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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20240524BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240524BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20240524BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C08L27/16
C08K3/34
C08K7/06
F16J15/10 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020126597
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023572
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】村上 英幸
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216915(JP,A)
【文献】特開2020-002198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの二元共重合体からなるフッ素ゴムと、
前記フッ素ゴム100質量部に対して5~30質量部の充填剤と、
を含有
前記充填剤は、ケイ酸カルシウムおよびカーボンファイバーからなる群から選択される少なくとも一種の材料である、フッ素ゴム組成物。
【請求項2】
軸シール材用のフッ素ゴム組成物である、請求項に記載のフッ素ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フッ素ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴム組成物は耐油性や耐燃料性に優れており、自動車、産業機械等の広い分野でオイルシール、Oリング、パッキン等のシール材用の材料として用いられている。近年、使用用途の拡大に伴い、フッ素ゴム組成物からなるシール材が特異な高負荷環境下で使用されることが多くなってきており、該シール材を高負荷環境下で使用した場合にも安定したシール特性を保持することが求められている。また、フッ素ゴム組成物には、油中に含まれる添加剤との反応によって劣化しない耐油性も求められている。
【0003】
特許文献1(特許第6288398号公報)には、油中の添加剤との反応によって劣化しないゴムとしてテクノフロンBR9151、BR9171を開示する。特許文献2(国際公開第2014/175079号)は、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン-エチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)5元共重合体よりなるフッ素ゴムを開示し、このようなフッ素ゴムの具体例として例えば、テクノフロンBR9151、BR9171を開示する。これらのフッ素ゴムは、油中の添加剤との反応性が低く優れた耐油性を有するものの、引裂強さおよびシール性の更なる向上が要望されていた。また、フッ素ゴム組成物の安定した製造が可能となるように、フッ素ゴム組成物の原料の混練加工性が良好であることも求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6288398号公報
【文献】国際公開第2014/175079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐油性、引裂強さ、混練加工性およびシール性が優れたフッ素ゴム組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の各態様は、以下のとおりである。
[1]フッ化ビニリデンと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの二元共重合体からなるフッ素ゴムと、
前記フッ素ゴム100質量部に対して5~30質量部の充填剤と、
を含有する、フッ素ゴム組成物。
[2]前記充填剤は、ケイ酸カルシウムおよびカーボンファイバーからなる群から選択される少なくとも一種の材料である、上記[1]に記載のフッ素ゴム組成物。
[3]軸シール材用のフッ素ゴム組成物である、上記[1]または[2]に記載のフッ素ゴム組成物。
【発明の効果】
【0007】
耐油性、引裂強さ、混練加工性およびシール性が優れたフッ素ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のフッ素ゴム組成物は、フッ化ビニリデンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの二元共重合体からなるフッ素ゴムと、充填剤と、を含有する。フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム100質量部に対して5~30質量部の充填剤を含有する。フッ素ゴム組成物は、上記の組成を有することにより優れた混練加工性(フッ素ゴム組成物の原料を良好に混練加工できること)を有することができる。フッ素ゴム100質量部に対して5~30質量部の充填剤を含有することにより、引裂強さが優れたフッ素ゴム組成物とすることができる。フッ素ゴム組成物を例えば、軸シール材等のシール材に用いて高負荷環境下においた場合であっても、5~30質量部の充填剤を含有することにより長期間にわたって安定したシール特性を維持できる。また、フッ素ゴム組成物中に含まれるフッ素ゴムは、フッ化ビニリデンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの二元共重合体からなる。このため、フッ素ゴム組成物が油と接した場合に、油中の添加剤によってフッ素ゴムが劣化することを効果的に防止して、優れた耐油性を有することができる。以上のように、本発明のフッ素ゴム組成物は、優れた耐油性、引裂強さ、混練加工性およびシール性を共に両立させることができる。
