(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20240524BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20240524BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20240524BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240524BHJP
B23B 25/06 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
B23Q15/12 Z
G05B19/404 K
G05B19/4155 V
B23Q17/00 G
B23Q17/00 A
B23B25/06
(21)【出願番号】P 2019229154
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【氏名又は名称】木村 群司
(74)【代理人】
【識別番号】100147625
【氏名又は名称】澤田 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100155099
【氏名又は名称】永井 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】岩井 揚子
(72)【発明者】
【氏名】寺田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 悟
(72)【発明者】
【氏名】川口 祐
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-052917(JP,A)
【文献】特開2000-198047(JP,A)
【文献】特開平07-040195(JP,A)
【文献】特開2019-013993(JP,A)
【文献】特開2009-061565(JP,A)
【文献】特開2005-202844(JP,A)
【文献】特開2001-105279(JP,A)
【文献】特開2001-105278(JP,A)
【文献】特開平07-186006(JP,A)
【文献】特開平06-226593(JP,A)
【文献】特開2012-038017(JP,A)
【文献】特開2010-269405(JP,A)
【文献】特開2017-227947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00-15/28
G05B 19/18-19/416
B23Q 17/00-23/00
B23B 1/00-25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの切削をする切削工具が着脱可能に装着されたスライダと、
切削指示値にしたがって前記スライダを移動させて前記切削を行う駆動機構と、
前記切削工具の累積切削回数及び前記スライダに係る温度から
予測補正値を算出し、
前記予測補正値に基づいて前記駆動機構を移動させることにより前記切削を制御する制御装置と、
を備え
、
前記予測補正値は、記憶装置に予め記憶されている第1補正ツールと前記累積切削回数とから算出される第1補正値と、前記記憶装置に予め記憶されている第2補正ツールと前記スライダに係る温度とから算出される第2補正値とから算出される工作機械。
【請求項2】
前記予測補正値は、予め記憶装置に記憶されるとともに「予測補正値=k1×α1+k2×α2」にて示される数式から算出することが可能である請求項1に記載の工作機械。
ここで、k1,k2は定数であり、α1は前記累積切削回数に係る第1補正値であるとともに定数a×前記累積切削回数Nで表され、α2は前記スライダに係る温度に係る第2補正値であるとともに定数b×前記スライダに係る温度Thで表される。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記切削工具によって前記切削がされた前記ワークを計測する計測装置から計測結果を受信し、受信した前記計測結果を使用して前記
予測補正値の検証をする
検証部と、
前記検証部の検証結果が前記予測補正値が正しい旨である場合に、算出された前記予測補正値を使用して前記第1補正ツール及び前記第2補正ツールを学習し学習後の前記第1補正ツール及び前記第2補正ツールを前記記憶装置に記憶し、一方、前記検証部の前記検証結果が前記予測補正値が正しくない旨である場合に、算出された前記予測補正値を使用した前記第1補正ツール及び前記第2補正ツールの学習・記憶を実施しない学習部と、
をさらに備えた請求項1に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記切削工具によって前記切削がされた前記ワークを計測する計測装置から計測結果を受信し、受信した前記計測結果を使用して前記
予測補正値の検証をする
検証部と、
前記検証部の検証結果が前記予測補正値が正しい旨である場合に、算出された前記予測補正値を使用して前記第1補正ツール、前記第2補正ツール及び前記数式を学習し学習後の前記第1補正ツール及び前記第2補正ツールを前記記憶装置に記憶し、一方、前記検証部の前記検証結果が前記予測補正値が正しくない旨である場合に、算出された前記予測補正値を使用した前記第1補正ツール、前記第2補正ツール及び前記数式の学習・記憶を実施しない学習部と、
をさらに備えた請求項2に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の一形式として、特許文献1には、仕様情報に基づく光学部品の加工において、計測部にて、加工された光学部品の特性を計測し、加工情報生成部にて、その計測情報と仕様情報に基づいて加工情報を補正し、この補正された加工情報に従って加工装置が光学部品(ワーク)の加工を行う光学部品加工システムが開示されている。この光学部品加工システムは、計測情報部に蓄積された加工後の眼鏡レンズの計測情報(加工後計測情報)に基づき設計情報を補正するための補正情報を生成する機能を持っている補正情報生成部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されている工作機械において、加工装置による加工工程の後に計測部による計測工程が配置され、加工工程での加工と計測工程での計測とが連続して行われる場合には、計測工程での加工後の計測情報(加工後計測情報)を使用して生成した補正情報が加工工程で行われている加工に間に合わず加工精度に影響を及ぼすおそれがあった。また、このような問題に対して、加工後計測情報を使用して生成した補正情報が届くのを待って加工工程での加工を行うことにより加工精度を維持するようにしてもよいが、この場合には補正情報が届くまで加工工程での加工を止めるためサイクルタイムが増大するおそれがある。
