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特許7493386フィルム検査システム、塗工装置、及びフィルムの製造方法
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  • 特許-フィルム検査システム、塗工装置、及びフィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】フィルム検査システム、塗工装置、及びフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/50 20060101AFI20240524BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240524BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20240524BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20240524BHJP
   B05C 1/08 20060101ALN20240524BHJP
【FI】
G01J3/50
G01N21/27 Z
B05C11/00
B05C9/14
B05C1/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020093608
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021189008
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直洋
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-070729(JP,A)
【文献】特開2009-186284(JP,A)
【文献】特開2014-003093(JP,A)
【文献】特開平11-330939(JP,A)
【文献】特開2016-077964(JP,A)
【文献】特開2016-140832(JP,A)
【文献】特開2006-292670(JP,A)
【文献】特開2004-294365(JP,A)
【文献】特開平04-034348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/50
G01J 3/46
G01N 21/27
G01N 21/892
B05C 11/00
B05C 9/14
B05C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に移送されるフィルムを検査するフィルム検査システムであって、
該フィルムの一方の面に近接して配置された複数の光源と、
該フィルムの他方の面に近接して配置された複数の検出器と、
前記光源を駆動する光源制御部と、を備え、
前記検出器は、色彩輝度計であり、前記フィルムからの出射光の色彩情報として、Yxy表色系で示されるx値及びy値を検出
前記複数の検出器のうち1つを基準検出器として選択し、該基準検出器が検出するx値を用いたx値補正式、及び、該基準検出器が検出するy値を用いたy値補正式を設定し、前記基準検出器以外の検出器により検出される値を、該x値補正式及びy値補正式により補正する、ことを特徴とする、フィルム検査システム。
【請求項2】
前記複数の光源は、前記フィルムの幅方向に並んで配置され、
前記複数の検出器は、前記フィルムの幅方向に並んで配置された、請求項1に記載のフィルム検査システム。
【請求項3】
前記光源がLEDモジュールである、請求項1又は2に記載のフィルム検査システム。
【請求項4】
前記光源の個数及び前記検出器の個数が同じであり、各光源及び各検出器が前記フィルムを挟んで対となって配置されている、請求項1~3のいずれかに記載のフィルム検査システム。
【請求項5】
前記光源制御部は複数存在し、各光源制御部が、前記複数の光源のうち1つ又は2つを制御する、請求項1~4のいずれかに記載のフィルム検査システム。
【請求項6】
前記複数の光源はそれぞれフォトダイオードを有し、
該フォトダイオードは、各光源の輝度情報を検出して前記光源制御部に送信し、
該光源制御部は、送信された輝度情報に基づき、各光源の輝度が一定となるように駆動電力を制御する、請求項1~のいずれかに記載のフィルム検査システム。
【請求項7】
基材フィルムを巻重体の状態から送り出す送出機構と、
送り出された基材フィルムの表面に樹脂組成物を塗布する塗布機構と、
前記樹脂組成物を加熱乾燥して、基材フィルム上に塗膜が形成されたフィルムを得る乾燥機構と、
