IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イリソ電子工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図1
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図2
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図3
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図4
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図5
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図6
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図7
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図8
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図9
  • 特許-端子及びコネクタと端子の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】端子及びコネクタと端子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 12/91 20110101AFI20240524BHJP
   H01R 43/16 20060101ALN20240524BHJP
【FI】
H01R12/91
H01R43/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019089718
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020187840
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390012977
【氏名又は名称】イリソ電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三田 夏大
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 慎吾
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/034325(WO,A1)
【文献】特開2008-018481(JP,A)
【文献】特開2008-218187(JP,A)
【文献】国際公開第2012/124168(WO,A1)
【文献】特開平07-176361(JP,A)
【文献】特開2007-103251(JP,A)
【文献】特開2014-203791(JP,A)
【文献】特開平04-370677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R12/00-12/91
H01R24/00-24/86
H01R43/027-43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ハウジング及び可動ハウジングの何れか一方に保持される第1被保持部と、
固定ハウジング及び可動ハウジングの何れか他方に保持される第2被保持部と、
湾曲部を有して前記第1被保持部と前記第2被保持部とを一体に連結する弾性変形可能なバネ部と、
を備え、
前記バネ部の板厚方向に沿った端面には、金属板の打ち抜き加工により、該板厚方向に沿って剪断面と破断面とが連続して形成されており、
前記湾曲部における前記端面の板厚方向中央部には、前記破断面の面積を減少させるように該破断面の少なくとも一部を加工することによって剪断増加面が形成され前記剪断面の面積が60%以上とされ、かつ前記湾曲部における前記端面の板厚方向両側には、前記破断面が形成されている端子。
【請求項2】
前記第1被保持部側となる前記バネ部の一端部における前記端面に前記剪断増加面が形成されている請求項1に記載の端子。
【請求項3】
前記第2被保持部側となる前記バネ部の他端部における前記端面に前記剪断増加面が形成されている請求項2に記載の端子。
【請求項4】
前記板厚方向中央部は、前記湾曲部における前記端面に掛かる応力の平均値よりも高い応力が掛かる箇所である請求項1~請求項3の何れか1項に記載の端子。
【請求項5】
前記剪断増加面は、前記湾曲部における前記端面のみに形成されている請求項1~請求項4の何れか1項に記載の端子。
【請求項6】
前記バネ部は、前記湾曲部と連続する直線部を有しており、
前記剪断増加面は、前記直線部における前記端面には形成されていない請求項1~請求項の何れか1項に記載の端子。
