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特許7493654通信装置及びその制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】通信装置及びその制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 56/00 20090101AFI20240524BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20240524BHJP
   H04W 28/16 20090101ALI20240524BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20240524BHJP
【FI】
H04W56/00 110
H04W84/12
H04W28/16
H04W16/28 130
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023092678
(22)【出願日】2023-06-05
(62)【分割の表示】P 2019085799の分割
【原出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2023105051
(43)【公開日】2023-07-28
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 誠
【審査官】伊東 和重
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0208607(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0051421(KR,A)
【文献】Eunsung Park (LG Electronics),Overview of PHY Features for EHT,IEEE 802.11-18/1967r0,IEEE,2018年11月12日,[検索日 2023.01.20],インターネット:<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/18/11-18-1967-00-0eht-over
【文献】Ron Porat (Broadcom),Distributed MU MIMO Simulations,IEEE 802.11-18/1962r0,IEEE,2018年11月12日,[検索日 2023.01.20],インターネット:<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/18/11-18-1962-00-0eht-dist
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の通信装置と協働して無線ネットワークを構成する通信装置であって、
前記他の通信装置と協働するため、外部から同期のためのフレームを受信する受信手段を有し、
前記同期のためのフレームは少なくともLong Training Fieldの繰り返し数として4を超える値を設定可能なSignal Fieldと前記Signal Fieldで設定された繰り返し数分のLong Training Fieldを含む
ことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記同期のためのフレームはDistributed MIMOによる通信の同期をおこなうためのフレームであることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記同期のためのフレームを受信した後、前記他の通信装置と共通の通信相手である通信装置に対してデータフレームをDistributed MIMOにより送信する送信手段を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記通信装置はアクセスポイント装置であり、アクセスポイント装置である、前記他の通信装置から前記同期のためのフレームを受信することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
他の通信装置と協働して無線ネットワークを構成する通信装置の制御方法であって、
前記他の通信装置と協働するため、外部から同期のためのフレームを受信する受信工程を有し、
前記同期のためのフレームは少なくともLong Training Fieldの繰り返し数として4を超える値を設定可能なSignal Fieldと前記Signal Fieldで設定された繰り返し数分のLong Training Fieldを含む
ことを特徴とする通信装置の制御方法。
【請求項6】
前記同期のためのフレームはDistributed MIMOによる通信の同期をおこなうためのフレームであることを特徴とする請求項5に記載の通信装置の制御方法。
【請求項7】
前記同期のためのフレームを受信した後、前記他の通信装置と共通の通信相手である通信装置に対してデータフレームをDistributed MIMOにより送信する送信工程を有する、
ことを特徴とする請求項6に記載の通信装置の制御方法。
【請求項8】
