(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】分子ふるい膜の継代合成方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/20 20060101AFI20240524BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240524BHJP
C01B 39/16 20060101ALN20240524BHJP
【FI】
C01B39/20
B01D71/02
C01B39/16
(21)【出願番号】P 2022531011
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 CN2020131623
(87)【国際公開番号】W WO2021104338
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】202011251861.9
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911198413.4
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520143281
【氏名又は名称】寧波大学
【氏名又は名称原語表記】NINGBO UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】818 Fenghua Road, Jiangbei District, Ningbo City, Zhejiang Province, China
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】李 硯碩
(72)【発明者】
【氏名】曹 毅
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-109116(JP,A)
【文献】国際公開第2017/142056(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108264055(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶を予備担持するステップを含む分子ふるい膜の継代合成方法であって、
前記種結晶の予備担持は、結晶化反応後の反応残液を
そのまま種結晶液として担体に担持するプロセスであり、
前記分子ふるい膜の継代合成方法は、種結晶層を担持した担体を焼成するステップをさらに含み、前記焼成の温度が300~700℃であり、焼成の時間が0.1~24時間であることを特徴とする分子ふるい膜の継代合成方法。
【請求項2】
前記方法はN世代(Nは正の整数である。)の合成プロセスを含み、第N世代の合成プロセスは下記のステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
N=1の場合、種結晶層を担持した担体を焼成した後、反応ゾルに入れ、結晶化反応により第1世代の分子ふるい膜を得て、反応残液を
そのまま第2世代の合成プロセスの種結晶液とする。
N≧2の場合、
(1)種結晶の予備担持:第N-1世代の結晶化反応後の反応残液を
そのまま種結晶液として担体に均一に担持し、担持後の担体を室温で完全に乾燥するまで静置し、種結晶層を担持した担体を得る;
(2)種結晶層を担持した担体を焼成した後、室温まで冷却し、焼成後の担体を得る;
(3)焼成後の担体を反応ゾルに入れ、結晶化反応を行う;
(4)分子ふるい膜と反応残液を分離し、第N世代の分子ふるい膜を得て、反応残液を
そのまま第N+1世代の合成プロセスの種結晶液とする。
【請求項3】
前記結晶化反応は、マイクロ波によるエネルギー供給の水熱合成反応であり、反応系の温度を1~30℃/分間の昇温速度で
80~130℃の結晶化温度に昇温し、且つ該温度で結晶化反応を行うステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応ゾルは、ケイ素源、アルミニウム源、アルカリ源および水を含み、前記ケイ素源とアルミニウム源とアルカリ源と水とのモル比は、(5~30):1:(30~90):(900~2200)であることを特徴とする請求項2
または3に記載の方法。
【請求項5】
前記結晶化反応に先立ち、焼成後の担体を反応ゾルに入れ、
40~80℃の条件で
5~20時間静置するエージングステップをさらに含むことを特徴とする請求項2
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
N=1の場合、前記種結晶層を担持した担体は、種結晶液を担体に均一に担持し且つ室温で完全に乾燥するまで静置することで得られ、該第1世代の合成プロセスにおける種結晶液は、反応ゾルの結晶化反応により得られることを特徴とする請求項2
~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
2≦N≦50であることを特徴とする請求項2
~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記担体は、管状多孔質アルミナセラミックス支持体であることを特徴とする請求項1
~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記焼成ステップは、反応系の温度を0.5~30℃/分間の昇温速度で焼成温度に昇温する昇温プロセスを含むことを特徴とする請求項1
~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記種結晶層を担持した担体の担持量は、1~100mg/cm
2であることを特徴とする請求項1
~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記分子ふるい膜は、FAU分子ふるい膜またはLTA分子ふるい膜であることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記種結晶を予備担持するステップにおいて、結晶化反応後の反応残液に担体を浸漬することにより、結晶化反応後の反応残液を担体に担持することを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記焼成の温度が、500℃であることを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離の技術分野に属し、特に2次成長法による分子ふるい膜の製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離技術は、伝統の分離技術に比べて、エネルギー消耗が低く、汚染が少なく、操作が簡便であるなどの利点を有することから、学界や産業界に広く注目されている(AIChE Journal, 50(10):2326-2334)。しかしながら、膜分離技術は、分子ふるい膜の生産コストに制限され、マッケートポテンシャルが十分に放出されていない。分子ふるい膜の合成コストは、主に担体コストと合成プロセスコストである。従来技術では、一般の分子ふるい膜の合成方法には、主にin-situ成長法、固相転移法、2次成長法等がある。in-situ成長法は、担体を直接合成ゾルに入れ、適切な結晶化条件下で、分子ふるいを直接担体上に成長させて成膜するものである。該プロセスは簡単であり、種結晶の塗布ステップが不要であるため、分子ふるい膜の大規模生産に有利である。しかし、1回だけのin-situ成長法により合成した分子ふるい膜に多くの欠陥が存在し、膜の分離性能を確保するためにin-situ成長プロセスを複数回繰り返す必要があり、生産コストの上昇を招く。マイクロ波技術をin-situ成長法に組み合わせることで、繰り返し合成の回数を大幅に減らすものの、工業応用規格を満たす分子ふるい膜を製造するには2回以上の水熱合成プロセスを依然として必要とする。固相転移法は、まず担体上に種結晶ゲル層を導入し、次にこれを、水または鋳型剤を含んだ反応釜に置き、水または鋳型剤に直接接触せずに、加熱して液体を気化させながらゲル層を蒸気の作用で結晶化させるものである。この方法は、水および鋳型剤の使用量を効果的に制御できるが、合成系が流動性に乏しいため、膜欠陥が多く、工業的規模の生産に不利である。2次成長法は、通常下記のステップを有する。まず種結晶を担体の表面に予備塗布し、その直後に、種結晶が塗布された担体を合成ゾルに浸漬し、水熱合成により分子ふるい膜を得る。種結晶の存在は核生成誘導期を大幅に短縮し、分子ふるいが優先的に担体の表面に成長するようになり、緻密な分子ふるい膜の合成に有利である。しかし、この合成方法は種結晶層への要求が高く、種結晶のサイズが均一であり塗布が均一であることが必要であり、種結晶液の調製に超音波の補助が必要となる場合が多く、実際操作時に繰り返し性と正確性を制御しにくい。生産応用では、プロセスが増えるだけでなく、塗布装置および種結晶合成装置への要求が高く、生産コストのさらなる上昇を招く。これらのことは、その工業生産応用の広さおよび深さを大きく制約している。
