(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネスおよびワイヤーハーネスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20240524BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20240524BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20240524BHJP
H01B 7/285 20060101ALI20240524BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240524BHJP
H01B 13/012 20060101ALI20240524BHJP
H01B 13/32 20060101ALI20240524BHJP
H01R 4/70 20060101ALI20240524BHJP
H01R 43/00 20060101ALI20240524BHJP
H02G 1/14 20060101ALI20240524BHJP
H02G 15/18 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
H01B7/00 301
B60R16/02 620Z
H01B7/18 E
H01B7/285
H01B13/00 501D
H01B13/012 Z
H01B13/32
H01R4/70 K
H01R4/70 L
H01R43/00 A
H02G1/14
H02G15/18
(21)【出願番号】P 2019151493
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2021-11-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕
(72)【発明者】
【氏名】南原 慎太郎
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】市川 武宜
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103416(JP,A)
【文献】特開2010-009924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/18
H01B 7/285
H01B 13/00
H01B 13/012
H01B 13/32
H01R 4/70
H01R 43/00
H02G 1/14
H02G 15/18
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線束と、スプライス部と、防水部と、を有するワイヤーハーネスであって、
前記電線束は、複数の電線を含み、
前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部を備え、
前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線の前記露出部を接合しており、
前記防水部は、前記スプライス部と、前記電線束において前記スプライス部に隣接する、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた部位である被覆域とを、樹脂材料で一体に被覆しており、
前記防水部は、前記電線束を構成する前記電線のうち少なくとも1本の全周を被覆して、前記樹脂材料が前記電線の間の領域に充填された電線間充填部を有しており、
前記ワイヤーハーネスは、前記防水部の外周を包囲するシート体をさらに有し、
前記シート体と前記スプライス部との間、および前記シート体と前記被覆域との間には、前記スプライス部および前記被覆域の全周を被覆して、前記防水部が形成されており、
前記シート体に包囲された領域の内側に、前記ワイヤーハーネスの軸線方向に沿って相互に離間して、
前記シート体の表面に載置または固定された紐、糸、テープのいずれかより構成されるか、前記シート体の面を局所的に隆起させることにより前記シート体の構成材料自体から構成された、可撓性を有する1対のスペーサが配置され、前記1対のスペーサの間に、前記スプライス部および前記被覆域が配置されている、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記電線間充填部において、前記樹脂材料は、前記電線束を構成する全ての前記電線の全周をそれぞれ被覆している、請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記防水部は、少なくとも、前記スプライス部の中央の位置から10mm離れた基準位置において、前記被覆域を被覆しており、
前記基準位置において、前記電線束を構成する前記電線から選択される少なくとも2本の間に、前記絶縁被覆の厚さの3%以上の距離を有する間隙が存在し、
前記間隙を充填して、前記電線間充填部が形成されている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記基準位置において、前記電線束を構成する全ての前記電線は、それぞれ、隣接する電線との間に間隙を備え、前記間隙の距離の最大値は、前記絶縁被覆の厚さの3%以上であり、
前記間隙を充填して、前記電線間充填部が形成されている、請求項3に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記電線束は、前記電線を複数含む第一電線束と、前記電線を1本または複数含む第二電線束と、に分かれており、
前記第一電線束と前記第二電線束とは、前記スプライス部を挟んで、異なる方向に延びており、
前記防水部は、前記スプライス部と、前記第一電線束の前記被覆域と、前記第二電線束の前記被覆域とを前記樹脂材料で一体に被覆しており、
前記防水部は、少なくとも前記第一電線束を構成する前記電線の間の領域に、前記電線間充填部を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
電線束と、スプライス部と、防水部と、シート体と、を有し、
前記電線束は、複数の電線を含み、
前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部を備え、
前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線の前記露出部を接合しており、
前記防水部は、前記スプライス部と、前記電線束において前記スプライス部に隣接する、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた部位である被覆域とを、樹脂材料で一体に被覆しており、
前記防水部は、前記電線束を構成する前記電線のうち少なくとも1本の全周を被覆して、前記樹脂材料が前記電線の間の領域に充填された電線間充填部を有し、
前記シート体は、前記防水部の外周を包囲し、前記シート体と前記スプライス部との間、および前記シート体と前記被覆域との間には、前記スプライス部および前記被覆域の全周を被覆して、前記防水部が形成されている、ワイヤーハーネスを製造する方法であって、
前記電線を複数束ねて前記電線束とし、前記露出部を接合して前記スプライス部を形成して、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、
前記ハーネス前駆体において、前記電線束を構成する複数の前記電線の間に距離を設ける離隔工程と、
前記スプライス部と前記被覆域とを前記樹脂材料で一体に被覆して、前記防水部を形成
する防水工程と、をこの順に実行し、
前記防水工程においては、
固化して前記樹脂材料となる樹脂組成物を、面状に広げた前記シート体の表面に配置する第一樹脂配置工程と、
前記第一樹脂配置工程で配置した前記樹脂組成物を固化させ、第一固化部を形成する第一固化工程と、
前記第一固化部の表面を含む領域に、前記樹脂組成物を配置する第二樹脂配置工程と、
前記スプライス部および前記被覆域が、前記第二樹脂配置工程で配置した前記樹脂組成物を介して、前記第一固化部上に配置されるようにして、前記ハーネス前駆体を配置するハーネス配置工程と、
前記スプライス部および前記被覆域を、前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、
前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を固化させ、第二固化部を形成する第二固化工程と、をこの順に実行し、
前記防水部として前記第一固化部と前記第二固化部とを有する、前記ワイヤーハーネスを製造する、ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項7】
電線束と、スプライス部と、防水部と、シート体と、を有し、
前記電線束は、複数の電線を含み、
前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部を備え、
前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線の前記露出部を接合しており、
前記防水部は、前記スプライス部と、前記電線束において前記スプライス部に隣接する、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた部位である被覆域とを、樹脂材料で一体に被覆しており、
前記防水部は、前記電線束を構成する前記電線のうち少なくとも1本の全周を被覆して、前記樹脂材料が前記電線の間の領域に充填された電線間充填部を有し、
前記シート体は、前記防水部の外周を包囲し、前記シート体と前記スプライス部との間、および前記シート体と前記被覆域との間には、前記スプライス部および前記被覆域の全周を被覆して、前記防水部が形成されている、ワイヤーハーネスを製造する方法であって、
前記電線を複数束ねて前記電線束とし、前記露出部を接合して前記スプライス部を形成して、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、
前記ハーネス前駆体において、前記電線束を構成する複数の前記電線の間に距離を設ける離隔工程と、
前記スプライス部と前記被覆域とを前記樹脂材料で一体に被覆して、前記防水部を形成
する防水工程と、をこの順に実行し、
前記防水工程においては、
面状に広げた前記シート体の表面に、相互に間隔を空けて、可撓性を有する1対のスペーサを配置するスペーサ配置工程と、
前記1対のスペーサの間の領域に、固化して前記樹脂材料となる樹脂組成物を配置する樹脂配置工程と、
前記スプライス部および前記被覆域が、前記1対のスペーサの間に配置されるように、前記1対のスペーサに前記ハーネス前駆体を載置するハーネス配置工程と、
前記スプライス部を、前記1対のスペーサおよび前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、
前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を固化させて前記防水部を形成する固化工程と、をこの順に実行し、
前記ワイヤーハーネスを製造する、ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項8】
