在する場合は(S10)、気象情報取得手段100は、通信部12を介して予測位置5の気象観測所から気象情報を取得し、気象情報111として記憶部11に格納する。
【0033】
また、予測位置5における現地気象データが存在せず、現地の積雪深さが測定可能な場合は(S11)、測定値取得手段102は、予測位置5と異なる気象観測所2の気象情報を取得して測定値情報113として格納し、気象情報推定手段104は、後述する「(3)基本予測動作」によって求まる積雪層の深さと予測位置5における積雪深さとを比較することで、気象観測所2の気象情報の降水量を補正して予測位置5の降水量を推定するとともに、気象観測所2の気象情報の気温を予測位置5との標高差により補正して予測位置5の気温を推定する。推定した情報は推定気象情報114として記憶部11に格納される。
【0034】
(2)設定動作
次に、端末3を操作する利用者の入力に基づき、情報処理装置1の設定手段101は、計算領域及び計算条件並びに積雪状態を予測するための初期条件を設定し、設定値情報112として記憶部11に格納する(S2、S3)。
【0035】
計算条件は、計算継続時間、計算分割時間、積雪層最大要素厚、積雪層最小要素厚が端末3において利用者により入力される(S20)。また、地盤データとして、熱伝導率、体積熱容量、地盤領域が端末3において利用者により入力される(S21)。
【0036】
初期条件は、初期積雪状態として高さ、密度、含水量と、初期地盤温度の鉛直分布が端末3において利用者により入力される(S30)。
【0037】
なお、予測位置5の現地地盤温度データがない場合、設定手段101は、地表面温度を気温と等しいものとし、例えば、深さ5mの地盤温度が一定と仮定して、地盤鉛直温度分布を地表面温度と深さ5mの地盤温度を用いた線形補完から決定する(S31)。
【0038】
次に、積雪状態予測手段103は、ステップS1~S3によって得られた気象情報111(又は推定気象情報114)、設定値情報112に基づいて以下に説明する「(3)基本予測動作」のように積雪状態を解析する(S4)。
【0039】
また、積雪状態予測手段103は、積雪層の温度や物性の鉛直変化や日射の透過・吸収・反射などを考慮するために、積雪層の地表面と接する最下層を第1層、外気と接する最上層を第n層として、積雪層をn層に分割し、各層に対して以下の「(3)基本予測動作」に示す計算を実行する。なお、各層の厚さは、ステップS20において入力された積雪層最大要素厚が用いられる。
【0040】
(3)基本予測動作
ここで、単位面積当りの積雪体積V(m/m)は、水体積V(m/m)、氷体積V(m/m)及び間隙空気体積V(m/m)の和(=V+V+V)となり、これを積雪層厚とする。積雪層内の水、氷及び間隙空気の体積割合として、体積含水率はθ(=V/V)、体積含氷率はθ(=V/V)、体積含水率はθ(=V/V)の記号で表す。
【0041】
(3‐1)熱収支
まず、積雪状態予測手段103は、積雪層の熱収支について下記の数式に基づいて計算を実行することにより積雪層の状態を予測する(S5)。各積雪層の内部熱エネルギーの時間変化率は、以下の式で与えられる(S50)。
【数1】
【0042】
ここで、(ρc):積雪層の体積熱容量(J/m/K)、qci:伝導熱フラックス、qrsn:純日射熱フラックス、qrln:純長波放射熱フラックス、qsa:風顕熱フラックス、qsm:浸透顕熱フラックス、qsf:降雨・降雪顕熱フラックス、qle:蒸発・昇華潜熱フラックス、qlm:融解・凝固潜熱フラックス、q:地盤表層熱フラックス(以上、W/m)である。また、ω(t)は地表面と積雪間における熱移動に関する判別変数であり、j=1(地表面と接する積雪層)でω(t)=1とし、それ以外は0とする。
【0043】