前記通信装置はアクセスポイント装置であり、アクセスポイント装置である、前記他の通信装置から前記同期のためのフレームを受信することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の通信装置の制御方法。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか1項に記載の通信装置の制御方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LANにおける通信制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の発展とともにインターネット使用量が年々増加しており、需要の増加に応えるべく様々な通信技術の開発が進められている。中でも無線ローカルエリアネットワーク(無線LAN)技術は、無線LAN端末によるパケットデータ、音声、ビデオなどのインターネット通信におけるスループット向上を実現しており、現在も様々な技術開発が盛んに行われている。
【0003】
無線LAN技術の発展において、無線LAN技術の標準化機構であるIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802による数多くの標準化作業が重要な役割を果たしている。無線LAN通信規格は、IEEE802.11規格として知られており、IEEE802.11n/a/b/g/acまたはIEEE802.11axなどの規格がある。例えば、IEEE802.11axではOFDMA(Orthogonal Frequency-Division Multiple Access)により最大9.6ギガビット毎秒(Gbps)という高いピークスループットに加え、混雑状況下での通信速度向上を実現している(特許文献1)。
【0004】
近年、更なるスループット向上のために、IEEE802.11axの後継規格として、IEEE802.11 EHT(Extremely High Throughput)と呼ばれるStudy Groupが発足した。EHTが目指すスループット向上の方策の1つとして、Distributed MIMOが検討されている。Distributed MIMOの特徴は、複数のAPが協調動作を行う点にあり、利用可能アンテナ本数の増加による通信速度向上が見込める。Distributed MIMOを実現する方法として、スレーブトリガと呼ばれるフレームを用いることで複数のAPを同期させる方式が提案されている。この方式では、マスタAPから送信されるスレーブトリガに対して、スレーブAPが周波数誤差を検出し、マスタAPに同期するよう周波数補正を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-50133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したDistributed MIMOでは、複数のAPが協調動作するに当たり、AP間の同期が必要となる。スレーブトリガを用いる方式では、マスタAPから送信されるスレーブトリガに対して、スレーブAPが周波数誤差を検出し、マスタAPに同期するよう周波数補正を行う。この周波数補正処理は、スレーブトリガに含まれるプリアンブル信号を用いることで行われる。しかしながら、熱雑音等の影響による残留周波数誤差が生じることでAP間の同期精度が低下し、通信性能が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、Distributed MIMOにおけるAP間の同期精度を、これまで以上に高めることができる技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するため、例えば本発明の通信装置は以下の構成を備える。すなわち、
他の通信装置と協働して無線ネットワークを構成する通信装置であって、
前記他の通信装置と協働するため、外部から同期のためのフレームを受信する受信手段を有し、
前記同期のためのフレームは少なくともLong Training Fieldの繰り返し数として4を超える値を設定可能なSignal Fieldと前記Signal Fieldで設定された繰り返し数分のLong Training Fieldを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Distributed MIMOにおけるAP間の同期精度を、これまで以上に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ネットワーク構成例を示す図。
図2】APの機能構成例を示す図。
図3】APのハードウェア構成例を示す図。
図4】マスタのAPにより実行される処理を示すフローチャート。
図5】スレーブのAPにより実行される処理を示すフローチャート。
図6】無線通信ネットワークにおいて実行される処理を示すシーケンスチャート。
図7】周波数誤差検出部の構成の例を示す図。
図8】EHT SU PPDUのPHYフレーム構造の例を示す図。
図9】EHT ER PPDUのPHYフレーム構造の例を示す図。
図10】フレーム内のEHT-SIG-A1のサブフィールドのビッチ位置と意味を表すテーブル。
図11】フレーム内のEHT-SIG-A2のサブフィールドのビッチ位置と意味を表すテーブル。
図12】マスタのAPの処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
[第1の実施形態]
[システム構成]
図1は、第1の実施形態にかかるネットワーク構成例を示す。図1の無線通信システムは、複数のAP(基地局;Access Point)103,104と、複数のSTA(Station)105,106とを具備した無線ネットワークである。
