(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】変異型ヒスチジン脱炭酸酵素およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/60 20060101AFI20240524BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240524BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240524BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240524BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240524BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20240524BHJP
C12Q 1/527 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C12N15/60 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/88
C12Q1/527
(21)【出願番号】P 2019506026
(86)(22)【出願日】2018-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2018009572
(87)【国際公開番号】W WO2018168801
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-10-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017047813
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】杉木 正之
(72)【発明者】
【氏名】中田 國夫
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】福井 悟
【審判官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/103761(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/081991(WO,A1)
【文献】特表2016-512021(JP,A)
【文献】特開昭57-141289(JP,A)
【文献】Accession No. AB259288, Photobacterium phosphoreum hdc gene for histidine decarboxylase, [online], 掲載日: 2007.3.3, 検索日: 2018.5.22, Database UniProt/GeneSeq, <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/95113534?sat=3&satkey=6591767>
【文献】PLOS ONE,2015年,Vol. 10, Issue 10, e0140716
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C12N9/00-9/99
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する野生型ヒスチジン脱炭酸酵素において、以下から選ばれる少なくとも1つの変異を有しており、
ヒスチジン脱炭酸酵素活性および/または熱安定性が
配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する野生型ヒスチジン脱炭酸酵素よりも高く、
(A)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対し以下の群より選ばれる少なくとも1つの変異を含むアミノ酸配列を有するか、
(B)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対し以下の群より選ばれる少なくとも1つの変異、及び1~20個のアミノ酸残基の追加変異を有するアミノ酸配列を含むか、又は、
(C)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対し90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
に対し以下の群より選ばれる少なくとも1つの変異を含む、
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素:
15位のトリプトファンのフェニルアラニンへの置換;
21位のアスパラギンのヒスチジンへの置換;
22位のグルタミンのアルギニンへの置換;
43位のメチオニンのロイシンへの置換;
55位のグルタミン酸のセリンへの置換;
57位のシステインのアラニン、セリン、スレオニン、またはグリシンへの置換;
96位のセリンのグリシンへの置換;
98位のメチオニンのバリンへの置換;
101位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換;
102位のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
114位のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
130位のロイシンのイソロイシンへの置換;
132位のイソロイシンのロイシンまたはメチオニンへの置換;
147位のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
185位のメチオニンのスレオニン、ロイシン、イソロイシン、セリンまたはアラニンへの置換;
196位のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
234位のメチオニンのアラニンへの置換;
279位のメチオニンのイソロイシンへの置換;
280位のメチオニンのロイシン、またはイソロイシンへの置換;
282位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換;
319位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換;
327位のバリンのイソロイシンへの置換;
330位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換;及び
340位のシステインのアラニンへの置換。
【請求項2】
57位のシステインのアラニン、セリン、スレオニン、またはグリシンへの置換と、
101位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換、
282位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換、
319位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換、及び
330位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換、
から選ばれる1又は2以上の置換と
を少なくとも含む、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
57位のシステインの置換がセリンへの置換である、請求項1または2に記載の酵素。
【請求項4】
101位のシステインの置換がバリンへの置換である、請求項1~3のいずれか1項に記載の酵素。
【請求項5】
282位のシステインの置換がアラニン、またはバリンへの置換である、請求項1~4のいずれか1項に記載の酵素。
【請求項6】
330位のシステインの置換がアラニン、またはセリンへの置換である、請求項1~5のいずれか1項に記載の酵素。
【請求項7】
さらに、保存安定性、および酸化耐性からなる群より選ばれる少なくとも1つが野生型ヒスチジン脱炭酸酵素よりも高い、請求項1~6のいずれか1項に記載の酵素。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の酵素をコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項10】
請求項9に記載の発現ベクターを含む形質転換体。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の酵素を含むヒスチジン分析用キット。
【請求項12】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を更に含む請求項11に記載のヒスチジン分析用キット。
【請求項13】
反応用緩衝液または緩衝塩、4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および還元型電子供与体試薬の少なくとも一つをさらに含む、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか1項に記載の酵素を含む、ヒスチジン分析用システム。
【請求項15】
請求項1~7のいずれか1項に記載の酵素により測定された被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも低ければ被験者は潰瘍性大腸炎、心臓悪液質、生活習慣病またはがんに罹患していると判定し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも高ければ被検者はヒスチジン血症に罹患していると判定する、潰瘍性大腸炎、心臓悪液質、生活習慣病、がんまたはヒスチジン血症の判定方法。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか1項に記載の酵素により測定された潰瘍性大腸炎の寛解期にある被検者の被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも低ければ被験者は炎症性腸疾患の再燃リスクが高いと判定し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも高ければ被検者は再燃リスクが低いと判定する、潰瘍性大腸炎の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスチジンは、クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、ヒスチジン血症、心臓悪液質、がん、生活習慣病のバイオマーカーであることが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1~5)。アミノ酸の測定方法としては、アミノ酸アナライザー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やLC-MSなどの機器を用いた方法、蛍光分析法(例えば、特許文献2)、ガラクトースオキシダーゼを用いる方法(例えば、非特許文献6)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/056631号
【文献】特開2001-242174号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Levy H(2004)"Histidinemia"Orphanet
【文献】Kawai Y,et al."Molecular characterization of histidinemia:identification of four missense mutations in the histidase gene" Hum Genet.116,340‐346,2005
【文献】櫻林郁之介、熊坂一成監修(2008)最新臨床検査項目辞典 医歯薬出版株式会社,pp.205
【文献】Hisamatsu T,et al.PLoS One.2012;7(1):e31131
【文献】Miyagi Y,et al.PLoS One.2011;6(9):e24143
【文献】Hasebe Y, et al.Sensors and Actuators B 66 (2000) 12-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、機器を用いた方法においては、大型で高価な機器を使う必要があり、しかも機器の維持とオペレーションに専門知識と習熟を必要とするため、導入、維持、利用に高額のコストを必要とする。また、原理上、各検体をシーケンシャルに分析する必要があるため、多検体を分析する際には長時間を必要とする。
ヒスチジン脱炭酸酵素は、ヒスチジンに作用してヒスタミンを生成する酵素であり、ヒスチジン測定への実用化が模索されているが、実用化に際しより高い安定性(例、熱安定性、保存安定性、および酸化耐性)および活性を有する酵素が求められている。
【0006】
本発明は、実用化に適した変異型ヒスチジン脱炭酸酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を提供する。
〔1〕モチーフ(1)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフを有する野生型ヒスチジン脱炭酸酵素において、モチーフ(1)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基が変異しており、
ヒスチジン脱炭酸酵素活性および/または安定性が野生型ヒスチジン脱炭酸酵素よりも高い、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素:
モチーフ(1):GDWX1X2X3CNYX4モチーフ(X1はA、SまたはGを、X2はE、AまたはDを、X3はYまたはEを、X4はLまたはRを、それぞれ示す);
モチーフ(2):EX5NX6X7X8CYLX9モチーフ(X5はSまたはGを、X6はMまたはLを、X7はFまたはYを、X8はGまたはSを、X9はG、SまたはAを、それぞれ示す);
モチーフ(3):GSRNGX10TPX11X12MWX13AX14X15Sモチーフ(X10はHまたはQを、X11はLまたはMを、X12はMまたはIを、X13はC、EまたはAを、X14はVまたはIを、X15はKまたはRを、それぞれ示す);
モチーフ(4):GX16X17AWX18X19モチーフ(X16はIまたはVを、X17はN、D、Q、HまたはPを、X18はC、RまたはLを、X19はN、HまたはCを、それぞれ示す);
モチーフ(5):TVX20FPCPSX21X22モチーフ(X20はVまたはIを、X21はE、VまたはAを、X22はA、D、SまたはNを、それぞれ示す);