(ρc)は積雪層中の水、氷及び空気の調和平均により与えられる。(ρc)及びVは後述の水及び氷質量収支及び空気体積収支に従い変化する。
【0044】
ciは、積雪の熱伝導率λ(W/m/K)を用いたフーリエの法則で与えられ、以下の式にて表される。
【数2】
【0045】
日射は反射と吸収により積雪の深さ方向に減衰する。qrsnは、日射熱フラックスqrsd(W/m)からその反射成分及び透過成分を除いた日射吸収熱フラックスとして、次式で表される。
【数3】
【0046】
ここで、αはアルベド及びτは透過率であり、両パラメータは積雪表面からの深さ、積雪密度及び重量含氷率に依存し、これらの関係は藤本ほか(藤本明宏・渡邊洋・福原輝幸(2007a):輻射‐透過を伴う路面薄雪氷層の融解解析,土木学会論文集E,Vol. 63,No. 2,pp. 202‐219.参照。)に従う。
【0047】
rlnは、大気と接する積雪表面から上向きの長波放射熱qrlu(W/m)と大気から積雪表面に入射する長波放射熱qrld(W/m)の和である。qrldは測定値が入力条件として与えられる。qrluは、Stefan‐Boltzmannの法則に従い、次式で与えられる。
【数4】
【0048】
ここで、σはStefan‐Boltzmann定数(=5.67×10‐8W/m/K)であり、εは積雪表面の射出率であり、西川・藤田(西川兼康・藤田恭伸(1982):伝熱学,理工学社,p. 303.参照。)を参考に0.82とした。
【0049】
saは、Newtonの冷却則に従い次式で与えられる。
【数5】
【0050】
ここで、αsa:大気‐積雪層間の熱伝達率(W/m/K)であり、藤本ほか(藤本明宏・福原輝幸・渡邊洋・佐藤武・根本征樹・望月重人・岸井徳雄(2006):乾燥,湿潤,氷板および圧雪路面と大気との間の熱・水蒸気移動,日本雪工学会誌,Vol. 22,No. 3,pp. 14‐22.参照。)に従う。
【0051】
sfは、大気と接する積雪最上部層にその顕熱の全てが影響するものと仮定して、次式で与える。
【数6】
【0052】
ここで、(ρc)は降水の体積熱容量(J/m/K)であり、T:降水温度=気温T(℃)とする。
【0053】
leは上述した蒸発・凝結フラックスmwl及び昇華フラックスmilを用いて、次式で与えられる。
【数7】
【0054】
ここで、qは蒸発潜熱(kJ/kg)及びqは昇華潜熱(kJ/kg)である。
【0055】
lmは、前述の融解・凝固フラックスmwiに融解凍結潜熱q(kJ/kg)を乗じて計算され、次式で表される。
【数8】
【0056】
は、積雪層と地盤表層との間の熱移動量であり、各熱伝導率に加えて積雪と地表の界面での接触状態に関係する。藤本ほか(藤本明宏・福原輝幸・渡邊洋(2007b):路面雪氷層‐舗装間の接触熱抵抗,土木学会論文集E,Vol. 63,No. 1,pp. 156‐165.参照。)は積雪と舗装との間の接触熱抵抗R(mK/W)とθの関係(=0.5×10‐3exp(5.6θ))を明らかにした。ここでは、この関係が地盤上の積雪に適用できるものと仮定して、qを次式で与えた。
【数9】
【0057】
ここで、λgsは地盤表層の熱伝導率(W/m/K)、Vgsは単位面積当たりの地盤表層体積(m/m)、Tgsは地盤表層温度(℃)である。なお、λは水、氷及び空気の熱伝導率の調和平均として与えられる。
【0058】
また、積雪状態予測手段103は、地盤表層の熱収支について下記の数式に基づいて計算を実行することにより地盤層の状態を推定する(S51)。
【数10】
【0059】
ここで、(ρc)gsおよびVgsは地盤層の体積熱容量(J/m/K)および体積(m/m)、qgcは地中伝導熱フラックス(W/m)である。qgcはFourierの法則に従い下記の数式で表される。
【数11】
【0060】
ここに,λは地盤層の熱伝導率(W/m/K)、Tは地盤温度(℃)、z:鉛直方向(m)である.