【0003】
よって、高性能の分子ふるい膜を合成するために、安定して、効率的で、省エネルギーで、低コストの合成方法を開発することは、依然として極めて挑戦性のある課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術の優れた特性を十分に活用しながら、従来技術を改良して産業応用でより簡便で、より経済的で、より環境に優しく、よりスムーズに実現できる、種結晶法(2次成長法)による分子ふるい膜の新規な製造プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明は、種結晶を予備塗布するステップを含む分子ふるい膜の継代合成方法であって、前記種結晶の予備塗布が結晶化反応後の反応残液を種結晶液として担体に塗布するプロセスである分子ふるい膜の継代合成方法を開示する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、従来技術の種結晶法による分子ふるい膜合成の技術手段に基づくものである。該方法は、通常種結晶塗布と結晶化反応のステップを含むが、本発明者らは、分子ふるい膜合成終了後、結晶化反応で残った反応残液には小さな分子ふるい結晶粒が多く含まれ、実験により小さな分子ふるい結晶粒を含んだ反応残液を次回合成の種結晶液として使用できることを見出した。この簡単な操作手段は、反応残液の循環使用を効果的に実現し、原料の利用率を大幅に向上できるだけでなく、種結晶液の調製プロセスを省き、原料コストおよびプロセスコストを大幅に削減できる。そして、数回継代合成試験により明らかになるように、本発明に係る合成方法により製造した分子ふるい膜製品は、性能に優れ、低コストでありながら、製造方法の繰り返し性が良く、環境に優しく、極めて大きな産業応用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】製品16~19の走査型電子顕微鏡写真である。a-s、b-s、c-s、d-sはそれぞれ製品16~19の表面の走査型電子顕微鏡写真であり、a-c、b-c、c-c、d-cはそれぞれ製品16~19の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】製品20、22、24、26、28の走査型電子顕微鏡写真である。a-s、b-s、c-s、d-s、e-sはそれぞれ製品20、22、24、26、28の表面の走査型電子顕微鏡写真であり、a-c、b-c、c-c、d-c、e-cはそれぞれ製品20、22、24、26、28の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】製品A1、A5、A10、B1、B5、B10、C5、C10、D5、D10のX線回折パターンである。
【
図6】製品A1、A5、A10、B1、B5、B10、C5、C10、D5、D10の表面および断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】製品G1~G10のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、種結晶法により分子ふるい膜を製造する従来技術に基づいて、原料の再利用およびプロセスの統合を含む新規な方法を提供する。斯かる方法の要旨は、結晶化反応後の反応残液を再利用するところにある。具体的に、反応残液を次回の分子ふるい膜合成の種結晶液として使用することである。
本発明に係る方法は、種結晶を予備塗布するステップを含む。前記種結晶の予備塗布は、結晶化反応後の反応残液を種結晶液として担体に塗布するプロセスである。これにより、種結晶層を担持した担体(本明細書では、複合体Iともいう。)を得る。
【0009】
本発明に係る方法は、持続的に継代可能なプロセスであると言ってもよい。斯かる方法は、N世代(Nは正の整数である。)の合成プロセスを含み、第N世代の合成プロセスが下記のステップを含む。
N=1の場合、種結晶層を担持した担体を反応ゾルに入れ、結晶化反応により第1世代の分子ふるい膜を得て、反応残液を第2世代の合成プロセスの種結晶液とする。
N≧2の場合、(1)種結晶の予備塗布:第N-1世代の結晶化反応後の反応残液を種結晶液として担体に均一に塗布し、塗布後の担体を室温で完全に乾燥するまで静置し、種結晶層を担持した担体を得る;(2)種結晶層を担持した担体を反応ゾルに入れ、結晶化反応を行う;(3)分子ふるい膜と反応残液を分離し、(分子ふるい膜を中性に洗浄し、乾燥し)第N世代の分子ふるい膜を得て、反応残液を第N+1世代の合成プロセスの種結晶液とする。
【0010】
本発明の前記技術手段において、理論的に、第1世代の合成プロセスにおける、種結晶層を担持した担体は、従来方法における任意の方法で製造できる。好ましい実施態様では、第1世代の合成プロセスにおける、種結晶層を担持した担体は、種結晶液塗布法により製造される。この第1世代の合成プロセスで使用する種結晶液は、本明細書で初代種結晶液と記す。適切な初代種結晶液は、本発明の継代合成法により多世代の分子ふるい膜を安定して持続的に製造する重要な基礎であり、従来技術における任意の方法、例えば、分子ふるい結晶研磨分散法で製造できる。ただし、初代種結晶液は、第N世代の反応後の反応残液(即ち、N+1世代反応の種結晶液)と同じ/同様な特性を有するべきである。これらの特性には、含有される分子ふるい結晶のサイズ、含有量や、ゾル分の組成、濃度等が含まれる。本発明では、N=1の場合、前記初代種結晶液は、反応ゾルの結晶化反応により得られることがより好ましい。ここでいう反応ゾルは、組成が第N世代の合成プロセスで用いる反応ゾルと同じであり、結晶化反応が第N世代の合成プロセスにおける結晶化反応と同じである。反応系は、担体を含んでもよく、担体を含まなくてもよい。
【0011】
本発明では、上記した継代反応プロセスは、それぞれ結晶化反応のプロセスを含む。理論的に、従来方法における任意な結晶化方法を用いることができる。本発明では、好ましい結晶化方法は、マイクロ波によるエネルギー供給の水熱合成反応であって、反応系の温度を1~30℃/分間の昇温速度で結晶化温度に昇温し、且つ該温度で結晶化反応を行うステップを含む方法である。前記昇温速度は、好ましくは15~30℃/分間であり、最も好ましくは20~25℃/分間である。結晶化温度は、80~130℃であり、好ましくは85~105℃であり、最も好ましくは90~100℃である。前記結晶化時間は、1~600分間であり、好ましくは10~120分間であり、最も好ましくは10~35分間である。
【0012】
本発明では、前記反応ゾルは、当業者が目的生成物に対する要求に応じて、従来技術に基づいて選択することができる。本発明では、ケイ素源、アルミニウム源、アルカリ源および水を含有する混合物を反応ゾルとする。合成原料の配合比率は、分子ふるい膜の種類に応じて、下記範囲において変化する。ケイ素源とアルミニウム源とアルカリ源と水とのモル比は、(5~30):1:(30~90):(900~2200)であり、好ましくは(5~25):1:(30~70):(900~2200)であり、より好ましくは(5~20):1:(50~70):(1000~2000)である。
【0013】