モチーフ(6):VWKX23X24CLAX25Sモチーフ(X23はKまたはRを、X24はHまたはYを、X25はTまたはIを、それぞれ示す)。
〔2〕少なくとも1つのアミノ酸残基は、含硫アミノ酸残基、芳香族アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、水酸基を含有するアミノ酸残基、アミド基を含有するアミノ酸残基、および分枝鎖アミノ酸残基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基を含む、〔1〕の酵素。
〔3〕含硫アミノ酸残基は、システインおよびメチオニンからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、
芳香族アミノ酸残基は、トリプトファン、フェニルアラニン、ヒスチジンおよびチロシンからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、
酸性アミノ酸残基は、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、
水酸基を含有するアミノ酸残基は、セリンおよびスレオニンからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、
アミド基を含有するアミノ酸残基は、アスパラギンおよびグルタミンからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、および
分枝鎖アミノ酸残基は、バリン、ロイシンおよびイソロイシンからなる群より選ばれる少なくとも1つである、
〔2〕の酵素。
〔4〕含硫アミノ酸残基の変異は、アラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシンおよびバリンからなる群より選ばれるいずれかへの置換であり、
芳香族アミノ酸残基の変異は、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびアルギニンからなる群より選ばれるいずれかへの置換であり、
酸性アミノ酸残基の変異は、セリンまたはスレオニンへの置換であり、
水酸基を含有するアミノ酸残基の変異は、グリシンまたはアラニンへの置換であり、
アミド基を含有するアミノ酸残基の変異は、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、セリンおよびスレオニンからなる群より選ばれるいずれかへの置換であり、および
分枝鎖アミノ酸残基の変異は、イソロイシン、ロイシンおよびメチオニンからなる群より選ばれるいずれかへの置換である、
〔2〕または〔3〕の酵素。
〔5〕モチーフ(1)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基は、以下のいずれかを含む、〔1〕~〔4〕のいずれかの酵素。
モチーフ(1)中のCNYモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異;
モチーフ(1)中のX2の変異;
モチーフ(2)中のCYLモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異;
モチーフ(2)中のX5の変異;
モチーフ(2)中のX6の変異;
モチーフ(3)中のX12の変異;
モチーフ(3)中のMの変異;
モチーフ(3)中のX13の変異;
モチーフ(4)中のX18の変異;
モチーフ(5)中のX20の変異;
モチーフ(5)中のFPCPSモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異;および
モチーフ(6)中のCLATSモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異。
〔6〕CNYモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基、CYLモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基、FPCPSモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基、およびCLATSモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基は、システインである、〔5〕の酵素。
〔7〕以下の群から選ばれる少なくとも1つの変異を有する、〔4〕~〔6〕のいずれかの酵素:
モチーフ(1)中のCNYモチーフ中のシステインのアラニン、セリン、スレオニン、アルギニンまたはグリシンへの置換;
モチーフ(1)中のX2のセリンへの置換;
モチーフ(2)中のCYLモチーフ中のシステインのアラニン、セリンまたはバリンへの置換;
モチーフ(2)中のCYLモチーフ中のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
モチーフ(2)中のX5のグリシンへの置換;
モチーフ(2)中のX6のバリンへの置換;
モチーフ(3)中のX12のイソロイシンへの置換;
モチーフ(3)中のMのロイシンまたはイソロイシンへの置換;
モチーフ(3)中のX13のアラニン、セリンまたはバリンへの置換;
モチーフ(4)中のX18のアラニン、セリンまたはバリンへの置換;
モチーフ(5)中のX20のイソロイシンへの置換;
モチーフ(5)中のFPCPSモチーフ中のシステインのアラニン、セリンまたはバリンへの置換;および
モチーフ(6)中のCLATSモチーフ中のシステインのアラニン、セリンまたはバリンへの置換。
〔8〕野生型ヒスチジン脱炭酸酵素は、
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列、
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列、または
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を有する、〔1〕~〔7〕のいずれかの酵素。
〔9〕(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列、
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列、または
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を有する野生型ヒスチジン脱炭酸酵素において、以下の群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基の変異を含み、
ヒスチジン脱炭酸酵素活性および/または安定性が野生型ヒスチジン脱炭酸酵素よりも高い、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素:
15位のトリプトファンの変異;
21位のアスパラギンの変異;
22位のグルタミンの変異;
43位のメチオニンの変異;
55位のグルタミン酸の変異;
57位のシステインの変異;
96位のセリンの変異;
98位のメチオニンの変異;
101位のシステインの変異;
102位のチロシンの変異;
114位のチロシンの変異;
130位のロイシンの変異;
132位のイソロイシンの変異;
147位のチロシンの変異;
185位のメチオニンの変異;
196位のチロシンの変異;
234位のメチオニンの変異;
279位のメチオニンの変異;
280位のメチオニンの変異;
282位のシステインの変異;
319位のシステインの変異;
327位のバリンの変異;
330位のシステインの変異;
340位のシステインの変異;および
377位のメチオニンの変異。
〔10〕以下の群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基の変異を含む、〔9〕の酵素:
15位のトリプトファンのフェニルアラニンへの置換;
21位のアスパラギンのヒスチジンへの置換;
22位のグルタミンのアルギニンへの置換;
43位のメチオニンのロイシンへの置換;
55位のグルタミン酸のセリンへの置換;
57位のシステインのアラニン、セリン、スレオニン、アルギニン、またはグリシンへの置換;
96位のセリンのグリシンへの置換;
98位のメチオニンのバリンへの置換;
101位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換;
102位のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
114位のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
130位のロイシンのイソロイシンへの置換;
132位のイソロイシンのロイシンまたはメチオニンへの置換;
147位のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
185位のメチオニンのスレオニン、ロイシン、イソロイシン、セリンまたはアラニンへの置換;
196位のチロシンのフェニルアラニンへの置換;
234位のメチオニンのアラニンへの置換;
279位のメチオニンのイソロイシンへの置換;
280位のメチオニンのロイシン、またはイソロイシンへの置換;
282位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換;
319位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換;
327位のバリンのイソロイシンへの置換;
330位のシステインのアラニン、セリン、またはバリンへの置換;
340位のシステインのアラニンへの置換;および
377位のメチオニンのスレオニン、ロイシン、イソロイシンまたはアラニンへの置換。
〔11〕安定性は、熱安定性、保存安定性、および酸化耐性からなる群より選ばれる少なくとも1つである、〔1〕~〔10〕のいずれかの酵素。
〔12〕〔1〕~〔11〕のいずれかの酵素をコードするポリヌクレオチド。
〔13〕〔12〕のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
〔14〕〔13〕の発現ベクターを含む形質転換体。
〔15〕〔1〕~〔11〕のいずれかの酵素を含むヒスチジン分析用キット。
〔16〕4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を更に含む〔15〕のヒスチジン分析用キット。
〔17〕反応用緩衝液または緩衝塩、4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および還元型電子供与体試薬の少なくとも一つをさらに含む、〔16〕のキット。
〔18〕〔1〕~〔11〕のいずれかの酵素を含む、ヒスチジン分析用システム。
〔19〕〔1〕~〔11〕のいずれかの酵素により測定された被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも低ければ被験者は潰瘍性大腸炎、心臓悪液質、生活習慣病またはがんに罹患していると判定し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも高ければ被検者はヒスチジン血症に罹患していると判定する、潰瘍性大腸炎、心臓悪液質、生活習慣病、がんまたはヒスチジン血症の判定方法。
〔20〕〔1〕~〔11〕のいずれかの酵素により測定された潰瘍性大腸炎の寛解期にある被検者の被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも低ければ被験者は炎症性腸疾患の再燃リスクが高いと判定し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも高ければ被検者は再燃リスクが低いと判定する、潰瘍性大腸炎の判定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒスチジン脱炭酸酵素活性、安定性(例、熱安定性、保存安定性、および酸化耐性)等の特性が野生型ヒスチジン脱炭酸酵素と比較して良好な変異型ヒスチジン脱炭酸酵素が提供される。斯かる酵素は、ヒスチジンの迅速かつ高感度な測定、および/またはヒスタミンの製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素(「HisDC」で示す)およびその他の各生物由来のヒスチジン脱炭酸酵素(UniProtアクセッション番号で示す)のモチーフ(1)近傍のアミノ酸配列のアラインメントを示した図である。
【
図2】
図2は、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素(「HisDC」で示す)およびその他の各生物由来のヒスチジン脱炭酸酵素(UniProtアクセッション番号で示す)のモチーフ(2)近傍のアミノ酸配列のアラインメントを示した図である。
【
図3】
図3は、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素(「HisDC」で示す)およびその他の各生物由来のヒスチジン脱炭酸酵素(UniProtアクセッション番号で示す)のモチーフ(3)近傍のアミノ酸配列のアラインメントを示した図である。
【
図4】
図4は、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素(「HisDC」で示す)およびその他の各生物由来のヒスチジン脱炭酸酵素(UniProtアクセッション番号で示す)のモチーフ(4)近傍のアミノ酸配列のアラインメントを示した図である。
【
図5】
図5は、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素(「HisDC」で示す)およびその他の各生物由来のヒスチジン脱炭酸酵素(UniProtアクセッション番号で示す)のモチーフ(5)近傍のアミノ酸配列のアラインメントを示した図である。
【
図6】
図6は、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素(「HisDC」で示す)およびその他の各生物由来のヒスチジン脱炭酸酵素(UniProtアクセッション番号で示す)のモチーフ(6)近傍のアミノ酸配列のアラインメントを示した図である。
【
図7】
図7は、実施例6におけるHisDC野生型およびC57S変異体の各温度での熱処理後の相対活性(熱安定性を示す)を示した図である。
【
図8】
図8は、実施例7におけるHisDC野生型およびC57S変異体の各保存日数における相対活性(長期保存安定性を示す)を示した図である。
【
図9】
図9は、実施例8におけるHisDC野生型およびC57S変異体の各濃度の過酸化水素添加時の活性(酸化耐性を示す)を示した図である。(-)はアスコルビン酸添加なし、(+)は1mMアスコルビン酸添加ありを示す。
【
図10】
