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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】ガラスクロス、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/267 20210101AFI20240524BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20240524BHJP
   D06M 15/11 20060101ALI20240524BHJP
   D06M 15/333 20060101ALI20240524BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240524BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20240524BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240524BHJP
   D06C 7/00 20060101ALI20240524BHJP
   D03D 5/00 20060101ALI20240524BHJP
   C03C 25/1095 20180101ALI20240524BHJP
【FI】
D03D15/267
D06M13/513
D06M15/11
D06M15/333
D06M15/564
D06M15/55
D06M15/263
D06C7/00 Z
D03D5/00 Z
C03C25/1095
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023091684
(22)【出願日】2023-06-02
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2022200266
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 周
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-035069(JP,A)
【文献】特開2004-232129(JP,A)
【文献】特開2019-011525(JP,A)
【文献】米国特許第04894276(US,A)
【文献】特開2022-011534(JP,A)
【文献】国際公開第2023/090272(WO,A1)
【文献】米国特許第05752550(US,A)
【文献】国際公開第1999/041441(WO,A1)
【文献】特開2005-248404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
D03D1/00-27/18、
D06B1/00-23/30、D06C3/00-29/00、D06G1/00-5/00、
D06H1/00-7/24、D06J1/00-1/12、
C03C25/00-25/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成されるガラスクロスであって、
前記ガラスクロスは、その耳部に地絡み糸を有し、
前記ガラス糸の軟化点が1200℃以上であり、かつ前記地絡み糸の軟化点が900℃以上であり、
前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0.002以下の範囲である、ガラスクロス。
【請求項2】
複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成されるガラスクロスであって、
前記ガラスクロスは、その耳部に地絡み糸を有し、
前記ガラス糸および前記地絡み糸の軟化点が900℃以上であり、
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO )換算で99.5~100質量%であり、
前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0.002以下の範囲である、ガラスクロス。
【請求項3】
前記地絡み糸の軟化点が1000℃以上である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項4】
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO)換算で99.9~100質量%である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記ガラス糸の番手B1と前記地絡み糸の番手B2の比(B2/B1)が1.0以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記ガラス糸の番手B1と前記地絡み糸の番手B2の比(B2/B1)が0.9以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項7】
厚みが5~200μmの範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項8】
前記ガラスクロスは、前記経糸および緯糸が澱粉、ポリビニルアルコール、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂から成る群から選択される少なくとも1つを主成分として含むサイジング剤で表面処理されたガラスクロス生機である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項9】
前記ガラスクロスは、強熱減量値が0.07質量%以上5.0質量%以下であるガラスクロス生機であり、前記強熱減量値は、加熱脱油処理前のガラスロスから地絡み糸を含まないようにサンプリングを行い、JIS R3420に準拠して測定される、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項10】
前記ガラスクロスは、強熱減量値が0.07質量%以上2.0質量%未満であるガラスクロス生機であり、前記強熱減量値は、加熱脱油処理前のガラスロスから地絡み糸を含まないようにサンプリングを行い、JIS R3420に準拠して測定される、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項11】
前記ガラス糸のフィラメント径FD1と前記地絡み糸のフィラメント径FD2の比であるFD2/FD1が1.0以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項12】
前記ガラス糸のフィラメント径FD1と前記地絡み糸のフィラメント径FD2の比であるFD2/FD1が0.95以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項13】
前記ガラスクロスは、前記地絡み糸が澱粉、ポリビニルアルコール、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂から成る群から選択される少なくとも1つを主成分として含むサイジング剤で表面処理されたガラスクロス生機であり、前記地絡み糸のサイジング剤の付着量が0.1~10.0質量%の範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項14】
前記ガラス糸のガラスの10GHzにおけるバルク誘電正接が0.002以下の範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項15】
前記ガラスクロスがシランカップリング剤を含む表面処理剤によって、表面処理されている、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項16】
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、
複数本のフィラメントを含み、軟化点が1200℃以上であるガラス糸および軟化点が900℃以上である地絡み糸を用いて、前記ガラス糸を経糸および緯糸として構成され、耳部に前記地絡み糸を有する、ガラスクロス生機を準備する工程と、
前記ガラスクロス生機を600℃~1600℃の範囲で加熱処理する工程を含み、
