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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】解析用プログラムおよび解析装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240524BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20240524BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/6844 Z
G01N21/64 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017125282
(22)【出願日】2017-06-27
(65)【公開番号】P2019004814
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 隆寛
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】深草 亜子
【審判官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-278783(JP,A)
【文献】特開2012-125200(JP,A)
【文献】特開2004-028984(JP,A)
【文献】特開2007-267730(JP,A)
【文献】特開2009-080811(JP,A)
【文献】特表2017-509040(JP,A)
【文献】BMC Bioinformatics, 2014 Aug 22, vol.15, no.1, article no.283 (pp.1-13)
【文献】Biotechnologia, 2008, vol.1, pp.71-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
C12Q1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するためにコンピュータによって実行されるプログラムであって、
前記プログラムは、前記コンピュータに、
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出すステップと、
前記試料の蛍光強度が予め定められた閾値以上であるか否かを判断するステップと、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であると判断された場合、蛍光強度の核酸増幅処理回数に従った変化の挙動が予め定められたパターンに該当するか否かを判断するステップと、
前記挙動が前記予め定められたパターンに該当する場合には第1の判定結果を出力し、前記挙動が前記予め定められたパターンに該当しない場合には前記第1の判定結果とは異なる第2の判定結果を出力するステップと、
を実行させ、
核酸増幅処理回数の増加に従って前記試料の蛍光強度が前記閾値以下から前記閾値に複数回到達した場合には、前記挙動が前記予め定められたパターンに該当するか否かの判断は、前記複数回のうち核酸増幅処理回数が最も大きい回についての挙動に基づいて実行される、解析用プログラム。
【請求項2】
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するためにコンピュータによって実行されるプログラムであって、
前記プログラムは、前記コンピュータに、
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出すステップと、
前記試料の蛍光強度が予め定められた閾値以上であるか否かを判断するステップと、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であると判断された場合、蛍光強度の核酸増幅処理回数に従った変化の挙動が予め定められたパターンに該当するか否かを判断するステップと、
前記挙動が前記予め定められたパターンに該当する場合には第1の判定結果を出力し、前記挙動が前記予め定められたパターンに該当しない場合には前記第1の判定結果とは異なる第2の判定結果を出力するステップと、
前記第1の判定結果が出力された場合、標的核酸の初期濃度を算出するステップと、
を実行させ、
前記標的核酸の初期濃度を算出するステップでは、核酸増幅処理回数の増加に従って前記試料の蛍光強度が前記閾値以下から前記閾値に複数回到達した場合には、当該複数回のそれぞれの前記閾値に到達したときの核酸増幅処理回数のうち最も大きい核酸増幅処理回数に基づいて、前記試料における標的核酸の初期濃度算出され解析用プログラム。
【請求項3】
前記予め定められたパターンは、核酸増幅処理回数に従った蛍光強度の変化において、前記閾値に到達したときの蛍光強度の変化の割合が予め定められた値以上であることを含む、請求項1または請求項2に記載の解析用プログラム。
【請求項4】
前記予め定められたパターンは、予め定められた範囲内の核酸増幅処理回数で蛍光強度が前記閾値に到達したことを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の解析用プログラム。
【請求項5】
前記予め定められたパターンは、蛍光強度が前記閾値に到達した後、予め定められた核酸増幅処理回数における蛍光強度が前記閾値より高い予め定められた強度に到達していることを含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の解析用プログラム。
【請求項6】
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するためにコンピュータによって実行されるプログラムであって、
前記プログラムは、前記コンピュータに、
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出すステップと、
前記試料の蛍光強度が予め定められた閾値以上であるか否かを判断するステップと、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であると判断された場合、蛍光強度の核酸増幅処理回数に従った変化の挙動が予め定められたパターンに該当するか否かを判断するステップと、
前記挙動が前記予め定められたパターンに該当する場合には第1の判定結果を出力し、前記挙動が前記予め定められたパターンに該当しない場合には前記第1の判定結果とは異なる第2の判定結果を出力するステップと、
前記第1の判定結果が出力された場合、標的核酸の初期濃度を算出するステップと、
前記標的核酸の初期濃度を出力するステップと、
を実行させ、
前記標的核酸の初期濃度を算出するステップでは、前記試料の蛍光強度が複数回前記閾値以下から前記閾値に到達した場合に、当該複数回のそれぞれの前記閾値に到達したときの核酸増幅処理回数のうち最も大きい核酸増幅処理回数に基づいて、前記試料における標的核酸の初期濃度が算出される、解析用プログラム。
【請求項7】
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するための解析装置であって、
試料の蛍光強度に関する、閾値と挙動のパターンを特定する情報とを格納するように構成されたメモリと、
試料の蛍光強度を解析するように構成されたプロセッサと、
出力装置と、
を備え、
前記プロセッサは、
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出し、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であるか否かを判断し、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であると判断された場合に、蛍光強度の核酸増幅処理回数に従った変化の挙動が前記パターンに該当するか否かを判断し、
前記挙動が前記パターンに該当する場合には前記出力装置に第1の判定結果を出力し、前記挙動が予め定められた前記パターンに該当しない場合には前記出力装置に前記第1の判定結果とは異なる第2の判定結果を出力する、ように構成されており、
核酸増幅処理回数の増加に従って前記試料の蛍光強度が前記閾値以下から前記閾値に複数回到達した場合には、前記挙動が前記パターンに該当するか否かの判断は、前記複数回のうち核酸増幅処理回数が最も大きい回についての挙動に基づいて実行される、解析装置。
【請求項8】
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するための解析装置であって、
試料の蛍光強度に関する、閾値と挙動のパターンを特定する情報とを格納するように構成されたメモリと、
試料の蛍光強度を解析するように構成されたプロセッサと、
出力装置と、
を備え、
前記プロセッサは、
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出し、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であるか否かを判断し、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であると判断された場合に、蛍光強度の核酸増幅処理回数に従った変化の挙動が前記パターンに該当するか否かを判断し、