図10は、実施例9におけるHisDC野生型、C57S変異体、およびC57S/C101V/C282V変異体の各濃度の過酸化水素添加時の活性(酸化耐性を示す)を示した図である。(-)はアスコルビン酸添加なし、(+)は1mMアスコルビン酸添加ありを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ヒスチジン脱炭酸酵素(histidine decarboxylase;HisDC;EC 4.1.1.22)は、ヒスチジンをヒスタミンに転換する酵素である。変異型ヒスチジン脱炭酸酵素とは、野生型ヒスチジン脱炭酸酵素に対し少なくとも1つの変異を有する(改変されている)ヒスチジン脱炭酸酵素である。本発明の変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、ヒスチジン脱炭酸酵素活性を有する。ヒスチジン脱炭酸酵素活性とは、ヒスチジンをヒスタミンに転換する反応に関与する酵素活性である。
【0011】
野生型ヒスチジン脱炭酸酵素とは、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素の基礎としての変異前のヒスチジン脱炭酸酵素を意味する。野生型ヒスチジン脱炭酸酵素は、生物(例えば、細菌、放線菌および真菌等の微生物、昆虫、魚類、動物、植物等)に由来するものであってもよいし、上記モチーフを有するタンパク質をコードする遺伝子をその遺伝子を本来有しない他の生物(例えば、大腸菌(エシェリヒア・コリ))を宿主として発現させて得られる酵素タンパク質であってもよい。野生型ヒスチジン脱炭酸酵素としては例えば、フォトバクテリウム属細菌(例えば、フォトバクテリウム・フォスフォリウム(Photobacterium phosphoreum)、フォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae))、セラチア属細菌(例えば、Serratia rubidaea)、ゼノラブダス属細菌(例えば、Xenorhabdus poinarii)、モルガネラ属細菌(例えば、Morganella morganii)、クレブシエラ属細菌(例えば、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca)、シュードモナス属細菌(例えば、Pseudomonas sp.)、クロモバクテリウム属細菌(Chromobacterium sp.)、アエロモナス属細菌(Aeromonas salmonicida)、ビブリオ属細菌(例えば、Vibrio nigripulchritudo、Vibrio neptunius、Vibrio corallilyticus)、オリゲラ属細菌(Oligella urethralis)、アカリオクロリス細菌(例えば、Acaryochloris marina)、フラボバクテリウム属細菌(例えば、Flavobacterium columnare)、ゾベリア属細菌(例えば、Zobellia galactonivorans)、ストレプトコッカス属細菌(例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles))、ラクトバチルス属細菌(例えば、ラクトバチルス30a(Lactobacillus 30a)、ラクトバチルス・サエリムネリ(Lactobacillus saerimneri)、ラクトバチルス・ヒルガルディ(Lactobacillus hilgardii)、ラクトバチルス・ブチネリ(Lactobacillus buchneri))、オエノコッカス属細菌(例えば、オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni))、テトラゲノコッカス属細菌(例えば、テトラゲノコッカス・ムリアティクス(Tetragenococcus muriaticus)、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)等)、クロストリジウム属細菌(例えば、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)等)、マイクロコッカス属細菌(例えば、マイクロコッカス・エスピー(Micrococcus sp.)等)、スタフィロコッカス属細菌(例えば、スタフィロコッカス・キャピティス(Staphylococcus capitis)等)、ラオウルテラ属細菌(例えば、ラオウルテラ・プランティコラ(Raoultella planticola(Klebsiella planticola))等)、エンテロバクター属細菌(例えば、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes))等の細菌(Molecular Microbiology(2011)79(4),861-871、J Appl Microbiol.2008 104(1):194-203)に由来するヒスチジン脱炭酸酵素が挙げられる。前記細菌のうち、フォトバクテリウム属細菌が好ましく、フォトバクテリウム・フォスフォリウムがより好ましい。
【0012】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、上述のとおり、野生型ヒスチジン脱炭酸酵素の少なくとも1つのアミノ酸残基が変異している酵素である。アミノ酸残基の変異としては、例えば、アミノ酸残基の欠失、他のアミノ酸残基への置換、他のアミノ酸残基の付加および挿入が挙げられるが、他のアミノ酸残基への置換が好ましい。変異しているアミノ酸残基は、含硫アミノ酸残基、芳香族アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、水酸基を含有するアミノ酸残基、アミド基を含有するアミノ酸残基、および分枝鎖アミノ酸残基から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基を含むことが好ましい。含硫アミノ酸残基は、その構造中に硫黄原子を含むアミノ酸残基であり、通常は硫黄含有側鎖を含む。例えば、システイン、メチオニンが挙げられる。芳香族アミノ酸残基は、その構造中に芳香環または複素環を含むアミノ酸残基であり、例えば、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジンが挙げられ、トリプトファンおよびチロシンが好ましい。酸性アミノ酸残基は、その構造中に酸性基を含むアミノ酸残基であり、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、グルタミン酸が好ましい。水酸基を含有するアミノ酸残基は、その構造中に水酸基を含むアミノ酸残基であり、例えば、セリン、およびスレオニンが挙げられ、セリンが好ましい。アミド基を含有するアミノ酸残基は、その構造中に一級アミドを含むアミノ酸残基であり、例えば、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられる。分枝鎖アミノ酸残基は、その構造中に分枝鎖を含むアミノ酸残基であり、例えば、バリン、ロイシンおよびイソロイシンが挙げられる。
【0013】
含硫アミノ酸残基の変異の種類は特に限定されないが、他のアミノ酸残基への置換が好ましく、例えば、アラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシンおよびバリンからなる群より選ばれるいずれかへの置換であり、アラニン、セリン、スレオニン、アルギニン、グリシン、イソロイシン、ロイシンおよびバリンからなる群より選ばれるいずれかへの置換がより好ましい。システインは、アラニン、セリン、スレオニン、アルギニン、グリシン、またはバリンに置換されることが好ましい。メチオニンは、ロイシン、バリン、スレオニン、イソロイシン、セリンまたはアラニンに置換されることが好ましい。
【0014】
芳香族アミノ酸残基の変異の種類は特に限定されないが、他のアミノ酸残基への置換が好ましく、例えば、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびアルギニンからなる群より選ばれるいずれかへの置換であり、フェニルアラニン、アスパラギンおよびリジンからなる群より選ばれるいずれかへの置換がより好ましい。トリプトファンは、フェニルアラニンに置換されることが好ましい。チロシンは、フェニルアラニンに置換されることが好ましい。トリプトファンおよびチロシンは、アスパラギンまたはリジンに置換されることにより、タンパク質の酸化耐性が向上し得ることがあることが知られている。このことから、トリプトファンおよびチロシンへの変異導入が、安定性を向上させることが期待される。芳香族アミノ酸残基は、フェニルアラニン、アスパラギンおよびリジンからなる群より選ばれるいずれかに置換されることが好ましい。ただし、フェニルアラニンへの置換の場合、変異前の芳香族アミノ酸残基は、フェニルアラニン以外の残基(例えば、トリプトファン、チロシン、またはヒスチジン、好ましくはトリプトファン)であることが好ましい。
【0015】
酸性アミノ酸残基の変異の種類は特に限定されないが、他のアミノ酸残基への置換が好ましく、例えば、セリンおよびスレオニンへの置換であり、セリンへの置換がより好ましい。グルタミン酸は、セリンに置換されることが好ましい。
【0016】
水酸基を含有するアミノ酸残基の変異の種類は特に限定されないが、他のアミノ酸残基への置換が好ましく、例えば、グリシンおよびアラニンへの置換であり、グリシンへの置換がより好ましい。セリンは、グリシンに置換されることが好ましい。
【0017】
アミド基を含有するアミノ酸残基の変異の種類は特に限定されないが、他のアミノ酸残基への置換が好ましく、例えば、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、セリンおよびスレオニンからなる群より選ばれるいずれかへの置換であり、ヒスチジン、アルギニンおよびセリンからなる群より選ばれるいずれかへの置換がより好ましい。アスパラギンは、ヒスチジンに置換されることが好ましい。グルタミンは、アルギニンに置換されることが好ましい。
【0018】
分枝鎖アミノ酸残基の変異の種類は特に限定されないが、他のアミノ酸残基への置換が好ましく、例えば、他の分枝鎖アミノ酸(例、イソロイシン、ロイシン、バリン)およびメチオニンからなる群より選ばれるいずれかへの置換であり、イソロイシン、ロイシンおよびメチオニンからなる群より選ばれるいずれかへの置換がより好ましい。バリンは、イソロイシンに置換されることが好ましい。ロイシンは、イソロイシンに置換されることが好ましい。イソロイシンは、ロイシンまたはメチオニンに置換されることが好ましい。
【0019】
野生型ヒスチジン脱炭酸酵素としては例えば、以下のモチーフ(1)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフを有する野生型ヒスチジン脱炭酸酵素が挙げられるが、以下のモチーフ(1)、(2)、(5)および(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフを有する野生型ヒスチジン脱炭酸酵素が好ましい。斯かる酵素は、モチーフ(1)、(2)、(5)および(6)からなる群より選ばれる1つのモチーフ、または2つ以上のモチーフの組み合わせを有することが好ましく、すべてのモチーフを有することがさらにより好ましい。変異前のヒスチジン脱炭酸酵素は、モチーフ(1)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフをさらに有していてもよく、すべてのモチーフを有することが好ましい。
モチーフ(1):GDWX1X2X3CNYX4モチーフ(X1はA、SまたはGを、X2はE、AまたはDを、X3はYまたはEを、X4はLまたはRを、それぞれ示す);
モチーフ(2):EX5NX6X7X8CYLX9モチーフ(X5はSまたはGを、X6はMまたはLを、X7はFまたはYを、X8はGまたはSを、X9はG、SまたはAを、それぞれ示す);
モチーフ(3):GSRNGX10TPX11X12MWX13AX14X15Sモチーフ(X10はHまたはQを、X11はLまたはMを、X12はMまたはIを、X13はC、EまたはAを、X14はVまたはIを、X15はKまたはRを、それぞれ示す);
モチーフ(4):GX16X17AWX18X19モチーフ(X16はIまたはVを、X17はN、D、Q、HまたはPを、X18はC、RまたはLを、X19はN、HまたはCを、それぞれ示す);
モチーフ(5):TVX20FPCPSX21X22モチーフ(X20はVまたはIを、X21はE、VまたはAを、X22はA、D、SまたはNを、それぞれ示す);
モチーフ(6):VWKX23X24CLAX25Sモチーフ(X23はKまたはRを、X24はHまたはYを、X25はTまたはIを、それぞれ示す)。
【0020】
各モチーフは、配列番号3で表されるアミノ酸配列と他の生物種由来のヒスチジン脱炭酸酵素の解析により特定されたモチーフであり、以下に示す各生物由来のヒスチジン脱炭酸酵素の配列の比較解析により特定され得る。具体的には以下のとおりである。フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のヒスチジン脱炭酸酵素(「HisDC」で示す)およびその他の各生物由来のヒスチジン脱炭酸酵素(UniProtアクセッション番号で示す)のアミノ酸配列の各モチーフに対応する配列部分も併せて示す。
【0021】
モチーフ(1)は、配列番号3で表されるアミノ酸配列中の51~60位のGDWAEYCNYLのアミノ酸領域に相当するモチーフであり(表1、
図1)、本明細書中で、GDWX
1X
2X
3CNYX
4モチーフ(X
1は[A/S/G]、X
2は[E/A/D]、X
3は[Y/E]、X
4は[L/R]を示す。)とも呼ぶ。
【0022】
【0023】
モチーフ(2)は、配列番号3で表されるアミノ酸配列中の95~104位のESNMFGCYLGのアミノ酸領域に相当するモチーフである(表2、
図2)。本明細書中で、EX
5NX
6X
7X
8CYLX
9モチーフ(X
5は[S/G]、X
6は[M/L]、X
7は[F/Y]、X
8は[G/S]、X
9は[G/S/A]を示す。)とも呼ぶ。
【0024】
【0025】
モチーフ(3)は、配列番号3で表されるアミノ酸配列中の270~286位のGSRNGHTPLMMWCAVKSのアミノ酸領域に相当するモチーフである(表3、
図3)。本明細書中で、GSRNGX
10TPX
11X
12MWX
13AX
14X
15Sモチーフ(X
10は[H/Q]、X
11は[L/M]、X
12は[M/I]、X
13は[C/E/A]、X
14は[V/I]、X
15は[K/R]を示す。)と呼ぶ。
【0026】
【0027】
モチーフ(4)は、配列番号3で表されるアミノ酸配列中の314~328位のGINAWCNKNSITVVFのアミノ酸領域に相当するモチーフである(表4、
図4)。本明細書中で、GX
16X
17AWX
18X
19モチーフ(X
16は[I/V]、X
