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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 3/20 20060101AFI20240527BHJP
   B41M 1/10 20060101ALI20240527BHJP
   B41N 10/04 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
B41F3/20 C
B41F3/20 D
B41M1/10
B41N10/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017089619
(22)【出願日】2017-04-28
(65)【公開番号】P2018187793
(43)【公開日】2018-11-29
【審査請求日】2020-04-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「有機材料の極限機能創出と社会システム化をする基盤技術の構築及びソフトマターロボティクスへの展開に関する国立大学法人山形大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(72)【発明者】
【氏名】泉 小波
(72)【発明者】
【氏名】和田 輝
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
【合議体】
【審判長】殿川 雅也
【審判官】藤本 義仁
【審判官】桐山 愛世
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0239831(US,A1)
【文献】特開2016-182729(JP,A)
【文献】特開2016-182728(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093617(WO,A1)
【文献】特開2009-265116(JP,A)
【文献】特開2008-38095(JP,A)
【文献】特開2012-111234(JP,A)
【文献】特開2008-155449(JP,A)
【文献】特開平9-40781(JP,A)
【文献】特開2011-230102(JP,A)
【文献】特開2013-119082(JP,A)
【文献】特開2016-144878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 3/20,17/14,17/36
B41N 1/00-99/00
B41M 1/00-3/18,7/00-9/04
B05C 1/02,17/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットコータと、ブランケットとを備える印刷装置であって、
前記スリットコータは、該スリットコータの先端と前記ブランケットの表面との間に所定のギャップが設けられるように配置され、前記スリットコータの先端から前記ブランケットの表面にインクを供給し、
前記ブランケットは、該ブランケットの表面に前記スリットコータから供給されたインクが膜を形成し、該インクの膜の少なくとも一部が、凹凸を有する曲面の表面を有する被印刷物に転写され、その際、前記ブランケットの表面が5~40のASKER C硬度を有し前記被印刷物の表面形状に応じて弾性変形する
ことを特徴とする、前記印刷装置。
【請求項2】
凹版をさらに備え、
該凹版は、前記インクの膜の少なくとも一部が被印刷物に転写されるに先立ち、前記ブランケットの表面に形成された前記インクの膜の少なくとも一部を剥離することを特徴とする、請求項1記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷装置及び印刷方法に関する。特に、本発明は、曲面の表面に対して平坦な所謂「べた膜」、または幅広のパターンを均一に形成することが可能な印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷の技術分野において、様々な種類の印刷手法が存在し、形成しようとするパターン形状、インク厚さなどに応じて好適な印刷手法が選択される。
近年、印刷により電子デバイスを作製するプリンテッドエレクトロニクス分野における研究が盛んに行われている。このプリンテッドエレクトロニクス分野において、印刷による形成が困難なパターンとして、超微細配線と平坦なべた膜の2つが知られている。