前記挙動が前記パターンに該当する場合には前記出力装置に第1の判定結果を出力し、前記挙動が前記パターンに該当しない場合には前記出力装置に前記第1の判定結果とは異なる第2の判定結果を出力し、
前記第1の判定結果が出力された場合、標的核酸の初期濃度を算出し、
核酸増幅処理回数の増加に従って前記試料の蛍光強度が前記閾値以下から前記閾値に複数回到達した場合には、当該複数回のそれぞれの前記閾値に到達したときの核酸増幅処理回数のうち最も大きい核酸増幅処理回数に基づいて、前記試料における標的核酸の初期濃度を算出する、ように構成されている解析装置。
【請求項9】
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するための解析装置であって、
試料の蛍光強度に関する閾値を格納するように構成されたメモリと、
試料の蛍光強度を解析するように構成されたプロセッサと、
出力装置と、
を備え、
前記プロセッサは、
核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出し、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であるか否かを判断し、
前記試料の蛍光強度が前記閾値以上であると判断された場合、蛍光強度の核酸増幅処理回数に従った変化の挙動が予め定められたパターンに該当するか否かを判断し、
前記挙動が前記予め定められたパターンに該当する場合には第1の判定結果を出力し、前記挙動が前記予め定められたパターンに該当しない場合には前記第1の判定結果とは異なる第2の判定結果を出力し、
前記第1の判定結果が出力された場合、標的核酸の初期濃度を算出し、
前記試料の蛍光強度が複数回前記閾値以下から前記閾値に到達した場合に、当該複数回のそれぞれの前記閾値に到達したときの核酸増幅処理回数のうち最も大きい核酸増幅処理回数に基づいて、前記試料における標的核酸の初期濃度を前記出力装置に出力する、ように構成されている、解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度の解析に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中の特定の遺伝子の有無や量を判定する方法が種々提案されていた。このようなものに、PCR(polymerase chain reaction)法などの熱サイクルを与える手法を含むものがある。このような判定では、試料に複数回の熱サイクルを与えることにより当該試料中の核酸を増幅し、各回の熱サイクル数のそれぞれにおいて蛍光強度を測定することにより、試料中の特性の遺伝子の有無および量を判定する。PCR法を使った判定方法の具体例として、特開2008-278783号公報(特許文献1)は、熱サイクル数の増加に伴って蛍光強度が低下したサンプルに対して警告信号を発信する遺伝子測定装置を開示する(請求項2等)。特開2017-509040号公報(特許文献2)は、リアルタイムPCR信号におけるジャンプエラーを検出する方法を開示する(請求項1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-278783号公報
【文献】特開2017-509040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の判定方法は、熱サイクル数の変化に従った蛍光強度の変化において局部的にノイズが生じただけでも警告信号を出力するため、判定の効率を低下させていた。一方で、誤判定は回避されるべきである。このような現状において、遺伝子の有無や量の精度の向上が望まれている。
【0005】
本開示は、係る実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度の解析において、試料に関する判定を効率的かつ高い精度で実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従うと、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するためにコンピュータによって実行されるプログラムが提供される。プログラムは、コンピュータに、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出すステップと、試料の蛍光強度が予め定められた閾値以上であるか否かを判断するステップと、試料の蛍光強度が閾値以上であると判断された場合、蛍光強度の核酸増幅処理回数に従った変化の挙動が予め定められたパターンに該当するか否かを判断するステップと、挙動が予め定められたパターンに該当する場合には第1の判定結果を出力し、挙動が予め定められたパターンに該当しない場合には第1の判定結果とは異なる第2の判定結果を出力するステップと、を実行させる。
【0007】
予め定められたパターンは、核酸増幅処理回数に従った蛍光強度の変化において、閾値に到達したときの蛍光強度の変化の割合が予め定められた値以上であることを含んでいてもよい。
【0008】
予め定められたパターンは、予め定められた範囲内の核酸増幅処理回数で蛍光強度が閾値に到達したことを含んでいてもよい。
【0009】
予め定められたパターンは、蛍光強度が閾値に到達した後、予め定められた核酸増幅処理回数における蛍光強度が閾値より高い予め定められた強度に到達していることを含んでいてもよい。
【0010】
核酸増幅処理回数の増加に従って試料の蛍光強度が閾値に複数回到達した場合には、挙動が予め定められたパターンに該当するか否かの判断は、複数回のうち最も核酸増幅処理回数が大きい回についての挙動に基づいて実行されてもよい。
【0011】
プログラムは、コンピュータに、核酸増幅処理回数の増加に従って試料の蛍光強度が閾値に複数回到達した場合には、当該複数回のそれぞれの閾値に到達したときの核酸増幅処理回数のうち最も大きい核酸増幅処理回数に基づいて、試料における標的核酸の初期濃度を算出するステップをさらに実行させてもよい。
【0012】
本開示の他の局面に従うと、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するためにコンピュータによって実行されるプログラムが提供される。プログラムは、コンピュータに、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出すステップと、試料の蛍光強度が予め定められた閾値以上であるか否かを判断するステップと、試料の蛍光強度が複数回閾値に到達した場合に、当該複数回のそれぞれの閾値に到達したときの核酸増幅処理回数のうち最も大きい核酸増幅処理回数に基づいて、試料における標的核酸の初期濃度を出力するステップとを実行させる。
【0013】
本開示のさらに他の局面に従うと、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するための解析装置が提供される。解析装置は、試料の蛍光強度に関する、閾値と挙動のパターンを特定する情報とを格納するように構成されたメモリと、試料の蛍光強度を解析するように構成されたプロセッサと、出力装置と、を備える。プロセッサは、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出し、試料の蛍光強度が閾値以上であるか否かを判断し、試料の蛍光強度が閾値以上であると判断された場合に、蛍光強度の核酸増幅処理回数に従った変化の挙動がパターンに該当するか否かを判断し、挙動がパターンに該当する場合には出力装置に第1の判定結果を出力し、挙動が予め定められたパターンに該当しない場合には出力装置に第1の判定結果とは異なる第2の判定結果を出力する、ように構成されている。
【0014】
本開示のさらに他の局面に従うと、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を解析するための解析装置が提供される。解析装置は、試料の蛍光強度に関する閾値を格納するように構成されたメモリと、試料の蛍光強度を解析するように構成されたプロセッサと、出力装置と、を備える。プロセッサは、核酸増幅法に従って処理された試料の蛍光強度を読み出し、試料の蛍光強度が閾値以上であるか否かを判断し、試料の蛍光強度が複数回閾値に到達した場合に、当該複数回のそれぞれの閾値に到達したときの核酸増幅処理回数のうち最も大きい核酸増幅処理回数に基づいて、試料における標的核酸の初期濃度を出力装置に出力する、ように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本開示のある局面によれば、試料についての判定結果が、試料の蛍光強度が閾値を超えること、および、試料の蛍光強度の変化の挙動が所定のパターンに該当すること、の2つの要件に従って導出される。2つの要件が利用されることによって、判定の精度が向上され、また、判定の効率が向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】解析システムの外観を示す図である。
図2】核酸検査装置の部分的な分解図である。
