(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】クリーニング剤、および、それを用いたクリーニング工程を有するグラビア製版ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41C 1/05 20060101AFI20240524BHJP
B41N 3/00 20060101ALI20240524BHJP
B41N 1/06 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
B41C1/05
B41N3/00
B41N1/06
(21)【出願番号】P 2020110134
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597047635
【氏名又は名称】東洋FPP株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今村 成吾
(72)【発明者】
【氏名】中岡 郁雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 潤
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-046050(JP,A)
【文献】特開2011-063012(JP,A)
【文献】特開2004-058483(JP,A)
【文献】特表2011-517629(JP,A)
【文献】特開2000-204396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/05
B41N 3/00
B41N 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラビア製版ロールの製造工程において、レーザアブレーションでエッチングレジスト除去後のグラビア製版ロール表面をクリーニングするためのクリーニング剤であって、
強無機酸化剤、塩化第二金属塩、界面活性剤、及び水よりなることを特徴とするクリーニング剤。
【請求項2】
強無機酸化剤が、過マンガン酸、クロム酸、及び塩素酸から選ばれる無機酸もしくはその塩を含む請求項1記載のクリーニング剤。
【請求項3】
塩化第二金属塩が、塩化第二銅、または、塩化第二鉄を含む請求項1または2記載のクリーニング剤。
【請求項4】
レーザアブレーションで画線部となる部位にあるエッチングレジスト除去後のグラビア製版ロール表面に、請求項1~3いずれかに記載のクリーニング剤を接触させ、前記ロール表面をクリーニングすることを特徴とするクリーニングされたグラビア製版ロールの製造方法。
【請求項5】
クリーニング剤と画線部とをスプレー噴霧装置で接触させることを特徴とする請求項4記載のクリーニングされたグラビア製版ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア製版ロールのクリーニング剤、および、それを用いて画像部をクリーニングする工程を有するグラビア製版ロールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラビア製版ロール(以下、製版ロールともいう)は、グラビア製版ロール版材(シリンダー)(以下、製版ロール版材ともいう)の表面に製版情報に応じた微小な凹部(セル)を形成するものである。当該セルにグラビアインキを充填して被印刷物に転写するグラビア印刷だけでなく、インキ以外の材料を当該セルに充填して被印刷物に転写する凹版印刷することも可能である。
【0003】
セルは、エッチング法または電子彫刻法で形成される。
エッチング法では以下の工程でセルが形成される。まず、グラビア製版ロール版材の表面にエッチングレジストを塗布する。その後、レーザアブレーションにより前記エッチングレジストを焼き飛ばし、エッチング液に浸漬する。このとき、レーザにより焼き飛ばされた部分(アブレーション部または画線部ともいう)のみが、エッチングされることでセルが形成される。しかし、一旦焼き飛ばされ気化したエッチングレジストの樹脂分が前記画線部の表面に凝固付着すると、この付着物がエッチングを阻害し、セルが形成されなくなる。そのため、この付着物は、クリーニング剤を使用して除去(クリーニング)される必要がある(特許文献1~2)。しかし、これらの文献記載のクリーニング剤では、形成されたセルの深度の均一性の点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-168484号公報
【文献】特開2011-46050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、レーザアブレーションされたグラビア製版ロールを、優れたセル形状(例えば、深度の均一性)を有するグラビア製版ロールとするためのクリーニング剤と、そのクリーニング剤を用いてクリーニングされたグラビア製版ロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の諸問題点を考慮し解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、グラビア製版ロールの製造工程において、レーザアブレーションでエッチングレジスト除去後のグラビア製版ロール表面をクリーニングするためのクリーニング剤であって、