【0009】
以下では、本発明のフッ素ゴム組成物を構成する各成分を詳細に説明する。
(フッ素ゴム)
フッ素ゴムは、フッ化ビニリデンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの二元共重合体からなる。フッ化ビニリデンおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンはそれぞれ、下記式(A)および(B)で表される。
【化1】
上記式(B)で表される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは「HFO1234yf」とも呼ばれ、炭素原子とフッ素原子から構成される。
【0010】
フッ素ゴムの市販品としては、DAI-EL(登録商標) BRE GBR-6002、DAI-EL GBR-6005(製品名;何れもダイキン工業株式会社製)を挙げることができる。
【0011】
(充填剤)
フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム100質量部に対して5~30質量部の充填剤を含有する。フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム100質量部に対して5~30質量部の充填剤を含有することにより、引裂強さが優れたフッ素ゴム組成物とすることができる。フッ素ゴム組成物を例えば、軸シール材等のシール材に用いて高負荷環境下においた場合であっても、5~30質量部の充填剤を含有することにより長期間にわたって安定したシール特性を維持できる。充填剤は本発明の効果を奏するものであれば特に限定されない。より優れたシール性を有することから、充填剤はケイ酸カルシウムおよびカーボンファイバーからなる群から選択される少なくとも一種の材料であることが好ましい。充填剤は、ケイ酸カルシウム単独、カーボンファイバー単独、またはケイ酸カルシウムとカーボンファイバーの組み合わせであって良い。このような充填剤を用いることにより、フッ素ゴム組成物をシール材として用いた場合に優れたシール性を有すると共に、優れた混練加工性を有することができる。ケイ酸カルシウムの平均繊維長は、10~30μmが好ましい。カーボンファイバーの平均繊維長は、40μm以下が好ましい。ケイ酸カルシウムとしては例えば、NAYD(登録商標)-400、NYAD-1250(製品名;何れもNYCO Minerals, Inc.製)等の市販品、カーボンファイバーとしては例えば、S-2404N(製品名;大阪ガスケミカル株式会社製)等の市販品を用いることができる。
【0012】
(その他の添加剤)
本発明のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムおよび充填剤から構成されていても良く、フッ素ゴムおよび充填剤以外の成分を含有しても良い。例えば、フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムおよび充填剤以外の成分として、加硫剤;カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強材;ワックス、金属石けん、カルナバワックス等の加工助剤;水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等の受酸剤;老化防止剤;熱可塑性樹脂;可塑剤;軟化剤;発泡剤;発泡助剤;着色剤;分散剤;難燃剤;粘着性付与剤;離型剤;各種金属粉末等を含むことができる。
【0013】
(フッ素ゴム組成物の製造方法)
フッ素ゴム組成物の製造には、公知の製造装置を用いることができる。具体的には、フッ素ゴムおよび充填剤等のフッ素ゴム組成物の原料を配合した後、ニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、プラネタリーミキサーなどの密閉式混練装置やオープンロールなどの開放式混練装置を使用して、フッ素ゴム組成物の原料の混練を行う。次いで、原料混練物の成形等を行うことによって所望の形状に成形する。例えば、原料混練物の成形および架橋によって、架橋成形品を得る際には、公知の製造装置を用いることができる。具体的には、原料混練物を射出成形機、圧縮成形機、架橋プレスなどによって所定形状のキャビティー内に投入し、適正な条件で加熱架橋することによって、架橋成形されたフッ素ゴム組成物とすることができる。また、必要に応じて、原料混練物に二次架橋を行っても良い。
【0014】
(軸シール材)
フッ素ゴム組成物は軸シール材用のフッ素ゴム組成物であることが好ましい。この場合、フッ素ゴム組成物を用いて得られる軸シール材としては、回転摺動シール等の軸シール材を挙げることができる。軸シール材は、自動車や産業機械等の分野において、軸とハウジングの間のシール材として広く用いることができる。
