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特許7493743農業用ハウスの換気窓制御システム及び換気窓制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】農業用ハウスの換気窓制御システム及び換気窓制御方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
A01G9/24 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019202779
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2021073894
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】302035418
【氏名又は名称】有限会社 イチカワ
(74)【代理人】
【識別番号】100129207
【弁理士】
【氏名又は名称】中越 貴宣
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 浩平
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 航
(72)【発明者】
【氏名】西内 厚
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-66126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業用ハウス内外の環境情報に基づいて換気窓の開度を最適に自動制御する換気窓制御システムであって、
少なくとも、ハウス外に設置される風向風速計と、
ハウス内の環境情報を測定するハウス内センサと、
前記換気窓の開度を制御する換気窓制御装置と、
を含んで構成され、
前記換気窓制御装置が、前記風向風速計で測定される風向測定値及び風速測定値と、前記ハウス内センサで測定されるハウス内の環境情報測定値と、前記換気窓の現在開度とが入力される入力部と、
前記換気窓が開状態のときに最も風の影響を受ける方向を基準として、ハウスの水平面上における全方位を複数の方位に分割し、各該方位のうち該基準となる方位に、前記換気窓の開度を設定する際に前記換気窓に作用する風の影響を反映するための指数である風の影響度の基準値を設定した上で、他の該方位に、該風の影響度をそれぞれ予め設定する風影響度設定部と、
前記風向測定値から、前記各方位に予め設定された前記風の影響度を決定し、決定された前記風の影響度と前記風速測定値とから、前記換気窓の開度を補正するための風の影響値を算出する演算部と、
前記環境情報測定値と、予め設定されたハウス内の環境情報設定値とを比較して、前記環境情報測定値が該環境情報設定値の範囲内か否かを判定する判定部と、
前記環境情報測定値が前記環境情報設定値の範囲外のとき、前記環境情報設定値の範囲内に収まるように前記換気窓の修正開度を設定し、且つ該修正開度を前記風の影響値で補正して前記換気窓の補正開度を設定する換気窓開度設定部と、
前記補正開度を前記換気窓へ送出する出力部と、
を備えることを特徴とする農業用ハウスの換気窓制御システム。
【請求項2】
ハウス外に設置される外気温計と、
前記換気窓制御装置が、外気温と前記換気窓の開度との関係から所定の外気温の測定範囲毎に、前記換気窓の開度を設定する際に外気温の影響を反映するための指数である外気温影響度を予め設定する外気温影響度設定部と、
を更に含んで構成され、
前記入力部に、前記外気温計で測定される外気温測定値が更に入力され、
前記演算部において、更に前記外気温測定値と前記外気温影響度とから、前記換気窓の開度を補正するための外気温影響値が算出され、
前記換気窓開度設定部において、前記補正開度を前記外気温影響値によって更に補正して再補正開度を設定することを特徴とする請求項1に記載の農業用ハウスの換気窓制御システム。
【請求項3】
農業用ハウス内外の環境情報に基づいて換気窓の開度を最適に自動制御する換気窓制御方法であって、
ハウス内の環境情報設定値を入力する環境情報設定値入力ステップと、
前記換気窓が開状態のときに最も風の影響を受ける方向を基準として、ハウスの水平面上における全方位を複数の方位に分割し、各該方位のうち該基準となる方位に、前記換気窓の開度を設定する際に前記換気窓に作用する風の影響を反映するための指数である風の影響度の基準値を設定した上で、他の該方位に、該風の影響度をそれぞれ予め設定する影響度設定ステップと、
ハウス外に設置された風向風速計で測定される風向測定値及び風速測定値と、ハウス内センサで測定される環境情報測定値と、前記換気窓の現在開度とを取得する情報取得ステップと、
