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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】電気弦楽器
(51)【国際特許分類】
   G10H 3/18 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
G10H3/18 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020054953
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2020166266
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019066486
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100196601
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 祐市
(72)【発明者】
【氏名】笠原 義典
(72)【発明者】
【氏名】中川 友記
(72)【発明者】
【氏名】小谷 将之
(72)【発明者】
【氏名】堀江 恭平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓巳
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-237296(JP,A)
【文献】実開昭54-168831(JP,U)
【文献】実開平09-000502(JP,U)
【文献】特開2011-208123(JP,A)
【文献】国際公開第2008/117483(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168690(WO,A1)
【文献】特開2000-276167(JP,A)
【文献】”ノイズ対策・・・・・そしてジミヘンへ”,[online],2014年11月5日、[検索日2023年11月27日],インターネット<URL:https://www.yosguitars.com/2014/11/05/ノイズ対策-そしてジミヘンへ>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 3/00-3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、
前記ボディに取り付けられた金属製の弦の振動を検出して電気信号に変換するピックアップ部と、
前記ボディに設けられ、前記ピックアップ部からの前記電気信号を出力する出力電極、及び、接地電極を有するジャック部と、
前記ボディに設けられ、且つ、前記ピックアップ部を収容するためのピックアップ収容部と、
前記接地電極と電気的に接続され、且つ、前記ピックアップ収容部の内表面の少なくとも一部を被覆するように配置された炭素繊維強化プラスチックである導電繊維含有樹脂層と、
を有することを特徴とする電気弦楽器。
【請求項2】
前記ピックアップ部が検出した前記電気信号を制御する制御部と、
前記ボディに設けられ、且つ、前記制御部を収容するための制御収容部と、を更に有し、
炭素繊維強化プラスチックである導電繊維含有樹脂層は、前記接地電極と電気的に接続され、且つ、前記制御収容部の内表面の少なくとも一部を被覆するように配置されている、請求項1に記載の電気弦楽器。
【請求項3】
炭素繊維強化プラスチックである導電繊維含有樹脂層は、前記接地電極と電気的に接続され、且つ、前記ボディにおいて前記弦が取り付けられた側の上表面の少なくとも一部、及び/又は、前記ボディにおいて前記弦が取り付けられた側と反対側の下表面の少なくとも一部を被覆するように配置されている、請求項1又は2に記載の電気弦楽器。
【請求項4】
炭素繊維強化プラスチックである導電繊維含有樹脂層は、前記接地電極と電気的に接続され、且つ、前記ジャック部の周囲の少なくとも一部を被覆するように配置されている、請求項1~3の何れか一項に記載の電気弦楽器。
【請求項5】
金属製の弦が取り付けられた側の上表面の少なくとも一部、及び/又は、前記弦が取り付けられた側と反対側の下表面の少なくとも一部、並びに、接地電極を有するジャック部の周囲の少なくとも一部をそれぞれ被覆するように配置された炭素繊維強化プラスチックである導電繊維含有樹脂層を有する電気弦楽器用ボディであって、各導電繊維含有樹脂層は前記接地電極に電気的に接続される電気弦楽器用ボディ。
【請求項6】
請求項に記載の電気弦楽器用ボディを含む電気弦楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の弦の振動をピックアップで電気信号に変えて、電気信号をアンプで増幅しスピーカーから放音するエレキギター(ソリッドタイプ、セミアコースティックギター、フルアコースティックギター)等の電気弦楽器がある。ピックアップには永久磁石が内蔵されており、弦が振動するとピックアップ内のコイルを通過する磁束が変化し、弦の振動にほぼ相似した交流電流が発生する。交流信号には空間中の電磁波雑音(ノイズ)が重畳されやすく、ノイズ低減が、電気弦楽器の課題となっている。
【0003】
特許文献1は、ピックアップ・コイルに発生したノイズ信号を位相反転により打ち消すためのデバイス・コイルを有し、デバイス・コイルはピックアップ・コイルと同一平面に載置される電気弦楽器に使用する受動的ノイズ低減デバイスを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-519789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1は、ピックアップとは独立したノイズ低減デバイスを必要とし、又、位置調整が複雑である。