図3】核酸検査装置の保持盤の上面を示す図である。
図4】核酸検査装置において、保持盤の下部に配置される各温調ブロックおよび検出機構を示す図である。
図5図3のV-V断面を示す図である。
図6】核酸検査装置およびPC(パーソナルコンピュータ)のハードウェア構成を説明するための図である。
図7】検体のPCR法に従った処理サイクルに対する、PCR産物量の一般的な変化を示す図である。
図8図7の例におけるCt値と標的核酸の初期濃度の対数との関係を示す図である。
図9】検査結果情報のデータ構造の一例を示す図である。
図10】サイクル数に対する蛍光強度の変化の具体例を示す図である。
図11】サイクル数に対する蛍光強度の変化の具体例を示す図である。
図12】サイクル数に対する蛍光強度の変化の具体例を示す図である。
図13】サイクル数に対する蛍光強度の変化の具体例を示す図である。
図14】サイクル数に対する蛍光強度の変化の具体例を示す図である。
図15】サイクル数に対する蛍光強度の変化の具体例を示す図である。
図16】PCが解析装置として機能するために、プロセッサが実行する処理のフローチャートである。
図17】ステップS20の処理のサブルーチンのフローチャートである。
図18】ある検体についての蛍光強度の変化の具体例を示す図である。
図19】判定結果の表示画面の一例を示す図である。
図20図17の変形例のフローチャートである。
図21図19の表示画面の変形例を示す図である。
図22】ボタンが操作されたことによって表示される画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しつつ、本開示に係る解析システムの実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号が付され、それらの名称および機能は同じである。したがって、これらの説明は繰り返されない。
【0018】
[1.解析システムの構成]
図1は、解析システム1000の外観を示す図である。解析システム1000は、核酸検査装置100と、パーソナルコンピューター(PC)200とを含む。核酸検査装置100は、PC200に接続されている。
【0019】
核酸検査装置100は、反応液に熱サイクルを与えることにより、反応液の核酸を増幅させる反応促進装置としての機能を有する。本開示では、反応液に与えられる熱サイクルの数を、単に「サイクル数」と呼ぶ場合がある。
【0020】
核酸検査装置100は、例えばPCR(polymerase chain reaction)法によって核酸を増幅させる。PCR法では、DNA(deoxyribonucleic acid)の一部分を選択的に増幅させるために、DNAポリメラーゼによる酵素反応を利用する。具体的には、(1)検体と試薬とを混合した反応液を、例えば約94℃~98℃にして、所定の時間(例えば1秒から10秒程度)温度を保ち、熱変性させることで、二本鎖DNAが一本鎖DNAに変性する。(2)一本鎖DNAにDNAポリメラーゼを作用させるには、予めプライマーをDNAに結合させる必要があり、このアニーリングを、例えば約50℃~70℃で行う。そのため、核酸検査装置100は、反応液を60℃程度にまで急速に冷却し、一本鎖DNAとプライマーとをアニーリングさせる。(3)次に、プライマーの分離がおきずDNAポリメラーゼの活性に適した温度帯にてDNAポリメラーゼを反応させることにより、DNAを伸長させる。DNAの伸長は、(2)と同じ温度で行ってもよいし、(2)より高い温度で行ってもよい。DNAの伸長の所要時間は例えば30秒から1分程度であればよい。
【0021】
核酸検査装置100は、反応液に対し、一定の温度で一定の時間、熱サイクルを与えるため、PC200を介して、熱サイクルで与える温度の設定および各温度を保つ時間の設定を受け付ける。核酸検査装置100は、反応容器を、保持盤189に設けられた容器保持孔187A~容器保持孔187I(以下、容器保持孔187A~容器保持孔187Iを総称して「容器保持孔187」と記載することもある)により保持し、設定に従って、保持盤189を回転および停止させて、順次、核酸検査装置100に内蔵される複数のヒーターと対向させる。温度センサ182は、例えば熱電対であり、反応容器の近傍に配置され、反応容器の温度を計測する。原点センサ183は、保持盤189の回転量(原点から回転した角度)を規定するための原点となる位置を検出するためのセンサである。例えば、原点となる位置に、原点センサ183と対向して原点センサ183に原点を検出させるためのセンサを配置することで、保持盤189の原点を設定する。これにより、核酸検査装置100は、原点センサ183から出力される信号により保持盤189の回転量を制御し、温度センサ182により反応容器の温度を管理しつつ、熱サイクルにおける目標温度で、一定時間、反応液に熱サイクルを与えることができ、核酸を高速に、かつ安定して増幅させることができる。
【0022】
核酸検査装置100は、反応容器内の核酸を蛍光光度法により検出する機構を有する。すなわち、核酸検査装置100は、反応液に対して照射器から励起光を照射して、励起光により生じる蛍光を検出器によって検出する。なお、本開示に係る解析システムにおける核酸を検出する方法は、蛍光光度法に限られない。
【0023】
[2.核酸検査装置100の構成]
<反応容器の保持>
図2は、核酸検査装置の部分的な分解図である。図2を参照して、図1の核酸検査装置100において、反応容器を保持するための構成を説明する。
【0024】
図2に示すように、反応容器300A~反応容器300I(以下、反応容器300A~反応容器300Iを総称して、「反応容器300」と記載することもある)は、上部から検体と試薬とを投入可能に構成されており、上部から下部へ進むに従って径が小さくなっている。反応容器300の下部に位置する反応液310において検体と試薬とが混合される。反応容器300は、上部にテーパー状の構造を有しており、テーパー状の構造により反応容器300(反応容器300A~反応容器300Iのそれぞれ)が保持盤189(容器保持孔187A~容器保持孔187Iのそれぞれ)に保持される。
【0025】
反応容器300が保持盤189に保持されることにより、反応液310とヒーター部とが対向する。核酸検査装置100は、ヒーター部において、複数の温調ブロックを含む。各温調ブロックは、それぞれ設定温度に従って一定温度を提供する。複数の温調ブロックは、たとえば、二本鎖DNAを一本鎖DNAに熱変性させるための高温側の温調ブロックと、アニーリングを行うための低温側の温調ブロックと、反応液を急速に冷却するための降温側の温調ブロックとを含む。高温側の温調ブロックは、90℃~110℃、好ましくは約94℃~98℃程度の温度を提供する。低温側の温調ブロックは、室温~80℃、好ましくは60℃程度の温度を提供する。降温側の温調ブロックは、-30℃~室温程度の温度を提供する。
【0026】
図2の例は、低温側の温調ブロックとして、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bを示す。反応容器300が保持盤189に保持された状態で、反応容器300内の反応液310が、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bと対向する。これにより、核酸検査装置100は、反応液310に対し、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bにより60℃程度の温度を与える。
【0027】
<保持部を駆動する機構および各温調ブロックの配置>
図3は、核酸検査装置100の保持盤189の上面を示す図である。図4は、核酸検査装置100において、保持盤189の下部に配置される各温調ブロックおよび検出機構を示す図である。図3および図4を参照して、核酸検査装置100における、反応容器を保持する保持部を駆動する機構と、及び、反応液に熱サイクルを与えるためのヒーター部の配置を説明する。
【0028】
図3に示されるように、核酸検査装置100において、保持盤189は、ネジ止め等により回転盤188に固定されている。回転速度制御装置192は、保持盤189の回転の角速度を制御するために核酸検査装置100に搭載される。ある実施の形態において、回転盤188と回転速度制御装置192の双方は平歯車を備え、互いの平歯車は係合している。これにより、回転速度制御装置192の回転力が、回転盤188および(回転盤188に固定されている)保持盤189に伝達される。矢印R1は、回転速度制御装置192の回転方向を表わす。矢印R2は、回転速度制御装置192の回転に伴った回転盤188および保持盤189の回転方向を表わす。保持盤189によって保持される反応容器300は、保持盤189の回転に従って回転する。
【0029】
