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特許7493696複層塗膜の形成方法、複層塗膜および水性プライマー塗料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】複層塗膜の形成方法、複層塗膜および水性プライマー塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20240524BHJP
   C09D 123/00 20060101ALI20240524BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D123/00
C09D5/00 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024518433
(86)(22)【出願日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2023043448
【審査請求日】2024-03-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 卓也
(72)【発明者】
【氏名】前川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 日和
(72)【発明者】
【氏名】山下 聡一朗
(72)【発明者】
【氏名】竹迫 祥一
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-173861(JP,A)
【文献】特開2017-132902(JP,A)
【文献】特許第7134389(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物を塗装して、第1下塗り塗膜を形成することと、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成することと、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成することと、を備え、
前記水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性エポキシ樹脂(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含み、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記有機成分質量に占める前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上350g/L以下である、請求項1に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記水性プライマー塗料組成物の表面張力は、26.0mN/m以上30.0mN/m以下である、請求項1または2に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記増粘剤(C)は、ウレタン会合型増粘剤を含む、請求項1または2に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
さらに、水性ポリウレタン樹脂(F)を含有する、請求項1または2に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項6】
前記樹脂製の被塗物は、基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する前記複層塗膜以外の塗膜とを備える、請求項1または2に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項7】
前記樹脂製の被塗物の表面を構成するポリマーの溶解パラメータと、前記水性プライマー塗料組成物に含まれる前記有機溶剤(D)の溶解パラメータとの差が、2.5以下である、請求項請求項1または2に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項8】
前記第1下塗り塗膜を形成した後、前記水性着色ベース塗料組成物を塗装する前に、
前記第1下塗り塗膜上に、水性サーフェイサーを塗装して、第2下塗り塗膜を形成することを備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項9】
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物により形成された第1下塗り塗膜と、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有し、
前記水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性エポキシ樹脂(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含み、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、複層塗膜。
【請求項10】
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物により形成された第1下塗り塗膜と、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有する複層塗膜の形成に用いられる水性プライマー塗料組成物であって、
水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性エポキシ樹脂(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含み、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、水性プライマー塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜の形成方法、複層塗膜および水性プライマー塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染が深刻化し、国際的に有機溶剤の排出規制が強化されている。塗料分野においても、従来の溶剤系の塗料から、水を媒体にした水性塗料への移行が進んでいる。特許文献1は、水性のプライマー塗料組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第7134389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の水性プライマー塗料組成物は、水性であるにもかかわらず、揮発性有機化合物(VOC)の排出量を十分に低減できない。
【0005】
本発明は、VOCの排出量が十分に少なく、かつ、貯蔵安定性および樹脂製の被塗物に対する密着性に優れるプライマー塗料組成物を含む、オール水性の塗料組成物により形成された、外観に優れる複層塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物を塗装して、第1下塗り塗膜を形成することと、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成することと、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成することと、を備え、
前記水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、複層塗膜の形成方法。
[2]
前記有機成分質量に占める前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上350g/L以下である、上記[1]の複層塗膜の形成方法。
[3]
前記水性プライマー塗料組成物の表面張力は、26.0mN/m以上30.0mN/m以下である、上記[1]または[2]の複層塗膜の形成方法。
[4]
前記水性エポキシ樹脂(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、上記[1]または[2]の複層塗膜の形成方法。
[5]
前記増粘剤(C)は、ウレタン会合型増粘剤を含む、上記[1]または[2]の複層塗膜の形成方法。
[6]
さらに、水性ポリウレタン樹脂(F)を含有する、上記[1]または[2]の複層塗膜の形成方法。
[7]
前記樹脂製の被塗物は、基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する前記複層塗膜以外の塗膜とを備える、上記[1]または[2]の複層塗膜の形成方法。
[8]
前記樹脂製の被塗物の表面を構成するポリマーの溶解パラメータと、前記水性プライマー塗料組成物に含まれる前記有機溶剤(D)の溶解パラメータとの差が、2.5以下である、上記[1]または[2]の複層塗膜の形成方法。
[9]
前記第1下塗り塗膜を形成した後、前記水性着色ベース塗料組成物を塗装する前に、
前記第1下塗り塗膜上に、水性サーフェイサーを塗装して、第2下塗り塗膜を形成することを備える、上記[1]または[2]の複層塗膜の形成方法。
[10]
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物により形成された第1下塗り塗膜と、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有し、
前記水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、複層塗膜。
[11]
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物により形成された第1下塗り塗膜と、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有する複層塗膜の形成に用いられる水性プライマー塗料組成物であって、
