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特許7493566筋ジストロフィーを治療するためのマイクロジストロフィン断片のアデノ随伴ウイルスベクター送達
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】筋ジストロフィーを治療するためのマイクロジストロフィン断片のアデノ随伴ウイルスベクター送達
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240524BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240524BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240524BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240524BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240524BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20240524BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20240524BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20240524BHJP
   A61P 21/04 20060101ALN20240524BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/11 Z
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
A61K35/76
A61K48/00
A61P21/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022166267
(22)【出願日】2022-10-17
(62)【分割の表示】P 2019571814の分割
【原出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2022185154
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】62/473,255
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519333985
【氏名又は名称】ニューカッスル ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】519333996
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ハイデルベルク
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ロックミュラー
(72)【発明者】
【氏名】オリバー ミューラー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-318467(JP,A)
【文献】国際公開第2015/197869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のヌクレオチド配列を含む、プラスミド。
【請求項2】
筋特異的制御エレメントをさらに含む、請求項1に記載のプラスミド。
【請求項3】
前記筋特異的制御エレメントが、ヒト骨格アクチン遺伝子エレメント、心臓アクチン遺伝子エレメント、筋細胞特異的エンハンサー結合因子(MEF)、筋肉クレアチンキナーゼプロモーター(MCK)、切断型MCK(tMCK)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)、ハイブリッドα-ミオシン重鎖エンハンサー/MCKエンハンサープロモーター(MHCK7)、C5-12、マウスクレアチンキナーゼエンハンサーエレメント、急収縮性骨格トロポニンC遺伝子エレメント、遅収縮性心筋トロポニンC遺伝子エレメント、遅収縮性トロポニンI遺伝子エレメント、低酸素誘導性核因子、ステロイド誘導性エレメント、または糖質コルチコイド応答エレメント(GRE)である、請求項2に記載のプラスミド。
【請求項4】
配列番号2のヌクレオチド配列を含む、プラスミド。
【請求項5】
前記プラスミドが、AAV repおよびcap遺伝子を有しない、請求項1~4のいずれか一項に記載のプラスミド。
【請求項6】
選択可能なマーカーをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のプラスミド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のプラスミドを含むバクテリア性細胞。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のプラスミドを含むパッケージング細胞。
【請求項9】
前記パッケージング細胞が、293細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、Vero細胞、及びFrhL-2細胞からなる群から選択される、請求項8に記載のパッケージング細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型化ヒトマイクロジストロフィン遺伝子の機能性断片を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどの遺伝子治療ベクター、およびこれらのベックターを使用して横隔膜および心筋を含む骨格筋でマイクロジストロフィン断片を発現することにより、筋繊維を損傷から保護し、筋力を増強し、筋ジストロフィーに罹患している患者の線維症を軽減および/または予防する方法を提供する。
【0002】
本出願は、2017年3月17日に出願された米国仮特許出願第62/473255号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本出願は、本開示の別個の部分として、その全体が参照により組み込まれ、以下のように識別されるコンピューター可読形式の配列表を含む:ファイル名:50217A_Seqlisting.txt;サイズ:17751バイト、作成日;2018年3月13日。
【背景技術】
【0004】
運動や呼吸などの日常活動、および全身代謝のために筋肉量と筋力が重要であることは明らかである。筋肉機能の欠損は、筋力の低下と消耗を特徴とする筋ジストロフィー(MD)を引き起こし、生活の質に深刻な影響を及ぼす。最もよく特徴付けられたMDは、ジストロフィン関連タンパク質複合体(DAPC)のメンバーをコードする遺伝子の突然変異に起因する。これらのMDは、DAPCによる筋細胞膜細胞骨格テザリングの喪失に関連する膜の脆弱性に起因する。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、新生児男性の5000人に一人が発症する最も壊滅的な筋肉疾患の一つである。
【0005】
DMDは、mRNAの減少と、ジストロフィン関連タンパク質複合体(DAPC)に結合する427kDの筋細胞膜タンパク質であるジストロフィンの欠如につながるDMD遺伝子の変異によって引き起こされる(Hoffman et al.,Cell 51(6):919-28,1987)。DAPCは、アクチン結合タンパク質であるジストロフィン、およびラミニン結合タンパク質であるアルファジストログリカンを介して細胞外マトリックス(ECM)と細胞骨格との間の構造的リンクを形成する、筋細胞膜における複数のタンパク質から構成される。これらの構造的リンクは、収縮中に筋肉細胞膜を安定させ、収縮による損傷から保護するように作用する。ジストロフィンの損失により、膜の脆弱性は筋細胞膜の裂傷とカルシウムの流入をもたらし、カルシウム依存性プロテアーゼと分節線維壊死を引き起こす(Straub et al.,Curr Opin.Neurol.10(2):168-75,1997)。この制御されない筋肉の変性と再生のサイクルは、最終的に筋肉幹細胞集団を疲弊させ(Sacco et al.,Cell,2010.143(7):p.1059-71;Wallace et al.,Annu Rev Physiol,2009.71:p.37-57)、進行性筋力低下、筋内膜炎症、および線維性瘢痕をもたらす。
【0006】
