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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/38 20060101AFI20240524BHJP
   G21C 13/02 20060101ALI20240524BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20240524BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
E04B1/38 ESW
G21C13/02 200
G21D1/00 Z
G01N3/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020199590
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087587
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】最上 雄一
(72)【発明者】
【氏名】吉津 匡
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 孝昭
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-310627(JP,A)
【文献】特開2010-237733(JP,A)
【文献】特開2019-095370(JP,A)
【文献】特開2006-277370(JP,A)
【文献】特開2019-178894(JP,A)
【文献】特開2000-111682(JP,A)
【文献】特開2019-020286(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0364222(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00
E04B 1/38
G21C 13/02
G21D 1/00
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材、及び前記複数の部材を接続する接続部を含む構造物の構造解析の解析条件を設定する条件設定部と、
前記条件設定部によって設定された解析条件で、前記構造物の構造解析を実行する解析実行部と、
前記接続部の解析結果が、閾値を超えたかを判断する判断部と、
を含み、
前記条件設定部は
前記構造物の中性子束を前記解析条件として設定し、前記接続部への中性子の照射量と前記接続部に作用する応力に対する閾値との関係を示す閾値関係情報に基づき、中性子の照射量が高くなるほど値が小さくなるように、前記閾値を設定し、
記閾値を超えた前記接続部が、破断しているとみなす解析条件に更新し、
前記解析実行部は、更新された前記解析条件で、構造解析をする、
解析装置。
【請求項2】
前記解析実行部は、解析実行から解析上で所定時間経過後に前記接続部の状態を解析し、
前記判断部は、前記所定時間後の前記接続部の解析結果により、閾値を超えたかを判断する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記判断部は、解析上で所定時間が経過する毎に、前記接続部の解析結果を取得し、前記接続部の解析結果が閾値を超えたかを判断する、請求項1又は請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記条件設定部は、前記解析実行部の構造解析での解析結果が前記閾値を超えた前記接続部についての解析条件を、前記接続部の剛性をゼロとすること、前記接続部の拘束条件を外すこと、及び前記接続部のモデルを解析上から削除することとの、いずれかに設定する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項5】
前記条件設定部は、前記接続部の解析結果が閾値を超えた解析上のタイミングから、解析上で所定の期間が経過したタイミングで、前記接続部についての解析条件を更新する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項6】
前記解析実行部は、前記接続部が複数設けられた構造物の構造解析を実行し、前記判断部は、前記接続部毎に、解析結果が閾値を超えたか判断し、前記条件設定部は、前記接続部毎に解析条件を設定する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項7】
前記接続部は、ボルト、リベット、及び溶接部の少なくとも1つである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項8】
前記構造物は、原子力設備に設けられる構造物である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項9】
前記条件設定部は、解析条件として、前記構造物の温度、前記構造物の応力と歪との関係情報、前記構造物のヤング率、前記構造物のポアソン比、前記構造物の線膨張係数、前記構造物のスウェリング評価式、及び前記構造物のクリープ特性の、少なくとも1つを設定する、請求項8に記載の解析装置。
【請求項10】
複数の部材、及び前記複数の部材を接続する接続部を含む構造物の構造解析の解析条件を設定するステップと、
設定された解析条件で、前記構造物の構造解析を実行するステップと、
前記接続部の解析結果が、閾値を超えたかを判断するステップと、
を含み、
前記解析条件を設定するステップにおいては