【0005】
このような事情に鑑みて、本明細書は、サイクルタイムの増大を招くことなく、加工精度を高く維持することができる工作機械を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、ワークの切削をする切削工具が着脱可能に装着されたスライダと、切削指示値にしたがって前記スライダを移動させて前記切削を行う駆動機構と、前記切削工具の累積切削回数及び前記スライダに係る温度から予測補正値を算出し、前記予測補正値に基づいて前記駆動機構を移動させることにより前記切削を制御する制御装置と、を備え、前記予測補正値は、記憶装置に予め記憶されている第1補正ツールと前記累積切削回数とから算出される第1補正値と、前記記憶装置に予め記憶されている第2補正ツールと前記スライダに係る温度とから算出される第2補正値とから算出される工作機械を開示する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、切削工具の累積切削回数及びスライダに係る温度から予測される補正値を使用してワークの加工(切削)を行うことにより、工作機械は加工精度を高く維持することが可能となる。また、切削工具の累積切削回数及びスライダに係る温度から予測される補正値を使用することにより、加工(切削)後に計測した計測値を使用することなく、すなわち加工後計測情報を使用した補正情報が届くのを待たずして、加工工程での加工を行うことが可能となり、サイクルタイムの増大を防止することが可能となる。従って、工作機械は、サイクルタイムの増大を招くことなく、加工精度を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】工作機械が適用された加工システム10を示す正面図である。
【
図2】
図1に示す旋盤モジュール30Aを示す側面図である。
【
図3】旋盤モジュール30Aを示すブロック図である。
【
図4】
図1に示すドリミルモジュール30Bを示す側面図である。
【
図5】ドリミルモジュール30Bを示すブロック図である。
【
図6】
図1に示す検測モジュール30Eを示す側面図である。
【
図7】検測モジュール30Eを示すブロック図である。
【
図8】
図3に示す制御装置47にて実施されるプログラムを表すフローチャートである。
【
図9】
図3に示す制御装置47にて実施されるプログラム(予測補正値の検証サブルーチン)を表すフローチャートである。
【
図10】
図3に示す制御装置47にて実施されるプログラム(補正手段の学習サブルーチン)を表すフローチャートである。
【
図11A】切削工具43aの累積切削回数と補正量との相関関係を示すマップ(第1補正マップ)である。
【
図11B】スライダに係る温度と補正量との相関関係を示すマップ(第2補正マップ)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(加工システム)
以下、工作機械が適用された加工システムの一例である一実施形態について説明する。加工システム(ライン生産設備)10は、
図1に示すように、複数のベースモジュール20と、そのベースモジュール20に設けられた複数(本実施形態では10個)の作業機モジュール30と、多関節ロボット(以下、ロボットと称する場合もある。)70(例えば、
図2参照)と、を備えている。加工システム10は、複数のモジュール(ベースモジュール20や作業機モジュール30)をライン化して構成され、ワークWを機械加工する。以下の説明では、加工システム10に関する「前後」,「左右」,「上下」を、加工システム10の正面側から見た場合における前後,左右,上下として扱うこととする。
【0010】
ベースモジュール20は、ワーク搬送装置であるロボット70及びロボット70を制御するロボット制御装置(不図示)を備えている。ロボット70は、マニュピレーション機能を有しておりワークWを解放可能に把持して搬送可能であると共に、移動(自走)機能を有しておりワークWを把持したまま移動可能である。
【0011】
作業機モジュール30は、複数種類あり、旋盤モジュール30A、ドリミルモジュール30B、加工前ストックモジュール30C、加工後ストックモジュール30D、検測モジュール30E、仮置モジュール30Fなどである。本実施形態においては、作業機モジュール30は、ワークWの搬送方向の上流から下流に向けて、加工前ストックモジュール30C、3台の旋盤モジュール30A、検測モジュール30E、仮置モジュール30F、2台のドリミルモジュール30B、検測モジュール30E及び加工後ストックモジュール30Dが順番に配設されている。すなわち、加工前ストックモジュール30Cにて投入されたワークWは、作業機モジュール30にて順番に加工されて加工後ストックモジュール30Dに搬送される。
【0012】
(旋盤モジュール)
旋盤モジュール30Aは、旋盤がモジュール化されたものである。旋盤は、加工対象物であるワークWを回転させて、固定した切削工具43aで加工する「工作機械」である。旋盤モジュール30Aは、
図2に示すように、可動ベッド41、主軸台42、工具台43、工具台移動装置44、加工室45、走行室46及びモジュール制御装置47(以下、制御装置47と称する場合もある。)を有している。
【0013】
可動ベッド41は、複数の車輪41aを介してベースモジュール20に設けられたレール(不図示)上を前後方向に沿って移動する。主軸台42は、ワークWを回転可能に保持するものである。主軸台42は、前後方向に沿って水平に配置された主軸42aを回転可能に支持する。主軸42aの先端部にはワークWを把持するチャック42bが設けられる。主軸42aは、回転伝達機構42cを介してサーボモータ42dによって回転駆動される。