前記フィルムを巻き取って巻重体とする巻取機構と、をこの順に備え、
前記フィルムの検査用に、請求項1~のいずれかに記載のフィルム検査システムが搭載されたことを特徴とする、塗工装置。
【請求項8】
前記フィルム検査システムが、前記乾燥機構と前記巻取機構との間に搭載された、請求項に記載の塗工装置。
【請求項9】
前記フィルム検査システムにおける複数の光源が、退避可能に設けられている、請求項7又は8に記載の塗工装置。
【請求項10】
前記フィルム検査システムが搭載された箇所におけるフィルムの移送方向が、鉛直方向又は鉛直方向に対して45°以下傾斜した方向である、請求項7~9のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項11】
前記フィルム検査システムにおいて、前記光源の個数及び前記検出器の個数が同じであり、各光源及び各検出器が前記フィルムを挟んで対となって配置されており、
各光源と各検出器とを結んだ各線の方向が、前記フィルムの面の垂直方向又は当該垂直方向に対して45°以下傾斜した方向である、請求項7~10のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項12】
前記樹脂組成物が蛍光体を含有する、請求項7~11のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項13】
基材フィルム上に塗膜が形成されてなるフィルムの製造方法であって、
連続的に移送される基材フィルムの表面に樹脂組成物を塗布する塗布工程と、
請求項1~のいずれかに記載のフィルム検査システムを用い、前記塗布工程後のフィルムからの出射光の色彩情報を検出する検査工程と、を少なくとも備え、
前記検査工程において検出される色彩情報に基づき、前記樹脂組成物の塗布厚みを決定することを特徴とする、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム検査システム、塗工装置、及びフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のバックライト等において、青色発光ダイオード(青色LED)を光源として白色光を取り出す際に、蛍光体を含有するシート(いわゆる蛍光体シート)を青色LEDの光出射側に設け、青色光を白色光に変換することは広く行われている。このような蛍光体シートは、厚みや蛍光体の量にばらつきが生じていると、色度等の光学特性に影響を及ぼし、装置の機能を悪化させ得る。そのため、蛍光体シートの製造に際しては、光学特性をモニタリングして品質管理を行うことが重要である。
【0003】
そのような取り組みとして、例えば特許文献1は、蛍光体を含有するシート状部材の異なる複数の位置において、対物レンズにより光を取り込み、その光のスペクトルを測定する検査装置を開示している。かかる検査装置によれば、シート状部材についての色度の面内分布を測定できることが示されている。
【0004】
また、例えば特許文献2は、蛍光体含有組成物を射出成形して得られるシート状成形体について、光の色度を測定し、測定した色度を射出成形にフィードバックして、成形する成形体の厚みを調整する製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-090388号公報
【文献】特開2014-079905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような蛍光体シート、特には大型画面を備える装置に用いられる蛍光体シートは、いわゆるロールトゥロール方式の塗工装置で連続的に製造されることが一般的となっている。そして、ロールトゥロール方式で蛍光体シートを製造する際には、シート面内の色度等の光学特性のばらつきを正確にモニタリングすること、及び、モニタリング結果を製造設備(製造条件)にフィードバックすることが要求される。
【0007】
この点に関し、特許文献1の検査装置は、光のスペクトルの測定をオフライン環境で行うものである。そのため、特許文献1の検査装置をロールトゥロール式塗工装置などの連続的なフィルム製造ラインに導入することはできず、また、インラインで且つリアルタイムにスペクトル測定を行うこともできない。
【0008】
また、特許文献2の製造方法は、射出成形による成形を前提としているため、ロールトゥロール方式などの連続的なフィルム製造には馴染まない。更に、特許文献2の製造方法では、色度測定をシングルポイントで行っているため、モニタリングの精度が不十分である。
【0009】