前記風向測定値から、前記各方位に予め設定された前記風の影響度を決定し、決定された前記風の影響度と前記風速測定値とから、前記換気窓の開度を補正するための風の影響値を算出する演算ステップと、
前記環境情報測定値と前記環境情報設定値とを比較して、前記環境情報測定値が前記環境情報設定値の範囲内であるか否かを判定する判定ステップと、
前記環境情報測定値が前記環境情報設定値の範囲外のとき、前記環境情報測定値が前記環境情報設定値の範囲内に収まるように、前記換気窓の修正開度を設定し、且つ該修正開度を前記風の影響値によって補正して前記換気窓の補正開度を設定する換気窓開度設定ステップと、
前記補正開度を前記換気窓へ送出する出力ステップと
を含むことを特徴とする換気窓制御方法。
【請求項4】
前記影響度設定ステップにおいて、更にハウス外の外気温と前記換気窓の開度との関係から所定の外気温の測定範囲毎に、前記換気窓の開度を設定する際に外気温の影響を反映するための指数である外気温影響度が設定され、
前記情報取得ステップにおいて、ハウス外に設置された外気温計で測定される外気温測定値が更に取得され、
前記演算ステップにおいて、更に前記外気温測定値と前記外気温影響度とから、前記換気窓の開度を補正するための外気温影響値が算出され、
前記換気窓開度設定ステップにおいて、前記換気窓の補正開度を前記外気温影響値によって更に補正して再補正開度を設定することを特徴とする請求項3に記載の換気窓制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウスの換気窓制御システム及び換気窓制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用ハウス内においては、農作物を最適な環境条件で栽培するべく温度や湿度等を測定し、それらが最適な状態となるように換気窓(天窓、測窓等)、保温カーテン、遮光カーテン等の開閉作業、暖房機や送風機等の操作といった所謂「環境制御」が行われている。中でも、ハウス内の温度や湿度管理は換気窓の開閉によって行われることが一般的であるが、ハウス内の栽培環境において換気窓からハウス内に吹き込む風の影響も少なくない。
【0003】
そこで、風向や風速による影響を考慮した換気窓(天窓、測窓等)の開閉制御システムが種々開示されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照。)。特許文献1に開示された温室の天窓制御装置は、温室の屋根の両側に設けられた天窓を制御する装置において、風の方向と強さを検知する風センサと、雨を検知する雨センサと、風センサにより検知された風上からの風の強さが第1の設定値を越えたとき風上側の天窓を閉じ、第1の設定値よりも大きい第2の設定値を越えたときまたは雨センサが雨を検知したとき両方の天窓を閉じる開閉制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0004】
上記の構成を備える特許文献1に係る温室の天窓制御装置によると、特に風上からの風の強さがある程度強く第1の設定値を越えた場合、両方の天窓を閉じるのではなく、風上側の天窓のみを閉とし、風下側の天窓はそのまま温度制御に用いることができる等しているので、風の方向、強さ、雨の状態により天窓の効果的な制御ができ、植物を育成上最適な環境状態に置くことができる旨、記載されている。
【0005】
また、特許文献2に開示された農業施設用温度制御装置は、少なくとも温度、風量及び風向を監視して農業施設の屋根部及び側面部に設けた換気装置を動作させて、外気を前記農業施設内に取り入れ・遮断を行い、前記農業施設内の温度を制御する農業施設用温度制御装置において、温度、風量及び風向の各条件に応じて前記屋根部と側面部の前記換気装置を選択し、最適な換気制御することを特徴とする。
【0006】
上記の構成を備える特許文献2に係る農業施設用温度制御装置によると、風による農作物及び農業施設への影響を軽減し、農業施設内の温度の偏りを無くして状況に応じた効率の良い換気制御を行うという優れた効果を有する旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭62-6614号公報
【文献】特開2018-78818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された温室の天窓制御装置や特許文献2に開示された農業施設用温度制御装置によると、風向や風速によって換気窓の開閉をある程度は制御することが可能であるものと思料する。しかし、これらの開閉制御は、基本的には換気窓が風の影響を直接受ける場合に閉じる、という制御方法であるため、あらゆる方向から換気窓に作用する風に対して、細やかな開閉制御を行うことは困難である。
【0009】