前記離隔工程においては、前記防水部を形成する位置よりも前記スプライス部から離れた位置に、前記電線束を構成する複数の前記電線の間に介在する治具を配置することで、前記電線束を構成する複数の前記電線の間に距離を設ける、請求項6または請求項7に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤーハーネスおよびワイヤーハーネスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数本の電線を含むワイヤーハーネスにおいて、各電線の絶縁被覆から露出された導体が、圧着端子等を用いて相互に接合され、スプライス部が形成されることがある。そのようなスプライス部を備えたワイヤーハーネスは、例えば特許文献1~3等に開示されている。スプライス部を水との接触から保護することを目的として、スプライス部を含む部位が、樹脂材料等、水を透過しにくい材料で被覆される場合がある。特に、ワイヤーハーネスが、自動車内等、水との接触が起こりやすい環境で使用される場合には、スプライス部に防水を施すことが重要となる。そのようにスプライス部を被覆する防水部材を設ける形態は、例えば特許文献1,2に開示されている。特許文献1,2では、それぞれ、高い防水性能が得られるように、防水部材の構成材料が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-159070号公報
【文献】特開2018-73774号公報
【文献】特開2018-32589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤーハーネスのスプライス部に、防水部材を設ける場合に、防水性を高める観点から、特許文献1,2のように、防水部材を構成する材料を工夫することは、有効である。しかし、その種の防水部材において、防水部材の構造、例えば、防水部材を構成する材料が配置される具体的な位置や、防水部材とワイヤーハーネスの他の構成部材との関係等も、防水性能に影響を与えるはずである。スプライス部を被覆する防水部材の構造を検討することで、防水性能をさらに高めることができる可能性がある。
【0005】
そこで、複数本の電線の導体が接合されたスプライス部に対して高い防水性を付与することができるワイヤーハーネス、およびそのようなワイヤーハーネスを製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のワイヤーハーネスは、電線束と、スプライス部と、防水部と、を有し、前記電線束は、複数の電線を含み、前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部を備え、前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線の前記露出部を接合しており、前記電線束において、前記スプライス部に隣接する、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた部位を被覆域として、前記防水部は、前記スプライス部と、前記被覆域とを、樹脂材料で一体に被覆しており、前記防水部は、前記電線束を構成する前記電線のうち少なくとも1本の全周を被覆して、前記樹脂材料が前記電線の間の領域に充填された電線間充填部を有する。
【0007】
本開示のワイヤーハーネスの製造方法は、前記電線を複数束ねて前記電線束とし、前記露出部を接合して前記スプライス部を形成して、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、前記ハーネス前駆体において、前記電線束を構成する複数の前記電線の間に距離を設ける離隔工程と、前記スプライス部と前記被覆域とを前記樹脂材料で一体に被覆して、前記防水部を形成する防水工程と、をこの順に実行し、前記ワイヤーハーネスを製造するものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるワイヤーハーネスは、複数本の電線の導体が接合されたスプライス部に対して高い防水性を付与することができる。また、本開示にかかるワイヤーハーネスの製造方法によると、そのようなワイヤーハーネスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを示す側面図である。図では、シート体に包囲された領域に充填された樹脂材料を、斜線にて表示している。
【
図3】
図3は、治具を用いた防水部の形成を説明する側面図である。
【
図4】
図4A~
図4Eは、防水部を製造するための防水工程を説明する図である。
図4Aはシート準備工程、
図4Bは樹脂配置工程、
図4Cはハーネス配置工程、
図4Dは包囲工程、
図4Eは固化工程を示している。図中、未固化の樹脂組成物を、斜線を付して表示している。
【
図5】
図5A~
図5Dは、上記ワイヤーハーネスの製造に用いる治具を示す図である。
図5Aおよび
図5Bは、それぞれ、Y型治具の平面図および斜視図である。
図5Cおよび
図5Dは、それぞれ、I型治具およびE型治具の平面図である。
【
図6】
図6A~
図6Cは、治具への電線の配置を説明する断面図である。
図6AはY型治具の場合、
図6BはI型治具の場合、
図6CはE型治具の場合を示している。電線の内部構造は省略している。
【
図7】
図7A~
図7Gは、2段階の固化による防水工程を説明する図である。
図7Aはシート準備工程、
図7Bは第一樹脂配置工程、
図7Cは第一固化工程、
図7Dは第二樹脂配置工程、
図7Eはハーネス配置工程、
図7Fは包囲工程、
図7Gは第二固化工程を示している。図中、未固化の樹脂組成物を、斜線を付して表示している。
【
図8】
図8A~
図8Fは、スペーサを使用した防水工程を説明する図である。
図8Aはシート準備工程、
図8Bはスペーサ配置工程、
図8Cは樹脂配置工程、
図8Dはハーネス配置工程、
図8Eは包囲工程、
図8Fは固化工程を示している。図中、未固化の樹脂組成物を、斜線を付して表示している。
【
図9】
図9は、実施例の試料として用いたワイヤーハーネスの防水部近傍の寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0011】
本開示にかかるワイヤーハーネスは、電線束と、スプライス部と、防水部と、を有し、前記電線束は、複数の電線を含み、前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部を備え、前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線の前記露出部を接合しており、前記電線束において、前記スプライス部に隣接する、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた部位を被覆域として、前記防水部は、前記スプライス部と、前記被覆域とを、樹脂材料で一体に被覆しており、前記防水部は、前記電線束を構成する前記電線のうち少なくとも1本の全周を被覆して、前記樹脂材料が前記電線の間の領域に充填された電線間充填部を有する。
【0012】
上記ワイヤーハーネスにおいては、電線を構成する導体が絶縁被覆に被覆された領域である被覆域を、防水部が、スプライス部と一体に被覆している。防水部は、被覆域において、電線束を構成する複数の電線の少なくとも1本の全周を被覆して、樹脂材料が電線の間の領域に充填された電線間充填部を有している。そのため、全ての電線が相互に接触し、電線間に樹脂材料が充填されない場合と比較して、防水部と絶縁被覆の間の接触面積が大きくなり、防水部の電線に対する密着性が高くなる。その結果、防水部と電線の境界部から水等の液体が侵入するのを、効果的に抑制することができる。
【0013】
特に、ワイヤーハーネスが温度変化を受けた際には、電線を構成する絶縁被覆と、防水部を構成する樹脂材料とで、温度変化に対する膨張や収縮の挙動が異なることにより、絶縁被覆と樹脂材料の間に応力が発生しやすくなる。しかし、上記ワイヤーハーネスにおいては、電線束を構成する電線の間に、樹脂材料が充填された電線間充填部が設けられており、そのような電線間充填部が形成されない場合と比較して、電線を取り囲む樹脂材料の量が多くなっている。その樹脂材料の量の多さにより、温度変化によって発生した応力を、効果的に緩和することができる。よって、ワイヤーハーネスが温度変化を受けても、応力発生に起因する樹脂材料の剥離が起こりにくい。このように、電線間充填部の存在により、防水部がスプライス部に対して高い防水性を付与し、さらに、温度変化を受ける環境でも、その高い防水性を維持することができる。
【0014】
ここで、前記電線間充填部において、前記樹脂材料は、前記電線束を構成する全ての前記電線の全周をそれぞれ被覆しているとよい。この場合には、樹脂材料が、電線束を構成する各電線の間の空間に充填された状態となるので、各電線に対する防水部の密着性を、特に高めやすい。また、電線間の領域に充填される樹脂材料の総量が多くなるため、温度変化を受けた際に、絶縁被覆との間で応力を緩和する効果にも、特に優れる。それらの効果により、防水部が、特に高い防水性を発揮し、維持するものとなる。
【0015】
前記防水部は、少なくとも、前記スプライス部の中央の位置から10mm離れた基準位置において、前記被覆域を被覆しており、前記基準位置において、前記電線束を構成する前記電線から選択される少なくとも2本の間に、前記絶縁被覆の厚さの3%以上の距離を有する間隙が存在し、前記間隙を充填して、前記電線間充填部が形成されているとよい。この場合には、被覆域において、絶縁被覆の厚さに対して十分な量の樹脂材料が、電線間の領域に充填されることにより、温度変化時の応力緩和が、効果的に達成される。その結果、防水部において、特に優れた防水性が得られやすい。
【0016】
前記基準位置において、前記電線束を構成する全ての前記電線は、それぞれ、隣接する電線との間に間隙を備え、前記間隙の距離の最大値は、前記絶縁被覆の厚さの3%以上であり、前記間隙を充填して、前記電線間充填部が形成されているとよい。この場合には、電線間の領域に配置される樹脂材料の量が、多く確保されることになり、各電線と樹脂材料との間で、特に高い応力緩和の効果が得られる。その結果、防水部において、さらに防水性を高めやすくなる。
【0017】
前記電線束は、前記電線を複数含む第一電線束と、前記電線を1本または複数含む第二電線束と、に分かれており、前記第一電線束と前記第二電線束とは、前記スプライス部を挟んで、異なる方向に延びており、前記防水部は、前記スプライス部と、前記第一電線束の前記被覆域と、前記第二電線束の前記被覆域とを前記樹脂材料で一体に被覆しており、前記防水部は、少なくとも前記第一電線束を構成する前記電線の間の領域に、前記電線間充填部を有するとよい。この場合には、スプライス部は、異なる方向に延びる2つの電線束の間に設けられた露出部を接合する、いわゆる中間スプライス部となっている。その中間スプライス部と、両側の被覆域とを一体に被覆して防水部を形成することにより、中間スプライス部に対して、高い防水性を付与することができる。特に、少なくとも第一電線束を構成する電線の間の領域に、電線間充填部を形成し、樹脂材料を充填しておくことで、防水性を高め、さらに、温度変化を受ける環境でも、その高い防水性を維持しやすくなる。第二電線束も複数の電線を含む場合には、第二電線束の方にも電線間充填部を形成しておけば、一層防水性を高めることができる。
【0018】
前記ワイヤーハーネスは、前記防水部の外周を包囲するシート体をさらに有し、前記シート体と前記スプライス部との間、および前記シート体と前記被覆域との間には、前記スプライス部および前記被覆域の全周を被覆して、前記防水部が形成されているとよい。この場合には、シート体を利用して、電線間充填部を有する防水部を、簡便に形成することができる。スプライス部および被覆域の外周の全周にわたって、シート体との間に、樹脂材料が充填された防水部が形成されるため、スプライス部において、防水部による高い防水性が確保されやすくなるとともに、防水部による保護性が高められ、外部の物体との接触等を受けた場合にも、損傷や絶縁不良が発生しにくくなる。
【0019】