さらに、前記手段に用いられるケイ素源、アルミニウム源、アルカリ源は、従来技術に基づいて選択すればよい。前記ケイ素源は、ケイ酸、シリカゲル、シリカゾル、テトラアルキルシリケート、ケイ酸ナトリウム、水ガラスおよびホワイトカーボンよりなる群から選ばれた少なくとも1種であり、好ましくはケイ酸、シリカゲル、シリカゾルおよびテトラアルキルシリケートよりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記アルミニウム源は、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミニウムアルコラート、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、カオリンおよびモンモリロナイトよりなる群から選ばれた少なくとも1種であり、好ましくは水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムおよび硝酸アルミニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記アルカリ源は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属をカチオンとするアルカリから選ばれ、好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。
【0014】
上記した技術手段では、最も重要で且つ最も好適に本発明に適用できる目的分子ふるい膜は、FAU分子ふるい膜またはLTA分子ふるい膜である。これらの中でも、特にLTA分子ふるい膜が好ましく、NaA分子ふるい膜が最も好ましい。
反応ゾルは、目的分子ふるい膜に応じて選択すればよく、FAU膜製造用の反応ゾルとしては、70Na2O:1Al2O3:20SiO2:2000H2Oが挙げられ、LTA膜製造用の反応ゾルとしては、50Na2O:1Al2O3:5SiO2:1000H2Oが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
具体的な実施態様では、前記結晶化反応に先立ち、種結晶層を担持した担体を反応ゾルに入れ、30~90℃の条件で0~24時間静置するエージングステップをさらに含む。前記エージングの温度は、好ましくは50~70℃であり、最も好ましくは55~65℃である。エージングの時間は、好ましくは5~20時間であり、最も好ましくは8~18時間である。
【0016】
後の研究により、複合体Iを上記乾燥処理しても最終的に得られた製品は依然として反応残液の安定性に対する要求が高く、継代生産プロセスにおける反応残液組成の変動が次世代製品の品質安定性に影響を与えること;反応残液の保存は通常48時間を超えることができず、そうでなければ製品に多くの欠陥が発生し、また種結晶液が塗布された担体(複合体I)を乾燥しても長時間で保存できないこと;連続生産が中断すると、初代の反応残液を新たに調製する必要があることをさらに見出した。継代回数が増加すると、種結晶液組成の変化は多世代製品の安定性に影響を与える重要な因子となりがちである。これは、工場の規模化・フレキシブル生産に非常に不利である。そこで、我々は、本発明の方法をさらに改良し、上記した本発明の技術手段に加えて、種結晶層を担持した担体を焼成するステップを追加するという本発明の好ましい実施形態を開示する。研究により、焼成プロセスは、担体表面に担持された種結晶層中の分子ふるい種結晶が活性化するのに寄与し、種結晶が作用を発揮するのに有利であること;焼成ステップは、種結晶と担体との相互作用を促進し、平滑で緻密な分子ふるい膜の製造に有利であること;担体表面に塗布された種結晶層を乾燥してもゾル状の種結晶層には依然として多くのアルカリが含まれ、これらのアルカリが焼成プロセスにおいて担体中のアルミナと反応して分子ふるい膜の成長に関与するアルミン酸イオンが担体表面に生成することが明らかになった。これらのことから、焼成後の種結晶層は分子ふるい膜の成長を著しく促進することができ、反応残液に対する要求がより低くなり、合成の柔軟性がより高くなり、性能がより良好でより安定する分子ふるい膜を得ることができる。
【0017】
より具体的に、この焼成ステップを含む実施態様は、繰り返すステップを含む持続的な合成プロセスであると言ってもよい。前記方法はN世代(Nは正の整数である。)の合成プロセスを含み、第N世代の合成プロセスが下記のステップを含む。
N=1の場合、種結晶層を担持した担体を焼成した後、反応ゾルに入れ、結晶化反応により第1世代の分子ふるい膜を得て、反応残液(母液)を第2世代の合成プロセスの種結晶液とする。
N≧2の場合、(1)種結晶液の予備塗布:第N-1世代の結晶化反応後の反応残液(母液)を種結晶液として担体に均一に塗布し、塗布後の担体を室温で完全に乾燥するまで静置し、種結晶層を担持した担体(複合体I)を得る;(2)種結晶層を担持した担体(複合体I)を焼成した後、室温まで冷却し、焼成後の複合担体(複合体II)を得る;(3)次に、焼成後の複合担体(即ち、複合体II)を反応ゾルに入れ、結晶化反応を行う;(4)分子ふるい膜と反応残液(母液)を分離し、(分子ふるい膜を中性に洗浄し、乾燥し)第N世代の分子ふるい膜を得て、母液を第N+1世代の合成プロセスの種結晶液とする。
【0018】
前記具体的な実施態様では、前記焼成ステップの焼成温度は100~700℃であり、焼成時間は0.1~24時間である。より具体的に、前記焼成温度は、好ましくは300~600℃である。FAU分子ふるい膜またはLTA分子ふるい膜について、最も好ましい焼成温度は500±50℃である。焼成時間は0.1~24時間であり、好ましくは2~7時間であり、より好ましくは3~6時間であり、最も好ましくは3±0.5時間である。
均一に焼成するという目的から、焼成ステップに先立ち、反応系の温度を徐々に穏やかに昇温する必要がある。よって、具体的な実施態様は、反応系の温度を0.5~30℃/分間の昇温速度で室温から焼成温度まで昇温する昇温過程を含む。昇温速度は、より好ましくは5℃/分間である。
【0019】
焼成前に担体表面に担持した物質の担持量は、ある程度に最終的に形成した膜の性質に影響を与える。本発明では、塗布の回数を調整することで担体表面における物質の担持量を調整することができる。具体的に、1~100mg/cm2に制御する。FAU分子ふるい膜またはLTA分子ふるい膜の場合、担持量は好ましくは3~26mg/cm2であり、最も好ましくは10~19mg/cm2である。担持量は、単位面積当たりの担体焼成後の質量と無担持担体の質量との差によって表される。担持量が低すぎても高すぎても、均一で安定して膜を形成するのに不利であり、大きな欠陥を含む製品が生じやすい。
【0020】
上記で述べた継代合成方法と一致し、本発明の技術手段では、焼成後の複合体についてさらにエージングおよび結晶化反応を行う。焼成ステップを含む技術手段では、FAU分子ふるい膜またはLTA分子ふるい膜の製造におけるエージングプロセスは、エージング温度が好ましくは40~80℃であり、最も好ましくは45~70℃であり、エージング時間が好ましくは5~20時間であり、最も好ましくは8~18時間である。エージング後、反応ゾル中で結晶化反応を行う。好ましい結晶化方法は、マイクロ波によるエネルギー供給の水熱合成反応である。FAU分子ふるい膜またはLTA分子ふるい膜の製造における結晶化プロセスは、結晶化温度が85~105℃であり、最も好ましくは90~100℃であり、結晶化時間が好ましくは10~120分間であり、最も好ましくは10~35分間である。
【0021】
本発明の連続生産プロセスは、前世代の合成プロセスの反応残液を種結晶液として用いるものであり、プロセスが簡単で、装置が簡易で、コストが安く、繰り返し性が良好であり、しかも廃棄物の排出を削減でき、環境に優しく持続的に製造を行うことが可能な新規な技術である。また、本発明に係る方法により製造した分子ふるい膜は、平滑で緻密であり、分離性能に優れる。FAU型およびLTA型分子ふるい膜の継代合成試験により実証されるように、操作が規範に合い、条件が安定する場合、本発明に係る前記継代合成方法は持続的に繰り返して行うことができる。継代回数が2≦N≦50の範囲では、合成された分子ふるい膜の性能は安定して産業需要を満たすことができる。特に焼成ステップを含んだ好ましい技術手段は、さらに製品の品質が種結晶液組成の変化に影響される問題を解決でき、継代回数が多くなる場合の製品の安定性を保証することができる。実際の工業操作では、継代合成の回数Nは生産要求に応じて選択・設定すればよい。
