(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】近傍界用ノイズ抑制シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240524BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240524BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240524BHJP
H01F 1/28 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01F1/147 191
H01F1/26
H01F1/28
(21)【出願番号】P 2024508096
(86)(22)【出願日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2023047097
【審査請求日】2024-02-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】亀田 和也
(72)【発明者】
【氏名】河野 裕
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-196123(JP,A)
【文献】特開2006-245166(JP,A)
【文献】特開2012-178476(JP,A)
【文献】特開2018-022869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01F 1/00 - 1/117
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材中に担持された扁平状の合金粉末と、前記基材中に分散した1種又は2種以上の添加剤と、を含む近傍界用ノイズ抑制シートであって、下記要件(i)、要件(ii)及び要件(iii):
(i):前記扁平状の合金粉末は、mass%で、Fe
100-x-ySi
xAl
y(但し、12.2≦x+y≦17.8、8.0≦x≦11.2、4.2≦y≦6.6)で表される組成を有する。
(ii):近傍界用ノイズ抑制シートのX線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク、(422)面のピーク及び(111)面のピークが存在し、かつ、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P
(400)、(422)面のピーク強度P
(422)、及び(111)面のピーク強度P
(111)が、下式(a)及び下式(b):
P
(400)>P
(422) ・・・(a)
P
(400)>P
(111) ・・・(b)
の関係にある。
(iii):近傍界用ノイズ抑制シートをサイズ100mm×50mm、厚みt(mm)とした試験片について、IEC62333-2規格に基づき、0.1~6GHzの周波数において内部減結合率Rdaを測定したときに、Rdaのピーク周波数f(GHz)と、厚みt(mm)とが、下式(A):
f≧-0.45ln(t)+0.1 ・・・(A)
の関係にある。
を全て満たす、ことを特徴とする、近傍界用ノイズ抑制シート。
【請求項2】
前記X線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P
(400)を100としたときの(422)面のピーク強度P
(422)の比が、40以上85以下である、請求項1に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【請求項3】
前記X線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P
(400)を100としたときの(111)面のピーク強度P
(111)の比が、30以上90以下である、請求項1又は2に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【請求項4】
前記添加剤として芳香族アミン系老化防止剤を含み、該芳香族アミン系老化防止剤の含有量が、前記扁平状の合金粉末100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下である、請求項1
又は2に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【請求項5】
前記添加剤としてシランカップリング剤を含み、該シランカップリング剤の含有量が、前記扁平状の合金粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下である、請求項1
又は2に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【請求項6】
前記添加剤として非ハロゲン系難燃剤を含み、該非ハロゲン系難燃剤の含有量が、前記扁平状の合金粉末100質量部に対して20質量部以下である、請求項1
又は2に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【請求項7】
厚みが0.050mm以上0.500mm未満である、請求項1
又は2に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【請求項8】
前記扁平状の合金粉末の充填量が25vol%以上55vol%以下である、請求項1
又は2に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【請求項9】
前記扁平状の合金粉末の平均粒径が30μm以上80μm以下である、請求項1
又は2に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近傍界用ノイズ抑制シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信の高度化に伴い、GHz帯域を利用した電子機器が普及し始めている。これまでの移動通信では、数百MHz程度の周波数帯域が使用されてきたが、第五世代移動通信システム(5G)では、より高い周波数帯域、具体的には、数GHz~数十GHzの帯域までの利用が考えられている。これに加え、電子機器の軽薄短小化が進み、内部構造の空間的な余裕は少なくなってきており、電気・電子回路における電磁的な干渉問題は、一層深刻になる。以上の背景から、MHz帯域からGHz帯域でも効果的な、近傍界向けのノイズ抑制シートが求められている。