このように、既知の技術では、連続的なラインで蛍光体シート(蛍光体フィルム)を製造する際の品質管理に関する高い要求を満たすことができないでいた。
【0010】
そこで、本発明は、従来における上記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、連続的なフィルム製造ラインに導入でき、移送されるフィルムの光学特性のモニタリングを正確に行うことが可能なフィルム検査システムを提供することを目的とする。
また、本発明は、連続的にフィルムを製造しつつ、得られるフィルムの光学特性のモニタリングを正確に行うことが可能な塗工装置を提供することを目的とする。
更に、本発明は、面内の光学特性のばらつきが低減されたフィルムを製造することが可能な、フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するための手段としては以下の通りである。
【0012】
<1>連続的に移送されるフィルムを検査するフィルム検査システムであって、
該フィルムの一方の面に近接して配置された複数の光源と、
該フィルムの他方の面に近接して配置された複数の検出器と、
前記光源を駆動する光源制御部と、を備え、
前記検出器は、前記フィルムからの出射光の色彩情報を検出する、ことを特徴とする、フィルム検査システム。
【0013】
<2>前記複数の光源は、前記フィルムの幅方向に並んで配置され、
前記複数の検出器は、前記フィルムの幅方向に並んで配置された、<1>に記載のフィルム検査システム。
【0014】
<3>前記光源がLEDモジュールである、<1>又は<2>に記載のフィルム検査システム。
【0015】
<4>前記光源の個数及び前記検出器の個数が同じであり、各光源及び各検出器が前記フィルムを挟んで対となって配置されている、<1>~<3>のいずれかに記載のフィルム検査システム。
【0016】
<5>前記光源制御部は複数存在し、各光源制御部が、前記複数の光源のうち1つ又は2つを制御する、<1>~<4>のいずれかに記載のフィルム検査システム。
【0017】
<6>前記検出器は、色彩輝度計であり、Yxy表色系で示されるx値及びy値を検出する、<1>~<5>のいずれかに記載のフィルム検査システム。
【0018】
<7>前記複数の検出器のうち1つを基準検出器として選択し、該基準検出器が検出するx値を用いたx値補正式、及び、該基準検出器が検出するy値を用いたy値補正式を設定し、前記基準検出器以外の検出器により検出される値を、該x値補正式及びy値補正式により補正する、<6>に記載のフィルム検査システム。
【0019】
<8>前記複数の光源はそれぞれフォトダイオードを有し、
該フォトダイオードは、各光源の輝度情報を検出して前記光源制御部に送信し、
該光源制御部は、送信された輝度情報に基づき、各光源の輝度が一定となるように駆動電力を制御する、<1>~<7>のいずれかに記載のフィルム検査システム。
【0020】
<9>基材フィルムを巻重体の状態から送り出す送出機構と、
送り出された基材フィルムの表面に樹脂組成物を塗布する塗布機構と、
前記樹脂組成物を加熱乾燥して、基材フィルム上に塗膜が形成されたフィルムを得る乾燥機構と、
前記フィルムを巻き取って巻重体とする巻取機構と、をこの順に備え、
前記フィルムの検査用に、<1>~<8>のいずれかに記載のフィルム検査システムが搭載されたことを特徴とする、塗工装置。
【0021】
<10>前記フィルム検査システムが、前記乾燥機構と前記巻取機構との間に搭載された、<9>に記載の塗工装置。
【0022】
<11>前記フィルム検査システムにおける複数の光源が、退避可能に設けられている、<9>又は<10>に記載の塗工装置。
【0023】
<12>前記フィルム検査システムが搭載された箇所におけるフィルムの移送方向が、鉛直方向又は鉛直方向に対して45°以下傾斜した方向である、<9>~<11>のいずれかに記載の塗工装置。
【0024】
<13>前記フィルム検査システムにおいて、前記光源の個数及び前記検出器の個数が同じであり、各光源及び各検出器が前記フィルムを挟んで対となって配置されており、
各光源と各検出器とを結んだ各線の方向が、前記フィルムの面の垂直方向又は当該垂直方向に対して45°以下傾斜した方向である、<9>~<12>のいずれかに記載の塗工装置。
【0025】
<14>前記樹脂組成物が蛍光体を含有する、<9>~<13>のいずれかに記載の塗工装置。
【0026】
<15>基材フィルム上に塗膜が形成されてなるフィルムの製造方法であって、
連続的に移送される基材フィルムの表面に樹脂組成物を塗布する塗布工程と、
<1>~<8>のいずれかに記載のフィルム検査システムを用い、前記塗布工程後のフィルムからの出射光の色彩情報を検出する検査工程と、を少なくとも備え、