水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、水性プライマー塗料組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、VOCの排出量が十分に少なく、かつ、貯蔵安定性および樹脂製の被塗物に対する密着性に優れるプライマー塗料組成物を含む、オール水性の塗料組成物により形成された、外観に優れる複層塗膜が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示に係る複層塗膜の形成方法は、樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物を塗装して、第1下塗り塗膜を形成することと、第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成することと、着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成することと、を備える。第1下塗り塗膜を形成した後、水性着色ベース塗料組成物を塗装する前に、第1下塗り塗膜上に、水性サーフェイサーを塗装して、第2下塗り塗膜を形成することを備えてもよい。
【0009】
本開示で用いられる水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下である。水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下である。水性ポリオレフィン樹脂(A)と水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5である。有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含む。有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下である。水性プライマー塗料組成物の全質量から水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、有機溶剤(D)の割合は、30g/L以上500g/L以下である。
【0010】
近年、自動車部材の材料として、金属に替えて樹脂が提案されている。樹脂製の被塗物の表面張力は、通常40mN/m以下である。一方、水の表面張力は約72.7mN/mである。そのため、一般に、水性の塗料組成物は樹脂製の被塗物に濡れ難く、造膜が困難である。本開示では、水性プライマー塗料組成物が、有機溶剤として難水溶性溶剤を少量含むため、少ないVOC排出量と樹脂製の被塗物に対する高い密着性(特に、水浸漬試験後の密着性(以下、耐水性ともいう。))とが両立する。水性プライマー塗料組成物は、樹脂製の被塗物の塗装に適している。
【0011】
水性プライマー塗料組成物は、特に、樹脂製の被塗物の表面にある微細な凹凸(傷)に入り込み易い。そのため、水性プライマー塗料組成物を微細な凹凸を有する樹脂製の被塗物に塗布すると、ハジキおよびカスレが抑制されて、均一に造膜する。よって、密着性が高く、平滑な下塗り塗膜が形成される。その結果、複層塗膜全体の密着性および外観が向上する。以下、微細な凹凸を有する樹脂製の被塗物に塗布したときに均一に造膜する性能を造膜性と称する。造膜性は、複層塗膜全体の外観および密着性に影響する。
【0012】
微細な凹凸は、例えば研磨によって形成される。微細な凹凸は、♯1000~♯2000(代表的には、♯1500)の研磨紙を往復20回研磨して形成される凹凸に相当する。微細な凹凸の算術平均粗さRaは、0.01μm~0.5μmであり得、0.1μm程度(0.07μm~0.12μm)であり得る。
【0013】
水性プライマー塗料組成物は、水性エポキシ樹脂(B)を所定量含むため、旧塗膜に対する密着性にも優れる。水性プライマー塗料組成物は、少なくとも一部が旧塗膜で被覆された被塗物の塗装に適している。水性プライマー塗料組成物は、一部が旧塗膜で被覆され、他の部分において基材が露出している部材の塗装に適している。
【0014】
旧塗膜とは、本開示の複層塗膜が形成される前に、基材上に形成されていた、当該複層塗膜以外の塗膜である。旧塗膜は、例えば、自動車外装用の塗膜(中塗り、ベース層およびクリヤー層の少なくとも1つ)であり得る。部分補修の際、旧塗膜の一部(例えば、損傷部分)が研磨により除去された後、本開示の複層塗膜が形成される。補修の際、旧塗膜を除去することなく、旧塗膜上に本開示の複層塗膜が形成されてもよい。
【0015】
以下、水性樹脂とは、水溶性樹脂、あるいは水分散性樹脂をいう。水分散性樹脂はさらに、ディスパージョン型(一般にコロイダルディスパージョン型と称される。)とエマルション型とに分けられる。コロイダルディスパージョン型の水性樹脂は、典型的には、有機溶剤中で合成された樹脂を、中和剤によって水に半溶解させることにより得られる。エマルション型の水性樹脂は、典型的には、乳化重合により製造されるか、あるいは、機械的に強制乳化することにより製造される。水性樹脂はまた、疎水性の樹脂を極性化合物で変性することにより、あるいは、樹脂の合成に極性モノマーを使用することにより得られる。水性樹脂は、ディスパージョン型であってよい。水性化とは、樹脂を水溶性あるいは水分散性にすることをいう。
【0016】
水性塗料組成物は、水を溶媒として含む。全溶媒に占める水の割合は、50質量%以上であり、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよい。
【0017】
水性塗料組成物に含まれる樹脂固形分とは、樹脂成分の合計の固形分である。樹脂成分とは、増粘剤、各種顔料、有機溶剤、水およびその他の無機成分以外の成分である。例えば、水性プライマー塗料組成物の樹脂成分とは、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)およびその他の樹脂である。
【0018】
重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法によるポリスチレン標準で測定される。
【0019】
ガラス転移温度Tgは、原料モノマーの種類および量から計算によって求めてよく、示差走査熱量計(DSC)によって測定されてもよい。
【0020】
酸価および水酸基価は、JIS K 0070:1992に記載される公知の方法によって測定することができる。酸価および水酸基価は、対象の樹脂の原料モノマー中の不飽和モノマーの配合量から算出されてもよい。酸価および水酸基価は、固形分を基準として求められる。
【0021】
平均粒子径は、レーザ回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いた体積基準の粒度分布における、50%平均粒子径(D50)である。
【0022】
表面張力は、白金リング法により測定される。表面張力の測定には、例えば、ダイノメーター(ドイツ・ビックガードナー社製)が使用される。
【0023】
溶解パラメータ(SP値)は、既知の値を利用してよい。SP値は、以下の方法によって実測されてもよい。(参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967))。
【0024】
サンプルとして、測定の対象物0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒(アセトン)10mlに溶解したものを使用する。このサンプルに、測定温度20℃で50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。貧溶媒としては、高SP貧溶媒としてイオン交換水、低SP貧溶媒としてn-ヘキサンを使用し、それぞれの濁点を測定する。測定の対象物のSP値δは下記計算式によって与えられる。
【0025】
【数1】
Vi:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における溶媒iの体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0026】
【数2】
【0027】
【数3】
【0028】
まず、複層塗膜の形成に用いられる塗料組成物について説明する。
(水性プライマー塗料組成物)
本開示に係る水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有する。
【0029】
水性プライマー塗料組成物の固形分含有量は、5質量%以上17質量%以下である。これにより、造膜性、耐水性および塗装作業性がバランスする。水性プライマー塗料組成物の固形分含有量は、7質量%以上であってよく、9質量%以上であってよい。水性プライマー塗料組成物の固形分含有量は、14質量%以下であってよく、12質量%以下であってよい。
【0030】
水性プライマー塗料組成物の固形分含有量は、下記のようにして求められる。水性プライマー塗料組成物を、直径約5cmのアルミニウム箔カップに入れて秤量する。このアルミニウム箔カップを、110℃で1時間加熱して、残分の質量(g)を秤量する。残分の質量を、加熱前の質量で除してパーセンテージ表示した値が、固形分含有量(質量%)である。
【0031】
水性プライマー塗料組成物の全質量から水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、有機溶剤(D)の割合(以下、VOC量と称する。)は、30g/L以上500g/L以下である。塗料に含まれるVOC量が少ないと、塗膜形成の際に排出されるVOC量も低減する。
【0032】
VOC量は、下記式から算出できる。水(E)の濃度は、水性プライマー塗料組成物に含まれるすべての水の質量を、水性プライマー塗料組成物の質量で除して得られる。有機溶剤(D)の濃度は、水性プライマー塗料組成物に含まれる有機溶剤(D)の合計質量を、水性プライマー塗料組成物の質量で除して得られる。
【0033】
VOC量の算出には、朝倉 光彦、”環境対応における水性塗料の進歩”、表面技術、一般社団法人 表面技術協会、1997年、48巻、8号、p.760-764が参考にできる。

【0034】
VOC量は少ないほど望ましいが、樹脂製の被塗物との密着性の観点から、40g/L以上であってよく、100g/L以上であってよい。VOC量は、350g/L以下であってよく、300g/Lであってよく、250g/Lであってよい。
【0035】