【0006】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、音質を変えることなく、ノイズ抑制に優れ、また高周波数領域の音量低減抑制にも優れた電気弦楽器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る電気弦楽器は、ボディと、ボディに取り付けられた金属製の弦の振動を検出して電気信号に変換するピックアップ部と、ボディに設けられ、ピックアップ部からの電気信号を出力する出力電極、及び、接地電極を有するジャック部と、ボディに設けられ、且つ、ピックアップ部を収容するためのピックアップ収容部と、接地電極と電気的に接続され、且つ、ピックアップ収容部の内表面の少なくとも一部を被覆するように配置された導電繊維含有樹脂層と、を有することを特徴とする。
【0008】
更に、本発明に係る電気弦楽器は、ピックアップ部が検出した電気信号を制御する制御部と、ボディに設けられ、且つ、制御部を収容するための制御収容部と、を更に有し、導電繊維含有樹脂層は、制御収容部の内表面の少なくとも一部を被覆するように配置されていることが好ましい。
【0009】
更に、本発明に係る電気弦楽器は、導電繊維含有樹脂層が、ボディにおいて弦が取り付けられた側の上表面の少なくとも一部、及び/又は、ボディにおいて弦が取り付けられた側と反対側の下表面の少なくとも一部を被覆するように配置されていることが好ましい。
【0010】
更に、本発明に係る電気弦楽器は、導電繊維含有樹脂層が、ジャック部の周囲の少なくとも一部を被覆するように配置されていることが好ましい。
【0011】
更に、本発明に係る電気弦楽器は、導電繊維含有樹脂層が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)であることが好ましい。本明細書において、導電繊維含有樹脂層がCFRPである電気弦楽器を「CFRPギター」とも称す。
【0012】
本発明に係る電気弦楽器用ボディは、金属製の弦が取り付けられた側の上表面の少なくとも一部、及び/又は、弦が取り付けられた側と反対側の下表面の少なくとも一部、並びに、接地電極を有するジャック部の周囲の少なくとも一部をそれぞれ被覆するように配置された導電繊維含有樹脂層を有する電気弦楽器用ボディであって、各導電繊維含有樹脂層は接地電極に電気的に接続されることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明に係る電気弦楽器用ボディは、導電繊維含有樹脂層が、炭素繊維強化プラスチックであることが好ましい。
【0014】
更に、本発明に係る電気弦楽器は、本発明に係る電気弦楽器用ボディを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電気弦楽器は、音質を変えることなく、優れたノイズ抑制効果を有する。また、優れた、高周波数領域の音量低減抑制効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るエレキギターの構造概要の一例を示す図である。
図2】フロント・ピックアップ部の一例の概略を示す図である。(a)は外観斜視図であり、(b)は分解斜視図であり、(c)は(a)に示したA-A’における断面図である。
図3】リア・ピックアップ部の一例を示す図である。(a)はリア・ピックアップ部本体の外観斜視図であり、(b)はリア・ピックアップが取り付けられたブリッジプレートの外観斜視図である。
図4】制御部の一例の概略を説明する図であり、(a)は制御部の外観斜視図であり、(b)は制御部、ピックアップ部、及びジャック部の電気的接続を説明する図である。
図5】ジャック部の一例の概略を説明する分解斜視図である。
図6】第1実施形態のエレキギターの分解斜視図である。
図7】第2実施形態のエレキギターの分解斜視図である。
図8】第3実施形態のギターを示す分解斜視図である。
図9】裏板の導電繊維含有樹脂層と、接地電極とが電気的に接続することを説明する、図8に示したA部の拡大図である。
図10】ジャック部の分解斜視図である。
図11】CFRPギターのノイズデータである。
図12】CFRPギターの音質解析データである。
図13】各種ギターの音質解析データである。太い実線は無処置ギター、細い点線は銅箔ギター、太い点線は導電塗料ギター、細い実線はCFRPギターのスペクトルデータを示す。
図14】各種ギターの音質解析データである。太い実線はCFRPギター(アース結線ON)、細い点線はCFRPギター(アース結線OFF)、太い実線は無処置ギターのスペクトルデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の一側面に係る電気弦楽器について、図を参照しつつ説明する。但し、本開示の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。なお、以下の説明及び図において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[エレキギターの構造概要]
図1は、本発明に係る電気弦楽器であるエレキギターの構造概要の一例を説明するための外観図である。
【0019】
エレキギター1は、ヘッド11、ヘッド11に接続するネック12、ヘッド11の反対側でネック12に接続するボディ13を有する。
【0020】
ヘッド11は、ペグ111を有する。各ペグ111には金属製の弦14の端部が取り付けられている。尚、各弦14の他端は、ボディのブリッジ131に取りつけられる。ペグ111は弦のチューニングを調整するため回転させることができる。
【0021】
ネック12は、表面に指板121を有し、指板121上のヘッド11側にギターナット122を有する。ギターナット122は弦の数だけの溝を有し弦14をガイドするとともに、指板121及びボディ13の表面と各弦との距離を調整する。指板121上に複数のフレットを有する。フレットは指板121上に打ち込まれた金属の棒で、ギターの音階を決定するための指標となる。
【0022】