前記検査工程において検出される色彩情報に基づき、前記樹脂組成物の塗布厚みを決定することを特徴とする、フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、連続的なフィルム製造ラインに導入でき、移送されるフィルムの光学特性のモニタリングを正確に行うことが可能なフィルム検査システムを提供することができる。
また、本発明によれば、連続的にフィルムを製造しつつ、得られるフィルムの光学特性のモニタリングを正確に行うことが可能な塗工装置を提供することができる。
更に、本発明によれば、面内の光学特性のばらつきが低減されたフィルムを製造することが可能な、フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態のフィルム検査システムの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0030】
(フィルム検査システム)
図1は、本発明の一実施形態のフィルム検査システム(以下、「本実施形態の検査システム」と称することがある。)の概要図である。図1に示すように、検査システム1(フィルム検査システム)は、連続的に移送されるフィルム50を検査する(フィルム50の光学特性をモニタリングする)ためのシステムである。なお、図1において、フィルム50は、紙面に垂直な方向に移送されており、説明の便宜上、図1には、所定の幅及び厚みを有するフィルム50断面が示されている。検査システム1は、該フィルム50の一方の面に近接して配置された複数の(図1では12個の)光源11と、該フィルム50の他方の面に近接して配置された複数の(図1では12個の)検出器12と、上記光源11を駆動する光源制御部13と、を少なくとも備える。即ち、本実施形態の検査システム1においては、複数の光源11と複数の検出器12とが、移送されるフィルム50を挟むようにして配置される。また、光源制御部13は、ケーブル21で光源11に接続されている。
【0031】
そして、本実施形態の検査システム1では、複数の光源11を光源制御部13により駆動し、移送されるフィルム50に光を入射させるとともに、当該フィルム50の反対側の面からの出射光(フィルムをそのまま透過した光、フィルム内で蛍光体により励起した光、などが含まれる)の色彩情報を、複数の検出器12によりインラインで且つリアルタイムで検出する。
【0032】
上述の通り、本実施形態の検査システム1は、複数の検出器12を用いてフィルム50からの出射光の色彩情報を検出するので、フィルム50面内の同時の多点モニタリング及び高速モニタリングを実現することができる。また、通常、1台の光源(例えば、細長い形状の光源モジュール)を用いた場合には、光源モジュール内の輝度にばらつきが生じ、これを制御することが困難であるが、本実施形態の検査システム1は、複数の光源11をそれぞれ独立して用いているため、光源の輝度をより均一に保つように制御することができる。そのため、本実施形態の検査システム1を用いた場合には、モニタリング結果をフィルム製造設備にフィードバックする際に、光源に起因した精度ずれを有意に抑えることができる。このような構成のため、本実施形態の検査システムは、ロールトゥロール方式の塗工装置をはじめとする連続的なフィルム製造ラインに導入でき、移送されるフィルムの光学特性のモニタリングを正確に行うことができる。
【0033】
なお、本明細書において、「シート」及び「フィルム」の語の間には、特に大きな意味の相違はない。
【0034】
複数の検出器12は、特に限定されないが、例えば、図1に示すように、USBケーブルやLANケーブル等のケーブル22で集約されてハブ14に接続され、更に測定用パソコン15及び表示用パソコン16に順次接続することができる。この場合には、複数の検出器12が検出した色彩情報について、測定用パソコン15で情報処理がなされた後、検出結果(情報処理結果)を表示用パソコン16に表示させることができる。また、複数の検出器12が検出した色彩情報については、表示用パソコン16への表示に代えて、又はそれとともに、他の設備(運転条件など)にフィードバックしてもよい。
【0035】
光源11は、例えば、LEDモジュールとすることができる。LEDモジュールとしては、およそ460~500nmの波長の光を発するLEDモジュール(いわゆる青色LEDモジュール)が好ましい。光源11として青色LEDモジュールを用い、且つ、フィルム50が所定の蛍光体を含有する場合には、白色光の色彩情報が検出器12により検出されることとなる。なお、光源11(LEDモジュール)としては、市販品を用いることができる。更に、光源11は、フォトダイオードを有してもよい。
