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  • 特許-耐食層を有する金属管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】耐食層を有する金属管
(51)【国際特許分類】
   F16L 58/04 20060101AFI20240524BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20240524BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240524BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
F16L58/04
C09D5/03
C09D163/00
C09D167/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020051746
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021148283
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-007209(JP,A)
【文献】特開平11-263926(JP,A)
【文献】特開平10-095928(JP,A)
【文献】特開2012-097348(JP,A)
【文献】特開平11-060999(JP,A)
【文献】特開2018-087376(JP,A)
【文献】特開2010-229484(JP,A)
【文献】特開2016-113526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 58/04
C09D 5/03
C09D 163/00
C09D 167/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管外面に、管表面から外側へと順に(a)金属溶射被膜層、(b)封孔処理剤による塗膜層、および(c)粉体塗料による塗膜層を含む耐食層を有する金属管であって、
前記粉体塗料が、ポリエステル系粉体塗料またはエポキシポリエステル系粉体塗料から選択される金属管
【請求項2】
前記金属溶射被膜層が、亜鉛溶射、亜鉛-アルミ合金溶射、亜鉛-アルミ擬合金溶射、亜鉛-ケイ素含有アルミ擬合金溶射、亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射または亜鉛-スズ合金溶射から選択される溶射による被膜層である請求項1記載の金属管。
【請求項3】
前記封孔処理剤が、樹脂成分と無機成分とを含む水系または溶剤系封孔処理剤である請求項1または2記載の金属管。
【請求項4】
前記封孔処理剤が、アクリル系樹脂エマルジョン、エポキシエステル系樹脂エマルジョン、エポキシエステル系樹脂ディスパージョン、アクリルシリコーン系樹脂ディスパージョンまたはウレタン系樹脂ディスパージョンから選択される樹脂成分と、珪酸リチウムを含む無機成分とを含む水系封孔処理剤である請求項3記載の金属管。
【請求項5】
前記粉体塗料が、140℃~170℃で硬化する低温硬化型粉体塗料である請求項1~4のいずれか1項に記載の金属管。
【請求項6】
鋳鉄管である請求項1~のいずれか1項に記載の金属管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外面に耐食層を有する金属管、とりわけ、粉体塗料により形成される外層を有する、耐食性に優れた鋳鉄管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から上下水道管等には鋳鉄管や鋼管等の金属管が用いられている。例えばこのような金属管の外面には、地中に埋設する水道管の腐食を防止するために、亜鉛系溶射やジンクリッチペイント等の亜鉛系プライマーによる下塗りを施し、この亜鉛系プライマー層の上塗り塗料として、例えば日本水道協会規格JWWA K 139「水道用ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗料」の基準を満たす溶剤系合成樹脂塗料を塗装して塗膜層を形成することが行われている。
【0003】
しかしながら、腐食性の高い土壌においては、上述の溶射被膜と溶剤系合成樹脂塗料による塗膜とを組み合わせた耐食層を有する鋳鉄管であっても、腐食が進行しやすく、管を施工する際には、ポリエチレンスリーブを管体に巻き付けて防食性を高める処置を行っているのが現状である。また、溶剤系合成樹脂塗料は、通常、常温乾燥であるため、気温や湿度によって乾燥がばらつき、均一かつ安定した塗膜が得られないことがあり、品質管理が容易でない。
【0004】
一方、塗膜性能として、ポリエチレンスリーブを用いることなく腐食性の高い土壌においても十分な耐食性を有する塗装仕様として、金属管外面にジンクリッチ粉体塗装による下塗り塗膜と他の粉体塗料による上塗り塗膜とを設けた仕様が検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-30156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の耐食層では、ジンクリッチ粉体塗料により形成された塗膜に含まれる亜鉛の連続性が樹脂により阻害されてしまい、擬制陽極作用が十分に発揮されず、耐食性になお改善の余地がある。
【0007】