【0003】
平坦なべた膜を形成する技術としては、スプレーコーティング、スリットコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティングなど、様々なコーティング手法が知られている。しかしながら、これらコーティング手法は、印刷とは異なり、任意のパターンを繰り返し形成することができるものではない。したがって、コーティング手法によって、コーティング対象物の形状によらず所望の平坦なべた膜を再現性良く形成することは、きわめて困難である。
一方、印刷手法のうち、べた膜を形成することが可能であると考えられるものとして、フレキソ印刷、スクリーン印刷などが挙げられる。しかしながら、これらの印刷手法によりべた膜を形成した場合、フレキソ印刷の場合アニロックスロールの跡が、スクリーン印刷の場合スクリーンメッシュの跡が、それぞれ網目状にべた膜に残ってしまう。このため、これらの印刷手法によっても平坦なべた膜を形成することは非常に難しい。
【0004】
また、近年、曲面の表面を有する被印刷物に印刷をしたいという要請がある。このような要請に応える技術として、特開2016-182728号公報には、ブランケットを介して印刷を行うグラビアオフセット印刷(凹版オフセット印刷)などのオフセット印刷において、金属のシリンダ上に所定の厚さ及び表面硬度のゴムが所定の直径のロール状に設けられているブランケットを使用する技術が開示されている。また、特開2016-182729号公報には、オフセット印刷において、金属のシリンダ上に所定の厚さのPDMS(ポリジメチルシロキサン)ゴムがロール状に設けられているブランケットを使用する技術が開示されている。
【0005】
これらの技術は、ブランケットを介して印刷されることから基板の選択性が高く、またブランケットがインクの溶剤を吸収することから、インクのぬれ広がりが無く、ほぼ印刷版のデザイン通りに微細な配線を形成できるとともに、ブランケットとして所定のものを使用することなどにより、曲面に対して微細で高精度なパターンを歪みなく印刷することを可能にしている。
しかしながら、グラビアオフセット印刷は、版の凹部にインクを充填してパターンを形成し、これをブランケットに転写して印刷するものであるため、べた膜を印刷する場合には、版に大きな凹部を設けてそこに大量のインクを均一に充填する必要が生じる。これは、インク充填手法や、グラビアオフセット印刷特有の印刷方向依存性といった、技術的な困難性を伴うものであるため、グラビアオフセット印刷によってべた膜を印刷するのは、容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-182728号公報
【文献】特開2016-182729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特に曲面の表面に対して、平坦なべた膜を均一に再現性良く形成することが可能な印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、被印刷物の表面形状に応じて弾性変形することのできる、比較的柔らかいブランケット(ソフトブランケット)の表面に、インクの膜を形成することができるよう、スリットコータの先端からインクを供給し、インクの膜の少なくとも一部を被印刷物に転写することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、スリットコータと、ブランケットとを備える印刷装置であって、スリットコータは、スリットコータの先端とブランケットの表面との間に所定のギャップが設けられるように配置され、スリットコータの先端からブランケットの表面にインクを供給し、ブランケットは、ブランケットの表面にスリットコータから供給されたインクが膜を形成し、インクの膜の少なくとも一部が被印刷物に転写され、その際、ブランケットの表面が被印刷物の表面形状に応じて弾性変形することを特徴とする、印刷装置である。
【0010】
本発明の装置で採用するブランケットの表面の表面エネルギーは、20mN/m以上であるのが好ましい。
ブランケットは、また、少なくともブランケットの表面が実質的にポリジメチルシロキサンからなるのが好ましい。
ブランケットは、ブランケットの表面を含む外側層が、内側層の上に設けられた積層構造を有するものとすることができる。
この場合、ブランケットは、ブランケットの直径方向において、外側層の厚みが内側層の厚みよりも小さいのが好ましい。