【0003】
典型的なノイズ抑制シートにおいては、有機物からなる基材中に扁平状の軟磁性粉末が担持されており、軟磁性粉末の磁気損失によってノイズを熱に変換する。また、ノイズ抑制シートのノイズ抑制性能は、ノイズ抑制シートに含まれる軟磁性粉末の性質に依存する。
【0004】
近傍界向けのノイズ抑制シートとして、例えば特許文献1には、表面に酸化層が形成された扁平状の軟磁性合金粉末を結合材中に分散させてなるノイズ抑制シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近傍界用ノイズ抑制シートに関するノイズ抑制性能の指標の一つとして、内部減結合率(Rda)が挙げられる。この内部減結合率(Rda)は、IEC62333-2規格に基づき測定することができ、単位はdBである。
図3に、例示的な近傍界用ノイズ抑制シートの内部減結合率(Rda)の測定結果の概形を示す。
図3中、縦軸のマイナス方向が、ノイズ吸収量に対応する。
図3に示すように、Rdaは通常、特定の周波数においてマイナス方向にピークを有し、かかる周波数(ピーク周波数)において、特に強いノイズ抑制効果を示す。
【0007】
ここで、Rdaのピーク周波数は、ノイズ抑制シートの厚みに依存することが分かっている。即ち、ノイズ抑制シートの厚みが大きいほど、Rdaのピークは低周波数側へとシフトすることが分かっている。つまり、第五世代移動通信システム(5G)を見据え、より高い周波数帯域においてRdaのピークが発現する、ひいては、より高い周波数帯域においてノイズ抑制効果を得るためには、ノイズ抑制シートの厚みを小さくすればよいと考えることができる。しかし、シートとしての形状を維持する必要がある以上、シート厚みを低減することは、限界がある。
【0008】
なお、軟磁性粉末の性質(材質や種々の加工条件)も、Rdaのピーク周波数に影響を及ぼす可能性が示唆されているものの、その特定には至っていない。また、軟磁性粉末の1種であるFe-Si-Al合金粉末は、高い透磁率を示すことが知られているが、透磁率はあくまで物性値であり、ノイズ抑制性能そのものを表す指標ではない。
【0009】
以上を踏まえ、軟磁性粉末を用いつつ、Rdaのピークを狙いの周波数帯域、特には高周波数帯域(例えば、1GHz以上10GHz以下)に合わせこむことが重要となり、そのための一手段の確立が求められる。
【0010】
そこで、本発明は、高周波数帯域におけるノイズ抑制性能に優れた近傍界用ノイズ抑制シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、軟磁性粉末としてのFe-Si-Al合金粉末に着目し、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、まず、扁平状のFe-Si-Al合金粉末を用いた場合に、ノイズ抑制シートのRdaのピーク周波数は、当該合金粉末の配向特性が影響することを知見した。そして、更に検討を重ねた結果、かかる扁平状の軟磁性粉末の組成の適正化を図るとともに、Fe-Si-Alの(400)面のピークのみならず、(111)面及び(422)面のピークも存在し、かつ、所定の配向特性とすることで、より高い周波数帯域においてRdaのピークが発現し得る、ひいては、より高い周波数帯域においてノイズ抑制効果が得られることを見出した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。即ち、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0013】
[1] 基材と、前記基材中に担持された扁平状の合金粉末と、前記基材中に分散した1種又は2種以上の添加剤と、を含む近傍界用ノイズ抑制シートであって、下記要件(i)、要件(ii)及び要件(iii):
(i):前記扁平状の合金粉末は、mass%で、Fe100-x-ySixAly(但し、12.2≦x+y≦17.8、8.0≦x≦11.2、4.2≦y≦6.6)で表される組成を有する。
(ii):近傍界用ノイズ抑制シートのX線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク、(422)面のピーク及び(111)面のピークが存在し、かつ、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)、(422)面のピーク強度P(422)、及び(111)面のピーク強度P(111)が、下式(a)及び下式(b):
P(400)>P(422) ・・・(a)
P(400)>P(111) ・・・(b)
の関係にある。
(iii):近傍界用ノイズ抑制シートをサイズ100mm×50mm、厚みt(mm)とした試験片について、IEC62333-2規格に基づき、0.1~6GHzの周波数において内部減結合率Rdaを測定したときに、Rdaのピーク周波数f(GHz)と、厚みt(mm)とが、下式(A):
f≧-0.45ln(t)+0.1 ・・・(A)
の関係にある。
を全て満たす、ことを特徴とする、近傍界用ノイズ抑制シート。
【0014】
[2] 前記X線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)を100としたときの(422)面のピーク強度P(422)の比が、40以上85以下である、[1]に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【0015】
[3] 前記X線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)を100としたときの(111)面のピーク強度P(111)の比が、30以上90以下である、[1]又は[2]に記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【0016】
[4] 前記添加剤として芳香族アミン系老化防止剤を含み、該芳香族アミン系老化防止剤の含有量が、前記扁平状の合金粉末100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【0017】
