(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】弾性手袋用のイオン液体を含む合成ゴムラテックス組成物
(51)【国際特許分類】
A41D 19/00 20060101AFI20240524BHJP
C08J 5/02 20060101ALI20240524BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240524BHJP
C08K 5/3462 20060101ALI20240524BHJP
C08L 21/02 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A41D19/00 A
C08J5/02 CEQ
C08K3/22
C08K5/3462
C08L21/02
(21)【出願番号】P 2022568506
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 IB2021054409
(87)【国際公開番号】W WO2021234651
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-12-15
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522436673
【氏名又は名称】ピー.ティー. メディセーフ テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100096758
【氏名又は名称】高橋 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100114845
【氏名又は名称】高橋 雅和
(74)【代理人】
【識別番号】100148781
【氏名又は名称】高橋 友和
(72)【発明者】
【氏名】マシュー, モニチャン プスベリル
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ, アシシュ クマル
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第105462006(CN,B)
【文献】特表2009-526109(JP,A)
【文献】特表2013-513676(JP,A)
【文献】特開2019-94576(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102985(WO,A1)
【文献】特表2019-504164(JP,A)
【文献】特表2010-520927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D19/00-19/015
C08J5/00-5/02、5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成ゴムラテックス、及び
イオン液体
を含む組成物から形成される基材
を含み、
前記イオン液体が、
1-ブチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール及びブロモ-1-イミダゾール
からなる群から選択されるアルキルイミダゾールイオン性塩の1つ又は複数の組み合わせを含み、
硫黄及び加硫促進剤を含まない、弾性ゴム手袋。
【請求項2】
前記イオン液体が前記組成物にゴム100部に対して0.05から1.5部で存在する、請求項1に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項3】
前記イオン液体が、
1-ブチルイミダゾール
である、請求項1に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項4】
前記組成物が1つ又は複数の金属酸化物を更に含み、前記1つ又は複数の金属酸化物が酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カドミウム及び酸化アルミニウムの少なくとも1つを含む、請求項
3に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項5】
前記1つ又は複数の金属酸化物が前記組成物にゴム100部に対して
0より多く1.5部以下で存在する、請求項4に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項6】
前記組成物が1つ又は複数の機能材料を更に含み、前記1つ又は複数の機能材料がポリカルボジイミド、アジリジン及びエポキシの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項7】
前記組成物が陰イオン界面活性剤を更に含む、請求項6に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項8】
前記イオン液体が1-ブチルイミダゾールを含み、
前記組成物が酸化亜鉛及び酸化アルミニウムの1つ又は複数の組み合わせを更に含む、
請求項1に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項9】
前記基材が前記
弾性ゴム手袋の掌領域に0.10mm未満の単層厚みを含み、
前記基材がおおよそ2.5メガパスカル以下の300%モジュラス(M300)を含み、
前記基材が6ニュートンを超える切断荷重により測定される強度を含む、
請求項1に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項10】
前記
弾性ゴム手袋の内面にポリマーコーティングを更に含む、請求項1に記載の弾性ゴム手袋。
【請求項11】
合成ゴムラテックス、及び
イオン液体
を含む組成物から形成される基材
を含み、
前記イオン液体が、
1-ブチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール及びブロモ-1-イミダゾール
からなる群から選択されるアルキルイミダゾールイオン性塩の1つ又は複数の組み合わせを含み、
硫黄及び加硫促進剤を含まない、着用可能な物品。
【請求項12】
前記イオン液体が前記組成物にゴム100部に対して0.05から1.5部で存在する、請求項11に記載の着用可能な物品。
【請求項13】
前記イオン液体が、
1-ブチルイミダゾール
である、請求項11に記載の着用可能な物品。
【請求項14】
前記組成物が1つ又は複数の金属酸化物を更に含み、前記1つ又は複数の金属酸化物が酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カドミウム及び酸化アルミニウムの少なくとも1つを含む、請求項
13に記載の着用可能な物品。
【請求項15】
前記1つ又は複数の金属酸化物が、前記組成物にゴム100部に対して
0より多く1.5部以下で存在する、請求項14に記載の着用可能な物品。