特に、風向及び風速は刻一刻と変化するため、より高精度で細やかな開閉制御を行うことが可能となれば、換気窓の損傷を防ぐことができるとともに、ハウス内の環境制御の精度が向上し、農作物にとってより快適な栽培環境を提供することができる。
【0010】
そこで本願発明者らは、上記の問題点に鑑み、刻一刻と変化する風向・風速の状況に応じて、より高精度で細やかな開閉制御を行うことができる農業用ハウスの換気窓制御システム及び換気窓制御方法を提供するべく鋭意検討を重ねた結果、本発明に至ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、農業用ハウス内外の環境情報に基づいて換気窓の開度を最適に自動制御する換気窓制御システムであって、少なくとも、ハウス外に設置される風向風速計と、ハウス内の環境情報を測定するハウス内センサと、前記換気窓の開度を制御する換気窓制御装置と、を含んで構成され、前記換気窓制御装置が、前記風向風速計で測定される風向測定値及び風速測定値と、前記ハウス内センサで測定されるハウス内の環境情報測定値と、前記換気窓の現在開度とが入力される入力部と、前記換気窓が開状態のときに最も風の影響を受ける方向を基準として、水平面上における全方位を複数の方位に分割し、各該方位に風の影響度をそれぞれ設定する風影響度設定部と、前記風向測定値及び前記風速測定値と、前記風の影響度とから風の影響値を演算する演算部と、前記環境情報測定値と、予め設定されたハウス内の環境情報設定値とを比較して、前記環境情報測定値が該環境情報設定値の範囲内か否かを判定する判定部と、前記環境情報測定値が前記環境情報設定値の範囲外のとき、前記環境情報設定値の範囲内に収まるように前記換気窓の修正開度を設定し、且つ該修正開度を前記風の影響値で補正して前記換気窓の補正開度を設定する換気窓開度設定部と、前記補正開度を前記換気窓へ送出する出力部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の農業用ハウスの換気窓制御システムにおいて、ハウス外に設置される外気温計と、前記換気窓制御装置が、外気温と前記換気窓の開度との関係から所定の外気温の測定範囲毎に外気温影響度を予め設定する外気温影響度設定部と、を更に含んで構成され、前記入力部に、前記外気温計で測定される外気温測定値が更に入力され、前記演算部において、更に前記外気温測定値と、前記外気温影響度とから外気温影響値が算出され、前記換気窓開度設定部において、前記補正開度を前記外気温影響値によって更に補正して再補正開度を設定することを特徴とする。
【0013】
更に、本発明は、農業用ハウス内外の環境情報に基づいて換気窓の開度を最適に自動制御する換気窓制御方法であって、ハウス内の環境情報設定値を入力する環境情報設定値入力ステップと、前記換気窓が開状態のときに最も風の影響を受ける方向を基準として、水平面上における全方位を複数の方位に分割し、各該方位に風の影響度をそれぞれ設定する影響度設定ステップと、ハウス外に設置された風向風速計で測定される風向測定値及び風速測定値と、ハウス内センサで測定される環境情報測定値と、前記換気窓の現在開度とを取得する情報取得ステップと、前記風向測定値及び前記風速測定値と、前記風の影響度とから風の影響値を算出する演算ステップと、前記環境情報測定値と前記環境情報設定値とを比較して、前記環境情報測定値が前記環境情報設定値の範囲内であるか否かを判定する判定ステップと、前記環境情報測定値が前記環境情報設定値の範囲外のとき、前記環境情報測定値が前記環境情報設定値の範囲内に収まるように、前記換気窓の修正開度を設定し、且つ該修正開度を前記風の影響値によって補正して前記換気窓の補正開度を設定する換気窓開度設定ステップと、前記補正開度を前記換気窓へ送出する出力ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の換気窓制御方法に係る前記影響度設定ステップにおいて、更にハウス外の外気温と前記換気窓の開度との関係から所定の外気温の測定範囲毎に外気温影響度が設定され、前記情報取得ステップにおいて、ハウス外に設置された外気温計で測定される外気温測定値が更に取得され、前記演算ステップにおいて、更に前記外気温測定値と前記外気温影響度とから外気温影響値が算出され、前記換気窓開度設定ステップにおいて、前記換気窓の補正開度を前記外気温影響値によって更に補正して再補正開度を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の農業用ハウスの換気窓制御システム及び換気窓制御方法によると、刻一刻と変化する風向・風速の状況に応じて、より高精度で細やかな開閉制御を行うことができる。従って、換気窓が風の影響によって損傷することを防ぐことができることは勿論であるが、農作物への風の影響を抑制することができるとともに、ハウス内の環境制御もより高精度に行うことができ、農作物にとってより快適な栽培環境を提供することができる。
