(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】車両用ランプ制御装置
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/12 20060101AFI20240524BHJP
B60Q 1/14 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
B60Q1/12 100
B60Q1/14 Z
(21)【出願番号】P 2020118840
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】紅林 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 高章
(72)【発明者】
【氏名】望月 崇吉
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-184540(JP,A)
【文献】特開2012-030782(JP,A)
【文献】特開2008-207596(JP,A)
【文献】特開2019-156122(JP,A)
【文献】特開2010-023677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/12
B60Q 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた少なくとも2つのランプと、各ランプに設けられてそれぞれ各ランプでのランプ制御を行なうランプ制御手段と、前記車両に設けられて前記各ランプ制御手段との間で制御信号を通信する車両制御手段を備え、前記車両制御手段と前記各ランプ制御手段は第1高速通信ラインで接続され、前記各ランプ制御手段は当該第1高速通信ラインでの通信によりそれぞれ独立してランプ制御を行なう構成であり
、前記各ランプは配光制御が可能なランプユニットを備え、前記ランプ制御手段と前記ランプユニットは第2高速通信ラインで接続され、前記ランプ制御手段は当該第2高速通信ラインでの通信により前記ランプユニットを制御し、さらに前記各ランプは前記ランプユニットの光軸調整を行うためのアクチュエータを備え、前記ランプ制御手段と前記アクチュエータは第2高速通信ラインで接続され、前記ランプ制御手段は当該第2高速通信ラインでの通信により前記アクチュエータを制御する車両用ランプ制御装置。
【請求項2】
前記各ランプ制御手段は、前記ランプユニットの制御を行なう第1高速通信回路部と、前記アクチュエータの制御を行なう第2高速通信回路部を備える請求項
1に記載の車両用ランプ制御装置。
【請求項3】
前記第1高速通信回路部と前記第2高速通信回路部は1つの高速通信回路部で構成される請求項
2に記載の車両用ランプ制御装置。
【請求項4】
前記第1高速通信ラインと前記第2高速通信ラインはCAN通信ラインである請求項1
ないし3のいずれかに記載の車両用ランプ制御装置。
【請求項5】
前記2つのランプは車両の左右のヘッドランプであり、前記ランプ制御手段は前記ヘッドランプの配光と光軸制御を行なう請求項1ないし
4のいずれかに記載の車両用ランプ制御装置。
【請求項6】
前記ランプユニットはADB配光制御が可能なランプユニットである請求項
5に記載の車両用ランプ制御装置。
【請求項7】
前記アクチュエータはランプユニットの光軸を上下方向に制御するレベリングアクチュエータである請求項
1ないし6のいずれかに記載の車両用ランプ制御装置。
【請求項8】
前記ランプ制御手段は、車両のロール角の変化に追従してそれぞれ独立して前記レベリングアクチュエータを制御する請求項
7に記載の車両用ランプ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両に配設される複数のランプの配光を含む各種ランプ制御を行うためのランプ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、特に自動車では、ヘッドランプの点消灯、配光、ランプ照射方向(エイミング)等の各種ランプ制御を行うために、専用の電子制御ユニット(Electronic Control Unit:以下、ランプECUと称する)が設けられている。このランプECUは自動車に配設されている主となる電子制御ユニット(以下、車両ECUと称する)に接続されており、車両ECUから出力される制御信号に基づいて各ランプの制御を行う。
【0003】
このようなランプECUを備えたランプ制御装置として、特許文献1及び特許文献2には、自動車の左右に設けられたヘッドランプの一方に配設したランプECUをマスターランプECUとして構成し、他方のヘッドランプに配設したランプECUをスレーブランプECUとして構成したものが提案されている。このランプ制御装置によれば、車両ECUからの制御信号に基づいてマスターランプECUにおいて主となる処理を行ない、得られた制御信号で自身側の一方のランプを制御する。また、これと同時に、得られた制御信号をスレーブランプECUに伝送し、スレーブランプECUは伝送されてきた制御信号により自身側の他方のランプを制御する。