ボディ13は、表面中央に各弦14の端部が取り付けられたブリッジ131を有し、ネック12に近い方にフロント・ピックアップ部15、ブリッジ131とフロント・ピックアップ部の間にリア・ピックアップ部16を有する。フロント・ピックアップ部15とリア・ピックアップ部16は、弦14の下に位置するようにボディ13に埋設される。フロント・ピックアップ部15とリア・ピックアップ部16はそれぞれ磁心コイルを有し、金属製の弦の振動をピックアップで電気信号に変換する。
【0023】
ボディ13は、更に、ボディ13に埋設される制御部17を有する、制御部17は、フロント・ピックアップ部15とリア・ピックアップ部16から出力された電気信号を制御する。ボディ13は、側面にジャック部18を有する。ジャック部18は、不図示のブラグと接続され、制御部17からの電気信号を外部のアンプに出力する。尚、ピックアップ部は、1つでもよく、又3つ以上を有してもよい。
【0024】
図2は、フロント・ピックアップ部の一例の概略を示す図である。(a)は外観斜視図であり、(b)は分解斜視図であり、(c)は(a)に示したA-A’における断面図である。
【0025】
フロント・ピックアップ部15は、弦の数に対応した磁心151、磁心151を収納するボビン152、ボビン152の側面周囲に巻き付けられるコイル153、コイル153に接続されるリード線154,155、及び、フロント・ピックアップカバー156を有する。フロント・ピックアップ部15はボディ13にマウントされ、ボディ表面には、フロント・ピックアップカバー156が露出する。リード線154はコールド,リード線155はホットと呼ばれる。
【0026】
図2(c)に示すように、フロント・ピックアップ部15は、磁心151とコイル153の上で金属製の弦14が振動すると、コイル153に電流が流れ、電気信号がリード線154,155を通って出力される機能を有する。弦14の振動周波数と電気信号の周波数は同じである。電磁波ノイズは、弦14の振動によって得られる電気信号に加え、ピックアップの他、ピックアップからの配線経路、制御部17、ジャック部18等の電気的に空間の電磁波に露出された電気配線部分からも入り易い。本発明は、このノイズを抑制する電気弦楽器である。
【0027】
図3は、リア・ピックアップ部の一例を示す図である。(a)はリア・ピックアップ部本体の外観斜視図であり、(b)はリア・ピックアップをマウントするブリッジプレートが取り付けられた外観斜視図である。
【0028】
リア・ピックアップ部16は、リア・ピックアップ本体部161、リード線162,163、及びリア・ピックアップがマウントされるブリッジプレート164を有する。リア・ピックアップ部16は、磁心とコイルの上で金属製の弦が振動すると、コイルに電流が流れ、電気信号がリード線162,163を通って制御部17に出力される機能、すなわち、フロント・ピックアップ部15と同じ機能を有する。したがって、フロント・ピックアップ部15と同じくリア・ピックアップ部16の電気信号には弦14以外の空間中の電磁波ノイズが入り易い。リード線162はコールド,リード線163はホットと呼ばれる。ブリッジプレート164にはリア・ピックアップ本体部161が設置され、弦を固定するブリッジ131が取り付けられる。ピックアップ部16はボディ13にマウントされ、ボディ表面には、ブリッジプレート164が露出する。
【0029】
フロント・ピックアップ部15とリア・ピックアップ部16はボディ13にマウントされる位置が異なることにより、異なる音質、例えば、フロント・ピックアップ部15はマイルドで太い音質、リア・ピックアップ部16は明るく派手でスピード感がある音質に対応する電気信号を検出することが可能となる。フロント・ピックアップ部15とリア・ピックアップ部16はいずれか一つでもよく、又、ボディ13は、フロント・ピックアップ部15、リア・ピックアップ部16以外のピックアップ部を有してもよい。
【0030】
図4は、制御部の一例の概略を説明する図であり、(a)は制御部の外観斜視図であり、(b)は制御部、ピックアップ部、及びジャック部の電気的接続を説明する図である。
【0031】
制御部17は、電気的機能ユニット、例えば、ピックアップ切換スイッチ171、音量調整ボリューム172、音質調整ボリューム173を有する。ピックアップ切換スイッチ171、音量調整ボリューム172、音質調整ボリューム173は相互に電気的に接続されている。電気信号がリード線154,155を通って出力される機能を有する。ピックアップ切換スイッチ171は切換レバー174、音量調整ボリューム172は音量調整ダイヤル175、音質調整ボリューム173は音質調整ダイヤル176を有する。制御部17はリード線177,178と制御部カバー179を更に有する。リード線177,178は、例えば、音量調整ボリュームに接続され、電気信号がリード線177,178を通ってジャック部18出力される。リード線177はホット,リード線178はコールドと呼ばれる。制御部17はボディ13にマウントされ、ボディ表面には、制御部カバー179が露出する。音質調整ボリューム173はキャパシタ1731を有してもよい。
【0032】
フロント・ピックアップ部15からのリード線154,155、リア・ピックアップ部のリード線162,163は、ピックアップ切換スイッチ171に電気的に接続される。ピックアップ切換スイッチは、フロント・ピックアップまたはリア・ピックアップ部からの電気信号の切り替え、またはミックスを行う。音量調整ボリューム172は、ピックアップ部からの電気信号の振幅を調整する。音質調整ボリューム173は、ピックアップ部からの電気信号の周波数フィルタリングを行う。制御部17で調整された電気信号がリード線177,178を通ってジャック部18出力される。
【0033】
図5は、ジャック部の一例の概略を説明する分解斜視図である。
【0034】
ジャック部18はジャック本体181とジャックケース182を有する。ジャック本体181は、外部アンプの不図示のプラグと接続して、制御部17からの電気信号が外部アンプに出力される。ジャック本体181は、接地電極183、出力(ホット)電極184、チップコンタクト185、及びスリーブコンタクト186を有する。
【0035】
