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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/64 20180101AFI20240524BHJP
   F21V 9/40 20180101ALI20240524BHJP
   F21V 9/14 20060101ALI20240524BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20240524BHJP
   G02F 1/1347 20060101ALI20240524BHJP
   F21S 41/145 20180101ALI20240524BHJP
   F21S 41/143 20180101ALI20240524BHJP
   B60Q 1/14 20060101ALI20240524BHJP
   F21W 102/14 20180101ALN20240524BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20240524BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20240524BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20240524BHJP
【FI】
F21S41/64
F21V9/40 400
F21V9/14
G02F1/13 505
G02F1/1347
F21S41/145
F21S41/143
B60Q1/14 A
F21W102:14
F21Y115:10
F21Y115:30
F21Y101:00 100
F21Y101:00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019228905
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021096996
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-190687(JP,A)
【文献】特開平08-122750(JP,A)
【文献】特開2018-092046(JP,A)
【文献】特開平05-027254(JP,A)
【文献】特開2019-204709(JP,A)
【文献】特開2005-183327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/64
F21V 9/40
F21V 9/14
G02F 1/13
G02F 1/1347
F21S 41/145
F21S 41/143
B60Q 1/14
F21W 102/14
F21Y 115/10
F21Y 115/30
F21Y 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に配置される車両用灯具システムであって、
制御部と、
前記制御部に制御されて光を出射する光源と、
前記制御部に制御され、前記光源から出射する光を用いて照射光を形成する2つの液晶素子と、
前記液晶素子により形成される前記照射光を前記車両の周囲へ投射するレンズと、
を含み、
前記2つの液晶素子は、各々の液晶層の層厚方向に略中央における液晶分子の配向方向が互いに逆方向となるように重ねて配置されている、
車両用灯具システム。
【請求項2】
前記2つの液晶素子は、双方の前記液晶層の初期配向が垂直一軸配向又は捻れネマティック配向に設定されている、
請求項に記載の車両用灯具システム。
【請求項3】
前記2つの液晶素子は、それぞれの前記液晶層の初期配向が前記垂直一軸配向であり、当該液晶層の層厚と屈折率異方性との積であるリターデーションが360nm以下に設定されている
請求項に記載の車両用灯具システム。
【請求項4】
前記レンズは、その焦点が前記2つの液晶素子の各前記液晶層の間に位置するように配置されている、
請求項1~の何れか1項に記載の車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両周辺(前方など)に所望のパターンで光照射を行うためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-183327号公報(特許文献1)には、少なくとも一つのLEDから成る発光部と、上記発光部から前方に向かって照射される光の一部を遮断して、車両前照灯用の配光パターンに適したカットオフを形成する遮光部と、を含んでおり、上記遮光部が、調光機能を備えた電気光学素子と、この電気光学素子を調光制御する制御部と、から構成されていて、この制御部による電気光学素子の電気的スイッチング制御によって、調光部分を選択的に調光することにより、配光パターンの形状を変化させるように構成された車両前照灯が開示されている。電気光学素子としては、例えば液晶素子が用いられている。
【0003】