【0004】
このように一方のヘッドランプに設けたマスターランプECUと、他方のヘッドランプに設けたスレーブランプECUとの間で通信を行って制御信号を伝送することで、同じ制御信号に基づいて左右のヘッドランプを一体的にランプ制御することができる。また、他方のランプECUをマスターランプECUよりも低コストのスレーブランプECUで構成することにより、ランプ制御装置を低コストに構成できる。
【0005】
このようなマスターランプECUとスレーブランプECUを備えるランプ制御装置では、車両ECUとマスターランプECUを通信速度の早いCAN(Controller Area Network)ラインで接続し、マスターとスレーブの各ランプECUをCANよりも通信速度の遅いLIN(Local Interconnect Network)ラインで接続する構成がとられている。すなわち、車両ECUからの制御信号を高速なCANラインを用いてマスターランプECUに伝送することにより、マスターランプECUにおいて応答性の高いランプ制御信号を形成することができる。一方、ランプ制御されるランプユニットやレベリングアクチュエータは、それぞれの制御に要求される速度がそれほど高くないため、低コストに構成できるLINラインを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-6580号公報
【文献】特開2014-19347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ヘッドランプにおける配光制御の一つの形態としてADB(Adaptive Driving Beam:配光可変)配光制御が採用されている。近年では、ADB配光制御の高精度を図るために、ADB配光領域を極めて多数の微小照射領域に区画し、各微小照射領域を高速で発光・消光制御することが要求されている。しかしながら、ランプECUによるランプ制御を、LINラインを用いたLIN通信で行う構成では、このような高速な制御に対応することは難しく、ADB配光制御における高精度化を実現することが困難である。特に、マスター側とスレーブ側をLINラインで接続した構成では、スレーブ側におけるランプ制御の高速化と高精度化を実現することは難しい。
【0008】
また、車両ECUをCANラインでマスター側のランプECUにのみ接続した構成では、マスター側に異常が生じてランプ制御が難しい状況になったときには、スレーブ側でのランプ制御も難しくなる。そのため、マスター側とスレーブ側の両方のランプ制御を停止する対策を取らざるを得ず、フェイルセーフの問題が生じる。仮に、スレーブ側においてランプECUが独立して制御が可能な構成を採用しても、車両ECUからの制御信号はCANラインを通し、さらにLINラインを通してスレーブ側にまで伝送されることになり、高速なランプ制御を実現することは難しい。
【0009】
本発明の目的は複数のランプにおけるフェイルセーフを確保するとともに、制御の高速化を実現することが可能な車両用ランプ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車両に設けられた少なくとも2つのランプと、各ランプに設けられてそれぞれ各ランプでのランプ制御を行なうランプ制御手段と、車両に設けられて各ランプ制御手段との間で制御信号を通信する車両制御手段を備えており、車両制御手段と各ランプ制御手段は第1高速通信ラインで接続され、各ランプ制御手段は第1高速通信ラインでの通信によりそれぞれ独立してランプ制御を行なう構成である。
【0011】
さらに、本発明においては、各ランプは配光制御が可能なランプユニットを備えており、ランプ制御手段とランプユニットは第2高速通信ラインで接続され、ランプ制御手段は第2高速通信ラインでの通信によりランプユニットを制御する構成とする。さらに、各ランプはランプユニットの光軸調整を行うためのアクチュエータを備え、ランプ制御手段とアクチュエータは第2高速通信ラインで接続されており、ランプ制御手段は第2高速通信ラインでの通信によりアクチュエータを制御する構成とする。
【0012】
本発明の好ましい形態は、第1高速通信ラインと第2高速通信ラインはCAN通信ラインで構成される。また、2つのランプは車両の左右のヘッドランプであり、ランプ制御手段はランプの配光とアクチュエータによるランプの光軸制御を行なう構成とされる。特に、アクチュエータはランプユニットの光軸を上下方向に制御するレベリングアクチュエータとして構成され、この場合、車両のロール角の変化に追従してそれぞれ独立して制御される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両制御手段と、2つ以上のランプの各ランプ制御手段は第1高速通信ラインで接続されており、各ランプ制御手段は第1高速通信ラインでの高速通信によりそれぞれ独立してランプ制御を行なうことが可能である。したがって、1つのランプにおいて異常が生じた場合でも他のランプのランプ制御手段は、第1高速通信ラインにより高速通信される車両制御手段の制御信号に基づいて制御を継続することができ、フェイルセーフが確保されるとともに、高速でかつ高精細なランプ制御が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のランプ制御装置をヘッドランプに適用した自動車の概略構成図。