接地電極183には制御部からのリード線178が電気的に接続され、出力(ホット)電極184には制御部からのリード線177が電気的に接続される。接地電極183はスリーブコンタクト186に電気的に接続されている。スリーブコンタクト186はプラグのスリーブと接触して電気的に接続され、アンプの接地電極と電気的に接続する。出力(ホット電極)184はチップコンタクト185に電気的に接続されている。チップコンタクト185はプラグのチップと接触して電気的に接続される。エレキギター1の電気信号はアンプに出力されることになる。ジャックケース182はジャック本体181を電磁シールドするカバーケースである。
【0036】
[第1実施形態]
電気信号出力に含まれるノイズを抑制するエレキギターの第1実施形態について説明する。
【0037】
図6は、エレキギターの分解斜視図である。尚、説明を簡単するため、弦とペグは表示していない。
【0038】
エレキギター1のボディ13は、表板2、裏板3、表板2と裏板3に挟まれた本体4を有する。本体4は、例えば木製である。又、樹脂モールド成形したものでもよい。樹脂モールドは例えば透明なアクリル樹脂製である。金属の場合は、例えばアルミ製である。表板2、裏板3は、例えば樹脂板である。又、装飾性を高めるため複数の樹脂板を複合させてもよい。樹脂板は、例えば、CFRP製やグラスファイバー製である。
【0039】
本体4は、表板側に、フロント・ピックアップ部15を収容するフロント・ピックアップ収容部41、リア・ピックアップ部16を収容するリア・ピックアップ収容部42、制御部17を収容する制御収容部43を有する。各収容部は、開口と内表面を有する。内表面は、例えば、内底面と内側面とからなる。又、本体4は側面にジャック部18を収容するジャックポケット44を有する。
【0040】
フロント・ピックアップ収容部41の内表面の少なくとも一部を被覆するように導電繊維含有樹脂層411が配置されている。導電繊維含有樹脂層411に、金属製ビス412によってリード線413が電気的に接続されている。導電繊維含有樹脂層411とリード線413が電気的に接続するために、例えばビスを使用してもよい。フロント・ピックアップ収容部41と制御収容部43は、本体4の表面に設けられた溝45により接続している。リード線413は、溝45を通って制御収容部43に入る。溝45に代えて本体4を貫通する制御部貫通穴が設けられてもよい。
【0041】
制御収容部43とジャックポケット44とは、本体4を貫通する制御部貫通穴47により接続されている。リード線413は、制御部貫通穴47を通り、ジャックポケット44に収容されるジャック部18の接地電極183に電気的に接続される。したがって、フロント・ピックアップ収容部41の導電繊維含有樹脂層411は、リード線413を介して接地電極183に電気的に接続される。
【0042】
リア・ピックアップ収容部42の内表面の少なくとも一部を被覆するように導電繊維含有樹脂層421が配置されている。導電繊維含有樹脂層421に、金属製ビス422によってリード線423が電気的に接続されている。導電繊維含有樹脂層421とリード線423が電気的に接続するために、例えばビスを使用してもよい。リア・ピックアップ収容部42と制御収容部43は、本体4を貫通するリア・ピックアップ貫通穴46により接続されている。リード線423は、リア・ピックアップ貫通穴46を通って制御収容部43に入る。
【0043】
制御収容部43とジャックポケット44とは、本体4を貫通する制御部貫通穴47により接続されている。リード線423は、制御部貫通穴47を通り、ジャックポケット44に収容されるジャック部18の接地電極183に電気的に接続される。したがって、リア・ピックアップ収容部42の導電繊維含有樹脂層421は、リード線423を介して接地電極183に電気的に接続される。
【0044】
表板2は、フロント・ピックアップ部15を本体4にマウントするためのフロント・ピックアップ開口21、リア・ピックアップ部16を本体4にマウントするためのリア・ピックアップ開口22、制御部17を本体4にマウントするための制御部開口23、溝45に対応するスリット24が設けられている。表板2は、本体4にビスでねじ止めされる。
【0045】
表板と同様に、裏板3も本体4にビス穴35を通るビス31でねじ止めされる。更にビス31を隠すために金属プレート32をネックとのジョイントに使う4本の大型ビスで取り付けてもよい。又、本体への固定を強化するため、ビス31に対応するナット34を使用してもよい。
【0046】
[第2実施形態]
第1実施形態では、フロント・ピックアップ収容部の導電繊維含有樹脂層と、リア・ピックアップ収容部の導電繊維含有樹脂層とがそれぞれリード線を介して接地電極に電気的に接続される。第2実施形態では、更に、制御収容部の内表面の少なくとも一部を被覆するように導電繊維含有樹脂層421が配置され、制御収容部の導電繊維含有樹脂層がリード線を介して接地電極に電気的に接続される。
【0047】
図7は、第2実施形態のエレキギターの分解斜視図である。尚、説明を簡単するため、弦とペグは表示していない。
【0048】
フロント・ピックアップ収容部41の導電繊維含有樹脂層411と、リア・ピックアップ収容部42の導電繊維含有樹脂層421とがそれぞれリード線413,423を介して接地電極183に電気的に接続されることは、第1実施形態と同じなので説明を省略する。
【0049】
第2実施形態では、更にリード線413の配置される溝45の底面と両側面に導電繊維含有樹脂層451がビスによって、制御収容部43の内表面の少なくとも一部を被覆する導電繊維含有樹脂層431に電気的に接続される。
【0050】
制御収容部43の内表面の少なくとも一部を被覆するように導電繊維含有樹脂層431が配置されている。導電繊維含有樹脂層431に、金属製ビス432によってリード線433が電気的に接続されている。導電繊維含有樹脂層431とリード線433が電気的に接続するために、例えばビスを使用してもよい
【0051】
制御収容部43とジャックポケット44とは、本体4を貫通する制御部貫通穴47により接続されている。リード線433は、制御部貫通穴47を通り、ジャックポケット44に収容されるジャック部18の接地電極183に電気的に接続される。したがって、制御収容部43の導電繊維含有樹脂層431は、リード線433を介して接地電極183に電気的に接続される。