前記構造物の中性子束を前記解析条件として設定し、前記接続部への中性子の照射量と前記接続部に作用する応力に対する閾値との関係を示す閾値関係情報に基づき、中性子の照射量が高くなるほど値が小さくなるように、前記閾値を設定し、
記閾値を超えた前記接続部が、破断しているとみなす解析条件に更新し、
前記構造解析を実行するステップにおいては、更新された前記解析条件で、構造解析をする、
解析方法。
【請求項11】
複数の部材、及び前記複数の部材を接続する接続部を含む構造物の構造解析の解析条件を設定するステップと、
設定された解析条件で、前記構造物の構造解析を実行するステップと、
前記接続部の解析結果が、閾値を超えたかを判断するステップと、
を含む解析方法を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記解析条件を設定するステップにおいては
前記構造物の中性子束を前記解析条件として設定し、前記接続部への中性子の照射量と前記接続部に作用する応力に対する閾値との関係を示す閾値関係情報に基づき、中性子の照射量が高くなるほど値が小さくなるように、前記閾値を設定し、
記閾値を超えた前記接続部が、破断しているとみなす解析条件に更新し、
前記構造解析を実行するステップにおいては、更新された前記解析条件で、構造解析をする、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の部材同士を、ボルトなどの接続部で接続する技術が一般に知られている。例えば特許文献1には、原子炉容器内において、冷却材の流れを区分けするバッフル板とそれを固定するフォーマ板とを、バッフルフォーマボルトで接続する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-111682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッフルフォーマボルトに限られず、複数の部材同士を接続する接続部を含む構造物については、経年劣化による構造物の損傷を未然に防ぐため、その寿命を高精度に評価することが求められている。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、複数の部材同士を接続する接続部を含む構造物の寿命を高精度に予測可能な解析装置、解析方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る解析装置は、複数の部材、及び前記複数の部材を接続する接続部を含む構造物の構造解析の解析条件を設定する条件設定部と、前記条件設定部によって設定された解析条件で、前記構造物の構造解析を実行する解析実行部と、前記接続部の解析結果が、閾値を超えたかを判断する判断部と、を含み、前記条件設定部は、前記閾値を超えた前記接続部が、破断しているとみなす解析条件に更新し、前記解析実行部は、更新された前記解析条件で、構造解析をする。
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る解析方法は、複数の部材、及び前記複数の部材を接続する接続部を含む構造物の構造解析の解析条件を設定するステップと、設定された解析条件で、前記構造物の構造解析を実行するステップと、前記接続部の解析結果が、閾値を超えたかを判断するステップと、を含み、前記解析条件を設定するステップにおいては、前記閾値を超えた前記接続部が、破断しているとみなす解析条件に更新し、前記構造解析を実行するステップにおいては、更新された前記解析条件で、構造解析をする。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るプログラムは、複数の部材、及び前記複数の部材を接続する接続部を含む構造物の構造解析の解析条件を設定するステップと、設定された解析条件で、前記構造物の構造解析を実行するステップと、前記接続部の解析結果が、閾値を超えたかを判断するステップと、を含む解析方法を、コンピュータに実行させるプログラムであって、前記解析条件を設定するステップにおいては、前記閾値を超えた前記接続部が、破断しているとみなす解析条件に更新し、前記構造解析を実行するステップにおいては、更新された前記解析条件で、構造解析をする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、複数の部材同士を接続する接続部を含む構造物の寿命を高精度に予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態に係る炉内構造物の模式的な一部断面図である。
図2図2は、本実施形態に係る炉内構造物の模式的な一部拡大図である。
図3図3は、本実施形態に係る解析装置の模式的なブロック図である。
図4図4は、接続部の解析モデルの一例を示す図である。
図5図5は、閾値の一例を示すグラフである。
図6図6は、解析処理の処理フローを説明するフローチャートである。
図7図7は、接続部の破断が模擬された場合の構造解析結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0012】
(構造物)