【0016】
また、本発明の農業用ハウスの換気窓制御システム及び換気窓制御方法において、更に外気温による影響を考慮して換気窓の開閉制御を行うことによって、農作物への風の影響を抑制することができるとともに、ハウス内の環境制御も更に高精度に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システムの全体構成を示す概略ブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る農業用ハウスの正面図である。
図3図2に示した農業用ハウスの平面図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システムの全体構成を示す概略ブロック図である。
図5図1に示した農業用ハウスの換気窓制御システムによる換気窓制御方法を示す概略フロー図である。
図6図4に示した農業用ハウスの換気窓制御システムによる換気窓制御方法を示す概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の農業用ハウスの換気窓制御システムの実施形態について、図面に基づいて詳述する。図1は本発明の一実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システム10の全体構成を示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態の換気窓制御システム10は、図2に示すような農業用ハウス1内外の環境情報に基づいて換気窓40の開度を最適に自動制御する換気窓制御システムであって、主にハウス1外に設置される風向風速計20と、ハウス1内の環境情報を測定するハウス内センサ30と、換気窓40の開度を制御する換気窓制御装置50とを含んで構成されている。
【0019】
通常、ハウス1内の環境情報としては非常に多岐に亘り、例えばハウス1内の温度、湿度、日射量、培地温度、植物体温度、灌水温度、土壌水分、CO濃度、灌水量等が挙げられる。これらの環境情報はハウス1内に設置される各種のハウス内センサ30によって測定されるが、本実施形態では最も一般的な温度計を設置して、ハウス1内の温度(ハウス内温度)を測定する。
【0020】
換気窓制御装置50は、換気窓40の開度を自動制御するための制御装置であって、少なくとも入力部51と、風影響度設定部52と、判定部53と、演算部54と、換気窓開度設定部55と、出力部56とを備える。
【0021】
換気窓制御装置50に係る入力部51には、ハウス1外に設置される風向風速計20で測定される風向測定値及び風速測定値と、ハウス内センサ30で測定されるハウス1内の環境情報測定値と、換気窓40の状態(現在開度)とが入力される。例えば、ハウス内センサ30が温度計の場合、環境情報測定値としてハウス1内温度が測定され、入力部51に入力される。
【0022】
風影響度設定部52では、換気窓40が開状態のときに最も風の影響を受ける方向を基準として、水平面上における全方位を複数の方位に分割し、各方位に風の影響度をそれぞれ設定する。より具体的には、図2に示したハウス1において、換気窓40が開状態のときに風の影響を最も受けるのは、図中、右から左方向(図中、A方向)に風が吹く場合である。図3は、図2に示したハウス1の平面図であって、図2は、図3に示したハウス1を図中下側から見た正面図である。図3に示すように、ハウス1では、換気窓40が開状態のとき、A方向からの風(同図中では東風とする)の影響を最も受けることとなる。
【0023】
そこで、本実施形態に係るハウス1では東方向を基準として、ハウス1の水平面上における全方位を複数の方位に分割する。図3では、ハウス1の水平面上における全方位を4方向に分割し、最も風の影響を受ける東方向Eを基準とし、東方向(方位E)の風の影響度を1.0と設定する。そして、方位Eに対して風の影響を最も受けにくい西方向(方位W)の風の影響度を例えば0.2と設定する。また、方位Eに比べて風の影響を受けにくい北方向(方位N)や南方向(方位S)についても、ハウス1が設置されている地形や気候等を考慮して、例えば方位Nの風の影響度を0.5、方位Sの風の影響度を0.3と設定する。このように、風影響度設定部52において換気窓40に作用する風の影響を「風の影響度」として予め設定しておくことによって、後述する換気窓開度設定部55において換気窓40の開度を設定する際、換気窓40に作用する風の影響を容易に反映することが可能となる。なお、上述した実施形態では、ハウス1における水平面上の全方位を4分割し、基準となる方位(本実施形態では方位E)の風の影響度を1.0とした上で、他の方位に係る風の影響度を方位N=0.5、方位S=0.3、方位W=0.2のように設定したが、分割数は4分割に限定されず、例えば2分割であってもよく、5分割以上に細かく分割してもよい。また、風の影響度も、ハウス1の設置場所における地形や気候、季節等に応じて適宜、設定することが可能である。