【実施例】
【0022】
以下、上記した有益な技術的効果を実証するために、非限定的実施例に基づいて本発明の技術手段をさらに説明する。
下記実施例では、特に断りのない限り、アルコール/水への分離測定はJournal Of Materials Science, 43 (2008)3279-3288に記載の方法を参照し、90%のエタノール水溶液を原料液とし、浸透気化温度を65℃とし、水分析計で透過側の水含有量を測定した。
FAU膜の反応ゾルはJournal Of Materials Science, 43 (2008)3279-3288を参照し、原料の組成をモル比で20SiO2:1Al2O3:70Na2O:2000H2Oとした。
LTA膜の反応ゾルはJournal Of Membrane Science, 297 (2007)10-15を参照し、原料の組成をモル比で5SiO2:1Al2O3:50Na2O:1000H2Oとした。
【0023】
分子ふるい膜製品の測定及び評価は、下記の定義を参照する。
1、分離係数(separation factor)
原料中の2つの物質の分子ふるい膜による分離操作の前後における相対含有量の比率を表す。下記のように定義する。
【0024】
【数1】
式中、α
i/jは分子ふるい膜のi成分(先に膜を透過する成分)とj成分への分離係数を表し、x
i,p(x
j,p)は透過液中のi(j)成分の質量分率を表し、x
i,f(x
j,f)は原料中のi(j)成分の質量分率を表す。
【0025】
2、透過流束permeation flux
所定の温度および圧力下で、単位時間に、単位面積あたりの膜を透過する原料の質量である。下記のように定義する。
【0026】
【数2】
式中、Jは透過流束(kgm
-2h
-1)を表し、Wは透過成分の質量(kg)を表し、Δtはサンプリング間隔時間(h)を表し、Aは膜表面における分離作用を発揮する有效面積(m
2)を表す。
【0027】
実施例1-1
FAU型分子ふるい膜製品1~4の製造は、下記のステップを含んだ。
(1)下記の方法により合成液を調製した。
溶液A1の調製:15.11gのNaOHを180gの脱イオン水に溶解した後、1.82gのメタアルミン酸ナトリウムを加えて溶解し、溶液A1を得た。
溶液B1の調製:15.11gのNaOHを180gの脱イオン水に溶解した後、33.3gのシリカゾル(SiO2の含有率40質量%)を加えて溶解し、溶液B1を得た。
溶液A1と溶液B1を十分混ぜて、均一で透明な合成液を得た。得られた合成液に含まれる物質は、モル比換算で、70Na2O:Al2O3:20SiO2:2000H2Oであった。
【0028】
(2)合成液を4つの合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、すべての合成釜を60℃のオーブンに置き、合成液の存在下で支持体を8時間エージングさせた。エージング後、すべての合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で95℃に昇温した。その後、反応系の温度を95℃に維持し、それぞれ20、25、30、35分間反応させた。その後、合成釜を取り出し、合成釜中の初代種結晶液を取った。
【0029】
(3)長さ10cm、直径1.2cmの管状多孔質アルミナセラミックス支持体を(2)で得られた初代種結晶液に完全に浸漬し、15分間保持した後、取り出し、室温条件で自然乾燥して種結晶層を担持した担体を得た。次に、ステップ(1)に従って合成液を調製し、種結晶層を担持した担体をポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液を合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を60℃のオーブンに置き、合成液の存在下で種結晶層を担持した担体を8時間エージングさせた。エージング後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で95℃に昇温した。その後、反応系の温度を95℃に維持し、種結晶層を担持した担体の反応時間が初代種結晶液の反応時間に対応するように、それぞれ20分間(製品1)、25分間(製品2)、30分間(製品3)、35分間(製品4)反応させた。合成終了後の分子ふるい膜管を洗浄処理し、放置乾燥して、製品1、製品2、製品3および製品4を得た。それぞれの反応残液をS-1、S-2、S-3、S-4と記した。
【0030】
実施例1-1で製造した担持型分子ふるい膜製品について浸透気化分離性能測定を行った。透過温度が65℃における、エタノール/水系への分離結果を表1-1に示す。製品3の物相をX線回折により検出した結果を
図1に示す。結果から、分子ふるい膜はFAU構造を有していることが分かる。
【0031】
【0032】
表1-1から明らかなように、反応釜中の合成液の反応時間が長くなるにつれて、FAU膜の分離係数が段々大きくなった。これは、反応時間の増加に伴って分子ふるい膜が段々に緻密となることを示す。30分間反応後、分子ふるい膜は、分離係数がさらに増加するが、緻密に成長するとともに厚くなるため、製品4の透過流束が1.2に低下し、選択性の向上は透過流束の低下を相殺するには不十分であった。
【0033】
実施例1-2
FAU型分子ふるい膜製品5~15の製造は、下記のステップを含んだ。
(1)実施例1-1の方法に従って合成液を調製した。
(2)長さ10cm、直径1.2cmの管状多孔質アルミナセラミックス支持体を実施例1-1で得られた反応残液(S-3)に完全に浸漬し、15分間保持した後、取り出し、室温条件で自然乾燥して種結晶層を担持した担体を得た。次に、ステップ(1)に従って合成液を調製し、種結晶層を担持した担体をポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液を合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を60℃のオーブンに置き、合成液の存在下で種結晶層を担持した担体を8時間エージング・加熱させた。次に、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で95℃に昇温した。その後、反応系の温度を95℃に維持し、30分間反応させた。合成終了後の分子ふるい膜管を洗浄処理し、放置乾燥して、製品5を得た。その反応残液をS-5と記した。
【0034】
(3)(2)で得られた反応残液と(2)の方法を用いて製品6と反応残液S-6を製造した。
(4)ステップ(3)の操作を繰り返し、継代合成により第11世代製品15と反応残液S-15を製造した。
実施例1-2で製造した担持型分子ふるい膜製品5~15について浸透気化分離性能測定を行った。透過温度が65℃における、エタノール/水系への分離結果を表1-2に示す。
【0035】
【0036】
表1-2から明らかなように、継代種結晶法により連続的に製造した11世代の製品は、分離係数が813~896の範囲にあり、透過側の水濃度が98.8%~98.9%であり、透過流束が1.6~1.9の範囲にあり、とても優れた安定性を示した。
【0037】
実施例1-3
LTA型分子ふるい膜製品16~19の製造は、下記のステップを含んだ。
(1)下記の方法により合成液を調製した。
溶液A1の調製:21.33gのNaOHを180gの脱イオン水に溶解した後、3.64gのメタアルミン酸ナトリウムを加えて溶解し、溶液A1を得た。
溶液B1の調製:21.33gのNaOHを180gの脱イオン水に溶解した後、16.7gのシリカゾル(SiO2の含有率40質量%)を加えて溶解し、溶液B1を得た。
溶液A1と溶液B1を十分混ぜて、均一で透明な合成液を得た。得られた合成液に含まれる物質は、モル比換算で、50Na2O:Al2O3:5SiO2:1000H2Oであった。
【0038】