図1は、本実施形態に係る炉内構造物の模式的な一部断面図であり、図2は、本実施形態に係る炉内構造物の模式的な一部拡大図である。図2は、図1の破線で囲われた部分を拡大した図である。本実施形態に係る解析装置10は、炉内構造物Rに備えられる構造物Vの構造解析を実行する。炉内構造物Rは、原子力発電プラントの加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)に用いられる。ただし、炉内構造物Rは、加圧水型原子炉に用いられることに限られず、例えば沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)に用いられてもよい。図2に示すように、炉内構造物Rには、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cとを含む構造物Vが設けられている。炉心槽W内には、複数の燃料集合体が設けられており、燃料集合体に至る冷却材流れがバッフル板Bで区分けされている。接続部Cは、構造物Vに複数設けられており、バッフル板Bとフォーマ板Fとを接続し、フォーマ板Fと炉心槽Wとを接続する。本実施形態に係る接続部Cは、部材同士を接続するボルトである。すなわち、バッフル板Bとフォーマ板Fを接続する接続部Cは、いわゆるバッフルフォーマボルトであり、フォーマ板Fと炉心槽Wとを接続する接続部Cは、いわゆるバレルフォーマボルトである。
【0013】
本実施形態に係る解析装置10は、以上のような構造の構造物Vの構造解析を実行するものであるが、解析装置10が構造解析する構造物Vは、以上の構成のものに限られず、原子力設備に設けられる任意の構造物であってもよい。さらにいえば、解析装置10が構造解析する構造物Vは、原子力設備に設けられるものであることにも限られない。構造物Vは、接続部Cと、接続部Cによって接続される複数の任意の部材を含む任意の構造物であってよい。ただし、構造物Vは、複数の接続部Cを含むことが好ましい。また、接続部Cは、ボルトであるが、それに限られず、複数の部材を接続する任意のものであってよい。例えば、接続部Cは、ボルト、リベット、及び溶接部の少なくとも1つであってよい。
【0014】
(解析装置)
解析装置10は、FEM(Finite Element Method)による構造解析を実行する。構造解析とは、構造物Vの状態を推定する解析を指し、構造物Vに作用する応力や歪みを解析する応力解析を指すことが好ましい。解析装置10は、解析上の時間軸で解析が開始するタイミングである解析開始タイミングから、解析上の時間軸で解析が終了するタイミングである解析終了タイミングまでの、経時的な構造解析を実行する。すなわち、解析装置10は、解析開始タイミングから解析終了タイミングまでの、解析上の時間軸における所定タイミング毎(所定時間が経過する毎)の、構造物Vの構造解析を解析する。例えば、解析開始タイミングが2020年1月1日であり、解析終了タイミングが2080年1月1日である場合、解析装置10は、2020年1月1日から2080年1月1日までの間の、所定タイミング毎の、構造物Vに作用する応力を解析する。なお、解析開始タイミング及び解析終了タイミングは、任意に設定可能である。また、所定タイミングも、すなわち、1つの構造解析が行われたタイミングから次の構造解析が行われたタイミングまでの所定時間(構造解析のサンプリングレート)も、任意に設定可能である。ここでの所定時間は一定でなくてよく、例えば、最初は現在時刻から1日後の解析結果を出力し、その次には、直前で解析結果が出力されてから2日後の解析結果を出力してもよい。
【0015】
図3は、本実施形態に係る解析装置の模式的なブロック図である。解析装置10は、コンピュータであり、入力部20と、出力部22と、記憶部24と、制御部26とを含む。入力部20は、ユーザの操作を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボードやタッチパネルなどである。出力部22は、情報を出力する装置であり、例えば、画像を表示する表示部を含む。記憶部24は、制御部26の演算内容やプログラムなどの各種情報を記憶するメモリであり、例えば、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)のような主記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)などの外部記憶装置とのうち、少なくとも1つ含む。記憶部24は、構造解析を行うためのプログラムを記憶している。記憶部24が保存する制御部26用のプログラムは、解析装置10が読み取り可能な記録媒体に記憶されていてもよい。
【0016】
制御部26は、演算装置、すなわちCPU(Central Processing Unit)である。制御部26は、条件設定部30と、解析実行部32と、判断部34と、寿命推定部36とを含む。制御部26は、記憶部24からプログラム(ソフトウェア)を読み出して実行することで、条件設定部30と解析実行部32と判断部34と寿命推定部36とを実現して、それらの処理を実行する。なお、制御部26は、1つのCPUによってこれらの処理を実行してもよいし、複数のCPUを備えて、それらの複数のCPUで、処理を実行してもよい。また、条件設定部30と解析実行部32と判断部34と寿命推定部36との少なくとも一部を、ハードウェアで実現してもよい。
【0017】
(解析条件の設定)
条件設定部30は、構造物Vの構造解析の解析条件を設定する。解析条件とは、構造物Vの構造解析を行うための入力値を指す。条件設定部30は、ユーザによって入力された解析条件を取得して、構造物Vの構造解析の解析条件として設定してよいし、外部の装置から解析条件を取得して、構造物Vの構造解析の解析条件として設定してよいし、演算により解析条件を算出して、構造物Vの構造解析の解析条件として設定してもよい。条件設定部30は、解析開始タイミングから解析終了タイミングまでの所定タイミング毎に、解析条件を設定する。
【0018】