【請求項7】
前記剪断増加面は、少なくとも前記湾曲部における内周側の前記端面に形成されている請求項5又は請求項に記載の端子。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか1項に記載の端子と、
前記第1被保持部及び前記第2被保持部の何れか一方を保持する固定ハウジングと、
前記第1被保持部及び前記第2被保持部の何れか他方を保持する可動ハウジングと、
を備えたコネクタ。
【請求項9】
固定ハウジング及び可動ハウジングの何れか一方に保持される第1被保持部と、
固定ハウジング及び可動ハウジングの何れか他方に保持される第2被保持部と、
湾曲部を有して前記第1被保持部と前記第2被保持部とを一体に連結する弾性変形可能なバネ部と、
を備えた端子を製造する方法であって、
金属板を打ち抜き加工することにより、前記バネ部の板厚方向に沿った端面に、該板厚方向に沿って剪断面と破断面とを連続して形成する工程と、
前記湾曲部における前記端面の板厚方向中央部に形成される前記剪断面の面積が60%以上となるように、前記破断面の少なくとも一部を加工して剪断増加面を形成し、かつ前記湾曲部における前記端面の板厚方向両側に前記破断面を形成し、前記破断面の面積を減少させる工程と、
を有する端子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子及びコネクタと端子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板を打ち抜き加工してなる端子は、従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。打ち抜き加工による端子は、曲げ加工による端子よりも量産性に優れるが、その端面(板厚方向に沿った切断面)には、打ち抜き方向に沿った複数の縦筋からなる剪断面と、むしり取られた跡のように荒れた破断面と、が打ち抜き方向に連続して形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-24079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような打ち抜き加工による端子は、可動コネクタに配置されることがある。すなわち、可動コネクタを構成する固定ハウジングと可動ハウジングとの間に端子が架設されることがある。このような可動コネクタでは、端子に形成されているバネ部が弾性変形することにより、固定ハウジングに対して可動ハウジングが変位可能となる。
【0005】
しかしながら、固定ハウジングと可動ハウジングとの間に架設された端子のバネ部には、弾性変形による応力が集中する。そのため、バネ部が繰り返し弾性変形すると、剪断面に比べ、破断面に亀裂が入り易くなり、バネ部が損傷したり、破断したりする可能性が出てくる。
【0006】
そこで、本発明は、金属板を打ち抜き加工してなる端子において、そのバネ部の弾性変形による損傷及び破断を抑制できる端子と、それを備えたコネクタと、その端子の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載の端子は、固定ハウジング及び可動ハウジングの何れか一方に保持される第1被保持部と、固定ハウジング及び可動ハウジングの何れか他方に保持される第2被保持部と、湾曲部を有して前記第1被保持部と前記第2被保持部とを一体に連結する弾性変形可能なバネ部と、を備え、前記バネ部の板厚方向に沿った端面には、金属板の打ち抜き加工により、該板厚方向に沿って剪断面と破断面とが連続して形成されており、前記湾曲部における前記端面の板厚方向中央部には、前記破断面の面積を減少させるように該破断面の少なくとも一部を加工することによって剪断増加面が形成され前記剪断面の面積が60%以上とされ、かつ前記湾曲部における前記端面の板厚方向両側には、前記破断面が形成されている。
また、本発明に係る請求項9に記載の端子の製造方法は、固定ハウジング及び可動ハウジングの何れか一方に保持される第1被保持部と、固定ハウジング及び可動ハウジングの何れか他方に保持される第2被保持部と、湾曲部を有して前記第1被保持部と前記第2被保持部とを一体に連結する弾性変形可能なバネ部と、を備えた端子を製造する方法であって、金属板を打ち抜き加工することにより、前記バネ部の板厚方向に沿った端面に、該板厚方向に沿って剪断面と破断面とを連続して形成する工程と、前記湾曲部における前記端面の板厚方向中央部に形成される前記剪断面の面積が60%以上となるように、前記破断面の少なくとも一部を加工して剪断増加面を形成し、かつ前記湾曲部における前記端面の板厚方向両側に前記破断面を形成し、前記破断面の面積を減少させる工程と、を有している。
【0008】