(2)合成液を4つの合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、すべての合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液の存在下で支持体を18時間エージングさせた。エージング後、すべての合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、それぞれ10.5、11.5、12.5、13.5分間反応させた。その後、合成釜を取り出し、合成釜中の初代種結晶液を取った。
(3)長さ10cm、直径1.2cmの管状多孔質アルミナセラミックス支持体を(2)で得られた初代種結晶液に完全に浸漬し、15分間保持した後、取り出し、室温条件で自然乾燥して種結晶層を担持した担体を得た。
【0039】
(4)ステップ(1)に従って合成液を調製し、種結晶層を担持した担体を、合成液を含んだポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、18時間加熱した。次に、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、種結晶層を担持した担体の反応時間が初代母液の反応時間に対応するように、それぞれ10.5分間(製品16)、11.5分間(製品17)、12.5分間(製品18)、13.5分間(製品19)反応させた。合成終了後の分子ふるい膜管を洗浄処理し、放置乾燥して、製品16、製品17、製品18および製品19を得た。それぞれの反応残液をS-16、S-17、S-18、S-19と記した。
実施例1-3で製造した担持型分子ふるい膜製品16~19について浸透気化分離性能測定を行った。透過温度が65℃における、エタノール/水系への分離結果を表1-3に示す。製品16~19の物相をX線回折により検出した結果を
図2に示す。結果から、分子ふるい膜の構造はLTA型であることが分かる。走査型電子顕微鏡でサンプル16~19の表面よび断面の様子を観察した結果を
図3に示す。
【0040】
【0041】
表1-3から明らかなように、反応釜中の合成液の反応時間が長くなるにつれて、LTA膜の分離係数が200から10000に急速に増加した。これは、分子ふるい膜が11.5分間の時に緻密な膜に成長したことを示す。この点について、電子顕微鏡写真(
図3)からも分かる。12.5分間反応後、分子ふるい膜の膜厚が2.2μmから3.5μmに増加したため、製品19の透過流束が0.93に低下し、エタノール/水への効率的な分離に不利であった。
【0042】
実施例1-4
LTA型分子ふるい膜製品20~30の製造は、下記のステップを含んだ。
(1)実施例1-3の方法に従って合成液を調製した。
(2)長さ10cm、直径1.2cmの管状多孔質アルミナセラミックス支持体を実施例1-3で得られた反応残液(S-18)に完全に浸漬し、15分間保持した後、取り出し、室温条件で自然乾燥して種結晶層を担持した担体を得た。
(3)ステップ(1)に従って合成液を調製し、種結晶層を担持した担体を、合成液を含んだポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、18時間加熱した。次に、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。合成終了後の分子ふるい膜管を洗浄処理し、放置乾燥して、製品20を得た。その反応残液をS-20と記した。
【0043】
(4)(3)で得られた反応残液を用いて、ステップ(2)および(3)を繰り返して製品21および反応残液S-21を製造した。
(5)ステップ(4)と同様の方法により継代を繰り返して、第11世代製品30および反応残液S-30を製造した。
実施例1-4で製造した担持型分子ふるい膜製品20~30について浸透気化分離性能測定を行った。透過温度が65℃における、エタノール/水系への分離結果を表1-4に示す。走査型電子顕微鏡でこれらのうちの5世代製品の表面および断面の様子を観察した結果を
図4に示す。結果から、これらのサンプルは同様な表面および厚みを有することが分かる。
【0044】
【0045】
表1-4から明らかなように、継代種結晶法により連続的に製造した11世代製品は、いずれも分離係数が10000であり、透過側の水濃度が99.9%であり、透過流束が1.22~1.35の範囲であり、良好な分離性能安定性を示した。
【0046】
比較例1-1
LTA型分子ふるい膜製品X1~X10の製造は、下記のステップを含んだ。
(1)下記の方法により合成液を調製した。
溶液A1の調製:15.0gのNaOHを100mlの脱イオン水に溶解した後、0.54gの金属アルミ箔を加えて溶解し、溶液A1を得た。
溶液B1の調製:25.0gのNaOHを75mlの脱イオン水に溶解した後、10mlのシリカゾル(SiO2の含有率30質量%)を加えて溶解し、溶液B1を得た。
溶液A1と溶液B1を十分混ぜて、均一で透明な合成液Iを得た。得られた合成液Iに含まれる物質は、モル比換算で、50Na2O:Al2O3:5SiO2:1000H2Oであった。
【0047】
(2)長さ10cm、直径1.2cmの管状多孔質アルミナセラミクス支持体をホルダーで固定し、合成液を含んだポリテトラフルオロエチレン製反応器に垂直に置いた。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、18時間加熱した。次に、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、8分間反応させた。合成終了後の分子ふるい膜管を洗浄処理し、放置乾燥した。
(3)前記ステップ(1)~(2)の操作を1回繰り返して、担持型分子ふるい膜製品X-1を得た。
(4)前記ステップ(1)~(3)の操作を9回繰り返して、それぞれ担持型分子ふるい膜製品X-2~X-10を得た。
比較例1-1で製造した担持型分子ふるい膜製品について浸透気化分離性能測定を行った。透過温度が65℃における、エタノール/水系への分離結果を表1-5に示す。
【0048】
【0049】
表1-5から明らかなように、従来方法により合成したLTA型分子ふるい膜は、同様に良好なアルコール/水への分離性能を有するが、各製品の分離係数および透過流束に差異が大きく、製品の安定性が継代合成方法により得た実施例1-4の製品よりも劣った。
【0050】
実施例2-1 異なる0世代反応残液の条件下でのLTA膜の製造
LTA型分子ふるい膜の製造は、下記のステップを含んだ。
(1)合成液および反応残液の調製
(1-1)下記の方法により合成液Iを調製した。
溶液A1の調製:15.0gのNaOHを100mlの脱イオン水に溶解した後、0.54gの金属アルミ箔を加えて溶解し、溶液A1を得た。
溶液B1の調製:25.0gのNaOHを75mlの脱イオン水に溶解した後、10mlのシリカゾル(SiO2の含有率30質量%)を加えて溶解し、溶液B1を得た。
溶液A1と溶液B1を十分混ぜて、均一で透明な合成液Iを得た。得られた合成液Iに含まれる物質は、モル比換算で、50Na2O:Al2O3:5SiO2:1000H2Oであり、モル濃度換算で、それぞれNa2O、2.64mol/L;Al2O3、0.053mol/L;SiO2、0.263mol/Lであった。
【0051】
(1-2)LTA型分子ふるい含有反応残液の調製
合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で支持体を18時間エージングさせた。エージング後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、それぞれ10.5分間、11.5分間、12.5分間および13.5分間反応させ、組成が異なる反応残液I、II、III、IVを得た。
【0052】
(2)種結晶層の塗布および焼成
得られた反応残液I、II、III、IVを第1世代の種結晶液(N1種結晶液)とした。円柱形支持体をそれぞれ反応残液Iに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体I-1(担持量10mg/cm2)を得た。円柱形支持体をそれぞれ反応残液IIに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体II-1(担持量10mg/cm2)を得た。円柱形支持体をそれぞれ反応残液IIIに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体III-1(担持量10mg/cm2)を得た。円柱形支持体をそれぞれ反応残液IVに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体IV-1(担持量10mg/cm2)を得た。