【
図5】実施形態1のランプ制御装置のブロック構成図。
【
図6】実施形態2のランプ制御装置のブロック構成図。
【
図8】実施形態3のランプ制御装置のブロック構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明を自動車の左右のヘッドランプを制御するランプ制御装置に適用した実施形態の概念構成図である。自動車CARの車体前部に配設されている左右のヘッドランプL-HL,R-HLにはそれぞれ複合型ランプユニット3とレベリングアクチュエータ4が設けられており、さらにこれら複合型ランプユニット3とレベリングアクチュエータ4を制御するためのランプECU2が設けられている。このランプECU2は本発明におけるランプ制御手段である。
【0016】
このランプECU2についての詳細は後述するが、左右の各ランプECU2はそれぞれ自動車CARに設けられている車両ECU1に車両CANラインLc1で接続されており、当該車両ECU1との間で所要の制御信号による通信を行い、前記したランプユニット3とレベリングアクチュエータ4を制御することが可能とされている。この車両ECU1はランプ制御のみならず、自動車CARにおけるエンジン制御を含む種々の制御を行うことが可能であり、本発明における車両制御手段である。前記車両CANラインLc1はこれらの制御を行うために車両ECU1と左右の各ランプECU2とをCAN信号で高速通信接続する第1高速通信ラインである。
【0017】
また、前記ECU1には、制御を行なう際の情報を取得するためのセンサー群5が接続されている。このセンサー群5は複数のセンサーを含んで構成されており、個々のセンサーの具体的な説明は省略するが、本発明に関連のあるセンサーとして、自動車の車速を検出する車速センサー、自動車の加速度を検出する加速度センサー、自動車の操舵角を検出する操舵角センサーで構成されている。さらに、前記ECU1にはADB配光制御に利用される撮像手段としてのカメラ6が接続されている。
【0018】
左右のヘッドランプL-HL,R-HLは左右対称の構成であり、
図2は右ヘッドランプR-HLの一部を破断した正面図、
図3は
図2のIII-III線に沿う拡大断面図である。これらの図において、右ヘッドランプR-HLは、自動車の車体に取り付けられるランプハウジング100を備えており、このランプハウジング100内に前記複合型ランプユニット3とレベリングアクチュエータ4が配設され、さらにこれらを制御するための前記ランプECU2が内装されている。ランプハウジング100は前方を開口した容器状のランプボディ101と、このランプボディ101の前面開口に取り付けられた透光カバー102とで構成されている。
【0019】
前記複合型ランプユニット3は複数のランプユニット、ここではクリアランスランプユニット(CLL)31とロービームランプユニット(LoL)32とADBランプユニット(ADBL)33で構成されており、これらのランプユニット31~33が一体的に組立てられている。クリアランスランプユニット31とロービームランプユニット32は一般的なリフレクタ型ランプとして構成されたものであり、詳細な説明は省略するが、それぞれLEDで構成された光源31s,32sから出射された光をリフレクタ31r,32rにより所要の配光領域を光照射する構成である。このクリアランスランプユニット31は昼間走行ランプユニットとして構成されてもよい。
【0020】
ADBランプユニット33はプロジェクタ型ランプとして構成されており、
図3に概略の断面構造が示されている。このADBランプユニット33は光源33sと、光源33sから出射される光を投影する投影レンズ33lを備えており、光源33sの発光を制御することにより発光面において形成される光パターンを制御することが可能とされている。そして、形成された光パターンを投影レンズ33lにより自動車の前方領域に投影することにより、当該前方領域を所望の配光で光照射することが可能とされている。
【0021】
この光源33sは、詳細な図示は省略するが、μmオーダの微小LEDをマトリクス状に配列した数千分割の多分割発光素子(多分割LEDアレイ)で構成されており、前記ランプECU2により発光の制御が行なわれることにより、多数の微小LEDが選択的に発光される。この微小LEDの選択的な発光により、光源33sの発光面に所望の光パターンが形成され、この光パターンが投影レンズ33lにより投影されることにより、発光された微小LEDに対応する自動車前方の微小照射領域が光照射され、ADB配光制御が行われる。
