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特許7493751糖質分解酵素及びプレバイオティクスの評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】糖質分解酵素及びプレバイオティクスの評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/24 20060101AFI20240527BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240527BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20240527BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
C12N9/24
C12Q1/04
C12Q1/34
C12N15/56 ZNA
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020055336
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021153433
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】藤田 清貴
(72)【発明者】
【氏名】石渡 明弘
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-509131(JP,A)
【文献】特開2019-017358(JP,A)
【文献】特開昭52-034978(JP,A)
【文献】VENTURA, M. et al.,The Bifidobacterium dentium Bd1 Genome Sequence Reflects Its Genetic Adaptation to the Human Oral Cavity,Plos Genetics,2009年,Vol. 5, Iss. 12,e1000785
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列を有糖質分解活性を有する、
糖質分解酵素。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して90%以上配列同一性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上配列同一性を有するアミノ酸配列
【請求項2】
α-D-フルクトフラノシダーゼ活性を有する、
請求項1に記載の糖質分解酵素。
【請求項3】
前記(a)又は(b)のアミノ酸配列を有し、
α-D-アラビノフラノシダーゼ活性を有する、
請求項1又は2に記載の糖質分解酵素。
【請求項4】
前記(a)又は(b)のアミノ酸配列を有し、
カラメル化重合物を脱水縮合し、アンヒドロ糖を生成する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の糖質分解酵素。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の糖質分解酵素で試料を処理する処理ステップと、
前記処理ステップで生成した分解物、重合物及び単糖の少なくとも1つを定量する定量ステップと、
を含む、プレバイオティクスの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質分解酵素及びプレバイオティクスの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルクトース(Fru)及びグルコース(Glc)は反応性が高い還元糖である。Fru及びGlcを、水を加えずに加熱すると、水飴状に溶けるとともに、カラメル化の初期反応として糖同士が脱水縮合して様々な構造の重合物が生ずる。当該重合物は、フラン環構造のフラノース(フルクトフラノース;Fruf)で構成されたFruf-α2,6-Glc及びα-Fruf-β-Fruf-1,2’:2,3’-ジアンハイドライド(DFA-III)等、α-グリコシド結合(α結合)を有するFruを含む。植物によって生合成されるスクロース及びイヌリン等のFruf重合物はβ結合のみが知られており、このようなα結合を有するFruを含む重合物は自然界においてまれである。
【0003】
例えば、カラメルの製造においては、砂糖(非還元糖であるスクロース)が100℃以上に加熱されて、FruとGlcに分解する。その後、重合反応によりFruf-α2,6-Glc等が生成する。カラメル化は、含水量が少ない条件で糖を煮詰める工程で生ずる非酵素的重合反応である。カラメル化で生じた重合物はヒトの消化酵素で分解されない難消化性オリゴ糖である。カラメル化重合物は、ヒトが摂取すると分解されることなく大腸に到達する。非特許文献1によれば、カラメル化重合物に含まれるFruf-α2,6-Glcは特定のビフィズス菌等によって資化されることが知られている。カラメル化重合物をFru及びGlc等の単糖に分解できればビフィズス菌等の腸内細菌はそれを資化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-017358号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Yamamori A.、外5名、“Characteristics of α-D-Fructofuranosyl-(2→6)-D-glucose Synthesized from D-Glucose and D-Fructose by Thermal Treatment”、J.Appl.Glycosci.、2014年、61、p99-104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ビフィズス菌等においてFruf-α2,6-Glc等のカラメル化重合物を分解するα-D-フルクトフラノシダーゼ活性を有する酵素は、これまでにクローニングされておらず、酵素活性も報告されていない。