水性プライマー塗料組成物の表面張力は、例えば、26.0mN/m以上30.0mN/m以下であってよい。これにより、水性プライマー塗料組成物の樹脂製の被塗物に対する濡れ性がさらに向上し、均一な塗膜が形成され易くなる。水性プライマー塗料組成物の表面張力は、26.6mN/m以上であってよく、27.0mN/m以上であってよい。水性プライマー塗料組成物の表面張力は、29.5mN/m以下であってよく、29.0mN/m以下であってよい。水性プライマー塗料組成物の表面張力は、有機溶剤(D)の種類および量により調整できる。
【0036】
・水性ポリオレフィン樹脂(A)
水性ポリオレフィン樹脂(A)は、特に限定されず、従来公知の方法で製造することができる。水性ポリオレフィン樹脂(A)は、例えば、酸無水物で変性されたポリオレフィン樹脂にトルエンを加えて加熱して樹脂溶液を得て、この樹脂溶液に界面活性剤を加えて、50~60℃で強制攪拌しながら、イオン交換水を滴下して転相乳化する方法により得られる。また、水性ポリオレフィン樹脂(A)は、酸無水物変性ポリオレフィン樹脂を加熱してテトラヒドロフラン等の溶剤に溶解した後、当該樹脂のカルボキシル基を過剰のアミンで中和し、50~60℃で強制攪拌しながら、イオン交換水を滴下して転相乳化する方法により得られる。あるいは、上記溶解物に乳化剤およびアミンを混合した後、強制攪拌しながら60℃程度のイオン交換水を滴下して乳化する方法により得られる。水性ポリオレフィン樹脂(A)は、上記手順とは逆に、アミン等の中和剤および/または界面活性剤等が溶解した温水中に、溶融あるいは溶解した酸無水物変性ポリオレフィンを強制攪拌しながら滴下して、乳化する方法によっても得られる。
【0037】
水性ポリオレフィン樹脂(A)としては、例えば、オレフィンモノマー(例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ヘプテン)の単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体、オレフィンモノマーと他の不飽和モノマー(例えば、酢酸ビニル、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル)との共重合体が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0038】
水性ポリオレフィン樹脂(A)は、プロピレンの単独重合体であってよく、プロピレンと他のオレフィンモノマーとの共重合体であってよく、プロピレンと他の不飽和モノマーとの共重合体であってよく、これらと他の重合体との混合物であってよい。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。水性ポリオレフィン樹脂(A)を構成するモノマーの90質量%以上がプロピレンであってよい。
【0039】
水性ポリオレフィン樹脂(A)は、変性体であってよい。変性体としては、例えば、水性ポリオレフィン樹脂の無水不飽和カルボン酸付加物が挙げられる。無水不飽和カルボン酸としては、例えば、無水マレイン酸、フマル酸、無水イタコン酸、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。該変性体は、通常、ポリオレフィン類と無水不飽和カルボン酸とを有機過酸化物等の存在下で反応させることによって得られる。
【0040】
水性ポリオレフィン樹脂(A)のガラス転移温度Tgは、-40℃以上-10℃以下である。水性ポリオレフィン樹脂(A)のTgが低いことにより造膜性が向上して、被塗物と密着し易くなる。水性ポリオレフィン樹脂(A)のTgは、-30℃以上であってよい。水性ポリオレフィン樹脂(A)のTgは、-10℃以下であってよく、-20℃以下であってよい。
【0041】
水性ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、例えば、2,000以上300,000以下である。水性ポリオレフィン樹脂(A)のMwは、10,000以上であってよく、30,000以上であってよい。水性ポリオレフィン樹脂(A)のMwは、200,000以下であってよく、120,000以下であってよく、80,000以下であってよい。
【0042】
水性ポリオレフィン樹脂(A)の固形分質量は、水性プライマー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、例えば、50質量部以上98質量部以下である。水性ポリオレフィン樹脂(A)の上記固形分質量が50質量部以上であると、樹脂製の被塗物との密着性がさらに向上し得る。水性ポリオレフィン樹脂(A)の上記固形分質量が98質量部以下であると、水性着色ベース塗膜との密着性がさらに向上し得る。水性ポリオレフィン樹脂(A)の上記固形分質量は、55質量部以上であってよく、60質量部以上であってよい。水性ポリオレフィン樹脂(A)の上記固形分質量は、95質量部以下であってよく、90質量部以下であってよく、85質量部以下であってよい。
【0043】
水性ポリオレフィン樹脂(A)は、塩素化されていてよく、塩素化されていなくてよい。水性ポリオレフィン樹脂(A)は、環境保全の観点から、塩素化されていなくてよい。塩素化率は、例えば、5%以上50%以下であってよい。塩素化は、例えば、四塩化炭素等の塩素系溶剤にポリオレフィン樹脂を加熱溶解し、50~120℃の温度で塩素ガスを吹き込むことにより行われる。
【0044】
水性ポリオレフィン樹脂(A)の市販品としては、例えば、スーパークロンシリーズ、アウローレンシリーズ(以上、いずれも日本製紙社製)、ハードレンシリーズ(東洋紡社製)、アプトロックシリーズ(三菱ケミカル社製)が挙げられる。
【0045】
非塩素化の水性ポリオレフィン樹脂(A)の市販品としては、例えば、アウローレンAE-301、スーパークロンE-415、E-480T(以上、いずれも日本製紙ケミカル社製)が挙げられる。塩素化の水性ポリオレフィン樹脂(A)の市販品としては、例えば、アローベースDA-1010(ユニチカ社製)、ハードレンEW-5515、ハードレンEW-5303、ハードレンEW-5250(以上、いずれも東洋紡株式会社)、アプトロック(三菱ケミカル社製)が挙げられる。
【0046】
・水性エポキシ樹脂(B)
水性エポキシ樹脂(B)は、複層塗膜の耐水性および耐湿性の向上に貢献する。補修塗装の際、水性エポキシ樹脂(B)は、新しい塗膜と旧塗膜との密着性の向上に貢献する。水性プライマー塗料組成物は、特に補修用として適している。
【0047】
水性エポキシ樹脂(B)は、例えば、エポキシ樹脂に脂肪酸(例えば、カルボキシル基含有ビニルモノマー)をグラフト重合した後、中和することにより、水分散体として得られる。
【0048】
水性エポキシ樹脂(B)の固形分質量は、水性プライマー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、例えば、2質量部以上50質量部以下である。水性エポキシ樹脂(B)の上記固形分質量は、5質量部以上であってよく、10質量部以上であってよく、15質量部以上であってよい。水性エポキシ樹脂(B)の上記固形分質量は、45質量部以下であってよく、40質量部以下であってよい。
【0049】
水性ポリオレフィン樹脂(A)と水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5である。これにより、オール水性塗料で形成された複層塗膜は、優れた耐水性を示す。質量比(A/B)は、70:30~90:10であってよい。
【0050】
水性エポキシ樹脂(B)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;上記ビスフェノール型エポキシ樹脂を二塩基酸等で変性したエポキシエステル樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ポリグリコール型エポキシ樹脂;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル等の脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有アクリルモノマーを構成成分とするエポキシ基含有アクリル樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0051】
なかでも、密着性の観点から、芳香族系エポキシ樹脂であってよく、ビスフェノール型エポキシ樹脂であってよく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であってよい。
【0052】
水性エポキシ樹脂(B)は、例えば、フェノールノボラック樹脂にエピクロヒドリンを付加して得られる。このような水性エポキシ樹脂(B)の市販品としては、例えば、デナコールEM150(長瀬ケムテック社製)、エピレッツ6006W70、5003W55(ジャパンエポキシレジン社製)、ウォーターゾールシリーズ(DIC社製)、WEX-5100(東都化成社製)が挙げられる。
【0053】
水性エポキシ樹脂(B)は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂を乳化剤で強制乳化して得られてよい。このような水性エポキシ樹脂(B)の市販品としては、例えば、デナコールEM101、EM103(長瀬ケムテック社製)、エピレッツ3510W60、3515W6、3522W60、3540WY55(以上、いずれもジャパンエポキシレジン社製)が挙げられる。
【0054】
水性エポキシ樹脂(B)は、例えば、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン等のポリオールに、エピクロヒドリンを付加したアルキルタイプであってよい。このような水性エポキシ樹脂(B)の市販品としては、例えば、デナコールEX-611、EX-614、EX-411、EX-313(以上、いずれも長瀬ケムテック社製)が挙げられる。
【0055】
水性エポキシ樹脂(B)は、変性されていてよい。水性エポキシ樹脂(B)は、例えば、アクリル変性、ウレタン変性、アミン変性、エステル変性されていてよい。アクリル変性されたビスフェノールA型の水性エポキシ樹脂(B)の市販品としては、例えば、モデピクス 304(荒川化学工業社製)が挙げられる。
【0056】
・増粘剤(C)
増粘剤(C)は、水性プライマー塗料組成物の粘性を増加させる。増粘剤(C)としては、例えば、無機増粘剤、セルロース誘導体、ウレタン会合型増粘剤、ポリアマイド型増粘剤およびアルカリ膨潤型増粘剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、フロー性の観点から、ウレタン会合型増粘剤であってよい。