[5] 前記添加剤としてシランカップリング剤を含み、該シランカップリング剤の含有量が、前記扁平状の合金粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【0018】
[6] 前記添加剤として非ハロゲン系難燃剤を含み、該非ハロゲン系難燃剤の含有量が、前記扁平状の合金粉末100質量部に対して20質量部以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【0019】
[7] 厚みが0.050mm以上0.500mm未満である、[1]~[6]のいずれかに記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【0020】
[8] 前記扁平状の合金粉末の充填量が25vol%以上55vol%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【0021】
[9] 前記扁平状の合金粉末の平均粒径が30μm以上80μm以下である、[1]~8のいずれかに記載の近傍界用ノイズ抑制シート。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高周波数帯域におけるノイズ抑制性能に優れた近傍界用ノイズ抑制シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1及び比較例9のシートのX線回折の測定結果である。
【
図2】実施例及び比較例におけるシートの厚みt(mm)とピーク周波数f(GHz)とに関するプロット図である。
【
図3】例示的な近傍界用ノイズ抑制シートの内部減結合率(Rda)の測定結果の概形である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、かかる説明は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0025】
(近傍界用ノイズ抑制シート)
本発明の一実施形態に係る近傍界用ノイズ抑制シート(以下、「本実施形態のシート」と称することがある)は、基材と、前記基材中に担持された扁平状の合金粉末と、前記基材中に分散した1種又は2種以上の添加剤と、を含む近傍界用ノイズ抑制シートであって、下記要件(i)、要件(ii)及び要件(iii)を全て満たす、ことを特徴とする:
(i):前記扁平状の合金粉末は、mass%で、Fe100-x-ySixAly(但し、12.2≦x+y≦17.8、8.0≦x≦11.2、4.2≦y≦6.6)で表される組成を有する。
(ii):近傍界用ノイズ抑制シートのX線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク、(422)面のピーク及び(111)面のピークが存在し、かつ、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)、(422)面のピーク強度P(422)、及び(111)面のピーク強度P(111)が、下式(a)及び下式(b):
P(400)>P(422) ・・・(a)
P(400)>P(111) ・・・(b)
の関係にある。
(iii):近傍界用ノイズ抑制シートをサイズ100mm×50mm、厚みt(mm)とした試験片について、IEC62333-2規格に基づき、0.1~6GHzの周波数において内部減結合率Rdaを測定したときに、Rdaのピーク周波数f(GHz)と、厚みt(mm)とが、下式(A):
f≧-0.45ln(t)+0.1 ・・・(A)
の関係にある。
【0026】
本実施形態のシートにおいては、所定特性の扁平状のFe-Si-Al合金粉末を用いるとともに、Fe-Si-Alの(111)面及び(422)面のピークが存在し、かつ、所定の配向特性とすることにより、共振周波数が変化して、より高い周波数帯域においてRdaのピークを発現する。従って、本実施形態のシートは、同等の厚みを有する従来品のノイズ抑制シートと比較して、より高い周波数帯域においてノイズ抑制効果が得られるものと考えられる。
【0027】
本実施形態のシートにおいては、扁平状の軟磁性粉末として、飽和磁化の高いFe粉末を磁性損失材とし、磁気異方性を限りなく小さくするためにSi及びAlを添加した、Fe-Si-Al合金粉末を用い、基材中に担持する。より具体的に、本実施形態で用いる扁平状の合金粉末は、mass%で、Fe100-x-ySixAly(但し、12.2≦x+y≦17.8、8.0≦x≦11.2、4.2≦y≦6.6)で表される組成を有する(要件(i))。即ち、本実施形態で用いる扁平状のFe-Si-Al合金粉末は、Si含有量が8.0mass%以上11.2mass%以下、Al含有量が4.2mass%以上6.6mass%以下であり、また、Fe含有量が82.2mass%以上87.8mass%以下である組成を有する。用いる合金粉末の組成が上記範囲外であると、X線回折における所望のピーク強度比が得られない虞がある。
【0028】
本実施形態で用いる扁平状の合金粉末は、平均粒径が30μm以上80μm以下であることが好ましい。平均粒径を80μm以下とすれば、平滑性のある扁平状の合金粉末が得られ易く、また、X線回折における所望のピーク強度比が得られ易くなる。更に、平均粒径が80μm以下であると、基材中での合金粉末同士の過度の接触を抑えて絶縁性を保ち、ノイズ抑制シートの表面抵抗の低下を抑制することができる。なお、ノイズ抑制シートの表面抵抗が低いと、電子・電気回路での短絡の懸念が高まるだけでなく、ノイズ抑制シート表面でのノイズ電波の反射も起こり易くなって、ノイズ抑制効果が低下することとなる。特に、本実施形態のようにFe含有量が比較的高い合金粉末を用いる場合には、その合金粉末自体の電気抵抗が低いため、表面抵抗の低下が顕著となる。これに対し、扁平状の合金粉末の平均粒径が80μm以下であれば、表面積が過度に大きくはならず、得られるノイズ抑制シートの表面抵抗を所定値以上(例えば、1.0×105Ω/□以上)とすることができる。一方、扁平状の合金粉末の平均粒径の下限については、合金粉末の反磁界の影響を小さくし、ピーク周波数を高周波数側にシフトさせるため、平均粒径を30μm以上とすることが好ましい。同様の観点から、扁平状の合金粉末の平均粒径は、40μm以上であることがより好ましく、また、70μm以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において、扁平状の合金粉末の平均粒径は、粒度分布測定器を用いて測定することができる。また、扁平状の合金粉末の平均粒径は、製造品としてのノイズ抑制シートから測定することもでき、その場合においては、ノイズ抑制シートの断面を走査型電子顕微鏡によって観察した観察像における、任意の20個以上の合金粉末の長手方向の長さの平均値と定義する。
