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特許7493303コネクティングロッド・ベアリングを潤滑するための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】コネクティングロッド・ベアリングを潤滑するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 7/02 20060101AFI20240524BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20240524BHJP
   F01P 3/10 20060101ALI20240524BHJP
   F01M 1/08 20060101ALI20240524BHJP
   F01P 3/08 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
F16C7/02
F01M1/06 C
F01M1/06 B
F01M1/06 K
F01P3/10 A
F01M1/08 B
F01P3/08 C
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018237481
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2019113183
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】10 2017 130 690.0
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517449763
【氏名又は名称】エムアーエヌ トラック アンド バス エスエー
【氏名又は名称原語表記】MAN Truck & Bus SE
【住所又は居所原語表記】Dachauer Strasse 667, 80995 Muenchen, Bundesrepublik Deutschland
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(72)【発明者】
【氏名】トーマス マリシェフスキー
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ディートリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ヒルシュマン
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク レナー
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061859(JP,A)
【文献】特開2005-331056(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0043760(KR,A)
【文献】特開平11-270548(JP,A)
【文献】実開昭56-049213(JP,U)
【文献】特開平09-004463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 5/000- 7/00
F01M 1/06
F01P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンのクランクシャフト(24)上のコネクティングロッド・ベアリング(46)を潤滑するための装置であって、
流体チャネル(12)、特に内部ピストン冷却流体チャネル、と、前記流体チャネル(12)に流体連通する出口チャネル(26)と、を有するピストン(10)と、
関節式結合形態で、特に旋回可能な形態で、前記ピストン(10)に連結されていて、大きいコネクティングロッド・アイ(44)、小さいコネクティングロッド・アイ(38)および接続チャネル(48)を有するコネクティングロッド(22)と、
を有し、
前記大きいコネクティングロッド・アイ(44)は、前記コネクティングロッド・ベアリング(46)を収容するよう形成され、
前記接続チャネル(48)は、前記出口チャネル(26)と前記大きいコネクティングロッド・アイ(44)の間に流体接続を形成して、流体が、特に冷却潤滑流体が、前記流体チャネル(12)から前記出口チャネル(26)および前記接続チャネル(48)を通して前記大きいコネクティングロッド・アイ(44)に供給されるようにすることができまたは供給されるものであり、
特徴として、
前記出口チャネル(26)の出口開口部(28)が、下死点から上死点への前記ピストン(10)の移動の期間中のみ、前記接続チャネル(48)の入口開口部(50)と重なり合う、および/または
前記出口チャネル(26)と前記接続チャネル(48)の間の流体接続は、実質的に、下死点から上死点への前記ピストン(10)の移動の期間中にのみ、存在するものである、
装置。
【請求項2】
前記出口チャネル(26)は、前記ピストン(10)のピストンヘッド(30)、特に丸みのあるピストンヘッド(30)、に、出口開口部(28)を有し、および/または