条件設定部30は、解析条件として、構造物Vの中性子束、構造物Vの温度、構造物Vの応力と歪との関係情報、構造物Vのヤング率、構造物Vのポアソン比、構造物Vの線膨張係数、構造物Vのスウェリング評価式、及び構造物Vのクリープ特性の、少なくとも1つを設定する。条件設定部30は、構造物Vの中性子束、構造物Vの温度、構造物Vの応力と歪との関係情報、構造物Vのヤング率、構造物Vのポアソン比、構造物Vの線膨張係数、構造物Vのスウェリング評価式、及び構造物Vのクリープ特性の全てを設定することが好ましい。以下、各解析条件の設定方法について説明する。
【0019】
条件設定部30は、構造物Vの中性子束を解析条件として設定する。構造物Vの中性子束とは、構造物Vに含まれる各部材における中性子束を指し、本実施形態では、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cにおける中性子束を意味する。条件設定部30は、解析開始タイミングから解析終了タイミングまでの所定タイミング毎の、構造物Vの位置毎の中性子束(中性子束分布)を、解析条件として設定する。条件設定部30は、構造物Vの中性子束を任意の方法で設定してよいが、例えば、構造物Vの放射線解析で算出された値を用いてよい。
【0020】
条件設定部30は、構造物Vの温度を解析条件として設定する。構造物Vの温度とは、構造物Vに含まれる各部材の温度を指し、本実施形態では、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cの温度を意味する。条件設定部30は、解析開始タイミングから解析終了タイミングまでの所定タイミング毎の、構造物Vの位置毎の温度(温度分布)を、解析条件として設定する。条件設定部30は、構造物Vの温度を任意の方法で設定してよいが、例えば、構造物Vの放射線解析で算出されたγ発熱分布(ガンマ線による位置毎の発熱量)と、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析によって算出された構造物Vの位置毎の熱伝達率と、CFD解析によって算出された構造物Vの位置毎の流体温度とに基づき、算出された構造物Vの温度を用いてよい。
【0021】
条件設定部30は、構造物Vの応力と歪との関係情報を、解析条件として設定する。応力と歪との関係情報とは、応力と歪との関係を示す情報であり、応力-歪曲線ともいえる。構造物Vの応力と歪との関係情報とは、構造物Vに含まれる各部材の応力と歪との関係情報を指し、本実施形態では、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cのそれぞれについての、応力と歪との関係情報を意味する。応力と歪との関係は、材料と、中性子照射量とに応じて決まる。そのため、本実施形態では、中性子照射量に応じた応力-歪曲線が、材料毎に準備される。条件設定部30は、構造物Vに含まれる部材のそれぞれについて、その部材と同じ材料についての中性子照射量に応じた応力-歪曲線を、応力と歪との関係情報として用いる。
【0022】
条件設定部30は、構造物Vのヤング率を、解析条件として設定する。構造物Vのヤング率とは、構造物Vに含まれる各部材のヤング率を指し、本実施形態では、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cのそれぞれについてのヤング率を意味する。ヤング率は、材料及び温度分布に応じて決まる。そのため、本実施形態では、温度とヤング率との関係を示す情報が、材料毎に準備される。条件設定部30は、構造物Vに含まれる部材のそれぞれについて、その部材と同じ材料についての温度とヤング率との関係を示す情報を、ヤング率として用いる。
【0023】
条件設定部30は、構造物Vのポアソン比を、解析条件として設定する。構造物Vのヤング率とは、構造物Vに含まれる各部材のポアソン比を指し、本実施形態では、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cのそれぞれについてのポアソン比を意味する。ポアソン比は、材料に応じて決まるため、条件設定部30は、解析開始タイミングから解析終了タイミングまでの全ての期間において、ポアソン比として同じものを用いる。
【0024】
条件設定部30は、構造物Vの線膨張係数を、解析条件として設定する。構造物Vのヤング率とは、構造物Vに含まれる各部材の線膨張係数を指し、本実施形態では、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cのそれぞれについての線膨張係数を意味する。線膨張係数は、材料及び温度分布に応じて決まる。そのため、本実施形態では、温度と線膨張係数との関係を示す情報が、材料毎に準備される。条件設定部30は、構造物Vに含まれる部材のそれぞれについて、その部材と同じ材料についての温度と線膨張係数との関係を示す情報を、線膨張係数として用いる。
【0025】
条件設定部30は、構造物Vのスウェリング評価式を解析条件として設定する。スウェリング評価式とは、中性子の照射量、温度とスウェリング量との関係を示す情報である。スウェリング量とは、中性子の照射による部材の膨張量を指す。構造物Vのスウェリング評価式とは、構造物Vに含まれる各部材のスウェリング量を推定する式を指し、本実施形態では、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cのそれぞれについてのスウェリング評価式を意味する。スウェリング評価式は、材料に応じて決まるため、条件設定部30は、解析開始タイミングから解析終了タイミングまでの全ての期間において、スウェリング評価式として同じものを用いる。条件設定部30は、構造物Vのスウェリング評価式を任意の方法で設定してよいが、例えば、実験データに基づき設定されたものを用いてよい。条件設定部30は、接続部Cのスウェリング評価式として次の式(1)を用いてよい。