また、この場合、内側層よりも外側層の方が高いゴム硬度を有するのが好ましい。
さらに、この場合のブランケットは、外側層の下面と内側層の上面とが、外側層の下面及び内側層の上面の少なくとも一方が有するタック性により接着しているのが好ましい。
本発明の装置で採用するインクの粘度は、1~150mPa・sであるのが好ましい。
本発明の装置はまた、乾燥手段をさらに備え、乾燥手段は、インクの膜の少なくとも一部を被印刷物に転写するに先立ち、ブランケットの表面に形成されたインクの膜の少なくとも一部を乾燥するものとすることができる。
本発明の装置はさらに、凹版をさらに備え、凹版は、インクの膜の少なくとも一部が被印刷物に転写されるに先立ち、ブランケットの表面に形成されたインクの膜の少なくとも一部を剥離するものとすることができる。
【0011】
本発明はまた、スリットコータにインクを供給する工程、ブランケットを回転させながら、スリットコータの先端からブランケットの表面にインクを供給して、スリットコータから供給されたインクの膜をブランケットの表面に形成する工程、及びインクの膜の少なくとも一部を被印刷物に転写する工程を含み、スリットコータの先端とブランケットの表面との間には所定のギャップが設けられ、ブランケットの表面は被印刷物の表面形状に応じて弾性変形することを特徴とする、印刷方法である。
【0012】
本発明の方法で採用するブランケットの表面の表面エネルギーは、20mN/m以上であるのが好ましい。
ブランケットは、また、少なくともブランケットの表面が実質的にポリジメチルシロキサンからなるのが好ましい。
ブランケットは、ブランケットの表面を含む外側層が、内側層の上に設けられた積層構造を有するものとすることができる。
この場合、ブランケットは、ブランケットの直径方向において、外側層の厚みが内側層の厚みよりも小さいのが好ましい。
また、この場合、内側層よりも外側層の方が高いゴム硬度を有するのが好ましい。
さらに、この場合のブランケットは、外側層の下面と内側層の上面とが、外側層の下面及び内側層の上面の少なくとも一方が有するタック性により接着しているのが好ましい。
本発明の方法で採用するインクの粘度は、1~150mPa・sであるのが好ましい。
本発明の方法はまた、インクの膜の少なくとも一部を被印刷物に転写する工程に先立ち、ブランケットの表面に形成されたインクの膜の少なくとも一部を乾燥する工程をさらに含むものとすることができる。
本発明の方法はさらに、インクの膜の少なくとも一部を被印刷物に転写する工程に先立ち、ブランケットの表面に形成されたインクの膜の少なくとも一部を凹版により剥離する工程をさらに含むものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の印刷装置及び印刷方法によれば、特に曲面の表面に対して、反射防止膜や遮光膜等を形成する光学用途等において必要とされることの多い平坦なべた膜の、均一で再現性の高い形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の印刷装置の一形態の断面模式図である。
図2】本発明の印刷装置が採用するブランケットの一形態の断面模式図である。
図3】本発明の印刷装置の他の一形態の部分断面模式図である。
図4】本発明の印刷装置の一形態の動作を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1(a)を参照して、本発明の印刷装置1は、スリットコータ2と、ブランケット3とを備える。
スリットコータ2は、スリットコータ2の先端4と、ブランケット3の表面5との間に所定のギャップ6が設けられるように配置されている。
ブランケット3を回転させながら、スリットコータ2の先端4からブランケット3の表面5にインク7を供給し、ブランケット3の表面5にスリットコータ7から供給されたインク7の膜8を形成する。
図1(b)を参照して、本発明の印刷装置では次いで、インクの膜8の少なくとも一部を、被印刷物9に転写する。その際、ブランケット3の表面5は、被印刷物9の表面形状に応じて弾性変形する。図1(b)には、ブランケット3が被印刷物9に接する部分において、ブランケット3が被印刷物9に押し付けられ、ブランケット3の表面5が被印刷物9の表面形状に従って弾性変形するとともに、インクの膜8が見えなくなっている様子が示されている。
【0016】
