(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】レーザ肉盛層を有する部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/342 20140101AFI20240524BHJP
B23K 26/322 20140101ALI20240524BHJP
B23K 26/18 20060101ALI20240524BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240524BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
B23K26/342
B23K26/322
B23K26/18
C23C26/00 E
C23C28/02
(21)【出願番号】P 2023516335
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2022011213
(87)【国際公開番号】W WO2022224627
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021070102
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】横田 博紀
(72)【発明者】
【氏名】植田 和樹
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-29090(JP,A)
【文献】特開平10-85972(JP,A)
【文献】特開2019-136753(JP,A)
【文献】特開2019-163550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
C23C 26/00、28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にレーザ肉盛層を有する部材の製造方法であって、
銅または銅合金基材上に、ニッケルまたはニッケル基合金を材料とする溶射層を形成する工程(a)と、
前記工程(a)で形成した前記溶射層の表面に、レーザ肉盛粉末を供給しつつ、レーザ光を照射し、当該レーザ肉盛粉末、ならびに厚み方向における当該溶射層の全部、および、前記基材の一部を溶融することでレーザ肉盛層を形成する工程(b)と、を含むレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)で形成した前記溶射層の厚さは、10μm~500μmである請求項1に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)で形成した前記溶射層の表面粗さRaは、5.0μm以上である請求項1または2に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ肉盛粉末は、ニッケルまたはニッケル基合金粉末である請求項1~3のいずれか1項に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)で形成した前記レーザ肉盛層に対して、前記レーザ肉盛粉末と同一または異なる成分の粉末を供給しつつ、レーザ光を照射し、当該レーザ肉盛粉末、および前記レーザ肉盛層の一部を溶融することで、多層レーザ肉盛層を形成する工程(c)をさらに有する請求項1~4のいずれか1項に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に溶射層を形成した後、この溶射層に対してレーザ光を照射しながらレーザ肉盛粉末を供給することによって形成されたレーザ肉盛層を有する部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に機械的特性を付与することを目的として、アークまたはレーザ光などの熱源により粉末状材料を加熱溶融してその表面に肉盛層を形成することが行われる場合がある。特に、熱源にレーザ光を用いたレーザ肉盛では、レーザ光の照射によって基材の表面を局所的に溶融するとともに、その表面に金属粉末などのレーザ肉盛粉末を噴射投入することでレーザ肉盛層を形成でき、これにより基材表面に高い耐摩耗性や耐食性を付加することができる。
【0003】
従来のレーザ肉盛として、例えば、特許文献1には、レーザ肉盛粉末としてのニッケル基耐熱合金粉末を加熱溶融してレーザ肉盛層を形成する方法が開示されている。具体的には、銅または銅合金基材の表面に、レーザ照射ノズルからレーザ光と共に、ニッケル基耐熱合金粉末を供給しながら、基材の表面にノズルを走査させて厚み0.1mm~3mmのニッケル基合金層を形成し、そのニッケル基合金層を厚み0.2mm~10mmに多層肉盛することによってレーザ肉盛層を形成している。これによって、銅または銅合金基材の表面に、ニッケル基合金本来の優れた耐熱性、耐食性および耐摩耗性を付加することができるものとしている。
【0004】
また、特許文献2および3には、銅または銅合金基材の表面に、ニッケルおよびコバルトからなる電気めっき層をあらかじめ形成し、そのめっき層の表面にニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザ光を照射して、めっき層の表面にレーザ肉盛層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-098371号公報
【文献】特開2019-122973号公報