ジストロフィンまたはマイクロジストロフィンによる膜の安定化なしでは、DMDは制御されない組織損傷のサイクルが現れ、最終的に結合組織の増殖を通じて失われた筋線維を線維性瘢痕組織で置換する。線維症は、コラーゲンおよびエラスチンを含むECMマトリックスタンパク質の過剰な沈着によって特徴付けられる。ECMタンパク質は、主にストレスおよび炎症に応答する活性化線維芽細胞によって放出されるTGFβなどのサイトカインにより産生される。DMDの主な病理学的特徴は筋線維の変性および壊死であるが、病理学的な結果としての線維症は、同等の影響を有する。線維組織の過剰産生は、筋肉の再生を制限し、DMD患者における進行性筋力低下の一因となる。一研究では、初期DMD筋生検での線維症の存在は、10年間の追跡調査での運動転帰不良と高い相関が示された(Desguerre et al.,J Neuropathol Exp Neurol,2009.68(7):p.762-7)。これらの結果は、線維症がDMD筋機能障害の主な原因であることを示しており、線維症が明らかになる前の早期介入の必要性を強調している。
【0007】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、145ヌクレオチドの逆方向末端反復(ITR)を含む約4.7kbの長さである。AAVには複数の血清型がある。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が既知である。例えば、AAV血清型2(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、Ruffing et al.,J Gen Virol,75:3385-3392(1994)によって修正された、Srivastava et al.,J Virol,45:555-564(1983)に提示されている。他の例として、AAV-1の完全なゲノムはGenBank Accession No.NC_002077で提供されている。AAV-3の完全なゲノムはGenBank Accession No.NC_1829で提供されている。AAV-4の完全なゲノムはGenBank Accession
No.NC_001829で提供されている。AAV-5ゲノムはGenBank Accession No.AF085716で提供されている。AAV-6の完全なゲノムはGenBank Accession No.NC_001862で提供されている。AAV-7およびAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれGenBank Accession No.AX753246およびAX753249で提供されている(AAV-8に関連する米国特許第7282199号および7790449号も参照)。AAV-9ゲノムはGao et al.,J.Virol.x,78:6381-638
8(2004)で提供されている。AAV-10ゲノムはMol.Ther.,13(1):67-76(2006)で提供されている。AAV-11ゲノムはVirology,330(2):375-383(2004)で提供されている。AAVrh.74血清型のクローニングは、Rodino-Klapac.,et al.Journal of Translational Medicine 5, 45(2007)に記載されている。ウイルスDNA複製(rep)、キャプシド形成/パッケージング、および宿主細胞染色体組込みを指示するCis作用配列は、ITR内に含まれる。3つのAAVプロモーター(それらの相対マップ位置に対してp5、p19、およびp40と名付けられる)は、repおよびcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。単一のAAVイントロンの差異的スプライシング(例えば、AAV2のヌクレオチド2107および2227において)と結合された2つのrepプロモーター(p5およびp19)は、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、およびrep40)の産生をもたらす。Repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製に関与する複数の酵素特性を有する。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードする。選択的スプライシングおよび非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連カプシドタンパク質の産生に関与する。単一コンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環および遺伝学は、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)においてレビューされている。
【0008】
AAVは、例えば、遺伝子療法において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとして魅力的である固有の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞変性であり、ヒトおよび他の動物の自然感染は、サイレントかつ無症候性である。さらに、AAVは、多くの哺乳動物細胞を感染させ、インビボで多くの異なる組織を標的化する可能性を可能にする。さらに、AAVは、緩徐に分裂する細胞および非分裂細胞を形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外因子)として本質的にそれらの細胞の寿命にわたって存続し得る。AAVプロウイルスゲノムは、組換えゲノムの構築を実現可能にするプラスミド中のクローニングされたDNAとして感染性である。さらに、AAV複製、ゲノムキャプシド形成および組込みを指示するシグナルが、AAVゲノムのITR内に含まれるので、内部約4.3kbのゲノム(複製および構造キャプシドタンパク質、rep-capをコードする)の一部またはすべてがプロモーター、目的のDNAおよびポリアデニル化シグナルを含む遺伝子カセットなどの外来DNAで置換され得る。repおよびcapタンパク質は、トランスで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、それが極めて安定かつ頑健なウイルスであることである。これは、アデノウイルスを不活性化するために使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を低くする。AAVは、凍結乾燥され得る。最後に、AAV感染細胞は、重複感染に耐性を示さない。
複数の研究により、筋肉内での長期(1.5年超)の組換えAAV媒介タンパク質発現が実証されている。Clark et al.,Hum Gene Ther,8:659-669(1997)、Kessler et al., Proc Nat. Acad Sc.USA,93:14082-14087(1996)、およびXiao et al.,J Virol,70:8098-8108(1996)を参照されたい。Chao et al.,Mol Ther,2:619-623(2000)およびChao et al.,Mol Ther,4:217-222(2001)も参照されたい。さらに、筋肉は高度に血管が新生されるため、Herzog et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:5804-5809(1997)およびMurphy et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:13921-13926(1997)に記載されているように、筋肉内注射後に組換えAAV形質導入は、トランス遺伝子産物の全身循環をもたらす。さらに、Lewis et al.,J Virol,76:8769-8775(2002)は、骨格筋繊維が正しい抗体のグリコシル化、折り畳み、および分泌に必要な細胞因子を有することを実証し、筋肉が分泌タンパク質治療薬を安定して発現できることを示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Hoffman et al.,Cell 51(6):919-28,1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
DMDやその他の筋ジストロフィーに罹患している患者における機能改善には、病気の初期段階において遺伝子修復が必要である。筋力を増強して、DMDに罹患している患者の筋肉損傷を防ぐ治療が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、筋繊維を損傷から保護して筋力を増強して、線維症を軽減および/または予防することを目的とする、遺伝子治療ベクター、例えば、横隔膜および心筋を含む骨格筋でマイクロジストロフィンタンパク質の機能性断片を発現するAAVを対象とする。本発明は、DMDで観察される遺伝子欠損に対処するために、マイクロジストロフィンの機能性断片を送達する遺伝子治療ベクターを用いて、筋力を増強および/または筋肉量を増加させる治療法およびアプローチを提供する。
