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特許7493359船のプロペラの両側に配置される左舵と右舵を備えるゲートラダー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】船のプロペラの両側に配置される左舵と右舵を備えるゲートラダー
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/38 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
B63H25/38 B
B63H25/38 102
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020049646
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021146924
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000129851
【氏名又は名称】株式会社ケイセブン
(73)【特許権者】
【識別番号】515087569
【氏名又は名称】佐々木 紀幸
(73)【特許権者】
【識別番号】391036334
【氏名又は名称】かもめプロペラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗林 定友
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 紀幸
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016777(JP,A)
【文献】国際公開第2015/114916(WO,A1)
【文献】特開2019-034709(JP,A)
【文献】特開2016-188033(JP,A)
【文献】特許第5833278(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾のプロペラの両側に配置される左舵と右舵からなる一対の舵を備えるゲートラダーにおいて、
背面視において、前記舵を左右方向に延在する第1舵部と上下方向に直線状に延在する第2舵部で形成し、
前記第2舵部の前後方向の舵弦長さを前記プロペラの直径の40~100%に形成し、
側面視において、前記プロペラを第2舵部の前縁から舵弦長さの15~65%の間に設け、
側面視において、前記舵を駆動する舵軸を、前記第2舵部の前縁から舵弦長さの30~50%の後方位置に設けたことを特徴とするゲートラダー。
【請求項2】
側面視において、前記舵を駆動する舵軸を、前記第2舵部の前縁から舵弦長さの35~45%の位置に設けた請求項1記載のゲートラダー。
【請求項3】
背面視において、前記プロペラと第2舵部のクリアランスを、前記プロペラの直径の4~10%に形成した請求項1又は2記載のゲートラダー。
【請求項4】
前記第2舵部に捻じり角を形成し、前記第2舵部の上部に形成された上部捻じり角を、前記第2舵部の部に形成された下部捻じり角よりも大きく形成した請求項1~3のいずれか1項に記載のゲートラダー。
【請求項5】
前記上部捻じり角度を3度以上に形成し、前記下部捻じり角度を5度以下に形成した請求項4記載のゲートラダー。
【請求項6】
船の停止時には、前記第2舵部を前方操舵する請求項1~5のいずれか1項に記載のゲートラダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船の船尾に設けられたプロペラの両側に配置される左舵と右舵を備えるゲートラダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船の船尾に設けられたプロペラの両側に、前後方向に所定の間隔を有して前後方向に延在する左舵と右舵を設け、船を停止させる場合には、左舵と右舵をプロペラの後方に移動させるケートラダーの技術が知られている。(特許文献1)
【0003】
また、プロペラから噴出される噴流を加速するために、プロペラの両側にプロペラの外周部に沿うように円弧状に形成された左舵と右舵を備えるダクトプロペラの技術が知られている。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5833278号公報