【請求項16】
前記組成物が1つ又は複数の機能材料を更に含み、前記1つ又は複数の機能材料がポリカルボジイミド、アジリジン及びエポキシの少なくとも1つを含む、請求項14に記載の着用可能な物品。
【請求項17】
前記
着用可能な物品が弾性ゴム手袋である、請求項11に記載の着用可能な物品。
【請求項18】
表面に凝固剤を有する型を合成ゴムラテックス組成物の浴槽に型を浸漬することであって、前記合成ゴムラテックス組成物が合成ゴムラテックス及びイオン液体を含む浸漬と;
前記型を前記凝固剤浴から取り出し、前記型上に基材の層を形成すること
を含み、
硫黄及び加硫促進剤を使用せず、
前記イオン液体が、
1-ブチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール及びブロモ-1-イミダゾール
からなる群から選択されるアルキルイミダゾールイオン性塩の1つ又は複数の組み合わせを含む、方法。
【請求項19】
前記合成ゴムラテックス及び前記イオン液体を混合する前に、前記イオン液体を界面活性剤でカプセル化する工程を含み、
前記イオン液体が前記合成ゴムラテックス組成物にゴム100部に対して0.05から1.5部で存在し;
前記合成ゴムラテックス組成物が、
酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カドミウム及び酸化アルミニウムの少なくとも1つを含む1つ又は複数の金属酸化物と、
ポリカルボジイミド、アジリジン、エポキシの少なくとも1つを含む1つ又は複数の機能材料と、
を更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
130℃未満の温度で基材の前記層を硬化することと;
前記基材の内面を、前記内面が
0より多く600ppm以下の塩素化レベルを含むように塩素化することと;
ポリマーコーティングを前記基材の前記内面に塗布すること、
とを更に含む、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年5月22日に出願された、「弾性手袋用のイオン液体を含む合成ゴムラテックス組成物」と題する米国仮特許出願第63/029,001号の利益を主張するものであり、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられたものとする。
技術分野
【0002】
本開示は概して弾性手袋(Elastomeric gloves)、より詳細には医療用途、工業用途、及び外科用途を含む専門用途用の合成ゴム手袋に関する。
【背景技術】
【0003】
弾性手袋は、天然及び合成ゴム並びに他のラテックス材料から製造され、医療、工業及び専門用途で広く使用されている。医療用途について、手袋は医療従事者又は医者を細菌、ウイルス、微生物から保護することにより重要な役割を担っており、また血液及び他の体液による汚染を防止する。従来天然ゴムラテックスで作られる弾性手袋を使用することで、天然ゴムのタンパク質含有量のため、特定のユーザがI型過敏症を発症し得る。報告されたデータでは、世界のラテックスアレルギーの平均有病率は、医療従事者、影響を受けやすい患者及び一般集団でそれぞれ9.7%、7.2%及び4.3%であることが示されている。
【0004】
結果として、例えばニトリルゴム、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)など、タンパク質を含有しない合成ゴムラテックスが、手袋用天然ゴムラテックスの代用として使用されている。費用を削減するため、合成手袋の製造業者は手袋の掌部における全膜厚及び重量を低下させることで、原料消費を制限している。膜厚は、0.10mm以下とすることが多い。
【0005】
しかしながら、このような厚みの低下は、製造中の複雑さ及び非効率性の増加、弱い又は低い強度などの問題に関連することが多く、国際医療用手袋標準の基準を満たすことができない。高いレベルの快適さをエンドユーザに提供し、更に強度、モジュラス及び伸びの業界標準に一致するか、上回り、掌部における膜厚を低下させた手袋を低コストで、効率よく作製する合成ゴムラテックス組成物及び製造方法の強い必要性がある。
【発明の概要】
【0006】
本開示の特定の実施形態を基本的に理解するために、以下、本開示の簡略化した要約を示す。この概要は本開示の広範囲に及ぶ要約ではなく、本開示の重要/重大な要素を特定せず、本開示の範囲を詳しく説明しない。その唯一の目的は、以下に示すより詳細な説明の序文として、本明細書で開示されるいくつかの概念を簡略的に示すことである。
【0007】
概して、本開示の実施形態は改善した特性を有する手袋、並びに改善した製造方法を提供する。具体的に、弾性ゴム手袋はある組成物から形成される基材を含む。この組成物は合成ゴムラテックス及びイオン液体を含む。
【0008】
イオン液体は組成物にゴム100部に対して0.05から1.5部で存在してよい。イオン液体は1-ブチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール及びブロモ-1-イミダゾールからなる群から選択されるアルキルイミダゾールイオン性塩の1つ又は複数の組み合わせを含んでよい。
【0009】
組成物は1つ又は複数の金属酸化物を更に含んでよい。1つ又は複数の金属酸化物は酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カドミウム及び酸化アルミニウムの少なくとも1つを含んでよい。1つ又は複数の金属酸化物は組成物にゴム100部に対して0から1.5部で存在してよい。組成物は1つ又は複数の機能材料を更に含んでよく、1つ又は複数の機能材料はポリカルボジイミド、アジリジン及びエポキシの少なくとも1つを含む。組成物は陰イオン界面活性剤を更に含んでよい。イオン液体は1-ブチルイミダゾールを含んでよく、組成物は酸化亜鉛及び酸化アルミニウムの1つ又は複数の組み合わせを更に含んでよい。
【0010】
基材は手袋の掌領域で0.10mm未満の単層厚みを含むことができる。基材はおおよそ2.5メガパスカル以下の300%モジュラス(M300)を含むことができる。基材は6ニュートンを超える切断荷重により測定される強度を含むことができる。弾性ゴム手袋は手袋の内面にポリマーコーティングを更に含んでよい。
【0011】
本開示の他の実施は、記載した組成物に相当する他の系及び方法を含む。例えば、上記及び/又は下記例及び態様のいずれかにおける主題の少なくとも一部を含むことがある別の態様において、記載した組成物から形成される基材を含み、着用可能な物品が提供される。着用可能な物品は弾性ゴム手袋でよい。
【0012】
記載した手袋及び着用可能な物品を製造する方法も提供される。本方法は、合成ゴムラテックス組成物を含む凝固剤浴に型を浸漬することを含む。合成ゴムラテックス組成物は合成ゴムラテックス及びイオン液体を含む。本方法は型を凝固剤浴から取り出し、型上に基材の層を形成することを更に含む。