【0012】
一実施形態では、本発明は、配列番号1のヌクレオチド配列を含むrAAVベクターを提供する。配列番号1のヌクレオチド配列は、大きなロッド欠失を含む機能性マイクロジストロフィンである。ヒンジ1、4およびスペクトリンリピート24を保持する。また、ジストロフィンのC末端断片が含まれている。マイクロジストロフィンタンパク質の機能活性は、筋肉収縮中に筋肉膜に対して安定性を提供することであり、例えば、マイクロジストロフィンは筋肉収縮中に衝撃吸収材として機能する。
【0013】
本発明は、配列番号1のマイクロジストロフィンヌクレオチド配列の機能性断片および配列番号3のMHCK7プロモーターヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクターを提供する。
【0014】
本発明はまた、配列番号2のpAAV.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端コンストラクトのヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクターを提供する。
【0015】
「筋特異的制御エレメント」という用語は、筋肉組織における発現に特異的なコーディング配列の発現を調節するヌクレオチド配列を指す。これらの制御エレメントにはエンハンサーおよびプロモーターが含まれる。本発明は、筋特異的制御エレメントである、MHCK7プロモーター、MCKプロモーターおよびMCKエンハンサーを含むコンストラクトを提供する。
【0016】
一態様では、本発明は、筋特異的制御エレメントおよびマイクロジストロフィン遺伝子の機能性断片を含むrAAVベクターを提供する。例えば、筋特異的制御エレメントは、ヒト骨格アクチン遺伝子エレメント、心臓アクチン遺伝子エレメント、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)、切断型MCK(tMCK)、ミオシン重鎖(MHC)、ハイブリッドα-ミオシン重鎖エンハンサー/MCKエンハンサープロモーター(MHCK7)、C5-12、マウスクレアチンキナーゼエンハンサーエレメント、急収縮性骨格トロポニンC遺伝子エレメント、遅収縮性心筋トロポニンC遺伝子エレメント、遅収縮性トロポニンI遺伝子エレメント、低酸素誘導性核因子、ス
テロイド誘導性エレメント、または糖質コルチコイド応答エレメント(GRE)である。
【0017】
例えば、筋特異的制御エレメントはMHCK7プロモーターヌクレオチド配列の配列番号3であるか、または筋特異的制御エレメントはMCKヌクレオチド配列の配列番号4である。さらに、本発明のrAAVベクターのいずれにおいても、筋特異的制御エレメントヌクレオチド配列、例えば、MHCK7またはMCKヌクレオチド配列は、マイクロジストロフィンタンパク質をコードするヌクレオチド配列に動作可能に連結される。例えば、MHCK7プロモーターヌクレオチド配列(配列番号3)は、図1または図5に提供されるコンストラクトに示されているように、ヒトマイクロジストロフィン遺伝子(配列番号1)の機能性断片に動作可能に連結される(配列番号2)。MCKプロモーターヌクレオチド配列(配列番号4)は、ヒトマイクロジストロフィン遺伝子(配列番号1)の機能性断片に動作可能に連結される。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、配列番号2のヌクレオチド配列を含む、図1に示されるrAAVベクターを提供する。このrAAVベクターは、MHCK7プロモーター、キメライントロン配列、ヒトマイクロジストロフィン遺伝子の機能性断片のコーディング配列、ポリA、アンピシリン耐性、およびpBR322複製起点を有するpGEXプラスミド骨格を含む。
【0019】
本発明のrAAVベクターは、血清型AAVrh.74、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12またはAAV13などの任意のAAV血清型であってもよい。
【0020】
本発明はまた、本発明のrAAVベクターのいずれかを含む医薬組成物(本明細書では単に「組成物」と呼ばれることもある)も提供する。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、本発明のrAAVベクターで遺伝子導入された細胞を培養し、遺伝子導入された細胞の上清からrAAV粒子を回収することを含む、rAAVベクター粒子の生産方法を提供する。本発明はまた、本発明の組換えAAVベクターのいずれかを含むウイルス粒子を提供する。
【0022】
本発明は、ヒトマイクロジストロフィン遺伝子の機能性断片を発現する本発明の組換えAAVベクターのいずれかの治療有効量を投与することを含む、筋ジストロフィーの治療方法を提供する。
【0023】
本発明は、配列番号1のヒトマイクロジストロフィンヌクレオチド配列の機能性断片および配列番号3のMHCK7プロモーターヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクターの治療有効量を投与することを含む、筋ジストロフィーの治療方法を提供する。
【0024】
本発明はまた、配列番号2のコンストラクトpAAV.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端ヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクターの治療有効量を投与することを含む、筋ジストロフィーの治療方法を提供する。「線維症」は、細胞外マトリックス(ECM)成分の過剰沈着または無制御沈着、および骨格筋、心筋、肝臓、肺、腎臓、および膵臓を含む損傷時の組織における異常な修復プロセスを指す。沈着するECM成分には、フィブロネクチンとコラーゲン、例えばコラーゲン1、コラーゲン2またはコラーゲン3が含まれる。
【0025】
別の実施形態では、本発明は必要とする患者において、筋肉を標的としてヒトマイクロジストロフィンタンパク質の機能性断片を発現する任意の組換えAAVベクターの治療有効量を投与すること、および心臓におけるより良い心臓遺伝子送達と発現を含む、線維症を予防する方法を提供する。例えば、本発明のrAAVのいずれかを、線維症を防止するために筋ジストロフィーに罹患している患者に投与する。
【0026】
例えば、線維症が患者に観察される前に、ヒトマイクロジストロフィンタンパク質の機能性断片を発現する本発明のrAAVを投与する。さらに、ヒトマイクロジストロフィン遺伝子の機能性断片を発現する本発明のrAAVは、例えばDMDなどの筋ジストロフィーに罹患しているまたは罹患していると診断された患者など、線維症を発症するリスクのある患者に投与される。本発明のrAAVは、筋ジストロフィーに罹患している患者に、これらの患者において新たな線維症を予防するために、投与される。
これらの方法は、マイクロジストロフィンを発現するrAAVを投与するステップをさらに含んでもよい。
【0027】
本発明は、患者において線維症が観察される前に、本発明のAAVベクターのいずれかを投与することを企図する。また、本発明のrAAVは、DMDなどの筋ジストロフィーに罹患しているまたは罹患していると診断された患者など、線維症を発症するリスクのある患者に投与される。本発明のrAAVは、既に線維症を発症している、筋ジストロフィーに罹患している患者に、これらの患者における新たな線維症を予防するために、投与される。
【0028】
本発明はまた、ヒトジストロフィン遺伝子の機能性断片を発現する本発明のrAAVベクターのいずれかの治療有効量を投与することを含む、筋ジストロフィーに罹患している患者の筋力および/または筋肉量を増加させる方法を提供する。これらの方法は、マイクロジストロフィンタンパク質の機能性断片を発現するrAAVを投与するステップをさらに含んでもよい。
【0029】
本発明は、患者において線維症が観察される前に、または筋力が減少する前に、あるいは筋肉量が減少する前に、DMDと診断された患者に本発明のAAVベクターのいずれかを投与することを企図する。
【0030】
本発明はまた、既に線維症を発症している患者の新たな線維症を予防するために、筋ジストロフィーに罹患している患者に、本発明のrAAVのいずれかを投与することを企図する。本発明はまた、筋肉をさらなる損傷から保護するために、すでに筋力が低下している、または筋肉量が低下している筋ジストロフィーに罹患している患者に、本発明のrAAVのいずれかを投与することを提供する。
【0031】
本発明の方法のいずれにおいても、患者は、DMDなどの筋ジストロフィーまたは他のジストロフィン関連筋ジストロフィーに罹患していてもよい。
【0032】
