IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レイセオン カンパニーの特許一覧

特許7493601電流崩壊が減少し、電力付加効率が向上した窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】電流崩壊が減少し、電力付加効率が向上した窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20240524BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20240524BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
H01L29/80 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022539143
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 US2020058656
(87)【国際公開番号】W WO2021133468
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】16/727,252
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503455363
【氏名又は名称】レイセオン カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】トラビ,アバース
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,ブライアン,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ローガン,ジョン
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-235935(JP,A)
【文献】特開2018-093239(JP,A)
【文献】特表2019-528571(JP,A)
【文献】特開2000-068498(JP,A)
【文献】米国特許第09419125(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338、29/778、29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電子移動度トランジスタ構造であって:
基板;
前記基板上に配置された高抵抗GaNバッファ層であり、ベリリウムでドープされており、2.2×103オーム*cmより大きい抵抗率を有する高抵抗GaNバッファ層;
前記高抵抗GaNバッファ層上に配置され、前記高抵抗GaNバッファ層と直接接触する、ドープされたGaN層であり、10~300nmの厚さを有し、ベリリウム及び炭素でドープされており、ベリリウムドーピング濃度が5×1016~3×1019原子/cm3であり、炭素ドーピング濃度がベリリウムドーピング濃度より低いが1×1016原子/cm3より高い、ドープされたGaN層;及び
前記ドープされたGaN層上で、前記ドープされたGaN層と直接接触する、非意図的にドープされた(UID) GaNチャネル層であり、中に2DEGチャネルを有し、50~200nmの厚さを有するUID GaNチャネル層;
を含む構造。
【請求項2】
前記UID GaNチャネル層の上に、前記UID GaNチャネル層と直接接触するバリア層を含む、請求項1に記載の構造。
【請求項3】
前記基板上に配置された核形成層を含む、請求項1に記載の構造。
【請求項4】
高電子移動度トランジスタ構造であって:
基板;
前記基板上に配置された高抵抗GaNバッファ層であり、2.2×103オーム*cmより大きい抵抗率を有する高抵抗GaNバッファ層;
前記高抵抗GaNバッファ層上に配置され、前記高抵抗GaNバッファ層と直接接触する、ドープされたGaN層であり、ベリリウム及び炭素でドープされており、ベリリウムドーピング濃度が5×1016~3×1019原子/cm3であり、炭素ドーピング濃度がベリリウムドーピング濃度より低いが1×1016原子/cm3より高い、ドープされたGaN層;
前記ドープされたGaN層上で、前記ドープされたGaN層と直接接触し、非意図的にドープされた(UID) GaNチャネル層であり、中に2DEGチャネルを有し、200nm未満の厚さを有するUID GaNチャネル層;
を含む構造。
【請求項5】
前記UID GaNチャネル層が50nm以上の厚さを有する、請求項4に記載の構造。
【請求項6】
前記ドープされたGaN層が10~300nmの厚さを有する、請求項4に記載の構造。
【請求項7】