【0013】
AP103,104とSTA105,106は、IEEE802.11 EHT規格の無線通信方式に従って通信を行う。AP103が送信する信号が到達する範囲を円101で示し、AP104が送信する信号が到達する範囲を円102で示している。そして、図示のごとく、AP103,104はともにSTA105,106と通信可能である。また、AP103とAP104も同様に通信可能である。AP103,AP104は、Distributed MIMO(以後、D-MIMOと称する)通信を実行することができる。即ち、AP103,AP104が協調動作を行い、STA105,106と通信するができる。AP103,104は、協調動作のために互いに通信できるようバックホール回線で繋がれており、AP制御装置107によって制御される。AP制御装置107は、複数あるAPのいずれか一つのAPがその機能を有してもよい。なお、本実施形態では、AP103がマスタAP、AP104がスレーブAPとして動作するものとするが、どのAPがマスタAPとして動作するかはAP制御装置107が事前に設定する、或いは、個々のAPに設けられた不図示のスイッチを操作して設定する等、その設定法は特に問わない。
【0014】
なお、図1に示す無線通信ネットワークの構成は説明のための例に過ぎず、例えば、更に広範な領域に多数のEHT機器およびレガシー機器(IEEE802.11a/b/g/n/ax規格に従う通信装置)を含むネットワークが構成されてもよい。また、図1に示した各通信装置の配置に限定されず、様々な通信装置の位置関係に対しても、以下の議論を適用可能である。また、EHTをExtreme High Throughputの略と解してもよい。
【0015】
[APの構成]
図2は、AP103,104の機能ブロック図である。AP103,104は、その機能構成の一例として、無線LAN制御部201、フレーム生成部202、フレーム制御部203、およびUI(ユーザインタフェース)制御部204を有する。
【0016】
無線LAN制御部201は、他の無線LAN装置との間で無線信号(無線フレーム)の送受信を行うための1本以上のアンテナ205並びに回路、及びそれらを制御するプログラムを含んで構成され得る。無線LAN制御部201は、IEEE802.11シリーズの規格に従って、フレーム生成部202により生成されたフレームを元に無線LANの通信制御を実行する。
【0017】
フレーム生成部202は、フレーム制御部203の指示に基づいて、無線LAN制御部201で送信することになるフレームを生成する。詳細は後述する説明から明らかにするが、マスタであるAP103のフレーム制御部203は、送信しようとするフレームが、D-MIMOのためのスレーブトリガである場合、フレーム生成部202に対して以下の設定を行う。
・フレーム中のEHT Signal Field(EHT-SIG-A)の予め設定された位置(図9、10参照)に、EHT Long Training Field(EHT-LTF)の繰り返し数として4を超える値を設定する。
・設定した回数分のEHT-LTFの生成指示を行う。
【0018】
フレーム生成部202は、この指示に従って、D-MIMOのためのスレーブトリガを生成する。
【0019】
なお、フレーム生成部202は、フレーム制御部203の指示に基づかずに、フレームを作成してもよい。
【0020】
UI制御部204は、AP103,104の不図示のユーザによる入力部304(図3)に対する操作を受け付け、当該操作に対応する制御信号を、各構成要素に伝達するための制御や、出力部305(図3)に対する出力(表示等も含む)制御を行う。
【0021】
図3は、本実施形態におけるAP103,104のハードウェア構成を示す。AP103,104は、そのハードウェア構成の一例として、記憶部301、制御部302、機能部303、入力部304、出力部305、通信部306、および1本以上のアンテナ205を有する。
【0022】
記憶部301は、ROM、RAMの両方、または、いずれか一方により構成され、後述する各種動作を行うためのプログラムや、無線通信のための通信パラメータ等の各種情報を記憶する。なお、記憶部301として、ROM、RAM等のメモリの他に、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、DVDなどの記憶媒体が用いられてもよい。
【0023】
制御部302は、例えば、CPUやMPU等のプロセッサ、ASIC(特定用途向け集積回路)、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)等により構成される。ここで、CPUはCentral Processing Unitの、MPUは、Micro Processing Unitの頭字語である。制御部302は、記憶部301に記憶されたプログラムを実行することによりAP103,104全体を制御する。なお、制御部302は、記憶部301に記憶されたプログラムとOS(Operating System)との協働によりAP103,104全体を制御するようにしてもよい。
【0024】
また、制御部302は、機能部303を制御して、撮像や印刷、投影等の所定の処理を実行する。機能部303は、AP103,104が所定の処理を実行するためのハードウェアである。例えば、AP103,104がデジタルカメラに代表される撮像装置である場合、機能部303は撮像部であり、撮像処理を行う。また、例えば、AP103,104がプリンタに代表される画像形成装置である場合、機能部303は印刷部であり、印刷処理を行う。また、例えば、AP103,104がプロジェクタに代表される投影装置である場合、機能部303は投影部であり、投影処理を行う。機能部303が処理するデータは、記憶部301に記憶されているデータであってもよいし、後述する通信部306を介してSTAもしくは他のAPと通信したデータであってもよい。
