(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】遮光性フィルム、光学部品、及び、遮光性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/00 20060101AFI20240524BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20240524BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20240524BHJP
G03B 11/00 20210101ALI20240524BHJP
【FI】
G02B5/00 B
G02B5/02 B
G02B7/02 D
G03B11/00
(21)【出願番号】P 2023024572
(22)【出願日】2023-02-20
(62)【分割の表示】P 2021539710の分割
【原出願日】2019-08-09
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 一晃
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-029456(JP,A)
【文献】特開2016-029457(JP,A)
【文献】特開2018-097208(JP,A)
【文献】国際公開第2011/145473(WO,A1)
【文献】特開2011-128598(JP,A)
【文献】特開2014-201729(JP,A)
【文献】特開2018-068753(JP,A)
【文献】特開2000-025159(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0187340(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00 ー 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び光硬化性樹脂のいずれかを含み、遮光性を有するフィルム基材と、
黒色成分の含有量が、0重量%より大きく4重量%以下の範囲の値に設定され、入射光を散乱させる散乱層と、を備え、
波長380nm以上780nm以下の範囲の値における光学濃度が4以上の範囲の値に設定され
、
総厚みが6μm以上26μm以下の範囲の値に設定されている、遮光性フィルム。
【請求項2】
前記フィルム基材は、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの片面又は両面に配置された着色層と、を有する、請求項1に記載の遮光性フィルム。
【請求項3】
前記着色層は、着色剤と、樹脂材料とを含む、請求項2に記載の遮光性フィルム。
【請求項4】
前記樹脂フィルムは、ポリエステルを含む、請求項2又は3に記載の遮光性フィルム。
【請求項5】
前記着色層は、昇華性色素を含む、請求項2~4のいずれか1項に記載の遮光性フィルム。
【請求項6】
少なくとも一方の表面の入射角60度における光沢度が0以上10以下の範囲の値に設定されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の遮光性フィルム。
【請求項7】
前記フィルム基材の全光線透過率が1%以下の範囲の値である、請求項1~6のいずれか1項に記載の遮光性フィルム。
【請求項8】
前記散乱層が、前記フィルム基材に重ねて配置され、
前記一方の表面が、前記散乱層のうち前記フィルム基材とは反対側の表面である、請求項
6に記載の遮光性フィルム。
【請求項9】
前記散乱層は、前記フィルム基材の表面に沿って配置された樹脂部材と、前記樹脂部材の内部に分散された粒子とを有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の遮光性フィルム。
【請求項10】
前記フィルム基材の厚みが、2μm以上12μm以下の範囲の値に設定されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の遮光性フィルム。
【請求項11】
JIS Z 8518に規定される明度である黒味(L
※)が、17.5以上24.0以下の範囲の値に設定されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の遮光性フィルム。
【請求項12】
前記散乱層の厚みが、3μm以上7μm以下の範囲の値に設定されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の遮光性フィルム。
【請求項13】
前記散乱層の全光線透過率が、70%以上100%以下の範囲の値に設定されている、請求項1~
12のいずれか1項に記載の遮光性フィルム。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか1項に記載の遮光性フィルムを備える、光学部品。
【請求項15】
複数の光学部材と、
前記複数の光学部材と前記遮光性フィルムとを収容する筐体と、を備え、
前記遮光性フィルムが、前記複数の光学部材のうち、隣接する光学部材間に、前記複数の光学部材の光軸を囲むように配置されている、請求項
14に記載の光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光性フィルム及び遮光性フィルムの製造方法に関する。具体的には、光学用途やオプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品又は電気・電子部品等の用途に用いられる遮光性フィルム及び遮光性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遮光性フィルムは、例えば、デジタルカメラ等の電子機器や携帯電話等に備えられる光学部品である、カメラモジュールにおいて、レンズユニット内での光学ノイズの発生及び拡大を抑制する目的で用いられる。また遮光性フィルムは、カメラモジュールにおいて、シャッター、絞り部材、又はレンズ等の光学要素の間に配置されるギャップ調整部材としても用いられる。
【0003】
遮光性フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)にカーボンブラックを添加することで黒色に着色され、表面に凹凸を形成することで遮光性が付与された黒色フィルムが用いられる。また、例えば特許文献1には、
図5及び6に示されるように、フィルム基材201の少なくとも一方の面に遮光層202を重ねて配置した構成を有する遮光性フィルム20,21が開示されている。遮光層202は、硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂である樹脂と、黒色微粒子とからなる。
【0004】
このような遮光性フィルム20,21は、
図7に示す従来のレンズユニット30において、遮光性フィルムF7,F8として用いられる。当図に示すレンズユニット30は、バレル32に収容されたセンサーレンズ33、赤外カットフィルター31、及び複数のレンズL7,L8を備える。
図5,6の遮光性フィルム20,21は、
図7の各レンズL7,L8に個別に対応する遮光性フィルムF7,F8として設けられる。レンズユニット30では、入射光の進行方向に沿って、遮光性フィルムF7,F8、1枚又は2枚以上のレンズL7,L8、CMOSセンサーが、この順に配置されている。各レンズL7,L8に対応して遮光性フィルムF7,F8を個別に設けることで、不要な光を充分に遮断できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、カメラモジュールは、搭載される機器に応じて小型化、薄型化、及び軽量化が一層求められている。またカメラモジュールには、より広範囲のズーム機能や、微細な画素による高精細な撮像機能等の高機能化が求められている。このような高機能化はデジタル処理では困難であり、例えばカメラモジュールが備えるレンズユニットの光学ズーム機能を向上させる必要がある。