【0022】
図4(a)は前記ロービームランプユニット32とADBランプユニット33の配光パターンを説明する図であり、ロービームランプユニット32は、水平ラインHに沿った所要のカットオフラインを有するロービーム配光領域A-Loの光照射を行う。ADBランプユニット33は、当該カットオフラインを含んで、それよりも上側のADB配光領域A-ADBを光照射する。このADB配光領域A-ADBは、光源33sを構成している多分割LEDアレイの各微小LEDにそれぞれ対応した微小照射領域Asが枡目状に配列された領域であり、発光された微小LEDにより光照射された微小照射領域Asが集合されてADB配光領域A-ADBが形成される。
【0023】
このADBランプユニット33では、光源33sの多分割LEDアレイを構成する多数の微小LEDを1つあるいは複数個の単位(この単位をチャンネルと称することもある)で発光を制御することにより、単位毎に、すなわち1つあるいは複数の微小照射領域As毎に光照射を行うことができる。これにより、発光された微小LEDに対応する微小照射領域Asが集合された所望の配光パターンのADB配光制御が行われる。このチャンネルは例えば数十から数百のチャンネル数として設定することが可能である。
【0024】
一方、前記レベリングアクチュエータ4は、
図2及び
図3に示したように、前記ランプハウジング100内に配設されたレベリング機構41の駆動部として構成されている。レベリング機構41は、ヘッドランプの前後方向に傾動可能なレベリングフレーム42を備えている。このレベリングフレーム42はその上部に設けられた支点部42sによりランプホディ101に支持され、下部においてレベリングアクチュエータ4に連結されている。レベリングアクチュエータ4は例えばモータを駆動源とて軸転駆動される駆動スクリュー43を備えており、この駆動スクリュー43はレベリングフレーム42に螺合されている。
【0025】
レベリングアクチュエータ4が駆動されると駆動スクリュー43が軸転され、これに螺合されているレベリングフレーム42は下部が前後移動され、支点部42sを中心にして傾動される。前記複合ランプユニット3、すなわち3つのランプユニット31~33はこのレベリングフレーム42に搭載されており、レベリングアクチュエータ4の駆動によりレベリングフレーム42とともに複合ランプユニット3が傾動され、各ランプユニット31~33の光軸Lxが上下方向に変化制御されてレベリング制御が行われる。
【0026】
前記ランプECU2は複合ランプユニット3とレベリングアクチュエータ4に電気的に接続されており、複合型ランプユニット3における点消灯や配光を制御する。さらに、ランプECU2はレベリングアクチュエータ4により複合型ランプユニット3をレベリング制御する。このランプECU2におけるランプユニット3とレベリングアクチュエータ4の制御を合せてランプ制御としており、このランプECU2を含むランプ制御装置は、例えば次の実施形態1~3として構成される。
【0027】
(実施形態1)
図5は実施形態1のランプ制御装置の電気系統のブロック構成図である。ここでは右ヘッドランプR-HLの構成を詳しく図示しているが、左ヘッドランプL-HLについては一部の図示は簡略化している。右ヘッドランプR-HLにおいて、ランプECU2は第1から第3のLED駆動回路部21,22,23を備えている。第1LED駆動回路部21は電圧レベルの第1ライン(CLライン)Lv1によりクリアランスランプユニット31に接続され、その光源31sとしてのLEDに発光用の電流を供給する。第2LED駆動回路部22は同じく電圧レベルの第2ライン(Loライン)Lv2によりロービームランプユニット32に接続され、その光源32sとしてのLEDに発光用の電流を供給する。第3LED駆動回路部23は電圧レベルの第3ライン(ADBライン)Lv3によりADBランプユニット33に接続され、その光源33sとしての多分割LEDに発光用の電流を供給する。
【0028】
また、前記ランプECU2は、高速通信回路部としてのCAN通信回路部24を備えている。このCAN通信回路部24はランプCANラインLc2によりADBランプユニット33に接続されている。このランプCANラインLc2は、本発明における第2高速通信ラインを構成する。このCAN通信回路部24は、前記したように車両ECU1に接続されている車両CANラインLc1を通して伝送される制御信号を、その通信速度に対応して高速処理する機能を有し、かつ処理した信号に基づいてADBランプユニット33の制御を行う構成とされている。
【0029】
前記したようにADBランプユニット33は光源33sとしての多分割LEDアレイの微小LEDをチャンネル単位で発光制御する構成であり、この発光制御を行うためのADB制御部331が設けられている。このADB制御部331は、