【0013】
イオン液体は合成ゴムラテックス組成物にゴム100部に対して0.05から1.5部で存在してよい。合成ゴムラテックス組成物は1つ又は複数の金属酸化物を更に含んでよい。1つ又は複数の金属酸化物は酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カドミウム及び酸化アルミニウムの少なくとも1つを含む。合成ゴムラテックス組成物は1つ又は複数の機能材料を更に含んでよい。1つ又は複数の機能材料はポリカルボジイミド、アジリジン、エポキシの少なくとも1つを含む。
【0014】
本方法は、おおよそ130℃未満の温度で基材の層を硬化することを更に含んでよい。本方法は、基材の内面を、この内面が0パーツパーミリオン(ppm)から600ppmの塩素化レベルを含むように塩素化することと、基材の内面にポリマーコーティングを塗布することとを更に含んでよい。
【0015】
これらの及び他の実施形態を以下に更に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は1つ又は複数の実施形態に従って合成ゴムラテックス組成物から形成される着用可能な物品の例を示す。
【
図3】
図3は1つ又は複数の実施形態に従って、記載した合成ゴムラテックス組成物で手袋を作製する方法の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明者により予期される本開示を実施するための最良の形態を含む、本開示のいくつかの具体的な実施例を詳細に言及する。本開示をこれらの具体的な実施形態と併せて記載するが、記載した実施形態に本開示を限定する意図はないことが理解されるであろう。反対に、添付の特許請求の範囲により定められる本開示の趣旨及び範囲内に含まれ得るものとして、代替、変更及び均等物を包含することが意図される。
【0018】
例えば、本開示の系及び方法は、特定の材料に照らして記載される。しかし、本開示の構造及び機構は、当技術分野で公知の関連する適用可能な種々の異なる弾性材料、並びに/又はこれらの組み合わせを記載する場合があることに留意すべきである。別の例として、本開示の系及び方法は、手袋など特定の着用可能な物品に照らして記載される。しかし、この系及び方法は、様々な目的のためにユーザが着用することができる様々な他の着用可能な物品に適用可能であることは理解されるべきである。
【0019】
以下の明細書において、本開示を完全に理解するために、多数の具体的詳細が明記される。本開示における特定の実施形態の例は、これら具体的詳細のいくつか又はすべてを用いずに実施することができる。他の例において、不必要に本開示を不明確にしないように、周知の構造、機構及び材料を詳細に記載しない。
【0020】
概要
弾性手袋は、天然及び合成ゴム並びに他のラテックス材料から製造され、医療、工業及び専門用途で広く使用されている。しかしながら、天然ゴムラテックスで作られる弾性手袋を使用することで、天然ゴムのタンパク質含有量のため、特定のユーザがI型過敏症を発症し得る。報告されたデータでは、世界のラテックスアレルギーの平均有病率は、医療従事者、影響を受けやすい患者及び一般集団でそれぞれ9.7%、7.2%及び4.3%であることが示されている。
【0021】
従って、アレルゲンタンパク質を含有しない合成ゴムラテックスは、手袋用途用の天然ゴムラテックスの代用として使用されている。このような合成ゴムラテックスとしては、ニトリルゴムと呼ばれることが最も多いカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス(xNBR)、クロロプレンゴム(CR)と呼ばれることが最も多いクロロブタジエンゴムラテックス、イソプレンゴム(IR)と呼ばれることが最も多いメチルブタジエンゴムラテックス等を挙げることができる。従来、合成ゴムラテックスで作られる手袋は、硬化及び加硫目的のため、高レベルの硫黄及びジブチルジチオカルバミン酸亜鉛などの促進剤を必要とする。しかしながら、硫黄及び促進剤を含む高レベルの硬化/加硫化学物質、又は複雑なグラフト化学及び副反応を利用することは、製造又は製品コストの増加、及び残留する促進剤により引き起こされるアレルギー反応(例、IV型接触皮膚炎)の可能性をもたらすことが多い。
【0022】
多くの手袋用途は実際に使い捨てである(例、検診用手袋及び手術用手袋)ため、低い製品及び製造コストを維持することは、依然として重要な検討事項である。結果として、多くの合成手袋の製造業者は、手袋の掌部における全膜厚及び得られる合成手袋の重量を低下させることにより、原料消費を低下させる手段を標的としている。膜厚は0.10mm以下を標的とすることが多い。掌部における膜厚は、ゴムラテックス又は溶液で作られる使い捨て検診用手袋の仕様を示すISO11193-1:2008に従って測定される。
【0023】
薄い合成弾性手袋膜では、物品を曲げる、伸ばす又は変形させるのに必要な力は小さく、所望の柔らかさ及び手触りを有し、快適さ及び触覚感度が大きいという更なる利点をユーザに提供する。特に医療現場における長期使用中の手の疲労は、このように快適さ及び柔軟性を改善することでも低下するか、又は予防される。しかしながら、ゴム膜の厚みの低下は、製造中の複雑さ及び非効率性の増加、並びに使用中の弱い又は低い強度及び不具合などの問題に関連する場合が多い。医療用途用手袋の強度は、欧州標準化委員会(CEN)により定められたEN455(Medical gloves for single use-Part2:Requirements and testing for physical properties)などの国際医療用手袋標準による基準を満たさなければならない。
【0024】
器用さ及び触覚感度の改善は更に高強度に手を保護し、これは依然としてエンドユーザの高い要件である。更に、該方法が、公知のI型及びIV型アレルゲンの排除と併せて、これらの性能の利点をすべて有する手袋を製造するなら、手袋の選択には新しい世代が開く。従って、掌部における膜厚が0.10mm以下である手袋を作製する合成ゴムラテックス組成物及び製造方法の強い必要性が依然としてある。この手袋は、CEN EN455による6.0ニュートン(N)を超える切断荷重(FAB)の測定値により示される強度を維持し、米国試験材料協会(ASTM)により定められたASTM D412 Method Aで測定されるように、天然ゴムラテックス手袋に匹敵する又はより低いメガパスカル(MPa)単位のモジュラス値、割合(%)の引張強度及び破断伸び値の通り、柔らかく、柔軟なままである。典型的に、天然ゴムラテックス手袋は、300%モジュラス(M300)が2.0MPa以下、破断伸び値が800%超である。
【0025】
本開示は、上記所望の性質を有する手袋を作製する新規の合成ゴムラテックス組成物及び製造方法を記載する。本開示は本明細書に記載される実施例の配合で作られる手袋の様々な特性を示し、説明する。特に明記しない限り、FAB値はCEN EN455の通りに測定され、モジュラス、引張強度、及び破断伸び値はASTM D412の通りに測定される。