前記接続チャネル(48)は、前記コネクティングロッド(22)のコネクティングロッド小端部(32)の外面(54)、特に丸みのある外面(54)、特に外周面、に、入口開口部(50)を有するものである、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記接続チャネル(48)は、前記コネクティングロッド(22)のコネクティングロッド小端部(32)の外面(54)、特に外周面、に、段状凹所によって形成された入口領域(48)を有するものである、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記接続チャネル(48)は、さらに、
前記凹所から伸びる傾斜ボアホールであって、前小さいコネクティングロッド・アイ(38)から前記コネクティングロッド小端部(32)を通って前記コネクティングロッド(22)のコネクティングロッド・シャンク(34)までの距離で伸びる傾斜ボアホール(60)と、
前記大きいコネクティングロッド・アイ(44)から前記コネクティングロッド・シャンク(34)を通って前記傾斜ボアホール(60)まで伸びる長手方向ボアホール(62)と、
を有するものである、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記コネクティングロッド(22)のコネクティングロッド小端部(32)および前記ピストン(10)のピストンヘッド(30)は、前記出口チャネル(26)の出口開口部(28)に隣接する前記ピストンヘッド(30)の領域と、前記接続チャネル(48)の入口開口部(50)に隣接する前記コネクティングロッド小端部(32)の領域との間の距離が0.1cm未満、特に0.01cm未満、であるように、互いに適合化されたものである、請求項1乃至4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記ピストンヘッド(30)の前記領域および前記コネクティングロッド小端部(32)の前記領域は、前記ピストン(10)と前記コネクティングロッド(22)の間の旋回運動の期間中に互いに近傍を通過するものである、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記ピストン(10)のピストンヘッド(30)は、上死点から下死点への前記ピストン(10)の移動期間中に、特に前記接続チャネル(48)におけるキャビテーションの傾向を低減するために、前記接続チャネル(48)の入口開口部(50)を覆うものである、請求項1乃至6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記ピストン(10)のピストンヘッド(30)は、前記コネクティングロッド(22)が前記ピストン(10)に旋回可能に連結される所定の角度範囲より小さい角度範囲内において、前記接続チャネル(48)の入口開口部(50)を覆い、および/または
前記出口チャネル(26)の出口開口部(28)は、前記コネクティングロッド(22)が前記ピストン(10)に旋回可能に連結される所定の角度範囲より小さい角度範囲内において、前記接続チャネル(48)の入口開口部(50)と重なり合うものである、
請求項1乃至7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記出口チャネル(26)と前記接続チャネル(48)の間の流体接続は間欠的な流体接続である、請求項1乃至8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記接続チャネル(48)は、前小さいコネクティングロッド・アイ(38)、および/または、前記コネクティングロッド(22)を前記ピストン(10)に旋回可能に連結するピストンピン(40)、をバイパスするものである、請求項1乃至9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記コネクティングロッド(22)のコネクティングロッド小端部(32)には、前記接続チャネル(48)が通って伸びる領域に、増大された壁厚が設けられており、および/または
前記ピストン(10)には、前記出口チャネル(26)が通って伸びる領域に、増大された壁厚が設けられているものである、
請求項1乃至10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
さらに、前記流体チャネル(12)に流体連通している前記ピストン(10)の入口チャネル(20)の入口開口部(18)に向けて方向付けられた流体噴射ノズル(14)を有する、請求項1乃至11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記流体噴射ノズル(14)は、前記ピストン(10)および前記コネクティングロッド(22)とは別個に設けられ、および/または
前記流体噴射ノズル(14)は、クランクケース(16)内に収容されまたはクランクケース(16)に固定されるものである、