【0024】
判定部53では、ハウス1内の環境情報測定値と、予め設定されたハウス1内の環境情報設定値とを比較して、環境情報測定値が環境情報設定値の範囲内であるか否かが判定される。例えば、ハウス1内温度を25℃に設定したい場合、目標環境情報入力部57から判定部53に対して目標とするハウス1内の温度(環境情報設定値=25℃)が入力される。そして、入力部51から得られた環境情報測定値(ハウス1内温度)と環境情報設定値とを比較し、環境情報測定値が環境情報設定値の範囲内(例えば、ハウス1内温度測定値=25℃±0.5℃)であるか否かの判定がなされる。
【0025】
演算部54では、風向風速計20で測定される風向測定値及び風速測定値と、風影響度設定部52において設定された風の影響度とから「風の影響値」が算出される。より具体的には、例えば図3において、風向風速計20で測定された風向測定値が東北東の場合、東北東の風は方位Eに該当するため、風の影響度としては1.0となる。そして、風向測定値から風の影響度が決定されると、この風の影響度と風速測定値から、風の影響値が算出されることとなる。一方、風向風速計20で測定された風向測定値が西南西の場合、西南西の風は方位Wに該当するため、風の影響度としては0.2となり、この風の影響度と風速測定値から風の影響値が算出されることとなる。これら2つの風の影響値を比較した場合、方位Eに係る風の影響値が方位Wに係る風の影響値より大きくなる。つまり、風向測定値から風の影響度を決定し、この風の影響度によって風速測定値から風の影響値を算出することによって、仮に同じ風速測定値であっても、風向測定値から決定される風の影響度の違いによって換気窓40に作用する風の影響をより詳細かつ容易に把握することができる。
【0026】
換気窓開度設定部55では、判定部53において環境情報測定値が環境情報設定値の範囲外と判定されたとき、環境情報測定値が環境情報設定値の範囲内に収まるように換気窓40の修正開度が設定され、且つこの修正開度を風の影響値で補正して換気窓40の補正開度が設定される。例えば、環境情報設定値としてハウス1内温度設定値=25℃±0.5℃とした場合、ハウス1内温度(環境情報測定値)が27℃であれば、ハウス1内温度を下げるべく換気窓40の修正開度が設定される。通常であれば、この修正開度は入力部51から得られる換気窓40の現在開度よりも大きくなるが、換気窓40が開状態のときに最も風の影響を受ける方向からの風速が大きい場合、換気窓40を大きく開けるとハウス1内に大量の風が一気に流れ込み、急激な温度変化や農作物に悪影響を及ぼす場合がある。
【0027】
そこで、環境情報測定値が環境情報設定値の範囲外のとき、まずは環境情報測定値が環境情報設定値の範囲内に納まるように換気窓40の修正開度が設定される。そして更に、本実施形態では、演算部54において算出された風の影響値によってこの修正開度を補正することによって、換気窓40の補正開度が設定されることとなる。単にハウス1内の環境情報測定値を環境情報設定値の範囲内に収めるように換気窓40を修正開度のみで開閉制御すると、換気窓40に作用する風の影響によって想定以上にハウス1内の環境が変化し、農作物に悪影響を及ぼす可能性が非常に高い。しかし、修正開度を風の影響値で補正した補正開度を設定することによって、換気窓40に作用する風の影響を考慮した換気窓40の開閉制御が可能となるため、換気窓40からハウス1内に流れ込む風によるハウス1内の急激な環境変化や換気窓40自体の損傷を防止することができる。
【0028】
そして、換気窓開度設定部55で設定された補正開度が出力部56に送られ、出力部56からハウス1に係る換気窓40へ送出される。補正開度によって換気窓40が自動制御されることによって、ハウス1内の栽培環境が目標環境情報入力部57から入力された栽培環境に維持されることとなる。
【0029】
以上のように、本実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システム10によると、ハウス1内の環境情報測定値が環境情報設定値の範囲外のとき、環境情報測定値が環境情報設定値の範囲内に収まるように換気窓40の修正開度を設定し、更に風の影響値によってこの修正開度を補正して補正開度を設定して換気窓40の開閉制御を行うため、換気窓40からハウス1内に流れ込む風によるハウス1内の急激な環境変化や換気窓40自体の損傷を防止することができ、ハウス1内の栽培環境を最適かつ高精度に制御することができる。
