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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】酵素を含む多層物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240524BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240524BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240524BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B27/36
B32B27/00 B
B65D65/40 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021557515
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2020058796
(87)【国際公開番号】W WO2020193770
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】1903237
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520064573
【氏名又は名称】カルビオリス
【氏名又は名称原語表記】CARBIOLICE
【住所又は居所原語表記】rue Andre Messager ZAC de la Graviere,63200 Riom France
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】アルノー、クレモンティーヌ
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/122195(WO,A1)
【文献】特表2017-533844(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110791069(CN,A)
【文献】特開2012-040688(JP,A)
【文献】特開2003-020025(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0339766(US,A1)
【文献】国際公開第2019/043134(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/014202(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABA、ABCAまたはACBCA型の生分解性多層熱可塑性プラスチック物品であって、中央層Bが、当該中央層Bを取り囲む層Aのポリマーを分解可能な酵素を少なくとも0.001%(当該%は、前記層Bの組成物の総重量を基準とした重量にて与えられる)含み、中央層Bが、140℃未満の溶融温度および/または70℃未満のガラス転移温度を有する酵素担持ポリマーを含むことを特徴とする物品。
【請求項2】
前記層Aが、PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)、PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)、PHB(ポリ-β-ヒドロキシブチレート)、PHH(ポリヒドロキシヘキサノエート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PLA(ポリ乳酸)、PCL(ポリカプロラクトン)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、可塑化澱粉およびこれらの任意の割合の混合物から選択されるポリエステルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記層Aのポリエステルが、PBAT、PLAおよびこれらの任意の割合の混合物から選択されるものであることを特徴とする、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記層Bの組成物が、少なくとも0.002%の酵素を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記層Bの組成物が、少なくとも0.05%の酵素を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項6】
前記層Bの構成ポリマーが、ポリエステル;またはPVOH(ポリビニルアルコール)、PVCD(ポリ塩化ビニル)、乳タンパク質、多糖類から選択される材料;またはこれらの任意の割合の混合物から選択されるものであることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の物品。