前記ガラス糸及び前記地絡み糸の軟化点は、前記加熱処理を行う温度よりも高い、ガラスクロスの製造方法。
【請求項17】
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、
複数本のフィラメントを含み、軟化点が900℃以上であるガラス糸および地絡み糸を用いて、前記ガラス糸を経糸および緯糸として構成され、耳部に前記地絡み糸を有する、ガラスクロス生機を準備する工程と、
前記ガラスクロス生機を600℃~1600℃の範囲で加熱処理する工程を含み、
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO )換算で99.5~100質量%であり、
前記ガラス糸及び前記地絡み糸の軟化点は、前記加熱処理を行う温度よりも高い、ガラスクロスの製造方法。
【請求項18】
記地絡み糸の軟化点が1000℃以上である、請求項16又は17に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項19】
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO)換算で99.9~100質量%である、請求項16又は17に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項20】
前記加熱処理の時間が10分以下である、請求項16又は17に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項21】
前記加熱処理がRoll-tо-Roll方式である、請求項20に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項22】
前記加熱処理より前に洗浄工程を含む、請求項16又は17に記載のガラスクロスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガラスクロス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、及び5G通信に代表される高速通信化が進んでいる。かかる背景に伴い、特に高速通信用のプリント配線板に対して、従来から求められている耐熱性の向上だけでなく、その絶縁材料の更なる誘電特性の向上(例えば、低誘電正接化)が望まれている。同様に、プリント配線板の絶縁材料に用いられるプリプレグ、及び該プリプレグに含まれるガラス糸並びにガラスクロスに対しても、誘電特性の向上が望まれている背景がある。
【0003】
特許文献1及び2は、絶縁材料の低誘電化を図るため、低誘電樹脂(以下、「マトリックス樹脂」と称する。)をガラスクロスに含浸させたプリプレグを用いて絶縁材料を構成することを記載している。特許文献1及び2には、ビニル基又はメタクリロキシ基で末端変性させたポリフェニレンエーテルは低誘電特性及び耐熱性に有利である旨、及びこの変性ポリフェニレンエーテルをマトリックス樹脂として用いる旨が記載されている。
【0004】
特許文献3および4は、プリプレグの誘電特性の向上を図るため、二酸化ケイ素(SiO2)組成量が96.0~100.0質量%であるガラス糸からなるシリカガラスクロスを用いてプリプレグを構成することを記載している。特許文献3および4では、シリカガラスクロスの誘電正接を低下させるために、ガラスクロスを450℃~1650℃で1分~72時間加熱する方法が開示されている。高温で加熱処理することで、シリカガラスに含まれるシラノール基量を低減することで、ガラスクロスの誘電正接を低下させることが可能となる。
【0005】
ところで、特許文献5に記載されているように、ガラスクロスの耳部の糸をほつれにくくするために、ガラスクロスの最端糸に地絡み糸を織り込む織り構成が一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/065940号
【文献】国際公開第2019/065941号
【文献】特開2021-63320号公報
【文献】特開2021-195689号公報
【文献】特開昭59-15566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のガラスクロスは、誘電特性等の向上を図る観点で更なる検討の余地があった。例えば、特許文献1及び2においては、特許文献3及び4に記載されるような低誘電ガラスの使用について考慮されていなかった。
【0008】
特許文献3および4に記載されているように、ガラスクロスの誘電正接を低下させるために450℃~1650℃の高温で加熱処理する方法は、ガラスクロスを構成するガラス糸の軟化点が低い場合、加熱処理によってガラス糸が切断してしまう問題がある。
【0009】
また、特許文献5に記載されるような耳部に地絡み糸を有する従来のガラスクロスを生機として用いた場合、前述の高温加熱処理によって地絡み糸が切断し、それによって、ガラスクロスの地糸がほつれ出て、工程中のロール等に巻き付き、又は得られるガラスクロスの外観不良が発生するといった問題がある。
【0010】
そこで、本開示は、優れた誘電特性を有し、高温加熱処理時の地絡み糸の切断が少なく量産性に優れたガラスクロス、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の態様の一部を以下に例示する。
[1]
複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成されるガラスクロスであって、
前記ガラスクロスは、その耳部に地絡み糸を有し、
前記ガラス糸および前記地絡み糸の軟化点が900℃以上である、ガラスクロス。
[2]
前記地絡み糸の軟化点が1000℃以上である、項目1に記載のガラスクロス。
[3]
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO)換算で95.0~100質量%である、項目1又は2に記載のガラスクロス。
[4]
前記ガラス糸の番手B1と前記地絡み糸の番手B2の比(B2/B1)が1.0以下である、項目1~3のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[5]
前記ガラス糸の番手B1と前記地絡み糸の番手B2の比(B2/B1)が0.9以下である、項目1~4のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[6]
厚みが5~200μmの範囲である、項目1~5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[7]
前記ガラスクロスは、前記経糸および緯糸が澱粉、ポリビニルアルコール、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂から成る群から選択される少なくとも1つを主成分として含むサイジング剤で表面処理されたガラスクロス生機である、項目1~6のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[8]
前記ガラスクロスは、強熱減量値が0.07質量%以上5.0質量%以下であるガラスクロス生機である、項目1~7のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[9]
前記ガラスクロスは、強熱減量値が0.07質量%以上2.0質量%未満であるガラスクロス生機である、項目1~8のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[10]
前記ガラス糸のフィラメント径FD1と前記地絡み糸のフィラメント径FD2の比であるFD2/FD1が1.0以下である、項目1~9のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[11]
前記ガラス糸のフィラメント径FD1と前記地絡み糸のフィラメント径FD2の比であるFD2/FD1が0.95以下である、項目1~10のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[12]