図4に示すように、各温調ブロックが円周上に配置される。降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193Bは、降温側の温調ブロックである。高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bは、高温側の温調ブロックである。低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bは、低温側の温調ブロックである。反応容器300が容器保持孔187に保持されることにより、反応容器300内の反応液310が、これら温調ブロックと対向する。回転速度制御装置192が回転の角速度を制御することにより、保持盤189に保持された反応容器300内の反応液310が回転方向に移動する。これにより、核酸検査装置100は、反応液310を、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bと、降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193Bと、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bとに順に対向させる。これにより、反応液310に、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bと、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bとを用いた熱サイクルが提供される。
【0030】
なお、降温側の温調ブロックである降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193Bは、高温側の温調ブロックである高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bによって95℃程度に温調された反応液310を、低温側の温調ブロックで反応液310に与える温度まで急速に冷却する。降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193B、ならびに、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bが図4に示されるように配置されることにより、反応液310を高温側から低温側まで下降させる時間を短縮させることができ、核酸の増幅に要する時間を短縮化できる。
【0031】
核酸検査装置100は、励起光照射部196および蛍光検出部197を用いて核酸増幅検査を行う。励起光照射部196は、反応液310に励起光を照射する。蛍光検出部197は、励起光照射部196により照射された励起光によって生じる蛍光を検出する。主に図4に示されるように、核酸検査装置100において、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bと、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bとの間に、反射板198が設置されている。励起光照射部196から照射された励起光は、反射板198によって反射される。核酸検査装置100は、反応液310を、低温側の温調ブロックである低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bの位置から、高温側の温調ブロックである高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bに移動させるまでの間に、励起光照射部196および蛍光検出部197を用いた検査を行う。
【0032】
スリップリング181は、回転体への給電および信号の送受信等を行うためのものであり、例えば、保持盤189上の温度センサ182と原点センサ183とへ給電し、これら温度センサ182と原点センサ183とが出力する信号を制御回路へ伝送する。
【0033】
<保持部および温調ブロックの構成>
図5は、図3のV-V断面を示す図である。図5を参照して、核酸検査装置100における保持部および温調ブロックの構成を説明する。
【0034】
図5に示すように、保持盤189は回転盤188に固定され、回転盤188の回転に従って保持盤189が回転する。保持盤189は、容器保持孔187の上部から反応容器300の挿入を受け付ける。反応容器300はテーパー部により保持盤189に保持される。反応容器300内の反応液310は低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bと対向しており、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bから温度を与えられる。
【0035】
核酸検査装置100のヒーター部の各温調ブロック(図5では高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bと、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bとが示される)は、ネジ止め等により、核酸検査装置100の筐体に固定されている。核酸検査装置100は、反応促進部190において、保持盤189を回転させることにより、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bに対向する位置から低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bに対向する位置まで、反応容器300を移動させる。
【0036】
[3.核酸検査装置100およびPC200のハードウェア構成]
図6は、核酸検査装置100およびPC200のハードウェア構成を説明するための図である。図6を参照して、核酸検査装置100およびPC200のそれぞれの構成について説明する。
【0037】
<核酸検査装置100の構成>
図6に示すように、核酸検査装置100は、半導体リレー(SSR:Solid State Relay)(図示しない)と、温度ヒューズ104A、温度ヒューズ104Bおよび温度ヒューズ104C(以下、温度ヒューズ104A、温度ヒューズ104Bおよび温度ヒューズ104Cを総称して温度ヒューズ104ということもある)と、入出力インターフェース(I/F)105と、記憶部106と、制御部107と、第1温調器108A、第2温調器108B、および、第3温調器108C(以下、第1温調器108A、第2温調器108B、および、第3温調器108Cを総称して温調器108ということもある)と、電源部109と、反応促進部190とを含む。反応促進部190は、駆動部191と、回転速度制御装置192と、各温調ブロック(降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193Bと、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bと、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195B)と、励起光照射部196と、蛍光検出部197と、反射板198と、スリップリング181とを含む。なお図6では、保持盤189の複数の容器保持孔187(図6では、点線で描かれた円として示される)と、原点センサ183と、温度センサ182とを点線で示している。
【0038】
温度ヒューズ104は、電気機器の回路ショートの発生や、回路部品の故障などに起因する過電流によって生じる機器の発熱を感知して、回路を遮断する加熱保護部材である。温度ヒューズ104A、温度ヒューズ104Bおよび温度ヒューズ104Cは、第1温調器108A、第2温調器108Bおよび第3温調器108Cのそれぞれに対応して配置される。温度ヒューズ104A、温度ヒューズ104Bおよび温度ヒューズ104Cは、第1温調器108A、第2温調器108Bおよび第3温調器108Cを介して各温調ブロックに対して供給される電源によって生じる機器の発熱を感知して、回路を遮断することで各種装置を保護する。
【0039】
入出力I/F105は、核酸検査装置100の外部の装置と通信するための入出力インタフェースであり、例えば汎用のインタフェースであるUSB(Universal Serial Bus)などである。核酸検査装置100は、入出力I/F105によりPC200と接続し、PC200で動作するプログラムに従って、保持盤189を回転させる等の核酸増幅のための処理を行う。
【0040】
記憶部106は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等によって構成され、核酸検査装置100が使用するプログラムを記憶し、核酸検査装置100が使用する各種のデータを蓄積する。ある局面において、記憶部106は、熱サイクル動作設定161を記憶する。熱サイクル動作設定161は、核酸検査装置100が反応液310に与える熱サイクルの設定を示す情報であり、複数の温調ブロック(図6では、熱サイクルの高温側の温度を反応液310に与える第1の温調ブロック(高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194B)と、熱サイクルの低温側の温度を反応液310に与える第2の温調ブロック(低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195B)と、反応液310を高温側の温度から低温側の温度まで急速に加熱するための第3の温調ブロック(降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193B)を示す)のそれぞれの温度の設定と、各温調ブロックで反応液310に温度を与える時間の設定とを含む。