前記UID GaNチャネル層上に、前記UID GaNチャネル層と直接接触する障壁層を含む、請求項4に記載の構造。
【請求項8】
高電子移動度トランジスタ構造であって:
基板;
前記基板上に配置された高抵抗GaNバッファ層であり、ベリリウム、鉄及び/又は炭素でドープされている高抵抗GaNバッファ層;
前記高抵抗GaNバッファ層上に配置され、前記高抵抗GaNバッファ層と直接接触する、ドープされたGaN層であり、ベリリウム及び炭素でドープされており、ベリリウムドーピング濃度が5×1016~3×1019原子/cm3であり、炭素ドーピング濃度がベリリウムドーピング濃度より低いが1×1016原子/cm3より高い、ドープされたGaN層;及び
前記ドープされたGaN層上で、前記ドープされたGaN層と直接接触する、非意図的にドープされた(UID) GaNチャネル層であり、中に2DEGチャネルを有し、200nm未満の厚さを有するUID GaNチャネル層;
を含む構造。
【請求項9】
前記UID GaNチャネル層が50nm以上の厚さを有する、請求項8に記載の構造。
【請求項10】
前記ドープされたGaN層が10~300nmの厚さを有する、請求項8に記載の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistors, HEMTs)に関し、特に、電流崩壊を低減し、電力付加効率を向上させる窒化ガリウム(GaN) HEMTsに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
当該技術分野で知られているように、パルスIV測定における電流崩壊(又は分散)は、高周波HEMTトランジスタのRF性能及び電力付加効率(power added efficiency (PAE))の先行指標である。窒化ガリウム(GaN)ベースのHEMTは、高レベルの電流崩壊(current collapse, CC)を起こしやすい。HEMTのデバイス構造、表面不動態化及びエピタキシャル構造の幾何形状は、すべてCCに寄与する。エピタキシャル構造に関しては、GaNバッファ層及び/又は障壁に用いられるドーピングスキーム、欠陥(不純物原子又は転位など)の密度及び位置、並びに層界面の品質が、CCに特に影響を及ぼす。そのようなHEMTエピタキシャル構造の1つを図1に示す。ここでは、その構造は、次の構成を含む。
Si、Al2O3、又はSiCなどの基板;
AlN又はグラフェンなどの核形成層は存在しなとも良い;
厚さ200nm~数ミクロンのGaN絶縁性(炭素、マグネシウム、鉄などのドーパント)を付与するように典型的にドープされた、高抵抗(典型的には1×105オーム×cmより大きい) GaNバッファ;
非意図的にドープされた(unintentionally doped, UID) GaNチャネル、意図的なドーパントの無い典型的な厚さ50-500nm、2D電子ガス(2DEG)は、障壁界面へのUID GaNチャネル近傍に存在する;
本明細書、特許請求の範囲及び図面において「UID GaNチャネル層」は、非意図的にドープされたGaNチャネル層を意味するものとする。
AlGaN、InAlN、InAlGaN(従来のIII窒化物)又はScAlN (希土類窒化物)などのバリア層;
GaN、AlN又はSiNxなどのキャップ層は存在しなくとも良い。
【0003】
最高の性能を得るためにCC低減は重要であるが、トランジスタの「オフ」状態での低レベルのゲート漏れとドレイン漏れを同時に伴う必要があり、これにより低CC構造を設計する作業が難しくなった。
【0004】
窒化ガリウム及びその関連するIII族窒化物三元及び四元化合物は、材料のエピタキシー及び適切な格子整合基板の欠如のために、高密度の転位及び他の点欠陥を有する。これらの欠陥は、DC漏れとRF性能の両方に有害なバッファを通る電流経路を誘導する。典型的には、GaN HEMT構造において、バッファは、エピタキシャルバッファ中のリーク(漏れ)を緩和するために、炭素及び/又は鉄不純物で高濃度にドープされる。しかしながら、2DEG GaNチャネルに近接しているため、炭素及び鉄不純物ドーパントはまた、長寿命トラップとして作用し、これは、2DEGチャネルにおける電荷キャリア電子に対して、マイクロ秒の寿命、又はより長い寿命を有することがあり、最終HEMTデバイスにおけるCCを著しく増加させ、性能に負の影響を及ぼす。
【0005】