【0052】
第1実施形態では、フロント・ピックアップ収容部の導電繊維含有樹脂層と、リア・ピックアップ収容部の導電繊維含有樹脂層とがそれぞれリード線を介して接地電極に電気的に接続される。第2実施形態では、更に、制御収容部の内表面の少なくとも一部を被覆するように導電繊維含有樹脂層431が配置され、溝45の底面と両側面に導電繊維含有樹脂層451が配置され、小型のビスによって制御収容部43の導電繊維含有樹脂層431に接続され、制御収容部の導電繊維含有樹脂層がリード線を介して接地電極に電気的に接続される。
【0053】
[第3実施形態]
更に、第3実施形態では、導電繊維含有樹脂層が、ボディにおいて弦が取り付けられた側の上表面の少なくとも一部、及び/又は、ボディにおいて弦が取り付けられた側と反対側の下表面の少なくとも一部を被覆するように配置されて、リード線を介して接地電極に電気的に接続される。導電繊維含有樹脂層は、上表面及び下表面の双方であるとノイズ抑制効果が最も発揮されるが、上表面又は下表面のどちらかでもよく、上表面と下表面とでは、後述する導電繊維含有樹脂層のコンデンサーのような効果の観点から、下表面に設けられている方がより良い。
【0054】
導電繊維含有樹脂層が、ボディにおいて前記弦が取り付けられた側の上表面の少なくとも一部に被覆される際に、ピックガードが装着されるタイプのギターであれば、その導電繊維含有樹脂層の少なくとも一部がピックガードとしてもよい。また、導電繊維含有樹脂層が、弦が取り付けられた側と反対側の下表面の少なくとも一部に被覆される際に、トレモロアーム付きのギターなどでスプリングプレート(後ろのプレート)がある場合には、その導電繊維含有樹脂層の少なくとも一部がスプリングプレート(後ろのプレート)としてもよい。
【0055】
導電繊維含有樹脂層が設けられる上記上表面は、ボディの上表面全てを被覆していることが最も好ましいが、その他、上表面の90%以上、又は80%以上、又は70%以上、又は60%以上、又は50%以上、又は40%以上、又は50%以上、又は40%以上、又は30%以上、又は20%以上、又は10%以上であってもよい。同様に、導電繊維含有樹脂層が設けられる上記下表面は、ボディの下表面全てを被覆していることが最も好ましいが、その他、下表面の90%以上、又は80%以上、又は70%以上、又は60%以上、又は50%以上、又は40%以上、又は50%以上、又は40%以上、又は30%以上、又は20%以上、又は10%以上であってもよい。導電繊維含有樹脂層が上表面、下表面の一部に設けられる場合、その位置は、ピックアップや電気信号制御部等の電磁波ノイズの影響を受けやすい箇所に近い方がより効果を発揮する。
【0056】
本発明における導電繊維含有樹脂に用いられる導電繊維としては、炭素繊維、スチールワイア、アルミニウム素線、銅線、ニクロム線、鋼線をはじめとする各種の金属繊維、導電材料でメッキあるいはコーティングしたナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等の有機繊維及びセラミック繊維等の無機繊維、カーボンブラック(含有量は5~10%程度)等の導電粒子あるいは金属粉体等を含有させたナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等の有機繊維およびセラミック繊維などの無機繊維、あるいは、表面にニッケルや銀等の金属を始めとする導体をメッキ、塗装あるいはコーティングした有機繊維及びセラミック繊維等の無機繊維等を使用することができる。
【0057】
又、本発明における導電繊維は、導電性ワイヤやケーブルも含む。これらの導電繊維は単独で用いられることに限定されるものではなく、例えば、炭素繊維と金属繊維などを直列あるいは並列に配列して用いても良い。
【0058】
本発明における導電繊維含有樹脂に用いられるマトリクス樹脂としては、繊維強化プラスチックで用いられる典型的なものであればよく、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フエノール樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0059】
導電繊維含有樹脂層は、上述した導電繊維を一方向に互いに並行かつシート状に引き揃えたものや、平織、朱子織、綾織などの織物や、短繊維もしくは長繊維マットとマトリクス樹脂とを複合して製造する。ここで用いられる導電繊維は、連続繊維であっても短繊維であってもよい。また、製造上は、SMC(シート・モールデイング・コンパウンド)を使用することもできる。連続繊維を使用する場合、その方向は任意でよく、繊維の形態や方向は、用途や層構成などに応じて決めればよい。
【0060】
本発明における導電繊維含有樹脂の導電繊維重量割合(Wf)は、通常10~70%、好ましくは20~60%、より好ましくは40~60%の範囲である。導電繊維重量割合が10%以上あることで材料に導電性が生まれノイズを削減することができる。また、導電繊維重量割合が70%以下であることで均一な成形体を製造することができる。
【0061】
本発明における導電繊維含有樹脂層の厚みは、通常0.01~5mm程度であればよい。後述する導電繊維含有樹脂層のコンデンサーのような効果を期待する場合は、0.1mm以上あるとより好ましい。
【0062】
第3実施形態では、典型的には、導電繊維含有樹脂層が、ボディにおいて弦が取り付けられた側の上表面の少なくとも一部、及び、ボディにおいて弦が取り付けられた側と反対側の下表面の少なくとも一部を被覆するように配置されているが、ボディの側面を更に被覆するよう配置してもよい。
【0063】
図8は、第3実施形態のギターを示す分解斜視図である。尚、説明を簡単するため、弦とペグは表示していない。
【0064】