再び図1(a)を参照して、本発明の印刷装置1で採用するスリットコータ2は、印刷用インクなどの塗布液を、スリット状の吐出口から対象ワークに対して塗布できるようなものであれば、特に制限はない。スリットコータにより塗布液を塗布する場合、スリットコータの吐出口を対象ワークに対して相対的に移動させながら行うのが通常であるが、本発明の印刷装置の場合には、対象ワークに相当するブランケット3を回転させることにより、その表面5をスリットコータ2の先端4に対して相対的に移動させながら、スリットコータ2の先端4からブランケット3の表面5にインク7を供給すればよい。
スリットコータ2の先端4と、ブランケット3の表面5との間の所定のギャップ6は、表面張力によって、スリットコータ2から供給されたインク7がブランケット3の表面5の上に膜8を形成することができるように、設定すればよい。ギャップ6は、スリットコータ2の吐出口の寸法、ブランケット3の回転速度、インク7の固形分量、インク7の膜8の膜厚などに応じて、設定するのが好ましい。
【0017】
本発明の印刷装置では、スリットコータの先端とブランケットの表面とを接触させることなく、ブランケットの表面にインクの膜を形成するため、ブランケットの表面に均一なインクの膜を形成することができる。その結果、本発明の印刷装置によれば、インクの膜を被印刷物に転写することで、平坦なべた膜を均一に再現性良く形成することが可能となる。
なお、図1(a)では、ブランケット3の斜め上方向に配置されたスリットコータ2の先端4からブランケット3の表面5にインク7を供給することとしているが、スリットコータ2をブランケット3の真上に配置することとしてもよい。また、例えばインク7の粘度が低い、またはインク7の表面張力が十分高いような場合には、スリットコータ2をブランケット3の横方向に配置することとしてもよい。
ブランケット3とスリットコータ2との位置関係としては、ブランケット3の中心を通る直線の上にスリットコータ2が配置されるのが好ましい。
【0018】
本発明の印刷装置1で採用するブランケット3は、例えば、アルミやSUSなどの金属製のシリンダ10の周りに、ゴムなどのエラストマー製の円筒形のスリーブ11を設けたような構造とすることができる。
本発明の印刷装置において、ブランケットは、スリットコータから供給されたインクがブランケットの表面に膜を形成するものである。特に、ブランケットの表面に均一なインクの膜を形成するためには、ブランケットの表面の表面エネルギー、さらには、ブランケットの表面の表面エネルギーとインクの表面エネルギーとの関係が重要であり、ブランケットの表面の表面エネルギーとインクの表面エネルギーとの差が小さい方が、ブランケットの表面に均一なインクの膜を形成するためには好ましいと考えられる。
本発明の印刷装置1で採用するスリットコータは、一般的に金属で作製されている場合が多いが、プラスチック、ガラス、石英などを用いて作製されていても良い。スリットの厚みは、シム版と呼ばれる薄い板をスリットに挟み、そのシム板の厚さにより決めることが出来る。シム板を儲けずにスリットを形成しても良く、スリットの開口部の幅に対して特に限定は無く、ブランケットに対してインクがコーティングできれば良い。
【0019】
本発明の装置1で採用するブランケット3の表面5の表面エネルギーは、20mN/m以上であるのが好ましく、さらには22mN/m以上であるのが好ましい。特に、インクとして水系のものを使用する場合には、有機溶剤をベースとするインクを使用する場合に比べて、ブランケットの表面の表面エネルギーが高い方がインクの表面エネルギーとの差が小さくなり、ブランケットの表面に均一なインクの膜を形成するために好ましい。
【0020】
再び図1(b)を参照して、本発明の印刷装置1で採用するブランケット3は、その表面5が被印刷物9の表面形状に応じて弾性変形するものである。例えば、ブランケット3の円筒形のスリーブ11として、スチレンゴム、ブタジエンゴムなど加硫ゴム、またはエラストマー製の柔らかいものを使用すればよい。
本発明の印刷装置では、ブランケットの表面が被印刷物の表面形状に応じて弾性変形するため、曲面の表面に追従してその表面に平坦なべた膜を均一に再現性良く形成することが可能となる。
【0021】
ブランケット3としては、例えばその表面5のASKER C硬度が5~40であるようなものを使用できる。ただし、ブランケット3の直径(ロール径)が小さい場合には、比較的広い範囲の表面硬度が許容される一方、ロール径が大きい場合には、表面硬度は高い方が好ましい。
ブランケット3のロール径の最小値は、印刷面積により決定することができる。