【文献】特開平1-501384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、船の直進時に、コアンダ効果や航空機の高揚力装置に使用されるアッパーサーフェイスブローイング(以下、USBと言う)効果による十分な舵力が得られず、船の航海中のエネルギ消費を十分低減できていないという問題があった。また、プロペラの後方へ操舵するという特殊性から、大トルクが発生し、従来よりも小さい面積にも関わらず、従来とほぼ同じ操舵機の容量が必要であった。
【0006】
また、特許文献2の技術では、プロペラの効率を上げるために、プロペラと左右舵のクリアランスが小さく設定されているために、左右舵の内部にキャビテーションエロ―ジョンが発生しやすいという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、船の航海中のエネルギ消費を低減することができるゲートラダーを提供することにある。また、本発明の次なる課題は、左右舵の内面に発生するキャビテーションエロ―ジョンの発生を抑制することができるゲートラダーを提供することにある。さらに、操舵機の容量を小さな舵面積に見合ったサイズに最適化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
請求項1に係る発明は、船尾のプロペラの両側に配置される左舵と右舵からなる一対の舵を備えるゲートラダーにおいて、
背面視において、前記舵を左右方向に延在する第1舵部と上下方向に直線状に延在する第2舵部で形成し、前記第2舵部の前後方向の舵弦長さを前記プロペラの直径の40~100%に形成し、側面視において、前記プロペラを第2舵部の前縁から舵弦長さの15~65%の間に設け、側面視において、前記舵を駆動する舵軸を、前記第2舵部の前縁から舵弦長さの30~50%の後方位置に設けたことを特徴とするゲートラダーである。
【0009】
請求項2に係る発明は、側面視において、前記舵を駆動する舵軸を、前記第2舵部の前縁から舵弦長さの35~45%の位置に設けた請求項1記載のゲートラダーである。
【0010】
請求項3に係る発明は、背面視において、前記プロペラと第2舵部のクリアランスを、前記プロペラの直径の4~10%に形成した請求項1又は2記載のゲートラダーである。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記第2舵部に捻じり角を形成し、前記第2舵部の上部に形成された上部捻じり角を、前記第2舵部の部に形成された下部捻じり角よりも大きく形成した請求項1~3のいずれか1項に記載のゲートラダーである。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記上部捻じり角度を3度以上に形成し、前記下部捻じり角度を5度以下に形成した請求項4記載のゲートラダーである。
【0013】
請求項6に係る発明は、船の停止時には、前記第2舵部を前方操舵する請求項1~5のいずれか1項に記載のゲートラダーである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、背面視において、舵を左右方向に延在する第1舵部と上下方向に直線状に延在する第2舵部で形成し、第2舵部の前後方向の舵弦長さをプロペラの直径の40~100%に形成し、側面視において、プロペラを第2舵部の前縁から舵弦長さの15~65%の間に設け、側面視において、舵を駆動する舵軸を、第2舵部の前縁から舵弦長さの30~50%の後方位置に設けたので、船の直進時に、舵の第2舵部の前部に発生するコアンダ効果による大きな舵力と後部に発生するUSB効果による大きな舵力によって、船を前方に移動させる大きな推力が発生して船の航海中のエネルギ消費を低減することができ、同時に舵トルクの最小化を図かることもできる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、側面視において、舵を駆動する舵軸を、第2舵部の前縁から舵弦長さの35~45%の位置に設けたので、第2舵部を前方操舵した場合により大きな舵力を発生させることができ、同時に舵トルクをより最小化することができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明の効果に加えて、背面視において、プロペラと第2舵部のクリアランスを、プロペラの直径の4~10%に形成したので、第2舵部の後部に発生するUSB効果による大きな舵力を維持すると共に、第2舵軸の内面のキャビテーションエロ―ジョンの発生を防止することができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、請求項1~3のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、第2舵部に捻じり角を形成し、第2舵部の上部に形成された上部捻じり角を、第2舵部の部に形成された下部捻じり角よりも大きく形成したので、プロペラに流れ込む吸引流の流速が速い船の喫水の浅い部分に対向する第2舵部の上部により大きな推力が発生して船の航海中のエネルギ消費をより低減することができる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、請求項1~4のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、上部捻じり角度を3度以上に形成し、下部捻じり角度を5度以下に形成したので、コンテナ船等のやせ型船形からタンカー等の肥大船の航海中のエネルギ消費を低減することができる。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、請求項1~4のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、船の停止時には、第2舵部を前方操舵するので、船の停止時に、第2舵部に発生する大きな舵力によって船の停止距離を短くすることがでる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】プロペラの両側に左舵と右舵を備えるゲートラダーの斜視図である。
図2】ゲートラダーの左側面図である。
図3】ゲートラダーの右側面図である。
図4】舵の前縁から舵弦長の30%(Cp=0.3)の位置に舵軸を設けた場合に舵角を取った際にプロペラ後流に被覆される舵の面積(全体に対するパーセンテージ)である。
図5】舵の前縁から舵弦長の50%(Cp=0.5)の位置に舵軸を設けた場合に舵角を取った際にプロペラ後流に被覆される舵の面積(全体に対するパーセンテージ)である。
図6】舵の前縁から舵弦長の70%(Cp=0.7)の位置に舵軸を設けた場合に舵角を取った際にプロペラ後流に被覆される舵の面積(全体に対するパーセンテージ)である。
図7】舵角を0~60度操作した場合の舵力中心位置の測定値である。
図8】ゲートラダーの背面図である。
図9】前方操舵舵角から後方操舵舵角に操舵した場合の舵力の測定値である。
図10】Cp=0.3とCp=0.5におけるプロペラとゲートラダーの最適クリアランスのシュミュレーションである。
図11】船の旋回時における旋回角速度の通常の舵の測定値である。
図12】船の旋回時における旋回角速度のゲートラダーの測定値である。
図13】ゲートラダーの平面図である。
図14】ゲートラダーの左舵の(a)は左側面図、(b)は左舵の上部の横断面図、(c)は左舵の下部の横断面図、(d)は左舵の捻じり角の説明図である。
図15】ゲートラダーの右舵の(a)は右側面図、(b)は右舵の上部の横断面図、(c)は右舵の下部の横断面図、(d)は右舵の捻じり角の説明図である。
図16】通常舵とゲートラダーを装備した模型船を斜行角度0~10度で航行した場合の抵抗値の測定値である。
図17】通常舵とゲートラダーを装備した模型船を斜行角度0~10度で航行した場合の舵横力の測定値である。
図18】吸引流れの流場の攪乱の(a)は捻じり角が形成されていないゲートラダー、(b)は捻じり角が形成されているゲートラダーのシュミュレーションである。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の舵(以下、ゲートラダーと言う)は、船のプロペラ1の両側に配置される左舵2Aと右舵2Bから形成されている。
【0022】
左舵2Aは、左右方向に延在する第1左舵部5Aと、第1左舵部5Aの左端部から下方に向かって延在する第2左舵部6Aから形成されている。なお、第1左舵部5Aの左端部と第2左舵部6Aの上部を傾斜状、緩やかな曲線状の連結部(図示省略)で連結することもできる。
【0023】
第1左舵部5Aの右部には、上下方向に延在する左舵軸10Aが固定され、左舵軸10Aの上部は船の機関室内に延在し、左舵軸10Aの上部には、左舵軸10Aを操舵させる左操舵機(図示省略)が連結されている。
【0024】
同様に、右舵2Bは、左右方向に延在する第1右舵部5Bと、第1右舵部5Bの右端部から下方に向かって延在する第2右舵部6Bから形成されている。なお、第1舵部5端部と第2舵部6の上部を傾斜状、緩やかな曲線状の連結部(図示省略)で連結することもできる。
【0025】
第1右舵部5Bの左部には、上下方向に延在する右舵軸10Bが固定され、右舵軸10Bの上部は船の機関室内に延在し、右舵軸10Bの上部には、右舵軸10Bを操舵させる右操舵機(図示省略)が連結されている。