【0007】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、カラメル化重合物の資化に有用な糖質分解酵素及びプレバイオティクスの評価方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、結核菌の細胞壁に含まれるα-D-アラビノフラノース(D-Araf)を分解する酵素を土壌細菌から発見した(特許文献1参照)。発明者はα-D-Arafとα-D-Frufとの構造類似性に着目し、タンパク質ファミリーのデータベースであるPfam(http://pfam.xfam.org)における当該酵素と同じファミリーにα-D-Frufを分解するα-D-フルクトフラノシダーゼが含まれると考え、鋭意研究を重ね、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の第1の観点に係る糖質分解酵素は、
以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列を有し、糖質分解活性を有する。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して90%以上配列同一性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上配列同一性を有するアミノ酸配列
【0010】
この場合、上記本発明の第1の観点に係る糖質分解酵素は、
α-D-フルクトフラノシダーゼ活性を有する、
こととしてもよい。
【0011】
また、上記本発明の第1の観点に係る糖質分解酵素は、
前記(a)又は(b)のアミノ酸配列を有し、
α-D-アラビノフラノシダーゼ活性を有する、
こととしてもよい。
【0012】
また、上記本発明の第1の観点に係る糖質分解酵素は、
前記(a)又は(b)のアミノ酸配列を有し、
カラメル化重合物を脱水縮合し、アンヒドロ糖を生成する、
こととしてもよい。
【0014】
本発明の第の観点に係るプレバイオティクスの評価方法は、
上記本発明の第1の観点に係る糖質分解酵素で試料を処理する処理ステップと、
前記処理ステップで生成した分解物、重合物及び単糖の少なくとも1つを定量する定量ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カラメル化重合物の資化に有用な糖質分解酵素及びプレバイオティクスの評価方法が提供される
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態に係る糖質分解酵素の酵素反応を示す図である。(A)はα-D-フルクトフラノシダーゼ活性によって切断される結合を示す図である。(B)はα-D-アラビノフラノシダーゼ活性によって切断される結合を示す図である。
図2】BBDE2040遺伝子にコードされる糖質分解酵素(αFrase1)による酵素反応を示す図である。(A)~(D)は、当該糖質分解酵素が触媒する反応を例示する図である。
図3】BBDE2032遺伝子にコードされる糖質分解酵素(αFrase2)による酵素反応を示す図である。(A)及び(B)は、当該糖質分解酵素が触媒する反応を例示する図である。
図4】試験例1に係るSDS(Sodium dodecyl sulfate)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)のバンドを示す図である。
図5】試験例2に係る薄層クロマトグラフィー(TLC)のスポットを示す図である。
図6】試験例3に係るαFrase1の至適条件を示す図である。(A)は至適pHを示す図である。(B)は至適温度を示す図である。
図7】試験例4に係るHPAEC-PAD(High Performance Anion Exchange Chromatography-Pulsed Amperometric Detection)の結果を示す図である。(A)及び(C)はカラメル化重合物のピークを示す図である。(B)及び(D)はカラメル化重合物をαFrase2で処理した試料のピークを示す図である。
図8】試験例5に係るHPAEC-PADの結果を示す図である。(A)はフルクトースのピークを示す図である。(B)及び(D)はカラメル化重合物のピークを示す図である。(C)及び(E)はカラメル化重合物をαFrase1で処理した試料のピークを示す図である。
図9】試験例6に係るHPAEC-PADの結果を示す図である。(A)はFruf-α-2,6-Glcのピークを示す図である。(B)及び(C)は、Fruf-α-2,6-GlcをそれぞれαFrase2及びαFrase1で処理した試料のピークを示す図である。
図10】試験例7に係るHPAEC-PADの結果を示す図である。(A)はα-Fruf-β-Frup-1,2’:2,1’-ジアンハイドライド(DFAx)のピークを示す図である。(B)はDFAxをαFrase1で処理した試料のピークを示す図である。(C)は、Frup-β-2,1-Fruのピークを示す図である。(D)はFrup-β-2,1-FruをαFrase1で処理した試料のピークを示す図である。
図11】試験例8に係るHPAEC-PADの結果を示す図である。(A)はα-Fruf-β-Fruf-1,2’:2,1’-ジアンハイドライド(DFA-I)をαFrase1で処理した試料のピークを示す図である。(B)はDFA-Iをインバーターゼで処理した試料のピークを示す図である。(C)はDFA-IをαFrase1及びインバーターゼで処理した試料のピークを示す図である。(D)はDFA-Iのピークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0019】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る糖質分解酵素は、配列番号1又は配列番号2に示すアミノ酸配列を有する。当該糖質分解酵素による糖質分解活性には、少なくともα-D-フルクトフラノシダーゼ活性が含まれる。α-D-フルクトフラノシダーゼ活性は、図1(A)に矢印で示されたα-D-Frufの2位のα結合を切断する活性である。