当該技術分野においても知られているように、GaN中の置換型ベリリウムのイオン化エネルギーの理論的計算が、イオン化エネルギーを60 meV(Bernardini et al., Theoretical evidence for efficient p-type doping of GaN using beryllium, arXiv:cond-mat/9610108v2 (1997)を参照)及び550 meV(J.L. Lyons et al., Impact of Group-II Acceptors on the Electrical and Optical Properties of GaN, Jpn. J. Appl. Phys. 52, 08JJ04 (2013)を参照)の間であると推定した。さらに、格子間ベリリウムは低形成エネルギーであり、二重ドナーとして作用するものと計算されており(C. G. Van de Walle et al., First-principles studies of beryllium doping of GaN, Phys. Rev. B, 63, 245205 (2001)を参照)、これは置換型ベリリウムアクセプタの補償につながる可能性がある。実際には、ベリリウムをドープしたGaN材料は、絶縁挙動を示し(K. Lee et al., Compensation in Be-doped Gallium Nitride Grown Using Molecular Beam Epitaxy, Material Research Society Symposium, Proc. Vol. 892 (2006)を参照)、GaN HEMTs中の導電性バッファ層の影響を緩和するために使用されてきた(D.F. Storm et al., Reduction of buffer layer conduction near plasma-assisted molecular-beam epitaxy grown GaN/ AIN interfaces by beryllium doping, Appl. Phys. Lett., 81, 3819 (2002)を参照)。バッファドーパントとしては適当であるが、1×1019原子/cm3でのベリリウムドーピングが、UID GaN層が200nm未満の厚さの場合、2DEG移動度、2DEGシート密度及びトランジスタ性能に有害な影響を及ぼすことが示されている(D.F. Storm et al., Proximity effects of beryllium-doped GaN buffer layers on the electronic properties of epitaxial AlGaN/GaN heterostructures, Solid-State Electronics., 54, 1470-1473 (2010)を参照)。3×1019原子/cm3までのベリリウムドーピングレベルが、GaN結晶品質の顕著な劣化を引き起こさないことが示されている(D.F. Storm et al., Growth and characterization of plasma-assisted molecular beam epitaxial-grown AlGaN/GaN heterostructures on free-standing hydride vapor phase epitaxy GaN substrates, J. Vac. Sci. Technol. B., 23, 1190 (2005)を参照)。しかしながら、より高いレベルのベリリウムドーピング不純物が、最終的にはGaN結晶品質の劣化を引き起こすと予想される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従って提供される高電子移動度トランジスタ構造が、基板上に配置されたGaNバッファ層と;GaNバッファ層上に配置され、GaNバッファ層と直接接触するドープされたGaN層であり、ドーパントの1つがベリリウムである、ドープされたGaN層と;ドープされたGaN層上に、ドープされたGaN層と直接接触する、非意図的にドープされた(UID) GaNチャネル層であり、その中に二次元電子ガス(2DEG)チャネルを有する、UID GaNチャネル層と;を含む。
【0007】
一実施形態では、バリア層は、UID GaNチャネル層の上に、UID GaNチャネル層と直接接触して配置される。
【0008】
一実施形態において、ドーパントの1つはベリリウムである。
【0009】
一実施形態において、ドーパントの1つはベリリウムであり、もう1つのドーパントは炭素である。
【0010】
一実施形態では、UID GaNチャネル層は、200nm未満の厚さを有する。
【0011】
一実施形態従って提供される高電子移動度トランジスタ構造が、基板と;前記基板上に配置された高抵抗GaNバッファ層と;前記GaNバッファ層上に配置され、前記GaNバッファ層と直接接触するドープされたGaN層であり、ベリリウム及び炭素でドープされているドープされたGaN層と;前記ドープされたGaN層上に配置され、前記ドープされたGaN層と直接接触する、非意図的にドープされた(UID) GaNチャネル層であり、その中に2DEGチャネルを有する、UID GaNチャネル層と;前記UID GaNチャネル層上に配置され、前記UID GaNチャネル層と直接接触する、AlGaNバリア層と;を備える。