【0057】
ウレタン会合型増粘剤としては、例えば、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系増粘剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系増粘剤が挙げられる。
【0058】
ウレタン会合型増粘剤の市販品としては、例えば、アデカノールUH-756VF(ADEKA社製)、BYK-420(BYK社製)が挙げられる。
【0059】
増粘剤(C)の固形分質量は、水性プライマー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上5質量部以下である。増粘剤(C)の上記固形分質量は、1質量部以上であってよく、2質量部以上であってよい。増粘剤(C)の上記固形分質量は、4.5質量部以下であってよく、4質量部以下であってよい。
【0060】
・有機溶剤(D)
有機溶剤(D)は、水性プライマー塗料組成物の表面張力を小さくして、樹脂製の被塗物に対する濡れ性を向上させる。一方、水性塗料の安定性およびVOC排出量低減の観点から、有機溶剤(D)の使用量は少ないことが望まれる。20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)を用いることにより、少ない使用割合の有機溶剤(D)で、樹脂製の被塗物に対する濡れ性が向上する。
【0061】
有機溶剤(D)に占める難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下である。難水溶性溶剤(D1)により、水性プライマー塗料組成物の表面張力は効果的に低減する。難水溶性溶剤(D1)の上記割合は、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよい。難水溶性溶剤(D1)の上記割合は、50質量%以下であってよく、40質量%以下であってよく、35質量%以下であってよい。
【0062】
有機溶剤(D)は、難水溶性溶剤(D1)とともに、両親媒性溶剤(D2)および親水性溶剤(D3)の少なくとも一方を含む。これにより、有機溶剤(D)と水(E)との相溶性が向上し、水性プライマー塗料組成物の貯蔵安定性が向上する。
【0063】
難水溶性溶剤(D1)としては、例えば、2-エチル-1-ヘキサノール(0.07g/100g)、プロピオン酸ノルマルブチル(別名:ノルマルブチルプロピオネート、0.2g/100g)が挙げられる。丸カッコ内に、20℃の水への溶解度を示している。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。難水溶性溶剤(D1)の市販品としては、例えば、Aソルベント(JX日鉱日石エネルギー社製、0g/100g)、イプゾールTP(出光興産社製、0g/100g)が挙げられる。
【0064】
両親媒性溶剤(D2)としては、例えば、酢酸イソアミル(1.7g/100g)メトキシプロピルアセテート(別名:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、19.8g/100g)、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート(18. 5g/100g)、エトキシプロピルアセテート(9. 5g/100g)、3-メトキシブチルアセテート(別名:酢酸メトキシブチル、6.5g/100g)、3-メチル-3- メトキシブチルアセテート(別名:3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、6.8g/100g)、エチル-3-エトキシプロピオネート(1.3g/100g)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(別名:ジメチルプロピレンジグリコール、37g/100g)、酢酸シクロヘキシル(1.4g/100g)、プロピレングリコールモノt-ブチルエーテル(14.5g/100g)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(6.4g/100g)が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0065】
親水性溶剤(D3)としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(別名:セロソルブ、100g以上/100g)、イソプロピルグリコール(別名:エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、100g以上/100g)、エチレングリコールモノ イソブチルエーテルアセテート(100g以上/100g)、エチレングリコールモノ ブチルエーテル(別名ブチルセロソルブ、100g以上/100g)、3-メトキシ-3-メチルブタノール(100g以上/100g)、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル(100g以上/100g)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(100g以上/100g)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(100g以上/100g)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(100g以上/100g)、エチレングリコールモノイソアミルエーテル(100g以上/100g)が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0066】
有機溶剤(D)のSP値は、例えば、7.90以上9.80以下であってよい。これにより、水性プライマー塗料組成物の樹脂製の被塗物に対する濡れ性がさらに向上し、均一な塗膜が形成され易くなる。有機溶剤(D)のSP値は、8.00以上であってよく、8.30以上であってよい。有機溶剤(D)のSP値は、9.70以下であってよく、9.30以下であってよい。
【0067】
有機溶剤(D)のSP値は、各有機溶剤の容積基準の混合割合(容積%)と各有機溶剤のSP値とから算出される。有機溶剤(D)のSP値は、具体的には、(難水溶性溶剤(D1)の混合割合X1(容積%)×そのSP値Y1)と、(両親媒性溶剤(D2)の混合割合X2(容積%)×そのSP値Y2)と、(親水性溶剤(D3)の混合割合X3(容積%)×そのSP値Y3)との和である。
【0068】
有機溶剤(D)のSP値と樹脂製の被塗物の表面を構成するポリマーのSP値との差ΔSPは、例えば、2.50以下である。これにより、水性プライマー塗料組成物の樹脂製の被塗物に対する濡れ性がさらに向上し、均一な塗膜が形成され易くなる。ΔSPは、0.00以上であってよく、0.40以上であってよい。ΔSPは、2.50以下であってよく、2.00以下であってよい。
【0069】
樹脂製の被塗物の表面を構成するポリマーとは、被塗物の表面を含む部分の50質量%以上を占めるポリマーである。例えば、ポリプロピレン樹脂製と表示されている部材を被塗物に用いる場合、既知のポリプロピレン樹脂のSP値を、当該被塗物の表面を構成するポリマーのSP値とみなして差し支えない。(参考文献:小林 敏勝、”溶解性パラメーターと表面張力~溶かす・混ぜる・濡らす・くっつけるの基礎知識~”、色材協会誌、2017 年 90 巻 9 号 p. 324-332)
【0070】
被塗物の表面を構成するポリマーのSP値は、ポリプロピレン樹脂のSP値で代用することができる。ポリプロピレン樹脂は、特に難密着性の樹脂として知られており、ポリプロピレン樹脂に塗膜を密着させるのは困難である。そのため、ポリプロピレン樹脂のSP値とのSP値の差ΔSPが2.5以下である有機溶剤(D)は、他のポリマーとの濡れ性にも優れていると言って差し支えない。ポリプロピレン樹脂のSP値は既知であり、7.90である(出典:羽田正紀、”プラスチックフィルムの表面改質”、日本印刷学会誌 第47巻、第2号(2010)総説、p. 78-83)。つまり、「有機溶剤(D)のSP値と樹脂製の被塗物の表面を構成するポリマーのSP値との差ΔSP」は、「有機溶剤(D)のSP値とポリプロピレン樹脂のSP値(=7.90)との差ΔSP」と言い換えることができる。
【0071】
・水(E)
水(E)としては、例えば、純水、イオン交換水、水道水、工業水などの各種水が挙げられる。
【0072】
・水性ポリウレタン樹脂(F)
水性プライマー塗料組成物は、水性ポリウレタン樹脂(F)を含み得る。補修塗装の際、水性ポリウレタン樹脂(F)は、新しい塗膜と旧塗膜との密着性の向上に貢献する。水性ポリウレタン樹脂(F)を含む水性プライマー塗料組成物は、特に補修用として適している。
【0073】
水性ポリウレタン樹脂(F)は、例えば、後述する方法にて得られたNCO末端プレポリマーを中和して水に分散した後、鎖延長反応する方法、いわゆるプレポリマーミキシング法により調製される。
【0074】
水性ポリウレタン樹脂(F)の固形分質量は、水性プライマー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、例えば、0質量部以上10質量部以下である。水性ポリウレタン樹脂(F)の上記固形分質量は、2質量部以上であってよく、3質量部以上であってよい。水性ポリウレタン樹脂(F)の上記固形分質量は、7質量部以下であってよく、6質量部以下であってよい。
【0075】
水性ポリウレタン樹脂(F)の酸価は、耐水性の観点から、例えば、0mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であってよい。水性ポリウレタン樹脂(F)の酸価は、5mgKOH/g以上であってよく、10mgKOH/g以上であってよい。水性ポリウレタン樹脂(F)の酸価は、30mgKOH/g以下であってよく、20mgKOH/g以下であってよい。
【0076】
水性ポリウレタン樹脂(F)のTgは、例えば、-50℃以上5℃以下であってよい。これにより、造膜性が向上して、被塗物と密着し易くなる。水性ポリウレタン樹脂(F)のTgは、-40℃以上であってよく、-35℃以上であってよい。水性ポリウレタン樹脂(F)のTgは、0℃以下であってよく、-10℃以下であってよい。