【0020】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、α-D-アラビノフラノシダーゼ活性をさらに有する。α-D-アラビノフラノシダーゼ活性は、図1(B)に矢印で示されたα-D-Arafの1位のα結合を切断する活性である。また、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、カラメル化重合物を脱水縮合し、DFA-I及びDFAx等のアンヒドロ糖を生成する。
【0021】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素による下記実施例で示された酵素反応を図2に例示する。図2(A)に示すように配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、イヌロビオース(Fruf-β2,1-Fru)からDFA-Iを生成する。当該反応は平衡反応である。図2(B)に示すように配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、Frup-β2,1-FruからDFAxを生成する。当該反応は平衡反応である。図2(C)及び図2(D)に示すように、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、D-Fruf-α-OMe及びD-Araf-α-OMeを分解する。
【0022】
下記実施例で示された、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素による酵素反応を図3に例示する。図3(A)に示すように、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、Fruf-α2,6-Glcを分解する。また、図3(B)に示すように、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、D-Fruf-α-OMeを分解する。
【0023】
本実施の形態に係る糖質分解酵素のアミノ酸配列は、糖質分解活性等の上述の酵素活性が失われない限り、配列番号1又は配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。1又は数個とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によって異なる。置換等で変異したアミノ酸の個数は、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、さらに好ましくは1~10個、特に好ましくは1~5個である。
【0024】
置換の場合、好ましくは、酸性アミノ酸は、上述の酵素活性を失わない範囲で任意の別の酸性のアミノ酸に置換される。同様に、塩基性アミノ酸、芳香族アミノ酸、脂肪族アミノ酸及びオキシアミノ酸がそれぞれ別の塩基性アミノ酸、芳香族アミノ酸、脂肪族アミノ酸及びオキシアミノ酸に置換されるのが好ましい。なお、特に言及しない限りアミノ酸はL体である。
【0025】
本実施の形態に係る糖質分解酵素は、上述の酵素活性が失われない限り、配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。一般に、2つのタンパク質間で、アミノ酸配列の配列同一性が80%以上であれば、立体構造が極めて類似し、機能が維持される。アミノ酸配列の配列同一性が高ければ、立体構造の類似性も高くなるため、配列同一性は、上述の酵素活性が失われない限り、85%以上または90%以上であるのが好ましく、95%以上であればさらに好ましい。
【0026】
本実施の形態に係る糖質分解酵素は、公知の方法で合成することができる。例えば、当該糖質分解酵素は、化学的なポリペプチド合成法で合成されてもよいし、大腸菌等を用いた遺伝子工学的な方法で合成されてもよい。ポリペプチド合成法としては、液相法又は固相法を挙げることができる。液相法は、反応を溶液状態で行い、反応混合物から生成物を単離精製し、得られた生成物を中間体として次のペプチド伸長反応に用いる方法である。一方、固相法は、反応溶媒に対して不溶の固相担体にアミノ酸を結合させ、結合させたアミノ酸に縮合反応を順次行い、ペプチドを伸長する方法である。上記の糖質分解酵素は、タンパク質を構成する部分ペプチド又はアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより合成することもできる。
【0027】
遺伝子工学的な方法では、例えば、上記の糖質分解酵素をコードする遺伝子を発現する発現ベクターで宿主細胞を形質転換し、形質転換体を培養することによって糖質分解酵素を得ることができる。配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素をコードする遺伝子の塩基配列は、例えば配列番号3に示される。また、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素をコードする遺伝子の塩基配列は、例えば配列番号4に示される。なお、当該遺伝子は、Bifidobacterium dentium JCM1195株が有する遺伝子である。
【0028】