請求項1及び請求項に記載の発明によれば、金属板の打ち抜き加工により、端子におけるバネ部の板厚方向に沿った端面に、剪断面と破断面とが、その板厚方向に沿って連続して形成されている。そして、バネ部の湾曲部における端面の板厚方向中央部には、破断面の面積を減少させるように、その破断面の少なくとも一部を加工することによって剪断増加面が形成され、剪断面の面積が60%以上とされている。ここで、バネ部の湾曲部は、弾性変形によって応力が集中する部位であり、その湾曲部における端面の60%程度の領域には、湾曲部に掛かる応力の平均値よりも高い応力が掛かる。特に、その端面の板厚方向中央部は、応力が最も集中する部位である。また、一般に剪断面の面積を増加させればさせるほど疲労強度が高められる。したがって、上記の通り、湾曲部における端面の板厚方向中央部に、剪断面の面積が60%以上となる剪断増加面が形成されている。これにより、バネ部の湾曲部における疲労強度が効果的に向上されるため、バネ部が繰り返し弾性変形しても、その湾曲部において、破断面に亀裂が入ることが効果的に抑制される。つまり、固定ハウジングと可動ハウジングとの間に端子が架設されても、その端子のバネ部の弾性変形による損傷及び破断が抑制される。
【0009】
また、請求項2に記載の端子は、請求項1に記載の端子であって、前記第1被保持部側となる前記バネ部の一端部における前記端面に前記剪断増加面が形成されている。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、第1被保持部側となるバネ部の一端部における端面に剪断増加面が形成されている。ここで、そのバネ部の一端部は、弾性変形によって応力が集中する部位である。そのため、バネ部の一端部における端面に剪断増加面が形成されていると、その一端部における疲労強度が向上される。したがって、バネ部が繰り返し弾性変形しても、その一端部において、破断面に亀裂が入ることが抑制される。
【0011】
また、請求項3に記載の端子は、請求項2に記載の端子であって、前記第2被保持部側となる前記バネ部の他端部における前記端面に前記剪断増加面が形成されている。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、第2被保持部側となるバネ部の他端部における端面に剪断増加面が形成されている。ここで、そのバネ部の他端部も、弾性変形によって応力が集中する部位である。そのため、バネ部の一端部及び他端部における端面に剪断増加面が形成されていると、その一端部及び他端部における疲労強度が向上される。したがって、バネ部が繰り返し弾性変形しても、その一端部及び他端部において、破断面に亀裂が入ることが抑制される。
【0013】
また、請求項4に記載の端子は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の端子であって、前記板厚方向中央部は、前記湾曲部における前記端面に掛かる応力の平均値よりも高い応力が掛かる箇所である
【0014】
請求項4に記載の発明によれば湾曲部における端面に掛かる応力の平均値よりも高い応力が掛かる領域に剪断面を形成することができるため、湾曲部における疲労強度が向上され、湾曲部の端面における破断面に亀裂が発生し難くなる。
【0015】
また、請求項に記載の端子は、請求項1~請求項の何れか1項に記載の端子であって、前記剪断増加面は、前記湾曲部における前記端面のみに形成されている。
【0016】
請求項に記載の発明によれば、剪断増加面が、湾曲部における端面のみに形成されている。したがって、湾曲部における端面以外にも剪断増加面が形成される場合に比べて、加工の手間が低減され、製造性が高められる。
【0017】
また、請求項に記載の端子は、請求項1~請求項の何れか1項に記載の端子であって、前記バネ部は、前記湾曲部と連続する直線部を有しており、前記剪断増加面は、前記直線部における前記端面には形成されていない。
【0018】
請求項に記載の発明によれば、剪断増加面が、直線部における端面に形成されていない。ここで、直線部は、応力が集中し難い部位である。したがって、直線部にも剪断増加面が形成される場合に比べて、加工の手間が低減され、製造性が高められる。
【0019】
また、請求項に記載の端子は、請求項又は請求項に記載の端子であって、前記剪断増加面は、少なくとも前記湾曲部における内周側の前記端面に形成されている。
【0020】
請求項に記載の発明によれば、剪断増加面が、少なくとも湾曲部における内周側の端面に形成されている。ここで、湾曲部における内周側の端面は、外周側の端面よりも高い応力が掛かる。そのため、湾曲部における内周側の端面に剪断増加面が形成されていると、バネ部における疲労強度がより効果的に向上される。したがって、バネ部が繰り返し弾性変形しても、破断面に亀裂が入ることがより効果的に抑制される。
【0021】
また、本発明に係る請求項に記載のコネクタは、請求項1~請求項の何れか1項に記載の端子と、前記第1被保持部及び前記第2被保持部の何れか一方を保持する固定ハウジングと、前記第1被保持部及び前記第2被保持部の何れか他方を保持する可動ハウジングと、を備えている。