【0077】
ポリウレタン樹脂は、例えば、多価アルコール、ポリイソシアネート化合物および分子内に活性水素基を有する化合物を反応させることによって調製される。
【0078】
多価アルコールは、水酸基を2つ以上有する。多価アルコールとしては、例えば、ポリエステル樹脂ディスパージョン(F)の原料として挙げられたのと同様の化合物が挙げられる。多価アルコールは、数平均分子量が500以上5000以下であってよい。
【0079】
ポリイソシアネート化合物は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネ-トなどの炭素数2~12の脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソプロピリデンシクロヘキシル-4,4’-ジイソシアネートなどの炭素数4~18の脂環族ジイソシアネート;2,4-トルイレンジイソシアネート、2,6-トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,5’-ナフテンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;リジンエステルトリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4,4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどのトリイソシアネート類が挙げられる。
【0080】
ポリイソシアネート化合物は、上記ポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー(イソシアヌレート結合)であってよく、上記ポリイソシアネート化合物とアミンとを反応させたビウレットであってよい。上記ポリイソシアネート化合物と多価アルコールとを反応させた、ウレタン結合を有するポリイソシアネートを用いてもよい。
【0081】
なかでも、脂環族ジイソシアネートであってよい。これにより、ポリウレタン樹脂(F)の分子中に環状構造が導入されて、耐候性が向上する。
【0082】
分子内に活性水素基を有する化合物は、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基のブロッキングに用いられる。分子内に活性水素基を有する化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの1価アルコール;酢酸、プロピオン酸などの1価のカルボン酸;エチルメルカプタンなどの1価チオール;ジエチレントリアミン、モノエタノールアミンなどの第1級アミン;ジエチルアミンなどの第2級アミン;メチルエチルケトキシムなどのオキシムが挙げられる。
【0083】
ポリウレタン樹脂の調製には、必要に応じて、鎖伸長剤、モノイソシアネート化合物、触媒等が用いられる。
【0084】
ポリウレタン樹脂は、例えば、各成分を一度に反応させるワンショット法、あるいは、段階的に反応させる多段法(活性水素含有化合物の一部(例えば、高分子ポリオール)とポリイソシアネートとを反応させてNCO末端プレポリマーを形成したのち、活性水素含有化合物の残部を反応させる方法)により合成される。合成反応は、例えば、40℃以上140℃以下で実施される。
【0085】
水性ポリウレタン樹脂(F)の市販品としては、例えば、スーパーフレックス150、スーパーフレックス420、スーパーフレックス460等のスーパーフレックスシリーズ(第一工業製薬社製)、ネオステッカーシリーズ、エバファノールシリーズ(以上、いずれも日華化学社製)、バイヒドロールVP LS2952等のバイヒドロールシリーズ(住化コベストロウレタン社製)、VONDIC 2260、VONDIC 2220、ハイドランWLS210、ハイドランWLS213(以上、いずれも大日本インキ化学工業社製)、NeoRez R9603(アビシア社製)が挙げられる。
【0086】
・添加剤
水性プライマー塗料組成物は、必要に応じ、各種添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、表面調整剤、防腐剤、防かび剤、消泡剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤が挙げられる。
【0087】
表面調整剤は、水性プライマー塗料組成物の表面張力を低下することができる。一方、第1下塗り塗膜の樹脂製の被塗物に対する密着性を低下し得る。そのため、表面調整剤の含有量は、水性プライマー塗料組成物に含まれる樹脂固形分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であってよい。表面調整剤の含有量は、5質量部以下であってよく、2質量部以下であってよい。
【0088】
(水性サーフェイサー)
水性サーフェイサーは、例えば、2液型である。水性サーフェイサーは、例えば、水酸基含有樹脂(a1)と水性溶媒(a2)とを含む第1主剤、および、ポリイソシアネート化合物(b1)と水酸基を有さない有機溶媒(b2)とを含む第1硬化剤を含む。
【0089】
水酸基含有樹脂(a1)としては、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオールが挙げられる。なかでも、得られる塗膜の外観、耐候性、耐薬品性等の諸物性が良好になり易い点で、アクリルポリオールであってよい。
【0090】
水酸基含有樹脂(a1)は、例えば、1種以上の原料モノマーを乳化重合することによって得られる。乳化重合は、当業者において一般的に行われる方法により行われる。具体的には、必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体に乳化剤を混合し、得られた混合物を加熱および撹拌させながら、原料モノマーおよび重合開始剤を滴下する。また、原料モノマー、乳化剤および水を予め乳化した乳化混合物を、水性媒体中に滴下してもよい。上記水性媒体は、水性溶媒(a2)と同じでも異なっていてもよい。
【0091】
アクリルポリオールのエマルションは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、酸基含有エチレン性不飽和モノマー、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー、およびスチレン系モノマーを含む原料モノマー混合物を、乳化重合することにより得られる。
【0092】
水性溶媒(a2)としては、例えば、水(E)と同様のものが例示できる。第1主剤は、水とともに、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、例えば、有機溶剤(D)として例示されたもののうち、水酸基を有さない有機溶剤が挙げられる。
【0093】
第1主剤と第1硬化剤とを混合して、水性サーフェイサーを調製する。第1主剤と第1硬化剤との混合は、塗装の直前に行われる。第1主剤と第1硬化剤とは、混合された後、塗装装置に供給されてもよいし、塗装装置内で混合されてもよい。
【0094】
第1主剤と第1硬化剤とは、水酸基含有樹脂(a1)の水酸基当量とポリイソシアネート化合物(b1)のイソシアネート基当量とが、イソシアネート基当量/水酸基当量=1/0.5~1/2になるように混合される。
【0095】
第1主剤は、さらに顔料(c)を含んでもよい。顔料(c)の含有量は、例えば、第1主剤に含まれる樹脂固形分100質量部に対して、100質量部以上300質量部以下であり、120質量部以上200質量部以下であってよい。
【0096】
顔料(c)としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニンブルー等の着色顔料;アルミニウム片、マイカ片等の光輝性顔料;炭酸カルシウム、クレー、タルク、酸化バリウム、シリカ等の体質顔料:トリポリリン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等の防錆顔料;が挙げられる。
【0097】
なかでも、得られる塗膜の研磨性および造膜性の観点から、少なくとも体質顔料が含まれてよい。体質顔料の割合は、例えば、全顔料の合計100質量部に対して、30質量%以上100質量%以下であり、40質量%以上70質量%以下であってよい。
【0098】
水性サーフェイサーは、エポキシ基含有シランカップリング剤を含んでよい。エポキシ基含有シランカップリング剤は、反応性シリル基、および、有機官能基として1以上のエポキシ基を有する。エポキシ基含有シランカップリング剤は、2以上のエポキシ基を有していてもよい。
【0099】
エポキシ基は、エーテル結合を有する三員環(オキシラン環)である。エポキシ基は、高い反応性を有し、水酸基含有樹脂(a1)および/またはポリイソシアネート化合物(b1)と反応する。そのため、得られる硬化塗膜の架橋密度が高まる。
【0100】
エポキシ基含有シランカップリング剤は、第1主剤および第1硬化剤の少なくとも一方に添加され得る。シランカップリング剤は、水酸基含有樹脂(a1)およびポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上8質量部以下になるように、添加される。
【0101】
(水性着色ベース塗料組成物)
水性着色ベース塗料組成物は、硬化タイプであってよく、ラッカータイプであってよい。水性着色ベース塗料組成物は、さらに顔料を含む。顔料としては、例えば、顔料(c)で例示された着色顔料および/または光輝性顔料が挙げられる。
【0102】
硬化タイプの水性着色ベース塗料組成物は、硬化性の樹脂(例えば、上記の第1主剤)と硬化剤(例えば、上記の第1硬化剤)とを含み、加熱によって硬化塗膜が形成される。硬化タイプの水性着色ベース塗料組成物は、さらに、シランカップリング剤(例えば、エポキシ基含有シランカップリング剤)を含んでいてもよい。
【0103】
ラッカータイプの水性着色ベース塗料組成物は、水と、有機溶剤と、これに溶解または分散したバインダー樹脂とを含み、水および有機溶剤の揮発によって、硬化塗膜が形成される。バインダー樹脂の濃度は特に限定されず、組成や用途に応じて適宜設定される。
【0104】