【0026】
S=(100・ΔV/V0)=A・(dpa’・10/1.25)-0.73・(dpa/4.9) ・・・(1)
【0027】
ここで、Sがスウェリング量の比率であり、ΔVが中性子の照射による部材の膨張体積量であり、V0が膨張前の部材の体積であり、dpa’が単位時間当たりの中性子の照射量(dpa/sec)であり、dpaが中性子の照射量(dpa)を指す。また、Aは、次の式(2)に示した値である。式(2)におけるTは、温度(℃)である。
【0028】
A=exp(-1.591+0.245・T-1.210・T-1.384・T-1.204・T) ・・・(2)
【0029】
条件設定部30は、構造物Vのクリープ特性を解析条件として設定する。クリープ特性とは、部材への中性子の照射量及び部材に生じる応力と、クリープによる歪量との関係を示す情報である。構造物Vのクリープ特性とは、構造物Vに含まれる各部材のクリープ特性を指し、本実施形態では、炉心槽Wとバッフル板Bとフォーマ板Fと接続部Cのそれぞれについてのクリープ特性を意味する。条件設定部30は、構造物Vのクリープ特性を任意の方法で設定してよいが、例えば、実験データに基づき設定されたものを用いてよい。条件設定部30は、接続部Cのクリープ特性として次の式(3)を用いてよい。
【0030】
ε=E・σ・{1-exp(-E’・F)}+B0・σ(1+B1・σ)・F ・・・(3)
【0031】
ここで、εがクリープによる歪量であり、σが応力(MPa)であり、E’及びEは遷移クリープ定数であり、Fは中性子の照射量(dpa)であり、B0及びB1は定常クリープ定数を指す。なお、Eとして0.733・10-6(MPa-1)を用い、E’として4.3(dpa-1)を用い、B0として0.975・10-6(dpa-1・MPa-1)を用い、N1として0.328・10-8(MPa-3)を用いてよい。
【0032】
(解析モデルの生成)
また、条件設定部30は、構造物Vの解析用のモデルである解析モデルVMを取得する。解析モデルVMは、構造物Vの各部材の3次元モデルを複数の要素に分割し、要素上に節点を設定して、生成されるモデルである。本実施形態では、ユーザによって生成された解析モデルVMが、記憶部24に記憶されており、条件設定部30は、記憶部24に記憶された解析モデルVMを読み出すことで、解析モデルVMを取得する。なお、解析モデルVMは、ユーザによって生成されることに限られず、例えば条件設定部30によって自動で生成されてもよい。本実施形態では、条件設定部30は、炉心槽Wの解析モデルと、バッフル板Bの解析モデルと、フォーマ板Fの解析モデルと、接続部Cの解析モデルとを含むモデルを、解析モデルVMとして取得する。条件設定部30は、解析モデルVMを複数取得することなく、1つの解析に対して1つの解析モデルVMを取得する。
【0033】
図4は、接続部の解析モデルの一例を示す図である。図4に示すように、条件設定部30は、接続部Cの解析モデルCMとして、接続部Cの頭部のモデルCM1と接続部Cの軸部のモデルCM2とが、頭部と軸部との接続部分のモデルCM3で接続された解析モデルを取得する。なお、軸部のモデルCM2は、ねじ部が形成されていないシャンク部のモデルCM2aと、ねじ部が形成されるねじ部のモデルCM2bとを含む。条件設定部30は、接続部分のモデルCM3における単位体積あたりの要素数を、頭部のモデルCM1及び軸部のモデルCM2における単位体積当たりの要素数より多い解析モデルCMを取得してもよい。これにより、破断しやすい接続部分の解析精度を向上できる。また、条件設定部30は、接続部分のモデルCM3として、二次要素のモデルを生成し、頭部のモデルCM1及び軸部のモデルCM2として、一次要素のモデルを取得してもよい。二次要素とは、要素の辺と頂点に節点が設定されることを指し、一次要素とは、要素の辺には節点が設定されずに要素の頂点に節点が設定されることを指す。接続部分のモデルCM3を二次要素とし、他を一次要素とすることで、要素の数が多くなりすぎて演算負荷が高くなることを抑制しつつ、破断しやすい接続部分の解析精度を向上できる。
【0034】
条件設定部30は、解析モデルVMを取得したら、解析条件として、各部材のモデルごとに境界条件を設定する。条件設定部30は、境界条件として、各部材のモデルの境界部分に、荷重条件と拘束条件とを設定する。なお、境界条件についても、ユーザによって設定されて記憶部24に記憶されたものを、条件設定部30が取得してもよいし、条件設定部30が自動的に設定してもよい。
【0035】
(解析の実行)
解析実行部32は、条件設定部30が設定した解析条件で、解析上の時間軸における解析終了タイミングまでの、構造物Vの構造解析を実行する。より具体的には、解析実行部32は、条件設定部30が取得した解析モデルVMを用いて、条件設定部30が設定した解析条件を入力データとして入力して、FEMによる構造解析を実行して、構造解析の解析結果を出力する。解析実行部32は、解析上の時間軸における解析開始タイミングから解析終了タイミングまで、構造解析を実行して、所定タイミング毎の構造解析の解析結果を出力する。解析実行部32は、解析モデルVMの節点毎に、作用する応力と変形量とを算出して、解析結果とする。すなわち、解析実行部32は、解析結果として、構造物Vの各部材に作用する応力と構造物Vの各部材の変形量とを、出力するといえる。
【0036】
なお、解析実行部32は、複数の解析モデルを用いることなく、1つの解析モデルVMを用いて、構造物Vの各部材の構造解析を実行する。
【0037】
(解析結果の判断)