【0026】
記載した組成物及び方法は、硫黄並びに加硫及びゴム促進剤を排除するなど、更なる利点を提供し、これにより有害な化学物質、ユーザの潜在的なアレルギー反応、及び全体の製造コストを低下させる。記載した系及び手袋は、繊細で素早い処置を簡単に実施することができるように、ユーザに高レベルの快適さ及び器用さと共に、高い保護強度を更に提供する。これにより、記載した組成物及び方法で製造した手袋はCEN EN455に準拠したものであり、掌部における膜厚が0.10mm以下で天然ゴム値に匹敵する、又はより優れたモジュラス及び破断伸び値により測定されるように、所望の柔らかさ及び触覚性を有する。いくつかの実施形態において、掌部における膜厚が0.05mm以下である手袋を作製してよい。
【0027】
特に、本開示は比較的薄い合成弾性手袋を記載する。この手袋は、多くの従来の合成ゴムよりも薄く曲げやすい(又は柔らかい)が、やはり保護性を保持し、合成ゴム手袋が通常擦り切れるすべての医療処置、及び工業又は研究室作業のために、強度及び切断荷重(FAB)を決定的に強化するように設計される。例示的な手袋は、FABが6.0ニュートン(N)以上であると同時に、単層である手袋の掌部における膜厚が0.10mm未満で、2.5MPa以下の300%モジュラス(M300)、及び800%以上の破断伸びを維持するように、強度が改善されている。本明細書で使用されるとき、「手袋の掌部における膜厚」は単層の膜厚と呼ぶ場合があり、手袋の単層の厚み、つまり手袋の外部から内部の層の厚みを記載する。
【0028】
米国を含むいくつかの国で、ASTM D412 method Aにより定められる通り、手袋は最小引張強度が14MPaである必要がある。以下のように、記載した方法及び組成物はこのような要件を満たす手袋を提供することができる。記載した方法及び組成物は、上記所望の性質を保持しながら、厚みが0.10mm超である手袋を提供するために実施することもできる。例えば、ISO10282:2014は、使い捨て滅菌ゴム製手術用手袋の仕様を提供し、0.10mmの最小厚みを必要とする。このような厚い手袋は、モジュラス及び破断伸び値が改善されていると同時に、CEN EN455により必要とされる通り、FABが9.0N以上であるように、記載した組成物から製造することができる。これらの及び他の特徴は合成ゴムラテックス用の新規組成物を提供し、これらは任意の先行技術単独又はその任意の組み合わせにより予測されておらず、明らかでなく、示されておらず、示唆さえされていない。
【0029】
実施形態の例
図1は、1つ又は複数の実施形態に従って、合成ゴムラテックス組成物から形成される着用可能な物品の例を示す。
図1に関し、ユーザの手140に着用された手袋100を示す。様々な実施形態において、手袋100は弾性ゴム手袋である。例えば、手袋100は、本明細書に記載される組成物及び方法から製造される手袋基材を含んでよい。いくつかの実施形態において、手袋100はユーザの手140と接触する手袋100の手袋基材の内面に内側コーティング110(破線で示す)を含んでよい。
【0030】
様々な実施形態によれば、合成ゴムラテックス組成物は合成ゴムラテックス又はそのブレンドを含み、金属酸化物及び他の機能材料及び加工材料と水中で相乗的にブレンドされた有機イオン液体のイオン液体配合と組み合わされる。本明細書で使用されるとき、イオン液体という用語は同じ意味でイオン流体と呼ばれる場合がある。様々な実施形態において、有機イオン液体は1-ブチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール、及びブロモ-1-イミダゾールなどの1つ又は複数のアルキルイミダゾールイオン性塩を含む。イオン液体配合における金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カドミウム、酸化アルミニウム等の任意の1つ又は複数でよい。本明細書で使用するとき、「機能材料」という用語は、1つ又は複数の架橋性基を含む化合物及び他の材料を指す。イオン液体配合における機能(単機能、二機能又は多機能)材料は、ポリカルボジイミド、アジリジン、エポキシ等の任意の1つ又は複数でよい。イオン液体配合は、界面活性剤、顔料、分散剤、不透明化剤、ワックス、クレー、酸化防止剤、炭酸カルシウムなどの充填材、ケイ酸アルミニウム、及び水酸化カリウムなどのアルカリを含む、当技術分野で公知の加工材料の1つ又は複数の組み合わせを更に含んでよい。
【0031】
様々な実施形態において、イオン液体は液体状で、98%の純度で又は約98%の純度で提供される。その後、界面活性剤は有機イオン液体に添加される。実施形態の例において、界面活性剤は、0.5%重量/重量(w/w)の重量パーセントまでのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)又はラウレス硫酸ナトリウム(SLS)などの陰イオン界面活性剤、或いはこの2つのブレンドである。イオン液体が乳化剤(界面活性剤)でカプセル化されると、合成ゴムラテックスといつでも混合することができる。
【0032】
様々な実施形態において、合成ゴムラテックス又はそのブレンドは水系混合物として提供される。金属酸化物、機能材料、及び他の加工材料(つまり、ZnO、AI2O3、カルボジイミド、顔料、TiO2、界面活性剤、酸化防止剤、ワックス等)を含む所望の成分は、合成ゴムラテックスの水系混合物に撹拌しながら個別に添加される。例えば、各成分は合成ゴムラテックスにそのまま添加してよく、又は水で希釈して添加することができ、合成ゴムラテックスに添加される前に、安定した分散を形成する。その後、カプセル化された有機イオン液体を合成ゴムラテックス混合物に添加することができ、合成ゴムラテックス組成物を形成する。しかしながら、いくつかの実施形態において、合成ゴムラテックスの水系混合物を添加する前に、有機イオン液体をまず金属酸化物、機能材料、及び他の加工材料とブレンドしてよい。
【0033】
その後、組成物を希釈するために水を添加してよく、所望の全固形分レベルを得る。塩基を添加して所望のpHレベルにしてもよい。その後、手袋を作製するための浸漬ラインで使用する前に、組成物を混合しながら放置する。特定の実施形態において、有機イオン液体は、ゴム100部に対して0.05から1.5部(PHR)の量で組成物に存在してよい。実施形態の例において、有機イオン液体はおおよそ0.05から0.8PHRで存在する。別の例として、有機イオン液体はおおよそ0.1から0.4PHRで存在する。記述するように、イオン液体配合は有機イオン液体、金属酸化物、他の架橋剤(機能材料)、及び手袋の形成を助ける他の材料(加工材料)を含んでよい。このような他の材料は二酸化チタン、着色顔料、界面活性剤、酸化防止剤、ワックスの1つ又は複数を含んでよい。該材料を制御した撹拌下で組み合わせることにより、合成ゴムラテックス(又はそのブレンド)をイオン液体と混合することができ、生じる合成ゴムラテックス組成物のpHはおおよそ9.0から11.5の範囲まで上昇する。