【0029】
本実施形態で用いる扁平状の合金粉末の厚みは、特に限定されないが、例えば1μm以下である。また、扁平状の合金粉末の厚みの下限は、特に限定されないが、扁平加工時間を長くしても加工が飽和すること、及び長時間の扁平加工は生産性を低下させることから、0.1μm以上とすることができる。
【0030】
本実施形態のシートは、X線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク、(422)面のピーク及び(111)面のピークが存在する(要件(ii))。
なお、本明細書において「ピークが存在する」とは、X線回折の測定結果からベースラインを取り、かかるベースラインに基づき最も高いピークのピーク強度を100としたときに、1以上の強度が確認され且つ半値幅が2θ=5°以下であることを指すものとする。
また、本明細書において、X線回折は、測定範囲は2θ=10°~100°と広くし、また、測定値の精度を高めるためにも、走査速度は1°/分以下と遅くし、サンプリング間隔は0.01°以下と小さくして、一定速度で連続的に測定を行うこととする。
【0031】
更に、本実施形態のシートは、X線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)、(422)面のピーク強度P(422)、及び(111)面のピーク強度P(111)が、下式(a)及び下式(b):
P(400)>P(422) ・・・(a)
P(400)>P(111) ・・・(b)
の関係にある(要件(ii))。換言すると、本実施形態のシートは、ピーク強度P(400)に対するピーク強度P(422)の比率(P(422)/P(400))が、1.00未満であり、ピーク強度P(400)に対するピーク強度P(111)の比(P(111)/P(400))が、1.00未満である。この場合、内部減結合率Rdaのピーク強度自体が十分に大きくなり、ひいてはノイズ抑制効果自体をより高めることができる。
【0032】
本実施形態のシートは、X線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)を100としたときの(422)面のピーク強度P(422)の比が、40以上85以下であることが好ましい。換言すると、本実施形態のシートは、ピーク強度P(400)に対するピーク強度P(422)の比率(P(422)/P(400))が、0.40以上0.85以下であることが好ましい。上記比が40以上であれば、共鳴周波数の低下が抑えられて、内部減結合率Rdaのピークがより高い周波数帯域にシフトすることができる。また、上記比が85以下であれば、内部減結合率Rdaのピーク強度自体が十分に大きくなり、ひいてはノイズ抑制効果自体をより高めることができる。更に、上記比が40以上85以下であれば、配向特性がより望ましいものとなり、後述する要件(iii)を満たし易くなる。同様の観点から、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)を100としたときの(422)面のピーク強度P(422)の比は、45以上であることがより好ましく、また、70以下であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態のシートは、X線回折において、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)を100としたときの(111)面のピーク強度P(111)の比が、30以上90以下であることが好ましい。換言すると、本実施形態のシートは、ピーク強度P(400)に対するピーク強度P(111)の比率(P(111)/P(400))が、0.30以上0.90以下であることが好ましい。上記比が30以上であれば、共鳴周波数の低下が抑えられて、内部減結合率Rdaのピークがより高い周波数帯域にシフトすることができる。また、上記比が90以下であれば、内部減結合率Rdaのピーク強度自体が十分に大きくなり、ひいてはノイズ抑制効果自体をより高めることができる。更に、上記比が30以上90以下であれば、配向特性がより望ましいものとなり、後述する要件(iii)を満たし易くなる。同様の観点から、Fe-Si-Alの(400)面のピーク強度P(400)を100としたときの(111)面のピーク強度P(111)の比は、40以上であることがより好ましく、また、65以下であることがより好ましい。
【0034】
上述したFe-Si-Alの(400)面のピーク、(422)面のピーク及び(111)面のピークに関する特性は、本実施形態のシートに用いる各材料の条件や、シート成形の条件などが複合的に関与し得る。かかる条件として、具体的には、シートに用いる合金粉末の組成、形状、大きさ;シートにおける合金粉末の充填量;シート成形の磁場環境;シート成形時の成形速度;スラリーを用いた塗布法によりシート成形を行う場合における当該スラリーの粘度;等が挙げられる。
【0035】
本実施形態のシートは、サイズ100mm×50mm、厚みt(mm)とした試験片について、IEC62333-2規格に基づき、0.1~6GHzの周波数において内部減結合率Rdaを測定したときに、Rdaのピーク周波数f(GHz)と、厚みt(mm)とが、下式(A):
f≧-0.45ln(t)+0.1 ・・・(A)
の関係にある(要件(iii))。
なお、lnは自然対数であり、logeと同義である。
【0036】
かかる要件(iii)は、シートの厚みtを関数としたピーク周波数fで規格化し、要するに、シートがある程度の厚みを有していても、Rdaのピークがある程度高い周波数帯域にあることを、鋭意の検討に基づいて定式化したものである。かかる要件(iii)を満たす本実施形態のシートは、同等の厚みを有する従来品のノイズ抑制シートとの比較において、新規である。また、かかる要件(iii)は、本実施形態のシートに用いる各材料の条件や、シート成形の条件などが複合的に関与して、特に所望の配向特性を有する場合に、より満たし易くなる。