判断部34は、解析実行部32による接続部Cの構造解析の解析結果を取得し、接続部Cの構造解析の解析結果が閾値を超えたかを判断する。具体的には、判断部34は、解析実行部32が算出した、接続部Cに作用する応力値(接続部Cの解析モデルCMに作用する応力値)を取得して、接続部Cに作用する応力値(接続部Cの解析モデルCMに作用する応力値)が閾値を超えているかを判断する。判断部34は、解析実行部32が解析結果を出力する毎に、接続部Cに作用する応力値を取得して、接続部Cに作用する応力値が閾値を超えたか判断する。すなわち、判断部34は、解析上の時間軸における所定タイミング毎の接続部Cに作用する応力値を取得して、所定タイミング毎の接続部Cに作用する応力値のそれぞれについて、閾値を超えたかを判断する。
【0038】
図5は、閾値の一例を示すグラフである。判断部34は、接続部Cに作用する応力に対する閾値を、任意に設定してよいが、以下に説明するように設定することが好ましい。すなわち、判断部34は、接続部Cへの中性子の照射量と接続部Cに作用する応力に対する閾値との関係を示す閾値関係情報を取得し、閾値関係情報に基づき、閾値を設定することが好ましい。閾値関係情報は、例えば実験データに基づき設定されている。閾値関係情報は、図5の線分Lに示すように、中性子の照射量が高くなるほど、閾値が小さくなるように設定されている。ただし、線分Lは一例である。
【0039】
具体的には、判断部34は、閾値関係情報と、接続部Cへの中性子の照射量とに基づいて、閾値を設定する。判断部34は、条件設定部30が設定した解析条件(中性子束)から、接続部Cに作用する応力値が算出された解析上のタイミングまでにおける、接続部Cへの中性子の照射量の積算値を取得する。そして、判断部34は、閾値関係情報において、取得した中性子の照射量の積算値に対応付けられた閾値を抽出して、接続部Cに作用する応力に対する閾値として設定する。判断部34は、設定した閾値と、解析実行部32から取得した接続部Cに作用する応力値とを比較して、接続部Cに作用する応力値が閾値より大きい場合には、接続部Cに作用する応力値が閾値を超えたと判断する。一方、判断部34は、接続部Cに作用する応力値が閾値以下の場合には、接続部Cに作用する応力値が閾値を超えていないと判断する。
【0040】
なお、本実施形態では、構造物Vには複数の接続部Cが含まれている。従って、判断部34は、それぞれの接続部Cについて、構造解析の解析結果(作用する応力値)を取得して、閾値を超えたかを判断する。すなわち、判断部34は、それぞれの接続部Cについて、解析上の時間軸における所定タイミング毎の構造解析結果が、閾値を超えたかを判断する。
【0041】
以上説明したように、判断部34は、接続部Cの解析結果として、接続部に作用する応力値を取得して、応力値が閾値を超えたかを判断する。ただし、判断部34は、接続部に作用する応力値が閾値を超えたかを判断することに限られない。例えば、判断部34は、接続部Cの解析結果として、接続部Cの変形量を取得して、変形量が閾値を超えたかを判断してもよい。すなわち、判断部34は、接続部Cの破断に関連するデータを、解析結果として取得して、その解析結果が閾値を超えたかを判断してよい。
【0042】
(解析条件の更新)
条件設定部30は、判断部34によって接続部Cの解析結果(ここでは接続部Cに作用する応力値)が閾値を超えたと判断された場合には、その接続部Cの解析条件を更新する。条件設定部30は、解析結果が閾値を超えた接続部Cが、解析上で破断しているとみなすように、その接続部Cの解析条件を更新する。すなわち、条件設定部30は、解析上の時間軸において、その解析結果が算出されたタイミング以降においては、その接続部Cが破断した状態が模擬されるように、その解析結果が算出されたタイミング以降のその接続部Cの解析条件を変更する。
【0043】
接続部Cを解析上で破断しているとみなすための解析条件は、任意であってよいが、例えば、接続部Cの剛性をゼロとすることと、接続部Cの拘束条件を外すことと、接続部Cの解析モデルCMを解析モデルVM上から削除することとの、いずれかであることが好ましい。すなわち、判断部34によって接続部Cの解析結果が閾値を超えたと判断された場合には、条件設定部30は、その解析結果が算出された解析上のタイミング以降においては、その接続部Cの剛性をゼロとするか、その接続部Cの拘束条件を外すか、その接続部Cの解析モデルCMを削除するかの、いずれかを実行する。なお、拘束条件を外すとは、その接続部CのモデルCMが、解析上で固定されない状態にすることを指す。
【0044】
また、条件設定部30は、解析結果が閾値を超えた接続部Cについて、その解析モデルCMを複数に分割させることで、接続部Cを解析上で破断しているとみなしてもよい。この場合、条件設定部30は、図4に示すシャンク部のモデルCM2aの箇所で、解析モデルCMを分割することが好ましい。より具体的には、条件設定部30は、シャンク部のモデルCM2aの、軸方向における中央箇所で、解析モデルCMを分割することが好ましい。接続部Cの解析モデルCMにおいて、応力集中しやすい箇所は、接続部分のモデルCM3である。それに対して、モデルCM3ではなく、シャンク部のモデルCM2aで分割して、シャンク部で破断されたと模擬することで、詳細な解析が必要となる接続部分のモデルCM3の解析精度が低下することを抑制できる。
【0045】
なお、本実施形態では、構造物Vには複数の接続部Cが含まれている。従って、条件設定部30は、接続部C毎に解析条件を設定するといえる。
【0046】
(解析の継続)