【0034】
合成ゴムラテックスと混合するための実施例の配合(実施例1)は、表1の下記範囲で材料を含んでよく、量はすべて乾燥ゴム100部に対しておおよその部(PHR)で列挙される。
【0035】
【0036】
表1の実施例の配合は、列挙された成分に限定されず、様々な実施形態で本明細書に記載される様々な他の材料を含んでよい。ラテックス状の合成ゴム及びエラストマーの様々な型又は組み合わせを様々な実施形態において記載した配合と混合してよい。様々な実施形態において、イオン液体は配合に0.05から1.5PHRで存在する。実施形態の例において、イオン液体は配合に0.5PHRで、又はおおよそ0.5PHRで存在する。
【0037】
配合を上記範囲に調節して、利用できる多くの様々な合成ラテックス及びエラストマーの固有の性質を補うことができる。例としては、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス(ニトリル)、ポリクロロプレンラテックス、スチレンブタジエンラテックス、アクリルラテックス、ポリイソプレン、スチレンブタジエンコポリマー及びブロックコポリマーのラテックス、ポリウレタンエラストマー分散、及び上記の混合物を挙げることができる。いくつかの好適な合成ゴムラテックスの例としては、Nantex Ind.Co.,Ltd.のNANTEX660、Synthomer Sdn BhdのSYNTHOMER6338、Shin FoongのPOLYLAC580N、昭和電工株式会社のSD671A、デンカ株式会社のLM61、日本ゼオン株式会社のNIPOL LX550L及びNIPOL LX430、Kraton CorporationのCARIFLEX IR0401、BST SpecialtyのBSTS IRL501及び701、並びにこれらの例の1つ又は複数の様々なブレンドが挙げられる。いくつかの実施形態において、合成ラテックス及びエラストマーのブレンドは、記載した例を様々な比で含んでよい。例えば、あるブレンドは1:1比、つまり1つのラテックスを50%及び2つ目のラテックスを50%含んでよい。別の例として、あるブレンドは1つのラテックスを70%及び別のラテックスを30%含み、又は1つのラテックスを80%及び別のラテックスを20%含んでよい。いくつかの実施形態において、例えばワックス、クレー、陰イオン及び非イオン界面活性剤、分散剤等、他の一般的なゴム配合材料を配合に添加してもよい。
【0038】
エラストマー及び合成ゴムラテックスの選択に関し、記載した組成物の広い適用可能性は、イオン的に及び共有結合的に、配位する及び架橋することができるイオン液体の性質によるものである場合がある。そのため、ニトリルゴムなどの機能化した合成ゴムラテックスを使用したイオン性架橋が最も広く用いられ、一方クロロプレン又はイソプレンなどの他の合成ゴムを使用し、イオン液体のアルキル基による共有結合性架橋が有利である場合がある。試験手袋の得られた性質を以下に更に記載し、この挙動を説明する。
【0039】
様々な金属酸化物を使用してもよい。酸化亜鉛の例としては、Tiarco Chemicalのwhite sealのOCTOCURE573、SokachemのBOSTEX422A、及び/又はLanxessの活性酸化亜鉛を挙げることができる。酸化アルミニウムの例はDERLINK A102でよい。様々な単機能、二機能又は多機能材料も使用することができる。この機能材料の例としては、Angus ChemicalのZOLDINE XL-29SE、ミドリ安全株式会社のM-GEN2-TypeA及びB、並びにStahlのPERMUTEX XR5508、XR2500及びXR9181を挙げることができる。いくつかの実施形態において、二酸化チタンは所望のレベルの白色度又は不透明度を提供するために含まれ、顔料は所望の最終製品の色を提供するために含まれる。
【0040】
具体的な利点について、記載した組成物から従来の硫黄及び促進剤を使用せずに弾性手袋を形成することができ、既存の弾性手袋より複数の改善点がある。第1に、このような化学添加物により引き起こされるアレルギー反応及び皮膚炎のリスクが排除される。更に、硫黄含有架橋剤及び促進剤を含むゴム(合成及び天然)は、典型的に約130℃超の温度で加硫しなければならない。しかし、記載した組成物で製造された合成ゴムラテックス手袋は、約130℃未満の温度で硬化することができ、エネルギ消費及び製造コストを低下させる。いくつかの実施形態において、記載した組成物を含むゴムラテックスは、120℃未満の温度、より具体的に110℃未満の温度で十分に硬化することができる。
【0041】
本発明によれば、手袋の厚みと共に、組成物中の他の材料を有する有機イオン液体レベルを同時に制御することにより、両方の変数を調整することができ、材料強度を最大にし、材料を伸長するのに必要な力を最小にする。実施例のイオン液体の配合を用いて作製した合成ゴムラテックス組成物は、厚い天然ラテックス手袋と類似した力応答挙動を有する物質を生じることが見出された。手袋を製造するのに使用する前に、合成ゴムラテックスに添加される有機イオン液体、金属酸化物、及び他の機能(単機能、二機能又は多機能)材料の型及び量により、架橋を制御する。手袋の厚みは、浸漬プロセス中に様々な手段により制御することができるが、最も一般的にはゴムラテックスの全固形分(TSC)及び凝固剤濃度(重量%)により制御される。従って、記載した組成物及び方法は、合成ゴムの強度の可能性を最大限にすると同時に、更に従来の合成物品より曲げやすく着用し心地がいい手袋を作製する。
【0042】
一般的に、合成ゴムの架橋及び加硫プロセスは、架橋の三次元ネットワークの形成により、低湿潤ゲル強度を有する弱いゴムを良好な強度及び弾性を有するゴムに変換することに関係する。架橋は従来、1)ゴム骨格内のジエン又はビニルサブユニットを硫黄/促進剤系で共有結合的に架橋することができる、2)官能基(例、製造業者による合成中に合成ゴムに取り込まれる有機酸からのカルボン酸塩)を金属酸化物又は塩とイオン的に架橋することができる、という少なくとも2つの方法で形成される。現在利用可能な多くのゴム配合は、一般的にこれら2つの硬化機構の組み合わせを利用している。例えば、製造業者は、ゴム100部に対して1から10部(PHR)の金属酸化物(酸化亜鉛など)、並びにゴム100部に対して1から4部(PHR)の硫黄レベル、及びゴム100部に対して0.5から1.5部(PHR)の促進剤レベルの添加を推奨することが多い。
【0043】