【0007】
しかしながら、レンズユニットを高機能化するためには、例えばレンズ枚数を増やす必要がある。各レンズに対応して遮光性フィルムを配置する場合、レンズ枚数の増大により遮光性フィルムの合計厚みも増大する。これによりレンズユニットの光軸方向が増大し、レンズユニットの小型化が困難となる。カメラモジュールが搭載される機器がスマートフォン等である場合、これにより例えばレンズユニットが筐体から突出し、機器のデザイン上の問題が生じる可能性がある。この問題は、遮光性フィルムの枚数に応じて顕著となる。
【0008】
この問題の対策として、例えば遮光性フィルムの厚みを低減することが考えられる。しかしながら、遮光性フィルムの厚みを単に低減しようとすると、遮光性フィルムの遮光性が低下する。このように、カメラモジュールの小型化等と高機能化とを両立させるためには、遮光性フィルムの性能を維持しつつ、厚みを調整する必要がある。
【0009】
そこで本発明は、遮光性フィルムにおいて、良好な遮光性を保持しながら厚みを低減可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る遮光性フィルムは、少なくとも一方の表面の入射角60度における光沢度が0以上10以下の範囲の値に設定され、波長380nm以上780nm以下の範囲の値における光学濃度が4以上の範囲の値に設定され、総厚みが6μm以上26μm以下の範囲の値に設定されている。
【0011】
上記構成によれば、遮光性フィルムの少なくとも一方の表面の光沢度が0以上10以下の範囲の値に設定されているので、当該表面に入射光を良好に散乱させる高い光散乱性(写り込み防止性)を付与できる。また、遮光性フィルムの光学濃度が4以上の範囲の値に設定され、総厚みが6μm以上26μm以下の範囲の値に設定されているので、遮光性フィルムの厚みを低減しても良好な遮光性を保持できる。
【0012】
遮光性を有するフィルム基材と、前記フィルム基材に重ねて配置され、入射光を散乱させる散乱層とを備え、前記一方の表面が、前記散乱層のうち前記フィルム基材とは反対側の表面であってもよい。
【0013】
これにより、例えば散乱層の厚みを低減しても、遮光性を有するフィルム基材により遮光性フィルムの遮光効果を良好に維持できる。よって、遮光性フィルムの総厚みを低減し易くできる。また、散乱層のうち遮光性を有するフィルム基材とは反対側の表面において、良好な光散乱性を得ることができる。また、遮光性を有するフィルム基材とは別体の散乱層を用いることで、散乱層の設計自由度を向上できる。
【0014】
前記散乱層の黒色成分の含有量が、0重量%より大きく4重量%以下の範囲の値に設定されていてもよい。上記遮光性フィルムでは、フィルム基材が遮光性を有しているので、散乱層の黒色成分の含有量は微量でもよい。このような構成でも、遮光性フィルムの遮光性を確保できる。
【0015】
また上記構成では、散乱層の黒色成分の量が抑えられている。このため、例えば紫外線硬化性を有する樹脂材料を用いて散乱層を形成する場合でも、紫外線を照射して樹脂材料を硬化させて散乱層を良好に形成できる。この方法によれば、熱硬化性を有する樹脂材料を用いて散乱層を形成する方法に比べて遮光性を有するフィルム基材に熱が及びにくい。よって、遮光性を有するフィルム基材が熱収縮するおそれが少ないため、遮光性を有するフィルム基材の厚みを低減できる。結果として、遮光性フィルムの総厚みを低減できる。
【0016】
前記散乱層は、前記フィルム基材の表面に沿って配置された樹脂部材と、前記樹脂部材の内部に分散された粒子とを更に有していてもよい。この構成によれば、粒子により散乱層の表面に凹凸の形状を付与できる。また、散乱層内部の光散乱性を向上できる。これにより、散乱層に光散乱性を良好に付与できる。
【0017】
前記フィルム基材の厚みが、2μm以上12μm以下の範囲の値に設定されていてもよい。このような構成によれば、遮光性を有するフィルム基材を用いることで、遮光性フィルムの遮光性を維持しながら、遮光性を有するフィルム基材の厚みを良好に低減できる。
【0018】
前記散乱層の厚みが、3μm以上7μm以下の範囲の値に設定されていてもよい。遮光性フィルムでは、フィルム基材が遮光性を有しており、散乱層は遮光性を有していなくてもよいため、散乱層の厚みを低減できる。よって、遮光性フィルムの総厚みを低減できる。
【0019】
前記散乱層の全光線透過率が、70%以上100%以下の範囲の値に設定されていてもよい。このように散乱層を構成することで、前記遮光性を有するフィルム基材によって、遮光性フィルムの黒味を良好に得ることができる。
【0020】
前記樹脂部材の屈折率が、1.3以上1.9以下の範囲の値に設定されていてもよい。このように散乱層を構成することで、散乱層内に入射した入射光を散乱させ易くできる。
【0021】
本発明の一態様における遮光性フィルムの製造方法は、紫外線硬化性且つ電子線硬化性を有する樹脂材料を含む塗工液、及び、遮光性を有するフィルム基材を準備する、準備ステップと、前記フィルム基材の表面に前記塗工液を塗布し且つ乾燥することにより前記表面上に塗膜を形成し、前記塗膜に紫外線を照射する第1ステップと、前記紫外線を照射した前記塗膜に電子線を照射する第2ステップと、を有し、前記第1ステップと前記第2ステップとを経ることにより、前記塗膜から、前記フィルム基材とは反対側の表面の入射角60度における光沢度が0以上10以下の範囲の値に設定された散乱層を形成すると共に、前記フィルム基材と前記散乱層とを備え、波長380nm以上780nm以下の範囲の値における光学濃度が4以上の範囲の値に設定され、総厚みが6μm以上26μm以下の範囲の値に設定された遮光性フィルムを形成する。
【0022】
上記製造方法によれば、光沢度が0以上10以下の範囲の値に設定されたことにより、高い光散乱性を発揮できると共に、光学濃度が4以上の範囲の値に設定され、総厚みが6μm以上26μm以下の範囲の値に設定された遮光性フィルムを製造できる。従って、総厚みが比較的小さいにも関わらず良好な遮光性を保持できる遮光性フィルムを得ることができる。
【0023】
また、第1ステップに加えて第2ステップを行うことにより、塗膜が例えば黒色成分をある程度含む場合でも、塗膜を良好に硬化できる。また、散乱層を硬化させるための加熱処理が不要である。このため、遮光性フィルムの製造中における遮光性を有するフィルム基材の熱収縮がない。よって、遮光性を有するフィルム基材の厚みをある程度薄くしても、フィルム基材の収縮を防止できる。これにより、遮光性フィルムの総厚みを低減できる。
【0024】
前記第2ステップでは、凹凸が形成された転写面を有する転写部材を前記塗膜のうち前記フィルム基材とは反対側の表面に前記転写面が被着するように配置した状態で、前記塗膜に電子線を照射することにより、前記凹凸の形状が転写された前記散乱層を形成してもよい。これにより、転写部材の転写面に形成された凹凸の形状を散乱層の表面に効率よく転写できる。
【0025】
前記第1ステップでは、前記フィルム基材の両面上に前記塗膜を形成し、前記第2ステップでは、前記フィルム基材の片面側から、前記フィルム基材を透過するように前記フィルム基材に電子線を照射することにより、前記各塗膜に電子線を照射してもよい。これにより、遮光性を有するフィルム基材の両面に散乱層を同時に効率よく配置できる。
【0026】
前記準備ステップでは、前記散乱層の黒色成分の含有量が0重量%より大きく4重量%以下の範囲となるように設定された前記塗工液を準備してもよい。これにより、塗膜の紫外線及び電子線の透過性を維持できる。このため、前記樹脂材料を用いて散乱層を良好に形成できる。
【0027】
前記準備ステップでは、更に粒子を含む前記塗工液を準備してもよい。この方法によれば、粒子により散乱層の表面を凹凸の形状に形成できる。また、散乱層内部の光散乱性を向上できる。よって、散乱層に光散乱性を付与し易くできる。