請求項12に記載の装置。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の装置を有する自動車、特にユティリティ・ビークル。
【請求項15】
請求項1乃至13のいずれかに記載の装置を用いてクランクシャフト(24)上のコネクティングロッド・ベアリング(46)を潤滑するための方法であって、
流体を、特に冷却潤滑流体を、ピストン(10)の流体チャネル(12)から、特に内部冷却流体チャネルから、コネクティングロッド(22)の接続チャネル(48)を通して前記コネクティングロッド・ベアリング(46)に供給することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンのクランクシャフト(Kurbelwelle)上のコネクティングロッド(コンロッド、連接棒)ベアリング(軸受)(Pleuellagers)を潤滑するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトのクランクピン上のコネクティングロッド・ベアリングには、内部からクランクシャフトを通して潤滑油を供給されることが、知られている。この目的のために、クランクシャフトの主(メイン)ベアリングの主ベアリング・シェル(外殻)に溝を組み込むことができ、その溝に圧油が供給される。主ベアリング内のボアホール(穿孔)が主ベアリング・シェルにおける溝と重なり合う(in Ueberdeckung)限り、主ベアリングからクランクシャフト内のボアホールを通ってクランクシャフトのクランクピン上のコネクティングロッドへと、その圧油がコネクティングロッド・ベアリングに流れることができる。このタイプ(種)の潤滑装置は、例えば独国特許出願公開第102004032590号で知られている。
【0003】
さらに独国特許出願公開第102004048939号に開示されたコネクティングロッドは、第1の端部(コネクティングロッド大端部(足部、下部)(connecting-rod big end、Pleuelfuss))に形成されたクランクピン・ボアホール(穿孔)(大きいコネクティングロッド・アイ(目、開口部)(grosses Pleuelauge))と、第2の端部(コネクティングロッド小端部(頭部、上部)(connecting-rod small end、Pleuelkopf))に形成されたピン・ボアホール(小さいコネクティングロッド・アイ(kleines Pleuelauge))とを有するコネクティングロッド本体(Pleuelstangenkoerper)を有する。コネクティングロッドは、第1の端部から第2の端部へ潤滑剤を搬送するためにコネクティングロッド本体に接続されたチューブ(管)を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許出願公開第102004032590号
【文献】独国特許出願公開第102004048939号
【発明の開示】
【0005】
既知の、コネクティングロッド・ベアリング用の潤滑装置では、クランクシャフト内のボアホールが、複雑でコスト集中的な(費用が高い)形態でしか製造できないことが、欠点となり得る。そのボアホールは、さらに、クランクシャフトの耐久性をさらに低下させ得る。コネクティングロッド・ベアリングに主ベアリング・シェルを通して潤滑油を供給するには、さらに、多いオイル流量または高いオイル・スループット(Oeldurchsatz、oil flow rate or throughput)が必要となり、そのオイル流量はオイル・ポンプによって供給(形成)される必要があり、オイル・ポンプは、この目的のために、それに応じて寸法が調整される必要があり、エネルギ消費(燃料消費)により駆動する必要がある。
【0006】
本発明の基礎的な目的は、特に従来技術の欠点を解消(克服)することができる、クランクシャフトのコネクティングロッド・ベアリングを潤滑するための代替的および/または改良された装置または代替的および/または改善された方法を実現することである。
【0007】
発明の概要
その目的は、独立請求項に記載の装置および方法によって達成される。有利な他の展開形態が、従属請求項および詳細な説明に記載される。
【0008】
その装置は、内燃エンジンのクランクシャフト上のコネクティングロッド・ベアリングを潤滑するのに適している。その装置は、流体チャネル(流路、通路)、特に内部ピストン冷却流体チャネルと、流体チャネルに流体連通または流体接続する(in Fluidverbindung)出口チャネルとを有するピストン、を有する。その装置はコネクティングロッドを有し、このコネクティングロッドは、関節式結合または連結式の形態で(articulated、gelenkig)、特に旋回可能な形態で、ピストンに連結されており、また、大きいコネクティングロッド・アイ(またはクランクピン・ボアホール)および(特に内部の)接続チャネルを有する。コネクティングロッド・ベアリングを収容するように、大きいコネクティングロッド・アイが形成される。接続チャネルは、出口チャネルと大きいコネクティングロッド・アイの間に流体接続または流体連通(Fluidverbindung)を形成して、流体、特に冷却潤滑流体(例えば、油)を、流体チャネルから大きいコネクティングロッド・アイに、出口チャネルおよび接続チャネルを介して供給できるようにまたは供給されるようにされる。