有機イオン液体を使用することで、上記架橋経路と同じ又は異なる形態であるが、金属酸化物レベルがはるかに少なく、硫黄並びに従来の加硫剤及び促進剤を必要とすることなく、記載した組成物が生じる。これにより材料コスト、並びに最終製品の潜在的なアレルゲン量を低下させる。特定の性質は、少なくとも部分的にイオン液体の性質、他の材料とどのように相乗的に組み合わさるか、及び合成ゴムの炭素鎖又は骨格内の利用できる架橋部位とのその効率的な相互作用に起因する。イオン液体は、無機アニオン(Cl-、AlCl4-、PF6-、BF4-、NTf2-、DCA-等)又は有機アニオン(CH3COO-、CH3SO3-等)と関連する有機カチオン(イミダゾリウム、アンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、ホスホニウム及びスルホニウムなど)を含み、液体状の純粋なイオン性塩様材料の一種である。上記のように、有機イオン液体は、1-ブチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール及びブロモ-1-イミダゾールの1つ又は複数を含む、アルキルイミダゾールイオン性塩を含んでよい。特定の実施形態において、有機イオン液体は、アルキルイミダゾールイオン性塩として1-ブチルイミダゾールを含む。
【0044】
表2は、実施例のイオン液体の配合(実施例2、3、3a及び4)を当技術分野で以前から知られたイオン液体を使用していないコントロールの配合(C1、C2、C3及びC4)と比較する。
【0045】
【0046】
上記のように、コントロールの配合C1、C2、C3及びC4はイオン液体を含まない。コントロールの配合C1及びC2は、従来の硫黄及び促進剤と共に、異なるレベルの酸化亜鉛を含み、一方イオン液体を含む実施例の配合はこのような成分を含まない。このような促進剤としては、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)及び/又はジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDEC)が挙げられる。更なるコントロールの配合C3及びC4も硫黄及び促進剤を含まなかった。コントロールC3は酸化アルミニウムを含み、コントロールC4は酸化亜鉛及び酸化アルミニウムどちらも含む。
【0047】
実施例の配合2、2a、3、3a、3b、4及び4aは有機イオン液体として1-ブチルイミダゾールを含み、試験手袋を形成するのに使用した。実施例2は、機能材料としてポリカルボジイミドと共に、酸化アルミニウムを含んでいた。実施例2aは酸化亜鉛及び酸化アルミニウムのどちらも含んでいた。実施例3、3a及び3bは酸化亜鉛を含み、単機能、二機能又は多機能材料は含んでいなかった。配合3bは、実施例3b-1に関する合成ゴムラテックスの第1の組み合わせと組み合わされ、実施例3b-2に関する合成ゴムラテックスの第2の組み合わせと組み合わされた。最後に、実施例4及び4aは、機能材料としてポリカルボジイミドと共に、金属酸化物について酸化亜鉛及び酸化アルミニウムの組み合わせを含んでいた。表2の実施例の配合は、一覧した成分に限定されず、様々な実施形態において本明細書に記載される様々な他の材料を含んでよい。上記配合から製造される弾性手袋の性質を以下の表3に記載する。
【0048】
【0049】
表3は、各手袋に関し、ミリメートル(mm)単位で測定した掌部における単層の厚み、ニュートン(N)単位で測定した切断荷重(FAB)、メガパスカル(MPa)単位で測定した300%モジュラス(M300)、メガパスカル(MPa)単位で測定した引張強度、及び制御した温度で試験手袋の破断後、初期長さから増加した長さの割合(%)として測定される破断伸びを示す。
【0050】
表2及び3で説明するように、記載した実施例の配合により製造した手袋は、強度を断念することなく、掌部における単層の厚みが0.10mm以下であり;測定した切断荷重(FAB)の特性は、典型的に重量単位が重く厚い手袋と同等である。本明細書で用いられる「強度」は、CEN EN455標準により測定されるものなど、所定の形状及び寸法を有するサンプルを破断するために必要な力の量に応じて記載することができる。コントロールの配合で製造した手袋と比較して、実施例の配合による手袋は、FAB、モジュラス、引張強度及び伸張特性が改善した。
【0051】
表3に更に示すように、実施例の配合から製造した手袋は、掌領域における単層のラテックス膜の厚みが約0.08から0.10mm、破断伸び値が800%超で切断荷重(FAB)測定値が6.1から7.0N、及び300%モジュラス(M300)が1.6から2.1MPaの範囲である。従って、記載した組成物は2.5MPa以下のM300を有する手袋を作製するのに使用することができる。表3に示すように、いくつかの実施形態において、作製した手袋のM300は2.0MPaより低い場合がある。これは、非常に有利には、天然ゴム(NR)ラテックス手袋のモジュラス及び破断伸び値に匹敵し、更にいっそう有利には、NRラテックス手袋は0.18mm以上である傾向があるため、掌部の厚みに基づいている。
【0052】
弾性合成ゴム手袋の薄さを維持することは、触覚感度を高め、ユーザの快適さを著しく増加させ、手の疲労を低下させることができる。製造及び製品コストも低下させることができる。より薄い手袋は、厚い手袋と比較して必要な材料が比較的少ないため、製造コストを低下させるのに役立つ。更に、記載した方法は従来のプロセスより加硫及び硬化温度が低く、エネルギ効率の良いプロセスとなり、製造コストが更に節約される。更に、より多くの薄い手袋を標準のディスペンサに包装することができ、包装及び無駄を少なくする。更に、弾性手袋は使い捨てされる傾向にあるため、(本発明に記載されるような適当な標準を満たすと同時に)取り込まれる合成ゴム量を低下させることで、病院や他の使用場所における廃棄物処理を減らし、重大な環境の利点となる。
【0053】
いくつかの実施形態において、手袋は掌部における最小の単層厚みが0.10mm以上であるように製造することができ、手術用手袋の標準(ISO10282:2014)を満たす。このような厚い手袋は、FABが9.0N以上であり(CEN EN455で必要とされるように)、同時に同じ又は匹敵する厚みを有する従来の手袋より改善したモジュラス及び破断伸び値を維持することができる。これは、十分な保護を提供し、同時に長期間手先の器用さを必要とする操作又は処置の間など、触覚感度及びユーザの快適さを劇的に改善するであろう。
【0054】
表4に示す更なる試験は、配合におけるイオン液体の効果を説明する。実験において、イオン液体を含む合成ゴムラテックス組成物を使用して作製した手袋を、イオン液体を含まない類似の合成ゴムラテックス組成物を使用して作製した手袋と比較した。
【0055】
【0056】
表2に記載された実施例3aのイオン液体の配合を含む合成ゴムラテックス組成物から手袋Bを形成した。表2に記載された実施例2aのイオン液体の配合を含む合成ゴムラテックス組成物から手袋Cを形成した。イオン液体の配合の代わりに、表2に記載のイオン液体を含まず、酸化アルミニウムが0.75PHR、酸化亜鉛が0.15PHRであるコントロールの配合C4を含む合成ゴムラテックス組成物から手袋Aを形成した。表2に記載のイオン液体を含まないコントロールの配合C3を含む別の組成物から手袋A2を形成した。