【0012】
一実施形態では、UID GaN層は、200nm未満の厚さを有する。
【0013】
一実施形態において、ドープされたGaN層は、10~300nmの厚さを有する。
【0014】
一実施形態において、ベリリウムドーピングは、5×1016~3×1019原子/cm3であり、炭素ドーピングは、ベリリウムドーピング以下である。
【0015】
一実施形態では、バッファ層は、2.2×103オーム*cmより大きい抵抗率を有する。
【0016】
分子線エピタキシー(MBE)法では、炭素は、2DEGチャネルに近接したドーパントとしてそれ自身で使用した場合、DC漏れを劇的に減少させることができる多数の中間ギャップ状態を有する非常に効果的な補償ドーパントであるが、CCを増加させ、RF性能を低下させるさらなるトラップサイトも生成してしまう。本発明者らは、2DEGチャネルに近接した5×1016~3×1019原子/cm3の中程度のレベルのベリリウムドーピングが、窒化ガリウム及びその関連するIII族窒化物三元及び四元化合物のバンド構造をバッファ層中にシフトさせるのに十分であることを認識した。本発明者らはさらに、炭素不純物のレベルを低下させることにより、ベリリウム不純物(炭素不純物<ベリリウム不純物)と共に低レベルのオフ状態の漏れを得ることができ、同時にバッファ層のバンド構造をシフトさせてCCを低減し、RF動作におけるHEMTトランジスタのPAEを向上させることができることを認識した。
【0017】
本発明者らは、GaN HEMT構造におけるCCの1つのソースの原因となるエピタキシャル素子を認識しており、デバイスのDC漏洩に悪影響を及ぼすことなく、それを克服するための効果的な解決策を有している。すなわち、導電性2DEGチャネルに対するベリリウム及び炭素ドープ層の正確な配置、ドープ層の正確に制御された厚さ、及び2DEG層直下の正確に制御されたドーピングレベルである。本開示は、電気的に活性なキャリアを克服するために、バッファ内のドーパントを高レベルの活性な長寿命トラップとして作用させることなく、UID GaNチャネルの直下のGaNバッファを種々のレベルで炭素及びベリリウムで同時にドープすることによって、CCを減少させ、オフ状態のリークを低くかつ管理可能なレベルに維持することを開示している。
【0018】
本開示における1又は複数の実施形態の詳細は、付随する図面及び下記の説明において規定される。本開示の他の特徴、目的、及び利点は、明細書及び図面並びに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来技術によるIII族-窒化物HEMT構造の概略図である。
図2】本開示に従ったIII族-窒化物HEMT構造の概略図である。
図3A図2のHEMT構造と比較するのに有用な、UID GaNチャネルと高抵抗率GaNバッファとの間に追加のドープ層がないIII族-窒化物HEMT構造の概略図である。
図3B図2のHEMT構造と比較するのに有用な、UID GaNチャネルと高抵抗率GaNバッファとの間のドープ層中のドーパントとして炭素のみを利用するIII族-窒化物HEMT構造の概略図である。
図3C図2のHEMT構造の一実施形態である、UID GaNチャネルと高抵抗率GaNバッファとの間のドープ層中のドーパントとして炭素及びベリリウムの両方を利用するIII族-窒化物HEMT構造の概略図である。
図4A図2の構造の利点を理解するために有用な、追加のドープ層を伴わない図3Aの構造についての、正規化ドレイン漏れ電流及びゲート漏れ電流対(vs)ドレイン-ソース間電圧のプロットである。
図4B図2の構造の利点を理解するために有用な、ドープ層中に炭素ドーピングのみを利用した、図3Bの構造についての、正規化ドレイン漏れ電流及びゲート漏れ電流対ドレイン・ソース間電圧のプロットである。
図4C図2のHEMT構造の一実施形態における、ドープ層中のドーパントとして炭素及びベリリウムの両方を利用した、図3Cの構造についての、正規化ドープ漏れ電流及びゲート漏れ電流対ドープ・ソース間電圧のプロットである。
図5A図2の構造の利点を理解するのに有用な、追加のドープ層を伴わない図3Aの構造について、準静的構成及び電流崩壊の影響を強調する28Vパルス構成についての正規化ドレイン電流対ドレイン・ソース間電圧のプロットである。
図5B図2の構造の利点を理解するのに有用な、ドープ層内に炭素のみを利用した、図3Bの構造について、準静的構成及び電流崩壊の影響を強調する28Vパルス構成についての正規化ドレイン電流対ドレイン・ソース間電圧のプロットである。