【0028】
前記第2ステップでは、屈折率が1.3以上1.9以下の範囲の値に設定された樹脂部材を含む前記散乱層を形成してもよい。これにより、入射した入射光を散乱させ易い散乱層を形成できる。
【0029】
前記準備ステップでは、厚みが2μm以上12μm以下の範囲の値に設定された前記フィルム基材を準備してもよい。上記製造方法によれば、遮光性フィルムの遮光性を維持しながら、遮光性を有するフィルム基材の厚みを良好に低減できる。また、第1ステップと第2ステップとを経ることにより散乱層を形成するので、フィルム部材に熱が及びにくい。このため、このように遮光性を有する薄いフィルム基材を用いても、フィルム部材が散乱層の形成に伴う加熱により収縮し、皺や波打ち、カール等々が発生して正常に打ち抜き等の加工が困難となる問題が発生するのを防止できる。
【0030】
前記第2ステップでは、前記塗膜から、厚みが3μm以上7μm以下の範囲の値に設定された前記散乱層を形成してもよい。遮光性フィルムでは、フィルム基材が遮光性を有しており、散乱層は遮光性を有していなくてもよいため、散乱層の厚みを低減できる。よって、遮光性フィルムの総厚みを低減し易くできる。
【0031】
前記第2ステップでは、前記塗膜から、全光線透過率が70%以上100%以下の範囲の値に設定された散乱層を形成してもよい。このように散乱層を構成することで、外部から塗工液中の樹脂材料に電子線を透過させることにより、当該樹脂材料を効率よく硬化させ易くできる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の各態様によれば、遮光性フィルムにおいて、良好な遮光性を保持しながら厚みを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】第1実施形態に係る光学部品の分解図である。
【
図2】第1実施形態に係る遮光性フィルムの断面図である。
【
図3】(a)は、塗膜形成ステップを示す図である。(b)は、第1ステップを示す図である。(c)は、第2ステップを示す断面図である。
【
図4】第2実施形態に係る遮光性フィルムの散乱層の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0035】
(第1実施形態)
[遮光性フィルム]
図1は、第1実施形態に係る光学部品10の分解図である。
図1に示すように、光学部品10は、複数の遮光性フィルムF1~F6、複数の光学部材(ここではレンズL1~L6)、及び遮光性フィルムF1~F6と光学部材とを収容する筐体(鏡筒)11を備える。遮光性フィルム1は、一例として、隣接する光学部材間に光軸Rを囲むように配置される。光学部品10が備える遮光性フィルムの枚数、及び光学部材の個数は限定されない。
【0036】
次に遮光性フィルム1の具体的な構成例について説明する。
図2は、第1実施形態に係る遮光性フィルム1の断面図である。遮光性フィルム1は、
図1の遮光性フィルムF1~F6と同様のものである。
図2に示すように、本実施形態の遮光性フィルム1は、遮光性を有するフィルム基材2と、少なくとも1つの散乱層3とを備える。
【0037】
フィルム基材2は、遮光性フィルム1に入射した入射光を遮光する。フィルム基材2は、光学濃度(OD値)が4以上の範囲の値に設定されている。ここではフィルム基材2は、全光線透過率が1%以下の範囲の値に設定されている。フィルム基材2は、遮光性を有するために、一例として不透明であり、ここでは黒色である。フィルム基材2は、一例としては黒色成分と樹脂とを含む。本実施形態では、この黒色成分は黒色顔料であり、樹脂はPETである。フィルム基材2は、黒色顔料を含むPET樹脂を押出成形して二軸延伸することで形成されている。なお黒色成分は、顔料以外のもの(例えば染料や着色剤)であってもよい。フィルム基材2は、黒色以外の色に着色されていてもよい。
【0038】
フィルム基材2の材料としては、例えば様々な高分子材料が挙げられる。当該材料として、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び光硬化性樹脂が挙げられる。このうち熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドが挙げられる。これらの材料は単独又は2種以上の組み合わせで使用できる。このうち強度確保の観点から、例えば、環状ポリオレフィン、ポリアルキレンアリレート(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等)、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート、セルロースエステル等が好ましい。また、寸法安定性や剛性の観点から、二軸延伸されたフィルム材料が好ましい。このようなフィルム材料としては、二軸延伸ポリアルキレンアリレートからなるフィルム(例えばPETフィルム、PENフィルム)が一層好ましい。このうち、厚みを薄くでき且つ入手し易い点で、PETフィルムが好ましい。
【0039】
フィルム基材2の製造方法は、特に制限されない。例えば、黒色成分(一例として、顔料、染料、又は着色剤)と樹脂成分とを溶融混錬した材料を、製膜して延伸する製造方法が挙げられる。この様態の製造方法によれば、複数の材料を重ねることなく単体構造で遮光性を有するフィルム基材2を構成できるので好ましい。
【0040】
また、フィルム基材2の製造方法としては、樹脂フィルム(例えば二軸延伸されたポリエステルフィルム)の片面又は両面に着色層を形成する製造方法が挙げられる。この着色層を形成する製造方法の場合、樹脂フィルムに着色剤を、塗布、転写、又は印刷することで着色層を形成してもよい。この場合、着色剤は、例えば流動性を有する樹脂材料と混合した状態で用いることができる。
【0041】
着色剤の塗布方法としては、グラビアコーター、ディップコーター、リバースロールコーター、押出しコーター等の公知の方法を例示できる。また着色剤の印刷方法としては、インクジェット法、スクリーン法等の公知の方法を例示できる。樹脂フィルムに塗布、転写、又は印刷する着色剤としては、樹脂フィルムへの浸透の容易さ等の観点から、例えば昇華性色素を用いることが好ましい。また、繊維用途、樹脂用途及びインクジェット用途等で汎用されている色素も使用できる。
【0042】
またその他、染料を含む溶液に樹脂フィルムを浸漬して樹脂フィルムを染色する製造方法が挙げられる。樹脂フィルムを染色する方法としては公知の方法を利用できる。本実施形態では、このように染色された樹脂フィルムもフィルム基材2として利用できる。ポリエステル、ナイロン、アセテート、ポリカーボネート、アクリル等からなるフィルムは、水に分散させた染料に浸漬することにより容易に染色できる。
【0043】
フィルム基材2の厚みは適宜設定可能であるが、一例として、2μm以上12μm以下の範囲の値に設定されている。フィルム基材2は、波長380nm以上780nm以下の範囲の値における光学濃度が4以上の範囲の値に設定されることで、その側面から内部に入射光が透過しにくくなっている。
【0044】
散乱層3は、フィルム基材2の少なくとも一方の表面(ここでは両面)に重ねて配置され、入射光を散乱させる。散乱層3は、光透過性を有する。散乱層3は、例えば、光学部材と重ねて配置された場合、光学部材に側方から入射した入射光を散乱させる。本実施形態の散乱層3は、フィルム基材2の表面に沿って配置された樹脂部材4と、樹脂部材4の内部に分散された黒色成分である黒色微粒子5とを有する。
【0045】
散乱層3の黒色成分は、散乱層3に入射した入射光を吸収する。散乱層3の黒色成分の含有量は、ここでは0重量%より大きく4重量%以下の範囲の値に設定されている。即ち散乱層3は、黒色成分の含有量が微量に設定されている。これにより散乱層3は、透明性を有する。本実施形態の散乱層3は、全光線透過率が70%以上100%以下の範囲の値に設定されている。なお散乱層3は、黒色成分を含んでいなくてもよい。