【0036】
光源11からフィルム50までの距離は、光源の仕様などに応じて適宜選択することができる。特に、光源11からフィルム50までの距離は、検出器12が検出する色彩情報の誤差をより低減する観点から、8mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましい。また、光源11からフィルム50までの距離は、接触をより確実に回避する観点から、1mm以上であることが好ましい。
【0037】
検出器12は、例えば、色彩輝度計とすることができ、フィルム50からの出射光の色彩情報として、Yxy表色系で示されるx値及びy値を検出することができる。この場合、より高精度且つ客観的に色彩情報を数値化することができる。
【0038】
検出器12の検出間隔(頻度)としては、特に限定されず、検出器の個数、フィルムの移送スピード、求められるモニタリング精度などに応じて、適宜選択することができる。特に、検出器12の検出間隔は、光学特性の分布の経時的な変化をより厳密にモニタリングする観点から、1~20秒であることが好ましい。或いは、検出器12は、常時検出(常時モニタリング)を行ってもよい。
【0039】
検出器12からフィルム50までの距離は、検出器の仕様などに応じて適宜選択することができ、例えば、100~500mmとすることができる。
【0040】
本実施形態の検査システム1において、複数の光源11は、図1に示すように、フィルム50の幅方向に並んで配置されるとともに、複数の検出器12は、フィルム50の幅方向に並んで配置されることが好ましい。この場合、フィルム50の幅方向の光学特性の分布及び当該分布の経時的な変化をモニタリングできるので、より高いレベルで品質管理を行うことができる。同様の観点から、複数の光源11は、フィルム50の幅方向に等間隔に並んで配置されるとともに、複数の検出器12は、フィルム50の幅方向に等間隔に並んで配置されることがより好ましい。
【0041】
本実施形態の検査システム1においては、図1に示すように、光源11の個数及び検出器12の個数が同じであり、各光源11及び各検出器12がフィルム50を挟んで対となって配置されていることが好ましい。即ち、本実施形態の検査システム1においては、光源11と検出器12とが1対1で対応していることが好ましい。この場合、各検出器12により検出される色彩情報が、対となる光源11が発する光を基準としたものとなるので、フィルム50面内の多点モニタリングの精度をより高めることができる。また、各検出器12は、フィルム50を挟んで対となる光源11を向くように配置されることが好ましい。
【0042】
各光源11及び各検出器12がフィルム50を挟んで対となって配置される場合、各光源11と各検出器12とを結んだ各線の方向は、移送されるフィルム50の面の垂直方向又は当該垂直方向に対して45°以下傾斜した方向であることが好ましい。この場合、光学特性のモニタリングをより厳密に行うことができる。同様の観点から、各光源11と各検出器12とを結んだ各線の方向は、移送されるフィルム50の面の垂直方向又は当該垂直方向に対して10°以下傾斜した方向であることが好ましい。
【0043】
複数の検出器12を並んで配置する場合、その間隔(ピッチ)としては、特に限定されず、検査対象のフィルム50の幅、検出器12の大きさ、求められるモニタリング精度などに応じて、適宜選択することができる。特に、複数の検出器12の間隔(ピッチ)は、光学特性の分布をより詳細にモニタリングする観点から、30~200mmの範囲内であることが好ましい。複数の光源11の間隔(ピッチ)についても、上記と同様である。
【0044】
光源制御部13は、図1に示すように、複数存在し、各光源制御部13が、前記複数の光源11のうち1つ又は2つ(図1では2つ)を制御することが好ましい。この場合、各光源11の輝度をより一層均一に保つように制御することができる。
【0045】
また、本実施形態の検査システム1においては、複数の光源11がそれぞれフォトダイオード(図示せず)を有するとともに、光源制御部13が、各光源11に対する駆動電力を制御することが好ましい。より具体的に、複数の光源11に搭載されたフォトダイオードが、各光源11の輝度情報を検出して光源制御部13に送信し、光源制御部13が、送信された輝度情報に基づき、各光源11の輝度が一定となるように駆動電力を制御することが好ましい。このようなフィードバック制御により、各光源11の輝度を長期間一定に保つことができるので、フィルム50面内の多点モニタリングの精度をより高めることができる。また、複数の光源11の輝度を統一することもできる。更に、フォトダイオードが検出する輝度情報により、各光源11の劣化具合を見積もることができるので、光源11の予防保全の観点からも有利である。