【請求項7】
前記層Bが、多類を含むことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記物品が少なくとも1つの層Cを含み、その組成物がPVOH(ポリビニルアルコール)、PVCD(ポリ塩化ビニル)、PGA(ポリグリコール酸)、乳タンパク質、多糖類、またはこれらの任意の割合の混合物から選択される材料を含むことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の物品。
【請求項9】
前記物品が共押出されてなるものであることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の物品。
【請求項10】
前記物品が、250μm未満の厚さを有することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の物品。
【請求項11】
前記物品が、100μm、50μm、40μmまたは30μm未満の厚さを有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の物品。
【請求項12】
前記物品が、10~20μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項13】
前記物品が、150μm超の厚さを有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の物品。
【請求項14】
前記物品が、5000μm未満の厚さを有することを特徴とする、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
前記物品が、250~3000μmの厚さを有することを特徴とする、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
請求項10から12のいずれか一項に記載の物品を含むことを特徴とする、フィルム。
【請求項17】
カップ、プレート、飲料用カプセル、トレイまたはブリスターパックを調製するための請求項13から15のいずれか一項に記載の物品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3つの層と、コアを取り囲む当該層のポリマーを分解可能な酵素を含むコアとを含む生分解性多層プラスチック物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生物由来および生分解性の物品、特にプラスチック袋の製造のために使用される単層または多層の当該物品が知られている。これらの袋は、食品、特に果物や野菜を包装するために特に使用される。
【0003】
具体的には、WO2007/118828、WO2002/059202A1、WO2002/059199、WO2002/059198、WO2004/052646、WO2018/233888、US6,841,597、US8,751,816、US5,436,078、US9,096,758、US2009/324917およびCN106881929に記載されている物品が挙げられる。
【0004】
物品を構成するポリマーを分解可能な酵素を含む当該物品を製造するためには、機械的特性および特にガスに対するバリア性の制約を重視しつつ、たとえば当該酵素を分解しない温度でポリマーと混合することなどにより、物品調製時に酵素を保護することが必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、コアを含む少なくとも3つの層を含み、当該コアはそれを取り囲む複数の層のポリマーを分解可能な酵素を含む、生物由来および生分解性の多層プラスチック物品に関する。
【0006】
本発明による物品は、ABA、ABCAまたはACBCA型の多層物品であり、隣接する複数の層Aおよび場合により層Cのポリマーを分解可能な酵素を少なくとも0.001%(当該%は、層Bの組成物の総質量を基準とした質量で表される。)含む中央層Bを含む。
【0007】
本発明による多層物品は、フィルム、袋、郵送用フィルム、マルチングフィルムなどの可撓性物品であり得る。
【0008】
本発明の可撓性物品は、好ましくは250μm未満の厚さを有し得る。
【0009】
本発明による多層物品は、カップ、プレート、飲料用カプセル、トレイ、ブリスターパックなどの硬質物品に関するものであってもよい。
【0010】
本発明の硬質物品は、150μm~5mm、好ましくは150μm~3mmの厚さを有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による物品は、ABA、ABCAまたはACBCA型の多層熱可塑性プラスチック物品である。中央層Bは、層A、層B、および必要に応じて層Cのポリマーを分解可能な酵素を含むものである。