別の態様では、マイクロジストロフィンタンパク質を発現するrAAVベクターは、MHCK7またはMCK以外の筋特異的制御エレメントに動作可能に連結されたマイクロジストロフィン遺伝子のコーディング配列を含む。例えば、筋特異的制御エレメントは、ヒト骨格アクチン遺伝子エレメント、心臓アクチン遺伝子エレメント、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、tMCK(切断型MCK)、ミオシン重鎖(MHC)、C5-12(合成プロモーター)、マウスクレアチンキナーゼエンハンサーエレメント、急収縮性骨格トロポニンC遺伝子エレメント、遅収縮性心筋トロポニンC遺伝子エレメント、遅収縮性トロポニンI遺伝子エレメント、低酸素誘導性核因子、ステロイド誘導性エレメント、または糖質コルチコイド応答エレメント(GRE)である。
【0033】
本発明の方法のいずれにおいても、rAAVベクターまたは組成物は、筋肉内注射または静脈内注射により投与される。
【0034】
さらに、本発明の方法のいずれにおいても、rAAVベクターまたは組成物は全身に投与される。例えば、rAAVベクターまたは組成物は、注射、注入または移植により非経口投与される。
【0035】
別の実施形態では、本発明は、必要とする患者の線維症を低減するための、本発明のrAAVベクターのいずれかを含む組成物を提供する。
【0036】
さらに、本発明は、筋ジストロフィーに罹患している患者の線維症を予防するための、本発明の組換えAAVベクターのいずれかを含む組成物を提供する。
【0037】
本発明は、筋ジストロフィーを治療するための、本発明の組換えAAVベクターのいずれかを含む組成物を提供する。
【0038】
本発明は、筋ジストロフィーを治療するための、配列番号1のヒトマイクロジストロフィンヌクレオチド配列の機能性断片および配列番号3のMHCK7プロモーター配列を含む組換えAAVベクターを含む組成物を提供する。
【0039】
本発明は、筋ジストロフィーを治療するための、配列番号2のコンストラクトpAAV.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端ヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクターを含む組成物を提供する。
【0040】
本発明は、筋ジストロフィーに罹患している患者の筋力および/または筋肉量を増加させるための、本発明のrAAVベクターのいずれかを含む組成物も提供する。さらに別の実施形態では、本発明は、筋ジストロフィーを治療するための、本発明のrAAVベクターのいずれかを含む組成物を提供する。
【0041】
本発明の組成物は、筋肉内注射または静脈内注射用に製剤化される。本発明の組成物は、注射、注入または移植による非経口投与などの全身投与用にも製剤化される。
【0042】
また、いずれの組成物は、DMDなどの筋ジストロフィーまたは他のジストロフィン関連筋ジストロフィーに罹患している患者への投与用に製剤化される。
【0043】
さらに別の実施形態では、本発明は、必要とする患者の線維症を低減するための薬剤の調製のための、本発明のrAAVベクターのいずれかの使用を提供する。例えば、患者は、DMDまたは他のジストロフィン関連筋ジストロフィーなどの筋ジストロフィーに罹患している必要がある。
【0044】
別の実施形態では、本発明は、筋ジストロフィーに罹患している患者の線維症を予防するための薬剤の調製のための、本発明のrAAVベクターのいずれかの使用を提供する。
【0045】
また、本発明は、筋ジストロフィーに罹患している患者の筋力および/または筋肉量を増加させるための薬剤の調製のための、本発明の組換えAAVベクターの使用を提供する。
【0046】
本発明はまた、筋ジストロフィーを治療するための薬剤の調製のための、本発明のrAAVベクターの使用を提供する。
【0047】
本発明は、筋ジストロフィーを治療するための薬剤の調製のための、配列番号1のヒトマイクロジストロフィンヌクレオチド配列の断片および配列番号3のMHCK7プロモーターヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクターの使用を提供する。
【0048】
本発明は、筋ジストロフィーを治療するために、配列番号2のコンストラクトpAAV.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端ヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクターの使用を提供する。
【0049】
本発明の使用のいずれにおいても、薬剤は筋肉内注射または静脈内注射用に製剤化される。また、本発明の使用のいずれにおいても、薬剤は、注射、注入または移植による非経口投与などの全身投与用に製剤化される。
【発明の効果】
【0050】
いずれの薬剤は、DMDなどの筋ジストロフィーまたは他のジストロフィン関連筋ジストロフィーに罹患している患者への投与のために調製することができる。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
配列番号1のヌクレオチド配列を含む組換えAAVベクター。
(項目2)
筋特異的制御エレメントをさらに含む、項目1に記載の組換えAAVベクター。
(項目3)
前記筋特異的制御エレメントが、ヒト骨格アクチン遺伝子エレメント、心臓アクチン遺伝子エレメント、筋細胞特異的エンハンサー結合因子mef、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)、切断型MCK(tMCK)、ミオシン重鎖(MHC)、ハイブリッドα-ミオシン重鎖エンハンサー/MCKエンハンサープロモーター(MHCK7)、C5-12、マウスクレアチンキナーゼエンハンサーエレメント、急収縮性骨格トロポニンC遺伝子エレメント、遅収縮性心筋トロポニンC遺伝子エレメント、遅収縮性トロポニンI遺伝子エレメント、低酸素誘導性核因子、ステロイド誘導性エレメントまたは糖質コルチコイド応答エレメント(GRE)である、項目2に記載の組換えAAVベクター。
(項目4)
配列番号2のヌクレオチド配列を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の組換えAAVベクター。
(項目5)
配列番号2のヌクレオチド配列を含む、組換えAAVベクター。
(項目6)
前記ベクターが、血清型AAVrh.74、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12またはAAV13である、項目1~5のいずれか一項に記載の組換えAAVベクター。
(項目7)
項目1~6のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターおよび担体を含む組成物。
(項目8)
項目1~6のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目7に記載の組成物の治療有効量を投与することを含む、筋ジストロフィーに罹患している患者の筋力または筋肉量を増加させる方法。
(項目9)
項目1~6のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目7に記載の組成物の治療有効量を投与することを含む、筋ジストロフィーを治療する方法。
(項目10)
前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型筋ジストロフィーである、項目8または9に記載の方法。
(項目11)
前記組換えAAVベクターまたは前記組成物が、筋肉内注射または静脈内注射によって投与される、項目8~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記組換えAAVベクターまたは前記組成物が全身に投与される、項目8~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記組換えAAVベクターまたは前記組成物が、注射、注入または移植により非経口投与される、項目12に記載の方法。
(項目14)
筋ジストロフィーに罹患している患者の筋力または筋肉量を増加させるための、項目1~6のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターを含む組成物。
(項目15)
筋ジストロフィーを治療するための、項目1~6のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターを含む組成物。
(項目16)
前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型筋ジストロフィーである、項目14または15に記載の組成物。
(項目17)