【0022】
請求項に記載の発明によれば、固定ハウジングと可動ハウジングとの間に端子が架設されても、その端子のバネ部の弾性変形による損傷及び破断が抑制される。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、金属板を打ち抜き加工してなる端子において、そのバネ部の弾性変形による損傷及び破断を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係るコネクタを示す斜視図である。
図2】本実施形態に係るコネクタを示す平面図である。
図3】本実施形態に係るコネクタを示す図2のX-X線矢視断面図である。
図4】本実施形態に係る端子を示す斜視図である。
図5】本実施形態に係る端子のバネ部を拡大して示す斜視図である。
図6】本実施形態に係る端子のバネ部における端面を拡大して示す側面図である。
図7】本実施形態に係る端子のバネ部における別の端面を拡大して示す側面図である。
図8】本実施形態に係る端子のバネ部に掛かる応力を示す説明図である。
図9】本実施形態に係る端子のバネ部における応力分布を示すグラフである。
図10】本実施形態に係る端子の材料におけるS-N曲線とバネ部における疲労強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、説明の便宜上、図1図3において適宜示す矢印UPをコネクタ10の上方向、矢印FRをコネクタ10の前方向、矢印RHをコネクタ10の右方向とする。したがって、そのコネクタ10に設けられる端子40の上下、前後、左右は、それらの各方向を基準にして記載するが、これらの方向に特に限定されるものではない。
【0026】
図1図3に示されるように、コネクタ10(可動コネクタ)は、基板(図示省略)に固定される固定ハウジング20と、固定ハウジング20とは別体で、かつ固定ハウジング20に対して移動可能に設けられた可動ハウジング30と、固定ハウジング20と可動ハウジング30との間に架設された複数の端子40と、を備えている。
【0027】
固定ハウジング20は、上方及び下方が開口された矩形枠状に合成樹脂等の絶縁体で形成されており、矩形平板状の前壁22及び後壁24と、前後方向が長手方向とされた矩形平板状の右壁26及び左壁28と、を一体に有している。そして、右壁26の下端部及び左壁28の下端部には、それぞれ各端子40における平板状の固定側被保持部42を保持する複数の保持部27、29が一体に形成されている。なお、保持部27の構成と保持部29の構成とは同一であるため、以下においては左壁28の保持部29を例に採って説明する。
【0028】
各保持部29は、先端が下方を向く一対の爪部29A(図1参照)で構成されており、左壁28の長手方向に等間隔に並んで形成されている。一対の爪部29Aの間が、下方へ開口するスリット部Sとされており、スリット部Sの間隔は、固定側被保持部42の板厚と略同一とされている。各固定側被保持部42は、後述する突出片44が各スリット部Sに下方から挿入されて係止されることで、各爪部29A(各保持部29)に保持されるようになっている。
【0029】
可動ハウジング30は、上方が開口された矩形筐体状に合成樹脂等の絶縁体で形成されており、少なくとも固定ハウジング20の前壁22及び後壁24よりも左右方向の長さが短い矩形平板状の前壁32及び後壁34と、前後方向が長手方向とされるとともに、少なくとも固定ハウジング20の右壁26及び左壁28よりも前後方向の長さが短い矩形平板状の右壁36及び左壁38と、前後方向が長手方向とされた矩形平板状の底壁35と、を一体に有している。
【0030】
前壁32及び後壁34の下面には、下方へ延びる矩形平板状の突出壁32A、34A(図1参照)が一体に形成されており、各突出壁32A、34Aは、固定ハウジング20の開口部20A(図1図2参照)に挿入されるようになっている。なお、各突出壁32A、34Aの高さは、固定ハウジング20の高さよりも低く形成されており、各突出壁32A、34Aの下端部が、固定ハウジング20の下面から下方へ突出しない構成になっている。
【0031】
底壁35には、各端子40における平板状の可動側被保持部46を保持する複数の保持部37が一体に形成されている。各保持部37は、貫通されたスリット部37Aで構成されており、底壁35の長手方向に等間隔に並んで形成されている。スリット部37Aの幅は、可動側被保持部46の板厚と略同一とされており、スリット部37Aの左右方向の長さは、可動側被保持部46の左右方向の長さよりも若干小さい長さとされている。
【0032】
したがって、各可動側被保持部46は、各スリット部37Aに下方から圧入されることで、各保持部37に保持されるようになっている。なお、可動ハウジング30は、この状態で、その底壁35の下面が固定ハウジング20の前壁22、後壁24、右壁26、左壁28の各上端面よりも上方に配置されるようになっている(図1図3参照)。