17は[N/D/Q/H/P]、X
18は[C/R/L]、X
19は[N/H/C]を示す。)とも呼ぶ。
【0028】
【0029】
モチーフ(5)は、配列番号3で表されるアミノ酸配列中の325~334位のTVVFPCPSEAのアミノ酸領域に相当するモチーフである(表5、
図5)。本明細書中で、TVX
20FPCPSX
21X
22モチーフ(X
20は[V/I]、X
21は[E/V/A]、X
22は[A/D/S/N]を示す。)とも呼ぶ。
【0030】
【0031】
モチーフ(6)は、配列番号3で表されるアミノ酸配列中の335~344位のVWKKHCLATSのアミノ酸領域に相当するモチーフである(表6、
図6)。本明細書中で、VWKX
23X
24CLAX
25Sモチーフ(X
23は[K/R]、X
24は[H/Y]、X
25は[T/I]を示す。)とも呼ぶ。
【0032】
【0033】
本発明において変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、上記ヒスチジン脱炭酸酵素の少なくとも1つのアミノ酸残基を変異させたものであり得る。
【0034】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は通常、変異前のヒスチジン脱炭酸酵素と比較してその特性の少なくとも1つが良好である。斯かる特性としては例えば、ヒスチジン脱炭酸酵素活性、ヒスチジン脱炭酸酵素の安定性(例、熱安定性、保存安定性、および酸化耐性)が挙げられる。変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、野生型と比較して、ヒスチジン脱炭酸酵素活性、ヒスチジン脱炭酸酵素の安定性のいずれかが良好であることが好ましく、両方が良好であることがより好ましい。各特性の確認は、後段の実施例の評価方法に従い所定の温度における野生型と変異型ヒスチジン脱炭酸酵素の活性を比較することにより行えばよい。ヒスチジン脱炭酸酵素活性の確認方法は、実施例のように4℃で保管後の相対活性を確認する。野生型の活性を1とした場合に1を超えることが好ましく、1.01、1.03、1.04、1.05、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0または12.0をそれぞれ超えることがより好ましい。ヒスチジン脱炭酸酵素の熱安定性の改善の確認は、所定の濃度における野生型と変異型ヒスチジン脱炭酸酵素の高温における残存活性(例えば、30℃、35℃または40℃以上で15分加熱後の残存活性)の比較により行うことができ、野生型の残存活性を1.01、1.03、1.04、1.05、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0、15.0、16.0、17.0、18.0、19.0または20.0をそれぞれ超えることがより好ましい。
【0035】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素が有するアミノ酸の変異としては例えば、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、ならびに、他のアミノ酸残基への置換、付加および挿入が挙げられ、通常は他のアミノ酸残基への置換である。アミノ酸残基の変異は、アミノ酸配列中の1つの領域に導入されてもよいが、複数の異なる領域に導入されてもよい。変異型ヒスチジン脱炭酸酵素が有する変異の数は少なくとも1つであればよく、1~100個、好ましくは1~80個、より好ましくは1~50個、1~30個、1~20個、1~10個または1~5個である。
【0036】
野生型ヒスチジン脱炭酸酵素がモチーフ(1)~(6)中の少なくとも1つを含む場合、これらのモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基が変異していることが好ましい。すなわち、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、モチーフ(1)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(2)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(3)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(4)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(5)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、およびモチーフ(6)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせからなる群より選ばれる1つ以上を有することが好ましい。
【0037】
モチーフ(1)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異としては、例えば、モチーフ(1)中のCNYモチーフ(配列番号3の57~59位に相当)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異、X2(配列番号3の55位に相当)の変異が挙げられる。CNYモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基は、Cを含むことが好ましく、Cであることがより好ましい。Cの変異は、Cの他のアミノ酸残基への置換が好ましく、A、S、T、RまたはGへの置換が好ましい。X2の置換は、X2の他のアミノ酸への置換が好ましく、Cへの置換がより好ましい。
【0038】
モチーフ(2)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異としては、例えば、モチーフ(2)中のCYLモチーフ(配列番号3の101~103位に相当)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異、X5の変異(配列番号3の96位に相当)、X6の変異(配列番号3の98位に相当)が挙げられる。CYLモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基は、CまたはYを含むことが好ましく、Cであることがより好ましい。Cの変異は、Cの他のアミノ酸残基への置換が好ましく、A、S、またはVへの置換が好ましい。Yの変異は、Yの他のアミノ酸残基への置換が好ましく、Fへの置換が好ましい。X5の変異は、X5の他のアミノ酸への置換が好ましく、Sへの置換がより好ましい。X6の変異は、X6の他のアミノ酸への置換が好ましく、A、SまたはVへの置換がより好ましい。
【0039】
モチーフ(3)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異としては、例えば、モチーフ(3)中のX12の変異(配列番号3の279位に相当)、M(配列番号3の280位に相当)の変異、X13(配列番号3の282位に相当)の変異が挙げられる。X12の変異は、X12の他のアミノ酸残基への置換が好ましく、Iへの置換が好ましい。Mの変異は、Mの他のアミノ酸残基への置換が好ましく、LまたはIへの置換が好ましい。X13の置換は、X13の他のアミノ酸への置換が好ましく、A、SまたはVへの置換がより好ましい。
【0040】
モチーフ(4)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異としては、例えば、モチーフ(4)中のX18の変異(配列番号3の319位に相当)が挙げられる。X18の変異は、X18の他のアミノ酸残基への置換が好ましく、A、SまたはVへの置換が好ましい。
【0041】
モチーフ(5)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異としては、例えば、モチーフ(5)中のX20の変異(配列番号3の327位に相当)、FPCPSモチーフ(配列番号3の328~332位に相当)中の変異が挙げられる。FPCPSモチーフ中の変異は、C(配列番号3の330位に相当)の変異が好ましい。X20の変異は、X20の他のアミノ酸残基への置換が好ましく、Iへの置換が好ましい。Cの変異は、Cの他のアミノ酸残基への置換が好ましく、A、S、またはVへの置換が好ましい。
【0042】
モチーフ(6)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異としては、例えば、モチーフ(6)中のCLATSモチーフ(配列番号3の340~344位に相当)中の変異が挙げられる。CLATSモチーフ中の変異は、C(配列番号3の340位に相当)の変異が好ましい。Cの変異は、Cの他のアミノ酸残基への置換が好ましく、Aへの置換が好ましい。
【0043】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異としては、上記で例示した変異箇所も含めて、例えば、以下が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1つの変異を有し得る:
配列番号3の15位に相当するトリプトファンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
配列番号3の21位に相当するアスパラギンの変異(好ましくは、ヒスチジンへの置換);
配列番号3の22位に相当するグルタミンの変異(好ましくは、アルギニンへの置換);
配列番号3の43位に相当するメチオニンの変異(好ましくは、ロイシンへの置換);
配列番号3の55位に相当するグルタミン酸の変異(好ましくは、セリンへの置換);
配列番号3の57位に相当するシステインの変異(好ましくは、アラニン、グリシン、アルギニン、セリンまたはスレオニンへの置換);
配列番号3の96位に相当するセリンの変異(好ましくは、グリシンへの置換);
配列番号3の98位に相当するメチオニンの変異(好ましくは、バリンへの置換);
配列番号3の101位に相当するシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
配列番号3の102位に相当するチロシンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
配列番号3の114位に相当するチロシンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
配列番号3の130位に相当するロイシンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);
配列番号3の132位に相当するイソロイシンの変異(好ましくは、ロイシンまたはメチオニンへの置換);
配列番号3の147位に相当するチロシンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
配列番号3の185位に相当するメチオニンの変異(好ましくは、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、セリンまたはアラニンへの置換);
配列番号3の196位に相当するチロシンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
配列番号3の234位に相当するメチオニンの変異(好ましくは、アラニンへの置換);
配列番号3の279位に相当するメチオニンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);
配列番号3の280位に相当するメチオニンの変異(好ましくは、ロイシン、またはイソロイシンへの置換);
配列番号3の282位に相当するシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
配列番号3の319位に相当するシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
配列番号3の327位に相当するバリンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);
配列番号3の330位に相当するシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
配列番号3の340位に相当するシステインの変異(好ましくは、アラニンへの置換);および
配列番号3の377位に相当するメチオニンの変異(好ましくは、スレオニン、ロイシン、イソロイシンまたはアラニンへの置換)。
【0044】
本発明の変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、上記ヒスチジン脱炭酸酵素の少なくとも2つのアミノ酸残基を変異させたものでもあり得る。
【0045】
野生型ヒスチジン脱炭酸酵素がモチーフ(1)~(6)中の少なくとも1つを含む場合、これらのモチーフ中の少なくとも2つのアミノ酸残基が変異していてもよい。すなわち、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、モチーフ(1)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(2)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(3)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(4)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(5)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせ、モチーフ(6)中の1つのアミノ酸残基の変異または2つ以上のアミノ酸残基の変異の組み合わせからなる群より選ばれる、少なくとも2つのアミノ酸残基の変異を有してもよい。
【0046】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素が2つ以上の変異の組み合わせを有する場合、2つ以上の変異の組み合わせは、
モチーフ(1)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異と、モチーフ(2)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異の組み合わせが好ましく、
モチーフ(1)中の少なくとも1つのシステインの変異と、モチーフ(2)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフ中の少なくとも1つのシステインの変異との組み合わせがより好ましく、
モチーフ(1)中の少なくとも1つのシステインのセリンへの置換と、モチーフ(2)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフ中の少なくとも1つのシステインのアラニン、セリンまたはバリンへの置換との組み合わせがより好ましく、