バインダー樹脂は特に限定されない。バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アミノアルキド樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、カシュー樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、スチレン化アルキド樹脂、セルロース系樹脂(例えば、硝酸セルロースなど)、尿素樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、フタル酸樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、および、これらの変性樹脂(例えば、ロジン変性、フェノール変性、エポキシ樹脂変性、スチレン変性、アクリル変性、ウレタン変性)が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。有機溶剤としては、例えば、ナフサ、キシレン、トルエン、アセトンが挙げられる。
【0105】
(水性クリヤー塗料組成物)
水性クリヤー塗料組成物は、例えば、2液型である。水性クリヤー塗料組成物は、上記と同様の水酸基含有樹脂(a1)と水性溶媒(a2)とを含む第2主剤、および、上記と同様のポリイソシアネート化合物(b1)と水酸基を有さない有機溶媒(b2)とを含む第2硬化剤を含む。水性クリヤー塗料組成物の各成分と水性サーフェイサーの各成分とは、同じであってよく、異なっていてよい。
【0106】
第2主剤と第2硬化剤とは、水酸基含有樹脂(a1)の水酸基当量とポリイソシアネート化合物(b1)のイソシアネート基当量とが、イソシアネート基当量/水酸基当量=1/0.5~1/1.5になるように混合される。
【0107】
水性クリヤー塗料組成物は、上記と同様のエポキシ基含有シランカップリング剤を含んでよい。エポキシ基含有シランカップリング剤は、水酸基含有樹脂(a1)およびポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1.2質量部以上10質量部以下になるように、添加される。
【0108】
水性サーフェイサーおよび水性クリヤー塗料組成物の少なくとも一方が、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤を含んでよい。これにより、複層塗膜全体の耐水性がさらに向上し得る。水性サーフェイサーおよび水性クリヤー塗料組成物の双方が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含んでよい。水性クリヤー塗料組成物および水性サーフェイサーに含まれるエポキシ基含有シランカップリング剤は、同じであってよく、異なっていてよい。
【0109】
(水性塗料組成物の調製方法)
各水性塗料組成物は、公知の手法によって調製することができる。各水性塗料組成物は、上記の成分を混合することにより調製される。混合には、例えば、ペイントシェーカー、ミキサー等の通常用いられる混合装置が用いられる。主剤と硬化剤との混合は、通常、使用の直前に行われる(例えば、混合した後、60分以内に使用される)。
【0110】
(樹脂製の被塗物)
被塗物は、少なくとも被塗物の表面が樹脂製であればよい。被塗物全体が、樹脂により形成されていてもよく、樹脂製または金属製の基材の表面の少なくとも一部が樹脂により被覆されていてよい。基材の表面を覆う樹脂は、旧塗膜であってよい。すなわち、樹脂製の被塗物は、樹脂により形成されていてよく、樹脂製の基材とその表面の少なくとも一部を被覆する旧塗膜を有していてよく、金属製の基材とその表面の少なくとも一部を被覆する旧塗膜を有していてよい。本開示で用いられる水性プライマー塗料組成物は、樹脂製または金属製の基材に加え、旧塗膜に対する密着性にも優れる。
【0111】
樹脂製の被塗物を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート(PC)/ABS樹脂、PC/アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体(AES樹脂)、AES樹脂、PC/ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、PC/ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、PC樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、GF-PBT樹脂、GF-ポリアミド(PA)樹脂、ノリル・GTX樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC樹脂)、アクリロニトリル・スチレン・アクリル(ASA)樹脂、炭素繊維強化プラスチック(CFRP樹脂)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP樹脂)が挙げられる。
【0112】
金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛またはこれらの合金が挙げられる。金属製の基材は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ジルコニウム化成処理、複合酸化物処理が挙げられる。金属製の被塗物は、表面処理後、さらに電着塗料によって塗装されていてもよい。電着塗料は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。
【0113】
[塗装物品の製造方法]
塗装物品は、樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物を塗装して、第1下塗り塗膜を形成することと、第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成することと、着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成することと、を備える方法により製造される。
【0114】
第1下塗り塗膜を形成した後、水性着色ベース塗料組成物を塗装する前に、第1下塗り塗膜上に、水性サーフェイサーを塗装して、第2下塗り塗膜を形成することを備えてもよい。
【0115】
(I)第1下塗り塗膜を形成する工程
本工程では、樹脂製の被塗物に、上記の水性プライマー塗料組成物を塗装して、第1下塗り塗膜を形成する。
【0116】
水性プライマー塗料組成物の塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。水性プライマー塗料組成物は、例えば、硬化後の第1下塗り塗膜の厚さが10μm以上40μm以下になるように、塗布される。
【0117】
水性プライマー塗料組成物の塗装方法は、特に限定されない。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。補修の場合、局所的な塗装が容易である点で、エアスプレー塗装が好ましい。塗装は複数回行われてもよい。自動車塗装に通常用いられる塗装方法(例えば、エアスプレー塗装)において、水性プライマー塗料組成物は、微細な凹凸を有する被塗物に対しても高い造膜性を示す。
【0118】
水性プライマー塗料組成物が塗装された後、加熱して、塗膜を硬化(この場合、乾燥固化ともいえる。)させる。硬化条件は、塗布量や組成に応じて適宜設定される。硬化は、例えば、40℃以上70℃以下の温度で、30分から60分間程度行われる。
【0119】
塗膜は、自然乾燥されてもよい。自然乾燥は、常温(23℃±3℃)で、2時間以上、24時間以上、さらには1週間以上行われ得る。
【0120】
補修する場合、水性プライマー塗料組成物を塗装する前に、必要に応じて、被塗物の対象部位とその周辺が研磨され、パテで凹凸が埋められる。続いて、当該部分は再度研磨される。
【0121】
(II)第2下塗り塗膜を形成する工程
本工程では、被塗物に、水性サーフェイサーを塗装して、第2下塗り塗膜を形成する。第2下塗り塗膜は必要に応じて形成される。
【0122】
水性サーフェイサーの塗装方法は特に限定されず、水性プライマー塗料組成物と同様の方法が挙げられる。水性サーフェイサーの塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。水性サーフェイサーは、例えば、硬化後の第2下塗り塗膜の厚さが20μm以上100μm以下になるように、塗布される。水性サーフェイサーの硬化は、例えば、水性プライマー塗料組成物と同様の方法により行われる。
【0123】
通常、硬化後に、第1,第2下塗り塗膜は研磨および脱脂される。研磨は、サンドペーパー等を用いて行われる。
【0124】
(III)着色ベース塗膜を形成する工程
本工程では、第1あるいは第2下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成する。水性着色ベース塗料組成物の塗装は、複数回行われてもよい。
【0125】
水性着色ベース塗料組成物の塗装方法は特に限定されず、水性プライマー塗料組成物と同様の方法が挙げられる。水性着色ベース塗料組成物の塗布量は特に限定されず、例えば、硬化後の着色ベース塗膜の厚さが10μm以上100μm以下になるように、塗布される。塗装後、塗膜を硬化させる。硬化条件は、水性着色ベース塗料組成物の組成によって、適宜設定される。
【0126】
(IV)クリヤー塗膜を形成する工程
本工程では、着色ベース塗膜上に、水性クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成する。
【0127】
調製された水性クリヤー塗料組成物を、水性着色ベース塗膜上に塗装する。水性クリヤー塗料組成物の塗装方法は特に限定されず、水性プライマー塗料組成物と同様の方法が挙げられる。水性クリヤー塗料組成物の塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。水性クリヤー塗料組成物は、例えば、硬化後のクリヤー塗膜の厚さが20μm以上100μm以下になるように、塗布される。水性クリヤー塗料組成物の硬化は、例えば、水性プライマー塗料組成物と同様の方法により行われる。
【0128】
このようにして、第1下塗り塗膜と、任意の第2下塗り塗膜と、着色ベース塗膜とクリヤー塗膜とがこの順に積層された複層塗膜を備える、塗装物品が得られる。
【0129】
[複層塗膜]