【0026】
なお、本明細書においては、左舵2Aと右舵2Bを総称して舵2と言い、第1左舵部5Aと第1右舵部5Bを総称して第1舵部と言い、第2左舵部6Aと第2右舵部6Bを総称して第2舵部6と言い、左舵軸10Aと右舵軸10Bを総称して舵軸と言う。
【0027】
<第2舵部の舵弦長>
図2に示すように、第2左舵部6Aの左舵弦長CAは、ダクトプロペラのダクト長さと同様にプロペラ1の直径Dの40~100%に形成するのが好ましい。これにより、第2左舵部6Aから効率良く舵力を得ることができる。
【0028】
また、プロペラ1は、第2左舵部6Aの前端部から左舵弦長CAの15~65%の間、すなわち、プロペラ1の羽根部の前端部Eを第2左舵部6Aの前端部から左舵弦長CAの15%よりも後側に配置し、プロペラ1の羽根部の後端部Fを第2左舵部6Aの前端部から左舵弦長CAの65%よりも前側に配置している。
【0029】
同様に、図3に示すように、第2右舵部6Bの右舵弦長CBは、プロペラ1の直径Dの40~100%に形成するのが好ましい。これにより、第2右舵部6Bから効率良く舵力を得ることができる。
【0030】
また、プロペラ1は、第2舵部6の前端部から右舵弦長CBの15~65%の間、すなわち、プロペラ1の羽根部の前端部Eを第2舵部6の前端部から右舵弦長CBの15%よりも後側に配置し、プロペラ1の羽根部の後端部Fを第2左舵部6Aの前端部から右舵弦長CBの65%よりも前側に配置している。
【0031】
なお、本明細書においては、左舵弦長CAと右舵弦長CBを総称して舵弦長Cと言う。
【0032】
<舵軸の配置>
左舵軸10Aは、第2左舵部6Aの前縁から第2左舵部6Aの左舵弦長CAの30~50%に設けるのが好ましく、右舵軸10Bは、第2右舵部6Bの前縁から第2右舵部6Bの右舵弦長CBの30~50%に設けるのが好ましい。また、前方操舵時に大きな舵力を発生させるためには、左舵軸10Aは、第2左舵部6Aの前縁から第2左舵部6Aの左舵弦長CAの35~45%に設けるのが好ましく、右舵軸10Bは、第2右舵部6Bの前縁から第2右舵部6Bの右舵弦長CBの35~45%に設けるのがより好ましい。これにより、左舵軸10Aと右舵軸10Bを操舵させるトルクを小さくすることができ、また、後述するように、船を停止する場合には、船の直進時にプロペラ1よりも後方に延在する第2左舵部6Aと第2右舵部6Bの後部の舵力の減少を抑制することもできる。
【0033】
プロペラ1よりも後方に延在する第2舵部6の後部に発生する舵力Fは、プロペラ1の噴流外に位置する第2舵部6の後部の部位に発生する舵力FN1と、プロペラ1の噴流内に位置する第2舵部6の後部の部位に発生する舵力FN2を数1に代入して算出することができる。
【0034】
【数1】
【0035】
数1のFN1は、数2から算出することができる。
【0036】
【数2】
【0037】
ここで、ρは密度、UR1は舵位置での速度、Aはプロペラ1よりも後方に延在する第2左舵部6Aの後部の面積、CL1は揚力係数である。
【0038】
数2のUR1は、数3から算出することができる。
【0039】
【数3】
【0040】
ここで、uR1は速度のプロペラ軸方向成分、vは速度の周方向成分である。
【0041】
数2のCL1は、数4から算出することができる。
【0042】
【数4】
【0043】
ここで、λは舵のアスペクト比、δは舵角である。
【0044】
数1のFN2は、数5から算出することができる。
【0045】
【数5】
【0046】
ここで、ρは密度、UR2は舵位置での速度、Aはプロペラ1よりも後方に延在する第2舵部6の後部の面積、CL2は揚力係数である。
【0047】
数5のUR2は、数6から算出することができる。
【0048】
【数6】
【0049】
ここで、uR2は速度のプロペラ軸方向成分、vは速度の周方向成分である。
【0050】
数5のCL2は、数7から算出することができる。
【0051】
【数7】
【0052】
ここで、λは舵のアスペクト比、δは舵角である。
【0053】
数1のμは、数8から算出することができる。
【0054】
【数8】
【0055】
ここで、ACVはプロペラ1の噴流内に位置する第2舵部6の後部の部位の面積、Aはプロペラ1よりも後方に延在する第2舵部6の後部の面積、ηはプロペラ1の直径Dと舵2の高さHの比(D/H)である。
【0056】