【0041】
制御部107は、記憶部106に記憶される制御プログラムを読み込んで実行することにより、核酸検査装置100の動作を制御する。制御部107は、例えばプロセッサにより実現される。制御部107は、プログラムに従って動作することにより、駆動制御部171と、温度調節部172としての機能を発揮する。
【0042】
駆動制御部171は、反応液310に熱サイクルを加えるための核酸検査装置100の駆動を制御する。具体的には、駆動制御部171は、駆動部191に制御信号を出力することにより回転速度制御装置192の回転速度(角速度)を制御することで、保持盤189に保持される反応容器300の移動を制御する。これにより、駆動制御部171は、反応容器300内の反応液310を、第1の温調ブロック(高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194B)、第3の温調ブロック(降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193B)および第2の温調ブロック(低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195B)に順に対向させることにより、熱サイクルを反応液310に与える。
【0043】
温度調節部172は、反応液310に与える熱サイクルにおいて、熱サイクル動作設定161の設定に従って、複数の温調ブロックそれぞれの温度を調節する。温度調節部172は、第1温調器108A、第2温調器108B、および、第3温調器108Cに対し、それぞれの温調器が対応するヒーター部の温度を示す制御信号を出力する。例えば、温度調節部172は、降温側の温調ブロックに対応する第1温調器108Aに対し、熱サイクル動作設定161に従って、-30度~室温程度の範囲のうちの任意の温度を示す制御信号を出力する。また、温度調節部172は、高温側の温調ブロックに対応する第2温調器108Bに対し、熱サイクル動作設定161に従って、例えば約94℃~98℃程度の温度を示す制御信号を出力する。また、温度調節部172は、低温側の温調ブロックに対応する第3温調器108Cに対し、熱サイクル動作設定161に従って、例えば60℃程度の温度を示す制御信号を出力する。
【0044】
制御部107は、反応液310の位置に応じて励起光照射部196を駆動することにより反応液310に励起光を照射して、励起光の照射による蛍光を蛍光検出部197が検出した検出結果を蛍光検出部197から受け付けることで、核酸増幅の検査をする。
【0045】
温調器108は、制御部107の制御信号に従って、熱サイクル動作設定161に示される温度に温調ブロックを調節する。ある実施の形態では、これら温調器108は、交流電源によって動作する。
【0046】
第1温調器108Aは、降温クーラー部193Bの温度の測定結果を示す信号を受信し、降温クーラー193Aおよび降温クーラー193Bが設定に従った温度に調節されるよう、第1温調器108Aに対応する半導体リレー(図示しない)を制御する。すなわち、第1温調器108Aは、降温クーラー193Bの温度の測定結果と、設定に示される温度とに基づいて半導体リレーの開閉を制御することで、降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193Bへの電源の供給を制御する。
【0047】
第2温調器108Bは、高温ヒーター部194Bの温度の測定結果を示す信号を受信し、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bが設定に従った温度に調節されるよう、第2温調器108Bに対応する半導体リレー(図示しない)を制御する。すなわち、第2温調器108Bは、高温ヒーター部194Bの温度の測定結果と、設定に示される温度とに基づいて半導体リレーの開閉を制御することで、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bへの電源の供給を制御する。
【0048】
第3温調器108Cは、低温ヒーター部195Bの温度の測定結果を示す信号を受信し、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bが設定に従った温度に調節されるよう、第3温調器108Cに対応する半導体リレー(図示しない)を制御する。すなわち、第3温調器108Cは半導体リレーの開閉を、低温ヒーター部195Bの温度の測定結果と、設定に示される温度とに基づいて制御することで、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bへの電源の供給を制御する。
【0049】
電源部109は、核酸検査装置100の外部から供給される交流電源を受けて、直流電圧に変換する。
【0050】
駆動部191は、制御部107からの制御信号に応じて、保持盤189の角速度を示す信号を回転速度制御装置192に出力することで回転速度制御装置192を回転させる。
【0051】
回転速度制御装置192は、駆動部191の駆動制御に従って回転し、歯車機構により保持盤189を回転させることで、反応液310を回転方向に移動させる。
【0052】
降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193Bは、電気信号を熱に変える温調ユニットであり、表面に、熱伝導率が比較的高いアルミ箔等が貼り付けられて反応液310に温度を与える。降温クーラー部193Bは熱電対を含み、熱電対により測定した温度を温調器108Aへ出力する。これにより第1温調器108Aが降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193Bへの電力の供給を制御して、降温クーラー部193Aおよび降温クーラー部193Bを一定温度に調節する。
【0053】
高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bは、電気信号を熱に変える温調ユニットであり、表面に、熱伝導率が比較的高いアルミ箔等が貼り付けられて反応液310に熱サイクルの高温側の温度を与える。高温ヒーター部194Bは熱電対を含み、熱電対により測定した温度を温調器108Bへ出力する。これにより第2温調器108Bが高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bへ供給する電力を制御して、高温ヒーター部194Aおよび高温ヒーター部194Bを一定温度に調節する。
【0054】
低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bは、電気信号を熱に変える温調ユニットであり、表面に、熱伝導率が比較的高いアルミ箔等が貼り付けられて反応液310に熱サイクルの高温側の温度を与える。低温ヒーター部195Bは熱電対を含み、熱電対により測定した温度を温調器108Cへ出力する。これにより第3温調器108Cが低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bへ供給する電力を制御して、低温ヒーター部195Aおよび低温ヒーター部195Bを一定温度に調節する。
【0055】
<PC200の構成>
PC200は、所与のプログラムを実行することによりPC200の動作を制御するための処理を実行するプロセッサ201と、入出力I/F202と、モニタ203と、メモリ210とを備える。メモリ210は、基本判定用情報211と、偽陽性判定用情報212と、検査結果情報213とを格納する。
【0056】
PC200は、プロセッサ201がメモリ210に格納された解析プログラムを実行することにより、解析装置として機能する。ある実施の形態において、解析装置は、反応容器300内の検体が標的核酸を所定濃度以上含む場合に、当該検体を陽性と判定し、当該検体が標的核酸を所定濃度以上含まない場合には、当該検体を陰性と判定する。標的核酸は、特に限定されないが、例えば、血液、血清、白血球、尿、便、精液、唾液、組織、培養細胞、喀痰、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、食品、土壌、排水、廃水、空気などの試料から抽出される核酸、または、これらの核酸を鋳型として、PCR法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal Chimeric Primer Amplification)法、およびSMAP(SMart Amplification Process)法などの核酸増幅方法により増幅された増幅産物となる。検出対象となるウイルス感染症には、たとえば、肝炎ウイルス(A、B、C、D、E、F、G型)、HIV、インフルエンザウイルス(A、B、C、D、E、F)、ヘルペス群ウイルス、アデノウイルス、ヒトポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒトパルボウイルス、ムンプスウイルス、ヒトロタウイルス、エンテロウイルス、日本脳炎ウイルス、天然痘ウイルス、コロナウイルス、SARS、デングウイルス、風疹ウイルス、HTLVなどのウイルス感染症がある。また、検出対象となる細菌感染症には、たとえば、黄色ブドウ球菌、溶血性連鎖球菌、病原性大腸菌、腸炎ビブリオ菌、ヘリコバクターピロリ菌、カンピロバクター、コレラ菌、赤痢菌、サルモネラ菌、炭疽菌、エルシニア、淋菌、リステリア菌、レプトスピラ、レジオネラ菌、スピロヘータ、肺炎マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、マラリア、赤痢アメーバ、病原真菌などの細菌感染症がある。