次に、複合体I-1、II-1、III-1、IV-1をマッフル炉に置き、5℃/分間の昇温速度で500℃に昇温し、180分間保持した後、室温まで自然冷却した。
【0053】
(3)LTA分子ふるい膜の製造
焼成後の複合体I-1、II-1、III-1、IV-1をホルダーで固定し、それぞれ合成液Iを含んだポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体I-1、II-1、III-1、IV-1を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、分子ふるい膜M-1、M-2、M-3、M-4を得た。浸透気化測定の結果を表2-1に示す。本方法により合成したNaA分子ふるい膜は、いずれもアルコール/水への分離性能に優れ、すべてのサンプルが同様の分離性能を示し、選択性が10000超であり、透過流束が1.3kg/m2.hr以上であった。焼成により、初期反応残液の調製プロセスは、分子ふるい膜性能に与える影響が小さくなった。
【0054】
【0055】
実施例2-2 反応残液組成変化のLTA膜製造への影響
LTA型分子ふるい膜の製造は、下記のステップを含んだ。
(1)合成液および反応残液の調製
(1-1)実施例2-1のステップ(1-1)の方法に従って合成液Iを調製した。
(1-2)実施例2-1のステップ(1-2)の方法に従って反応残液IIIを調製した。
(2)反応残液の塗布および複合体の焼成
得られた反応残液IIIを、1部分あたり56gとなるように4つの等しい部分に分けて、それぞれa、b、c、dの番号を付け、第1世代の種結晶液(N1種結晶液)とした。円柱形支持体をaに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体a1(担持量10mg/cm2)を得た。反応残液bに5gの脱イオン水を加えて合成プロセスにおける反応残液中の溶質濃度の変化を模擬した。その後、円柱形支持体を希釈した反応残液bに浸漬し、30s保持し、取り出して自然乾燥し、複合体b1(担持量10mg/cm2)を得た。反応残液cに0.25mlのシリカゾル(SiO230%)を加えて反応残液中のケイ素物質の変化を模擬した。その後、円柱形支持体を反応残液cに浸漬し、30s保持し、取り出して自然乾燥し、複合体c1(担持量10mg/cm2)を得た。反応残液dに1gのNaOHを加えて反応残液中の水酸化ナトリウムの変化を模擬した。その後、円柱形支持体を反応残液dに浸漬し、30s保持し、取り出して自然乾燥し、複合体d1(担持量10mg/cm2)を得た。
【0056】
次に、複合体a1、b1、c1、d1をマッフル炉に置き、5℃/分間の昇温速度で500℃に昇温し、180分間保持した後、室温まで自然冷却した。
(3)LTA分子ふるい膜の製造
(3-1)焼成後の複合体a1、b1、c1、d1をホルダーで固定し、それぞれポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体a1、b1、c1、d1を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、分子ふるい膜A1、B1、C1、D1および反応残液a-1、b-1、c-1、d-1を得た。
【0057】
(3-2)1/4の反応残液b-1、c-1、d-1を取り、それぞれに5gの脱イオン水、0.25mlのシリカゾル、1gのNaOHを加え、これらの反応残液およびa-1をN2種結晶液とした。円柱形支持体を4つのN2種結晶液に30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、それぞれ複合体a2、複合体b2、複合体c2および複合体d2を得た。次に、複合体a2、b2、c2、d2をマッフル炉に置き、5℃/分間の昇温速度で500℃に昇温し、180分間保持した。室温まで自然冷却した後、複合体をホルダーで固定し、ポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置き、合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体a2、b2、c2、d2を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、第2世代(N=2)の分子ふるい膜製品A2、B2、C2、D2および反応残液a-2、b-2、c-2、d-2を得た。
【0058】
(3-3)前記ステップ(3-2)の操作を繰り返して、第N世代の分子ふるい膜製品AN、BN、CN、DN(Nは継代の回数を表す。N
max=10)を得た。
上記で製造された各世代の分子ふるい膜の選択性および透過流束は表2-2に示す。サンプルA1、A5、A10、B1、B5、B10、C5、C10、D5、D10のX線回折測定結果を
図5に示す。サンプルA1、A5、A10、B1、B5、B10、C5、C10、D5、D10の表面図および断面図は
図6に示す。
【0059】
【0060】
図5から明らかなように、サンプルA1、A5、A10、B1、B5、B10、C5、C10、D5、D10のX線回折ピークは、すべてLTA型分子ふるいに由来する回折ピークおよびアルミナ担体に由来する回折ピークに帰属し、そのほかの不純物に由来するピークが存在せず、各サンプルの回折ピークの強度がほぼ同じであった。これは、該実施例で同様な結晶性を有するNaA分子ふるい膜(LTA構造)を得たことを示す。分子ふるい膜の表面および断面の様子を
図6に示す。図から明らかなように、すべてのサンプルの表面が平滑で緻密な特性を示し、また断面結果から明らかなように、各サンプルの厚みがほぼ同じく約2.2umであった。さらに、表2-2から明らかなように、本方法により合成されたNaA分子ふるい膜は、アルコール/水への分離性能に優れ、すべてのサンプルが同様な分離性能を示し、選択性が10000超であり、透過流束が1.400kg/m
2.hr以上であった。反応残液組成の変化は、焼成が追加された継代法により製造されたLTA分子ふるい膜にほぼ影響を与えなった。
【0061】
実施例2-3 複合体焼成温度のLTA分子ふるい膜への影響
(1)合成液および反応残液の調製
(1-1)実施例2-1のステップ(1-1)の方法に従って合成液Iを調製した。
(1-2)実施例2-1のステップ(1-2)の方法に従って反応残液IIIを調製した。
(2)反応残液の塗布および複合体の焼成
反応残液IIIをビーカーに入れ、5本の円柱形支持体を反応残液aに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、それぞれe1、e2、e3、e4、e5の番号を付けた。e1を自然乾燥した後、そのまま用いた。複合体e2、e3、e4、e5をマッフル炉に置き、それぞれ100℃、300℃、500℃、700℃で焼成し、180分間保持した後、室温まで自然冷却した。
【0062】
(3)LTA分子ふるいの製造
処理後の複合体e1、e2、e3、e4、e5をホルダーで固定し、それぞれポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体e1、e2、e3、e4、e5を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、分子ふるい膜E1、E2、E3、E4、E5を得た。
【0063】
【0064】
サンプルE1は、母液塗布後、焼成処理されないものである。表2-3から明らかなように、複合体を500℃で焼成した後、結晶化プロセスにより得られたE4分子ふるい膜は、分離性能に最も優れ、分離係数が10000であり、透過流束が1.43kg/m2.hrであった。焼成プロセスを有さない継代種結晶法(E1)に比べて、反応残液塗布後に500℃での焼成プロセスを追加する方は、分子ふるい膜の浸透気化性能(透過流束)を効果的に向上することができる。
【0065】