筋肉内注射または静脈内注射用に製剤化される、項目14~16のいずれか一項に記載の組成物。
(項目18)
前記組換えAAVベクターまたは前記組成物は全身的に投与される、項目14~16のいずれか一項に記載の組成物。
(項目19)
前記組換えAAVベクターまたは前記組成物は、注射、注入または移植により非経口投与される、項目18に記載の方法。
(項目20)
筋ジストロフィーに罹患している患者の筋力または筋肉量を増加させる薬剤の調製のための、項目1~6のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目7に記載の組成物の使用。
(項目21)
筋ジストロフィー治療薬の調製のための、項目1~6のいずれか一項に記載の組換えAAVベクターまたは項目7に記載の組成物の使用。
(項目22)
前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型筋ジストロフィーである、項目20または21のいずれか一項に記載の使用。
(項目23)
前記薬剤が筋肉内または静脈内投与用に製剤化される、項目20~22のいずれか一項に記載の使用。
(項目24)
前記薬剤が全身送達用に製剤化される、項目20~22のいずれか一項に記載の使用。
(項目25)
前記薬剤が、注射、注入または移植による非経口投与用に製剤化される、項目24に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、rAAVrh74.MHCK7.C末端.マイクロジストロフィン.の概略図を示す。このrAAVベクターは、MHCK7プロモーター(790bp)、キメライントロン配列、ヒトマイクロジストロフィン遺伝子の機能性断片のコーディング配列、ポリA、アンピシリン耐性、およびpBR322複製起点を有するpGEXプラスミド骨格を含む。
【0052】
図2図2は、mdxマウスの前脛骨筋に1x1011vgまたは3x1011vgで注射した後の発現観察を示す。両方で良好な発現が観察された。
【0053】
図3図3は、前脛骨筋へ注射した後のC末端ポリクローナル抗体を用いたジストロフィンの免疫組織染色を示す。
【0054】
図4図4は、rAAVrh.74.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端の全身投与後の、心筋線維の広範囲に及ぶ形質導入を示す。表1に全身送達後のマイクロジストロフィン.C末端発現の定量化を示す。4つの任意の20X画像をカウントし、画像内のすべての筋線維に対する陽性線維の割合として表した。5匹の平均±SD。
【0055】
図5-1】図5は、rAAVrh74.MHCK7.C末端.マイクロジストロフィン.コンストラクト(配列番号2)の核酸配列を示す。
図5-2】同上。
図5-3】同上。
図5-4】同上。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明は、遺伝子治療ベクター、例えば、ヒトマイクロジストロフィンタンパク質の機能性断片を過剰発現するrAAVベクター、および筋ジストロフィー患者の線維症を軽減および予防する方法を提供する。DMDが診断された最も早い年齢で行われた筋生検では、明らかに顕著な結合組織の増殖が見られる。筋線維症は複数の点で有害である。筋線維症は、結合組織バリアを介した筋内膜の栄養素の正常な通過を減らし、血流を減らして、筋肉から血管由来の栄養成分を奪い、機能的に四肢拘縮による早期の歩行喪失の一因となる。経時的に、顕著な筋肉線維化の結果として、治療への課題が増える。これは、連続的な時点で結合組織の増殖を比較する筋生検において観察できる。特に車椅子に依存する患者では、このプロセスは悪化し続け、歩行喪失につながり、制御不能を早める。
【0057】
線維症を減らすための並行アプローチの早期治療なしでは、エクソンスキッピング、終止コドンリードスルーまたは遺伝子置換療法の利点が十分に達成される可能性が低い。筋線維症を軽減するアプローチなしでは、低分子またはタンパク質置換戦略でさえ、失敗する可能性がある。既存の線維症を有する高齢mdxマウスをAAV.micro-dystrophinで治療した過去の研究では、完全な機能回復を達成できないことが示された(Liu、M.,et al.,Mol Ther 11,245-256(2005))。DMD心筋症の進行は、心室壁の瘢痕と線維症を伴うことも知られている。
【0058】
本明細書で使用される「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスの一般的な略語である。アデノ随伴ウイルスは、ある特定の機能が同時感染ヘルパーウイルスによって提供される細胞内でのみ成長する一本鎖DNAパルボウイルスである。現在、特徴付けられているAAVの血清型は13ある。AAVの一般的な情報および概説は、例えば、Carter,1989,Handbook of Parvoviruses, Vol.1,pp.169-228、およびBerns,1990,Virology,pp.1743-1764,Raven Press,(New York)に見つけることができる。しかしながら、様々な血清型が遺伝子レベルでさえも構造および機能の両方で非常に密接に関連していることがよく知られているため、これらの同じ原理が追加のAAV血清型に適用可能であることが十分に予想される。(例えば、Blacklowe,1988,pp.165-174 of Parvoviruses and Human Disease,J. Pattison、ed.,およびRose,Comprehensive Virology 3:1-61(1974)を参照)。例えば、すべてのAAV血清型は、相同rep遺伝子によって媒介される非常に類似した複製特性を明らかに呈し、これらはすべて、AAV2で発現されたものなどの3つの関連カプシドタンパク質を有する。関連性の程度は、ゲノムの長さに沿った血清型間の広範な交差ハイブリダイゼーション、および「逆方向末端反復配列」(ITR)に対応する末端における類似の自己アニーリングセグメントの存在を明らかにするヘテロ二本鎖分析によってさらに示唆される。類似の感染性パターンは、各血清型における複製機能が類似の調節制御下にあることも示唆する。
【0059】
本明細書で使用される「AAVベクター」とは、AAV末端反復配列(ITR)に隣接している一つ以上の目的とするポリヌクレオチド(またはトランス遺伝子)を指す。かかるAAVベクターは、repおよびcap遺伝子産物をコードするおよび発現するベクターで遺伝子導入された宿主細胞中に存在する場合に、感染ウイルス粒子に複製およびパッケージングされ得る。
【0060】
「AAVビリオン」もしくは「AAVウイルス粒子」または「AAVベクター粒子」とは、少なくとも一つのAAVキャプシドタンパク質およびキャプシド化されたポリヌクレオチドAAVベクターから成るウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳類細胞に送達されるトランス遺伝子などの野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは、典型的には、「AAVベクター粒子」または単に「AAVベクター」と称される。したがって、かかるベクターがAAVベクター粒子内に含有されるため、AAVベクター粒子の産生には、必然的にAAVベクターの産生が含まれる。AAV
【0061】
本発明の組換えAAVゲノムは、本発明の核酸分子および核酸分子に隣接する一つ以上のAAV ITRを含む。rAAVゲノム内のAAV DNAは、AAV血清型AAVrh.74、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12およびAAV-13を含む、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来し得るが、これらに限定されない。偽型rAAVの産生は、例えば国際公開第01/83692号に開示されている。他のタイプのrAAV変異体、例えば、カプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。上記の背景技術に記載されるように、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が、当該技術分野において既知である。骨格筋特異的発現を促進するために、AAV1、AAV6、AAV8、またはAAVrh.74を使用してもよい。
【0062】