【0033】
端子40は、銅合金等の弾性変形可能な導電性の金属板(図示省略)を打ち抜き加工することで平板状に形成されており、各端子40は、同一形状とされている。そして、図4に示されるように、端子40の一方の端部には、正面視で略「L」字状とされた固定側被保持部42が形成され、端子40の他方の端部には、正面視で略「L」字状とされた可動側被保持部46が形成されている。
【0034】
なお、図2に示されるように、各端子40は、固定ハウジング20の長手方向に固定側被保持部42を交互に左右逆方向へ向けて配置されるようになっており、各固定側被保持部42は、固定ハウジング20の各保持部27又は各保持部29に保持される構成になっている。
【0035】
具体的に説明すると、図4に示されるように、固定側被保持部42には、上方へ突出する突出片44が一体に形成されており、その突出片44の後述するバネ部50側の端面44Aには、係止爪45が一体に形成されている。この係止爪45は、固定側被保持部42のスリット部Sへの下方からの挿入を妨げることなく、かつ、スリット部Sへの挿入後は、固定側被保持部42の下方への移動を阻止するように、正面視で直角部分が下側となる略直角三角形状に形成されている。
【0036】
そして、一対の爪部29Aの間には、その係止爪45が係止可能な被係止部(図示省略)が形成されている。したがって、固定側被保持部42は、その突出片44がスリット部S内に差し込まれ、その係止爪45が被係止部に係止されることにより、各保持部27又は各保持部29に保持されるようになっている。また、固定側被保持部42の下部には、右壁26又は左壁28から左右方向外側へ突出する突出端部43が一体に形成されている。
【0037】
一方、可動側被保持部46は、その上部(左右方向へ突出した突出部47よりも上側)が、相手側コネクタ等の接続対象物(図示省略)が接触して導通接続する接続部48となっている。つまり、この接続部48が、底壁35に形成されたスリット部37Aから上方へ突出した状態となるように、可動側被保持部46が、スリット部37Aに圧入されて、可動ハウジング30の保持部37に保持される構成になっている。
【0038】
なお、突出部47の先端部47Aは、平面視で略直角に折り曲げられている(図2参照)。また、図4に示されるように、可動側被保持部46における突出部47とは反対側の端面46Aには、可動側被保持部46のスリット部37Aからの抜け落ちを抑制又は防止するために、スリット部37Aを構成する内壁面を左方向又は右方向へ押圧する上下2個の係止爪49が一体に形成されている。
【0039】
各係止爪49は、可動側被保持部46のスリット部37Aへの下方からの挿入を妨げることなく、かつ、スリット部37Aへの挿入後は、可動側被保持部46の下方への移動を阻止するように、正面視で直角部分が下側となる略直角三角形状に形成されている。なお、固定側被保持部42及び可動側被保持部46の何れか一方が、本発明における「第1被保持部」であり、固定側被保持部42及び可動側被保持部46の何れか他方が、本発明における「第2被保持部」である。
【0040】
また、図5に詳細に示されるように、端子40は、固定側被保持部42と可動側被保持部46とを一体に連結する弾性変形可能なバネ部50を有している。このバネ部50は、左右方向の長さが板厚と略同一とされて、正面視で略「S」字状に形成されており、固定ハウジング20に対する可動ハウジング30の移動に伴って弾性変形可能に構成されている。
【0041】
具体的に説明すると、このバネ部50は、固定側被保持部42の上端部から一体に連続する略半円弧状の第1湾曲部52と、第1湾曲部52の下端部から下方へ向けて一体に連続して延びる第1直線部54と、を有している。そして、このバネ部50は、第1直線部54の下端部から一体に連続する略半円弧状の第2湾曲部56と、第2湾曲部56の上端部から上方へ向けて一体に連続して延びる(可動側被保持部46の下端部から下方へ向けて一体に連続して延びる)第2直線部58と、を有している。
【0042】
なお、第1湾曲部52及び第2湾曲部56が、本発明における「湾曲部」であり、第1直線部54及び第2直線部58が、本発明における「直線部」である。また、図5において、第1湾曲部52と第1直線部54との境界部と、第1直線部54と第2湾曲部56との境界部と、第2湾曲部56と第2直線部58との境界部と、をそれぞれ仮想線Kにて示す。つまり、各仮想線Kにより、第1湾曲部52と第1直線部54と第2湾曲部56と第2直線部58とが区切られている。
【0043】
また、端子40は、金属板が打ち抜かれることで形成されるため、図6に示されるように、その板厚方向に沿った端面(打ち抜き方向に沿った切断面)12には、その板厚方向(打ち抜き方向)に沿って剪断面14と破断面16とが連続して形成される。剪断面14は、打ち抜き方向(板厚方向)に沿った複数の縦筋からなる面のことであり、破断面16は、むしり取られた跡のように荒れた面のことである。