【0030】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明の農業用ハウスの換気窓制御システムにおいて、風向風速計から得られる風向測定値及び風速測定値とともに、ハウス外に設置される外気温計から外気温測定値を取得し、換気窓開度設定部において設定された補正開度を外気温測定値で更に補正することによって、換気窓40に作用する風の影響のみならず、外気温をも考慮した換気窓の開閉制御を行うことが可能となる。
【0031】
より具体的には、図4に示した本実施形態の農業用ハウスの換気窓制御システム11は、基本的な構成は図1に示した農業用ハウスの換気窓制御システム10と同様であり、更に、ハウス1外に外気温計60を含んで構成されている。外気温計60によって得られる外気温測定値は、風向風速計20において取得される風向測定値及び風速測定値等とともに入力部51に入力される。
【0032】
また、本実施形態の農業用ハウスの換気窓制御システム11に係る換気窓制御装置50aは、外気温影響度設定部52aを備え、この外気温影響度設定部52aにおいて、外気温と換気窓40の開度との関係から、予め換気窓40の「外気温影響度」を設定しておく。一般的に、外気温が高い場合は換気窓40の開度は大きくなり、外気温が低い場合は小さくなるため、予め外気温と換気窓40の開度との関係から換気窓40の外気温影響度を設定しておくことによって、外気温をも考慮した換気窓40の開閉制御を行うことが可能となる。
【0033】
本実施形態では、演算部54において、風向風速計20で測定される風向測定値及び風速測定値と、風影響度設定部52において設定された風の影響度とから「風の影響値」を算出するのと同時に、外気温計60で測定される外気温測定値と、外気温影響度設定部52aにおいて設定された外気温影響度とから「外気温影響値」を算出する。
【0034】
そして、本実施形態に係る換気窓開度設定部55aにおいて換気窓40の補正開度が設定された場合、つまり、環境情報測定値が環境情報設定値の範囲外のとき、まずは環境情報測定値が環境情報設定値の範囲内に収まるように換気窓40の修正開度が設定され、更に、演算部54において算出された風の影響値によってこの修正開度を補正して換気窓40の補正開度が設定された場合、この補正開度を、外気温測定値と外気温影響度とから得られる外気温影響値によって更に補正して換気窓40の再補正開度を設定する。換気窓開度設定部55aにおいて補正開度が設定された際、この補正開度を更に外気温影響値によって補正して再補正開度を設定することによって、換気窓40に作用する風の影響のみならず、外気温をも考慮した換気窓40の開閉制御を行うことが可能となり、ハウス1内の栽培環境を更に高精度に制御することができる。
【0035】
以上、本発明の農業用ハウスの換気窓制御システムの実施形態について詳述したが、次に、本発明の実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システム10(図1参照)による環境制御方法について、図5に基づいて詳述する。ここで、本実施形態の農業用ハウスの換気窓制御システム10において、ハウス1外には風向風速計20が設置され、ハウス1内にはハウス内センサ30として温度計が設置されている。
【0036】
まず、ステップS11において、目標環境情報入力部57からハウス1内の環境情報設定値ESを入力する。例えば、本実施形態では、ハウス1内温度を25℃に設定、つまり環境情報設定値ES=25℃に設定する。
【0037】
次に、ステップS12では、風影響度設定部52において風の影響度を設定する。本実施形態では、例えば図3に示すように、ハウス1に係る換気窓40が開状態のときに最も風の影響を受ける方向(図3に係るE方向)を基準として、ハウス1に係る水平面上における全方位を4つの方位に分割し、各方位E、N、W、Sに風の影響度をそれぞれ設定する。換気窓40への風の影響を考慮した換気窓40の開度設定を比例制御によって行うべく、例えば、最も風の影響を受ける方位Eの風の影響度を方位E=1.0としてこれを基準とし、他の方位N、W、Sの風の影響度は、ハウス1の設置場所における地形や気候、季節等を考慮して、例えば方位N=0.5、方位S=0.3、方位W=0.2のように設定する。
【0038】
ステップS13では、風向風速計20で測定される風向測定値dm及び風速測定値smと、ハウス内センサ30で測定される環境情報測定値tm(本実施形態ではハウス1内温度)と、換気窓40の現在開度coとが入力部51に入力される。
【0039】