前記ガラスクロスは、前記地絡み糸が澱粉、ポリビニルアルコール、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂から成る群から選択される少なくとも1つを主成分として含むサイジング剤で表面処理されたガラスクロス生機であり、前記地絡み糸のサイジング剤の付着量が0.1~10.0質量%の範囲である、項目1~11のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[13]
前記ガラス糸のガラスの10GHzにおけるバルク誘電正接が0.002以下の範囲である、項目1~12のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[14]
前記ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接が0.002以下の範囲である、項目1~13のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[15]
前記ガラスクロスがシランカップリング剤を含む表面処理剤によって、表面処理されている、項目1~14のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[16]
ガラスクロスの製造方法であって、
複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成され、耳部に地絡み糸を有し、かつ前記ガラス糸および前記地絡み糸の軟化点が900℃以上であるガラスクロス生機を準備する工程と、
前記ガラスクロス生機を600℃~1600℃の範囲で加熱処理する工程を含む、ガラスクロスの製造方法。
[17]
前記ガラス糸および前記地絡み糸の軟化点が1000℃以上である、項目16に記載のガラスクロスの製造方法。
[18]
前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO)換算で95.0~100質量%である、項目16又は17に記載のガラスクロスの製造方法。
[19]
前記加熱処理の時間が10分以下である、項目16~18のいずれか一項に記載のガラスクロスの製造方法。
[20]
前記加熱処理がRoll-tо-Roll方式である、項目16~19のいずれか一項に記載のガラスクロスの製造方法。
[21]
前記加熱処理より前に洗浄工程を含む、項目16~20のいずれか一項に記載のガラスクロスの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、優れた誘電特性を有し、高温加熱処理時の地絡み糸の切断が少なく量産性に優れたガラスクロス、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について説明するが、本開示はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本開示において、「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。本開示では、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えることができる。更に、本開示では、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。そして、本開示において、「工程」の語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、工程の機能が達成されれば、本用語に含まれる。
【0014】
[ガラスクロス]
〔全体構成〕
本開示のガラスクロスは、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成される。以下、経糸および緯糸を構成するガラス糸を「地糸」ともいう。上記ガラスクロスは、その耳部に地絡み糸を有する。そして、上記ガラス糸および地絡み糸の軟化点が900℃以上である。本開示において、「ガラスクロス」は、特に言及しない限り、加熱処理される前のガラスクロス、加熱処理後に得られるガラスクロス及び表面処理後に得られるガラスクロスのすべてを包含する。本開示において、加熱処理される前のガラスクロスを「ガラスクロス生機」ともいう。
【0015】
理論に限定されないが、ガラスクロスを構成する地絡み糸として高軟化点を有するガラスヤーンを用いることで、ガラスクロスを高温加熱処理しても地絡み糸の切断がほとんど起こらず、安定的にガラスクロスの加工を行うことができる。より具体的に、地絡み糸の軟化点が900℃以上のガラスヤーンを用いることで、600℃~1600℃の高温加熱処理を行っても、地絡み糸の切断がほとんど起こらず、ガラスクロスの製造及び加工工程において、ガラス糸のほつれを抑制することができる。また、ガラス糸の軟化点が900℃以上であることで、600℃~1600℃の高温加熱処理を行っても、ガラス糸が切断されることが少なく、安定して加工することができる。これにより、ガラスクロス表面の異物を従来よりも除去することができ、得られるガラスクロスの誘電正接を下げることが可能となる。したがって、上記構成によれば、優れた誘電特性(例えば、低誘電正接)を有し、かつ、高温加熱処理時の地絡み糸の切断が少なく量産性に優れたガラスクロスを提供することができる。
【0016】
本開示において、ガラスクロスの「耳部」とは、ガラスクロスの巾方向の両端に位置する地絡み糸および経糸の合計20本程度を含む、ガラスクロスの両端近傍の部分を意味する。耳部がほつれるというのは、地絡み糸が切れることで地絡み糸近傍の経糸が抜け出てくる現象のことである。
【0017】
ガラスクロスは、ガラス糸を経糸及び緯糸として製織された構造を有することができる。ガラス糸は、例えば、複数本のガラスフィラメントから構成される。ガラスクロスの織り構造は、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等の織り構造が挙げられる。なかでも、平織り構造が好ましい。
【0018】
ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度(織密度)は、好ましくは10~120本/inch(=10~120本/25mm)であり、より好ましくは40~100本/inchである。打ち込み密度が上記の範囲内であれば、外観品質に優れたガラスクロスが得やすくなる。経糸及び緯糸の打ち込み密度は同じであっても、異なってもよい。
【0019】
ガラスクロスの厚みは、好ましくは5~200μmの範囲であり、より好ましくは10~100μmの範囲であり、更に好ましくは11~80μmの範囲であり、特に好ましくは13~60μmの範囲である。ガラスクロスの厚みが上記の範囲内であれば、外観品質と優れた誘電正接を有するガラスクロスが得やすくなる。
【0020】
ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接は、0.002以下が好ましく、0.0015以下がより好ましく、0.001以下が更に好ましく、0.0005以下が特に好ましい。ガラスクロスの誘電正接が上記の範囲内であれば、優れた誘電正接を有するガラスクロスが得やすくなる。
【0021】
〔ガラス糸〕
ガラスクロスを構成する経糸および緯糸に使用されるガラス糸(地糸)は、軟化点が900℃以上である。軟化点が900℃以上のガラス糸をガラスクロスの経糸および緯糸に用いることで、上述したように、得られるガラスクロスの誘電正接を下げることが可能となる。ガラスクロスを600℃~1600℃の温度で加熱脱油処理することから、ガラス糸の軟化点は1000℃以上が好ましく、1050℃以上がより好ましく、1100℃以上がさらに好ましく、1200℃以上が特に好ましい。ガラス糸の軟化点は、加熱脱油処理を行う温度より高いことが好ましい。
【0022】
ガラス糸の組成は、そのガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0~100質量%の範囲であることが好ましい。このようなガラス糸を用いることで、得られるガラスクロスの誘電特性の向上を図ることができる。得られるガラスクロスの誘電特性の向上の観点から、Si含量は、99.0~100質量%の範囲が好ましく、99.5~100質量%の範囲がより好ましく、99.9~100質量%の範囲が更に好ましい。
【0023】
優れた誘電特性を有するガラスクロスを提供するために、用いるガラス糸の10GHzにおけるバルク誘電正接は0.002以下が好ましく、0.0015以下がより好ましく、0.001以下が更に好ましく、0.0005以下が特に好ましい。