本発明のDNAプラスミドは、本発明のrAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、rAAVゲノムを感染性ウイルス粒子中に組み立てるために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠損アデノウイルス、またはヘルペスウイルス)による感染を許容する細胞に導入される。AAVゲノムがパッケージングされるrAAV粒子、repおよびcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能を細胞に提供するrAAV粒子を産生する技術は、当該技術分野において標準である。rAAVの産生は、以下の成分、rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離した(すなわち、その中に存在しない)AAV repおよびcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能が、単一細胞(本明細書でパッケージング細胞と表される)内に存在することを必要とする。AAVのrepおよびcap遺伝子は、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来してもよく、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAVrh.74、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12およびAAV-13を含むがそれらに限定されない、rAAVゲノムITRではない異なるAAV血清型からでも良い。偽型rAAVの産生は、例えば、国際公開第01/83692号に開示され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0063】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子の産生に必要な成分をすべて安定的に発現する細胞株を作製することを含む。例えば、AAVrepおよびcap遺伝子を欠くrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離したAAVrepおよびcap遺伝子、およびネオマイシン耐性遺伝子などの選択可能なマーカーを含む一つのプラスミド(または複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,1982,Proc.Natl.Acad.S6. USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65-73)、または直接的な平滑末端ライゲーション(Senapathy&Carter、1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666)などの手法によって、バクテリアプラスミドに導入されている。次に、パッケージング細胞株を、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスに感染させる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に好適であることである。好適な方法の他の例は、rAAVゲノムならびに/またはrepおよびcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するためにプラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを用いる。
【0064】
rAAVの産生の一般的原理は、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539、およびMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and
Immunol.,158:97-129にレビューされている。様々なアプローチがRatschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6466(1984);Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988);およびLebkowski et al.,Mol.Cell.Biol.,7:349(1988);Samulski et al.,J.Virol.,63:3822-3828(1989);米国特許第5173414号;国際公開第95/13365号および米国特許第5658776号;国際公開第95/13392号;国際公開第96/17947号;PCT/US98/18600;国際公開第97/09441号(PCT/US96/14423);国際公開第97/08298号(PCT/US96/13872);国際公開第97/21825号(PCT/US96/20777);国際公開第97/06243号(PCT/FR96/01064);国際公開第99/11764号;Perrin et al.Vaccine 13:1244-1250(1995);Paul et al.Human Gene Therapy 4:609-615(1993); Clark et al.Gene Therapy 3:1124-1132(1996);米国特許第5786211号;米国特許第5871982号;および米国特許第6258595号に記載されている。前述の文書は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれ、rAAV産生に関する文書の部分を特に強調する。
【0065】
したがって、本発明は、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞を提供する。一実施形態では、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞、およびPerC.6細胞(同種293株)などの安定して形質転換された癌細胞であり得る。別の実施形態では、パッケージング細胞は、形質転換された癌細胞ではない細胞、例えば、低継代293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)、およびFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)である。
【0066】
本発明の組換えAAV(すなわち、感染性キャプシド化rAAV粒子)は、rAAVゲノムを含む。例示的な実施形態では、両方のrAAVのゲノムは、AAVのrepおよびcapDNAを欠いており、すなわち、ゲノムのITR間にAAVrepまたはcapDNAが存在しない。本発明の核酸分子を含むように構築され得るrAAVの例は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際特許出願第PCT/US2012/047999号(国際公開第2013/016352号)に記載されている。
【0067】
rAAVは、当該技術分野で標準の方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィーまたは塩化セシウム勾配によって精製され得る。ヘルパーウイルスからrAAVベクターを精製する方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999),Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.,69 427-443(2002)、米国特許第6566118号、および国際公開第98/09657号に開示される方法が含まれる。
【0068】
別の実施形態では、本発明は、本発明のrAAVを含む組成物を企図する。本発明の組成物は、rAAVおよび薬学的に許容される担体を含む。組成物はまた、希釈剤およびアジュバントなどの他の成分を含んでもよい。許容される担体、希釈剤およびアジュバントは、レシピエントに対して無毒であり、好ましくは、使用される用量および濃度で不活性であり、緩衝剤およびプルロニックなどの界面活性剤を含む。
【0069】
本発明の方法で投与されるrAAVの力価は、例えば、特定のrAAV、投与モード、治療目標、個体、および標的とされる細胞型(複数可)に応じて異なり、当該技術分野における標準の方法によって決定され得る。rAAVの力価は、1ml当たり約1×10、約1×10、約1×10、約1×10、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013から約1×1014以上のDNase耐性粒子(DRP)の範囲であってもよい。投与量は、ウイルスゲノム(vg)の単位で表されてもよい。
【0070】
本発明は、インビボまたはインビトロで、標的細胞にrAAVを形質導入する方法を企図する。インビボ方法は、本発明のrAAVを含む組成物の有効用量または有効な複数回用量を、それを必要とする動物(ヒトを含む)に投与するステップを含む。障害/疾患の発症前に用量が投与される場合、投与は予防的である。障害/疾患の発症後に用量が投与される場合、投与は治療的である。本発明の実施形態では、有効用量は、治療中の障害/疾患に関連する少なくとも一つの症状を緩和(排除または低減)する用量であり、障害/疾患状態への進行を遅らせるまたは予防する用量であり、障害/疾患状態の進行を遅らせるまたは予防する用量であり、疾患の範囲を縮小する用量であり、疾患の寛解(部分的または完全な)をもたらす用量であり、および/または生存を延長させる用量である。本発明の方法による予防または治療が企図される疾患の例は、FSHDである。