【0037】
更に、本実施形態のシートは、下式(B):
f≦-0.95ln(t)+0.25 ・・・(B)
の関係にあることが好ましい。この場合、ノイズ抑制シートとして所望される性能を十分に発揮することができる。
【0038】
また、本実施形態のシートは、下式(C):
f≧-0.50ln(t)+0.1 ・・・(C)
の関係にあることが好ましい。
【0039】
本実施形態のシートは、基材を含む。かかる基材は、通常、有機材料、特にはゴム及び/又は樹脂の有機材料からなるものとすることができ、シートにおけるバインダーとしての機能を有する。かかる有機材料は、RoHS指令等の環境規制に基づき、ハロゲン元素を含まないものが好ましい。また、近傍界用ノイズ抑制シートには、可撓性、耐熱性及び耐久性も求められることから、有機材料としては、シリコーンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム及びブチルゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上のゴム材料が好ましい。或いは、有機材料として、エポキシ等の樹脂材料を用いることもできる。
【0040】
本実施形態のシートは、基材中に分散した1種又は2種以上の添加剤を含む。かかる添加剤としては、例えば、老化防止剤、シランカップリング剤、難燃剤、可塑剤等が挙げられる。
【0041】
上記老化防止剤としては、芳香族アミン系老化防止剤が挙げられる。これら老化防止剤は、酸化や環境変化による樹脂等の基材の劣化及び変形を防ぎ、ノイズ抑制シートの耐酸化性を向上させることができる。なお、樹脂等の基材が劣化又は変形すると、ノイズ抑制シートに分散している扁平状の合金粉末の配向性が乱れ、共鳴周波数が変化する結果、内部減結合率Rdaのピークが低周波数側へシフトするか、又はノイズ吸収量の低下を引き起こす虞がある。このような事態をより十分に回避する観点から、本実施形態のシートは、添加剤として芳香族アミン系老化防止剤を含むことができる。
【0042】
上記芳香族アミン系老化防止剤としては、例えば、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-β-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、及びN-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。これら芳香族アミン系老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本実施形態のシートにおける該芳香族アミン系老化防止剤の含有量は、効率的に劣化及び変形を防ぐ観点から、扁平状の合金粉末100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0043】
上記シランカップリング剤は、ノイズ抑制シートにおける扁平状の合金粉末の分散性をより向上させることができる。なお、扁平状の合金粉末の分散性が悪いと、シート成形時にシート内部に空隙や気泡が多く発生する虞がある。かかる空隙や気泡は、ノイズ抑制シートが高温環境下等に晒された場合、ノイズ抑制シートの膨張や変形の原因となる虞がある。ノイズ抑制シートが膨張又は変形すると、ノイズ抑制シート内部に分散している扁平状の合金粉末の配向性が乱れ、共鳴周波数が変化する結果、内部減結合率Rdaのピークが低周波数側へシフトするか、又はノイズ吸収量の低下を引き起こす虞がある。このような事態をより十分に回避する観点から、本実施形態のシートは、添加剤としてシランカップリング剤を含むことができる。
【0044】
上記シランカップリング剤としては、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本実施形態のシートにおける該シランカップリング剤の含有量は、効率的に膨張や変形を防ぐ観点から、扁平状の合金粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0045】
上記難燃剤は、ノイズ抑制シートの難燃性を向上させることができる。そのため、本実施形態のシートは、添加剤として難燃剤を含んでもよい。上記難燃剤としては、基材の有機材料と同様にハロゲン元素を含まないもの、即ち非ハロゲン系難燃剤が好ましい。上記非ハロゲン系難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、メラミンシアネレート等が挙げられる。また、使用環境上に制限がないようであれば、赤リンも非ハロゲン系難燃剤として挙げられる。これら非ハロゲン系難燃剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態のシートが非ハロゲン系難燃剤を含む場合における該非ハロゲン系難燃剤の含有量は、例えば、扁平状の合金粉末100質量部に対して20質量部以下とすることができる。
【0046】
上記可塑剤は、ノイズ抑制シートの柔軟性を高めることができる。そのため、本実施形態のシートは、添加剤として可塑剤を含んでもよい。
【0047】
本実施形態のシートは、前記扁平状の合金粉末の充填量が25vol%以上55vol%以下であることが好ましい。上記充填量が25vol%以上55vol%以下の範囲であれば、配向特性がより望ましいものとなり、目的とするノイズ抑制効果をより高めることができる。なお、充填量が過度に少ない場合、スラリーの粘度、ひいては磁場成形時の扁平状の合金粉末の配向し易さに影響し得る。また、充填量が過度に多い場合も、スラリーの粘度、ひいては磁場成形時の扁平状の合金粉末の配向し易さに影響し得る。更に、上記充填量が55vol%以下であれば、ノイズ抑制シートの可撓性を良好に維持するとともに、表面抵抗の過度な低下(例えば、1.0×105Ω/□未満となること)を抑制することができる。同様の観点から、前記扁平状の合金粉末の充填量は、30vol%以上であることがより好ましく、また、50vol%以下であることがより好ましい。
【0048】