図5に概略図示するように、光源33sのチャンネル単位として構成される1つ又は複数の微小LEDに対してそれぞれ並列に接続された複数のバイパススイッチ33bを選択的にオン・オフ制御する機能を有している。このADB制御部331は前記ランプCANラインLc2を介して接続されているCAN通信回路部24により制御され、オフされたバイパススイッチ33bに並列されている微小LED(33s)を発光させ、オンされたバイパススイッチ33bに並列されている微小LED(33s)を消光させる。
【0030】
したがって、ランプECU2においては、車両CANラインLc1を通して車両ECU1との間で高速に通信される信号によりCAN通信回路部24での信号処理が実行され、さらにこの処理された信号はランプCANラインLc2を通してADB制御部331に伝送され、バイパススイッチ33bを高速制御することになる。これにより、光源33sを構成している多分割LEDアレイにおける微小LEDの選択的な発光を制御し、ADBランプユニット33におけるADB制御を実行する。
【0031】
さらに、
図5に示したように、前記ランプECU2は、CAN通信回路部24よりも通信速度が低い低速通信回路部としてのLIN通信回路部25を備えている。このLIN通信回路部25は本発明における低速通信ラインとしてのLINラインLlによりレベリングアクチュエータ4に接続されている。このLIN通信回路部25は、例えば、車両CANラインLc1を通して車両ECU1から伝送される信号を、レベリングアクチュエータ4の仕様に対応した通信速度の信号に処理し、この信号に基づいて当該レベリングアクチュエータ4の制御を行う構成とされている。
【0032】
なお、この実施形態1ではランプECU2に車高センサー7が接続されている。この車高センサー7で検出された車高はLIN通信回路部25に入力され、LIN通信回路部25はこの車高に基づいて自動車のピッチ角(自動車の車体の前後方向の傾き角)を演算し、LINラインLlを通して演算したピッチ角に基づくレベリングアクチュエータ4の制御を行なう構成とされている。
【0033】
左ヘッドランプL-HLの構成も同じであり、図示を簡略化したランプECU2と複合型ランプユニット3とレベリングアクチュエータ4を備えている。この実施形態2では、ランプECU2には車高センサー7は接続されていない。その一方で、左ヘッドランプL-HLのランプECU2は右ヘッドランプR-HLのLIN通信回路部25にLINラインLlを通して接続されている。
【0034】
以上の構成のヘッドランプでは、車両ECU1からの点灯制御信号が車両CANラインLc1を通したCAN通信により左右のヘッドランプの各ランプECU2に伝送されると、各ランプECU2の第1ないし第3のLED駆動回路部21~23はそれぞれ対応するランプユニット31~33の各光源、すなわちLEDに所要の電流を供給する。これにより、クリアランスランプユニット31とロービームランプユニット32のLEDが発光されてランプ点灯状態とされる。また、ADBランプユニット33においては多分割LEDアレイが発光のスタンバイ状態とされる。
【0035】
ADBランプユニット33のスタンバイ状態において、車両ECU1からのADB配光制御信号が車両CANラインLc1を通したCAN通信により左右の各ランプECU2に伝送されると、CAN通信回路部24はランプCANラインLc2を通したCAN通信によりADB配光制御を実行する。例えば、車両ECU1はカメラ6で撮像した自動車の前方領域の画像から前方車両情報を取得する。次いで、CAN通信回路部24はこの前方車両情報を車両CANラインLc1を通して取得し、この前方車両情報に基づいてADB制御部を制御する。
【0036】
すなわち、ランプCANラインLc2を通したCAN通信によりADB制御部331を制御し、前方車両が存在する微小照射領域に対応する微小LEDのバイパスイッチ33bをオンし、当該微小LEDを消光する。他の微小LEDのバイパスイッチ33bはオフし、発光する。これにより、
図4(b)に示すように、前方車両(対向車)FCARや歩行者WMが存在する領域を光照射せず、これ以外のADB配光領域を光照射するADB配光制御が実行される。この
図4(b)では点描した領域を光照射している。
【0037】
このADB配光制御では、光源33sとしての他分割ADBアレイを構成している微小ADBが極めて多数であるので、ADB配光制御を行なう際の単位としての微小照射領域のチャンネル数を多くできる。したがって、このようなチャンネル単位での光照射を行うことにより、前方車両が存在していない領域のみを光照射することが可能な高精細のADB配光制御が実現できる。
【0038】
その一方で、これら多数のチャンネルを瞬時に制御する必要があり、ADB制御の高速化が要求される。特に、前方車両の経時的な相対位置変化に追従して微小照射領域を高速に切り替えるADB配光制御が要求される。CAN通信回路部24には車両ECU1から車両CANラインLc1を通したCAN通信によりADB配光制御信号が伝送され、さらにCAN通信回路部24はランプCANラインLc2を通したCAN通信によりADB制御部331の制御を行っている。これにより、従来のようなLINラインを通したLIN通信による制御に比較して高速な制御が可能となり、ADBランプユニット33に要求されている高精細でかつ高速なADB配光制御が実現できる。