【0009】
従って、クランクシャフト上のコネクティングロッド・ベアリングは、ピストンからの冷却油によって潤滑することができる。特に、コネクティングロッド・ベアリングは、ピストンの内部ピストン冷却チャネルからの冷却油によって、潤滑することができる。従って、冷却油は潤滑油としても役立つ。従って、クランクシャフト内の全ての潤滑油ボアホールを省くことが可能である。従って、クランクシャフトの耐久性を大幅に向上させることができ、コストを低減することができる。さらに、各主(メイン)ベアリング・シェルにおける各ベアリング溝を省くことが可能であり、それによって、オイル流量またはスループットを大幅に最小化することができ、燃料消費量を節約することができる。
【0010】
例示的な一実施形態において、出口チャネルは、ピストンのピストンヘッドまたはピストンクラウン(冠部)(Kolbenboden)、特に丸みを帯びたピストンヘッドまたはピストンクラウン、に出口開口部を有する。代替的にまたは追加的に、接続チャネルは、コネクティングロッドのコネクティングロッド小端部の外面、特に丸みのある外面、特に外周面、に入口開口部を有する。従って、冷却潤滑流体、例えば油は、接続チャネル内に導入するために内部ピストン冷却チャネルからピストンヘッドに供給することができる。冷却潤滑流体は、コネクティングロッドのコネクティングロッド小端部における接続チャネル内に導入することができる。ピストンヘッドおよびコネクティングロッド小端部の丸み付けによって、ピストンが上下に移動しそれによってコネクティングロッドがピストンに対して旋回する間に、ピストンヘッドとコネクティングロッド小端部が互いに近傍を通過する(sweep over、ueberstreichen、掃引する、覆う)ことができるようになる。
【0011】
別の例示的な実施形態において、接続チャネルは、コネクティングロッドのコネクティングロッド小端部の外面に、特に外周面に、凹所(凹部)、特に段状の凹所、によって形成された入口領域を有する。段状の凹所によって、ピストンとコネクティングロッドの間の角度位置に応じて、入口領域が、出口チャネルの出口開口部と重なり合うことまたは接続チャネルを閉じるようにピストンヘッドによって覆われることが可能であるように、接続チャネルの入口領域を簡易な形態で形成することができるようになる。
【0012】
別の展開形態において、接続チャネルは、凹所から伸びる傾斜ボアホールであって、コネクティングロッドの小さいコネクティングロッド・アイからコネクティングロッド小端部を通ってコネクティングロッドのコネクティングロッド・シャンク(柄、胴部)またはシャフト(Pleuelschaft)までの距離(スペース)で伸びる傾斜ボアホールを有する。接続チャネルは、任意にさらに、大きいコネクティングロッド・アイからコネクティングロッド・シャンクを通って傾斜ボアホールまで伸びる長手方向のボアホールを有する。傾斜ボアホールによって、小さいコネクティングロッド・アイは、接続チャネルによってバイパス(迂回、側路)されるようにすることができる(接続チャネルが、小さいコネクティングロッド・アイをバイパス(迂回、側路)できるようになる)。それらのボアホールは、さらに、簡易な形態で製造することができる。凹所の底面(Bodenflaeche)から始めて(出発して)コネクティングロッド小端部を通ってコネクティングロッド・シャンクへと、傾斜ボアホールを穿設(穿孔)することができる。大きいコネクティングロッド・アイから始めて、コネクティングロッド・シャンクを貫通して、長手方向ボアホールが傾斜ボアホールに出会うまで、長手方向ボアホールを穿設することができる。それらのボアホールは、それぞれ、それぞれの端部で出会うブラインド・ボアホール(Sacklochbohrungen:止り穿孔)として組み立てられて接続チャネルを形成することができる。
【0013】
別の例示的な実施形態において、コネクティングロッドのコネクティングロッド小端部およびピストンのピストンヘッドが、出口チャネルの出口開口部に隣接するピストンヘッドの領域と、接続チャネルの入口開口部に隣接するコネクティングロッド小端部の領域との間の距離(スペース、間隔)が0.1cm未満、特に0.01cm未満となるように、互いに適合化される。例えば、その距離(間隔)は0.01cm乃至0.001cmであってもよい。その距離(間隔)を正確に形成するために、ピストンヘッドおよびコネクティングロッド小端部の対応する各領域を精密機械加工する必要があり得る。その僅かな距離(間隔)によって、流体は、実質的な(wesentliche:主な)漏出なしで出口チャネルから接続チャネル内に流入することができるようになる。発生するその漏出によって、結果的に、その両領域間に潤滑が得られる。例えばピストンおよびコネクティングロッドの下方移動の際に、ピストンヘッドが接続チャネルの入口開口部を覆うとき、その僅かな距離(間隔)によって、さらに、接続チャネルをヘッド表面または底面(Bodenflaeche)で実質的に閉じることができるようになる。