なお、扁平状の合金粉末の充填量は、以下のように定義する。まず、ノイズ抑制シートをシート面内方向に対して垂直な方向に切断した際の断面を走査型電子顕微鏡によって観察し、観察像を得る。かかる観察像を用い、扁平状の合金粉末と、基材とに関する像の色を二値化処理することで、扁平状の合金粉末と基材の切り分けを行う。切り分けが終了したら、扁平状の合金粉末の面積率を求め、これを扁平状の合金粉末の「充填量」と定義する。なお、二値化処理する際は、扁平状の合金粉末と基材との境界が明瞭となるように適宜設定を行うことができる。また、扁平状の合金粉末以外の添加物が1種類以上存在する場合も同様に、多値化処理することで切り分けを行い、扁平状の合金粉末および添加物の面積率を求めることで、各々の「充填量(添加量)」を求めることができる。
【0049】
本実施形態のシートの厚みは、特に限定されないが、例えば0.050mm以上0.500mm未満とすることができる。
【0050】
本実施形態のシートの密度は、特に限定されないが、例えば3.0g/cm3以上3.8g/cm3以下とすることができる。
【0051】
本実施形態のシートの表面抵抗は、特に限定されないが、例えば1.0×105Ω/□以上であることが好ましい。
【0052】
次に、本実施形態の近傍界用ノイズ抑制シートの製造方法について説明する。本実施形態のシートの製造方法は、特に限定されない。一例としての近傍界用ノイズ抑制シートの製造方法は、
原料として、mass%で、Fe100-x-ySixAly(但し、12.2≦x+y≦17.8、8.0≦x≦11.2、4.2≦y≦6.6)で表される組成を有するFe-Si-Al合金粉末を準備する準備工程、
上記Fe-Si-Al合金粉末を湿式にて扁平加工して、扁平状の合金粉末を得る加工工程、
上記扁平状の合金粉末と、有機材料からなる基材と、添加剤とを混合し、混合物を得る混合工程、及び
上記混合物を、磁場環境下でシート状に成形し(磁場成形)、近傍界用ノイズ抑制シートを得る成形工程、を含む。かかる製造方法により、上述した本実施形態のシートを製造することができる。
【0053】
上記加工工程の方法(扁平加工する方法)としては、アトライタ又はビーズミルなど、公知又は任意の機械加工を適用することができる。また、湿式による扁平加工は、イソプロピルアルコール(IPA)などの溶媒を用いることができる。また、上記加工工程で得られた扁平状の合金粉末は、ふるいにかけるなどにより、所望の平均粒径に調整してもよい。
【0054】
上記成形工程の方法(シート状に成形する方法)としては、特に限定されず、例えば塗工法や圧延法などの公知又は任意の方法を用いることができる。ここでは、一例として塗工法を挙げ、塗工法を採用した場合における、上記混合工程及び成形工程の具体的な手順について、述べる。
【0055】
上記混合工程では、扁平状の合金粉末と、有機材料からなる基材と、添加剤とに加え、有機溶剤も用い、所定の配合比に調整して混撹拌し、スラリーを得る。次いで、成形工程では、当該スラリーを、ドクターブレードにて塗工し、シート状に成形する。ここで、成形の際には、扁平状の合金粉末の水平配向度を調整するために、塗工したスラリーに磁場をかける(即ち、磁場成形を用いる)。塗工したスラリーに磁場をかける手段としては、例えば、永久磁石や電磁石を対向させることが挙げられる。
【0056】
永久磁石を用いる場合、当該永久磁石の磁束密度は、50~300mTであることが好ましい。また、電磁石を用いる場合には、50~300mT相当の磁束密度となる電流値とすることが好ましい。この際、磁束密度が50mT未満であると、扁平状の合金粉末の水平配向が不十分となる虞がある。また、磁束密度が300mTよりも大きいと、扁平状の合金粉末が永久磁石又は電磁石に吸着してしまい、塗工不良となる虞がある。
【0057】
扁平状の合金粉末が磁場により滞留する場合は、塗工条件を適宜調整することが好ましい。かかる塗工条件としては、塗工速度(成形速度)、スラリー粘度等が挙げられる。具体的に、塗工速度(成形速度)は、0.1m/s以上10m/s以下であることが好ましい。また、スラリー粘度は、1,000cP以上30,000cP以下であることが好ましい。塗工速度(成形速度)が0.1m/s未満、又はスラリー粘度が1,000cP未満であると、磁場による滞留が生じ、塗工不良となる虞がある。また、塗工速度(成形速度)が10m/sを超えると、磁場の影響を受ける時間が短くなるため、扁平状の合金粉末の配向が不十分となる虞がある。また、スラリー粘度が30,000cPを超えると、基材としての有機材料内における扁平状の合金粉末の動きが制限される結果、扁平状の合金粉末の配向が不十分となる虞がある。同様の観点から、スラリー粘度は、3,000cP以上であることがより好ましく、また、10,000cP未満であることがより好ましい。
【0058】
スラリー内部に分散する扁平状の合金粉末が適切に配向されない場合、(400)面のピーク強度が減少し、相対的に(111)面のピーク強度及び(422)面のピーク強度が大きくなり、共鳴周波数に影響を与える。そのため、磁場成形の条件には注意が必要である。
【0059】
なお、成形工程で得られたシートは、扁平状の合金粉末の水平配向度及び密度を高めるために、有機材料の軟化点以上(例えば60~150℃程度)に加熱した状態で、プレスを施してもよい。
【0060】
以上、本実施形態の近傍界用ノイズ抑制シートについて説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されず、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0062】
(実施例1)