上記の糖質分解酵素をコードする遺伝子を宿主細胞内で発現させるための種々の調節エレメント(プロモーター、リボゾーム結合部位、ターミネーター、エンハンサー及び発現レベルを制御する種々のシスエレメント等)を用いて、宿主細胞に応じた発現ベクターを構築することができる。構築した発現ベクターは、例えば、大腸菌等の宿主細胞にエレクトロポレーション等の方法により導入すればよい。当該宿主細胞を所定の条件で培養することにより、当該糖質分解酵素が宿主細胞内で発現され、当該糖質分解酵素を抽出することができる。
【0029】
Bifidobacterium dentium及びBifidobacterium breveの一部の細菌は、本実施の形態に係る糖質分解酵素をコードする遺伝子を有する。本実施の形態に係る糖質分解酵素をコードする遺伝子は、配列番号3又は4に塩基配列が示される遺伝子のホモログを有する細菌のゲノムDNAから取得してもよい。
【0030】
得られた糖質分解酵素は、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及びエドマン分解法等により精製及び解析してもよい。
【0031】
本実施の形態に係る糖質分解酵素が上述の酵素活性を示す条件は、特に限定されないが、例えば温度は、好ましくは35~50℃、より好ましくは40~50℃である。また、pHは、好ましくは5.0~6.5、より好ましくは5.0~6.0である。
【0032】
糖質分解酵素による糖質分解活性は、例えば以下の方法により確認することができる。D-Frufの2位の炭素にOを介してメチル基が結合したD-Fruf-α-OMe又はD-Arafの1位の炭素にOを介してメチル基が結合したD-Araf-α-OMeを有する糖類に糖質分解酵素を反応させて、TLC及びHPAEC-PAD等のクロマトグラフィー法によって生成した単糖を検出し、その量から酵素活性を算出すればよい。また、ソモジーネルソン法のような切断により生ずる還元糖量を評価することにより、酵素活性を定量的に評価することもできる。
【0033】
また、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素によるカラメル化重合物からアンヒドロ糖を生成する酵素活性は、例えば、イヌロビオース及びFrup-β2,1-Fru等のカラメル化重合物に当該糖質分解酵素を反応させて、生成する重合物を同様に検出することで確認できる。配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素による糖質分解活性は、例えば、Fruf-α2,6-Glcに当該糖質分解酵素を反応させて、生成するFru又はGlcを同様に検出することで確認できる。
【0034】
カラメル化重合物には、α結合を有するD-Frufを含む多種の糖質が含まれる。α結合したD-Frufを含む二糖等の糖質が分解されて生成するFruを腸内細菌は利用できる。本実施の形態に係る糖質分解酵素は、α結合したD-Fruf等を含む糖質を分解するため、カラメル化重合物の資化に有用である。
【0035】
なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、図2(A)に示すイヌロビオースからDFA-Iを生成するため、1-ケストース(Glc-α1,2-Fruf-β2,1-Fruf)にβ-グルコシダーゼを作用させることで生成するイヌロビオースからDFA-Iを生成することができる。これにより、1-ケストースを出発物質として、DFA-Iを製造することができる。なお、イヌロビオースは、DAF-IIIにDAF-IIIヒドロラーゼを作用させて生成することができる。DAF-IIIヒドロラーゼを併用することで、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素は、DAF-IIIからDFA-Iを生成することができる。
【0036】
(実施の形態2)
実施の形態1に係る糖質分解酵素をコードする核酸、特には遺伝子を有する細菌は、カラメル化重合物の資化に有用な細菌である。本実施の形態では、当該糖質分解酵素をコードする遺伝子を有する細菌の検出に使用できるプライマー対が提供される。本実施の形態に係るプライマー対は、実施の形態1に係る糖質分解酵素をコードする遺伝子に含まれる連続する少なくとも10塩基を、PCR(Polymerase Chain Reaction)産物の塩基配列中に含むように設計される。
【0037】
PCR産物は、PCR法によって増幅された核酸である。プライマー対とは、例えば、2本鎖の鋳型DNAのコーディング鎖側を5’末端から3’末端の方向に伸長するためのフォワードプライマーと、非コーディング鎖側を5’末端から3’末端の方向に伸長するためのリバースプライマーとの対をいう。
【0038】
プライマー対は、糖質分解酵素をコードする核酸の塩基配列に基づいて設計される。好ましくは、プライマー対は、通常のPCRで増幅可能であること、上記の糖質分解酵素をコードする核酸ではない核酸ではPCR産物が生じない塩基配列であること、定量的PCRにも適用可能なようにPCR産物が80~550bpの長さになるようにすること、かつ、Tm値が55~65℃の範囲内になること、を満たすように設計される。配列番号3に示す糖質分解酵素をコードする遺伝子を増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーは、例えば、それぞれ配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドである。また、配列番号4に示す糖質分解酵素をコードする遺伝子を増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーは、例えば、それぞれ配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドである。
【0039】
プライマーとしてのオリゴヌクレオチドは、既知の方法で合成することができる。オリゴヌクレオチドは、例えば、固相ホスホルアミダイト法等を含む任意の核酸合成法により化学的に合成される。オリゴヌクレオチドは、トリエステル法でも合成できる。また、種々の自動オリゴヌクレオチド合成装置が市販されており、オリゴヌクレオチドは、当該自動オリゴヌクレオチド合成装置で合成することもできる。また、マルチヌクレオチド合成法も適宜使用することができる。