(i)モチーフ(1)中のCNYモチーフ中のシステインのセリンへの置換と、
(ii)モチーフ(2)中のCYLモチーフ中のシステイン、モチーフ(3)中のX12であるシステイン、モチーフ(4)中のX18であるシステイン、モチーフ(5)中のX20であるシステイン、およびモチーフ(6)中のCLATSモチーフ中のシステインからなる群より選ばれる少なくとも1つのシステインのアラニン、セリンまたはバリンへの置換
との組み合わせがさらに好ましい。
【0047】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素が3つ以上の変異の組み合わせを有する場合、3つ以上の変異の組み合わせは、
モチーフ(1)中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異と、モチーフ(2)中の少なくとも1つのアミノ酸残基と、モチーフ(3)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフ中の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異の組み合わせが好ましく、
モチーフ(1)中の少なくとも1つのシステインの変異と、モチーフ(2)中の少なくとも1つのシステインの変異と、モチーフ(3)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフ中の少なくとも1つのシステインの変異との組み合わせがより好ましく、
モチーフ(1)中の少なくとも1つのシステインのセリンへの置換と、モチーフ(2)中の少なくとも1つのシステインのバリンへの置換と、モチーフ(3)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフ中の少なくとも1つのシステインのアラニン、セリンまたはバリンへの置換との組み合わせがより好ましく、
(i)モチーフ(1)中のCNYモチーフ中のシステインのセリンへの置換と、
(ii)モチーフ(2)中のCYLモチーフ中のシステインのバリンへの置換と、
(iii)モチーフ(3)中のX12であるシステイン、モチーフ(4)中のX18であるシステイン、モチーフ(5)中のX20であるシステイン、およびモチーフ(6)中のCLATSモチーフ中のシステインからなる群より選ばれる少なくとも1つのシステインのアラニン、セリンまたはバリンへの置換との組み合わせがさらに好ましい。
【0048】
一方、変異前のヒスチジン脱炭酸酵素は、以下のアミノ酸配列(a)~(c)のいずれかを有するヒスチジン脱炭酸酵素であってもよい。
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【0049】
配列番号3で表されるアミノ酸配列は、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来ヒスチジン脱炭酸酵素であり、配列番号1で表される塩基配列、すなわち、フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の完全長の塩基配列によりコードされる。
【0050】
本発明において置換、欠失、挿入、付加等の変異の対象であるアミノ酸残基は、通常は天然のL-α-アミノ酸である、L-アラニン(A)、L-アスパラギン(N)、L-システイン(C)、L-グルタミン(Q)、L-イソロイシン(I)、L-ロイシン(L)、L-メチオニン(M)、L-フェニルアラニン(F)、L-プロリン(P)、L-セリン(S)、L-スレオニン(T)、L-トリプトファン(W)、L-チロシン(Y)、L-バリン(V)、L-アスパラギン酸(D)、L-グルタミン酸(E)、L-アルギニン(R)、L-ヒスチジン(H)、またはL-リジン(K)、あるいはグリシン(G)である。変異が置換、付加または挿入である場合、置換、付加または挿入されるアミノ酸残基は、上述した変異されるアミノ酸残基と同様である。以下、アミノ酸の表記について、Lおよびαを省略することがある。
【0051】
上記(b)のアミノ酸配列は、1または数個のアミノ酸残基の変異(例、置換、欠失、挿入、および付加)を含んでいてもよい。変異の数は、例えば1~50個、好ましくは1~40個、より好ましくは1~30個、さらにより好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個(例、1、2、3、4または5個)である。
【0052】
上記(c)のアミノ酸配列は、配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上のアミノ酸配列同一性を有していてもよい。アミノ酸配列の同一性パーセントは、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上または99%以上であってもよい。
【0053】
(b)および(c)のアミノ酸配列で特定されるタンパク質は、同一条件で測定された場合、上記(a)のアミノ酸配列を有するタンパク質のヒスチジン脱炭酸酵素活性の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上の活性を有することが好ましい。
【0054】
本明細書においてアミノ酸配列の同一性は、例えばKarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993))、PearsonによるFASTA(MethodsEnzymol.,183,63(1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTPとよばれるプログラムが開発されているので(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)、これらのプログラムをデフォルト設定で用いて、アミノ酸配列の同一性を計算してもよい。また、アミノ酸配列の同一性としては、例えば、Lipman-Pearson法を採用している株式会社ゼネティックスのソフトウェアGENETYX Ver7.0.9を使用し、ORFにコードされるポリペプチド部分全長を用いて、Unit Size to Compare=2の設定でSimilarityをpercentage計算させた際の数値を用いてもよい。アミノ酸配列の同一性として、これらの計算で導き出される値のうち、最も低い値を採用してもよい。
【0055】
(b)配列番号3のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列、および(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列の調製のため、配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して変異が導入され得るアミノ酸残基の位置は、当業者に明らかであり、例えば、アミノ酸配列のアライメントを参考にして変異を導入することができる。具体的には、当業者は、1)複数のホモログのアミノ酸配列(例えば、配列番号3で表されるアミノ酸配列、および他のホモログのアミノ酸配列)を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。したがって、当業者は、熱安定性を向上させる1以上のアミノ酸残基の変異が導入される、(b)および(c)のアミノ酸配列を決定することができる。
【0056】
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列、および(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列の調製のため、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対してアミノ酸残基の変異が導入され、かつ当該アミノ酸残基の変異が置換である場合、アミノ酸残基のこのような置換は、保存的置換であってもよい。本明細書において用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸および非極性側鎖を有するアミノ酸を包括的に、中性アミノ酸と呼称することがある。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0057】
配列番号3で表されるアミノ酸配列は、上記第1の例で挙げたモチーフ(1)~(6)を含む。上記(b)および(c)のアミノ酸配列も、モチーフ(1)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフが保存されていることが好ましく、モチーフ(1)、(2)、(5)および(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフが保存されていることがより好ましく、モチーフ(1)、(2)、(5)および(6)のすべてが保存されていることがより好ましい。
【0058】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素が、上記(a)~(c)のいずれかを有するヒスチジン脱炭酸酵素の変異型である場合の変異としては、上記モチーフ(1)~(6)で例示した変異箇所も含めて、例えば、以下が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1つの変異を有し得る:
15位のトリプトファンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
21位のアスパラギンの変異(好ましくは、ヒスチジンへの置換);
22位のグルタミンの変異(好ましくは、アルギニンへの置換);
43位のメチオニンの変異(好ましくは、ロイシンへの置換);
55位のグルタミン酸の変異(好ましくは、セリンへの置換);
57位のシステインの変異(好ましくは、アラニン、グリシン、アルギニン、セリンまたはスレオニンへの置換);
96位のセリンの変異(好ましくは、グリシンへの置換);
98位のメチオニンの変異(好ましくは、バリンへの置換);
101位のシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
102位のチロシンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
114位のチロシンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
130位のロイシンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);
132位のイソロイシンの変異(好ましくは、ロイシンまたはメチオニンへの置換);
147位のチロシンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
185位のメチオニンの変異(好ましくは、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、セリンまたはアラニンへの置換);
196位のチロシンの変異(好ましくは、フェニルアラニンへの置換);
234位のメチオニンの変異(好ましくは、アラニンへの置換);
279位のメチオニンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);
280位のメチオニンの変異(好ましくは、ロイシン、またはイソロイシンへの置換);
327位のバリンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);および
377位のメチオニンの変異(好ましくは、スレオニン、ロイシン、イソロイシンまたはアラニンへの置換)。
さらに、モチーフ(1)~(6)のいずれかが保存されていない場合も以下から選ばれる少なくとも1つの変異を有していてもよい:
21位のアスパラギンの変異(好ましくは、ヒスチジンへの置換);
22位のグルタミンの変異(好ましくは、アルギニンへの置換);
43位のメチオニンの変異(好ましくは、ロイシンへの置換);
55位のグルタミンの変異(好ましくは、セリンへの置換);
57位のシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリン、スレオニン、アルギニンまたはグリシンへの置換);
96位のセリンの変異(好ましくは、グリシンへの置換);
98位のメチオニンの変異(好ましくは、バリンへの置換);
101位のシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
130位のロイシンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);
132位のイソロイシンの変異(好ましくは、ロイシンまたはメチオニンへの置換);
185位のメチオニンの変異(好ましくは、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、セリンまたはアラニンへの置換);
234位のメチオニンの変異(好ましくは、アラニンへの置換);
279位のメチオニンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);
280位のメチオニンの変異(好ましくは、ロイシンまたはイソロイシンへの置換);
282位のシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
319位のシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
327位のバリンの変異(好ましくは、イソロイシンへの置換);
330位のシステインの変異(好ましくは、アラニン、セリンまたはバリンへの置換);
340位のシステインの変異(好ましくは、アラニンへの置換);および
377位のメチオニンの変異(好ましくは、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、またはアラニンへの置換)。
【0059】
なお、好ましい変異後のアミノ酸残基は、類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えられてもよい。類似の側鎖を有するアミノ酸残基としては例えば、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基含有側鎖(例、アルコール、フェノキシ基含有側鎖)を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。