【0022】
ブランケット3の厚みについて説明する。厚くて柔らかいブランケットを用いて曲面に印刷する場合、基本的にはブランケットの厚さは被印刷物の表面(印刷面)の凹凸差の倍以上あれば印刷することができる。例えば、曲面の凹凸の差が5ミリメートルであれば、ブランケット厚さは10ミリメートル以上あればよいことになる。しかしながら、凹凸の差を小さくしていくと、曲面の凹凸の差の倍のブランケット厚さでは足りず、これを超えるブランケット厚さが必要となる。ここで、「曲面」を、曲率半径が0.5ミリメートル以上、凹凸差が0.5ミリメートル以上の面(目で見て曲っていると認識できる面)とすると、それ以上の曲率と凹凸差を有する曲面に印刷する場合に、ブランケットの厚さが凹凸差の2倍以上あっても印刷できないことがある。とりわけ、曲面の凹凸が多い場合にこの傾向は強く、曲面の表面に追従するようにするためには、表面の変形を許容するブランケット厚さが必要となる。ブランケットの厚みは、どのような曲面に印刷するかによって決定すればよいが、例えばブランケットの厚さを5ミリメートル以上とすることができる。
一方、ブランケット3の最大厚さは、ロール径が小さいときは被印刷物の表面形状により限定され、ロール径が大きいときは特に制限を受けない。したがって、本発明の印刷装置に用いるブランケットは、印刷対象物の曲面形状に沿って、十分に変形可能なように厚くすることが出来る。
もちろん、印刷装置のサイズなど、物理的制限によってブランケットのサイズは限定されるが、それは、従来の印刷機と同様である。
【0023】
本発明の装置1で採用するブランケット3はまた、少なくともブランケット3の表面5が、実質的にエラストマーの一つであるポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるのが好ましい。PDMSは、添加剤の混合等により表面エネルギーを制御可能であり、比較的高い表面エネルギーを有するものを得ることができるためである。また、ブランケット3全体が実質的にPDMSからなるものとすることにより、被印刷物の表面形状に応じて弾性変形する柔らかさを有するブランケットとすることができる。
【0024】
図2を参照して、本発明の印刷装置1で採用するブランケット3を、ブランケット3の表面5を含む外側層12が、内側層13の上に設けられた積層構造を有する円筒形のスリーブ11を備えるものとすることができる。ブランケットの材料としてPDMSを使用し、有機溶剤を含むインクをスリットコータからブランケットの表面に供給し、ブランケットの表面にインクの膜を形成して繰返し印刷を行うと、有機溶剤がPDMSに吸収され、PDMSが経時的に劣化する可能性がある。また、ブランケットの表面は、被印刷物と物理的に接触することにより劣化する可能性もある。ブランケット3を外側層12及び内側層13を含む多層構造としておくことにより、劣化しやすい表面5を含む外側層12のみを交換することが可能となり、経済的である。また、インクの種類に応じて、異なるインクに最適な外側層12を選択・交換することも可能となる。
【0025】
ブランケット3の外側層12と内側層13は、外側層12が内側層13よりも高いゴム硬度を有するものとし、また、ブランケット3の直径方向において、外側層12の厚みが内側層13の厚みよりも小さいものとするのが好ましい。このようにすることにより、外側層12を薄くてスリットコートするのに適したもの、内側層13を厚くて柔らかいものとすることができる。
なお、ブランケット3の外側層12と内側層13は、同一の材料(例えば、いずれもPDMS)で構成されるものとしてもよく、異なる材料(例えば、外側層12はPDMS、内側層13はスポンジゴム)で構成されるものとしてもよい。
【0026】
ブランケット3の外側層12と内側層13は、外側層12の下面と内側層13の上面とが、外側層12の下面及び内側層13の上面の少なくとも一方が有するタック性により接着するものとすることができる。このようにすると、外側層12と内側層13とを接着剤などで貼り合わせることが不要となるため、外側層12を交換するのが容易であるとともに、経済的でもある。
【0027】
本発明の装置で採用するインクの粘度は、1~150mPa・sであるのが好ましい。特に、本発明では、インクをスリットコータからブランケットの表面に供給する必要があるため、粘度の比較的低いインクを使用するのが好適である。