【0040】
当該プライマー対は、公知の定量PCR等で使用されてもよい。定量PCRの方法は、インターカレータ-法及びプローブ法等である。
【0041】
本実施の形態に係るプライマー対は、実施の形態1に係る糖質分解酵素をコードする核酸の少なくとも一部を特異的に増幅することができる。当該プライマー対を使用し、核酸の増幅を確認することで、糖質分解酵素をコードする遺伝子を有する細菌等を検出することができる。
【0042】
また、別の実施の形態では、上記プライマー対を備えるカラメル化重合物資化菌の検出用キットが提供される。当該検出用キットは、糖質分解酵素をコードする遺伝子に含まれる連続する少なくとも10塩基を塩基配列中に含む核酸、又はその核酸に相補的な核酸にハイブリダイズするプローブをさらに備えてもよい。
【0043】
プローブとは、核酸の相補性に基づいたハイブリダイゼーション等を利用して核酸について解析するための核酸の断片をいう。プローブは、例えば、糖質分解酵素をコードする遺伝子の連続する10塩基以上の塩基配列の核酸、好ましくは10塩基から100塩基の塩基配列の核酸、より好ましくは、10塩基から50塩基の塩基配列の核酸、又はそれらの核酸に相補的な核酸にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。プローブは、糖質分解酵素をコードする遺伝子に含まれる連続する少なくとも10塩基を含む核酸とはハイブリダイズするが、当該10塩基を含まない核酸とはハイブリダイズしないものであれば、その塩基配列において1又は複数の置換、欠失及び付加を含んでいてもよい。プローブは、必要に応じて、蛍光物質や放射性物質等によって標識されたものであってもよい。
【0044】
ハイブリダイゼーションの条件は、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されないストリンジェントな条件である。ストリンジェントな条件では、例えば、プローブが、糖質分解酵素をコードする遺伝子に含まれる連続する少なくとも10塩基を含む核酸とはハイブリダイズするが、当該10塩基を含まない核酸とはハイブリダイズしない。ストリンジェントな条件は、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC(Saline Sodium Citrate Buffer)、0.1%のSDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理である。
【0045】
プローブは、例えば、インベーダー(登録商標)法に用いられるものであってもよい。また、プローブは、例えば、TaqMan(登録商標)法に用いられるものであってもよい。
【0046】
プローブとしてのオリゴヌクレオチドは、上記したプライマーの合成等と同様に既知の方法で合成することができる。
【0047】
上述のカラメル化重合物資化菌の検出用キットによれば、上記の糖質分解酵素をコードする遺伝子を有する細菌を効率よく検出できる。さらに当該検出用キットは、上述のプローブを備えることで、PCR法で増幅された核酸を効率よく定量できる。なお、ここで“検出”とは、カラメル化重合物資化菌の有無を調べる定性的な検出に加え、カラメル化重合物資化菌の存在量を定量的に調べる定量的な検出(測定)も含む。
【0048】
上述のプライマー対又はカラメル化重合物資化菌の検出用キットが適用される試料は、特に限定されないが、例えば、乳酸菌の混合培養物、乳酸菌を含むヨーグルト及びチーズ等の飲食品、マウス及びラット等の実験動物、並びにヒトの糞便及び腸液等である。これらの試料から核酸を抽出する方法は、例えば、Lysozyme等の酵素又はビーズ等で物理的に細胞を破壊して抽出する方法、あるいは市販の核酸抽出キットを使用する方法等が挙げられる。
【0049】
上述のカラメル化重合物資化菌の検出用キットは、PCR用試薬(耐熱性DNAポリメラーゼ及びdNTP等)、緩衝液及び説明書等をさらに備えてもよい。また、カラメル化重合物資化菌の検出用キットは、カラメル化重合物資化菌の検出に必要な試薬及び他の細菌の検出に必要な試薬等を備えてもよい。
【0050】
(実施の形態3)
本実施の形態に係る食品添加用細菌のスクリーニング方法は、上記実施の形態1に係る糖質分解酵素をコードする遺伝子をゲノムDNAに有する細菌を取得する取得ステップを含む。取得ステップでは、例えば、実施の形態2に係るプライマー対又はカラメル化重合物資化菌の検出用キットで当該細菌を取得できる。食品添加用細菌のスクリーニング方法で取得される細菌は、好ましくは、ビフィズス菌等の公知の腸内細菌である。具体的には、当該細菌として、Bifidobacterium dentium、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium longum又はBifidobacterium adolescentis等に属する細菌が挙げられる。なお、取得した細菌は、公知の方法で培養してもよい。
【0051】
当該細菌の用途は、食品添加用である。食品は、特に限定されないが、例えば、栄養ドリンク、清涼飲料水、紅茶及び緑茶等の飲料、キャンデー、クッキー、錠菓、チューインガム及びゼリー等の菓子、麺、パン、米飯及びビスケット等の穀類加工品、ソーセージ、ハム及びかまぼこ等の練り製品、ふりかけ、並びに調味料等である。食品としては、バター、ヨーグルト及びチーズ等の飲食品が好ましい。なお、当該食品には、甘味料、香料及び着色料等の添加物が含まれてもよい。
【0052】
本実施の形態に係る食品添加用細菌のスクリーニング方法によれば、α結合したD-Fruf等を含む糖質を分解する糖質分解酵素を産生する細菌を特定できる。糖質分解酵素を産生する細菌によって、α結合したD-Frufを含む二糖等の糖質から生成した単糖はビフィズス菌等の腸内細菌に資化され得る。したがって、糖質分解酵素を産生する細菌を摂取することで、腸内のビフィズス菌等を選択的に増殖させ得る。