【0012】
ABA、ABCA、ACBCA型の多層熱可塑性プラスチック物品とは、本発明によれば、各層が相互連結しており、単純な並置によって単純に結び付けられたものではない物品を意味すると理解される。特におよび好ましくは、各層は共押出によって相互連結している。
【0013】
特に断りのない限り、%(百分率)および相対比率は、それらが定義する組成物の総質量を基準とした質量で表現される。
【0014】
層Aは、有利には、単独または任意の割合で混合して使用される生分解性ポリエステルの層である。これらのポリエステルは当業者によく知られており、特に、PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)、PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)、PHB(ポリ-β-ヒドロキシブチレート)、PHH(ポリヒドロキシヘキサノエート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PLA(ポリ乳酸)、PCL(ポリカプロラクトン)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)および可塑化澱粉から選択される。
【0015】
特定の実施形態によれば、層Aのポリエステルは、PBAT、PLAおよびこれらの任意の割合の混合物から選択される。好ましい実施形態によれば、層AのPBAT/PLA重量比は、0/100~25/75、好ましくは10/90~20/80、より好ましくは13/87~15/85の範囲にある。
【0016】
層Aは、プラスチック物品の製造に一般的に使用される他の添加剤、例えば、滑剤、可塑剤、核剤、相溶化剤、加工助剤、紫外線安定剤、衝撃防止剤、無機充填剤または植物性充填剤などを含んでいてもよい。
【0017】
可撓性物品に使用される可塑剤は当業者に公知であり、特に、ポリオールおよびアミド、乳酸オリゴマー(OLA)ならびにクエン酸エステルから選択される。
【0018】
OLAは、特に生物由来の材料として当業者に公知の可塑剤である。OLAは、1500g/mol未満の分子量を有する乳酸オリゴマーである。OLAは、好ましくは乳酸オリゴマーのエステルであり、それらのカルボン酸末端は、アルコール、特に直鎖状または分岐状のC1~C10アルコール、有利にはC6~C10アルコール、または後者の混合物とのエステル化によってブロックされている。特に、特許出願EP2256149においてそれらの調製方法とともに記載されているOLA、およびCondensia Quimica社がGlyplast(登録商標)の商品名で販売しているOLA、特に分子量が500~600g/molである製品Glyplast(登録商標)OLA2、および分子量が1000~1100g/molである製品Glyplast(登録商標)OLA8を挙げることができる。本発明の好ましい実施形態によれば、OLAの分子量は、少なくとも900g/mol、好ましくは1000~1400g/mol、より好ましくは1000~1100g/molである。
【0019】
クエン酸エステルもまた、特に生物由来の材料として当業者に公知の可塑剤である。特に、クエン酸トリエチル(TEC)、クエン酸アセチルトリエチル(TEAC)、クエン酸トリブチル(TBC)、クエン酸アセチルトリブチル(TBAC)、好ましくはTBACを挙げることができる。
【0020】
本発明において、組成物中の可塑剤、特にOLAまたはクエン酸エステルの含有量は、有利には少なくとも0.5%、好ましくは1~5%、より好ましくは2~4%、有利には約3%である。
【0021】
相溶化剤は、層Aの組成物中において、PLAが別のポリエステルと混合される場合に特に使用される。PLA/ポリエステル相溶化剤は当業者に公知であり、特に、エポキシ、アクリレート、無水物、オキサゾリンおよびラクタム官能基を有する分子であり、グラフト反応が可能である。
【0022】
相溶化剤の中では、より具体的には、ポリアクリレート、エチレンのターポリマー、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸グリシジル(たとえば、Arkema社からLotader(登録商標)の商品名で販売されている)、PLA-PBAT-PLAトリブロックコポリマー、無水マレイン酸とグラフトしたPLA(PLA-g-AM)、または無水マレイン酸とグラフトしたPBAT(PBAT-g-AM)を挙げることができる。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、相溶化剤はポリアクリレートから選択され、有利にはメタクリレート誘導体から選択され、好ましくは相溶化剤はポリ(エチレン-co-メチルアクリレート-co-グリシジルメタクリレート)である。このような相溶化剤は公知であり、特にDongら(International Journal of Molecular Sciences、2013、14、20189-20203)およびOjijoら(Polymer 2015、80、1-17)に記載されている。好ましい相溶化剤は、BASF社からJONCRYL(登録商標)ADR-4468-の商品名で販売されているポリ(エチレン-co-メチルアクリレート-co-グリシジルメタクリレート)である。