また、粉体塗料は、溶剤系合成樹脂塗料に比べ、緻密な塗膜を形成できることから耐食性に優れており、鋳鉄管外面への適用が期待されているが、ジンクリッチ粉体塗装に代えて、金属溶射被膜を用いた場合、その上に上塗りとして粉体塗料による塗膜を形成してもピンホール等の塗装欠陥が問題となり、実際、耐食性の試験においては白錆が発生し、耐食性が不十分なものであった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、金属管外面に金属溶射被膜、特に亜鉛系溶射被膜を有し、外層に粉体塗料を用いた、高い耐食性を有する金属管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、金属管の外面において、金属溶射被膜上に封孔処理を施したうえで、粉体塗装を行うことにより、高い耐食性を有する金属管が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)管外面に、管表面から外側へと順に(a)金属溶射被膜層、(b)封孔処理剤による塗膜層、および(c)粉体塗料による塗膜層を含む耐食層を有する金属管、
(2)前記金属溶射被膜層が、亜鉛溶射、亜鉛-アルミ合金溶射、亜鉛-アルミ擬合金溶射、亜鉛-ケイ素含有アルミ擬合金溶射、亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射または亜鉛-スズ合金溶射から選択される溶射による被膜層である上記(1)記載の金属管、
(3)前記封孔処理剤が、樹脂成分と無機成分とを含む水系または溶剤系封孔処理剤である上記(1)または(2)記載の金属管、
(4)前記封孔処理剤が、アクリル系樹脂エマルジョン、エポキシエステル系樹脂エマルジョン、エポキシエステル系樹脂ディスパージョン、アクリルシリコーン系樹脂ディスパージョンまたはウレタン系樹脂ディスパージョンから選択される樹脂成分と、珪酸リチウムを含む無機成分とを含む水系封孔処理剤である上記(3)記載の金属管、
(5)前記粉体塗料が、エポキシ系粉体塗料、ポリエステル系粉体塗料またはエポキシポリエステル系粉体塗料から選択される上記(1)~(4)のいずれかに記載の金属管、
(6)前記粉体塗料が、140℃~170℃で硬化する低温硬化型粉体塗料である上記(5)記載の金属管、ならびに
(7)鋳鉄管である上記(1)~(6)のいずれかに記載の金属管
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、管外面に、管表面から外側へと順に(a)金属溶射被膜層、(b)封孔処理剤による塗膜層、および(c)粉体塗料による塗膜層を含む耐食層を備えることにより、金属管外面に金属溶射被膜を備え、最外層に粉体塗料を用いた、高い耐食性を有する金属管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)塩水噴霧試験28日目の実施例1の鋳鉄管および(B)塩水噴霧試験30日目の比較例1の鋳鉄管の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の金属管は、管外面に、管表面から順に(a)金属溶射被膜層、(b)封孔処理剤による塗膜層、および(c)粉体塗料による塗膜層を含む耐食層を有することを特徴とする耐食性に優れたものである。金属溶射被膜層に封孔処理を施すことにより、耐食性に優れた粉体塗料による緻密な塗膜層を外層に設けることができ、ポリエチレンスリーブによる保護が不要となる。
【0014】
<金属管>
本発明の金属管は、金属製のものであれば特に限定されるものではないが、例えば鋳鉄管、鋼管等の鉄系金属による金属管が挙げられる。
【0015】
<(a)金属溶射被膜層>
本発明においては、良好な防食性を付与するため、金属管の外面にまず金属溶射被膜層が形成される。溶射被膜を形成する金属は、素地金属に合わせて選択される。例えば、鉄系金属に対する金属溶射被膜としては、亜鉛系溶射被膜が好ましく用いられる。具体的には、亜鉛溶射被膜、亜鉛-アルミ合金溶射被膜、亜鉛-アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛-ケイ素含有アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射被膜、亜鉛-スズ合金溶射被膜等が挙げられる。この工程の前に、必要に応じて管外面にブラスト処理、清掃等の素地調整を行うことができる。なお、亜鉛-アルミニウム擬合金とは、溶射された亜鉛とアルミニウムとが不規則に重なり合い、外見的に亜鉛-アルミニウム合金を形成しているものをいう。
【0016】
金属溶射被膜の膜厚は、素地金属の種類や、溶射材料の種類、得られる金属管の用途によって適宜設定することができるが、水道管用の鋳鉄管の場合、亜鉛系溶射被膜では、おおよそ20μm~500μmが好ましく、20μm~100μmがより好ましい。
【0017】
溶射方法は特に限定されるものではないが、例えばガス溶射法やアーク溶射法、プラズマ溶射法があげられる。より具体的には、回転しながら管軸方向に移送される鋳鉄管に、固定した溶射ガンにより亜鉛、亜鉛-アルミニウム擬合金または亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金を溶射する方法、回転させた鋳鉄管に、溶射ガンを移動させながら亜鉛を溶射する方法等があげられる。
【0018】