【0024】
ガラス糸を構成するガラスフィラメントの平均フィラメント径は、好ましくは2.5~9.0μmであり、より好ましくは2.5~7.5μmであり、更に好ましくは3.5~7.0μmであり、より更に好ましくは3.5~6.0μmであり、特に好ましくは3.5~5.0μmである。フィラメント径が2.5μm以上であると、フィラメントの破断強度が高くなるため、得られるガラスクロスに毛羽が発生しにくくなる。また、フィラメント径が9.0μm以下であると、ガラスクロスの質量が大きくなりすぎず、搬送又は加工を行い易い。また、ガラスフィラメントの平均フィラメント径が上記の範囲内であれば、ハンドリング性に優れたガラスクロスとなり、良好な外観品質が提供しやすくなる。
【0025】
ガラスクロス生機におけるガラス糸は、サイジング剤によって表面処理されていることが好ましい。加熱脱油処理しやすい点、及び安価に入手でき、比較的扱いやすい点から、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂から成る群から選択される少なくとも1つを主成分として含むサイジング剤を用いることが好ましい。ガラス糸がサイジング剤により表面処理されていることにより、ガラス糸の紡糸時および整経時の毛羽を抑制することができる。
【0026】
〔地絡み糸〕
ガラスクロスの地絡み糸は軟化点が900℃以上である。地絡み糸は、ガラスクロスの耳部に織り込まれていてよい。地絡み糸を織り込む態様は、限定されないが、ガラス糸をよりほつれにくくする観点から、例えば、ガラスクロスの巾方向の両端部に位置する地糸(経糸)よりも外側に、複数本、好ましくは2本~10本、より好ましくは2~4本、更に好ましくは2本の地絡み糸で、絡み組織を構成することができる。2本一組の地絡み糸で、一組又は複数組のレノ織りの絡み組織を構成してもよい。地絡み糸は、製織時のガラスクロスにおける織始めと織終わりにおいて、織られた経糸のガラス糸がほつれないよう絡ませることができる。一般的には、織機に設けられたレノ装置にてガラスクロスに織り込むことが可能である。ここで、「絡み組織」とは、織られた糸がほつれることがなければどのような組織で糸を絡ませてもよいが、ガラスクロスが平織構造である場合、経糸と同様に平織構造となるよう絡ませることが好ましい。軟化点が900℃以上の地絡み糸を用いることで、600℃~1600℃の温度範囲で加熱脱油処理を行っても、地絡み糸の切断が起きずに加熱脱油処理を行うことができる。地絡み糸の切断が起きると、ガラスクロスの耳部のほぐれが発生してしまい、ガラスクロスの加工時にローラー等への糸の巻き付き、又は得られるガラスクロスの外観不良等を引き起こしてしまう。ガラスクロスの品質向上及び高い生産性を維持しながら加工するためには、地絡み糸の軟化点は1000℃以上が好ましく、1050℃以上がより好ましく、1100℃以上がさらに好ましく、1200℃以上が特に好ましい。地絡み糸の軟化点は、加熱脱油処理を行う温度より高いことが好ましい。
【0027】
地絡み糸の組成は、軟化点が900℃以上であれば、無機繊維、有機繊維等特に限定はされないが、ガラスクロスの地糸への異物混入防止の観点からガラス糸を用いることが好ましい。軟化点が900℃以上のガラス糸としては、Tガラス、Sガラス、石英ガラス、シリカガラス等の高耐熱性ガラス糸が知られている。中でも高軟化点を有することからシリカ糸、石英糸が地絡み糸として特に好ましい。地絡み糸がガラス糸である場合、そのSi含量は、SiO2換算で95.0~100質量%の範囲であることが好ましく、99.0~100質量%の範囲が好ましく、99.5~100質量%の範囲がより好ましく、99.9~100質量%の範囲が更に好ましい。
【0028】
製織時の地絡み糸の切断を抑制するために、ガラスクロス生機の地絡み糸は、サイジング剤によって表面処理されていることが好ましい。加熱脱油処理しやすい点、及び安価に入手でき、比較的扱いやすい点から澱粉、ポリビニルアルコール、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂から成る群から選択される少なくとも1つを主成分として含むサイジング剤を用いることが好ましい。地絡み糸の切断抑制の観点から、地絡み糸のサイジング剤の付着量は、0.1~10.0質量%の範囲であることが好ましく、0.2~9.0質量%の範囲がより好ましく、0.3~8.0質量%の範囲がさらに好ましく、0.35~7.5質量%の範囲が特に好ましい。サイジング剤の付着量が0.1質量%以上であると、織機上での地絡み糸の切断がより起こりにくくなる。サイジング剤の付着量が10.0質量%以下であると、加熱脱油後のガラスクロス上に付着するサイジング剤の残渣量を低減することができ、得られるガラスクロスの誘電正接を低減することができる。
【0029】
地絡み糸の番手(tex)は、地糸と同じ又はより細いことが好ましく、地糸よりも細いことがより好ましい。絡み組織は、好ましくは複数本の地絡み糸で構成されることから、地糸よりも細い糸を地絡み糸として用いることにより、ガラスクロスの耳部が厚くならず、ガラスクロスをロール状に巻き取った際に端部のみ巻き太ることを抑制することができる。具体的には、経糸および緯糸に用いられるガラス糸の番手B1と地絡み糸の番手B2の比(B2/B1)は、1.0以下が好ましく、1.0未満がより好ましく、0.9以下が更に好ましく、0.8以下がより更に好ましく、0.7以下が特に好ましい。なお、ガラス糸の番手B1とは、経糸の番手と緯糸の番手の平均値を意味する。
【0030】
地絡み糸は地糸よりも細い糸が好ましいという観点から、経糸および緯糸として用いられるガラス糸のフィラメント径FD1と地絡み糸のフィラメント径FD2の比であるFD2/FD1は、1.0以下が好ましく、1.0未満がより好ましく、0.95以下が更に好ましく、0.9以下が特に好ましい。フィラメント径の比が1.0以下であると、ガラスクロスをロール状に巻き取った際に耳部の巻き太りが発生することを抑制することができる。なお、ガラス糸のフィラメント径FD1とは、経糸のフィラメント径と緯糸のフィラメント径の平均値を意味する。
【0031】
[ガラスクロスの製造方法]
本開示のガラスクロスの製造方法は、ガラスクロス(ガラスクロス生機)を準備する工程と、上記ガラスクロス(ガラスクロス生機)を600℃~1600℃の範囲で加熱処理する工程とを含む。ここで、ガラスクロス(ガラスクロス生機)は、上記で説明した、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成され、その耳部に地絡み糸を有し、かつ上記ガラス糸および上記地絡み糸の軟化点が900℃以上の、ガラスクロスである。ガラスクロスの製造方法は、加熱処理工程の後、任意に、ガラスクロス表面を表面処理する工程、シランカップリング剤を低減する工程、及びガラスクロスを開繊する工程を更に含んでもよい。
【0032】
〔ガラスクロス生機を準備する工程〕
ガラスクロス生機を準備する工程は、ガラス糸の整経および製織を行うことを含んでもよい。これによって、例えば、平織構造の織物であるガラスクロス生機を製造することができる。ガラスクロス生機に用いられるガラス糸は、ガラス糸の紡糸時および整経時の毛羽抑制のため、澱粉、ポリビニルアルコ-ル等を主成分とするサイジング剤によって、表面処理されていることが好ましい。ガラス糸の紡糸時及び整経工程と同時にサイジング剤処理を行っても構わない。また、地絡み糸も製織時の糸切れ抑制のためにサイジング処理されていることが好ましい。経糸の整経工程と同時に地絡み糸のサイジング剤処理を行っても構わない。
【0033】
整経工程で得られた経糸に緯糸を織り込むことでガラスクロス生機が製織される。地絡み糸は、製織工程時にガラスクロス生機の耳部に織り込むことで、地絡み構造が形成される。
【0034】
ガラスクロス生機の強熱減量値、すなわち、加熱脱油前のガラスクロス生機の強熱減量値は、好ましくは0.07質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.07質量%以上3.0質量%以下、より好ましくは0.07質量%以上2.0質量%以下、更に好ましくは0.07質量%以上2.0質量%未満、より更に好ましくは0.10質量%以上1.8質量%未満、特に好ましくは0.1質量%以上1.5質量%未満である。強熱減量値が5.0質量%以下であると、ガラスクロス生機表面のサイジング剤が多すぎず、加熱脱油後のガラスクロス上に付着するサイジング剤の残渣量を低減することができる。その結果、得られるガラスクロスの誘電正接を低減することができる。強熱減量値が0.07質量%以上であると、サイジング剤として収束性を向上させる効果が十分であり、ガラスクロス生機及びその加工の際に、毛羽及び傷が生じにくい。