本開示にかかるワイヤーハーネスの製造方法は、前記電線を複数束ねて前記電線束とし、前記露出部を接合して前記スプライス部を形成して、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、前記ハーネス前駆体において、前記電線束を構成する複数の前記電線の間に距離を設ける離隔工程と、前記スプライス部と前記被覆域とを前記樹脂材料で一体に被覆して、前記防水部を形成する防水工程と、をこの順に実行し、上記のワイヤーハーネスを製造するものである。
【0020】
上記のワイヤーハーネスの製造方法においては、離隔工程において、電線束を構成する複数の電線の間に距離を設けた状態で、防水工程において、防水部を形成する。そのため、防水工程において、電線の間の領域に、樹脂材料を導入し、電線間充填部を形成しやすい。電線間充填部を備えた防水部を形成することにより、スプライス部に高い防水性を付与することができる。また、温度変化を受ける環境においても、その高い防水性を維持できるワイヤーハーネスとなる。
【0021】
ここで、前記離隔工程においては、前記防水部を形成する位置よりも前記スプライス部から離れた位置に、前記電線束を構成する複数の前記電線の間に介在する治具を配置することで、前記電線束を構成する複数の前記電線の間に距離を設けるとよい。治具を用いることで、確実性高く、電線束を構成する複数の電線の間に距離を設け、電線間の領域に樹脂材料を充填して、電線間充填部を形成することができる。
【0022】
前記防水工程においては、固化して前記樹脂材料となる樹脂組成物を、面状に広げた前記シート体の表面に配置する第一樹脂配置工程と、前記第一樹脂配置工程で配置した前記樹脂組成物を固化させ、第一固化部を形成する第一固化工程と、前記第一固化部の表面を含む領域に、前記樹脂組成物を配置する第二樹脂配置工程と、前記スプライス部および前記被覆域が、前記第二樹脂配置工程で配置した前記樹脂組成物を介して、前記第一固化部上に配置されるようにして、前記ハーネス前駆体を配置するハーネス配置工程と、前記スプライス部および前記被覆域を、前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を固化させ、第二固化部を形成する第二固化工程と、をこの順に実行し、前記防水部として前記第一固化部と前記第二固化部とを有する、前記のうちシート体を備えたワイヤーハーネスを製造するとよい。この場合には、防水部を形成する際に、第一樹脂配置工程と第一固化工程を実施することで、シート体の面とハーネス前駆体のスプライス部および被覆域との間に、樹脂材料の層が確実に介在されることになる。よって、製造されるワイヤーハーネスにおいて、スプライス部および被覆域の外周の全周にわたって、シート体との間に、樹脂材料が充填された防水部が形成されやすくなり、スプライス部に対する防水性および保護性が高くなったワイヤーハーネスを、好適に製造することができる。
【0023】
あるいは、前記防水工程においては、面状に広げた前記シート体の表面に、相互に間隔を空けて、可撓性を有する1対のスペーサを配置するスペーサ配置工程と、前記1対のスペーサの間の領域に、固化して前記樹脂材料となる樹脂組成物を配置する樹脂配置工程と、前記スプライス部および前記被覆域が、前記1対のスペーサの間に配置されるように、前記1対のスペーサに前記ハーネス前駆体を載置するハーネス配置工程と、前記スプライス部および前記被覆域を、前記1対のスペーサおよび前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を固化させて前記防水部を形成する固化工程と、をこの順に実行し、前記のうちシート体を備えたワイヤーハーネスを製造するとよい。この場合には、防水部を形成する際に、シート体の表面に1対のスペーサを配置するスペーサ配置工程を実施したうえで、樹脂配置工程において、それらスペーサの間に樹脂組成物を配置するとともに、ハーネス配置工程において、スペーサの間にスプライス部および被覆域を配置する。そのため、シート体の面とハーネス前駆体のスプライス部および被覆域との間に、樹脂組成物の層が確実に介在されることになる。その状態で、包囲工程と固化工程を実施することにより、スプライス部および被覆域の外周の全周にわたって、シート体との間に、樹脂材料が充填された防水部が形成されやすくなり、スプライス部に対する防水性および保護性が高くなったワイヤーハーネスを、好適に製造することができる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスおよびワイヤーハーネスの製造方法について、図面を参照しながら説明する。本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、複数の電線が接合されたスプライス部と、そのスプライス部を含む領域を被覆する防水部を有するものである。本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスの製造方法によって、そのようなワイヤーハーネスを製造することができる。なお、本明細書において、平行、垂直、反対方向、直線状等、部材の形状や配置を表す概念には、幾何的に厳密な概念のみならず、ワイヤーハーネスおよびその構成部材として許容される程度のずれを範囲に含むものとする。
【0025】
[1]ワイヤーハーネス
<構造の概略>
まず、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスについて、構造の概略を説明する。本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネス1の概略を、
図1に示す。
【0026】
ワイヤーハーネス1は、第一電線束2と、第二電線束3とを有している。第一電線束2は、複数の電線4を含んでおり、第二電線束3は、1本または複数の電線4を含んでいる。図示した形態では、第一電線束2が3本の電線4を含んでいる。第二電線束3は電線4を1本のみ含んでいる。本明細書においては、この第二電線束3のように、電線4を1本のみ含む形態についても、電線束と称するものとする。
【0027】
第一電線束2および第二電線束3を構成する電線4は、それぞれ、導体41と、導体41の外周を被覆する絶縁被覆42とを有している(
図2A,2B参照)。各電線4は、絶縁被覆42が除去され、絶縁被覆42から導体41が露出した状態となった、露出部を有している。本ワイヤーハーネス1において、第一電線束2を構成する電線4のうちの1本(例えば中央の1本)は、第二電線束3を構成する1本の電線4と連続した1本の電線4(本線)となっており、その本線の中間部において絶縁被覆42が除去されて、導体41が露出され、露出部が形成されている。その本線の中間部に形成された露出部に、第一電線束2を構成する他の電線4(枝線)の端部に形成された露出部が、次に説明するスプライス部5によって接合されている。
【0028】
第一電線束2と第二電線束3の間には、スプライス部5が形成されており、第一電線束2と第二電線束3が、スプライス部5を挟んで、異なる方向に延びている。図示した形態では、第一電線束2と第二電線束3が、スプライス部5を挟んで、直線状に相互に反対の方向に延びている。スプライス部5は、第一電線束2および第二電線束3を構成する各電線4の露出部を、相互に接合するものとなっている。図示した形態では、スプライス部5において、圧着端子51を用いたかしめ固定により、各電線4の露出部が接合されている。なお、スプライス部5においては、各電線4の露出部を構成する導体41を、相互に電気的に接続するともに、物理的に固着させることができれば、どのような手段によって露出部の接合を行ってもよく、圧着端子51を用いる形態の他、抵抗溶接や超音波溶接等の溶接や、はんだ付け等、溶融金属を用いた接合を例示することができる。本ワイヤーハーネス1において、スプライス部5は、第一の電線束1から第二の電線束3へと続く1本の本線に、第一の電線束2として、2本の枝線を接合するものとなっている。
【0029】
ワイヤーハーネス1はさらに、スプライス部5を含む領域を樹脂材料で被覆する防水部6を有している。防水部6を構成する樹脂材料は、スプライス部5と、第一電線束2の被覆域21と、第二電線束3の被覆域31とを、一体に被覆している。ここで、被覆域21,31とは、それぞれ第一電線束2および第二電線束3において、スプライス部5に隣接する、各電線束2,3を構成する電線4の導体41が、絶縁被覆42に覆われた部位を指し、スプライス部5に面する第一電線束2および第二電線束3の一部の領域に当たる。
【0030】
複数の電線4が束ねられた第一の電線束2においては、防水部6に被覆された被覆域21において、電線4の間に間隙が設けられ、その間隙に防水部6を構成する樹脂材料が充填されて、電線間充填部61が形成されている。電線間充填部61を有する防水部6の構成については、後に詳しく説明する。防水部6は、スプライス部5に水(電解質も含む;以下同じ)が侵入するのを抑制する防水材としての役割を果たす。
【0031】
さらに、ワイヤーハーネス1は、シート体7を備えている。シート体7は、防水部6の外周を包囲している。シート体7は、ワイヤーハーネス1に必須に設けられるものではないが、設けておくことで、後にワイヤーハーネス1の製造方法について説明するように、防水部6の形成を簡便に行うことができる。また、シート体7は、防水部6を外部の物体との接触等から保護する、保護部材としても機能する。
【0032】
ワイヤーハーネス1の各部を構成する材料や寸法は特に限定されるものではないが、以下に、好適な材料等を例示しておく。電線4を構成する導体41は、単線よりなってもよいが、複数の素線41aの集合体よりなることが好ましい。素線41aを構成する金属材料は特に限定されず、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を例示することができる。導体41は、1種の素線41aのみよりなっても、2種以上の素線41aを含むものであってもよい。また、導体41は、金属素線41aに加えて、有機繊維等、金属材料以外で構成される素線を含んでいてもよい。電線4を構成する絶縁被覆42は、絶縁性のポリマー材料より構成されている。具体的なポリマー材料としては、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)等のハロゲン系ポリマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどを挙げることができる。これらのポリマー材料は、単独で絶縁被覆42を構成しても、2種以上混合されてもよい。ポリマー材料には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0033】
各電線4の導体断面積および絶縁被覆42の厚さは、特に限定されるものではないが、後に説明する、防水部6での応力緩和による防水性向上の効果を有効に利用する等の観点から、導体断面積としては、0.5mm2以上、5mm2以下の範囲を例示することができる。また、絶縁被覆42の厚さとしては、0.2mm以上、0.7mm以下の範囲を例示することができる。
【0034】
防水部6を構成する樹脂材料も、絶縁性のポリマー材料であれば、特に種類を限定されるものではない。しかし、電線間充填部61を有する防水部6を簡便に形成する観点から、熱可塑性樹脂や各種硬化性樹脂等、流動性の高い状態で所定の箇所に配置した後、固化させることで、防水部6を形成できるものであることが好ましい。特に、樹脂材料として、硬化性樹脂を用いることが好ましい。硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、および二液反応硬化性樹脂等を例示することができる。防水部6の形成の簡便性の観点から、これらの樹脂の中でも、光硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0035】