【文献】特開2019-130578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ肉盛では、通常、熱源として900nm~1100nmの波長帯(以下、基本波長帯)を有するレーザ光を使用し、その基本波長帯のレーザ光を基材の表面に照射すると、レーザ光が有する光エネルギーの一部が基材に吸収される。その際に、基材に吸収された光エネルギーは熱エネルギーに変換されて発熱が生じ、それによって上述の通り基材の表面が局所的に溶融されて基材上にレーザ肉盛層が形成されることとなる。したがって、基材上にレーザ肉盛層を形成するためには、基材を適度に溶融させることが重要であり、そのためには基本波長帯のレーザ光に対して吸収率が高いことが有利である。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示すレーザ肉盛層の製造方法の場合、基材に使用される銅または銅合金は、基本波長帯のレーザ光に対する吸収率が低く、レーザ光の光エネルギーを効率よく吸収することができない。そのため、基材の溶融に必要な熱エネルギーを十分に得ることができない。その結果、基材を十分に溶融することができず、銅または銅合金基材上に、レーザ肉盛層を形成することが困難となる。
【0008】
また、特許文献2および3のように、銅または銅合金基材上にニッケルとコバルトとからなる電気めっき層をあらかじめ設け、そのめっき層の表面にレーザ肉盛層を形成する方法によれば、ニッケルが銅よりも基本波長帯のレーザ光に対する吸収率が高いため、めっき層の表面にレーザ肉盛層を形成することは可能である。しかしながら、特許文献2および3の方法では、レーザ肉盛の際に、基材まで溶融しておらず、電気めっき層を介して基材とレーザ肉盛層とが接合されていることから、一般的なレーザ肉盛層と基材との間で得られる密着性が確保できないといった問題が起こる。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、銅または銅合金基材上に直接にレーザ肉盛層を形成できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法は、次の工程(a)および工程(b)を行うことを特徴とする。
(a):銅または銅合金基材上に、ニッケルまたはニッケル基合金を材料とする溶射層を形成する工程
(b):前記工程(a)で形成した前記溶射層の表面に、レーザ肉盛粉末を供給しつつ、レーザ光を照射し、当該レーザ肉盛粉末、ならびに厚み方向における当該溶射層の全部、および、前記基材の一部を溶融することでレーザ肉盛層を形成する工程
【0011】
本発明のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法のより詳細な特徴としては、次の(1)~(4)が挙げられる。
(1)前記工程(a)で形成した溶射層の厚さは、10μm~500μmである。
(2)前記工程(a)で形成した溶射層の表面粗さRaは、5.0μm以上である。
(3)前記レーザ肉盛粉末は、ニッケルまたはニッケル基合金粉末である。
(4)さらに次の工程(c)を行うことを特徴とする。
(c):前記工程(b)で形成した前記レーザ肉盛層に対して、前記レーザ肉盛粉末とは異なる成分の粉末を供給しつつ、レーザ光を照射し、当該レーザ肉盛粉末、および前記レーザ肉盛層の一部を溶融することで、多層レーザ肉盛層を形成する工程
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅または銅合金基材上に直接にレーザ肉盛層を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶射層を形成する工程(a)を表す工程図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るレーザ肉盛層を形成する工程(b)を表す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るレーザ肉盛層を有する部材の製造方法の一実施形態について説明する。
図1および
図2は、下記実施形態の各段階を表す工程図である。
【0015】
まず、
図1に示すように、溶射法によって基材10上に溶射層30を形成する。具体的に、基材10の表面に、不活性ガスを成膜用作動ガスとする溶射装置1から溶射材料20を吹き付けることによって溶射層30を形成する。ここで、基材10は、銅または銅合金であり、溶射材料20は、ニッケルまたはニッケル基合金である。言い換えると、銅または銅合金基材10上に、ニッケルまたはニッケル基合金を材料とする溶射層30を形成する(工程(a))。ここで、本実施形態に係る溶射層30の溶射法は、特に限定されることはないが、例えば大気圧プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、ガスフレーム溶射法、アーク溶射法、爆発溶射法などを用いることができる。また、溶射材料20としては、ニッケルまたはニッケル基合金であれば、特に限定はされない。ここで、ニッケル基合金とは、合金を構成する元素のうち、ニッケルの比率が最も高い合金のことを指す。このとき、ニッケル基合金におけるニッケルの含有率は、50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましい。ニッケル基合金としては、例えば、ハステロイ(登録商標)C、インコネル、NiCr合金、NiCrAlY合金、および、NiAl合金などが挙げられる。
【0016】
次に、