【0014】
工具台43は、切削工具43aに送り運動を与える装置である。工具台43は、いわゆるタレット型の工具台であり、ワークWの切削をする複数の切削工具43aが装着される工具保持部43bと、工具保持部43bを回転可能に支持するとともに所定の切削位置に位置決め可能である回転駆動部43cと、を有している。
【0015】
工具台移動装置44は、工具台43ひいては切削工具43aを上下方向(X軸方向)及び前後方向(Z軸方向)に沿って移動させる装置である。工具台移動装置44は、工具台43をX軸方向に沿って移動させるX軸駆動装置44aと、工具台43をZ軸方向に沿って移動させるZ軸駆動装置44bとを有している。
【0016】
X軸駆動装置44aは、可動ベッド41に設けられたコラム48に対して上下方向に沿って摺動可能に取り付けられたX軸スライダ44a1と、X軸スライダ44a1を移動させるためのサーボモータ44a2とを有している。Z軸駆動装置44bは、X軸スライダ44a1に対して前後方向に沿って摺動可能に取り付けられたZ軸スライダ44b1と、Z軸スライダ44b1を移動させるためのサーボモータ44b2とを有している。Z軸スライダ44b1には、工具台43が取り付けられている。工具台43(工具保持部43b)は、切削工具43aが着脱可能に装着される「スライダ」である。尚、「スライダ」は、工具台43とZ軸スライダ44b1とにより構成してもよく、これらにX軸スライダ44a1を加えたもので構成するようにしてもよい。また、工具台移動装置44は、切削指示値にしたがって前記「スライダ」を移動させて切削を行う「駆動機構」である。切削指示値は、切削工具43aによりワークWを切削目標値だけ切削するべく駆動機構を制御するための制御指示値である。
【0017】
加工室45は、ワークWを加工するための部屋(空間)であり、加工室45内には、チャック42b、工具台43(切削工具43a、工具保持部43b及び回転駆動部43c)が収容されている。加工室45は、前壁45a、天井壁45b、左右壁及び後壁(何れも不図示)によって区画されている。前壁45aには、ワークWが入出される入出口45a1が形成されている。入出口45a1は、図示しないモータによって駆動するシャッタ45cによって開閉される。尚、シャッタ45cの開状態(開位置)を実線にて、閉状態(閉位置)を二点鎖線にて示す。
【0018】
走行室46は、加工室45の入出口45a1に臨んで設けられた部屋(空間)である。走行室46は、前壁45a及び前面パネル31によって区画されている。走行室46内は、ロボット70が走行可能である。前面パネル31は、開閉可能な扉である。
【0019】
(モジュール制御装置、入出力装置など)
制御装置(モジュール制御装置)47は、回転駆動部43c、工具台移動装置44などを駆動制御する制御装置である。制御装置47は、
図3に示すように、入出力装置47a、記憶装置47b、通信装置47c、主軸42a、回転駆動部43c、工具台移動装置44及び温度センサ49に接続されている。制御装置47は、マイクロコンピュータ(不図示)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも不図示)を備えている。CPUは、各種プログラムを実施して、入出力装置47a、記憶装置47b及び通信装置47cからデータを取得したり、入出力装置47a、主軸42a、回転駆動部43c及び工具台移動装置44を制御したりする。RAMは同プログラムの実施に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものである。
【0020】
入出力装置47aは、
図1に示すように、作業機モジュール30の前面に設けられており、作業者が各種設定、各種指示などを制御装置47に入力したり、作業者に対して運転状況やメンテナンス状況などの情報を表示したりするためのものである。入出力装置47aは、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)、マンマシンインターフェースなどの人間と機械とが情報をやり取りする装置である。
【0021】
記憶装置47bは、旋盤モジュール30Aの制御に係るデータ、例えば、制御プログラム、制御プログラムで使用するパラメータ、各種設定や各種指示に関するデータ、ワークWの設計値(寸法)、予測補正値の検証結果などを記憶している。通信装置47cは、インターネットを介して、同一加工システム内における他のモジュールとの間の相互通信、異なる加工システムとの間の相互通信、又は複数の加工システムを統括管理する統括コンピュータとの間の相互通信を行うための装置である。温度センサ49は、スライダに係る温度を検出する温度センサ(後述する)であり、検出結果を制御装置47に出力する。
【0022】
(ドリミルモジュール)
ドリミルモジュール30Bは、ドリルによる孔開けやミーリング加工等を行うマシニングセンタがモジュール化されたものである。マシニングセンタは、固定したワークWに対し、回転する工具(回転工具)を押し当てて加工する「工作機械」である。ドリミルモジュール30Bは、
図4に示すように、可動ベッド51、主軸ヘッド52、主軸ヘッド移動装置53、ワークテーブル54、加工室55、走行室56及びモジュール制御装置57(本明細書にて制御装置57と称する場合もある。)を有している。
【0023】
可動ベッド51は、複数の車輪51aを介してベースモジュール20に設けられたレール(不図示)上を前後方向に沿って移動する。主軸ヘッド52は、主軸52aを回転可能に支持する。主軸52aの先端(下端)部には、ワークWの切削をする切削工具52b(例えば、ドリルやエンドミル等)が主軸チャックを介して装着可能である。主軸52aは、サーボモータ52cによって回転駆動される。主軸チャックは、切削工具52bをクランプ/アンクランプする。
【0024】