条件設定部30によって接続部Cの解析条件が更新されたら、解析実行部32は、接続部Cの解析条件が更新された解析上のタイミング以降(閾値を超えた接続部Cの解析結果が算出された解析上のタイミング以降)の構造解析を、更新された解析条件を用いて、継続する。解析実行部32は、接続部Cの解析条件が更新される度に、更新された解析条件を用いて、解析終了時刻まで、構造解析を行う。接続部Cの解析条件がこのように更新されたら、複数の接続部Cの荷重分担を再配分することができるため、より高精度な寿命予測が可能となる。
【0047】
なお、以上の説明では、条件設定部30は、接続部Cの解析結果が閾値を超えたタイミングで、その接続部Cの解析条件を更新していた。すなわち、解析実行部32は、接続部Cの解析結果が閾値を超えたタイミングで、その接続部Cが破断した状態を模擬して、接続部Cの解析結果が閾値を超えたタイミングからの解析を継続していた。ただしそれに限られず、接続部Cの解析結果が閾値を超えたタイミングから所定の時間が経過したタイミングで、接続部Cが破断した状態の模擬を開始してもよい。この場合、条件設定部30は、接続部Cの解析結果が閾値を超えたタイミングから所定の時間が経過した解析上のタイミングで、その接続部Cについての解析条件を更新する。そして、解析実行部32は、接続部Cの解析結果が閾値を超えたタイミングから所定の時間が経過した解析上のタイミングまでは、更新前の解析条件(破断した状態が模擬されていない解析条件)で、解析を行い、接続部Cの解析結果が閾値を超えたタイミングから所定の時間が経過した解析上のタイミング以降においては、更新後の解析条件(破断した状態を模擬した解析条件)で、解析を行う。このように破断を模擬するタイミングを遅らせることにより、例えば応力腐食割れなど、時間をかけて破断される故障モードを適切に反映できる。
【0048】
(寿命の推定)
寿命推定部36は、解析実行部32によって実行された構造物Vの構造解析の結果に基づき、構造物Vの寿命を推定する。寿命推定部36は、解析実行部32によって実行された接続部Cの解析結果から、接続部Cの寿命を推定する。ただし、寿命推定部36は必須の構成ではない。
【0049】
(解析フロー)
以上説明した解析処理の処理フローを、フローチャートに基づき説明する。図6は、解析処理の処理フローを説明するフローチャートである。図6に示すように、解析装置10は、条件設定部30により、構造物Vの解析モデルVMを取得して、解析条件を設定する(ステップS10)。解析装置10は、解析実行部32により、条件設定部30によって設定された解析条件で、解析モデルVMを用いて、構造物Vの構造解析を実行する(ステップS12)。解析実行部32は、解析上の現在時刻から所定時間経過後の(すなわち所定タイミングの)、構造物Vの構造解析の解析結果を出力する。解析装置10は、判断部34により、接続部Cの構造解析の解析結果を取得する(ステップS14)。そして、解析上の時間軸が解析終了時刻に到達していない場合には(ステップS16:No)、解析装置10は、判断部34により、解析結果が閾値より高い接続部Cがあるかを判断する(ステップS18)。解析結果が閾値より高い接続部Cがある場合(ステップS18;Yes)、解析装置10は、条件設定部30により、解析結果が閾値より高い接続部Cの解析条件を、破断模擬した条件に更新する(ステップS20)。すなわち、条件設定部30は、解析結果が閾値より高い接続部Cの解析モデルCMについての解析条件を、破断しているとみなす解析条件に更新する。その後、ステップS12に戻り、更新された解析条件で、解析上の時間軸においてさらに所定時間経過後の解析を行う。なお、上述のように、ここでの所定時間は一定でなくてよく、時間長さを都度変更してもよい。
【0050】
一方、解析結果が閾値より高い接続部Cがない場合(ステップS18;No)、解析装置10は、条件設定部30により、接続部Cの解析条件を、破断模擬した条件に更新せずに、ステップS12に戻り、解析を継続する。一方、ステップS16において解析終了時刻に到達した場合には(ステップS16;Yes)、解析を終了する。
【0051】
ここで、複数の部材同士を接続する接続部Cを含む構造物Vについては、その寿命を高精度に評価することが求められている。接続部Cの寿命評価には、例えば、経時的な構造解析結果が用いられる。接続部Cに破断するような大きな応力が発生していた場合には、その接続部Cは、実際には破断して、部材を接続する力を失っている。しかし、従来の経時的な構造解析においては、接続部Cに破断するような大きな応力が発生していた場合にも、その接続部Cが破断せずに、部材を接続する力を保持していることを前提として、解析が進められてしまっていた。この場合、例えば他の接続部Cなどに作用する応力などの解析結果が、実際とは乖離してしまい、解析結果の精度が低下する可能性がある。それに対し、本実施形態に係る解析装置10は、解析結果が閾値を超えた接続部Cの接続条件を更新して、その接続部Cが破断された状態を模擬して、以降の解析を継続する。そのため、本実施形態に係る解析装置10によると、解析結果の精度低下を抑制し、結果として、構造物Vの寿命を高精度に評価できる。
【0052】
図7は、接続部の破断が模擬された場合の構造解析結果の例を示す図である。図7では、解析モデルVMに、接続部Cの解析モデルCMaと、他の接続部Cの解析モデルCMbがある場合の、応力分布の一例を示している。図7の矢印が出ている側(矢印の根本側)の図は、あるタイミングで解析モデルCMaに作用する応力値が閾値を超えた場合を示している。図7の矢印が指す側の図は、解析モデルCMaの破断を模擬して解析を続けた場合を示している。図7の矢印が指す側の図に示すように、解析モデルCMaの破断が模擬された場合には、解析モデルCMaによる接続力が失われた状態が再現され、解析モデルCMbに作用する応力が増加して、実際の状態を適切に反映できることが分かる。