図4~6に示すように、第2舵部6の前縁から第2舵部6の舵弦長Cの50%(Cp=0.5)よりも後方に舵軸10を設けた場合(例えばCp=0.7)には、数2,5のプロペラ1よりも後方に延在する第2舵部6の後部の面積ACVが急激に減少する。これにより、プロペラ1の噴流を受けてプロペラ1よりも後方に延在する第2舵部6の後部に発生する舵力Fが過度に小さくなる恐れがある。よって、プロペラ1よりも後方に延在する第2舵部6の後部に所定の舵力Fを発生させるために舵軸10は、第2舵部6の前縁から第2舵部6の舵弦長Cの50%以下に設けるのが好ましい。なお、図4~6中には、第2舵部6の後部の面積をCOVERED AREAと明記している。
【0057】
図7に示すように、操舵機を操作して舵角を0~60度に変更した場合に、舵力の作用中心位置(無次元値)は、通常の舵では舵角の増加と共に単調に20%から始まり40%付近まで変化するのに対して、ゲートラダーでは45%から始まって25%付近まで減少し、それからさらに55%付近に増加する。よって、最大舵トルクを最小にするには、舵軸位置を従来の30%付近から40%付近に移動させる必要がある。なお、図7は、水槽実験から得られた舵力の作用中心位置(無次元値)を通常と舵と比較して示している。
【0058】
<プロペラと舵部のクリアランス>
図8に示すように、プロペラ1の外周線Lと第2左舵部6Aの左内面7Aの左クリアランスTAは、プロペラ1の吸引力によってプロペラ1に流れ込む吸引流によってプロペラ1よりも前方に延在する第2左舵部6Aの前部に発生するコアンダ効果による舵力と、プロペラ1から噴出される噴流によってプロペラ1よりも後方に延在する第2左舵部6Aの後部に発生するUSB効果による舵力に大きな影響を与える。
【0059】
同様に、プロペラ1の外周線Lと第2右舵部6Bの右内面7Bの右クリアランスTBは、プロペラ1の吸引力によってプロペラ1に流れ込む吸引流によってプロペラ1よりも前方に延在する第2右舵部6Bの前部に発生するコアンダ効果による舵力と、プロペラ1から噴出される噴流によってプロペラ1よりも後方に延在する第2右舵部6Bの後部に発生するUSB効果による舵力に大きな影響を与える。
【0060】
すなわち、左クリアランスTAと右クリアランスTBを所定未満のクリアランスにした場合には、左右舵部の内面にキャビテーションによる損傷を発生する恐れがあり、左クリアランスTAと右クリアランスTBを所定超のクリアランスにした場合には、吸引流の流速と噴流の流速が低速になりコアンダ効果とUSB効果が低下して舵力が小さくなる恐れがある。
【0061】
なお、本明細書においては、左内面7Aと右内面7Bを総称して内面7と言い、左クリアランスTAと右クリアランスTBを総称してクリアランスTと言う。
【0062】
図9に示すように、左舵2Aの場合には、左舵軸10Aを-舵角(前方操舵舵角)に操舵させて第2左舵部6Aの前部を後部よりも前方右側に位置する姿勢にした場合に発生する舵力は、船尾と第2左舵部6Aの干渉によるフラップ効果によって左舵軸10Aを+舵角(後方操舵舵角)に操舵させて第2左舵部6Aの前部を後部よりも前方左側に位置する姿勢にした場合に発生する舵力よりも大きくなる。
【0063】
同様に、舵2Bの場合には、右舵軸10Bを-舵角に操舵させて第2右舵部6Bの前部を後部よりも前方左側に位置する姿勢にした場合に発生する舵力は、船の船尾と第2右舵部6Bの干渉によるフラップ効果によって右舵軸10Bを+舵角に操舵させて第2右舵部6Bの前部を後部よりも前方右側に位置する姿勢にした場合に発生する舵力よりも大きくなる。
【0064】
なお、図13に示すように、左舵軸10Aの-舵角は、左舵軸10Aを時計方向に前方操舵させた舵角であり、左舵軸10Aの+舵角は、左舵軸10Aを反時計方向に後方操舵させた舵角であり、右舵軸10Bの-舵角は、右舵軸10Bを反時計方向に前方操舵させた舵角であり、右舵軸10B+舵角は、右舵軸10Bを時計方向に後方操舵させた舵角である。
【0065】
一方、左舵軸10Aの-舵角を過度に操舵して、第2左舵部6Aの前部を船尾に過度に近づけると、プロペラ1に流れ込む吸引流の流場に攪乱が発生して、振動や騒音の原因となるキャビテーションを増大させる恐れがある。そこで、左舵軸10Aの-舵角の最大操舵舵角を+舵角に25度操舵した場合に発生する舵力と同じ舵力が得られる15度に設定するのが好ましい。なお、左舵軸10Aの回転角度は任意に設定することができるが、本実施形態では、-舵角に0~15度、+舵角に0~105度の回転角度に設定している。
【0066】