【0061】
(3‐2)物質収支(水質量)
次に、積雪状態予測手段103は、物質収支について計算するが(S6)、積雪層の物質収支のうち水質量について下記の数式に基づいて計算を実行することにより積雪層の状態を予測する(S60)。積雪層の水質量収支は、降雨フラックスmwf(kg/m/s)、蒸発・凝結フラックスmwl(kg/m/s)、融解・凝固フラックスmwi(kg/m/s)、及び浸透フラックスmwp(kg/m/s)で規定される。これにより、雪氷層の水質量M(kg/m)の時間変化率は次式のように表される。なお、上付きの添字jは任意の積雪層(j層)を意味する。
【数12】
【0062】
ここで、tは時間(s)、γ(t)は積雪と大気間における熱、質量及び体積移動に関する判別変数であり、j=n(大気と接する積雪層)でγ(t)=1とし、それ以外は0とする。
【0063】
wfに関して、降雨と降雪の区別は太田(太田岳史(1989):気温および降水量による山地積雪水量の経時変化の推定,雪氷,Vol. 51,No. 1,pp. 37‐48.参照。)を参考に気温2℃未満では降雪、2℃以上では降雨とした。
【0064】
wlは、次のバルク式により導かれる。
【数13】
【0065】
ここで、αwlは蒸発・凝結バルク係数(m/s)、ρva及びρvsは大気及び積雪表面の水蒸気密度(kg/m)である。ρva及びρvsは日本機械学会(日本機械学会偏(1992):湿度・水分計測と環境のモニタ,技報堂出版.参照。)に記載されている実験式を用いて気温、積雪表面温度及び相対湿度から求めた。
【0066】
netは、積雪温度T=0℃かつ積雪層の純熱収支フラックスQnet(W/m)>0のとき、積雪層の融解に、逆にQnet<0のとき凝固に費やされる。その際、MwiはQnetを融解及び凝固潜熱で除して与えられる。
【0067】
wpは、次のDarcy則に準じて計算される。
【数14】
【0068】
ここで、ρは水密度(kg/m)、k:不飽和透水係数(m/s)、ψ:マトリックポテンシャル水頭(m)及びz:鉛直高さ(m)である。ψは、単位体積あたりのマトリックポテンシャルP(kN/m)を水の単位体積重量γ(kN/m)で除して与えられ(van Genuchten, M. (1980): A closed‐form equation for predicting the hydraulic conductivity of unsaturated soils, Soil Sci. Soc. Am. J., Vol. 44, pp. 892‐989.参照。)、Pは有効飽和度Sを用いてColbeck(Colbeck, S. C. (1974): The capillary effects on water percolation in homogenous snow, J. Glaciol., Vol. 13, pp. 85‐97.参照。)の式で計算される。
【数15】
【数16】
【0069】
ここで、m:係数、θwr:残留体積含水率、θws:飽和体積含水率である。ここで、mはHirashima(Hirashima, H., Yamaguchi, S., Sato, A., Lehning, M. (2010): Numerical modeling of liquid water movement through layered snow based on new measurements of the water retention curve, Cold Regions Science and Technology, Vol. 64, pp. 94‐103.参照。)に従えば雪の平均粒径dsp(mm)として次式で与えられる。
【数17】
【0070】
また、dspが時間とともに変化することを考慮して、E. Brun(E. Brun (1989):Investigation on wet‐snow metamorphism in respect of liquid‐water content, International Glaciological Society, Annals of Glaciology, Vol. 13, pp. 22‐26.参照。)によって提案された以下の雪粒子体積Vsp(mm)の変化式を本モデルに組み込んだ。
【数18】
【0071】
ここで、Vsp0は初期雪粒子体積(mm)である。dspは雪粒子の形状を球体としてVspから求めた。なお、Vspa=1.28×10‐8(mm/s)、Vspb=4.22×10‐10(mm/s)である。
【0072】
kは、van Genuchten(1980)に従い、飽和透水係数k(m/s)を用いて次式で与えられる。
【数19】
【0073】
はShimizu(Shimizu, H. (1970): Air permeability of deposited snow, Contributions from the Institute of Low Temperature Science, A22, pp. 1‐32.参照。)に従って、次式から求められる。