【0024】
本発明において、層Aの組成物中の相溶化剤の含有量は、当該組成物の総重量を基準として、有利には少なくとも0.1重量%、好ましくは0.25~2重量%、より好ましくは0.3~1.5重量%、有利には約0.5重量%である。
【0025】
無機充填剤としては、好ましくは炭酸カルシウムまたはタルクが使用される。
【0026】
植物性充填剤としては、好ましくは澱粉および木質繊維および小麦粉が使用される。
【0027】
本発明の特定の実施形態によれば、特に可撓性物品を調製するために、層Aの組成物は、
- 少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%のPLA(ポリ乳酸)と、
- 少なくとも60重量%の、PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)、PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)およびこれらの混合物から選択されるポリエステルと、
- 0.25~1%のPLA/ポリエステル相溶化剤(特に、上記で定義されたポリアクリレートから選択される)と、
- 2~4%の可塑剤(特に、上記で定義された乳酸オリゴマー(OLA)およびクエン酸エステルから選択される)と
を含む。
【0028】
本発明の別の特定の実施形態によれば、特に硬質物品の場合、層Aの組成物は、
- 少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のポリエステルと、
- 最大30%、好ましくは最大15%、より好ましくは最大10%の添加剤と
を含む。
【0029】
特に、層Aは、実質的に、上記のポリエステルまたは複数のポリエステルの混合物、特にPLAからなる。
【0030】
中央層Bは、層Aおよび層Bが隣接しているか又は層Cにより離れているかにかかわらず、層Aおよび層Bのポリマーを分解可能な酵素を少なくとも0.001%含む。
【0031】
ポリマーを分解可能な酵素は当業者に公知である。本発明による物品の生分解性を向上させるためのポリエステル分解可能酵素について具体的に説明する。本発明の特定の実施形態において、酵素はPLAを分解可能である。そのような酵素およびそれらを熱可塑性物品に組み込む方法は、当業者に公知であり、特に特許出願WO2013/093355、WO2016/198652、WO2016/198650、WO2016/146540およびWO2016/062695に記載されている。好ましくは、これらの酵素はプロテアーゼおよびセリンプロテアーゼから選択される。本発明の特定の実施形態において、セリンプロテアーゼは、トリチラチウム・アルブム(Tritirachium album)由来のプロテイナーゼK、またはアミコラトプシス属(Amycolatopsis sp.)、アクチノマジュラ・ケラティニリティカ(Actinomadura keratinilytica)、ラセエラ・サッカリ(Laceyella sacchari)LP175、テルムス属(Thermus sp.)、もしくはバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来のPLA分解酵素、またはSavinase(登録商標)、Esperase(登録商標)、Everlase(登録商標)などのPLAを分解することが公知の市販の改質酵素、またはサチライシン(subtilisin)CAS 9014-01-1ファミリーの任意の酵素、または任意の機能的改変体から選択される。
【0032】
当業者であれば、中央層Bの酵素含有量を、中央層Bおよびそれを取り囲む層Aのポリエステルを分解させるという目的に応じて適合させるであろう。有利には、中央層の酵素含有量は少なくとも0.002%、より有利には少なくとも0.05%である。これらの含有量は10%に達してもよく、実際にはそれより高くてもよい。層Bのために酵素を10%超含む組成物を配合することは可能であるが、本発明によるプラスチック物品の最も頻繁な用途においては、そのような含有量を超えることはまれである。有利には、層Bの組成物中の酵素含有量は、0.01~7%、好ましくは0.02~5%である。
【0033】