【0035】
〔ガラスクロス生機の加熱処理工程〕
ガラスクロス生機の加熱処理工程は、上記ガラスクロス生機を600℃~1600℃の範囲で加熱処理する工程を含む。当該加熱処理工程により、ガラスクロス生機の表面に任意に付着したサイジング剤(糊剤)及びその変性物等を除去することができる。本開示において、加熱処理工程を「加熱脱油」工程ともいう。ガラスクロス生機の加熱処理工程は、ガラス糸および地絡み糸の軟化点が900℃以上であるガラスクロス生機を600℃~1600℃の温度範囲で加熱脱油することで、ガラスクロスへのダメージを抑えつつ、ガラスクロスの誘電正接を下げることが可能である。本開示の効果を好適に得る観点から、加熱脱油の温度は700℃~1500℃の範囲が好ましく、800℃~1400℃の範囲がより好ましく、900℃~1300℃の範囲が更に好ましく、1000℃~1200℃の範囲が特に好ましい。加熱脱油温度が600℃以上であると、ガラスクロス生機に付着する糊剤の残留物等を効果的に除去できるため、得られるガラスクロスの誘電正接を効果的に下げることができる。他方、加熱脱油温度が1600℃以下であると、ガラスの失透現象を抑制し、ガラスクロスの強度低下を防ぐことができる。
【0036】
加熱時間は、適宜選択でき、例えば、10分以下が好ましく、5分以下がより好ましく、2分以下がさらに好ましく、90秒以下が特に好ましい。高温で加熱処理をすることから、加熱時間が10分以下であると、ガラスクロスに与えるダメージが小さくなり、例えば加工中にガラスクロスに部分的に穴が開く、またはガラスクロスが切断するといった問題が生じにくくなる。加熱時間の下限は、糊剤の残留物等を効果的に除去する観点で、例えば、1秒以上、5秒以上、10秒以上、又は15秒以上であってよい。
【0037】
ガラスクロス生機を加熱脱油処理する前に、ガラスクロス生機表面に付着しているサイジング剤を洗浄する工程を含むことが好ましい。加熱脱油処理する前に、サイジング剤をある程度除去することによって、加熱脱油処理によるガラスクロスへのダメージを軽減すことが可能である。洗浄に用いる溶媒は特に限定されないが、安全性やコストの観点から水、逆浸透(RO)水、イオン交換水、蒸留水等を用いた洗浄が好ましい。ガラスクロス表面に付着している余分な金属イオンを除去する観点から、洗浄に用いる溶媒はイオン交換水や蒸留水といった純度の高い水が特に好ましい。ガラスクロス生機の洗浄方法は特に限定されないが、例えば、超音波を用いる手法(例えば、超音波振動子を用いる手法)、スプレーによる噴射(例えば、高圧スプレーによる噴射)、水蒸気噴霧等の方法が考えられる。安価に加工できるという観点から、洗浄液を貯めた槽にガラスクロス生機を浸漬した後に、スクイズローラー等で余分な洗浄液を除去し、その後にガラスクロス生機を乾燥させる方法が好ましい。この場合、浸漬時間としては、例えば、2秒以上、5秒以上、10秒以上、15秒以上又は120秒以下、90秒以下、60秒以下、45秒以下でよい。
【0038】
ガラスクロス生機を加熱する手段は、加熱脱油温度が600℃~1600℃の範囲となるように加熱が行なわれる限り、既知の加熱方法、加熱媒体、加熱機構、加熱装置、及び加熱部品を用いることができる。加熱手段としては、例えば、(1)加熱炉内でガラスクロス生機を加熱する、(2)加熱部にガラスクロス生機を接触させる、(3)高温蒸気をガラスクロス生機に当てる、等でよい。加熱脱油温度が600℃以上となるようにガラスクロス生機を加熱することによって、ガラスクロス生機表面に付着している有機物を効率よく除去したり、有機物の除去時間を短縮したりすることができる。ガラスクロス生機の加熱は、逐次的若しくは連続的に、閉鎖系若しくは開放系で、行われることができ、又は閉鎖系と開放系を組み合わせて行われることができる。
【0039】
閉鎖系の場合には、加熱手段による好適な加熱の観点から、ガラスクロス生機を加熱炉内に配置することが好ましく、かつ/又は貯蔵スペース及び加熱範囲の観点から、ガラスクロス生機を巻物の状態で貯蔵しながら加熱することが好ましい。また、有機物の除去効率を上げたり、有機物の除去時間を短縮したりするという観点から、加熱炉内でガラスクロス生機を搬送しながら加熱することも好ましい。
【0040】
開放系の場合には、被加熱面積の観点から、ガラスクロス生機を搬送させながら加熱することが好ましい。ガラスクロス生機の搬送は、例えば、巻出機構と巻取機構、例えば、Roll-to-Roll方式により行われることができる。
【0041】
〔加熱炉〕
加熱炉の加熱手段としては、加熱脱油温度が600℃~1600℃となるように加熱できるのであれば、電気式ヒーター、バーナー等種々のものが考えられ、特定の手段のみに限定されない。また、複数の手段を組み合わせて加熱をしてもよいが、ガス式シングルラジアントチューブバーナー又は電気式ヒーターを用いることが好ましい。
【0042】
加熱炉は、加熱効率の観点から、加熱炉内で生成したガスを排出する手段、及び/又は空気循環手段を備えることが好ましい。ガス排出手段は、例えば、ノズル、ガス管、小穴、ガス抜き弁等でよい。空気循環手段は、例えば、ファン、空気調和設備等でよい。
【0043】
ガラスクロス生機表面に付着している有機物を効率よく除去するため、ガラス繊維織物を巻芯に巻いて、所定の雰囲気温度でガラスクロス生機を加熱するバッチ方式よりも、ガラスクロス生機を連続的に加熱炉に通しながら、加熱することが可能な連続方式が好ましい。更には、逆浸透(RO)水によるガラスクロス生機の洗浄を連続で行えるような方式が最も好ましい。
【0044】
〔ガラスクロス生機を加熱するための接触部材〕
ガラスクロス生機を加熱する方法として、上記加熱炉を使用してもよいが、低ランニングコストの観点から、所定の温度に加熱した部材と、ガラスクロス生機と、を接触させることで、ガラスクロス生機を加熱してもよい。
【0045】
ガラスクロス生機の加熱脱油温度が600℃~1600℃の範囲になるように加熱できれば、接触部材の形状は特に限定されないが、ガラスクロス生機の搬送のし易さから、ロール形状が好ましい。ロール形状でガラスクロス生機を加熱することが可能な部材としては、高温領域での使用が可能で、幅方向の温度のばらつきが比較的少ない、誘導発熱方式で加温するロールが好ましい。接触部材でガラスクロス生機を加熱するときには、接触部材の温度とガラスクロス生機の表面温度が概ね等しいことが考えられる。
【0046】
ガラスクロス生機を連続加熱するにつれ、加熱ロールに付着する炭化物を除去するために、上記加熱ロール方式は、付着した異物を除去する機構、例えば、ブレード等の機構を備えた方式であることが好ましい。
【0047】
〔高温蒸気をガラスクロス生機に適用する手段(蒸気適用手段)〕
ガラスクロス生機に適用される蒸気は、例えば、揮発性溶媒、水蒸気、水蒸気以外のガスなどを含んでよいが、人体への毒性の観点、ガラス繊維に用いられる集束剤の分解が促進し易い観点から、水蒸気が好ましい。その高温蒸気の温度は、ガラスクロス生機の表面温度が600℃~1600℃の範囲にするために、必要であれば、高温蒸気と加熱空気を任意の割合で供給できる方法を用いても良い。高温蒸気の温度は、500℃以上であり、600℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましく、800℃以上がさらに好ましく、900℃以上が特に好ましい。蒸気適用手段は、限定されるものではないが、噴霧、シャワー拡散、ジェットノズルなどでよい。代替的には、加熱炉から排出したガスを高温蒸気として再利用することがある。
【0048】
〔ガラスクロス生機の加熱脱油装置〕
ガラスクロス生機の加熱脱油装置は、上述のとおり、ガラスクロス生機を加熱脱油温度が600℃~1600℃の範囲となるように加熱することができる。より詳細には、ガラスクロス生機の加熱脱油装置は、巻出機構と巻取機構を有し、ガラスクロス生機を搬送させながら、加熱脱油温度が600℃~1600℃の範囲となるように加熱する工程を実行可能な加熱炉を含むことが好ましい。
【0049】