【0057】
基本判定用情報211は、解析装置が検体を陽性と判定するために設定された蛍光強度についての閾値を含む。解析装置によって陽性と判定される検体は、標的核酸に対応する波長において上記閾値を以上の強度の蛍光を発する。
【0058】
偽陽性判定用情報212は、解析装置が検体を陽性と判定するために利用する閾値(後述する、閾値It)と、当該閾値以外の条件を特定するための情報とを含む。ある実施の形態では、図14を参照して後述されるように、解析装置は、検体の蛍光強度が閾値を超えた後、所定のサイクル数(たとえば、30サイクル)における当該検体の蛍光強度が、閾値より高い予め定められた強度(図14中の判定値Id)を超えたことを条件として、検体を陽性と判断する。この場合、偽陽性判定用情報212は、上記「予め定められた強度」を特定する情報に相当する。
【0059】
検査結果情報213は、検体についての判定結果を含む。判定結果は、たとえば、標的核酸について「陽性」または「陰性」、標的核酸の初期濃度、等を含む。
【0060】
[4.PCR法による標的核酸の定量の原理]
図7は、検体のPCR法に従った処理サイクルに対する、PCR産物量の一般的な変化を示す図である。図8は、PCR法に従って処理された検体の蛍光強度が閾値に到達したときの処理サイクル数に対する、検体における標的核酸の初期濃度の一般的な変化を示す図である。ある実施の形態では、核酸増幅処理方法としてPCR法が採用される。図7および図8を参照して、PCR法による標的核酸の定量の原理を説明する。
【0061】
図7には、5種類の初期濃度のそれぞれの検体についてのサイクル数に従った、PCR法に従った処理によって増幅された標的核酸(以下、「増幅産物」ともいう)の量の変化が示されている。線L11,L12,L13,L14,L15(以下の説明では、「増幅曲線」ともいう)は、それぞれ、標的核酸の初期濃度が1×10μg/ml,1×10μg/ml,1×10μg/ml,1×10μg/ml,1×10μg/mlのときの変化を示す。
【0062】
線L11~L15のそれぞれの変化によって示されるように、PCR法に従ったサイクル数が増えると、標的核酸量は増加する。より具体的には、増幅産物量は、ある時点から指数関数的に増加し、その後、増幅産物量の変化はプラトーになる。また、線L11~L15を比較することによって理解されるように、増幅産物量が指数関数的な増加を開始するサイクル数が小さくなる。
【0063】
ここで、適当なところに閾値(Threshold)を設定すると、閾値と増幅曲線が交わる点:Ct値(Threshold Cycle)が算出される。図7では、閾値は線L10として示されている。Ct1,Ct2,Ct3,Ct4,Ct5は、それぞれ、線L11,L12,L13,L14,L15についてのCt値を表わす。
【0064】
図8は、図7の例におけるCt値と標的核酸の初期濃度の対数との関係を示す図である。図8に示されたように、Ct値と標的核酸の初期濃度の対数との間には直線関係がある。当該関係を利用して、検量線L8が作成される。検量線L8と図7の閾値とを用いて、標的核酸の初期濃度が未知の検体について、標的核酸の初期濃度が特定され得る。図8の例では、Ct値が「CtX」である検体について、標的核酸の初期濃度「DX」が特定される。
【0065】
検体の標的核酸に対応する波長の蛍光強度は、一般的には、当該検体中の標的核酸の濃度に比例する。ある実施の形態において、解析システムは、Ct値の決定において、増幅産物量の代わりに蛍光強度を用いる。
【0066】
[5.データ構造]
図9は、検査結果情報213のデータ構造の一例を示す図である。図9に示されるように、検査結果情報213は、検体ID、蛍光強度、判定結果、Ct値、および、推定初期濃度を含む。「検体ID」は、各検体を特定する。「蛍光強度」は、検体についてカウント数ごとに測定された蛍光強度を表わす。ある実施の形態では、「蛍光強度」は、カウント数の変化に対する蛍光強度との関係を表わす近似曲線であってもよく、たとえば、後述する図11における線L21~線24のそれぞれに相当する。「判定結果」は、標的核酸についての検体の判定結果を表わす。「Ct値」は、各検体の蛍光強度の変化に基づいて特定されたCt値を表わす。「推定初期濃度」は、各検体のCt値と図8を参照して説明された検量線とによって算出された標的核酸の初期濃度を表わす。
【0067】
たとえば、検査結果情報213は、検体ID「A1」について、「蛍光強度」としての近似曲線G1と、判定結果「陽性、Ct値「20.5」と、推定初期濃度「19.43μg/ml」とを含む。
【0068】
[6.蛍光強度の変化の具体例]
図10図15のそれぞれは、サイクル数に対する蛍光強度の変化の具体例を示す図である。図10には、典型的な陽性の検体の蛍光強度が示される。
【0069】
図10において、線L21は、PCR法に従って処理された検体の、サイクル数に従った蛍光強度の変化を表わす。線L21は、たとえば、複数のサイクル数のそれぞれの蛍光強度を用いて生成された近似曲線である。線L20は、標的核酸についての陽性/陰性を判定するために予め設定された閾値を表わす。値Ct1は、線L21が線L20と交差するときのサイクル数に相当する値を表わす。
【0070】
図10の例では、検体の蛍光強度が閾値Itに達しているので、当該検体の判定結果は「陽性」である。Ct値は、「Ct1」である。検体の推定初期濃度は、値Ct1と図8を参照して説明されたような検量線(予め設定されている)とを用いて算出される。
【0071】
図11には、線L21,L22,L23,L24によって4種類の検体の蛍光強度が示される。線L21は、図10に示された線L21と同じものである。
【0072】
線L22,L23,L24のそれぞれは、偽陽性(すなわち、陽性ではない)とされる検体の蛍光強度を示す。すなわち、線L22,L23,L24のそれぞれは、閾値Itを超える部分を有することによって解析システムでは陽性と判定される可能性がある一方で、検査員の目視によっては陰性と判断される。
【0073】
本開示の解析システムは、線L22,L23,L24のような蛍光強度を呈する検体、偽陽性と判定する、すなわち、陽性ではないと判断するための構成を備える。図12図15を参照して当該構成の具体例を説明する。
【0074】
<検体を偽陽性と判定するための構成(1)>
図12には、当該構成の一例が示される。図12の例では、検体が陽性と判定されるために、当該検体の蛍光強度が閾値に到達するためのサイクル数の範囲(サイクル数CA1~CA2)が設定される。図12の例では、線L21の蛍光強度はサイクル数CA1~CA2で特定される範囲内のCt1で閾値Itに到達しているが、線L22の蛍光強度が閾値Itに到達するのは、サイクル数CA1~CA2で特定される範囲の外であるCtxである。これにより、解析システムは、線L21に対応する検体を陽性と判定されるが、線L22に対応する検体を陽性ではない(陰性、または偽陽性)と判定する。
【0075】
上述したサイクル数の範囲(CA1~CA2)を特定する情報は、たとえば、検査員によって予め設定され、偽陽性判定用情報212としてメモリ210に格納される。検査員は、たとえば疑陽性であることが既知の検体(陰性であるにも拘わらず陽性のような挙動を呈する検体)と、陽性であることが既知の検体とを用いて、上記範囲を設定する。
【0076】
<検体を偽陽性と判定するための構成(2)>
図13には、上記構成の他の例が示される。図13の例では、検体が陽性と判定されるための、当該検体の蛍光強度についての閾値近傍の変化率の下限値が設定される。変化率とは、一定のサイクル数の増加に対する蛍光強度の増加の割合を意味する。解析システムは、蛍光強度の閾値における変化率を算出する。「変化率」は、たとえば、蛍光強度が閾値に達した部分における、近似曲線に対する接線の傾きとして表され得る。図13において、線A1は、線L21と線L20との交差点での線L21に対する接線を表わす。線A4は、線L24と線L20との交差点での線L24に対する接線を表わす。線A1,A4のそれぞれの傾きが変化率の一例である。
【0077】
解析システムは、蛍光強度の変化率が上述の下限値以上であれば、当該蛍光強度に対応する検体を陽性と判定し、蛍光強度の変化率が上述の下限値未満であれば、当該蛍光強度に対応する検体を陰性と判定する。線A1の傾きは、線A4の傾きより大きい。ある実施の形態では、上述の下限値の一例は、線A1の傾きと線A4の傾きとの間に設定される。これにより、解析システムは、線L21に対応する検体を陽性と判定されるが、線L24に対応する検体を陽性ではない(陰性、または偽陽性)と判定する。
【0078】
構成(2)における判定基準である上述の「下限値」は、たとえば、検査員によって、疑陽性であることが既知の検体と陽性であることが既知の検体とを用いて適宜設定され得る。設定された「下限値」を特定する情報は、偽陽性判定用情報212としてメモリ210に格納される。