【0046】
ここで、散乱層3の全光線透過度は、遮光性フィルム1の全光線透過度と、フィルム基材2の全光線透過度との差分から求めることができる。散乱層3がフィルム基材2の両側に形成されている場合には、遮光性フィルム1の全光線透過度とフィルム基材2の全光線透過度との差分が、両側の散乱層3の全光線透過度の和に相当する。フィルム基材2の全光線透過度は、遮光性フィルム1の全光線透過度以上で、且つ、散乱層3の全光線透過度よりも十分に小さい。一例として、遮光性フィルム1の全光線透過度は0であり、フィルム基材2の全光線透過度は、遮光性フィルム1の全光線透過度と同等、若しくはやや高い程度である。これに対して、散乱層3の全光線透過度は、70以上100以下の範囲の値である。
【0047】
散乱層3の厚みは適宜設定可能であるが、一例として、3μm以上7μm以下の範囲の値に設定されている。散乱層3の厚みは、フィルム基材2の厚みよりも小さくてもよい。遮光性フィルム1では、フィルム基材2により遮光性が確保されるため、散乱層3の厚みを低減できる。また樹脂部材4は、屈折率が1.3以上1.9以下の範囲の値に設定されている。
【0048】
樹脂部材4の屈折率は、樹脂部材4の材質に固有のものであり、例えばNMR,IR等の分析装置を用いて樹脂部材4を分析することで確認できる。言い換えると、散乱層3をNMR,IR等の分析装置で測定することで、散乱層3の樹脂部材4を特定できる。樹脂部材4の屈折率の値は、文献値又は実測値のいずれであってもよい。また、散乱層3の全光線透過度が十分に高い場合には、JIS K 7142:2008 に準拠するアッベ屈折計、又は、楕円偏光測定装置(例えば王子計測機器(株)製「KOBRA-WPR」)を用いた測定により、散乱層3のアッベ数を直接測定することで、測定値を樹脂部材4の屈折率の値としてもよい。
【0049】
ここで遮光性フィルム1は、散乱層3の少なくとも一方の表面(ここでは両面)の入射角60度における光沢度が0以上10以下の範囲の値に設定され、波長380nm以上780nm以下の範囲の値における光学濃度が4以上の範囲の値に設定され、総厚みが6μm以上26μm以下の範囲の値に設定されている。
【0050】
このように、散乱層3の表面3aが設定されることにより、表面3aは、光散乱性を有する。散乱層3の表面3aの形状は、後述するように、一例として遮光性フィルム1の製造時において、転写部材8の転写面8aの凹凸が転写されることで形成されている。なお、散乱層3の表面3aの形状は、これ以外の方法で形成されていてもよい。また、フィルム基材2の散乱層3と対向する表面には、フィルム基材2と散乱層3との接着性を向上させるための接着層が設けられていてもよい。
【0051】
樹脂部材4は、バインダー樹脂6と、バインダー樹脂6の前駆体の重合開始剤とを含む。バインダー樹脂6の前駆体は、紫外線(UV)硬化性及び電子線(EB)硬化性を有する。バインダー樹脂6としては、例えば、光硬化性樹脂が挙げられる。
【0052】
フィルム基材2及び散乱層3が含む黒色成分としては、例えば、カーボンブラック、ランプブラック、バインブラック、ピーチブラック、骨炭、カーボンナノチューブ、酸化銀、酸化亜鉛、マグネタイト型四酸化三鉄、銅とクロムの複合酸化物、銅、クロム、亜鉛の複合酸化物、黒色ガラス等が挙げられる。
【0053】
本実施形態の黒色微粒子5は球状であり、一次粒径は、10nm以上500nm以下の範囲の値に設定されている。また散乱層3の表面抵抗値は、一例として、1×1012Ω/□以上の値に設定されている。このような設定を行うことで、遮光性フィルム1を絶縁部材として好適に用いることができる。
【0054】
また、60度における光沢度は、JlS Z 8741に準拠した測定方法により測定できる。一次粒径は、フィールドエミッション走査電子顕微鏡(日本電子(株)製「JSM-6700F」)により10万倍に拡大した粒子表面の写真を撮影し、その拡大写真を必要に応じて更に拡大し、50個以上の粒子について定規やノギス等を用い、その個数の平均粒径として測定できる。
【0055】
また光学濃度は、光学濃度計(ビデオジェット・エックスライト(株)製「X-Rite 341C」)を用い、試料に垂直透過光束を照射して、試料が無い状態との比をlog(対数)で表したものとできる。この場合の光束幅は、直径2mmの円形として測定できる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態では、遮光性フィルム1の少なくとも一方の表面の光沢度が0以上10以下の範囲の値に設定されているので、当該表面に入射光を良好に散乱させる高い光散乱性(写り込み防止性)を付与できる。また、遮光性フィルム1の光学濃度が4以上の範囲の値に設定され、総厚みが6μm以上26μm以下の範囲の値に設定されているので、遮光性フィルム1の厚みを低減しても良好な遮光性を保持できる。
【0057】
また、これにより、複数の遮光性フィルム1の合計の総厚みを低減できるため、筐体11が複数の光学部材(レンズL1~L6)、及び複数の遮光性フィルムF1~F6を収容する場合であっても、筐体11の光軸R方向の寸法を低減できる。これにより、筐体11を備える光学部品10の光軸R方向の寸法を低減できる。よって、光学部品10の薄型化及び小型化を図り易くできる。また、筐体11の小型化することにより、光学部品10の表面のうち、筐体11と重なる領域が、当該領域の周辺領域に比べて外部に突出するのを抑制し、光学部品10の表面の平坦化を図り易くすることもできる。
【0058】
また本実施形態の遮光性フィルム1は、フィルム基材2と、フィルム基材2に重ねて配置され、入射光を散乱させる散乱層3とを備え、光沢度が前記値に設定された前記一方の表面が、散乱層3のうちフィルム基材2とは反対側の表面3aである。
【0059】
これにより、例えば散乱層3の厚みを低減しても、フィルム基材2により遮光性フィルム1の遮光効果を維持できる。よって、遮光性フィルム1の総厚みを低減し易くできる。また、散乱層3のうちフィルム基材2とは反対側の表面3aにおいて、良好な光散乱性を得ることができる。また、フィルム基材2とは別体の散乱層3を用いることで、散乱層3の設計自由度を向上できる。
【0060】
また本実施形態の散乱層3は、光透過性を有している。これにより、例えば紫外線硬化性又は電子線硬化性を有する樹脂材料を用いて散乱層3を構成する場合、紫外線及び電子線が樹脂材料中に存在する成分により遮蔽されるのを抑制できる。よって、散乱層3を良好に構成できる。また散乱層3の材料として、熱硬化性を有する樹脂材料を用いなくてもよいため、例えば、薄いフィルム上であっても、紫外線又は電子線を樹脂材料に照射することで散乱層3を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態の散乱層3は、黒色成分の含有量が、0重量%より大きく4重量%以下の範囲の値に設定されている。遮光性フィルム1では、フィルム基材2が遮光性を有しているので、散乱層3の黒色成分の含有量は微量でもよい。このような構成でも、遮光性フィルム1の遮光性を確保できる。
【0062】
またフィルム基材2の厚みが、2μm以上12μm以下の範囲の値に設定されている。このような構成によれば、フィルム基材2を用いることで、遮光性フィルム1の遮光性を維持しながら、フィルム基材2の厚みを良好に低減できる。また、遮光性フィルム1では、熱硬化により散乱層3を構成する必要がないため、フィルム基材2の厚みをこのように薄くしても、当該フィルム基材2の熱収縮に起因する問題の発生を防止できる。
【0063】
また、散乱層3は遮光性を要求されない。このため、本実施形態の散乱層3の厚みは3μm以上7μm以下の範囲の値に設定されている。遮光性フィルム1では、フィルム基材2が遮光性を有しており、散乱層3は遮光性を有していなくてもよいため、散乱層3の厚みを低減できる。よって、遮光性フィルム1の総厚みを低減できる。