原料として、Fe含有量が84.8mass%、Si含有量が9.65mass%、Al含有量が5.55mass%であり、平均粒径が8.62μmであるFe-Si-Al合金粉末を用いた。この原料を、IPA(イソプロピルアルコール)を溶媒として、厚み1μm以下となるように湿式にて扁平加工して、平均粒径59.2μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を大気中で80℃のオーブン中で乾燥させた後、扁平加工時の応力除去のため、熱処理を実施した。次に、基材としてのアクリルゴム、及び有機溶媒としてのトルエンに対し、扁平状の合金粉末を、最終的にターゲットとする充填量となるような量だけ添加し、ボールミルによる混錬を実施し、スラリーを作製した。また、このスラリーには、扁平状の合金粉末100質量部対比で、老化防止剤としての4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン1.0質量部、及び、シランカップリング剤としての3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン5.0質量部を添加した。十分な混錬を行った後、スラリーを真空脱泡し、スラリー粘度が9,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させた。次いで、磁場中で、ドクターブレードにてシート状に成形し(磁場成形)、扁平状の合金粉末を配向させた。このとき、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を100mTとし、成形速度を1.0m/sとした。その後、150℃下でプレスを施すことでより高密度化し、シートを作製した。なお、プレス後のシートにおける扁平状の合金粉末の充填量は、42vol%であった。
【0063】
(実施例2)
スラリー粘度が10,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、シートにおける扁平状の合金粉末の充填量が54vol%となるような量だけ扁平状の合金粉末を添加したこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0064】
(実施例3)
スラリー粘度が8,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時における成形速度を0.1m/sとしたこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0065】
(実施例4)
シートにおける扁平状の合金粉末の充填量が26vol%となるような量だけ扁平状の合金粉末を添加したこと、及び、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を300mTとし、成形速度を5.0m/sとしたこと以外は、実施例2と同じ条件として、シートを作製した。
【0066】
(実施例5)
原料として、Fe含有量が85.05mass%、Si含有量が9.42mass%、Al含有量が5.53mass%であり、平均粒径が9.13μmであるFe-Si-Al合金粉末を用いた。この原料を、IPAを溶媒として、厚み1μm以下となるように湿式にて扁平加工して、平均粒径67.3μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を用いたこと、及び、スラリー粘度が8,500cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0067】
(実施例6)
スラリー粘度が3,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を150mTとしたこと以外は、実施例5と同じ条件として、シートを作製した。
【0068】
(実施例7)
スラリー粘度が8,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を300mTとし、成形速度を5.0m/sとしたこと以外は、実施例5と同じ条件として、シートを作製した。
【0069】
(実施例8)
スラリー粘度が8,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、シートにおける扁平状の合金粉末の充填量が26vol%となるような量だけ扁平状の合金粉末を添加したこと以外は、実施例5と同じ条件として、シートを作製した。
【0070】
(実施例9)
シートにおける扁平状の合金粉末の充填量が54vol%となるような量だけ扁平状の合金粉末を添加したこと、磁場成形時における成形速度を10.0m/sとしたこと、及び、スラリー粘度が10,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと以外は、実施例5と同じ条件として、シートを作製した。
【0071】
(実施例10)
原料として、Fe含有量が84.0mass%、Si含有量が10.86mass%、Al含有量が5.14mass%であり、平均粒径が9.54μmであるFe-Si-Al合金粉末を用いた。この原料を、IPAを溶媒として、厚み1μm以下となるように湿式にて扁平加工して、平均粒径36.4μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を用いたこと、スラリー粘度が30,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を50mTとしたこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0072】
(比較例1)
原料として、Fe含有量が78.39mass%、Si含有量が16.00mass%、Al含有量が5.61mass%であり、平均粒径が8.87μmであるFe-Si-Al合金粉末を用いた。この原料を、IPAを溶媒として、厚み1μm以下となるように湿式にて扁平加工して、平均粒径57.4μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を用いたこと、及び、スラリー粘度が10,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0073】
(比較例2)
原料として、Fe含有量が75.48mass%、Si含有量が15.60mass%、Al含有量が8.92mass%であるFe-Si-Al合金粉末を用いた。この原料を、IPAを溶媒として、厚み1μm以下となるように湿式にて扁平加工して、平均粒径57.4μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を用いたこと、及び、シートにおける扁平状の合金粉末の充填量が15vol%となるような量だけ扁平状の合金粉末を添加したこと以外は、比較例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0074】
(比較例3)