【0079】
<検体を偽陽性と判定するための構成(3)>
図14には、上記構成のさらに他の例が示される。図14の例では、検体が陽性と判定されるための、特定のサイクル数における蛍光強度についての判定値が設定される。図14では、この判定値は、判定値Idとして示され、特定のサイクル数として「30サイクル」が示されている。
【0080】
解析システムは、蛍光強度の閾値に達した検体について、さらに、特定のサイクル数における蛍光強度が判定値Idに以上であるか否かを判断する。特定のサイクル数とは、通常、検体が陽性であればその蛍光強度が確実に閾値を超えていると考えられるサイクル数である。特定のサイクル数は、たとえば、検査員が、疑陽性であることが既知の検体および陽性であることが既知の検体を用いることによって、設定される。
【0081】
図14の例では、線L21と線24の双方の蛍光強度が閾値Itを超えている。しかしながら、線L21の30サイクルにおける蛍光強度は判定値Idを超えているが、線L24の30サイクルにおける蛍光強度は判定値Idに達していない。これにより、解析システムは、線L21に対応する検体を陽性と判定されるが、線L24に対応する検体を陽性ではない(陰性、または偽陽性)と判定する。
【0082】
構成(3)における判断基準である上述の「特定のサイクル数」は、たとえば、検査員によって、疑陽性であることが既知の検体と陽性であることが既知の検体とを用いて設定される。設定された「特定のサイクル数」を特定する情報は、偽陽性判定用情報212としてメモリ210に格納される。
【0083】
<検体を偽陽性と判定するための構成(4)>
図15には、上記構成のさらに他の例が示される。図15の例では、検体の蛍光強度が、複数回、閾値Id以下から閾値Id以上へと変化した場合、最も高いサイクル数での変化が、検体の判定および標的核酸の初期濃度に用いられる。
【0084】
図15の例では、線L21と線L23が示される。線L23は、複数回、閾値Idを跨いで変化している。より具体的には、線L23は、サイクル数Ct11近傍において閾値Id以下から閾値Id以上へと変化し、サイクル数Ct12近傍において閾値Id以上から閾値Id以下へと変化し、サイクル数Ct13近傍において閾値Id以下から閾値Id以上へと変化し、サイクル数Ct14近傍において閾値Id以上から閾値Id以下へと変化し、サイクル数Ct15近傍において閾値Id以下から閾値Id以上へと変化し、サイクル数Ct16近傍において閾値Id以上から閾値Id以下へと変化し、そして、サイクル数Ct17近傍において閾値Id以下から閾値Id以上へと変化している。
【0085】
線L21の蛍光強度における閾値Id以下から閾値Id以上への変化は1回であるが、線L23の蛍光強度における当該変化は4回(サイクル数Ct11,Ct13,Ct15,Ct17)である。線L23に対応する検体については、(陽性/陰性の)判定および標的核酸の初期濃度の算出では、サイクル数Ct11,Ct13,Ct15における変化ではなく、サイクル数Ct7での変化が利用される。
【0086】
たとえば、線L23に対応する検体の、標的核酸の初期濃度は、サイクル数Ct7と検量線とを用いて算出される。
【0087】
本明細書において説明された構成(1)~構成(4)は、適宜組合せて適用され得る。たとえば、構成(4)が構成(1)[図12参照]と組合せられた場合、サイクル数Ct11,Ct13,Ct15がサイクル数CA1~CA2(図12参照)の範囲内にあっても、サイクル数Ct7がサイクル数CA1~CA2の範囲外であれば、線L23に対応する検体は、偽陽性または陰性と判定され、陽性とは判定されない。
【0088】
[7.処理の流れ]
図16は、PC200が解析装置として機能するために、プロセッサ201が実行する処理のフローチャートである。プロセッサ201は、たとえばメモリ210に格納された解析用プログラムを実行することにより、図16の処理を実現させる。解析用プログラムは、PC200外の記憶装置またはPC200に対して着脱可能な記録媒体に非一時的に格納されていてもよい。PC200は、記録媒体に格納されたデータを読み込むためのドライブを備え、プロセッサ201は当該ドライブを用いて当該記録媒体に格納されたプログラムを読み出して実行してもよい。
【0089】
図16を参照して、ステップS10にて、プロセッサ201は、検体の蛍光測定の結果を取得する。取得される結果の一例は、検体IDに関連付けられた蛍光強度である。取得される蛍光強度は、複数のサイクル数における測定結果を含んでいてもよい。プロセッサ201は、取得した蛍光測定の結果を、検査結果情報213(図6参照)に、「蛍光強度」として格納してもよい。
【0090】
ステップS20にて、プロセッサ201は、当該検体に対する陰性/陽性の判定を実行する。図17は、ステップS20の処理のサブルーチンのフローチャートである。
【0091】
図17を参照して、ステップS21にて、プロセッサ201は、当該検体の蛍光強度が閾値Itに到達しているか否かを判断する。プロセッサ201は、蛍光強度がすべてのサイクル数において閾値Itに達していなければ(ステップS21にてNO)、ステップS28へ制御を進め、そうでなければ(ステップS21にてYES)、ステップS22へ制御を進める。
【0092】
プロセッサ201は、ステップS21の制御の後、ステップS21にて閾値Itに達していると判断した検体について、Ct値(図7参照)を特定し、検査結果情報213としてメモリ210に当該Ct値を格納してもよい。
【0093】
ステップS22にて、プロセッサ201は、蛍光強度が複数の上昇部を含むか否かを判断する。上昇部は、たとえば、蛍光強度の近似曲線が閾値Itを示す直線と交差する部分であって、蛍光強度が閾値It以下の値から閾値It以上の値へと変化する部分である。たとえば、図15の線L23は、4つの上昇部(Ct11,Ct13,Ct15,Ct17のそれぞれの近傍)を含む。プロセッサ201は、蛍光強度が上述した「上昇部」を含むと判断すると(ステップS22にてYES)、ステップS23へ制御を進め、そうでなければ(ステップS22にてNO)、ステップS28へ制御を進める。
【0094】
ステップS23にて、プロセッサ201は、複数の上昇部の中から、最もカウント数が大きい側に位置する上昇部を選択する。たとえば、図15の線L23では、4つの上昇部(Ct11,Ct13,Ct15,Ct17のそれぞれの近傍)の中から1つの上昇部(Ct17近傍)が選択される。
【0095】
ステップS24にて、プロセッサ201は、Ct値が、陽性と判定されるために設定された所定範囲(たとえば、図12のサイクル数CA1~CA2)内に位置するか否かを判断する。プロセッサ201は、Ct値が上述の所定範囲内にあると判断すると(ステップS24にてYES)、ステップS25へ制御を進め、そうでなければ(ステップS24にてNO)、ステップS28へ制御を進める。
【0096】
ステップS25にて、プロセッサ201は、Ct値近傍の蛍光強度の変化率が一定値(SLt)以上であるか否かを判断する。ステップS25における「一定値(SLt)」は、図13を参照した説明における「下限値」に相当する。
【0097】
プロセッサ201は、上述の変化率が一定値(SLt)以上であれば(ステップS25にてYES)、ステップS26へ制御を進め、そうでなければ(ステップS25にてNO)、ステップS28へ制御を進める。
【0098】
ステップS26にて、プロセッサ201は、30サイクルでの蛍光強度が一定値(Sit)以上であるか否かを判断する。ステップS26における「一定値(Sit)」は、図14を参照した説明における「判定値Id」に相当する。
【0099】
プロセッサ201は、30サイクルでの蛍光強度が一定値(Sit)以上であると判断すると(ステップS26にてYES)、ステップS27へ制御を進め、そうでなければ(ステップS26にてNO)、ステップS28へ制御を進める。
【0100】
ステップS27にて、プロセッサ201は、処理対象の検体の判定結果を「陽性」に決定して、図16へ制御を戻す。ステップS28にて、プロセッサ201は、処理対象の検体の判定結果を「陰性」に決定して、図16へ制御を戻す。
【0101】
図16に戻って、ステップS30にて、プロセッサ201は、判定結果が「陽性」である検体について、標的核酸の初期濃度を算出する。当該初期濃度の算出には、たとえば図8を参照して説明されたように検量線が利用される。ステップS23において1つの上昇部が選択されている場合には、当該初期濃度は、選択された上昇部に含まれるCt値に基づいて算出される。
【0102】
ステップS40にて、プロセッサ201は、検体についての判定結果を表示するための画面を生成し、モニタ203に出力する。これにより、図16の処理は終了する。プロセッサ201は、複数の検体についてステップS10~ステップS30の制御を実行した後で、ステップS40を実行してもよい。
【0103】
図16および図17を参照して説明された処理では、蛍光強度が閾値Itを超えた検体は、さらに、ステップS24,S25,S26のそれぞれにおいて設定された条件を満たした場合に、陽性と判定される。そうでなければ、当該検体は、陰性と判定される。
【0104】