本開示の複層塗膜は、樹脂製の被塗物上に配置されている。複層塗膜は、上記の水性プライマー塗料組成物により形成された第1下塗り塗膜と、第1下塗り塗膜上に、上記の水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、着色ベース塗膜上に、上記の水性2液型クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜とを備える。複層塗膜は、第1下塗り塗膜と着色ベース塗膜との間に、上記の水性サーフェイサーにより形成された第2下塗り塗膜をさらに備えてよい。
【0130】
第1下塗り塗膜は、樹脂製の被塗物および旧塗膜に対する優れた密着性を有する。複層塗膜は、旧塗膜を備えた樹脂製の被塗物の補修用として適している。
【0131】
第1下塗り塗膜の硬化後の厚さは、例えば、10μm以上40μm以下である。第2下塗り塗膜の硬化後の厚さは、例えば、20μm以上100μm以下である。着色ベース塗膜の硬化後の厚さは、例えば、10μm以上100μm以下である。クリヤー塗膜の硬化後の厚さは、例えば、20μm以上100μm以下である。
【実施例
【0132】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら制限されるものではない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0133】
[実施例1]
以下のようにして水性プライマー塗料組成物、水性サーフェイサー、水性着色ベース塗料組成物、および水性クリヤー塗料組成物を調製し、複層塗膜を形成した。
【0134】
(1)塗料組成物の調製
(1-1)水性プライマー塗料組成物の調製
水性ポリオレフィン樹脂(A)200部(樹脂固形分60部)と水性エポキシ樹脂(B)111部(樹脂固形分40部)とを混合した。さらに、表面調整剤1部、および増粘剤(C)4部を添加した後、1時間攪拌を続けた。次いで、ジメチルエタノールアミンでpHを9.0に調整し、難水溶性溶剤(D1)6部、両親媒性溶剤(D2-1)9部、親水性溶剤(D3)18部、および純水(E)513部を添加し、攪拌して、固形分含有量11.9%の水性プライマー塗料組成物を得た。水性プライマー塗料組成物の塗料比重は0.99g/cmであった。
【0135】
(1-2)水性サーフェイサーの調製
第1主剤として、nax E-CUBE WB プラサフ ヴィータ グレー(日本ペイント社製、固形分約56%)を準備した。第1主剤は、水酸基含有樹脂(a1)としてアクリルポリオールをエマルションの形態で含有し、水性溶媒(a2)として純水を含み、さらに顔料を含む。水酸基含有樹脂(a1)の固形分濃度は、第1主剤に含まれる全固形分の24.4%であった。
【0136】
ポリイソシアネート化合物(b1)(バーノックDNW-5500、DIC社製)60部、エトキシプロピオン酸エチル19部、エチレングリコールジメチルエーテル19部、エポキシ基含有シランカップリング剤(3-グリキドキシプロピルトリエトキシシラン)2部を混合して、第1硬化剤を準備した。
【0137】
第1主剤100部と、第1硬化剤12.5部と、純水適量とを、ディスパーを用いて混合して、水性サーフェイサーを調製した。シランカップリング剤の含有量は、水酸基含有樹脂(a1)およびポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1.18質量部であった。
【0138】
(1-3)水性着色ベース塗料組成物の調製
nax E-CUBE WB 412 サイレントブラック(日本ペイント社製、固形分約22%)100部、nax E-CUBE WB 911 S-バインダー(補助剤、日本ペイント社製、固形分約26%)50部、および、nax E-CUBE WB R20標準希釈剤(希釈成分、日本ペイント社製)45部を混合して、ラッカータイプの水性着色ベース塗料組成物を調製した。
【0139】
(1-4)水性クリヤー塗料組成物の調製
第2主剤として、nax E-CUBE WB(2:1)NNクリヤー(日本ペイント社製、固形分約38%)と、純水(水性溶媒(a2))との混合物を準備した。第2主剤は、水酸基含有樹脂(a1)としてアクリルポリオールをエマルションの形態で含有する。水酸基含有樹脂(a1)の固形分濃度は、第2主剤に含まれる全固形分の91.5%であった。
【0140】
上記の第1硬化剤と同様に調製された第2硬化剤を準備した。
【0141】
第2主剤100部と、第2硬化剤50部と、純水適量とを、ディスパーを用いて混合して、水性クリヤー塗料組成物を調製した。シランカップリング剤の含有量は、水酸基含有樹脂(a1)およびポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1.35質量部であった。
【0142】
(2)複層塗膜の形成
被塗物として、表面が平滑なポリプロピレン板(PP板)、微細な凹凸を有するPP板、表面が平滑な旧塗膜を備える鋼板、または、微細な凹凸を有する旧塗膜を備える鋼板を準備し、その表面に、それぞれ複層塗膜を形成した。表面が平滑なPP板および旧塗膜は、密着性評価に用いた。微細な凹凸を有するPP板および旧塗膜は、外観評価に用いた。各塗料組成物の調製後、60分以内に塗装作業を開始した。
【0143】
(2-1)表面が平滑なPP板への複層塗膜Aの形成
(2-1-1)第1下塗り塗膜の形成
被塗物として、150mm×450mm×厚さ0.8mmに裁断したPP板(表面張力:25.7mN/m、SP値:7.90)を準備した。このPP板に、水性プライマー塗料組成物をエアスプレーガンにより無希釈で塗装し、塗膜の艶がなくなるまでエアブロー乾燥を行って、第1下塗り塗膜(硬化膜厚5μm)を形成した。
【0144】
(2-1-2)第2下塗り塗膜の形成
第1下塗り塗膜上に、エアスプレーガンにより水性サーフェイサーを塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返した。続いて、この塗板を60℃に設定されたオーブンで30分加熱して、第2下塗り塗膜(硬化膜厚45μm)を形成した。次いで、第2下塗り塗膜の表面を研磨し、脱脂した。
【0145】
(2-1-3)着色ベース塗膜の形成
第2下塗り塗膜上に、エアスプレーガンにより水性着色ベース塗料組成物を塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返して、着色ベース塗膜(硬化膜厚20μm)を形成した。
【0146】
(2-1-4)クリヤー塗膜の形成
着色ベース塗膜上に、スプレーガンにより水性クリヤー塗料組成物を3回塗装した。各塗装は、1分間間隔をあけて行った。このようにして、未硬化のクリヤー塗膜を形成した。その後、未硬化のクリヤー塗膜を備えるPP板を、温度23±2℃、湿度50±2RH%の環境下で15分間静置した。次いで、上記PP板を70℃設定のオーブンに投入し、40分間加熱し、クリヤー塗膜を硬化させた。オーブン内の湿度は10RH%であった。
このようにして、表面が平滑なPP板上に複層塗膜P1を形成した。
【0147】
(2-2)微細な凹凸を有するPP板への複層塗膜P2の形成
150mm×450mm×厚さ0.8mmに裁断したPP板(表面張力:25.7mN/m)の表面を、不織布製の研磨シート(#1500相当)により往復20回研磨して、微細な凹凸を形成した。このようにして微細な凹凸を有するPP板を準備した。
【0148】
被塗物として、微細な凹凸を有するPP板を用いたこと以外、上記の「(2-1)表面が平滑なPP板への複層塗膜の形成」と同様にして、複層塗膜P2を形成した。
【0149】
(2-3)表面が平滑な旧塗膜への複層塗膜の形成
上記の「(1-4)水性クリヤー塗料組成物の調製」と同様にして調製された水性クリヤー塗料組成物を用いて、70mm×150mmの鋼板上に、上記の「(2-1-4)クリヤー塗膜の形成」と同様の方法により未硬化のクリヤー塗膜を形成した。その後、未硬化のクリヤー塗膜を備える鋼板を、温度23±2℃、湿度50±2RH%の環境下で15分間静置した。次いで、上記鋼板を70℃設定のオーブン(湿度10RH%)に投入し、40分間加熱し、クリヤー塗膜を硬化させた。続いて、23℃で1週間養生して、表面が平滑な旧塗膜を備える鋼板を得た。
【0150】
被塗物として、表面が平滑な旧塗膜を備える鋼板を用いたこと以外、上記の「(2-1)表面が平滑なPP板への複層塗膜の形成」と同様にして、複層塗膜M1を形成した。
【0151】
(2-4)微細な凹凸を有する旧塗膜への複層塗膜の形成
上記の「(2-3)表面が平滑な旧塗膜への複層塗膜の形成」と同様にして得られた表面が平滑な旧塗膜を備える鋼板の表面を、不織布製の研磨シート(#1500相当)により往復20回研磨して、微細な凹凸を形成した。このようにして微細な凹凸を有する旧塗膜を備える鋼板を準備した。
【0152】
被塗物として、凹凸を有する旧塗膜を備える鋼板を用いたこと以外、上記の「(2-1)表面が平滑なPP板への複層塗膜の形成」と同様にして、複層塗膜M2を形成した。
【0153】
[実施例2~18、比較例1~9]
水性プライマー塗料組成物を表1の通りに調製したこと以外、実施例1と同様にして、4種の被塗物にそれぞれ複層塗膜を形成した。
【0154】
表中の各成分の詳細は以下の通りである。
・水性ポリオレフィン樹脂(A)
商品名:アウローレン AE-301、非塩素化ポリプロピレン樹脂のエマルション、日本製紙社製、Tg-28℃、Mw50,000
・水性エポキシ樹脂(B)
商品名:モデピクス 304、アクリル変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエマルション、荒川化学工業社製
・増粘剤(C)
商品名:アデカノール UH-756VF、ウレタン会合型、ADEKA社製
・表面調整剤
商品名:Tego Wet 260、EVONIC社製、ポリエーテル変性シリコーン化合物、有効成分100%
・難水溶性溶剤(D1)
2-エチル-1-へキサノール(SP値:9.85、比重:0.83g/cm
・両親媒性溶剤(D2-1)
プロピレングリコールモノブチルエーテル(SP値:9.69、比重:0.88g/cm
・両親媒性溶剤(D2-2)
ジプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:7.88、比重:0.903g/cm
・親水性溶剤(D3)
プロピレングリコールモノプロピルエーテル(SP値:9.82、比重:0.885g/cm