主軸ヘッド移動装置53は、主軸ヘッド52ひいては切削工具52bを上下方向(Z軸方向)、前後方向(Y軸方向)及び左右方向(X軸方向)に沿って移動させる装置である。主軸ヘッド移動装置53は、主軸ヘッド52をZ軸方向に沿って移動させるZ軸駆動装置53aと、主軸ヘッド52をX軸方向に沿って移動させるX軸駆動装置53bと、主軸ヘッド52をY軸方向に沿って移動させるY軸駆動装置53cと、を有している。Z軸駆動装置53aは、X軸スライダ53eに対して摺動可能に取り付けられたZ軸スライダ53dをZ軸方向に沿って移動させる。X軸駆動装置53bは、Y軸スライダ53fに対して摺動可能に取り付けられたX軸スライダ53eをX軸方向に沿って移動させる。Y軸駆動装置53cは、可動ベッド51に設けられた本体58に対して摺動可能に取り付けられたY軸スライダ53fをY軸方向に沿って移動させる。Z軸駆動装置53a、X軸駆動装置53b及びY軸駆動装置53cは、内蔵のサーボモータを駆動源として機能する。
【0025】
Z軸スライダ53dには、主軸ヘッド52が取り付けられている。主軸ヘッド52(主軸52a)は、切削工具52bが着脱可能に装着される「スライダ」である。尚、「スライダ」は、主軸ヘッド52とZ軸スライダ53dとにより構成してもよく、これらにX軸スライダ53eを加えたもので構成するようにしてもよく、さらにY軸スライダ53fを加えたもので構成するようにしてもよい。また、主軸ヘッド移動装置53は、切削指示値にしたがって前記「スライダ」を移動させて切削を行う「駆動機構」である。
【0026】
ワークテーブル54は、ワークWを固定保持する。ワークテーブル54は、本体58の前面に設けられたワークテーブル回転装置54aに固定されている。ワークテーブル回転装置54aは、前後方向に沿って延びる軸線まわりに回転駆動される。これにより、ワークWを所望の角度に傾斜させた状態で切削工具52bにより加工することができる。尚、ワークテーブル54は、本体58の前面に直接固定してもよい。また、ワークテーブル54は、ワークWを把持するチャック54bが設けられている。
【0027】
加工室55は、ワークWを加工するための部屋(空間)であり、加工室55内には、主軸52a、切削工具52b、ワークテーブル54、ワークテーブル回転装置54aが収容されている。加工室55は、前壁55a、天井壁55b、左右壁及び後壁(何れも不図示)によって区画されている。前壁55aには、ワークWが入出される入出口55a1が形成されている。入出口55a1は、図示しないモータによって駆動するシャッタ55cによって開閉される。尚、シャッタ55cの開状態(開位置)を破線にて、閉状態(閉位置)を二点鎖線にて示す。
【0028】
走行室56は、加工室55の入出口55a1に臨んで設けられた部屋(空間)である。走行室56は、前壁55a及び前面パネル31によって区画されている。走行室56内は、ロボット70が走行可能である。尚、隣り合う走行室46(または56)は、加工システム10の並設方向全長に亘って連続する空間を形成する。
【0029】
(モジュール制御装置、入出力装置など)
制御装置(モジュール制御装置)57は、主軸52a(サーボモータ52c)、主軸ヘッド移動装置53などを駆動制御する制御装置である。制御装置57は、
図5に示すように、入出力装置57a、記憶装置57b、通信装置57c、主軸52a、主軸ヘッド移動装置53、ワークテーブル54及び温度センサ59に接続されている。制御装置57は、マイクロコンピュータ(不図示)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも不図示)を備えている。
【0030】
入出力装置57aは、
図1に示すように、作業機モジュール30の前面に設けられており、入出力装置47aと同様に機能する。記憶装置57bは、ドリミルモジュール30Bの制御に係るデータ、例えば、制御プログラム、制御プログラムで使用するパラメータ、各種設定や各種指示に関するデータ、ワークWの設計値(寸法)、予測補正値の検証結果などを記憶している。通信装置57cは、通信装置47cと同様な装置である。温度センサ59は、温度センサ49と同様なセンサであり、検出結果を制御装置57に出力する。
【0031】
(ストックモジュール、検測モジュール)
加工前ストックモジュール30Cは、加工システム10にワークWを投入するモジュール(ワーク投入モジュール。また、単に投入モジュールと称する場合もある。)である。加工後ストックモジュール30Dは、加工システム10によって実施されるワークWに対する一連の加工が完了した完成品を収納して排出するモジュール(ワーク排出モジュール。また単に排出モジュールと称する場合もある。)である。
【0032】
検測モジュール30Eは、上流にて加工されたワークW(例えば加工中又は加工後のワークW)を検測(測定、計測)するもの(計測装置)である。検測モジュール30Eは、
図6に示すように、可動ベッド61、ワークテーブル62、テーブル移動装置63、寸法計測器64、寸法計測器駆動装置65及びモジュール制御装置66(本明細書にて制御装置66と称する場合もある。)を有している。
【0033】
可動ベッド61は、複数の車輪61aを介してベースモジュール20に設けられたレール(不図示)上を前後方向に沿って移動する。ワークテーブル62は、チャック62aが設けられており、チャック62aによってワークWを保持する。テーブル移動装置63は、ワークテーブル62を前後方向及び左右方向に沿って移動させる。テーブル移動装置63は、ワークテーブル62を、ロボット70からのワークWを授受する授受位置とワークWの寸法を寸法計測器64により計測(検測)する計測位置との間で移動させる。寸法計測器64(計測装置)は、いわゆる接触式の計測器であり、測定対象(測定対象部位)を一対の測定子(タッチプローブ)64a,64aで挟むことにより、ワークWの各部の寸法ひいてはワークWの寸法を計測する。その計測結果は、制御装置66に出力される。寸法計測器駆動装置65は、寸法計測器64を駆動(移動)させる装置である。
【0034】
尚、寸法計測器64は、測定子を一つだけ備え、その測定子を測定対象に接触させることで測定対象を計測するものでもよい。また、寸法計測器64は、レーザーや画像などを利用した非接触式の計測器でもよい。また、検測モジュール30Eは、寸法計測器64及び計測位置を複数設けるように構成してもよい。
【0035】