なお、本実施の形態では、ステップS24,S25,S26のうち少なくとも1つの判断がなされればよい。すなわち、ステップS24,S25,S26のうち1つまたは2つの判断が省略されてもよい。
【0105】
ある実施の形態では、さらにステップS24,S25,S26のすべてが省略されてもよい。すなわち、本実施の形態では、蛍光強度の変化が複数の上昇部を含む場合に、その中から最もサイクル数の大きい上昇部が選択されて、標的核酸の初期濃度の算出に利用されてもよい。
【0106】
図18は、ある検体についての蛍光強度の変化の具体例を示す図である。図18には、線L25が示される。線L25は、サイクル数Ct1においてだけでなく、サイクル数Ct0においても、閾値Itを跨ぐ。しかしながら、ステップS23の制御において、サイクル数Ct0における蛍光強度の強度は、陽性/陰性の判定および標的核酸の初期濃度の算出から除外され得る。
【0107】
他の実施の形態では、ステップS22,S23が省略されてもよい。ステップS24,S25,S26のうち少なくとも1つの判断が実施されれば、二段階での陽性/陰性の判定が実現される。
【0108】
[8.画面の表示例]
図19は、判定結果の表示画面の一例を示す図である。図19の判定結果表示画面1900は、ステップS40(図16)において生成され出力される画面の一例であり、表示部1910および表示部1920を含む。
【0109】
表示部1910は、表示対象となる複数の検体のそれぞれの判定結果を、ボタンの表示/非表示によって示す。図19の例では、図19の例では、検体ID(1)~(10)のうち、検体ID(2)~(4)についてはボタン1911,1912,1913が表示され、検体ID(1),(5)~(10)についてはボタンが表示されていない。このことは、検体ID(1),(5)~(10)の判定結果が「陰性」であり、検体ID(2)~(4)の判定結果が「陽性」であることを表わす。
【0110】
ボタン1911,1912,1913のいずれかが操作されることにより、操作されたボタンに対応する検体の詳細な情報がモニタ203に表示されてもよい。この場合、プロセッサ201は、検査結果情報213から操作されたボタンに対応する検体IDに関連付けられた情報(図9の蛍光強度、判定結果、Ct値、および/または、推定初期濃度)を読み出し、当該情報をモニタ203に表示する。表示される情報は、蛍光強度の近似曲線のグラフを含んでいてもよい。
【0111】
表示部1920は、表示部1910に判定結果を表示された検体のそれぞれの検査結果情報213を構成する情報(検体ID、判定結果:図19では「判定」、推定初期濃度)を表形式で示す。
【0112】
[9.判定結果における偽陽性と陰性との区別]
検体の判定において、偽陽性と陰性とが区別されてもよい。このような変形例について以下に説明する。
【0113】
<フローチャート>
図20は、図17の変形例のフローチャートである。図20の処理では、蛍光強度が閾値Itを超えなければ、検体の判定結果は「陰性」とされる。蛍光強度が、閾値Itを超えたが、ステップS24,S25,S26において設定された条件を満たさない場合には、検体の判定結果は「偽陽性」とされる。
【0114】
より具体的には、図20の処理では、プロセッサ201は、ステップS24,S25,S26のそれぞれにおける判断の結果が「NO」である場合には、ステップS29へ制御を進める。すなわち、プロセッサ201は、ステップS24においてCt値が上述の所定範囲内にはないと判断すると(ステップS24にてNO)、ステップS25においてCt値近傍の蛍光強度の変化率が一定値(SLt)未満であると判断すると(ステップS25にてNO)、または、ステップS26において30サイクルでの蛍光強度が一定値(Sit)未満であると判断すると(ステップS26においてNO)、ステップS29へ制御を進める。
【0115】
ステップS29において、プロセッサ201は、判定結果を「偽陽性」と決定して、図16へ制御を戻す。すなわち、図20の処理は、陽性、陰性、および、偽陽性の3つの判定結果を含む。
【0116】
<表示画面>
図21は、図19の表示画面の変形例を示す図である。図21において、判定結果表示画面2100は、図19の表示部1910および表示部1920と同様に、表示部2110および表示部2120を含む。表示部2110は、検体ID(2)に関連付けられたボタン2111と、検体ID(3),(4)のそれぞれに関連付けられたボタン2112,2113とを含む。ボタン2111は、ボタン2112,2113と表示色が異なる。
【0117】
表示部2120に示されるように、図21の例では、検体ID(3),(4)の判定結果が陽性であるのに対し、検体ID(2)の判定結果は偽陽性である。ボタン2111とボタン2112,2113の間の表示色の違いは、対応する検体の判定結果の違いを表わす。
【0118】
プロセッサ201は、ボタン2111,2112,2113のいずれかが操作されると、操作されたボタンに対応する検体の詳細な情報をモニタ203に表示してもよい。図22は、ボタン2111が操作されたことによって表示される画面の一例を示す。
【0119】
ボタン2111が対応する検体の判定結果は偽陽性である。図22の画面2200は、当該検体の蛍光強度の変化を表わす線2201と、枠2202とを含む。枠2202は、メッセージ「理由:30サイクルでの蛍光強度が十分に上昇していません。」を含む。枠2202内のメッセージは、検体が偽陽性と判断された理由を表わす。
【0120】
図22の例では、検体は、ステップS26(図20)において30サイクルでの蛍光強度が一定値(Sit)に到達していないことによって偽陽性と判定された。枠2202内のメッセージは、当該判定の理由を表わす。
【0121】
図20図22を参照して説明された処理では、判定およびその結果の表示において偽陽性と陰性とが区別される。これにより、解析システムは、偽陽性と判定についての注意を喚起できる。検査員は、偽陽性と判定された検体について、その判定の理由等を確認することができる。
【0122】
[10.開示の要約]
本開示は、以下のように要約され得る。
【0123】
(1) 本開示では、試料(検体を含む反応液310)の蛍光強度が閾値以上であると判断された場合(ステップS21にてYES)、蛍光強度の核酸増幅処理回数(サイクル数)に従った変化の挙動が予め定められたパターンに該当するか否かが判断される(ステップS24,S25,S26)。挙動が予め定められたパターンに該当する場合には(ステップS24,S25,S26のいずれかにおいてYES)、第1の判定結果(陽性)が出力される。挙動が予め定められたパターンに該当しない場合には(ステップS24,S25,S26のいずれかにおいてNO)、第1の判定結果とは異なる第2の判定結果(陰性または偽陽性)が出力される。
【0124】
(2) 予め定められたパターンの一例は、図13の構成(2)として説明されたように、核酸増幅処理回数に従った蛍光強度の変化において、閾値に到達したときの蛍光強度の変化の割合が予め定められた値以上であることである。
【0125】
(3) 予め定められたパターンの他の例は、図12の構成(1)として説明されたように、予め定められた範囲(サイクル数CA1~CA2)内の核酸増幅処理回数で蛍光強度が閾値に到達したことである。
【0126】
(4) 予め定められたパターンのさらに他の例は、図14の構成(3)として説明されたように、蛍光強度が閾値に到達した後、予め定められた核酸増幅処理回数(たとえば、30サイクル)における蛍光強度が予め定められた強度(判定値Id)に到達していることである。上述の強度(判定値Id)は、閾値(閾値It)より高い値である。
【0127】
(5) 図16を参照して説明されたように、核酸増幅処理回数の増加に従って試料の蛍光強度が閾値に複数回到達した場合には、挙動が予め定められたパターンに該当するか否かの判断は、複数回のうち最も核酸増幅処理回数が大きい回についての挙動に基づいて実行されてもよい。すなわち、ステップS24,S25,S26の判断は、ステップS23において選択された上昇部に基づいて実行されてもよい。
【0128】
(6) 図16を参照して説明されたように、核酸増幅処理回数の増加に従って試料の蛍光強度が閾値に複数回到達した場合には、当該複数回のそれぞれの閾値に到達したときの核酸増幅処理回数のうち最も大きい核酸増幅処理回数に基づいて、試料における標的核酸の初期濃度が算出されてもよい。すなわち、ステップS30における標的核酸の初期濃度の算出は、ステップS23において選択された上昇部に含まれるCt値に基づいて算出されてもよい。
【0129】
今回開示された各実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された発明は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0130】
100 核酸検査装置、200 PC、201 プロセッサ、203 モニタ、210 メモリ、211 基本判定用情報、212 偽陽性判定用情報、213 検査結果情報、310 反応液、1000 解析システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
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図22