実施例2-4 反応残液放置時間の、焼成が追加された方法によるLTA膜製造への影響
(1)合成液および反応残液の調製
(1-1)実施例2-1のステップ(1-1)の方法に従って合成液Iを調製した。
(1-2)実施例2-1のステップ(1-2)の方法に従って反応残液IIIを調製した。
(2)反応残液の塗布および複合体の焼成
得られた反応残液IIIを5部分に分けて、それぞれ0日、1日、3日、7日、15日放置した。5本の円柱形支持体をそれぞれ前記5つの反応残液に30s浸漬し、取り出して自然乾燥した後、マッフル炉に置き、500℃で焼成し、180分間保持した。その後、室温まで自然冷却した。
【0066】
(3)LTA分子ふるい膜の合成
処理後の複合体f1、f2、f3、f4、f5をホルダーで固定し、それぞれポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体f1、f2、f3、f4、f5を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、分子ふるい膜F1、F2、F3、F4、F5を得た。これらのサンプルの浸透気化結果を表2-4に示す。
【0067】
【0068】
表2-4から明らかなように、焼成追加により製造された分子ふるい膜は、分離性能に最も優れ、分離係数が10000であり、透過流束が1.4kg/m2.hr前後であった。これは、本発明では、放置した反応残液を用いても性能に優れたLTA分子ふるい膜を製造できることを示す。
【0069】
実施例2-5 焼成が追加された継代種結晶法によるFAU膜の製造
(1)下記の方法により合成液IIを調製した。
溶液A1の調製:15.11gのNaOHを180gの脱イオン水に溶解した後、1.82gのメタアルミン酸ナトリウムを加えて溶解し、溶液A1を得た。
溶液B1の調製:15.11gのNaOHを180gの脱イオン水に溶解した後、33.3gのシリカゾル(SiO2の含有率40質量%)を加えて溶解し、溶液B1を得た。
溶液A1と溶液B1を十分混ぜて、均一で透明な合成液IIを得た。得られた合成液IIに含まれる物質は、モル比換算で、70Na2O:Al2O3:20SiO2:2000H2Oであった。
【0070】
(2)反応残液Vの調製
合成液IIを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を70℃のオーブンに置き、合成液IIの存在下で支持体を18時間エージングさせた。エージング後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で95℃に昇温した。その後、反応系の温度を95℃に維持し、30分間反応させた。その後、合成釜を取り出し、合成釜中の反応残液Vを取った。
(3)反応残液の塗布および複合体の焼成
得られた反応残液Vを第1世代の種結晶液(N1種結晶液)とした。円柱形支持体を反応残液Vに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体g1(担持量10mg/cm2、焼成後の質量変化から算出される。)を得た。次に、複合体g1をマッフル炉に置き、5℃/分間の昇温速度で500℃に昇温し、180分間保持した。その後、室温まで自然冷却した。
【0071】
(4)FAU分子ふるい膜の合成
焼成後の複合体g1をホルダーで固定し、それぞれポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液IIを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を70℃のオーブンに置き、合成液IIの存在下で複合体g1を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で95℃に昇温した。その後、反応系の温度を95℃に維持し、30分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、分子ふるい膜G1および反応残液g-1を得た。
(4-1)g-1をN
2種結晶液とし、円柱形支持体をN
2種結晶液に30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体g2を得た。次に、複合体g2をマッフル炉に置き、5℃/分間の昇温速度で500℃に昇温し、180分間保持した。複合体を室温まで自然冷却した後、ホルダーで固定し、ポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置き、合成液IIを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を70℃のオーブンに置き、合成液IIの存在下で複合体g2を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で95℃に昇温した。その後、反応系の温度を95℃に維持し、30分間反応させた。膜管と液体を分離し、第2世代(N=2)の分子ふるい膜製品G2および反応残液g-2を得た。
(4-2)前記ステップ(4-1)の操作を繰り返して、第N世代の分子ふるい膜製品GN(Nは継代の回数を表す。N
max=10)を製造した。
実施例2-5で製造した担持型分子ふるい膜について浸透気化分離性能測定を行った。透過温度が65℃における、エタノール/水系への分離結果を表2-5に示す。製品G1~G10の物相をX線回折により検出した結果を
図7に示す。結果から、分子ふるい膜はFAU構造を有していることが分かる。
【0072】
【0073】
表2-5から明らかなように、本方法により合成されたFAU型分子ふるい膜は、アルコール/水への分離性能に優れ、透過流束が1.9kg/m2.hr前後であり、選択性が800を超え、且つ良好な繰り返し性を示した。
【0074】
実施例2-6 ゾル層担持量のFAU膜合成への影響
(1)実施例2-5(1)のステップに従って合成液IIを調製した。
(2)実施例2-5(2)のステップに従って反応残液Vを調製した。
(3)反応残液の塗布および複合体の焼成
得られた反応残液Vを種結晶液とした。5本の円柱形支持体を反応残液Vに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、4つの複合体p1(担持量10mg/cm2)を得た。そのうちの2つの複合体p1を反応残液Vに30s浸漬し、取り出して自然乾燥し、複合体p2(担持量19mg/cm2)を得た。そのうちの1つの複合体p2をさらに反応残液Vに30s浸漬し、取り出して自然乾燥し、複合体p3(担持量31mg/cm2)を得た。1つの複合体p1を脱イオン水に30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体p0(担持量3mg/cm2)を得た。次に複合体p0、p1、p2、p3をマッフル炉に置き、5℃/分間の昇温速度で500℃に昇温し、180分間保持した。その後、室温まで自然冷却した。
(4)FAU分子ふるい膜の合成
焼成後の複合体p0、p1、p2、p3をホルダーで固定し、それぞれポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、実施例2-5(4)のステップに従って分子ふるい膜P0、P1、P2、P3をそれぞれ得た。
実施例2-6で製造した担持型分子ふるい膜について浸透気化分離性能測定を行った。透過温度が65℃における、エタノール/水系への分離結果を表2-6に示す。
【0075】
【0076】
表2-6から明らかなように、ゾル層の担持量は本方法により合成したFAU型分子ふるい膜の性能に大きな影響を与え、担持量が10mg/cm2および19mg/cm2の複合体を用いて製造したFAU膜は、アルコール/水への分離性能に優れ、透過流束が1.9kg/m2.hr前後であり、選択性が800を超えた。担持量が多すぎても低すぎても、アルコール/水への分離性能に優れたFAU膜の製造に不利であった。
【0077】
実施例2-7 ゾル層担持量のLTA膜合成への影響
(1)合成液および反応残液の調製
(1-1)実施例2-1のステップ(1-1)の方法に従って合成液Iを調製した。
(1-2)実施例2-1のステップ(1-2)の方法に従って反応残液IIIを調製した。