【0044】
また、バネ部50の第1湾曲部52における内周側の端面12Ai(図5参照)には、その内周側の端面12Ai全体の面積に対して、剪断面14の面積が60%以上となる剪断増加面18(図6参照)が形成されている。そして、バネ部50の第1湾曲部52における外周側の端面12Ao(図5参照)にも、その外周側の端面12Ao全体の面積に対して、剪断面14の面積が60%以上となる剪断増加面18(図6参照)が形成されている。
【0045】
同様に、バネ部50の第2湾曲部56における内周側の端面12Ci(図5参照)には、その内周側の端面12Ci全体の面積に対して、剪断面14の面積が60%以上となる剪断増加面18(図6参照)が形成されている。そして、バネ部50の第2湾曲部56における外周側の端面12Co(図5参照)にも、その外周側の端面12Co全体の面積に対して、剪断面14の面積が60%以上となる剪断増加面18(図6参照)が形成されている。
【0046】
詳細に説明すると、一般に金属板を打ち抜き加工してなる端子40の端面12に形成される剪断面14の面積は、その端面12全体の面積に対して50%程度となる。したがって、バネ部50の第1直線部54における左右両側の端面12Bに形成される剪断面14の面積は、その端面12B全体の面積に対して50%程度となり、バネ部50の第2直線部58における左右両側の端面12Dに形成される剪断面14の面積も、その端面12D全体の面積に対して50%程度となる。
【0047】
一方、バネ部50の第1湾曲部52における内周側の端面12Ai及び外周側の端面12Aoには、打ち抜き加工後に、更に例えばシェービング加工が施される。これにより、第1湾曲部52における内周側の端面12Ai及び外周側の端面12Aoに、剪断面14の面積が増加された剪断増加面18が形成される。
【0048】
同様に、バネ部50の第2湾曲部56における内周側の端面12Ci及び外周側の端面12Coには、打ち抜き加工後に、更に例えばシェービング加工が施される。これにより、第2湾曲部56における内周側の端面12Ci及び外周側の端面12Coに、剪断面14の面積が増加された剪断増加面18が形成される。
【0049】
なお、固定側被保持部42側となるバネ部50の一端部50Aにおける、突出片44と対向する端面12Eにも、第1湾曲部52及び第2湾曲部56と同様の剪断増加面18が形成されることが好ましい。ここで言う「端面12E」とは、第1湾曲部52における外周側の端面12Aoの仮想線Kdで示される部位から下側で、かつ固定側被保持部42に形成されている傾斜端面42Aの上辺縁部から上側を指す。
【0050】
バネ部50の一端部50Aにおける、突出片44と対向する端面12Eは、傾斜端面42Aとで、正面視で鈍角をなすように形成されており、傾斜端面42Aの上辺縁部は、その鈍角の頂点となっている。なお、端面12Eには、その傾斜端面42Aの上辺縁部(鈍角の頂点)も含まれる。また、図5においては、仮想線Kdが、第1湾曲部52における内周側の端面12Aiのみに示されているが、仮想線Kdの高さ位置は、外周側の端面12Aoにおいても同じである。
【0051】
更に、可動側被保持部46側となるバネ部50の他端部50Bにおける左右両側の端面12Fにも、第1湾曲部52及び第2湾曲部56と同様の剪断増加面18が形成されることが好ましい。ここで言う「端面12F」とは、第2直線部58における左右両側の端面12Dの仮想線Kuで示される部位から上側で、正面視で円弧状に形成されている部分を指す。
【0052】
また、図7に示されるように、剪断増加面18は、各端面12(各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Co、12E、12F)の少なくとも板厚方向中央部に形成されることが好ましい。更に、剪断増加面18は、第1湾曲部52における端面12Ai、12Ao及び第2湾曲部56における端面12Ci、12Coのみに形成されることが好ましい。
【0053】
換言すれば、剪断増加面18は、第1直線部54における端面12B及び第2直線部58における端面12Dには形成されないことが好ましい。そして更に、剪断増加面18は、少なくとも第1湾曲部52における内周側の端面12Ai及び第2湾曲部56における内周側の端面12Ciに形成されることが好ましい。
【0054】
以上のような構成とされた端子40及びコネクタ10において、次にその作用について詳細に説明する。
【0055】
コネクタ10では、端子40の固定側被保持部42が固定ハウジング20の保持部27、29に保持され、端子40の可動側被保持部46が可動ハウジング30の保持部37に保持されている。そして、端子40の固定側被保持部42と可動側被保持部46との間の部分であるバネ部50が、第1湾曲部52及び第2湾曲部56を含んで構成されている。