【0064】
また散乱層3は、全光線透過率が70%以上100%以下の範囲の値に設定されている。このように散乱層3を構成することで、フィルム基材2によって、遮光性フィルム1の黒味を良好に得ることができる。このような散乱層3は、例えば樹脂材料を紫外線硬化又は電子線硬化することで構成できる。また散乱層3は、屈折率が1.3以上1.9以下の範囲の値に設定されている。これにより、散乱層3内に入射した入射光を散乱させ易くできる。
【0065】
[遮光性フィルムの製造方法]
次に遮光性フィルム1の製造方法について例示する。
図3は、
図1の遮光性フィルム1の製造フロー図である。
図3(a)は、第1ステップS2を示す図である。
図3(b)は、第1ステップS2を示す図である。
図3(c)は、第2ステップS3を示す図である。
【0066】
本実施形態の遮光性フィルム1製造方法は、準備ステップS1、第1ステップS2、第2ステップS3、及び剥離ステップS4を有する。遮光性フィルム1は、ステップS1~S4を順に行うことで製造される。以下、ステップS1~S4を具体的に説明する。
【0067】
準備ステップS1では、オペレータは、散乱層3の元となる塗工液と、フィルム基材2とを準備する。具体的にオペレータは、紫外線硬化性且つ電子線硬化性を有する樹脂材料を溶媒に溶解させる。その後、オペレータは、一例として、黒色成分(本実施形態では黒色微粒子5)をこの溶媒に添加する。これにより塗工液が得られる。
【0068】
ここでオペレータは、固形分濃度が5重量%より大きく50重量%以下(ここでは一例として30重量%)となるように塗工液を調整する。本実施形態では、紫外線硬化性且つ電子線硬化性を有する樹脂材料を硬化させる必要があるため、当該樹脂材料の重合開始剤を塗工液に更に添加する。なお、紫外線硬化性を有する樹脂材料を用いない場合、当然ながら当該重合開始剤は不要である。
【0069】
またオペレータは、前述した製造方法により製造された遮光性を有するフィルム基材2を準備する。オペレータは、フィルム基材2を所定のコーターにセットする。以上で準備ステップS1が完了する。
【0070】
次にオペレータは、以下の手順で第1ステップS2を行う。第1ステップS2は、フィルム基材2の表面に上記調整した塗工液を塗布し且つ乾燥することにより、前記表面上に塗膜15を形成し、次いで塗膜15に紫外線を照射するステップである。一例として第1ステップS2は、塗膜形成ステップ、転写ステップ、及び紫外線照射ステップをサブステップとして含む。
【0071】
具体的にオペレータは、フィルム基材2の少なくとも一方の表面に塗工液を塗布する。本実施形態では、一例として、フィルム基材2の両表面上に塗膜15を形成するため、フィルム基材2の各表面に塗工液を塗布する。塗工液は、フィルム基材2の各表面に逐次塗布してもよい。
【0072】
その後、オペレータは、フィルム基材2の各表面に塗布された塗工液を風(ここでは熱風)で乾燥することにより、フィルム基材2の両表面上に塗膜15を形成する(
図3(a))。以上で塗膜形成ステップが完了する。なお、本実施形態の塗膜15は、形成された直後の時点では表面が平滑であり、且つ、完全には硬化していない。
【0073】
次にオペレータは、所定の転写面8aを有する転写部材8を用い、以下の手順で、塗膜15の表面に転写部材8の転写面8aの表面形状を転写させる転写ステップを行う。転写部材8の転写面8aは、塗膜15に形成する表面形状をポジ形状としたとき、このポジ形状と対応するネガ形状を有する。本実施形態では、転写部材8として、紫外線透過性及び電子線透過性を有するフィルム部材を用いる。
【0074】
オペレータは、フィルム基材2の少なくとも一方の表面に形成された塗膜15に、転写部材8を貼り合わせる。これにより、フィルム基材2の各塗膜15に転写部材8が貼り合わされてなる複合体(以下、中間体16と称する。)が形成される。中間体16では、転写部材8の転写面8aの表面形状がネガ型として作用し、塗膜15にポジ型の表面形状が転写される。以上で転写ステップが完了する。
【0075】
次にオペレータは、以下の手順で、中間体16に紫外線を照射する第1ステップS2を行う。(
図3(b))。これにより、転写部材8が貼り合わされた状態で、塗膜15の転写面8aと接する表面をある程度硬化させる。
【0076】
ネガ形状を有する転写部材8の転写面8aは、微細な凹凸が形成されている。散乱層3は、この微細な凹凸が転写されることで光散乱性が付与される。本実施形態では、転写部材8として、紫外線透過性及び電子線透過性を有するフィルム部材を用いるので、塗膜15中の樹脂材料の一部は、転写部材8を介して、紫外線により硬化する。以上で第1ステップS2が完了する。第1ステップS2後、得られた中間体16はロール状に巻き取られる。
【0077】
ここで本実施形態の転写部材8について説明する。転写部材8は、複数の樹脂成分を含む。転写面8aは、相分離構造からなる海島状の微細な凹凸の形状を有する。散乱層3の表面3aには、散乱層3の表面3aに付与される光散乱性は、この転写部材8の転写面8aの形状によるものである。なお相分離構造とは、転写部材8の元となる調整液の液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成されるものである。相分離構造の詳細については、例えば特許第6190581号公報を参照できる。
【0078】
なお本実施形態では、第1ステップS2後且つ第2ステップS3前の時点の中間体16は、塗膜15が完全には硬化していない。塗膜15は、例えばフィルム基材2側に偏在した未硬化部分を有している。遮光性フィルム1を得るためには、この塗膜15を完全に硬化させる必要がある。なお別の実施形態では、第1ステップS2の紫外線照射ステップのみで塗膜15が完全に硬化する場合がある。この場合、以下の第2ステップS3は省略できる。
【0079】
次にオペレータは、巻き取った中間体16を再度繰り出し、第1ステップS2で紫外線を照射した塗膜15に電子線を照射する第2ステップS3を行う。これにより、塗膜15中の樹脂材料を完全に硬化させて散乱層3の表面形状を形成する。
【0080】
第2ステップS3によれば、フィルム基材2と散乱層3との密着強度を向上できる。このため第2ステップS3は、本実施形態のようにフィルム基材2と散乱層3とを備える遮光性フィルム1を製造する場合には好適である。第2ステップS3では、中間体16に対して片面側のみから電子線を照射してもよいし、両面側から電子線を照射してもよい。
【0081】
なお、例えばフィルム基材2と散乱層3との密着強度が十分である場合等においては、電子線の照射強度を弱めたり、第2ステップS3を省略したりしてもよい。即ち第2ステップS3は、遮光性フィルム1において求められる各部材同士の密着強度等により、適宜設定したり省略したりすることができる。
【0082】
また第2ステップS3では、電子線を用いなくてもよい。例えば、転写部材8が塗膜15上に配置されていない状態で第2ステップS3を行う場合、第2ステップS3で紫外線を用いることも可能である。転写部材8が塗膜15上に配置されている状態では、第2ステップS3で電子線を用いることが望ましい。
【0083】
また、第1ステップS2と第2ステップS3との間では、中間体16を巻き取らなくてもよい。例えば実施様態に合わせて、中間体16を巻き取ることなく、第1ステップS2と第2ステップS3とを連続的に行ってもよい。
【0084】
次にオペレータは、中間体16から転写部材8を剥離する剥離ステップS4を行う。本実施形態のように、フィルム基材2の両表面に転写部材8が配置されている場合、各転写部材8を同時に剥離してもよいし、どちらか一方から順に剥離してもよい。以上により、剥離ステップS4を経ることで、遮光性フィルム1が得られる。
【0085】