【0053】
また、別の実施の形態では、カラメル化重合物資化菌含有食品の製造方法が提供される。当該製造方法は、上述の取得ステップで取得された細菌を、原料として食品に加えるステップを含む。
【0054】
(実施の形態4)
本実施の形態に係るプレバイオティクスの評価方法は、処理ステップと、定量ステップと、を含む。プレバイオティクスとは、大腸内の特定の細菌の増殖及び活性を選択的に変化させることで、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分である。プレバイオティクスに要求される条件は次の(1)~(4)である。(1)消化管上部で加水分解、吸収されない。(2)大腸に共生する一種又は限定された数の有益なビフィズス菌等の細菌の選択的な基質であり、それらの細菌の増殖を促進し、または代謝を活性化する。(3)大腸の腸内細菌叢(フローラ)を健康的な構成に都合の良いように改変できる。(4)宿主の健康に有益な全身的な効果を誘導する。
【0055】
処理ステップでは、実施の形態1に係る糖質分解酵素で試料を処理する。試料は、好ましくはプレバイオティクス、特にはカラメル化重合物が含まれることが見込まれる食品又は食品の原料等である。処理ステップでは、実施の形態1に係る糖質分解酵素が糖質分解活性を示す条件下で、当該糖質分解酵素に試料を暴露する。試料に糖質分解酵素によって分解される基質であるカラメル化重合物が存在する場合、処理ステップによって試料中のカラメル化重合物が分解され、単糖が生成する。また、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する糖質分解酵素を用いた処理ステップでは、試料中のカラメル化重合物が脱水縮合されて、DFA-I及びDFAx等のアンヒドロ糖が生成する。
【0056】
定量ステップでは、処理ステップで生成した分解物、重合物及び単糖の少なくとも1つを定量する。分解物、重合物及び単糖は、上記のクロマトグラフィー法等によって定量できる。この場合、分解物、重合物及び単糖の標品を対照として用いることで、分解物、重合物及び単糖が同定でき、生成量を正確に評価できる。なお、処理ステップにおいて、糖質分解酵素で処理しない試料についても同様の方法で定量して、処理ステップで生成した分解物、重合物及び単糖の結果と比較するのが好ましい。こうすることで、処理ステップで処理する前の試料に含まれる糖の含有量を確認することができる。
【0057】
本実施の形態に係るプレバイオティクスの評価方法は、腸内細菌によって分解される、試料中のカラメル化重合物を定量できる。腸内細菌によって分解されるカラメル化重合物は、腸内のビフィズス菌等を選択的に増殖させ得るため、カラメル化重合物は、保健食品又は健康増進を目的とする食品等に含まれるプレバイオティクスであると言える。
【0058】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0059】
(試験例1:組換え酵素の作製)
Bifidobacterium dentium JCM1195株(DSM 20436)のゲノムをテンプレートとして、BBDE2040遺伝子(Pfam:DUF2961、NCBI-ProteinID:BAQ28034)及びBBDE2032遺伝子(Pfam:DUF2961、NCBI-ProteinID:BAQ28026)の全長をPCRで増幅し、PCR産物をIn-Fusion HD cloning kit(クロンテック社製)を用いてpET23dベクター(ノバジェン社製)に組み込み、プラスミドを取得した。PCRは、フォワードプライマー(10pmol/mL)、リバースプライマー(10pmol/mL)及びPrimeSTAR HS(タカラバイオ社製)を用いて行った。PCR反応は、98℃で10秒、55℃で15秒及び72℃で2.5分を30サイクルとし、4℃で終了した。1%アガロースゲル電気泳動を介して目的のバンドを切り出し、Illustra GFX DNA and Gel Band Purifaction Kit(GEヘルスケアライフサイエンス社製)を用いてPCR産物を精製した。
【0060】
BBDE2040遺伝子の増幅においてPCRに用いたフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号5及び配列番号6に示す。BBDE2032遺伝子の増幅においてPCRに用いたフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号7及び配列番号8に示す。
【0061】
BBDE2040遺伝子を組み込んだプラスミドをpET23d_BBDE2040とし、BBDE2032遺伝子を組み込んだプラスミドをpET23d_BBDE2032とした。定法により大腸菌BL21(DE3)をpET23d_BBDE2040又はpET23d_BBDE2032で形質転換し、Overnight Express Autoinduction System(メルク社製)を用いて酵素を誘導生成した。BugBuster protein extraction reagent(メルク社製)を用いて菌体内酵素を抽出した後、タンパク質のC末端に付加したHis-tag(LEHHHHHH;配列番号9)を利用してタンパク質を精製した。得られたタンパク質を定法によりSDS-PAGEで評価した。
【0062】
(結果)