【0057】
表4に示す結果は、記載した合成ゴム組成物に有機イオン液体を包含することが、形成した手袋の強度及び柔らかさに明らかな影響があることを確認する。強度に関して、手袋Bは手袋Aと比較して1.1ニュートンの切断荷重の増加を示した。柔らかさ及び柔軟性に関して、手袋Bは破断伸び値の増加を示し、300%モジュラスは低下した。特に、イオン液体の存在は、手袋の強度を著しく改善するが、モジュラス及び破断伸びにより示される柔らかさに影響しない。典型的に、強度が公知の架橋系(例、金属酸化物)により改善されるとき、手袋には付随する硬化が観察され、これはM300値の増加及び破断伸び値の減少により示される。ここで、手袋B及びCにより、同じ厚みでイオン液体を含まないコントロールの配合から作製される手袋A1及びA2と比較して、イオン液体を含む組成物が、柔らかさの値に優れる頑丈な手袋を形成することが示される。
【0058】
表5に示す追加の試験は、実施例の配合を用いて形成される手袋の柔らかさ特性を更に説明する。実験において、イオン液体を含む表2に記載の合成ゴムラテックス組成物を使用して作製した手袋を、イオン液体を含まない表2に記載の類似の合成ゴムラテックス組成物を使用して作製した手袋と比較した。
【0059】
【0060】
モジュラス値のより包括的な表を表5に示す。特に、上記のM300値と共に、手袋の100%(M100)及び500%(M500)モジュラスに関する値を測定した。表5に示す結果のグラフ表示である
図2A及び2Bにこれらの特性を更に示す。
図2Aのグラフ201は、表5に示す配合から作られる手袋のモジュラス値の棒グラフを示す。この棒グラフにより、すべての配合から作られる手袋が、最も高いM300値を有するコントロールの配合C1に匹敵するM100及びM300値を有することが示される。更にこの棒グラフにおいて、イオン液体を含む実施例の配合から形成される手袋では、500%モジュラスであるM500の値が非常に低く、一方でイオン流体を含まないコントロールの配合では、M500値が最も高い手袋となることが示される。
【0061】
図2Bのグラフ202は、長さが500%増加するまで手袋を伸長するのに必要とされる力を別に示す。グラフ202に示すように、実施例の配合2a、2b、3、3a、3b-2及び4から作られる手袋のモジュラス値は、M100からM300を通ってM500まで非常に段階的に浅く増加する値を示す。一方、コントロールの配合C1及びC2はM300からM500値まで非常に著しい増加を示し、伸びが大きいほど非常に高い剛性を示す。
【0062】
また、イオン液体の配合はより大きな破断伸び値となった。グラフ201及び表5から、実施例の配合により800%超の伸び時に破断する手袋となることは明白である。反対に、イオン液を含まないコントロールの配合C1及びC2は、688%及び784%伸び時に破断する手袋となった。これは、モジュラス測定値により示されるように、伸びが大きいほど高い剛性を引き起こすコントロールの配合と一致している。
【0063】
これは、イオン液体の配合に関する架橋の機構又は形態が、硫黄及び促進剤などの既存の加硫化学物質とは異なることを更に示している。これは、イオン液体の配合が大きな引裂強度、つまり材料を引き裂くのに必要とされる力を有する手袋となることも示している。引裂強度は、配合3b-2及びコントロールの配合C1で形成した手袋について、ASTM D624標準により測定した。コントロールの配合C1で形成した手袋について測定された引裂強度25.0KN/mと比較して、配合3b-2で形成した手袋の引裂強度は27.4KN/mであった。
【0064】
実施例の配合で形成した手袋の応力緩和値も試験し、結果を以下の表6に示した。応力緩和値はASTM D412標準の通りに測定した。
【0065】
【0066】
応力緩和は、モジュラスと共に手袋の弾性ゴム性能及び触感を特徴づけることができる重要なパラメータである。応力緩和値の割合が高いほど、手袋はユーザの手の形状にフィットし、より弾性を感じ、受けるクリープは少ない。顕著なクリープは、手袋が長期間使用後にゆるくなり、性能及び生産性、並びに代わりの手袋が必要ならコストに影響するため、望ましくない。
【0067】
しかしながら、高い応力緩和値を高いモジュラス値(つまりM300>2.5MPa)と組み合わせると、このような手袋は指の疲労を直ちに引き起こすことが知られている。手袋が手、並びに指及び掌領域にしっかりフィットすることは、医療及び手術使用で必須である。ユーザが手よりわずかに小さな寸法の手袋を着用して確実にぴったりとフィットさせることは慣例である。しかし、これらの手袋の使用中、手袋が堅すぎる場合、手袋が手に継続して圧力をかけることで、不快感が生じる場合がある。一般に、合成ニトリルブタジエンゴムを用いた先行技術の配合で形成した手袋は、応力緩和が低く(50%未満)、300%モジュラスがはるかに高い(>7MPa)。結果として、このような先行技術の手袋のエンドユーザは、先行技術の合成手袋で手の疲労を訴えることが多い。
【0068】
表6の結果は、形成した手袋の応力緩和がイオン液体を含む配合により改善され、56%から60%の値となることを明示しており、このような手袋は、コントロールの配合C1、C2及びC3(イオン液体を含まない)で作られ、架橋を金属酸化物単独、又は硫黄及び促進剤との組み合わせに依存している手袋と比較して、より弾性を感じ、よりぴったりと手にフィットすることを示している。このように、実施例の配合は60%に近い値の有利な応力緩和性、及び低モジュラス(おおよそ<2.0MPa)を生じるが、高い強度及びFAB値(FAB>6N)を有するのは重要である。従って、本明細書に記載される実施例の配合を用いて形成される手袋は、より快適で良好にフィットする手袋となり、50%未満の低い応力保持を有する先行技術の手袋と比較し、長期装着時の接触が改善する。
【0069】
老化前後の手袋の性質も試験し、結果を以下の表7に示した。FABをEN455の通りに測定した。M300、M500、破断伸び及び引張強度値をASTM D412の通りに測定した。
【0070】
【0071】
重要なことに、手袋はよく老化しなければならず、ASTMにより規定されるように最低要件は老化後伸長が>400%、老化後引張強度が>14MPaである。高酸化亜鉛及び硫黄及び促進剤に依存している既存の配合で形成した手袋(例、表7のコントロールの配合C1)は、老化が促進され、製品の保管性能が乏しいことが多い。表7に示すように、これは引張強度の増加、老化後のモジュラスの顕著な増加及び伸びの驚くべき低下により特徴付けられる。
【0072】
老化実験は、実施例の配合が、老化後に強い引張強度及び切断荷重を維持すると同時に、優れた老化耐性を示すことを証明している。配合2a、2b、3、3a、3b-2及び4で形成した手袋はすべて、老化後のモジュラス及び伸びの変化はごくわずかである。このような手袋の引張強度及び伸びは、老化前後の医療手袋に関するASTMの要件を良好に上回っている。結果として、この手袋は保管中に性能が劣化せず、優れた保存可能期間を有するものとして分類することができる。