【0014】
別の展開形態において、ピストンヘッドの領域およびコネクティングロッド小端部の領域は、ピストンとコネクティングロッドの間の旋回運動の期間中に互いに近傍を通過する(掃引する、覆う)。両領域間の距離(間隔)を維持するその近傍通過の結果として、出口チャネルの出口開口部および接続チャネルの入口開口部は、旋回運動の第1の部分の期間中に重なり合うことが、可能である。さらに、出口チャネルの出口開口部および接続チャネルの入口開口部は、旋回運動の第2の部分の期間中には重なり合わない。この場合、ピストンヘッドの領域は、接続チャネルを覆うことができ、従ってそれを実質的に閉じることができる。
【0015】
一実施形態において、ピストンのピストンヘッドは、上死点から下死点へのピストンの移動期間中に、特に接続チャネルにおけるキャビテーションの傾向を低減するために、接続チャネルの入口開口部を覆う。代替的にまたは追加的に、出口チャネルの出口開口部は、下死点から上死点へのピストンの移動の期間中に、特にその期間中にのみ、接続チャネルの入口開口部と重なり合う。従って、接続チャネルは、ピストンの上方移動期間中に出口チャネルからの流体で満たすことができる。その上方移動期間中のピストンおよびコネクティングロッドの高い加速のお陰で、例えば最高6バールまでの高い流体圧力をここで達成することができ、それによって流体をコネクティングロッド・ベアリングに供給することができる。コネクティングロッドの下方移動期間中に接続チャネル内での流体のキャビテーションを防止するために、コネクティングロッドの下方移動期間中に、接続チャネルの入口開口部をピストンのピストンヘッドによって閉じることができる。従って、キャビテーションを防止しまたは少なくとも低減することができ、それによって次の上方移動期間中に接続チャネル中を通る貫流が影響を受けることはないまたは殆どない。
【0016】
特に、接続チャネルの入口開口部および出口チャネルの出口開口部は、ピストンが下死点から上死点に移動する間に、特にその間にのみ、流体を出口チャネルから接続チャネル内に供給できるまたは供給されるように、互いに適合化させることができる。代替的にまたは追加的に、接続チャネルの入口開口部および出口チャネルの出口開口部は、ピストンが上死点から下死点に移動する間に、流体を出口チャネルから接続チャネル内に供給できないまたは供給されないように、互いに適合化させることができる。
【0017】
別の実施形態において、ピストンのピストンヘッドは、コネクティングロッドがピストンに旋回可能に連結される(旋回可能な)特定の角度範囲より小さい角度範囲内において、接続チャネルの入口開口部を覆う。換言すれば、コネクティングロッドは、その上方および下方移動の期間中に、ピストンに対して特定の角度範囲内で旋回する。この旋回運動の期間中に、ピストンのピストンヘッドは、接続チャネルの入口開口部を、一時的にだけ覆い、即ち特定の角度範囲より小さい角度範囲内において覆う。
【0018】
代替的にまたは追加的に、出口チャネルの出口開口部は、コネクティングロッドがピストンに旋回可能に連結される特定の角度範囲よりも小さい角度範囲内において、接続チャネルの入口開口部と重なり合う。換言すれば、コネクティングロッドは、その上方および下方移動の期間中に、ピストンに対して特定の角度範囲内で旋回する。この旋回運動期間中に、出口チャネルの出口開口部は、接続チャネルの入口開口部と、一時的にだけ重なり合い、即ち特定の角度範囲より小さい角度範囲内において重なり合う。
【0019】
従って、その上方および下方移動の期間中において、コネクティングロッドとピストンの間の旋回式連結は、特に、接続チャネルの入口開口部を解放し(開放し)または覆うのに使用される。例えば、特定の角度範囲は30°乃至40°とすることができる。その際、出口チャネルの出口開口部が接続チャネルの入口開口部と重なり合う角度範囲は、例えば10°乃至20°とすることができる。ピストンヘッドが接続チャネルの入口開口部を覆う角度範囲は、例えば15°乃至30°とすることができる。
【0020】
一変形実施形態では、出口チャネルと接続チャネルの間の流体接続は、間欠的または断続的な流体接続であり、および/または、実質的に下死点から上死点へのピストンの移動期間中にのみ存在する。従って、ピストンおよびコネクティングロッドの上方移動は、特に、流体を出口チャネルから接続チャネルを通してコネクティングロッド・ベアリングに搬送するために、使用することができる。
【0021】
別の変形実施形態において、接続チャネルは、コネクティングロッドの小さいコネクティングロッド・アイ(またはピストンピン・ボアホール)を、および/または、コネクティングロッドをピストンに旋回可能に連結するピストンピンを、バイパス(迂回、側路)する。
【0022】