【実施例
【0015】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
(実施例1~6および比較例1~9)
下記表1および表2に示す配合比で、各材料を配合して、フッ素ゴム組成物を調製した。次いで、各例で得られたフッ素ゴム組成物について油浸漬試験、引裂試験を行うと共に、混練加工性およびシール性を評価した。
【0017】
油浸漬試験、引裂試験、混練加工性およびシール性の試験内容および評価基準を以下に記載する。
(1)油浸漬試験
JIS K6258に従ってフッ素ゴム組成物を200℃のディーゼルオイルに150時間、浸漬させた。そして、下記式に従って伸び変化率(%)を算出した。
伸び変化率(%)={(浸漬後のフッ素ゴム組成物の長さ)-(浸漬前のフッ素ゴム組成物の長さ)}/(浸漬前のフッ素ゴム組成物の長さ)×100
得られた伸び変化率が-50%以上を「○」、-50%未満の場合を「×」と評価した。
(2)引裂試験
JIS K6252-1に従って、切り込みありアングル形引裂試験を行った。より具体的には引張試験機(装置名:ストログラフAEエラストマ;株式会社東洋精機製作所製)を用いて、フッ素ゴム組成物を引っ張った時のフッ素ゴム組成物の引裂強さを求めた。そして、得られた引裂強さが20N/mm以上の場合を「○」、20N/mm未満の場合を「×」と評価した。
(3)混練加工性
フッ素ゴム組成物の原料を混練する際に以下のa~cの3項目をすべて満足させるものを「〇」、いずれか1項目でも満足してない場合を「×」と評価した。
a.フッ素ゴム組成物の原料の混練を終了させて、該フッ素ゴム組成物の原料を排出させた後の混練機の汚染がないこと。
b.フッ素ゴム組成物の原料の混練中に、フッ素ゴム組成物の原料がロールから離れることなく密着しており、バンクがスムースに回転して良好なロール加工性を有していること。
c.フッ素ゴム組成物の原料の混練中の分散性向上のための切り返し作業や、シート出しなどの分出し作業時にフッ素ゴム組成物の原料の粘着による中断がなく、良好な加工性を有すること。
(4)シール性
フッ素ゴム組成物からなるオイルシール製品を回転試験機にセット後、ディーゼルオイルを密封し試験温度130℃、回転数5,000rpmの条件下で一定時間試験を実施し、油漏れの有無を確認した。油漏れなしの場合のシール性を「〇」とし、油漏れありの場合のシール性を「×」と評価した。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
表1および2中のフッ素ゴム組成物を構成する各材料の数値は、質量部を表す。
また、表1および2中の各材料の名称は以下の通りである。
DAI-EL(登録商標) GBR-6002(商品名;ダイキン工業株式会社製:フッ化ビニリデンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの二元共重合体からなるフッ素ゴム
DAI-EL(登録商標) GBR-6005(商品名;ダイキン工業株式会社製):フッ化ビニリデンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの二元共重合体からなるフッ素ゴム
DAI-EL(登録商標) G-801(商品名;ダイキン工業株式会社製):フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの二元共重合体からなるフッ素ゴム
テクノフロン(登録商標) BR9171(商品名;ソルベイスペシャルティポリマーズ株式会社製):フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン-エチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)5元共重合体からなるフッ素ゴム
テクノフロン(登録商標) BR9151(商品名;ソルベイスペシャルティポリマーズ株式会社製):フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン-エチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)5元共重合体からなるフッ素ゴム
NYAD(登録商標)-400(商品名;NYCO Minerals, Inc.製):ケイ酸カルシウム
S-2404N(製品名;大阪ガスケミカル株式会社製):カーボンファイバー
Fluon(登録商標) L172J(製品名;旭硝子株式会社製):ポリテトラフルオロエチレン粉末
【0021】
表1の結果から、実施例1~6のフッ素ゴム組成物ではフッ素ゴム100質量部に対して充填剤を5~30質量部、含有するため、油浸漬試験、引裂試験、混練加工性およびシール性の評価結果が全て「○」であった。これに対して比較例1~3のフッ素ゴム組成物では、フッ化ビニリデンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの二元共重合体からなるフッ素ゴムを用いなかったため引裂試験、または引裂試験と油浸漬試験の評価結果が「×」であった。比較例4~5のフッ素ゴム組成物では、充填剤の含量が2質量部であったため、シール性の評価結果が「×」であった。比較例6~7のフッ素ゴム組成物では、充填剤の含量が40質量部であったため、混練加工性の評価結果が「×」であった。比較例8~9のフッ素ゴム組成物では、ケイ酸カルシウム、カーボンファイバーからなる充填剤を含有しなかったため、シール性の評価結果が「×」であった。