同様に、右舵軸10Bの-舵角を過度に操舵して、第2右舵部6Bの前部を船尾に過度に近づけると、プロペラ1に流れ込む吸引流の流場に攪乱が発生して、振動や騒音の原因となるキャビテーションを増大させる恐れがある。そこで、右舵軸10Bの-舵角の最大操舵舵角を+舵角に25度操舵した場合に発生する舵力と同じ舵力が得られる15度に設定するのが好ましい。なお、右舵軸10Bの回転角度は任意に設定することができるが、本実施形態では、-舵角に0~15度、+舵角に0~105度の回転角度に設定している。
【0067】
船を停止する場合には、左舵軸10Aを-舵角に15度操舵して、右舵軸10Bを-舵角に15度操舵することにより、プロペラの遊転を促進している船体前方からの水流を遮断でき、プロペラの慣性力を小さくできるため、特にFPP(固定ピッチプロペラ)の場合に後進回転の状態に移りやすく、停止性能や後進性能を向上させることができる。
【0068】
プロペラ1の外周線Lと第2舵部6の内面7のクリアランスTは、数9から算出することができる。
【0069】
【数9】
【0070】
ここで、Rpは第2舵部6の回転半径、Cpは側面視において第2舵部6の前縁と舵軸6の長さを舵弦長Cで割った値(本実施形態では0.3~0.5に設定)、ψは舵軸10の-舵角の操舵舵軸(本実施形態では15度に設定)である。
【0071】
図10に示すように、Cp=0.3を数9に代入して、第2舵部6の舵弦長Cをプロペラ1の直径Dで割った値を0.4~0.7まで増加させて算出したクリアランスTは0.04D~0.06Dとなり、Cp=0.5を数9に代入して、第2舵部6の舵弦長Cをプロペラ1の直径Dで割った値を0.4~0.7まで増加させて算出したクリアランスTは0.06D~0.1Dとなる。よって、プロペラ1の外周線Lと第2舵部6の内面7のクリアランスTは、プロペラ1の直径Dの4~10%に形成するのが好ましい。
【0072】
これにより、船の直進時に、プロペラ1に流れ込む吸引流によってプロペラ1よりも前方に延在する第2左舵部6Aの前部に発生するコアンダ効果による大きな舵力と、プロペラ1から噴出される噴流によってプロペラ1よりも後方に延在する第2左舵部6Aの後部に発生するUSB効果による大きな舵力が発生して、船を前方に移動させる大きな推力(揚力)を発生させることができる。また、ダクトプロペラのクリアランスである0.03Dよりも大きなクリアランスTを形成することによって第2舵部6の内面Aの前部に発生するキャビテーションエロ―ジョンの発生を防止することができる。
【0073】
図11,12に示すように、プロペラの後方、特にCPP(可変ピッチプロペラ)の後方に装備された通常の舵は、-舵角と+舵角の操舵舵角が20度以上では船の旋回力(旋回角速度)が失速する傾向がある。一方、ゲートラダーは、-舵角と+舵角の操舵舵角が20度以上においても舵角に応じた旋回力(旋回角速度)が失速することなく増加傾向を維持することができる。なお、図11中には、本実施形態のゲートラダーをGate Rudderと表記し、通常の舵をFlap Rudderと表記し、横軸は舵角を示し、縦軸は旋回角速度を示している。
【0074】
図1に示すように、平面視において第2左舵部6Aは、第2左舵部6Aの幅方向の中心を結び、プロペラ側に膨らみを持った反り線(キャンバーライン)で構成される翼型で形成されている。これにより、特に、前方プロペラ側に向かう揚力が発生するが、第2左舵部6Aの内面7Aの前縁側に発生するプロペラ1による吸引流がコアンダ効果を生じさせ、揚力およびそれに対応する舵力を増加させることができる。
【0075】
同様に、平面視において第2右舵部6Bは、第2右舵部6Bの幅方向の中心を結び、プロペラ側に膨らみを持った反り線(キャンバーライン)で構成される翼型で形成されている。これにより、特に、前方プロペラ側に向かう揚力が発生するが、第2右舵部6Bの内面7Bの前縁側に発生するプロペラ1による吸引流がコアンダ効果を生じさせ、揚力およびそれに対応する舵力を増加させることができる。
【0076】
<捻じり角>
図14に示すように、第2左舵部6Aには、前後方向の仮想線に対して、第2左舵部6Aの前部が仮想線よりも左側に位置し、第2左舵部6Aの後部が仮想線よりも右側に位置するように左捻じり角αAが形成されている。これにより、第2左舵部6Aの舵弦線に対してプロペラ1に流れ込む吸引流とプロペラ1から噴出される噴流を所定の迎え角を持って流すことができるので、第2左舵6Aはその抵抗を小さくして、その揚力を大きくすることができる。船を前方に推進する推力を大きくすることができる。なお、図1に図示した第2左舵部6Aは、第2左舵部6Aの舵弦長さの全長に捻じり角αAを形成しているが、側面視において左舵軸10Aよりも前側の第2左舵部6Aの前部のみに捻じり角αAを形成することもできる。
【0077】