例示的な一実施形態において、コネクティングロッドのコネクティングロッド小端部には、接続チャネルが通って伸びる領域内に、増大された壁厚が設けられ(形成され)ている。代替的におよび/または追加的に、ピストンには、出口チャネルが通って伸びる領域内に、増大された壁厚が設けられ(形成され)ている。その壁厚の増大によって、コネクティングロッド小端部とピストンヘッドの間の接近または収束(Annaeherung)が可能になる。従って、ピストンヘッドおよびコネクティングロッド小端部を精密に機械加工することができ、それによって、出口チャネルの出口開口部および接続チャネルの入口開口部の各領域においてピストンヘッドとコネクティングロッド小端部の間に非常に小さい(僅かな)距離または間隔を形成することが可能になる。
【0023】
別の例示的な実施形態において、その装置は、流体チャネルと流体連通しているピストンの入口チャネルの入口開口部に向けて方向付けられた流体噴射(注入)ノズルを有する。流体噴射ノズルを介して、油を、入口チャネルを通して流体チャネルに注入することができる。この油を用いて、ピストンを冷却することに加えて、出口チャネルおよび接続チャネルを通してコネクティングロッド・ベアリングへと方向付けて、これ(ベアリング)を潤滑するように、することができる。
【0024】
特に、流体噴射ノズルには、内燃エンジンの冷却潤滑回路からの冷却潤滑流体、例えば油、を供給することができる。
【0025】
別の例示的な実施形態において、流体噴射ノズルは、ピストンおよびコネクティングロッドとは、別個に設けられる。代替的にまたは追加的に、流体噴射ノズルは、クランクケース内に収容されまたはクランクケースに固着もしくは固定される。
【0026】
特に、流体チャネルは、ピストン内で環状に伸びまたは延在し得る。
【0027】
特に、クランクシャフトには、コネクティングロッド・ベアリングに潤滑油を供給するためのボアホールがなくてもよい。
【0028】
また、本発明は、ここで開示される装置を有する自動車、特にユティリティ・ビークルまたは商用車(Nutzfahrzeug)(例えば、バスまたは重量物運搬車)に関する。
【0029】
また、自動車または乗用車、大型エンジン、全地形型車両またはオフロード車両(gelaendegaengige Fahrzeuge:オール・テライン・ビークル)、固定式エンジン、船舶用エンジン、等に、ここで開示された装置を使用することも可能である。
【0030】
さらに、本発明は、クランクシャフト上のコネクティングロッド・ベアリングを潤滑する方法にも関する。その方法は、流体、特に冷却潤滑流体(例えば油)を、ピストンの流体チャネル、特に内部冷却流体チャネルから、コネクティングロッドの接続チャネルを通してコネクティングロッド・ベアリングに供給することを含んでいる。
【0031】
特に、その方法は、ここに開示される装置を使用することができる。
【0032】
本発明の上述の好ましい例示的な実施形態および特徴は、必要に応じて互いに組み合わせることができる。本発明の他の詳細および利点を、図面を参照して以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、例示的な実施形態による内燃エンジンのピストンの断面図である。
図2図2は、内燃エンジンの、例示的なピストン、コネクティングロッドおよびクランクシャフトの断面図である。
図3図3は、互いに隣接して配置された複数の断面図であり、クランクシャフトの回転期間中のピストンおよびコネクティングロッドの動きを示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
各図に示されている実施形態は少なくとも部分的に互いに一致しており、その結果、類似のまたは同様の部分は、同じ参照番号が付され、また、繰り返しを避けるために他の実施形態または図の説明を参照することによって説明される。
【0035】
図1には、内燃エンジンのピストン10が、ピストン10の中心軸に対して偏心位置にある断面で示されている。内燃エンジンは、例えば自動車に、特にユティリティ・ビークルまたは商用車(Nutzfahrzeug)に含まれるものであってもよい。ユティリティ・ビークルまたは商用車は、例えば、重量物運搬車(Lastkraftwagen:トラック)またはバスであってもよい。内燃エンジンは、複数のピストン10を有する複数のシリンダを有することができる。
【0036】
ピストン10は、内部ピストン冷却チャネル(流路)として形成された流体チャネル12を有する。流体チャネル12は、ピストン10の内部において、例えば環状に伸びまたは延在していてもよい。流体、特に冷却潤滑流体、例えば油(オイル)を、流体噴射(注入)ノズル14によって流体チャネル12内に注入することができる。流体噴射ノズル14は、例えばクランクケース16(単に概略的に示されている)上に固着または固定することができる。流体噴射ノズル14は、ピストン10の入口チャネル20の入口開口部18に向けて方向付られる。入口チャネル20は流体チャネル12内に通じまたは開口している(muendet in)。流体噴射ノズル14によって入口開口部18を通して注入された流体は、入口チャネル(流路)20を通して流体チャネル12内に向って進む。その流体は、ここでピストン10を冷却する。流体チャネル12は、例えば、ピストン中心軸を中心に(の周りに)入口チャネル20から180°ずらして配置された出口チャネル(図1では見えない)に接続させることができる。
【0037】