BBDE2040遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)から予想される、His-tagを含めた分子量は52.94kDaである。一方、BBDE2032遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)から予想される、His-tagを含めた分子量は44.059kDaである。図4は、SDS-PAGEのバンドを示す。BBDE2040遺伝子がコードするタンパク質では53kDa付近にシングルバンドが確認された。BBDE2032遺伝子がコードするタンパク質では44kDa付近にシングルバンドが確認された。以下では、BBDE2040遺伝子がコードするタンパク質をαFrase1とし、BBDE2032遺伝子がコードするタンパク質をαFrase2とする。
【0063】
(試験例2:合成基質D-Araf-α-OMe及びD-Fruf-α-OMeに対する分解活性の確認)
20μLのD-Araf-α-OMe(8mM)及びD-Fruf-α-OMe水溶液(8mM)、10μLの200mM酢酸バッファー(pH6.0)及び5μLの滅菌水中に、試験例1で得た5μLのαFrase1溶液又はαFrase2溶液(いずれも0.1mg/mL)を加え、37℃にて18時間反応させた。回収した反応液1μLをTLCプレートに供し、n-プロパノール/エタノール/水=7/1/2にて展開した。オリゴ糖はオルシノール硫酸によって発色させた。
【0064】
(結果)
図5に示すようにTLCによって、αFrase1では、D-Araf-α-OMe及びD-Fruf-α-OMeからの遊離糖のスポットが確認された。よって、αFrase1がα-D-アラビノフラノシダーゼ活性及びα-D-フルクトフラノシダーゼ活性を有していることが示された。一方、αFrase2では、D-Fruf-α-OMeからの遊離糖のスポットが確認されたが、D-Araf-α-OMeからの遊離糖のスポットは確認できなかった。これは、αFrase2がα-D-フルクトフラノシダーゼ活性を有していることを示している。
【0065】
(試験例3:αFrase1の酵素反応条件)
パラ-ニトロフェニルα-D-アラビノフラノシド(para-nitrophenyl α-D-arabinofuranoside;pNP-α-D-Araf)を基質として、以下のように酵素反応を行い、加水分解により遊離するp-ニトロフェノールをアルカリ条件下で定量することで至適pH及び至適温度を決定した。
【0066】
至適温度の決定では、5μLのpNP-α-D-Araf水溶液(4mM)、5μLの200mM酢酸バッファー(pH5.5)及び5μLの滅菌水中に、試験例1で得た5μLのαFrase1溶液(0.025mg/mL)を加えた。各温度で20分間反応させ、30μLの120mM NaCOを加えて反応を停止し、400nmにおける吸光度を測定した。
【0067】
至適pHの決定では、5μLのpNP-α-D-Araf水溶液(4mM)、5μLの200mM酢酸バッファー(pH4.0~6.0)又はリン酸バッファー(pH6.0~8.0)及び5μLの滅菌水中に、試験例1で得た5μLのαFrase1溶液(0.025mg/mL)を加えた。37℃において各pHで20分間反応させ、30μLの120mM NaCOを加えて反応を停止し、400nmにおける吸光度を測定した。
【0068】
(結果)
図6(A)に示すように、αFrase1の至適pHは5.5であった。図6(B)に示すように、αFrase1の至適温度は50℃であった。
【0069】
(試験例4:カラメル化重合物に対するαFrase2の分解性の検討)
非特許文献(Yamamori A、外8名、“Structural Analysis of Difructose Anhydrides(DFAs) Synthesized from Monosaccharides by Thermal Treatment.”、Journal of Applied Glycoscience、2015年、62、p121-125)に基づいて、カラメル化重合物を次のように調製した。フルクトース60gを131℃で120分間(F130)又は150℃で90分間(F150)、加熱した。また、グルコース30gとフルクトース30gとを含む混合物を、131℃で120分間(GF130)又は150℃で90分間(GF150)、加熱した。加熱後、それぞれ200mlの水を添加して撹拌した。
【0070】
F130及びGF130それぞれに、市販パン酵母(スーパーカメリアドライイースト、日清フーズ社製)を加え、37℃で24時間振とう培養し、単糖を消化させた。単糖を消化したF130又はGF130を基質として、25μLの基質、20μLの200mM酢酸バッファー(pH5.5)、5μLのαFrase2溶液及び50μLの水を含むサンプルを37℃で1日間反応させ、水で100倍に希釈して、HPAEC-PADに供した。サンプルにおけるαFrase2溶液を水に置き換えた対照を同様に調製した。
【0071】
反応後、サンプル全量を、HPAEC-PADで解析した。なお、HPAEC-PADにはICS-3000(Dionex社製)を用いた。カラムはCarboPac PA-1とした。移動相は溶離液A(0.1M NaOH)、溶離液B(0.5M酢酸ナトリウム及び0.1M NaOH)、勾配溶離の条件は0-5分が100%溶離液A;5-30分が0~100%溶離液B;30-35分が100%溶離液Bとした。流速は1.0mL/分で、温度は30℃とした。検出器はPADである。
【0072】
(結果)
図7に示すように、αFrase2を含むF130では、対照(図7(A))で観測されなかったフルクトースに対応するピークが観測された(図7(B))。αFrase2で処理したGF130では、対照(図7(C))で観測されなかったグルコース及びフルクトースに対応するピークが観測された(図7(D))。このことから、αFrase2がFruf-α2,6-Glc及びFruf-α2,6-Fluを分解することが示された。
【0073】
(試験例5:カラメル化重合物に対するαFrase1の分解性の検討)
F130又はF150を基質とした。10μLの基質、10μLの200mM酢酸バッファー(pH6.0)、5μLのαFrase1溶液及び15μLの水を含むサンプルを37℃で一晩反応させた。サンプルにおける酢酸バッファーとαFrase1溶液を水に置き換えた対照を同様に調製した。反応後、サンプルを100倍に希釈して試験例4と同様にHPAEC-PADで解析した。