巻出機構と巻取機構は、例えば、少なくとも一対のロール、Roll-tо-Roll方式等でよい。加熱炉、空気循環手段、接触部材、および蒸気適用手段は、上述のガラスクロス生機の加熱処理工程で説明されたとおりである。
【0050】
生産効率の観点から加熱炉の直前にガラスクロス生機のサイジング剤を洗い流すための洗浄装置を含むことが好ましい。
【0051】
〔ガラスクロスの表面処理工程〕
ガラスクロスの製造方法は、ガラスクロス生機を加熱脱油処理したのちに、ガラスクロス表面を表面処理する工程を更に含んでもよい。表面処理剤としては、特に限定されないが、安価である点からシランカップリング剤を含むことが好ましい。
【0052】
表面処理剤を付着させる工程は、例えば、表面処理剤を含有する処理液によってガラスの表面に表面処理剤を付着させる被覆工程と、加熱乾燥により表面処理剤をガラスの表面に固着させる固着工程と、を含む。これにより、ガラスクロスを好適に表面処理し易くなる。
【0053】
被覆工程で処理液をガラスに塗布する方法としては、(a)バスに溜めた処理液にガラスを浸漬又は通過させる方法(以下、「浸漬法」という。)、(b)ロールコーター、ダイコーター又はグラビアコーター等で処理液をガラスに塗布する方法、等が可能である。浸漬法を採用する場合は、ガラスの処理液への浸漬時間を0.5秒以上1分以下に選定することが好ましい。また、浸漬法を採用する場合は、ガラスに所定の張力(例えば、100~250N)を付与しながら、搬送速度10~50m/分の速度で、該ガラスを処理液内に通過させることができる。また、ガラスに処理液を塗布した後、熱風、電磁波等の方法により、処理液に含まれる溶媒を加熱乾燥させることができる。
【0054】
処理液における表面処理剤の濃度は、濃度0.1~0.5質量%が好ましく、濃度0.1~0.45質量%がより好ましく、濃度0.1~0.4質量%が更に好ましい。これによれば、ガラスをより好適に表面処理し易くなる。
【0055】
固着工程において、加熱乾燥温度は、表面処理剤とガラスとの反応が十分に行われるように、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、加熱乾燥温度は、表面処理剤が有する有機官能基の劣化を防ぐため、300℃以下が好ましく、180℃以下であればより好ましい。
【0056】
〔表面処理剤の低減工程〕
ガラスクロスの製造方法は、ガラスクロスの表面処理工程の後、表面処理剤を低減する工程を更に含んでもよい。表面処理剤を低減する工程は、例えば、ガラスの表面と化学結合を形成しなかった表面処理剤を洗浄する洗浄工程と、洗浄後のガラスを加熱及び乾燥する乾燥工程とを含むことができる。表面処理剤を低減する工程は、乾燥工程後に、洗浄しきれなかった、ガラスの表面と化学結合を形成していない不要成分を低減する仕上げ洗浄工程を更に含んでもよい。仕上げ洗浄工程により、表面処理剤の付着量を制御し易くなる。なお、表面処理剤を低減する工程は、仕上げ洗浄工程後に、例えば、仕上げ乾燥工程を更に有することができる。
【0057】
仕上げ洗浄工程では、洗浄工程で水洗浄しきれなかった、ガラスの表面と化学結合を形成していない不要成分を低減することができる。この仕上げ洗浄工程では、例えば、洗浄液として有機溶媒を用いることができる。仕上げ洗浄工程を有することで、低誘電ガラスを用いる場合であっても、得られるガラスクロスの誘電正接とバルク誘電正接との差を小さくすることができる。ここでの有機溶媒としては、疎水性の高い有機溶媒が好ましく、また、水酸基を有する表面処理剤、例えばシランカップリング剤の残留物及び変性物との親和性が高い有機溶媒も好ましい。洗浄方法は、浸漬法、シャワー噴霧等を採用でき、必要に応じて加温又は冷却してもよい。洗浄液に溶解したガラスが再付着するのを抑制できるよう、絞りローラー等により、洗浄後のガラスから、余剰な溶媒を低減することが好ましい。
【0058】
仕上げ洗浄工程において洗浄液として使用可能な有機溶媒は、例えば、下記の溶媒を単独、又は複数種を組み合わせて使用することができる。疎水性の高い有機溶媒としては、例えば、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、i-デカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン(イソドデカン)等の飽和鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の飽和環状脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の含ハロゲン溶媒;等が挙げられる。
【0059】
表面処理剤、例えばシランカップリング剤の残留物又は変性物との親和性が高い有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。なかでも、ガラスに物理的に付着した表面処理剤を効率的に低減し易いという観点から、芳香族炭化水素、アルコール類又はケトン類が好ましく、メタノールがより好ましい。従って、仕上げ洗浄工程における洗浄液としては、メタノールが主成分(洗浄液100質量%に対してメタノール50質量%以上、又は60質量%以上)である洗浄液を用いることが好ましい。
【0060】
仕上げ乾燥工程では、上記仕上げ洗浄工程で用いた洗浄液を低減することができる。乾燥による洗浄液の低減の容易性から、上記仕上げ洗浄工程で用いる洗浄液は、沸点が120℃以下であることが好ましい。乾燥には、加熱乾燥又は送風乾燥の方法を採用できる。なお、洗浄液として有機溶媒を用いる場合、安全上の観点から、低圧蒸気又は熱媒オイル等を熱源とした熱風乾燥により加熱乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は、洗浄液の沸点以上であることが好ましく、シランカップリング剤の劣化を抑制する観点から180℃以下であることが好ましい。
【0061】
〔ガラスクロスの開繊工程〕
ガラスクロスの製造方法は、ガラスクロスを開繊する工程を更に含んでもよい。ガラスクロスの開繊工程での開繊方法としては、例えば、ガラスクロスを、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水又はマングル等で開繊加工する方法を採用できる。この開繊加工時に、ガラスクロスに掛かる張力を下げることにより、通気度をより小さくすることができる傾向にある。なお、開繊加工によるガラスクロスの引張強度の低下を抑えるため、ガラス糸を製織する際の接触部材との低摩擦化、及び集束剤の最適化並びに高付着量化、等の対策を施すことが好ましい。
【0062】
上記ガラスクロスの製造方法における各工程は、必ずしも別工程で行われる必要はなく、複数の工程を1工程にまとめて行うこともできる。例えば、洗浄工程を製織工程後に行う場合には、洗浄工程に高圧水スプレー等を用いることで、開繊工程を兼ねることができる。開繊前後ではガラスクロスの組成は通常変化しない場合が多い。また、ガラスクロスの製造方法は、上記工程以外においても任意の工程を有することができる。例えば、開繊工程後に、スリット加工工程を有することができる。また、可能であれば、上記工程の順番は入れ替えることができる。
【0063】
以上説明したガラスクロスの製造方法によれば、誘電正接を上昇させると考えられる不要成分を好適に低減した上で、ガラス糸を構成するガラスフィラメント1本1本の表面に、表面処理剤を付与し易くなる。
【実施例
【0064】
本開示の実施の形態を、実施例及び比較例によって説明する。しかしながら、本開示は、以下の実施例及び比較例によって限定されるものではない。
【0065】
〔ガラスクロスの厚みの測定方法〕
JIS R 3420の7.10に準拠して、ガラスクロスの厚みを求めた。具体的には、マイクロメータを用いて、スピンドルを静かに回転させてサンプルの測定面に平行に軽く接触させた。そして、ラチェットが3回音を立てた後の目盛を読み取った。なお、JIS R 3420の7.10には、ガラスクロス等のクロス製品の一般試験方法が規定されている。
【0066】
〔強熱減量値の測定方法〕
JIS R3420に準拠して、加熱脱油処理前のガラスロスの強熱減量値を求めた。なお、ガラスクロスの強熱減量値は地絡み糸を含まないようにサンプリングを行った。
【0067】
〔地絡み糸のサイジング剤付着量の測定方法〕