【0060】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、C末端またはN末端に、他のペプチド成分(例えば、タグ部分)を有していてもよい。他のペプチド成分としては例えば、目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分(例、ヒスチジンタグ、Strep-tag II等のタグ部分;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質等の目的タンパク質の精製に汎用されるタンパク質)、目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分(例、Nus-tag);シャペロンとして働くペプチド成分(例、トリガーファクター);他の機能をもつタンパク質あるいはタンパク質のドメインあるいはそれらとをつなぐリンカーとしてのペプチド成分が挙げられる。変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、N末端に開始メチオニン残基を有していてもよい。
【0061】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、上述した特性が保持される限り、上記変異に加え、1または数個のアミノ酸残基の追加変異(例えば、置換、欠失、挿入および付加)を有していてもよい。追加変異の数は、例えば1~100個、好ましくは1~50個、より好ましくは1~40個、さらにより好ましくは1~30個、最も好ましくは1~20個または1~10個(例、1、2、3、4または5個)である。当業者は、上述した特性を保持するこのような変異型酵素を適宜作製することができる。
【0062】
したがって、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、以下のいずれかであってもよい:
(i)モチーフ(1)~(6)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモチーフを有するヒスチジン脱炭酸酵素のアミノ酸配列において、モチーフ(1)~(6)中のアミノ酸残基が変異(例えば、置換)したアミノ酸配列を含み、かつ、ヒスチジン脱炭酸酵素活性および/または安定性(例、熱安定性、保存安定性、および酸化耐性)が野生型ヒスチジン脱炭酸酵素よりも高い、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素
(ii)(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列、(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列、または(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するヒスチジン脱炭酸酵素のアミノ酸配列における少なくとも1つのアミノ酸残基が変異(例えば、置換)したアミノ酸配列を有し、かつ、ヒスチジン脱炭酸酵素活性および/または安定性(例、熱安定性、保存安定性、および酸化耐性)が野生型ヒスチジン脱炭酸酵素よりも高い変異型ヒスチジン脱炭酸酵素。
【0063】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、上述した変異を有することにより、変異前の(野生型)ヒスチジン脱炭酸酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。アミノ酸配列の同一性パーセントは、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上または99%以上であってもよい。アミノ酸配列の同一性の定義および例は、前述したとおりである。
【0064】
アミノ酸残基の変異が置換である場合、アミノ酸残基のこのような置換は、保存的置換であってもよい。用語「保存的置換」の定義および例については前述のとおりである。
【0065】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素を発現する形質転換体を用いて、または無細胞系等を用いて、調製することができる。変異型ヒスチジン脱炭酸酵素を発現する形質転換体は、例えば、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを作製し、次いで、この発現ベクターを宿主に導入することにより作製できる。変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよいが、DNAであることが好ましい。
【0066】
発現ベクターは、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを含んでいればよく、例えば、宿主においてタンパク質を発現させる細胞系ベクター、およびタンパク質翻訳系を利用する無細胞系ベクターが挙げられる。発現ベクターはまた、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、組込み型(integrative)ベクター、または人工染色体であってもよい。組込み型ベクターは、その全体が宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。あるいは、組込み型ベクターは、その一部(例、本発明の変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードする本発明のポリヌクレオチド、およびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位)のみが宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。発現ベクターはさらに、DNAベクターまたはRNAベクターであってもよい。
【0067】
発現ベクターは、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドに加えて、プロモーター、ターミネーターおよび薬剤(例、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン)耐性遺伝子をコードする領域等の領域をさらに含んでもよい。発現ベクターは、プラスミドであっても組込み型(integrative)ベクターであってもよい。発現ベクターは、ウイルスベクターであっても無細胞系用ベクターであってもよい。発現ベクターは、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドに対して3’または5’末端側に、本発明の変異型ヒスチジン脱炭酸酵素に付加され得る他のペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含んでいてもよい。他のペプチド成分をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、上述したような目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分をコードするポリヌクレオチド、上述したような目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分をコードするポリヌクレオチド、シャペロンとして働くペプチド成分をコードするポリヌクレオチド、他の機能をもつタンパク質あるいはタンパク質のドメインあるいはそれらとをつなぐリンカーとしてのペプチド成分をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。他のペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む種々の発現ベクターが利用可能である。したがって、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの作製のため、このような発現ベクターを利用してもよい。例えば、目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(例、pET-15b、pET-51b、pET-41a、pMAL-p5G)、目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(例、pET-50b)、シャペロンとして働くペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(例、pCold TF)、他の機能をもつタンパク質あるいはタンパク質のドメインあるいはそれらとをつなぐリンカーとしてのペプチド成分をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを利用することができる。発現ベクターは、プロテアーゼによる切断部位をコードする領域を、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドと他のペプチド成分をコードするポリヌクレオチドとの間に含んでいてもよい。これにより、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素とそれに付加された他のペプチド成分との切断がタンパク質発現後に可能となる。
【0068】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素を発現させるための宿主としては、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、コリネバクテリウム属細菌〔例、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)〕、およびバチルス属細菌〔例、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)〕をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス属細菌〔例、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)〕、ピヒア属細菌〔例、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)〕、アスペルギルス属細菌〔例、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)〕をはじめとする種々の真核細胞を用いることができる。宿主としては、所定の遺伝子を欠損する株を用いてもよい。形質転換体としては、例えば、細胞質中に発現ベクターを保有する形質転換体、およびゲノム上に目的遺伝子が導入された形質転換体が挙げられる。
【0069】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素を発現する形質転換体は、所定の培養装置(例、試験管、フラスコ、ジャーファーメンター)を用いて、例えば後述の組成を有する培地において培養することができる。培養条件は適宜設定することができる。具体的には、培養温度は10℃~37℃であってもよく、pHは6.5~7.5であってもよく、培養時間は1時間~100時間であってもよい。また、溶存酸素濃度を管理しつつ培養を行ってもよい。この場合、培養液中の溶存酸素濃度(DO値)を制御の指標として用いることがある。大気中の酸素濃度を21%とした場合の相対的な溶存酸素濃度DO値が、例えば1~10%を、好ましくは3%~8%を下回らない様に、通気・攪拌条件を制御することが出来る。また、培養はバッチ培養であっても、フェドバッチ培養であっても良い。フェドバッチ培養の場合は糖源となる溶液やリン酸を含む溶液を培養液に連続的あるいは不連続的に逐次添加して、培養を継続することもできる。
【0070】
形質転換される宿主は、上述したとおりであるが、大腸菌について詳述すると、大腸菌K12株亜種のエシェリヒア・コリ JM109株、DH5α株、HB101株、BL21(DE3)株などから選択することが出来る。形質転換を行う方法、および形質転換体を選別する方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor press(2001/01/15)などにも記載されている。以下、形質転換された大腸菌を作製し、これを用いて所定の酵素を製造する方法を、一例としてより具体的に説明する。
【0071】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを発現させるプロモーターとしては、通常E.coliにおける異種タンパク質生産に用いられるプロモーターを使用することができ、例えば、PhoA、PhoC、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター、T5プロモーター等の強力なプロモーターが挙げられ、PhoA、PhoC、lacが好ましい。ベクターとしては例えば、pUC(例、pUC19、pUC18)、pSTV、pBR(例、pBR322)、pHSG(例、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398)、RSF(例、RSF1010)、pACYC(例、pACYC177、pACYC184)、pMW(例、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218)、pQE(例、pQE30)、およびその誘導体等が挙げられる。他のベクターとしては、ファージDNAのベクターを利用してもよい。さらに、プロモーターを含み、挿入DNA配列を発現させることができる発現ベクターを使用してもよい。好ましくは、ベクターは、pUC、pSTV、pMWであってもよい。
【0072】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドの下流に転写終結配列であるターミネーターを連結してもよい。このようなターミネーターとしては、例えば、T7ターミネーター、fdファージターミネーター、T4ターミネーター、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネーター、大腸菌trpA遺伝子のターミネーターが挙げられる。
【0073】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素をコードするポリヌクレオチドを大腸菌に導入するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、ColE1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミドあるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入および/または付加などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。
【0074】