ところで、上記のような液晶素子を用いる車両前照灯においては、照射光の光度を上げるために、光源から液晶素子に対し、例えば液晶素子の基板法線を基準に20°~40°程度の比較的広い入射角度で光を入射させる場合がある。しかし、一般に液晶素子には視角依存性があるため、広い入射角度で光を入射させた場合、液晶素子を出射する光の明るさが不均一になる。このような明るさの不均一は、車両前方における照射光の明るさと広がりの偏りによって生じるムラとなって感得される。特に、照射光を階調制御しようとした場合には上記の現象がより顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-183327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、液晶素子を用いる車両用灯具システムによる照射光の明るさムラを軽減することが可能な技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明に係る一態様の車両用灯具システムは、(a)車両前部に配置される車両用灯具システムであって、(b)制御部と、(c)前記制御部に制御されて光を出射する光源と、(d)前記制御部に制御され、前記光源から出射する光を用いて照射光を形成する2つの液晶素子と、(e)前記液晶素子により形成される前記照射光を前記車両の周囲へ投射するレンズと、を含み、(f)前記2つの液晶素子は、各々の液晶層の層厚方向に略中央における液晶分子の配向方向が互いに逆方向となるように重ねて配置されている、車両用灯具システムである。
【0007】
上記構成によれば、液晶素子を用いる車両用灯具システムによる照射光の明るさムラを軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示す図である。
図2図2は、ランプユニットの構成を示す図である。
図3図3は、液晶素子の構成を説明するための断面図である。
図4図4は、配向処理方向と視認方向、逆視認方向との関係を説明するための図である。
図5図5は、視認方向、逆視認方向と液晶層の液晶分子の配向方向(ダイレクタ方向)との関係について説明するための図である。
図6図6は、2つの液晶素子の配置状態を説明するための図である。
図7図7(A)、図7(B)は、液晶素子の電気光学特性の一例を示す図である。
図8図8は、変形例の液晶素子における配向処理方向と視認方向、逆視認方向との関係を説明するための図である。
図9図9は、変形例のランプユニットの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示す図である。図1に示す車両用灯具システムは、一対のランプユニット(車両用前照灯)100a、100bと、カメラ101と、制御装置102を含んで構成されている。この車両用前照灯システムは、カメラ101によって撮影される画像に基づいて自車両の周囲に存在する前方車両や歩行者の顔等の位置を検出し、前方車両等の位置を含む一定範囲を非照射範囲(減光領域)に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うためのものである。
【0010】
ランプユニット100a、100bは、車両前部の左右それぞれの所定位置に配置されており、車両前方を照明するための照射光を形成する。本実施形態の車両用灯具システムでは、各ランプユニット100a、100bによる照射光を車両前方において重ね合わせて照射光が形成される。
【0011】
カメラ101は、自車両の前方を撮影してその画像(情報)を出力するものであり、車両内の所定位置(例えば、フロントガラス内側上部)に配置されている。なお、他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが車両に備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0012】
制御装置102は、各ランプユニット100a、100bの動作を制御するためのものである。詳細には、制御装置102は、カメラ101によって得られる画像に基づいて画像処理を行うことによって前方車両等の位置を検出し、検出された前方車両等の位置を非照射範囲とし、それ以外の領域を光照射範囲とした配光パターンを設定し、この配光パターンに対応した像を形成するための制御信号を生成して各ランプユニット100a、100bに備わった駆動装置9(後述の図2参照)へ供給する。この制御装置102は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。本実施形態ではこの制御装置102と駆動装置9が「制御部」に対応する。
【0013】
図2は、ランプユニットの構成を示す図である。なお、ランプユニット100a、100bは同じ構成を備えているので、ここではランプユニット100aについてのみ説明する。ランプユニット100aは、光源1、凹面リフレクタ2、偏光ビームスプリッタ3、リフレクタ4、1/2波長板(λ/2板)5、一対の偏光板6a、6b、2つの液晶素子7a、7b、投影レンズ8、駆動装置9を含んで構成されている。
【0014】