制御装置66は、テーブル移動装置63、寸法計測器64、寸法計測器駆動装置65などを駆動制御する制御装置である。制御装置66は、
図7に示すように、入出力装置66a、記憶装置66b、通信装置66c、テーブル移動装置63、寸法計測器64及び寸法計測器駆動装置65に接続されている。制御装置66は、マイクロコンピュータ(不図示)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも不図示)を備えている。
【0036】
入出力装置66aは、入出力装置47aと同様な装置である。記憶装置66bは、検測モジュール30Eの制御に係るデータ、例えば、制御プログラム、制御プログラムで使用するパラメータ、各種設定や各種指示に関するデータ、寸法計測器64による計測結果などを記憶している。通信装置66cは、通信装置47cと同様な装置である。
【0037】
仮置モジュール30Fは、加工システム10による一連の加工工程中において、ワークWを仮置きするためのものである。検測モジュール30E及び仮置モジュール30Fは、旋盤モジュール30A及びドリミルモジュール30Bと同様に、走行室(不図示)を有している。
【0038】
(ワークの加工)
さらに、上述した工作機械(旋盤モジュール30A)によるワークWの加工(切削)について
図8-10に示すフローチャートに沿って説明する。制御装置47は、本フローチャートに沿った処理を所定の短時間毎に実施する。
【0039】
制御装置47は、ステップS102において、旋盤モジュール30Aにて新たなワークWの加工が実施されるか否かを判定する。制御装置47は、ワークWを加工するための加工プログラムが新たに開始されている場合には、ワークWの加工が実施されると判定し(ステップS102にて「YES」)、プログラムをステップS104に進める。制御装置47は、ワークWを加工するための加工プログラムが新たに開始されない場合には、ワークWの加工が実施されないと判定し(ステップS102にて「NO」)、本フローチャートを一旦終了する。
【0040】
制御装置47は、ステップS104において、切削工具43aの使用回数を累積した累積切削回数及び工具保持部43b(または工具台43)に係る温度を取得する。
具体的には、制御装置47は、加工プログラムに含まれている今回の加工に使用する切削工具43aに係る累積切削回数を記憶装置47bから取得する。尚、制御装置47は、切削工具43aを使用する度に、切削工具43a毎にその使用回数を累積(積算)して累積使用回数を算出し、累積切削回数と切削工具43aとを関連付けて記憶装置47bに記憶している。すなわち、累積切削回数は、複数の切削工具43a毎に記憶装置47bに記憶されている。また、切削工具43aが新しいものに交換されると、累積切削回数はリセットされる。尚、累積切削回数に代えて、切削工具43aの摩耗量に相関する物理量を使用してもよい。例えば、切削工具43aの使用時間を累積した累積切削時間を使用するようにしてもよい。
【0041】
工具保持部43b(または工具台43)に係る温度は、工具保持部43b(または工具台43)の温度と相関のある温度であり、直接的又は間接的に検出した工具保持部43b(または工具台43)の温度である。工具保持部43bや工具台43の温度は、工具保持部43bや工具台43に設けられた温度センサ49によって検出され、検出結果は制御装置47に出力される。すなわち、制御装置47は、温度センサ49から工具保持部43b(または工具台43)に係る温度を取得する。尚、温度センサ49は、工具保持部43b(または工具台43)に内蔵された接触型温度センサでもよく、赤外線温度センサなどの非接触温度センサでもよい。
【0042】
尚、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度は、工具台43が取り付けられて工具台43(または工具保持部43b)の温度が伝達(伝熱)するZ軸スライダ44b1やX軸スライダ44a1の温度であってもよい。Z軸スライダ44b1やX軸スライダ44a1の温度は、Z軸スライダ44b1やX軸スライダ44a1に設けられた温度センサ49によって検出され、検出結果は制御装置47に出力される。また、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度は、ワークWを切削する際に循環されて潤滑油として又は切削工具43aの冷却液として使用されるクーラントの温度でもよい。この場合、温度センサ49は、クーラントの循環回路に設けられてクーラントの温度を検出する温度センサである。
上述したように、「スライダ」を構成可能である工具台43(工具保持部43b)、Z軸スライダ44b1やX軸スライダ44a1に係る温度等が「スライダに係る温度」である。
【0043】
制御装置47は、ステップS106において、補正手段(補正ツール、補正方法)である補正マップを記憶装置47bから取得する。補正手段は、切削工具43aの累積切削回数及び工具保持部43b(または工具台43)に係る温度から予測補正値を算出するための手段(ツール)である。補正手段としては、補正マップ(
図11参照)や演算式などがある。演算式は、補正マップ(
図11に示す)に相当する演算式や下記数1のように予測補正値を算出するための演算式が含まれている。予測補正値は、切削工具43aにより切削目標値だけ切削するための上述した駆動機構に対する切削指示値を補正するための補正値である。予測補正値は、実測値に基づいて算出した補正値でなく、切削工具43aの累積切削回数及び工具保持部43b(または工具台43)に係る温度から予測(算出)した補正値である。
【0044】
補正マップは、累積切削回数に基づいて補正するための第1補正マップ(
図11A)と、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度(スライダに係る温度)に基づいて補正するための第2補正マップ(
図11B)とから構成されている。
【0045】