図2に示すように、レーザ照射可能なレーザ発振器(図示せず)、レーザヘッド2および集光レンズ等の光学系3を含むレーザ照射手段と、レーザ肉盛粉末50をレーザ照射位置に供給可能な粉末供給部4とを有する通常のレーザ肉盛装置を用いて、溶射層30の表面にレーザ肉盛粉末50を供給しつつレーザ光40を照射する。具体的に、レーザ光40は、レーザ発振器から出力されてレーザヘッド2に入射し、その後、集光レンズなどが内蔵された光学系3まで到達する。光学系3に到達したレーザ光40は集光されてレーザヘッド2の下端の照射口から照射される。そして、レーザ光40はレーザヘッド2の下端直下が集点となって溶射層30の表面上に照射される。このとき、溶射層30がレーザ光40を吸収して発熱が生じ、それによって厚み方向における溶射層30の全部と基材10の一部とが溶融されて溶融池(図示せず)を形成する。また、粉末供給部4の上端からキャリアガスおよびレーザ肉盛粉末50が流入し、レーザ光40が溶射層30の表面上に照射される位置に吐出される。吐出されたレーザ肉盛粉末50は、レーザ光40によって基材10とともに溶融され、基材10の表面にレーザ肉盛層60を形成する。言い換えると、溶射層30の表面にレーザ肉盛粉末50を供給しつつレーザ光40を照射して、レーザ肉盛粉末50、厚み方向における溶射層30の全部、および、銅または銅合金基材10の一部を溶融することで、レーザ肉盛層60を形成する(工程(b))。
【0017】
本実施形態で用いることのできるレーザの種類としては、ファイバーレーザ、半導体レーザ、YAGレーザなどが挙げられる。
【0018】
レーザ光40の波長は、適宜条件を変更可能であるが、高い出力が得られることからレーザ肉盛に一般的に用いられる波長帯(基本波長帯)である900nm~1100nmが好ましい。一般的に、銅または銅合金は、基本波長帯でのレーザ光40の吸収率が低い。そのため、銅または銅合金基材10上に、基本波長帯のレーザ光40を照射したとしても基材10が十分に溶融されず、レーザ肉盛層60を形成することが困難であるが、本実施形態のレーザ肉盛層60の製造方法によると、銅または銅合金基材10上に、基本波長帯のレーザ光40の吸収率が高い溶射層30を形成するため、基本波長帯のレーザ光40を用いて、銅または銅合金基材10上に直接にレーザ肉盛層60を形成することが可能となる。なお、本実施形態において、良好なレーザ肉盛層60を成膜するためには、溶射層30の基本波長帯でのレーザ光40の反射率が60%未満であることが好ましく、さらに好ましくは51%以下である。
【0019】
レーザ光40の焦点でのビーム形状は、矩形、円形など適宜設定することができる。また、レーザヘッド2側を走査してもよいし、基材10側を走査してもよい。これらの条件に加え、レーザ光40を照射する溶射層の反射率も考慮して、適宜、照射条件を設定する。
【0020】
以上のように、本実施形態に係るレーザ肉盛層60の製造方法によると、上述の通り、溶射法によって溶射層30が設けられている。一般的に、溶射層30は、めっき層などに比べて表面粗さRaが大きくなり、また、表面粗さRaが大きいほどレーザ光40の吸収率は高くなる。したがって、銅または銅合金基材10上に形成した溶射層30は、レーザ光40の吸収率が比較的高いため、基材10の一部を十分に溶融させることが可能となる。また、溶射層30の材料となるニッケルは、銅と全率固溶の関係である。その結果、ニッケルまたはニッケル基合金を材料とする溶射層30と、銅または銅合金基材10と、をレーザ光40の照射により互いに溶融させたとしても金属間化合物が析出しにくくなり、レーザ肉盛層60の形成に際し、金属間化合物に起因するクラックの発生を低減することが可能となる。したがって、本実施形態に係るレーザ肉盛層60を有する部材の製造方法によると、溶射層30のみならず基材10の一部も溶融することができ、基材10上に直接にレーザ肉盛層60を製造することができる。
【0021】
本実施形態において、工程(a)で形成した溶射層30の膜厚は、10μm~500μmであることが好ましい。膜厚が10μm~500μmの溶射層30にレーザ光40を照射した場合、基材10の溶融が十分に行われるため、容易にレーザ肉盛層60を形成することが可能となる。一方、膜厚が10μm未満の溶射層30にレーザ光40を照射した場合、基材10の溶融前に溶射層30が消失してしまい、基材10が十分に溶融されずに、成膜不良となることがある。また、膜厚が500μm超過の溶射層30にレーザ光40を照射した場合、基材10まで十分に熱を伝えることができず、基材10が十分に溶融できないことがある。
【0022】
本実施形態において、工程(a)で形成した溶射層30の表面粗さRaは、2.5μm以上であることが好ましく、5.0μm以上であることがより好ましい。特に、表面粗さRaが5.0μm以上の溶射層30にレーザ光40を照射した場合、当該溶射層30におけるレーザ光40の反射率が低くなり、基材10の溶融が十分に行われるため、容易にレーザ肉盛層60を形成することが可能となる。一方、表面粗さRaが5.0μm未満、特に表面粗さRaが2.5μm未満の溶射層30にレーザ光40を照射した場合、当該溶射層30におけるレーザ光40の吸収が十分でなく、基材10の溶融が十分に行われずに、基材10とレーザ肉盛層60との界面に一部結合不良が発生することがある。なお、表面粗さRaの上限は、例えば15.0μmである。
【0023】
本実施形態において、工程(b)でレーザ光40を照射する際に供給するレーザ肉盛粉末50は、ニッケルまたはニッケル基合金粉末であることが好ましい。上述の通り、ニッケルと銅は全率固溶の関係である。したがって、工程(b)で供給するレーザ肉盛粉末50と、銅または銅合金基材10と、をレーザ光40の照射により互いに溶融させたとしても金属間化合物が析出されにくいため、レーザ肉盛層60の形成に際し、金属間化合物に起因するクラックの発生を防止することが可能となる。
【0024】