形質転換体を選別するために、ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモーターを持つ発現ベクターが市販されている〔例、pUC系(タカラバイオ社製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233-2(クローンテック製)〕。
【0075】
得られた発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換し、この大腸菌を培養することにより、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素を得ることができる。
【0076】
培地としては、M9-カザミノ酸培地、LB培地など、大腸菌を培養するために通常用いる培地を用いてもよい。培地は、所定の炭素源、窒素源、補酵素(例、塩酸ピリドキシン)を含有していてもよい。具体的には、ペプトン、酵母エキス、NaCl、グルコース、MgSO4、硫酸アンモニウム、リン酸2水素カリウム、硫酸第二鉄、硫酸マンガン、などを用いても良い。また、培養条件、生産誘導条件は、用いたベクターのマーカー、プロモーター、宿主菌等の種類に応じて適宜選択される。
【0077】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素を回収するには、以下の方法などがある。変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、形質転換体を回収した後、菌体を破砕(例、ソニケーション、ホモジナイゼーション)あるいは溶解(例、リゾチーム処理)することにより、破砕物および溶解物として得ることができる。このような破砕物および溶解物を、抽出、沈澱、濾過、カラムクロマトグラフィー等の手法に供することにより、本発明の変異型ヒスチジン脱炭酸酵素を得ることができる。あるいは、本発明の変異型ヒスチジン脱炭酸酵素の回収は、本発明の形質転換体を、上述したような熱処理に付した後に行うことができる。
【0078】
変異型ヒスチジン脱炭酸酵素は、ヒスチジンの分析に用いることができる。
【0079】
被検試料としては、ヒスチジンを含有すると疑われる試料である限り特に限定されず、例えば、生体由来試料(例、血液、尿、唾液、涙など)や食飲料品(例、栄養ドリンクやアミノ酸飲料など)が挙げられる。被検試料中のヒスチジンは、低濃度(例、1μM以上1mM未満等の1mM未満の濃度)であっても、高濃度(例、1mM以上1M未満等の1mM以上の濃度)であってもよい。
【0080】
被検試料が生体由来試料の場合、被検試料が採集される被検者は特に限定されないが、クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、ヒスチジン血症、心臓悪液質、がん等のヒスチジンがバイオマーカーとなり得る疾患に罹患しているかの確認を要望する被検者であることが好ましい。これにより、罹患しているか否か、罹患リスクを正確に、短時間で、簡便に、かつ安価に分析することができる。疾患が潰瘍性大腸炎の場合、潰瘍性大腸炎の寛解期にある被検者であることが好ましい。これにより、潰瘍性大腸炎の再燃リスクを評価することができる。
【0081】
ヒスチジンの測定においては、変異型ヒスチジン脱炭酸酵素と4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素とを併用することが好ましい。これにより、被検試料中のヒスチジンの分析が容易となる。4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を併用する場合の検出対象は、被検試料中のヒスチジンを測定できる限り特に限定されず、生成する4-イミダゾリルアセトアルデヒド、還元型電子供与体、およびアンモニア、過酸化水素等の副生物のいずれでもよい。あるいは、他の反応と共役させて、共役反応の生成物を検出してもよい。
【0082】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素がヒスタミン脱水素酵素である場合、ヒスチジン測定の際の反応および共役反応としては、例えば、以下の反応が挙げられる。
【0083】
ヒスチジン脱炭酸酵素により触媒される反応
ヒスチジン→ヒスタミン+CO2
【0084】
ヒスタミン脱水素酵素により触媒される反応
ヒスタミン+酸化型電子供与体→4-イミダゾリルアセトアルデヒド+NH2+還元型電子供与体1-PMSH2
【0085】
共役反応
還元型電子供与体+テトラゾリウム塩(WST-8)→酸化型電子供与体+WST-8(赤色)
【0086】
電子供与体としては、1-メトキシフェナジンメトスルフェート(1-メトキシPMS)〔酸化型〕/1-PMSH2〔還元型〕が挙げられる。
【0087】
上記共役反応を利用する場合、ヒスチジンの測定は、ヒスチジン脱炭酸酵素およびヒスタミン脱水素酵素に加えて、電子供与体およびテトラゾリウム塩を用いて行うことができる。具体的には、水溶液(例、緩衝液)中において、被検試料をヒスチジン脱炭酸酵素との酵素反応に供し、続いて、電子供与体およびテトラゾリウム塩、ならびにヒスタミン脱水素酵素を混合して酵素反応に供し、最後に、生成したWST-8(赤色)の吸光度(約470nm)を検出することにより、ヒスチジンが測定される。測定は、定性的または定量的に行うことができる。測定は、例えば、全ての基質が反応するまで測定を行うエンドポイント法に基づいて行われてもよいし、レート法(初速度法)に基づいて行われてもよい。
【0088】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素がヒスタミン酸化酵素である場合、ヒスチジン測定の際の反応および共役反応としては、例えば、以下の反応が挙げられる。
【0089】
ヒスチジン脱炭酸酵素により触媒される反応
ヒスチジン→ヒスタミン+CO2
【0090】
ヒスタミン酸化酵素により触媒される反応
ヒスタミン+H2O+O2→4-イミダゾリルアセトアルデヒド+NH3+H2O2
【0091】
共役反応(ペルオキシダーゼにより触媒される反応)
2H2O2+4-アミノアンチピリン+フェノール→キノンイミン色素+4H2O
【0092】
上記共役反応を利用する場合、ヒスチジンの測定は、ヒスチジン脱炭酸酵素およびヒスタミン酸化酵素に加えて、4-アミノアンチピリンおよびフェノール、ならびにペルオキシダーゼを用いて行うことができる。具体的には、水溶液(例、緩衝液)中において、被検試料をヒスチジン脱炭酸酵素との酵素反応に供し、続いて、4-アミノアンチピリン(4-aminoantipyrine)およびフェノール、ならびにペルオキシダーゼと混合して得られる混合試料を酵素反応に供し、最後に、生成したキノンイミン色素(quinoneimine dye)の吸光度(約500nm)を検出することにより、ヒスチジンが測定される。測定は、定性的または定量的に行うことができる。測定は、例えば、全ての基質が反応するまで測定を行うエンドポイント法に基づいて行われてもよいし、レート法(初速度法)に基づいて行われてもよい。なお、酸化反応において必要とされる酸素量は微量であるため、反応系中の溶存酸素により必要な酸素量が賄えることから、通常、反応系中へ酸素や酸素を含む気体を強制的に供給する必要はない。
【0093】
また、ヒスタミン酸化酵素は過酸化水素電極に用いることができる。斯かる過酸化水素電極を用いることで、被検試料中のヒスタミンの量を特異的に評価することができる。
【0094】
ヒスチジン脱炭酸酵素は、好ましくは4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素とともに、ヒスタミン測定用キットに含めることができる。ヒスタミン測定キットは、他の試薬、例えば反応用緩衝液、緩衝塩、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬の少なくとも一つをさらに含むことができる。
【0095】
反応用緩衝液または緩衝塩は、反応液中のpHを目的の酵素反応に適した値に維持するために利用できる。
【0096】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素がヒスタミン酸化酵素である場合、過酸化水素検出用試薬は、過酸化水素の検出を例えば発色や蛍光などによって行う場合に利用できる。斯かる試薬としては例えば、ペルオキシダーゼとその基質となり得る発色剤の組み合わせが挙げられ、具体的には、例えば西洋わさびペルオキシダーゼと4―アミノアンチピリンおよびフェノールの組み合わせなどが挙げられるが、この組み合わせに限定されない。
【0097】
アンモニア検出試薬としては、例えばフェノールと次亜塩素酸を組み合わせたインドフェノール法などが挙げられる。
【0098】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬としては、例えば1-メトキシPMS等の電子供与体が挙げられる。
【0099】
ヒスチジン脱炭酸酵素は、ヒスチジン検出システムの構成要素とすることができる。ヒスチジン検出システム(ヒスチジン検出系)は、ヒスチジンの測定、分析等検出できるシステムであればよく、例えば、ヒスチジン分析/測定用検出系、およびヒスチジン分析/測定用酵素センサーが挙げられる。
【0100】
ヒスチジン脱炭酸酵素は、好ましくは4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素、およびデバイスと共に、ヒスチジン分析/測定用検出系の構成要素とすることができる。各酵素は、使用の際にデバイス中に供給され得るマイクロデバイスとは独立したユニットとして存在していてもよいが、予めデバイスに、注入、固定または配置されていてもよい。好ましくは、各酵素は、予めデバイスに注入、固定または配置された形態で提供される。各酵素のデバイスへの固定または配置は、直接的または間接的に行われる。デバイスとしては、例えば、流路を備えるマイクロ流路チップ等のマイクロデバイスを好適に用いることができる。
【0101】
ヒスチジン分析/測定用検出系は、他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては例えば、反応用緩衝液または緩衝塩、過酸化水素検出試薬、アンモニア検出試薬および4-イミダゾリルアセトアルデヒド検出試薬の少なくとも一つが挙げられる。ヒスチジン分析/測定用検出系では、上記他の構成要素の全部がデバイス中に収容された形態で提供されてもよい。あるいは、上記他の構成要素の一部がデバイス中に収容された形態で提供され、残りのものがデバイス中に収容されない形態(例、異なる容器に収容された形態)で提供されてもよい。この場合、デバイス中に収容されない要素は、標的物質の測定の際に、デバイス中に注入されることにより使用されてもよい。
【0102】
デバイスとしては、例えば、1)試料と(c)の構成要素とを混合して混合液を調製するための第1区域、および調製された混合液を、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素と接触させて、ヒスチジンを検出するための第2区域を備えるデバイス(混合および検出の各工程が異なる区域中で行われるデバイス);2)試料と(c)の構成要素とヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素とを混合して、両酵素によりヒスチジンを検出するための区域を備えるデバイス(混合および検出の各工程が同一区域中で行われるデバイス);ならびに3)試料と(c)の構成要素と(および必要に応じて両酵素と)の混合を可能にする流路、および両酸化酵素によりヒスチジンを検出するための区域を備えるデバイス(デバイスの注入口に試料を注入すると、流路を介して送液されて試料等が自動的に混合され、得られた混合液中のヒスタミンが検出区域中で自動検出されるデバイス)が挙げられる。自動化の観点からは、3)のデバイス、特にマイクロ流路デバイスの形態である3)のデバイスが好ましい。3)のデバイスでは、ヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素は、流路を流れる送液中に提供されても、検出区域に固定または配置された形態で提供されてもよいが、好ましくは検出区域に固定または配置された形態で提供される。
【0103】
ヒスチジン脱炭酸酵素は、好ましくは4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素とともに、ヒスチジン分析/測定用酵素センサーとして利用することもできる。ヒスチジン分析/測定用酵素センサーは例えば、検出用電極、および検出用電極に固定または配置されたヒスチジン脱炭酸酵素および4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素を含む。両酵素は、電極に直接または間接的に固定または配置される。
【0104】
4-イミダゾリルアセトアルデヒド生成酵素がヒスタミン酸化酵素である場合の検出用電極としては例えば、過酸化水素検出用電極が挙げられ、より具体的には例えば、酵素式過酸化水素検出用電極や隔膜式過酸化水素検出用電極が挙げられる。これにより、ヒスタミン酸化酵素活性によりヒスタミンが酸化された際に生じる過酸化水素を検出することで、被検物質中のヒスチジンの測定が可能となる。それ以外の構成は、公知のセンサーで採用されている構成をそのまま、あるいは適宜改変して利用することができる。
【0105】
本発明は、被検者のクローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、ヒスチジン血症、心臓悪液質、がん等の疾患への罹患の予測、診断に利用することができる。炎症性腸疾患、心臓悪液質、生活習慣病、がんの患者ではヒスチジン量が低下し、ヒスチジン血症の患者ではヒスチジン量が増大する。そのため、例えば、上記測定方法において測定された被検試料中のヒスチジンの量を健常者の基準量と比較し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも低ければ、被検者は炎症性腸疾患または心臓悪液質に罹患していると判定することができる。上記測定方法において測定された被検試料中のヒスチジンの量を健常者の基準量と比較し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量よりも高ければ、被検者はヒスチジン血症に罹患していると判定することができる。
【0106】
また、被検者が潰瘍性大腸炎の寛解期にある場合には、潰瘍性大腸炎の再燃リスクの評価に利用することができる。例えば、被検者が潰瘍性大腸炎の寛解期にあることが明らかな場合、上記測定方法において測定された被検試料中のヒスチジンの量を健常者の基準量と比較し、被検試料中のヒスチジンの量が基準量より少ない場合には潰瘍性大腸炎への再燃リスクが高く、多い場合にはリスクが低いという基準と比較することにより、被検者の潰瘍性大腸炎の再燃リスクを判定することができる。
【実施例】
【0107】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