防水部6を構成する樹脂材料の樹脂種についても、特に限定されるものではないが、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を例示することができる。中でも、アクリル系樹脂を用いることが好適である。光硬化性のアクリル系樹脂としては、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂等を例示することができる。防水部6を構成する樹脂材料としては、1種のみを用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、樹脂材料には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、反応開始剤、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0036】
ワイヤーハーネス1がシート体7を備える場合に、シート体7を構成する材料も、絶縁性のポリマー材料であれば、特に限定されるものではない。ポリマー材料としては、ポリプロピレン等のポリオレフィン、PVC等のハロゲン系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミドを例示することができる。ポリマー材料には、適宜、各種添加剤が添加されてもよい。また、防水部6を介して、シート体7を、スプライス部5の外周の所定の領域に配置し、固定する際の簡便性の観点から、シート体7は、接着剤または粘着剤が配置された接着層を有する接着テープとして構成されていることが好ましい。この場合には、接着層が設けられた面が、防水部6に接する面となる。また、防水部6を構成する樹脂材料が光硬化性樹脂である場合には、シート体7を介した光照射によって、樹脂材料を硬化させられるように、シート体7は、樹脂材料の硬化に用いる光を透過する、透明な材料よりなることが好ましい。
【0037】
<防水部の構成>
ここで、ワイヤーハーネス1に設けられる防水部6について、詳細に説明する。上記のように、防水部6は、ワイヤーハーネス1において、スプライス部5と、第一電線束2および第二電線束3の被覆域21,31を、樹脂材料で一体に被覆するものである。
【0038】
第一電線束2の被覆域21を覆う領域において、防水部6には、電線間充填部61が形成されている。
図2Aおよび
図2Bに示すように、電線間充填部61においては、第一電線束2を構成する電線4のうち、少なくとも1本の全周を被覆して、樹脂材料が電線4の間の領域に充填されている。ここで、樹脂材料が電線4の全周を被覆している状態とは、1本の電線4の外周を、他の電線4を間に介することなく、樹脂材料が連続的に取り囲んでいる状態を指す。つまり、電線間充填部61が形成された位置において、少なくとも1本の電線4は、隣接する電線4と直接接触しておらず、その電線4の絶縁被覆42の外周面に、全周にわたって、樹脂材料が接触した状態となっている。
【0039】
電線間充填部61が形成された位置において、全周にわたって樹脂材料が配置された電線4の本数は、1本以上あれば、特に限定されるものではない。
図2Aに示した形態では、3本全ての電線4が、隣接する2本の電線4と直接接触しておらず、3本それぞれの電線4の全周を被覆して、樹脂材料が配置されている。つまり、各電線4の間の領域の全域に、樹脂材料が充填されている。一方、
図2Bに示した形態では、左側の2本の電線4は、相互に接触しており、それぞれ、全周を樹脂材料に覆われたものとはなっていないが、右側の電線4は、他の2本の電線4と接触しておらず、全周を樹脂材料に覆われた状態となっている。
【0040】
本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、スプライス部5および被覆域21,31を被覆する防水部6が、第一電線束2の被覆域21の位置に電線間充填部61を有していることにより、防水部6によるスプライス部5に対する防水性を、高めることができる。つまり、被覆域21において、第一電線束2を構成する電線4のうち、少なくとも1本の電線4が隣接する電線4と接触せず、隣接する電線4との間の領域を含めて、全周を樹脂材料に囲まれていることにより、全電線4が隣接する電線4と直接接触し、電線間に樹脂材料が充填された領域を十分に有さない場合と比較して、高い防水性を発揮することができる。電線間充填部61の存在による防水性の向上には、2つの機構が想定される。
【0041】
第一の機構としては、防水部6と電線4の間の接触面積の増大による、密着力の強化が挙げられる。つまり、電線間充填部61において、少なくとも1本の電線4の全周に接触して、樹脂材料が配置されていることにより、各電線4の周方向に沿って、樹脂材料が配置されていない領域が存在する場合と比較して、樹脂材料が、第一電線束2を構成する電線4の絶縁被覆42に接触する接触面の総面積が、大きくなる。すると、樹脂材料より構成される防水部6全体として、電線4に対する密着力が大きくなる。その結果、防水部6が、高い防水性を発揮するものとなる。
【0042】
第二の機構としては、樹脂材料内での応力緩和による、温度変化の影響の低減が挙げられる。ワイヤーハーネス1において、スプライス部5、あるいはその近傍の部位が温度変化を受けると、防水部6および電線4の絶縁被覆42が、膨張や収縮を起こす。しかし、防水部6と絶縁被覆42は、通常は異なる材料より構成されており、温度変化に対する膨張や収縮の挙動は、相互に異なる。すると、温度変化を受けた際に、防水部6と絶縁被覆42が、相互の変形に追随しにくくなくなり、防水部6と絶縁被覆42の間に応力が発生する。その応力によって、絶縁被覆42の表面から、防水部6が剥離してしまう場合がある。特に、防水部6および絶縁被覆42が加熱を受けた後、放冷される際の収縮に伴って、防水部6の剥離が生じやすい。防水材として一般的に使用される各種硬化性樹脂は、PVCやポリオレフィン等、電線4の絶縁被覆42として多用される材料よりも、熱収縮率が小さい場合が多く、そのような硬化性材料を用いて防水部6を構成した場合に、絶縁被覆42の収縮に防水部6が追随しにくいからである。
【0043】
しかし、本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、防水部6が電線間充填部61を有し、第一電線束2の被覆域21において、電線4の間の領域に樹脂材料が充填されている。つまり、各電線4が相互に接触し、電線4の間の領域に樹脂材料が十分に充填されていない場合と比較して、防水部6を構成する樹脂材料の総量が多くなっている。このことは、応力緩和に寄与できる樹脂材料の量が多いことを意味し、スプライス部5やその近傍で温度変化が起こった場合にも、温度変化によって防水部6と絶縁被覆42の間に生じる応力を、防水部6を構成する樹脂材料の中で効果的に緩和することができる。その結果、温度変化を受けても、防水部6と絶縁被覆42の間に剥離が生じにくく、防水部6が高い防水性を示す状態が、温度変化を経ても、維持されやすくなる。
【0044】
このように、本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、防水部6が、電線間充填部61を有することにより、高い防水性を示し、温度変化を経ても、その高い防水性を維持することができる。温度変化を経ても、高い防水性を維持できることから、本ワイヤーハーネス1は、自動車内等、水と接触する可能性があり、しかも温度変化を頻繁に受ける環境に、好適に適用することができる。上記のように、電線間充填部61においては、第一電線束2を構成する電線4のうち、少なくとも1本の全周を被覆して、樹脂材料が配置されていれば、そのように全周を樹脂材料に被覆される電線4の数は限定されず、
図2Bに示すように、1本のみであっても、防水性向上の効果を、十分に得ることができる。しかし、防水性を一層高める観点からは、そのような電線4の数が多いほど好ましい。
図2Aに示したように、第一電線束2を構成する全ての電線4の全周を、それぞれ樹脂材料が被覆している形態が、最も好ましい。防水部6と電線4の絶縁被覆42との接触面積が大きくなるとともに、応力緩和に寄与する樹脂材料の量が多くなるからである。
【0045】
被覆域21の中で、防水部6に電線間充填部61が設けられる位置は特に限定されず、ワイヤーハーネス1の軸線方向に沿って、被覆域21の全域にわたって電線間充填部61が形成されていても、一部の領域にのみ形成されていてもよい。しかし、防水部6が端縁62またはその近傍から剥離し、スプライス部5への水の侵入を阻止できなくなる事態を効果的に抑制する観点から、電線間充填部61は、少なくとも、スプライス部5から、ある程度、防水部端縁62側へと離れた位置に、形成されていることが好ましい。例えば、少なくとも、スプライス部5の中央C(ワイヤーハーネス1に沿って、スプライス部5の中央に当たる位置、あるいは、圧着端子51や溶接部、はんだ付け部等、接合手段の中央の位置)からの距離Laが10mmの位置に設定された基準位置Pにおいて、防水部6が、被覆域21を被覆して存在しており、かつ、電線間充填部61が形成されていることが好ましい。あるいは、少なくとも、スプライス部5に接する被覆域21の端縁22からの距離Lbが2mmの位置に設定された基準位置Pにおいて、防水部6が、被覆域21を被覆しており、かつ、電線間充填部61が形成されていることが好ましい。なお、電線間充填部61の有無を判定する基準位置Pは、スプライス部5の中央Cからの距離Laに基づいて定めても、被覆域21の端縁22からの距離Lbに基づいて定めても、いずれでもよいが、スプライス部5の中央Cから被覆域21の端縁22までの距離が10mm以上である場合に等には、被覆域21の端縁22からの距離Lbに基づいて、基準位置Pを定めるとよい。
【0046】
さらに、上記基準位置Pにおいては、第一電線束2を構成する電線4から選択される少なくとも2本の間に、絶縁被覆42の厚さの3%以上の距離dを有する間隙が存在し、その間隙を充填して、電線間充填部61が形成されているとよい。ここで、間隙の距離dは、着目する2本の電線4の外周面の間の距離を指し、その2本の電線4の間の間隔が最も狭くなった位置で計測される。また、絶縁被覆42の厚さは、導体41の全周に沿った厚さの平均値として定義される。
図2Aに示した形態では、3本全ての電線4の相互間に、距離dが絶縁被覆42の厚さの3%以上となった間隙が形成され、樹脂材料が充填されている。
図2Bに示した形態では、1本の電線4と、他の2本の電線4のそれぞれの間に、間隙が形成され、距離dが絶縁被覆42の厚さの3%以上となった間隙が形成され、樹脂材料が充填されている。
【0047】
特に好ましいのは、基準位置Pにおいて、
図2Aのように、第一電線束2を構成する全ての電線4が、隣接する電線4との間に間隙を有し、それらの間隙に樹脂材料が充填されている形態である。この場合に、少なくとも、距離dの最大値が、絶縁被覆42の厚さの3%以上であるとよい。ここで、距離dの最大値とは、電線束2を構成する複数の電線4のうち、任意の1本と、その1本の電線4に隣接した他の1本の電線4との間の距離dのうち、全電線4中で最大のものを指す。さらに好ましくは、距離dの最大値のみならず、全電線4について、隣接する電線4との間の距離dが、絶縁被覆42の厚さの3%以上であるとよい。
【0048】
以上のように、電線4の間の領域に充填される樹脂材料の量を、絶縁被覆42の厚さに対する割合として規定しておくことで、絶縁被覆42の体積に対して、十分な量の体積の樹脂材料で、絶縁被覆42と防水部6の間に発生した応力の緩和を図ることができる。その結果、絶縁被覆42と防水部6の間に、温度変化時に発生する応力を、防水部6を構成する樹脂材料で効果的に緩和し、防水部6の剥離を抑制することができる。さらに好ましくは、上記で絶縁被覆42の厚さの3%以上とした距離d(の最大値)は、絶縁被覆42の厚さの10%以上、また20%以上であるとよい。距離d(の最大値)に、上限は特に設けられないが、過剰量の樹脂材料の使用や、防水部6の大径化を回避する観点から、絶縁被覆42の厚さの300%以下、さらには100%以下であるとよい。また、電線4の外径以下であるとよい。