【0071】
併用療法も本発明により企図される。本明細書で使用される併用は、同時治療と連続治療の両方を含む。本発明の方法と標準的な医学的治療(例えば、コルチコステロイド)との併用は、新規治療との併用と同様に特に企図される。
【0072】
組成物の有効用量の投与経路は、筋肉内、非経口、静脈内、経口、頬側、鼻、肺、頭蓋内、骨内、眼内、直腸、または膣といった、当技術分野で標準的な経路を含むが、これらに限定されない。本発明のrAAVのAAV成分(特に、AAV ITRおよびカプシドタンパク質)の投与経路(複数可)および血清型(複数可)は、治療されている感染症および/または疾患状態、およびマイクロジストロフィンタンパク質を発現する標的細胞/組織(複数可)を考慮して、当業者により選択および/または適合され得る。
【0073】
本発明は、本発明のrAAVの有効用量および組成物の局所投与および全身投与を提供する。たとえば、全身投与とは、全身が影響を受けるように循環系に投与することである。全身投与には、消化管を介した吸収などの経腸投与、および注射、注入または移植による非経口投与が含まれる。
【0074】
特に、本発明のrAAVの実際の投与は、rAAV組換えベクターを動物の標的組織に輸送する任意の物理的方法を使用することにより達成され得る。本発明による投与には、筋肉、血流への注射、および/または肝臓への直接注射が含まれるが、これらに限定されない。リン酸緩衝生理食塩水中にrAAVを単に再懸濁することが、筋肉組織の発現に有用なビヒクルを提供するのに十分であることが実証されており、rAAVと同時投与され得る担体または他の成分に対する既知の制限はない(しかし、DNAを分解する組成物は、rAAVを用いた通常の方法で回避されるべきである)。rAAVのカプシドタンパク質は、rAAVが筋肉などの目的とする特定の標的組織を標的とするように修飾されてもよい。例えば、その開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第 02/053703号を参照されたい。医薬組成物は、注射可能な製剤として、または経皮輸送により筋肉に送達される局所製剤として調製することができる。筋肉内注射および経皮輸送の両方のための多数の製剤が以前より開発されており、本発明の実施において使用することができる。rAAVは、投与および取り扱いを容易にするために、薬学的に許容される担体とともに使用することができる。
【0075】
本開示の方法で投与されるrAAVの投与量は、例えば、特定のrAAV、投与モード、治療目標、個体、および標的とされる細胞型(複数可)に応じて異なり、当該技術分野における標準の方法によって決定され得る。投与される各rAAVの力価は、1ml当たり約1×10、約1×10、約1×10、約1×10、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013、約1×1014から1×1015以上のDNase耐性粒子(DRP)の範囲であってもよい。投与量は、ウイルスゲノムの単位(vg)で表してもよい(すなわち、それぞれ1x10vg、1x10vg、1x10vg、1x1010vg、1x1011vg、1x1012vg、1x1013vg、1x1014vg、1x1015vg)。投与量は、体重1キログラム(kg)当たりのウイルスゲノム(vg)の単位で表されてもよい(すなわち、1x1010vg/kg、1x1011vg/kg、1x1012vg/kg、1x1013vg/kg、1x1014vg/kg、1x1015vg/kg)。AAVを滴定する方法は、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10:1031-1039(1999)に記載されている。
【0076】
特に、本発明のrAAVの実際の投与は、rAAV組換えベクターを動物の標的組織に輸送する任意の物理的方法を使用することにより達成され得る。本発明による投与には、筋肉、血流への注射、および/または肝臓への直接注射が含まれるが、これらに限定されない。リン酸緩衝生理食塩水中にrAAVを単に再懸濁することが、筋肉組織の発現に有用なビヒクルを提供するのに十分であることが実証されており、担体またはrAAVと同時投与できる他の成分に対する既知の制限はない(しかし、DNAを分解する組成物は、rAAVを用いた通常の方法で回避されるべきである)。rAAVのカプシドタンパク質は、rAAVが筋肉などの目的とする特定の標的組織を標的とするように修飾されてもよい。例えば、その開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第 02/053703号を参照されたい。医薬組成物は、注射可能な製剤として、または経皮輸送により筋肉に送達される局所製剤として調製することができる。筋肉内注射および経皮輸送の両方のための多数の製剤が以前より開発されており、本発明の実施において使用することができる。rAAVは、投与および取り扱いを容易にするために、薬学的に許容される担体とともに使用することができる。
【0077】
筋肉内注射を目的として、ゴマ油や落花生油などのアジュバント溶液、または水性プロピレングリコール溶液、および滅菌水溶液を使用することができる。かかる水溶液は、必要に応じて緩衝化することができ、液体希釈剤は最初に生理食塩水またはグルコースで等張液にすることができる。遊離酸(DNAは酸性リン酸基を含む)または薬理学的に許容される塩としてのrAAVの溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製することができる。rAAVの分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中、および油中で調製することもできる。通常の保管および使用条件下では、これらの調製物には微生物の増殖を防ぐ防腐剤が含まれる。これに関連して、使用される滅菌水性媒体はすべて、当業者に周知の標準的な技術により容易に入手可能である。
【0078】
注射用途に適した医薬担体、希釈剤または賦形剤には、滅菌水溶液または分散液、および注射可能な滅菌溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が含まれる。すべての場合において、形態は滅菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度に流動性でなければならない。これは、製造および保管の条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散剤の場合には必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の長時間の吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0079】
必要量のrAAVを、必要に応じて上に列挙される他の様々な成分を有する適切な溶媒に取り入れ、その後濾過滅菌することにより、滅菌注射液を調製する。一般に、分散剤は、塩基性分散媒体および上に列挙されるものから必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに、滅菌した活性成分を取り入れることによって調製される。注射可能な滅菌溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分の粉末に加えて、以前に濾過滅菌されたその溶液からの任意の追加の所望する成分を産生する、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0080】
rAAVでの形質導入もインビトロで実施することができる。一実施形態では、所望の標的筋肉細胞を患者から摘出してrAAVで形質導入し、患者に再導入する。あるいは、同系または異種の筋肉細胞を、それらの細胞が患者において不適切な免疫応答を起こさない場合に使用することができる。
【0081】
形質導入された細胞を患者へ形質導入および再導入するための適切な方法は、当該分野で既知である。一実施形態では、細胞は、例えば、適切な培地の中で筋肉細胞をrAAVと組み合わせ、サザンブロットおよび/またはPCRなどの従来の技術を使用して目的のDNAを含む細胞をスクリーニングすることによって、または選択可能なマーカーを使用することによって、インビトロで形質導入され得る。次に、形質導入された細胞を医薬組成物に製剤化し、組成物を、筋肉内、静脈内、皮下および腹腔内注射、またはカテーテルなどを使用した平滑筋および心筋への注射などの様々な技術により患者に導入することができる。