図2において、断面がピストン10の中心軸を中心として位置する別の断面図でピストン10が示されている。明確にするために、図1の流体噴射ノズル14およびクランクケース16は、図2に示されていない。
【0038】
ピストン10は、コネクティングロッド22を介してクランクシャフト24に関節式結合(連結式)の形態で、特に旋回可能にまたは枢動可能に、連結される。クランクシャフト24は、そのクランクケースに対して回転軸を中心に回転可能であるように、クランクケース上に取り付けられる。ピストン10は、シリンダ(図示せず)のシリンダ壁に対して平行または並進的に移動可能である。シリンダ内でのピストン10のその直進または並進運動は、クランクシャフト24の回転軸を中心とするクランクシャフト24の回転運動に変換される。ピストン10は、その上向きおよび下向きの直進運動の期間中にシリンダ壁上で支持されることが可能である。
【0039】
ピストン10は出口チャネル26を有する。出口チャネル26は、流体チャネル12と、ピストン10のピストンヘッド30における出口開口部28との間に伸びている。出口チャネル26を、ピストンヘッド30から始めて(出発して)ピストン10内に穿設(穿孔)して形成することができる。出口開口部28は、ピストンヘッド30の丸みのある領域に配置される。
【0040】
コネクティングロッド22は、コネクティングロッド小端部32、コネクティングロッド・シャンク(柄、胴部)またはシャフト(軸)34、およびコネクティングロッド大端部36を有する。コネクティングロッド・シャンク34は、コネクティングロッド小端部32とコネクティングロッド大端部36の間に伸びている。
【0041】
コネクティングロッド小端部32は、小さいコネクティングロッド・アイ38を有する。小さいコネクティングロッド・アイ38において、ピストンピン40は、例えばスライド・ベアリング(滑り軸受)として形成されたピストンピン・ベアリング42内に取り付けられる。ピストンピン40は、コネクティングロッド22をピストン10に旋回可能に連結する。詳しくは、コネクティングロッド22は、ピストン10の上下運動の期間中にピストン10に対して所定の角度範囲内、例えば30°乃至40°の範囲内で、旋回可能である。ピストンピン40およびピストンピン・ベアリング42は、流体噴射ノズル14(図1参照)による流体の噴射または注入の結果として生じる流体ミスト(霧)、例えばオイルミスト、によって潤滑することができる。ピストンピン40は、ピストン10において、例えば保持リングを介して、軸方向に保持される。
【0042】
コネクティングロッド大端部36は大きいコネクティングロッド・アイ44を有する。大きいコネクティングロッド・アイ44に、例えばスライド・ベアリング(滑り軸受)として形成されたコネクティングロッド・ベアリング46が収容される。コネクティングロッド・ベアリング46は、コネクティングロッド22を、クランクシャフト24のクランクピンに旋回可能に連結する。
【0043】
コネクティングロッド・ベアリング46の潤滑を実現するために、コネクティングロッド22は接続チャネル48を有する。接続チャネル48は、出口チャネル26と大きいコネクティングロッド・アイ44の間に流体接続を形成することができる。従って、流体チャネル12、出口チャネル26および接続チャネル48は、コネクティングロッド・ベアリング46を潤滑するための装置を形成する。
【0044】
接続チャネル48は、入口開口部50と出口開口部52の間に伸びている。入口開口部50は、コネクティングロッド小端部32の丸みのある外周面54に設けられる。出口開口部52は、大きいコネクティングロッド・アイ44の内周面56に設けられる。
【0045】
接続チャネル48は、一例として、入口領域58、傾斜ボアホール60、および長手(縦)方向ボアホール62を有する。入口領域58は、コネクティングロッド小端部32の外周面54における段状の凹所によって形成される。傾斜ボアホール60は、入口領域58の底面(基部)からコネクティングロッド・シャンク34まで伸びる。傾斜ボアホール60は、小さいコネクティングロッド・アイ38およびピストンピン40をバイパス(迂回、側路)する。傾斜ボアホール60は、その凹所の底面(基部)から始めて(出発して)穿設(穿孔)することができる。傾斜ボアホール60は、コネクティングロッド22の長手方向軸に対して傾斜したボアホールである。長手方向ボアホール62は、大きいコネクティングロッド・アイ44の内周面56からコネクティングロッド・シャンク34を貫通して傾斜ボアホール60の一端部まで伸びる。長手方向ボアホール62は、例えば、コネクティングロッド22の中心長手方向軸に沿って長手方向にまたはその中心長手方向軸に平行に伸びることができる。長手方向ボアホール62は、内周面56から始めて(出発して)穿設(穿孔)することができる。
【0046】