【0046】
ここで、本実施形態の検査システム1においては、複数の光源11及び複数の検出器12を用いているため、場合によっては、検出器12ごと(或いは、検出器12及び光源11の対ごと)の検出誤差の発生が懸念される。そのため、検出器12ごとに、検出される値の補正を行うことが好ましい。以下、検出器12として色彩輝度計を用い、Yxy表色系で示されるx値及びy値を検出する場合を例に挙げ、補正の具体的な手法の一例を説明する。
【0047】
まず、複数の検出器12のうち1つを、基準検出器12A(図示せず)として任意に選択し、本実施形態の検査システム1と同様に、基準検出器12Aと任意の光源11A(図示せず)とを、フィルムサンプルを挟むようにして配置する。なお、用いるフィルムサンプルは、特に限定されないが、所定量の蛍光体を含有する蛍光体フィルムとすることができる。次いで、光源11Aを駆動してフィルムサンプルに光を入射させるとともに、フィルムサンプルからの出射光のx値及びy値を検出する。この操作を、計n個(nは、好ましくは5以上)の異なるフィルムサンプルを用いて行い、n組のx値及びy値を検出する。
一方、基準検出器12Aに代えて補正対象の検出器12B(図示せず)を用い、上記と同様にして、n組のx値及びy値を検出する。
そして、基準検出器12Aが検出するx値を用いたx値補正式、及び、基準検出器12Aが検出するy値を用いたy値補正式を設定し、補正対象の検出器12B(基準検出器12A以外の検出器)により検出される値を、これらx値補正式及びy値補正式により補正する。以下、その具体例について説明する。
【0048】
まず、n個のサンプルフィルムについて、基準検出器でn組のx値及びy値を実測し、更に、補正対象の検出器でn組のx値及びy値を実測する。次に、基準検出器で実測した各サンプルフィルムについてのx値と、補正対象の検出器で実測した各サンプルフィルムについてのx値とによるn組の関係を用いて、x値補正式を設定する。このx値補正式は、例えば最小二乗法による一次関数の式とすることができ、補正前のx値をx0とし、補正後のx値をx1ととすると、下式(1)の通りとなる。
1=a10+b1 (1)
(式中、a1及びb1は、最小二乗法により算出される値である。)
同様に、基準検出器で実測した各サンプルフィルムについてのy値と、補正対象の検出器で実測した各サンプルフィルムについてのy値とによるn組の関係を用いて、y値補正式を設定する。このy値補正式は、上記と同様、例えば最小二乗法による一次関数の式とすることができ、補正前のy値をy0とし、補正後のy値をy1ととすると、下式(2)の通りとなる。
1=a20+b2 (2)
(式中、a2及びb2は、最小二乗法により算出される値である。)
そして、上記の2つの補正式に、補正対象の検出器で実測されるx値及びy値をそれぞれ代入することで、補正後のx値及びy値をそれぞれ求めることができる。
また、複数の補正対象の検出器がある場合には、上記と同様の手順で個別に補正を行う。
【0049】
また、検査システム1において各光源11及び各検出器12が対となって配置される場合には、検出器12及び光源11の対ごとに、検出される値の補正を行うことが好ましい。この場合には、検査システム1における複数の検出器12及び光源11の対のうち1つを、基準対として任意に選択し、任意の光源11Aではなく対の光源を用いること以外は上記と同様のやり方で、基準対における検出器が検出するx値を用いたx値補正式、及び、基準対における検出器が検出するy値を用いたy値補正式を設定し、補正対象の検出器(基準対以外の対における検出器)により検出される値を、該x値補正式及びy値補正式により補正する。
参考までに、実際に行われた補正に関するデータを、表1に示す。なお、表1において、フィルムサンプルの番号は、x値(及びy値)の実測値が小さい順に付与されている。表1より、補正前においては、基準となる検出器に対し、x値で最大0.0008(フィルムサンプル1、8)の差、y値で最大0.0059(フィルムサンプル8)の差があった。これに対し、補正後には、基準となる検出器に対し、x値で最大0.0001(フィルムサンプル3,4,6,7)の差、y値で最大0.0002(フィルムサンプル4,8)の差となった。補正後における差は、測定精度以下であり、検出器ごとの検出誤差を有意に低減できることが示唆される。
【表1】
【0050】
(塗工装置)