【数20】
【0074】
ここで、gは重力加速度(m/s)、ηは0℃における水の粘性係数(Pa・s)及びρsdry:乾き雪密度(kg/m)である。
【0075】
地表面到達水フラックスは、積雪最下層(j=1)におけるmwp、mwp1(kg/m/s)に等しい。
【0076】
(3‐3)物質収支(氷質量)
次に、積雪状態予測手段103は、積雪層の物質収支のうち氷質量について下記の数式に基づいて計算を実行することにより積雪層の状態を予測する(S61)。積雪層の氷質量収支は図‐1に示すように、降雪フラックスmif(kg/m/s)、昇華フラックスmil(kg/m/s)及びmwi(>0:融解、<0:凝固)で規定される。従って、積雪層の氷質量M(kg/m)の時間変化率は、次式で与えられる。
【数21】
【0077】
ifは、上述のとおり気温が2℃未満において降水強度I(m/s)と降雪密度(本解析では80kg/mと仮定)の積で与えられる。
ilは、以下のバルク式により導かれる。
【数22】
【0078】
ここで、αilは昇華バルク係数(m/s)であり、藤本ほか(2006)を参考に与えられる。
【0079】
(3‐4)物質収支(間隙空気体積)
次に、積雪状態予測手段103は、積雪層の物質収支のうち水質量について下記の数式に基づいて計算を実行することにより積雪層の状態を予測する(S62)。積雪層の間隙空気体積収支は後述するように、降雪空気フラックスvaf(m/m/s)、置換空気フラックスvaex(m/m/s)、開放空気フラックスvao(m/m/s)及び粘性圧縮空気フラックスvaov(m/m/s)で規定される。このとき、積雪層の空気体積V(m/m)の時間変化率は、次式で与えられる。
【数23】
【0080】
afは降雪フラックス(mif)により供給される空気体積であり、次式で与えられる。
【数24】
【0081】
ここで、ρは氷密度(kg/m)である。
【0082】
融解により積雪内の間隙空気は融解水と置き換わり、積雪層から押し出される。この単位時間・単位面積当りの空気体積を置換空気フラックス(vaex)と呼称する。vaexは、藤本ら(藤本明宏・渡邊洋・福原輝幸(2007):輻射‐透過を伴う路面薄雪氷層の融解解析、土木学会論文集E、Vol. 63、No. 2、pp. 202‐219、参照。)を参考に次式で表される。
【数25】
【0083】
融解する前まで積雪内に存在した空気は、融解により周辺の氷粒子が無くなることにより、積雪の体積としてみなせなくなる。この空気体積フラックスを開放空気フラックス(vao)と呼ぶ。vaoは融解部分のコントロールボリュームにθを乗じた値に等しい。これを踏まえて、vaoは藤本ら(藤本明宏・渡邊洋・福原輝幸(2007):輻射‐透過を伴う路面薄雪氷層の融解解析、土木学会論文集E、Vol. 63、No. 2、pp. 202‐219、参照。)を参考に次式で与えられる。
【数26】
【0084】
aovは、次式で与えられる。
【数27】
【0085】
ここで、p:j層に作用する上載積雪質量(kg/m)及びη:粘性圧縮係数(kg・s/m)である。なお、ηは間隙水による圧縮抑制を考慮した近藤・沼田(近藤純正・沼田洋一(1988): 積雪表層密度のパラメータ化,雪氷,Vol. 50,No. 2,pp. 80‐86.参照。)の式で与えた。
【0086】
積雪状態予測手段103は、上記したステップS5、S6の計算を実行することにより積雪層の状態を予測し、計算結果として積雪深、積雪荷重(積雪相当水量)、密度、含水率、地面到達水量、積雪地盤温度分布を予測値情報115として出力する(S7)。また、積雪状態予測手段103は、計算結果として得られた地面到達水量に対して地中への浸透率を補正することで地中浸透量を得る(S70)。なお、地中への浸透率は、地盤の透水性や飽和度、降雨強度、斜面の勾配、表面状態などによって変化すると考えられるが、十分に定量化されていないため、小川ら(小川正二・池田俊雄・亀井健史・和田正(1988):濁沢地すべり地における融雪水・間隙水圧・地下水温・地温の変動特性,地すべり,Vol. 25,No.1,pp. 21‐27)や田中ら(田中茂信・時岡利(2007):現地散水試験による流出・浸透特性の把握手法に関する検討,土木学会年次学術講演会概要集,Vol. 62,2‐003,pp. 5‐6、参照。)を参考に決定するか、現地で観測するなどして決定する。
【0087】
(4)分割統合動作
次に、積雪状態予測手段103は、積雪、又は融解、粘性圧縮により積雪層の各層の厚さが変化した場合、以降に説明するように、要素厚上限値と要素厚下限値に基づいて、層を分割又は統合する(S8)。なお、要素厚上限値は、鉛直方向に均一とみなさせる厚さを考慮して、例えば5cmと設定され、要素厚下限値は、解析値が発散や振動しないように数値解析の安定性を考慮して、例えば0.1cmと設定される。
【0088】