(2)反応残液の塗布および複合体の焼成
得られた反応残液IIIを種結晶液とした。4本の円柱形支持体を反応残液IIIに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、4つの複合体q1(担持量10mg/cm2)を得た。そのうちの2つの複合体q1を反応残液IIIに30s浸漬し、取り出して自然乾燥し、複合体q2(担持量19mg/cm2)を得た。そのうちの1つの複合体q2をさらに反応残液IIIに30s浸漬し、取り出して自然乾燥し、複合体q3(担持量31mg/cm2)を得た。1つの複合体q1を脱イオン水に30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体q0(担持量3mg/cm2)を得た。次に、複合体q0、q1、q2、q3をマッフル炉に置き、5℃/分間の昇温速度で500℃に昇温し、180分間保持した。その後、室温まで自然冷却した。
(3)LTA分子ふるい膜の合成
焼成後の複合体q0、q1、q2、q3をホルダーで固定し、それぞれポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体q0、q1、q2、q3を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、それぞれ分子ふるい膜Q0、Q1、Q2、Q3を得た。
実施例2-7で製造した担持型分子ふるい膜について浸透気化分離性能測定を行った。透過温度が60℃における、エタノール/水系への分離結果を表2-7に示す。
【0078】
【0079】
表2-7から明らかなように、ゾル層の担持量は本方法により合成したLTA型分子ふるい膜の性能に大きな影響を与え、担持量が10mg/cm2および19mg/cm2の複合体を用いて製造したLTA膜は、アルコール/水への分離性能に優れ、透過流束が1.4kg/m2.hr前後であり、選択性が10000を超えた。担持量が多すぎると透過流束が低下し、担持量が低すぎるとLTA膜の分離選択性が低下する。
【0080】
比較例2-1 反応残液組成変化の継代種結晶法への影響
継代種結晶法によりLTA型分子ふるいを合成した。
(1)反応残液の合成
(1-1)実施例2-1のステップ(1-1)の方法に従って合成液Iを調製した。
(1-2)実施例2-1のステップ(1-2)の方法に従って反応残液IIIを調製した。
(2)反応残液の塗布
得られた反応残液IIIを、1部分あたり56gとなるように4つの等しい部分に分けて、それぞれh、i、j、kの番号を付け、第1世代の種結晶液(N1種結晶液)とした。円柱形支持体をhに30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、複合体h1(担持量10mg/cm2)を得た。反応残液iに5gの脱イオン水を加えて合成プロセスにおける反応残液中の溶質濃度の変化を模擬した。その後、円柱形支持体を希釈した反応残液iに浸漬し、30s保持し、取り出して自然乾燥し、複合体i1(担持量10mg/cm2)を得た。反応残液jに0.25mlのシリカゾル(SiO230%)を加えて反応残液中のケイ素物質の変化を模擬した。その後、円柱形支持体を反応残液jに浸漬し、30s保持し、取り出して自然乾燥し、複合体j1(担持量10mg/cm2)を得た。反応残液kに1gのNaOHを加えて反応残液中の水酸化ナトリウムの変化を模擬した。その後、円柱形支持体を反応残液kに浸漬し、30s保持し、取り出して自然乾燥し、複合体k1(担持量10mg/cm2)を得た。
【0081】
(3)LTA分子ふるい膜の製造
(3-1)自然乾燥した複合体h1、i1、j1、k1をホルダーで固定し、それぞれポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体h1、i1、j1、k1を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、分子ふるい膜H1、I1、J1、K1および反応残液h-1、i-1、j-1、k-1を得た。
(3-2)1/4の反応残液i-1、j-1、k-1を取り、それぞれに5gの脱イオン水、0.25mlのシリカゾル、1gのNaOHを加え、これらの反応残液およびh-1をN2種結晶液とした。円柱形支持体を4つのN2種結晶液に30s浸漬し後、取り出して自然乾燥し、それぞれ複合体a2、複合体b2、複合体c2および複合体d2を得た。複合体をホルダーで固定し、ポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置き、合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体h2、i2、j2、k2を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、第2世代(N=2)の分子ふるい膜製品H2、I2、J2、K2および反応残液h-2、i-2、j-2、k-2を得た。
(3-3)前記ステップ(3-2)の操作を繰り返して、第N世代の分子ふるい膜製品HN、IN、JN、KN(Nは継代の回数を表す。Nmax=10)を得た。
上記で製造した各世代の分子ふるい膜の選択性および透過流束は表2-8に示す。
【0082】
【0083】
表2-8から明らかなように、継代種結晶法により製造された製品は、良好な透過流束および選択性を示すが、平均透過流束が約1.230kg/m2.hrであり、本発明の、ゾル層焼成法を追加して製造した分子ふるい膜(1.410kg/m2.hr)よりも低い。また、継代種結晶法により製造された分子ふるい膜は、母液組成が変化すると、性能が不安定となる。これは、反応残液が継代種結晶法に大きな影響を与えることを示す。例えば、SiO2含有量の変化は、分子ふるい膜の選択性を著しく低下させる。水酸化ナトリウム含有量の僅かな変化は、分子ふるい膜の透過流束の低下をもたらす。長期間継代法による分子ふるい膜の製造プロセスでは、母液中のケイ素、アルミニウム、分子ふるいの含有量は変動することがあり、合成の世代数は10世代を超える場合、母液は失効することがある。一方、本発明では、この問題を克服でき、繰り返し性が良好で、性能に優れた分子ふるい膜を製造するのに信頼性のある技術支援を提供できる。
【0084】
比較例2-2 反応残液放置の継代種結晶法によるLTA分子ふるい膜合成への影響
(1)合成液および反応残液の製造
(1-1)実施例2-1のステップ(1-1)の方法に従って合成液Iを調製した。
(1-2)実施例2-1のステップ(1-2)の方法に従って反応残液IIIを調製した。
(2)反応残液の塗布
反応残液IIIを5つの部分に分けて、それぞれ0日(反応残液0)、1日(反応残液1)、3日(反応残液3)、7日(反応残液7)、15日(反応残液15)放置した。5本の円柱形支持体をそれぞれ前記反応残液に30s浸漬した後、取り出して自然乾燥し、得られた複合体にそれぞれr1、r2、r3、r4、r5の番号を付けた。
(3)LTA分子ふるい膜の合成
自然乾燥した複合体r1、r2、r3、r4、r5をホルダーで固定し、それぞれポリテトラフルオロエチレン製合成釜に垂直に置いた後、合成液Iを合成釜に移した。マイクロ波による合成に先立ち、合成釜を45℃のオーブンに置き、合成液Iの存在下で複合体r1、r2、r3、r4、r5を18時間エージングさせた。その後、合成釜をマイクロウェーブオーブンに置き、4分間かけて等速で100℃に昇温した。その後、反応系の温度を100℃に維持し、12.5分間反応させた。反応終了後、膜管と液体を分離し、分子ふるい膜R1、R2、R3、R4、R5を得た。これらのサンプルの浸透気化結果を表2-9に示す。
【0085】
【0086】
表2-9から明らかなように、放置しなかった反応残液を用いて分離係数が10000、透過流束が1.220g/m2.hrの分子ふるい膜を得たが、反応残液の放置時間が長くなるにつれて、複合体を焼成せずに得られたサンプルの分離選択性が段々低下した。これは、生産プロセスが途切れると、反応残液を再調製して生産を再開する必要があることを示す。実施例2-4との対比結果から、本発明では、焼成追加により長時間で放置した反応残液を用いても性能に優れたLTA分子ふるい膜を製造でき、生産再開に要する反応残液の準備プロセスを省くことが分かる。