強無機酸化剤、塩化第二金属塩、界面活性剤、及び水よりなることを特徴とするクリーニング剤に関する。
【0008】
また、本発明は、強無機酸化剤が、過マンガン酸、クロム酸、及び塩素酸から選ばれる無機酸もしくはその塩を含む上記クリーニング剤に関する。
【0009】
また、本発明は、塩化第二金属塩が、塩化第二銅、または、塩化第二鉄を含む上記クリーニング剤に関する。
【0010】
また、本発明は、レーザアブレーションで画線部となる部位にあるエッチングレジスト除去後のグラビア製版ロール表面に、上記クリーニング剤を接触させ、前記ロール表面をクリーニングすることを特徴とするクリーニングされたグラビア製版ロールの製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、クリーニング剤と画線部とをスプレー噴霧装置で接触させることを特徴とする上記クリーニングされたグラビア製版ロールの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、クリーニング後に、優れたセル形状(例えば、深度の均一性)を与えるグラビア製版ロールとなるクリーニング剤と、そのクリーニング剤を用いてクリーニングされたグラビア製版ロールを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のクリーニング剤は、強無機酸化剤、塩化第二金属塩、界面活性剤及び水を必須成分とする。
【0014】
本発明で用いられる強無機酸化剤としては、例えば、過マンガン酸、クロム酸、及び塩素酸から選ばれる無機酸もしくはその塩が挙げられる。具体的には、過マンガン酸、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化クロム(VI)、二クロム酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸の無機酸、もしくはそれら無機酸のナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
本発明で用いられる塩化第二金属塩としては、例えば、塩化第二銅、または、塩化第二鉄が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられる界面活性剤は、特に限定されない。好ましくは、洗浄剤用途に適したものが用いられる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルアミンオキシド、もしくはそれらの誘導体が挙げられる。これらは、単独あるいは組み合わせて使用できる。
【0016】
本発明のクリーニング剤は、例えば、水に、強無機酸化剤、塩化第二金属塩、界面活性剤および必要に応じて添加されるそのほかの添加剤を、順次もしくは同時に、撹拌混合して調整される。撹拌混合には、可搬型ケミカルミキサーなどの公知の撹拌混合機が使用できる。
【0017】
代表的な処方としては、クリーニング剤総量に対し、強無機酸化剤が0.1~20質量%、塩化第二金属塩が0.1~10質量%、界面活性剤が0.0001~10質量%である。
【0018】
本発明で用いられるグラビア製版ロール版材は、表面が、銅などのエッチング可能な材料である公知の製版ロール版材が使用できる。
【0019】
本発明で用いられるエッチングレジストは、例えば、光吸収剤と樹脂、可塑剤などの添加剤、溶剤からなる感光性材料が挙げられる。光吸収剤は、カーボンブラックが好ましく用いられる。樹脂は、ニトロセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、天然樹脂由来のテルペン系樹脂などが用いられる。溶剤は、酢酸エチルなどのエステル類、トルエンなどの炭化水素類、イソプロピルアルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、シクロヘキサノンなどのケトン類が用いられる。前記エッチングレジストは、前記グラビア製版ロール版材の表面上に、リングコート法、スプレーコート法などの公知方法で塗布される。
代表的な塗布条件は、粘度が12~30秒(離合社製ザーンカップNo.3にて測定)、常温乾燥後のレジスト膜厚がリングコート法で1~5μm、スプレーコート法で2~12μmである。
【0020】
本発明で行われるレーザアブレーションは、公知の手順に従い、グリーンレーザ(波長525~540nm)または近赤外線レーザ(波長1050~1080nm)などのレーザを、前記エッチングレジストを塗布したグラビア製版ロールの画線部となる部位に照射し、照射されたエッチングレジストを焼き飛ばして除去することである。
代表的な照射条件は、製版ロール回転速度が200~2800rpm、照射解像度が5080~25400dpiである。
【0021】
画線部となる部位にあるエッチングレジストが除去されたグラビア製版ロールは、前記クリーニング剤を接触させて当該画線部のクリーニングを行う。クリーニング剤の液温は15~35℃、好ましくは20~30℃で使用する。当該画線部とクリーニング剤とを接触させる方法としては、公知の塗布装置を用いる方法が使用できるが、例えば、スプレー噴霧装置を用いる方法を例示できる。