【0074】
(結果)
図8(A)は、0.05%フルクトース溶液のピークを示す。図8(B)及び図8(C)に示すように、F130では、カラメル化重合物7分ピーク(Frup-β-2,1-Fru)がαFrase1の作用を受けてαFrase1反応物4分ピーク(DFAx)に移行した。また、カラメル化重合物11分ピーク(Fruf-β2,1-Fru;イヌロビオース)がαFrase1反応物10分ピーク(DFA-I)に移行した。F150についても図8(D)及び図8(E)に示すように、同様のピーク移行がみられた。
【0075】
(試験例6:カラメル化重合物標品に対するαFrase1及びαFrase1の分解性の検討)
カラメル化重合物の標品Fruf-α-2,6-Glcを基質とした。5μLの基質、5μLの200mM酢酸バッファー(pH5.5)、5μLのαFrase1溶液又はαFrase2溶液及び5μLの水を含むサンプルを37℃で1日間反応させた。サンプルにおけるαFrase1溶液又はαFrase2溶液を水に置き換えた対照を同様に調製した。反応後、サンプルを10倍に希釈して試験例4と同様にHPAEC-PADで解析した。
【0076】
(結果)
図9(A)はFruf-α-2,6-Glcのピークを示す。図9(B)に示すように、αFrase2を作用させたサンプルでは、Fruf-α-2,6-Glcのピークが小さくなり、グルコース及びフルクトースに対応する4~5分付近にピークが見られた。よって、αFrase2はα-D-フルクトフラノシダーゼと考えられる。一方、図9(C)に示すように、αFrase1を作用させたサンプルでは、グルコース及びフルクトースに対応するピークがほとんど検出されなかったため、αFrase1はFruf-α-2,6-Glcをほとんど分解しないと考えられた。
【0077】
(試験例7:αFrase1によるFrup-β-2,1-FruからDFAxへの反応が平衡反応であるかの確認)
αFrase1反応物4分ピークに示されるDFAx及び7分ピークに示されるFrup-β-2,1-Fruを単離し、これらを基質とした。10μLの基質、25μLの200mM酢酸バッファー(pH5.5)、5μLのαFrase1溶液及び65μLの水を含むサンプルを37℃で一晩反応させた。サンプルにおけるαFrase1溶液を水に置き換えた対照を同様に調製した。反応後、サンプルを試験例4と同様にHPAEC-PADで解析した。
【0078】
(結果)
HPAEC-PADの結果を図10に示す。なお、図10(A)~(D)中の数値は、各ピークの面積値を示す。図10(A)及び図10(B)に示すように、DFAxをFrase1で処理することで、DFAxのピークの約2%がFrup-β-2,1-Fruのピークに移行した。また、図10(C)及び図10(D)に示すように、Frup-β-2,1-FruをFrase1で処理することで、Frup-β-2,1-FruのピークがDFAxのピークに移行した。よって、αFrase1によるFrup-β-2,1-FruからDFAxへの反応は平衡反応だと言える。また、Frup-β-2,1-Fru→DFAxの反応で移行したピークは、DFAx→Frup-β-2,1-Fruの反応で移行したピークのよりも大きいことから、平衡反応はFrup-β-2,1-FruからDFAxへの脱水縮合反応に偏っていることが示された。
【0079】
(試験例8:αFrase1によるイヌロビオースからDFA-Iへの反応が平衡反応であるかの確認)
αFrase1反応物10分ピークに示されるDFA-Iを単離し、2mMとして基質とした。5μLの基質、20μLの250mM酢酸バッファー(pH5.5)及び75μLの水を含むサンプルS1と、5μLの基質、20μLの250mM酢酸バッファー、5μLのパン酵母由来のインバーターゼ溶液(β-フルクトフラノシダーゼともいう、1mg/mL、シグマ社製)及び75μLの水を含むサンプルS2と、5μLの基質、20μLの250mM酢酸バッファー、5μLのαFrase1溶液及び70μLの水を含むサンプルS3と、5μLの基質、20μLの250mM酢酸バッファー、5μLのαFrase1溶液、5μLのインバーターゼ溶液及び70μLの水を含むサンプルS4と、調製し、37℃で一晩反応させた。反応後、サンプルS1~S4を試験例4と同様にHPAEC-PADで解析した。
【0080】
(結果)
HPAEC-PADの結果を図11に示す。なお、図11(A)~(D)中の数値は、各ピークの面積値を示す。図11(A)に示すように、DFA-IをαFrase1で処理すると、その一部がイヌロビオースに移行した。なお、平衡反応はイヌロビオースからDFA-Iへの脱水縮合反応に偏っていた。一方、DFA-Iをインバーターゼで処理した図11(B)に示されたピークは、図11(D)に示すDFA-I(対照)のピークからほとんど変化がないため、DFA-Iはインバーターゼで切断されなかった。DFA-IをαFrase1及びインバーターゼで処理すると、図11(C)に示すように、αFrase1の作用によりDFA-Iの一部がイヌロビオースに変換された後、インバーターゼによりフルクトースに分解された。以上の結果から、αFrase1が平衡反応を触媒していることが確認された。また、β-フルクトフラノシダーゼを共存させることにより、平衡反応がイヌロビオースからDFA-Iへの脱水縮合反応に偏っていたとしても、徐々にフルクトースに分解されることが確認された。
【0081】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、健康食品及びプレバイオティクス含有食品の製造に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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