出口開口部28および入口開口部50の領域において、ピストンヘッド30およびコネクティングロッド小端部32は、特別に互いに適合化されている。ピストンヘッド30およびコネクティングロッド小端部32は、ここで、ピストンヘッド30とコネクティングロッド小端部32の外周面54との間に僅かな間隙しか存在しないように、互いに(対して)機械加工されている。その間隙は、例えば、0.1cm未満、特に0.01cm未満、とすることができる。その間隙は、好ましくは0.01cm乃至0.001cmの範囲とすることができる。そのような間隙の大きさ(サイズ)が機械的に生成されることを可能にするために、コネクティングロッド小端部32およびピストン10は、この領域において増大された材料厚さを有する。その間隙は、コネクティングロッド小端部32がピストンヘッド30に対して擦れるのを防止する。それと同時に、その間隙によって、出口開口部28と入口開口部50が重なり合ったときに、出口チャネル26と接続チャネル48の間の流体接続が形成可能になる。
【0047】
図3を参照して以下で詳しく説明するように、出口開口部28の領域におけるピストンヘッド30、および入口開口部50の領域におけるコネクティングロッド小端部32は(ピストンヘッド30およびコネクティングロッド小端部32は、それぞれ出口開口部28の領域および入口開口部50の領域において)、内燃エンジンの動作期間中に互いに近傍を通過して(ueberstreichen:掃引して、覆って)、流体チャネル12とコネクティングロッド・ベアリング46の間に間欠的な流体接続が形成されるようにされる。
【0048】
図3において、上下運動期間中におけるピストン10が示されている。上方移動(上昇)の場合、ピストン10は、所謂下死点から所謂上死点に移動する。下方移動(下降)の場合、ピストンは上死点から下死点に移動する。
【0049】
上方移動の期間において、出口開口部28および入口開口部50は重なり合う(オーバーラップする)。その重なりは、コネクティングロッド22がピストン10に旋回可能に連結される(旋回可能な)特定の角度範囲より小さい角度範囲(例えば10°、15°または20°より小さい範囲)内で生じる。上方移動の期間において、流体チャネル12からの流体が、出口開口部28から間隙および入口開口部50を通って接続チャネル48内に押し込まれる。例えば、この場合、最高6バールまでの流体圧力が、コネクティングロッド22の高い加速の結果として達成することができる。その流体は、コネクティングロッド・ベアリング46へと流れてこれを潤滑することができる。その流体は、最終的に、コネクティングロッド大端部36における例えば半径方向のボアホール(図示せず)を通って流出して、油溜め(oil sump、Oelwanne)内に流入することができる。
【0050】
下方移動の期間において、入口開口部50はピストンヘッド30によって覆われる。その入口開口部が覆われることは、コネクティングロッド22がピストン10に旋回可能に連結される特定の角度範囲より小さい角度範囲(例えば、15°、20°または25°より小さい範囲)内で生じる。入口開口部50を覆う結果として、下方移動期間中における接続チャネル48内の流体のキャビテーションの傾向を低減することができる。さもなければ、そのキャビテーションは、その後の上方移動期間中において接続チャネル48中を通る流れ(貫流)を著しく損ない得るであろう。
【0051】
コネクティングロッド・ベアリング46を潤滑するためのここに開示された装置は、革新的な潤滑方法に基づいている。この潤滑方法は、流体噴射ノズル14によってピストン10の流体チャネル12内に、流体、例えば油、を供給すること、特に注入または噴射すること、を含んでいる。その方法は、さらに、流体チャネル12からその流体を、ピストン10の出口チャネル26およびコネクティングロッド22の接続チャネル48を通してコネクティングロッド・ベアリング46に供給することを含んでいる。その方法を実施するために、他の構成、特に出口チャネル26および接続チャネル48の他の構成も可能であることが、指摘される。
【0052】
本発明は、上述の好ましい例示的な実施形態に限定されない。むしろ、本発明の思想を同様に利用し、従って保護の範囲内に入る多数の変形例および変更が可能である。特に、本発明は、引用する請求項とは関係なく、従属請求項の構成および特徴の保護も請求する。特に、独立請求項1の全ての特徴は、互いに独立して開示される。さらに、従属請求項の特徴は、独立請求項1の全ての特徴と関係なくも開示され、例えば、独立請求項1の、ピストンおよび/またはコネクティングロッドの存在および/または構成に関する特徴とは関係なく、開示される。
【符号の説明】
【0053】
10 ピストン
12 流体チャネル
14 流体噴射ノズル
16 クランクケース
18 入口開口部
20 入口チャンネル
22 コネクティングロッド
24 クランクシャフト
26 出口チャンネル
28 出口開口部
30 ピストンヘッド
32 コネクティングロッド小端部
34 コネクティングロッド・シャンク
36 コネクティングロッド大端部
38 小さいコネクティングロッド・アイ
40 ピストンピン
42 ピストンピン・ベアリング
44 大きいコネクティングロッド・アイ
46 コネクティングロッド・ベアリング
48 接続チャンネル
50 入口開口部
52 出口開口部
54 外周面
56 内周面
58 入口領域
60 傾斜ボアホール
62 長手方向ボアホール
図1
図2
図3