ステップS14では、演算部54において、入力部51から取得した風向測定値dm及び風速測定値smと、風影響度設定部52において設定された風の影響度とから風の影響値wiが算出される。より具体的には、例えば図3において、風向風速計20で測定された風向測定値dm=南南東の場合、南南東の風は方位Sに該当するため、風の影響度としては0.3となる。そして、風向測定値dmから風の影響度が方位S=0.3と決定されると、この風の影響度と風速測定値smから、風の影響値wiが算出されることとなる。
【0040】
一方、ステップS15では、判定部53において、ハウス1内の環境情報測定値tmと、予め設定されたハウス1内の環境情報設定値ESとを比較して、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲内であるか否かが判定される。例えば、環境情報設定値ES(本実施形態ではハウス1内温度)を25℃に設定し、±0.5℃の範囲を環境情報設定値ESの範囲内とした場合、環境情報測定値tm=24.5℃~25.5℃であれば、判定部53において環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲内であると判定される。
【0041】
ステップS15において、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲内であると判定された場合は換気窓40の修正開度soが設定されず、ステップS18において換気窓40の開閉制御を終了しない場合はステップS13へ戻る。
【0042】
一方、ステップS15において、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲外であると判定された場合は、続くステップS16において、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲内に収まるように、換気窓開度設定部55において、まずは換気窓40の修正開度soが設定される。修正開度soの設定は従来の換気窓40の開閉制御方法を用いて設定することができ、環境情報測定値tm及び環境情報設定値ESがハウス1内温度の場合、一般的には環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲を超える場合、換気窓40の修正開度soは現在開度coより大きく設定され、反対に環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲を下回る場合は換気窓40の修正開度soは現在開度coより小さく設定される。
【0043】
更に、本実施形態に係るステップS16では、この換気窓40の修正開度soを、ステップS14において算出された風の影響値wiによって補正することによって、換気窓40の補正開度hoが設定される。ハウス1内の環境情報測定値tmを環境情報設定値ESの範囲内に収めるように換気窓40を修正開度soのみで開閉制御すると、換気窓40に作用する風の影響によって想定以上にハウス1内の環境が変化し、農作物に悪影響を及ぼす可能性が非常に高い。そこで、一旦設定した換気窓40の修正開度soを風の影響値wiで補正して補正開度hoを設定することによって、換気窓40に作用する風の影響を考慮した換気窓40の開閉制御が可能となり、換気窓40からハウス1内に流れ込む風によるハウス1内の急激な環境変化や換気窓40自体の損傷を防止することができる。
【0044】
ステップS16において設定された換気窓40の補正開度hoは出力部56に送られ、ステップS17において、換気窓開度設定部55から出力部56に送られた換気窓40の補正開度hoは、この出力部56からハウス1に係る換気窓40に出力される。そして、補正開度hoによって換気窓40が自動制御されることによって、ハウス1内の栽培環境が環境情報設定値ESの範囲内に維持されることとなる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御方法では、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲外であると判定された場合、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲内に収まるように換気窓40の修正開度soを設定した上で、この修正開度soを風の影響値wiによって補正して換気窓40の補正開度hoを設定し、この補正開度hoによって換気窓40の開閉制御を行っている。換気窓40の開閉制御を行うにあたっては、ハウス1内の栽培環境は換気窓40からハウス1内に流れ込む風の影響を受けやすく、ハウス1内の急激な環境変化や換気窓40自体の損傷を招くおそれがある。しかし、本実施形態の農業用ハウスの換気窓制御方法によると、換気窓40の開閉制御を行うにあたって、換気窓40に作用する風の影響を考慮した上で換気窓40の補正開度hoを設定しているので、最適且つ高精度なハウス1内の環境制御を実現することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システム10による換気窓制御方法について詳述したが、次に本発明の他の実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システム11による換気窓制御方法について説明する。