【0053】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る解析装置10は、条件設定部30と、解析実行部32と、判断部34とを含む。条件設定部30は、複数の部材及び複数の部材を接続する接続部Cを含む構造物Vの構造解析の、解析条件を設定する。解析実行部32は、条件設定部30によって設定された解析条件で、構造物Vの構造解析を実行する。判断部34は、接続部Cの解析結果が、閾値を超えたかを判断する。条件設定部30は、閾値を超えた接続部Cが、破断しているとみなす解析条件に更新し、解析実行部32は、更新された解析条件で、構造解析を実行する。本実施形態に係る解析装置10は、解析結果が閾値を超えた接続部Cについては、破断を模擬した状態として解析を行うため、解析結果の精度低下を抑制し、結果として、構造物Vの寿命を高精度に評価できる。
【0054】
解析実行部32は、解析実行から解析上で所定時間経過後に接続部Cの状態を解析し、判断部34は、所定時間後の接続部Cの解析結果により、閾値を超えたかを判断する。本実施形態に係る解析装置10は、解析上で所定時間経過後の接続部Cの解析結果から破断しているかを判断することで、解析結果の精度低下を抑制し、結果として、構造物Vの寿命を高精度に評価できる。
【0055】
判断部34は、解析上で所定時間が経過する毎に、接続部Cの解析結果を取得し、接続部Cの解析結果が閾値を超えたかを判断する。本実施形態に係る解析装置10は、解析上の時間軸で所定時間が経過する毎に、接続部Cの解析結果が閾値を超えたかを判断するため、経時毎に接続部Cの破断を模擬することが可能となり、解析結果の精度低下を抑制し、結果として、構造物Vの寿命を高精度に評価できる。
【0056】
条件設定部30は、例えば、解析実行部32の構造解析での解析結果が閾値を超えた接続部Cについての解析条件を、接続部Cの剛性をゼロとすること、接続部Cの拘束条件を外すこと、及び接続部CのモデルCMを解析上から削除することとの、いずれかに設定する。本実施形態に係る解析装置10は、このように解析条件を設定することで、接続部Cの破断を適切に模擬できる。
【0057】
条件設定部30は、接続部Cの解析結果が閾値を超えた解析上のタイミングから、解析上で所定の期間が経過したタイミングで、接続部Cについての解析条件を更新してよい。本実施形態に係る解析装置10は、このように破断を模擬するタイミングを遅らせることにより、例えば応力腐食割れなど、時間をかけて破断される故障モードを適切に反映できる。
【0058】
解析実行部32は、接続部Cが複数設けられた構造物Vの構造解析を実行し、判断部34は、接続部C毎に、解析結果が閾値を超えたか判断し、条件設定部30は、接続部C毎に解析条件を設定する。本実施形態に係る解析装置10は、複数の接続部Cのそれぞれについて、破断を模擬することが可能となり、解析結果の精度低下を抑制し、結果として、構造物Vの寿命を高精度に評価できる。
【0059】
接続部Cは、ボルト、リベット、及び溶接部の少なくとも1つである。本実施形態に係る解析装置10は、このような接続部Cを有する構造物Vについての解析結果の精度低下を抑制し、結果として、寿命を高精度に評価できる。
【0060】
構造物Vは、原子力設備に設けられる構造物である。原子力設備に設けられる構造物は、中性子が照射されるなど、特殊な環境下に置かれるとともに、高い信頼性が求められるため、損傷を未然に防ぐ観点から寿命を高精度に評価することが特に求められている。それに対し、本実施形態に係る解析装置10は、接続部Cの破断を模擬して解析を行うことで、原子力設備に設けられる構造物の寿命を高精度に評価できる。
【0061】
条件設定部は、解析条件として、構造物Vの中性子束、構造物Vの温度、構造物Vの応力と歪との関係情報、構造物Vのヤング率、構造物Vのポアソン比、構造物Vの線膨張係数、構造物Vのスウェリング評価式、及び構造物Vのクリープ特性の、少なくとも1つを設定する。本実施形態に係る解析装置10は、これらの解析条件を設定することで、原子力設備に設けられる構造物の寿命を高精度に評価できる。
【0062】
本実施形態に係る解析方法は、複数の部材及び複数の部材を接続する接続部Cを含む構造物Vの構造解析の解析条件を設定するステップと、設定された解析条件で構造物Vの構造解析を実行するステップと、接続部Cの解析結果が閾値を超えたかを判断するステップと、を含む。解析条件を設定するステップにおいては、閾値を超えた接続部が、破断しているとみなす解析条件に更新し、構造解析を実行するステップにおいては、更新された解析条件で、構造解析を実行する。本解析方法によると、解析結果の精度低下を抑制し、結果として、構造物Vの寿命を高精度に評価できる。
【0063】
本実施形態に係るプログラムは、複数の部材及び複数の部材を接続する接続部Cを含む構造物Vの構造解析の解析条件を設定するステップと、設定された解析条件で、構造物Vの構造解析を実行するステップと、接続部Cの解析結果が閾値を超えたかを判断するステップと、をコンピュータに実行させる。解析条件を設定するステップにおいては、閾値を超えた接続部が、破断しているとみなす解析条件に更新し、構造解析を実行するステップにおいては、更新された解析条件で、構造解析を実行する。本プログラムによると、解析結果の精度低下を抑制し、結果として、構造物Vの寿命を高精度に評価できる。
【0064】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
10 解析装置
30 条件設定部
32 解析実行部
34 判断部
36 寿命推定部
C 接続部
V 構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7