金属溶射被膜層の溶射量は、日本ダクタイル鉄管協会規格のJDPA Z 2010-2009「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」において、亜鉛溶射の場合、防食性の観点から130g/m2以上にするよう定められており、これは厚さ20μmに相当する。また、溶射量は密着性を考慮して300g/m2以下が好ましく、260g/m2以下がより好ましい。亜鉛-アルミニウム擬合金、亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-ケイ素含有アルミニウム擬合金または亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金を溶射する場合、溶射量は、防食性の観点から130~600g/m2の範囲であればよく、180~500g/m2の範囲が好ましく、200~400g/m2の範囲がより好ましい。
【0019】
<(b)封孔処理剤による塗膜層>
本発明の金属管においては、上述した金属溶射被膜層の表面に通常の封孔処理をおこない封孔処理剤による塗膜層が設けられる。これにより金属溶射被膜層の気孔を封鎖し、防食効果をさらに高めることができ、外層として粉体塗料を用いた場合でも、白錆の発生を抑え、耐食性に優れた金属管を得ることができる。
【0020】
封孔処理剤としては、特に限定されるものではなく、一般に本技術分野において使用されているものを用いることができる。例えば、金属塗装に用いられる樹脂、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂成分にコロイダルシリカ等の無機成分、表面調整剤等の添加剤を含む水系を含む水系または溶剤系封孔処理剤が挙げられる。
【0021】
本明細書において、「水系封孔処理剤」と「溶剤系封孔処理剤」との用語は、封孔処理剤の媒体として水性媒体、好ましくは水を用いる封孔処理剤(水系封孔処理剤)と、非水性媒体である溶剤を用いる封孔処理剤(溶剤系封孔処理剤)とを区別するために用いられるものであり、水系封孔処理剤に構成成分として、有機溶剤がある程度含まれているものが用いられることや、溶剤系封孔処理剤に構成成分として、水性媒体がある程度含まれているものを排除することを意図するものではない。本発明においては、媒体に、水性溶媒、より好ましくは水を用いた水系封孔処理剤が好ましく用いられる。
【0022】
水系封孔処理剤としては、アクリル系樹脂エマルジョン、エポキシエステル系樹脂エマルジョン、エポキシエステル系樹脂ディスパージョン、アクリルシリコーン系樹脂ディスパージョンまたはウレタン系樹脂ディスパージョンから選択される樹脂成分と、無機成分、とりわけ珪酸リチウムとを含む水系封孔処理剤が挙げられる。
【0023】
溶剤系封孔処理剤としては、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、アルキド樹脂またはポリエステル樹脂から選択される樹脂成分と、無機成分とを含む溶剤系封孔処理剤が挙げられる。
【0024】
樹脂成分中の固形分は、封孔処理剤の固形分における主成分を構成する。樹脂成分中の固形分の封孔処理剤における含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。樹脂成分中の固形分の封孔処理剤における含有量が10質量%未満であると、固形分不足で成膜し難くなる傾向、1回の塗装で十分な膜厚が得られない傾向がある。また、樹脂成分中の固形分の封孔処理剤における含有量は、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。樹脂成分中の固形分の封孔処理剤における含有量が35質量%を超えると、粘性が高くなり吹き付けの際に霧化性が悪くなる傾向がある。
【0025】
アクリル系樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば特開平8-159369号公報に記載されるような、炭素数4~6の共役ジオレフィンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体、特に炭素数4~6の共役ジオレフィン、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和芳香族単量体およびアクリル酸アルキルエステルの共重合体等を単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0026】
エポキシエステル系樹脂としては、エポキシ樹脂と脂肪酸の反応物またはエポキシ樹脂とポリアクリル酸との反応物が挙げられる。エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、ビスフェノール類とエピクロロヒドリンとの反応により得られるビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。具体的には、エピクロロヒドリンとビスフェノールAとの反応生成物からなるエポキシ樹脂やエピクロロヒドリンとビスフェノールFとの反応生成物からなるエポキシ樹脂、ならびに、これらのエポキシ樹脂に、アルカノールアミン等のアミン類を反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物と反応させて得られるウレタン変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂等が挙げられ、これらを単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0027】