【0073】
製造方法
図3を参照し、1つ又は複数の実施形態に従って、記載した合成ゴムラテックス組成物を用いて手袋を作製する方法の例300を示す。操作302で、まず、所望の形状及びサイズのセラミック又は複合ポリマー製の型又はモールドを洗浄し、清潔にし、乾燥させる。例えば、型は、ヒトの手に相当する幾何学的外形に合わせて構成される身体構造のものでよい。
【0074】
その後、清潔な型を予加熱してよく、次に、凝固剤浴に浸漬するか、又は完全に沈める。特定の実施形態において、型をおおよそ55~60℃(58℃など)まで加熱する。その後、型を凝固剤浴から引き上げた後、乾燥させ、型の表面に硝酸カルシウム又は塩化カルシウムなどの凝固剤を残す。例えば、凝固剤浴は、pH6.5から7.2でCYCLERON345など、2.5~3.5%の凝固剤粉末フリー(CPF)を含有し、固形分が18~20%の硝酸カルシウム水溶液を含んでよい。
【0075】
次に、操作304で、その表面に凝固剤を有する型を合成ゴムラテックス組成物の浴槽に浸漬する。上記のように、様々な実施形態において、合成ゴムラテックス組成物は、合成ゴムラテックス又はそのブレンド、水、有機イオン液体、金属酸化物、及び他の機能(単機能、二機能又は多機能)材料を含んでよい。組成物は、更に界面活性剤、顔料、分散剤、不透明化剤、ワックス、クレー、酸化防止剤、炭酸カルシウムなどの充填材、ケイ酸アルミニウム、水酸化カリウムなどのアルカリ等、当技術分野で公知の加工材料を含んでよい。凝固剤でコーティングされた型を組成物に浸漬するか、完全に沈め、引き上げる。型に合成ゴムの薄層が残り、薄い層のゲル化した手袋が形成される。いくつかの実施形態において、手袋の袖口の上端にビード加工することができる。
【0076】
合成ゴムラテックス組成物から引き上げると、操作306で一連の予浸出タンクに入れる前に、膜が強度を得るように、凝固した湿潤ゴム層をある程度乾燥させる。このタンクでは、水が連続して補充され、浸出を行い、膜を洗浄する。例えば、ゲル化した手袋ゴムを有するモールドを約80℃から100℃の温度のオーブンで乾燥することができ、次に清潔な連続して循環する水に完全に沈めて、ゲル化したゴム手袋から水溶性材料成分をすべて除去する。次に、モールド上の合成ゴム層を乾燥させるか、ある程度乾燥させて、含水量を更に低下させる。
【0077】
既存の製造方法と比較して、合成ゴムラテックス(又はそのブレンド)の固形分は、40~65%からおおよそ19~22%まで低下し、型の単一及び複数ラインを用いる凝固剤浸漬プロセスを利用して、手袋の厚みを制御する。固形分を低下させることは、型上に得られる合成ゴム膜の質の改善の一因にもなる。
【0078】
方法300は、単層又は多層弾性膜の調製を包含する。このように、いくつかの実施形態において、操作304を繰り返して、ある程度乾燥した合成ゴム層を有する型を合成ゴムラテックス溶液に浸漬して、型上に合成ゴムの更なる層を得る。操作304は任意の回数繰り返すことができ、操作306で洗浄する前に所望の層量を得る。例えば、厚みの追加は手術用手袋の要件を満たすために望ましいことがある。厚みの追加は、組成物内に型を留まらせる時間を増やすことにより、又はゴムラテックスの全固形分(TSC)及び凝固剤濃度(重量%)を用いて組成物の粘度を調節することにより達成することもできる。
【0079】
合成ゴムの所望の層量を型に形成し、十分に洗浄すると、型上の弾性合成ゴムの1つ又は複数の層を操作308で乾燥、硬化(加硫)させる。上記のように、記載した合成ゴムラテックス組成物の使用は、硫黄又は他の促進剤を使用することなく、既存の手袋より低い約130℃未満の温度で手袋を硬化させる。その後、ゲル化したゴム基材を有する型をこれらの高温で加熱すると、残りの水分量が除去され、イオン液体と、金属酸化物が存在するなら他の架橋剤とは結合し、合成ゴムの主鎖又は骨格における利用可能な部位と3次元架橋ネットワークを形成する。
【0080】
操作310で、形成した弾性物品又は手袋は、任意に塩素化などの更なる加工を受けることができ、粘性及び/又は手袋内部のポリマーコーティングの塗布を低減させる。例えば、ポリマーコーティングは、2~4%のTSCで市販のFLEXICOAT892又はFLEXICOAT168Nでよい。別の例として、手袋内部のポリマーコーティングは、おおよそ100から400ナノメートル(nm)の平均粒子サイズを有するポリマー及び/又はモノマーラテックスの1つ又は複数の組み合わせ、並びに500nm超の平均粒子サイズを有する大きな粒子サイズのポリマーを含む、エマルションポリマーのポリマー系を含んでよい。小さな粒子サイズのポリマーは、ブタジエン系ポリマー及びコポリマーラテックス、イソプレン系ポリマー及びコポリマーラテックス、スチレンから調製されるコポリマーラテックス、及びアクリルモノマー、及びポリウレタンコポリマーの少なくとも1つを含んでよい。大きな粒子サイズのポリマーは酢酸ビニルポリマーを含んでよい。ポリマー系は、500nm超の平均粒子サイズを有する無機顆粒状粒子を更に含んでよい。ポリマー系は、アルコールエトキシレート界面活性剤、ヒドロキシエチルセルロース、ブロノポール(C3H6BrNO4)及びシリコーン型消泡剤の少なくとも1つを更に含んでよい。このようなコーティングは、湿潤及び駆動条件の両方において着用特性を改善することができる。
【0081】
最終乾燥プロセスを実施後、操作312で最終物品又は手袋を型から取り外し、ひっくり返す。その後、手袋はオートメーションで運ばれ、内部検査及び最終包装の準備をすることができる。
【0082】
記載した方法は、多くの弾性合成ゴム、ラテックス及びブレンドから手袋を製造する方法を提供する。ラテックスタンパク質に関するアレルゲン応答の問題を起こすことなく、非常に小さな掌部における厚み及び手袋の重量で、天然ゴムラテックスから作られる弾性手袋の物性に厳密に似た手袋を作製する能力を提供する。記載した方法及び組成物は、硫黄及び他の促進剤を含まない製品の製造に更に有利に取り込むことができ、これにより皮膚炎の可能性が低い溶液を提供し、同時に6Nを超える切断荷重値により測定されるように強度を高め、市場をリードするレベルの保護及びエンドユーザの安全性を提供する。
【0083】
結論
成分及びプロセスの多くは、上記には便宜上単数形で記載されるが、多数の成分及びプロセスの繰り返しが、本開示の技術を実行するために使用することもできることを当業者は認識するであろう。
【0084】
本開示をその具体的な実施形態を参照して具体的に示し、記載してきたが、開示した実施形態の形態及び詳細の変化は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなくなされる場合があることを当業者は理解するであろう。従って、本開示は、本開示の本当の趣旨及び範囲内であるすべての変形及び均等物を含むと解釈されることが意図される。