代表的な操作条件は、スプレー圧が0.03~0.20MPa、揺動が1~15rpm、スプレー距離(=ノズルと製版ロールとの距離)が50~150mm、噴霧角(=扇形スプレーパターンの中心角)が20~120度、ねじれ角(=スプレーノズルの傾き)が0~45度、製版ロール回転速度が10~120rpm、噴霧時間は5~60秒である。スプレー噴霧中にスプレーを揺動させることが、特に均一な噴霧に効果的である。
【0022】
クリーニングされたグラビア製版ロールは、公知のエッチング液に浸漬などして、グラビア製版ロールの表面の画線部をエッチングし、グラビア製版ロール表面にセルが形成される。エッチング液としては、例えば、塩化第二銅、または塩化第二鉄(いずれも日本化学産業株式会社などから市販されている)の水溶液に塩酸、酸化剤を添加したものが挙げられる。好ましくは塩化第二銅エッチング液が用いられ、代表的な液条件は、銅濃度が30~150g/L、塩酸濃度が5~70g/L、液温が30~40℃である。液組成の銅濃度、塩酸濃度、酸化剤濃度は、自動濃度制御装置にて設定した値に調整される。
スプレー式エッチング装置を使用する場合の代表的な操作条件は、スプレー圧が0.03~0.30MPa、揺動が1~15rpm、スプレー距離が50~200mm、噴霧角が20~120度、ねじれ角が0~45度、製版ロール回転速度が10~120rpmである。製版ロール表面に形成されるセルの深度は、スプレーの噴霧時間または流量計測器による噴霧液量管理にて制御される。
【0023】
エッチングされ、セルが形成されたグラビア製版ロールは、非画線部のレジスト層を公知のレジスト剥離液で剥離し、クロムめっき、研磨などの後処理をして、グラビア印刷用の版として、印刷に供される。
【0024】
本発明のクリーニング剤を用いてクリーニングし、エッチングされてセルが形成されたグラビア製版ロールは、優れたセル形状を有しており、優れたグラビア印刷物を供することができる。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例および比較例により、一層具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
光吸収剤(カーボンブラック)と、ニトロセルロースと、ポリエステル樹脂を含む、レーザアブレーションが可能なレジスト形成用の塗工液を準備した。
銅めっきを付けたグラビア製版ロール版材を酸および水、溶剤で表面洗浄した後、前記塗工液をリングコーターで塗布し、常温乾燥後の膜厚が2.5μmとなるレジスト層を全面に形成したグラビア製版ロールを得た。
前記レジスト層を形成したグラビア製版ロールに、レーザ光(波長535nm)を照射してレジスト層のアブレーションを行ない、線数500線/inchの格子パターンを形成した。
【0026】
<クリーニング剤組成物1の調製例>
水に、過マンガン酸カリウム(強無機酸化剤)を4重量%、塩化第二銅(塩化第二金属塩)を2重量%、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(界面活性剤)を0.02重量%の配合で加えて混合し、酸でpHを調整してクリーニング剤組成物1とした。
表1に示す配合比にて、クリーニング剤組成物1の調製例と同様の方法でクリーニング剤組成物2~7を調製した。
【0027】
(実施例1)
前記製版ロールに、ノズル間隔が50mmのスプレー式薬液噴霧装置を使用して、スプレー圧0.1MPa、揺動5rpm、スプレー距離100mm、噴霧角40~50度、ねじれ角20度、ロール回転速度50rpmの条件で、クリーニング剤組成物1を15秒間噴霧後、水洗し、画線部銅表面上をクリーニングした。
前記製版ロールに、スプレー式エッチング装置で塩化第二銅水溶液を噴霧して、版深が15μmとなる条件で流量計測器にて噴霧液量を管理して前記アブレーション部の銅をエッチングした。
水洗後に製版ロールに残った非アブレーション部のレジスト層を剥離し、表面に銅めっきが露出しているグラビア製版ロールを得た。
形成した凹部(セル)の深度を非接触式のレーザ顕微鏡で測定し、深度の均一性を評価した。結果を表2に示す。
深度の均一性は、製版ロールに形成した凹部(セル)の深さを、レーザ顕微鏡で測定し、以下の判定基準で評価した。
◎:中央と端部とのばらつきが±3%未満
○:中央と端部とのばらつきが±3~5%
△:中央と端部とのばらつきが±5%以上
×:エッチングが進行せず、凹部(セル)の形成が不可
【0028】
(実施例2~4)
表1に示すクリーニング剤組成物2~4を使用し、実施例1と同様のクリーニング方法を経てグラビア製版ロールを製造し、評価した結果を表2に示す。
【0029】
(実施例5)
スプレー圧0.03MPaの条件で、実施例1と同様のクリーニング方法を経てグラビア製版ロールを製造し、評価した結果を表2に示す。
【0030】
(実施例6)
揺動1rpmの条件で、実施例1と同様のクリーニング方法を経てグラビア製版ロールを製造し、評価した結果を表2に示す。
【0031】
(比較例1~3)
表1に示すクリーニング剤組成物5~7を使用し、実施例1と同様のクリーニング方法を経てグラビア製版ロールを製造し、評価した結果を表2に示す。
【0032】
(比較例4)
クリーニング剤を使用せず、製版ロールを製造し、評価した。
表2の結果より、実施例1~4は深度の均一性に優れたグラビア製版ロールを得ることができた。
【0033】
【0034】