アクリルシリコーン系樹脂としては、特に限定されるものではないが、上述のアクリル樹脂と、比較的多くのシラノール基やメトキシ基等の反応性基を有する低分子量のシリコーンとの反応・混合物等が挙げられる。そのようなシリコーンとしては、特に限定されるものではないが、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。これらは、単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0028】
ウレタン系樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物を使用することができる。ウレタン系樹脂を水に分散させる方法としては、乳化剤を使用する強制乳化型、親水基を導入した自己乳化型がある。ウレタン系樹脂は、様々な用途に使用されており、これらを単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0029】
エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、アルキド樹脂またはポリエステル樹脂についても、金属管、特に鋳鉄管の塗料として一般に使用されているものを用いることができる。
【0030】
アクリル系樹脂エマルジョン、エポキシエステル系樹脂ディスパージョン、アクリルシリコーン系樹脂ディスパージョンおよびウレタン系樹脂ディスパージョンは、それぞれ上述したようなアクリル系樹脂、エポキシエステル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂等が、乳化重合や乳化剤等により乳化した状態のもの、または自己の親水性官能基により水に分散した状態のものであり、一般的に水系塗料用として市販されているものを使用することができる。樹脂自体の分子量や粘度は一般的に金属素地への水系塗料用に用いられる性能のものを使用することができる。
【0031】
アクリル系樹脂エマルジョンの具体例としては、サイビノールEC-7040(サイデン化学(株)製)、サイビノールX-211-168E(サイデン化学(株)製)、VONCORT EC-740EF(DIC(株)製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
エポキシエステル系樹脂ディスパージョンの具体例としては、市販品として、WATERSOL EFD-5530(DIC(株)製)、WATERSOL EFD-5560(DIC(株)製)、WATERSOL EFD-5580(DIC(株)製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
アクリルシリコーン系樹脂ディスパージョンの具体例としては、市販品として、CERANATE WSA-1070(DIC(株)製)、VONCORT SA-6360(DIC(株)製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
ウレタン系樹脂ディスパージョンの具体例としては、市販品として、ユーコートUX-485(三洋化成工業(株)製)、パーマリンUA-200(三洋化成工業(株)製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
封孔処理剤に用いる無機成分は、珪酸リチウム、4級アンモニウム珪酸塩、コロイダルシリカ等、特に限定することなく、種々の市販品を単独または組み合わせて使用することができる。珪酸リチウムとしては、例えば、日産化学(株)製のリチウムシリケート35、リチウムシリケート45およびリチウムシリケート75等、日本化学(株)製の珪酸リチウム35、珪酸リチウム45、珪酸リチウム75等が使用できる。
【0036】
封孔処理剤における無機成分の含有量は、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。無機成分の含有量が2質量%未満であると、防食効果を十分に得ることができない恐れがある。また、本発明の封孔処理剤における無機成分の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。無機成分の含有量が20質量%を超えると、封孔処理剤の貯蔵安定性に問題が生じる可能性が増大する傾向にある。
【0037】
封孔処理剤には、その他各種添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、ミネラルオイル、シリコーン、または有機高分子等の消泡剤;シリコーンまたは有機高分子等の表面調整剤;アマイドワックスまたは有機ベントナイト等の粘性調整剤(タレ止め剤);シリカまたはアルミナ等の艶消し剤;ポリカルボン酸塩等の分散剤;ベンゾフェノン等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、フェノール系等の酸化防止剤;ワックス;着色顔料等、公知の添加剤を挙げることができる。これらは必要により単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0038】
封孔処理剤の製造には塗料製造に慣用されている設備を使用することができる。製造方法は特に限定されないが、例えば着色顔料と分散剤を使用しSGミル等で分散し、着色ペーストを製造する。このペーストに所定の樹脂、無機成分、必要に応じて添加剤(消泡剤、表面調整剤等)、有機溶剤等を添加し、ディスパー等で撹拌処理した後、水を加えて所望の濃度とすることによって封孔処理剤を得ることができる。
【0039】
封孔処理剤を素地金属に形成された金属溶射被膜に塗布する方法としては、特に限定されないが、刷毛塗装、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、浸漬塗装、シャワーコート塗装等の方法が挙げられる。