図5C図2のHEMT構造の一実施形態において、ドープ層中のドーパントとして炭素及びベリリウムの両方を利用する、図3Cの構造について、準静的構成及び電流崩壊の影響を強調する28Vパルス構成についての正規化ドレイン電流対ドレイン・ソース間電圧のプロットである。 種々の図面における同じ参照記号は、同じ要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで図2を参照すると、HEMT構造が示されている。HEMT構造は、例えば、シリコン、サファイア、又はシリコン・カーバイドである単結晶基板と;例えば、AlN又はグラフェンが基板上にエピタキシャルに形成された核形成層と;核形成層上にエピタキシャルに形成された、ドープされた高抵抗率GaNバッファ層と;を含む。高抵抗率GaNバッファ層は、例えば、2.2×103オーム*cmの抵抗率(5×1018原子/cm3ドーピング)を有するようにベリリウムをドープしたGaN、3×105オーム*cmの抵抗率(R.P. Vaudo et al., Characteristics of semi-insulating, Fe-doped GaN substrates, Physical Status Solidi 200, 18 (2003)を参照)を有するように鉄をドープしたGaN、1×108オーム*cmの抵抗率を有するようにカーボンがドープされたGaN、又は高い抵抗率のGaNをもたらすドーパントの組み合わせなどのドープされたバッファ層である。HEMT構造は、さらに、10~300nmの厚さを有し、かつ複数のドーパントを有するGaN層を有する。ここでドーパントは、5×1016~3×1019原子/cm3の範囲のドーピング濃度を有するベリリウムドーパントである。HEMT構造は、さらに、そのベリリウムのドーピング濃度より低いが1×1016原子/cm3より高い炭素ドーパントを有する。ドーピング準位は、ドーピングされたGaN層のエピタキシャル成長中のベリリウムと炭素不純物の共蒸着に起因する。ドープされたGaN層上にエピタキシャルに形成される層は、50~200nmの厚さを有し、内部に二次元電子ガス(2DEG)を有する非意図的にドープされた(UID)GaNチャネル層である。UID GaN層上にエピタキシャルに形成される層は、AlGaN、InAlGaN、又はScAlNのようなバリア層である。範囲は先に提供された、最適なドーピング密度は、UID GaNチャネル層の厚さと、バリア材料の組成及び厚さにより制御されるチャネル内の電荷密度とに依存する。
【0021】
次に、3A、3B及び3Cを参照すると、比較のために3種のHEMT構造が示されている。3つの構造はすべて同一の基板、核形成層を利用し、かつ高抵抗率GaNバッファ層構造、ここではそれぞれSiC、AlN、及び炭素及びベリリウムドープGaN層を利用する。図3Aに示す構造は、UID GaNチャネルと高抵抗率GaNバッファとの間にドープ層を持たず、高抵抗率バッファ層に直接接触する300nmのUIDチャネル厚を介して達成される。図3Bに示される構造は、110nmの厚さのUID GaNチャネルと、高抵抗率GaNバッファとの間に、炭素密度1.2×1017原子/cm3でドープされた165nmの厚さであるドープ層中に炭素ドーピングのみを有する。図3Cに示される構造は、110nmの厚さのUID GaNチャネルと、高抵抗率GaNバッファとの間に、1.4×1017原子/cm3の炭素ドーピング密度及び1.2×1018原子/cm3のベリリウムドーピング密度でドープされた165nmの厚さであるドープ層中に炭素及びベリリウムの両方のドーピングを有する。ここでは、図3A、3B及び3Cの構造は、分子線エピタクシー(MBE)によって成長される。この特定の例におけるドープされたGaN層は、所定のフラックス比のガリウム、窒素及びドーパント、並びに所定の成長温度(ここでは、光高温計によって測定されるように、660~780℃)を有する窒素リッチな条件下で形成され、これは、所望のドーパント濃度をもたらす。本明細書では窒素リッチ条件が使用されるが、ガリウムリッチ条件が使用されてもよいが、異なる所定のフラックス比及び/又は成長温度を伴う。ここで、ベリリウムは固体の元素ベリリウム源からの熱蒸発を介してドープされ、炭素はCBr4ガス源を介してドープされる。
【0022】