フロント・ピックアップ収容部41の導電繊維含有樹脂層411、リア・ピックアップ収容部42の導電繊維含有樹脂層421、制御収容部43の導電繊維含有樹脂層431、及び溝45の底面と両側面の導電繊維含有樹脂層451が、それぞれリード線413、423、433、またはビスを介して接地電極183に電気的に接続されることは、第2実施形態と同じなので説明を省略する。
【0065】
ボディ13において弦が取り付けられた側の表板2の導電繊維含有樹脂層25が、接地電極183に電気的に接続する方法の一例を説明する。表板2を本体4にビス止めするためのビス穴27がリア・ピックアップ開口22の近傍に設けられる。本体4のリア・ピックアップ収容部の内表面の導電繊維含有樹脂層421の層を厚くした導電繊維含有樹脂層424がビス穴27の直下に位置するようにする。導電性のビス26で表板2を本体4にビス止めすることにより、表板2の導電繊維含有樹脂層25と導電繊維含有樹脂層424は電気的に接続される。導電繊維含有樹脂層424は接地電極183と電気的に接続されているので、表板2の導電繊維含有樹脂層25は、接地電極183と電気的に接続される。
【0066】
図9は、裏板の導電繊維含有樹脂層と、接地電極とが電気的に接続することを説明する、図8に示したA部の拡大図である。
【0067】
本体のネック12と接続する切欠き部481には、ビス穴48が設けられている。裏板3は、ビス穴35とビス穴48を通る金属製のビス31により本体4にビス止めされる。ビス31の先端はナット34で締め付けられる。ナット34で締め付けられる部分にリード線483が取り付けられる。リード線483は、裏板3の導電繊維含有樹脂層36と電気的に接続する。リード線483は、切欠き部側面とフロント・ピックアップ収容部41間のネック貫通穴484を通って、ピックアップ収容部41に達する。更に、リード線483は、金属製のビス412に電気的に接続される。ビス412にはリード線413が電気的に接続されているので、裏板3の導電繊維含有樹脂層36は、接地電極183電気的に接続される。
【0068】
[第4実施形態]
更に、第4実施形態では、ジャックケースの内表面の少なくとも一部を導電繊維含有樹脂層が被覆するように配置され、接地電極と電気的に接続する。
【0069】
図10は、ジャック部の分解斜視図である。ジャックケース182の内表面の少なくとも一部を導電繊維含有樹脂層187が被覆するように配置されている。金属製ビス188が導電繊維含有樹脂層187に取り付けられ、リード線189が金属製ビス188と導電繊維含有樹脂層187に電気的に接続される。リード線189は、接地電極183に電気的に接続され、導電繊維含有樹脂層187は、接地電極183に電気的に接続される。
【0070】
本発明のCFRPギターは、所定の構成部分を導電繊維含有樹脂層で処理したギターであるが、ピックアップ及びコントロール部分におけるCFRP部品のノイズ抑制効果は、導電性物質で覆われることによって外来電磁波を反射する電磁シールド効果が主要な要素と考えられる。
【0071】
更に加えて、ボディー(表板+裏板)に取り付けられたCFRPは、特にユーザーの身体と近接した距離にある場合には、電磁シールド効果だけではなく、ユーザーの身体との間でコンデンサーのように働き、回路中に重乗してきた電磁波ノイズを、身体を通してアースへ流すことで顕著なノイズ抑制が可能となると推定される。斯かる観点より、本発明における導電繊維含有樹脂は、電気抵抗率を通常1×102~1~109μΩ・cm程度、好ましくは1×103~1~108μΩ・cm程度を有していてもよく、また、静電容量は通常0.1nF~0.2nF程度有していてもよい。斯かる電気特性を有する導電繊維含有樹脂を用いることで、優れたノイズ抑制効果を発揮する。
【0072】
本実施形態では、エレキギター(ソリッドタイプ)を例として説明したが、電磁的ピックアップを有している他の電気弦楽器、例えば、エレクトリックアコースティックギター(エレアコ)、エレキベース、シタールギター、エレクトリックガットギター、スチールギターやエレクトリックバイオリン、エレクトリックマンドリン、エレクトリックバンジョーにも適用が可能である。
【0073】
本発明の電気弦楽器は、上記第1~4実施形態に限定されることなく、適宜、第1~4実施形態を変形、組み合わせることができる。
【0074】
更に、本発明には、金属製の弦が取り付けられた側の上表面の少なくとも一部、及び/又は、弦が取り付けられた側と反対側の下表面の少なくとも一部、並びに、接地電極を有するジャック部の周囲の少なくとも一部をそれぞれ被覆するように配置された導電繊維含有樹脂層を有する電気弦楽器用ボディに係る態様も包含される。かかる電気弦楽器用ボディを有する電気弦楽器も、その他の実施形態と同様に優れたノイズ抑制効果を有しており、ピックアップ収容部内を加工しなくてもよいことから製造にも適している。
【0075】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換、及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【0076】
[実施例]
(1)ノイズ低減効果
[炭素繊維複合材料板]
エポキシ樹脂を含浸させた綾織プリプレグ(帝人製、W-3161/Q-112J、目付197g/m2)を600mm×600mmに4枚裁断し、得られた裁断片をアルミ板に順次積層し、さらに最上面にもアルミ板を載置して上下面から挟んだ状態でバギングした後、オートクレーブで加圧、加熱および冷却することで600mm×600mm×0.8tの板状であり、厚さ約0.8mmの炭素繊維複合材料を得た。これをギターの各部位(ピックアップ収容部、制御収容部、ボディ(表板,裏板,ジャック部)の形状に合わせて切削し貼合した。
【0077】
[ノイズデータ、ギター音質データの採取方法]
マックブックプロ(登録商標)コンピュータに音響用インターフェースTASCOM US-600を接続し、音楽用シーケンスソフトのLOGIC Pro 9を用いて、ノイズ音またはギター音を録音し、その後、分解能:24bit、サンプルレート(サンプリング周波数):96000Hzにて解析用のWavファイルを作成し、保存した。