層Bは、酵素に加えて、この層の構成ポリマーを含む。本発明の好ましい実施形態によれば、これらの構成ポリマーは、それらが含有する酵素によって分解され得るポリマー、特に層Aに関して上記にて定義されたポリエステルから選択される。これらの構成ポリマーはまた、PVOH(ポリビニルアルコール)、PVCD(ポリ塩化ビニル)、PGA(ポリグリコール酸)、セルロースおよびその誘導体、乳タンパク質、多糖類、またはこれらの混合物などのバリア材から選択されてもよく、単独または上述のポリエステルとの混合物として使用されてもよい。
【0034】
層Aに関して、ポリエステルは、特に生分解性ポリエステルおよびそれらのコポリマー、特にPBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)、PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)、PHB(ポリ-β-ヒドロキシブチレート)、PHH(ポリヒドロキシヘキサノエート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PLA(ポリ乳酸)、PCL(ポリカプロラクトン)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)および可塑化澱粉ならびにこれらの任意の割合の混合物から選択される。
【0035】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明において、層Bの構成ポリマーの溶融温度は、層Aの構成ポリマーの溶融温度よりも低い。
【0036】
酵素は、層Bのポリマーの調製時に直接添加してもよく、低融点の担体ポリマーに濃縮プレミックスとして添加してもよい。そのような組成物は、特に出願WO2019/043134に記載されている。層Bのポリマーは、有利には、溶融温度140℃未満および/またはガラス転移温度70℃未満の担体ポリマーと多糖類とを含む。
【0037】
溶融温度140℃未満および/またはガラス転移温度70℃未満のポリマーは当業者に公知である。具体的には、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、またはそれらのコポリマーが挙げられる。また、澱粉のような天然ポリマー、またはEVA型コポリマーのような万能と言える、つまり様々なポリマーとの相溶性を有するポリマーであってもよい。有利には、当該担体ポリマーの溶融温度は120℃未満および/またはガラス転移温度は30℃未満である。
【0038】
多糖類は、特にアミロース、アミロペクチン、マルトデキストリン、グルコースシロップ、デキストリンおよびシクロデキストリンなどの澱粉誘導体、アラビアゴム、トラガカントゴム、グアーガム、ローカストビーンゴム、カラヤゴム、メスキートゴムなどの天然ゴム、ガラクトマンナン、ペクチンまたは可溶性大豆多糖類、カラギーナンおよびアルギナートなどの海洋抽出物、ならびにジェラン、デキストラン、キサンタン、キトサンなどの微生物または動物性多糖類、ならびにこれらの混合物から選択される。好ましい多糖類はアラビアゴムである。
【0039】
好ましい酵素組成物は、特に、低融点ポリマー、特にポリカプロラクトン(PCL)を50~95%、好ましくは70~90%、酵素を0.001~10%、好ましくは1~6%、およびアラビアガムを1~30%、好ましくは10~25%含む。
【0040】
本発明の特定の実施形態によれば、層Bは、上記酵素組成物から実質的になる(担体ポリマーも構成ポリマーである)。この組成物に、下記の通常の添加剤を追加してもよい。
【0041】
本発明の別の実施形態によれば、酵素組成物は、層Bに求められる所望の量の酵素を提供するのに十分な量で、通常の方法に従って上述の構成ポリマー(複数可)に添加される。層B中の酵素組成物の含有量は、特に酵素組成物中の酵素の含有量に依存し、有利には層Bの組成物の総重量を基準として1~10%である。
【0042】
特定の実施形態によれば、層Bは、それを構成するポリマーおよび酵素に加えて、上記で定義された担体ポリマーおよび多糖類を含む。
【0043】
本発明の特定の実施形態によれば、層Bは、
- 80~99%、好ましくは90~99%の構成ポリマーと、
- 0~40%、好ましくは0.1~4%の多糖類と、
- 0~40%、好ましくは3~6%の担体ポリマーと、
- 0.005~10%、好ましくは0.01~5%、より好ましくは0.01~3%の酵素とを含む。
【0044】
本発明のより具体的な実施形態によれば、上記層B組成物中の酵素含有量は、0.02~1%の範囲である。
【0045】
層Bの組成物はまた、層Aの組成物の場合と同様に、通常の添加剤を含んでいてもよい。特に、構成ポリマーがPLAと別のポリエステルの混合物を含む場合、有利には、組成物は上記にて定義した相溶化剤および可塑剤を含む。
【0046】
本発明の可撓性物品の特定の実施形態によれば、層Bの組成物は、
- 少なくとも20%のPLA、有利には少なくとも25%のPLAと、
- 少なくとも40%のPBATと、
- 少なくとも0.08%、有利には少なくとも0.5%の上記で定義されたPLA/PBAT相溶化剤と、