第2左舵部6Aの上部の上部左捻じり角αA1は、第2左舵部6Aの下部の下部左捻じり角αA2よりも大きく形成されている。これにより、プロペラ作動が無い状態での流速に比べプロペラの吸引流の影響が大きい船吸引流等の流速が速い船の喫水の浅い部分に対向する第2左舵部6Aの上部で大きな推力を効率良く発生させることができる。
【0078】
なお、図14では、第2左舵部6Aの舵弦長さの全長に捻じり角αAを形成しているが、側面視において左舵軸10Aよりも前側の第2左舵部6Aの前部のみに捻じり角αAを形成することもできる。
【0079】
同様に、図15に示すように、第2右舵部6Bには、前後方向の仮想線に対して、第2右舵部12の前部が仮想線よりも右側に位置し、第2右舵部6Bの後部が仮想線よりも左側に位置するように右捻じり角αBが形成されている。これにより、第2右舵部6Bの舵弦線に対してプロペラ1に流れ込む吸引流とプロペラ1から噴出される噴流を所定の迎え角を持って流すことができるので、第2右舵6Bはその抵抗を小さくして、その揚力を大きくすることができる。船を前方に推進する推力を大きくすることができる。なお、図1に図示した第2右舵部6Bは、第2右舵部6Bの舵弦長さの全長に捻じり角αBを形成しているが、側面視において右舵軸10Bよりも前側の第2右舵部6Bの前部のみに捻じり角αBを形成することもできる。
【0080】
第2右舵部6Bの上部の上部右捻じり角αB1は、第2右舵部6Bの下部の下部右捻じり角αB2よりも大きく形成されている。これにより、プロペラ作動が無い状態での流速に比べプロペラの吸引流の影響が大きい船の喫水の浅い部分に対向する第2右舵部6Bの上部で大きな推力を効率良く発生させることができる。
【0081】
なお、本明細書においては、捻じり角αAと捻じり角αBを総称して捻じり角αと言い、捻じり角αA1と捻じり角αB1を総称して上部捻じり角α1と言い、捻じり角αA2と捻じり角αB2を総称して下部捻じり角α2と言う。
【0082】
本実施形態のゲートラダーにおいては、上部捻じり角α1は3度以上に形成され、下部捻じり角α2は5度以下に形成されている。なお、船の形状によって上部捻じり角α1等は異なり、コンテナ船等のやせ型船においては、上部捻じり角α1は5度、下部捻じり角α2は1度に形成するのが好ましく、タンカー等の肥大船においては、上部捻じり角α1は7度、下部捻じり角α2は3度に形成するのが好ましい。よって、上部捻じり角α1と下部捻じり角α2の関係を整理すると上部捻じり角α1は下部捻じり角α2よりも大きく形成し、上部捻じり角α1は3度以上に形成して下部捻じり角α2は5度以下に形成するのが好ましい。
【0083】
図16に示すように、波や風の影響を受けて船が斜行した場合に、本実施形態のゲートラダーの舵抵抗は、通常の舵よりも小さい。また、船の斜行角度が0~9度においては、ゲートラダーの舵抵抗は、船を前方に推進する推力として働くことが判った。これにより、本実施形態のゲートラダーを使用した場合には、船の航海中のエネルギ消費を大幅に削減する効果があることが明らかになった。なお、図16中には、本実施形態のゲートラダーを本発明舵と表記し、通常の舵を通常舵と表記している。
【0084】
図17に示すように、波や風の影響を受けて船が斜行した場合に、本実施形態のゲートラダーの舵横力、すなわち、船を直進状態に戻す復元力は、通常舵よりも大きいことが判った。これにより、本実施形態のゲートラダーを使用した場合には、船の保針性を大幅に向上させる効果があることが明らかになった。なお、図17中には、本実施形態のゲートラダーを本発明舵と表記し、通常の舵を通常舵と表記している。
【0085】
図18に示すように、第2左舵部6に捻じり角αを形成したゲートラダーは、第2左舵部6に捻じり角を形成しないゲートラダーに比較して、プロペラ1に流れ込む吸引流の流場の攪乱を抑制することが判った。これにより、吸引流の乱れによる流速の低下を防止して、ゲートラダーで発生する推力の低下を防止して大きな推力を維持する効果があることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、船のプロペラの両側に配置される左舵と右舵を備えたゲートラダーに適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 プロペラ
2 舵
2A 左舵
2B 右舵
5 第1舵部
6 第2舵部
10 舵軸
T クリアランス
α 捻じり角
α1 上部捻じり角
α2 下部捻じり角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18