本発明の一実施形態の塗工装置(以下、「本実施形態の塗工装置」と称することがある。)は、基材フィルムを巻重体の状態から送り出す送出機構と、送り出された基材フィルムの表面に樹脂組成物を塗布する塗布機構と、上記樹脂組成物を加熱乾燥して、基材フィルム上に塗膜が形成されたフィルムを得る乾燥機構と、上記フィルムを巻き取って巻重体とする巻取機構と、をこの順に備える。なお、上記塗工装置は、上述した機構以外のその他の機構(例えば、乾燥機構後のフィルムを冷却する機構、乾燥機構後のフィルムを洗浄する機構、塗膜の上に更に任意の塗膜を形成する機構など)を適宜備えることができる。そして、本実施形態の塗工装置は、フィルムの検査用に、上述したフィルム検査システムが搭載されたことを特徴とする。
【0051】
本実施形態の塗工装置は、いわゆるロールトゥロール方式を採用しており、基材フィルム上に塗膜が形成されたフィルムを一貫して連続的に製造することができる装置である。そして、本実施形態の塗工装置は、上述したフィルム検査システムを更に備えるため、得られるフィルムの光学特性のモニタリングを正確に行うことが可能である。
【0052】
送出機構では、基材フィルムを巻重体の状態から送り出し、移送する。基材フィルムとしては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム、熱硬化性樹脂フィルム、光硬化性樹脂フィルム等が挙げられる。また、使用する基材フィルムの幅(製造されるフィルムの幅に対応)は、製造する蛍光体フィルム等のフィルムの大きさなどに応じて適宜選択することができるが、例えば、200~3000mmの範囲内とすることができる。なお、送出方式としては、特に限定されない。
【0053】
塗布機構では、送出機構により送り出された基材フィルムの表面に、所望の厚みとなるように樹脂組成物を塗布する。樹脂組成物は、樹脂(スチレン系共重合体、アクリル系共重合体など)のほか、溶剤(トルエン、メチルエチルケトン、それらの混合物など)、蛍光体、更には、光拡散剤、顔料、染料などを適宜含有することができる。特に、樹脂組成物が蛍光体を含有することで、最終的に蛍光体フィルム(基材フィルム上に蛍光体を含有する塗膜が形成されたフィルム)を得ることができる。樹脂組成物は、塗布を可能とする粘度を有することが好ましく、また、十分均一に混合されていることが好ましい。
【0054】
また、塗布方式としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、コンマコーター(登録商標)、ダムコーター等が挙げられる。
【0055】
乾燥機構では、塗布機構により基材フィルムの表面に塗布された樹脂組成物を加熱乾燥し、これにより、基材フィルム上に塗膜が形成されたフィルムを得る。加熱乾燥方式としては、特に限定されず、例えば、所定温度に設定されたオーブン内に所定時間滞留させる方式が挙げられる。
【0056】
巻取機構では、乾燥機構後の上記フィルムを移送し、巻き取って巻重体とする。このようにフィルムを巻重体とすることで、搬送や保管が容易となる。なお、巻取方式としては、特に限定されない。
【0057】
本実施形態の塗工装置において、フィルム検査システムの搭載箇所は、特に限定されない。但し、本実施形態の塗工装置においては、上記フィルム検査システムが、乾燥機構と巻取機構との間に搭載されることが好ましい。この場合、製品となり得るフィルムの光学特性のモニタリングがより便宜となる。
【0058】
本実施形態の塗工装置においては、フィルム検査システムにおける複数の光源が、退避可能に設けられていることが好ましい。本実施形態の塗工装置は、蛍光体フィルム専用の製造装置である必要はなく、例えば粘着テープの製造など、多様な用途で使用することができる。そのような蛍光体フィルム以外の製品を製造する場合に、光源を退避させる(収納する)ことができれば、光源が邪魔になることなく円滑な製造を行うことができる。
【0059】
本実施形態の塗工装置においては、フィルム検査システムが搭載された箇所におけるフィルムの移送方向が、鉛直方向に近いことが好ましい。より具体的に、フィルムの移送方向が、鉛直方向又は鉛直方向に対して45°以下傾斜した方向であることが好ましい。この場合、汚れ(塵、埃など)の落下や付着に起因した検出精度や製品品質の悪化を抑制することができる。更に、この塗工装置で得られる蛍光体フィルムは、テレビ等の液晶表示装置のバックライト光源などに用いられるため、フィルムを直立させた方が、実際の使用に近くなるので好ましい。同様の観点から、フィルム検査システムが搭載された箇所におけるフィルムの移送方向は、鉛直方向又は鉛直方向に対して10°以下傾斜した方向であることがより好ましい。また、この場合のフィルムの移送は、鉛直方向上部から下部に向かって行うことが更に好ましい。
【0060】