上記製造方法によれば、表面の入射角60度における光沢度が0以上10以下の範囲の値に設定されたことにより、高い光散乱性を発揮できると共に、光学濃度が4以上の範囲の値に設定され、総厚みが6μm以上26μm以下の範囲の値に設定された遮光性フィルム1を製造できる。従って、総厚みが薄くても高い遮光性を保持できる遮光性フィルム1を得ることができる。
【0086】
また、第1ステップS2に加えて第2ステップS3を行うことにより、塗膜15が黒色成分をある程度含む場合でも、塗膜15を良好に硬化できる。また、散乱層3を硬化させるための加熱処理が不要である。このため、遮光性フィルム1の製造中におけるフィルム基材2の熱収縮がない。よって、フィルム基材2の厚みをある程度薄くしても、フィルム基材2の収縮を防止できる。これにより、遮光性フィルム1の総厚みを低減できる。
【0087】
また、本実施形態の第2ステップS3では、凹凸が形成された転写面8aを有する転写部材8を塗膜15のうちフィルム基材2とは反対側の表面に転写面8aが被着するように配置した状態で、塗膜15に電子線を照射することにより、凹凸の形状が転写された散乱層3を形成する。これにより、転写部材8の転写面8aに形成された凹凸の形状を散乱層3の表面3aに効率よく転写できる。また、塗膜15がシリカ微粒子等の粒子を含んでいなくても、散乱層3に光散乱性を付与できる。
【0088】
また、本実施形態の第1ステップS2では、フィルム基材2の両面上に塗膜15を形成し、第2ステップS3では、フィルム基材2の片面側から、フィルム基材2を通過するように電子線を照射することにより、各塗膜15に電子線を照射する。これにより、フィルム基材2の両面に散乱層3を同時に効率よく配置できる。
【0089】
また、本実施形態の準備ステップS1では、散乱層3の黒色成分の含有量が0重量%より大きく4重量%以下の範囲となるように設定された塗工液を準備する。これにより、塗工液に対する紫外線と電子線との透過性が黒色成分により低下するのを良好に防止でき、塗工液から散乱層3を効率よく形成できる。
【0090】
また準備ステップS1では、一例として、厚みが2μm以上12μm以下の範囲の値に設定されたフィルム基材2を準備する。これにより、遮光性フィルム1の遮光性を維持しながら、フィルム基材2の厚みを良好に低減できる。また、第1ステップS2と第2ステップS3とを経ることにより散乱層3を形成するので、フィルム基材2に熱が及びにくい。このため、このように薄いフィルム基材2を用いても、フィルム基材2が散乱層3の形成に伴う加熱により収縮し、皺や波打ち、カール等々が発生して正常に打ち抜き等の加工が困難となる問題が発生するのを防止できる。
【0091】
また第2ステップS3では、一例として、塗膜15から、厚みが3μm以上7μm以下の範囲の値に設定された散乱層3を形成する。遮光性フィルム1では、フィルム基材2が遮光性を有しており、散乱層3は遮光性を有していなくてもよいため、散乱層3の厚みを低減できる。よって、遮光性フィルム1の総厚みを低減し易くできる。
【0092】
また第2ステップS3では、一例として、塗膜15から、全光線透過率が70%以上100%以下の範囲の値に設定された散乱層3を形成する。このように散乱層3を構成することで、外部から塗工液中の樹脂材料に電子線を透過させることにより、当該樹脂材料を効率よく硬化させ易くできる。
【0093】
また第2ステップS3では、一例として、屈折率が1.3以上1.9以下の範囲の値に設定された散乱層3を形成する。これにより、入射した入射光を散乱させ易い散乱層3を形成できる。以下、その他の実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0094】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る遮光性フィルム101の散乱層103の拡大断面図である。散乱層103は、フィルム基材2の少なくとも一方の面(ここでは両面)に重ねて配置され、入射光を散乱させる。散乱層103は、フィルム基材2の表面に沿って配置された樹脂部材4と、樹脂部材4の内部に分散された粒子7とを有する。
【0095】
散乱層103の黒色成分の含有量は、0重量%より大きく以上4重量%以下の範囲の値に設定されている。本実施形態の散乱層103は、ここでは黒色成分(一例として黒色微粒子5)を含んでいる。この黒色成分は、樹脂部材4の内部に分散されている。粒子7は、シリカ粒子等の無機粒子、或いは、アクリル粒子等の有機粒子のいずれでもよい。粒子7が無機粒子である場合、粒子7としては、例えばシリカ粒子が好ましく、中空シリカ粒子が特に好ましい。
【0096】
散乱層103は、粒子7により、表面103aに凹凸が形成されている。これにより散乱層103の表面103aは、散乱層3の表面3aと同様の形状を有する。なお散乱層103は、表面103aに凹凸が形成される程度に粒子7を含んでいれば、黒色成分を含有していなくてもよい。
【0097】
このように散乱層103によれば、粒子7により散乱層103の表面に凹凸の形状を付与できる。よって散乱層103に光散乱性を良好に付与できる。また、樹脂部材4中に黒色成分が上記重量範囲内で含まれる場合、樹脂部材4中に黒色成分を分散することで、樹脂部材4を適度に黒く着色できる。
【0098】
第2実施形態の遮光性フィルム101の製造時には、所定量の粒子7を含む以外は第1実施形態と同様の塗工液を準備する。この塗工液を用いて、フィルム基材2の表面上に塗膜15を形成した後、塗膜15に対して第1ステップS2及び第2ステップS3を順次行う。
【0099】
ここで第2実施形態では、第1ステップS2では、転写ステップは不要である。第2実施形態では、塗膜形成ステップの直後に塗膜15の表面が凹凸形状となる。このため、転写ステップを経ることなく(転写部材8を用いることなく)、散乱層3の表面を粒子7により凹凸形状に形成できる。これにより、塗膜15の表面に光散乱性を付与できる。
【0100】
第2実施形態では、紫外線照射ステップ及び第2ステップS3を順に行うことで、散乱層103が形成される。なお、第2実施形態においても転写ステップを行うことで、転写部材8の転写面8aにより塗膜15の表面に凹凸を更に付与してもよい。
【0101】
遮光性フィルム101は、総厚み、波長380nm以上780nm以下の範囲の値における光学濃度、JIS Z 8518に規定される明度である黒味(L※)、及び、散乱層103の表面103aの光沢度が、第1実施形態の遮光性フィルム1と同様に設定されている。
【0102】
ここでL※とは、CIE1976(L※,a※,b※)色空間の座標軸の一つである。L※の値は、色の明るさ(明度)を表し、0から100までの100段階で表される。この100段階では、0が黒で100が白である。L※の値は、大きいほど明るい色を示す。
【0103】
遮光性フィルム101は、一例として、総厚みが16μm、波長380nm以上780nm以下の範囲の値における光学濃度が6.3、黒味(L※)が17.5、及び散乱層103の表面103aの入射角60度における光沢度が0.2に設定されている。
【0104】
以上の散乱層103を備える遮光性フィルム101においても、遮光性フィルム1と同様の効果が奏される。また、遮光性フィルム101の散乱層103は、樹脂部材4と粒子7とを有する。このため、粒子7により散乱層103の表面103aに凹凸の形状を付与できる。また、散乱層103内部の光散乱性を向上できる。これにより、散乱層103に光散乱性を良好に付与できる。また、樹脂部材4中に黒色微粒子5を上記重量範囲内において分散した場合には、樹脂部材4を適度に黒く着色できる。
【0105】
また遮光性フィルム101は、散乱層103の黒色成分の量が抑えられている。このため、例えば樹脂部材4を紫外線硬化性且つ電子線硬化性を有する樹脂材料を用いて構成する場合、紫外線及び電子線が黒色成分により遮蔽されるのを抑制できる。よって、当該樹脂材料を良好に硬化できる。これにより、当該樹脂材料の使用量が少なくても当該樹脂材料を硬化でき、散乱層103の厚みを低減し易くできる。