- 少なくとも0.4%の、特に上記で記載されたOLAおよびクエン酸エステルから選択される可塑剤と、
- 少なくとも0.002%、有利には少なくとも0.05%の酵素と、
- 少なくとも1.4%、有利には少なくとも1.5%の上記担体ポリマーと、
- 必要に応じて多糖類とを含む。
【0047】
本発明の硬質物品の特定の実施形態によれば、層Bの組成物は、
- 少なくとも90%のPLA、有利には少なくとも95%のPLAと、
- 少なくとも0.002%、有利には少なくとも0.05%の酵素と、
- 少なくとも1.4%、有利には少なくとも1.5%の上記担体ポリマーと、
- 必要に応じて多糖類とを含む。
【0048】
本発明の硬質物品の別の特定の実施形態によれば、層Bの組成物は、
- 少なくとも40%のPLA、有利には少なくとも50%のPLAと、
- 少なくとも15%のPBAT、有利には少なくとも20%のPBATと、
- 少なくとも5%の無機充填剤、有利には少なくとも10%の無機充填剤と、
- 少なくとも0.002%、有利には少なくとも0.05%の酵素と、
- 少なくとも1.4%、有利には少なくとも1.5%の上記担体ポリマーと、
- 必要に応じて多糖類とを含む。
【0049】
本発明のある特定の実施形態によれば、多層物品は、外側のポリエステル層Aと酵素を含む層Bとの間に1つまたは2つの層Cを含んでいてもよい(ABCAまたはACBCA)。こ(れら)の層Cは、本発明による物品に特定の特性を付与するために存在しており、より具体的にはガス、特に酸素に対するバリア性を付与する。
【0050】
このようなバリア材は当業者に公知であり、特にPVOH(ポリビニルアルコール)、PVCD(ポリ塩化ビニル)、PGA(ポリグリコール酸)、セルロースもしくはそれらの誘導体、乳タンパク質、多糖類、またはこれらの任意の割合の混合物であり、層Bの組成物に添加することができるバリア材として上記されたものと同様である。
【0051】
物品の調製において、バリア材として使用されるPVOHは公知であり、重合度が300~2500であるポリビニルアルコールである。その融点は210℃未満であり、その粘度は3~60mPa・sである。
【0052】
物品の調製において、バリア材として使用されるPVCDは公知であり、塩化ビニリデン(85%)および塩化ビニル(15%)を共重合して得られるポリ塩化ビニリデンである。
【0053】
物品の調製において、バリア材として使用されるPGAは公知であり、溶融温度が220℃であり、ガラス転移温度が40℃である、ポリグリコール酸である。
【0054】
セルロースの中では、より具体的には、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)および酢酸セルロースを挙げることができる。
【0055】
バリア材として使用されるMFCは、直径4~10006nmおよび密度0.51~1.57g/cmを有する。
【0056】
バリア材として使用される乳タンパク質の中では、より具体的には、カゼイン、β-ラクトグロブリン、およびα-ラクトアルブミン、ならびに免疫グロブリン、血清アルブミン、ラクトフェリン、およびプラスミンを含む酵素を挙げることができる。
【0057】
バリア材として使用される多糖類も当業者に公知である。より具体的には、ガラクトマンナン、ペクチンまたは可溶性大豆多糖類、カラギーナンおよびアルギナートなどの海洋抽出物、およびジェラン、デキストラン、キサンタン、キシラン、またはキトサンなどの微生物または動物性多糖類、ならびにこれらの混合物を挙げることができる。
【0058】
層Aおよび層Bと同様に、層Cもまた、プラスチック物品の製造に一般的に使用される他の添加剤、例えば、滑剤、可塑剤、核剤、相溶化剤、加工助剤、紫外線安定剤、衝撃防止剤、無機または植物性充填剤などを含んでいてもよい。
【0059】
本発明の好ましい実施形態によれば、層Cの組成物は以下のとおりである:
- 90~100%の上記で定義されたバリア材、および
- 0~10%の添加剤。
【0060】
層Cは、好ましくは95%超、さらに好ましくは99%以上のバリア材を含む。
【0061】
PVOHは、本発明による物品の層Cにとって好ましいバリア材である。
【0062】
本発明による可撓性多層物品は、有利には250μm未満、好ましくは100μm、50μm、40μmまたは30μm未満の厚さを有する。本発明の好ましい実施形態によれば、当該多層物品の厚さは10~20μmである。
【0063】
本発明による硬質多層物品は、有利には150μm超、好ましくは5000μm未満の厚さを有する。本発明の好ましい実施形態によれば、当該多層物品の厚さは150~3000μmである。
【0064】
本発明によるABA、ABCAまたはACBCA型物品の各層の相対厚さは、物品に求められる最終的な特性により、特に強度だけでなく生分解性の観点からも変化し得る。
【0065】