【0040】
封孔処理剤による塗膜層の膜厚は、素地金属の種類や、溶射材料の種類、得られる金属管の用途によって適宜設定することができるが、例えば、水道管用の鋳鉄管の場合、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μmである。5μmより薄いと、長期間にわたる封孔効果が十分でない可能性があり、30μmより厚いと乾燥不良となる可能性がある。
【0041】
<(c)粉体塗料による塗膜層>
本明細書において、粉体塗料とは、粉末状の塗料のことを意味し、より具体的には、塗料中に有機溶剤や水を含まず、塗膜形成成分のみからなる粉末状の塗料を意味する。具体的には、用いる樹脂の種類により、エポキシ系粉体塗料、ポリエチレン系粉体塗料、ポリエステル系粉体塗料、またはポキシポリエステル系粉体塗料等が挙げられ、常温で固形の樹脂成分に硬化剤、さらに必要に応じて各種顔料、添加剤等を含有する。本発明に用いる粉体塗料としては、熱硬化性の粉体塗料が好ましく、なかでも粉体塗料の硬化に高温での焼付け工程を必要としない140~170℃で硬化する(すなわち、硬化温度が140~170℃である)低温硬化型粉体塗料が好ましく用いられる。
【0042】
例えば、ダクタイル鋳鉄管の場合、管内面にエポキシ樹脂系の粉体塗料を塗装するが、その際、塗装は通常管温度を240℃程度に加熱して行われる。このため、その後、管外面に粉体塗装を行う場合には、140~170℃で硬化する低温硬化型粉体塗料を用いることにより、この内面塗装の余熱を用いて特別な焼付け工程を行うことなく、管外面の粉体塗装を行うことができる。具体的には低温硬化型粉体塗料の硬化温度は、140~160℃がより好ましい。140~170℃で硬化する低温硬化型粉体塗料としては、例えば、β-ヒドロキシアルキルアミド系化合物を硬化剤として用いるポリエステル系粉体塗料や、エポキシ系粉体塗料、特に後述の水素添加エポキシ樹脂などが好適に使用される。
【0043】
エポキシ系粉体塗料に用いるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂等があげられる。その中でも、安全性の観点から、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンから合成されるビスフェノールF型エポキシ樹脂が好適に採用される。さらに、耐候性を向上させる観点から、エポキシ樹脂の構造に含まれるベンゼン環等の二重結合部分に水素等の元素を結合させることにより、構造上の二重結合を一部またはすべてなくしたものとすることが好ましく、エポキシ樹脂の構造に含まれるベンゼン環等の二重結合部分に水素を添加させて一部または全部の二重結合をなくした水素添加エポキシ樹脂が最も好ましい。
【0044】
エポキシ系粉体塗料に用いる硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させる性質を有していれば、特に限定されることはないが、アミン系化合物、アミド系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ヒドラジド系化合物、酸無水物、フェノール樹脂およびその誘導体等が挙げられる。その中でも、塗膜の防食性、可撓性、密着性および強度の観点から、アニリンを主体とした変性芳香族アミンアダクト、エチレンジアミンとベンゾニトリルを主体としたイミダゾール・イミダゾリン化合物、ヒドラジンと二塩基を主体としたヒドラジド、トリメリット酸とエチレングリコールを主体とした酸無水物が好適に採用される。
【0045】
ポリエステル系粉体塗料に用いるポリエステル系樹脂としては、例えば、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂を用いることができる。カルボキシ基含有ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸を主成分とした酸成分と、多価アルコールを主成分としたアルコール成分とを原料として、通常の方法により縮合重合することにより得ることができる。
【0046】
上記酸成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメリット酸およびこれらの無水物、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸およびこれらの無水物等が挙げられる。その他、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン類ならびにこれらに対応するヒドロキシカルボン酸類、p-オキシエトキシ安息香酸の芳香族オキシモノカルボン酸類等が挙げられる。これら酸成分は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0047】
上記アルコール成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物、1,2-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール等のジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等が挙げられる。これらアルコール成分は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