インクとしては、通常のリバースオフセット印刷で使用されるような水系のものを使用することができる。水系のインクは一般に大きな表面張力を有するため、ブランケットとして表面の表面エネルギーの高いものを使用するのが好ましい。
また、通常のグラビアオフセット印刷で使用されるようなインクを、有機溶剤(イソホロン、ブチルカルビトールアセテート(BCA)など)で希釈して使用することもできる。このようなインクは、光学用途において、反射防止膜や遮光膜等を形成するのに好適に使用される。
【0028】
本発明の印刷装置はさらに、ヒータやドライヤ、送風機などの乾燥手段を備えるものとすることができる。乾燥手段は、ブランケットの表面に形成されたインクの膜の少なくとも一部を被印刷物に転写するに先立ち、ブランケットの表面に形成されたインクの膜の少なくとも一部を乾燥する。このようにすることにより、ブランケットの表面に形成されたインクの膜を被印刷物にいっそう良好に転写することが可能となる。
【0029】
図3を参照して、本発明の装置はさらに、凹版14を備えるものとすることができる。凹版14は、インクの膜8の少なくとも一部が被印刷物に転写されるに先立ち、回転するブランケット3の表面5に形成されたインクの膜8の少なくとも一部を剥離する。このようにすることにより、凹版の凹部と同形状のパターンを印刷することが可能となる。
凹版は、ガラス、金属、樹脂など様々な版を用いることが出来る。版を用いることで、微細なパターンから、通常の印刷技術では形成できなかった幅広かつ表面平坦性の高いパターンの形成が可能となる。
凹版によりブランケット表面のインクの一部を剥離する場合は、版凹部の底面にブランケットが接触しないよう、凹版の凹部は深い方が好ましい。当該深さは、ブランケットのゴム硬度または版の素材、作製手法にもよるが、ガラス版や金属版であれば20~300マイクロメートルの深さが好ましく、樹脂版であれば1~5ミリメートルの深さが好ましい。
版凹部の底面にブランケットが接触しないようにする他の手段として、ブランケット3を外側層及び内側層を含む多層構造とし、外側層が内側層よりも高いゴム硬度を有するものとするのが好ましい。具体的には、内側層のゴム硬度が ASKER Cで5~40であるのに対し、外側層のゴム硬度を SHORE Aで5~50を有するものとすることができる。
なお、本発明の印刷装置で採用するブランケットが外側層と内側層とを含む積層構造を有するものである場合に、硬い外側層が厚いと、曲面に対して良好な印刷が出来なくなる恐れがあるため、外側層を出来るだけ薄くするのが好ましい。具体的には、外側層が硬い場合には、0.3~1ミリメートル程度の厚さを有するものとするのが好ましい。
【0030】
図4を参照して、本発明の装置は、次のように動作するものとすることができる。
すなわち、まずスリットコータ2にインクを供給する。次いで、ブランケット3を矢印の方向に回転させながら、スリットコータ2の先端からブランケット3の表面にインクを供給して、スリットコータ2から供給されたインクの膜8をブランケット3の表面に形成し、これを適宜乾燥する。
この間、矢印の方向に移動可能な被印刷物ステージ15及び凹版ステージ16の上にそれぞれ載置された被印刷物9及び凹版14は、各々の待機位置A及びCで待機している。
次に、凹版ステージ16をブランケット3の下方に移動させ、ブランケット3の表面の上のインクの膜8の少なくとも一部を、凹版14により剥離する。
次いで、被印刷物ステージ15をブランケット3の下方に移動させ、ブランケット3を矢印の方向に回転させながら被印刷物ステージ15を移動させて、ブランケット3の表面のインクの膜8の少なくとも一部を被印刷物9に転写する。
ここで、凹版14を用いた剥離工程を行わず、ブランケット3の表面にインク膜8を形成後これを乾燥し、被印刷物9にインク膜8を転写し、べた膜を形成してもよい。
なお、印刷が終了した後などに、ブランケット3の表面をクリーニングするために、ブランケットクリーニング機構17を設けることができる。ブランケットクリーニング機構17としては、例えば、金属ロール、または粘着テープがロール状になっているようなものを使用することができる。当該ブランケットクリーニング機構17は、ブランケット3と中心軸を並行とした配置であることが好ましく、さらに、ブランケットクリーニング機構17は、ブランケット3と異なる直径を有している方が好ましい。
【符号の説明】
【0031】
1 印刷装置
2 スリットコータ
3 ブランケット
7 インク
9 被印刷物
14 凹版
15 被印刷物ステージ
16 凹版ステージ
図1
図2
図3
図4