地絡み糸を約800℃で1分間加熱し、発生した気体中の二酸化炭素量をガスクロマトグラフィーで測定し、発生した気体中の二酸化炭素量を求めた。事前に所定量のアセトアニリド(CNO)を同様に約800℃で1分間加熱した際に発生した二酸化炭素量を比較対象にすることで、地絡み糸に含まれる、地絡み糸の質量あたりの総炭素量(%)を求めた。測定には、SUMIGRAPH NC-90A(住化分析センター製)を用いた。
アセトアニリドの分子量=135.17
アセトアニリドの炭素量=71.09%
すなわち、地絡み糸の総炭素量は、下記式に基づいて算出した。
地絡み糸の総炭素量=[{アセトアニリドの質量×(アセトアニリドの炭素割合/100)}/アセトアニリドから発生した二酸化炭素由来のピーク面積]×{(地絡み糸から発生した二酸化炭素のピーク面積/地絡み糸の質量)×100}
得られた地絡み糸の総炭素量をサイジング剤付着量として求めた。
【0068】
〔ガラス糸の軟化点の測定方法〕
本開示におけるガラス糸の軟化点はJIS R3103-1に準拠し、ガラス糸で測定を行った。また、ガラス糸と同組成のガラスカレットで、以下に記載した方法に従って測定した。すなわち、ガラスカレットを白金るつぼ中で再溶融し、高温回転粘度計(芝浦システム株式会社製)で1000ポイズから2000ポイズの範囲を測定し、外挿法により粘度logη=7.65となる温度を算出し、軟化点を得た。ガラス糸及びガラスカレットでそれぞれ軟化点を測定し、高い温度のほうの値をそのガラス糸の軟化点とした。
【0069】
〔目付(布重量)の測定方法〕
ガラスクロスの目付は、ガラスクロスを所定のサイズでカットし、その重量をサンプル面積で除することで求めた。本実施例又は比較例では、ガラスクロスを10cmのサイズに切り出し、その重量を測定することで、各ガラスクロスの目付を求めた。
【0070】
〔換算厚み〕
ガラスクロスは空気とガラスから成る不連続の面状体であるため、各ガラスクロスの目付をガラスの密度で除することで、共振法で測定するときに必要な換算厚みを算出した。
換算厚み(μm)=目付(g/m)÷密度(g/cm
【0071】
〔誘電正接の測定方法〕
IEC 62562に準拠して、各ガラスクロスの誘電正接を測定した。具体的には、各スプリットシリンダー共振器での測定に必要なサイズにサンプリングしたガラスクロスサンプルを23℃、50%RHの恒温恒湿オーブンに8時間以上保管して調湿した。その後、スプリットシリンダー共振器(EMラボ社製)及びインピーダンスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて10GHzにおける誘電特性を測定した。測定は各サンプルで5回実施し、その平均値を求めた。また、各サンプルの厚みとしては、上記換算厚みを用いて、測定を行った。同様に、各ガラスクロス原料と同じ種類及び組成を有する厚さ300μm以下のガラス板を用意して、10GHzにおけるバルク誘電正接も測定した。IEC 62562には、主にマイクロ波回路に用いる誘電体基板用ファインセラミックス材料の、マイクロ波帯における誘電特性の測定方法が規定されており、当該ガラス糸のガラスのバルク誘電正接の測定に用いることができる。より具体的には、各スプリットシリンダー共振器での測定に必要なサイズにサンプリングしたガラス板を23℃、50%RHの恒温恒湿オーブンに8時間以上保管して調湿した。その後、スプリットシリンダー共振器(EMラボ社製)及びインピーダンスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて10GHzにおける誘電特性を測定した。測定は各サンプルで5回実施し、その平均値を求めた。また、各サンプルの厚みとしては、該ガラス板の厚み測定から得られた厚み値を用いて、測定を行った。
【0072】
〔ガラスクロス生機の製造〕
部分鹸化型ポリビニルアルコ-ル6kgを、水70kg中に分散させ、90℃まで加熱し、10分間攪拌保持した後65℃まで冷却した(A液)。別容器に、パラフィンエマルジョン500g(固形分量30重量%)(B液)、ホルマリン100g(C液)、及びオクチルトリメチルアンモニュウムエトサルフェ-トを300gr(D液)用意した。A液にB液、C液、D液を順次加えた後、水を加えて総重量を100kgに合わせ60℃で保温した。本糊剤を、整経されたガラス糸に糊付機(SUCKER社製)を用いて付着させ、乾燥後分割して製織ビ-ムに巻取り、高速エアジェット織機により製織を行い、ガラスクロスの生機を得た。なお、地絡み糸は織機上に設けたレノ装置を用いて、ガラスクロスの巾方向の両端に位置する地糸(経糸)よりも外側に、2本の地絡み糸で、それぞれ絡み構造を形成するように織り込んだ。
【0073】
〔地絡み糸のサイジング剤処理〕
サイジング剤としてデンプンが用いられている地絡み糸を利用した。サイジング剤の付着量が不足している際は、前述の糊剤を用いて追加でサイジング処理を行った。地絡み糸を糊剤にディップし、余分な糊剤をスクイズローラーで搾り取り、130℃で10秒間加熱して乾燥させた糸をボビンに巻き取ることで、追加のサイジング剤処理を行った。ここで、地絡み糸のサイジング剤の付着量は、スクイズローラーの絞り圧を調整することで、任意の付着量に調整することが可能であった。
【0074】
〔ガラスクロスの表面処理〕
酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;Z6030(ダウ・東レ社製)を0.12質量%分散させた処理液を調整した。ライン速度が30m/分の速度で加熱脱油処理したガラスクロスを処理液に浸漬し(表面処理剤塗工工程)、絞液後、130℃で35秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った(固着工程)。乾燥させたガラスクロスを水中で周波数25kHz、出力0.85W/cm2の超音波を照射することで、ガラスクロスに物理付着した余分なシランカップリング剤を低減した(洗浄工程)。その後、130℃で1分乾燥することで(乾燥工程)、表面処理を行った。その後、ガラスクロスをメタノールで浸漬させて仕上げ洗浄を行い、ガラスフィラメントの表面と化学結合を形成していないシランカップリング剤の変性物を除去した(仕上げ洗浄工程)。仕上げ洗浄後に110℃で1分乾燥することで、物理的に付着したシランカップリング剤の変性物が除去されたガラスクロスを得た。
【0075】
(実施例1)
軟化点が1700℃を示すガラス繊維から構成される、経糸、緯糸および地絡み糸(サイジング剤付着量=1.5質量%)を用いて、生機を製造した。具体的に、経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。地絡み糸として、平均フィラメント径4.5μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。そして、エアジェットルームを用い、経糸66本/25mm、緯糸68本/25mmの織密度でガラスクロスを製織した。RO水を貯留した水槽に、得られた上記クロスを20秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているサイジング剤を洗浄した(脱油前洗浄工程)。その後、同一ライン上に設けられた加熱炉で、Roll-tо-Roll方式にて1000℃で30秒加熱し、ガラスクロスの脱油を行った(加熱脱油工程)。巻き取られた加熱脱油後のガラスクロスの両端部を確認し、地絡み糸の切断の有無、耳部の地糸のほつれの有無、およびロールの巻き形状を確認した。加熱脱油後のガラスクロスを表面処理した結果、耳部のほつれによるロール等への巻き付きは確認されず、良好な外観品質を有していた。
【0076】
(実施例2、3)
表1に記載のとおり、軟化点およびサイジング剤の付着量が異なる地絡み糸を用いた点、ガラスクロスの強熱減量値、加熱脱油条件が異なる点以外は実施例1と同じ条件でガラスクロスを加熱脱油処理および表面処理を行った。いずれのガラスクロスも表面処理時に耳部のほつれによるロール等への巻き付きは確認されず、良好な外観品質を有していた。
【0077】
(実施例4)