原料として、Fe含有量が87.68mass%、Si含有量が10.23mass%、Al含有量が2.09mass%であり、平均粒径が8.96μmであるFe-Si-Al合金粉末を用いた。この原料を、IPAを溶媒として、厚み1μm以下となるように湿式にて扁平加工して、平均粒径63.9μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を用いたこと以外は、比較例2と同じ条件として、シートを作製した。
【0075】
(比較例4)
実施例1の扁平状の合金粉末をふるいにかけ、平均粒径101.5μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を用いたこと、シートにおける扁平状の合金粉末の充填量が15vol%となるような量だけ扁平状の合金粉末を添加したこと、スラリー粘度が50,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時における成形速度を10.0m/sとしたこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0076】
(比較例5)
実施例1の扁平状の合金粉末をふるいにかけ、平均粒径62.6μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を用いたこと、スラリー粘度が10,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を30mTとし、成形速度を10.0m/sとしたこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0077】
(比較例6)
スラリー粘度が35,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時における成形速度を1.0m/sとしたこと以外は、比較例4と同じ条件として、シートを作製した。
【0078】
(比較例7)
シートにおける扁平状の合金粉末の充填量が80vol%となるような量だけ扁平状の合金粉末を添加したこと以外は、比較例6と同じ条件として、シートを作製した。
【0079】
(比較例8)
シートにおける扁平状の合金粉末の充填量が80vol%となるような量だけ扁平状の合金粉末を添加したこと、スラリー粘度が50,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を300mTとしたこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0080】
(比較例9)
実施例1の扁平状の合金粉末をふるいにかけ、平均粒径19.2μmの扁平状の合金粉末(Fe-Si-Al合金粉末)を得た。次いで、この扁平状の合金粉末を用いたこと、スラリー粘度が10,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を10mTとし、成形速度を10.0m/sとしたこと以外は、実施例1と同じ条件として、シートを作製した。
【0081】
(比較例10)
スラリー粘度が50,000cPとなるまで有機溶媒を揮発させたこと、及び、磁場成形時に用いた磁石の磁束密度を30mTとし、成形速度を1.0m/sとしたこと以外は、比較例9と同じ条件として、シートを作製した。
【0082】
次に、各例で得られたシートについて、下記の測定及び評価を行った。
【0083】
<X線回折>
各例のシートを矩形状に切り出した測定サンプルの面方向を測定対象とし、X線回折装置(株式会社リガク製、「Smart-Lab」)を用い、集中方式の光学系でX線回折の測定を行った。この際、測定範囲は2θ=10°~100°、走査速度は1°/分以下、サンプリング間隔は0.01°以下として、一定速度の連続測定を行った。X線回折の測定結果から、(111)面、(400)面、及び(422)面にそれぞれピークが存在するか否か、確認を行った。更に、(111)面、(400)面、及び(422)面にそれぞれピークが存在する場合において、(400)面のピーク強度P
(400)を100としたときの(111)面のピーク強度P
(111)の比(P
(111)/P
(400))を求めた。同様に、(400)面のピーク強度P
(400)を100としたときの(422)面のピーク強度P
(422)の比(P
(422)/P
(400))を求めた。結果を表1に示す。なお、参考までに、
図1に、実施例1及び比較例9のシートのX線回折の測定結果を示す。
【0084】
<表面抵抗>
各例のシートについて、抵抗計(三菱アナリテック社製「ハイレスタ-UX MCP-HT800」)により、二重リングプローブを使用して、表面抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
<Rdaのピーク周波数f>
表1に示す厚みt(mm)を有する各例のシートについて、サイズ100mm×50mmの試験片とし、かかる試験片について、IEC62333-2規格に基づき、0.1~6GHzの周波数において内部減結合率Rdaを測定した。横軸を周波数、縦軸を内部減結合率Rdaとしたプロットにおいて、Rdaがマイナス方向にピークとなっている箇所の周波数(ピーク周波数f(GHz))を読み取った。更に、各例において、ピーク周波数f(GHz)と厚みt(mm)とが、上述した式(A)を満たすか否かを確認した。これらの結果を表1に示す。なお、参考までに、
図2に、各例におけるシートの厚みt(mm)とピーク周波数f(GHz)とに関するプロットを、式(A)の境界線とともに示す。
【0086】
【0087】
表1及び
図2より、本発明の近傍界用ノイズ抑制シートに従う実施例のシートは、厚みtの考慮の下、Rdaのピークが相対的に高い周波数帯域にあるため、高周波数帯域においてノイズ抑制効果が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、高周波数帯域におけるノイズ抑制性能に優れた近傍界用ノイズ抑制シートを提供することができる。
【要約】
高周波数帯域におけるノイズ抑制性能に優れた近傍界用ノイズ抑制シートを提供する。近傍界用ノイズ抑制シートは、基材と、前記基材中に担持された扁平状の合金粉末と、前記基材中に分散した1種又は2種以上の添加剤と、を含み、所定の要件(i)、要件(ii)及び要件(iii)を全て満たす、ことを特徴とする。