次に、図4A、4B及び4Cを参照すると、それぞれ図3A、3B及び3Cに示すエピタキシャル構造から製造された、オーミックなソース・ドレイン接点及びショットキーゲート接点を有する3つの端子ソース・ゲート・ドレイン横型トランジスタについて、正規化ドレイン及びゲート漏れが示されている。より詳細には、ドレイン・ソース間電圧を変化させるために、ドレイン電流及びゲート電流の3つの端子ソース・ゲート・ドレイン横方向トランジスタのDC測定が、ゲート上で-6Vでピンチオフされた状態で示されている。「理想的」なのは、ドレイン漏れ電流とゲート漏れ電流の両方をできるだけ小さくすることである。データは、図3Cに示される構造について、100Vでのドレイン漏れ電流に対して正規化されている。図3Aに示される構造は、UID GaNと高抵抗バッファとの間にドープ層がない場合であり、高い漏れ電流(図3Cに示される構造の漏れ電流の約3~10倍)を示す。ドープ層中に炭素ドーピングのみを有する図3Bに示された構造は、漏れ電流が低く、図3Cに示された構造の漏れ電流と類似する。図3Cの構造は、ドープ層中に炭素及びベリリウムドーパントの両方を有する。
【0023】
図5A、5B及び5Cを参照すると、図3A、3B及び3Cにそれぞれ示されるエピタキシャル構造から製造されたトランジスタについて、パルスIV測定が示されている。準静的曲線(quasi-static curve)について、静止バイアス点(quiescent bias point)はVDQ = VGQ = 0Vである。28 VDQ曲線では、静止バイアス点はVDQ = 28V、IDQ = 110mAである。「理想的」は、電流崩壊(又は分散)の尺度である陰影面積をゼロに最小化することである。データは、図3Cに示される構造について、15Vでの準静的ドレイン電流に正規化されているる。図3Aに示す構造は、UID GaNと高抵抗バッファとの間にドープ層がない場合であり、電流崩壊が低いことを示している(しかし、これは、図4Aに示すように高い漏れの結果である)。ドープ層中に炭素ドーピングのみを有する図3Bに示される構造は、図5Cに示される、ドープ層中に炭素及びベリリウムドーピングの両方を有する図3Cに示される構造の電流の崩壊に比較して、比較的高い電流の崩壊を示す。かくして、図3Cに示される構造は、ドープ層中に炭素及びベリリウムの両方がドーピングされており、非常に低い電流崩壊及び低い漏れの両方を有する。
【0024】
理解されるべきである本開示による高電子移動度トランジスタ構造が、基板上に配置されたGaNバッファ層と;GaNバッファ層上に配置され、GaNバッファ層と直接接触するドープされたGaN層であり、ドーパントの一方がベリリウムである複数の異なるドーパントでドープされたGaN層と;ドープされたGaN層上に、ドープされたGaN層と直接接触する非意図的にドープされた(UID) GaNチャネル層であり、その中に2DEGチャネルを有するUID GaNチャネル層と;を含む。高電子移動度トランジスタ構造は、UID GaNチャネル層上でUID GaNチャネル層と直接接触するバリア層を含むために、個別に又は組み合わせて、以下の特徴のうちの1つ以上を含むことができる。UID GaNチャネル層は、200nm未満の厚さを有し、ドーパントの1つは、炭素である。基板上に配置された核形成層である。
【0025】
本開示による高電子移動度トランジスタ構造はまた、基板と;基板上に配置されたGaNバッファ層と;GaNバッファ層上に配置され、GaNバッファ層と直接接触するドープされたGaN層と;ドープされたGaN層上でドープされたGaN層と直接接触する非意図的にドープされている(UID) GaNチャンネル層であり、その中に2DEGチャンネルを有するUID GaNチャンネル層と;を含むことを理解すべきである。高電子移動度トランジスタ構造は、以下の特徴のうちの1つ以上を含むことができる。UID GaN層が200nm未満の厚さを有する場合と、ドープされたGaN層が10~300nmの厚さを有する場合と、ベリリウムドーピングが5×1016~3×1019原子/cm3であり、炭素ドーピングがベリリウムドーピングと同等以下である場合と、UID GaNチャネル層上でUID GaNチャネル層と直接接触するバリア層を含む場合とである。
【0026】
本開示の多くの実施形態が記述されてきた。とはいうものの、本開示の技術思想及び範囲から逸脱せずに、種々の改変がなされてもよいということを理解されたい。例えば、ドープされたGaN層内の段階的又は傾斜ドーピングプロファイルを利用することができる。また、例えば、ドープされたGaNが記載されているが、ドープされたAlGaNのような他のIII族-Nでドープされた材料が使用されてもよいことを理解されたい。同様に、例えば、複数の材料又はバリア材料(AlGaN/InAlN又はInAlGaNなど)の組成を有する複合バリアを含む、GaN及びAlGaNとは異なるIII族Nバリア、チャネル、又はバッファ層材料の使用を採用してもよい。さらに、固体ソース炭素のような別のドーピング源を使用してもよい。さらに、本開示は、特定の基板、核形成層、又は高抵抗バッファドーパントの使用に依存しない。したがって、他の態様は特許請求の範囲の範囲内にある。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C