第1補正マップは、累積切削回数と補正量との相関関係を示している。補正量は、実際の切削量と切削指示値との差分量であり、ワークWが設計値となるように(切削工具43aによる切削量が切削目標値となるように)切削指示値を補正する量である。第1補正マップは、累積切削回数が多くなるほど補正量は大きくなる関係である(このとき、補正量は正の値である。)。累積切削回数が多いほど切削工具43aの摩耗量が多くなり、切削開始時点におけるワークWと切削工具43aとの相対距離が大きくなる(ワークWと切削工具43aとが離れる)。よって、同じ切削指示値にしたがって切削した場合には累積切削回数が多いほど切削工具43aによる切削量が切削目標値より小さくなる。そこで、切削工具43aの切削位置を、累積切削回数が多いほどワークWに接近する位置に設定するべく、累積切削回数が多いほど補正量を大きく設定する必要があるからである(すなわち、摩耗量だけ切削工具43aとワークWとの間の距離を近づける必要があり、摩耗量が補正量に相当する。)。
【0046】
第2補正マップは、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度と補正量との相関関係を示している。工具保持部43b(または工具台43)に係る温度が高くなるほど補正量は小さくなる関係である(このとき、補正量は負の値である。)。工具保持部43b(または工具台43)に係る温度が高いほどワークW及び/又は切削工具43a側機構の熱膨張量(熱変形量)が大きくなり、切削開始時点におけるワークWと切削工具43aとの相対距離が小さくなる(ワークWと切削工具43aとが接近する)。よって、同じ切削指示値にしたがって切削した場合には工具保持部43b(または工具台43)に係る温度が高いほど切削工具43aによる切削量が切削目標値より大きくなる。そこで、切削工具43aの切削位置を、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度が高いほどワークWから離れる位置に設定するべく、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度が高くなるほど補正量を小さく設定する必要があるからである(すなわち、熱膨張量だけ切削工具43aとワークWとの間の距離を遠ざける必要があり、熱膨張量が補正量に相当する。)。尚、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度が高くなるほど補正量の絶対値は大きくなる関係である。また、切削工具43a側機構は、切削工具43aが設けられた側の機構であり、切削工具43a、工具台43及び工具台移動装置44を含んで構成されている機構である。また、この切削工具43a側機構は、主軸台42を含むようにしてもよい。
【0047】
制御装置47は、ステップS108において、ステップS106にて取得した補正手段を使用し、ステップS104にて取得した累積切削回数及び工具保持部43b(または工具台43)に係る温度から予測補正値を算出する。例えば、予測補正値は、下記数1から算出することができる。
(数1)
予測補正値=k1×α1+k2×α2
k1,k2は定数であり、α1は累積切削回数に係る第1補正値であり、α2は工具保持部43b(または工具台43)に係る温度に係る第2補正値である。
【0048】
第1補正値は、ステップS106にて取得した第1マップとステップS104にて取得した累積切削回数とから算出される補正量である。第1補正値は、第1マップにおいて累積切削回数に対応した補正量として算出することができる。第2補正値は、ステップS106にて取得した第2マップとステップS104にて取得した工具保持部43b(または工具台43)に係る温度とから算出される補正量である。第2補正値は、第2マップにおいて工具保持部43b(または工具台43)に係る温度に対応した補正量として算出することができる。
【0049】
尚、定数k1,k2をそれぞれ1に設定した場合には、予測補正値は第1補正値と第2補正値との和で表すことができる。また、0<k1<1,0<k2<1,k1+k2=1に設定した場合には、第1補正値と第2補正値を重みづけして予測補正値を算出することが可能となる。
【0050】
制御装置47は、ステップS110において、ステップS108にて算出した予測補正値を検証する(予測補正値が正しいことを確かめる。)。具体的には、制御装置47は、
図9に示す予測補正値の検証サブルーチンを実施する。制御装置47は、ステップS202において、ワークWの加工後の計測結果を、検測モジュール30Eの制御装置66から取得する。制御装置47は、ステップS204において、記憶装置47bからワークWの設計値を取得する。
【0051】
制御装置47は、ステップS206において、ステップS202にて取得した計測結果とステップS204にて取得した設計値とを比較することにより、算出した予測補正値を検証する。例えば、制御装置47は、計測結果と設計値との差分が予め定めた判定差分以下である場合には、予測補正値は正しいと判定し、計測結果と設計値との差分が判定差分より大きい場合には、予測補正値は正しくないと判定することができる。尚、制御装置47は、比較結果として設計値に対する計測結果の比と予め定めた判定比を比較することにより、予測補正値を検証することも可能である。また、判定差分及び判定比は、実験やシミュレーションにより算出することができる。また、制御装置47は、検証結果を記憶装置47bに記憶する。
【0052】
制御装置47は、ステップS112において、補正手段を学習する。具体的には、制御装置47は、
図10に示す補正手段の学習サブルーチンを実施する。制御装置47は、ステップS302において、今回の制御サイクルにて検証した予測補正値の検証結果を記憶装置47bから取得する。
【0053】
制御装置47は、ステップS304において、予測補正値の検証結果が「予測補正値は正しい」であるか否かを判定する。制御装置47は、予測補正値の検証結果が「予測補正値は正しい」である場合には、ステップS304にて「YES」と判定し、プログラムをステップS306以降に進めて、補正手段の学習を行う。
【0054】
制御装置47は、ステップS306において、記憶装置47bから補正手段(第1補正マップ、第2補正マップ及び上記数1)を取得する。制御装置47は、ステップS308において、補正手段の学習を行う。すなわち、制御装置47は、今回の制御サイクルにて取得した累積切削回数、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度及びワークWの測定値を使用して第1補正マップ、第2補正マップ及び上記数1の学習をそれぞれ行う。