【0106】
(確認試験)
次に、確認試験について説明するが、本発明は以下に示す各実施例に限定されるものではない。
【0107】
[試験1]
以下の手順で、表1に示すように、第1実施形態に係る遮光性フィルム1である実施例1及び2と、第2実施形態に係る遮光性フィルム101である実施例3とを作製した。また、実施例1~3に対する比較例として、比較例1~3を作製した。
【0108】
(フィルム基材の準備)
実施例1~3のフィルム基材2を、以下の手順で作製した。ポリエチレンテレフタレート95重量%と、平均一次粒径18nmのファーネス法によって製造されたカーボンブラック(CB-1)5重量%とを、ベントした280℃の押出機内で溶融混練することにより、CBマスターバッチを作製した。またポリエチレンテレフタレート98.0重量%と、平均一次粒径2.6μmのシリカ粒子2.0重量%とを、ベントした280℃の押出機内で溶融混練することにより、SiO2マスターバッチを作製した。
【0109】
次に、上記のように作製したCBマスターバッチ13重量%と、SiO2マスターバッチ1.5重量%と、PET85.5重量%とを混合することにより、フィルム原料を得た。このフィルム原料を、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法に基づき、表面温度20℃の鏡面冷却ドラムに巻き付けることにより、厚みが55μmのフィルム中間体を得た。
【0110】
上記のように得られたフィルム中間体を、二軸延伸試験装置((株)東洋精機製作所製「FILM STRETCHING TESTER」)を用い、以下のように逐次二軸延伸した。まず、フィルム中間体を90℃に加熱して、その長手(押出)方向に2.8倍延伸した。次に、フィルム中間体を冷却した後、更に130℃に加熱して、横方向(フィルム幅方向)に3.3倍延伸した。その後、フィルム中間体を180℃で熱処理することで、厚み6μmの実施例1~3のフィルム基材2を得た。
【0111】
また、以下のように比較例1~3のフィルム基材を準備した。SiO2マスターバッチを1.7重量%に設定し、PETを98.3重量%に設定してフィルム原料を得た以外は実施例1~3と同様の方法により、厚み6μmの透明PETフィルムを比較例1,3のフィルム基材として作製した。また、市販品の厚み12μmの透明PETフィルムである東洋紡(株)製「東洋紡エステルフィルム E5100#12」を比較例2のフィルム基材として用いた。
【0112】
(転写部材の準備)
実施例1,2の転写部材8として、以下の仕様の転写部材A及びBを準備した。転写部材Aとして、厚み50μm、面粗さの算術平均高さSaが0.666μm、面粗さの最大高さSzが6.177μm、全ヘイズが77.44、入射角60度における光沢度が3.3に設定された転写面8aを有するものを準備した。この転写部材Aは、実施例1の製造に使用した。
【0113】
転写部材Bとして、厚み50μm、面粗さの算術平均高さSaが1.156μm、面粗さの最大高さSzが12.483μm、全ヘイズが91.85、入射角60度における光沢度が1.3に設定された転写面8aを有するものを準備した。この転写部材Bは、実施例2の製造に使用した。転写部材A,Bは、いずれも複数の樹脂成分を含み、複数の樹脂成分の相分離構造を有するフィルム部材からなる。
【0114】
(散乱層の調整)
実施例1,2に用いる塗工液を以下のように準備した。黒色顔料(平均一次粒径150nmのカーボンブラック(黒色微粒子)の9重量%MEK分散液である、御国色素(株)製「MHIブラック#273」)15重量%、アクリレート含有組成物である樹脂A(横浜ゴム(株)製「HR370」)77重量%、多官能メタアクリレート化合物である樹脂B(日本合成化学(株)製「紫光 UV1700B」)8重量%をそれぞれ固形分比率で含む塗工液を準備した。この塗工液には、黒色顔料であるカーボンブラックが固形分濃度1.08重量%で含まれる。この塗工液を用いることで、実施例1,2の散乱層3は、黒色顔料であるカーボンブラックの固形分濃度が4重量%に設定され、最大厚みが4.5μmに設定される。
【0115】
また、実施例3に用いる塗工液を以下のように準備した。御国色素(株)製「MHIブラック#273」10重量%、樹脂A33重量%、樹脂B4重量%、富士シリシア化学(株)製粒子「サイリシア448」53重量%をそれぞれ固形分比率で含む塗工液を準備した。この塗工液を用いることで、実施例3の散乱層103は、黒色顔料であるカーボンブラックの固形分濃度が4重量%に設定され、各厚みが3.0μmに設定される。
【0116】
また、比較例1,2に用いる塗工液を以下のように準備した。御国色素(株)製「MHIブラック#273」64重量%、樹脂A27重量%、樹脂B9重量%をそれぞれ固形分比率で含む塗工液を準備した。また比較例3に用いる塗工液を以下のように準備した。御国色素(株)製「MHIブラック#273」37重量%、樹脂A16重量%、樹脂B5重量%、富士シリシア化学(株)製フィラー粒子「サイリシア448」42重量%をそれぞれ固形分比率で含む塗工液を準備した。これらの塗工液を用いることで、比較例1~3の散乱層は、黒色顔料であるカーボンブラックの固形分濃度が20重量%に設定される。
【0117】
次に、実施例1,2について、第1ステップS2と第1ステップS2とを以下の手順で行った。それぞれの塗工液を用い、フィルム基材2の一方の表面上に塗膜15を形成し、塗膜15に転写部材8を重ねて配置した状態で、転写部材8を介して、塗膜15に積算光量100mJ/cm2の紫外線を照射した。その後、上記と同様の要領で、フィルム基材2の他方の面に塗膜15を形成し、塗膜15に転写部材8を重ねて配置した状態で、転写部材8を介して、塗膜15に紫外線を照射した。その後、中間体16を巻き取った。
【0118】
次に、巻き取った中間体16を再び繰り出し、第2ステップS3において、各塗膜15に積算電子線量(吸収線量)250kGyの電子線を一度に照射した。その後、剥離ステップS4において、転写部材8を各塗膜15から剥離し、実施例1,2の遮光性フィルム1を得た。また、実施例3の塗工液を用い、第1ステップ中の転写ステップを省略した以外は実施例1,2の製造方法と同法の製造方法により、実施例3の遮光性フィルム101を得た。
【0119】
また、比較例1~3のフィルム基材(透明フィルム基材)と塗工液とを用い、透明フィルム基材と、この透明フィルム基材の両面に重ねて配置された散乱層(表2に示すように、20重量%の黒色微粒子を含有する。)とを備える比較例1~3の遮光性フィルムを準備した。比較例1,2の各散乱層の最大厚みは9.5μmに設定し、比較例3の各散乱層の最大厚みは10.0μmに設定した。
【0120】
この比較例1~3の遮光性フィルムが備える散乱層は、実施例1~3が備える散乱層3に対応するものであるが、黒色微粒子の含有量が多く遮光性を有している点で、ある程度の光透過性を有する散乱層3とは異なっている。比較例1,2の散乱層は、フィラー粒子を含むことにより表面の形状が形成されている。また比較例3の散乱層は、転写部材の転写面により表面の形状が形成されている。
【0121】
実施例1~3及び比較例1~3の各遮光性フィルムについて、遮光性フィルムの総厚み、フィルム基材の全光線透過率、フィルム基材の厚み、光学濃度(OD値)、黒味(L※)、及び入射角60度における光沢度等を測定した。
【0122】
フィルム基材の全光線透過率(%)は、JIS K7136に準拠し、ヘイズメーター(日本電色(株)製、NDH-5000W)を用いて測定した。光学濃度(OD値)は、JIS-K 7361に準拠し、透過濃度計(Xrite(株)製341C型)を用いて測定した。
【0123】
入射角60度における光沢度は、JlS K7105に準拠し、光沢計(TQCサーミンポート・クオリティ・コントロール社製 KT-GL0030型)を用いて測定した。黒味(L※)は、UV分光光度計(日立(株)製U3900H型)を用いて測定した。