軟化点が1700℃を示すガラス繊維から構成される、経糸、緯糸および地絡み糸(サイジング剤付着量=2.5質量%)を用いて、生機を製造した。具体的に、経糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸、緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。地絡み糸として、平均フィラメント径4.5μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。そして、エアジェットルームを用い、経糸54本/25mm、緯糸54本/25mmの織密度でガラスクロスを製織した。RO水を貯留した水槽に、得られた上記クロスを15秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているサイジング剤を洗浄した(脱油前洗浄工程)。その後、同一ライン上に設けられた加熱炉で、Roll-tо-Roll方式にて1200℃で20秒加熱し、ガラスクロスの脱油を行った(加熱脱油工程)。巻き取られた加熱脱油後のガラスクロスの両端部を確認し、地絡み糸の切断の有無、耳部の地糸のほつれの有無、およびロールの巻き形状を確認した。加熱脱油後のガラスクロスを表面処理した結果、耳部のほつれによるロール等への巻き付きは確認されず、良好な外観品質を有していた。
【0078】
(実施例5)
表1に記載のとおり、軟化点およびサイジング剤の付着量が異なる地絡み糸を用いた点、ガラスクロスの強熱減量値、加熱脱油条件が異なる点以外は実施例4と同じ条件でガラスクロスを加熱脱油処理および表面処理を行った。ガラスクロスも表面処理時に耳部のほつれによるロール等への巻き付きは確認されず、良好な外観品質を有していた。
【0079】
(実施例6)
軟化点が1700℃を示すガラス繊維から構成される、経糸、緯糸および地絡み糸(サイジング剤付着量=5.0質量%)を用いて、生機を製造した。具体的に、経糸として、平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数50本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸、緯糸として、平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数50本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。地絡み糸として、平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数50本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。そして、エアジェットルームを用い、経糸95本/25mm、緯糸95本/25mmの織密度でガラスクロスを製織した。RO水を貯留した水槽に、得られた上記クロスを20秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているサイジング剤を洗浄した(脱油前洗浄工程)。その後、同一ライン上に設けられた加熱炉で、Roll-tо-Roll方式にて1000℃で30秒加熱し、ガラスクロスの脱油を行った(加熱脱油工程)。巻き取られた加熱脱油後のガラスクロスの両端部を確認し、地絡み糸の切断の有無、耳部の地糸のほつれの有無、およびロールの巻き形状を確認した。加熱脱油後のガラスクロスを表面処理した結果、耳部のほつれによるロール等への巻き付きは確認されず、良好な外観品質を有していた。
【0080】
(実施例7)
軟化点が1700℃を示すガラス繊維から構成される、経糸、緯糸および地絡み糸(サイジング剤付着量=5.0質量%)を用いて、生機を製造した。具体的に、経糸として、平均フィラメント径3.6μm、フィラメント数38本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸、緯糸として、平均フィラメント径3.6μm、フィラメント数38本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。地絡み糸として、平均フィラメント径3.6μm、フィラメント数38本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。そして、エアジェットルームを用い、経糸105本/25mm、緯糸110本/25mmの織密度でガラスクロスを製織した。RO水を貯留した水槽に、得られた上記クロスを20秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているサイジング剤を洗浄した(脱油前洗浄工程)。その後、同一ライン上に設けられた加熱炉で、Roll-tо-Roll方式にて1000℃で30秒加熱し、ガラスクロスの脱油を行った(加熱脱油工程)。巻き取られた加熱脱油後のガラスクロスの両端部を確認し、地絡み糸の切断の有無、耳部の地糸のほつれの有無、およびロールの巻き形状を確認した。加熱脱油後のガラスクロスを表面処理した結果、耳部のほつれによるロール等への巻き付きは確認されず、良好な外観品質を有していた。
【0081】
(実施例8)
表1に記載のとおり、地絡み糸が異なる点以外は実施例1と同じ条件でガラスクロスを加熱脱油処理および表面処理を行った。表面処理時に耳部のほつれによるロール等への巻き付きは確認されなかったが、地糸よりも太い地絡み糸を用いたためにロール端部が盛り上がって、実用できる程度の巻きしわが発生していた。
【0082】
(比較例1)
表1に記載のとおり、軟化点が840℃の地絡み糸を用いた点以外は実施例1と同じ条件でガラスクロスを加熱脱油処理および表面処理を行った。表面処理時に耳部のほつれによるロール等への巻き付きが確認され、程度の強い巻きしわや巻きしわ等の外観不良が発生していた。
【0083】
(比較例2)
表1に記載のとおり、軟化点が840℃の地絡み糸を用いた点以外は実施例4と同じ条件でガラスクロスを加熱脱油処理および表面処理を行った。表面処理時に耳部のほつれによるロール等への巻き付きが確認され、程度の強い巻きしわや傷等の外観不良が発生していた。
【0084】
〔地絡み糸の切断有無の確認について〕
上述の実施例及び比較例のガラスクロスを表面処理加工する際に、ガラスクロスの長手2000mにわたって両端部の地絡み糸の切断の有無を観察した。
A:両端部の地絡み糸の切断箇所の合計数が5箇所未満
B:両端部の地絡み糸の切断箇所の合計数が5箇所以上
【0085】
〔耳部のほつれの確認について〕
上述の実施例及び比較例のガラスクロスの表面処理加工を行ったのち、FRPや紙管等の芯管にガラスクロスを2000m巻き取った。得られた製品ロールの両端部を観察することで、耳部のほつれの有無の確認を行った。
A:表面処理加工工程内のロール等の搬送部材にガラス糸が巻き付いていない状態
B:製品両端部の耳部のほつれがあり、表面処理加工工程内のロール等の搬送部材にガラス糸が巻き付いている状態
【0086】
〔ロールの巻き形状について〕
上述の実施例及び比較例のガラスクロスを、Roll-to-Rollの検査台にて、張力100N/1300mmをかけてハロゲンランプを照射しながら、ガラスクロス上にシワが発生していないかを、製品1mごとに目視検査を行った。シワ由来外観不良が製品1mあたりに1箇所以上発生した製品部分を不良数量、外観不良が製品1mあたりに1箇所も発生しなかった製品部分を良品数量として、製品2000mあたりの不良数量をカウントした。検査結果から、下記の指標に従い、実施例及び比較例のガラスクロスの格付けを行った。評価Dを不合格品として判断した。
A:シワがみられた製品部分の合計が101m未満(=不良数量の発生率が5%未満)
B:シワがみられた製品部分の合計が101m以上200m未満(=不良数量の発生率が5%以上10%未満)
C:シワがみられた製品部分の合計が200m以上300m未満(=不良数量の発生率が10%以15%未満)
D:シワがみられた製品部分の合計が300m以上(=不良数量の発生率が15%以上)
【0087】
実施例及び比較例の製造条件及び評価結果を下表に示す。
【0088】
【表1】
【要約】
【課題】優れた誘電特性を有し、高温加熱処理時の地絡み糸の切断が少なく量産性に優れたガラスクロス、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成されるガラスクロスが提供される。上記ガラスクロスは、その耳部に編み込まれた地絡み糸を有する。そして、上記ガラス糸および上記地絡み糸の軟化点が900℃以上である。上記ガラスクロスを600℃~1600℃の範囲で加熱処理する工程を含む、ガラスクロスの製造方法もまた提供される。
【選択図】なし