【0049】
また、電線4の間の距離は、防水部6の端縁62よりも防水部6の内側の位置、つまりスプライス部5側の位置に設定した基準位置Pにおいて規定する代わりに、防水部6の端縁62の位置において規定することもできる。端縁62の位置では、基準位置Pよりも、スプライス部5から離れていることに対応して、基準位置Pにおけるよりも、電線4の距離を大きく確保しやすい。例えば、端縁62の位置において、第一電線束2を構成する電線4から選択される少なくとも2本の間に形成される間隙の距離、あるいは、第一電線束2を構成する全ての電線4と、隣接する電線4との間に間隙が形成されている形態における、間隙の距離またはその最大値が、絶縁被覆42の厚さの50%以上、さらには150%以上であることが好ましい。
【0050】
スプライス部5を水等との接触から保護するために、防水部6は、スプライス部5の全周を被覆している必要があるが、スプライス部5のみならず、両側の被覆域21,31においても、防水部6が全周を被覆していることが好ましい。防水部6の外周にシート体7が配置される場合にも、シート体7とスプライス部5の間、またシート体7と被覆域21,31との間に、スプライス部5および被覆域21,31の全周を被覆して、樹脂材料が配置され、防水部6が形成されていることが好ましい。スプライス部5および被覆域21,31の全周に、防水部6が形成されることで、防水性を高めやすく、また、外部の物体等との接触による損傷の発生や絶縁性の低下から、スプライス部5を効果的に保護することができる。なお、これらの効果を十分に利用する観点から、被覆域21,31の外周における防水部6の厚さは、被覆域21,31を構成する電線4の表面から防水部6の外縁までの距離tにして、電線4の外径の50%以上あればよく、さらには100%以上、また120%以上、150%以上あれば、一層好ましい。
【0051】
<その他の形態>
以上に説明した形態においては、複数の電線4を含む第一電線束2と、1本の電線4を含む第二電線束3を有し、それらの電線束2,3の間にスプライス部5を有するワイヤーハーネス1において、スプライス部5を含む領域に防水部6を設け、その防水部6のうち、第一電線束2の被覆域21に当たる領域に、電線間充填部61を形成している。しかし、スプライス部5に隣接する被覆域において、電線束を構成する複数の電線4のうち少なくとも1本の全周を被覆して、樹脂材料を電線の間の領域に充填した電線間充填部61を形成するものであれば、ワイヤーハーネス1および防水部6の具体的な形態は、特に限定されない。例えば、上記の形態において、第二電線束3も、1本ではなく、複数の電線4を含む場合には、少なくとも第一電線束2の被覆域21、あるいは第二電線束3の被覆域31に、電線間充填部61を形成しておけば、電線間充填部61を形成しない場合と比較して、防水部6による防水性を高めることができるが、第一電線束2の被覆域21と第二電線束3の被覆域31の両方に、電線間充填部61を形成すれば、防水部6による防水性をさらに高めることができる。
【0052】
また、上記のように、ワイヤーハーネス1の中間部で複数の電線4を接合した中間スプライス部に限らず、ワイヤーハーネス1の端部で複数の電線4を接合した端末スプライス部においても、同様に、スプライス部5を被覆する防水部6に、電線間充填部61を設けることで、防水性を高めることができる。端末スプライス部は、キャップに収容され、そのキャップの内部の空間に樹脂材料を充填することで、防水が施されることが多いが、この場合に、キャップの内部の空間において、電線間充填部61を形成すればよい。あるいは、複数の電線4が、端末部において、共通の接続端子に一括して接続される場合があるが、この場合にも、接続端子に複数の電線4をかしめ固定している接合部を樹脂材料で被覆して防水部6を形成し、その防水部6の中に、電線間充填部61を設ければよい。いずれの形態においても、電線束を構成する電線4の本数は、防水部6での応力緩和による防水性向上の効果を大きくする等の観点から、3本以上、20本以下とすることが好ましい。
【0053】
[2]ワイヤーハーネスの製造方法
次に、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスの製造方法について説明する。
【0054】
<製造方法の概略>
本製造方法においては、(1)接合工程と、(2)離隔工程と、(3)防水工程とを、この順に実行することで、上記で説明した、スプライス部5を防水部6で被覆したワイヤーハーネス1を製造する。以下、
図3および
図4A~4E各工程について順に説明する。
【0055】
(1)接合工程
接合工程においては、複数の電線4をスプライス部5で接合したハーネス前駆体1’を作製する。まず、所定の長さに切り出した電線4を、必要本数準備する。各電線4において、絶縁被覆42を除去し、導体41を露出させて、露出部を形成する。そして、それらの電線4を束にして電線束2,3を形成する。
図3に示した形態では、1本の本線の中間部と、2本の枝線の端末部に、それぞれ露出部を形成して、それら3本の電線を束にすることで、3本の電線4を束にした第一電線束2と、1本の電線4よりなる第二電線束3を有する状態としている。さらに、各電線4の露出部を、圧着端子51等の接合手段を用いて接合してスプライス部5を形成し、ハーネス前駆体1’とする。図示した形態では、第一電線束2と第二電線束3を反対方向に延びるように配置して、それら電線束2,3の間にスプライス部5を形成することにより、1本の本線の中間部に2本の枝線が接合され、本線と2本の枝線が第一電線束2を構成するとともに、本線が第二電線束3を構成するようにしている。
【0056】
(2)離隔工程
離隔工程においては、接合工程において得られたハーネス前駆体1’において、第一電線束2を構成する複数の電線4の間に、距離を設ける。つまり、第一電線束2のうち、被覆域21として、次の防水工程で樹脂材料に被覆されるべき領域において、第一電線束2を構成する電線4のうち、少なくとも2本を、相互に接触しない状態とし、それら2本の間に距離を設ける。好ましくは、第一電線束2を構成する全ての電線4を、相互に接触しない状態とし、相互間に距離を設けるとよい。この離隔工程において、電線4の間に距離を設けると、その距離を設けた状態は、次の防水工程が完了するまで維持される。
【0057】
離隔工程において、電線4の間に距離を設けた状態を確実に形成し、さらにその状態を安定に維持するために、治具9を用いることが好ましい。治具9の構造については後に具体例を挙げて説明するが、治具9は、第一電線束2を構成する複数の電線4の間に介在する介在部91を有している。介在部91を電線4の間に介在させることで、それらの電線4の間に距離を設けることができる。
図3の形態においては、第一電線束2を構成する3本の電線4の全ての間に、治具9の介在部91が介在され、距離が設けられている。
【0058】
スプライス部5とともに防水部6に被覆される被覆域21において、電線4の間に十分な距離を形成できるように、また、防水部6を形成する際に治具9が妨げとならないように、治具9は、防水部6を形成する予定の位置よりも、スプライス部5から第一電線束2の基端側(
図3中左側)に離れた位置に、配置する。さらに、防水部6の外周にシート体7を配置する場合には、治具9を配置する位置は、シート体7が配置される位置よりも、スプライス部5から第一電線束2の基端側に離れた位置となる。
【0059】
(3)防水工程
離隔工程において、ハーネス前駆体1’の第一電線束2を構成する電線4の間に距離を設けると、その状態のまま、次の防水工程を実行する。離隔工程において、治具9を使用した場合には、防水工程を実施する間、治具9もそのまま第一の電線束
2に設置した状態とする。防水工程においては、ハーネス前駆体1’のスプライス部5と被覆域21,31とを樹脂材料で一体に被覆して、防水部6を形成する。
図3に示した形態では、ハーネス前駆体1’のスプライス部5と、被覆域21,31とを、全て一体に樹脂材料で被覆する。
【0060】
離隔工程によって、第一電線束2の被覆域21に相当する部位において、電線4の間に距離が設けられ、間隙が形成されていることにより、防水工程において、被覆域21を含む領域に樹脂材料を配置した際に、電線4の間の間隙にも、樹脂材料が導入される。これにより、被覆域21において、少なくとも1本の電線4の全周を被覆して樹脂材料が電線4の間の領域に充填された、電線間充填部61を有する防水部6を、形成することができる。
【0061】
樹脂材料による防水部6の形成の具体的な方法は、樹脂材料の種類や特性、形成すべき防水部6の形状や位置等に応じて、適宜選択すればよい。しかし、固化して防水部6を構成する樹脂材料となる樹脂組成物を流動性の高い状態で準備して、スプライス部5を含む所定の位置に配置してから、その樹脂組成物を固化させることによって、防水部6を形成すれば、防水工程を簡便に実行し、スプライス部5および被覆域21,31に対して密着した防水部6を形成しやすい。中でも、光硬化性樹脂組成物を、スプライス部5を含む所定の位置に配置してから、光照射によって組成物を硬化させ、防水部6を形成することが好ましい。
【0062】
また、光硬化性樹脂組成物をはじめ、流動性の高い材料を用いて防水工程を実行する場合に、材料の取り扱い性を高める観点から、シート体7を用いることが好ましい。シート体7を用いた防水工程の一例を、
図4A~
図4Eに示す。最初に、
図4Aのシート準備工程において、シート体7を準備する。ここで用いるシート体7は、最終的に製造されるワイヤーハーネス1において、筒状に曲げられて防水部6を取り囲むシート体7を面状に広げたものに対応する。シート体7が、接着層を有する接着テープとして構成されている場合には、接着層を、表面つまり上方に向く面としておく。
【0063】
次に、
図4Bの樹脂配置工程において、シート体7の表面に、未固化の状態にある液状の樹脂組成物6’を配置する。そして、
図4Cのハーネス配置工程において、ハーネス前駆体1’を、樹脂組成物6’を配置したシート体7の表面に載置する。この際、ハーネス前駆体1’のスプライス部5および被覆域21,31を、樹脂組成物6’が存在する位置に配置するようにする。
【0064】
次に、
図4Dの包囲工程において、ハーネス前駆体1’のスプライス部5および被覆域21,31を、樹脂組成物6’が配置されたシート体7の面で包囲する。この際、シート体7の面上に配置された樹脂組成物6’が、スプライス部5および被覆域21,31の全周に行き渡るように、ハーネス前駆体1’を周に沿ってシート体7で包み込むようにするとよい。シート体7が、接着テープとして構成されている場合には、接着層による接着を利用して、ハーネス前駆体1’を包囲した状態を安定に保持しやすくなる。この包囲工程までは、樹脂組成物6’は、流動性の高い未固化の状態にある。
【0065】
最後に、
図4Eの固化工程において、シート体7に包囲された樹脂組成物6’を固化させ、防水部6とする。固化は、樹脂組成物6’の種類に応じた方法で行えばよい。樹脂組成物6’が光硬化性樹脂である場合に、硬化に用いる光を透過する材料を用いてシート体7を構成しておけば、シート体7の外側から、紫外線(UV)等の光を照射することで、シート体7に包囲された領域の中で樹脂組成物6’を硬化させ、
図1および
図2A,
図2Bに示すように、防水部6の外周にシート体7が密着した構造を形成することができる。先の離隔工程に治具9を用いている場合には、その治具9は、少なくとも包囲工程が完了するまで、好ましくは固化工程が完了するまで、配置したままにしておき、その後除去する。
【0066】
<離隔工程に用いる治具>
ここで、離隔工程に用いる治具9の構造について、例を挙げて説明する。治具9は、電線束2を構成する電線4の間に介在することができる介在部91を有していれば、どのような具体的形状を有するものであっても構わないが、ここでは、柱状の治具9について説明する。