【0056】
したがって、相手側コネクタ等の接続対象物と嵌合される可動ハウジング30は、基板に固定されている固定ハウジング20に対して移動可能となる。すなわち、可動ハウジング30の位置に対して接続対象物の位置が多少ずれていても、端子40におけるバネ部50の弾性変形により、その接続対象物を可動ハウジング30に嵌合させる(接続対象物を可動ハウジング30の端子40における接続部48に接触させる)ことができる。
【0057】
また、相手側コネクタ等の接続対象物を可動ハウジング30に嵌合させた後、その接続対象物又は固定ハウジング20(基板)に振動等が発生しても、バネ部50の弾性変形により、その振動等を吸収することができる。したがって、可動ハウジング30の端子40における接続部48と接続対象物との導通接続状態を維持することができる。
【0058】
ここで、バネ部50が弾性変形すると、図8に示されるように、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の内周側の端面12Ai、12Ci及び外周側の端面12Ao、12Coに応力が集中する。特に、その応力は、第1湾曲部52及び第2湾曲部56における内周側の端面12Ai、12Ciが外周側の端面12Ao、12Coに比べて高く、かつ、その内周側の端面12Ai、12Ciの板厚方向中央部が更に高い。図9に、その応力分布を示す。
【0059】
このように、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の内周側の端面12Ai、12Ci及び外周側の端面12Ao、12Coに対して応力が集中すると、各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coにおける破断面16に、剪断面14に比べて亀裂が入り易くなり、バネ部50が損傷したり、破断したりする可能性が出てくる。また、一般に、剪断面14の面積を増加させればさせるほど疲労強度が高められることは知られている。
【0060】
そのため、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の内周側の端面12Ai、12Ci及び外周側の端面12Ao、12Coにおいて、剪断増加面18を形成し、剪断面14の面積(割合)を増加させている。換言すれば、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の内周側の端面12Ai、12Ci及び外周側の端面12Ao、12Coにおいて、破断面16の面積(割合)を減少させ、その破断面16に亀裂が発生し難くなるようにしている。
【0061】
図9は、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の板厚方向における応力分布を示すグラフである。このグラフにおいて、第1湾曲部52及び第2湾曲部56に掛かる応力の平均値Vが実線で示されている。この応力の平均値Vは、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coにおける板厚方向中央部から±30%程度離れた位置の値である。
【0062】
つまり、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coにおいて、その面積が60%程度となる領域(板厚方向中央部から±30%程度の領域)には、第1湾曲部52及び第2湾曲部56に掛かる応力の平均値Vよりも高い応力が掛かる。
【0063】
したがって、この平均値Vよりも高い応力が掛かる60%程度の領域(板厚方向中央部から±30%程度の領域)に、剪断面14(剪断増加面18)が形成されていると、第1湾曲部52及び第2湾曲部56における疲労強度が向上され、各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coにおける破断面16に亀裂が発生し難くなる。
【0064】
そこで、図6図7に示されるように、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coには、それぞれ例えばシェービング加工により、剪断面14の面積が60%以上(板厚方向中央部から±30%以上)となる剪断増加面18が(板厚方向中央部を含んで)形成されている。
【0065】
図10に、第1湾曲部52及び第2湾曲部56の各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coに対して、剪断増加面18が形成されている場合の疲労強度と、剪断増加面18が形成されていない場合の疲労強度と、を端子40の材料自体が持つ疲労強度と共に示す。この図10において、実線Jで表されているグラフが、端子40の材料におけるS-N曲線である。
【0066】