光源1は、例えば青色光を放出する発光ダイオード(LED)に黄色蛍光体を組み合わせて構成された白色LEDを含んで構成されている。光源1は、例えば、マトリクス状あるいはライン状に配列された複数の白色LEDを備える。なお、光源1としてはLEDのほかに、レーザー、さらには電球や放電灯など車両用ランプユニットに一般的に使用されている光源が使用可能である。光源1の点消灯状態は制御装置102によって制御される。光源1から出射する光は、凹面リフレクタ2、偏光ビームスプリッタ3、リフレクタ4からなる光学系を介して液晶素子(液晶パネル)7a、7bに入射する。なお、光源1から液晶素子7a、7bへ至る経路上に他の光学系(例えば、レンズや反射鏡、さらにはそれらを組み合わせたもの)が存在してもよい。
【0015】
凹面リフレクタ(反射部材)2は、光源1から入射する光を反射して偏光ビームスプリッタ3へ入射させる。
【0016】
偏光ビームスプリッタ(光分岐素子)3は、凹面リフレクタ2によって反射されて入射する光を2つの偏光に分離する。偏光ビームスプリッタ3により分離された一方の偏光は偏光ビームスプリッタ3により反射して偏光板6aに入射する。また、偏光ビームスプリッタ3により分離された他方の偏光は偏光ビームスプリッタ3を透過してリフレクタ4へ入射する。偏光ビームスプリッタ3は、凹面リフレクタ2からの光の進行方向に対して斜め45°程度に傾けて配置される。偏光分離するためには偏光ビームスプリッタ3の偏光方向を垂直方向もしくは水平方向にすることが望ましい。この場合、液晶素子7へ入射する光の偏光方向は、垂直方向もしくは水平方向になる。
【0017】
リフレクタ(反射部材)4は、偏光ビームスプリッタ3を透過した光(偏光)を反射して1/2波長板5へ入射させる。
【0018】
1/2波長板5は、リフレクタ4により反射されて入射する光(偏光)の偏光方向を90°回転させて偏光板6aへ入射させる。
【0019】
一対の偏光板6a、6bは、例えば互いの偏光軸を略直交させており、液晶素子7a、7bを挟んで対向配置されている。本実施形態では、液晶層に電圧無印加としているときに光が遮光される(透過率が極めて低くなる)動作モードであるノーマリーブラックモードを想定する。各偏光板6a、6bとしては、例えば一般的な有機材料(ヨウ素系、染料系)からなる吸収型偏光板を用いることができる。また、耐熱性を重視したい場合には、ワイヤーグリッド型偏光板を用いることも好ましい。ワイヤーグリッド型偏光板とはアルミニウム等の金属による極細線を配列してなる偏光板である。また、吸収型偏光板とワイヤーグリッド型偏光板を重ねて用いてもよい。
【0020】
液晶素子7a、7bは、それぞれ、複数の画素領域(光変調領域)を有しており、駆動装置9によって与えられる液晶層への印加電圧の大きさに応じて各画素領域の透過率が可変に設定される。これらの液晶素子7a、7bに光が照射されることにより、上記した光照射範囲と非照射範囲に対応した明暗を有する像が形成される。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ3で反射して入射する偏光と、偏光ビームスプリッタ3を透過しリフレクタ4で反射して入射する偏光の2つを液晶素子7a、7bへ入射させて用いるため、光利用効率が高い。
【0021】
上記の液晶素子7a、7bは、それぞれ、例えば略垂直配向の液晶層を備えるものであり、直交ニコル配置された一対の偏光板6a、6bの間に配置されており、液晶層への電圧が無印加(あるいは閾値以下の電圧)である場合に光透過率が極めて低い状態(遮光状態)となり、液晶層へ電圧が印加された場合に光透過率が相対的に高い状態(透過状態)となるものである。
【0022】
投影レンズ8は、液晶素子7a、7bを透過する光によって形成される像(光照射範囲と非照射範囲に対応した明暗を有する像)をヘッドライト用配光になるように広げて自車両の前方へ投影するものであり、適宜設計されたレンズが用いられる。本実施形態では、反転投影型のプロジェクターレンズが用いられる。また、投影レンズ8は、その焦点が各液晶素子7a、7bの液晶層の間に位置するように配置されている。
【0023】
駆動装置9は、制御装置102から供給される制御信号に基づいて液晶素子7a、7bに駆動電圧を供給することにより、液晶素子7a、7bの各画素領域における液晶層の配向状態を個別に制御するものである。
【0024】
図3は、液晶素子の構成を説明するための断面図である。図3に示す液晶素子7aは、対向配置された第1基板21および第2基板22、第1基板21に設けられた複数の画素電極23、第2基板22に設けられた共通電極24と、第1基板21に設けられた第1配向膜25、第2基板22に設けられた第2配向膜26、第1基板21と第2基板22の間に配置された液晶層27を含んで構成されている。なお、液晶素子7bも同一の構成である(図示及び説明を省略)。
【0025】
第1基板21および第2基板22は、それぞれ、平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。各基板としては、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板を用いることができる。第1基板21と第2基板22の間には、例えば樹脂などからなる複数の球状スペーサーが分散配置されており、それらスペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。なお、球状スペーサーに代えて樹脂からなる柱状スペーサーが用いられてもよい。
【0026】