図5Bに示すように、治具9(9Y)は、柱状に形成されており、柱形状の端面の形状の異なる3種の例について、以下に説明する。
【0067】
第一の例として、
図5Aおよび
図5Bに、Y型治具9Yの端面形状および全体形状を示す。Y型治具9Yは、円柱形状から、電線収容部92に相当する部位を除去した形状を有しており、柱形状の中心軸から放射状に、複数の介在部91が、外側に向かって突出している。介在部91は、中心軸の周りに、等角度間隔で配置されている。隣接する介在部91の間の部位は、中心軸に向かって滑らかな曲面状に陥没した、電線収容部92となっている。電線収容部92の曲面形状は、ワイヤーハーネス1を構成する電線4を1本収容可能な形状として設計されている。また、介在部91および電線収容部92の数は、電線束2を構成する電線4の本数(図示した形態では3本)に一致している。
【0068】
ワイヤーハーネス1を製造する際の離隔工程においては、
図6Aに断面図を示すように、電線束2を構成する電線4を1本ずつ、各電線収容部92に配置する。これにより、各電線4の間に、介在部91が介在される。その結果、各電線4の間に、距離が設けられるようになる。Y型治具9Yを用いると、防水工程を経て形成される防水部6において、
図2Aに示すように、電線束2を構成する複数の電線4が、円環状に近い相互配置をとり、それら各電線4の全周を樹脂材料によって被覆した形態の電線間充填部61が、形成されやすい。
【0069】
治具9の第二の例として、
図5Cに、I型治具9Iの端面形状を示す。I型治具9Iも、円柱形状から、電線収容部92a,92bに相当する部位を除去した形状を有している。I型治具9Iにおいては、柱形状の中央部に、隔壁状の介在部91が設けられている。そして、介在部91を挟んで両側に、電線4を収容可能な電線収容部92a,92bが設けられている。電線収容部92a,92bの収容幅(
図5Cの縦方向の寸法)は、介在部91から外側に向かって突出した、一対の収容部壁93,93の間隔によって規定されており、
図5Cの左側に表示した収容部92aは、一対の収容部壁93,93の間隔が広い大型収容部となっており、
図6Bに示すように、2本の電線4を並列して収容することができる。一方、
図5Cの右側に表示した収容部92bは、一対の収容部壁93,93の間隔が
狭い小型収容部となっており、
図6Bに示すように、電線4を1本のみ収容することができる。
【0070】
I型治具9Iを用いる場合には、
図6Bに示すように、大型収容部92aに並列して配置された複数の電線4の間には、距離が設けられにくいが、介在部91に隔てられた2つの電線収容部92a,92bに収容された2つの電線群の間には、距離が確保される。I型治具9Iを用いると、防水工程を経て形成される防水部6において、
図2Bに示すように、電線束2を構成する一部の電線4の全周が樹脂材料によって被覆された形態の電線間充填部61が、形成されやすい。それぞれの電線収容部92a,92bの収容幅は、2つの電線収容部92a,92bに収容される電線4の数の合計が、電線束2を構成する電線4の総数に一致するように定めればよい。図示した形態においては、大型収容部92aに2本、小型収容部92bに1本で、合計3本の電線4を収容可能となっている。電線束2を構成する電線4が2本である場合には、2つの電線収容部を、ともに電線4を1本のみ収容する小型収容部92bとして構成すればよい。電線束2を構成する電線4が4本以上である場合には、2つの電線収容部を、ともに複数の電線4を収容する大型収容部92aとして構成すればよい。また、大型収容部92aの収容幅は、電線4を、2本に限らず3本以上収容できるものであってもよく、収容すべき電線4の本数の増加に伴って、大きくすればよい。
【0071】
治具9の第三の例として、
図5Dに、E型治具9Eの端面形状を示す。E型治具9Eは、四角柱形状から、電線収容部92に相当する部位を除去した形状を有している。E型治具9Eにおいては、複数の介在部91が、平行に並べて設けられている。そして、隣接する介在部91の間の部位が、滑らかに陥没した電線収容部92となっている。各電線収容部92は、電線4を1本収容可能となっており、電線収容部92の数は、電線束2を構成する電線4の本数に一致している。
【0072】
E型治具9Eを用いる場合には、
図6Cに示すように、一列に並べられた複数の電線4の間に、介在部91が介在し、隣接する電線4との間に距離が設けられることになる。E型治具9Eを用いると、防水工程を経て形成される防水部6において、一列に並んだ複数の電線4のそれぞれの全周が、樹脂材料によって被覆された形態の電線間充填部61が、形成されやすい。なお、
図3に表示した治具9は、E型治具9Eに対応している。E型治具9Eを用いる場合には、各電線収容部92に、それぞれ電線4を1本のみ収容する形態が主に想定されるが、電線収容部92の深さ(
図5Dの縦方向の寸法)が十分大きい場合には、1つの電線収容部92に、複数の電線4を積層して収容してもよい。
【0073】
ここで例示した3種の治具9Y,9I,9Eのいずれを用いるかは、電線束2を構成する電線4の本数や、形成すべき電線束2の全体形状等に応じて、適宜選択すればよい。治具9の製造性、および治具9への電線4の配置しやすさの観点からは、3種のうち、I型治具9Iが最も優れている。しかし、I型治具9Iを用いる場合には、上記のように、大型収容部92aに収容された複数の電線4の相互間に間隔を設けることは難しく、防水工程において、それらの電線4の間に十分に樹脂材料を行き渡らせて、電線間充填部61を形成することが難しい。よって、電線束2を構成する電線4の本数が多い場合や、電線束2を構成する電線4のうち、多数の電線4の間に間隙を形成し、樹脂材料を充填したい場合には、I型治具9Iよりも、Y型治具9YやE型治具9Eを用いることが好ましい。特に、E型治具9Eは、介在部91および電線収容部92を多数並列させて設けることにより、電線4の本数の増加に、制限なく対応することができる。ただし、E型治具9Eを用いる場合には、電線束2を構成する各電線4が、一列に並ぶことになるので、電線束2が幅の大きな領域を占めることになる。そこで、電線束2を構成する電線4の本数が極端に多くない場合には、Y型治具9Yを用いることが最も好ましいと言える。Y型治具9Yを用いれば、電線束2を円形から大きく逸脱しない形状にまとめながら、各電線4の間に電線間充填部61を有する防水部6を形成しやすい。3種いずれの治具9を用いる場合にも、介在部91の幅w(介在部91の両側の電線収容部92(92a,92b)を隔てる距離の最小値)を大きくするほど、基準位置Pにおいて、電線4の間に設ける間隙の距離dを、大きくすることができる。
【0074】
上記のように、治具9の具体的な形状は、ここで説明した3種の形態に限られるものではない。例えば、Y型治具9YやI型治具9Iに、E型治具9Eの形状を組み合わせたような治具も考えうる。つまり、Y型治具9Yの各電線収容部92や、I型治具9Iの大型収容部92aの中の空間を、複数に仕切るようにして、E型治具9Eの介在部91に類似した隔壁状の介在部91を、1つまたは複数設けておけばよい。このようにすることで、Y型治具9Yの各電線収容部92や、I型治具9Iの大型収容部92aの中に、複数の電線4を、相互間に距離を設けた状態で、配置することができる。また、離隔工程において用いる治具9の数は、1つに限られず、複数の治具9を電線束2の軸線方向に並べて用いてもよい。例えば、I型治具9Iの大型収容部92aに収容した電線4のように、1つの治具9では、電線4の間に十分に距離を設けられない場合に、その治具9に並べて配置した別の治具9の介在部91を、それらの電線4の間に配置することで、それらの電線4の間にも、十分な距離を設けやすくなる。
【0075】
<防水工程の変形例>
上記でワイヤーハーネス1の構造について説明したように、防水部6の外周にシート体7を設ける場合には、防水性および損傷や絶縁不良に対する保護性を高める観点から、シート体7とスプライス部5の間、またシート体7と被覆域21,31との間に、スプライス部5および被覆域21,31の全周を被覆して、樹脂材料が配置された防水部6となっていることが好ましい。しかし、防水工程において、防水部6の形成に用いる樹脂組成物6’の流動性が高い場合等、シート体7と、スプライス部5および被覆域21,31との間に、十分な量の樹脂組成物6’を留まらせた状態で固化させ、防水部6を形成することが難しい場合がある。
【0076】
例えば、上記で
図4A~
図4Eに基づいて説明した防水工程においては、
図4Bの樹脂配置工程において、液状の樹脂組成物6’をシート体7に配置した後、
図4Cのハーネス配置工程において、樹脂組成物6’の上からハーネス前駆体1’を載置しているが、樹脂組成物6’の流動性とハーネス前駆体1’に作用する重力によって、ハーネス前駆体1’のスプライス部5や被覆域21,31が、樹脂組成物6’を周囲に押し出すように排除して、シート体7に直接接触する場合がある。この状態で、続く包囲工程や固化工程を実施すると、形成された防水部6のうち、ハーネス配置工程の段階で重力方向下方となっていた部位において、スプライス部5や被覆域21,31とシート体7との間に、樹脂材料が配置されていない領域、あるいは樹脂材料の層が極端に薄くなった領域が生じる可能性がある。そこで、シート体7を用いる場合に、製造工程において重力方向下方に配置されていた部位を含め、スプライス部5および被覆域21,31の全周を被覆して、樹脂材料が配置された防水部6を形成しやすい防水工程の例を、以下に2とおり挙げる。以下では、
図4A~
図4Eを参照して説明した各工程と共通する部分については、詳細な説明は省略する。
【0077】
(変形例1:2段階の固化による方法)
第一の変形例として、樹脂組成物6’の固化を、1段階で行うのではなく、2段階に分けて行う形態について説明する。
図7A~
図7Gに、2段階での固化を利用した防水工程について示している。
【0078】
まず、
図7Aのシート準備工程の後に、
図7Bの第一樹脂配置工程を実施する。第一樹脂配置工程においては、シート体7の面に、固化して防水部6を構成する樹脂材料となる樹脂組成物6’を配置する。第一樹脂配置工程は、
図4Bに示した、樹脂組成物6’の固化を1段階で行う場合の樹脂配置工程と同様に行えばよいが、その場合よりも、配置する樹脂組成物6’の量を少なくしておくことが好ましい。
【0079】
次に、
図7Cの第一固化工程において、第一樹脂配置工程で配置した樹脂組成物6’を固化させ、第一固化部6aを形成する。固化は、樹脂組成物6’の種類に応じた方法で行えばよい。樹脂組成物6’が光硬化性樹脂である場合に、紫外線(UV)等の光を照射すればよい。その光を透過する材料を用いてシート体7を構成しておけば、シート体7の裏側から光照射を行い、樹脂組成物6’を硬化させることができる。
【0080】
樹脂組成物6’の固化が完了した後、
図7Dの第二樹脂配置工程を実施する。第二樹脂配置工程では、シート体7の表面において、第一固化工程において形成した第一固化部6aの表面を含む領域に、固化して防水部6を構成する樹脂材料となる樹脂組成物6’を配置する。ここで配置する樹脂組成物6’は、第一樹脂配置工程において配置した樹脂組成物6’と、異なっていてもよいが、製造工程および製品構造の簡素性の観点から、同じ樹脂組成物6’を用いることが好ましい。また、製造されるワイヤーハーネス1における防水性を高める観点から、第二樹脂配置工程で配置される樹脂組成物6’の量は、第一樹脂配置工程で配置され、第一固化工程で固化された樹脂組成物6’の量よりも、多いことが好ましい。なお、第一固化工程において、第一樹脂配置工程でシート体7に配置した樹脂組成物6’の全量を固化させずに、一部を未固化の状態で、固化した第一固化部6aの層の上に残存させることができるならば、第二樹脂配置工程において、新たに樹脂組成物6’を配置する工程を省略し、その残存した未固化の樹脂組成物6’を、第二樹脂配置工程において配置される樹脂組成物6’とみなして利用することもできる。