有利には、層Aはそれぞれ単独で物品の総厚の5~30%であり、中央層Bは物品の総厚の40~90%である。好ましくは、中央層Bは物品の総厚の50~90%である。
【0066】
本発明の可撓性物品の好ましい実施形態において、2つの層Aの厚さは同一であり、それぞれ物品の総厚の15~30%、好ましくは16~25%である。
【0067】
本発明の硬質物品の好ましい実施形態において、2つの層Aの厚さは同一であり、それぞれ物品の総厚の2~20%、好ましくは3~15%である。
【0068】
層Cが存在する場合、一般的にその厚さは15μm未満である。層Cはそれぞれ物品の総厚の10%未満である。
【0069】
本発明の特定の実施形態によれば、多層可撓性物品に層Cが存在する場合、その厚さは3μm未満である。層Cはそれぞれ物品の30%未満である。
【0070】
本発明の特定の実施形態によれば、多層硬質物品に層Cが存在する場合、その厚さは20μm未満である。層Cはそれぞれ物品の30%未満である。
【0071】
層A、層Bおよび層Cの組成物は、ポリマー組成物を調製するための通常の技術によって調製される。
【0072】
共押出、カレンダー加工、射出、ラミネーション、特に押出など、各層を連結可能なあらゆる通常の技術を用いた、本発明による多層物品を調製する方法が当業者に周知であろう。好ましくは、物品は各層を共押出することによって調製され、当業者は当該方法を実施するための条件、さらに特に各層の組成物に入れる成分の混合物を決定することができる。有利には、共押出は200℃未満の温度で実施される。
【0073】
本発明による物品は、熱可塑性プラスチック物品のあらゆる一般的な用途に使用でき、特に、包装用品もしくは袋、またはマルチングもしくは郵送用品の作製に使用できる。また、使い捨て食器(プレート、グラス)、包装用品(トレイ、ブリスターパック)または飲料用カプセルの作製にも使用できる。
【0074】
有利には、本発明による物品を製造するための生物由来材料の割合は、30%超、好ましくは40%超である。
【実施例
【0075】
材料および方法
【0076】
I.PBATおよびPLA混合物ペレットの調製
【0077】
ペレットは、Clextral Evolum 25 HT同方向回転二軸スクリュー機にて製造した。ポリマー(PLAおよびPBAT)ならびに相溶化剤を投入するために、2台の重量測定式分注ユニットを使用し、液体TBACを分注するために、PCMポンプを使用した。
【0078】
PLAとJoncryl(登録商標)との混合物を、TBAC可塑剤の存在下で、スクリューの先頭に分注ユニットを介して投入した。この混合物を溶融し、PBAT投入ゾーンに送った。
【0079】
ペレットは、スクリュー速度450rpmおよび流速40kg/hで調製した。
【0080】
ペレット押出に使用したパラメーターを表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
各成分の混合物を、スクリュー内のZ11において溶融し、ただちに湿式切断システムでペレット化し、直径3mm未満の半月状のペレットを得る。
【0083】
従来技術の組成物は、PLA35%およびPBAT61%、TBAC3%およびJoncryl(登録商標)ADR 4468 C 1%(組成物の総重量を基準とした重量%)を含んで調製される。
【0084】
II.担体ポリマーおよび酵素ミックスの調製
【0085】
担体ポリマーおよび酵素ミックスは、WO2019/043134に記載されているように、ポリカプロラクトン(PCL)ペレットおよび液体状の酵素から調製される。
【0086】
担体ポリマーおよび酵素ミックスは、独立した11の温度制御ゾーンを備えるCLEXTRAL EV25HT二軸スクリュー押出機を用いて製造した。PCLを16kg/hにてゾーン1に、酵素溶液を4kg/hにてゾーン5に、ペリスタルティックポンプを使用して投入する。各ゾーンは表2に従って加熱される。酵素溶液20%(総重量を基準とした重量%)をPCLに加える。
【0087】
【表2】
【0088】
III.市販品
【0089】
これらの実施例において、PLAはNatureWorks社からIngeo(商標)Biopolymer 4043Dという製品名で、またTotal Corbion社からLuminy(登録商標)LX175という製品名で販売されており、PCLはPerstorp社からCapa(商標)6500という製品名で、BASF社からJoncryl(登録商標)ADR 4468という製品名で販売されており、TBAC Citrofol(登録商標)BIIはJungbunzlauer社から販売されており、PBATはWango社からA400という製品名で販売されており、生分解性化合物はNovamontからMater-Biという製品名で、またCarbiolice社からBiolice.Bags 6040Tという製品名で販売されている。
【0090】
IV.フィルムの製造
【0091】