【0055】
補正手段の学習について具体的に説明する。例えば、この学習は、いわゆる機械学習によって行われる。機械学習では、累積切削回数、計測結果(測定値)と設計値との差分(換言すると補正量)、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度などのサンプルデータを入力して解析を行い、これらデータから有用な補正手段を抽出する。具体的には、機械学習では、それらデータを生成した潜在的機構の特徴(確率分布)を捉え、データの関係を識別・定量化する。次に学習・識別したパターンを用いて新たなデータについて予測・決定を行う。
【0056】
また、他の学習方法として、計測結果(測定値)と設計値との差分(換言すると補正量)、累積切削回数及び工具保持部43b(または工具台43)に係る温度の関係(下記数2参照)を使用して、第1補正マップ、第2補正マップ及び上記数1の学習を行うことも可能である。予測補正値は(測定値-設計値)で表すことができるとともに、第1補正値α1はa×累積切削回数Nで、第2補正値α2はb×工具保持部43b(または工具台43)に係る温度Thで表すことができるので、上記数1から累積切削回数、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度及び測定値の関係は、下記数2に示すことができる。
(数2)
測定値-設計値=k1×(a×N)+k2×(b×Th)
ここで、aは定数であり
図11Aに示す累積切削回数と補正量との関係における傾きである。bは定数であり
図11Bに示す工具保持部43b(または工具台43)に係る温度と補正量との関係における傾きである。
【0057】
例えば、累積切削回数、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度及び測定値の複数のサンプルデータのなかから、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度が同じサンプルデータを2つ抽出する。それらのデータは、(Nk,Thk,測定値k)と(Nm,Thm,測定値m)である。これら2つのデータを上記数2に代入し、展開すると、下記数3に示すように、定数aを算出することができる。その結果、第1補正マップを学習することができる。
(数3)
a=(測定値k-測定値m)/(Nk-Nm)
【0058】
同様に、累積切削回数、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度及び測定値の複数のサンプルデータのなかから、累積切削回数が同じサンプルデータを2つ抽出すれば、下記数4に示すように、定数bを算出することができる。その結果、第2補正マップを学習することができる。
(数4)
b=(測定値k-測定値m)/(Thk-Thm)
【0059】
そして、制御装置47は、ステップS310において、学習後の補正手段を新たな補正手段として更新し記憶装置47bに記憶する。その後、制御装置47は、本サブルーチンを終了し、プログラムをステップS114に進める。ここで記憶された更新後の補正手段は、次回以降の加工処理プログラムにて使用される。
【0060】
また、制御装置47は、予測補正値の検証結果が「予測補正値は正しい」でない場合(「予測補正値が正しくない」である場合)には、ステップS304にて「NO」と判定し、本サブルーチンを終了し、プログラムをステップS114に進める。予測補正値が正しくない場合、すなわち加工後のワークWの計測結果が予測補正値から比較的大きく離れている場合には、切削工具43aの欠損などにより所望の加工が実施されなかったことが考えられ、このような計測結果をサンプルデータ(すなわち補正手段の学習)から除くためである。これにより、補正手段を精度よく学習することが可能となる。
【0061】
制御装置47は、ステップS114において、予測補正値を使用してワークWを加工(切削)する。加工プログラムには、主軸の回転制御に係るプログラムや、スライダの軸移動制御(切削工具43aの送り制御)に係るプログラムの他に、X軸補正及びZ軸補正をする補正プログラムが含まれている。
【0062】
制御装置47は、補正プログラムのパラメータである補正値に予測補正値を代入する。これにより、X軸方向の補正(X軸補正)及びZ軸方向の補正(Z軸補正)が予測補正値に基づいて行われる。そして、制御装置47は、予測補正値を代入した補正プログラムを含んだ加工プログラムを実施する。これにより、ワークWは、予測補正値が反映された切削加工が行われる。尚、切削指示値を駆動機構に指示することによりワークWを加工する制御を行う場合には、制御装置47は、切削指示値を予測補正値によって補正し、その補正した補正後予測補正値を駆動機構に指示するようにしてもよい。
【0063】
尚、上述した工作機械(ドリミルモジュール30B)によるワークWの加工(切削)についても、上述した旋盤モジュール30Aと同様に
図8に示すフローチャートに沿った制御が行われるので、異なる点についてのみ説明する。この場合、制御は、制御装置47に代えて制御装置57によって行われる。また、本制御においては、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度に代えて主軸52a(または主軸ヘッド52)に係る温度(工具保持部43b(または工具台43)に係る温度と同様である。)が使用され、切削工具43aの累積切削回数に代えて切削工具52bの累積切削回数(切削工具43aの累積切削回数と同様である。)が使用される。
【0064】
また、上述した制御は、制御装置47,57に代えて、検測モジュール30Eの制御装置66によって行うようにしてもよい。
さらに、上述した制御においては、予測補正値は切削工具の累積切削回数及び工具保持部43b(または工具台43)に係る温度から算出するようにしたが、両者に代えて切削にかかる時間(切削時間)、前回切削と今回切削との間隔(時間)、室温、ワークWの材質、クーラントの成分から算出するようにしてもよく、また、これらのパラメータの一部又は全部を前記両者に加えて算出するようにしてもよい。