ノイズデータ、ギター音データの取得に際しては、各ギターのフロント・ピックアップを用い、ギターのVolumeつまみ、Toneつまみは最大とし、CANAEのギターシールドケーブル(5m)を用いて接続した。
【0078】
ノイズデータ入力レベルの調製は、RMS(実効値)のOA(各周波数RMS積算値(オーバーオール))が、全てのアースがOFFの時に115dBr程度、かつ弦アースをした時に95~97dBr程度となるように設定した。ギター音質データの入力レベルは、解析可能な限界を超えないように、最大のRMSが120dBrを超えないように設定した。
【0079】
[ノイズデータの解析]
ノイズデータは、OSとしてWindows(登録商標)10 Professional 搭載パソコンにインストールしたOscope2音響解析システム(小野測器)を用いて、FFT解析を行った。RMS(実効値)のパワースペクトルは、ノイズデータの7秒間の平均値で求め、縦軸オーバーオール(OA:各周波数RMSの積算値)のデシベル値、横軸log周波数で表した。OA値は、20~20,000Hzの分析周波数レンジまでの全ての周波数成分を積和して求めた。解析条件は、フレーム長16384、データ長5.73E+05、オーバーラップ0%、窓関数Hanningを用いた。周波数重み付け補正及びノイズレベル除去は行っていない。
【0080】
[ギター音データの音質解析]
ギター音質データは、同じくOscope2音響解析システム(小野測器製)を用いて、FFT解析を行った。3フレットセーハーでのGコードを15~16回ほど鳴らした時の各周波数の平均値をRMS(実効値)のパワースペクトルで表した。なお、以下の音質解析実施例1及び音質解析実施例2において、単に「収容部」と記載されている場合は、ピックアップ収容部及び制御収容部を意味する。
【0081】
[音質解析実施例1]ノイズデータ
上記の通り作製したCFRPギターについて、ノイズデータを解析したところ、表1及び図11の結果が得られた。
【表1】
【0082】
対応無しとは、エレキギターを放置した状態であり、ノイズ値は115.53dBrであった。弦アースとは、エレキギターの金属弦に接触している指を介してアースを取る方法であり、ノイズ値は96.761dBr、対応無しの差分値はー18.681dBrであった。
【0083】
CFRPギターでは、収容部処理のみの差分値は-20.455dBrであり、収容部+ボディ(表板+裏板+ジャック部)の場合の差分値は-34.007dBrであり、ボディのみ(表板+裏板+ジャック部)の場合の差分値は、-21.86dBrであり、いずれも優れたノイズ抑制効果を有していた。
【0084】
[音質解析実施例2]
図12は、CFRPギターの音質解析データである。図中、実線はCFRPギターにおいてアースがある場合で、点線は、CFRPギターにおいてアースを取らなかった場合である。
【0085】
上記の音質解析方法により、CFRPギター(収容部+ボディ(表板+裏板+ジャック部))について、音質データを採取したところ、図12の結果が得られた。図12より、CFRPギターにおいてアースがある場合と、CFRPギターにおいてアースを取らなかった場合とで実質的な差は無く、CFRPを処理することによる音質の変化は無いことが確認された。
【0086】
(2)高周波数領域の音量低減抑制効果
[他のシールディング材料との音質変化の比較]
一般に、エレキギターのノイズを抑制するために、フロント・ピックアップ収容部、リア・ピックアップ収容部、制御収容部を導電性の高い物質で被覆処理し、外部電磁波からシールドする処置が施される場合がある。主に、銅箔などの金属箔や炭素粒子を含ませた塗料(導電塗料)が使われる。これらの導電性物質による被覆処置によってノイズは抑制されるものの音質が変化する、いわゆる「ハイ落ち」と呼ばれる、高周波数での音量が減少する現象が生じるといわれている。そこで、一般的な施工方法であるフロント・ピックアップ収容部、リア・ピックアップ収容部、制御収容部のみを一般的なシールディング材で被覆する方法、すなわち銅箔テープでの被覆、導電塗料での被覆と、CFRP平板での被覆の有無による音質の変化を測定、観察した。
【0087】
[作製方法]
〈銅箔ギター〉
フロント・ピックアップ収容部、リア・ピックアップ収容部、制御収容部の内側(底面、側面)に、銅箔テープ(ニトムズ銅箔テープ 50mmか×5m、J3170)を貼付した。銅箔テープの粘着面には通電性がないことから、テープ同士の接合部分には“はんだ”処理を行い銅箔テープ同士の通電性を確保した。フロント・ピックアップ収容部、リア・ピックアップ収容部の銅箔貼付部分からビスとリード線で制御部分配線上のアースグラウンド接続点(Volumeポッド上部)へはんだで接続した。
【0088】
〈導電塗料ギター〉
フロント・ピックアップ収容部、リア・ピックアップ収容部、制御収容部の内側(底面、側面)に、導電塗料(Sonic Water-Based Shielding Paint、SP-01)を刷毛で塗布した。炭素粒子の密度のむらを避けるため、一度乾燥後に再度塗装を行った(二度塗り)。フロント・ピックアップ収容部、リア・ピックアップ収容部の導電塗料塗布部分からビスとリード線で制御部分配線上のアースグラウンド接続点(Volumeポッド上部)へはんだで接続した。
【0089】
〈CFRPギター〉
CFRPの平板(約0.8mm)を、フロント・ピックアップ収容部、リア・ピックアップ収容部、制御収容部の内側(底面、側面)に、ビスと両面テープを用いて取り付け、隣り合うCFRP板材は、以下のようにして電気的に通電させた。すなわち、結合部には、ビスが取り付けられる箇所を含めて隣り合うCFRP板を渡すように、あらかじめ最小限度の導電塗料を塗布しておいた。その後CFRP板材をギターボディにビスで取り付け、CFRP板材の裏側すなわちギターボディ側に処置した導電塗料の導電物質とビスを介して隣り合うCFRP板材が通電するように作製した。フロント・ピックアップ収容部、リア・ピックアップ収容部のCFRP板材部分からビスとリード線で制御部分配線上のアースグラウンド(Volumeポッド上部)へはんだで接続した。
【0090】