・水性ポリウレタン樹脂(F)
商品名:ハイドラン WLS-210、DIC社製、Tg-32℃、酸価28mgKOH/g
【0155】
[水性プライマー塗料組成物の評価]
水性プライマー塗料組成物について、評価を行った。
【0156】
・表面張力
ダイノメーター(ドイツ・ビックガードナー社製)を用いて、白金リング法により測定した。
【0157】
・貯蔵安定性
水性プライマー塗料組成物900mlを、1L内面コート缶容器に充填し、23℃で静置した。1カ月後、水性プライマー塗料組成物の状態を目視により評価した。評価基準は、以下の通りである。評価がB以上であると、貯蔵安定性に優れるといえる。
【0158】
(評価基準)
A 貯蔵の前後で変化なし
B 分離が生じているものの、攪拌により貯蔵前の状態になる
C 分離しているか、またはゲル化しており、撹拌しても貯蔵前の状態にならない
【0159】
・造膜性
150mm×450mm×厚さ0.8mmに裁断したポリプロピレン板の表面を、不織布製の研磨シート(#1500相当)により往復20回研磨して、微細な凹凸を形成した。このPP板に、スプレーガンにより水性プライマー塗料組成物(塗布量150g/m)を塗装した。塗装直後から自然乾燥するまでの様子を目視により評価した。評価基準は、以下の通りである。評価がB以上であると、造膜性に優れるといえる。
【0160】
(評価基準)
A 塗装直後からハジキおよびカスレは見られず、平滑な塗膜が形成された
B 塗装直後はカスレが見られるが、塗装完了~乾燥過程で凹凸に塗料が充填され平滑な塗膜になる。ウェット塗膜上の塗面に凹凸が見られ、乾燥塗膜においても凹凸が見られ問題がある
C ウェット塗膜上の塗り面にハジキおよび/またはカスレが見られ、乾燥後に均一な膜が形成されなかった
【0161】
[複層塗膜の評価]
複層塗膜の上記被塗物(ポリプロピレン板)または旧塗膜に対する耐水性について、それぞれ評価を行った。耐水性として、浸漬試験後の密着性および外観を評価した。
【0162】
密着性評価は、表面が平滑なPP板または旧塗膜を備える鋼板に形成された複層塗膜P1,M1に対して実施した。密着性は、塗装表面が平滑であると低下する傾向にあるため、複層塗膜P1,M1の密着性が高いと、複層塗膜P2,M2の密着性も高いと評価できる。
【0163】
外観評価は、微細な凹凸を有するPP板または旧塗膜を備える鋼板に形成された複層塗膜P2,M2に対して実施した。外観は、塗装表面に凹凸があると低下する傾向にあるため、複層塗膜P2,M2の外観が良好であると、複層塗膜P1,M1の密着性も良好であると評価できる。
【0164】
(ポリプロピレン板に対する評価)
・密着性
循環機能の付いた恒温水槽を40℃に設定し、脱イオン水で満たした。ここに、複層塗膜P1を備える塗装物品を浸漬した。72時間浸漬した後、塗装物品を引き上げて、水滴を軽くふき取った。引き上げた後、塗装物品を室温(23℃)で24時間放置した。
浸漬試験後の複層塗膜P1に、NTカッター(エヌティー株式会社製)により、被塗物に達する切れ目(縦11本、横11本、2mm間隔)を入れ、100個のマス目を作った。すべてのマス目を覆うように、テープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標)、24mm幅)を貼り付けて、上から爪等で強く密着させた。次いで、テープを、塗膜との成す角が約45°になるように引っ張りながら、剥離した。テープ剥離後、塗膜が残存しているマス目の数をカウントした。残存したマス目の数が多い程、密着性が高い。
【0165】
・外観
上記と同様にして、複層塗膜P2を備える塗装物品に対して浸漬試験を行った。その後の複層塗膜P2の外観を、目視により評価した。評価基準は、以下の通りである。評価がB以上であると、外観に優れるといえる。
【0166】
(評価基準)
A 膨れおよび白化がない
B 膨れまたは白化がわずかにみられる
C 明らかな膨れおよび/または白化がみられる
【0167】
(旧塗膜に対する評価)
複層塗膜M1を備える塗装物品に対して、上記と同様にして、密着性評価を実施した。複層塗膜M2を備える塗装物品に対して、上記と同様にして、外観評価を実施した。
【0168】
実施例1~18の水性プライマー塗料組成物は、貯蔵安定性および造膜性に優れ、得られる塗膜の密着性および外観も良好であった。
【0169】
比較例1の水性プライマー塗料組成物は、調製直後にゲル化して流動性がなくなったため、塗装できなかった。そのため、複層塗膜を形成することができず、複層塗膜に関する評価を行うことができなかった。比較例2~4の水性プライマー塗料組成物は、塗布量の多い造膜性評価では、良好な結果を示したものの、自動車補修用の塗装に近い量で塗布した密着性および外観評価においてその結果は不良であった。比較例5の水性プライマー塗料組成物は、貯蔵安定性に劣っていた。比較例6~9の水性プライマー塗料組成物は、造膜性評価が不良であり、密着性および外観評価においてもその結果は不良であった。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
本発明は下記態様を包含する。
[1]
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物を塗装して、第1下塗り塗膜を形成することと、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物を塗装して、着色ベース塗膜を形成することと、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を形成することと、を備え、
前記水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、複層塗膜の形成方法。
[2]
前記有機成分質量に占める前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上350g/L以下である、上記[1]の複層塗膜の形成方法。
[3]
前記水性プライマー塗料組成物の表面張力は、26.0mN/m以上30.0mN/m以下である、上記[1]または[2]の複層塗膜の形成方法。
[4]
前記水性エポキシ樹脂(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、上記[1]~[3]いずれかの複層塗膜の形成方法。
[5]
前記増粘剤(C)は、ウレタン会合型増粘剤を含む、上記[1]~[4]いずれかの複層塗膜の形成方法。
[6]
さらに、水性ポリウレタン樹脂(F)を含有する、上記[1]~[5]いずれかの複層塗膜の形成方法。
[7]
前記樹脂製の被塗物は、基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する前記複層塗膜以外の塗膜とを備える、上記[1]~[6]いずれかの複層塗膜の形成方法。
[8]
前記樹脂製の被塗物の表面を構成するポリマーの溶解パラメータと、前記水性プライマー塗料組成物に含まれる前記有機溶剤(D)の溶解パラメータとの差が、2.5以下である、上記[1]~[7]いずれかの複層塗膜の形成方法。
[9]
前記第1下塗り塗膜を形成した後、前記水性着色ベース塗料組成物を塗装する前に、
前記第1下塗り塗膜上に、水性サーフェイサーを塗装して、第2下塗り塗膜を形成することを備える、上記[1]~[8]いずれかの複層塗膜の形成方法。
[10]
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物により形成された第1下塗り塗膜と、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有し、
前記水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、複層塗膜。
[11]
樹脂製の被塗物上に、水性プライマー塗料組成物により形成された第1下塗り塗膜と、
前記第1下塗り塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物により形成された着色ベース塗膜と、
前記着色ベース塗膜上に、水性2液型クリヤー塗料組成物により形成されたクリヤー塗膜と、を有する複層塗膜の形成に用いられる水性プライマー塗料組成物であって、
水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)は、ガラス転移温度が-40℃以上-10℃以下であり、
前記水性ポリオレフィン樹脂(A)と前記水性エポキシ樹脂(B)との質量比(A/B)は、60/40~95/5であり、
前記有機溶剤(D)は、20℃において水100gに1g未満溶解する難水溶性溶剤(D1)と、20℃において水100gに1g以上60g未満溶解する両親媒性溶剤(D2)および20℃において水100gに60g以上溶解する親水性溶剤(D3)の少なくとも一方と、を含み、
前記有機溶剤(D)に占める前記難水溶性溶剤(D1)の割合は、1質量%以上60質量%以下であり、
前記水性プライマー塗料組成物の全質量から前記水(E)の質量を除いた有機成分質量に占める、前記有機溶剤(D)の質量は、30g/L以上500g/L以下である、水性プライマー塗料組成物。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明によれば、VOCの排出量が十分に少なく、かつ、貯蔵安定性および樹脂製の被塗物に対する密着性に優れるプライマー塗料組成物を含む、オール水性の塗料組成物により形成された、外観に優れる複層塗膜が提供される。そのため、水性塗料組成物は、自動車の塗装、特に自動車補修用の塗装に適している。
【要約】
樹脂製の被塗物上に、水性の塗料組成物により下塗り塗膜、着色ベース塗膜およびクリヤー塗膜を備える複層塗膜の形成方法であって、水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、増粘剤(C)、有機溶剤(D)および水(E)を含有し、固形分含有量が5質量%以上17質量%以下であり、水性ポリオレフィン樹脂(A)はTgが-40℃~-10℃であり、水性ポリオレフィン樹脂(A)と水性エポキシ樹脂(B)との質量比が60/40~95/5であり、有機溶剤(D)が、難水溶性溶剤(D1)と両親媒性溶剤(D2)および親水性溶剤(D3)の少なくとも一方とを含み、有機溶剤(D)に占める難水溶性溶剤(D1)の割合が1~60質量%であり、VOC量が30~500g/Lである。