【0081】
次に、
図7Eのハーネス配置工程において、シート体7の表面にハーネス前駆体1’を載置する。この際、ハーネス前駆体1’のスプライス部5および被覆域21,31が、第二樹脂配置工程で配置した未固化の樹脂組成物6’の層を介して、第一固化部6aの上に配置されるように、ハーネス前駆体1’の位置を調節する。
【0082】
次に、
図7Fの包囲工程と、
図7Gの第二固化工程を実施する。それらの工程は、1段階で樹脂組成物6’の固化を行う場合について、
図4Dおよび
図4Eに示した包囲工程および固化工程と、同様に行えばよい。ただし、第一樹脂配置工程で配置した樹脂組成物6’は、先の第一固化工程において既に固化されており、第二固化工程において固化されるのは、第二樹脂配置工程において配置された樹脂組成物6’のみである。第二樹脂配置工程において配置された樹脂組成物6’は、固化して、第二固化部6bとなる。
【0083】
このように、樹脂組成物6’の配置および固化を2段階に分けて行うことで、第一固化工程で形成された第一固化部6aと、第二固化工程で形成された第二固化部6bとが、シート体7に包囲され、スプライス部5および被覆域21,31を囲む領域に形成されることになる。第二固化工程を経て、第一固化部6aと第二固化部6bは、相互に接合された状態となる。製造されたワイヤーハーネス1は、スプライス部5および被覆域21,31を被覆する防水部6として、第一固化部6aと第二固化部6bの集合体を有するものとなる。第一固化部6aと第二固化部6bが同じ樹脂組成物6’より形成される場合には、それら2つの固化部6a,6bの間の境界は、多くの場合、肉眼では視認されないものとなる。
【0084】
製造されるワイヤーハーネス1の防水部6において、第一電線束2を構成する電線4の間の間隙に充填され、電線間充填部61を構成するのは、第一固化部6aではなく、第二固化部6bを構成する樹脂材料である。第二固化部6bとなる樹脂組成物6’のみが、未固化で流動性の高い状態でハーネス前駆体1’と接触されるからである。このように、主に第二固化部6bが、防水部6の防水性の確保に寄与する。
【0085】
一方で、第一固化部6aは、シート体7と、スプライス部5および被覆域21,31との間に、樹脂材料の層を確保し、スプライス部5を、物理的損傷や絶縁性低下から保護するのに、寄与するものとなる。第二樹脂配置工程において配置した液状の樹脂組成物6’の上に、ハーネス配置工程でハーネス前駆体1’を載置するが、この際、もし第一固化部6aがシート体7の表面に形成されていないとすれば、樹脂組成物6’の流動性とハーネス前駆体1’に作用する重力によって、ハーネス前駆体1’のスプライス部5や被覆域21,31が、樹脂組成物6’を周囲に押し出すように排除して、シート体7に直接接触する可能性がある。しかし、液状の樹脂組成物6’の下方に、既に固化した第一固化部6aが存在していることにより、液状の樹脂組成物6’の排除が起こったとしても、その排除が起こった位置において、スプライス部5や被覆域21,31は、シート体7に直接接触するのではなく、第一固化部6aに接触した状態となる。つまり、第一固化部6aによって、スプライス部5および被覆域21,31とシート体7との間に、樹脂材料よりなる層の厚みが確保される。その状態で、続く包囲工程および固化工程を経ることで、ハーネス配置工程まで重力方向下方となっていた部位も含め、スプライス部5および被覆域21,31とシート体7との間に、スプライス部5および被覆域21,31の全周を樹脂材料によって被覆する防水部6を、高確度に形成することができる。
【0086】
(変形例2:スペーサを用いる方法)
第二の変形例として、防水部6の形成に、スペーサを用いる形態について説明する。
図8A~
図8Fに、スペーサを利用した防水工程について示している。
【0087】
図8Aのシート準備工程の後、
図8Bのスペーサ配置工程を実行する。スペーサ配置工程においては、シート体7の表面に、1対のスペーサ8,8を配置する。スペーサ8,8は、シート体7に、シート体7の表面から隆起した構造を付与することができる部材であり、シート体7の幅方向(ワイヤーハーネス1の軸線方向に直交する方向)に沿って、ほぼ全域を占めて配置される。スペーサ8,8は、シート体7の長さ方向(ワイヤーハーネス1の軸線方向に対応)に、相互に間隔を空けて配置される。スペーサ8,8の間隔は、ワイヤーハーネス1において、防水部6を形成したい領域の長さに対応させておく。
【0088】
スペーサ8,8は、後の包囲工程において、シート体7の曲げに追随することができる可撓性を有するものであれば、どのような材料で構成されてもよく、紐や糸、テープ等を、シート体7の表面に載置または固定する形態を、例示することができる。あるいは、防水部6の形成に用いる樹脂組成物6’等、硬化性材料を用いて、スペーサ8,8をシート体7の表面に作製してもよい。またあるいは、シート体7の裏面から型部材を押し当てる等して、シート体7の面を局所的に隆起させることにより、シート体7の構成材料自体から、スペーサ8,8を構成してもよい。また、シート体7の表面からのスペーサ8,8の隆起高さは、次の樹脂配置工程において、配置したい樹脂組成物6’の液面の高さ以上としておけばよく、概ね、50μm以上としておけばよい。一方、スペーサ8,8の可撓性を確保する観点等から、その隆起高さは、200μm以下としておけばよい。
【0089】
スペーサ8,8の配置が完了すると、
図8Cの樹脂配置工程において、固化して防水部6を構成する樹脂材料となる樹脂組成物6’を、シート体7の表面に配置する。この際、樹脂組成物6’は、1対のスペーサ8,8の間の領域に配置する。
【0090】
次に、
図8Dのハーネス配置工程において、シート体7の表面に、ハーネス前駆体1’を配置する。この際、スプライス部5を含んで、防水部6を形成すべき領域が、1対のスペーサ8,8の間の位置に配置されるように、1対のスペーサ8,8の上に、ハーネス前駆体1’を載置する。つまり、一方のスペーサ8に、第一電線束2を載置し、他方のスペーサ8に、第二電線束3を載置し、スプライス部5と、その両側の被覆域21,31を、1対のスペーサ8,8の間に渡した状態とする。
【0091】
そして、
図8Eの包囲工程と、
図8Fの固化工程を実施する。それらの工程は、スペーサ8,8を用いないで防水部6を形成する場合について、
図4Dおよび
図4Eに示した包囲工程および固化工程と、同様に行えばよい。ただし、包囲工程においては、スペーサ8,8も、シート体7とともに曲げられて、ハーネス前駆体1’を包囲する。固化工程を経て最終的に製造されるワイヤーハーネス1においても、スペーサ8,8が、シート体7に囲まれた領域の中に残る。
【0092】
このように、1対のスペーサ8,8を配置した間に樹脂組成物6’を配置したうえで、そのスペーサ8,8の上にハーネス前駆体1’を載置し、スペーサ8,8の間にスプライス部5および被覆域21,31が配置されるようにすることで、スプライス部5および被覆域21,31とシート体7との間に、樹脂組成物6’の層を確保することができる。ハーネス前駆体1’が、スペーサ8,8によって下方から支持されていることにより、ハーネス前駆体1’に作用する重力によって、スプライス部5および被覆域21,31が、樹脂組成物6’を排除して、直接シート体7に接触することも起こりにくい。この状態で、包囲工程と固化工程を実施することで、ハーネス配置工程まで重力方向下方となっていた部位も含め、スプライス部5および被覆域21,31とシート体7との間に、スプライス部5および被覆域21,31の全周を樹脂材料によって被覆した防水部6を、高確度に形成することができる。
【0093】
製造されるワイヤーハーネス1においては、シート体7に包囲された領域の内側にスペーサ8,8が残存するが、スペーサ8,8を、シート体7や防水部6に近い色を有する材料で形成しておけば、また、糸状等の細い形状としておけば、スペーサ8,8の存在が視認されにくくなる。逆に、シート体7および防水部6の透明性が高い場合に、スペーサ8,8を、目立ちやすい色や形状で形成しておき、視認しやすくすることが有利となる場合もある。例えば、上記のように、スペーサ8,8を用いて防水部6を形成することで、スプライス部5および被覆域21,31とシート体7との間に、樹脂組成物6’の層を確保することができるが、スペーサ8,8を視認しやすくしておくことで、防水部6がそのようにスペーサ8,8を用いて、樹脂組成物6’の層を確保しながら形成されたものであるということを、使用者等に認識させることができる。すると、製品としてのワイヤーハーネス1において、シート体7に包囲された領域の中で、樹脂材料の層がスプライス部5および被覆域21,31の全周にわたって形成されており、防水部6が高い防水性および保護性を発揮するものであるという品質保証を示すものとして、スペーサ8,8を利用することができる。また、シート体7および防水部6の透明性が高い場合に、ワイヤーハーネス1全体の中で、防水部6がどこに配置されているのか、視認しにくい場合があるが、視認しやすいスペーサ8,8を設けておくことで、ワイヤーハーネス1の使用者等に防水部6の存在を明確に認識させることができ、取り扱いにおける注意の喚起等の役割に用いることができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を示す。ここでは、電線束を構成する電線の間の距離と、防水部の防水性との関係を調べた。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0095】
[試料の作製]
まず、ワイヤーハーネスを構成する電線を準備した。電線は、銅合金の撚線よりなる導体断面積1.25mm2の導体の外周に、平均で0.3mmの厚さのポリ塩化ビニル(PVC)樹脂の絶縁被覆を有するものとした。電線の外径は、2.1mmとした。この電線を3本準備し、1本を本線、2本を枝線とした。そして、本線の中間部と、枝線の端部において、それぞれ絶縁被覆を除去し、電線導体を露出させて、露出部を形成した。
【0096】
上記で準備した本線の露出部の一方側に、2本の枝線を沿わせて束にし、3本の電線が束ねられた第一電線束と、1本の電線よりなる第二電線束を形成した。そして、
図9に示すように、銅合金製の圧着端子を用いて、第一電線束と第二電線束の間の露出部を接合し、スプライス部を形成した。このようにして、ハーネス前駆体を作製した。
【0097】
作製したハーネス前駆体に対して、スプライス部を含む領域に、防水部を形成した。試料A1~A6については、防水部を形成するに際し、ハーネス前駆体の第一電線束に、治具を取り付け、各電線の間に介在部を介在させて、電線間に距離を設けておいた。用いた治具の種類と介在部の幅(
図5A,5Cの幅w)は、表1に示すとおりとした。治具を配置する位置は、スプライス部の中央C(圧着端子の中心の位置)から、60mm離れた位置とした。試料B1については、治具を用いずに、防水部の形成を行った。
【0098】
この際、防水部を構成する樹脂組成物としては、光硬化性を有するアクリル系樹脂組成物を用いた。このアクリル系樹脂組成物は、ポリカーボネート系ウレタンアクリレートオリゴマー50質量部とイソボルニルアクリレート50質量部を混合したものに、光重合開始剤として、ジフェニル(2,4,6-トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキサイド0.3質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン1.5質量部を添加したものである。
【0099】
防水部を形成するための防水工程は、
図4A~4Eに基づいて説明したとおり、シート体(PVC製)を用い、樹脂配置工程、ハーネス配置工程、包囲工程、固化工程の順に実施した。固化工程は、シート体の外側から紫外線を照射することによって行った。なお、樹脂組成物の配置および固化は1段階で行い、シート体の表面にスペーサは配置していない。
【0100】