【0082】
本発明のrAAVでの細胞の形質導入は、マイクロジストロフィンタンパク質の持続的発現をもたらす。したがって、本発明は、マイクロジストロフィンタンパク質を発現するrAAVを動物、好ましくはヒトに投与/送達する方法を提供する。これらの方法は、本発明の一つ以上のrAAVで組織(筋肉などの組織、肝臓や脳などの臓器、唾液腺などの腺を含むが、これらに限定されない)を形質導入することを含む。組織特異的制御エレメントを含む遺伝子カセットを用いて形質導入を実施してもよい。例えば、本発明の一実施形態は、myoD遺伝子ファミリーなどのアクチンおよびミオシン遺伝子ファミリー(Weintraub et al.,Science, 251:761-766(1991)を参照)、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF-2(Cserjesi and Olson, Mol Cell Biol 11:4854-4862(1991))、ヒト骨格アクチン遺伝子に由来する制御エレメント(Muscat et al.,Mol Cell Biol,7:4089-4099(1987))、心臓アクチン遺伝子、筋肉クレアチンキナーゼ配列エレメント(Johnson et al.,Mol Cell Biol,9:3393-3399)(1989)を参照)およびマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(mCK)エレメント、急収縮性骨格トロポニンC遺伝子、遅収縮性心筋トロポニンC遺伝子および遅収縮性心筋トロポニンI遺伝子に由来する制御エレメント:低酸素誘導性核因子(Semenza et al.,Proc Natl Acad Sci USA、88:5680-5684(1991))、糖質コルチコイド応答エレメント(GRE)を含むステロイド誘導性エレメント及プロモーター(Mader and White, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5603-5607 (1993)を参照)、およびその他の制御エレメントを含むものに由来するものを含むが、これらに限定されない筋特異的制御エレメントによって指示される筋肉細胞および筋肉組織を形質導入する方法を提供する。
【0083】
筋肉組織は重要な臓器ではなく、アクセスしやすいため、インビボDNA送達のための魅力的なターゲットである。本発明は、形質導入された筋線維からのマイクロジストロフィンの持続的発現を企図する。
【0084】
「筋肉細胞」または「筋肉組織」とは、あらゆる種類の筋肉(例えば、消化管、膀胱、血管または心臓組織からの骨格筋および平滑筋)に由来する細胞または細胞群を意味する。かかる筋肉細胞は、筋芽細胞、筋細胞、筋管、心筋細胞および心筋芽細胞などの分化したものであってもよく、または未分化のものであってもよい。
【0085】
「形質導入」という用語は、レシピエント細胞によるマイクロジストロフィンの発現をもたらす本発明の複製欠損rAAVを介した、インビボまたはインビトロのいずれかでのレシピエント細胞へのマイクロジストロフィンコード領域の投与/送達を指すために使用される。
【0086】
したがって、本発明は、マイクロジストロフィンをコードするrAAVの有効用量(または本質的に同時に投与される用量、または間隔を置いて投与される用量)を、それを必要とする患者に投与する方法を提供する。
[実施例]
【実施例1】
【0087】
pAAV.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端コンストラクトの生成
pAAV.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端プラスミドは、AAV2逆方向末端反復配列(ITR)が隣接するヒトマイクロジストロフィンcDNA発現カセットを含んだ。マイクロジストロフィンカセットは、細胞シグナル伝達イベントに重要な内因性結合パートナー(シントロフィン、α-ジストロブレビン、nNOS)への結合を可能にするジストロフィンのC末端ドメインを含んだ。このカセットを使った最初の作業は、心臓送達に焦点を合わせ、M260プロモーターとAAV9を利用した。心臓において非常に良好な発現および機能が達成されたが、骨格筋においてはほとんど発現しなかった(Straub&Campbell、Curr Opin Neurol 10、168-175(1997))。
【0088】
Sacco et al.Cell 143,1059-1071(2010)、Wallace et al. Annu Rev Physiol 71,37-57(2009)、およびZhou et al..J Neuropathol Exp Neurol 69, 771-776(2010)に記載されているように、心筋発現および骨格筋発現を達成するために、このカセットをAAV2.MHCK7/合成polyAバックボーンにクローニングした(図1)。AAVrh.74ビリオンにキャプシド化されたのはこの配列であった。この血清型は、AAV8と93%のアミノ酸同一性を有し、Wilson and colleagues(Desguerre et al. J
Neuropathol Exp Neurol 68,762-773(2009))に記載されている、関連するクレードEウイルスrh.10と最も類似している。新たにクローニングされたmicro-dysコンストラクトは、インフレームロッド欠失によって特徴付けられる。ヒンジ1と4は残るが、最終リピート(SR24)の小断片を除き、スペクトリン類似リピートは削除された。これにより、125kDaのタンパク質を産生するNおよびC末端の完全なコーディング配列が可能になる。マイクロジストロフィンタンパク質(3275bp)は、MHCK7プロモーター(790bp)によって誘導される。コンストラクトの合計サイズは8329bpである。ウイルスベクターの産生後、マイクロジストロフィン.C末端コンストラクトの有効性をテストした。マイクロジストロフィンカセットは、mRNA終結のために53bpの小さな合成ポリAシグナルを有する。
【0089】
以前の研究では、MHCK7プロモーターを用いて心臓での発現を確認し(Salva
et al.Mol Ther 15, 320-329(2007))、またAAVrh74が、骨格、横隔膜および心筋での発現を達成したことを確認した(Sondergaard etal.Annalsof Clinical and Transl Neurology 2,256-270,2015)。図1のコンストラクトのヌクレオチド配列は、AAVrh.74ビリオンにキャプシド化された。AAVrh.74血清型の分子クローンは、アカゲザルのリンパ節からクローニングされ、Rodino-Klapac et al. Journal of Translational medicine 5,45(2007)に記載されている。
【実施例2】
【0090】
pAAV.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端を用いた筋肉内発現研究
発現研究は、C末端カセット(rAAVrh.74.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端)を含むこのヒトマイクロジストロフィンを用いて筋肉内注射より行われた。mdxマウスの前脛骨筋に1x1011vgまたは3x1011vgで注射した(n=5/群)。6週間後、筋肉を採取し、C末端ポリクローナル抗体で染色することによりジストロフィンの発現を調べた。用量研究の結果を図2に示す。1e11および3e11vgでの比較投与において、低用量と高用量の両方で良好な遺伝子発現が達成されたとしている。C末端ポリクローナル抗体によるジストロフィンの免疫組織染色は、用量依存的な発現を示した(図3)。
【実施例3】
【0091】
pAAV.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端のmdxマウスへの全身送達
mdxマウスのコホートに、rAAVrh.74.MHCK7.マイクロジストロフィン.C末端を6e12vg(2e14vg/kg)で注射した。全身注射(尾静脈)されたmdxマウス(n=5)は、すべての筋肉において高いレベルの染色を示した。図4は、6e12vgでの全身投与後の心筋線維の広範な形質導入を表す。6週間の治療後、すべての筋肉を採取し、ジストロフィン陽性線維の数を定量化した(表1)。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
【配列表】
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