【0025】
入力部304は、ユーザからの各種操作の受付を行う。出力部305は、ユーザに対して各種出力を行う。ここで、出力部305による出力とは、画面上への表示や、スピーカーによる音声出力、振動出力等の少なくとも1つを含む。なお、タッチパネルのように入力部304と出力部305の両方を1つのモジュールで実現するようにしてもよい。
【0026】
通信部306は、IEEE 802.11 EHT規格に準拠した無線通信の制御や、Wi-Fiに準拠した無線通信の制御や、IP(Internet Protocol)通信の制御をおこなう(変調および符号化処理を含む)。また、通信部306は1本以上のアンテナ205を制御して、無線通信のための無線信号の送受信を行う。その場合、空間ストリームを利用したMIMO(Multi Input Multi Output)通信が可能となる。AP103,104は、通信部306を介して、画像データや文書データ、映像データ等のコンテンツを他の通信装置と通信する。なお、図3に示した各構成要素の機能は部分的にソフトウェアによって実装されても構わない。
【0027】
[STAの構成]
STA105,106の機能構成およびハードウェア構成は、上記のAP103,104の機能構成(図2)およびハードウェア構成(図3)とそれぞれ同様な構成とする。すなわち、STA105,106はそれぞれ、機能構成として、無線LAN制御部201、フレーム生成部202、フレーム制御部203、およびUI制御部204を有し、ハードウェア構成として、記憶部301、制御部302、機能部303、入力部304、出力部305、通信部306、および1本以上のアンテナ205を有して構成され得る。
【0028】
[処理の流れ]
続いて、上述のように構成されたAP103により実行される処理の流れ、および図1に示した無線通信システムにより実行される処理のシーケンスについて図4図6を参照して説明する。ここでは、AP103,104が協調動作し、STA105に対してD-MIMOによりデータ送信を行う動作例について説明を行う。図4図5はそれぞれ、AP103,104により実行される処理を示すフローチャートを示す。図4図5に示すフローチャートは、AP103、104それぞれの制御部302が記憶部301に記憶されている制御プログラムを実行し、情報の演算および加工並びに各ハードウェアの制御を実行することにより実現され得る。また、図6は、無線通信システムにおいて実行される処理のシーケンスチャートを示す。
【0029】
図6のシーケンスチャートにおいて、AP103,104はデータフレームをD-MIMO送信する。このデータフレームのD-MIMO送信を行うに当たり、マスタAPであるAP103にスレーブAPであるAP104が同期する必要がある。この同期処理のため、AP103はデータフレーム送信前にAP104に対してスレーブトリガを送信する。本実施形態において、スレーブトリガはIEEE802.11ax規格のトリガフレームに基づき送信するものとするが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、AP103,104がSTA105に対してD-MIMO送信を行うためのCSI(Channel State Information)は事前に取得しているものとする。
【0030】
マスタであるAP103は、AP104にスレーブトリガを送信する(S401、F601)。スレーブであるAP104は、受信したスレーブトリガから周波数誤差を検出し、AP103に同期するよう周波数を補正する(S501)。
【0031】
(同期処理の具体例)
ここで、図7を参照して、周波数補正処理について説明する。図7は、周波数誤差検出部701の構成例を示すブロック図である。この周波数誤差検出部701は、無線LAN制御部201に含まれるものである。
【0032】
周波数誤差検出部701は、受信信号に含まれる繰り返し信号区間を利用し、周波数誤差を検出する。IEEE802.11規格では、STF(Short Training Field)、LTF(Long Training Field)が繰り返し信号として規定されている。
【0033】
AP104の通信部306は、アンテナ205を介して受信した無線信号を直交復調することで、同相検波軸信号(以下、I信号)と、直交検波軸信号(以下、Q信号)を生成し、周波数誤差検出部701に供給するための信号P(t)を生成する。
【0034】
周波数誤差検出部701は、入力された信号P(t)を乗算部702と遅延部703に供給する。ここで、AP103とAP104の周波数誤差をΔfとしたとき、P(t)は次式(1)で表すことができる。
P(t)=I(t)+j×Q(t) ∝ exp(j×2×π×(f-Δf)×t) …(1)
【0035】
遅延部703は、入力された信号P(t)を繰り返し信号期間Tだけ遅延させた遅延信号P(t-T)を生成し、複素共役部704に出力する。
【0036】
STFやLTFは、T=n/fとなるよう設計されている。したがって、遅延信号P(t-T)は、次式(2)で表すことができ、入力信号P(t)の位相がΔθ=2×π×Δf×T進んだ信号となる。