本実施形態では、工程(b)で形成したレーザ肉盛層60に対して、工程(b)で使用したレーザ肉盛粉末50と異なる成分の粉末を供給しつつ、レーザ光40を照射し、当該レーザ肉盛粉末、およびレーザ肉盛層60の一部を溶融することで、多層レーザ肉盛層を形成してもよい。
【0025】
本実施形態では、工程(b)で形成したレーザ肉盛層60に対して、工程(b)で使用したレーザ肉盛粉末50と同一成分の粉末を供給しつつ、レーザ光40を照射し、当該レーザ肉盛粉末、およびレーザ肉盛層60の一部を溶融することで、多層レーザ肉盛層を形成してもよい。
【0026】
本実施形態のレーザ肉盛層60の製造方法によると、膜厚が小さく、希釈率が低いレーザ肉盛層60も形成することができる。例えば、膜厚が500μm以上2000μm以下、希釈率が3%以上20%以下のレーザ肉盛層60を形成することができる。なお、本願における希釈率とは、レーザ肉盛層60が含有する銅または銅合金基材10の成分割合のことである。
【0027】
このように、本実施形態のレーザ肉盛層60の製造方法は、膜厚が小さく、希釈率が低いレーザ肉盛層60の形成も可能となるため、レーザ肉盛層60に持たせる機能の選択肢を広げることができる。例えば、高温環境で使用される銅部材には、高い熱伝導率等の熱的特性が求められているが、高温での耐食性や耐摩耗性を付与する目的で希釈率が低いレーザ肉盛層60を形成した場合、その膜厚が大きいと熱的特性の低下につながる。しかしながら、本実施形態のレーザ肉盛層60の製造方法は、膜厚がより小さいレーザ肉盛層60の形成が可能となるため、レーザ肉盛層60を形成した銅または銅合金基材10の熱的特性の変化を小さく抑えることができる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明を適用した実施例およびその比較例について説明する。本実施例は、本発明について例示するものであり、発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
実施例1
基材として50mm角×5mmの銅製のバルク材を用意し、当該バルク材に対してアルミナ粒子を用いたブラスト処理を行い、表面を粗面化した。次に、ニッケル粉末を溶射材料として、高速フレーム溶射法により、基材上に溶射層を形成した。形成した溶射層の表面粗さRaは2.8μmとし、膜厚は20μmとした。次に、溶射層に対し、ニッケル基合金の1つであるインコネル625(ニッケル:58質量%以上、クロム:20~23質量%、鉄:5.0質量%以下、モリブデン:8.0~10.0質量%、ニオブ(+タンタル):3.15~4.15質量%)をレーザ肉盛粉末として供給しつつ、レーザ光を照射することで、実施例1におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0030】
実施例2
ブラスト処理の条件を変更することにより、溶射層の表面粗さRaを5.1μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例2におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0031】
実施例3
ブラスト処理の条件を変更することにより、溶射層の表面粗さRaを8.1μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例3におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0032】
実施例4
ブラスト処理の条件を変更することにより、溶射層の表面粗さRaを9.4μmとしたこと、および溶射層の膜厚を100μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例4におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0033】
実施例5
ブラスト処理の条件を変更することにより、溶射層の表面粗さRaを9.6μmとしたこと、および溶射層の膜厚を300μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例5におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0034】
実施例6
前記と同様にして、溶射層の表面粗さRaを8.1μmとしたこと、溶射層の膜厚を50μmとしたこと、およびコバルト基合金の1つであるステライト(登録商標)21(クロム:27.5質量%、炭素:0.25質量%、ニッケル:2.6質量%、モリブデン:5.4質量%、鉄:2.0質量%、シリコン:1.5質量%、残部:コバルト)をレーザ肉盛粉末として使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例6におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0035】
実施例7
前記と同様にして、溶射層の表面粗さRaを8.1μmとしたこと、溶射層の膜厚を50μmとしたこと、およびニッケル基合金の1つであるハステロイ(登録商標)C22(ニッケル:50質量%以上、クロム:20~22.5質量%、モリブデン:12.5~14.5質量%、タングステン:2.5~3.5質量%、鉄:2.0~6.0質量%)をレーザ肉盛粉末として使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例7におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0036】
実施例8