【0065】
上述した実施形態による工作機械(旋盤モジュール30A,ドリミルモジュール30B)は、ワークWの切削をする切削工具43a,52bが着脱可能に装着されたスライダ(Z軸スライダ44b1(工具台43),Z軸スライダ53d(主軸ヘッド52))と、切削指示値にしたがってZ軸スライダ44b1(工具台43),Z軸スライダ53d(主軸ヘッド52)を移動させて前記切削を行う駆動機構(工具台移動装置44,主軸ヘッド移動装置53)と、切削工具43a,52bの累積切削回数及び工具保持部43b(または工具台43)に係る温度から補正値を予測し、予測した補正値(予測補正値)に基づいて工具台移動装置44,主軸ヘッド移動装置53を移動させることにより前記切削を制御する制御装置47,57と、を備えている。
【0066】
これによれば、切削工具43a,52bの累積切削回数及び工具保持部43b(または主軸52a)に係る温度から予測される予測補正値を使用してワークWの加工(切削)を行うことにより、旋盤モジュール30A,ドリミルモジュール30Bは加工精度を高く維持することが可能となる。また、切削工具43a,52bの累積切削回数及び工具保持部43b(または主軸52a)に係る温度から予測される予測補正値を使用することにより、加工(切削)後に計測した計測値を使用することなく、すなわち加工後計測情報を使用した補正情報が届くのを待たずして加工工程での加工を行うことが可能となり、サイクルタイムの増大を防止することが可能となる。従って、旋盤モジュール30A,ドリミルモジュール30Bは、サイクルタイムの増大を招くことなく、加工精度を高く維持することができる。
【0067】
また、例えば、本実施形態のように、互いに異なる加工処理がそれぞれ行われる複数の旋盤モジュール30Aが並設された下流に検測モジュール30Eが配置されている場合であっても、すなわち、加工プログラムにて補正を必要とする加工工程と計測工程との間にバッファがある場合であっても、加工後計測情報を使用した補正情報が届くのを待たずして各加工工程での加工をそれぞれ行うことが可能となる。
また、上述した制御によれば、刃具摩耗による連続的なワークWの寸法変化に対して適切な予測補正値を算出することが可能となる。
【0068】
また、制御装置47,57は、切削工具43a,52bによって前記切削がされたワークWを計測する寸法計測器64から計測結果を受信し、受信した計測結果を使用して予測補正値の検証をする(ステップS110)。
これによれば、計測結果を使用して予測補正値を検証することができるので、その検証を的確に行うことができる。その結果、サイクルタイムの増大を招くことなく、加工精度をより高く維持することができる。
【0069】
また、制御装置47,57は、前記検証の結果である検証結果と予測した予測補正値とから予測補正値の補正方法を学習する(ステップS112)。
これによれば、予測補正値の補正方法をより精度よく学習することができる。
【0070】
尚、上述した実施形態においては、予測補正値を切削工具43a,52bの累積切削回数及び工具保持部43b(または主軸52a)に係る温度から予測(算出)するようにしたが、切削工具43a,52bの累積切削回数及び切削工具43a,52bに係る温度から予測(算出)するようにしてもよい。
【0071】
切削工具43a,52bに係る温度は、切削工具43aの温度と相関のある温度であり、直接的又は間接的に検出した切削工具43aの温度である。例えば、切削工具43aに係る温度は、切削工具43aが取り付けられて切削工具43aの温度が伝達(伝熱)する工具保持部43bや工具台43の温度である。工具保持部43bや工具台43の温度は、工具保持部43bや工具台43に設けられた温度センサ49によって検出され、検出結果は制御装置47に出力される。すなわち、制御装置47は、温度センサ49から切削工具43aに係る温度を取得する。
【0072】
尚、切削工具43aに係る温度は、ワークWを切削する際に循環されて潤滑油として又は切削工具43aの冷却液として使用されるクーラントの温度でもよい。この場合、温度センサ49は、クーラントの循環回路に設けられてクーラントの温度を検出する温度センサである。また、切削工具43aに係る温度は、切削工具43aを直接検出した温度でもよい。この場合、温度センサ49は、切削工具43aに内蔵されたものでもよく、赤外線温度センサなどの非接触温度センサでもよい。
【0073】
また、制御装置47,57は、上述した
図8-10に示すフローチャートにおいて、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度に代えて、切削工具43a,52bに係る温度を使用する。また、制御装置47,57は、工具保持部43b(または工具台43)に係る温度に代えて、切削工具43a,52bに係る温度を使用する、第2補正マップを使用する。
【0074】
これによれば、切削工具43a,52bの累積切削回数及び切削工具43a,52bに係る温度から予測される予測補正値を使用してワークWの加工(切削)を行うことにより、旋盤モジュール30A,ドリミルモジュール30Bは加工精度を高く維持することが可能となる。また、切削工具43a,52bの累積切削回数及び切削工具43a,52bに係る温度から予測される予測補正値を使用することにより、加工(切削)後に計測した計測値を使用することなく、すなわち加工後計測情報を使用した補正情報が届くのを待たずして加工工程での加工を行うことが可能となり、サイクルタイムの増大を防止することが可能となる。従って、旋盤モジュール30A,ドリミルモジュール30Bは、サイクルタイムの増大を招くことなく、加工精度を高く維持することができる。
【符号の説明】
【0075】
30A…旋盤モジュール(工作機械)、30B…ドリミルモジュール(工作機械)、43…工具台(スライダ)、43a,52b…切削工具、44…工具台移動装置(駆動機構)、44b1…Z軸スライダ(スライダ)、44a1…X軸スライダ(スライダ)、47,57…制御装置、52…主軸ヘッド(スライダ)、53…主軸ヘッド移動装置(駆動機構)、53d…Z軸スライダ(スライダ)、53e…X軸スライダ(スライダ)、53f…Y軸スライダ(スライダ)、W…ワーク。