【0047】
図6に示した本実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システム11による環境制御方法において、基本的な流れは上記の実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システム10による環境制御方法と同様であり、まずステップS11において、目標環境情報入力部57からハウス1内の環境情報設定値ESを入力する。
【0048】
次に、ステップS12aにおいて風の影響度を設定するとともに、外気温影響度を設定する。一般的に、外気温が高い場合は換気窓40の開度は大きくなり、外気温が低い場合はその開度も小さくなるため、予め外気温と換気窓40の開度との関係から、外気温の測定範囲に応じた外気温影響度を任意に設定しておく。
【0049】
次に、ステップS13aにおいて、風向風速計20で測定される風向測定値dm及び風速測定値smと、ハウス内センサ30で測定される環境情報測定値tm(本実施形態ではハウス1内温度)と、換気窓40の現在開度coとが取得されるとともに、ハウス1外に設置された外気温計60によって測定される外気温測定値otが取得され、入力部51に入力される。
【0050】
そして、ステップS14aにおいて、風向測定値dm及び風速測定値smと、風の影響度とから風の影響値wiが算出されるとともに、外気温測定値otと外気温影響度とから外気温影響値oiが算出される。
【0051】
ステップS15において、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲内であるか否かが判定され、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲外であると判定された場合は、続くステップS16aにおいて、環境情報測定値tmが環境情報設定値ESの範囲内に収まるように、まずは換気窓40の修正開度soが設定され、続いてこの換気窓40の修正開度soを、ステップS14aにおいて算出された風の影響値wiによって補正し、換気窓40の補正開度hoが設定される。
【0052】
そして、更に本実施形態に係るステップS16aでは、この換気窓40の補正開度hoを外気温測定値otと外気温影響度とから算出された外気温影響値oiによって更に補正することによって、換気窓40の再補正開度roが設定され、出力部56に送られる。このように、換気窓開度設定部55aにおいて換気窓40の補正開度hoが設定された際、更に外気温影響値oiによって換気窓40の補正開度hoを更に補正して再補正開度roを設定することによって、換気窓40に作用する風の影響のみならず、外気温をも考慮した換気窓40の開閉制御を行うことが可能となる。
【0053】
最後に、ステップS17aにおいて、換気窓開度設定部55から出力部56に送られた換気窓40の再補正開度roが、この出力部56からハウス1に係る換気窓40に出力され、再補正開度roに基づいて換気窓40が自動制御される。換気窓40が再補正開度roで自動制御されることによって、ハウス1内の栽培環境が環境情報設定値ESの範囲内に維持されることとなる。
【0054】
以上のように、本実施形態では、換気窓40の開閉制御において、換気窓40に作用する風の影響のみならずハウス1外の外気温の影響も考慮して再補正開度roを設定しているので、ハウス1内の栽培環境を更に高精度に制御することができる。
【0055】
以上に例示した本発明の実施形態に係る農業用ハウスの換気窓制御システム及びこれによる換気窓制御方法は、本発明の技術的思想を実質的に限定するものと解してはならない。本発明はその要旨を逸脱しない範囲で、当業者の創意と工夫により、適宜に改良、変更又は追加をしながら実施できる。
【符号の説明】
【0056】
10、11:換気窓制御システム
20:風向風速計
30:ハウス内センサ
40:換気窓
50、50a:換気窓制御装置
51:入力部
52:風影響度設定部
52a:外気温影響度設定部
53:判定部
54:演算部
55、55a:換気窓開度設定部
56:出力部
57:目標環境情報入力部
60:外気温計
ES:環境情報設定値
co:換気窓の現在開度
dm:風向測定値
ho:換気窓の補正開度
oi:外気温影響値
ot:外気温測定値
ro:換気窓の再補正開度
sm:風速測定値
so:換気窓の修正開度
tm:環境情報測定値
wi:風の影響値
図1
図2
図3
図4
図5
図6