各画素電極23は、第1基板21の一面側に設けられている。各画素電極23は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各画素電極23と共通電極24との重なる領域のそれぞれにおいて画素領域が画定される。
【0027】
なお、本実施形態では、液晶素子7aの各画素領域と液晶素子7bの各画素領域は互いに略同一形状、略同一サイズに設けられており、液晶素子7aの各画素領域とこれらに対応する液晶素子7bの各画素領域とが平面視において重なるように配置されているものとする。そして、平面視において互いに重なる画素領域同士は駆動装置9により同期的に駆動されるものとする。
【0028】
共通電極24は、第2基板22の一面側に設けられている。この共通電極24は、各画素電極23と平面視において重なるように設けられている。共通電極24は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0029】
第1配向膜25は、第1基板21の一面側において各画素電極23を覆うようにして設けられている。また、第2配向膜26は、第2基板22の一面側において共通電極24を覆うようにして設けられている。各配向膜としては、液晶層27の配向状態を垂直配向に規制する垂直配向膜が用いられる。各配向膜にはラビング処理等の一軸配向処理が施されており、その方向へ液晶層27の液晶分子の配向を規定する一軸配向規制力を有している。各配向膜への配向処理方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。
【0030】
液晶層27は、第1基板21と第2基板22の間に介在している。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負であり、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層27が構成される。本実施形態の液晶層27は、電圧無印加時における液晶分子の初期配向が略垂直(例えばプレティルト角89.7°程度)の垂直一軸配向となるように設定されている。
【0031】
図4は、配向処理方向と視認方向、逆視認方向との関係を説明するための図である。ここでは、図3に示した第1配向膜25、第2配向膜26の各々の配向処理方向を第2配向膜26側から見た状態が模式的に示されている。第1配向膜25の配向処理方向RB1は図中で左上へ向かう方向であり、第2配向膜26の配向処理方向RB2は図中で右下へ向かう方向である。すなわち、各配向処理方向RB1、RB2は、互い違い(アンチパラレル)に配置されている。この場合、液晶層27の液晶分子の配向方向(ダイレクタ方向)DRは、平面視において配向処理方向RB1と同じ方向となる。また、視認方向(最良視認方向)は、平面視において配向処理方向RB1と同じ方向となり、逆視認方向は、平面視において配向処理方向RB1と逆方向となる。
【0032】
図5は、視認方向、逆視認方向と液晶層の液晶分子の配向方向(ダイレクタ方向)との関係について説明するための図である。ここでは、第1基板21と第2基板22の間に設けられる液晶層27の層厚方向の略中央における液晶分子27aが模式的に示されている。なお、図示のように配向処理方向RB1は図中左向き、配向処理方向RB2は図中右向きであるとする。中間調に対応する電圧が液晶層27に印加されている場合に、各配向処理方向RB1、RB2との関係で、液晶層27の層厚方向の略中央における液晶分子27aは図中左側が立ち上がるように配向する。このとき、液晶層27の層厚方向に略中央における液晶分子の配向方向(以下、単に「ダイレクタ方向」という。)DRは、平面視において配向処理方向RB1と同じ方向となる。また、視認方向は、極角方向については液晶分子27aの立ち上がっている方向と同じ方向となり、逆視認方向は、視認方向に対して逆方向となる。なお、ここでいう「中間調に対応する電圧」とは、例えば、液晶層27における閾値電圧と飽和電圧(透過率などの光学的変化がほとんど生じなくなる電圧)の間の電圧である。
【0033】
図6は、2つの液晶素子の配置状態を説明するための図である。図示のように、液晶素子7aと液晶素子7bは、液晶素子7aのダイレクタ方向DR1と液晶素子7bのダイレクタ方向DR2とが互いに180°異なる状態(アンチパラレル状態)となるようにして重ねて配置される。図示の例では、手前側の液晶素子7aは、そのダイレクタ方向DR1が図中左右方向から略45°の角度をなして左上方向となるように配置されており、奥側の液晶素子7bは、そのダイレクタ方向DR2が図中左右方向から略45°の角度をなして右下方向となるように配置されている。なお、図6では各ダイレクタ方向を図示する都合上、各液晶素子7a、7bの間に大きく隙間を設けているが実際には両者は重ねて配置される。
【0034】