【0039】
一方、車両ECU1からレベリング制御信号が車両CANラインLc1を通して左右のヘッドランプの各ランプECU2に伝送されると、LIN通信回路部25は車高センサー7で検出された車高変化に基づいて自動車のピッチ角(前後方向の傾き角)を演算する。そして、このピッチ角から得られるレベリング制御信号に基づき、LINラインLlを通したLIN通信によりレベリングアクチュエータ4を制御し、複合型ランプユニット3の光軸調整を実行する。レベリング制御に要求される制御速度はADB配光制御に比較して低いので、LIN通信回路部25はLINラインLlを通したLIN通信による制御でも通常の自動車における車高変化に追従したレベリング制御が実現できる。
【0040】
以上のランプ制御は左右のヘッドランプL-HL,R-HLの各ランプECU2において同様に行われる。ただし、左ヘッドランプL-HLのランプECU2には車高センサー7が接続されていないので、レベリング制御に際しては右ヘッドランプR-HLのランプECU2で演算したピッチ角を利用する。すなわち、右ヘッドランプR-HLのLINラインLlを通して左ヘッドランプL-HLのランプECU2に伝送する。したがって、左ヘッドランプL-HLのランプECU2においても、右ヘッドランプR-HLと同等な応答性を有するレベリング制御が実現できる。
【0041】
このように、左右のヘッドランプL-HL,R-HLの各ランプECU2は、それぞれ車両CANラインLc1を通して車両ECU1に接続され、かつCAN通信により伝送された信号に基づいて制御を行なう独立型のランプECUとして構成されている。したがって、一方のヘッドランプ、例えば左ヘッドランプL-HLのランプECU2に異常が生じて当該左ヘッドランプL-HLにおける複合型ランプユニット3とレベリングアクチュエータ4の制御が停止されても、正常な右ヘッドランプR-HLのランプECU2においては車両CANラインLc1を通した車両ECU1とのCAN通信により正常かつ高速な制御が実行される。逆に、右ヘッドランプR-HLのランプECU2に異常が生じた場合には、左ヘッドランプL-HLのランプECU2において正常な制御が実行される。したがって、いずれか一方のランプおいて異常が生じても、他方のヘッドランプによるランプ制御、特にADB配光制御やレベリング制御は確保されることになりフェイルセーフが確保される。
【0042】
なお、右ヘッドランプR-HLのランプECU2に異常が生じたとき、接続されている車高センサー7の出力は車両CANラインLc1を通したCAN通信により左ヘッドランプL-HLのランプECU2に伝送されるようにしてもよい。この場合には、左ヘッドランプL-HLのランプECU2は伝送された車高センサー7の検出出力に基づいてピッチ角の演算を行い、レベリング制御を実行することになり、この点でもフェイルセーフが確保される。
【0043】
因みに、従来のマスター・スレーブ方式は、マスター側のランプECUに車両CANラインが接続され、スレーブ側のランプECUはマスター側にLINラインで接続され、マスター側のランプECUで得られた制御信号をLIN通信によりマスター側とスレーブ側の両方のランプユニットやアクチュエータの制御を行う構成である。そのため、マスター側に異常が生じたときには、マスター側はもとよりスレーブ側においてもランプユニットやアクチュエータの制御が停止されてしまい、フェイルセーフの点で好ましくない。
【0044】
また、従来のマスター・スレーブ方式では、マスター側とスレーズ側のそれぞれのランプのランプユニットとレベリングアクチュエータは同じLINラインを介してマスター側のランプECUに接続されており、このLINラインを通してマスター側とスレーブ側の各ランプのランプユニットとレベリングアクチュエータを制御する構成である。そのため、各ランプのランプユニットとレベリングアクチュエータを制御する際にはそれぞれを判別するためのIDを設定する必要があり、制御が煩雑になる。
【0045】
この実施形態1では、前記したように、一方のランプECU2が異常となっても、正常な他方のランプECU2が独立して制御を実行する。すなわち、左右のヘッドランプのうち少なくとも一方については正常に制御することができ、フェイルセーフが確保できる。なお、異常となった一方のランプを消灯したときには、正常な側のランプの光量を増大してヘッドランプ全体の光照射の光量を確保するという制御も実現できる。また、左右のランプの各ランプECU2は独立して制御を実行するので、各ランプECU2に対してランプユニットやレベリングアクチュエータを判別するためのIDを設定する必要はなく、制御が煩雑になることもない。
【0046】
(実施形態2)