前記と同様にして、溶射層の表面粗さRaを8.1μmとしたこと、溶射層の膜厚を50μmとしたこと、およびニッケル基合金の1つであるハステロイ(登録商標)C276(ニッケル:50質量%以上、クロム:14.5~16.5質量%、モリブデン:15.0~17.0質量%、タングステン:3.0~4.5質量%、鉄:4.0~7.0質量%)をレーザ肉盛粉末として使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例8におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0037】
実施例9
インコネル625を溶射材料として使用したこと、溶射層の表面粗さRaを8.0μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmにしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例9におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0038】
実施例10
ハステロイ(登録商標)C22を溶射材料として使用したこと、溶射層の表面粗さRaを8.3μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmにしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例10におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0039】
実施例11
ハステロイ(登録商標)C276を溶射材料として使用したこと、溶射層の表面粗さRaを8.2μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmにしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例11におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0040】
実施例12
ベリリウム銅合金を基材として使用したこと、溶射層の表面粗さRaを7.5μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmにしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例12におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0041】
実施例13
クロム銅合金を基材として使用したこと、溶射層の表面粗さRaを7.7μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmにしたこと以外は実施例1と同様の方法により、実施例13におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0042】
比較例1
基材として50mm角×5mmの銅製のバルク材を用意し、ブラスト処理による基材の粗面化を行わず、基材に対して、インコネル625をレーザ肉盛粉末として供給しつつ、レーザ光を照射することで、比較例1におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0043】
比較例2
レーザ光の照射前に、アルミナ粒子を用いたブラスト処理を行い、基材の表面粗さRaを3.9μmとしたこと以外は比較例1と同様の方法により、比較例2におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0044】
比較例3
溶射層の表面粗さRaを10.0μmとしたこと、および溶射層の膜厚を600μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、比較例3におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0045】
比較例4
基材として50mm角×5mmの銅製のバルク材を用意し、無電解ニッケルめっき(中リンタイプ)によりめっき層を形成した。形成しためっき層の表面粗さRaは0.18μmとし、膜厚は8μmとした。次に、めっき層に対し、インコネル625をレーザ肉盛粉末として供給しつつ、レーザ光を照射することで、比較例4におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0046】
比較例5
ステライト(登録商標)21粉末を溶射材料として使用したこと、溶射層の表面粗さRaを7.8μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、比較例5におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0047】
比較例6
アルミニウム粉末を溶射材料として使用したこと、溶射層の表面粗さRaを8.0μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、比較例6におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0048】
比較例7
SUS316粉末を溶射材料として使用したこと、溶射層の表面粗さRaを7.9μmとしたこと、および溶射層の膜厚を50μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法により、比較例7におけるレーザ肉盛層の作製を行った。
【0049】