そして、この図10において、「×」で示されている点が、剪断増加面18が形成されていない場合の疲労強度であり、「●」で示されている点が、剪断増加面18が形成されている場合の疲労強度である。このように、剪断増加面18が形成されていると、その疲労強度を、端子40の材料自体が持つ疲労強度に近づけることができる。
【0067】
したがって、バネ部50が繰り返し弾性変形しても、剪断増加面18が形成されている第1湾曲部52及び第2湾曲部56において、破断面16に亀裂が入ることを抑制することができる。つまり、これによれば、固定ハウジング20と可動ハウジング30との間に端子40が架設されても、その端子40におけるバネ部50の弾性変形による損傷及び破断を抑制することができる。
【0068】
なお、図9に示されるように、剪断増加面18は、第1湾曲部52及び第2湾曲部56における各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coの板厚方向中央部から±30%以上の領域に形成されることが好ましい。これによれば、バネ部50における疲労強度を効果的に向上させることができる。したがって、バネ部50が繰り返し弾性変形しても、その第1湾曲部52及び第2湾曲部56における破断面16に亀裂が入ることを効果的に抑制することができる。
【0069】
そして、剪断増加面18は、少なくとも第1湾曲部52及び第2湾曲部56における内周側の端面12Ai、12Ciに形成されることが好ましい。ここで、第1湾曲部52及び第2湾曲部56における内周側の端面12Ai、12Ciに掛かる応力は、外周側の端面12Ao、12Coに掛かる応力よりも高い。
【0070】
そのため、内周側の端面12Ai、12Ciに剪断増加面18を形成することにより、バネ部50における疲労強度をより効果的に向上させることができる。したがって、バネ部50が繰り返し弾性変形しても、その第1湾曲部52及び第2湾曲部56における破断面16に亀裂が入ることをより効果的に抑制することができる。
【0071】
また、固定側被保持部42側となるバネ部50の一端部50Aにおける端面12E及び可動側被保持部46側となるバネ部50の他端部50Bにおける端面12Fにも、剪断増加面18が形成されることが好ましい。このバネ部50の一端部50A及び他端部50Bも、弾性変形によって応力が集中する部位である。
【0072】
そのため、その一端部50Aにおける端面12E及び他端部50Bにおける端面12Fに剪断増加面18を形成することにより、一端部50A及び他端部50Bにおける疲労強度を向上させることができる。したがって、バネ部50が繰り返し弾性変形しても、その一端部50A及び他端部50Bにおける破断面16に亀裂が入ることを抑制することができる。
【0073】
また、剪断増加面18は、第1湾曲部52及び第2湾曲部56における各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coのみに形成されることが好ましい。つまり、応力が集中し難い第1直線部54及び第2直線部58の各端面12B、12Dには、剪断増加面18を形成する必要がない。これによれば、第1直線部54及び第2直線部58の各端面12B、12Dにも剪断増加面18を形成する場合に比べて、加工の手間を低減させることができ、端子40の製造性を高めることができる。
【0074】
以上、本実施形態に係る端子40及びコネクタ10について図面を基に説明したが、本実施形態に係る端子40及びコネクタ10は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。例えば、端子40の形状は、湾曲部を有するバネ部50を備えていればよく、図示の形状に限定されるものではない。
【0075】
また、剪断増加面18を形成するために、バネ部50の第1湾曲部52及び第2湾曲部56における各端面12Ai、12Ci、12Ao、12Coと、一端部50A及び他端部50Bにおける各端面12E、12Fと、を加工する手段は、シェービング加工に限定されるものではなく、例えばファインブランキング加工又は2度抜き加工等であってもよい。また、剪断増加面18が形成されるのは、バネ部50の一端部50Aにおける端面12E及び他端部50Bにおける端面12Fの何れか一方のみであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 コネクタ
12 端面
14 剪断面
16 破断面
18 剪断増加面
20 固定ハウジング
30 可動ハウジング
40 端子
42 固定側被保持部(第1被保持部/第2被保持部)
46 可動側被保持部(第2被保持部/第1被保持部)
50 バネ部
50A 一端部
50B 他端部
52 第1湾曲部(湾曲部)
54 第1直線部(直線部)
56 第2湾曲部(湾曲部)
58 第2直線部(直線部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10