ポリエステル系粉体塗料に用いる硬化剤は、ポリエステルを硬化させる性質を有している物であれば特に限定されるものではないが、例えばβ-ヒドロキシアルキルアミド系化合物、ブロックイソシアネート系化合物、ブロックフリーイソシアネート系化合物等があげられる。なかでも、β-ヒドロキシアルキルアミド系化合物は硬化の際、副生成物として水を生成するのみであることから、環境に対する負荷が小さいという点で好ましい。さらに、β-ヒドロキシアルキルアミド系化合物は、より低温での硬化が可能となる点から好ましい。
【0049】
エポキシポリエステル系粉体塗料は、エポキシ樹脂とポリエステル樹脂とを反応させた塗料を意味する。使用可能なエポキシ樹脂およびポリエステル樹脂は、特に限定されるものではなく、それぞれエポキシ系粉体塗料およびポリエステル系粉体塗料の説明において上述したものを用いることができる。また、種々の硬化温度を有する製品が市販されており、硬化温度140~160℃の低温硬化型エポキシポリエステル系粉体塗料を用いることが好ましい。
【0050】
その他、粉体塗料には、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク等の各種顔料や、充填剤、分散剤、表面調整剤等の各種添加剤を必要に応じて配合することができる。顔料および充填剤の添加量は、塗膜を厚膜化できるという理由から、塗料中に好ましくは20~50重量%、より好ましくは30~45重量%である。粉体塗料の製造方法は特に限定されず、例えばドライブレンド法や熱溶融錬合法により製造することができる。
【0051】
粉体塗料の塗装方法は特に限定されるものではなく、例えばスプレー塗装等により塗装することができる。より具体的には、スプレーノズルを管軸方向に移動させながら、金属管を回転させてスプレー塗装する方法等によって粉体塗料を塗装することができる。粉体塗料を塗装することによって形成される塗膜層の厚さは、好ましくは100μm以上、より好ましくは200~300μmである。厚さが100μm未満では防食性が低下する傾向がある。
【0052】
本発明の金属管には、耐候性を高めるために、耐食層のさらに外側にワックス等による保護層を設けることもできる。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
まず、実施例および比較例で使用した成分を下記に示す。
<亜鉛溶射>
Zn-AlSiMn:亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射
Zn:亜鉛溶射
<封孔処理剤>
封孔処理剤A:FPガード(アクリル樹脂系エマルジョンを含む樹脂成分に無機成分として珪酸リチウムを含む水系封孔処理剤)
封孔処理剤B:FBプライマー(エポキシ樹脂を含む樹脂成分に無機成分を含む溶剤系封孔処理剤)
封孔処理剤C:GXプライマー(アクリル樹脂系エマルジョンを含む樹脂成分に無機成分を含む水系封孔処理剤)
<粉体塗料>
ポリエステルHAA粉体塗料:(硬化温度:140℃、硬化剤:β-ヒドロキシアルキルアミド)
ポリエステルウレタン粉体塗料:(硬化温度:180℃、硬化剤:ブロックイソシアネート系化合物)
【0055】
実施例1~3ならびに比較例1および2
呼び径100のダクタイル鋳鉄管の外面に表1に示す溶射を、Zn:130g/m2、またはZn-AlSiMn:200g/m2で行い、鋳鉄管上に亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミニウム擬合金溶射被膜または亜鉛溶射被膜を形成した。その後、表1に記載の封孔処理剤をエアスプレーにより塗装し、乾燥させた。その後、封孔処理剤による塗膜層上に表1に記載の粉体塗料をエアー搬送による吹き付けにより塗装し、140~160℃で焼き付けた。得られた鋳鉄管について下記試験例1~3により評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
試験例1:硬化性
実施例1~3ならびに比較例1および2について、塗装完了後に自然に冷却させ、常温になった際にアセトンラビング試験で硬化性の確認を行った。ラビング処理後、塗膜の外観を目視にて観察し、以下の判定基準にしたがって評価した。
(判定基準)
○:塗膜の剥離がある。
×:塗膜の剥離がない。
【0058】
試験例2:外観
実施例1~3ならびに比較例1および2について、塗装後外観を目視にて確認し、レベリング性や塗膜のすけがないかにより、以下の判定基準にしたがって評価した。
(判定基準)
○:塗膜のレベリング性が良く、すけ等の異常がない。
△:塗膜のすけ等の異常はないが、レベリング性が悪い。
×:塗膜のレベリング性が悪く、すけ等の異常が確認された。
【0059】
試験例3:耐食性
実施例1~3ならびに比較例1および2で得られた鋳鉄管を90×150mmの瓦状試験片に切り出し、JIS K 5600-7-1にしたがい耐中性塩水噴霧性試験を行った。塗膜外観を以下の基準で目視判定した。結果を以下の判定基準により評価し、表1に示す。また試験開始から28日目の実施例1の結果(A)および試験開始から30日目の比較例1の結果(B)をそれぞれ図1に示す。
(判定基準)
○:塗膜に白錆の発生なし
△:塗膜全体に白錆発生あり
×:塗膜全体に白錆・赤錆発生あり
【0060】
封孔処理剤による塗膜を金属溶射膜層の上に設けた実施例1~3では、耐食試験30日後においても、白錆の発生は見られなかった。一方、亜鉛-ケイ素マンガン含有アルミ擬合金溶射被膜上にそのまま粉体塗料を塗布した比較例1では、7日目に白錆の発生が始まり、その後、白錆が塗膜全面に進行していった。比較例2では、21日目に白錆の発生が確認された。
図1