図6は実施形態2におけるランプ制御装置の電気系統のブロック構成図である。実施形態1と等価な部分には同一符号を付しており、詳細な説明は省略する。左右のヘッドランプL-HL,R-HLは同じ構成であり、それぞれ複合ランプユニット3とレベリングアクチュエータ4を備え、かつこれらがそれぞれのランプECU2により制御される構成であることは実施形態1と同様である。また、左右のヘッドランプの各ランプECU2は車両CANラインLc1により車両ECU1に接続されていることも実施形態1と同じである。
【0047】
各ランプECUは、第1ないし第3のLED駆動回路部21~23と2つのCAN通信回路部24,26を備えている。第1ないし第3のLED駆動回路21~23は、実施形態1と同様に、複合ランプユニット3を構成しているクリアランスランプユニット31、ロービームランプユニット32、ADBランプユニット33のそれぞれの光源を構成している各LEDに供給する電流を制御する。
【0048】
ランプECU2に設けられた第1CAN通信回路部24はランプCANラインLc2によりADBランプユニット33のADB制御部331に接続されており、この第1CAN通信回路部24により実施形態1と同様にADB制御部331を制御してADBランプユニット33でのADB配光制御を行なうように構成されている。
【0049】
他の第2CAN通信回路部26は別のランプCANラインLc2によりレベリングアクチュエータ4に接続されており、この第2CAN通信回路部26はランプCANラインLc2を通したCAN通信によりレベリングアクチュエータ4を制御するように構成されている。これらのランプCANラインLc2は実施形態1と同様に本発明における第2の高速通信ラインを構成する。
【0050】
実施形態2のランプECUでは、実施形態1のLIN通信回路部25に代えて第2CAN通信回路部26が設けられ、この第2CAN通信回路部26がCAN通信によりレベリングアクチュエータ4を制御する構成である。従来のレベリングアクチュエータは電圧レベルによる制御又はLIN通信による制御が行われる構成であるが、実施形態2のレベリングアクチュエータ4は、ランプCANラインLc2を通したCAN信号に基づく制御が可能となるように構成されている。ここでは、レベリングアクチュエータ4には、CAN通信の信号をLIN通信又は電圧レベルに変換するための入力回路部40、換言すればインターフェース回路部を備えている。
【0051】
実施形態2によれば、第1CAN通信回路部24はランプCANラインLc2を通したCAN通信によりADBランプユニット33でのADB配光制御を高速制御する。同時に、第2CAN通信回路部26はランプCANラインLc2を通してレベリングアクチュエータ4を高速制御することができる。すなわち、第2CAN通信回路部26はランプCANラインLc2を通したCAN通信により高速のレベリング制御信号を入力回路部40に伝送してレベリング制御を行なう。
【0052】
これにより、実施形態1のLINラインLlを通したLIN通信の場合よりも高速にレベリング制御行うことができるようになり、高速制御が可能なADB配光制御とともにレベリングアクチュエータ4による複合型ランプユニット3のレベリング制御を高速制御することが可能になる。また、左右のヘッドランプの各ランプECU2の第2CAN通信回路部26はそれぞれ独立して各レベリングアクチュエータ4のレベリング制御を行うことができフェイルセーフが確保できる。
【0053】
このようにレベリングアクチュエータ4によるレベリング制御の高速化が実現できるので、例えば、自動車の旋回走行時等に車体がロール(車幅方向に傾斜)されたような場合においても好適なレベリング制御が実現できる。
図7(a)のように、自動車CARがロールしていないときにはロール角(垂直線Vに対する車両CARの傾斜角)θRは0であり、左右のヘッドランプL-HL,R-HLにおけるレベリング角、すなわちヘッドランプ光軸Lxl,Lxrが路面に対してなす角度θr,θlは同じ角度である。
【0054】
一方、自動車CARが右旋回する等してロールされたとき、例えば
図7(b)のように、自動車CARが左にロールされロール角θR>0となったときは、左右のヘッドランプL-HL,R-HLの車高が相違された状態となり、鎖線で示すように各ヘッドランプの光軸角θr,θlが相違される。そのため、自動車CARの前方路面領域に好適な光照射を行うためには左右のヘッドランプL-HL,R-HLのレベリング角θr,θlを独立して制御することが要求される。この場合には車高が高なる右ヘッドランプR-HLのレベリング角θrを左ヘッドランプL-HLの光軸角θlよりも小さくする。
【0055】
この制御に際しては、左右の各ランプECU2の第2CAN通信回路部26は、車両CANラインLc1を通したCAN通信により車両ECU1に接続されているセンサー群5、ここでは車速センサー、加速度センサー、操舵角センサーで検出された車速、加速度、操舵角の検出信号を取得する。そして、これらの信号に基づいて所要の演算を行うことにより自動車CARのロール角θRを演算する。この演算は左右の各ランプECU2、すなわち各第2CAN通信回路部26においてそれぞれ独立して行なわれる。その上で、各第2CAN通信回路部26は演算したロール角に基づいて得られる制御信号によりレベリングアクチュエータ4を制御する。