[高周波領域も含めたギター音質データの採取方法]
フェンダー製真空管ギターアンプ(Super Champ X2)を用いて、チャンネル1のクリアーサウンドで出力させ、楽器用マイクロホン(SHURE BETA57A)をアンプ前面から距離1cmに設置して集音した。ギターアンプの設定は以下の通りである。
Volume:4、 Treble:10、 Bass:8
F/X ADJUST:3.5 F/X SELECT:REVERB
【0091】
マックブックプロ(コンピュータ)に音響用インターフェースTASCOM US-600を接続し、音楽用シーケンスソフトのLOGIC Pro 9を用いて、マイクからの入力信号を録音し、その後、分解能:24bit、サンプルレート(サンプリング周波数):96000Hzにて解析用のWavファイルを作成し、保存した。
【0092】
ギター音質データの取得に際しては、各ギターのフロント・ピックアップを用い、ギターのVolumeつまみ、Toneつまみは最大とし、CANAEのギターシールドケーブル(5m)を用いて接続した。
【0093】
[ギター音質データの解析]
ギター音質データは、前項と同じくOscope2音響解析システム(小野測器製)を用いて、FFT解析を行った。3フレットセーハーでのGコードを、音質解析実施例2とは異なる、所定の同じカッティングパターンで4小節演奏した時(約10秒間)の各周波数の平均値をRMS(実効値)のパワースペクトルで表し、OAを算出した。また、6000~10000Hzの間のパーシャルオーバーオール(POA)を算出した。解析条件は、フレーム長:2048、オーバーラップ:25%、窓関数:Hanningを用いた。周波数重み付け補正及びノイズレベル除去は行っていない。
【0094】
[音質解析実施例3]高周波領域音質データ
上記の通り作製した銅箔ギター、導電塗料ギター、CFRPギター(ピックアップ収容部、制御収容部の底面、側面処理)について、音質データを解析したところ、表2及び図13の結果が得られた。
【0095】
表2は、ギターの各処理方法に応じて計測されたOAのデシベル値とPOAのデシベル値を示している。
【0096】
【表2】
【0097】
図13は、各種ギターの音質解析データである。太い実線は無処置ギター、細い点線は銅箔ギター、太い点線は導電塗料ギター、細い実線はCFRPギターのスペクトルデータを示す。
【0098】
また、前出で作製したCFRPギター(ボディの表面及び裏面、ピックアップ収容部、制御収容部、ジャックポケットをCFRPで処理したギター)での、当該方法(アンプで出力しマイクで集音した形式)での音響データも併せて解析したところ、表2の下部に示す結果および図14の結果が得られた。
【0099】
図14は、各種ギターの音質解析データである。太い実線はCFRPギター(アース結線ON)、細い点線はCFRPギター(アース結線OFF)、太い実線は無処置ギターのスペクトルデータを示す。
【0100】
無処置ギターとは、エレキギターに何ら加工を施さない状態のギターであり、OA値は118.53dBrであり、POA(6000~10000Hz)は89.0dBrであった。銅箔ギターでは、OA値は118.52dBrであり、POA(6000~10000Hz)は82.931dBrであった。また、導電塗料ギターでは、OA値は119.50Brであり、POA(6000~10000Hz)は78.454であった。銅箔ギター、導電塗料ギターのいずれも、無処置ギターに対してOAレベルに差はないものの、高音部のパーシャルOAでは、明らかな減少が認められ、いわゆる「ハイ落ち」現象が生じており、聴覚上も明らかに音質がマイルドになり、当該無処置ギター本来の鋭角的な音響はなくなっていた。
【0101】
一方、収容部のみにCFRP板材を貼付したCFRPギターでは、OA値は121.61Br、POA(6000~10000Hz)は88.630であり、無処置ギターに対してOAレベルに差はなく、かつ高音部のパーシャルOAでも減少は認められなかった。聴覚上も音質の変化は認められず、CFRPギターは無処置ギター本来の音質に変化をきたさない優れた性質を有することが示された。
【0102】
また、図13でも確認されるように、銅箔または導電塗料でピックアップ収容部および制御収容部をシールディングした場合には、無処置ギターに比べ高周波数領域の音量が減少し、いわゆる「ハイ落ち」の現象が生じていた。一方、CFRPギター(ピックアップ収容部および制御収容部処理のみ)においては、高周波数領域の音量の減少は認められず、CFRPを処理することによる「ハイ落ち」は無いことが確認された。
【0103】
更に、CFRPギター(ボディの表面及び裏面、ピックアップ収容部、制御収容部、ジャックポケットをCFRPで処理したギター)では、アースグラウンドへの結線OFFでOA値は、119.05dBr、POA(6000~10000Hz)値は88.392dBr、アースグラウンド結線ONでOA値は、119.23dBr、POA(6000~10000Hz)は88.470dBrであった。すなわち、当該方法(アンプで出力しマイクで集音する方法)においても、無処置ギターに対してOAレベルに差はなく、かつ高音部のパーシャルOAでも差はなく、CFRPギターは無処置ギター本来の音質に変化をきたさない優れた性質を有することが改めて確認された。このことは、図14においても、当該方法(アンプで出力しマイクで集音する方法)での解析を行った場合でも、CFRPギターは無処置ギター本来の音質に変化をきたさない優れた性質を有することが改めて確認された。
【符号の説明】
【0104】
1 エレキギター
11 ヘッド
12 ネック
13 ボディ
14 金属弦
15 フロント・ピックアップ部
16 リア・ピックアップ部
17 制御部
18 ジャック部
2 表板
3 裏板
4 本体
41 フロント・ピックアップ収容部
42 リア・ピックアップ収容部
43 制御収容部
44 ジャックポケット
45 溝
46 リア・ピックアップ貫通穴
47 制御部貫通穴
48 ビス穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14