P(t-T)∝exp(j×2×π×(f-Δf)×(t-T))=exp(j×2×π×(f-Δf)×t-j×2×π×f×T+j×2×π×Δf×T)=exp(j×2×π×(f-Δf)×t+j×Δθ) …(2)
【0037】
複素共役部704は、遅延信号P(t-T)の複素共役信号P*(t-T)を生成し、乗算部702に出力する。
【0038】
乗算部702は、入力信号P(t)と複素共役信号P*(t-T)とを複素乗算し、乗算結果を周波数誤差演算部705に出力する。乗算結果は式(3)で表される。
P(t)×P*(t-T)∝exp(-j×Δθ) …(3)
【0039】
周波数誤差演算部705は、入力された乗算結果に対してARCTAN演算を行うことで、このΔθを算出し、周波数誤差Δfを求める。通信部306は、周波数誤差検出部701で求められたΔfに基づき、以後の送受信処理における周波数を補正する。この周波数補正方法は、I信号及びQ信号に対してexp(j×2×π×Δf×t)を乗算することで実現可能である。または、発振源を可変制御発振器で構成し、その周波数をΔf補正するようにしてもよい。なお、求められた周波数誤差Δfは熱雑音等の影響による雑音成分を有する。この雑音成分の抑圧には、平均化処理が有効である。例えば、繰り返し信号期間Tの範囲内で平均を求めることで雑音成分を抑圧できる。また、繰り返し信号の繰り返し回数を増やし、複数の繰り返し信号での平均を求めることで、より雑音成分を抑圧することが可能である。後述するように、本実施形態では、高精度な同期が求められるD-MIMO送信のためのスレーブトリガにおいて、LTFの個数を増やすことで同期精度を向上させる。
【0040】
図6の説明に戻り、AP103とAP104は、同期したタイミングでSTA105に対してデータフレームをD-MIMO送信する(S402、S502、F602)。
【0041】
(フレームの構造)
上述したシーケンスで送信されるIEEE802.11EHT規格で定められたPPDUのPHY(物理)フレーム構造の例を図8図9に示す。なお、PPDUは、Physical Layer (PHY) Protocol Data Unitの略である。スレーブトリガは、図8図9に示すPHYフレームの内、いずれかで送信されるものとするが、スレーブトリガ用のPHYフレームを別途定めるようにしてもよい。
【0042】
図8は、シングルユーザ(SU)通信(APと単一のAP/STA間)用のPPDUである、EHT SU PPDUのPHYフレーム構造の例を示している。図9は、拡張した範囲(通信距離)(Extended Range)における通信用のPPDUであるEHT ER PPDUのPHYフレーム構造の例を示す。EHT ER PPDUは、APと単一のAP/STA間の通信で用いられる。
【0043】
図8図9に共通してPPDUが含む情報として、STF(Short Training Field)、LTF(Long Term Field)、SIG(Signal Field)がある。図8を例にすると、PPDU先頭部には、IEEE802.11a/b/g/n/ax規格に対して後方互換性のある、L(Legacy)-STF801、L-LTF802、L-SIG803を有する。また、EHT規格用のEHT-SIG-A805、EHT-STF806、EHT-LTF807が各PPDUに共通して含まれる。
【0044】
L-STF801は、PHYフレーム信号の検出、自動利得制御(AGC:automatic gain control)やタイミング検出などに用いられる。L-STF801の直後に配置されるL-LTF802は高精度周波数・時刻同期化やCSI取得などに用いられる。L-LTF802の直後に配置されるL-SIG803は、データ送信率やPHYフレーム長の情報を含んだ制御情報を送信するために用いられる。IEEE802.11a/b/g/n/ax規格に従うレガシー機器は、上記各種レガシーフィールド(L-STF801、L-LTF802、L-SIG803)のデータを復号化することが可能である。当該各種レガシーフィールドは、図9に示すPPDUにも同様に含まれる。
【0045】
図8に示すEHT SU PPDUのフレームは、上記のL-STF801、L-LTF802、L-SIG803に続いて、RL-SIG804、EHT-SIG-A805、EHT-STF806、EHT-LTF807、データフィールド808、Packet extention809を有する。このうち、RL-SIG804はなくてもよい。EHT-SIG-A805はL-SIG803の後に配置され、EHT-STF806はEHT-SIG-A805の直後に配置され、EHT-LTF807はEHT-STF806の直後に配置される。なお、L-STF801、L-LTF802、L-SIG803、RL-SIG804、EHT-SIG-A805、EHT-STF806、EHT-LTF807までのフィールドを“プリアンブル”と呼ぶ。
【0046】
EHT-SIG-A805には、PPDUの受信に必要なEHT-SIG-A1とEHT-SIG-A2のような情報が含まれる。EHT-SIG-A805に含まれるEHT-SIG-A1を構成するサブフィールド群を図10に、EHT-SIG-A2を構成するサブフィールド群を図11にそれぞれ示す。
【0047】
EHT-SIG-A805に続くEHT-STF806はEHT Short Training Fieldの略で、主な目的はMIMO送信における自動利得制御を改善することである。EHT-LTF807はEHT Long Training Fieldの略で、上述した周波数誤差補正に用いられるほか、伝搬チャネルの推定に用いられる。データフィールド808は、上述したEHT-SIG-A1において示された、変調方式に従い変調された各種データを含む。