【0056】
第2CAN通信回路部26で得られた制御信号はランプCANラインLc2を通したCAN通信によりレベリングアクチュエータ4に伝送される。レベリングアクチュエータ4では、前記したように入力回路部40においてCAN通信の信号をLIN通信又は電圧レベルの信号に変換し、この信号よりレベリングアクチュエータ4を駆動する。したがって、第2CAN通信回路部26によるレベリングアクチュエータ4の高速制御が可能になり、自動車の走行に伴うロール角の高速変動に対応した応答性及び信頼性の高いレベリング制御が実現できる。
【0057】
なお、第2CAN通信回路部26におけるロール角の演算に際しては、車高センサー7で検出した車高を参照してもよい。例えば、左右前輪又は左右後輪の車高の差に基づいて演算する。あるいは、加速度センサーで構成されるロール軸検出センサーの出力に基づいて演算してもよい。
【0058】
実施形態2においては、第2CAN通信回路部26をLIN通信回路部として機能するように構成しておけば、第2CAN通信回路部26を実施形態1のLIN通信回路部25として構成することができる。このようなCAN通信回路部を備えれば、CAN通信対応型のレベリングアクチュエータと、LIN通信又は電圧対応型のレベリングアクチュエータのいずれにも対応したランプECUとして構成することができる。
【0059】
(実施形態3)
図8は実施形態3におけるランプ制御装置の電気系統のブロック構成図である。実施形態2と等価な部分には同一符号を付しており、詳細な説明は省略する。実施形態3は、1つのCAN通信回路部24AによってADB配光制御とレベリング制御をそれぞれ行なう構成とされている。すなわち、このCAN通信回路部24Aは、実施形態2の第1CAN通信回路部24と第2CAN通信回路部26の両機能を備えたものとして構成されている。そして、このCAN通信回路部24AはADBランプユニット33とレベリングアクチュエータ4のそれぞれにランプCANラインLc2により接続されている。
【0060】
実施形態3によれば、CAN通信回路部24Aにより、ADBランプユニット33におけるADB配光制御とレベリング制御を行なうことになる。また、これらの制御は、ランプCANラインLc2を通したCAN通信により行なうので、実施形態1,2と同様に高速な制御が実現できる。
【0061】
以上説明した実施形態1~3のヘッドランプでは、ADBランプユニット33として、光源に多分割LEDアレイを用いたADBランプユニットを例示したが、多数個のLEDで構成されるADBランプユニット、あるいはDMD(Digital Micromirror Device)を用いたADBランプユニット、さらにはシェード切換型のADBランプユニットであってもよい。また、ロービームランプユニットやクリアランスランプユニットに代えた他のランプユニットを備える構成であってもよい。
【0062】
実施形態1~3においては、レベリングアクチュエータは複合ランプユニットを傾動させてレベリング制御する構成であるが、複数のランプユニットのうちの一部のランプユニットについてのみレベリング機構を設け、当該ランプユニットのみをレベリング制御する構成であってもよい。また、レベリングアクツチュエータは電磁ソレノイドを駆動源とする構成であってもよい。さらに、レベリングアクチュエータに加えて、あるいはこれに代えて光軸を左右方向に制御するスイブルアクチュエータとして構成してもよい。
【0063】
実施形態の説明では本発明における高速通信ラインとして車両CANラインを適用し、低速通信ラインとしてLINラインを適用しているが、これらのラインはCANやLINと称されるラインに限られるものではなく、通信速度が相対的に異なる高速通信ラインと低速通信ラインとして構成されてもよい。
【0064】
本発明のランプ制御の対象となるランプはヘッドランプに限られるものではなく複数個のランプをランプ制御する車両用のランプであれば適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両ECU(車両制御手段)
2 ランプECU(ランプ制御手段)
3 複合型ランプユニット
4 レベリングアクチュエータ
5 センサー群
6 車高センサー
7 カメラ
21~23 第1~第3ADB駆動回路
24 CAN通信回路部,第1CAN通信回路部(第1高速通信回路部)
24A CAN通信回路部(第1と第2の高速通信回路部)
26 第2CAN通信回路部(第2高速通信回路部)
31 クリアランスランプユニット
32 ロービームランプユニット
33 ADBランプユニット
40 入力回路部
41 レベリング機構
Lc1 車両CANライン(第1高速通信ライン:CAN通信ライン)
Lc2 ランプCANライン(第2高速通信ライン:CAN通信ライン)
Ll LINライン(低速通信ライン:LIN通信ライン)
L-HL,R-HL ヘッドランプ