多層フィルムの調製には、Eurexma 3層共押出吹込ライン、幅275~300mmおよびL/D=30のスクリューを使用する。吹込速度は約3.5~3.9であった。設定および温度を表3および表4に詳述する。
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
V.硬質シートの製造
【0095】
硬質シートの調製には、3層共押出カレンダー加工ラインを使用する。層Bには直径45のFAIREX押出機が、層Aには直径30のSCAMEX押出機および直径30のDavis standardが使用される。使用するフラットダイは220mmであり、公称開口1.5mmおよびABA共押出ボックスを有する調節可能なリップを備える。設定および温度を表5に詳述する。
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
VI.分析方法
【0099】
フィルムの機械的特性を、規格EN ISO 527-3(プラスチック-引張特性の測定-第3部:フィルムおよびシートの試験条件)に従って測定する。
【0100】
フィルムの生分解性を、以下のプロトコルに従って実施される解重合試験にて評価した。各サンプル100mgを、pH9.5の緩衝液50mLを入れたプラスチックバイアルに入れた。各サンプルを、150rpmにて振盪するインキュベーター内において、45℃でインキュベートすることにより、解重合を開始した。緩衝液の1mLアリコートを定期的に採取し、0.22μmフィルターシリンジにてろ過し、Aminex HPX-87Hカラムを備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析して、乳酸(LA)およびそのダイマーの遊離を測定する。使用したクロマトグラフィーシステムは、ポンプ、オートサンプラー、50℃に温度調節されたカラムおよび220nmのUV検出器を備えた、Ultimate 3000 UHPLCシステム(Thermo Fisher Scientific, Inc.米国マサチューセッツ州ウォルサム)である。溶出液は5mMのHSOである。注入するのは20μLのサンプルである。市販の乳酸から作成した標準曲線より、乳酸を測定する。
プラスチックフィルムの加水分解は、遊離した乳酸および乳酸ダイマーから計算される。解重合の割合は、サンプル中のPLAの割合との関係から計算する。
【0101】
結果
【0102】
VII.フィルム組成および結果
【0103】
フィルムは、Iにおいて調製したペレット、IIにおいて調製した担体ポリマーおよび酵素ミックス、PBATならびにBiolice.Bags 6040Tを用いて調製した。
【0104】
中央層Bは、Iにおいて調製したペレットおよび担体ポリマー、またはIにおいて調製したペレットおよびIIにおいて調製した担体ポリマーおよび酵素ミックスを用いて調製する。
【0105】
外側の層Aは、PBAT(100%)またはBiolice.bags 6040T(100%)からなる。
【0106】
フィルムに関し、A/B/A各層の相対厚さは20%/60%/20%である。
【0107】
これら異なるフィルムの組成を下記表7に示す。
【0108】
【表7】
【0109】
本発明のフィルム2および4に対し、フィルム1および3はそれぞれ従来技術の参照としての役割を果たす。
【0110】
ミックスの存在は、押出吹込プロセスに影響を与えない。従来技術のフィルムと本発明のフィルムとの間で、プロセスパラメーターは同一である。
【0111】
このように測定された機械的特性は、本発明で開示されたフィルムが本分野に対応かつ合致する機械的特性を有することを示す。結果を表8に示す。
【0112】
【表8】
【0113】
フィルムの生分解性を、Vに記載の方法に従って評価した。
【0114】
担体ポリマーおよび酵素ミックスを含有しないフィルム1および3は、解重合率がゼロである。
【0115】
本発明によるフィルム2および4は、9日後の解重合率が、それぞれ6.7%および8.4%である。
【0116】
VIII.シート組成および結果
【0117】
シートは、PLA、Biolice.Bags 6040T、Mater-Bi、およびIIにおいて調製したミックスを用いて調製した。
【0118】
中央層Bは、PLAもしくはMater-Biと担体ポリマーとを用いて、またはPLAもしくはMater-BiとIIにおいて調製したミックスを用いて調製する。
【0119】
外側の層Aは、PLA(100%)またはBiolice.bags 6040T(100%)またはMater-Bi(100%)からなる。
【0120】
フィルムに関し、A/B/A各層の相対厚さは5%/90%/5%である。
【0121】
これら異なるシートの組成を下記表9に示す。
【0122】
【表9】
【0123】
ミックスの存在は、プロセスに影響を与えない。従来技術のシートまたは本発明のシートの間で、プロセスパラメーターは同一である。