【0124】
また、転写部材A,Bの全ヘイズは、HAZEMETER(日本電色(株)製 NDH5000W型)を用いて測定した。面粗さの算術平均高さSa及び最大高さSzは、走査型白色干渉顕微鏡(例えば菱化システム(株)製、VertScan R3300G型)を用いて測定した。測定結果を表1,2に示す。
【0125】
【0126】
表1及び2に示すように、実施例1~3のいずれも比較例1~3に比べて良好な結果が得られた。実施例1~3は、比較例1~3とほぼ同様の光学濃度(OD値)及び黒味を有しながら、比較例1~3と比べて総厚みが小さいことが確認された。
【0127】
ここで比較例1~3では、散乱層により遮光性を確保する必要があり、比較的大量の黒色成分を含む一方、散乱層の表面の硬度を一定以上に保つため、バインダー樹脂の含有量も増大させる必要がある。このため散乱層の最大厚みが増大し、遮光性フィルムの総厚みも増大したことが考えられる。
【0128】
これに対して実施例1~3では、フィルム基材2を用いたことにより、このような黒色成分及びバインダー樹脂の含有量に関する問題がなく、散乱層3の最大厚みを低減できる。これにより、実施例1~3の遮光性フィルム1の総厚みが良好に低減されている。その結果、実施例1~3では、良好な遮光性を確保しながら遮光性フィルム1の総厚みを低減できたものと考えられる。
【0129】
また実施例1~3は、比較例1~3(特に比較例1)に比べて光沢度(60度)が低く、優れた光散乱性を有することが確認された。また実施例2の光沢度は、実施例1に比べても大幅に低いことが確認された。
【0130】
このような結果が得られた理由の一つとして、及び、散乱層3の表面3aの形状を転写部材8の転写面8aにより形成したことで、表面3aの光沢度(60度)を十分に低減できたことが考えられる。以上により、実施例1~3の比較例1~3に対する優位性が確認された。
【0131】
[試験2]
次に、以下の表3,4に示す比較例4~9の遮光性フィルムを準備し、その測定結果を実施例1~3の測定結果と比較した。比較例4~9は、以下に示す差異以外は実施例1と同様の条件で準備した。
【0132】
透明な(即ち遮光性を有さない)フィルム基材を用いた以外は実施例1と同様の構成を有する比較例4を作製した。また、散乱層の黒色成分の含有量が20重量%に設定され、散乱層の樹脂硬化方法を紫外線硬化のみとしたこと以外は比較例4と同様の構成を有する比較例5を作製した。
【0133】
また、散乱層の黒色成分の含有量が20重量%に設定され、全光線透過率が70%以上100%以下の範囲の値に設定され、遮光性フィルム作成時に遮光層の元となる各塗膜に照射した電子線の積算電子線量が250kGyに設定されたこと以外は比較例4と同様の構成を有する比較例6を作製した。
【0134】
また、散乱層の黒色成分の含有量が20重量%に設定され、各散乱層の最大厚みが10.0μmに設定されたこと以外は比較例4と同様の構成を有する比較例7を作製した。また、各散乱層の最大厚みが8.0μmに設定され、散乱層の材料に熱硬化性樹脂を用い、散乱層の樹脂硬化方法を熱硬化としたこと以外は比較例4と同様の構成を有する比較例8を作製した。また、散乱層の黒色成分の含有量が20重量%に設定され、各散乱層の最大厚みが8.0μmに設定され、散乱層の材料に熱硬化性樹脂を用い、散乱層の樹脂硬化方法を熱硬化とし、フィルム基材が市販品の透明PETフィルムである東洋紡(株)製「東洋紡エステルフィルム E5007」としたこと以外は比較例4と同様の構成を有する比較例9を作製した。
【0135】
ここで、比較例8及び9の散乱層は、熱硬化性樹脂を含む以下のワニス(塗工液)用いて作製した。具体的には、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂(東都化成(株)製「YDCN-703」)13.0重量%と、フェノール樹脂(三井化学(株)製「XLC-LL」)11.0重量%と、御国色素(株)製「MHIブラック#273」34重量%と、硬化促進剤である1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(四国化成(株)製「2PZ-CN」)0.025重量%と、粒子である富士シリシア化学(株)製「サイリシア448」38重量%とを、有機溶剤であるシクロヘキサノン4重量%に溶解した。次に、これをビーズミルで混合することにより、不揮発分が15%に設定されたワニスを作製した。比較例4~9について、比較例1~3と同様の測定を行った。その結果を表3,4に示す。
【0136】
【0137】
表1,3,4に示されるように、比較例4~9は、フィルム基材が遮光性を有さない点で、実施例1~3とは明らかな差異がある。比較例4は、実施例1~3に比べて遮光性が低く、適切な光学濃度が得られにくいことが分かった。また比較例5は、比較例4に比べると、散乱層の黒色成分の含有量が若干増したことにより、遮光性がわずかに向上したが、適切な光学濃度は依然として得られにくいことが分かった。また、比較例5の散乱層は樹脂の硬化が不十分であり、転写部材Aの表面形状の転写不良が確認された。
【0138】
また、比較例6では、電子線により散乱層の樹脂を十分に硬化できなかったため、散乱層の成形不良が確認された。また、この成形不良に伴い、散乱層から転写部材Aを剥離できなかったため、OD値、黒味(L※)、及び光沢度を測定できない結果となった。このような散乱層の樹脂の未硬化や成形不良は、散乱層に含まれる黒色成分が比較的多量であったため、外部から塗膜内部に紫外線及び電子線が十分に透過できなかったことが原因と考えられる。
【0139】
また、このような散乱層の樹脂の未硬化は、散乱層の最大厚みが比較的大きい比較例7でも確認された。また比較例8では、散乱層の樹脂が熱硬化により硬化されたため、遮光性フィルムが散乱層の樹脂の熱硬化時に熱収縮し、皺が発生することが分かった。比較例9では、比較例8に比べてフィルム基材の厚みが大幅に大きいため、比較例8で確認された皺の発生は見られなかったが、遮光フィルムの総厚みも大幅に大きくなることが分かった。以上の試験結果から、実施例1~3の比較例4~9に対する優位性が確認された。
【0140】
本発明は、各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成及び方法を変更、追加、又は削除できる。散乱層の黒色成分は、顔料又は染料の少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0141】
また、転写部材8の転写面8aには、サンドブラスト処理により凹凸が形成されていてもよい。また、遮光性フィルム1の製造時におけるフィルム基材2の熱収縮がそれほど大きな問題にならない場合には、バインダー樹脂6の前駆体として、熱硬化性樹脂を用いてもよい。また、第1実施形態の樹脂部材4の内部には、粒子7が分散されていてもよい。
【0142】
また、樹脂部材4を紫外線硬化性且つ電子線硬化性を有する樹脂材料により構成する場合、当該樹脂材料の硬化に大きな影響を与えない許容範囲内において、散乱層3,103の黒色成分の含有量は、4重量%よりも大きい値に設定されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0143】
以上のように本発明は、遮光性フィルムにおいて、良好な遮光性を保持しながら厚みを低減できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できる遮光性フィルム及び遮光性フィルムの製造方法に本発明を広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0144】
1,101 遮光性フィルム
2 フィルム基材
3,103 散乱層
3a,103a 散乱層の表面
4 樹脂部材
5 黒色微粒子
7 粒子
8 転写部材
8a 転写部材の転写面