図7(A)、図7(B)は、液晶素子の電気光学特性の一例を示す図である。ここでは、誘電率異方性が負であり屈折率異方性Δnが約0.13の液晶材料を用い、層厚dを2.5μmとした液晶層を有する液晶素子の電気光学特性を示す。図7(A)は、液晶素子の基板面法線方向から測定した電圧と透過率の関係を示している。特性線aは1つの液晶素子のみを測定した場合に対応し、特性線bは2つの液晶素子を重ねて測定した場合に対応している。この例では、液晶素子のそれぞれの液晶層におけるリターデーションΔn・dが325nmと比較的小さいため、1つの液晶素子のみの場合には印加する電圧が高くなっても透過率がそれほど高くなっていない。これに対し、特性線bに示すように、2つの液晶素子を重ねた場合には各液晶素子へ印加する電圧が同じでも透過率が十分に高くなることが分かる。なお、2つの液晶素子のそれぞれにおけるリターデーションは比較的小さく設定されていることが望ましく、例えば液晶層を一軸垂直配向としている場合において360nm以下とすることが望ましい。
【0035】
図7(B)は、視認方向に対して液晶素子の基板面法線から極角方向および逆視認方向のそれぞれに角度を測定した電圧と透過率の関係を示している。特性線cは1つの液晶素子のみを逆視認方向に対して極角方向に30°の方向から測定した電圧と透過率の関係である。上記図7(A)に示した特性線と比較し、閾値電圧が高く、かつ印加する電圧が増加しても透過率が十分に上がらないことが分かる。特性線dは1つの液晶素子のみを視認方向に対して極角方向に30°の方向から測定し電圧と透過率の関係である。上記図7(A)に示した特性線aと比較し、閾値電圧が低く、かつ印加する電圧が増加するとある点から透過率が飽和するが透過率の大きさとしては十分ではないことが分かる。
【0036】
特性線eは、2つの液晶素子を重ねた場合であって一方の液晶素子における視認方向(他方の液晶素子における逆視認方向)から測定した電圧と透過率の関係である。上記図7(B)に示した特性線bと比較すると閾値電圧が低く、かつ各液晶素子へ印加する電圧が同じでも透過率が十分に高くなることが分かる。なお、2つの液晶素子を重ねた場合であって一方の液晶素子における逆視認方向(他方の液晶素子における視認方向)から測定した電圧と透過率の関係も特性線eとまったく同じとなる。このことから、2つの液晶素子をそれぞれの視認方向が180°反対となるようにして重ねて配置することにより、それらの透過光が左右対称なものとなる。従って、これら2つの液晶素子の透過光を投影することによって車両前方の形成される照射パターン(投影像)を左右対称にすることができる。
【0037】
以上のような実施形態によれば、液晶素子を用いる車両用灯具システムによる照射光の明るさムラを軽減することが可能となる。
【0038】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では液晶素子の一例として液晶層を略垂直配向に設定したものを挙げていたが液晶層の配向モードはこれに限定されない。液晶層の配向モードが如何なるものであってもその視認方向および逆視認方向に対応して一対のランプユニットの配置を設定すればよい。例えば、図8に示すように、第1配向膜25および第2配向膜26のそれぞれに対する配向処理方向RB1、RB2を直交させて液晶層27の配向モードをTN(ツイステッドネマティック)型にする場合であれば、液晶層27の層厚方向の略中央における液晶分子27aの配向方向は図示のように平面視において各配向処理方向RB1、RB2に対して45°方向となる。この場合、視認方向(最良視認方向)は図中において右下へ向かう方向、逆視認方向は図中において左上へ向かう方向となるので、これらに基づいて2つの液晶素子7a、7bの配置を上記した実施形態と同様に設定すればよい(図6参照)。
【0039】
また、上記した実施形態では偏光ビームスプリッタによって分離される各偏光のいずれも用いる、いわゆるリサイクル光学系を採用したランプユニットを例示していたが、ランプユニットの構成はこれに限定されない。例えば、図9に例示するように、一対の偏光板6a、6bに挟まれて配置された液晶素子7a、7bに対して光源1からの光を直接的に入射させて、その透過光を投影レンズ8によって集光し投影する比較的簡素な構成の一対のランプユニット100c、100dを用いてもよい。
【0040】
また、上記した実施形態では2つの液晶素子を重ねて用いる場合について示していたが、より多くの液晶素子を重ねてもよい。例えば、4つの液晶素子を各々の視認方向が90°ずつ異なるようにして重ねることで、透過光(すなわち車両前方への照射パターン)を上下左右の4方向において対称にすることができる。
【0041】
また、上記した実施形態では車両の前方へ光照射を行うものである車両用前照灯システムに本発明を適用した場合について説明していたが、車両の前方以外の周辺に対して光照射を行うシステムに対して本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0042】
1:光源、2:凹面リフレクタ、3:偏光ビームスプリッタ、4:リフレクタ、5:1/2波長板(λ/2板)、6a、6b:一対の偏光板、7a、7b:液晶素子、8:投影レンズ、9:駆動装置、21:第1基板、22:第2基板、23:画素電極、24:共通電極、25:第1配向膜、26:第2配向膜、27:液晶層、27a:液晶分子、RB1、RB2:配向処理方向、S1、S2:視認方向、100a、100b:ランプユニット(車両用前照灯)、101:カメラ、102:制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9