本実施形態の塗工装置の好適例においては、フィルム検査システムにおける光源の個数及び検出器の個数が同じであり、各光源及び各検出器が前記フィルムを挟んで対となって配置されている。そして、各光源と各検出器とを結んだ各線の方向は、フィルムの面の垂直方向又は当該垂直方向に対して45°以下傾斜した方向であることが好ましい。この場合、光学特性のモニタリングをより厳密に行うことができる。同様の観点から、各光源と各検出器とを結んだ各線の方向は、フィルムの面の垂直方向又は当該垂直方向に対して10°以下傾斜した方向であることが好ましい。また、各検出器は、フィルムを挟んで対となる光源を向くように配置されることが好ましい。
【0061】
(フィルムの製造方法)
本発明の一実施形態のフィルムの製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称することがある。)は、基材フィルム上に塗膜が形成されてなるフィルムの製造方法であって、連続的に移送される基材フィルムの表面に樹脂組成物を塗布する塗布工程と、上述したフィルム検査システムを用い、上記塗布工程後のフィルムからの出射光の色彩情報を検出する検査工程と、を少なくとも備える。なお、通常、上記製造方法では、検査工程の前に、塗布工程で塗布した樹脂組成物を加熱乾燥する乾燥工程が行われる。そして、本実施形態の製造方法は、上記検査工程において検出される色彩情報に基づき、上記樹脂組成物の塗布厚みを決定することを特徴とする。本実施形態の製造方法によれば、上述したフィルム検査システムによりフィルムの光学特性を正確にモニタリングするとともに、この正確なモニタリング結果を樹脂組成物の塗布厚みにフィードバックするため、面内の光学特性のばらつきが低減されたフィルムを連続的に製造することができる。
なお、本実施形態の製造方法では、上述した塗工装置を好適に用いることができる。
【0062】
塗布工程では、連続的に移送される基材フィルムの表面に樹脂組成物を塗布する。基材フィルム及び樹脂組成物については、塗工装置に関して既述したものと同様である。また、塗布方式としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、コンマコーター(登録商標)、ダムコーター等が挙げられる。
【0063】
検査工程では、上述したフィルム検査システムを用い、上記塗布工程後のフィルムからの出射光の色彩情報を検出する。かかる検出は、フィードバック精度をより高める観点から、塗布工程後に行われる乾燥工程の直後のフィルムについて行うことが好ましい。なお、フィルム検査システムの好適例については、既述した通りである。
【0064】
そして、本実施形態の製造方法では、検査工程において検出される色彩情報に基づき、樹脂組成物の塗布厚みを決定する。ここで、樹脂組成物の塗布厚みを決定するための具体的な方法は、特に限定されない。例えば、検出される色彩情報に基づき、経験則に従うなどによって人が塗布厚みを決定してもよい。或いは、検出される色彩情報を適切に処理するデータ処理手段を用い、当該データ処理手段による計算により塗布厚みを自動で決定してもよい。
【0065】
また、決定した塗布厚みで塗布するための具体的な方法は、特に限定されない。例えば、ナイフコーターにより塗布する場合には、ナイフコーターの刃部と基材フィルムとのクリアランスを適切に調整することで、決定した塗布厚みで塗布することができる。この場合のクリアランスの調整は、手動で行ってもよく、自動で行ってもよい。
【0066】
更に、樹脂組成物の塗布厚みの決定に際しては、複数の検出器により検出される複数の色彩情報に基づき、樹脂組成物の塗布厚みをフィルム幅方向の任意の位置ごとに決定してもよく、或いは、複数の色彩情報を適切に処理して集約し、樹脂組成物の塗布厚みを一意的に決定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、連続的なフィルム製造ラインに導入でき、移送されるフィルムの光学特性のモニタリングを正確に行うことが可能なフィルム検査システムを提供することができる。
また、本発明によれば、連続的にフィルムを製造しつつ、得られるフィルムの光学特性のモニタリングを正確に行うことが可能な塗工装置を提供することができる。
更に、本発明によれば、面内の光学特性のばらつきが低減されたフィルムを製造することが可能な、フィルムの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 フィルム検査システム
11 光源
12 検出器
13 光源制御部
14 ハブ
15 測定用パソコン
16 表示用パソコン
21、22 ケーブル
50 フィルム(移送されるフィルム)
図1