紫外線照射に際しては、表1に示すように、照射時間を、2秒から6秒の間で変化させて、複数の試料個体を作製した。紫外線の波長は、中心波長385nmであり、照射強度は、試料の最表面において、6500mW/cm2であった。
【0101】
図9に、製造されたワイヤーハーネスの防水部近傍の各部の寸法を示す。つまり、第一電線束の側では、スプライス部中央(
図9中の位置C)から被覆域の端縁までの距離が8mm、さらにその被覆域の端縁から防水部の端縁まで距離が15mmであった。一方、第二電線束の側では、スプライス部中央から被覆域の端縁までの距離が8mm、さらにその被覆域の端縁から防水部の端縁までの距離が3mmであった。
【0102】
[評価方法]
(電線間距離の計測)
各試料のワイヤーハーネスを、防水部が形成された箇所にて、軸線方向に垂直に切断した。そして、断面を顕微鏡観察し、電線間の距離を測定した。切断と断面観察は、スプライス部中央から第一電線束側に10mmの位置(
図9中の位置P1)と、第一電線束側の防水部の端縁(
図9中の位置P2)の2か所にて行った。電線間距離の計測に際しては、隣接する2本の電線を組とし、それら2本の電線の間で最も近接している箇所の距離を計測した。そして、3つの組に対する計測値の中で、最もその距離が大きかったものを、電線間距離として記録した。
【0103】
(防水性の評価)
防水部形成の際の紫外線照射時間を変化させた各試料に対して、高温耐久後の防水性を評価した。まず、各試料を、温度85℃、湿度85%RHの環境に、1000時間、または2000時間放置した。その後、室温、大気中にて、防水性評価試験を行った。防水性評価試験は、エアリーク試験にて行った。つまり、ワイヤーハーネスの防水部を含む領域を、水中に浸漬した状態で、ワイヤーハーネスを構成する絶縁電線に対して、1本ずつ、すべての絶縁電線に200kPaの空気圧を1分間ずつ印加した。この際、目視観察にて、防水部の箇所から気泡の発生が確認されない場合には、防水性が維持されていると判定し、合格と評価した。一方、防水部の箇所から気泡の発生が確認された場合には、防水性が維持されていないと判定し、不合格と評価した。
【0104】
各試料について、20個体に対して、高温耐久後に防水性評価試験を行った。20個体のうち、1個体でも、1000時間の高温耐久後に、防水性評価試験で不合格となるものがあった場合には、防水性が不十分である(B)と評価した。20個体全てについて、1000時間の高温耐久後に、防水性評価試験の結果が合格であった場合には、防水性が高い(A)と評価した。さらに、20個体全てについて、2000時間の高温耐久後に、防水性評価試験の結果が合格であった場合には、防水性に特に優れる(A+)と評価した。また、防水性が不十分である(B)と判定された試料については、120時間のみの高温耐久を行い、その短時間の高温耐久でも、防水性評価試験で不合格となる個体があった場合には、防水性が特に低い(B-)と評価した。
【0105】
[評価結果]
下の表1に、各試料について、防水部の形成に用いた治具の形状および介在部の幅とともに、電線間距離の計測結果、および高温耐久後の防水性評価の結果をまとめる。
【0106】
【0107】
表1によると、防水部を形成する際に、治具を用いていない試料B1では、電線間に距離を設けることができていない。つまり隣接する電線同士が直接接触している。一方、治具を用い、介在部を電線間に介在させている試料A1~A6においては、いずれも、スプライス部中央から10mmの位置および防水部端縁において、電線間に距離が設けられている。Y型治具を用いた試料A1~A3およびI型治具を用いた試料A4~A6のいずれについても、介在部の幅が大きくなるほど、電線間距離が大きくなっている。
【0108】
高温耐久後の防水性評価の結果を見ると、電線間に距離が設けられていない試料B1においては、いずれの光照射時間を採用した場合についても、防水性が不十分となっている。特に、光照射時間が2秒の場合には、樹脂組成物の硬化が十分に進行しておらず、防水性が特に低くなってしまっている。電線間に距離が設けられないことで、電線同士が相互に直接接触し、電線間の領域に樹脂材料を充填することができなかった結果、電線に対する防水部の密着性が低くなるとともに、高温耐久後に防水部と絶縁被覆の間に発生する応力を、十分に緩和できず、防水部の剥離が生じてしまったものと解釈される。
【0109】
一方、電線間に距離が設けられている試料A1~A6においては、いずれも、全ての光照射時間で、十分な防水性が観測されている。このことは、電線間に距離が設けられたことにより、樹脂材料が電線間の空間にも充填され、その結果、電線に対する防水部の密着性が高くなったとともに、高温耐久後に防水部と絶縁被覆の間に発生する応力が、電線間に充填された樹脂材料によって緩和され、絶縁被覆に対する防水部の密着性を維持できたものと解釈される。中でも、スプライス部中心から10mmの位置での電線間隔が、絶縁被覆の厚さ(0.3mm)の20%以上となっている試料A2,A3,A5,A6では、特に優れた防水性が得られている。このことは、電線間距離を大きくし、電線間に充填される樹脂の量を多くするほど、応力緩和により、絶縁被覆に対する防水部の密着性を維持する効果が高くなることによると解釈される。
【0110】
Y型治具を用いた試料A1~A3と、I型治具を用いた試料A4~A6では、高温耐久後の防水性の評価結果に、差が出ていない。Y型治具を用いた場合には、3本全ての電線の間に、確実に距離を設けることができるが、I型治具を用いた場合には、大型収容部に収容された2本の電線の間には、十分な距離を形成しにくい。しかし、表1の結果は、電線束を構成する電線のうち、少なくとも2本の電線の間に距離を設けて樹脂材料を充填し、少なくとも1本の電線の全周を被覆して樹脂材料が配置されるようにしておけば、必ずしも全電線の間に距離を設け、樹脂材料を配置しなくても、少なくとも今回の試験で採用した防水部の作製条件および高温耐久条件においては、十分に高い防水性を確保できることを示している。
【0111】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0112】
また、本開示においては、ワイヤーハーネスの防水部が、電線束を構成する電線のうち少なくとも1本の全周を被覆して、樹脂材料が電線の間の領域に充填された電線間充填部を有する場合について、ワイヤーハーネスが、防水部の外周を包囲するシート体をさらに有し、シート体とスプライス部との間、およびシート体と被覆域との間に、スプライス部および被覆域の全周を被覆して、防水部が形成されている形態を、好ましいものとして挙げた。そして、そのような形態のワイヤーハーネスを好適に製造できる方法として、変形例1として挙げた2段階の固化を用いる方法、および変形例2として挙げたスペーサを用いる方法を提示した。しかし、それらの好ましい形態および製造方法は、防水部が電線間充填部を有さない場合についても、適用することができ、ワイヤーハーネスのスプライス部に対して高い防水性を付与できるものとなる。これらの場合にも、電線間充填部の構成を除き、ワイヤーハーネスおよびその製造方法に関して、本明細書で説明した好ましい形態は、そのまま適用することができる。
【0113】
具体的には、以下のようなワイヤーハーネスとすることができる。
電線束と、スプライス部と、防水部と、シート体と、を有し、
前記電線束は、複数の電線を含み、
前記電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記絶縁被覆から前記導体が露出した露出部を備え、
前記スプライス部は、前記電線束を構成する前記電線の前記露出部を接合しており、
前記電線束において、前記スプライス部に隣接する、前記導体が前記絶縁被覆に覆われた部位を被覆域として、
前記防水部は、前記スプライス部と、前記被覆域とを、樹脂材料で一体に被覆しており、
前記シート体は、前記防水部の外周を包囲しており、
前記シート体と前記スプライス部との間、および前記シート体と前記被覆域との間には、前記スプライス部および前記被覆域の全周を被覆して、前記防水部が形成されている、ワイヤーハーネス。
【0114】
ここで、前記防水部は、第一固化部と第二固化部の2つの部位を有しているとよい。あるいは、前記シート体に包囲された空間の中に、前記ワイヤーハーネスの軸線方向に沿って相互に間隔を空けて、可撓性を有する1対のスペーサが配置されているとよい。
【0115】
また、以下のようなワイヤーハーネスの製造方法を採用することができる。
前記電線を複数束ねて前記電線束とし、前記露出部を接合して前記スプライス部を形成して、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、
前記スプライス部と前記被覆域とを前記樹脂材料で一体に被覆して、前記防水部を形成する防水工程と、をこの順に実行し、
前記防水工程においては、
固化して前記樹脂材料となる樹脂組成物を、面状に広げた前記シート体の表面に配置する第一樹脂配置工程と、
前記第一樹脂配置工程で配置した前記樹脂組成物を固化させ、第一固化部を形成する第一固化工程と、
前記第一固化部の表面を含む領域に、前記樹脂組成物を配置する第二樹脂配置工程と、
前記スプライス部および前記被覆域が、前記第二樹脂配置工程で配置した前記樹脂組成物を介して、前記第一固化部上に配置されるようにして、前記ハーネス前駆体を配置するハーネス配置工程と、
前記スプライス部および前記被覆域を、前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、
前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を固化させ、第二固化部を形成する第二固化工程と、をこの順に実行し、
上記のワイヤーハーネスを製造する、ワイヤーハーネスの製造方法。
【0116】
あるいは、以下のようなワイヤーハーネスの製造方法を採用することができる。
前記電線を複数束ねて前記電線束とし、前記露出部を接合して前記スプライス部を形成して、ハーネス前駆体を作製する接合工程と、
前記スプライス部と前記被覆域とを前記樹脂材料で一体に被覆して、前記防水部を形成する防水工程と、をこの順に実行し、
前記防水工程においては、
面状に広げた前記シート体の表面に、相互に間隔を空けて、可撓性を有する1対のスペーサを配置するスペーサ配置工程と、
前記1対のスペーサの間の領域に、固化して前記樹脂材料となる樹脂組成物を配置する樹脂配置工程と、
前記スプライス部および前記被覆域が、前記1対のスペーサの間に配置されるように、前記1対のスペーサに前記ハーネス前駆体を載置するハーネス配置工程と、
前記スプライス部を、前記1対のスペーサおよび前記樹脂組成物が配置された前記シート体の面で包囲する包囲工程と、
前記シート体で包囲された前記樹脂組成物を固化させて前記防水部を形成する固化工程と、をこの順に実行し、
上記のワイヤーハーネスを製造する、ワイヤーハーネスの製造方法。
【符号の説明】
【0117】
1 ワイヤーハーネス
1’ ハーネス前駆体
2 第一電線束
21 第一電線束の被覆域
22 被覆域の端縁
3 第二電線束
31 第二電線束の被覆域
4 電線
41 導体
41a 素線
42 絶縁被覆
5 スプライス部
51 圧着端子
6 防水部
61 電線間充填部
62 防水部の端縁
6a 第一固化部
6b 第二固化部
6’ 未固化の樹脂組成物
7 シート体
8 スペーサ
9 治具
91 介在部
92 電線収容部
92a 大型収容部
92b 小型収容部
93 収容部壁
9E E型治具
9I I型治具
9Y Y型治具
d 電線間の距離
t 電線の表面から防水部の外縁までの距離(防水部の厚さ)
w 介在部の幅
C スプライス部の中央
La スプライス部の中央から基準位置までの距離
Lb 被覆域の端縁から基準位置までの距離
P 基準位置
P1 スプライス部中央から第一電線束側に10mmの位置
P2 第一電線束側の防水部の端縁
UV 紫外線