〔実施例1〕HisDCの発現と精製
大腸菌を用いたHisDCの組換え発現系を構築した。まず、組換え発現用のプラスミドを構築した。フォトバクテリウム・フォスフォリウム由来のHisDCのアミノ酸配列(配列番号3)をコードする遺伝子(コドン最適化HisDC、配列番号2)を取得するため、DNAプライマー1(配列番号4:5’TATCGAAGGTCGTCATATGACCACCC3’)およびDNAプライマー2(配列番号5:5’TTTGTTAGCAGCCGGATCCTTAGGC3’)を用いて、標準的なPCR法に従って目的遺伝子を増幅した。続いて、NdeI(タカラバイオ株式会社)とHindIII(タカラバイオ株式会社)を用いてpET16b(メルク株式会社)を制限酵素消化し、Wizard SV Gel and PCR clean-up System (Promega社)を用いて除タンパク質および不要なDNA断片を除去した。得られた産物から、標準的な方法に従ってライゲーション産物を得て、大腸菌XL-10 goldの形質転換体を取得した。大腸菌XL-10 goldの形質転換体からプラスミドを抽出した。このプラスミドを鋳型として標準的なDNA配列の解析法を用いて、プラスミドへの目的遺伝子の挿入を確認した。目的遺伝子が挿入されたプラスミドをPCRの鋳型としてDNAプライマー3(配列番号6:5’GCCGCACTCGAGCACCACCACCACCACCACTGAGGATCCGGCTGCTAACAAAGCCCGAAAGGAAGC3’)およびDNAプライマー4(配列番号7:5’GGCTGCAATCATTTCACCG 3’)を用いて、標準的なPCR法に従って目的遺伝子の3’末端にHis-tagを付加した。このプラスミドをDNAリガーゼによって連結して、大腸菌XL-10 goldの形質転換体を取得し、プラスミドを抽出した。このプラスミドを鋳型として標準的なDNA配列の解析法を用いて、プラスミドへの目的遺伝子の挿入を確認した。標準的な方法に従って大腸菌BL21(DE3)の形質転換体を取得した。以後、His-tagがN,C末に付加されたHisDC配列を含むプラスミドをpET16b-HisDC、pET16b-HisDCによるBL21(DE3)の形質転換体をpET16b-HisDC-BL21(DE3)と呼ぶ。
【0109】
HisDCの調製は、下記のようにして行った。まず、pET16b-HisDC-BL21(DE3)のグリセロールストックから100μg/mlアンピシリンを含むLBプレートへ植菌し、37℃で一晩、静置培養した。100μg/mlアンピシリンを含むLB液体培地6mlを50mlチューブに入れ、LBプレート上のシングルコロニーを植菌し、37℃で一晩培養した。100μg/mlアンピシリンを含むLB液体培地25mLに培養液1mlを添加し、37℃でOD600の値が0.6程度になるまで旋回振盪にて培養した。16℃の下30分間静置し、IPTGを終濃度1.0mMとなるように添加し、16℃で旋回振盪にて一晩培養した後に集菌した。
【0110】
破砕用バッファー(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,0.2μM PLP pH8.0)にて菌体を懸濁し、超音波破砕機(BIORUPTOR,コスモ・バイオ株式会社)を用いて破砕した。この破砕液を13000×gで15分間遠心し上清を回収した後、His SpinTrap(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて精製を行った。洗浄バッファーは(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,75mM imidazole,pH8.0)、溶出バッファーは(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,500mM imidazole,pH8.0)をそれぞれ使用した。溶出画分を回収し、溶出バッファーで0.2mg/mlとなるように希釈した。
【0111】
〔実施例2〕HisDC(野生型および変異体)の大量調製
HisDC(野生型および変異体)の大量調製は、下記のようにして行った。まず、pET16b-HisDC-BL21(DE3)のグリセロールストックから100μg/mlアンピシリンを含むLBプレートへ植菌し、37℃で一晩、静置培養した。100μg/mlアンピシリンを含むLB液体培地50mlを250ml容量のフラスコに入れ、LBプレート上のシングルコロニーを植菌し、37℃で一晩培養した。100μg/mlアンピシリンを含むLB液体培地2L培養液20mlを添加し、37℃でOD600の値が0.6程度になるまで旋回振盪にて培養した。16℃の下30分間静置し、IPTGを終濃度0.1mMとなるように添加し、16℃で旋回振盪にて一晩培養した後に50mlチューブに集菌した。
【0112】
破砕用バッファー(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,0.2μM PLP pH8.0)にて菌体を懸濁し、超音波破砕機(INSONATOR,久保田商事株式会社)を用いて破砕した。この破砕液を15000×gで30分間遠心し上清を回収した後、Ni Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて精製を行った。洗浄バッファーは(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,75mM imidazole,0.2μM PLP,pH8.0)、溶出バッファーは(50mM Tris-HCl,500mM NaCl,500mM imidazole,0.2μM PLP,pH8.0)をそれぞれ使用した。溶出画分を回収し、50mM Tris-HCl,pH8.0を用いて10倍希釈した。AKTA Explorer 10SとResource Q 6mLを用いて陰イオン交換カラムによる精製を4℃にて実施した。平衡化には50mM Tris-HCl,pH8.0を用いて溶出には50mM Tris-HCl,1M NaCl,pH8.0を用いてNaCl濃度グラジエントで溶出後、50mM Tris-HCl,500mM NaCl,20%Glycerol,pH8.0にバッファー置換した。
【0113】
〔実施例3〕HisDC変異体の調製
HisDC変異体を、下記のようにして調製した。QuikChange Lightning site-Directed Mutagenesis Kits(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて、pET16b-HisDCを鋳型として製品添付のプロトコルに従い、HisDC遺伝子への変異導入を行った。変異を複数導入する際には、変異を入れたプラスミドを鋳型として用い変異を追加していくことで行った。この変異導入済みプラスミドを用いて、実施例1に記載の方法に従って、組換え発現、精製を行うことで様々なHisDC変異体を取得した。
【0114】
〔実施例4〕活性測定による変異体スクリーニング
実施例1および実施例3で調製したHisDC(野生型および変異体)の活性評価は下記手順にて行った。0.2mg/ml HisDC溶液を、マイクロチューブに分注し、4℃、30℃、35℃、40℃のいずれかの温度で15分間インキュベートした。次にこのHisDC 5μLに対して0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液,pH6.5を25μL、超純水15μL、ヒスチジン溶液5μLを加え混合した溶液を25℃、60分間インキュベートした。この溶液50μLに対してヒスタミン脱水素酵素(チェックカラーヒスタミン、キッコーマンバイオケミファ社)を50μL、検出溶液50μLを加えた溶液の波長470nmにおける吸光度の経時変化をマイクロプレートリーダー(Varioskan LUX、ThermoFisher SCIENTIFIC社)で30分間測定した。単変異、2重変異、および3重変異導入した変異体の結果をそれぞれ、表7、8、および9に示す。コントロールと比較した相対活性および、各温度で15分間熱処理後の残存活性を示す。それぞれコントロールとして表7は野生型、表8はC57S変異体、表9はC57S/C101V変異体を用いた。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
表7の結果から、表7に示される変異の導入により、HisDCのヒスチジン脱炭酸酵素活性および/または安定性を向上させることができることが分かる。表8および9の結果から、表8および9に示される2変異、3変異の導入により、HisDCのヒスチジン脱炭酸酵素活性および/または安定性を向上させることができることが分かる。
【0120】
〔実施例5〕基質特異性
実施例2で調製したHisDC(野生型および変異体)の基質特異性評価を下記手順にて行った。HisDCを0.6mg/mlに調製し、5μLのHisDCに対して0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液,pH6.5を25μL、超純水10μL、100μMの各アミノ酸溶液10μLを加え混合した溶液を25℃、60分間インキュベートした。この溶液50μLに対してヒスタミン脱水素酵素(チェックカラーヒスタミン、キッコーマンバイオケミファ社)を50μL、検出溶液50μLを加えた溶液の波長470nmにおける吸光度の経時変化をマイクロプレートリーダー(Varioskan LUX、ThermoFisher SCIENTIFIC社)で測定した。野生型およびC57S変異体に対してそれぞれ、ヒスチジン溶液測定時の60秒後の吸光度値を100%とした際の相対活性を表10に示す。
【0121】
【0122】
表10の結果から、本実施例で使用した変異体が基質特異性を保持していること、および、この変異体に含まれる変異の導入により、HisDCの基質特異性を保持できることが分かる。
【0123】
〔実施例6〕熱安定性
実施例2で調製したHisDC(野生型および変異体)を用いて熱安定性の評価を実施した。HisDCを1mg/mlとなるように調製し、4、20、25、30、35、40、45、50、55、60、70℃で10分間インキュベートした。HisDCを0.2mg/mlに希釈した後、実施例4に記載した方法にしたがって10mMヒスチジン溶液に対する活性を測定した。4℃でインキュベートをしたHisDCの15分間後の吸光度値を100%として各温度の相対活性を野生型、C57S変異体のそれぞれで算出した。結果を
図7に示す。野生型およびC57S変異体のTm値(残存活性が50%を示す温度)を表11に示す。
【0124】
【0125】
本実施例で使用した変異体がより高いTm値を示したので、本実施例で使用した変異体の熱安定性が向上していること、および、この変異体に含まれる変異の導入により、HisDCの熱安定性を向上させることができることが分かる。
【0126】
〔実施例7〕長期保存安定性
実施例2で調製したHisDC(野生型および変異体)の長期保存安定性を評価した。HisDCを0.2mg/mlとなるように調製し、野生型およびC57S変異体の緩衝液をPD-10カラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)によりTris-HCl,pH8.0およびMES,pH7.0に置換した。HisDC酵素溶液を4℃、遮光条件下で保存し、保存開始日を0日目とした際の各日数における活性を実施例4の方法に従い測定した。
図8にHisDC野生型およびC57Sの各緩衝液における保存日数に伴う活性の変化を0日目の活性をコントロールとした相対活性で示す。結果から、本実施例で使用した変異体の長期保存安定性が向上していること、および、この変異体に含まれる変異の導入により、HisDCの長期保存安定性を向上させることができることが分かる。
【0127】
〔実施例8〕酸化耐性の確認
実施例2で調製したHisDC(野生型および変異体)の酸化耐性を評価した。HisDC野生型およびC57S変異体の緩衝液をPD-10カラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)により62.5mM Tris-HCl,625mM NaCl,pH8.0に置換した。HisDC溶液:過酸化水素溶液:アスコルビン酸溶液を8:1:1の比で混合し、35℃で15分間インキュベートした。過酸化水素溶液は0、0.001、0.005、0.01、0.1%およびアスコルビン酸溶液は1mMを用いた。各条件で処理したHisDC溶液の活性測定は基本的には実施例4の方法に従って測定した。
図9にHisDC野生型およびC57Sの各条件における活性を、過酸化水素溶液0%をコントロールとした相対活性で示す。ここで(-)はアスコルビン酸添加なし、(+)は1mMアスコルビン酸添加ありを示す。結果から、本実施例で使用した変異体の酸化耐性が向上していること、および、この変異体に含まれる変異の導入により、HisDCの酸化耐性を向上させることができることが分かる。
【0128】
実施例の結果から、本発明による変異型HisDC酵素はヒスチジン酵素活性が野生型より向上しているため、ヒスチジンの迅速かつ高感度な測定、および/またはヒスタミンの製造に有用である。また、野生型より良好な熱安定性および酸化耐性を示し、中でも水溶液中で良好な熱安定性および酸化耐性を示し得ることから、保存性に優れており、ヒスチジン検査試薬、中でも液状の検査試薬として有用である。
【0129】
〔実施例9〕酸化耐性の確認
実施例2で調製したHisDC(野生型および変異体)の酸化耐性を評価した。HisDC野生型、C57S変異体、およびC57S/C101V/C282V変異体の緩衝液をPD-10カラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)により62.5mM Tris-HCl,625mM NaCl,pH8.0に置換した。HisDC溶液:過酸化水素溶液:アスコルビン酸溶液を8:1:1の比で混合し、40℃で15分間インキュベートした。過酸化水素溶液は0、0.01、0.03%およびアスコルビン酸溶液は1mMを用いた。各条件で処理したHisDC溶液の活性測定は基本的には実施例4の方法に従って測定した。
図10にHisDC野生型およびC57Sの各条件における活性を、過酸化水素溶液0%をコントロールとした相対活性で示す。ここで(-)はアスコルビン酸添加なし、(+)は1mMアスコルビン酸添加ありを示す。結果から、本実施例で使用した変異体の酸化耐性が向上していること、および、この変異体に含まれる変異の導入により、HisDCの酸化耐性を向上させることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、ヒスチジンの迅速、高感度、かつ特異的な測定に、またはヒスタミンの製造に有用な変異型HisDC酵素およびその用途が提供される。従って本発明は、生体研究、健康栄養、医療、食品製造などの広範な分野において有用である。
【配列表】