図4(a)及び(b)は、それぞれ積雪層の分割動作例及び統合動作例を説明するための概略図である。
【0089】
積雪状態予測手段103は、図4(a)に示すように、例えば、要素厚上限値より小さい厚さの第1層(1L)が存在する場合(t=t)、降雪等によって第1層が上限厚以上になると(t=t)、その余剰分の厚さを有する第2層(2L)を第1層の上に付加する(t=t)。
【0090】
また、積雪状態予測手段103は、図4(b)に示すように、要素厚下限値より大きい厚さの第n層(nL)が存在する場合(t=t)、第n層が融解して下限厚を下回ると(t=t)、第n層の水、氷及び空気を第n‐1層に帰属させ、第n層を消滅させる(t=t)。また、地面からの熱移動によって第1層(1L)の融雪が進行し第1層が下限厚まで減少すると(t=t)、第1層はその水、氷及び空気の質量あるいは体積を第2層に帰属させて消滅させる(t=t)。積雪状態予測手段103は、上記したように積雪層の分割及び結合が生じた場合であっても、水・氷質量及び空気体積収支の連続性を保存する。
【0091】
また、積雪状態予測手段103は、以下の図5に示すように、既に存在する層上に新たな降雪イベントが生じた場合、当該新たな積雪イベントにより生じた積雪を要素厚上限値に関わらず新たな計算要素(層)として生成してもよい。
【0092】
図5は、積雪層の分割動作の他の例を説明するための概略図である。
【0093】
積雪状態予測手段103は、図5に示すように、例えば、要素厚上限値に達していない第2層(2L)が存在する場合(t=t11)であっても、降雪等によって新たな積雪が生じると、新たな積雪により生じた第4層(3L)を第2層の上に付加する(t=t12)。
【0094】
積雪状態予測手段103は、上記分割統合動作後、計算継続時間に達していない場合は(S9;いいえ)、分割統合した各層に対して計算を繰り返す(S4‐S7)。
【0095】
(5)出力値応用動作
出力値応用手段106は、積雪状態予測手段103の予測値情報115を用い、さらに予測位置5の地盤の地形・地質データ、地下水位実測データ、地盤透水係数を入力して予測位置5の地盤の地下水位変動を解析して地下水位の時間変化を得る。
【0096】
次に、出力値応用手段106は、当該地下水位の時間変化と、予測値情報115の地面到達浸透量と積雪荷重の時間変化を入力値とし、さらに地盤強度定数を入力して予測位置5の地盤の斜面安定解析を行い、地すべり地の安定性を出力する。
【0097】
(実施の形態の効果)
上記した実施の形態によれば、積雪層を要素厚上限値と要素厚下限値に基づいて、層を分割又は統合し、各層に対して取得した気象情報に基づき熱収支及び水・氷・空気収支の連成解析を行い、複数の層のそれぞれについて積雪の状態を予測するようにしたため、厚い積雪層に対しても高い精度で内部状態を予測でき、積雪層の厚さに関わらず積雪層の状態を予測することができる。
【0098】
また、地盤温度を予測位置5の気温に基づいて予測するようにしたため、地盤温度の実測値が得られない場合であっても積雪層の内部状態を予測することができる。
【0099】
また、積雪層に対して新たな積雪が生じた場合、予め定めた値に関わらず、当該新たな積雪を単一又は複数の層とするようにしたため、積雪イベントに依存して異なる雪粒子の粒径や形状、含水率及び積雪密度を考慮して積雪層の内部状態を計算できる。
【0100】
また、予測位置5と異なる位置の気象情報を用いた積雪状態予測手段103の予測値情報115である積雪の状態と、予測位置5で測定された測定値情報113である積雪の状態とを比較して、予測位置5と異なる位置の気象情報111から予測位置5の気象情報を予測するようにしたため、現地気象情報を観測していない場合であっても、近隣の気象情報を利用して積雪層の状態を予測することができる。
【0101】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。
【0102】
上記実施の形態では制御部10の各手段100~105の機能をプログラムで実現したが、各手段の全て又は一部をASIC等のハードウエアによって実現してもよい。また、上記実施の形態で用いたプログラムをCD‐ROM等の記録媒体に記憶して提供することもできる。また、上記実施の形態で説明した上記ステップの入れ替え、削除、追加等は本発明の要旨を変更しない範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 :情報処理装置
2 :気象観測所
3 :端末
4 :ネットワーク
5 :予測位置
10 :制御部
11 :記憶部
12 :通信部
100 :気象情報取得手段
101 :設定手段
102 :測定値取得手段
103 :積雪状態予測手段
104 :気象情報推定手段
105 :予測値出力手段
110 :積雪状態予測プログラム
111 :気象情報
112 :設定値情報
113 :測定値情報
114 :推定気象情報
115 :予測値情報

図1
図2
図3
図4
図5
図6