以上のようにして、実施例1~13および比較例1~7の各方法によりレーザ肉盛層の作製を行った。表1は、実施例1~13および比較例1~7における評価結果をまとめた表である。実施例1~13および比較例1~7における溶射層の表面粗さRa、膜厚、および、反射率は、レーザ肉盛施工前の段階で測定したものである。表面粗さRaについては、ポータブル粗さ計(Mitsutoyo社製)を用いて測定し、膜厚については、マイクロメータ(Mitsutoyo社製)を用いて測定し、算出した値を掲載している。また、反射率については、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製)を用いて測定し、波長が1000nm時の値を算出し掲載している。なお、表1中の皮膜評価欄における各項目の評価指標については後述する。
【0050】
【0051】
[成膜可否]
レーザ肉盛を施工後、目視にてレーザ肉盛層の成膜可否を確認した。評価指標の意味は以下の通りである。
〇:レーザ肉盛層の成膜が確認された。
×:レーザ肉盛層の成膜が確認されなかった。
【0052】
[界面の結合]
レーザ肉盛層の成膜が確認されたものについて、マイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて断面を観察し、基材とレーザ肉盛層との界面の結合不良の有無を確認した。評価指標の意味は以下の通りである。
〇:基材とレーザ肉盛層との界面に結合不良は確認されなかった。
△:基材とレーザ肉盛層との界面に一部結合不良が確認された。
【0053】
[クラック]
レーザ肉盛層の成膜が確認されたものについて、マイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて断面を観察し、クラックの有無を確認した。評価指標の意味は以下の通りである。
有:クラックの存在が一部確認された。
無:クラックの存在は確認されなかった。
【0054】
[総合評価]
上述の[成膜可否][界面の結合][クラック]の評価をもとに導き出したものである。評価指標の意味は以下の通りである。
〇:レーザ肉盛層の成膜が確認され、基材とレーザ肉盛層との界面の結合不良、およびクラックの存在が確認されていない良好なレーザ肉盛層。
△:レーザ肉盛層の成膜は確認されたが、基材とレーザ肉盛層との界面に一部結合不良、もしくはクラックの存在が一部確認されたレーザ肉盛層。
×:レーザ肉盛層の成膜が確認されなかった。
【0055】
以上の結果から分かるように、実施例1~13ではレーザ肉盛層を成膜することができ、その中でも、実施例2~5、実施例7~13については、良好なレーザ肉盛層を成膜することができた。一方で、比較例1~7については、レーザ肉盛層を成膜することができなかった。
【0056】
実施例1の方法では、基材とレーザ肉盛層との間に一部結合不良が見られた。これは、溶射層のレーザ光の反射率が他の実施例と比較して高いことにより、基材を十分に溶融することできなかったことが原因であると推察される。
【0057】
実施例6の方法では、断面にクラックの存在が一部確認された。これは、レーザ肉盛粉末にコバルト基合金であるステライト(登録商標)21を使用したことにより、皮膜中に金属間化合物が生成されたことが原因であると推察される。
【0058】
比較例1、2の方法では、レーザ肉盛層を形成することができなかった。これは、基材のレーザ光の反射率が実施例1の溶射層の反射率よりもさらに高いことにより、基材を十分に溶融することができなかったことが原因であると推察される。
【0059】
比較例3の方法では、レーザ肉盛層を形成することができなかった。これは、溶射層の膜厚が厚いことにより、基材を十分に溶融することができなかったことが原因であると推察される。
【0060】
比較例4の方法では、レーザ肉盛層を形成することができなかった。これは、表面粗さが小さいめっき層のレーザ光の反射率が実施例1の溶射層の反射率よりもさらに高いことにより、基材を十分に溶融することができなかったことが原因であると推察される。
【0061】
比較例5~7の方法では、レーザ肉盛層を形成することができなかった。これは、溶射材料に銅と全率固溶の関係ではない材料を使用したことにより、基材とレーザ肉盛層との界面に金属間化合物が多く生成され、界面にクラックが進展し、レーザ肉盛層が基材から剥離したためであると推察される。
【0062】
ここで、実施例1と比較例1、2とを比較する。実施例1はレーザ肉盛層の形成が確認されたものであり、比較例1、2はレーザ肉盛層の形成が確認されなかったものである。実施例1と比較例1、2との間において、レーザ肉盛層の成膜可否に寄与する相違点は、溶射層の有無とそれに伴う反射率であり、レーザ肉盛層を形成するためには、基材上に溶射層を設けなければならず、さらにその溶射層の反射率は60%未満が好ましいことが確認された。
【0063】
次に、実施例1と実施例2とを比較する。実施例1、2ともにレーザ肉盛層の形成が確認されたものであり、その中でも実施例2は好適なレーザ肉盛層が確認されたものである。実施例1と実施例2との相違点は、表面粗さRaとそれに伴う反射率であり、好適なレーザ肉盛層の形成のためには、溶射層の反射率は51%以下が好ましいことが確認された。
【0064】
つまり、好適なレーザ肉盛層を形成するためには、溶射層の反射率は60%未満が好ましく、さらに好ましくは51%以下であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、自動車産業、半導体産業、鉄鋼産業、航空・宇宙産業、エネルギー産業など、多くの産業分野において有効活用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 溶射装置
2 レーザヘッド
3 光学系
4 粉末供給部
10 基材
20 溶射材料
30 溶射層
40 レーザ光
50 レーザ肉盛粉末
60 レーザ肉盛層