【0048】
本実施形態では、EHT-SIG-A1(図10)のGI+LTF Sizeサブフィールドにおいて、EHT-LTFの繰り返し数を設定し、4×EHT-LTFより大きい繰り返し数を設定可能である。なお、図10では6×EHT-LTFまたは8×EHT-LTFを設定可能であるものとするが、本発明はこれに限定されるものではなく、5×EHT-LTFや16×EHT-LTFを設定可能とするようにしてもよい。本実施形態では、スレーブトリガの伝送において、平均化による雑音抑圧により同期精度を向上するため、EHT-LTFの繰り返し数を4、を超える数に設定する。
【0049】
図9に示すEHT ER PPDUは、上記のように、通信距離を拡張したいときに用いるPPDUで、APと単一のAP/STA間の通信で用いられる。EHT ER PPDUは、L-STF901、L-LTF902、L-SIG903、RL-SIG904、EHT-SIG-A905、EHT-STF906、EHT-LTF907、データフィールド908、Packet extention909を有する。RL-SIG904はなくてもよい。L-LTF902はL-STF901の直後に配置され、L-SIG903はL-LTF902の直後に配置され、EHT-SIG-A905はL-SIG903の後に配置され、EHT-STF906はEHT-SIG-A905の直後に配置され、EHT-LTF907はEHT-STF906の直後に配置される。なお、L-STF901、L-LTF902、L-SIG903、RL-SIG904、EHT-SIG-A905、EHT-STF906、EHT-LTF907までのフィールドをプリアンブルと呼ぶ。各フィールドに含まれる情報は、図8に示したEHT SU PPDUと同内容であるので説明を省略する。なお、EHT-SIG-A905では図8のETH SU PPDUと同様に、EHT-SIG-A1おけるGI+LTF Sizeに4×EHT-LTFより大きい繰り返し数を設定可能である。また、EHT-LTF907には、設定された回数分のEHT-LTFが含まれることになる。
【0050】
以上のようにして本実施形態で示すIEEE802.11 EHT規格で用いるPPDUであるEHT SU PPDU、EHT ER PPDUのフレーム構造を用いれば、4を超える繰り返し数でEHT LTFを伝送することができる。すなわち、スレーブトリガ送信時におけるEHT LTF繰り返し数を大きく設定することで同期精度を高め、D-MIMO伝送における通信性能を向上することができる。
【0051】
なお、図8図9は、IEEE802.11a/b/g/n/ax規格に対して後方互換性のあるフレーム構造を示したが、後方互換性を確保する必要がない場合には、L-STFおよびL-LTGのフィールドは省略されてもよい。その代わりに、EHT-STFやEHT-LTFが挿入されてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、スレーブトリガのEHT LTF繰り返し数を大きくするものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、高精度同期が求められる伝送形態において、任意のフレームで繰り返し数を大きくするようにしてもよい。例えば、1048QAM等の高多値変調においては、周波数誤差による伝送エラーが発生しやすくなるため、高多値変調のデータフレームのEHT LTF繰り返し数を大きく設定するようにしてもよい。
【0053】
また、マスタのAP103がスレーブトリガを送信する際、それがD-MIMOのスレーブトリガであるか否かを判定し、その上でLTFの繰り返し回数を決定するとようにしても良い。図12は、この場合のマスタのAP103(の制御部302)の処理手順を示している。以下同図を参照して説明する。
【0054】
S1201にて、制御部302は、D-MIMOのスレーブトリガを送信しようとしているか否かを判定する。S1201の判定がYesの場合、制御部302はS1202に処理を進め、LTFの繰り返し回数を、4を超える数(6、または8にしても良い)とするスレーブトリガを生成する。また、S1201の判定がNo(送信するフレームがスレーブトリガ以外)の場合、制御部302はS1203に処理を進め、LTFの繰り返し回数を、GI+LTF Sizeサブフィールドで設定可能な任意の数としたフレームを生成する。そして、S1204にて、制御部32は、通信部306を制御して、生成したフレームを送信する。なお、S1202とS1203の処理において、スレーブトリガのLTFの繰り返し数を、その他のフレームよりも大きい値に設定するようにしてもよい。例えば、スレーブトリガのLTFの繰り返し数を6に設定する一方で、その他の同期精度が必要ではないフレームのLTFの繰り返し数を2に設定する。このように、要求される同期精度に応じて柔軟に各フレームのLTFの繰り返し数を設定してもよい。
【0055】
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0056】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0057】
103、104…AP,105、106…ST、107…AP制御装置、201…無線LAN制御部、202…フレーム生成部、203…フレーム制御部、204…UI制御部、205…アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12